「久しぶりね、セト。まさか忘れたなんて言わせないわよ!」
影から現れたのは、丸い栗色の瞳。つややかなブロンド髪、バランスの取れた上半身。筋肉美すら感じる馬の下半身。そう、セントール…ルーシィだった。
「ル、ルーシィ!君かい?でもなんで?!」
「話はあとにしましょ!さあ早く乗って!追ってはまだいるわよ。」
急いでキリドさんを乗せ、僕もまたがる。
「セ、セントール?君の知りあいか?」
「ええ。ニューヨークで知り合った友人です!」
「さあ!掴まってて!」
僕らが胴体にしがみつくやいなや景色は走り出した。
一瞬の間の後ぐいんと体が後ろに引っ張られる。
グッ…相変わらずひでぇ乗り心地じゃないか!
「これは…初体験だ…うっ」
キリドさんの顔色がさらに悪くなってる…顔面蒼白だぞ…
残像で繋がったように見えた木が再びその手を離した。
すでに森の入口だ。目の前には先生や見知らぬ人たちが数名いる。にこやかな先生に対して他の人たちは揃って腰を抜かしている。
「はぁ…はぁ…せ、先生…ふぅ…はぁ。キリ、キリドさんを、おちゅれしました。」
後ろでキリドさんはぐったりしてる…
いき…てるな
「フッフフフ。うん。お疲れさま、セト。」
噛んだの笑われたぞ…
「ん!ゲフンゲフン!」
「そうね、ルーシィもありがとう。」
なんともわざとらしい…
「それじゃあキリドさんは私たちが…」
「わかったわ。あとは…」
先生に話しかけてきたのはメガネをかけたら学者っぽい男だ。
「セト、大丈夫?顔色悪いよ」
ひょこっとルーシィが僕の顔を覗き込む。
そういえば彼女が一番の謎だ。パンパンに詰め込まれた出来事にまだ混乱しているが、それだってニューヨークにいた彼女がここにいるなんておかしいのくらいわかる。
「ルーシィ…きみは…どうしてここに?」
「そうね………………愛。かしらね?」
愛、、、熟考して出した言葉は愛。それ誰に向けたものだい?まさか…いや
先生がこっちに向かってきた。どうやら話は決着がついたらしい。キリドさんも一緒だ、二人に支えられてるけど
「とりあえず、帰るわよ。鱗はあなたがまだ持ってることになったから。」
「キリドさんは?」
「僕は学院のほうでしばらくやっかいになることになった……そういえばまだ君の名前を聞いていなかったね。」
「セトです。セト・ナンブ」
「セトくん、助けてくれてありがとう。」
そう言ってキリドさんは手を差し出した。
「いえいえ、僕はなんにも…」
僕もしっかりと手を握り返した。
「まさか、エルダさんが弟子をとるとは…ちょっと意外でしたよ。」
彼は脇に立つ先生に声をかける。
「自分でも驚いているわ。セトに泣き落し喰らっただけな気もするけど…」
あははは…思い返すと情けない話だ…
「積もる話はありますがそれは後日に。それじゃあまた!」
二人の魔術師に支えられながらキリドさんは学院の人たちのもとへ向かっていった。
「私達も学院がごまかしてくれてるうちに帰るわよ。」
「「はい!」」
えっとー…
「ルーシィ。君も来るのか?」
「言ったでしょ。愛の為に来たって。セトと一緒に行かなくてどうするのよ。」
やっぱりその愛の対象は僕ですか…隠さないぶんストレートに来てけっこう恥ずかしい。
「まさかそのなりで列車に乗るのか…」
シュッとルーシィが縮んだ、いや…足が。人と同じの二足に。けっこうスタイルいいな…美人だし…
「これやると一般の人にも見えちゃうんだけど、これでセトと同じ目線ね!」
あっそうっすか。どうぞご自由になさってください…
うーん…美人だけどなんかそう言う’好き’じゃないんだよなぁ
「何してるの?早く行くわよ。」
さっきの魔術師達のおかげか僕らは面倒事には何一つ巻き込まれることなく帰路に着けた。
ーーーーーーーー
「はぁぁ〜〜〜」
やっと家だ!この三日の諸々で疲れてたのに、列車の中の出来事で追加攻撃を受けてヘトヘトだ…
ルーシィのやつ…ベッタベタにくっつくし、胸とかあからさまだし、質問攻めだし…なんかこれだけで三日分の密度だったぞ…
「お疲れさま。まあ…大変だったわね。トランクの中身の整理は庭のなんにもないとこでやってね。」
「セト!私も手伝うよ! お・ね・が・い もあるし。」
はぁぁ…何だこりゃ…
庭に出ると結局先生もついてきた。危険なものがあるといけないからってことらしい。ルーシィは自分が見張ってるから大丈夫だと自信満々だったが、先生は僕に色んな意味で危険が増えるから一緒に行く、とのこと…
まず開けると蛇の胴体に猫頭【サーパポート】のピュティアが飛び出してきた。そこからは生き物優先で引っ張り出す。
金の角を持った白いシャモア、【ズラトロク】伝説通り雄のみしかズラトロクにならないらしい。
他には翼の生えたうさぎ、【ヴォルパーティンガー】女性にしか見つけられないという伝説だがなんてことない、ただの女好きだ。
他には角の生えたこれまたうさぎ【ジャッカロープ】デマじゃなかったのか…
他には牙を持つ鳥?サイズは九官鳥ほどだが…先生に聞くと見つかっている個体数が少なく名前がまだない鳥らしい。学者たちでは【ファングドバード】の名で通っているとのこと。一応魔力に由来する毒牙を持っている。
そんでもって最後の一匹は最初は気づかなかったが中国神話に聞く【青蛙神(セイアジン)】だ!前足が2本、後足が1本の三本足で、後足はお玉杓子の尾のように中央に付いている。見かけこそ三本足のヒキガエルだが、家に幸運をもたらすと言われる霊獣だ。
あの男二日目と三日目で全然売り物違うじゃないか…
とりあえず動物を出したところで日が暮れかけていた。
他のは明日にしよう…
「けっこう珍しいものも多いわね。けど…これ全部飼うわけにはいかないわね。」
流石に先生もこの量には引き気味。
「とはいえ、そのへんで逃がすわけにも…危険なのもいますし。」
ルーシィは楽しそうだ。さっきから青蛙神の背中をツンツンしてる…
「このカエルなんか東洋の生き物よ。どうする、セト?」
「やめなさいって、仮にも聖獣と呼ばれる生き物だぞ…」
「は~い。けどさ。実際問題、どうするの?」
うーん…こいつは…
「とりあえずはここで飼う。明日以降考えましょう。それでいいわね?セト。その疲れ顔じゃろくな意見も出ないだろうし。日も暮れるし。」
「そうですね。なんか面倒なの増やしちゃいましたね…」
「あなたが弟子になった時点で面倒事が増えるのは覚悟してたわよ。」
ほんとご迷惑おかけいたします……
家に戻ろうとすると突然ルーシィが大切なことを思い出したとか言って庭の広い草地に引っ張ってきた。
「セト。わ、私ね、セトと一緒にいたくてニューヨークからここまで来たの。ジャックに無理言って手伝ってもらってさ。それでね…」
もごもご言い始めた。なるほど読めたぞ〜
世には自分から契約を求める隣人もいると言うが…
「契約を求めてはるばると…」
「そう!セトと契約を結びたくて…」
なんか突然もじもじした感じだなぁ。どんだけ恥ずかしいんだよ!
「だ、だめかなぁ?」
あ~も〜!こう言うのはズルい…そんなきれいな顔でさ、目潤ませてさ、顔を少し赤くして…か、かわいい。
あっ、負けた…もう断れないぞこれ。
「う、うーん…」
チラッと先生の方を見る。呆れてそっぽ向いてる…
しかし、契約についてはあんまり知らない。流石にそこまで手が回らなかった。
「けど、僕は契約はやり方とかよくわからないし…」
ルーシィ。この返しは予想通りのご様子…
にこやかに
「大丈夫!私のあとを追って呪文を言えばいいだけだから!」
これは腹を括るしかあるまい…
「わかった…いいよ。君を僕の
ルーシィは大喜びで舞い上がってる。
「やったぁ!それじゃあ行くわよ。私の全部をあなたに…」
「全部?」
契約とは慎重に行うものだ、鬱陶しく思われたとしても確認を怠るわけには行かない。
「隣人たちは本来死の概念や時間の概念が希薄なの…すべてを結ぶっていうのは、あなたが死んだときに彼女も死ぬってことよ。契約でも最も深い結びだわ。向こうから寄ってくるなんてまず無いわね。けっこう好かれてるんじゃない?」
先生が教えてくれた。ルーシィ的には余計なことをってところ見たいだが…
命か…僕のせいで彼女が死ぬ…時間の共有。それは違うんじゃないだろうか
「そんなのダメだ!僕のとんでもなく短い寿命のせいで半ば悠久の君の時を左右したくない。」
「そんなの気になんかならないわよ!私はあなたを愛してるのよ!時間ごとき、寿命ごとき大したことないわ!それにより深い結びつきはそれだけより強い力を持つわ。メリットは沢山のはずよ!」
必死で頼むルーシィだが、こればっかりは譲れない。人間の脆さはよく知っているつもりだ。
「さっき君は僕のこと愛してるって言ったよね?」
ルーシィは勢いよくうなずく。なんか鼻息荒い……
「そんなら1つくらいは愛してる人の“お願い“ってのを聞いてくれないかい?」
「そりゃ…聞きたいけども…」
そのまま受け入れるのはダメらしい…
しょうがない、ちょっと騙すみたいだが
「いやね…僕ってさ自己顕示欲ってのが高いんだよ。だから死んだあとでも誰かに’僕’を知っててもらいたいんだ。それでね、君にその語り部をやってほしいのさ。愛した人のことなら見事に美しく語ってくれるだろうし。その為には君に死なれちゃ困るわけだ。わかるだろ?」
なんとも卑怯な…我ながら卑怯この上ない。まあ自己顕示欲高めなのは事実だし。結果的にそうなれば別に嘘ってわけでもない。
これを聞いたルーシィはとんでもなく悩んだ末に口を開いた。
「いいわ!そんなに頼りにしてくれるってなら。貴方を後の世でも伝えてあげる。けどそれなら、私が語れるくらい立派な人になってもらわなきゃね!」
「努力はするよ…」
きっつーーいハードルがおまけで来たがしょうがない。
「それじゃあ、ほら手を…」
ルーシィはそう言って両手を出した。手が回らなかったとはいえ基礎は理解してる。
膝をつく彼女の前で僕も同じように膝を地につけ、額をつけて両手のひらを軽く切ってから合わせた。気づけば、僕らの周りを月明かりのような光が包んでいる。
ルーシィがそっと口を開いた…
『「いざや結べ 断たれた緖 欠けた月を満たすように モミを結べ ローワンに火を灯せ 互いの道を忘れぬように 時が二人をわかつまで」』
「セト…私に新しい名前をつけて。契約の最後の工程よ。」
新しい名前…彼女に………
「ルキア…」
「
なにかが流れていく流れてくる。これが契約なのだろう。
額を離しルキアと目を合わせる。
「これからよろしくね。セト」
「ああ、これからもよろしくな。ルキア」
結びの儀式は終わった。僕ら二人を包んでいた光は消え辺りは夏の夕暮れ空に戻っていた。
つ め こ み す ぎ た
セト君…色仕掛けに引っかかってるよなぁ…
契約の儀式っていつも結婚の誓いを思い出すんですよw