深い暗い
雪の降る夜明け前
森の中を声に導かれて歩く
頭の中の人は正しい道を教えてくれる
でもどこに向かってるのかはわからない
考えなくていいってあの人が言ったから
扉
目の前には見覚えのある扉がある
そう、ここはあの忌まわしい女の...
『ほら今はバケモノもいない。戸をノックするんだ』
コツコツと軽い音を立て戸を叩く
はーい
伸びる明るい少女の声
扉を開けたのは赤い髪の少女
『さあ!それをお前が支配しろ!!その女だ!それさえお前のものにすれば邪魔する者はいない!"居場所"
を取り戻せ』
そうだ。彼女を俺が
「あれ?セトさん?どうかしました...ギャッ!?」
何をしているのだろう?
一瞬何か聞こえたと思ったら目の前に彼女の顔がある
なぜ地面に頭をのせながらこっちを見てるのだろう?
まあ倒れてくれるなら上から力かけられるしそれでいいのか
彼女には僕がすべて教えるんだ。僕がふさわしいってことを
『そうだ!コイツにはお前しかいないんだ。それをしっかり教えてやれ』
体は勝手に動いてくれる
何をすればいいのかおしえて...
「エリ......ア...ス...」
―貴女なんか産まなきゃよかった―
!
なんだ?僕は何してる。それに今のは...?
なぜ目の前に羽鳥チセが倒れて僕はそれに覆いかぶさって首を絞めながら服をはぎ取ろうとしてるんだ?
そうだ
彼女に必要なのは僕じゃない
僕の居場所はここじゃない
彼女の居場所も僕じゃない
『チッ...もう目覚めたのか...』
じゃあ彼女の居場所は?
頭に浮かぶのはバケモノ
エインズワース
あ、僕殺される
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫んで跳ねてやっとそこで自分に敵意を向けている犬が目に入った
ダメだ逃げないと死ぬ
殺される
エインズワースにもこの犬にも
どこ?逃げる
彼女の家の周囲は森が多い道に逃げてもすぐ追われる
そうだ森の中だ
「ゲッホ...あ、あの」
まずい羽鳥が起き上がった
人は思考と同時に動けるというが実際は違う
思考する前に動いているんだ
目の前の景色が一瞬で狭まる
木木木木木木木木
エインズワース
一瞬だったけど視界の端にあの骸骨頭が写った
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ
小枝がバチバチと体にあたり血が流れてきた
口も切れてるし鉄の味がする
足元見えないし
なんかふらつくし
あぇ?
ぐにゃんと視界がよじれて足がもつれる
だがなぜか僕は倒れていない
「セト!しっかりつかまって!」
聞き覚えのある女の声
体が宙に放り投げられたと思ったら
少し高いところに僕は座っている
セントールの背中
ルキアの背中
その背中を認識した瞬間にもう森は別の森になっていた
エインズワースたちの住む家のあたりとは違う場所に
「これからどうするの?」
ルキアも僕も焦っている
だが落ち着いてはきた
「先生の家だ。荷物をまとめるぞ」
「その先は?行く当てなんて...」
いやある...
思えばそもそもの話あの霧の中僕が一人になるのを狙っていた何かがいる
これは怪異というより人だ
僕と羽鳥を接触させたがっていた何か
それから身を隠すという意味でもばっちりの場所だ
まあ何より先生に会うわけにはいかない
人を辱め傷つけた人間を弟子としておいておかせるわけにはいかない
思考を巡らせている間にすでに家の前だった
ここにはお世話になったものだがもはや感傷に浸っている時間はない
いつものトランクに部屋の私物とピュティアとそのご飯とを詰め込んで後は服と...もう余裕はない
とりあえず思いつくもの全部放り込んで家から飛び出した
すでに日ものぼりはじめ少しずつ明るくなってきている
「行先はここだ。」
ルキアに行先のメモを見せ、二人の手を合わせた。
本来行ったことない場所など魔法で飛べないのだが
今回はこのメモのおかげで行けそうだ...
冷たい風が吹き込み景色が回る
グワンと歪んだ景色が形を取り戻すとそこは街の喧騒の中だった
いや、その喧騒から少しだけ離れたところ
目の前にあるのは扉
バンバンと強く扉をたたく
もしここがだめならもうあてはない
扉はかなり慎重にゆっくりと開き
その向こうからは顔に大きな傷を携えた男が出てきた
「き、君は...!どうしたんだ!?エルダは?」
「レンフレッドさん...だすけてください」
雪のちらつく寒空の下彼の家から漂う暖かい空気はあまりにも眩しかった
ごめんよセトクン
もっと苦しんで