転生者は平穏を望む   作:白山葵

114 / 141
はぁい! やっとこさ投稿…文字数すげぇや! はっはー。

・・・

熱に…やられたんすよ……。

頭が……熱に……。


第16話 昔語り と 女の戦い(覚醒)

「……」

 

 

 やる事が…ない…。

 

 その一言に尽きる。

 

 ダージリン達が退室していった後…旅館の中居さん達に、食事が運ばれて来た。

 何故か…酒付きで……。

 

 大変ですね、引率の先生も…なんて、そんな言葉を何度かかけられた。

 

 俺の事は、なんて宿の人に言われているのだろうか?

 学園艦の戦車道…いや、学園艦の生徒達は、このような合宿といった、催し物も基本的に生徒達だけで開催する。

 よって教師等は、殆どお飾り。

 引率…という役割も、名目上だけで有って無い様なモノ…らしい。

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 わし…一応、まだこの体は17歳なんすけど…。

 まぁ…もう慣れたから、今更気にもしませんけどね。

 

 運ばれてきた酒…ビールを横にどかせて、食事を取る。

 まぁ…ダージリン達と同じメニューなのだろう。

 

 中居さんも言っていましたしね……いやぁ…なんだろう。

 金持ちのお嬢様高校は、すごいね…そんな感想を素直に感じる程に、素晴らしい料理達でござんした。

 さすが北海道。

 飯がうまい……。

 

 ……。

 

 ちょっと、聖グロの学食とか、気になるなぁ…。

 どんなのがでるんだろ。

 あ…でも、イギリス風の学校だっけか。

 前に、主食がフィッシュ&チップスとか、なんとか言っていたな。

 というか、嘆いていたな…。

 まぁ半分は冗談かと思うけど。

 刺身や蟹など並べられた…学生の食事とも思えない料理を食しながら、んな事を思い出した。

 

 そんな、一人で済ませた食事が片付けられ…本格的にする事がない。

 テレビなんてのも、こんな所でまで見ようとは思わないしな。

 

 まだ、20時前だ。

 

 この旅館街に立ち並ぶ中で、比較的大きな旅館。

 風呂もさぞかし立派なのだろう…と、思いつき、行ってみようかとも思ったが、こんな女の子の巣窟…。

 廊下を闊歩する気も起きない。

 

 それに旅館内を、こんな俺がウロウロしていても、不審者以外の何ものでもない。

 宿泊客が、女子高生しかいいない中…下手に彷徨くと、あらぬ誤解を受けそうだし…。

 

 …入るなら、夜中だな。

 

 そうだな。

 

 時間で男湯と女湯が入れ替わるそうだから、男湯の時にでも行ってみるか。

 

 ……。

 

 どうしよう…。

 

 …何時もの様に、みほからの返事がないのを確認すると、本当にやることがなくなった。

 寝るにしても、早すぎる…老人でさえ、起きてる時間。

 無理やり寝ても良いのだけど、後でアッサムさんが俺に話があると、言っていたし…それも悪い。

 

 ま、大人しく待っているか。

 お茶を入れ。部屋の中心に置かれた、大きな座卓の前に座る。

 そこに置かれたリモコンを手にして、正面に置かれていたテレビへと向ける。

 やはり、適当にテレビでも見てるかなぁ…。

 

 そうそう、明日の予定も聞いておかないと。

 アッサムさんに、呼ばれた時にでも、一緒に聞いておこう。

 今日は、変に嬉しくて、なんでか女子校生達に筋トレ講座とかしてしまったので…うん。

 明日は、大人しくしていよう。

 素直にダージリン達の練習風景とやらを……

 

 

 ……。

 

 暫く、地元のニュースとやらを眺めていると、そのテレビから、夜の22時をお知らせしてくれた。

 いくら暇だからと、ボケーとしすぎた…。

 この時間にまで起きているというのが、結構久しぶりだった。

 大体、21時には寝るからなぁ…朝早いし。

 

 ま、たまには良いだろ。

 

「ん?」

 

 トントンと…この部屋の入り口のドアが、ノックされた。

 スリッパが置かれた、部屋玄関前…部屋側の襖は、開けっ放しにしておいた為に、すぐに気が付けた。

 アッサムさんが、態々呼びにでも来てくれたのだろうか?

 携帯に電話でもしてくれれば、こちらから出向いたのに…ま、寝る前の最後のイベントとやらを終わらせよう。

 しかし…一体、なんの話だろうか?

 

 腰を上げ、すぐに来客へ対応する為に、ドアへと向かう。

 特に気にする事も無く、ドアを開けると…。

 

「こんばんわ。ご機嫌如何でしょうか?」

 

「…こんばんわ」

 

「少々…お部屋に、お邪魔しても宜しいかしら?」

 

 そこには、ダージリンと同じく、ギブソン…なんだっけ。

 まぁ、そのダージリンと同じ髪型をして、初対面の時と同じ様に、お嬢様らしさを前面にだした…。

 

 

「あの…部屋は流石に、時間的にまずいと思うので…と、言いますか? 何か御用ですか? アールグレイさん」

 

 

 旅館の浴衣を着た、アールグレイさんが立っていた。

 

「何を言ってますの? 私、ダージリンでしてよ?」

 

 

 ……。

 

 …………なんか、言い出した。

 

 

「私をあの凛々しくもお美しい方と、お間違えになるなんて…嬉しくは思いますが…少々、失礼かと…」

 

「……」

 

 なんだろう…。

 

 

「こんな夜中に、若い女性が、男の部屋に来るなんて…何考えてんですか…」

 

「おや、私を若い女性だと…それは嬉しい事を言ってくれ……いえ、仰って頂けますわね」

 

 

 だから、似せる気あんのか……。

 

 はぁ…。

 

 あぁ…もう…後、アッサムさんの話聞いて、寝るだけだと思ったのに…。

 風呂に入った後なのだろう…薄紅かかった色の顔を、楽しそうに綻ばせ…少し体をくねらせながら…はぁ…。

 聖グロって、後輩の真似…というか、変装(笑)をするのが、伝統なのでしょうか?

 

 

 うわぁ~…。

 

 オペ子の変装(自称)をしていた、ダー様思い出したァ…。

 あの時の様に、からかう気すら起きない…。

 いやぁ……うん。

 

 

 

 め ん ど く せ ぇ 

 

 

 

 

 パタンッ。

 

 

 

 アッサムさんには悪いが、明日にしてもらおう。

 

 さ…寝よ。

 

 

『なんで、閉めるんだい!? 女の子が! 勇気を振り絞って、夜夜中に恥を忍んで会いに来ていると言うのに!!!』

 

 ドンドンと、ノックするのをやめろ…。

 というか、大声で叫ぶな…口調、戻ってるぞ。

 

 はぁ…。

 

 

 

 

 

「……いや…もういいや。なんの真似っすか、アールグレイさん」

 

「ですから、ダージリンでしてよ? その淑女たるダージリンが、隆史さんのお部屋に、夜に遊びに来ましたの」

 

「…説明口調になってますよ、アールグレイさん」

 

「ですから、ダージリンでしてよ? その淑女たるダージリンが、隆史さんのお部屋に、夜に遊びに…「 それはもう、聞きましたよ!! 」」

 

 余計な事を叫ばれても困る…仕方がないので対応すると、すぐにまたダージリンの口調に戻った。

 だから、体をくねらせるなよ…。

 あんた結構、スタイル良いの分かってるのか? ちょっと目のやり場に困るんだよ。

 

「はぁ……ダーといい…髪型しか一緒の所が、ないでしょうが…。あぁいや、こんな事するノリも一緒か…聖グロって…」

 

 

(隆史さん! それは少々、失礼でしてよ!?)

(…また、懐かしい事を…)

(本当にあの方に任せて、大丈夫なのでしょうか?)

(…隆史さんなら、こんな時間ですし…部屋になんて招いてくれませんでしょうし…何より成人が、あの方しかおりませんでしょう?)

(まぁ…確かに購入して来ては、くれましたが…近くのコンビニですか?)

(そうでしょうけど…はぁ…私も、さっさと終わらせて床につきたのですけど…)

(なら、もうお部屋に戻っても構いませんわよ? アッサム)

(…このメンツで、止める人間がいなくなるのは、逆に心配で眠れません)

(…………私も含まれているのでしょうか?)

 

 

 ……。

 

 うん…多分…近くにいるな。

 廊下の角だろうな。この部屋、角部屋だし。

 ダー様とアッサムさん。それとノンナさんか…。

 

 こんな時間に、なにしてん。丸聞こえや。

 

 

(しかし…ダージリン。よりにもよって、アールグレイ様に相談とは…)

(ですから…成人の方が…)

(部屋に招き入れられる様にと、先陣切りましたが…アールグレイ様ですよ? 引っ掻き回されるだけでは?)

(こ…………この際、手段は選びません)

(…本当にあの方で、大丈夫なのでしょうか?)

(…大丈夫でしてよ。多分)

 

 はぁ…。

 夜に男の部屋に、入ろうとするなよ…。

 ある意味で、異性として見られてないのだろうか?

 

「一緒の所がない…そうでしょうか?」

 

「…んっ? そうでしょう?」

 

 いかん…バック音声に集中して、目の前のこの……えっと……コレを忘れそうだった。

 

「隆史さんと私の仲ですわ……目にした事がございますでしょう?」

 

「はぁ…なんすか…てぇ!?」

 

 スッと、少し指で浴衣を掴み、その間から…太ももを、ゆっくり出しながら…。

 

「昔から愛用している…私のこの下着…ラペ○ラのショーツ(推定価格99,800円)、こんなモノ…そうそう着用できる訳が…おっと。どうして、私の膝を抑えているんだい?」

 

 高ッ!? たかが布切れに…じゃない!

 

( )

(…ダージリン)

 

 冗談じゃねぇ!!

 場所、時間、色々と不味すぎるだろうが!

 アールグレイさんの膝を、無理やり元に戻そうと押し込む!!

 

「あんた、人目につく廊下でなにやってんだ!! 痴女か!?」

 

 

 

「痴女? おや、おかしい。野外で人の後輩に、自身でスカート捲れと指示を出した人間とは思えない発言だね!!」

 

 

 

「 」

 

 

 い…いや…まぁ…確かに。

 だけども…アレは…あぁぁぁ!!!

 なんだその、勝ち誇った笑顔は!!

 というか、後輩とか言っちゃってるし! 本当に何がしたいんだ、この人は!!

 

「口調、戻ってる!! というか、何を口走ってんだ!!」

 

「おっと、いけない」

 

 

(ダージリンさん)

(…なんでしょう?)

(……あの方。本当に大丈夫なのですか?)

(……)

(取り敢えず、隆史さんにお聞きしたい事ができました)

(……)

 

 くっそ! 確信犯だ!

 こんな廊下で、とんでもない事言い出した。

 真似をする気もすでに無いのだろうよ…両手を広げて凄まじく悪い顔をしている。

 ニタァ…と笑い、トドメとばかりに…。

 

 

「さぁ…私を部屋に招きなさい…。でなければ、大声で暴露しようか? 君が、プラウダでのお茶会で……」

 

 

「   」プ…ラ……

 

 

「人の後輩に如何わしい事を「 どうぞお入りください!!! 」」

 

 

 ちょっと…待て…なんでんそんな事を、この人知ってるんだよ…。

 ハッキリとプラウダでのお茶会って言った…。

 誰が、言ったのだろう…あぁぁあ…すでに勝負は決してしまった。

 

 まぁ…廊下で言われるよりは、マシだろうよ…。

 

「そうかい!? それはよかった!! 君達! よかったね!!」

 

 パッと変わった笑顔で…横に隠れていたであろう、3人に向けて言った…のだろうな。

 バツが悪そうに、廊下の影から現れた、彼女達。

 俺と交互に見比べ、満足そうに笑みを浮かべているアールグレイさん。

 

 

(…何故か、うまくいきましたわね)

(結局、貴女も半信半疑でしたのね? ダージリン)

「もう、普通に話せばよろしくないですか? お二人共」

 

 

 

 ……。

 

 

 一体…何が、したいんだろう…この人…。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「…………」

 

 

 こんな夜中に、男性の部屋になんて…。

 幾らなんでも、はしたないでしょう。

 

 …ですが、この尾形さんを酔わす気、満々の二人を頬っておくこともできず…。

 頃合を見て止めようかと思ったのですが…。

 態々、別容器に入れ替えてまで…まったく。

 液体の正体を、さっさとバラしてしまえばよろしいかしら?

 

 …と、思ったのですが。

『流石に未成年に飲酒を勧めるのは、気が咎めるからね? 中身は普通の清涼飲料水のままだよ。…ダージリン達には、内緒だよ?』

 と、アールグレイ様から私にこっそりと全容を教えて頂きました。

 騙すつもりが、騙されているダージリン達。

 アールグレイ様に協力要請をされた際、思いっきり乗り気で対応していらっしゃったのは、裏で更に誤魔化して、丸く収める為…だそうで。

 

 ……よかった。この方も一応は、常識というものがあったのですね。

 気の使い方も、しっかりとして下さっているみたいです。

 

 さて…。

 

「んで? 何か御用ですか…」

 

 私達と座卓を挟み、あぐらを掻いて疲れきった顔で、言葉を吐きました。

 まぁ…はい。後で誤っておきましょう…今の彼は、完全にただの被害者です…私達のOGの…。

「まったく…年頃の娘が…」とか、小さく嘆いていますが、一体どこの保護者の方でしょうか?

 

「いえ…」

 

「……」

 

「おや…二人共、先程の勢いはどうしたんだい?」

 

 その彼と、目線を合わせると、必死に顔を背けて変に取り繕っている、お二人。

 いざ本人を目の前にして、意気消沈する位なら、初めからこんな事、しなければ宜しいかと…。

 えぇと…異性として自分達を見ているかと、それとなく気持ちを確認するのでしたか?

 

 あと…違うのならば、強引にでも意識させると…何を馬鹿な冗談をと、鼻で笑ってしまいました。

 

 ……が、この二人…思いの他、本気…。

 

「まぁいい、取り敢えず、飲みたまえ! 私の奢りだよ!?」

 

 アールグレイ様が、用意してあった紙コップを尾形さんに渡し、渡した直後、拒否させない様に即座に液体を注ぐ…。

 

「私にお酌をしてもらえるなんてね!! 幸せだと思いなさい!!」

 

「…どうも」

 

「……」

 

 尾形さんのコップへと、ペットボトルの液体を注ぐ手が止まりましたね。

 何をジーっと、彼の手元を見つめているのでしょう…。

 

「……どうしたんですか?」

 

「………いやぁ…勢いとはいえ、異性にこういう行いをするのは、初めてだなぁ…って。、思ってね…少々、恥ずかしい…」

 

「いや…そこで恥ずかしがられても、困るだけですけど…って、溢れる!!」

 

「あぁっ! すまない…」

 

「「「 …… 」」」

 

 たかがお酌程度で、なぜあの方は赤くなってるのでしょうか?

 

 …。

 

 そのままの流れで、用意してあった、別のペットボトルから、ダージリンとノンナさん。

 そして私のコップへと、液体を注ぐアールグレイ様。

 

「…なぜ、俺とダージリン達とは、別の物を注ぐのですか…」

 

 …あからさまに怪しいですからね。

 ダージリン達は、尾形さんに注がれたのはお酒だと思っているので、自分達に注がれた飲み物が、尾形さんと違う事に何も言わなかった。

 当然、尾形さんはその行為に疑問を持つでしょう。

 

 …ほら…ダージリンとノンナさん。

 挙動が不信でしてよ…バレますよ?

 

「ん? あぁ、私達のは紅茶だよ。尾形君のは日本茶だね。…なんなら、私のと交換するかい?」

 

「いえ、まぁ…大丈夫です」

 

 聖グロリアーナ=紅茶。

 それに変に納得したのか…それと、用意してもらった事に対して、変な疑念を持つ事が失礼だと思ったのでしょうか?

 思いの他、尾形さんはあっさりと引きました。

 

「あっ! 一度、口を付けた後の方がいいかなっ!?」

 

「大丈夫だと言ってるでしょ!?」

 

 アールグレイ様…。

 

「……」

 

「今度はなんすか!?」

 

「いや…実際に想像してみたら、思いの他、恥ずかしい…」

 

「なら、なんで言うんですか!? というか! 俺に対して、下着露出しようとした人の言葉に思えないのですけど!?」

 

 …ごもっとも。

 

 と、言いますか…アールグレイ様も…男性の免疫があまりお持ちではないでしょうに…彼に対して、私達に対する様に接するので、地味に自爆するのでは?

 

「…つ…つかめない…この人のキャラとやらが分からない…」

 

 あ、はい。そうですわよねぇ。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 そこからは、たわいのないお話…。

 

 明日の予定…今上の報告の様な物。

 

 ギクシャクした空気の中…私から尾形さんへと、話しかけました。

 

 …先日までのこの方の暴走を含めて、アールグレイ様には、彼の為人をお伝えしておきました。

 そこからでしょうか? 彼に非常に興味をお持ちになったみたいで、今回のこの簡単なお茶会の経緯を、嘘八百ならべて説明しながら、彼の事を聞いています。

 

 ……あ、はい。バラしたのは私ですわ。

 

 尾形さん、その顔はなんでしょう? 泣きそうでしてよ?

 

 自業自得ですよ?

 

 

 

 というか! なぜ、私だけ話しているのでしょう!?

 

 コップの液体をチビチビと口にしながら、尾形さんをずぅぅと、無言で眺めている二人。

 えぇ! この計画の立案者の二人!! 一っっ言も、喋りませんわね!!

 何か、話そうとすると、躊躇し…コップの飲み物を飲み干す…その繰り返しだけ!!

 

 私自身も、用意された紅茶…まぁ、市販のモノでしょうが、この際なんでも構いません。

 その紅茶をコップへと注ぎ、頂く…その行為の繰り返しと、気がついたらなっていましたわね。

 

 …私を含め…ダージリンとノンナさん。

 

 何杯目でしょうか?

 

(ノ…ノンナさん)

(なんでしょう?)

(隆史さん…特におかわりございませんわね…)

(そうですね…もう、結構な量を、飲んでいると思うのですが…もう少しでしょうか?)

(…わ…話題が切り出せませんわね…)

(そうですね…以外に勇気が……)

(ですわね…)

 

 …何しに来たんでしょうか? この二人。

 

「…そうか。隆史君は結構、顔が広いのだね」

 

「いや、んな事ないと思いますけど…」

 

「西住流…その家元と懇意にしてるなんてね。そのうちにそれは、大いに役に…「そういう言い方は、好きではないです」」

 

「おっと、そうだね。謝ろう。……すまない、失言だった」

 

「いえ…まぁ、変な他意はないのは分かりますので、いいですよ」

 

 いつの間にか、アールグレイ様と尾形さんの会話だけが聞こえますね…ぅ…。

 呼び方も変わってますし…尾形さんは、この荒唐無稽な方にもすでに慣れたようで…ぁ…。

 

「ふぅ…もう、そろそろ12時を回るね」

 

 腕の時計を…確認している、アールグレイ様…。

 そうですか…もう、そんな時間…。

 

(……)

(……)

 

 この二人…ただの置物になってますわね…。

 コップを仰ぐだけの動きしかしてません……わ……。

 

「ん…んなら、ここら辺で、お開きに…「じゃぁ!! 場も温まったし! 本題だね!!」」

 

「…は?」

 

「我が可愛い後輩! ダージリン!!」

 

「……」

 

 ほら…呼んでますわよ? ダー。

 

「えっと…え? ダージリン?」

 

「聞きたい事が、あるんだよね!?」

 

「何故、いきなりのハイテンション…。あの…? すげぇ、フラフラしてますけど…眠いのか?」

 

「………ふっ…」

 

「あの…なんで、這い寄って来てるんでしょう…あの…ダージリン!?」

 

 隊長様が、前屈みでズリズリと…四つん這いのまま、隆史さんに近づいていきます。

 畳の擦れる音が、何故かとてもクリアに聞こえますねぇ

 様子がおかしいのは明らかですが…あら。

 

「お…おぉ…ダージリン、目が虚ろだけど…眠いなら、部屋戻って休めば…」

 

「ふっ…ふふ…隆史さん…」

 

「な…なに? っって!」

 

 這い寄っている為でしょうかね?

 膝で浴衣が引っ張られたんでしょう。

 

「隠せ!! 浴衣っ!!」

 

 胸元をバックリ、乱れた状態のまま、隆史さんの胡座をかいた、両膝へと両手を乗せました。

 そのまま、上半身を後ろへと引き、顔を背けている彼に、ズッと顔を近づけ…。

 

「隆史さん…少々、おききしたたい…ん? お聞きしたい事がぁ…」

 

「なに!? なんですか!? というか、メチャクチャ噛んでるな!!」

 

 目だけは、ダージリンを見てますけど…というか、しっかりと見てるではありませんか。

 

 これだから、男性というのは…

 

 ん…ノンナさんが、それを黙ったまま見てますね。

 コップを口に運びながら、座った目で…。

 いえね? 即座に反応して、ダージリンの足でも思いっきり引っ張ると思いましたのに。

 しかし、アールグレイ様。

 

 …笑顔ですね。

 

「お前、襟が下に引っ張られて…あぁぁ!! 頼むから取り敢えず、浴衣直せ!! なっ!?」

 

 まぁ? アレ。大きいですからね。

 真正面から見ている彼の目には、彼からするれば、大変宜しい光景が広がっているのでは、ございませんでしょうか? ケッ

 

「随分とぉ…アノ…アレとは、私に対する対応が違うと…思いましてぇ…」

 

「アレ? アレって…あぁ…アールグレイさんか…」

 

「ちょっと! アレは酷いなぁ!!」

 

 目だけで、彼女を指したのでしょうか? 私には陰になって見えませんが。

 即、それに気がついたと言う事は、やはりしっかりと見てますね。

 

「ふにゅっ!」

 

「ふにゅっ…って…。と言いますか、何をしてんの? このお嬢様?」

 

 変な掛け声と共に、隆史さんの胡座をした脚を枕に、横になってしまいましたね。

 

「何してるのと言う割には、枕にしやすい様に…っ! 脚を投げ出したでっ! は…ないですか…」

 

「…ノンナさん。コップで口元隠れてるその状態での睨みは…些か恐ろしいのですが…」

 

「……コノ、スケコマシガ」

 

「凄い事、呟かないで! 意味分かってないでしょう!?」

 

「おら、隆史。今は私と話している最中でしょうが」

 

「っっ痛っ! ダージリン!?」

 

 分かりやすく脚を抓ってますわね。

 横になって脚を小さくパタパタ前後に動かして…今度は何を。

 あぁ…指を円状に、クルクルと回し始めましたわね……人様の膝の上を。

 

「んっ…ふぅ…はぁ……」

 

「その吐息やめて!!」

 

「っ…ん? まぁいいです」

 

 今度は膝を抱きしめる様にしましたわね。

 脚をパタパタさせているのは、止めませんのね。

 

「では、隆史さん…一つ…質問がございまして…」

 

「…なんだ、このダージリン。…寝ぼけてるのか?」

 

「随分とぉ…いい年して人のスカート捲る変態と、私に対する対応が違うと…思いましてぇ…」

 

「……同じ様な事言い出した…2回目だぞ、ソレ。というか、スカートめくりって…」

 

「淑女の嗜みでございましてよっ!?」

 

「…やっぱアンタか…」

 

 えぇ。被害者多数でしてよ?

 

「っっ!?」

 

 今度は寝たまま、両手で尾形さんの顔を掴みましたわね。

 そのまま、グッと自身へと向けさせ…。

 

「まぁぁぁた…アレと話して……」

 

「 」

 

「では、お聞きします」

 

「どうしたんだよ! 様子が変とかそういう問題じゃないぞ!? 酔ってんのか、おま……酔ってるのか!?」

 

 何かに気がついた様に、目を見開いた尾形さんに対し、横からアールグレイ様がアッサリと…。

 

「んっ? 酔ってるよ?」

 

「はぁ!?」

 

「彼女達が飲んでいたのは、君がプラウダで飲んだモノと同じだよ? ね? 紅茶だろぅ?」

 

「何やってんだよ、アンタ!!」

 

 また、アールグレイ様と会話を始めた尾形さん。

 お馬鹿ですねぇ…ほら。

 

 

 

「 オ キ キ シ マ ス 」

 

 

 

「ア…ハイ」

 

 ダージリンにまた力ずくで、正面を向けさせられましたわね。

 

「先のお茶会……私に…あんな事までしておいて…」

 

「 」

 

「寧ろ、ソレがあったから思いました。…私、女性として見られていないのか…と…」

 

「はい?」

 

「同性感覚…ですから、あの様なハシタナイマネをあんな簡単に…」

 

「簡単じゃなかったよ!? それに同性感覚って!!??」

 

「隆史さんの様な、特に必要以上に体を鍛えていらっしゃる方には、多いとお聞きしまして…」

 

「風評被害!! 謝りなさい!! それはいけません!!」

 

「あら、違うのですか?」

 

「違います!! 俺はノーマルです!!!」

 

「……複雑ですわね」

 

「なにがっ!!??」

 

 あぁ…そういえば、誰に借りたかは存じませんが、何か一生懸命にアレを読んでましたわね。

 

 薄いの。

 

 はい…誰に借りたかは、存じませんねぇ。

 

「はぁ…寧ろ、俺の方が男として、意識されてないと思ってた位なんですが?」

 

「…ひゃい?」

 

「ひゃい? って…。まぁいい。こんな女性しかいない、旅行地味た事に、異性の俺を引っ張ってくる位だし…」

 

「……ぁ」

 

「い…今、気がついたみたいな顔をするな…まったく…」

 

「…お馬鹿でしゅわんぇ…」

 

「今まで饒舌に話してたのに…」

 

 取り敢えず、強引に見つめ合う格好の状態を継続はするのですわね。

 ノンナさんが、私の横でアップを始めましたわよ? …そろそろ限界でしょうか?

 

「……」

 

「こ…この状況もそうだけど…変に言うのもアレだしな…あ…そういや」

 

「…?」

 

「俺が年上に対して、タメ口で喋るのって…カチューシャとまほちゃん位だな…あぁ、西住姉の方な?」

 

「っ!?」

 

「ダージリンに対してもそうだろう? …俺がダージリンを、異性として見ていない? んな訳ないだろう」

 

「っっっ!!!」

 

 

《 …… 》

 

 

「だから、無理して…って…あの…」

 

「んっ!! んっっふふふふ…」

 

 

《 …… 》

 

 

「…頬ずりは、やめてほしいのですが…」

 

「んふふふふふっっ」

 

 脚を素早くパタパタさせて…色々と…。

 あぁ…浴衣が更に乱れて…。

 

「いやぁ…ダージリン…。酔うと、甘えるタイプなんだねぇ…子供みたいだね!」

 

「普段色々な事から、抑圧されている立場ですからねぇ…あぁも変わるのですね」

 

「おや、アッサム。君はあまり変わらないね」

 

「…やはり、私にも」

 

 手元のコップの中の液体に、視線を落とす。

 琥珀色の液体が、小さく揺れてますね。

 このOG…。

 ダージリンとノンナさんに協力すると見せかけ…その計画自体を本人達に…。

 最初に飲み物を尾形さんと、別の物に分けた時点で、すでに裏切ってましたのね

 

「…正直に申し上げますと、思考に乱れ…それも普段でしたら、許容しない事を…気に止めなくなっています」

 

「うっわ…自己分析できてる…。つまらない酔い方してるなぁ…」

 

「初めてアルコールとやらを摂取しましたが…なるほど、あまりコレは宜しくありませんわね」

 

「自己分析は結構だけど…それじゃ、ハメも外せれないよぉ?」

 

「外さなくて、結構です」

 

 はい、そうですね。

 本来、抑止、抑制する為に私は来たのですが…その思考判断すらままならない。

 流れをただ、眺めているだけ。

 

 厄介ですね、アルコールというのは。

 …美味しいというのが…思えるというのが、更に厄介…。

 

「未成年者に飲酒をさせた犯罪者様? 貴女は、酔っていらっしゃらない様で…いえ? 普段から酔っ払っている様なモノでしたか?」

 

「……君は酔うと、毒舌に拍車がかかるね…」

 

「ですから、思考に乱れがあると、申し上げましたでしょう?」

 

「はぁ…まぁいいや。私は、あまり酔えない体質なんだよ。…だからお酒の席というのが、あまり楽しめる部類の人間じゃないんだ」

 

「…だから私達を酔わせて、その反応を楽しむと?」

 

 

「まさにそう!!!」

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 

「だからな? ダージリン。俺はちゃんと、数少ない異性の友人としてだな…ん? どうした、ダージリン」

 

「……」

 

「ダージリン?」

 

 あら…大人しくなりましたわね。

 

「さぁっ!! もう一人のノンナ君は、どうだろう!?」

 

「彼女の場合、酔ったとしても、もさして変わらないと思いますけど…先程から大人しいですからね」

 

「そうだねぇ。あのダージリンを見ていても、余り変化…は……」

 

 

 

 ゆらぁ…と、立ち上がり…フラフラと、隆史さんに近づき…。

 

 

 

 

「……」

 

「…………」

 

 

「ふぐっ!? ぅぅううう!!?」

 

 

「……隆史君…苦しそうだね」

 

「……どうしてこう…胸の大きな方は、恥じらいを持てないのでしょうか?」

 

 

「ぅぅぅんんむぅ!!!???」

 

 

 ダージリンと、同じくして、衣服…要は、浴衣の前が、少しはだけた状態のノンナさん。

 えぇ…ほぼ一直線に、腰帯までバックリと…。

 

 

「プッッハっ!!! ……し…死ぬかと思った」

 

 

 ダージリンが、膝枕で脚を占領している為に動けないのか、そのままの状態の尾形さんに対し…。

 

「…どうでしょうか? これで、私も異性として、見てくれるのでしょうか? と、いいますか、見てくれていたのでしょうか?」

 

「見てるに決まってるでしょう!? 何するんですかっっって、離れてぇ!!!」

 

「そうですか。それは良かった」

 

「 当然でしょうがっ! だから離れ……て……」

 

「えぇ…よかった。本当によかった」

 

「やわっ…離れて!!! ちょっと、洒落にならない!!!」

 

 胸元で、思いっきり抱きしめてましたね……頭を。

 えぇ…服の部分がほぼない場所で。

 

 ……チッ

 

 その尾形さんは、なんとか頭で振りほどき、大きく呼吸を繰り返していますね。

 …窒息してしまう程ですか。

 

 はい、お望み通りに、尾形さんから離れたノンナさん。

 

 そのノンナさんの全貌を見て…。

 

 

「見えそう!! 見えそうですから、隠してっ!!!」

 

「?」

 

「何をキョトーンって、不思議そうな顔してるんですかっ!?」

 

「見えそう…? 下着はしてませんよ?」

 

「だから余計に、まずいんでしょうが!!!」

 

「見ますか?」

 

「見ませんよ!!」

 

「そうですか。構いませんのに」

 

「なっ…ノンナさんも酔ってるのかよ!! 淡々と…大胆なんてもんじゃ…ぁぁああだっ!?」

 

 今度は、ノンナさんに両手で顔を挟まれましたね…。

 強引に顔をまた、正面に向けられて……痛そうですね。

 

「ゴキッていった!! ゴキッて!!」

 

「なら、次です」

 

「あの…顔…なんで近づけるんですか…」

 

「?」

 

「不思議そうな顔しないで!!」

 

「奪われたから、奪い返そうと…」

 

「何を!? 話聞いて…あぁもう!! 何か、まほちゃん、思いだしたぁ!!」

 

 

 

「    は ?    」

 

 

 

「」

 

 

 あの男は、やはり馬鹿じゃないでしょうか?

 確かに、お世話には成りましたが、あの状況でよく西住姉妹の名前を出しましたね。

 

「…では、もう一度」

 

「まってっ!! 本当に待ってください」

 

 

「  ……  」

 

「痛だだだだっ!!」

 

 …そのノンナさんの手には、彼女の全力が込められていますねぇ。

 尾形さんの皮膚が、指の形にヘコみ始めてますからね。

 

 …おや。

 

「ん…ダージリンさんが…」

 

 はい、このやかましい尾形さんの声をBGMに…小さく寝息を立てておりますね。

 …思いっきり、寝顔を殿方に晒してますが…よろしのですか?

 

「……」

 

「ノ…ノンナさん?」

 

 その寝ている、ダージリンを見下ろし…一言。

 

「これは、ずるいですね」

 

「はい?」

 

「では、私も…」

 

「はいっ!!??」

 

 ……。

 

 …………はぁ…。

 

「……」

 

「あの…ノンナさん? 何故反対の膝を枕にしてるのですか?」

 

「…………」

 

「その格好で、横向きになりますと、すごい光景になりますので、せめて衣類は正して頂けると…」ワー、オヤマダァータニダァー

 

「………………」

 

「あの…」

 

「……………………スー」

 

「 」

 

 おやまぁ…以外。彼女は、お酒に弱いのですかね?

 横になった途端に、お休みですか、そうですか。

 尾形さんが、完全にどうしたら良いか分からない。

 そんな顔で、此方に助けを求めていますね。

 

 

「「 スー スー 」」

 

 

 二つの寝息を、今度はBGMに…。

 

「はぁーーーはぁーー……くっそ…。責任、取ってくださいよ…アールグレイさん…」

 

 当然といえば、当然の…尾形さんの、恨みの篭った声が聞こえました。

 …まったく…当の本人は、頭の後ろに手を置き、口笛吹いてますけど。

 

「…体育会系の場合、よく後輩に酒飲ますとか、ありますけど…流石にこれは…どうするんですか」

 

「ま…まぁ? 最悪、私が運んで…「 はい、取り敢えず脚をどけて下さい 」」

 

 

 

 

「 隆 史 様 」

 

 

「 」

 

 ……。

 

「はぁい、仕方ありませんねぇ、ダージリン様は…っっしょと」

 

「お…おぺこさん?」

 

「ノンナさんも…っと」

 

 素晴らしく手際良く…と、言いますか…流れる様に座布団を二つに畳み、ダージリンの頭をその座布団へと移動させましたね…。

 同じく、ノンナさんも…。

 素晴らしく…本当に素晴らしい手際…。

 

 な…何故でしょうか?

 

 あの背の小さな、可愛らしい後輩が…怖い。

 お顔を顔の表情筋で、無理やり作っています。といった、感じですかね…。

 

 ですが、まずは…。

 

 

「オレンジペコ…? いつの間に…」

 

「まったく! アッサム様がいらっしゃって、なんですか? この状況は!」

 

「いや…貴女、どうやって…」

 

「え? この部屋、鍵かかってませんでしたよ? 普通に入ってきましたけど」

 

「わ…私が、気配を感じなかった…だと…」

 

 アールグレイ様が、呆気に取られている…信じられないといった顔で…。

 そのドアへと私達の視線を集めている時、今度はしっかりと、部屋の襖で、影になって見えないドアから、確かに開閉された音が聞こえた。

 

「…ぇ…今度は、誰だ…」

 

 ペチペチと足音を立て、このオレンジペコとは違い、ハッキリとした気配で…。

 寝ていたのでしょうか? 眠そうな目を擦りながら…。

 

「たかーしゃぁ…ノンナァ…しらなぁい?」

 

 クマの着ぐるみの様な、真新しいパジャマを着た…地吹雪さんが、ご入室。

 全員の視線を独占するも、即座に尾形さんの膝下に目線を動かし…。

 

「カチューシャ!?」

 

「んん~~…? あぁ……やっぱり、ここにいた…んしょ」

 

 はい、そして一直線。

 

「私も…ここで…寝るぅ…」

 

 お子様パジャマを着た、その大隊長様が添い寝を始めた…。

 

「あぁぁ!! くっそ! なんだこの絵!!」

 

 はい、そうですね。

 

 聖グロリアーナ…その戦車道・大隊長。

 その…ダージリンが、寄りにもよって、男性の部屋で…畳んだ座布団を枕に寝ている…。

 その横で、あられもない姿で、同じく畳んだ座布団を頭に、強豪・プラウダ高校の副隊長様が…。

 

 そんな絵が出来上がっております。

 

「はい、ではアールグレイ様?」

 

「えっ!? あ、はい。なにかな…?」

 

「原油はどこですか?」

 

「原油?」

 

 ……。

 

 オレンジペコ…まさか…。

 

「あぁ…原し「 原油です 」」

 

 お酒。

 原酒とは言わせない…まぁ不謹慎ですけど…有無を言わせないオレンジペコの雰囲気に、OG様がたじろいで、おいでで…。

 無言のまま、部屋の隅に置かれている、コンビニ袋を指差すと…。

 

「オペ子? 何してんの…?」

 

「隆史様」

 

「いや、あの…」

 

 尾形さんの呼びかけを、呼びかけで返し…。

 

 小さな体で、尾形さんの視線を隠し、同じくコンビニ袋に入っていた紙コップに…その原油とやらを入れた。

 それをなに食わぬ顔で…。

 

「まったく…何をなさっているんですか?」

 

「いえ…あのですね?」

 

「隆史様の事ですから? また、ダージリン様の無茶に付き合って下さったと思いますが…」

 

「いやぁ…どちらかと言えば、その先輩様に…」

 

「はぁ…もう、いいです。そんなに焦らなくとも、大体の想像はつきますよ。…取り敢えず、これでも飲んで落ち着いてください」

 

「あぇ…?」

 

 ……渡した。

 

「あの…コレ、ひょっとして…」

 

「お茶です」

 

「いや…あの…ちょっと琥珀色…してるの「 お茶です 」」

 

 ……。

 

 …………はぁ。

 

「尾形さん。オレンジペコは、前回の被害者筆頭ですわよ? ソレなのに、尾形さんにお酒を渡すとお思い?」

 

「 」

 

 助け舟をダシマショウ。

 気まずく思ったのか、コップの中身にもう一度視線を落としましたね。

 ちょっとオレンジペコが、私に視線を投げ、微笑みかけてきました…ちょと…たじろぐ程の…。

 

 まぁいいです!

 

「飲み物を一度口に入れれば、少しは精神も落ち着くでしょうよ…ですから、それから考えましょう」

 

「…え…なにを?」

 

「…この二人の処遇ですわよ。ちょっとやそっとでは、起きそうもございませんしね」

 

 えぇ…随分とまぁ…お幸せそうにご就寝になっている、我が隊の隊長様達を…ですね。

 あぁ…もう。だらしない…。

 浴衣がはだけて、胸元と太ももを、殿方の前でここまで晒すとは…。

 

 ・・・・・・。

 

 チッ。

 

 

 特にノンナさんは、すごい…えぇ。凄いの一言ですわね。

 同性の私から見ても、そう思います。

 

 

 

 ……泣きたくなりますわ。

 

 そうですわね。

 写真とって、明日ご覧になって頂きましょう?

 えぇ…暫くコレで持ちそうですね。暴走しそうになったら、これで止めましょう。

 

「…隆史様?」

 

「な…なに?」

 

「 凝視…して、おいでで… 」

 

「見てませんよ!!」

 

 ……。

 

 そうですね。

 この二人…と、言った時に、確かに見てはいましたが、今は、しっかりと顔を背けていましすし。

 凝視…という程では…。

 

「はぁ…でしたら、それをちゃんとお飲みになって…しっかり考えましょう? ……考えましょう?」

 

「わかった! わかったよ!! …はぁ…オペ子が怖い…」

 

 もう此処まで…その様な感じに諦めたのでしょう。

 手に渡されたコップを天に仰ぎ……一気にソレを飲み干しましたわね。

 

 ……。

 

 …………。

 

「…アールグレイ様」

 

「な…何だろう!?」

 

 オレンジペコの行動に、特に驚いておいでだったのでしょうね。

 呆気に取られていた、その先輩にお声を掛けると…若干声が上擦りましたわ。

 

「私の先程、思いついた作戦が今…完遂しました」

 

「んんっ!?」

 

「普段の事もございましょう。ハメを外したいのも分かります」

 

「……いや…」

 

「此処まで、私達を心配して…キャンディ様に同行して来て頂いたアールグレイ様。それに、素直に感謝致します…」

 

 ほら…隆史さん。

 様子が変わってきましたわね。

 

「…ですので、アールグレイ様には、少々痛い目にあって頂いた方がよろしいと思い……貴女に今回は、ご協力いたしました」

 

「……え……あの…。それより、あのオレンジペコって後輩…」

 

「最終的には、尾形さんも酔わしてしまう、おつもりでしたのでしょう?」

 

「白状してしまえば、そうなんだけどねっ!? いやいや! あの子、隆史君にドンドンお酒継いでるけど!? それをまた、すごい普通に飲み始めたよ!?」

 

「……では、私、これで小一時間程、部屋に戻りまして…ダージリンを回収する手筈を整えますわ」

 

 はい。

 

 被害を被りたくないですわ。

 

「あの…いやね? 後輩、聞いてくれるかな? っ!? あの娘…隆史君の膝の中に、普通に座ってるけど!? うわぁ! 良い笑顔だ!!!」

 

「まったく。本当はこうなる事を恐れて…前回の件を、素直に教えて差し上げたと言うのに…」

 

「なんで、立ち上がるのかな!? 本当に出て行くつもりかい!? この場に私を置いて!?」

 

「…シラフのオレンジペコもいますし…。地吹雪のカチューシャさんが、そこにおいでですので、如何わしい事にはならないと思います…ですから」

 

「ですから!?」

 

「貞操は死守してくださいね?」

 

「!?」

 

 

 やはり、尾形さんもお酒に弱いのでしょう。

 無言のまま、ボーッと、言われるがまま、キラッキラに輝く笑顔のオレンジペコを胡座の中に座らせていますね。

 もうすでにあの時の状態なのでしょう。

 

 …一言も喋らなくなりましたわね。

 ですから、逆に一言…この先輩に、この言葉を送りましょう。

 

 

 

「自業自得と、知ってください」

 

 

 

「えっと!? なんか言っているが、変だよ!?」

 

 

 

 

 はい、では。

 

 さっさと、逃げましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「……は…はは…あれは、酷い目にあったね…」

 

「……」

 

「隆史さん」

 

「な…なに? 詩織ちゃん…」

 

「楽しみですっ!」

 

「なにがっ!?」

 

 静かな店内…特に大きな声を出している訳では無いのだけど…目線が痛い…気がする。

 まぁ実際に俺達の話が、聞こえているとは思えないが…な。

 

 店員さんをもう一度呼び、侮蔑の視線を感じながらも、もう一つアイスコーヒーを注文。

 まったく…何故、こうなった…。

 

「面白半分で、手を出していい領域ではなかった…」

 

「何かしたんですの? いえ…されました? 奪われました?」

 

「如何わしい言い方、やめてくださいよ!!」

 

「隆史さんには、前科がございますでしょう?」

 

「」

 

 したり顔で、紅茶に口をつけるアッサム様に何も言えませんでございました…。

 いやなぁ…まだ、ここら辺までは覚えてるんだよなぁ…。

 あの時は、確か……。

 

「オレンジペコ君が、ハシャギにハシャイで、幸せそうだったよね!」

 

「あ…あぁ…何故か俺の膝の上から、どこうとしてくれませんでしたけどね」

 

「あの時のあの3人を見て…君は、異性としては判断しても、アレを恋愛対象として見られていると、感じなかったんだよね?」

 

「あ、はい。まったく」

 

 

《 ………… 》

 

 

 な…なに?

 

 

「馬を用意しよう」

 

「やめてください!」

 

 ため息…すっごいため息を吐かれてる…。

 いやね…まぁ…今はもう、思い出せばどういう事か、わかりますけどね…。

 

「所でアールグレイ様は、結局このタラシさんに何をされたのでしょうか?」

 

「お姫様抱っこだね」

 

「…………あぁ…定番の」

 

「定番って言わないでくださいよ! 俺の背だとオンブの方が、難しいんですよ?」

 

「あ、それで…決勝会場で、私にもしてくれましたよね!」

 

 し…詩織……さん。

 今、言わないでください…。

 

「…タラちゃん…犯罪…」

 

「違いますから!!!」

 

(どうでした!? あの腕でって、ずるくありませんでした!?)

(おやっ!? 分かるかね!?)

(あの安定感と、包容力と、力強さ!! 並みの男子じゃ、無理ですよね!!)

(そうだね!! 不覚にも、あの時、顔の熱で動けなくなってしまう程だったよ!!)

(…後)

(おっ! アッサムも乗ってくれるかい!?)

(…首……首の…がっちり感…)

((分かりる!!!))

 

 

「……目の前で、内緒話はやめてください」

 

 はぁ…。

 そういえば、この後……か。

 

 俺の記憶の最後…あの……温泉……露天風呂……。

 

「そういえば、アッサムはあの時、なんで私のそばにずぅぅぅっと、付き添っていたんだい?」

 

「…隆史さんの前で、片っ端から戦車道乙女のスカートを捲りそうでしたので。浴衣も含めて…」

 

「…………流石に私も、男の子の前では、やらないよ」

 

「誰の前でも、やめてください」

 

「いやぁ…しかし以外だったなぁ…。タラちゃん、酔っていても…」

 

「なんですか」

 

 

 

「寝ているダージリンとノンナ君に、いたずらしなかったよね」

 

 

 

「する訳ないでしょうが!!!」

 

「少しくらい、捲っても良かったのに…すぐに押入れからタオルケット取り出して、上に掛けちゃうし…」

 

「当たり前でしょうが!!!」

 

「変な所、紳士だよねぇ…なんだろう。本人の許可があれば、鬼畜の所業をするのに…プラウダのお茶会の様に!!!」

 

「見てきたかの様に、言わないでくださいよ!!」

 

「もうちょっと…こう…思春期の少年らしく、甘酸っぱいのはないのかな!?」

 

「……」

 

「……」

 

「…おや…気持ちの悪い位に、動きが止まったね」

 

「い…いや、甘酸っぱくはないのですけど…その」

 

 

「 お風呂ですね 」

 

 

「っっ!!」

 

 しれっ…と、同じように紅茶に口をつけながら、ボソッと…もう一人の当事者様が、発言なされた。

 か…体が一瞬、浮いた気がしたなぁ…。

 心音と一緒に体が、アッサムさんの言葉に飛び上がってしまった…。

 

「……ふ~…」

 

「あの…」

 

 人心地着いた…そんな感じで、ティーカップをゆっくりと置く…そして一言。

 

 

 

「 では、つづきです 」

 

「……」

 

 ま…まぁ、ここからだからなぁ…本当に俺が聞きたいのは…。

 

 …確か。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 まったく…えらい目にあった。

 

 夜中…漸く解放されたね。

 なぜか? 皆、力尽き寝てしまったから…。

 

 男の部屋で寝るなよ…。

 結局、アッサムさんは、すぐに戻って来なかった為に、どうしようもなく…。

 俺が運んでもよかったんだけど、その最中に夜中に廊下で、年頃の娘さんを運んでいる…なんて姿見られたら、一発で通報されそうだったからね…。

 そりゃ…泊まっている方々の大将様達を、酔わせて運んでいる…どこぞに連れて行く…そんな絵が出来上がりますがな

 

 部屋に何時までも、いる訳にもいかない。

 女の子しか、他にいなかったしね!!

 

 暫くして、動かなくなったアールグレイさん共々、途方にくれていると…丁度一時間後…漸くアッサムさんが戻ってきてくれた。

 …うん。何も如何わしい事は致しませんでしたので、大丈夫ですよ? と、ジト目で俺の言い訳を聞いてくれたアッサムさん。

 アールグレイさんを文字通り、叩き起こし、全員を一緒に…搬送いたしました…とさ。

 

 ……。

 

 結局、本当に自由の身になれたのは、夜中…丑三つ時間近でした。

 そうして漸く、一人で…一人で!! …温泉に来れたという訳でごんす。

 女生徒人口が、99%を占めるという事で、男湯の時間は今…と、相成りました。

 まぁ、女将さんに頼んでそうしてもらったんだけどね。

 

 …余計な事! 変なイベントフラグはいらない! と、マジな目で頼んだら、事情を察してくれました。

 針の寧ろなんすよ?

 

 とぉぉ!! 言う訳でぇ!!

 

 しっかりと、のれんが男湯になっているのを確認!!!

 

 あぁ! 確認だ! 指差し確認!!

 

 …くだらないトラブルは、極力避けたいですからね。

 

 はぁ…やっと、本当に一人になれる。

 

 のれんを潜り、脱衣所へ。

 はい、よくある銭湯の脱衣所ですね。

 脱いだ衣服を置く、編みカゴが並ぶロッカーに、でっかい扇風機と鏡。

 

 変な忘れ物とか、あってくれるなよ…。

 

 一通り何もないか? と、脱いだ衣服を入れる、網カゴを確認する。

 良かった…何もない。

 これで、心置きなく風呂へと入れる…。

 

 …先程、俺も寝てしまったのだろうか? 俺も意識を失っていた。

 変に足がうまく動かないので、変に寝ぼけてでもいるだろうか?

 まぁ、特に支障はないから、風呂にでも入ってしまえば、元に戻るだろう。

 

 …露天風呂。

 

 特段普通の露天風呂。

 

 さっさと衣服を脱ぎ、中へ入ると……なんだ? 湯気で真っ白だ。

 露天風呂だし、こんなに真っ白く曇るもんか?

 

 その為、効能がどうの書いてある、立て看板があるが、湯気でよく見えない。

 北海道だし、夜の気温がグッと下がる為ってのもあるのだろう。

 お湯からの湯気がものすごい、ちょっと霧じゃないか? と、思うくらい…。

 少し、肌寒いしな。

 

 ……。

 

 違う…北海道の気温差等で、コレ…マジで霧だわ。

 夜中…朝方になると、こうなるのか?

 

「……」

 

 さっさと入ってしまおう。

 そして、さっさと出てしまおう。

 

 取り敢えずと、体と頭を洗い、熱いお湯を頭からかぶる。

 ここら辺は、特段何もない。…普通だな。

 備え付けのシャワーの前に、椅子、桶……まぁいいや。

 そこら辺は、どうでもいい。

 さっさと、してしまおう。

 

 

 岩の地面を進み…化粧岩に囲まれた、湯船の前まで来ると…。

 

 

「……ふっ…と」

 

 体を伸ばし、腕を伸ばす。

 関節の動き、筋肉の伸び…体のメンテナンスとやらを行う。

 運動不足に、ならない程度には、筋肉を酷使しているつもりだけどな。

 …筋肉痛と言うものが、最近ないので変に寂しく感じてしまう俺がいますね…。

 

 昼のみんなは、明日大変だなァァァ!! 羨ましい…。

 

 まぁ……いいや

 なんか、悲しくなるから…。

 

 しかし…いやぁ、広いから、思いっきりできて、少し楽しい…。

 折角だし、湯船に立ったまま入り、即座にギシギシと音が出そうな位に体を伸ばし…回す。

 ふむ…一度、湯に使って…筋肉を温めたからの方が、良いか?

 

「…ん?」

 

 ぬ…

 

 ちょっと頭がクラッとした。

 

 湯気なのか霧なのか…良く分からないこの状態でも見える星空がすごい。

 …頭が真上を向いてしまった。

 

 湯船にすら入っていないので、のぼせるなんて事は、まだ無いと思うのだけどなぁ…。

 上半身を、左右にブラブラと…適当に回すと…えっと…。

 顔の正面が、脱衣所にへと、向けられる…。

 

 

 ……向けられるのですが…。

 

 

 向けた瞬間……ガラッと音が響いた。

 

 

 ……。

 

 

「おぉぉぉ!!! 姐さん!! 露天風呂っすね! 露天!!! まぁ、真っ白で良く見えないっすけど!!」

「ペパロニ? はしゃぐと、転ぶわよ? 誰かいたらどうするの?」

「いいじゃねぇか。こんな時間だしよぉ、貸切みたいなもんだろ?」

「…しかし、のれんが、入口に掛かっていなかったけど…大丈夫なのか?」

「でぇーじょうぶっすよ、姐さん!! この旅館、隆史以外に、男の客っていないみたいっすから!」

 

 

「       」

 

 

「そう…だなッ!! たまには良いよな!! こういうの!!」

「そうですねぇ…夜中にペパロニから起こされた時は、びっくりしたけど……はぁ…」

「んだよ、カルパッチョ」

「今日…殆ど、隆史さんとお話できませんでした」

「そっか?」

「そうですよ。久しぶりだったのに…ドゥーチェだけ、ずるいです」

「ず…ずるくない!!」

 

 いや…もう…。

 誰が入ってきたとか…のれんの話とか…突っ込み所が満載だけど…。

 

 えっと…

 

「…ペパロニ」

「なんすか? 姐さん」

「お前…また、大きく…」

「はい?」

「と…取り敢えず、バスタオルは巻け…幾ら同性でも…何も着けないのは、やめてくれ」

「いいじゃないっすか!! 誰も、見てないんっすか!! ほらほら姐さんもぉ!!」

「私達から、思いっきり見えるだろうがっ! 少しは、恥じらいを持て!! というか、捲る……返せぇ!! 取るなぁ!!!」

「…姐さん。意外にスタイル良いっすよね」

「意外とはなんだ 意外とは!!」

「開放的になればいいんすよ!! カルパッチョもなぁ!!」

「ちょっ!? ペパロニ!?」

「いぇ~い!! タオルをどーーん!!」

「投げるなぁ!! お湯にタオルを入れてはダメなんだ…ぞ…」

「…ぁが…」

「あらぁ」

 

 ……。

 

 そんな訳で…夜中だと言うのに、騒がしく…いつもの3名様がご来店…。

 湯気が濃いとはいえ、シルエット位は、わかると思うのだけど…。

 会話からして、ペパロニが二人のタオルを奪い…俺がいる湯船にへと、投げ入れてきた…と、いった所でしょうか?

 すげぇズンズンと、此方に話しながら歩いてくるモノですから、何もできなかった。

 

「なっ…なっ! なぁぁぁぁ!!!!」

「……タカ…シ」

「あら、隆史さん、こんばんは」

 

 

 あ、はい。

 流石にこの距離なら分かりますよね?

 いやぁ…自然体のカルパッチョさんの方が、違和感を覚える出会いですねぇ。

 

 …いや、ほんとに…

 

 ぉあ…一瞬で、唯一一人だけ持っていた…というか、投げなかった自分の小さなタオルで…ペパロニが体を、隠した。

 いやぁ…うん。

 そのまま、ゆっくりと座り…湯船に完全に浸かる。

 ぐるっと、体を回転させ…彼女達に背中を見せようか?

 

 …はぁ…こういったイベントを、避ける為に態々夜中に来たと言うのに…。

 彼方さんから、鳥さんがネギしょって、やってきた…。

 そして、あらぬ誤解と更なるイベントを起こさせない為に、コレだけは言っておこう。

 

 髪が濡れない為だろう…髪の毛を後ろでまとめた、アンチョビとカルパッチョさん。

 いやー似合いますね。

 

 ……。

 

 …………うん、違う。

 

 

「色々と言いたい事は、あると思うが…今は、男湯の時間だ」

 

「 」

 

 

「俺が入ってくる時には、しっかりと男湯ののれんは、掛かっていたからな?」

 

 あぁ、アンチョビの絶句が聞こえる…。

 いや、言葉がないから聞こえるはずがないのだけどね? 聞こえるんだよ…。

 多分、ペパロニに詰め寄ってるなぁ…。

 

「…そういや、あったな。隆史も来ないと思って、外しちまった…」

 

「ペ…パ…ペパァ!!」

 

 闇夜を切り裂く、乙女の悲鳴…の、様なモノは上げないでくれて、ありがとうございます。

 第三者から見れば、俺が完全に犯罪者です。ハイ。

 

「…まぁ、うん。俺…出ようか?」

 

「待てっ! 今出るな!!! こっちを絶対に見るなよ!?」

 

「見ません」

 

「でもすでに、しっかり、真正面から見られてますしねぇ」

 

「っっあああ!!」

 

 あ、はい。流石にアレでは、言い訳のしようがないですから。

 敢えて細かくは、感想を述べる事はやめておきますね?

 

 ……。

 

 

 …………やめておきます。

 

「では、ドゥーチェ?」

「んにゃ!?」

「折角ですし、ご一緒します?」

「するかぁ!! する訳が、ないだろう!?」

「え~~~~」

「え~~じゃない! …他の男も入ってくるかもしれないぞ」

「でもぉ、隆史さんだけしか、この宿には…」

「ペパロニがやらかしたんだぞ? 男性の従業員とかも来るかもしれないだろぉ!!」

「あ~~…う~~ん…そうですねぇ…それは嫌ですねぇ」

「そうだろ!? そーーだろぉ!? じゃあさっさと出るぞ!? というか、ペパロニが大人しい…」

「…もうすでに、出て行きましたよ? というか、入り口で顔だけで覗いてますよ?」

「…………アイツ」

 

「姐さん! ねーさん!! 何してんすか!! 早く!!」

 

「手招きしてますね」

「はぁ…んじゃ出ようか…」

 

 あ、話つきました?

 いやぁ…結構、湯加減良いし…やっぱり俺が出て行って、彼女達に譲った方が良さそうだなぁ。

 でも…まぁ、もう無理だろう。

 千代美達、すでにもう入る気何てないだろうなぁ。

 

 っっ!!??

 

 なにっ!?

 

 ムニっ!?

 

 なに!!??

 

 なんか、そんなの…が……。

 

 今、一瞬冷たいのが…というか、なんか背中に、やわらかい……感触…が…。

 

「では、隆史さん」

 

 み…耳元で…カルパッ…。

 首元に、彼女の垂れた前髪でくすぐる様な感触が……。

 それ以上に背中の感触がすげぇけど!! ダメでしょう!? カルッ

 

「…………」

 

 あ、すいません。ひなさん。

 

「私達、失礼しますが…今度また…機会があれば…」

 

 はっ!? はい?

 なにが!? なにを!?

 

「「なにやってんだぁ!!! カルパッチョォ!!!」」

 

「ドゥーチェダメですよぉ? ペパロニもっ! 夜中何ですから、叫んじゃ」

「あぁ、もう! いいから、行くぞ!!」

「あぁ、もう…ひっぱらないで下さい…」

 

 

 それが、最後の彼女達の言葉だった…。

 はぁ…。

 

 バタバタと分かりやすい擬音を奏でながら、漸く……また一人になれた…。

 はぁ…こりゃ、逆に彼女達が脱衣所から出ない限り、俺もまた出れないな。

 振り向くと、入り口の曇りガラス越しに、彼女達のシルエットが見える…。

 

 ……。

 

 あかん。

 

 

 髪の色と、肌色。そのシルエットだけだ。

 こっちの方が、逆にあかん。

 

 

 ……はぁ…。

 

 

 岩肌を見ていてもつまらん。

 

 今度は、空でも眺めてるか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 ・・・・・

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

「 ぶっっはぁぁ!!! 」

 

 

 立ち上がり、大きく息を吸う…。

 頭全体をお湯で濡らし…顔に垂れてくるお湯を、口元から腕で拭う…。

 体がお湯の熱で、温められ、熱く熱を帯びた体の温度を感じる。

 ボーっとする、頭を振り、自身の状況、状態を確認…。

 

「 」

 

 …

 

 ……

 

 あ~…死ぬかと思った。

 

 まさか、温泉で寝落ちするとは…うん、完全に寝ていたわ…。

 マジで、死ぬ直前だった気がする…。

 

 湯気が少し、晴れていた。

 風が出てきた為だろうか? 若干、冷たい風が心地良い。

 

 ……いやぁ…結構、本気で危なかった…。

 心臓がバクバク言っている。

 

「 」

 

 まだ頭がボーっとする…こりゃやばいかな…。

 息が荒く、無意識に空気を吐き続ける。

 

 

 はぁ…もう、上がろう…。

 

 

 一度、熱を冷まして…後は、さっさと寝てしま…………。

 

 

「 」

 

 

 両手で顔を拭く拭き…。

 

 

「  」

 

 

 体を脱衣所の方向へ、向けると……。

 

 

「……と…」

 

 

 肩まで湯船に浸かり…あ~…うん。

 温泉のお湯のセイだけでは、ないのだろうな…うん。

 

 

「取り敢えず…お聞きします」

 

 

 信じられない程、目を見開き…そして信じられない程、真っ赤になった…。

 いやぁ…うん。前は一応、腕で隠してください。

 

 固まるのは、わかるのですけど…困ります。

 

 そうそう、取り敢えず…冷静になって下さいね?

 

 あ、はい。

 

 なぜか眼球が、一点を見つめるように動きを止めてますね。あぁ……動けないのか。

 

 そして……ボソッと、はっきりと聞かれました。

 

 

 

「これは、通報案件でしょうか?」

 

 

 

 はい。

 

 

 やめて下さい、アッサムさん。

 

 




閲覧ありがとうございました

今回で過去編が、ほぼ終了。
次回は、また…別の過去編が絡む……かも?

ありがとうございました。








ちょっと濁したネタバレ。
…あの謎の彼女の設定は、あの説でいこうかと思います。
隆史との関係性ですと、あの考察設定の方が面白くなりそうだと考えました。
あの設定が嫌いな方は、申し訳ない。
あの決勝戦会場でも、敢えて会話を一切させませんでした。



…はい、姉妹になりそうです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。