転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第17話 昔語り と…昔の話

 エキシビジョンマッチ。

 聞いてきた通り、この大洗町には関係ない連中が、道路脇に時たま目に入る。

 まぁ、あの連中は後日だな、後日。

 

 目的の人物は、そうそうお目に掛かれないそうだよ?

 めんどくせぇなぁ。

 ただでさえ、余りこんな田舎にいるのは、気が滅入ると言うのに…まぁ、ここに今日はいるという情報を掴んでいる為、仕方なし車を走らせる。

 

 グルッと町内を3週。

 それで見つかれなければ、まぁいいや。

 次の機会だ。

 

 

 非常に目障り。

 

 あの男の血筋を、何年か前に聞かされた時には、怒りで体が震えたねぇ。

 汚らわしい一族の分際で、人の計画を邪魔しやがって…。

 母親はどうしようもない。…あんな化け物を相手にした所で、損害しか出ないしな。

 何もしなければ、西住流を謳っている段階で俺に手出しはできまい。

 …頬っておこう。

 

 情け無いが、無理な物は無理。

 諦めは肝心だよねぇ。

 

 息子に危害を加えれば、また面倒だからな…逆に言えば、危害を加えなければいい。

 どうとでもできる…が、最後だな。

 そうそう…危害さえ加えなけりゃいいだけだ。

 

「…ふぁぁあ…」

 

 流れる風景は、似たか寄ったか。

 古ぼけた建物が続く商店街付近に目線を流す…。

 飽きてきたなぁ…眠気だけが、襲ってくる。

 

「若」

 

「…なんだよ、内海」

 

 運転手兼、執事の男が声を出した。

 必要な事以外は喋るなと命令をしていた。

 だから、これは必要な事だろう。

 

「…それらしき人物が、そこに」

 

「ん…ぉ」

 

 路上を背の低い小娘と歩く女。

 3人組み。

 帽子を被り、良く顔が見えないが…まぁ、アレだろう。

 チューリップ帽子というのか…バックリ、後ろ側が割れ、白い紐が交差されている。

 お手製の修理でもしたんでしょうかねぇ? みっともない。

 買い換えろよ、そんな安物…。

 結構、簡単に見つかったね…さっすが、俺。持ってるなぁ。

 

「まぁいいや…んじゃ、行くか」

 

「若」

 

「んん?」

 

「質問をお許し頂けますか?」

 

「お前が? …ふ~ん。言ってみな?」

 

 俺に対して絶対服従…と、言う訳でもないが、必要最低限の事しか口を開かないこいつが、質問?

 興味があった為、答えてやる事にした。

 

「…尾形 隆史と直接面会といい…あの少女といい…何か意味があるのでしょうか?」

 

「意味?」

 

「尾形 隆史の転校の件も含め…態々、警戒される様な真似をするのは、どうしてでしょうか?」

 

「あぁ…なるほど。まぁそうだな…普通、分かるわけないよな」

 

 転校の件、あの男の幼馴染みの件…。

 直後に調べれば、すぐに分かる事を、敢えて盛大に大袈裟に言った事…だよな。

 

「そうだな、意味は…殆ど無いね」

 

「意味は無い…の、ですか?」

 

 ゆっくりと歩く3人組に近づく車。

 少し追い越し、10メートル程離れた時点で、ブレーキが掛かった為、車体が揺れた。

 さて…行くか。

 

「内海」

 

「はい?」

 

 俺の一連の…これからの行動は、ただ一つ。

 あの小僧の感情を、俺に持ってくる事。

 

「俺…っと…。僕はね?」

 

 感情を切り替え、一人称も切り替え…この執事に答えてやる。

 暫く続きそうな…そしてすぐにでも終わりそうな目的。

 

 

 

「僕は、尾形 隆史に嫌われたいんだよ。それこそ……憎悪されるくらいにねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 取り敢えず、胸元を両手で隠し、この目の前の変質者(仮)の様子を伺う。

 その上で、何故この男が、こんな場所…しかもこんな所にいるのか? と、思考を巡らす。

 この野外…露天風呂は、時間で入浴時間が、男女公転するのは存じてましたが…。

 

 まさか、変更されるまでお湯の中で隠れて待っていた…という、訳でもなさそうですしね。

 明らかに同様していますし、目元を手で押さえて此方を見ないようにはしていますしね。

 

 …なんでしょうか?

 

 何か、大切な事を見落としている気がします。

 

「…アッサムさん」

 

「なんでしょう? 悲鳴の一つでも上げた方が、よろしいですか?」

 

「……」

 

 この方の事です。どうせ、何か手違いがあったのでしょうがね?

 冗談でも何でもなく、その位の事はしそうだ…と、いった顔で見下ろしていますね。

 

 流石に冗談で言ったつもりですが、お望みならばそうしましょうか?

 現在、湯船を照らす人工的なオレンジ色と、夜の暗闇のコントラストの中、お湯が動く水音だけが聞こえる程の静寂が包んでいます。

 まぁ…その中で、真っ裸の男性が、目の前で青くなっていますが。

 私の冗談を無視し、会話を続けてきました。

 

「あの…男湯の、のれん…掛かっていませんでしたか?」

 

「…あ」

 

 …それだ。

 尾形さんは、酔いつぶれているだろうと決めつけ、女性しかいないと頭にあったので、何もなく普通に入ってきてしまいましたね。

 ふ…普段ならこの様なミスなぞ、しないのですが…まだ、アルコールが大分残っているのでしょうか?

 

「あっ……て。はぁ…ペパロニ……戻してけよ…」

 

 私のたった一言の呟きに、全て察したと秤りに肩を落としましたね。

 しかし…ペパロニさん?

 

「…先程ですが、アンツィオの連中…と、ペパロニの奴がですね…?」

 

「なるほど…分かりました、もう結構です。察しが付きました」

 

「…アッサムさんは、察しが良いので、ものすごく助かります」

 

「あの三人との混浴は、済ませたと…」

 

「違いますよ!! 分かっていて言っているでしょう!?」

 

 はぁ…まぁ分かりますけどね。

 あの姦しい、ペパロニさんの事ですからね。

 どうせ、誰もいないと思って、男湯ののれんを外してしまったのでしょうね。

 でも、女湯ののれんも掛かっていませんでしたけどね…ある意味で、そのおかげで尾形さんは、今この時まで無事でお過ごしでしたのでしょうね。

 

「あっ! あぁ…すいません」

 

 今気がついたかの様に、私に背中を向けましたね。

 全裸で私の前に、ほぼ仁王立ちでしたしね…。

 

「……」チッ

 

 あぁ…違う。

 いえ……しっかり見てはしまったのですが…いや? えぇっと…。

 妙に顔が熱いですね。

 …相手は、たった一つしか違う…しかも年下。

 その、明らかに年下に見えない…とはいえ、男性の全裸というのをじっくりと見てしまった…あぁ、いや。これも違う。

 なにを言っているのでしょうか?

 うまく考えがまとまらない。やはり、私も動揺をしているのでしょうね。

 

「で…ではぁ…」

 

 尾形さんが、背中を見せたまま、横歩きでお湯を移動し始めました。

 こちらまで、小さなお湯の波が何度か訪れて来ました。

 

 ……。

 

 エグい…とでも言うのでしょうか?

 3本程…斜めに大きな線が、彼の背中にはありました。

 傷…生々しい程、大きな傷。

 余り古くないのか…塞がったばかりの様な…。

 

「俺、もう出ますから…。後で言い訳聞いてくれると助かります…。で…ですから、ゆっくりしていって…「お待ちなってください」」

 

「…?」

 

 っと、いけません。

 変に見入ってしまいますね。

 

 取り敢えず、こんな状況ですが、先程少し…場違いにも思ってしまいました。

 この状況。

 

 …都合が良い。

 

「丁度良い機会です。そのまま、此方を向かずに座って頂けます?」

 

「…は? 何を言って…それに、丁度良い?」

 

「先程、お部屋の方で言っていた「お話」…を、するのには、丁度良いと言っているのです」

 

「……あぁ。でも、あの…流石に、この状況では…」

 

「明日もダージリン達が、貴方に構って欲しいと押しかけると思いますし…邪魔されず、二人きりの状況に、この合宿中に慣れると保証もありませんからね」

 

「構ってって…」

 

「私と湯を一緒にするのは、お嫌でしょうか?」

 

「んな事は、ありませんけど…」

 

 なにをマゴマゴと…煮え切らない。

 確かに、躊躇しても可笑しくは御座いませんが、女側の私が良いと、言っているので良いではないですか。

 私としても、恥ずかしいのですから、さっさと座ってくださらないかしら?

 

「それとも何ですか? 私より先に脱衣所に行き…誰もいないのを良い事に、私の衣類…「ご一緒させて頂きます!」」

 

 …全部言い終わる前に、勢いよく湯船につかりましたね。

 最初からそうしていれば、私も変な事を言わないで済むというのに…まったく。

 

 ……。

 

 …こんな風に考える事なんて、今までまったく無かったと言うのに…何故?

 視線を自分の胸元の湯船に落とし、波を打つお湯を眺めながら、浮かぶ疑問に即座に答えを出す。

 

 …………はい、自覚しました。

 

 私、まだ酔っていますね。

 思考回路が変です。おかしいです。

 

 ……ま、いいでしょう。

 この位の方が、逆に宜しいと思いますし。

 自分から異性を…その…混浴に誘ったりするのも、多分アルコールのセイですね。

 

 

「…で。なんでしょうか?」

 

 言われた通り、此方を振り向く事もしないですね。

 年頃の男の子と言うのは、思考と体は別物だと聞いていたのですが…何故でしょうか?

 こんな状況下で、チラチラと見ることもなく、早く終わらせましょう? という、態度…言い方の尾形さん。

 

 ……。

 

 

 ……なんか、悔しいですね。

 

 

 はぁ…まぁ、いいです。

 

「正確には、貴方に私から言っておきたい事がある…と、言う事なのですがね」

 

「言っておきたい事?」

 

 ……。

 

 何故でしょうか?

 

 今更になって…躊躇が出てきてしまった。

 しかし…頭の中が、少し…熱い。

 

「ひ…昼間の事ですが」

 

「昼?」

 

「我が校のOGが、来訪された時の事です」

 

「あぁ…はい」

 

「ありがとうございました」

 

「いえ…どういたしまして。え? そのこと?」

 

 私のお礼に素直に返す。

 特に吃ったり、動揺は感じられない。

 いきなり切り出した内容ですが、まぁ普通の反応。

 

「…助けてください…と、言った手前も御座いますが…いつもああなのですか?」

 

「ああ?」

 

「助けを求められたら、誰でも出しゃばるのですか? と、言う意味です。カチューシャさんに助言を頂きまして…それで、貴方に救助を願いました」

 

「あー…はっはー…言い方、ちょっとキッツイっすねぇ…」

 

「…そうですね。ごめんなさい」

 

 確かに少々…嫌な言い方でしたね。

 笑ってはいますが、素直に謝りましょう。

 

「…別に、誰でもって訳では、ないですよ?」

 

「…そうなのですか? あぁやって、女性を口説いて回っているのではないのですか?」

 

「はっはー…きっつ…」

 

「今日の事で、ダージリンもまた更に…ですから、先程の様な行動に出たのですよ?」

 

「えっと…何がですか?」

 

「…言っていましたでしょう? 女性としてどうの…」

 

「あー…言ってましたね。なんであんな事、言ってきたか分かりませんけど」

 

 …この男。

 

 

 ですが、ここです。

 

 …私が言いたかった事。

 

 ダージリンは、男性慣れしていないのもありますが、彼との青森での生活で変わっていった。

 …それは、彼女の格言好きにも、少し変化が出た。

 色恋、恋愛…その関係の格言の本が、まぁ…増えたこと。

 

 オレンジペコは、何となく分かりますが、ダージリンが何故? という、疑問が強かった。

 何故、彼に惹かれているのか…。

 彼が鈍感なのは、十二分に知ってはいますが…でしたら、彼なりに彼女への気持ちをハッキリさせ、ダージリンにもハッキリと言って欲しいと思いました。

 大きなお世話かもしれません……が、色恋などで余りフラフラと隊長様にしていて貰っては、困るのですよ。

 

 そう、彼女は聖グロリアーナの隊長なのですから。

 

「まぁ…ちゃんと女性と見てると言いましたし…それは、もういいでしょう」

 

「…本当ですか?」

 

「いやいや! アッサムさんもいたでしょう? あの場に!」

 

「…いえ、私が疑問に思っているのは、ソコではありません。本当に彼女を…ダージリンを女性と見ているのですか?」

 

「はい?」

 

 では…どうせです。

 

 アルコールに任せ……本音で言いましょう。

 どうにも先程から、この人に対してはスラスラと言えますね。

 若干、快感にも似たモノを感じ始めましたし。

 

「…言い方を変えましょう。ダージリンを、恋愛対象として見ていらっしゃるのでしょうか?」

 

「……」

 

「……」

 

 余計な事は言いません。

 ストレートに聞いておきましょう。返答によっては…。

 

「アッサムさんの顔を見ていないので、わかりませんが…結構、真剣に聞いてます?」

 

「はい、至極真剣にお聞きしてます」

 

 目線を彼に動かすと、そのまま太い腕を上げ、頭をバリバリと音が出るほど掻いていました。

 さて…。

 

「では…真面目に答えましょう」

 

「……」

 

「分かりません」

 

「…は?」

 

「女性としては、ちゃんと意識してますよ? 失礼ですしね。ですけど、だからと言って、それが恋愛対象かどうか何て…別問題では? とも思います」

 

「そうですか?」

 

「そうですよ」

 

 ……。

 

 変な言い回しは無しで。

 彼はハッキリと言わないと、分からないでしょうしね…かなり酷い事を、強めに言う位が、丁度良いでしょう。

 

 …例え本心ではないとしても。

 

 えぇ…これはダージリンの為…。

 

「私は…はっきりと申し上げますと…」

 

「はい?」

 

 …ぐっ。

 

 また、普通に…。

 

「わ…私は貴方が、邪魔です」

 

「お…おー…」

 

 

 ……。

 

 

「ダージリンは、貴方と会って、完全に変わりました。えぇ…それはもう…見事な程に」

 

「そうなんですか?」

 

 私から、あの様な事を言われても…特に彼は態度を崩さない。

 

「…ですから、本気では無いのでしたら、ハッキリとそれをダージリンへと伝え…彼女をかき乱す様な真似は、やめて欲しいのです」

 

「……ふむ」

 

「あ…貴方は、彼女を不安定に…させる…」

 

 体が熱い…。

 湯の温度が、上がった気がした。

 段々と頭も…。

 

 …慣れない事を、するモノではありませんね。

 

 人を傷つける為だけの言葉を吐くというのは、存外……キツイ。

 

 気づけば頭を垂れ…目線はまた、湯船の波を見つめていた…。

 

「アッサムさん」

 

「…はい!?」

 

「では、正直に言いましょう」

 

「正直に?」

 

 …今更、何を?

 先程の事でしょうか? 分からないと仰った…。

 

「俺には…恋愛が分からない」

 

「は?」

 

「恋…とか、小っ恥ずかしいですが…愛とかが、一切理解ができない」

 

「……」

 

「まぁ…その…それに、ダージリンが俺なんかに、恋愛感情なんぞ持ち合わせているとは、到底思えないのですけど…」

 

 は?

 

 はぁー!?

 

 あそこまで、あからさまなのにですか!?

 馬鹿なんですか!? 馬鹿なんですね!?

 

 …こ…言葉を飲み込む。

 

 これを私が言ってはいけない…。

 彼女の気持ちを、暴露する様なモノです。

 

「い…いやね? 好きや、嫌い…といった感情は、流石に分かるのですけど……」

 

「…はい? 西住姉妹と交流をしてきたと言うのに…ですか? その歳で? え?」

 

「えっと…あの二人が何故、今出てくるのだろうか…」

 

「…やはり、貴方は馬鹿ですか?」

 

「 」

 

 彼から聞いていた、二人の話を聞いた所…殆ど惚気にも似た感じでしたのに…。

 まぁ…また、そこから役何名は、暫く機嫌が悪くなる…といった、お約束でしたね。

 

「はぁ…尾形さん」

 

「な…なんでしょう?」

 

 

 

 

「はぁ…貴方、人を本当に好きになった事がないのですか?」

 

「…………」

 

 

 ん?

 ため息混じりで、愚痴っぽく言った言葉に、尾形さんが固まってしまった。

 後頭部しか見えないのですが、完全に肩が硬直…。

 言い訳すらしなくなってしまいましたね。

 

 …。

 

「私も正直に言いますと、貴方がダージリン達を、女性として意識しているかどうかも、まだ疑問なんです」

 

「……」

 

「今もそうでしょう? なんですか、その落ち着いた態度は」

 

「………」

 

「ダージリンやノンナさん達が、貴方に密着すれば、確かに貴方は動揺する。動揺しますが、それも一時だけ。すぐにその状況を受け入れてしまう!」

 

「そ…そんな事は、ないと…」

 

 状況を変えようとしたのですが、今度は私の語尾が段々と荒くなっていく。

 それに合わせ、尾形さんの態度が、徐々に戻ってきました。

 

「ですから、今もそうでしょう!? 私…近しい年代の女性と裸でお風呂に一緒に入っている…という状況だと言うに!」

 

「アッサムさん!?」

 

 何故…私は怒りを感じているのでしょうか?

 

「貴方の態度からは、幼児…年端もいかぬ、子供といるみたいに感じます!! 犯罪者ですか!?」

 

「アッサムさん!!??」

 

「それはダージリン達も、焦るでしょうよ! 端から相手にすらされていない様な…そんな不安感しか感じられない!」

 

「……」

 

「確かに異性としては、感じているのかもしれませんが、貴方の態度では…彼女達が可哀想ですよ…」

 

「そ…そうです…か」

 

 いつの間にか立ち上がり、彼を見下ろしていた。

 彼は……たまに見せる、困った様な顔を私を見上げている。

 もう、訳が分からない…。

 

「「 はっ!! 」」

 

 少々熱くなってしまった…。

 勢いよく湯船に体を隠すと、そのまま彼に背中を向ける。

 彼もまた、後ろを振り向いたのでしょう…湯船がまた揺れる…。

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 どの位、時間が経ったのでしょうか?

 

 そろそろ上せてしまうと、感じる位には時間が経過したのでしょうか?

 

 …尾形さんから口を開いた。

 

「アッサムさん」

 

「な…なんでしょう?」

 

「それを含めて…ですか?」

 

「はい?」

 

「あのOGの方が来られた時…助けてくださいと、俺に言ってきた時…かなりアッサムさん、参っていた感じがしましたから」

 

「…何を……」

 

 参っていた?

 予測と違う事を言われてしまいました。

 確かに、アレのせいで疲労は溜まっていましたが、表に出すような事は絶対にしません。

 しかし…なぜそれを…。

 

「OG会の事と、今の事。複合してアッサムさんの心労になっていたとしたら、すいませんでした」

 

「ちょっと待ってください!? ち…ちがっ」

 

「じゃぁ……俺の事は、さっさと終わらせます。明日にでもダージリンには、今の事を言っておきますね?」

 

「今の事!?」

 

「いや…ダージリンを恋愛対象として見れるか、よくわからんと…」

 

「馬鹿ですか!?」

 

「えー…」

 

 あ…いえ…。

 

 それで、正解…? そう、正解です。当初の目的です。

 

 そうです…それで、彼女に落ち着きが戻れば……でも、それでは、あまりに…

 

 ???

 

 うまく考えが、纏まりません…どうして…。

 

 彼と話していたのが、原因なのか…それとも、時間の経過で冷静になれたのか…。

 

 別の疑問が頭に浮かぶ…。

 

 痛い…。

 

 頭痛が…。

 

 

 どうして、私は…そんな人の恋路を邪魔する様な事を思いついたのでしょう?

 

 いえ…聖グロリアーナの為…。

 

 しかし…それは…え?

 

 厄介です……アルコールというのは、厄介です!

 

 じ…時間を…。

 考えをまとめる時間を…。

 

「少し待ってください…いきなりすぎます。そもそも、ダージリンを助けて上げた直後になんて…」

 

「ダージリンを? はい? そういえば先程も言ってましたけど、俺は別にダージリンは助けてませんよね?」

 

「…はい?」

 

「今回の事は、俺は初め、何もする気はなかったんです。それこそダージリンから言われても」

 

「……え」

 

「そもそも、あの場に俺が出て行かなくとも、ダージリンなら自力でなんとかできたでしょうよ。あの話を間近で聞いていたら余計にそう思いました。あれは端から、脚本が出来ていた流れでしたよ?」

 

 …頭痛が段々と…。

 

「俺が助けてやりたいと思ったのは、アッサムさんですよ?」

 

「…………」

 

 痛みがリズミカルに…襲ってきました。

 これは…警報?

 

「顔が明らかに、考えすぎて袋小路に入ってる感じでしたしね。」

 

「待って…」

 

「あ~…こりゃ、完全に参ってるなぁ…って、感じでしたし。俺が少し入る位で、楽になるならって思いまして…」

 

「待ってください! 私は…確かに疲労は溜まってはいましたが…それを表に出すような事なんて絶対に…」

 

「そうですね。隠してましたねぇ…ダー様とオペ子は、まったく気がついてませんでしたけどね。アッサムさんに、甘えすぎだなぁ…あの二人」

 

「な…なんですか…貴方は、わかっていたという、言い方ですね」

 

「え? あ、はい。魚の目の前で、会った時に、すぐに気がつきましたよ? 小さく、眉間に眉寄せたりしてたし…」

 

「なっ!?」

 

「え…おかしいですか?」

 

 おかしい……おかしい…何かがオカシイ…。

 

 気づいては、いけない…。

 

 いけない? 何に?

 

 頭の中で警報が、物凄い勢いで鳴っている。

 確かに、青森での生活でも…いえ……あの…。

 

「お…おかしいですよ! なぜ、ダージリン達にすら、気取られなかったのに…よりによって…」

 

「そりゃ、分かりますよ」

 

「何でですか!!」

 

「何でって…」

 

 ダージリンとオレンジペコに、気を使い…できるだけ彼と接点を持たせてきた…。

 お茶会然り、午後のティータイム…。

 期間限定だと思い、特にオレンジペコにできるだけ時間をと思い……あ…?

 毎日毎日…学園艦から離れるのも、裏工作もしてきた…け…ど…。

 

 ボー…とする…。

 頭に力が…意識がはいらない…。

 しかし、頭痛の痛みだけは、はっきりと分かる……。

 

 

「俺は、俺なりに…アッサムさんを見てきたつもりですよ?」

 

「見て…」

 

 

 見てきたって……そういえば…結構、彼にはできるだけ、冷たく接する様にしていましたね…。

 私を構うくらいなら…彼女達と…と、思って…。

 

 ……

 

 何故…だったんでしょうか?

 

「いつも大体…無茶させらるのって、アッサムさんでしたよね? …一度、言いませんでしたっけ?」

 

「な…にを…」

 

「もう少し、周りを頼ったらどうですか? って…その時と同じ顔してたんですよ」

 

「…………」

 

 鳴る。

 

 …大音量で、脳内に響く警報。

 

 ……わかっていた。

 

 結局、毎回毎回…気がついてくれたのは、彼だけだったから。

 

 ──だから、理解はする。

 

 何かすれば、なぜ気がつくのか? と、思えるほどの細かい事まで労ってくれた。

 

 ──理解はするが、容認ができない。

 

 だから反対だった…この合宿は…久しぶりに会って…話してしまえば、完全に意識してしまうと分かっていたか…ら…。

 

 

 ──気がつくな。

 

 思い出す…。

 

 ──そうだ、ダメだ。

 

 数ヶ月前から…今までの事…。

 

 ──ダージリンがいる…オレンジペコがいる…。

 

 港…潮が香る場所での……お茶会。

 

 ──だから、ダメだ。

 

 毎回、冷たくあしらっても、声を掛けてくる彼を…結局、待ちどうしかった…自分を。

 

 

「ブラック企業で頑張る方の味方ですよ? 俺は。アッサムさん…自分にも厳しいから、特に気がかりでしたしね…」

 

「………………」

 

 警報が……アラームが……。

 おかげで周りの音が良く聞こえない…。

 ブラッ…? え?

 

 顔を湯船に当てる…顔全体を熱が覆うと…少し冷静に…。

 

「……そうですか。私も結局…毒されていたんですね…ダージリン達と同じく…」

 

 湯船から少し…顔を出して口を開く。

 ポタポタと顔を伝って、落ちてゆく…お湯の水粒。

 

 はっ……はは……は…。

 どこかで、白旗が見えた気がしました…幻覚だろうが、なんでも良い。

 

 …意識してしまえば……頭痛が収まっていました。

 

 ……。

 

 

「なんですか…急に…」

 

「数ヶ月に及び…ゆっくりと日常の中で……いや…あの日常こそが毒…」

 

「怖いこと言い出した…」

 

 冷静になったら、警報が一気に止まった。

 逆に周りの音が、非常にクリアに聞こえます…。

 

 あの二人がいるというのに…。

 

 いや…理解はした。

 認識もしました。

 

 後はそれをまた…潰すだけ…。

 

「…尾形さん」

 

「な…なんでしょうか?」

 

「…もう…なんでも良いです…当初の目的……」

 

「目的?」

 

「言い方を変えましょう。ダージリン…彼女は、貴方の好みの女性ですか?」

 

 もう…ここだけでいい。

 見目麗しい彼女です…嫌う男性は少ないでしょう。

 彼の彼女に対する態度は…それとは、違う…。

 

「アッサムさん。俺には…ですね? 女性の好みのタイプとか言うのが、殆ど無いんですよ」

 

「……」

 

「そりゃ、見た目とかそういったのは、細かく言えば…まぁ無い事は、無いんですがね?」

 

「…何が言いたいのですか?」

 

 苦笑…したように感じました。

 

「俺は、俺を好きになってくれた人が、好きなんですよ」

 

「…………は?」

 

「まぁ、その…場合、な…んで俺を? 俺の…どこが? とか…あります…けど…」

 

「それは遠まわしに、誰でも良いって事じゃないんですか?」

 

「違いますよ!?」

 

「まぁいいです…で?」

 

「あ、でも…それって…ダージリ…ンへ、言った方が…良い……ですかね?」

「 ダメです 」

 

 ……。

 

 …………あ。

 

「え……ダメ…ですか? ま…まぁ、ありえないから…? 良い…ですけど…」

 

「な…なんですか!? その好みのタイプの理由は!!! では…」

 

 即答で拒否してしまった。

 もはや、私は…何がしたいのだろう?

 手助けをしたいのか? それとも……邪魔をしたいのか…。

 まくし立てる様に、質問をして……ごまかす…。

 

 自分を。

 

 

「 私が貴方を好きだと言ったら、どうするんですか!? 付き合いますか!? 」

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 

 

「アッ…サムさん…が? 俺を?」

 

「そうですよ!! 例えばの話!! ……ですけど!!??」

 

 

 

 何を言っているのだろう……私は。

 …怒ったように言った所で、結果は……

 

「 アッサムさん…が、良ければ… 」

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 頭が……真っ白に…。

 

 

 思考……って……なんでしたっけ? え?

 

 

「元々、アッサムさんの…事は…好きですし」

 

「すぅ!!??」

 

 か…彼は、ハッキリと……こういう事を言う……タイ……プ……。

 鵜呑みに…なんて…。

 

「に…西住……姉妹は……」

 

 

「み…ほ……と……まほ……ち……」

 

 

 

 ボチャ…と、音がしました。

 

 後方からですね…。

 

 私の問いかけに…結局、彼は答えてくれませんでした。

 

 そうでした。

 

 口調が流暢だったというのもあり…彼もまた…アルコールを摂取していたのを忘れていました。

 

 しかも長時間の温泉に浸かっていたと言うのもありましたしね。

 

 

 つまりは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

「尾形 隆史く~~ん」

 

「……」

 

 店内に響くBGMを聞くのに忙しいので、後にしてくれませんか? アールグレイさん。

 淡々と話していたアッサムさんは、既に紅茶を飲み干したのか…シレッとした顔で、此方をガン見…。

 

 …。

 

「君はアレだね!! 馬鹿だね!! 紛う事なき大馬鹿者だね!!!」

 

「…じ…自覚は、最近しました…」

 

「自覚はあるのかい!? それでも、最近かい!!!」

 

 …いやね? ツッコミはいらねぇ。

 

「温泉…あの夜に、そんな大きなイベントが…同じ屋根の下で行われているとは!!!」

 

「まぁ、貴女、あの時は人の部屋で、イビキして寝てましたからね」

 

「嘘はよくない!! イビキはしてない!!」

 

「あぁ…歯ぎしり…」

 

「怒るよ!?」

 

 はぁ…でもなぁ…。

 そこまでは、俺も覚えているんだよ。

 俺が聞きたいのは、その後の事。

 湯にたはずの俺が、何で脱衣所に…。

 

 詩織ちゃんは、高校生ってすごい…って、さっきから呟いているし…。

 ごめんね? これは例外中の例外なんすよ?

 

「…で? 隆史さん、どうです?」

 

「え?」

 

 アッサムさんが、瞬きもしない目で、此方に声を掛けてくれましたね!!

 

「記憶は?」

 

「あ…あぁ、此処まではあります」

 

「そうですか…結局、その後…隆史さんは上せて、意識を失くされました」

 

「あ…やっぱり。酒入ってる状態で、お風呂はまずかったなぁ…」

 

「えぇ、まったく。おかげで私も、思考がおかしな方向へと飛び回りましたから。…肯定と否定の繰り返しでしたわ」

 

「……じゃあ…この後か…」

 

 そう…この後だ。

 アルコールが微量でも入っている状態の俺が…何をしたか……だなぁ…。

 

「はい、この後です。ですから…」

 

「ですから?」

 

「この話は、ここ迄です」

 

 

「「「 !!?? 」」」

 

 

「…隆史さんだけでしたら、お話をしますが…部外者はご退場する気は無いのでしょう?」

 

 ……。

 

 目を伏せ、ハッキリと申しました…。

 二人の前では話せないと…。え?

 

「何だい!? 私達には内緒!?」

 

「それは消化不良ですよ!!」

 

「はい、内緒です。無理な物は無理です」

 

 ……聞かない方が、良い気がしてきた…。

 

「なぁんだい!? エロいお話かな!?」

 

「…ご想像にお任せします」

 

 否定しない!?

 

「隆史さん、本当に続きを聞きたいのでしたら…路傍の石達が、踏み潰され、粉々の砂に変わった後にでも…夜中まで掛かっても構いませんわよ?」

 

「「「 …… 」」」

 

 シレッとした顔で申してますけど…あの…。

 

「アッサムさん…」

 

「は?」

 

「…アッちゃん」

 

「……なんでしょう?」

 

 あ…コレは良いんだ。

 

「あの…結構、怒ってます?」

 

「えぇ、怒ってます。大激怒です。隆史さんとの喫茶店デートを邪魔されて、頗る機嫌が斜めです」

 

「「「 …… 」」」

 

 なんか…もう…。

 

 しかしなぁ…本当になにしたんだろ。

 

 そんな状態じゃ、例え酔っていたとして…俺がアッサムさんに何かしたとは思えないんだけどなぁ。

 暴走状態だとしても、状況的に…。

 アッサムさん、もう喋る気はないのか、完全に口を紡いじゃったし…。

 そんな彼女に、体を乗り出してブツブツ言っている二人。

 

 

 

 

 

 

 バン!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 …と、突然俺達の席の大きなガラスが揺れた。

 

 両手、顔…というか、額をベタァ…と、つけ…俺を見る顔。

 また…知り合い…。

 熱くないのかな? ガラスも熱を吸って、結構な温度だと思うのだけど…。

 

 はぁ…何故か、今日は知り合いがやたらと襲来す…る………。

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

「アッサム」

 

「え? あ、はい」

 

 特に何もない。

 普通に声を出したつもりだった…が、何故か顔が少し、不安気な色に変わっていた。

 だから、少し明るい声で、喋りだそう。

 

「一応、金を渡しておくよ。帰ってくるつもりではあるけどな、もし待ちきれなかったら、これで支払っておいてくれ」

 

 財布から一万円札を取り出して、彼女に渡す。

 高校生が、万札…まぁ、お嬢様のアッサムさんなら、特に疑問に思う事もないから大丈夫だろうよ。

 

「ごめんな? 詩織ちゃん」

 

「え……えぇ! 大丈夫で…す」

 

「RGさんも」

 

「どこぞのプラモデルみたいな略し方は! …まぁいいや」

 

 どうした? 変に…いや、それこそまぁいい。

 席を立ち、店の玄関を再度開く。

 ドアに着けられたベルの音が響くと同時に、周りを見渡す。

 

 俺が出てくるのを、分かっていたの様に、すぐに俺の元に駆け寄ってくる。

 その表情は、相方の役目だろう?

 その襲来者の頭を撫でつつ、何時もと顔色が全然違う、彼女に問う。

 

 

 

「 何があった、ミッコ 」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ! 久しぶりだね」

 

 こんな生活をしていると、たまにこんな人から、声を掛けられる。

 何を思ったのか、大体は興味本位…。

 特に、スタイルも容姿も良いミカの場合に多いんだよね。

 ただ、隆史さんを探して、ご飯ご馳走してくれないかなぁ…って、徘徊していただけなんだけどね。

 私以外は!!

 

 …ただ今回は、少し様子が違った。

 ミカの知り合いなのかな? って、思わせる程、妙に馴れ馴れしく、昔の知り合いの様に手を上げて…。

 

「ん? 知らないね。申し訳ないのだけれど、人違いじゃないかな?」

 

 いつもの様に3人…町を歩いていたら、車から降りてきた男性に声を掛けられた。

 そんな男性に、ミカはいつも通りに足らう…。

 

「何を言っているんだい? まぁもっと小さな時に会った…まぁ、話した事は無かったけど、顔は合わせているよ?」

 

「そうかい? でも、申し訳ないのだけれど、私は貴方の事は、記憶に無いんだ」

 

 たまにいる…知り合いを装ったナンパ。

 ミカの場合、特に多い…。

 3人一緒の時は、余り無いのだけどね。ミカ以外…要は、私とミッコ狙いのナンパっぽい人の場合、犯罪者? って言うと、大体逃げていくのにね。

 …悲しいけど……。

 

 でも…この人…すっごい、臭い…。

 香水なのか、なんなのかは知らないけど…すっごいヤダ。

 

「悪いけど、他を当たってくれないかな?」

 

 拒否。

 

 やんわりと断るのは、ミカは得意だ。

 大体の人は、本当に興味…意識すら向けられていないのを、自覚させられるのか、大体はすぐに諦めるんだけど…。

 

 ただ…この人は、違った。

 

 避けて通ろうとすると、立ちふさがってきた。

 いつもの事か…と、流して見ていたミッコも、その行動に反応を示した。

 

「お前…うっざいなぁ…」

 

 殴り掛かりそうなくらいの、意識をこの人に向ける。

 それこそ睨みつけているのだけど、それこそ気にも止めないで、会話を続けている。

 

「いやぁ…尾形 隆史君の知り合いと、出会う事を目的にしていたんだけどね…」

 

 …。

 

 隆史さんの名前を、掲げるように出した。

 思わず反応してしまった私達を、嬉しそうに見てくる…。

 

 ヤダ…この人……気持ち悪い。

 

「まぁいいや。で? どうだろう、ミカさん」

 

 ……。

 

 知っている。

 この人は、ミカを知っていて声を掛けてきた。

 ただのナンパでは無かった。

 隆史さんの知り合い…でもなさそう。

 

「ミカ? 私の名前とは、違うよ。 やはり人違いのようだね」

 

「違う?」

 

 咄嗟に…というか、普通に嘘をついたなぁ…ミカ。

 まぁ、素直に名乗るのも嫌だろうけど…。

 

(ミッコ)

(…んだよ)

(さっき曲がった角の喫茶店に、隆史さんがいた)

(はっ!? 見つけてたのかよ!!)

 

 うん。

 迷惑にならないように、分かっていたけど黙っていたんだよ。

 …だって、これ以上は変にお世話になるのも、悪いし…でも。

 

(…この人、ちょっと変だし…呼んできてくれる?)

(タカシをか?)

(うん…なんか、ミカ…様子が変なんだもん)

(あぁ…そうだなぁ。ちょっと変だよな。こういった輩、あしらうの得意なのにな)

 

 そう…変に、ミカの表情が変わらない。

 何時もの様に微笑を浮かべてはいるのだけど、緊張しているというか…警戒しているというか…。

 

「んん!? そうかい!?」

 

「…そうだね」

 

「僕の事も知らないのかい?」

 

「知らないね」

 

 そこまで言った直後…。

 

「嘘は良くないなぁ。交流試合に時…何度か顔を合わせているよ…ねっ!」

 

「!!」

 

 体を回しながら、躍けながら…。

 

 

 

 ミカの帽子を、素早く奪った。

 

 

「…ほら。見知った顔だ」

 

「……」

 

 特に帽子は、顔を隠す為ではない…為ではないけど…この人。

 躊躇する事もなく、こんな行為。

 

 まぁ、いつもの様に、ミカも適当に流してノラリクラリ交わすだろうけど…。

 

 

 

 

 

「何度か、お会いしてるよねぇぇ!?」

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

「思春期真っ盛りだね! 中学生の時に、家出とかさぁ!? なに!? 隠してるの!?」

 

「……」

 

 奪った帽子を指先に掛け、くるくると回して弄んでいる。

 

 

「いいよっ! いいよぉ!! 別段それは構わない!! そんな君に提案なんだけど…」

 

「……」

 

 ミカが、固まった…。

 

 

 違う……変わった!?

 

 目を見開き、手を握っている。

 小刻みに震えながら…睨む訳も無く、ただ…。

 

 

(っっ!?)

(ミカっ!?)

(…ミッコ)

(お…おぅ!?)

 

 

「どうだろう!? 君を! 特に君を、実は探していたんだァ!! 提案が会ってねぇ!!」

 

 

 見た事が無い…こんな……ミカの顔…。

 

 目の下にシワが寄っている。

 いつもだったら、こんな事をされても、アッサリと何とか何とかしてしまうのが、ミカだった。

 ただ、今回……うん、今回だけは違った。

 

 何ていうのか…余裕がない…。

 

「どうだろう!? あの、隆史君!? 欲しくないかなぁ!?」

 

「……ナ」

 

「女としてぇ!? 欲しくなぁぁい!? 分かっているんだよぉぉ!? 調べたからねぇ!!」

 

 まずい…。

 

 此処までのミカは、見た事がない。

 なんで一瞬で?

 

(わ…私が行くより、ミッコの方が走るの速いでしょ!? 行ってきてよ!!)

(で…でもさ)

 

 嫌な予感しかしない。

 隆史さんがいないと…ダメな気がする…。

 ミカが、違う人になっちゃう気がする!!

 

「僕に協力してくれないかなぁ…」

 

「……ルナ」

 

 腕を出し、帽子を取り返そうとする。

 しかし、それもアッサリと避けられてしまった。

 

 脚を広げ、本格的に…ミカが…。

 

「んっんー!? 聞いてるかなぁ!?」

 

 ミカの帽子…。

 パックリと割れた、帽子を繋ぎ留める、編むように並んだ紐に指が掛かった。

 

 

 

 掛かった瞬間。

 

 

 

 

「お前が…っ!! 私の帽子に触るな!!!!!」

 

 

 

 

 知らないミカが、目の前にいた。

 

 知らない。

 

 此処まで感情をむき出しにする、ミカは…知らない。

 

 そんなミカを、嘲笑うかの様な…この男性…。

 

(ミッコ!!!)

(わっ…わかった!!)

 

 あまりのミカの変わり様に、ミッコも焦った様に走り出してくれた。

 その姿を目にも止めないで…そのミカの恫喝すら無視し、勝手に話を進めていく。

 初めから、私達の意見なんて聞く気も無いように。

 

 

「妹さんからは、遠まわしに断られちゃってさぁ…お姉ちゃんはどうだろう?」

 

 

 …妹?

 

 ミカには、姉妹なんていないって聞いていたけど…なんだろう…この人。

 

 

 

「…返せ……」

 

 

「っっと、ダメだよぉ…。身長が違うし、僕の話を聞いたら返して上げる。…寧ろ、もっと良いのを買ってあげようかぁ?」

 

「返せっ!」

 

 本気で、ミカが飛びかかっている。

 フラフラと、それを交わしながら、ミカを馬鹿にしたかの様に、うすら笑いを浮かべている男性。

 

「あ…貴方は、何なんですか!?」

 

 私の声で、少しでも動きを止めたら…と、思ったのだけど…。

 

 

「あぁ…雑草に興味ないんだ。黙っててくれる?」

 

 

 意にも止めない…。

 雑草って…この人…。

 

 

「なら、この帽子は返そうか? こんな安物、何がそこまで、必死になるか、分からないけどぉ!!」

 

「っっ!!」

 

「あぁ! 何か…あの男との思い出の品だったのかなっ!?」

 

「このっ…!!」

 

 

 

 

 

「島田家同士、仲が良いねぇ!!」

 

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 何か…言った。

 

 

 

「 何してる 」

 

 

 見慣れた大きな影が、男の人の手首を、後ろから掴んで止めた。

 その人は、大きく息を切らして…走って? 急いでくれたんだ…。

 

「…ちょっと、遊んでいただけだよぉ?」

 

 腕を固定され、動き回れなくなったのか…漸く、動きを止めた。

 それでも、楽しそうに…何かをばらす様に…大声で言い切った。

 そこで、これも初めてだった…。

 

 あんな……ミカの顔。

 

 

 うん…初めて見た。

 

 

 

 …泣きそうな程に、顔を歪ませるたミカを。

 

 

 

「この逃げた、島田流…時期家元とさぁああ!!!」

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました

はぁい。次回は更新遅くなりそうです。
久しぶりに挿絵を描くつもりです。
あと描きではなくて、ちゃんとセットで。
できるだけ早く更新はしたいと思います


ありがとうございました
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