私の朝は早い。朝5時半には、起きて顔を洗い朝食を食べる。それから、宿屋と食堂の手伝いをする。朝は部屋の掃除や厨房の手伝い、接客をこなす必要があり、やることは多いが別段急ぐ必要もないので、ゆっくり丁寧にやるようにしている。
昼は食堂が混むため接客をメインに行う。昼時は早さが全てと言ってもいいくらい忙しい。
夜はお会計や注文取り、配膳などの接客を行う。昼ほど客が多い訳では無いので、そこまで忙しくはない。夕食時を外した時間などのあいた時に
最初の頃はもっと働けると言ったのだが、6歳なのに働き過ぎだと怒られてしまった。そのため21時には必ず上がることになっている。
この宿屋兼食堂で働き始めて半年が過ぎた。今更だが店の名前は――風月亭という。
どちらかと言うと食堂がメインで、それに申し訳程度の宿屋が付属しているような店だ。
夫婦経営の店で店主は旦那さんがしている。ここに初めて来た時にあった女性が奥さんで名前はアイラさんと言う。子供は二人いて、一番上の息子は既に成人していて独り立ちしているらしくこの店にはいない。二番目の娘は学生をしていて、時間に余裕のある時はこの店で働いている。ちなみに15歳で私の倍以上年上だったりする。
この家でお世話になり出して、かなりよくしてもらっていると思う。住み込みの三食付きで時給は700ジェニーも貰っている。最低限必要な衣類以外にはまったく使っていないので、結構お金が溜まってきている。流石にここに永住するわけにはいかないので、いつかの旅立ちの日のために、しっかりと貯金しておこうと思う。
“超能力”の練習も毎日欠かしていない。そのためかなり制御が出来るようになってきた。
初めの頃は20分も“超能力”を使っていたらバテていたのに、最近では1時間以上も持つようになってきた。その上、体の一部を電気に変化させるなどという人間離れした技まで使えるようになった。
完全に
唯一のアイデンティティだから、出来ればもっともっと伸ばしていきたい。
◆ ◆ ◆
「あれ? これって……えっ!!」
その日もいつも通り仕事をしていた。
昼時が過ぎて、閑散とした食堂でテーブルを拭いていたときのことだ。テーブルに上に新聞が広げて置いてあったので気まぐれに少しだけ読んでみた。
【ハンター試験、受験者大募集!! ご応募は下の宛先まで】
「いきなり大きな声を出して。どうしたの、アリス?」
ちなみに、アリスというのは私のことだ。アリーチェの愛称だからアリスとなった。この他に略しようがないから仕方がないとはいえ、少し可愛すぎる呼び名だから何だかむず痒い。
「ね、ねぇここに書いてあるハンター試験って何?」
接客中以外なら家族のように接してくれて構わないと言われているので敬語は無しだ。このハンターってあのハンターなんだろうか。
それとも、ただモンスターをハントする職業の人達のことなのだろうか。
「ハンターなんかに興味があるの? 危ない職業だし、なれる人も限られてるからやめた方がいいわよ」
教えてもらった限りだと、ハンターとは、怪物・財宝・賞金首・美食・遺跡・幻獣など、稀少な事物を追求することに生涯をかける人々の総称だそうだ。
プロのハンターの資格を得るには、数百万分の一の難関と言われるハンター試験を突破しなければならないらしい。毎年多数の死者が出る超危険な試験だとか。ハンター試験に合格したプロハンターは全員がハンター協会の会員となって、現在の会員数は600名ほどらしい。
――これって完全に私の知ってるハンターだよね!?
前世で読んだ漫画に出てくるやつだよね。
まず間違いなく合っていると思うけど確実に合ってるとは言い切れないし、とりあえず後で調べて見ることにしよう。
もし、本当にこれが私の知ってるハンター試験なら受けた方が得することも多いはずだ。住所不定の居候でしかない私の身分を保証してくれるだろうし、この世界で一生を終える可能性もあるのだから必要性はかなり高い。
それに元の世界に帰るにしても、そういう念能力者と出会う機会があるかもしれない。世界越えの念能力者なんているのかすら怪しいけど、諦めるにしても探し尽くしてから諦めたい。
「ねぇ、アイラさん。今って何年? 」
「たしかぁ、1992年だったかしら」
確かゴンやキルア達が受験した年が2000年だったはず。綺麗な数字だったから何となく覚えていた。これが間違っていないなら、あと8年以上もある。
ハンター試験自体は毎年やっていたはずだから既に受けてもいいんだが、ただの6歳の幼女が受けても絶対受からないだろう。“超能力”はあるけど身体能力はヘッポコだから全部筆記試験でもない限り落ちる。
というか、この“超能力”ってもしかしたら――念能力?
ただそれだと私は既に念能力を使えるはずだ。だが今まで一度足りともオーラを見たことがない。
まだHUNTER×HUNTERの世界だと確証を得た訳でもないし、考えても仕方がないか。
――あ、いいことも思い付いた!
「アイラさん、ゾルディック家って知ってる?」
確証を得るための質問をアイラさんに投げ掛けてみる。これの答えによっては、方針が完全に決まる。
「もうダメよ、誰に聞いたのか知らないけど、ゾルディック家ってのは、すっごいこわーい殺し屋さんなんだから」
「へ、へぇそうなんだ。怖い人達なのか」
あーやっぱりねー。
そのくらい知ってますよ。これで完全に方針が決まった。2000年になったらハンター試験を受けに行こう。世界が同じというだけで、住んでる人が違う場合やパラレルワールドの可能性もあるけど、もし同じなら試験内容もある程度把握出来ているし、圧倒的に有利に進められる。
それに私みたいに転生か憑依かした人が来る可能性もある。同じ世界から転生したとも限らないけど世界を越える方法を一緒に考えたりとか色々と協力できるはずだ。
そうと決まったらハンター試験に合格するために特訓をしないといけない。
私みたいなヘッポコが合格するには念能力が必須だ。ハッキリ言って“超能力”(念能力?)がなければ一般人の半分の力もない自信がある。
確か瞑想をしながらオーラを感じ取る修行をしたら、半年もすれば実感できるようになるって漫画でウィングさんが言ってたはずだ。今日から“超能力”の修行の他に念能力の修行も加えよう。
◆ ◆ ◆
結果だけ言えば、念を目覚めさせるのに2日しか掛からなかった。ゴンとキルアがズルをして数十分足らずで覚醒させたが私は実力で2日である。寝る前の1時間しか瞑想していないから、実質2時間しか掛かっていない。
本当の天才は――私だった、わけだ。
既に念の修行を始めて【纏】は完璧になった。
念能力とは生命エネルギーであるオーラを操作する能力のことを指し、その中でも【纏】とはオーラを拡散しないように、体の周囲にとどめる技術のことを言う。これによるメリットは体の頑丈さが増したり、若さを保てたりと色々ある。【纏】とは簡単に言ってしまえば、体の表面にバリアーを常に張っているようなものと言える。
念能力などという超常の力を目にすると、どうしても興奮してしまって自分を抑えきれない。そのため、最近では1日中【纏】をして過ごしてる。まだ寝てる時はできないけれど目指すのは息をするように【纏】をするレベルだから何をするにもこの状態を維持しようと思う。
それと電気を生み出して操る超能力は、やはり念能力だった。
オーラを感じ取れるようになったから分かったことだが、オーラが電気に変換されているのが分かるようになった。希に念能力を念だと知らずに使っている人がいるとか漫画の中で誰かが言っていた気がするし、その典型が私だったのだろう。
念能力に目覚めた原因は心当たりがかなりいっぱいあるからどれか1つに絞ることが出来ない。
落雷に打たれ死んだこと、異世界に転生し前世の記憶を取り戻したこと、前世と今世の記憶や魂(?)が混ざり合ったこと、記憶を取り戻したときに電流を浴びていたこと、等が挙げられるが、この中の1つ又は複数の可能性があるから調べるのは不可能だろう。
今はオーラの噴出口である
【練】は大量のオーラを一度に生み出すことでオーラの操れる量を増やす技術で、【絶】はオーラを断つことで気配を完全に消すことができる技術だ。
両方とも出来なくはないんだけど、長くは続かない。漫画知識だと、強者と戦闘をするなら【練】は最低でも数時間は持続させる必要があったはずだ。
就寝前の1時間しか修行の時間が無いから正直全然捗っていない。
仕事中は【纏】や【絶】を常に行うようにしている。
部屋の掃除は【絶】で、それ以外は【纏】で行うようにしている。
ただ【練】は持続時間が短い上に、一般人にすら圧迫感を与えてしまうから、正直人前ではやるべきではない。
ハンター試験まで後8年もあるのだし、当分は念の修行に当てていこうと思う。