悪臭に我慢。
不快な声に我慢。
濃すぎる香水の臭気に、鼻の息を止めて我慢はしている。
…しているが、口呼吸でも、口を通して鼻の奥にその匂いが当たる。
微かに感じるだけでも、凄まじく不快に感じる。
この香水も多分、お高いのでしょうがね? 先程も思ったが、つけ過ぎだ。
それに終始笑顔なこの男。
一人でずっと喋り続けている。
お客様と、柚子先輩に言われ…応接室に来たらコレだ…。
先程までの地獄の様なゲームも終わり、安堵していたら、強制的に昔を思い出せる輩のご登場。
応接室の合皮製のやっすいソファーに腰掛け…脚を組んで、偉そうに何かを口から吐いている。
あぁ…言葉ですね。
日本語ですねぇ、すごいですねぇ!!
どうでも良い事をベラベラと…。
…長いんだよ、自己紹介が。
名前は、西住 歩 22歳。
いくつかある、西住流分家で、その中の一つ。
戦車道とは別に始めた商いで成功……ホテル経営? 分かった、分かった。
はいはい、スゴイネェ。…年収はどうでもいいから、次に行ってくれ、七光り。
…いやぁ…こりゃ、本気で何しに来たんだろう…この男。
会話の端々で、俺の事を調べてきている事が伺えた。
家柄とも、言ったなぁ…。
島田家の名前は出さなかったが、それらしい事を漏らした。
いやぁ…しっかし。
本当に、いつまでこいつは、自分の事を喋っているんだ?
人に対して、ここまでの不快感は、久しぶりだ。
いや? 初対面では初めてじゃないだろうか?
着ているスーツや、不快な香水もそうだが…こう言った人種と話した事が、まったく無かったわけじゃあない。
逆に、ここまで分かりやすい自己顕示欲の塊の様な人、…慣れていたのになぁ。
まぁ何となく、その不快感の正体は分かるけどな。
もう少しさ…隠せよ。
こう言った手合いは、誰に対してもこんな感じなんだろうが…露骨すぎるなぁ…。
高校生相手にだろうが、なんだろうが…少なくとも俺とアンタは初対面だろうが。
垣間見える、俺個人を明らかに見下した態度。
俺とお前は違う。格が違う。
身なりも違うし、家柄も違う。
だから何でしょうか? って言ってやりたが、俺自身、今は相槌の返答をするだけのロボットと化している。
接待対応…ひっさしぶりにやるなぁ…。
ソウナンデスカ? スゴイデスネェ? ハァイ。
…反吐が出そうだけど、この手の輩の意味のない会話は、適当に相手するのが一番だ。
こいつの目的なんて知らないけど、楽しそうに自分の個人情報を教えてくれているんだ。
役に立ちそうな情報だけを拾って、本題が始まるまでは、我慢しよう…はぁ……。
「…」
「ん? 聞いていたかい?」
聞いてねぇよ。
聞いてなかった為に誤魔化そう。
機嫌を損ねると面倒臭そうだ。
そもそも、聞いていたか? と、お問い合わせを頂きましたが、そんな言葉が出るって事は、やっぱりコレ。
誰に対しても、こんな感じなのだろうな。
「…失礼、考え込んでいました」
「んんっ! そうだろうねぇ!」
だから、何を楽しそうに…。
さて…この男は一体何を言った?
「確認の為に、もう一度よろしいですか?」
基本的に喋るのが好きなのだろう。
嬉しそうに、同じ事を繰り返してくれた。
……。
…………。
は?
「そうそう、転校だよ、転校。栄転…と、言っても差し支えない」
ナニヲ、イッテイルンダ?
「は…はは。なんの冗談ですか? 転校? 俺が!?」
…そして聞いた内容だけど……何を言ってるんだろう、この男は。
というか、その上…と、やらは。
この男、どうやら文部省にもそれなりに顔が効くらしい。自称だけどな。
たかが22歳程度の若造が、何を言っているんだろう。
多分…知り合いが居るだけだろうな。
こいつから感じるのは、自身が上に行きたい。
自身を売り込みたい…そんな感情。
そこはまぁ、否定はしない。別にそれ自身、悪い事ではないからな。
言い換えれば、向上心。
俺には無い物だね。
だけどな…
俺を利用しようとしているのが見え見えだ。
で…だ。流石に分家とはいえ、西住流。
戦車道の未来の為とか、曰わっているが…我欲の為だろうな。
全国戦車道大会…大洗学園の優勝。
無名校、素人集団…。
圧倒的な戦力不足……。
誰もがこの大会で、ただ消えていくだけだと、そう思っていたであろう、我が校。
それが、まさかの優勝。
まだ言ってんのか? とも思ったが、簡単に捨てておけない組織というのもあるのだろう。
…というか、アンタらの西住流。その家元の家系が加担していると思うのが普通だろう?
「西住 みほ」では、無く……
「……」
ペラペラと早口で、うまくまとまらない。
……整理しよう。
つまり…
「他の学校に無く…俺達の学校にはあるモノ…。戦車道に関わる、男子生徒。それを他校でも取り入れたい…と?」
「そうそう! 試験的にだけどね!」
「いや…でも、数は少ないですが、その他校にもいますよね?」
「そうだね! でもね!? だからこそだよ!! 大洗なんて、無名校が、優勝した…いや、させた。と、いう実績があるだろう!?」
「実績って…俺には関係ないでしょう? ただの裏方ですよ? 実際に頑張ったのは彼女達だ」
「あるよ! 実際問題、君は非常に注目されているからね!! それは「君」自身にもプラスになる。将来、絶対に有利に働く武器にもなる!」
「……」
「うまくすれば、それが色んなモノに繋がっていく。まだ君は高校2年生…時間は、まだあるんだよ?」
無えよ。
来年受けるかどうか決めてないけど…普通なら受験の為に、その準備に入るんだろうが。
その受験生相手に、何言ってるんだ、コイツ。
戦車道会の為…と、チョコチョコ言ってはいるが…。
…本当に何言ってんだ?
「それに…実は話を、少しずつだけどね? 進めておいてあげたよ?」
「…は?」
「だぁてぇ!! 断る理由なんてないだろう!? 君に取っても、メリットしかないしね!!」
「……はぁ!!??」
そんな胡散臭い話なんて、デメリットしかないだろうが!
「来年度の試合で、優勝までいかなくとも…それなりに活躍さえさせれば、それで良いんだから!! いや! 試合に出場さえすれば、周りが勝手に称賛してくれるからさ!!」
「何言ってんですか、貴方!!」
「そうすれば、戦車道に関わる大学になら、どこにでも進めるだろうよ! 文部省からの推薦状まで付くんだし、就職先ですら安泰になるよ!?」
「なる訳ないでしょう…ただの高校生相手に。…それに俺、本人の意思は、無視して…「 何を言っているんだい!! 」」
「知り合いに官僚もいるのだけど、君をどうもエラく気に入っていてねぇ。その来年度に付くであろう「実績」さえ有れば、後は…どうとでもしてくれるそうだよ! 良かったね!!」
よくねぇよ。
俺の意見すら、無視すんじゃねぇよ。
ぐっ…ダメだ…コイツ。
完全に喋りながら、それが一番良いだろう? と、こちらの言う事を全く聞いてねぇ。
良い提案!? ふざけるな。
こいつ、自分が良いと思う事が、他人にも良い事だと思ってでもいるのか!?
その歳で!?
しかも官僚!?
そこまで、話が本当に流れているとしたら、本気か? この馬鹿。
…おかしい。
色々とおかしい。
頭の悪い高校生相手に、豪華なエサをぶら下げて、それに食いつくのを、ただ楽しそうに眺めている。
しかも、絶対に食いつくと思い込み、横着してさっさと次の工程に移っている…。
なんだコイツ…。
なまじ金と…力。…も、それなりにあるのだろう。
…余計に、タチが悪い。
「だから…近い内に辞令が下ると思うよ!? 君、もはや一員の様なモノなんだろう!?」
「辞令!? なんの!? どこから!!?? 一員!?」
もう、言っている事が滅茶苦茶だ。
ただの高校生のガキに、何言ってんだよ。
「 日本戦車道連盟 」
「」
あ…の、ハゲ……。
「だからもういいよね!? 話をこのまま進めちゃっても!」
な…んなんだ…一体。
こんな本人の意思を無視して、こんなやり方!
「冗談じゃない! 話にすらならない!! お断りしますよ! ふざけるな!!」
「え? 何が?」
「何を強引に…。法律に触れるんじゃないのか!? 未成年に対して…「 でも 」」
あ?
なんだ、この野郎…。
ニヤニヤと、こちらの神経を逆撫でするかの様な…。
そんな、いやらしい笑い方しやがって…。
「君の…転校先。その学校もすでに、決めてしまっているけど?」
……。
…………。
「……………アンタ」
これは…。
初対面…しかも、こちらの事を一方的に調べて、この…。
ただの善意じゃない。俺が転校する事で、この擬似ホスト野郎にメリットがあるのだろう。
しかも、小金が入る程度じゃない。
なにか…大きな…。
西住流の…分家とか言ったな…。
新しい生活…それも、とんでもない生活だけど…それをこんな野郎に、いきなり潰される謂れなんてない。
彼女に、また頼ってしまうのは、申し訳ないが……手段なんて、もう選ばない。
こいつ…ツブスカ
「ちなみにぃ。転校先の学校は…ベルウォール学園。女子高だよ! 良かったね!!」
もういい…喋るな、黙ってろ。
立ち上がり、見下ろしながら睨みつける。
「特別枠な為に、男の君でも転入可能。オファーを無差別に出していた、先方様にもすでに通達済み」
通達済? 知るか。そんなもん、こっちから断ればいいだけの話だ。
だから…そのニヤケた顔を…。
「 柚本 瞳さん 」
……。
…………。
「…なに?」
聴き慣れた…いや、ひどく懐かしい名前に、体が反応してしまった。
まぁ、つい先日…決勝戦の事を知らせて…久しぶりに顔を合わせたが…。
だから違う…違うだろ。流石に同性同名……だ……ろ…。
「いやいや、何を驚いた顔をしているんだい? 柚本 瞳さん。…オファーを出していた張本人だよ。知っているだろう? 幼馴染みなんでしょ?」
「…………」
「彼女は知っているよ? 君 の 事 を 。 君 の 現 在 の 実 績 ま で 。丁寧に…教えて上げたからねぇ……… 僕 自 ら が 」
一字一句。
何かを強調するかの様に…。
お前が? 何を…あいつに吹き込んだ?
しかし、なんで、そこで自分を強調しているんだコイツは。
「…報告をする際、君の名前を出したら、ひどく喜んでね。こっちが嬉しくなってしまったくらいだよ!!」
こいつの事は、もう知らん。無視だ無視。
まぁいい…。
瞳だったら、逆にやりやすい。
「嬉しそうに…本当に嬉しそうにねぇ…こう言ってたよ」
みほと疎遠にならない為に、ちょこちょこ連絡も取っていた彼女だ。
事情を説明して、丁寧に話せば、わかってくれ……
「 『 隆 史 君 が 、助 け て く れ る 』 って、ね? 」
……。
…………。
「どうしたんだぁい? 手なんて握り締めて…。それに言ったじゃないか。これは君にメリットばかりの事だって」
分かった…。
この野郎……確信犯だ。
じゃなければ、ここで…それこそ、鬼の首を取った様な…。
相手を追い詰めたと、こんな勝ち誇った顔をしない。
ニヤニヤと…
「現在、そのベルウォール学園は、戦車道自体はあるモノの、ある意味で…大洗学園より酷い惨状でね? …だからさ。君の出番って訳…良かったね」
こ…こいつ…
本気で…俺の事を、調べて……どうしてそこまで…ぐっ。
「だから…助けて上げなよ? 隆 史 く ぅ ん ?」
◆
「…聞いていますか、隆史さん」
「っっ!? あ、すいません…」
大洗の外れ…隆史さんの趣味ですか…。
店内に入ると、小さくジャズが聞こえる。
エアコンの風が頭に当たり、少しリボンが揺れました。
…熱い路上を歩いてきたので、余計にその温度差を感じます。
「まったく…珍しく、私が褒めてあげましたのに…」
「いやいや。ちょっとボーと…ん? 褒めてくれたんですか?」
私達、高校生には少し不釣り合いな、店内の雰囲気。
個人経営でしょうね。
…モダンで、落ち着いた雰囲気。
そんな喫茶店。
このお店の店長の趣味でしょうか?
所々に、アジアンテイストの置物が設置されている。
それでも、全体的にモダンな雰囲気な店に、よくマッチしている。
…ナルホド、趣味が良いですね。
「もう言いません。聞き逃した隆史さんが、悪いのです」
「…ぅ」
「そもそも、私と二人きりだというのに…なんですか? 別の女性の事でも、お考えでしたか?」
「チ……チガイマス」
しかし…何故でしょう?
店の扉を開けて、入店した時…女性の店員の方が、隆史さんの顔を見た途端に、すっごい目をしてましたわね。
なんでしょうか? その直後に、私の事を同情にも似た目で見てきたのは。
……。
ま…まぁいいですけど…。
「さて…では、隆史さん。どちらに座りま「店の一番奥で!」」
……。
「では、こちらの外を見えやすい席に致しましょう」
「 」
はい、外は良いお天気です。
ガラスから差し込む光が心地良いでしょう?
……誰か、知り合いでも通りが駆らないかしら?
「さて、次は…」
隆史さんは、私が何を言いたいか分かったかの様に、テーブルの端からメニュー表を取り、開いて見せてくれました。
慣れてますねぇ…。
「ふむ…珈琲ばかりかと思いきや…。ナルホド、紅茶も取り揃えていますのね?」
「……」
それを見てメニューを取りに来てくださった店員さん。
…すっごい目で、隆史さんを見ていますねぇ?
「…再度のご来店。アリガトウゴザイマス。…今度は、お若いのですね?」
「 」
お知り合い…の方でしょうか?
ある意味でフレンドリーですね。
「私は…ダージリンで」
「で…は、俺はアールグレイで…」
……。
アールグレイ。
…………。
……アールグレイ…ねぇ。
「少々、お待ちください」
笑顔で、私にだけ接して下さってますねぇ…。
隆史さん。なにか、お店にご迷惑でもおかけした事でもあるのでしょうか?
「ま…まさか、覚えられてるとは、思わなかった…」
…やはり、何かしたのでしょうか?
「では…隆史さん?」
「はい?」
「…何か、お悩みでもお有りですか?」
「あぁ…いえ、すいません。有るっちゃ有りますが…こればかりは、俺の問題ですから」
ふむ…しかし、珍しい。
隆史さんが…ねぇ? お悩みですかぁ…。
「 あぁ! 女せ「 女性関係じゃありませんからね? 」 」
……チッ
「では…アッサムさん」
……。
「あ…あっさむ…」
「はい? なんでしょう?」
「早速、何ですが…」
「はぁ…。良いですか? 隆史さん。お店に入って早々…無粋ですよ?」
「そ…そういうものですか?」
はい、そうです。
せっかくダージリン達を出しぬ…もとい。
行動パターンと予定。それらを予測をし…何とか、この日、時間を割り出して…。
そして今! この状況!!
いきなり罰ゲームでは、寂しいじゃありませんの。
「しかし…アッサムさ……アッサムが、ダージリンを頼むなんてね…ちょっと以外…」
「そうですか? ただの紅茶でしてよ? 特に深い意味はございません」
ふふ…すぐに、別の話題に切り替えましたね。
ま…敢えて、ダージリンティーを注文しましたけどね。
「知り合いの名前だし…ってのが、ありますでしょう?」
「…その割には、隆史さん」
「……」
「良くもまぁ……アールグレイだなんて…。まぁ…宜しいですけど。相変わらず年上がお好き…」
「い…意味なんてありませんよ!」
「あら、そう? でしたら、アッサム…でも、宜しかったのでは? お嫌い?」
「アッサム? 好きですよ?」
「…………」
「……」
「…今回は、流石に狙った訳では、ありませんよ?」
「……」
ふぅ…ちょっと、不意を突かれました。
もう…頬が少し熱く感じるでは有りませんか。
「…紅茶が来てからでも宜しかったですけど…まぁ良いでしょう。無粋な事を、始めましょうか?」
「…お願いします」
「罰ゲーム…とやらを」
「…………モウシワケナイ」
まったく。
それこそ、バニーでも本当に宜しかったのですが…あ。
でも、着てはいけないとは言ってませんよね?
…よし。データをまた収集しましょう。
「でわ…隆史さん。どこから、どこまで覚えていらっしゃるの?」
「いや…殆ど覚えてはいるんですが…」
「殆ど…」
「はい。青森を聖グロ御一行が離れ…しばらくは会えないだろうなぁ…とか、ちょっと感傷的になってしまっていた俺を…」
……。
はい、それは正直…申し訳ありませんでしたわ。
「一週間後、ちゃっかり帰って来た聖グロの学園艦に……連行される所から始まり……」
……
「アッサム? …目を見て話しましょう」
見てますわよ? えぇ見てます。
「一応…帰ってくる所まで、覚えてます。ただ…やっぱり」
「夜の…」
「そうですそうです」
ふむ…今、考えてみれば、こんな所でお話する様な事では…。
まぁ、ご希望ですし…罰ゲームとやらです。
話さない訳には、いきませんものね。
…ま、ある意味で良い機会かもしれません。
「……」
「考えてみれば、私達、人攫いみたいですよね?」
「みたい…ではなく、人攫いです」
「見解の違いでは?」
「…ダージリンみたいな事、言わないでください」
「なっ!?」
「……後、ミカもよく、んな感じで言い返してきますけど…」
「人攫いでしたわね! もう訳ありませんでした!!」
「…手の平返しが、早いなぁ…」
あの二人みたい!? 冗談じゃありません!! あそこまで、黒く…
「…はっ。今となっては懐かしく感じますよ…」
「隆史さん?」
何でしょうか?
少し、様子がおかしい…。
そういえば、悩み事がどうの…
「俺…そういえば、こういった事を…思い出を共有している…そんな人と話すって事…。殆どないな…」
……。
「みほと、まほち…西住姉妹と…あの3人位か…まともに話せるの。友達…少ないなぁ……俺」
本当に何でしょうか?
遠い目をしている…。
……。
しかし、これは…。
「隆史さん」
「……あ。ちょっと、これは失礼でしたね。目の前にアッサムさんがいるのにね」
相変わらず、変な所で鋭い。
流石にムッと、してしまいました。
しかし、察して謝られては、こちらも何も言えない…。
「人前なのに、変に感傷に浸ってしまった…これは、ないな。うん」
はぁ…。
「思い出を共有…ですか。では、罰ゲームの場面まで、少しずつですが、お話しましょう」
「…え」
「はい、思い出話…ですね」
…えぇ。
やはり丁度いい機会ですね…。
「あ、その前に「アッサムさん」に戻ってます。次言ったら、ペナルティです」
「 」
…さて…。
「白状してしまいますと…私の、貴方の見方が変わったのが…あの合宿でした」
「見方?」
「えぇ…まぁ…その合宿まで、良くもまぁ、人様の隊長様と後輩を誑かしたと…少々、良くない感情がありました」
「タブ…」
「別に貴方を、まったく信用していなかった訳では無いのですよ? ……しかし、最後のお茶会…」
「 」
「ま…まぁ!? アレもアレで、私にも落ち度がまったく無いとまでは、言いませんが……ねぇ?」
「ソ……ソッスネ」
目の前に湯気が。
スッ…と、横から注文品が、お待たせしましたの声と共に届けられました。
少し、話が中断してしまいましたが…まぁ気を取り直しましょう。
…琥珀色の液体に、自分の顔が映る。
ふふっ…我ながら、少し緩んだ顔だと、見て取れますね。
…正直、こんな会話でも楽しい…。
今までは、本当に…3番手だという理由で、オレンジペコに…そして、ダージリンにも気を使って何もしてこなかった。
まぁ? バレてしまっては致し方ない。
でしたら、私は私で、もう思う様に動こうと思う…。
……。
まぁ…この人は、それでも…何をしても「西住 みほ」さんを裏切らないだろう。
余程の事が無い限り…………。
それは、他の皆さんもお分かりのはず…しかし、全員が諦めない…。
…だから皆、その隙を伺っているのでしょうかね?
あの女性も、結構分かりやすい性格…だからでしょうね。
皆…期待してしまっている。
アレがもし…姉の方だったら…。
「西住 まほ」さんだったとしたら…他の方はどう動くのでしょうかね?
諦めるでしょうか? それとも、同じく虎視眈々とチャンスを伺うのでしょうか?
……。
…妹さんを、決して軽んじている訳では、ないのですが…。
しかし…あの「西住 みほ」さんは、不安定。
えぇ…余りにも、不安定です。
……。
それが、皆さんに…黒い希望を与えてしまっているのでしょうか?
…私も…。
「…失礼。私も人の事が言えませんね」
感傷に浸る。
目の前の彼を見て。
……そして昔の事。
数ヶ月…たった数ヶ月前が、ひどく遠くに……遥か昔の事に思える…。
合宿…思い出で…話ですね…
「まったく…あのアールグレイ様にまで、ちょっかい出すとは思いませんでしたわ」
「出してませんよ!?」
「あぁ、出されたから、返り討ちにしたのでしたか?」
「してませんよね!? あの荒唐無稽な人に、何をどうしたらいいかなんて、今でも思いつきませんよ!!」
「…その割に…」
彼の前にも、湯気。
ゆっくりと…薄く…。
……。
「…あの人……雰囲気が姉に少し似ていて…すっげぇ苦手なんですよ…」
「そうなのかい!?」
「「 ………… 」」
「まっ! 君の姉君の事は、知らないが…それは、素敵な方なのだろうね!!」
……。
「…この喫茶店で……何か頼んでも、誰かに盗られる……」
「…アール…グレイ様……」
聖グロリアーナ…OB。
元隊長…先輩……。
隆史さんが、何に嘆いていいるか分かりませんが…あぁ…アールグレイ様が、アールグレイを啜っている…。
紅茶を啜らないで下さい。それ以前に…それ……隆史さんのでしょうに……。
どうして…こう……邪魔者ばかり…。
漸く…せっかく…。
「…なんで…大洗にいらっしゃるのでしょうか?」
「はっはー!! 久方ぶりに顔を合わせるのに、一言もなしかね? アッサム!」
「……オヒサシュウ」
適当でヨロシイデス。
後、その笑い方は、やめてください、このOB。
「いやね? 面白そうな催しが行われるって聞いてね? それならば、見学に来ないなんてありえないだろう?」
「開催は何時だと、思ってるんですか!?」
「ふふっ…古い二つ名だが、疾風アールグレイ! 早く着きすぎてしまってね!! 暇をしていたのさ!」
……。
「アッサム? …今、この暇人め! とか、思わなかったか?」
「……思ってません」
「まぁいいっ!! せっかくだ!! 私は途中で合流したんだ! …そのプロローグまでは、知らないのさ!」
「……チッ」
傍若無人、荒唐無稽…それを絵に描いた様なお方…。
見た目は、お嬢様を…それこそ、絵に描いた様なお方ですのに…。
聖グロリアーナを卒業し…イギリスへ行ったのでは?
「大学生の夏休みは長いのさ!!! 学費返せって具合にね!!!」
…何も聞いてません。
「では、そこでなんでか知らぬが、打ちひしがれている尾形 タカちゃん!!」
「やめて!! タカちゃんは、マジデヤメテ!!! 思い出すから!!」
「……………アッサムと、できてたんだね。タカちゃん」
「やめろっつってんだろうが!! できてるとか、言わないでくださいよ!!」
「外から見て驚いたよ…。私は、ダージリンとでも、くっつくと踏んでいたんだが…私もまだまだだ…。デートを邪魔して悪かったね!! が、続行するのが、我が正義!!!」
はぁ…。
もはや、終わりでしょうか? 隆史さんとの…。
ここまでくい込まれては、この方…制御なんてできませんしね…。
「さぁっ!!! 話してくれ!! 尾形 タラシ君!!!!」
……アレ? タラ…え?
閲覧ありがとうございました
次回から本格的に過去話。
ぶっちゃけ、聖グロ回になりそう…