転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第13話 タ ス ケ テ

 悪臭に我慢。

 

 不快な声に我慢。

 

 濃すぎる香水の臭気に、鼻の息を止めて我慢はしている。

 …しているが、口呼吸でも、口を通して鼻の奥にその匂いが当たる。

 微かに感じるだけでも、凄まじく不快に感じる。

 

 この香水も多分、お高いのでしょうがね? 先程も思ったが、つけ過ぎだ。

 

 それに終始笑顔なこの男。

 一人でずっと喋り続けている。

 

 お客様と、柚子先輩に言われ…応接室に来たらコレだ…。

 先程までの地獄の様なゲームも終わり、安堵していたら、強制的に昔を思い出せる輩のご登場。

 応接室の合皮製のやっすいソファーに腰掛け…脚を組んで、偉そうに何かを口から吐いている。

 

 あぁ…言葉ですね。

 

 日本語ですねぇ、すごいですねぇ!!

 

 どうでも良い事をベラベラと…。

 

 …長いんだよ、自己紹介が。

 

 名前は、西住 歩 22歳。

 

 いくつかある、西住流分家で、その中の一つ。

 戦車道とは別に始めた商いで成功……ホテル経営? 分かった、分かった。

 はいはい、スゴイネェ。…年収はどうでもいいから、次に行ってくれ、七光り。

 …いやぁ…こりゃ、本気で何しに来たんだろう…この男。

 会話の端々で、俺の事を調べてきている事が伺えた。

 家柄とも、言ったなぁ…。

 島田家の名前は出さなかったが、それらしい事を漏らした。

 

 いやぁ…しっかし。

 本当に、いつまでこいつは、自分の事を喋っているんだ?

 

 人に対して、ここまでの不快感は、久しぶりだ。

 いや? 初対面では初めてじゃないだろうか?

 

 着ているスーツや、不快な香水もそうだが…こう言った人種と話した事が、まったく無かったわけじゃあない。

 逆に、ここまで分かりやすい自己顕示欲の塊の様な人、…慣れていたのになぁ。

 

 まぁ何となく、その不快感の正体は分かるけどな。

 

 もう少しさ…隠せよ。

 こう言った手合いは、誰に対してもこんな感じなんだろうが…露骨すぎるなぁ…。

 高校生相手にだろうが、なんだろうが…少なくとも俺とアンタは初対面だろうが。

 

 垣間見える、俺個人を明らかに見下した態度。

 

 俺とお前は違う。格が違う。

 身なりも違うし、家柄も違う。

 だから何でしょうか? って言ってやりたが、俺自身、今は相槌の返答をするだけのロボットと化している。

 

 接待対応…ひっさしぶりにやるなぁ…。

 

 ソウナンデスカ? スゴイデスネェ? ハァイ。

 

 …反吐が出そうだけど、この手の輩の意味のない会話は、適当に相手するのが一番だ。

 こいつの目的なんて知らないけど、楽しそうに自分の個人情報を教えてくれているんだ。

 役に立ちそうな情報だけを拾って、本題が始まるまでは、我慢しよう…はぁ……。

 

「…」

 

「ん? 聞いていたかい?」

 

 聞いてねぇよ。

 聞いてなかった為に誤魔化そう。

 機嫌を損ねると面倒臭そうだ。

 そもそも、聞いていたか? と、お問い合わせを頂きましたが、そんな言葉が出るって事は、やっぱりコレ。

 誰に対しても、こんな感じなのだろうな。

 

「…失礼、考え込んでいました」

 

「んんっ! そうだろうねぇ!」

 

 だから、何を楽しそうに…。

 さて…この男は一体何を言った?

 

「確認の為に、もう一度よろしいですか?」

 

 基本的に喋るのが好きなのだろう。

 嬉しそうに、同じ事を繰り返してくれた。

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 は?

 

 

 

 

「そうそう、転校だよ、転校。栄転…と、言っても差し支えない」

 

 

 

 

 ナニヲ、イッテイルンダ?

 

 

「は…はは。なんの冗談ですか? 転校? 俺が!?」

 

 

 …そして聞いた内容だけど……何を言ってるんだろう、この男は。

 というか、その上…と、やらは。

 

 この男、どうやら文部省にもそれなりに顔が効くらしい。自称だけどな。

 たかが22歳程度の若造が、何を言っているんだろう。

 多分…知り合いが居るだけだろうな。

 

 こいつから感じるのは、自身が上に行きたい。

 自身を売り込みたい…そんな感情。

 

 そこはまぁ、否定はしない。別にそれ自身、悪い事ではないからな。

 

 言い換えれば、向上心。

 

 俺には無い物だね。

 

 だけどな…

 

 俺を利用しようとしているのが見え見えだ。

 

 

 で…だ。流石に分家とはいえ、西住流。

 戦車道の未来の為とか、曰わっているが…我欲の為だろうな。

 

 

 全国戦車道大会…大洗学園の優勝。

 

 無名校、素人集団…。

 圧倒的な戦力不足……。

 

 誰もがこの大会で、ただ消えていくだけだと、そう思っていたであろう、我が校。

 

 

 それが、まさかの優勝。

 

 まだ言ってんのか? とも思ったが、簡単に捨てておけない組織というのもあるのだろう。

 …というか、アンタらの西住流。その家元の家系が加担していると思うのが普通だろう?

 

「西住 みほ」では、無く……

 

「……」

 

 ペラペラと早口で、うまくまとまらない。

 

 ……整理しよう。

 

 つまり…

 

「他の学校に無く…俺達の学校にはあるモノ…。戦車道に関わる、男子生徒。それを他校でも取り入れたい…と?」

 

「そうそう! 試験的にだけどね!」

 

「いや…でも、数は少ないですが、その他校にもいますよね?」

 

「そうだね! でもね!? だからこそだよ!! 大洗なんて、無名校が、優勝した…いや、させた。と、いう実績があるだろう!?」

 

「実績って…俺には関係ないでしょう? ただの裏方ですよ? 実際に頑張ったのは彼女達だ」

 

「あるよ! 実際問題、君は非常に注目されているからね!! それは「君」自身にもプラスになる。将来、絶対に有利に働く武器にもなる!」

 

「……」

 

「うまくすれば、それが色んなモノに繋がっていく。まだ君は高校2年生…時間は、まだあるんだよ?」

 

 

 無えよ。

 

 

 来年受けるかどうか決めてないけど…普通なら受験の為に、その準備に入るんだろうが。

 その受験生相手に、何言ってるんだ、コイツ。

 戦車道会の為…と、チョコチョコ言ってはいるが…。

 

 …本当に何言ってんだ?

 

「それに…実は話を、少しずつだけどね? 進めておいてあげたよ?」

 

「…は?」

 

「だぁてぇ!! 断る理由なんてないだろう!? 君に取っても、メリットしかないしね!!」

 

「……はぁ!!??」

 

 そんな胡散臭い話なんて、デメリットしかないだろうが!

 

「来年度の試合で、優勝までいかなくとも…それなりに活躍さえさせれば、それで良いんだから!! いや! 試合に出場さえすれば、周りが勝手に称賛してくれるからさ!!」

 

「何言ってんですか、貴方!!」

 

「そうすれば、戦車道に関わる大学になら、どこにでも進めるだろうよ! 文部省からの推薦状まで付くんだし、就職先ですら安泰になるよ!?」

 

「なる訳ないでしょう…ただの高校生相手に。…それに俺、本人の意思は、無視して…「 何を言っているんだい!! 」」

 

「知り合いに官僚もいるのだけど、君をどうもエラく気に入っていてねぇ。その来年度に付くであろう「実績」さえ有れば、後は…どうとでもしてくれるそうだよ! 良かったね!!」

 

 よくねぇよ。

 俺の意見すら、無視すんじゃねぇよ。

 

 ぐっ…ダメだ…コイツ。

 

 完全に喋りながら、それが一番良いだろう? と、こちらの言う事を全く聞いてねぇ。

 良い提案!?  ふざけるな。

 こいつ、自分が良いと思う事が、他人にも良い事だと思ってでもいるのか!?

 

 その歳で!?

 

 しかも官僚!?

 そこまで、話が本当に流れているとしたら、本気か? この馬鹿。

 

 …おかしい。

 

 色々とおかしい。

 

 頭の悪い高校生相手に、豪華なエサをぶら下げて、それに食いつくのを、ただ楽しそうに眺めている。

 しかも、絶対に食いつくと思い込み、横着してさっさと次の工程に移っている…。

 

 なんだコイツ…。

 なまじ金と…力。…も、それなりにあるのだろう。

 …余計に、タチが悪い。

 

「だから…近い内に辞令が下ると思うよ!? 君、もはや一員の様なモノなんだろう!?」

 

「辞令!? なんの!? どこから!!?? 一員!?」

 

 もう、言っている事が滅茶苦茶だ。

 ただの高校生のガキに、何言ってんだよ。

 

「 日本戦車道連盟 」

 

「」

 

 あ…の、ハゲ……。

 

「だからもういいよね!? 話をこのまま進めちゃっても!」

 

 な…んなんだ…一体。

 こんな本人の意思を無視して、こんなやり方!

 

 

「冗談じゃない! 話にすらならない!! お断りしますよ! ふざけるな!!」

 

「え? 何が?」

 

「何を強引に…。法律に触れるんじゃないのか!? 未成年に対して…「 でも 」」

 

 あ?

 

 なんだ、この野郎…。

 ニヤニヤと、こちらの神経を逆撫でするかの様な…。

 そんな、いやらしい笑い方しやがって…。

 

「君の…転校先。その学校もすでに、決めてしまっているけど?」

 

 

 

 ……。

 

 

 

 …………。

 

 

 

「……………アンタ」

 

 

 これは…。

 

 

 初対面…しかも、こちらの事を一方的に調べて、この…。

 ただの善意じゃない。俺が転校する事で、この擬似ホスト野郎にメリットがあるのだろう。

 しかも、小金が入る程度じゃない。

 

 なにか…大きな…。

 

 西住流の…分家とか言ったな…。

 

 新しい生活…それも、とんでもない生活だけど…それをこんな野郎に、いきなり潰される謂れなんてない。

 

 彼女に、また頼ってしまうのは、申し訳ないが……手段なんて、もう選ばない。

 

 

 こいつ…ツブスカ

 

 

「ちなみにぃ。転校先の学校は…ベルウォール学園。女子高だよ! 良かったね!!」

 

 もういい…喋るな、黙ってろ。

 立ち上がり、見下ろしながら睨みつける。

 

「特別枠な為に、男の君でも転入可能。オファーを無差別に出していた、先方様にもすでに通達済み」

 

 

 通達済? 知るか。そんなもん、こっちから断ればいいだけの話だ。

 

 だから…そのニヤケた顔を…。

 

 

「 柚本 瞳さん 」

 

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 

「…なに?」

 

 聴き慣れた…いや、ひどく懐かしい名前に、体が反応してしまった。

 

 まぁ、つい先日…決勝戦の事を知らせて…久しぶりに顔を合わせたが…。

 

 だから違う…違うだろ。流石に同性同名……だ……ろ…。

 

「いやいや、何を驚いた顔をしているんだい? 柚本 瞳さん。…オファーを出していた張本人だよ。知っているだろう? 幼馴染みなんでしょ?」

 

「…………」

 

「彼女は知っているよ? 君 の 事 を 。 君 の 現 在 の 実 績 ま で 。丁寧に…教えて上げたからねぇ……… 僕 自 ら が 」

 

 一字一句。

 何かを強調するかの様に…。

 お前が? 何を…あいつに吹き込んだ?

 しかし、なんで、そこで自分を強調しているんだコイツは。

 

 

「…報告をする際、君の名前を出したら、ひどく喜んでね。こっちが嬉しくなってしまったくらいだよ!!」

 

 こいつの事は、もう知らん。無視だ無視。

 

 まぁいい…。

 

 瞳だったら、逆にやりやすい。

 

 

「嬉しそうに…本当に嬉しそうにねぇ…こう言ってたよ」

 

 

 みほと疎遠にならない為に、ちょこちょこ連絡も取っていた彼女だ。

 

 事情を説明して、丁寧に話せば、わかってくれ……

 

 

 

「 『 隆 史 君 が 、助 け て く れ る 』 って、ね? 」

 

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

「どうしたんだぁい? 手なんて握り締めて…。それに言ったじゃないか。これは君にメリットばかりの事だって」

 

 

 分かった…。

 

 この野郎……確信犯だ。

 

 じゃなければ、ここで…それこそ、鬼の首を取った様な…。

 

 相手を追い詰めたと、こんな勝ち誇った顔をしない。

 

 ニヤニヤと…

 

 

「現在、そのベルウォール学園は、戦車道自体はあるモノの、ある意味で…大洗学園より酷い惨状でね? …だからさ。君の出番って訳…良かったね」

 

 

 

 こ…こいつ…

 

 

 本気で…俺の事を、調べて……どうしてそこまで…ぐっ。

 

 

 

 

 

 

「だから…助けて上げなよ? 隆 史 く ぅ ん ?」

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

「…聞いていますか、隆史さん」

 

「っっ!? あ、すいません…」

 

 大洗の外れ…隆史さんの趣味ですか…。

 店内に入ると、小さくジャズが聞こえる。

 エアコンの風が頭に当たり、少しリボンが揺れました。

 …熱い路上を歩いてきたので、余計にその温度差を感じます。

 

「まったく…珍しく、私が褒めてあげましたのに…」

 

「いやいや。ちょっとボーと…ん? 褒めてくれたんですか?」

 

 私達、高校生には少し不釣り合いな、店内の雰囲気。

 個人経営でしょうね。

 …モダンで、落ち着いた雰囲気。

 

 そんな喫茶店。

 

 このお店の店長の趣味でしょうか?

 所々に、アジアンテイストの置物が設置されている。

 それでも、全体的にモダンな雰囲気な店に、よくマッチしている。

 …ナルホド、趣味が良いですね。

 

「もう言いません。聞き逃した隆史さんが、悪いのです」

 

「…ぅ」

 

「そもそも、私と二人きりだというのに…なんですか? 別の女性の事でも、お考えでしたか?」

 

「チ……チガイマス」

 

 しかし…何故でしょう?

 

 店の扉を開けて、入店した時…女性の店員の方が、隆史さんの顔を見た途端に、すっごい目をしてましたわね。

 なんでしょうか? その直後に、私の事を同情にも似た目で見てきたのは。

 

 ……。

 

 ま…まぁいいですけど…。

 

「さて…では、隆史さん。どちらに座りま「店の一番奥で!」」

 

 ……。

 

「では、こちらの外を見えやすい席に致しましょう」

 

「 」

 

 はい、外は良いお天気です。

 ガラスから差し込む光が心地良いでしょう?

 

 ……誰か、知り合いでも通りが駆らないかしら?

 

「さて、次は…」

 

 隆史さんは、私が何を言いたいか分かったかの様に、テーブルの端からメニュー表を取り、開いて見せてくれました。

 慣れてますねぇ…。

 

「ふむ…珈琲ばかりかと思いきや…。ナルホド、紅茶も取り揃えていますのね?」

 

「……」

 

 それを見てメニューを取りに来てくださった店員さん。

 …すっごい目で、隆史さんを見ていますねぇ?

 

「…再度のご来店。アリガトウゴザイマス。…今度は、お若いのですね?」

 

「  」

 

 お知り合い…の方でしょうか?

 ある意味でフレンドリーですね。

 

「私は…ダージリンで」

 

「で…は、俺はアールグレイで…」

 

 ……。

 

 アールグレイ。

 

 …………。

 

 ……アールグレイ…ねぇ。

 

 

「少々、お待ちください」

 

 笑顔で、私にだけ接して下さってますねぇ…。

 隆史さん。なにか、お店にご迷惑でもおかけした事でもあるのでしょうか?

 

「ま…まさか、覚えられてるとは、思わなかった…」

 

 …やはり、何かしたのでしょうか?

 

「では…隆史さん?」

 

「はい?」

 

「…何か、お悩みでもお有りですか?」

 

「あぁ…いえ、すいません。有るっちゃ有りますが…こればかりは、俺の問題ですから」

 

 ふむ…しかし、珍しい。

 隆史さんが…ねぇ? お悩みですかぁ…。

 

「 あぁ! 女せ「 女性関係じゃありませんからね? 」 」

 

 ……チッ

 

 

「では…アッサムさん」

 

 

 ……。

 

 

「あ…あっさむ…」

 

「はい? なんでしょう?」

 

「早速、何ですが…」

 

「はぁ…。良いですか? 隆史さん。お店に入って早々…無粋ですよ?」

 

「そ…そういうものですか?」

 

 はい、そうです。

 せっかくダージリン達を出しぬ…もとい。

 

 行動パターンと予定。それらを予測をし…何とか、この日、時間を割り出して…。

 そして今! この状況!!

 

 いきなり罰ゲームでは、寂しいじゃありませんの。

 

「しかし…アッサムさ……アッサムが、ダージリンを頼むなんてね…ちょっと以外…」

 

「そうですか? ただの紅茶でしてよ? 特に深い意味はございません」

 

 ふふ…すぐに、別の話題に切り替えましたね。

 ま…敢えて、ダージリンティーを注文しましたけどね。

 

「知り合いの名前だし…ってのが、ありますでしょう?」

 

「…その割には、隆史さん」

 

「……」

 

「良くもまぁ……アールグレイだなんて…。まぁ…宜しいですけど。相変わらず年上がお好き…」

 

「い…意味なんてありませんよ!」

 

「あら、そう? でしたら、アッサム…でも、宜しかったのでは? お嫌い?」

 

「アッサム? 好きですよ?」

 

「…………」

 

「……」

 

「…今回は、流石に狙った訳では、ありませんよ?」

 

「……」

 

 ふぅ…ちょっと、不意を突かれました。

 もう…頬が少し熱く感じるでは有りませんか。

 

「…紅茶が来てからでも宜しかったですけど…まぁ良いでしょう。無粋な事を、始めましょうか?」

 

「…お願いします」

 

「罰ゲーム…とやらを」

 

「…………モウシワケナイ」

 

 まったく。

 それこそ、バニーでも本当に宜しかったのですが…あ。

 でも、着てはいけないとは言ってませんよね?

 …よし。データをまた収集しましょう。

 

「でわ…隆史さん。どこから、どこまで覚えていらっしゃるの?」

 

「いや…殆ど覚えてはいるんですが…」

 

「殆ど…」

 

「はい。青森を聖グロ御一行が離れ…しばらくは会えないだろうなぁ…とか、ちょっと感傷的になってしまっていた俺を…」

 

 ……。

 

 はい、それは正直…申し訳ありませんでしたわ。

 

「一週間後、ちゃっかり帰って来た聖グロの学園艦に……連行される所から始まり……」

 

 ……

 

「アッサム? …目を見て話しましょう」

 

 見てますわよ? えぇ見てます。

 

「一応…帰ってくる所まで、覚えてます。ただ…やっぱり」

 

「夜の…」

 

「そうですそうです」

 

 ふむ…今、考えてみれば、こんな所でお話する様な事では…。

 まぁ、ご希望ですし…罰ゲームとやらです。

 話さない訳には、いきませんものね。

 

 …ま、ある意味で良い機会かもしれません。

 

 

「……」

 

「考えてみれば、私達、人攫いみたいですよね?」

 

「みたい…ではなく、人攫いです」

 

「見解の違いでは?」

 

「…ダージリンみたいな事、言わないでください」

 

「なっ!?」

 

「……後、ミカもよく、んな感じで言い返してきますけど…」

 

「人攫いでしたわね! もう訳ありませんでした!!」

 

「…手の平返しが、早いなぁ…」

 

 あの二人みたい!? 冗談じゃありません!! あそこまで、黒く…

 

「…はっ。今となっては懐かしく感じますよ…」

 

「隆史さん?」

 

 何でしょうか?

 少し、様子がおかしい…。

 そういえば、悩み事がどうの…

 

「俺…そういえば、こういった事を…思い出を共有している…そんな人と話すって事…。殆どないな…」

 

 ……。

 

「みほと、まほち…西住姉妹と…あの3人位か…まともに話せるの。友達…少ないなぁ……俺」

 

 本当に何でしょうか?

 遠い目をしている…。

 

 ……。

 

 しかし、これは…。

 

「隆史さん」

 

「……あ。ちょっと、これは失礼でしたね。目の前にアッサムさんがいるのにね」

 

 相変わらず、変な所で鋭い。

 流石にムッと、してしまいました。

 しかし、察して謝られては、こちらも何も言えない…。

 

「人前なのに、変に感傷に浸ってしまった…これは、ないな。うん」

 

 はぁ…。

 

「思い出を共有…ですか。では、罰ゲームの場面まで、少しずつですが、お話しましょう」

 

「…え」

 

「はい、思い出話…ですね」

 

 …えぇ。

 やはり丁度いい機会ですね…。

 

「あ、その前に「アッサムさん」に戻ってます。次言ったら、ペナルティです」

 

「 」

 

 …さて…。

 

「白状してしまいますと…私の、貴方の見方が変わったのが…あの合宿でした」

 

「見方?」

 

「えぇ…まぁ…その合宿まで、良くもまぁ、人様の隊長様と後輩を誑かしたと…少々、良くない感情がありました」

 

「タブ…」

 

「別に貴方を、まったく信用していなかった訳では無いのですよ? ……しかし、最後のお茶会…」

 

「 」

 

「ま…まぁ!? アレもアレで、私にも落ち度がまったく無いとまでは、言いませんが……ねぇ?」

 

「ソ……ソッスネ」

 

 目の前に湯気が。

 

 スッ…と、横から注文品が、お待たせしましたの声と共に届けられました。

 少し、話が中断してしまいましたが…まぁ気を取り直しましょう。

 

 …琥珀色の液体に、自分の顔が映る。

 

 ふふっ…我ながら、少し緩んだ顔だと、見て取れますね。

 …正直、こんな会話でも楽しい…。

 

 今までは、本当に…3番手だという理由で、オレンジペコに…そして、ダージリンにも気を使って何もしてこなかった。

 

 まぁ? バレてしまっては致し方ない。

 でしたら、私は私で、もう思う様に動こうと思う…。

 

 ……。

 

 まぁ…この人は、それでも…何をしても「西住 みほ」さんを裏切らないだろう。

 

 余程の事が無い限り…………。

 

 それは、他の皆さんもお分かりのはず…しかし、全員が諦めない…。

 

 …だから皆、その隙を伺っているのでしょうかね?

 あの女性も、結構分かりやすい性格…だからでしょうね。

 

 皆…期待してしまっている。

 

 アレがもし…姉の方だったら…。

 

「西住 まほ」さんだったとしたら…他の方はどう動くのでしょうかね?

 

 諦めるでしょうか? それとも、同じく虎視眈々とチャンスを伺うのでしょうか?

 

 ……。

 

 …妹さんを、決して軽んじている訳では、ないのですが…。

 

 しかし…あの「西住 みほ」さんは、不安定。

 

 えぇ…余りにも、不安定です。

 

 

 ……。

 

 それが、皆さんに…黒い希望を与えてしまっているのでしょうか?

 

 …私も…。

 

「…失礼。私も人の事が言えませんね」

 

 感傷に浸る。

 目の前の彼を見て。

 

 

 ……そして昔の事。

 

 

 数ヶ月…たった数ヶ月前が、ひどく遠くに……遥か昔の事に思える…。

 

 

 合宿…思い出で…話ですね…

 

 

「まったく…あのアールグレイ様にまで、ちょっかい出すとは思いませんでしたわ」

 

「出してませんよ!?」

 

「あぁ、出されたから、返り討ちにしたのでしたか?」

 

「してませんよね!? あの荒唐無稽な人に、何をどうしたらいいかなんて、今でも思いつきませんよ!!」

 

「…その割に…」

 

 

 彼の前にも、湯気。

 

 ゆっくりと…薄く…。

 

 ……。

 

「…あの人……雰囲気が姉に少し似ていて…すっげぇ苦手なんですよ…」

 

 

「そうなのかい!?」

 

 

「「 ………… 」」

 

「まっ! 君の姉君の事は、知らないが…それは、素敵な方なのだろうね!!」

 

 

 ……。

 

 

「…この喫茶店で……何か頼んでも、誰かに盗られる……」

 

 

「…アール…グレイ様……」

 

 聖グロリアーナ…OB。

 

 元隊長…先輩……。

 

 隆史さんが、何に嘆いていいるか分かりませんが…あぁ…アールグレイ様が、アールグレイを啜っている…。

 紅茶を啜らないで下さい。それ以前に…それ……隆史さんのでしょうに……。

 

 どうして…こう……邪魔者ばかり…。

 

 漸く…せっかく…。

 

「…なんで…大洗にいらっしゃるのでしょうか?」

 

「はっはー!! 久方ぶりに顔を合わせるのに、一言もなしかね? アッサム!」

 

「……オヒサシュウ」

 

 適当でヨロシイデス。

 後、その笑い方は、やめてください、このOB。

 

「いやね? 面白そうな催しが行われるって聞いてね? それならば、見学に来ないなんてありえないだろう?」

 

「開催は何時だと、思ってるんですか!?」

 

「ふふっ…古い二つ名だが、疾風アールグレイ! 早く着きすぎてしまってね!! 暇をしていたのさ!」

 

 ……。

 

「アッサム? …今、この暇人め! とか、思わなかったか?」

 

「……思ってません」

 

 

「まぁいいっ!! せっかくだ!! 私は途中で合流したんだ! …そのプロローグまでは、知らないのさ!」

 

 

「……チッ」

 

 

 傍若無人、荒唐無稽…それを絵に描いた様なお方…。

 見た目は、お嬢様を…それこそ、絵に描いた様なお方ですのに…。

 

 聖グロリアーナを卒業し…イギリスへ行ったのでは?

 

「大学生の夏休みは長いのさ!!! 学費返せって具合にね!!!」

 

 …何も聞いてません。

 

「では、そこでなんでか知らぬが、打ちひしがれている尾形 タカちゃん!!」

 

「やめて!! タカちゃんは、マジデヤメテ!!! 思い出すから!!」

 

「……………アッサムと、できてたんだね。タカちゃん」

 

「やめろっつってんだろうが!! できてるとか、言わないでくださいよ!!」

 

「外から見て驚いたよ…。私は、ダージリンとでも、くっつくと踏んでいたんだが…私もまだまだだ…。デートを邪魔して悪かったね!! が、続行するのが、我が正義!!!」

 

 

 はぁ…。

 

 もはや、終わりでしょうか? 隆史さんとの…。

 

 ここまでくい込まれては、この方…制御なんてできませんしね…。

 

 

「さぁっ!!! 話してくれ!! 尾形 タラシ君!!!!」

 

 

 ……アレ? タラ…え?

 

 

 




閲覧ありがとうございました

次回から本格的に過去話。

ぶっちゃけ、聖グロ回になりそう…

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