転生者は平穏を望む   作:白山葵

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はい、病み上がり2回目。

新キャラとーじょー


第15話 昔語り と 女の戦い(序章)

「さぁ! 続きだ! 続き!! 翌日から、どうだったんだいっ!?」

 

 俺の電話相手の事を、聞くこともしないで、戻ってきた早々に楽しそうな声ですね…。

 俺が席を外している間にでも頼んだのだろう。

 テーブルの上には、湯気が立つ紅茶が二つ…。

 炎天下で正座させられたせいもあり、ホットなんぞ飲めやしない。

 

「すいません…店員さん。俺にアイスコーヒー下さい」

 

「……畏まりました」

 

 その二つを見て、俺も何か頼まないといけないな。と、思い注文するも…

 はい…苦笑する店主らしき方と、嫌そうに声を出しはしないが、めちゃくちゃ冷たい声で反応する店員さんが、応えてくれました。

 

 はぁ…。

 

 先程まで座っていた場所へと、再び座り直す。

 はい、アールグレイ様のお隣ですわね。

 

 …ちょっと、アッサムさんの眉が動いた気がした。

 あれ…俺って、この場所に座ってたよな?

 

「結局、プラウダ勢とは、いつ会ったんだい?」

 

「翌日でしたわ。合宿場の北海道でしたわね」

 

 俺が席に座るのと同時に、さっそく続きとばかりにアールグレイさんが、口を開く。

 ただ、なんだろう…。

 雰囲気が少し先程と違った。

 …上手くは言えないけど…なんとなくそう思う。

 まぁいいや、続きね。

 

「め…めちゃくちゃ、ノンナさんに至近距離から、睨まれたのを覚えております…。あ、カチューシャには蹴られたな」

 

「…あの方、睨むフリして、隆史さんに胸を押し付けているだけに思えましたけどね…まったく、イヤラシイ」

 

 そのセリフで、何故にして俺を睨むのでしょうか?

 

 北海道で、顔を合わせた時…めちゃくちゃ文句を言っているカチューシャと、それを受けて涼しい顔をして受け流しているダージリンを思い出す。

 その横で、ノンナさんに睨み続けられている俺……の! 横で、ニッコニコしているオペ子さん。

 密航して捕まって…どうせだからと、参加したアンツィオ高校の三人。

 

 …出稼ぎとか言っていたが、あれは偵察とかそういった部類の事だったのだろう。

 ダージリンも当然気がついていた。

 後で聞いた所、見られて困る事などございませんし…今は、現状の確認の方が優先事項です。

 …って、なんか言われたな。なにを確認したのだろうかね。

 

 まったく…。

 

 ……。

 

 …………。

 

 今はもう、少し懐かしく感じる…。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 北海道。

 

 特に遮蔽物もなく…広く続く青く茂る大地。

 この場で現在、行っている、聖グロリアーナとプラウダ高校の、合同練習…そして合宿。

 昔ならば、とてもではないですか、考えられませんでした。

 

 ダージリンとカチューシャさん。

 

 否。

 

 聖グロリアーナとプラウダ高校。

 

 共に強豪校と言われている二校が、こんな事…。

 良好な関係だったのは、私も当然知っていました。

 当然、練習試合位ならば、幾度かはございましたが、泊まり込みまでしての事は、初めてです。

 しかし、ここまでの大規模な事までは、しませんでした…と言いますか、できるなんて、考えもつきませんですからね。

 

 確かに結意義な事でしょう…。

 お互いの実力を上げるには、もってこいの……ですが、それよりも相手の内部情報を少なからず提示してしまうような行為とも思えます。

 …まぁ、ですから?

 当たり障りのない…それこそ、本当に基本的な練習しか、できそうにありませんけどね…。

 当然、それはダージリンも分かっているらしく…MK.Ⅵ 軽戦車しか持ってきていませんしね。

 

 そして現在…お茶会の様な席を設け、そこで各生徒達の様子を眺める総隊長達。

 

 乱戦。

 

 各々の実力を、自身で確認する為、もしくは…各自の判断能力向上の為に、総隊長を排除し、各戦車事での生き残りを賭けた試合をしている。

 無線機からは、各戦車からの声が、次々と入り…それをまた各隊長達が、聞き入る。

 混乱をしたかの様な、叫び声から始まり、相手車両を撃破した歓喜の声から、様々…。

 

 もう一度…そう。

 

 これは、乱戦。

 

 噂には聞いた事がございますが…これではまるで…野試合の様…。

 なんと言いましたか?

 

 ……

 

 そうそう…タンカスロン。

 

 

「…でも、意外ねぇ。ダージリン」

 

 ダージリンと私…。

 向かい合わせに座っている、合宿相手…その総隊長が、口を開きました。

 相変わらず、猫舌なのでしょうか? ゆっくりとティーカップを口に運んでいますね。

 

「あら、何がでしょうか? カチューシャ」

 

「貴女が、私達に戦車を貸すなんて…。それが、練習用の戦車だとしても…だけどね」

 

 …そうですね。

 戦車を貸すなんてね…。

 しかし、流石にバレていますわ…貸出した車体が、練習用だと。

 

「…そう? でも、今回はそれも仕方ありせんわ。保有車輌数が違いますもの」

 

「はっ! 流石に資金のある学校は、違うわよねぇ…」

 

「…………一概にそうとは、言い切れませんが」

 

「…ン? 何か言った?」

 

「いいえ。なんでも」

 

 ……。

 

「にしても…」

 

「何がよ、ノンナ」

 

「私は、それよりもこの案を通した事に、疑問を感じます…こんな演習…」

 

「そう? 私は何となくわかるけど」

 

「カチューシャ?」

 

「タカーシャの案…。この乱戦の目的を、口にはしていたけど…それはそれ。納得もしている」

 

「各々の判断能力…臨機応変に対処する為の訓練…」

 

「そうね。指揮系統の言う事を聞くのは前提条件だけど……私は、私のいう事を聞いているだけの、人形はいらないわ」

 

「…何が起こるから分からないのも、戦車道。孤立する事も当然考えられますからね」

 

「そうそう。ウサ耳リボンが言うとおりよ。命令がなければ何もできない…そんなんじゃ困るのよ。でしょう? ダージリン」

 

「そうですわね。全員の能力向上が、この合宿の目的で…「 後、もう一つ 」」

 

 

「……」

 

 

「特に、ダージリン。アンタの事よ。…他に目的もあるのよね?」

 

「目的? さぁ? なんの事でしょう?」

 

「…タカーシャに練習内容を打診したのは、その為よね?」

 

「……」

 

「幼少から「西住姉妹」と、幼馴染み…。はっ! 娘に指導しないなんて、ありえないしね!」

 

「幼馴染み? そういえば…そうでしたわね」

 

「なにをすっとぼけてるのよ。…戦車道の練習なんて、素人…しかも男なら、見る機会なんて皆無に等しい。でもタカーシャなら確実に、西住流…しかも、その家元指導の元…西住流の練習を、見た事がある」

 

「……なる程。隆史さんが、あの姉妹が練習をしているのを、何度か見ていたと言っていましたからね。…しかもご実家で」

 

「そうよ、ノンナ。要はね? …人間、知っている事しか知らないのよ。聞かれれば、その知っている事からしか、答えられない」

 

「……」

 

「…西住流の練習方法…それを、タカーシャから引き出したいのよね? 素人のタカーシャなら、それがどんな価値があるかも知らずに、ベラベラ喋るでしょうよ」

 

「黒森峰では、練習を一部公開はしていますけどね…。それでも細かい所は分からない…だから。…と、いった所でしょうか?」

 

 気が付けば、糾弾するかの様に、プラウダ高校のお二人は、ダージリンを睨んでいます。

 

 …まったく。

 

 睨まれたからなんて理由ではないでしょうね。

 カチューシャさんの話の途中から、酷く顔色が悪い。

 いつもの様に、シレッとした、トボけたような顔ですらする余裕がないのでしょう。

 誰が見ても、分かりやすく動揺していますわね。

 

 えぇ…本当に、分かりやすい。

 

「…アンタが、なにを思って、どうしようが関係ないけど…タカーシャを、ただ利用するつもりってだけなら…………許さないから」

 

 確かに西住流の練習方法を取り入れる、もしくは把握をしていれば、大きな利益になるでしょう。

 普段の練習…演習……それは、素人が見れば分からないかもしれませんが、実際に戦車道を履修している者からすれば、大きな価値がある情報。

 幾らでも、そこから…それこそ、色々なデータを絞り出す事ができる。

 

 しかしですね。カチューシャさん。

 

「…………」

 

「ダ……ダージリン? アンタ、なんて顔してるのよ…」

 

 見れば、お分かりでしょう?

 そうですよ…今のダージリンに、正直……そんな事を画策する余裕は、ないでしょうね…。

 ほぅら、手に持つティーカップが、音を出し始めましたよ。

 

「ノ…ノンナさん」

 

「はい? 私ですか?」

 

「…変な所が鋭いですわよね? …隆史さん」

 

「……そうですね。分かって練習内容を仰ったのか…それとも、その時は兎も角、今はもう気がついているか…」

 

「そ…その様に、打算的な嫌な女と思われてしまっていると!?」

 

「はい? あの…ダージリンさん? ダージリンさん!? 熱くないのですか!?」

 

「己が利益の為に、人の善意を食物にしていると!?」

 

「そこまで、言ってませんが…」

 

「ちょっと…。それ以前に、なんで私じゃなくてノンナに確認とるのよ」

 

 あぁ…ガッタガッタ震えてますわね…。

 バッシャバッシャ、紅茶をこぼしてますわよ…。

 

 はぁ…。

 

「カチューシャさん、ノンナさん」

 

「何よ、ウサ耳」

 

「なんですか?」

 

「今のダージリンに、余計な事を考える余裕なんてありませんわ…それ以前に…」

 

「」

 

「「 ………… 」」

 

 私の言葉に合わせ、ダージリンを見る二人が、絶句した…。

 虚空を見つめ、信じられない程に青くなっているダージリン。

 

 まったく…

 

「ど…どうしましょう……。特にあの姉妹を引き合いに出した…とか……特に怒りそうな…」

 

 ブツブツと独り言を漏らすダージリン…。

 こんな彼女は、そうそう見れない…見れない…ですけど…。

 

「…ちょっと、ダージリン…? 貴女…」

「あぁ…なる程」

 

「いいですか? ダージリン…ただ、単に尾形さんとこの場に来れる事を、楽しみにしていました…。特にダージリンは…」

 

「「 …… 」」

 

「へ…下手な言い訳…いやっ! でも…しかし……」

 

「この手のお話に置いて…………ズブの素人…」

 

 

「「 ………… 」」

 

 

 尾形さん風に、言うならば…ポンコツ…。

 

「…後ですね? 少々、グロリアーナで問題が発生しまして…。そんな折…私は尾形さんを合宿に…いえ、合宿自体に反対でしたから。それでもって、強引に進める程ですよ?」

 

「なんか、同情する程、動揺してるわね…見たこと無いわよ、こんなダージリン…」

 

「ですね。まぁ…何となく理解はしますが…」

 

「ダージリン…ただ、尾形さんが、私達の戦車道に関与…関係してくれる事が、嬉しくて仕方がないみたいで…ここ2、3日ですが…気持ちの悪い笑みを、何度かしていましたわ」

 

「……ノンナと一緒か…」

 

「…!?」

 

「ですから、本当に今回、私達の隊長様に、裏表はありませんでしてよ?」

 

「「 ………… 」」

 

 小刻みに震え続け、完全に動きを止めた姿勢で、虚空を光のない目で見つめるダージリン…。

 それをまた、見つめる私達四人。

 

「あの~…」

 

 はい、その四人目。

 

 今まで黙っていたアンツィオの隊長さんが、小さく手を上げた。

 貴重ですよ? 空気が読める方って。

 

「黙って聞いていたけど…隆史って…え? 西住流? あの黒森峰の姉妹と、知り合いなのか?」

 

「あら? 聞いていませんの? 幼馴染みらしいですわよ?」

 

「……初耳だ…。まほも特に…」

 

 あら? 何か一瞬、考え込む仕草を…。

 

「ふ~~む。なぁ、ダージリン」

 

「ドウシマショウドウシマショウ…」

 

「…いやな? 聞いて? …その当の本人だけどな?」

 

「シマ……はゥ! はい!?」

 

「はぅって…。まぁいいや、隆史の事なら、大丈夫だろうよ」

 

「なっ!! なんでそう言い切れますの!? 隆史さん、特にこういった事を嫌うと…」

 

 ……。

 

 別人じゃないでしょうか? この隊長…。

 少々、必死過ぎやしませんか?

 

「だってなぁ…あれ見ろ」

 

 はい、その当の本人。

 

 少し離れた所、数名の生徒に楽しそうに声を掛けている。

 ズラッと、並んだ生徒…。

 ここにいない、オレンジペコ。それにカルパッチョさん…でしたか? 私を随分と見ていましたが…。

 まぁいいです。

 その戦車に乗り溢れた方…特に装填手の選手を集めて…。

 

「きつい!? 大丈夫だ! 成長への産声だから!!」

 

《 …… 》

 

「喜んでいる! それは今! 君の筋肉が歓喜の声を上げているんだ!! 後一回! できる!! 君なら後二回はできる!!」

 

 数が増えている所がひどい…。

 砲弾を片手に持たせ…筋トレというのをしていますわね。

 ダンベルの様に、反復運動を繰り返し行う訓練をしております。

 その一人一人の横に、並んで付いて…なぜでしょう? とてつもなく輝く笑顔で、応援してますわね…。

 

 筋力は確かに、装填手には必要不可欠…でもですね? なぜ見学者の彼が、名乗りを上げたのでしょう?

 

「あの…隆史様…。これ…本当に必要なんですか? 砲弾を持ち上げる程度の筋力があれば、十分かと…」

 

「いいか!? オペ子!!」

 

 徐に、地面に転がっている、別の練習用砲弾を片手で少し放り投げ…近くにある練習用の装填装置に対し…。

 

「ほれっ!」

 

 一瞬で、ガコンと…音を立てながら、放り投げ入れました…。

 本来、砲弾を持ち上げ、構え、挿入…装填……の工程があるのですが…何段階かをすっ飛ばしましたね。

 

「本来なら!! こんな事しちゃ、危ないからダメだけどな!? 軽く持ち上げられれば、装填スピードも上がるんだ!!」

 

「り…理屈は、分かりますが…」

 

「しほさん…西住流の家元様からの、お墨付きだ!!」

 

「そう…なんですか?」

 

「まぁ!! んな事は、二の次だけどな!! なんか、諦められた目をされたし!!!」

 

 

 

 ……。

 

 …………なんでしょう? あれ。

 

 

「…な?」

 

「……」

 

「無駄に機嫌がいいし…アイツなら、悪意を持って、他者を巻き込まなければ、特に怒ったり、嫌ったりしないだろ」

 

「え…しかし、その他社である、西住姉妹を巻き込んだと……思われていなければ良いのですが…」

 

「あぁ~。直接、本人に聞いてみれば?」

 

「…ぇ。そんな…聞ける訳…」

 

「例え、そう思われていても、素直に謝れば、ダージリンならアッサリ許してくれるんじゃないか? そう言う奴だろ? ちゃんとメリハリはつけているだろ」

 

「ア…アンチョビさん…」

 

「お前の態度見ていたら分からるよ。他意はないんだろ? んなら、誤解だって私からも言ってやるからさ!」

 

「ドゥーチェさん!!!」

 

 

 ……おい、隊長。

 

 ですが…。

 

 

「しかし…隆史さん…」

 

「なんすか!? カルパッチョさん!!!」

 

「明日…筋肉痛がすごそうです…」

 

「だいじょうぶ!! それは、筋肉が成長する証!! 産みの苦しみ味わうは必然!!!」

 

「多分…言っている意味が違うかと…」

 

「超回復!! 強くなる!! それは、成長の証!! 筋肉は成長し続けるんです!!! しかも!! ……慣れれば、その痛みも快感になりますから…」

 

《 ………… 》

 

「裏切らない!!! 筋肉は裏切らない!!!!」

 

 全員がすっごい引いてますね…。

 プラウダ高校の生徒も含めて、すごい顔をしてますわね…。

 彼の体格を見て、体育教師だとかと、思っているのでしょうか?

 ここまでは、渋々ですが、言う事を聞いてましたが……。

 

 

 まぁ…良いですけど…。

 あちらは、あちらで…。

 聞こえてくる無線機の音声からは、不安感をやたらと煽られますわね。

 

『リミッター!! 外しちゃいましてよ!?』

『リミッター? んなもん、ついてんのか? この戦車』

 

 …無線機から、戦車内の音声が聞こえてくる…。

 ダージリンの変わり様と態度で、その聞こえてくる席は、凄い事になってますが…聞いてませんね。

 あぁ…アンツィオのペパロニさん…でしたか?

 溢れてしまったので、一輛だけ設けた、混合チームでしたか?

 

『この戦車にはついてませんわ!!』

『…は? 運転に集中したいからよぉ。適当な事、言うなや』

『外すのは、私!! 心のリミッターでしてよ!?』

『聞け。そして、何言ってんだ? オメェ』

『何事も…その気になれば、なんでもできる…』

『……』

『どんな無茶な状況でも!! 心にあるリミッターさえ外してしまえば!! 私は最速にして最強でしてよ!!!』

『…リミッター…』

『この、不利な状況も、それでなんとかなりますわ!!』

『…なる程! いい事、言うじゃねぇかオメェ!!』

『分からない!! 分からないぃぃ!! どしてそれで、会話が成立するだ!?』

 

 ……。

 

 なまりのある声が、絶叫してますわね。

 尾形さん風に言えば、突っ込みが不在…って、やつですかね?

 

 はぁ…。

 

 ダージリンも…そろそろ、その気になってくれませんでしょうか?

 時間…でしてよ?

 

 …昼過ぎには本当にお越しになりそうですから…。

 

 

 あの方々が…。

 

「…しかし、タカーシャ…。生き生きしてるわね」

 

「そうですね」

 

「んぁ? なんか用か? カチューシャ」

 

「…なんでも無いわよ」

 

 全員で注目をしていると、その視線に気付いたのか、無駄に輝く笑顔で見てきましたね。

 

「ん? どうした、ダージリン。人の顔ジッと見て」

 

「ふふっ…私の視線が、お気になりまして?」

 

「いや…なんで、いきなり勝ち誇った顔をするんだよ…」

 

《 ………… 》

 

(急に、いつもの様になりましたね)

(取り繕うのは、得意だな。ダージリン…)

(先程の狼狽ぶりを、教えて…やめましょう。なぜか危険信号を感じました)

(あぁ~…隆史、そういうギャップ? とか、そういうの好きそうだしな)

 

「あぁ、そうそう。ダージリン」

 

「なんでしょう?」

 

「練習内容の件か? 今の話、聞こえてたけど…」

 

「なっ!?」

 

「お前がそういった事で、俺を利用するとか考えてないから、気にするな」

 

「…ぇ」

 

 草原の中。

 少しこちらへ近づき、腰に手を置きながら…また、笑顔でそうおっしゃいました。

 

「ダージリンが、腹黒い事は知ってるけどな? 自身の利益の為だけに、何かする奴じゃないって事も知っているつもりだからな」

 

「……」

 

「というか…そうか。練習内容とかも、余り話さない方がいいのか…」

 

 はっはーと、いつもの特徴的な笑い方をしながら、今度は……。

 

「あぁ後…千代美も、ありがとな」

 

「んんっ!?」

 

「お前のそういった性格。結構、好きだぞ」

 

「なっ!?」

 

 いつもの様に変に軽く、人によっては軽薄にも取れる態度。

 ダージリンへと気遣った、彼女に対しての事でしょうが…。

 

「…………」

 

 ありがとう…お礼。

 その言葉の効果は、アンチョビさんに対しても有りますが…あの言い方ですと、ダージリンに気を使ってくれてありがとう。

 つまりは、ダージリン側としての発言。

 深読みしすぎでしょうが、変に思考を繰り返す事が癖になっているダージリン。

 昨日の生活の一部発言も相まり…。

 

「」

 

 …それは、今のダージリンにとって、痛恨の一撃…。

 自覚は無いのでしょうが、弱っている所を、狙いすましたかの様な攻撃ですわね…あの男。

 アンツィオの隊長にもそうですが、他意も何もなく、素直に言うので、またタチが悪い…。

 

「ノンナ。…なんか、面白くないわね」

 

「…同感です、カチューシャ」

 

 あぁ…もう…。二時間程前のダージリンに、今のダージリンを見せてやりたい…。

 中身がないティーカップを、楽器の様にカチャカチャと…。

 …言葉が出ないのか、押し黙ってしまいました。

 

 腹黒いとか、言われたのに聞いていませんね。

 …ここまで、人を変えてしまう様なモノなのでしょうか? 恋とやらは…。

 

「あっ! そうだ。お前らもやるか? アレ」

 

「はい?」

 

 腕を一生懸命に曲げている集団を指して…今度は、宗教勧誘をする方の様な笑みを浮かべましたね…そのダージリンのお相手。

 

 はぁ…。

 

 変な宗教にしか、思えませんよ…あの集団。

 そもそも、思いつきで話を変えないでください。

 私達は、装填手では、ございませんので、寧ろ余計な筋りょ……

 

「二の腕、痩せるぞ?」

 

《!!!》

 

「たるみが無くなって、引き締まるな。それと…やり方によっては、腹筋も使うから…ウエストを引き締めるって方法もあるしな」

 

《!!??》

 

「ダンベル…あぁ、今回は砲弾を利用してるけど、ああいった筋肉の付け方って、部分、部分を集中して鍛えられるからな。効果もでかい」

 

《  》

 

「あぁ~…でもまぁ。戦車道には関係ないな」

 

《 やります!! 》

 

 やります。

 

「え…やるの? …思いの他、食い付きが良くてびっくりだ…」

 

「それは、普段日常でもできますか!?」

 

「アッサムさん!?」

 

「できますか!?」

 

「え…あぁ、はい。ダンベル持ってなくても…ペットボトルに砂入れたり、水入れたりで…」

 

「後は方法ですね!! 教えて下さい!!!」

 

 二の……腕……。

 

 

 …早く。

 

 

 早く!!

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「あっはっはっは!! それで全員で、筋トレしてたのか!!!」

 

「……ぅ」

 

「天下に轟く、お嬢様校の聖グロリアーナッ!!! それがっ!! 北海道にまで来て! 青空の下!! 皆揃って、筋トレ!!!」

 

「……くっ」

 

「どこのブートキャンプだい!!??」

 

 いやぁ…なんか、アールグレイさんのツボに入ったみたいだ。

 涙浮かべて爆笑してるよ…アンタ、一応お嬢様の部類に入るんだろうが…。

 手を叩いて、爆笑するなよ…。

 

 アッサムさんは、なんか外向いて、真っ赤になってるし…。

 別に、恥ずかしい事じゃないと思うけどなぁ…。

 

 そうだなぁ…一応フォローいれとくか。

 

「アールグレイさん」

 

「なっ…なんだい!? はっーはっー!!」ヒィー!! ヒィー!!

 

 …そこまで笑うか。

 

「 筋肉は素晴らしい 」

 

「 」

 

「……」

 

「……」

 

「素晴らしいのですよ?」

 

「は……はい。すいませんでした」

 

 なんだろう…にこやかに言ったのに、なぜかアールグレイさんの笑顔が消えた。

 あぁ…そうだ。

 

 彼女にも教えてあげよう…。

 

 

 筋肉の素晴しさを…。

 

 

 

「えっ!! 遠慮しとくよ!! なんだい、その凄まじく悪い笑顔は!!!」

 

 

 

 …口に出す前に、拒否された。

 

 あぁ…。

 

 まぁいいや。

 

「戦車道連盟に所属してるなら、あのハゲに聞けば、居場所なんてすぐに分かりますからね?」

 

「あの…マジな口調は、やめてほしのだけど…」

 

 

「 逃がしませんからね? 」

 

 

「 」

 

 

 よし。

 

 一名できそうだ。

 まずは、どこを…あぁ……今は、違う。

 それは今度だ。

 

「ま…まったく」

 

 あ、アッサムさんが、帰ってきた。

 バツが悪いのか、目の前の紅茶に口をつけましたわね。

 

 ……。

 

 ……彼女の私服…半袖から出て見える白い肌。

 

 その腕…。

 

「……なる程。続けてますね」

 

「どっ! どこ見て言っているのですか!!」

 

 

「 筋肉です 」

 

 

「……隆史さん。貴方もそろそろ、戻ってきてください」

 

 む…。

 言われて気がついた。

 少々、熱くなってしまっていたか…やれやれ。

 

「…やれやれは、私のセリフだよ…隆史君が、少々怖く見えた…よ……どこ見てるんだい!!??」

 

「 筋肉です 」

 

「それは、もういいよ!!」

 

「…二の腕………上腕三頭筋にたるみが…後、二頭筋も……これは…」

 

「なっ!?」

 

「ふ…ふふっ! 鍛え甲斐がありそうだぁ…。アールグレイさん。ちょっと腕を上げて、左右に振ってみてくださいよ」

 

「嫌だよ!!! なっ…一体、何なんだい!?」

 

 

 

「 確認です 」

 

 

 

「もういいから! 次に行ってくれ!!」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「…なんですか、これは」

 

「……」

 

 一頻り、隆史さんのおっしゃる方法で、皆で砲弾を一生懸命に動かし続けた後…。

 いつの間にか、二人のお客様が現れました。

 

 …忘れてた。

 

 見学に、お越しになるかもしれないと、予め一報を受けていたと言いますのに…。

 豪奢な出で立ちの婦人…日傘を挿して、私達を呆然と眺めています。

 その隣には、見覚えのある御仁…。

 あ…よかった。昨日は変な動画をご覧にならなかったようだ。

 特に奇抜格好もしていない…我が校の…。

 

 OG達。

 

 ダージリン含め、他の生徒もその来客に気がついたのか、浮ついて、緩んでいた思われる気分が、一気に張り詰めた。

 スッ…と目を細めこちらを睨んできている。

 

 即座に、ダージリンが反応しました。

 他の生徒が怯えてしまっているのもありますが、今回此方にあの方達がお越しになった理由は、分かりきっていますからね…。

 ゆっくりと近づく彼女に、気を使ってくれたのか…従者の様に横に立っていたお方が、口を開いてくれました。

 

「ご機嫌よう、ダージリン。お久しぶりですわね」

 

「えぇ…お久しぶりですわ。アールグレイ様も、お元気そうで…」

 

 ピリッとした空気が、周りの風の音を大きく感じさせる。

 その緊張感が入り混じった二人の会話に、プラウダ校の生徒の方々も息を飲んでいますね。

 カチューシャさん、ノンナさん。涼しい顔をしていますが、その高校の代表すら空気を呼んでいらっしゃいますから。

 

 ……。

 

 一応、尾形さんも気を使ってくれているのでしょうか?

 口を開かず、黙って作業をしています。

 

「……」

 

 …使ってくれているのですよね?

 

 転がっている砲弾を、整理する為なのか…拾い集めてますけど…。

 すっごい笑顔で…。

 

 さて…。

 

「アッサムさん」

 

「はい、なんでしょう? ノンナさん」

 

「あの方々は…? あのダージリンさんから、緊張の色が見えますが…」

 

 ダージリンが挨拶を交わした方……アールグレイ様。

 

 私達を直接指導して頂いていた先輩…。

 一応、現状では通常の状態…とでも、言うのでしょうが、まともな状態で…本当に良かったです…。

 

 そしてその、アールグレイ様が従者の様に付き添っている方。

 豪奢な格好の、聖グロリアーナ卒業生にして、すでに20台半ばのご婦人…。

 今は「クルセイダー会」の方…でしたわね。…最近、特に口うるさく関与してくる我が校の先輩。

 

 我が校は、OGの権力が凄まじく…。

 資金提供などしてくれてはおりますが、その分…発言権も強く、現在の顧問、教師…時代によっては、現場の隊長各の方よりも強い。

 作戦、戦車の編成にまで口を出し、現場の意見は聞かない場合も少なくはない。

 

「ふ~ん」

 

 あら、気がついたら尾形さんも、此方に来てましたわね。

 カチューシャさんと、ノンナさんと肩を並べ、私の話に相槌を打っています。

 

「しっかし、編成にまで口出してくるの? うっざいわねぇ…」

 

「えぇ…まったく」

 

 はい、とても賛同いたします。

 

 その皆の視線の先…。

 ダージリンは、先ほど見せていたポンコツ具合(尾形さん談)は、見せておらず、真剣な目で微笑を浮かべながら、社交辞令を交えて…会話をしております。

 とてつもなく牽制した喋り方…いつものダージリンへと戻りましたわね。

 

「ふむ…なぁ、アッサムさん。あれ、ダージリンの奴、結構怒ってないですか?」

 

「…え。あぁ…アレは怒っていると言いますか、ダージリンのOG会の方々と話す際の癖と言いますか…会話術の様なモノです。女性同士…更には、あれ程の方との会話は、結構気を使うのですよ」

 

「ふーん。…でもなぁ…あれは、威嚇にも見えるんだけど…」

 

 威嚇…まぁ分からなくもありません。

 今回いらしたのは…例の件でしょうね…。

 その豪奢な格好をしたOG…現役時代は、確か、キャンディー様と名乗っておいででした。

 各紅茶のソウルネームと言われる物を、ある程度選ばれた選手へと命名するのも、我が校の伝統…。

 あの方は、何世代か前の聖グロリアーナの隊長を務めたお方。

 勿論、その名はあります。

 

「ま、要は何かしらした、ダージリンに何かクレームを言いに来たって事? こんな所まで?」

 

 カチューシャさんが、特につまらなそうに言い捨てました。

 

「まぁ…現状の聖グロリアーナの視察も兼ねていると思いますが、概ねその様な所ですね」

 

「はっ…暇なのかしらね?」

 

「お暇なのでしょう」

 

「アッサムさんも結構言いますね……」

 

 そうですか?

 少し苦笑して、その様な事を言われてしまいました。

 しかしですね? そんな嫌味の一つも、言いたくもなりますよ…。

 

「苦労していたダージリンを間近で見ておりますから…新しい戦車を導入した位で、ここまで来ますか? まったく…」

 

「新しい戦車って…この前の練習試合で出した、アレ? クロムウェル巡航戦車の事?」

 

「そうです」

 

 そう…特に、「マチルダ会」「クルセイダー会」「チャーチル会」の内、特に口うるさいのが、最大派閥の「マチルダ会」。

 前回、漸く購入をし、お披露したクロムウェルを見て、余程気に食わなかったのか…伝統伝統と、まくし立てて来ました。

 あぁ…もう。窓口になってしまった私の苦労も、誰か理解してくれませんでしょうか?

 

 でも…しかし。

 その「マチルダ会」の方がいらしたのでしたら、分かるのですが…何故「クルセイダー会」の、キャンディー様がいらしたのでしょう?

 

「…あぁ…なる程。そういう…」

 

「尾形さん?」

 

 私が呟いた疑問が、耳に入ったのか…しかもソレを聞いて何故か納得した顔をしましたね。

 何を…その後、根掘り葉掘り、クルセイダー会の事をお聞きに…あの…答えた私が言うのもなんですが、本人がそこにいるのですが…。

 

「ふ~ん。大変ねぇ、お嬢様学校ってのも! でもアンタ、自分の学校の内情をバラしちゃって」

 

「愚痴だと思って、聞いてください。結構、このお話は有名ですからね。調べればすぐに分かる内容ですし、問題ありません」

 

 はい。愚痴です。

 

「アッサムさん」

 

「尾形さん? なんです?」

 

「その「クルセイダー会」って、三大派閥の中で、規模が中間でしょ」

 

「え? えぇ…そうですが…先程呼んだ順番が、その規模の順番ですが…」

 

「やっぱりなぁ…どこにでもいるなぁ。そういった連中」

 

 尾形さんは、なぜか知った様な事を言い…遠い目をして…「ふ~~~ん」と、目を細めました。

 どこにでもって…そうそう、お会いできないと思いますが?

 

「…はい?」

 

「「 …… 」」

 

 なんでしょう?

 何か納得した様な言い方をした尾形さんに対し、カチューシャさんと、ノンナさんの顔色が少し変わりました。

 

「タカーシャ。余計な事しちゃダメよ…」

 

「そうです。隆史さん。流石に内政干渉になりますよ」

 

「内政干渉って…。しないよ。する訳がないだろう?」

 

「そうかしら? あのダージリン見て、なんとかしてやろうとか、口出しそうだけど?」

 

「そうですね。プラウダではそうでしたし」

 

「しないって…」

 

 疲れた様に項垂れましたね。

 今のこの三人の会話は、少し何を言っているか分かりかねます。

 まるで…。

 

「タカーシャ……正直に言ってごらんなさい?」

 

「な…なにが」

 

「……」

 

「ノンナさん? …なんで、まっすぐ見てくるんですか…え? 俺も見た方が良いですか?」

 

「……っ!?」

 

 愛想笑いを浮かべ、誤魔化す様にノンナさんを見つめ返す様にしました。

 天然…とでも言うのでしょうか?

 

「……」フイッ

 

「目を逸らしたんすか…」

 

 …真正面から、態々体まで向きなおして…。

 少し非難する様に見つめていたノンナさんを、正面から捌く…と、言いますか強引にやめさせましたね…。

 

「た…隆史さんなら、アレ…どうにか、できそうな言い方しましたから。…計算しましたでしょう?」

 

「ん? あぁ…まぁそうですね。あの…キャンディーさん…でしたっけ? 後は、どんな方かさえ知れば…簡単に、追い返すくらいならできそうですけど?」

 

「 はっ!? 」

 

 …何を…簡単!? 言うに事書いて簡単!?

 ごくごく、普通に言い放ちましたね…。

 あんなめんどくさい、ヒステリー気味の女性を?

 しかも伝統、伝統…そんな事ばかり言っている、頭の固い方なんですよ?

 

 …できる訳がないでしょう。何言ってるのでしょうか、この…

 

「…ま。戦車道に、ほぼ関係していない俺だから言える…出来る…って、事ですけどね。まぁ関係者だけでは、まず無理だろうな」

 

「…隆史様」

 

「オペ子?」

 

 一年という事もあり、暫く黙っていたオレンジペコが、ここで口を開いた。

 不安な顔と、信じられない顔…入り混じった…。

 

「あの方…特に気難しい方で…でも……あの…」

 

「あぁ、しないしない。できる、できないを言っただけだ」

 

「……」

 

「そうだなぁ…まず……戦車購入なんて、学校資金とはいえ、大変だろ? それをそんな、御局様みたいな人達に対し、全くの内密にできるなんて思えない」

 

「ま…まぁ」

 

「でも実際に購入はできている。…一部、協力者を作ったりとか、したんだろ? …それを含め、ダージリンやアッサムさんも苦労したろ?」

 

「……しましたね…えぇ……物凄くしました…」

 

「だから俺が、簡単だと言ったのも、鼻で笑うかもしれないですけどね。…あの手の立場の人間でしたら…まぁ?」

 

「…それは、口八丁のタカーシャだから、可能なだけじゃないの?」

 

「詐欺でしょか?」

 

「詐欺ね」

 

「……泣くぞ」

 

 漫才はいいです。取り敢えず苦労した事ばかりが、脳内を駆け巡りますよ…。

 えぇ…ダージリンの無茶を聞いて…ダージリンのワガママを聞いて……。

 まぁ…交渉はその隊長様でしたけど…。

 私は主に、資金繰りと尾形さんが言うように、協力してくださる方々への交渉…。

 全く…裏工作というのは、物凄く神経を使うのです…。

 

 ただ、そこまでと打って変わり…ヘラヘラした顔を、顔を引き締め…。

 

「これは、聖グロリアーナの問題だ」

 

 オレンジペコに向かい、はっきりと言いました。

 

 

「だからこれは、代表者のダージリンが、最後までやるべきだ。第三者が口を出すべきじゃない」

 

 

「「「「 …… 」」」」

 

 ……。

 

「まっ。アドバイスくらいなら、聞かれば教えるけど…」

 

 彼が言っている事、言いたい事は分かります。

 ですけど、それは精神論です。

 

 私は、好まない。

 

 本当に彼が可能だと言うのならば、手段を選ばず頼むべきでしょう。

 しかし、不確定な与太話としてしか思えない、彼の話を鵜呑みになんて…。

 ですから、ここはダージリンに頑張ってもらうしか…。

 

 私の目線の先…お茶為に、先程まで使っていた席にも座らず、立ち話を続けているダージリン。

 二人のOGへと、愛想笑いを浮かべ…遠まわしに。そのまま交渉でもしているのでしょうか?

 

 …しかし、アールグレイ様があちら側とは…。

 少々以外ですわね…。

 ある意味で、ダージリンが苦手とする先輩でしたからね…分が悪いのでしょうか?

 

「……」

 

 後は、ダージリンまかせ…。

 ここまで私も関係してきたのです…ただ、眺めているだけと言うのも…。

 

 …先程までの喧騒もなく…今はただ、風の音だけ。

 静かにダージリンの姿を、全員で眺めているだけの時間…。

 

 そう…時間が、ただ過ぎてゆく…。

 

 

「……」

 

 

 ……。

 

 こうしていても、何も変わりません。

 …仕方がありません。今はどんな手を使ってでも、あの方をなんとかしなくては。

 

「尾形さん」

 

「はい?」

 

「……本当に、貴方でしたら何とかできますか?」

 

「え…まぁ、あのキャンディーさんの立場なら…少なくとも追い返す位なら…」

 

「……」

 

 いとも簡単に、また言い放ちました。

 そこまで言うと、協力はしないとばかりに、再度、また転がった砲弾を拾い集めに行ってしまいました。

 それを追う、オレンジペコ。

 少し心配そうに、此方を振り向きながら、尾形さんと話しながら、彼を手伝い始めた。

 

 ……。

 

 あの様子では、協力は無理そうですね。

 あそこまで、彼は頑なな方でしたでしょうか?

 ダージリンが最後までやるべき…そう仰っていましたけどね…少々、冷たいかと思いますわね。

 

 …まぁ宜しいですわ。

 初めから余り、期待はして…

 

 

 

「ウサ耳」

 

 

 

「…その呼び方は、酷く限定すぎます。やめて頂きたいですわ」

 

 リボンって、だけではありませんか。

 プラウダの隊長様から、耳打ちの様に話かけられました。

 尾形さん気がつかれない様に…? なぜまた?

 

「ダージリンならプライドが邪魔をして、こんな内部の事なんてタカーシャに何も言わないわよね」

 

「そうですね。あの現状を見られる事すら嫌がりそうですが…」

 

 …ですが、今回は合宿。それを優先した。

 身内の恥を晒してまで…。

 まぁ、キャンディー様がまさか練習中にお越しになるとは、思わなかったのでしょうが…。

 

「アンタなら、結果を優先させるわよね」

 

「…まぁ」

 

「……正直、ダージリンへ借りもあるし…いい事、教えたげる。私達でも滅多に使わないし…使えないけど」

 

「あら、なんでしょう?」

 

「本気で貴女達が、参っている………ならね」

 

 上からの圧力。

 それを痛いほど理解している彼女ですからね。

 変に同情してくださったのでしょうか? 借り…と、仰っていますけどね。

 

 

「 助 け て 」

 

 

「…はい?」

 

「………タカーシャに、言ってごらんなさい」

 

「尾形さんに?」

 

「本当の意味での「手段を選ばない」という言葉を理解できるわ」

 

「…え」

 

 バツが悪い見たく、今度は後ろ向き…誰に言う訳でもないように呟きました。

 ノンナさんのいる場所へと、戻っていく最中…最後に。

 

「ある意味で、本当に……本気で、タカーシャに対して卑怯な方法。だから、今回だけよ?」

 

「どういう…」

 

「…そう今回だけ。まぁ…アレだし、ダージリンが本気で困っていそうだから良いけど…。最初に言ったわよね?」

 

 

 

 地吹雪のカチューシャ。

 

 

 その二つ名を嫌でも、思い知らされる程の…圧…というのを感じました。

 半身…此方を振り向いて…此方を睨みつけてきました。

 そしてこれからの事だろうか? 色々な意味を含めての一言でしたのでしょう…。

 ですから…これは、素直に従おうと思います。

 

 

「ただ、利用するだけなら……()()で許さないから」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 アドバイスだけ…そう言ったのに…。

 

 そのアドバイスを言った直後…アッサムさんに手首を掴まれて、ダージリンの元へと連れて行かれてしまった。

 その聖グロOG連中と、話す気も全くなかったのに…。

 まぁ…俺を引きずれるなんて、あの細腕からは思えなかったから、特に何もしなかったけど…案の定。

 顔を真っ赤にして、両手でウンウン言いながら、動かない俺を引っ張るアッサムさんが、流石に可哀想になって…同行してしまった。

 

 はぁ…。

 

 

 ……助けてください…ねぇ?

 

 頭を下げられてしまった…あのアッサムさんに。

 本当にこの件は、ダージリン達だけで解決するのが、今後の為にもなると思うのだけど…。

 

 甘いなぁ…俺。

 

 結局はソコだ。その言葉に動いてしまった。

 

 それに…ダージリン。

 微笑を浮かべながらも、真剣な目をしている横顔を暫く見ていた。

 それに水を差すのも悪いからなぁ…。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ま…少し、様子見…だな。

 あのキャンディさんとやらの、為人を見て…判断するか。

 どうするかは、それから決めよう。

 

 …まずは、現状。

 

 そう思っていた。

 

 OGのお二方からは、まず不審者を見る目で見られる。

 まぁ当然だなぁ…女子校の合宿に野郎が、混じってるんだから。

 

 はい、では、お互い自己紹介。

 

 俺が名乗れば、相手も名乗る。

 …キャンディーさんとやらは、汚物を見る目を向けてきましたけどね。

 

 綺麗な顔立ち…まぁ、美人と言われる部類に間違いなく入る。

 ショートカットの栗色の髪…いやぁ…目は、キッツいなぁ…。

 どこぞの貴婦人? ってな感じの服装で固め…俺と口すら聞きたくなさそうに、不機嫌を絵に書いたようお顔をされていますね。

 はい、一通り、何考えてんだ、この野蛮人。…みたいな悪口を遠まわしに、何度も頂きました。

 自己紹介ですらねぇ…。

 

「初めまして…尾形…さん?」

 

「あ、はい。初めまして…」

 

 そしてこちらの方も、お嬢様を絵に書いた様な女性。

 アールグレイさん…と、おっしゃいました。

 風に、細く長い金髪をなびかせながら、丁寧に腰を少し落とした挨拶をされてしまった。

 微笑を浮かべ、…社交辞令という名の、言葉と顔を向けられた。

 

 …。

 

 物腰も言葉も柔らかだが、警戒の色を。少し俺に見せている。

 白を基調とした、嫌味のない服装…お淑やか。

 そんな言葉を彷彿とさせるも…この服も高いんだろうなぁ…お嬢様だし。

 

「まったく…男連れとは……はしたない」

 

 そのアールグレイさんとの挨拶…その横から、キャンディーさんの呟きが、何度も聞こえてきた。

 侮蔑顔を一切崩さないなぁ…。

 すっごい顎を上げ…強引に俺を見下す様な位置に目を持っていく。

 …疲れませんか? 首。

 

「ですから、彼は…」

 

 荷物持ち…雑用…。

 男手が必要だとして、雇ったと…苦しい言い訳で対応して頂いたダー様。

 …。

 うん…やはり、この時の彼女は、怒っていたのだろう。

 言い方は柔らか出し、特に言葉には棘がない。

 

 …が。

 

 なんとなく…俺には分かった。

 特に俺の事を、このキャンディーさんが言葉にすると、特に反応して…くれた。

 まぁ…ほぼ悪口だったしね。

 

 ……。

 

 後…そのダージリンを見て、アールグレイさんと名乗った女性が、たまに優しい目をしていたなぁ…そういえば。

 そんな彼女を見ている俺と、目が合うとまた…少し優しい目に変わる。

 その繰り返し。

 

(…尾形さん、先ほどのお話)

 

 すぐに、アッサムさんから耳打ちをされた。

 確かに俺の立場なら有利だとは、思うけど…彼女にも言ったが、これはダージリンやるべき事だ。

 …じゃなきゃ、学校代表として…伝統とやらに逆らってまでした、彼女の立つ瀬がない…。

 ない…が…。

 

 女の子に頭を下げられた。

 

 藁にも縋る思い…という奴だろうか?

 俺の戯言だと、普通は思うだろうが、それでも…って、感じだったのだろう。

 なら…少しは、答えてやらんと…俺の意思は、別にどうでもいい。

 

 そうだな。ダージリンの顔を潰さない程度に…。

 

「はぁ…じゃあ、ダージリン」

 

「隆史さん? …なんでしょう?」

 

 俺が言いたい事を、アッサムさんは理解してくれてはいたが…副隊長が、隊長の顔を立てないでどうするよ…ってね。

 だから最終的に、直接ダージリンへとアドバイスする為…という条件で、俺は彼女の同行に応じた。

 俺が、ダージリンへとアドバイスをし終わるまで、アッサムさんが代わりに彼女達に対応し、時間稼ぎをする…といった作戦だった。

 

 ……。

 

 結果から言おう。

 

 聖グロリアーナOGにして、クルセイダー会とやらのキャンディーさん。

 

 

 ……。

 

 

 チョロかった…。

 

 

 すげぇ簡単に篭絡できた…。

 

 ある意味で、助かった…卑怯な手を使わないで済んだ…。

 

 

 後、ダージリンの対応も凄かったってのもあるのだろう。

 俺が言った事を即座に理解、利用…そして使用した。

 というか、一瞬にして悪い顔になったしな…ダージリンさん。

 

 俺が思っていたシナリオが、かなり広がった。

 だから、俺もダージリンの話の流れに乗ろう。

 

 伝統伝統言ってる、キャンディさん。

 

 他の会からすれば、立場が微妙な、キャンディさん。

 下の会からの、追い越しを警戒し、上の会からの、無茶ぶりをなんとしたいキャンディさん。

 

 まぁ両方から色々言われてんだろ…。

 彼女の話を聞いていて、中間管理職を連想していたしな。

 

 だから俺からのアドバイス。

 ダージリンへと言ってやった。

 

 

 

 現在、導入したばかり。

 だから資金援助人、または会とやらが、今の所は無しだろ?

 

 ……伝統をやたらと重視している、中間管理職に…新しい伝統を用意してやれば? と…。

 

 …後は、ダージリンとの畳み掛け。

 よくわからない言葉も出てきたが、今まで頑なに守っていた伝統がまた増える…と。

 

 最初は勿論渋っていた…が、ここで俺だ。

 素人丸出しで、キャンディさんに質問攻め。

 

 当然分かっている事もあったが、敢えて言わないで伝統とやらの問題点を指摘。

 

 ダー様達が、お茶会にて嘆いていた事もあった火力。

 …簡単な事。聖グロリアーナの火力不足。

 

 その火力不足を補える…更には主力火力しての看板になり得る事。

 

 なにがダメなのか? どうしてダメなのか?

 素人が疑問として聞きまくれば、最終的には「伝統だから」の一言に終着する。

 火力不足は、この人が現役の時にも問題になっていただろうよ。

 ここで伝統やらが、邪魔をする。

 

 …しかし、今はある。

 

 前回はその…えっと、クロムウェル? とやらを出せたが、これから他の会やらが邪魔をしてくる可能性がある。

 しかし、貴女が代表になってくれさえすれば、なんとかできそうでしょう? と、いつの間にかクロムウェル会が、あるかの様に発言を繰り返す。

 

 ゆっくりと…着実に、話をずらして行く…。

 

 

 伝統を守る事を常にし、新しく「伝統」を開拓できる事に気がつかない。

 それが餌になる事も、現時点での聖グロリアーナのダージリン達ですら、思いつかなかった事。

 ダージリンは、思い付きはしたが、現状の伝統が邪魔をして、それが成せない。

 頑張っても単発で新戦車を導入するのが、せいぜい。

 

「なら、クロムウェル会ではなく…」

 

 素人が発言する。

 臨機応変に対処できる会を発足したらどうかと。

 

 それにダージリンが食いつく……振りをする。

 伝統に縛られない、伝統。

 訳が分からないが、ある意味で実績が一番付きやすく…最終的な聖グロでの発言権は、一変するかも知れない…。

 

 俺も途中から火が入り、キャンディさんが想像を呟く度に面白くなってきてしまった。

 またその、ダージリンの説得する言葉もまた凄かった。

 彼女もまた面白くなっていたのだろう…だってキャンディさん。この人…心配になる程、素直だったから…。

 

 

 中途半端な発言権を持つ「クルセイダー会」。

 その代表者でもない、彼女が…新しい権力を持てる「会」の代表になれる。

 野心を煽り、現状を打開した彼女へと新しい選択肢。

 

 敢えて具体的な事を言わないで、彼女の想像力を煽るだけ煽り…最後には安全策。

 

 失敗したとしても、名前は出さない…成功した時だけ、代表として祭りあげますから。

 ですから、それとなし…ご協力を…。

 

 耳元で煽る…。

 

 ゆっくりと…真綿に水を染み込ませる様に…。

 

 時間を掛けて…。

 

 彼女の選択肢を狭めて行く…。

 

 

 

 

 はい、大丈夫です。

 

 はい、ここにサインを。

 

 はい、簡易的ですが契約完了です。

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

「やっぱり、詐欺じゃないの!!!」

 

「…違います。僕は現実を事実として、申し上げてただけです」

 

「えぇ。嘘は言ってませんわ。実際に彼女が、協力さえして頂ければ、実際に代表となりえる事ですわ」

 

「…契約書にサインまでさせておいて、どの口が言うのよ…」

 

「書かせてません…。あれはダージリンの悪乗りだ…いやぁ…喜々として言っていたな。そんな紙無いのに…」

 

「まぁ…退ける事は、成功したし…俺も、強引な手法取らなくてすんだし……良かったんじゃない?」

 

 あ~はい、そんな物、書かせられるはずがないでしょうよ…。

 実際に紙が、あったとしても…。

 ダージリンが変に悪乗りして、そんな事を口走っていましたけど…。

 

「ダージリンが、すぐさま理解して、合わせてくれたに驚いたな…アッサムさん。それであの場に俺を連れて行ったのか…。素直にすごいと思い知ったよ、ダージリン」

 

「ふ…ふふ…隆史さんとの共同作業……楽しかったですわね!!」

 

「…ダージリンさん。その言い方は、気に食わないですね」

 

 楽しそうなダージリン。

 なんでしょうか?

 …尾形さんは、ダージリンと相性が非常に良く思えました。

 ほぼアイコンタクトで、話の流れを作り、状況で変え…約束まで取り付けてしまった。

 

 確かに強引と言えば強引…。

 しかし、あの話が本当に成功していれば、キャンディー様にご協力して頂け、クロムウェルだけでは無く、他の新しい戦車も購入しやくすくなるでしょう。

 相手方の内部に協力者を作る事ができた…確かに大きな戦果です。

 …尾形さん、本当にあの御仁を、丸め込んでしまいましたよ…。

 

 はい…そんな訳で、尾形さんの部屋…。

 

 結局、筋トレで一日が終わった合宿初日。

 宿泊部屋での、事後報告と相成ります。

 狭い和室に、プラウダ、聖グロの隊長各様達が、何故か集合しています。

 

 …何故、男性の部屋に集まるのでしょう…。

 

 はい…それと、もう一人。

 

「そうですわね。間近で見ていましたが…固執している伝統を、逆手に取るとは思いもしませんでしたわ」

 

 …はい、なんでいるのでしょう?

 

「…なんで、アールグレイ様は、ここにいらっしゃるのでしょうか?」

 

 はい、オレンジペコ。その通りです。

 

「キャンディ様をお送りした後…予定もありませんでしたから。…ここに宿泊する事にしました」

 

《 …… 》

 

「そうそう…。ダージリンが固執している彼…が、送った彼女が帰ったからですわね」

 

 …要は暇だと…暗にそう言っているのでしょうね? 

 この方なら…そんな理由で好き勝手しそうですし…まだ、メッキはつけたままですが。

 

「…いや、あの…」

 

 はい……そうですね。

 キャンディ様は、思いの他…機嫌よく帰っていただけ……たハズなんですが……。

 あんな所にヒールでお越しになるからです。

 …どこか石でも踏んだのか…折れてしまいまして…。

 

「彼女…旦那様と喧嘩した直後でしてね…頗る機嫌が悪かったんです…が」

 

《 …… 》

 

「はい…仕方無いと思うのです! あの場には戦車しかございませんでしたから!? 市道へ許可もなく走る訳にもいかないですよね!? 後…男が俺けだったし…あんな格好の人…おんぶもできないし……で…はい」

 

 物凄く早口で、言い訳を並べてますわね、この男。

 

「まさか…お姫様抱っことは…恐れ入りましたわ。尾形さん」

 

「…一応、許可は取りましたよね…」

 

「いえ…流石に、あの方口説くとは思いませんでしたけど…」

 

「口説いてませんよ!! ただ、心配しただけじゃないですか!!」

 

「…人妻相手に…よくもまぁ、あそこまで口が回るものですわね」

 

「聞いてくださいよ!!! 後、その言い方、如何わしい!!」

 

《 …… 》

 

 ……。

 

 はぁ…まぁ…いいですけど。

 

「……」

 

「…そもそも、なんで貴女が、ここにいるんですか…幾らここに宿泊するとしても、俺の部屋に来る意味が…」

 

「…………」

 

 あ…。

 そのアールグレイ様が、微笑を浮かべたまま固まった。

 

 

 

「………………」

 

「あの…アールグレ…」

 

 

 …これは…。

 その微笑のまま、一言…。

 

 

 

「 飽 き た 」

 

 

 

「は?」

 

 やっぱり…。

 

 

「もぉーいいや!! もういいよね!?」

 

「は…え?」

 

 先程までの、私達の模範となり得る程の振る舞いをしていた方は、今の一言で死にました。

 もういません、帰ってください。

 はい、浴衣であぐらをかかないでください、はしたない。

 

 

「いやぁ!! 肩が凝って仕方がなかったよ!! 幾らお目付役とはいえ、あのヒス女の相手はねぇ!!!」

 

「 」

 

「あぁ!? 私!? そうそう! あの紅茶なのかお菓子なのか、分かり辛い人が暴走しない様に見に来てたんだよ!! それももう終わったけどねぇ!!!」

 

「  」

 

 はぁ…。

 

 私とダージリンのため息が被りましたわ。

 この方の正体を知らない、他の方々の唖然としている顔が、少々面白いですが。

 

「……」

 

「おやぁ? 尾形君!! 何を打ちひしがれているんだい!? お姉さんが、急にフランクになったから嬉しいのかな!?」

 

「……アンタ…それが地か…ここまで…」

 

「いやいやいや! オールマイティ!! 清楚からボクっ娘、なんでもござれ!! ちょっと大胆なお姉さん!! それが私だよ!!」

 

「…………俺、アンタみたいな人…一人知ってる…」

 

「そうかい!? それは一度会ってみたいね!? 連絡先を教えてくれるかな? タカくん!!」

 

「その呼び方は、やめてください…いや…マジデ…ホンキデ…」

 

 …本気で頭を抱え出しましたわね…尾形さん。

 なんでしょうか? こんなあた…基、おかしい方がこの世に二人といるとは、信じがたいですが…。

 

「まぁまぁ!! で? いいかなぁ!? タカ……はい。やめます」

 

「……」

 

 あ…結構、本気で睨みましたわね。

 アールグレイ様が、尻込みしました。

 

「でぇ!? いいかな? 隆史君の連絡先を、カモン!!」

 

「…いいっすけど…なんで?」

 

「(ダージリン達の近況を、第三者から知りたいのさぁ)」

 

「(…まぁ気持ちは分かりますけど、俺…青森に住んでるんですよ?)」

 

「(そうなのかい? まぁ、それはそれ……)」

 

「って!!! どこ触ってるんですか!?」

 

「胸筋だね」

 

「…摩る意味有るんですか……ちかい…近い近い近い!!」

 

「あぁぁら、赤くなって。顔に似合わず、初だねぇ!! おや…これは良い腹筋…」

 

「だから、指でなぞるな!! 痴女!? 痴女ですか、アンタは!!」ソックリダナ! ホントウニ!!

 

「はっ!! 離れて下さい! はしたないです!! 聖グロリアーナの卒業生とは、思えません!!!」

 

「何よ、コイツは!! このぉ…」

 

 オレンジペコ…貴女も少々はしたないです…。

 カチューシャさんは、張り合おうとしないで下さい…。

 

 しかし…完全にアールグレイ様のペースに、なってしまいましたわ。

 先程の報告から、一転…ここまで場の空気が変わりました…。

 何故か尾形さんの体を撫で回す、アールグレイ様…あぁ…横目でダージリン達を見てますね。

 …なる程。

 

 ん…?

 

 ダージリンと、ノンナさんが…物凄く大人しいですわね。

 ただ…正座して、その様子を凝視してますわ。

 

 まぁ…もういいです。

 

 この場を収めましょう。

 

「はぁ…そろそろ、御夕飯となります。…この場はもう、お開きとしますわよ」

 

「あ…もう、そんな時間…」

 

「大広間で…との、事ですからね。合同合宿の一日目の締めとなります。学校の代表者が、いないなんてありえません」

 

「チッ…まぁ、そうね。ノンナ! …ノンナ?」

 

「……」

「……」

 

「ダージリンも…あら…」

 

 真顔…二人共真顔ですわ…。

 ピクリとも動きませんね……。

 

「あの…アッサムさん」

 

「…はい?」

 

「俺…は? 行かない方が良いよね?」

 

「あぁ…そうですね。流石に…ここへと、お食事を運んで貰うように手配しますわ」

 

 そう…筋トレ指導を受けていなかった生徒以外は、尾形さんの事をまだ、不審者と思ってる生徒もいるでしょうし…。

 面倒事になりそうですしね…申し訳有りませんが…。

 

「私もここまで、運んでもらっていいかな!? タカく……隆史君とたべ『 ダメです 』」

 

「…アールグレイ様は、OGとして、挨拶をしてもらいます。……もう一度取り繕って下さい」

 

「まぁまぁ! 私は途中参加だったんだから!! 後は一介の旅行者として、ここに…」

 

「アンタ、フランクすぎるわ!! 部屋戻ってくださいよ!!! 幾ら、なんでも冗談がすぎますよ!?」

 

「いやぁ…若い子、からかうの面白くて…ねっ!!」

 

「……ハッキリ、からかうって言いやがったな…」

 

 はぁ…話が進まない…。

 そういえば、アンツィオの方々は、どうしたんでしょうか…。

 てっきりこの場に来るかと…まぁ、よろしいですが。

 

 後…そうそう。

 

「では、尾形さん」

 

「え? はい、なんすか? アッサムさん」

 

「食事の後で結構ですが、少し時間を頂けて?」

 

「えぇ、構いませんが…」

 

「はい、お願いいたしますわ。ま、今回のお礼も兼ねて…と言いますか…少々お伺いしたい事ができました」

 

「……はぁ」

 

「この皆の前で、こんな事を言っているのですから、浮いた話ではございませんからね? 期待しないで下さいまし」

 

「…俺はアッサムさんの中で、どういった扱いなんだろう…」

 

 ……。

 

 …………あら。

 

 ここまで言ったのに、先程から固まっている二人が、まだ固まっているのか…何も言われませんね。

 いいですけど…では、そろそろ移動しましょうか?

 

 …アールグレイ様も…何時までも尾形さんにくっついてないで…。

 

 

 

 

 

「ノンナさん」

「…はい、ダージリンさん」

「隆史さんが、アールグレイ様に対しての態度…。どうお思い?」

「……」

「…あそこまで、露骨に照れている隆史さん…初めて見ましたわ」

「そうですね。私が多少密着しても、あそこまで取り乱しませんから」

「……なにしてますの?」

 

「例のお茶会の後…あぁ、あの事件が起こった…」

「そうですわね…。確かに事件でしたわ…」

「正直に申し上げますと…特段……あの後も彼の態度は、通常でした……私は顔を見る度に、顔が熱くなると言うのに…」

 

「……」

「……」

 

「…アールグレイ様に対しては、あの距離で赤面してますわね」

「そうですね…」

 

「……」

「……」

 

「アールグレイ様に対しての、彼の反応を見て思いました。…まさか……私達……異性として見られてないのでは? …と」

「……先程、私も…その可能性を意識してしまいました」

 

「「 ………… 」」

 

「私…彼のおかげで、一つの問題が解決し…少々、気が楽になりまして…アンツィオではありませんが…勢いって大事だと思うのです…」

「…ダージリンさん?」

「例の…お茶会……再現…」

「!?」

「…そして……意識してもらおうかと…思いまして……」

「女性として…ですか? …確かにあの状態の隆史さんなら…いや…危険ではありませんか?」

「私…ノンナさんと違い、時間が余りありませんの」

「ま…まぁ……」

「よ…用意はしてあります。食事の後で構わないと思うのですが…丁度……お一人ですし…」

「…なぜそれを、私に知らせるのでしょう?」

 

「ちょっと、怖いですから!!」

 

「…巻き込まないで下さい」

「……」

「……」

「……」

「…乗りましょう」

「ノンナさん!!」

「女性として、意識してもらう…その一点のみ共感しますから…まぁ……はい」

「非常に悔しいですからね…」

「…はい、まったく」

「では! 決行は、今晩!」

「カチューシャは、早く寝かしつけましょう!」

「ペコもそうですわね!」

 

 

 

 …ロクな事を話してないわね…。

 ダージリンの企みは、今更ですし…特に気にはしませんでした。

 いくらなんでも、聖グロリアーナの隊長ですし、節度を持った行動を常にしてました。

 まぁ…基本的に、彼に対して臆病な彼女です。

 …変な事は、しないでしょう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 

 まさか…この企みで…私だと……。

 

 

 夢にも思いませんでした…。

 

 

「では、折角ですし? ……勝負と行きましょうか?」

「いいでしょう…どちらが…」

「どちらが、先に意識して頂けるか…」

「勝負ですね」

 

 

 

 このくだらない勝負の被害者に。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……あの時の隆史君は、この二人のセイだったんだね…人が変わったと思ったら…」

 

「アールグレイ様が、思いの他に純だと判明した事件でしたわね。結局全員が、またあの場に集合するハメにもなりましたし…」

 

「この男……将来、お酒で失敗しそうだよね…。酔うとあそこまで、人が変わるものなんだね…怖いねぇ……お酒って…」

 

「そっかぁ…どんな風に、隆史さん変わるんだろ」

 

「……」

 

「まさにタラシ殿って、感じだね! しかし、異性として…女性としての意識かぁ…ダージリン達も凄い事を思いつくものだね」

 

「…最近では、大分変わりましたわね。西住 みほさんと付き合いだしてから…でしょうか? それまでは、青森勢含め…まるで同性と接する様でしたし」

 

「そうなのかい!? あの人数に囲まれていて!?」

 

「えぇ、最低限は、異性として接してくれましたけど……それはそれで、酷いですわよね? …西住 みほさんと付き合うまでは…」

 

 な…なんで、2回も言ったのだろう…。

 いやね? それ以前にね?

 

「あぁ…なるほどぉ…。それで周りの女の人達を、一斉に意識しだしたって感じかな? そう? 隆史さん」

 

「…いや……あの…」

 

「そっかぁ……お姉ちゃんも、それで苦労してたんだなぁ…」

 

「…………いやね? 聞いて」

 

「「 …… 」」

 

「……物凄く自然に会話に入ってきたね…この子…」

 

「タラシさん。この方は私存じません。どちら様でしょう?」

 

「…ぇあ……彼女は…」

 

 流れる様にシレッと、言いましたね…。

 アッサムさん…大分、キレがあります…。

 

「武部 詩織!! 15歳です!!」

 

 …あ、はい。

 

「……あぁ…会場で隆史さんに、電話を掛けてきた…」

 

「あ、はい。そうです…」

 

 なんでいるのでしょう?

 俺が紹介をする前に、元気よくポーズを取っての挨拶アリガトウ…。

 

 ここ…流石に女子中学生が、一人で入るには勇気がいる喫茶店だと思うのですが…。

 というか、喫茶店って、入っていいの? 中学生。

 …その考えが古いのかなぁ…。

 

「外から隆史さんが見えたので、躊躇しませんでした!!」

 

「…はい、いらっさい」

 

「15歳…中学生ですか?」

 

「そーですっ!!」

 

「…いや……すごいね、隆史君…。流石に中学生は………犯罪だよ?」

 

「いい加減になさって下さいます?」

 

 ですからね? 俺はべつ…「そのやりとりは、何度か見ました! 流石に飽きましたよぉ」

 

「……」

 

「にしずみりゅう? しまだりゅう? の!! 家元さん達といい…隆史さん」

 

「な…なぜに今、ここでその二人を「 年増趣味を早く治しましょうね!!! 」」

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 お…思いっきり、アールグレイさん見て言ったな…。

 すげぇ真顔!!! 見たことねぇよ! 感情が止まったこの人!!

 

 

 

「後…そちらの、聖グロさん……あぁ………………はっ」

 

 

「……………………」

 

 

 

 アッサムさん見て…胸を……張った…。

 

 そして、鼻で笑った…。

 

「いやな…詩織ちゃん。余り、喧嘩を売る様な事を……ただの嫌な子に見えるから、やめような?」

 

「はぁい♪」

 

 ……分かっているのか、いないのか…。

 思いっきり良い笑顔で……また取られた…。

 俺のアイスコーヒー飲みだしたし…。

 

「関節キスですねぇ…ウフフ…」

 

「「 ………… 」」

 

 胃…。

 

 胃ぃぃぃ…。

 

 

「はっ…大きければ良いというモノでは、ありません」

 

 アッサムさん!?

 

「…間近におりますから。貴女よりも、その大きいのが。別段、どうでもよろしいです。それに…」

 

「あぁ、いますよねぇ? 形とかに逃げる人」

 

 アイスコーヒー啜りながら…意にも止めない様に淡々と…。

 あ、うん。

 止めとこ「逃げではありません。武器です」

 

 アッサムさん!?

 

「……へぇ」

 

「ただ大きいだけでしたら、将来を見越せば……はっ」

 

「……」

 

「見ただけで分かりますわ。貴女、運動も何もしていませんわよね?」

 

「…ぅ」

 

 ……。

 

 あ、電話が鳴った。

 

 ポケットの中で、ヴゥーヴゥーいってますわね。

 分かりやすく、取り出しましょうか?

 

「隆史君…まさか、君…逃げ…」

 

「…あ、また…」

 

 画面には、先ほどの名前が表記されている。

 電話を切ったばかりだ。何か他にあったのだろうか?

 

 …そうだね。急ぐ用事だと困るよね!

 

「では、お姉様」

 

「っ!?」

 

「俺、ちょっとまた電話してくるから…後は、お願い致しますわ」

 

「まっ!! この手の話は、私も良くわからな…」

 

 あぁ…貴女もおっきいですから…。

 瞳ちゃんが呼んでますので、僕は行きますね!

 

 ……エリカとの事もあり…逃げると言うのも、大事だと思い知ったばかりですから。

 

 人間…成長するモノなんですよ。

 

「ちょっ!! まっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ▼ これが…間違いだった… ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一度、炎天下の路上に戻ると、手に持っていた携帯に即座にでる。

 目線を店内へと移すと…あぁ、はい。睨み合ってるなぁ。

 

 詩織ちゃん、まだ大洗にいたのかぁ…ひょっとして…休み中ずっといる気だろうか?

 

 呼び出しコールが止まり、また先ほどの幼馴染みの声を待つ。

 あ、その前に。

 

「はい? もしもし」

 

『 ………… 』

 

 …あれ?

 

 反応がない。

 何時までも声すらしない。

 

 あぁそうか、即座に理解する。

 先程まで通話をしていた人に、たまにある事。

 ただどこかに触れて、リダイヤルしてしまっただけか。

 

 まぁ、かけ直して教えてやるか。

 ふむ…時間が余りかせ……もとい、素早く済んだので良しとしよう。

 ま、一応…。

 

「当たっただけか? 切るぞー…『 違うわよ 』」

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 どこかで聞いた…お声……え…?

 

 

『 瞳に借りて、今電話してんのよ。携帯…まだ、日本に合わせてないから 』

 

 何故だろう…血の気が引いたのは…。

 

 炎天下の下だと言うのに…なんか…寒い…。

 

『 さっきの今だから? すぐにアンタが出ると思ってね…どう? 私が分かる? 』

 

「エ…エミミ~ン…」

 

『 殺すわよ 』

 

「 」

 

 …なんだろう…。

 声色が違う、前のエリリンと話してるみたいだ…。

 

 中須賀 エミ。

 

 …最後の幼馴染み。

 

『 ずぅぅいぶんと、まぁ? ……派手にやってるわね 』

 

「いいいいぇ!? そんな…事……は…」

 

『 砲弾演習……的にアンタの写真パネル作って、使っていい? 』

 

「 」

 

『 瞳から聞いているんでしょ? 私の現状…そんな訳で、今…私日本にいるから…戻ってきたから 』

 

「……は…はい」

 

『 みほとの約束、果たす為に… 』

 

「…あぁ…あの『 その前に一つ 』」

 

 …………。

 

 ハイ。

 

『 ドイツの時のパンツァージャケット? 見たいからって送ってやった写真。まだ残ってんの? 』

「はい」

 

『 …なぜ即答。まぁいいわ 』

 

「な…なんでしょう?」

 

『 隆史…アンタの口車に乗って、あんな恥ずかしい写真送った件… 』

 

「 」

 

『 そして…今の現状…なんかもう…色々と……だから… 』

 

「だ…だから?」

 

『 まぁ? 雑誌記事が、丸ごと全て真実では無いでしょうよ。でもね…火の無い所に、煙は立たないのよねぇ? 』

 

「    」

 

『 命乞いと、言い訳と、命乞い位は聞いてあげるわ。じゃなきゃ今の気持ちがおさまらない!! 』

 

「なんで二回も言ったの!?」

 

『 だ…だから一度。じ……時間、作りなさいよね! 』

 

「じ…時間? わ…分かったけど」

 

 

 なぜだろうか?

 最後の一言だけ…頗る嬉しそうに…。

 

 

『 みほとの約束の前に…アンタを一発、ぶん殴る!! 』

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました

あぁ…結構、過去話がきつかった…。
結構な話数になりそうでしたので、まとめて見たのですが…きつい…。
文字数がすげぇ…。

はい、エミミン初登場。
時系列的には、劇場版とTV版の間付近でしたので頃合かと。

次回で過去編が終わります。

はい、ありがとうございました。

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