しかも進んだようで、会話が多いから進まない…少し会話を減らしたほうがいいけど、どうすれば…
蒼い
最初の感想は正直それだけだった。
部屋には’あの’はなばたけが広がっていた。ひなげしの花でいっぱいの丘。記憶の中の一幕がそのままそこにあった。部屋のものを押しのけて出来上がったその光景は息を飲むものってやつだ。しかもそれだけじゃない。もし花畑だけだったらそんなに驚かなかったかもしれない。
「父さん…母さん…」
記憶そのまま。あの中で見た両親の姿がそこにあった。
正確には結晶のままだったし、動いてるわけでもない、色も蒼いし。だけど、そうであっても、今にも動き出しそうなほど記憶のそれを忠実に再現していた。
「どう?大変なことになってるでしょ、って聞いてる?」
目の前の全てに感動して周りに気が向かなかった。自分がやったはずなのに…
足元には道も出来上がっている。
一歩踏み入れてみると、
ザクッ
土の触感も本物みたいだ!見た目は結晶なのに、踏んだ感触は間違いなく土だ。
気づけば先生が後ろから大きな声で話している。
「私があなたの性質が記憶や感情、つまりそれにつながる心だと思ったのはこれが理由よ。私があなたの方へ飛び込んで触れるまでの一瞬ですべてが出来上がっていたわ。」
確かに、その証拠に父さんと母さんがいるところは先生がはじめに立ってた場所だ。流石にこれは自分が恐ろしい…
「あの、やっぱりこれって普通じゃないんですかね?」
「ええ…普通の魔法の域は超えているわ。だってほら、」
そう言いながら先生はひなげしの花へ手を伸ばした。
プツッ
そんな音を立てていとも簡単にひなげしは摘まれた。
「ねっ?この音なんか、本物そのもの。それに見て」
僕の花の真ん前に蒼く透けてるひなげしがやってくる。
先生の指で支えられたそれは、ほんとに摘まれた花のようだった。軽い手の振動や風で頭をフラフラさせ、花びらは繊細なまでに薄く、ほのかに香りまでする。
もはやこれは結晶じゃない別のものだ。別のなにかになってる。
「完全に結晶としての性質を失っている。もはや別物ね。」
「すごいですね」
「あなたがやったのよ、自覚ないでしょうけどね。」
そう言われても…さすがにこれは自覚できないよ。
それで…
「それで、、、これどうします?」
先生はキョトンとしてこっちを見ながら言った。
「どうって、片付けるのよ。」
手にはハンマーと箒
(意外と物理的…)
「ほら、これで砕いて。」
渡されたハンマーは正真正銘ただのハンマー
あー。これは重労働…まあ自分でまいた種なんだけど。
「ほら、ぼっとしないで。そんなに硬くないから。」
先生はすでに砕き始めてる。
僕も…っ!
クシャ
ん?
ハンマーを花へ振り下ろすとまるで踏み潰されたようになった。
よく道端でクシャっとしてるあれだ。確かに柔らかいが、柔らかさの方向性が違う。
もしやと思い他の花もやると、同じように潰れただけだ。
(そうか。結晶が形を変えた物とおなじ硬さになっているのか。)
まあ、さっき先生のやった通りなら確かにそうなのだが…
ということは…
今度は力いっぱい地面にハンマーを打ってみる。
案の定こっちが痛い目を見た…
「先生!これ砕けませんよ。地面は硬いし、花は潰れちゃうし」
(あっ、潰れる分にはいいのか)
先生は手を止め顔を上げた。
「砕けるわよ。セト、あなたそれを’’花や地面だと思って’’叩いてるから砕けないのよ。そうね…あなたの魔力が結晶を勘違いさせたって言えば分かるかしら?」
うーん。いまいちわからない。
「まあ簡単に言えば、それを結晶だと思って砕けばいいの。変化させた当人が勘違いを気づかせなくちゃ。まあ勘違いってのは例えの話だけどね。」
結晶と思う。か…
先生はすでに’両親’の結晶を崩し始めている。
いや、人の形を模した結晶ってのが正しい。のか…
そう思って再びさっきの地面に取り掛かると
パリンッ!
事はあっさり進んだ。そこにあるのは砕けた結晶だけだ。
とは言え部屋中いっぱいの結晶。終わった頃にはお昼はとうに過ぎていた。
(ふぅ~)
片付いた部屋を眺めながら達成感に浸っていると。
「お疲れさま。ちょっと遅いけどお昼にしましょう。」
先生が声をかけてくれた。ん?お昼…いつ作ってたんだろう?
僕が遅い昼食を取っている間、先生はさっき摘んだ’結晶のひなげし’を追加の手紙と一緒に出していた。
これまた不思議なもので、花は形を崩すことなく封筒に入れられ、また鳥もどきの手紙と飛んでいった。
(アレ、早くできるようになりたいなぁ)
「そうね、便利だから今度教えてあげるわ。とりあえずあなたの目下懸案事項は魔力のコントロール。物が揃ったらすぐ練習を始めるわよ。」
あの〜この家で心のプライバシーは何処に行ったのでしょうかね…
「先生!すぐに人の心読んで会話しないでくださいよ。」
「えっ!?そんな高等なことしてないわよ。」
「えっ!?」
「えっ!?」
あれまびっくり。
またしても顔らしい少し気を付けてみよう…
「あっ。それよりこのあとはどうす…」
ドサッ!!!
食べ終わった僕の目の前に大きな音と共に本の山が登場した。
「そうね。今日はこれ。」
「は、はぁ…」
「あげるから、自室へ持っていって。簡単なまじないの本と、隣人たちの本。図鑑って言うよりは神話や昔話よりだけどね。あとは、薬草の本。ひとまずはこれでいいでしょう。」
これまたいっぱいの教材でございます…
「わ、わかりまひた…」
「別に今実践って言ってるわけじゃないのよ。下手に、『ちょっと練習。』とか言って知らないとこで魔法を使われたらたまらないもの。」
(ハァ…信頼ないな…)
翌朝、起床時間6時20分。なかなかいい感じだ。
支度を済ませてダイニングへ向かうと、ちょうど先生が皿を運ぼうとするところだった。
「おはようございます。あっそれやります。」
「おはよう。ありがとう。じゃあお願いするわ。」
朝食の話題はもちろん今日行く所の話だ。
「その、アンジェリカさんって人はどんな人なんですか?」
「日本では’’百聞は一見にしかず“っていうんでしょ?」
「なるほど、わかりました。」
納得しきっていない僕を見ながら先生が笑った。
「別に悪い人ではないからあってみてのお楽しみってことよ。」
家を出て、バスに乗り、列車に乗り換え一時間半…
初めて来たときより随分早くロンドンについた。
「やっと着きましたね。」
「そうね。あれ?セト、それはどうしたの?」
先生は伸びをしている僕の腰のかばんを指差している。
正確にはストラップみたいにぶら下がってるルビーのことだ。
「これは…母の形見です。事故のとき身につけてたらしくて。ネックレスなんですけどね。」
手にとって先生に見せながら話した。
「お守り代わりみたいなもんです。」
「そっか、ごめんなさいね。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。」
ホントに大丈夫だ、むしろ気づいてくれて嬉しいくらいだ…
「ここよ。アンジェリカの店は。」
先生に連れられたどり着いたそこは、ごく普通の建物だった。街なかにあるなんの変哲も無い。ただ1つ気になるのは、どう見てもやってそうには見えないってことだ。
しかしそんなのお構い無しで先生は扉を開けて中へ進んでいった。こっちはキョロキョロしっぱなしだ…
すると奥の扉が勢いよく開いて奥から女性が出てきた。
バタン!って大きな音にビクッとなったのは秘密だ…
「あらいらっしゃい!速かったわね!」
「久しぶりねアンジェリカ!」
「ってことはその子が?」
先生にアンジェリカと呼ばれた人は、グイッとこっちに顔を寄せて言った。なんか…美人なんだけどそれ以上にカッコイイ感じの人だ…雰囲気がガッシリしてる。アンジェリカさんはそのまま僕に手を伸ばした。
「はじめましてセト君。私は
「よ、よろしくお願いします。」
手を握り返し、顔を上げると
彼女の瞳に映る自分がひどく小さく見えた。
活動の長期休業に入ります、しばらく掛かりそうなので、まあそんなに期待しないで待ってて下さい!