活動報告にも書きましたが、主人公。ちほ&かほのイラストを描いてみました。
特に主人公のビジュアルは、各々イメージがございますので、見る場合は注意してください。
というか、こんなんじゃねぇ! と思う方は、それはそれで良いと思います。
あ、PINKの次回が、女子会と決定、ちょっとしたアンケートしてます。
…もう少し、まってみます。
「「 」」
玄関前から、庭先へ…回り込んで来た二人を、そのまま睨みつけている姉。
いきなりの圧をぶつけられ…萎縮してしまっている二人。
ただ何も言えずに立ち竦んでいいる。
ゴメン、チヨミン。
特に君は、何も知らない状況で、ここに来てしまったから…ほんっとうに、意味が分からないだろう。
そのまま、その視線を順々に、この場にいる皆に送っていく、姉。
ゆっくり…そのまま…あ、止まった。
そしてそれに対抗するに様に、睨み合っている形となった…。
まぁ…華さん、大きいしな…うん。
しっかし…強いなぁ華さん…。
この姉と真っ直ぐに視線のみで、やり合っている。
姉さんと。ここまでできるのって、まほちゃん位だと思っていたのに。
大体の人は気当たりしてしまい、どうにかなっちゃうんだけどなぁ。
そして、みほを見た時は…少し違った。
「やっぱり、みほちゃんなら…まぁ……うん…」
何を納得しているか知らんが、その目は諦めにも似た…そんな目。
そう、昔から姉さんは、みほには優しかった。
まほちゃんには、酷いのに…何故だろうか?
胸の大きさ…多分、関係ないと思うんだよな…みほに関しては。
「所でタカ君…あの女…………なに?」
「は?」
柚子先輩に視線を移した時…華さんと同じ様な射殺す目。
いや? 特に酷いか? ビームでも撃てるんじゃないのだろうかと言う感じですね。
そもそも、いきなり人の先輩、睨みつけるなよ。
それにあの女って…。初対面でその言い方は、どうかと思うのだけど…その言葉は、まほちゃんと同等の怒りにも似た感情を感じる。
しかし…柚子先輩も負けてねぇ…。
姉のその視線、それに無表情で応える柚子先輩…うん、怖い。
……。
怖い!!
「…さっき、玄関先で…なに? お姉ちゃんが、どうの言ってたけど…は? どういう事?」
「……」
あ…あぁ…うん。
まだ言ってくれるんだ…。
「あのニュアンスだと…え? タカ君を指して言ってた様に聞こえたんだけど…」
話の前後を知らないから、どういった事で、それを言ったのかが分からない!!
自然と柚先輩に視線を投げると…なんだ!? えっ!? すげぇ優しい笑顔になった!!??
「…私を差し置いて、どういうつもりなのかしらねぇぇぇ?」
「」
い…いかん。結構キテル…。
そういや…そうだ。
一つ思い出した。
昔…小さい頃、まほちゃんが、すでに身長が高かった俺に対して、何か悔しかったのか…私の方がお姉さんだと、言い張った時期があった。
そういや…それからか。この二人の仲が、酷くなっていったのは…。
「私の方が、お姉ちゃんらしいと思うの」
「は?」
柚子先輩!?
睨み付けられてるを気にもしないで…ボソッと呟い……というか、聞こえるように言ったよな…。
シレッとした態度で、目を伏せた…。
「…あまり、そう言ってやるなよ…。私も隆史のお姉さんの気持ちは分からないでもないぞ?」
チヨミン!?
「何となく、彼女が機嫌を損ねるのは理解するぞ? 私も弟がいるからな。他人に当たり前の様に言われるのは、あまり気分は良くないぞ?」
「……」
チヨミン!! 空気を読んだ!!
あの姉が! 黙って話を聞いてる!!
上手く仲裁する様な形だ!! 立場が似てると姉さんの気持ちを組んで、フォローしながら…。
「少し違うが…私の弟なんてな……私の事、呼び捨てで呼ぶ癖に…。隆史の事はお兄ちゃんとか、隆兄ィとか呼ぶんだぞ? …私も、お姉ちゃんとか呼ばれたい…」
「…は?」
ん? チヨミンの弟?
…。
知らない…。
「結構、悔しいんだぞ!! アレ!!」
「ちょっと待て。俺、チヨミンの弟さんと会った事、あったっけ? 記憶にないんだけど…」
「…え。…あっ!」
なんだ? あっ! って…。
「いや…本当に……あれ? 俺の事、隆兄とか…呼ぶ奴って…合宿の時の…」
「…わっ!!! 忘れろ!!! 失言だ!!!」
…いや、そう言われても。
確か、前に迷子に…「 隆史 」
……。
「…なんでしょう? まほちゃん」
回想なんてさせやしないと、まほちゃんがいつもの様に…まぁ…そろそろ慣れた。
いつでも関節をキメれる様に、俺の腕に絡みついてきた…。
「お前…安斎にも、手を出してたのか?」
「出してない!! っていうか、安斎!? まほちゃん、千代美を知って…「 名前で呼ぶ仲か? 」」
「 」
プラウダ戦での時…一緒にテントにいたよね…?
ある程度、関係性は理解してくれていたんじゃなかったの!?
痛い!! キリキリと、ジワジワと関節をキメないで!!
「…母さんに聞いていた以上に、最悪ね…」
---------
------
---
はい! では仕切り直し!!
怯え続ける、約一名を除いた、あんこうチームから…姉が来襲した時の状況を聞いた。
いやぁ…いきなり約二名様に喧嘩腰だったようで…。
沙織さんは、完全に腰が引けてしまい…ダメだ…。
まぁ…あの怪物は殺気だけで、小動物でも殺してしまいそうだしな。
はい…でも、すがりつくのはやめてください。別の殺気をいくつか感じますから…。
……。
みゃーみゃー言ってる、沙織さんを見下ろす…。
ぐ…。
昨日の夜の事を思い出してしまう…。
しかし、今はあの姉の件だ。
庭の縁側に腰を下ろして…俺にすがりつく沙織さんを笑顔で睨んでるからね!
「姉さん」
「なぁにぃ?」
笑顔で応える姉が…怖い。
この顔は、結構見慣れているので、すぐに分かる…。
キレる寸前だ…。
結構、短気だからな…コレ。
「自己紹介すら、まともにしてない様じゃないか。みほにさせないで、自分でしっかりしろよ」
「……」
うっわ…すげぇ、嫌そうな顔…。
こりゃ…この場にいる何人か、敵認定したな…。
それでも礼節は、ある程度はオカンから叩き込まれている。
…少し訂正。
あの…オカンだから、中途半端に叩きこまれている……本当にある程度だな…。
「へいへい」
だからだろうかね…。
それでも腰を上げて、立ち上がる。
はぁ…少し、アシストしてやるか…。
「コレ……俺の姉…」
手を軽く上げると、それに応対するかの様に、姉さんが着ている、短いワンピースのスカートを少しつまみ…お辞儀を……。
「 尾形 涼香! 17歳よ!! 」
佇まいは優雅に…元気に…そして乱暴に言い放った。
相変わらず、雰囲気がアンバランスだ…。
「隆史の姉が、隆史と同い年な訳が無いだろう…。算数もできんのか、この脳筋が」
まほちゃん!?
俺にツッコミすら入れさせない程の即答!?
「はっ!! 女子は、永遠に17歳なのよっ!!」
「…隆史は、20歳を超えても、自身を女子だと言い張る女が嫌いだと聞いたが?」
「私は永遠の17歳ですから、そんな妄言を吐くババァ共とは違いますぅぅ!!」
「やめんかぁ!!」
ひ…久しぶりだ…この感覚。
暫くぶりに会ったはずだよな? この二人。
それなのに昔と、やり取りが変わらない。
昔の様に、二人の間に立つと、取り敢えず…。
「はぁ…まほちゃん。昔から疑問なんだけど…」
「……」
アカン。
俺の体で見えないのに、その俺を無視して、後ろにいるであろう姉を睨んでいる。
…これだと、俺がまほちゃんに睨まれているみたいで、ちょっとヘコみますね…。
「…なんで、そこまで姉さん毛嫌いすんの? まぁ…うん。確かに常識外の人だけど…」
「タカ君、ひどい!!」
うっさい、後ろの姉。
「毛嫌い? …少し違うな。これは警戒だ。そして威嚇だ」
「威嚇って…。あの…少なくとも俺の目を見て言って…」
「まぁいい…ちょうどいい機会だ。お前は気がつかないかもしれんがな…あの女の顔はオカシイ」
「…顔って」
「ふむ、間違えたな。…頭。 いや…性根…。これも違うな。あれは腐っているだけだな」
「…コノ、ダニク……」
やめて…バシバシ俺を、殺気で板挟みにするのは…。
あからさまにワザと言っているね? まほちゃん…。
まほちゃんが、ここまで人を露骨に貶すってのは、多分あの姉だけだなぁ…。
「うむ。概ね賛同はするけど、少なくとも俺の姉ですよ?」
「……ぐっ」
「あまり、人を罵倒するまほちゃんは…見たくない」
「…………」
そうハッキリと言うと、少しバツが悪そうに目を逸らした。
小声で何か、ブツブツ言っているが、こう…拗ねた顔のまほちゃんは珍しいな。
「しかし…な、隆史」
「…なに?」
「…露骨に人の胸を罵倒してくるのもどうかと思うが…あの女。お前を見る目は…オカシイ」
「……」
「家族…姉弟を見ているといった、そんな類いの視線ではない」
…いや…それは…。
「失礼な駄肉ね…。私の慈愛に満ちた眼差しの、どこがおかしいってのよ」
「全てだ。慈愛? ふざけるな。あれは欲望の類いだ、変態め」
だから…俺の体を挟んで、喧嘩するのやめてくれ…。
収束できたかもしれないって思ったのに…。
というか、姉弟そろって変態みたいに言わないでくれ…。
「やめろって…。まったく…そもそも姉さんは、一体何しに来たんだよ…」
また喧嘩を始めそうな二人を、質問を切り出す事で誤魔化そうとする。
まぁ…疑問って言えば疑問だけど…。
彼女の場合、ただ会いに来たってのも考えられるけどな。
「隆史。分かりきった事を聞くのは質問ではないぞ? 確認と言うのだ。大方、お前に近づく女の皆殺しだろう。」
「……」
…まほちゃん。
姉さんには本当に容赦ねぇな…。
俺の注意で、遠まわしに姉を攻撃し始めたよ…。
「……」
おい、姉。否定しろよ!
何無言で、真顔になってんだっ!
「まっ!! この際、無駄肉は、どうでもいいわ!! 何しにって!?…決まってるじゃないの!!」
あ…今度は、はっきり無駄って言った…。
縁側から立ち上がり、こちらを指差してハッキリと言った。
どこかで…いや…前に聞いた言葉を。
そうだね……アンタの母親からだね…。
俺の母親でもあるけどね…。
「見に来たのよ!! タカ君の将来の嫁候補を!!」
「…なっ!?」
「私!?」
その言葉を聞いて、先程まですっごい元気良くおしゃべりしていた、まほちゃんが固まった。
目を見開いて、それこそ信じられないモノを見る目で…姉を見ている。
そして、みほは小刻みに震えだした…。
「本当の目的は、タカ君と会う…って言うよりか、みほちゃんに会いに来たのよ!!」
……。
は?
え……はぁ!?
「まさか、複数人と同居してるとは思わなかったけどねぇ…。母さんから聞いて、思ったものよ…なに、一人で面白い事してるのよっ!! ってね!!」
「…な……は? え? んじゃ…」
「母さんから全て聞いてるわ!! …その他大勢が、近づくのは面白くナイケドネ……」
そう言って、マコニャンを除く他の皆に、分かりやすい敵意を向ける姉…。
…いや、本当に分かりやすいなぁ…。
敵意を向けられていないマコニャンだけ、周りのどこか張り詰めた表情の皆が、なぜその顔をしているのか? それが良く分からないようだ…。
露骨だ…。
「おんやぁ? なに、面白い顔してるのよ、無駄肉ぅ?」
「 」
完全に予想外。
そんな驚愕の表情のまほちゃんに、心底楽しそうな笑顔で声を掛ける。
なんだろう…本当に楽しそうだ…。
今まで、この瞬間の為に黙っていた…そんな感じ。
「私が、弟を異性として見てるとでも思ったぁ? んな訳無いじゃない。今までのだって、ただの家族としてのスキンシップよ。スキンシップゥ」
…家族のスキンシップで、風呂を一緒に入らせるとか…虐待にならないか?
変な噂流れても、ただ嬉しそうにしてた、あの高校時代はなんだったんだよ!!
「何が変態よぉ…。そんな? 下卑た? 妄想をしている無駄肉の方が、よっぽどよねぇ?」
「」
うっっっわ!! すげぇ楽しそう!!
ここに来て、漸く好き勝手言えるって顔だ!!
「まぁ? 周りから…物凄く昔から、ブラコンだと言われているのは否定しないわ!! 私は極度のブラコンよっ!!」
やめて…やめてくれ…。
「お風呂ぉ? 家族で入るのが何が悪いのぉ? 触るのだって別におかしかナイワヨォ?」
その弟の前で、その発言は本気でやめて…。
「弟の体の成長を触診で確認して…何が悪いのぉ?」
なに鬼の首取って、それを天高く掲げる程の顔で、その発言はヤメロ。
「…いや、それは悪いだろ」
チヨミンが…ぼそっと突っ込んだ。
まぁすぐに姉に睨まれて、慄いてるけど…。
「昔からそう…。弟に、アンタみたいな毒虫がつかない様に…それはそれは…大切に……それこそ全身全霊で見守ってたのぉ」
「毒むっ!?」
体を前に倒し…なんでか上半身をブラブラと揺らし始めた姉さん。
顔だけは前を向き…その目は完全に、まほちゃんをロックオンしている。
「そうよぉ? なんでか、母さんもあのババァも、アンタを推しているからねぇ…それが酷く気に入らなくてねぇ? だったら私は、みほちゃん側につこうと…思ってたのよぉ」
「なんだと…」
「みほちゃんなら、良いかなぁ…って、昔から思ってたのぉ…。でもアンタはダメェ…私の弟は、上げなぁぁい…」
「……このっ…」
アカン。
これはまずい。
楽しそうに喋っている内に、テンションがガンガン上がったのだろうな…。
何度か見た…。これ…格闘技の試合の時にしていた構えだ…。
ノーガード戦法とでもいうのか…自信満々に突っ込んでくる相手を、力尽くで叩きのめすの好きだからなぁ…。
カウンターとか、絞め技とか…そんなのばっかり得意だもんな…。
ただの力だけ圧倒できるのに、敢えてそんな戦法ばかり選ぶ、性格の悪さ…。
それが今出ている。…それがその構えに現れている。
つまり…本気の臨戦態勢。
ちょっと…本気で止めるか。
「あっ…あのっ! 涼香さん!!」
今まで黙っていたみほが、叫ぶように姉を呼んだ。
立ち上がり、ゆっくりだけど、目がギラギラ鈍く光っている姉に近づいて行く。
いやぁ…怖いのだろうなぁ…足……震えてる。
「なに? みほちゃん」
「!?」
……。
みほに対して体を向けると…ケロッとその態勢を解除した。
……。
いや…なんで?
先程も、やっぱり、みほならどうの言っていたしな。
昔から姉さん、みほを猫可愛がりする程、気に入っているからな。
理由を一度尋ねてみたが、何となく? としか、教えてくれなかった。
…本能のみで生きている感じがする姉さんだから、変に納得したけど…相変わらず露骨だ。
「あの…本気で……喧嘩は…その」
「あぁ…」
流石に察したのだろう。
漸く仲直り…というか、話がまた出来始めた姉との喧嘩だ。
止めるに決まってる。
「本気でなんてしないわよ? そもそも暴力沙汰にしら、タカ君マジギレしそうだし…即座に嫌われるだろうし…それは嫌だからね」
「…そ…そうですよ」
「なんだかんだ、他の子も、タカ君の性格を良く分かっているのか…。特に黒髪の無駄肉と馬駄肉の子。遠慮無しに私に敵意を向けてくるからね」
「え!?」
「暴力なんて振るってくるはずがないだろうと、確信を得ての犯行でしょうよ。チッ。みほちゃん以外は認めませーん」
また…ギラギラと目を鈍く輝かせ…後ろに控えている皆を睨みつけた。
そして逆に輝く気配も見せない、どす黒い目で返す約二名…。
華さんは兎も角、なんで柚子先輩まで…。
…うん。華さんもなんかオカシイよな。
「でも何でかしらねぇ? みほちゃんも、私の許容範囲を超えた胸囲なのにねっ!!」
「ちょっ!? 涼香さん!?」
おい、姉。
「ちょぅ!? やっ!!」
グリンと上半身を回転させ、瞬きの一瞬で場面が変わるかの如く…。
「どこっ!?」
胸を両手で鷲掴みにした。
はい、みほの。
「…アンタの家族は、どうかしてるわよ」
エリカさん!!
「……アンタ含めてね」
エリリン!!??
「なぁぁぁ!!!???」
「ふぇ!?」
…胸を鷲掴みした直後…奇声を発した姉さん。
そのつかんでいた手をそのままに、何度か後ずさりをすると…その場に崩れ落ちた。
ドサッと…。
人の彼女の胸掴んでおいて、奇声を発するな、姉。
「な……せ……え? は……?」
「なんですか!? というか、何するんですか!! いきなり!!」
「は…は…………はち……」
信じられない…絶望…そんな表情。
…というか、その顔は今まで見たことないぞ…。
みほの胸掴んでおいて、何を言って……ん? 絶望?
「はちじゅう、ごせんちぃぃ!? 成長!? 成長期だからぁぁ!?」
「なっ!?」
あ…みほが、こっち見た。
いやぁ…顔真っ赤だけど…そうか。みほは、85cmか。よしよし。
「おい、隆史」
あ、はい、スミマセンまほさん。
「なっ!? えっ!? 本当ですか!?」
何故か、優花里が食いついた…。
正座から勢いよく立ち上がり…みほにズンズンと近づいていく。
「優花里さん!?」
「西住殿!! ちょっと動かない……で……あ…」
「ヤゴ…ヤゴ……」
85をヤゴと呼ぶな、姉。
「ほ…本当だ…。……前回は82cmでしたのに…たった数週間で…」
…ほう?
「優花里さんもやめてください!!!」
なる程!! そうか!! 優花里は見ただけで、体の採寸を測れる素晴らしいスキルをお持ちでしたね!!
教えてくれって言ったら、すげぇ良い笑顔で断られたのを、今でも覚えてます!!
あ…みぽりんが、胸を両腕で隠してしまった。
ちぃぃ!! 確認が取れない!!
「…おい、隆史。この状況で、すごいなお前」
…ハイ。
チヨミンさんもできるんですね。ゴミを見る目…。
「……」
無意識に目を逸らした先…はい、真正面に目を見開いた、エリたんがオリマスネェ…。
「…みほちゃんが、暗黒面に……はっ!!! まさかっ!!!」
「えっ……えっ!? なっ!? ひゃぁぁ!!」
……。
…………。
はい。
ゴキッて良い音が、首元から聞こえました。
折れてないよな?
一瞬、目の前が真っ白に光ったけど…。
「…みほ…お前……」
「……うっわ」
はい。
両頭を掴んでいる、黒森峰のお二人から、ため息にも似た声が聞こえました。
何が起こっているのだろう…そして、何をされたんだろう。
「なんで、スカート捲ったんですかぁ!? やめてください!!」
…。
何してんだ!!!
「あらぁ……みほさん。大胆…」
「……」
「西住殿ぉ…」
「…みぽりんが、一人で大人の階段を駆け上がって行くよぉ…」
「みなさんも、何言ってるんですかぁ!!」
「お…大人…ショー……」
「い…言わっ!! 怒りますよ!!??」
なにやってんの、アレ。
好き勝手やりすぎだ。
いい加減にしないと…力で勝てなくても、そろそろ本気で、ありがとう!!!
……。
はい、間違えました。
分かっています。分かっていますから、そのままアイアンクローはやめてください、お二方。
いくら俺でも、普通に痛いです。
「……なる程。そういう事か…」
「何を納得してるんですか!!」
頭を戻したら、ゆらぁって、立ち上がった姉がいた…。
…スカートはしっかりと掴んでますけどね。
はい、みぽりん。スカート真っ赤になって抑えていますね。
はい、みぽりん。睨まないでください、見てません。
…。
本当に…なんだろう…ふと思った。
前と違い、みほと付き合いだしたら、みほに対しての遠慮が、結構薄らいだなぁ。
前ならここまで、欲望がダダ漏れになる事もなかったのに…。
いやぁ…なんだろうね?
「おい、貴様」
「なによ、無駄肉」
はい、貴様発言また来ましたね…まぁ妹さんに対してのアレじゃあ、流石に怒るよね。
さて、もう一度止めますか…体を張って…。
「人の妹に何をする…。そもそも、隆史との事もそうだ」
「…は? 何が? 姉が弟の心配しちゃダメだっての? いい加減にしないと…本気で…」
「本気で…なんだ?」
「 ツ ブ ス ワ ヨ ?」
《 !? 》
一気に本気の殺意とやらが、この家を包んだ。
…何もしてないのに、庭木から…小鳥が飛び去ったぞ…。
カラスすら逃げ出したぞ!? だからいい加減、みほのスカートから手を離せよ!!
…そりゃ姉さんが、暴力を働くとは思えないけど…その言葉には確信めいた何かを感じる。
が…それすら、涼しい顔で受け流すまほちゃん。
「はっ!! やってみろ。全力で、隆史に隠れてやる」
まほちゃん!?
「貴様程ではないにせよ、それなりに身体能力には自信がある。…逃げ一辺倒ならどうとでもできよう。隆史こみで」
あの…。
「隆シールドだ!」
「……」
うん…やっぱり、ドヤ顔のまほちゃんはロクな事、言わねぇ…。
言い放ったのは良いのだろうが…即座に耳が赤くなったね…。
変に涙目に俺を見上げてきたけど…なに?
「…そ…その。隆史の様に、洒落を効かせて見たのだが…どうだろう?」
あの…モジモジして赤面するくらいなら、言わないで欲しかった…。
「ま…まぁいい。でだ、貴様も弟にかまけてないで…自分の事をだな……」
あ、誤魔化した。
「は? あぁ…そういう事…」
「ん? なんだ?」
一瞬…にたぁ…と微笑んだ…。
微笑んだとは、言わないかも知れないけどね…。
「いるわよ? 私」
「…は?」
「いや、だから。私、彼氏いるから」
一瞬、何を言ってるか、ワカラナカッタ。
うん…意識…飛んだ。
「「 」」
はい、まほちゃんとみほが、文字通り絶句している…。
うん、ここで俺まであの状態じゃ、話が進まん。
がんばった。おれ、がんばってゆ。
…る。
「…ごめん、姉さん」
「なに? タカ君」
「……もう一度言って」
「あんらぁ? 寂しい? 寂しい!!??」
何を…嬉しそうに…。
「…いや……マジで……ね? 誘拐? 略取? 空想上の人物デスカ?」
「失礼ね。いくらなんでも、それは流石に傷つくわよ!?」
「……」
「マジな目で、哀れみの表情は、やめなさい…。普通に堪えるから…」
いや。姉さん、性格は兎も角…確かに、見てくれは良い…。
良いのだけど…これを許容できる人物って…どんだけ寛容なんだろう…。
そもそも、姉さんが許す相手ってのも……。
「「 」」
うん…更には、嘘が俺とは違って、本当に死ぬ程嫌いな彼女だ。
それを分かっている、まほちゃんとみほ。
…だからの硬直…だからの絶句…。
「まず…どこで知り合ったの…」
「合コン」
……。
「う…嘘だろ? 姉さん、そういった事する奴ら自体、毛嫌いしてたじゃないか…」
「そうね。今でも殺したい程嫌いね」
「…あの…は?」
「よくあるアレよ。私もそうだったけど、付き合いとか、人数合わせの為だけ…更には引き立て役で、連行されてきたって人だったわね! 物静かな男性よ!!」
なる程…。
あるけど…そういった人は、許容範囲なのか…。
まぁその場では、ただの被害者だしな…。
そこまで話したら…目の色が変わり…ノロケを連発する様になった…。
やれ、馴れ初めはどうの…だの…普段はどうの……だの…。
はい…そうですか。見てくれは優男ですか…はい。親父と一緒で、草食系なんですね…。
はい…そうですか。社会人の方ですか…はい。サラリーマンですね…営業? はぁ…。
はい…そうですか。次男…は? はぁ!? 主夫!!??
「婿養子もOKらしいから、タカ君は将来の事を気にしなくても良いわよね!? 好きにしなさい、長男!!」
「ちょっと待て!! そこまで話……はぁ!? 姉さん、まだ学生だろうが!!」
「は? 私と付き合うなら、死んだとしても、地獄まで一緒に付いて来これなきゃ、話になんないわよ。将来設計まで提示して、始めてスタートなのよ?」
「重っ!! いや、わかるけど!!」
付いて行く…ではなく、付いて来い。
姉らしいっちゃ、らしいけど…。
目がハートの姉なんて…人生で拝めるとは思わなかった…。
いや…本当にいるのか、そんな人…。
「あ、今何時?」
「え…?」
話している途中、思い出したかのように尋ねられた。
時間を聞かれ、反射的に携帯を取り出す。
その様子を、何か懐かしい目で見られている。
「…相変わらず、腕時計とか着けないのねぇ」
……。
姉さんの相手…サラリーマン……営業。それでまた、少し思い出してまっただろうが。
…その内、そうも言ってられなくなるだろうけどな。嫌でも就職活動とやらが始まるだろうし。
言ったって分からないだろうし、そういう主義だと言い張っている。
腕時計。
…昔を思い出すから、着けないようにしてんだよ。
時間に縛られた糞みたいな日々を。
…不思議と腕時計以外は、平気なんだけどな。
「今…11時だけど…」
「あ…まずい。そろそろ行かないと」
「行く?」
帰るの!? 帰ってくれるんですか!?
当初、絶対に泊まってくとか言い出すと思ってた!!
「えぇ、今回は本当に、みほちゃんの顔を見るのが第一目的だったから。次は第二目的」
「第二目的?」
「そうそう。彼氏のご両親に会ってくるの」
「 」
え…はっ!?
すげぇ軽く言いやがった!!
「ちょっと待て。親父と母さん、それ知ってるのか!? そこまで話が行ってるの知ってるの!?」
「知ってるわね。なんか手を叩いて喜んでたわ。父さん、涙目になって喜んでた」
……。
…………まぁ……そりゃ…そうだろうけど…。
知らなかったの…俺だけ……。
「母さんから、逃がすなとかも言われたし…いいんじゃない?」
…なんていっていいやら…。
「はぁー!! タカ君の困った顔も堪能できたし! それなりに楽しかったから、まぁ来てよかったわ!!」
あ…締めにかかった。
本気で行くの? 架空の人ではないの?
マジで亜美姉ちゃんの二の舞になるであろうと、確信してたのに!?
よりにもよって、この姉が!? はぁ!!??
「んじゃ、そろそろ行くわ。みほちゃん」
「 」
あ…まだ目が死んでる…。
「…お姉さん…傷つくわぁ」
「ぇあ!? あ、はい!!??」
「はいはい。んじゃ最後に一つ、警告…というか、忠告」
「え?」
みほからの質問すら挟ませない…いつもの様に、強引に場の流れを力尽くで引っ張る姉。
…忠告? 警告?
「実は私。タカ君の今までの人間関係…然り、他の学校の娘の事も私は知ってるの」
「はい!?」
「母さんから聞いた事もあるし…実際に見に行ったしね。……タカ君にとって、益虫か毒虫かの判断を付ける為にねぇ?」
「どちらにしろ、虫なんですね…」
というか、何してんだ!!
「みほちゃんは、タカ君と相性は悪くない。悪くないけど、それ以上に相性が良い子が周りに溢れているの」
「……え」
一瞬…まほちゃんと……? え? なんで、エリカを睨んだ?
俺には分かった…。
本人達は気がつかない様だったけど、本気で目に力が入っていた。
「現状に胡座かいて、安心してると……すぐに取られるわよ?」
「……」
ここで、全員の前で堂々とそんな事を言い始めた。
そういった事は、隠れて話す事じゃないのだろうか?
うっ!?
なに!?
周りを見渡すと、全員が全員…真顔になって姉さんを見つめている。
だから、なんで柚子先輩まで?
「他の子からすれば、面白くないでしょ? 何よりみほちゃんに、タカ君を取られるのが、一番嫌でしょうね?」
「……」
「だから諦めない。だからのこの現状…だからのこの関係」
「あの…姉さん?」
「タカ君は黙ってなさい。これは女の会話よ?」
「じゃあ…俺のいない所でやってくれ」
「それじゃあ、意味ないのよ」
「…どうしろと」
「黙って聞いてなさい」
縁側から、いつの間にか靴を履き…庭先に下りた。
というか、いつ取ってきた? 玄関になかったか? ソレ。
「みほちゃん、はっきり言うわね?」
「…な…なんでしょう?」
「 貴女は、ただ運が良かっただけ 」
「たまたまね。本当にたまたま。タカ君が大洗に引っ越した時から…上手く歯車が噛み合っただけ。言い切れる。だからさっきの言葉が言えたの」
「涼香さん…」
「状況からすると、追い詰められたタカ君が、誰か一人を決めるしかなかった様にも感じるしねぇ」
「……」
「その時に一番だったのは、みほちゃんってのは間違いない。けどねぇ…今のみほちゃんじゃねぇ…」
「ぇ…」
「なんだかんだ…タカ君は、芯がしっかりとしている子が好きよ? みほちゃんがいるのに、周りにはそれすら気にしない子が溢れている」
「……」
「だから、鍛えなさいな。主に内面を。心を。精神を。じゃなきゃ……今のままだと、みほちゃん。盗られるだけでは済まない。」
「…はい?」
「タカ君が「本気で嫌いな女」に、成り下がるわよ?」
「!!!」
「私は、みほちゃんの味方!!! だからの警告…そして忠告!! 精進なさい!! 文字通り!!」
腰に手を掛け、息を吸った。
エールを贈る様に…そして大声で。
『 醜い嫉妬は、気にするな!! 』
『 むしろそれをも、糧としろ!! 』
『 怨嗟の声すら、血肉に変えろ!! 』
怨嗟って…。
…仁王立ちになって、胸…らしきものを張った。
口を挟ませない…数年に一度あるか、ないかのマジ口調姉だった。
…まほちゃんすら、今までの言葉を、黙って聞いていた。
言ってる事は、脳筋発言っぽいのだけど…一言一言で…何故だろうか?
みほもみほで、昔から姉さんには素直に従っていた。
寧ろ、どこか慕っていた。
だからだろうか?
本気の姉の言葉だと思ったのだろう。
…みほの顔つきが変わった。
狼狽していただけの…そんな顔から、一瞬で…。
「恋愛は正直、私には無縁だと思ってたけどね!! まぁ縁があったし!! タカ君の事なら、なんでも…それこそ、いろんなサイズまでわかるし!! 」
ちょっと待て。今なんて言った。
そして、どこを見てる。
「私はね…本気で、みほちゃんの事は気に入ってるの…。あそこの無肉達なんかに、渡したくないのぉぉ…っ!!」
「…はっ。無肉は、貴様だろう」
「絶壁って、お言葉をご存知ないのでしょうか?」
「あれは、ただの醜悪な嫉妬よね? 五十鈴さん」
「そうですねぇ。僻みにしか聞こえませんよねぇ?」
「…そうだ。アレは昔からそうなんだ」
「お可哀想に……」
「哀れですね」
……。
一部3人が、かなり仲良くなってますね…。
いや…哀れって…。
「そんな訳だから!! 暴力沙汰な事なら大歓迎!! なんでも協力するからね!! いつでも何でも、お義姉さんに聞いてね!!」
「はっ!! はい!!!」
…姉があの三人の事を、見もしねえ…。
みほが、変な方向に流れている気がする!! なんで手を取り合ってるの!?
暴力沙汰発言も、スルーした!!
「じゃぁタカ君!! 私は、もう行くわね!!!」
「ぇあ!?」
グルッと、腕を回し…首を軸に回りながら視界から消えた。
言った瞬間…俺の両肩に両足乗せて…って、いつの間に上に上がった!?
いきなり掛かる、体重に足が少しよろめく。
両足で踏ん張る…要は、姉が飛び上がり、俺の上に乗った…文字通り…仁王立ちで…。
「…こんな事で、体のバランス崩すなんて…。やっぱりまだ甘いわねぇ!!」
嬉しそうに…アンタ、今スカートだろうが!!
某国雑技団みたいな真似、即座に対応できるはずがないだろうが!!
「じゃーーね!!! 私は、私のダーリンに会いに行くから!! タカ君もたまには、里帰りしなさいね!! 私が寂しいから!!!」
ぐっと、踏ん張る様に、少し前かがみになっている…であろう、姉。
おい…まさか…。
「ぐっ!」
そのまま、俺を足場に、人様の家の天井上。
要は、瓦の足場に屋根の上に飛び乗った…。
まさに軽業師…とでも言うのか、身軽に柔く…。
猫か、アンタは。
というか、アンタ、すかーと!!
「最後に…五十鈴 華…小山 柚子……顔と氣…覚えとくわ」
…胸じゃないのか…。
「じゃぁーねーー!!」
……。
…………。
更に人様の家伝いに…文字通り、飛んで…消えていった…。
他の散々、殺気を振りまいていた人々には、なんも挨拶もしないで…。
その姿を呆然と見つめる…。
……あれが…姉?
「快刀乱麻とは良く言ったものですが…嵐の様な人ですね…隆史殿のお姉さんは…」
呆然と呟く優花里の声が、虚しい…。
「みほ…塩はないか? 塩」
「あぁ、そうです。荒塩がよろしいかと」
「食塩では、効果なさそだよねぇ」
「……」
何とも言えない、みほの顔が印象的だ…。
「ふむ…では、今度はこちらの番だな…。ではエリカ」
さっさと忘れたい。
二度と会いたくもない。
そんなまほちゃんが、即座に切り替えた。
呼ばれた、エリカは…あれ? 微動だにしない…。
静岡で、散々慌てていたのに…静かに向きなおした。
「安斎もそうだが…携帯での会話の続きを…しようじゃないか…」
「……」
あ…あれ?
エリカが、本当に……それはもう…普通にまほちゃんと向き合っている。
ふ…雰囲気が…なんか、違う…。
「その前に隊長」
「なんだ?」
「流石に暑くなってきたので…上着脱いでいいですか?」
!!??
「それは、別にかまわないが…何故、そんな事の確認……をっ……!?」
まほちゃんが、言い終わる前に…買ってきた上着を脱ぎだした。
スルッと…何も躊躇しないで…。
《 !!! 》
あの…その服…見られるの嫌がってませんでした……か…?
パーカーを脱ぎ、腕に掛け…その姿を顕にする…。
そう…静岡で、ほぼネタ目的と、いつものノリとやらで購入した服…。
「…そうそう。隆史と、何をしているか…でしたか?」
「…!」
「隆史…だと?」
堂々と……その視線は、その少し隣にいた…みほをも捉えていた…。
後、呼び方にも息を飲んだ気がした…。
エリカが、俺の呼び方を好きに呼ぶといった、次の時点で変わっていた。
アンタ。もしくは、隆史と呼び捨てになっていた。
…まぁ、たまにカスか、クズとか言われますけど…。
「何をしていたか…そうですね…。簡単に言いますと…」
「……」
…睨むのではなく…いつもの様な、キツイ目も無く…。
それこそ、まほちゃんに対して、普通の顔…いや。
少し…ほんの少し、微笑みながら…それこそ嬉しそうに…言い放った。
「 デートです 」
▼▲▼▼▲▼▲▼▼▲
暗い…事務的な…病院の様な廊下。
壁、地面、天井。全てが白い色で統一されているというのに、どこか黒々としたイメージを強制的に感じさせる。
廊下の先…窓から射す光すら、青白く反射させて、逆に視界に映る全てがコントラストと一緒に、真っ暗い部分を強調させている。
コツン、コツンと…足音しか響かない。
…。
これが、隆史君のお願い。
こんな事が?
大丈夫なのだろうか?
まほに、全てがバレ…というか、白状させられた翌日…。
私もほぼ連行気味に大洗にへとやってきた。
まほに聞いたのだろう…。その日の内に彼は私に会いに来た。
また、ホテルの一室へ。
水着撮影とは違い、気安くも…日常的な何かもない。
ただ真剣な顔で、彼はやってきた。
…そして、そのお願いを私は…聞いてしまった。
二つ返事で…。
本当は断るべきだったのかもしれない。
いや、断るべきだった。
後悔はしても、一度返事をしてしまった手前…約束を反故にする訳にもいかず…。
何度か、やめる気はないかと聞いては見たが…軽く…本当に軽く拒否をされ…それが逆に聞く耳すら持たない、といった拒絶にしか感じられなかった。
私に頼むという形ではあった為、隆史君自身、それでも何度か会話自体はしてくれた。
…が、やはり平行線。
放っておけば、千代へとこのお願いとやらを、頼みに行ってしまうと私は考えた。
…あまり、それはよろしくない。
仕方なし…私が同行するという条件付きで、結局は許してしまった。
「…しほさん」
「はい」
「……まほちゃん、大丈夫なんですか?」
「……」
「姉さんと対峙した後…ずっと家へ入り浸ってますけど…」
「……むぅ…」
「俺としては、一向に構いませんけど…黒森峰…大丈夫なんでしょうか? 隊長でしょう?」
「まぁ…後は卒業を待つのみですが…。ご迷惑をかけます…」
「…エリカもエリカで…怖いし…みほと睨み合う事も、最近増えたし…どうしちゃったんだろう…二人共…」
それは多分、自業自得でしょうよ。
「まぁ、エキシビションが終われば、流石に帰ると思いますが…あぁ、後。まほの着替えを持ってきたので、後で持って帰ってください」
「……変な所は、お母さんしてますね…」
「……」
怖い。
…少し、笑いながら話している隆史君。
いつもの通り…何も変わらない。
この場所、この先、この後の事。
全てがある意味で、彼のトラウマすら刺激すると思うのに…いつもの通りなのが…怖い。
たまに思います。
彼は普通ではないのだろうか? と…。
ただの…子供に。
精神状態が分からない。
今も彼のお姉さんが、家に来た時の事を…苦笑しながら話している。
それも…笑顔で。
「ん? ここですか?」
もう一人の同行者。
先行する係の方が、一室で脚を止めた。
また…事務的な、真っ白い扉。
「はぁ…お願いしておいてなんですけど…さっさと終わらせましょうか?」
「この後も、予定があるのでしたね?」
「はい。学校へ戻って…はぁ……例のエキシビションの会議です。俺は遅れて参加となりますけどね」
「…そうですか」
彼に合わせ…静かに、できるだけ普通に答える。
嫌そうに…この先の事を話す彼を見ると…一瞬やせ我慢でもしているのではないか? と、思いました。
―が。
係の方が、ドアノブを手に取ると…一瞬見せた顔。
子供の頃から見ている、隆史君。
初めてでした。彼に対して、ここまで思ったのは。
酷く…醜悪だと感じた笑みは…。
…。
案内された部屋。
…薄暗く…机と椅子だけがある小部屋。
違いますね。
中心には、厚い…プラスチックの壁。
透明な…壁。
『 ご協力感謝します 』
『 あれから、一言も喋らなく… 』
係の者から、社交辞令とも…感謝とも言える言葉が聞こえた。
…そう。
ただ一言、彼の名前を呼んだだけだった。
それ以降…無表情で、黙秘を貫いているだけだった。
…協力要請。
彼が発した人物なら…と。
全て断りましたけどね。
門前払いでしたのに…。
しかし…その彼からは、その協力要請と利害が一致する。
…そう、してしまうお願いを聞いてしまった。
透明なプラスチックの壁の向こう。
力なく…項垂れている人物。
同じ空間へと入ってきた…そんな私達を見もしない。
ただ…目の前の机を眺めて……い…。
「 ぁ 」
小さな呻き。
「……」
「 ぁ …ひ……はっ……」
「……」
「 ひっ……ぅ…ふっふふううううあ ぁ っ …ぁ っ !! 」
「……」
違う。笑っている。
嗚咽の様に笑っている。
肩を震わせ…目を…。
「はっ…ひゃやっ!! はぁあぁああああぁぁ!!!! げっほっ!! ぐっ!!」
「……」
「ふぅ…ひゅはぁ……」
「……」
「あ゛ーーーーー…久しぶりに声出したぁぁ……」
「……」
「カッ! かふぅ…相も変わらずぅぅ……あ? 遠路遥々、首輪つけてお散歩ですかぁぁ? ぇえ?」
「…よぉ、元気?」
相手…挑発でしょうか? 散歩?
今一意味が分かりませんが、彼はそんな言葉を無視し…くつろぐ様に、向かいに用意されていた、パイプ椅子に腰を下ろしましたね。
「んな所に来てる暇あんならぁぁさぁぁ!? バター犬なら、バター犬らしくお仕事に励んでればァァァ!?」
「それはそれで、ちゃんと励んでるから心配される事ぁねぇな」
「……」
「……」
「そもそもさぁ…」
「あぁ? なんですぅぅ?」
「学ラン赤Tとしか、呼んでなかったから忘れちまった」
「は?」
「 お前の名前、なんだっけ? 」
「……」
「まぁ、んな事はどうでも良いから、質問に答えてくれればいいや。えっと…あぁそうだ。名前、知らねぇんだった」
透明な壁が揺れた。
…男が動いた。
顔を…手を……ベッタリと…打ち付ける様に付けていた。
向かい側の警官が、その男を止めに掛かるが、それを手で隆史君が静止た。
やめてくれと。
響く声。
たった一言、押し殺した声。
恨みがましく、妬むような目。
こんな男に何を聞くつもりなのだろうか?
事件の事、大体の事は自白は取れなくとも、判明しているというのに…。
この会話自体は、数分で終わった。
何の確認が取れたのか、分からないが…隆史君は満足気だった。
…あの会話から、何が分かり、何を知ったのだろう?
「 おがぁぁたぁぁあああ!! たかぁしぃぃぃ!!!! 」
「…はいよ」
私には…分からない。
閲覧ありがとうございました