巡る世界の白金少女   作:雪解け餅 

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第9話 三次試験(居眠り幼女)

 

 

私は三次試験をトップで通過した。

所要時間は24分である。

30分のテレビ番組のCMを抜いた放送時間並みの短さだ。

何故こんな状況になったかというと、それは今朝、三次試験会場に到着したところまで遡る。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

朝の9時半に飛行船は目的地へと到着した。

途轍もなくデカい円柱状の建物だ。

この建物の名前はトリックタワーというらしい。原作でもそんな名前だった気がする。

三次試験の試験内容は『72時間以内に生きて下まで降りてくること』。

 

だが、正直に言って、今の私には試験なんてどうでもいい。

私は飛行船内で午前4時過ぎから到着まで、ずっとネテロ会長と組手をしていた。

そのため現在、凄まじく眠い。今にも落ちてしまいそうな瞼を根性で開いている状況だ。

ネテロ会長をのせた飛行船は、既にトリックタワーを出発してしまったため、もうここにいない。

ずっと動きっぱなしだったはずなのに、ネテロ会長は私との組手の後も割と元気そうだった。

流石、人間最強クラスの念能力者だ。どこぞの異世界転生幼女とは積み重ねてきた量が圧倒的に違う。

キメラアント編でぽっくり死ぬなんて、とてもではないが信じられない。

直接的な死因は自爆だった気がするが、どちらにしろ勝負に負けて試合にも負けたという完全敗北のような状況だったからキメラアントの王の凄まじさがよく分かる。

 

私がまだ見ぬキメラアントの王に畏怖を擁いている隙に、まわりの受験者達は各々にトリックタワー攻略に動き出していたようだ。

ロッククライマーのおっちゃんがトリックタワーの側面の外壁をボルダリングの要領で降りて人面鳥に食われて死んだようで、誰一人としてタワー側面の外壁に向かうものはいない。

正直、ヒソカの念能力なら頑張れば降りられなくはない気がするんだが、ヒソカはそういうショートカットを嫌いそうだから、用意された試練を突破するつもりなのだろう。

私も普段ならまず間違いなく、ヒソカと同じように用意された試練を突破する道を選んだだろうが、現在の私は睡眠不足でやる気がミジンコほども存在しない。

なので、三次試験を速攻で終わらせることにする。

 

 

まずは【絶】をして気配を絶つ。

ある程度の使い手ならこんな見晴らしのいい場所で気配を消したって通じないだろうが無いよりはマシだ。

そのまま、ゆっくりとトリックタワーの端の地上を見渡せる位置まで移動していく。

その途中でウサちゃんリュックから取り出した(ように見せかけて念空間から取り出した)スモークグレネード(玩具?)のピンを抜いて端の方に撒いていく。

突然、煙がわいて出てきたことに周囲の人達がビックリしているが無視してスモークグレネードを撒き続ける。

現在、タワーの屋上にいるため、風が強くて煙が非常に散りやすい状況だ。

そのため、スモークグレネードを10個以上も撒く羽目になった。

その後、私は左腿につけたホルダーから短剣を抜いて【周】を行い、タワーの端から地上を見下ろし無造作に地上に向かって投擲する。

地上に短剣が到達したのを確認した私は【望郷の玩具箱(ロンリートイハウス)】を発動して、自分の真横の空間に真っ黒い穴を開けて、その穴を潜り自身の念空間へと移動する。自身の念空間内に移動した私は、そのまま続けざまに移動を行う。その移動先は、先ほど地上へと投げ下ろした短剣だ。この短剣の柄の部分には、念空間からの出口の目印として扱うことのできるキャラクターシールが仕込んであるため、短剣の投擲と併用することで疑似的な空間転移を可能にする。

屋上に撒いたスモークグレネードの煙に乗じて短剣を投擲し念能力を使用したため、私を視認した者はいないだろう。一応【円】が使われていないかも【凝】で確認しておいたので特殊な監視系の念能力かサーモグラフィカメラでも設置してない限り大丈夫だと思う。

地上に移動した私は誰かに見られない内に短剣を回収して、【絶】の状態でタワーの外壁を見て回り、入り口らしい場所を探す。

外壁が広すぎて普通に入り口を探していたらとても時間が掛かりそうなので、【円】を前方のみに展開した状態で外壁ギリギリを走って探す。

そうして全力で走ること5分。とうとうトリックタワーの入口(実際は出口)を発見した。

屋上からここまで来るのに掛かった時間は全部で20分弱。

 

「おい、ドアを開けないと壊すぞ(キレ気味)」

 

ドアの近くにある監視カメラに向かって話しかける。

待つこと数秒で返事は来た。

 

『どうやって降りたんだね?』

 

「能力」

 

『……それだけかい?』

 

「早く開けろ、今の私は眠くてめちゃくちゃ機嫌が悪いんだ」

 

眠さで口調がかなり荒々しくなってしまった。

おねむの幼女を邪魔することは例え神であろうと許されないのだ。

 

やっとドアが開いた。

 

「やっとか……遅いぞ」

 

『……えぇ…406番アリーチェ 三次試験通過第一号!! 所要時間24分!!』

 

アナウンスがあったのでドアをくぐって待機部屋へと入る。

適当に部屋の隅の方へと移動するとそのままウサちゃんリュックに手を突っ込み、中からテントと寝袋、毛布を引っ張りだす。

そしてテントを組み立てたら中に寝袋を敷き、丸めた毛布を寝袋に突っ込んでから偽装を行う。

 

私は自分の布団じゃないと熟睡できない派なのだ。

なので念空間内にある自分の寝室に移動してベッドに潜って眠りにつく。

どうせ制限時間が72時間もあるのだから、10時間くらい寝ても問題ないよね!

というわけで、目覚まし時計を10時間後にセットする。

おやすみー、三次試験もベリーベリーイージーだったねー

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

『ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリッーーー!!!』

 

目覚ましの音で目が覚める。

 

「あれ、なんでベッドで寝てるんだっけ? 試験は……えっとぉ~あれぇ~?」

 

記憶がいまいちハッキリとしない。

状況が分からないがとりあえず状況確認をした方がいいだろう。

洗面台で寝ぐせがないかなど身だしなみを確認してから念空間から外に出る。

 

「ありゃ? 何故かテントの中だ」

 

テントの中には偽装用に寝袋と丸めた毛布だけが置いてある。

これは私がよくやる念空間で寝ることを誤魔化すときの偽装だ。

三次試験は多数決の問題だったはずだし、暇になったから睡眠を取ったのかな?

状況からそれっぽい答えを推測して、現状確認のためにテントの外へと出る。

 

「……え? ここどこだっけ?」

 

まったく見覚えのない場所に思わず誰に言うでもなく疑問を口に出してしまう。

見たところそれなりの広さの部屋だ。

こんな部屋に入った記憶は一切ないのだが、罠にハマったとかじゃないよね?

しかし、私の疑問に答える声が横合いから聞こえた。

 

「寝ぼけてるのかい?♥ ここは三次試験通過者の待機室だよ♠」

 

「え……なんで私、三次試験通過してるの!?」

 

思わず聞き返してしまった。

つーか、変態ピエロ(ヒソカ)やんけ!

 

「ボクが来た時には既にそのテントはこの部屋に置いてあったよ?♥」

 

ヒソカとはできるだけ話さない方がいいが、今は疑問を解消する方が先だ。

 

「なんでか私、飛行船の中からの記憶が抜けてるんだけど、私だけ三次試験フリーパスだったりしたの?」

 

「さあ? そんな話は聞いていないけど♦」

 

うーむ、謎だ。

本当に試験を突破してるなら問題ないが、ヒソカが嘘をついている可能性も十分にある。

 

「ヒソカの話だと本当か嘘か分かんないし別の人に聞いてくるね! バイバイ!!」

 

ヒソカに返事をする隙を一切与えず、私は別の人のところに移動する。

会話するとしたら、イルミ以外なら誰でも問題ないだろう。

と思って部屋の中を見渡してみたけどヒソカとイルミしかいねぇし……

 

「……あぁ~、やっぱもうひと眠りしてくるかなぁ~ハハハハ」

 

回れ右をしてテントの中へと引き返す。

 

「ねぇ、さっき君がテントから出てくる直前まで中に気配がなかったんだけどアレは能力かい?♦ 一応だけど【円】まで使って確認したから間違いないはずなんだよねぇ♥」

 

こういうヤバい奴に寝てる時に襲われたくないから、念空間内で寝たというのに逆に興味をひいてしまったようだ。

面倒だけど適当に答えてやり過ごすとしよう。

わざわざウサちゃんリュック内に念空間作ってるように偽装してるんだし、そこまでならバレても問題はないだろう。

 

「うん、まあそうだよ。ほら前に言ったでしょ? 私の能力は戦闘系じゃないってアレだよ」

 

「なるほどねぇ~、確かに戦闘系では無さそうだ♠」

 

普段と変わらないような喋り方だが、どことなく残念そうな雰囲気が出ている。

これで私は拳で戦うのが少しだけ得意な念能力者という枠に入ったはずだから、ヒソカの遊び相手候補から外れてくれたことだろう。

 

「あと61時間もあるみたいだし、万が一ヒソカが嘘をついてても10時間もあれば試験くらい突破できるだろうから、もうひと眠りしてくるね。あっ、それと勝手にテントに入ろうすると、この部屋の半分が吹き飛ぶくらいの爆発を起こす爆弾をセットしておくから気を付けてね!」

 

私の睡眠中にテント内を勝手に探索されないようにヒソカに釘を刺す。

もちろん爆弾なんて仕掛ける気はない。

私の念能力【望郷の玩具箱(ロンリートイハウス)】は、本来は能力者本人や家具、食料を除くと玩具しか念空間に入れることの出来ない能力なのだが、何故か武器類の一部も玩具だと認識する。

私の能力の認識は、私の認識そのものとも言えるので、私にとってグレネード全般や銃器全般はオモチャでしかないのだろう。

一度試してみたことがあるが、装甲車は念空間に入れることは出来なかった。

庭にギリギリ入るくらいのサイズだから、大きさ的には入らなくはないはずなんだが【制約】で弾かれたようだった。

もしかしたら、私が手で持ち上げることのできる大きさまでとか細かい条件があるのかもしれない。

条件の検証を今度試してみよう。

とりあえず、二度寝を決め込むことにする。

テントの入り口に『開けたら殺す』と赤い水性マジックで血文字っぽく書いた貼り紙をしておく。

そして、さっきまでと同じように念空間に移動して寝室のベッドで睡眠を取る。

 

 

 

 

 

「…ふぁ~、よく寝たなぁ~」

 

あれから6時間くらい寝たと思う。

さっき部屋の時計を見たときは残り時間が61時間だったからあと55時間といったところか。

そろそろ人が増えてるかもしれない。

でも、よく考えてみるとヒソカ1人ならイタズラの可能性もあるけど、イルミも一緒になって私を騙す理由なんてあるわけないし、本当に三次試験を通過したかもしれない。

ネテロ会長と組手をして疲れてたからサービスしてくれたのかもな。そう考えると三次試験の試験官さんは気が利くね。

 

私は、三次試験は終わったものだと結論を出したので、のんびりと朝食を取ることにする。

ちなみに、時刻は午前2時だ。朝食でないどころか夕食ですらない。

面倒なのでカップ麺にお湯を注いで、揚げた魚が冷蔵庫に入っていたのでレンジで温めてから一緒に食べる。

ハンター試験の参加者って一体何を食べているんだろうなぁ~

さっきの待機部屋にも食料になりそうな物は一切なかったけど。

一次試験のマラソンのときに見た限りだとほとんどの人が軽装だったし、食料を持参してる人はほぼいなかったと思うんだけど、二次試験の酢飯でも食べて空きっ腹を埋めたのかな。

この二日間で食べた食事がステーキ定食(弱火でじっくり)と酢飯だけってかなり質素だよなぁ~

その点、私はステーキ定食、お握り(おかか味)、テンプラ定食(テンプラと酢飯)、カップラーメンとテンプラだから他の受験者と比べると食生活は圧倒的だ。

他の受験者なんて水分すら取ってるか怪しいレベルだから脱水症状で何人か死んでもおかしくない。

 

食事を取り終わったけど、今の時間帯なら待機部屋にいる人達も寝てるだろうからゲームでもして時間を潰そうと思う。

グリードアイランドをするときのためにジョイステーションを既に購入していたので、それをテレビに繋いで遊ぶことにする。バッテリーは日頃からコツコツ充電していたのでまったく問題ない。

何時間かゲームをしていたらまた眠くなってきたので、もうひと眠りすることにしようかな。

 

 

 

 

 

「ありゃ、またベッドだ?」

 

あーそういえばゲームしてたら眠くなって寝たんだった。

時刻は午後3時だ。試験時間はあと42時間か。

ちょうどいい時間だし、一回テントの外の様子を見てこようかな。

テントの中は寝る前と変化はないようだ。

勝手に覗かれて中に人がいないことがバレても困るし、テントの入り口は壊さない限りは外からは開かないようになっているので誰かが入ってきた場合すぐに分かる。

 

「おっ、結構人増えたな~」

 

ドタバタ忍者ハゲゾーまでいるよ。

ハゲゾーって確かまあまあ強い?設定だったはずだ。

私からすればヒソカくらいの強さがないと正直脅威になり得ないのでいまいちパッとしない。

ヒソカの【伸縮自在の愛(バンジーガム)】って『ガムとゴムの両方の性質を持つ』らしいけど、もしゴムが絶縁体としての性質も持っているなら私の念能力【悲運の雷(ドゥームボルト)】の天敵になり得るかもしれない。

 

もし、私が戦うなら地雷原におびき寄せて爆殺するか、毒ガスで殺すだろう。

【変化系】能力者じゃ地雷原の爆発には耐えられないだろうし、ゾルディック家じゃないから毒は効くはず。

そう考えると自分には効かない未知の毒を生み出す念能力者がいたら最強だろう。

ゾルディック家も流石にすべての毒を無効化できるわけがないし、未知の毒なら普通に死ぬはずだ。

 

三次試験通過者が現在6人くらいいることが確認できたので、念空間に戻ってゲームの続きをすることにする。

 

 

 

 

 

私は残りの42時間をほとんど念空間の中で過ごした。

RPGもののテレビゲームが一作品終わったので、新しいパッケージを開けた。

実に有意義な休日だったなぁ……

あれ、三次試験ってなんだったっけ?

きっと三次試験なんてなかったんや。

 

 

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