転生者は平穏を望む   作:白山葵

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挿絵…無理でした!!

しかしノリにノって、気がついたら、2話分になりました。

今回の話は、分岐点。

未来編が、ここで変わります。

未来編の時間線へ行く場合、この話は無かったって事とですね。



第18話 分岐点です!

「なによ…。うるさいわね」

 

 お店の入り口付近の席だろうか?

 ちょっと騒がしいと思えるほど、女性の大きな声が聞こえてきた。

 落ち着いた店の雰囲気なのに、それが少し害された気分だ。

 

「……」

 

 チッ。

 

 無意識に舌打ちが出てしまいそうになった。

 幾らこの子でも、流石にどうかと思い、何とか我慢をした。

 

 少し俯き加減の頭。

 何を考えているか、よくわからない顔。

 多分、困っているのだろうけど、なんだだろう…黒森峰の時とは、少し違った。

 上手く言えないけど…雰囲気が違う。

 

 昔の様に、ただ自身が、なさそうだとか…そういった事ではなく…。

 あぁ! もう! 上手く言えない!!

 そんな彼女は、私と二人きりと言う状況に戸惑っているのか…先程から注文した紅茶に、時間をかけて少しずつ口をつけている。

 

 少しモダンな喫茶店。

 その店内の隅、一番奥の固執っぽくなっている、壁で隣席とは区切られた席。

 

 …入ったは良いけど、すでに1時間は、この状態だ。

 

 

 デート…ねぇ…。

 

 

 あのふざけたゲームの罰ゲーム。

 隆史に言われて、一応…と、素直にソレに従ってみた。

 

 …昔なら、ふざけるなと一蹴して、こんな事なんて、しなかったのに。

 

 まぁ…アレね。

 結局の所、私もこの子と話をしてみたかった…って、事なのよね。

 一度、話を…ね。

 でもダメね。言葉が上手く出てこない。

 …それはお互い様なのかしらね…みほも何を話していいか分からない…って、顔をしている。

 

 はぁ…全然ダメね。文字通り、話にならない。

 

「な…何を話したら…」

 

 お見合いじゃないのよ?

 何をマゴマゴと…。

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 大洗についてから、一人になって気持ちの整理をつける事ができた。

 

 …まず自分の気持ち。

 

 一度、意識をして…あの気持ちを認めてしまったら…もう、ダメだった。

 何をどう考えようとしても、あの変態の顔がチラついて、思考が飛ぶ…。

 悪い所すら、許容し…でも、だとしても、だから…と、最終的には、悪感情すら全てを否定し、覆した感情へと行き着いてしまう…。

 

 …何度ベットで、脚をバタバタした事か。

 

 だから開き直った。

 もういい…それならそれで、仕方がない。

 変に意地を張ることよりも、その方が建設的でしょう? …って。

 恥ずかしいけど…ね。

 

 

 そしてそこから派生した、もう一つの感情。

 

 

 まずは、その感情から出た結論。

 何をどうしても覆る事がない…結論。

 

 

「西住 みほ」が、許せない。

 

 

 その気持ちに、正直に言ってしまえば…私も、何故ここまで? と、疑問をもった。

 あの車内で、隆史に無意識に吐露してしまったけど…そう、もう…戦車道については、この子の事を認め…そして心のどこかで、許してしまっていると…思う。

 そうよ…だから、私はもう、変な意地を張るのをやめると決めたのよ。

 

 転校し…この子なりに、考え…悩み…それなりに、苦しんでもいたのだろう。

 あの、他人を心配しすぎ、それこそ常に他人の顔色を伺っていた。

 はっ…堂々としろ、西住流家元の娘だろう? って、…口を酸っぱくして言ってたわね。

 

 そんな彼女が、復帰し私達の前に顔を出したんだ。

 それなりの覚悟もあったのでしょうよ。

 そして…私達を…あの、西住隊長を破った。

 

 ハッキリと言いましょう。

 

 その時点で、私は…彼女を許してしまっている。

 …しまって…いるんだ。

 彼女の性格を知っているからこそ、みほが何を思い、私達を相手にしたか、嫌でも分かってしまったから。

 

「……」

 

 頼んだコーヒーに口をつける。

 

 苦い…。

 少なめに入れた砂糖は、余り仕事をしてくれていない。

 クッソ甘い、目の前の彼女と全然違うわね…。

 

 …みほを見て、確認する。

 どんなに好意的に、擁護する様に無理やり考えて見ても、やはり変わらない気持ち。

 

 …許せない。

 

 許してしまったからこそ、許せない。

 

 何故?

 

 それは全て一言で、片付いてしまう。

 悩み、苦しんでいただろうが…そう、一言。

 

「お兄ちゃん」が、傍にいたから。

 

 転校までして…傍に来てくれていた…。

 

 

 …私の時とは、違う…。

 

 

 子供の…それも小さい頃の話だろうけど、理屈ではない。

 

 

 許せない。

 

 許せない。許せない。

 

 許せない。許せない。許せない。

 

 

 単純な、その一言。

 それが派生し、実感し、認めてしまったもう一つの感情。

 

 …嫉妬。

 

 醜い嫉妬。

 

 この目の前の…元副隊長への嫉妬だった。

 

 ……嫉妬…嫉妬。

 

 

 ほら…理屈じゃなく…ただの感情。

 

 

 決勝戦で…負けてしまった時に、その感情が更に強く、そして深くなっていった。

 認めてしまったからでしょうね…。

 嫉妬と認めてしまえば、許せなかったという気持ちに、全て納得がいった。

 

 だから、ごめんね? 隆史。

 

 貴方が何をどう頑張ろうが、もう、私は…。

 

 

 

 みほを許すという事は…ない。

 

 

 

「……」

 

 

 はい。再度、意識してしまえば、この茶番も、ただの時間の無駄にか思えない。

 約束通りに、二人で喫茶店に入り、こうしているのだから、もういいわよね。

 さっさと終わらせましょうか。

 

 

「みほ」

 

「…はい」

 

 ……。

 

 何かしら…やっぱり違う。

 

 私に名前を呼ばれ、顔を上げた彼女の顔。

 やはり、相変わらず変にビクついた雰囲気なのはそうなのだけれど…。

 

「どう? 私、ちゃんとデートできてる?」

 

「…そ、そうですね」

 

 どこかの変態と、同じ事を聞いてしまった…。

 この時間を終わらせようと口を開いたけど、今は無意識に、弱弱しく返答をくれた彼女を、探る様に観察してしまっている。

 違う…どこか違う。

 

「…じゃあ、これで私は、隆史との罰ゲームとやらの約束を、果たした事になるかしら?」

 

「……」

 

 

「っ!?」

 

 

 ……。

 

 分かった。

 

 彼女の事を知っている者なら、すぐに分かるだろう。

 そこまで分かりやすかった。

 

 そういえば、今日初めて口出して呼んだわよね…隆史の名前を。

 

 力ない目は、相変わらず。

 顔も自身がなさそうに、内気な性格をよく表している。

 そして少し暗い。

 

 …が。

 

 これは…私の知らない「西住 みほ」だ。

 私と二人きりだからだろうか?

 

 

 

 …す…少し、気圧されてしまった。

 

 隆史と名前を呼んだ時に…変わった。

 

「…そうですね」

 

 返事をする際にも、崩さない。

 …黒森峰の時に作戦の事で、多少、口喧嘩っぽくなってしまった時も…こんな露骨に出してきたりはしなかった。

 表情は変わらないのだけど、この子をよく知っている人が見れば、多分分かるだろう。

 

 

 ここまで明確な…敵意ある目は。

 

 

「……」

 

 

 …上等よ。

 

 

「じゃあ、私はもう行くわ」

 

「…はい」

 

「……」

 

 目線が曖昧だった。

 どこを見ているか知らないけど、明らかに()()()()()()

 

 …黒森峰の時には、ここまで見なかった癖に。

 

「あっ…あの!」

 

 …最後。

 

 ここに来て、漸く私に対して、声を発した。

 行くと言って、帰る意思を示したら、焦ったのか…これね。

 …本当にこの子らしい。

 

「…なに?」

 

 立ちがろうと、隣の席に置いておいた、手荷物持った手を離した。

 真っ直ぐに見つめると、昔とは違うと、少し感じた。

 …同じく真っ直ぐ見つめ返してきた。

 

「…エ…エリカさん」

 

「だから、何よ」

 

 さて…言いたい事は、何かしら?

 言い淀んではいるけど、その目を見たら、聞きたいことがあるのが明白よね。

 

「そ…その…隆史君に…」

 

「…隆史?」

 

「こ…告白したって…本当ですか?」

 

「……」

 

 はっ。

 

 乾いた笑いが出る。

 

「したわね。だから?」

 

「……」

 

 私とサシで話す機会があって…結局は、ソレか。

 

「…ま、ほぼ即答で、貴女がいるからって、振られましたけどね」

 

「……」

 

 真顔で返した私に対して、露骨に安心した様な顔をしたわね。

 

 何かしらこの子…。

 

 戦車道全国大会で優勝して…廃校の危機が去ったとたんに不抜けたのかしらね。

 …戦車道や私達、黒森峰の事ではなく…ソレか。

 

「諦めるつもりなんて、全くないけどね」

 

「…ぇ」

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 イラツク

 

 

「みほ」

 

「…なんですか?」

 

「隆史の周り…女、ばっかりね」

 

「…え…はい…そうですね」

 

「貴女と付き合っているっていうのに、誰も諦めるつもりなんてないのかしらね?」

 

「……」

 

 私もそうだろう? って顔ね。

 ま、そうね。認めてあげる。

 

 認めた上で…。

 

 

 

「それはそうよ。相手が、貴女だもの」

 

 

 

「…っ!」

 

 

 

 言葉が…溢れてくる。

 

 幾ら私でも、ここまでハッキリとは、普段言わないでしょう。

 ここまでの言葉は…。

 

 ……

 

 見られない…?

 

 何故だろうか?

 

 みほの姿を、真っ直ぐ見れなかった。

 

 はっ…どこかで私も、この子に気を使っていたって事なのかしらね?

 

 でも…しかし、やはり言葉が止まらない。

 

 

「ハッキリ言うわ。隆史が西住隊長と、そういった関係なら…私はすぐにでも諦めていた」

 

「……」

 

 事実…そうだったからね。

 誤解した西住家での事を思い出す。

 頭には来たのだけれど…まだ、お兄ちゃんとは分からなかったのだけれど…。

 知っていたとしても…多分。

 

「何故だか分かる? 分からないわよね…」

 

 気持ちが高ぶる…。

 なぜだろう…言葉を口にする度に…段々と。

 

 …言って…良いのだろうか?

 口にして良い言葉かどうか…判断する思考を、感情が壊していく。

 

 みほの敵意のある目を…潰したくてシカタガナイ。

 

「…私は隆史が、貴女を選んだのが、理解できない。えぇ、理解できないのよ」

 

「……」

 

「なぜ同じ時間、彼と同じように過ごしてきた貴女なのにね…。西住隊長なら理解できるのに」

 

「…………」

 

「これは私の正直な疑問。…本当に隆史は、貴女の事が好きなの?」

 

 …敵意ある目の色が、違う色に変わった。

 

「たまに冗談っぽく言っていた、保護者目線って奴では、ないのかしらねぇ?」

 

 否定するけど、否定できない。

 何よ…やっぱり隆史は、貴女には、ハッキリと言っていなかったのかしらね?

 段々と、顔色が変わっていった。

 

 …でも分かるわよ。

 

 好きよ。

 

 間違いなく、あの男は貴女が好き。

 

 これも私の正直な気持ち。

 私には、隆史が惹かれる気持ちが嫌でも分かるから。

 なまじ…私だけ…一方通行とはいえ、みほを見続けてきた私だから分かる。

 

 じゃなければ、幾らなんでも転校してまで傍にいようと思わない。

 ただ、あの鈍感が、気持ちを常にセーブしていただけって話。

 

 分かっているのに、こんなこと…。

 我ながら…嫌な女ね。

 

 それでも…言葉にしてしまう、言ってしまう。

 だから、最初に言ったでしょう?

 

 嫉妬だって。

 

 

 …チッ。

 

 

「貴女が、転校をして…逃げた事」

 

「…え?」

 

 急に話を変えられたと思ったのか、戸惑いの声を漏らした。

 大丈夫…変わってないわ。

 

「その事はもう…いい。責めないし、同じく逃げた私は責められない」

 

「にげ…え?」

 

 一人口の様に呟く。

 同じくして逃げた…。

 なんの事か分からないでしょうけどね。

 

「許している…えぇ。もう、許してるのよ」

 

「…エリカさん」

 

 今更止められない。

 今までのは、建前みたいなモノだ。

 

 …これが本音。

 

「ただ……認めない」

 

 ……そう、本音。

 

「…え?」

 

「ただ彼に甘えているだけの…卑怯な貴女は、認めない」

 

「…!!」

 

 

 何に対してか…わかったのだろう。

 

 目を見開いた直後…顔をゆっくりと、伏せてしまった。

 

 何を今更、気がついたみたいに…。

 

 …こんな言葉を吐いているからだろうか?

 

 何故だろう…頬が少し……目も少し……熱い。

 

 

「ただ貰うだけの卑怯者。私は…絶対に、貴女だけは認めない」

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 あぁぁぁっ!!! もうっ! くっそ!!!

 

 感情的になりすぎてしまった。

 あの子の分も含めて、支払いを済ませて、店を漸く出れた…。

 

「……」

 

 言うだけ言ってしまったのは良いのだけれど…ひどく俯いてしまった彼女に対して、少し罪悪感を覚えてしまった。

 …い…いい気味よ。今までのツケを思い知れば良い…。

 

 ……。

 

 ここの支払い位はって、注文伝票を勝手に奪って…さっさと支払いを済ませた。

 …安い。

 ……冷静に考えると、やっすい償い…。

 罪悪感からとはいえ、これでは私は、馬鹿なんじゃないだろうか? と、自信を疑う。

 

「…はぁ…暑い…」

 

 エアコンが効いていた店内とは違い、店内を出た瞬間に、ジリジリと私の肌を焼く太陽を直で感じる事ができた。

 …温度差ってのが、即分かる様な日差し…。

 

 その原因の太陽を八つ当たり気味に睨みつける…。

 真上にある太陽。そろそろお昼だというのに、特にお腹も空かない。

 喫茶店だったのだから、そのまま何か食べておけば…って、嫌ね。

 

 今更、あの子と食事なんて。

 

 …ま、昔はよく一緒だったけどね。

 

 店の出口で、見たことのある顔と出会った。

 聖グロリアーナのアッサム…さん? だったわね。

 連れなのかしら? 大人の女性と一緒だった。

 後、妹…いえ、違うわね、多分。

 顔も似てなければ、身長の割に不自然に大きな胸してたし。

 

 私を含め、バツの悪い顔で、顔を見合わせてしまった。

 同じく、お互い即座に周りを見渡す。

 

 まぁ、あの男の確認でしょうね…。

 

『そういえば、まだ、翌朝のダージリンとノンナ君の、慌てふためく姿を聞いていなかったねっ!』

『私は、その時の様子は知りませんよ? …私だけいませんでしたから』

『……モーニングコーヒーだったのかい?』

『? …意味が分かりかねますが、碌でもない事を言ってますよね』

『…………そうか…今の若い子は、この意味が分からないのか…』

『何に打ち拉がれておいでか、分かりませんが…』

『まぁ、いいじゃないですか! 取り敢えず、探しましょう』

『そうだねぇ…まだ、私の話は済んでいないからねぇ』

『…お釣りも返さないといけませんしね』

『お礼も言わないといけませんしねっ!』

『んじゃ、探しがてらブラブラしようかねっ!!』

 

 此方をチラチラ見ながら、そんな会話。

 …失礼ね。言いたい事が有るなら言えば良いでしょう?

 特に私を、相手にする気が無いのも分かったので、さっさとその店先を離れた。

 

 …敢えて、彼女達と反対方向に進む。

 何も考えないで、特に目的もなく…あの3人とまた、下手に鉢合わせにならない様に…。

 

 すると…。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 …………迷った。

 

 

 迷った!! ここ住宅地じゃない!!

 

 何もない、ただの家が立ち並ぶ住宅地。

 

 知らない町で…知らない場所…。

 

 

 …迷子……この歳で迷子…。

 

 

 はぁ…まぁいいわ。

 

 来た道を戻れば良いだけよね?

 

 …そう歩いて来た道を確認するべく振り返ると……何かしら?

 

 今、電柱に何か隠れたわね。

 …というか、隠れたとでも思っているのかしら?

 この強い日差しの中、自身の影すら色濃く写す。

 

 …その電柱から、大きな黒い影が見える。

 はぁ…まぁいいわ。

 足音を立てて近づくと、明らかに動揺した様に、その影が震える。

 

 

 

 後で聞いた話…。

 大洗に黒森峰である、私がいた事で、不自然に思ったのか…後を着いてきたそうだった。

 すると、ずんずんとお店すらない、住宅地へと進んで行く私を、不審に思ったのか…ここまで着いてきたそうだった。

 不審って…人をなんだと思ってるのよ。

 何なのよ…この子達。みほは、後輩の教育すらできないのかしら。

 まぁ…このお陰で、私は無事に帰れた訳だけど…。

 

 

「何やってるの。私に何か用かしら?」

 

「…み…見つかっちゃった…」

「桂利奈が、先走るから…」

「この電柱に、5人は流石に無理があったねぇ~」

「……」

「あはは…こんにちは…」

 

「……こんにちは」

 

 

 大洗の…一年生。

 

 みほの5人の後輩達だった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 ミッコが、普段見せない慌て方をしていた。

 

 …何かあった。

 

 理由を聞こうにも、要点を掴まめない、飛び飛び内容だった為にすぐに諦め、その場所へと取り敢えず連れて行ってくれと指示。

 ミカとアキが、その場にいなかった為に、多分…どちらかに何かあったのだろう。

 先程までの、昔の話で、変に浮ついていた気持ちを即座に切り替える。

 

 …どうしたのだろうか? どちらかが、怪我でもしたのか。

 

 この天気で、しかもこの日差しだ。

 熱中症にもなったか? その場合、取り敢えず救急車か。

 金も持っていない、携帯も持っていない彼女達からすれば、ちょっとマズイかな?

 

 …とか、初めは考えていた。

 

 飛び飛びで、話すミッコの内容からは、「男」という、言葉が出てきた。

 またナンパ野郎か? とか、思ったら…その男と対峙したミカが。突然豹変してしまったと言っている。

 

 なんだろう…あのミカが?

 

 昔の男かなんか? と聞いたら、真面目に話していると、怒られた。

 …結構、真面目に話しているのだけど?

 そっち関連の痴情の縺れなら、割と面倒くさい状況だと判断したからだった。

 ある程度、考えて…準備も必要だろうと思ったのだけど…その事を言ったら…。

 

 

「タカシは、ほんっっっとに、馬鹿だなっ!!!! 私でもすぐに分かるのに!!」

 

 

 走りながら…本気で怒られた。

 

 さて…現場に到着するまで、それこそ何通りか、トラブルを想定してみた。

 男絡みのトラブル。

 一番は、やはりナンパ野郎だろう。前例があるからね。

 この様子では、拉致ではないにしろ…相当だろう。ミカが怒鳴ったと言っていた位だ。

 

 だから…。

 

 到着後、即座に動けた。

 

 予想の範囲外とはいえ、本当に碌でもない状況だった。

 冗談で言う訳ではなく…意味が分からないし、繋がりなんて考えられない。

 

 

 …擬似ホスト野郎がいた。

 

 心配そうにミカを見つめるミッコ。

 まぁ彼女の場合、こんな状況に飛び込んで行くなんてできないだろう。

 

 腕を上げて、それに向かって行くミカを見つけた。

 

 見た事がない…本気の憎しみを込めた顔で。

 

 腕を上げていたその手には、見慣れた物を持っていた。

 青の帽子…。

 

 北海道で遭難中…バックり裂けて壊れてしまった帽子。

 

 余程大事な物だったのだろうと、俺が修理して…ちょっとデザインの変更を余儀なくして、形が変わってしまった帽子。

 

 なるほど…。

 

 

「あぁ! 何か…あの男との思い出の品だったのかなっ!?」

 

「このっ…!!」

 

 叫ぶ男。

 茶化す様に、ミカを躱している。

 まったく…俺との思い出というか…な?

 前に、俺が地面に落ちた、その帽子を拾ってやる際…触れただけでも、俺に対して睨みつけてきた品だ。

 …大事な物なのだろうよ。

 察しろよ。

 

「タカシ?」

 

 そのまま歩いて近づくも、俺に気づく様子は無い。

 

 …ミカだけは俺に気がついた。

 目があったからな。

 一瞬、安心した様な目をしてくれた。目の周りが、綻んだ気がしたから…。

 

 

 ――が、その目が次の一言で、大きく見開かれた。

 

 

「島田家同士、仲が良いねぇ!!」

 

 

 …初めてだった。

 

 あんな彼女の顔は。

 

 島田家同士?

 

 

 その言葉に反応した様だった。

 

 …ま、意味は良く分からんが…取り敢えず。

 

「 何してる 」

 

 思いの他…低く…重い声が出た。

 すでに警戒対象になっている、この目的が良く分からない男。

 それが、ミカとトラぶってんだ…当然と言えば、当然…。

 

 擬似ホストの腕を後ろから掴み、動きを止める。

 できるだけ、力を込めないで…下手に怪我でもさせたら、この手の輩は、それを逆手に取ってくる。

 しかし、ミカとは違い、タッパがある俺だ。…結構簡単に掴めたな。

 

「…ちょっと、遊んでいただけだよぉ?」

 

 俺よりかは、少し背の低いこの男は、俺の顔を見た瞬間…気持ちの悪い位の笑みを浮かべ…此方を顔だけ振り向かせた。

 

 そして…。

 

 

「この逃げた、島田流…時期家元とさぁああ!!!」

 

 

 ……。

 

 

 …何?

 

 

「あぁ!! 元が、つくけどねぇ!」

 

 逃げた? 島田流…時期家元?

 

 元?

 

 反射的に、ミカを確認してしまう。

 顔を向けたその先…見慣れた彼女はいなかった。

 

 …目元を隠す為の帽子は、今は被っていない為にハッキリと見えた。

 

 なんとも言えない…泣きそうな彼女の顔を。

 

 目の下にシワなんてなぁ…ミカには、ある意味で一番似合わない。

 いつもの余裕のある彼女とは違い、何かを諦めてしまった様な…力なくそこに立ち竦んでいた。

 

「…取り敢えず」

 

 さて…。

 下手に疑問に思って、動きを止めると…多分、この野郎の思う壺だろう。

 だからさ、まずは。

 

「この帽子は、返して貰いますね」

 

 有無を言わさないで、手に持っていた帽子をひったくる。

 特にもう、意味を成さないのか、素直に…特に抵抗する事なく、俺に帽子を渡した。

 

「さぁ、帽子は返したし…この手は、そろそろ離してくれないかなぁ?」

 

 ニヤニヤと、ワザとらしいイヤらしい笑みで、俺を見上げている。

 

 ……。

 

 この腕…。

 握り潰したい…。

 

「……」

 

 手の力を少し緩めると、ゆっくりと擬似ホストは腕を下ろした。

 手首を擦り、俺との距離をとっていく。

 下がって行く擬似ホストの後ろ…気付かなかったが、もう一人いた。

 

 この擬似ホストの秘書か、何かだろうか?

 まぁ、西住流分家…と、名乗ったし、別に可笑しくもない。しほさんで言えば、あのスーツを着た男性は、菊代さんに当たるのか?

 

 

「さて…落ち着きましたか? 西住さん」

 

 …なぜだろう。

 

 こいつに対して、西住の姓で呼びたくない。

 

「んん? 僕は、最初から落ち着いているよ? 彼女の方こそどうだろう? 僕を先程から熱い視線で、睨みつけているけど?」

 

 初対面の時みたく、半分ふざけた様な喋り方。

 …ワザとか? この野郎。

 

 その彼女…ミカは、完全に立ってはいるが、顔を真下に向けている。

 俺の顔を見たくないのか…顔を少し背けながら、呆然としている。

 心配そうに寄り添っている、ミッコに気づかない程に…。

 

「んっん~…そうかぁ、そうかぁ! 気づかなくてごめんねぇ! 内緒だったのかなぁ?」

 

「……」

 

 これもそうだ。

 分かっていて、ワザと言葉にして確認してきた。

 

「ねぇ? …島田 ミカさぁん?」

 

 …島田。

 

 ここに到着した時もそうだ。

 俺の存在に気がついた後、態々俺の顔を見て言ってきた。

 

 ミカは、ただ棒立ちで動かない。

 

 彼女にとっては、そこまでショックを感じる程の事なんだろう。

 擬似ホスト野郎の言葉にも、すでに反応はしない。

 にやけた顔で、ミカを見ている擬似ホストは、反応が無いのを知ると、すぐにその姿をつまらない物を見る様な顔になり…俺に向きなおした。

 

「昔はさぁ…知っての通りね? 今の西住流家元になる前は、西住流と島田流の仲が非常に悪くてねぇ…。親善試合と言う名の、潰し合いが多々行われていたんだよ」

 

 そのミカには、すでに興味を無くしたのか、俺に対して嬉しそうに喋りかけてきた。

 

「当然、分家である俺も…まぁ子供だったけどね。その時の事で、僕は彼女の事を知ってはいたんだよぉ? 勘当されているとは、知らなかったけどねぇ」

 

 …勘当。

 

 時期家元と言っていたな…って事は…。

 

 …まぁいいや。考えるのをやめてやろう。

 ミカが、島田の姓で呼ばれた時に、見た事もないような顔をしていた。

 俺には、知られたくなかったのだろうか?

 なら…黙っていてやろうかね。

 

「いやいやっ! 本当にゴメンねぇぇ。今も言ったけども、ぼかぁ知らなかったんだぁ!」

 

 ミカにまた顔を向きなおし、白々しい事をのたまう。

 俺に聴かせる様に、認知させる様にチラチラと俺を見ながら…。

 

 この喋り方…今までの流れ。

 こいつ…全て知っていて、俺に聞かせている。

 

「そうそうっ! なんで勘当されていたと言うとだねっ!?」

 

 知らなかったって嘘すら、即バラす。

 …舌が乾かぬ内に、アッサリと暴露しようとしている。

 

「あぁ、それは言わなくて良いです」

 

 聞かれたくない話なら、聞かない。

 それを知るとしたら、ミカの口からだ。アンタの口からじゃない。

 

「あれ? 聞きたくないの? 同じ島田の事だよ? 興味ないの?」

 

「俺は尾形です。島田じゃない」

 

「親が勘当されてるから? …血はそんなに、単純な話ではないよ?」

 

 血…と、ハッキリと言いやがったな。

 

「単純な話ですよ。…俺には関係ない。島田家とは、友人として現在のお付き合い。それ以上でも以下でもない」

 

 あったとしても、親達の話だ。

 

「そして、ミカともだ」

 

「…ふ~ん」

 

 言い逃げ…でも、する気なのだろうか?

 段々と車の方向へと、後ずさっていく。

 誤魔化す事もなく、ハッキリと拒否をした俺に、また少しつまらない顔をした。

 

 …お前…。

 

 俺もソロソロ限界だぞ…。

 

 拳を握るのではなく、腕に力を入れる。

 握り絞めていれば、我慢しているとコレにバレてしまい、またそれをネタにしてきそうだったからだ。

 手は…軽く開いておく。

 

 ここまで、俺達をおちょくり…露骨に挑発してこなかったら、すでにブチ切れてる案件だ。

 

「まっ! いいやッ! 僕の提案は、彼女にもアッサリと断られてしまったからねっ!」

 

「提案?」

 

「そうそう提案。ダメだったからねぇ…まっ! 内緒だけどね!!」

 

 ……。

 

 提案…と、言った時点で、その内容をバラした様なモノだ。

 何を目論んでいるか知らないが、後でミカに、何を言われたか聞けばすぐに分かる事だしな。

 …それを理解して、「提案」と言ったのだろう。

 

 何がしたいんだ、こいつは。

 随分とまぁ…あからさまに、警戒して下さいと、言っている様なモノだ。

 

「じゃあ…僕はもう、帰ろうかなぁ」

 

 帰ると言い、またミカを見始めた。

 

 …ゆっくりと、ミカと擬似ホストの間に移動する。

 あいつの視線は、もはや不快感しか生まない。

 せめて、ミカとの間に入って遮てやろう。

 

 こいつの発言は、ただ…からかう…かき回す為だけの言動…にしか、聞こえない。

 

「人の友人…こんな顔にさせといて、逃げる様に帰るんですか?」

 

 こいつに、謝罪しろとか、そういった部類の話は持ちかけない。

 どうせまた、余計な事を喋るだけだろうからな。

 ただ、確認して起きたかった。

 こいつは俺に敵意を向けている。その相手が……逃げるの言葉に、同反応するか…。

 

 こいつ…前回の話の時もそうだが、俺の神経を逆撫でするポイントを知っている。

 こういった事に関して…俺はひどく短気になってしまうのを、分かっている。

 ワザとらしく、大袈裟に、俺の事を調べておいたと、言っていた様な言動をしていたしな。

 

 瞳の件に関してもそうだ。

 

 分からん。本当に俺を挑発し続けて、なにがしたいんだ?

 

 …少し、冷静になれた。

 

「んっ? んんっ! 逃げる!? そうだねぇ…逃げようか!!」

 

 特に反応する訳ではないが、また大袈裟に…。

 

 そしてまた…ワザとらしく…。

 踵を返して、背中を見せた。

 …本当に帰るのか?

 

 

「あぁ、そうそう!」

 

 

 大袈裟に腕を開いて、体を回転させ、俺の正面に体を向けた。

 

「帰るんじゃ、なかったんですか?」

 

「例の件は、考えておいてくれたかぁい!? 転校の件ですよぉ?」

 

 言葉遊びはしない。

 そうハッキリと言っている様に、俺の言葉を無視した。

 転校の件……はぁ。さっさと終わらせたい。

 こいつと話していると、気が滅入るだけだ。

 

 色んな考えをしてみたが、今は切に思う。

 

 帰れ。

 

 

 

「…お断りしたはずですが?」

 

「はっはー! 欲がないねぇ! 君は!」

 

 …。

 

 俺の癖…同じ様な笑い方をした。

 

 これもワザと。

 

 まぁここまで、俺に対して挑発をする真似をしているんだ。

 …それは逆に、俺をまた冷静にさせてくれる。

 

 ただ、俺の真似をした笑い方をした時、アスファルトを擦る音がした。

 目だけで、確認すると…ミッコが、半笑いし始めた。

 

 あ、いかん。ミッコがキレそうだ。

 

「…貴方は一体、俺に対して何がしたいんですか」

 

「んん~? 親切心だよ、親切心」

 

「……」

 

 反吐が出そうな程の笑顔だな。

 

「だって君は、僕の親族になるかもしれないんだろう?」

 

 ……。

 

 ………。

 

 

「…は?」

 

「妹のみほちゃんと、付き合っているんだろう? しかもそれ以降の事も、家元にハッキリと言ったと、聞いているよ?」

 

「……プラウダの時のか」

 

 こいつ…あんな身内だけでの話の場の内容まで知ってるのか。

 最後ですね! ゴールですね! って…見た事ない程に興奮した、しほさんを思い出した。

 

「よかったよぉ~。お陰で…」

 

 それは、まぁ置いていおいて…お前がみほの名前を呼ぶな。

 本当に比喩でも何でもなく、反吐がでそうだ。

 コレに親族になるってだけでも…

 

 

「義兄弟になるかもしれないからねぇ!!!」

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

「 あ? 」

 

 

 以外すぎる言葉に…思わず、素が出てしまった…。

 何をこいつは言っている。

 

 義兄弟?

 

「今は、保留になっているけどねぇ? まほちゃん…その許嫁候補なんだよ、僕は!!」

 

「……」

 

「何故だが昔、家元が物凄い剣幕で我が家へ乗り込んできてねぇ…。まぁ色々ありましてぇ。現在は、保留という事になっている状況なんですよぉ?」

 

「…………」

 

「いやぁ、君がみほちゃんとくっつくなら、問題がないよねぇ。…西住流の後継は、必ず必要になる。…血統的に、分家の中から選ばれるのが、妥当というか…当然だよねぇ」

「西住流の資金源である、僕の家だからね。家元も強くは言えないらしいんだよぉ。でも、許嫁の件は、物凄く強く反発してきた。…まぁ、君がいたからだろう」

「でも、それもなくなるんだよ。君がみほちゃんと一緒になるならねぇ。ならほらっ! 義兄弟になり得る話だろう!?」

「なんで僕かって言えば、同じく他の分家の男衆は、年齢的にも不可能だ。そうなると、ほぼ! 僕一択になるんだよ!!」

 

 ……。

 

「ベッラベラと…よく喋るなアンタ」

 

 気が付けば、手を握り締めていた。

 

 爪が肌に刺さる。

 

 手の熱さすら…痛みすら感じる事もなく…ただ、思いっきり。

 

 …みほと付き合っている俺からすれば、まほが他の男と恋仲になる事に対して、どうこう言える立場にない。

 

 ないが…コレはダメだ。

 

 コレは、ありえない。

 

「つまりは! 僕は…西住流家元になる。…ほぉうらぁ…僕は君のお義兄さんになるだろう? 義弟になりえる君になら、世話を焼くのは当然だろう!?」

 

「…家元?」

 

「おっと、いけない。その家元本家の人間になるってだけの話だったね」

 

 ……。

 

 西住流家元の旦那である人間の立場が、どういったモノになるかは分からない。

 今度、常夫さんにでも、聞いてみるかね…。

 一瞬見せた真面目な顔…家元と言った瞬間だった。

 

 つまり…。

 

 ……。

 

 …………。

 

 こいつ…。

 

「…立場が欲しいだけか?」

 

「えっ? そうだよ?」

 

 悪びれる事もなく、ハッキリと、言いやがった…。

 

「男の君なら分かるだろう? 僕はもっと、上に行きたい。分家と言う立場を本家に変えれば、僕ならば更に西住流を発展させる事ができる。今の家元は甘すぎるんだよ」

 

「…まほの事は」

 

「んっ?」

 

「…しかもそれを俺に言うとか…」

 

「あっ! あぁぁ!! そっか!! そーーかぁ!!!」

 

 楽しそうに…本当に楽しそうに、それこそ俺に対して演説をしている様に話してくる。

 手を合わせ…思いついた様に…。

 

 

 

「ある意味で、まほちゃんも、君が囲っていた女だったね!!」

 

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 

 

「そこは気にしなくていいよぉ! 僕も男だ、分かっているよぉ!」

 

「…何が…わかっ…」

 

 呼吸が荒くなる。

 上手く言葉を発する事ができなくなってきた。

 

「流石に後継は、僕の遺伝子でなければダメだけどねっ!! それ以外は、もうどうでもいいよ!?」

 

「………どう…でもいい……だと?」

 

「女は一人じゃ、飽きるからね! 学生の頃は、僕もそうだった! そうだった!! 邪魔だったから、飽きたら適当に、当時の後輩やらに回してやっていたっけぇ」

 

 

「……………」

 

 

 

「あの体だしねぇ…いいよぉ! 君になら、飽きる前でもいいやっ!! 妻になった後でも好きにしていいよ?」

 

 

「……ぁ?」

 

 ……。

 

 

「 つまり…貸してあげるよ!!!」

 

 

 

 …………。

 

 

「……今、なんつった」

 

「僕の前なら、特に格好をつけなくってもいいよ! 同じ男だ! 理解できる!!」

 

 

 思考が止まる。

 この擬似ホス…いや、もう…面倒くさい。

 

 

 

「女はバラエティだ! そうだろうっ!? だから君は、そこの「島田 ミカ」すら、囲っているんだろうっ!?」

 

 

 

 思考が…できなく…なってきた。

 

 

 

「各高校の生徒…まぁ特に戦車道会は、女性だらけだしねっ!! いいよねっ!! 分かる分かる!! その点君は、すごいよね!! スター選手ばかりだ!!」

 

 

 

 ここまで…キタのは…あの、男以上だ…。

 

 

 

「おやぁ…どうしたんだい? 図星だったかなぁ? あぁッ! まだ計画段階だったのかなっ!? なら申し訳なかったね!!」

 

 

 力を込める。

 

 腕に…背中に…拳に…。

 

 

「しかも、一人は中学せ…いや、一応大学生だったかなっ!?」

 

 

 いや…久しぶりに聞いたな。

 

 

「西住姉妹に、島田姉妹かぁ…いい趣味してるよねぇ!! 君もぉ!!」

 

 

 沙織さんの時以来か…。

 

 

 決勝戦会場では、ある程度の覚悟があったから、大丈夫だったんだな。

 

 

「そのうち誰か、貸してくれないかい!?」

 

 

 …あぁ、本当に久しぶりに聞いた。

 

 

 

 

 

 

 頭の奥の、何が切れる音を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を…してるのかなぁ? 君は…」

 

 

 顔を拳で、本気の力でぶん殴る感触。

 今の今までの怒りを込めて、それこそ殴り殺す程の力を込めた。

 

 ……。

 

 頭で拳を衝撃を押さえつける様にまた、力を込める。

 

 痛みなんて感じない。

 

 ただ…ただ…。

 

「いや、何…。俺がただの、ドMってだけですよ」

 

 

 口内に広がる、鉄臭い匂い。

 

 口の中に、液体が充満してきた為に、路上に唾を吐く。

 

 真っ赤な唾を。

 

 

「…アンタ、そこまでして俺を挑発して、なんのつもりだ。しほさ…西住流家元と、俺の繋がりすら知っていての事だろ?」

 

「おや、意外と冷静…。特定の条件を満たすと、ただの馬鹿になる君らしくないねぇ」

 

 挑発した事に対して、否定はしなかった。

 

「…そのアンタの車。車載カメラ着いてるよな? しかも、エンジンが掛かっている」

 

「……はっ! 本当に…冷静だねぇ」

 

 指を指した車の正面が、此方を向いている。

 そうだ、真正面に。

 

「その女の他に、君と出会えたのは、本当に幸運だと思ったよ。何段階か、飛ばして進めるって思ったのにねぇ…まぁ、これも失敗だったかな」

 

「…思いの他、本性表すの早かったな」

 

「君が、僕を殴ってくれると、手間が本当に省けたんだけどなぁ…」

 

 殴ったさ。

 

 あんたを殺すつもりで、本気の殺意を込めて…自分の顔を。

 

 まだ、理性が多少なりとも残っていたんだろう。

 熱い温度を感じる頬のおかげで、すぐに冷静に戻れた。

 この擬似ホスト野郎に近づく事もしなければ、指も触れていない。

 

 …でも、結局はあの姉妹に迷惑を掛けてしまうと、頭を過ぎったからだ。

 

 俺が踏み止められたのは…な。

 

 俺個人だけ問題なら、間違いなく本気でぶん殴ってる。

 

「あ~~~あっ!! つまらないねぇ…。本当につまらない。…まぁいいけど」

 

「……」

 

「その無駄に膨れ上がった、立派な筋肉が泣いてるよぉ? 見せ筋なのかい?」

 

 悪いが、正直もうアンタの顔すら見たくない。

 ミカには、悪いが帽子を借りるわ…。

 

 ミカの帽子を被り、視界を少し遮った。

 

「………人を殴る為に、鍛えてきた訳じゃない」

 

「これでもダメかぁ…はぁ…もう本当に帰るわ…面倒くさくなって来た」

 

 もう、俺は喋らない。

 

 ただ黙っているだけの方が、このクズ野郎は、さっさと帰るだろうよ。

 うなだれる事もなく、スーツの男が開けた、車のドアに向かい、歩き出した。

 

「まったく…所詮は島田家か。ヤブ蚊の様にうっとおしい…そこの女も含めてね」

 

「……」

 

 

 

「あぁ、そうそう。島田 隆史君。俺が言った事は、全て本音だよ?」

 

「…尾形だと、言ってるだろうが」

 

 俺も本音で話そう。

 もう、遠慮はしない。

 

 久しぶりだ。ここまで明確に特定…判断できる奴は。

 

 

「僕はねぇ? 分家の立場で終わる気なんて、さらっさらないんだよ」

 

 

 …コレは、俺の敵だ。

 

 

「ま、島田に対して、俺が何もしなくても、西住流の死にぞこない達が、君を放っておくなんて、考えられない。……初めから君は積んでいるだよ?」

 

 死にぞこない?

 

「…姉は最終的には、自分の意志とは関係なく、後継を作らなくてはならない」

 

 もう一度、唾を吐く。

 

 まだ…赤い。

 

「西住流家元を継承する人間が、特に…島田の男となんて、不可能だね…妹の方は、知らないけどねっ! よかったね!!」

 

 ついに名前すら呼ばなくなったな…こいつは。

 もう、いい…さっさと帰ってくれ。

 

 

 

「だから僕の事を、姉の方にバラしても、痛くも痒くもない。邪魔だろうが何だろうが…好きにすればァ?」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「んっっっだっ!!! あいつっっ!!!」

 

 ミッコが、酷く憤慨している。

 地団駄を踏んで、腕をパタパタさせながら。

 あの男性と、隆史さんが話している最中…なぜだろう? 声をかけてはいけない気がしていた。

 それはミッコも同じようで、車に乗って去っていくさっきの男性が見えなくなると、急に騒ぎ出した。

 

 多分、隆史さんが黙っていたから、我慢したんだろうな。

 あの子は、ああ見えて、ちゃんと空気が読めるんだよね。

 

「タカシも!! なんだよっ!! ぶん殴っちまえば良かっただろう!!」

 

「……ふぅ」

 

 隆史さんは、腰に手を置き、大きく息を吐いた。

 近寄ってきたミッコの頭へと、手を置くと、わしゃわしゃと髪を弄んでた。

 

「聞いーてんのかよっ!!」

 

「んっ? あぁ、まぁ…俺としても、脊髄引きずり出したくなる位だったけどな…」

 

「…やっちまえば良かったんだよ!!」

 

「いや、なぁ…あからさまに、俺に手を出させたくて仕方がないって感じだったろ? 思惑に乗る方が癪だろうよ」

 

 怒りが収まらないのか、パタパタとしているミッコ。

 ちゃんと、隆史さんが我慢したのを分かっているのか、それ以上は言葉にしなかった。

 

「っっだけどさぁ!! 言ってる事も、良く分かんなかったし! …なんだよ、貸すとか…」

 

「分からなくていい。…そのままの君でいてください」

 

 頭を撫でながら、なだめる様に隆史さんはミッコへと、喋りかけている。

 その効果が、即効性が高かったみたいで、ミッコは段々と、表情の色を変えていく。

 

 ……。

 

 チョロイ…。

 

 

「タ…タカシ」

 

「ミカ? どした?」

 

 

 ミッコが落ち着いたのを、見計らい、ミカが漸く口を開いた。

 さっきまでは、地面しか眺めていなかったのに…。

 

「…そ…その……」

 

「……」

 

 島田 ミカ。

 

 私達も知らなかった、ミカのフルネーム。

 学校とか戦車道大会とかへ出す、ミカの名前は、毎回同じだった。

 

 ミカ

 

 下の名前だけ。

 

 何故か毎回、それで通っていたのは、疑問には思っていたけど…。

 

「……」

 

「…はぁ…島田…か?」

 

「……」

 

 話しかけては見たものの、何を言っていいか分からない。

 そんな感じだった。

 その顔は、先程同じように、今までに見た事がないほどに曇っていた。

 

「き…君には、君にだけには…知られたくなかったんだ」

 

「ふーん」

 

「…大洗に君が転校して…戦車道に完全に関わってしまっているのを知った時…しかも…その…島田 愛里寿…と…」

 

「へぇー」

 

「……同じ…血筋だと、知られた…く……」

 

「ほぉー」

 

「………………」

 

 か…完全に話半分に、聞いてる…。

 ミッコの頭を…というか、いつの間にか、両手を使い、ミッコの小さなおさげで、ずぅぅっと遊んでる…。

 

 

「……………………」

 

 

 あ…ミカが、引いてる…。

 そうだよね…なんか、重要な事を告白する様な感じだったのにね…。

 隆史さん、ミッコで遊んでるしね…ちょっと酷いかなぁ。

 完全にどうしたら良いか、分からないって感じだなぁ…ミカ。

 

 あっ! あぁ~…そうか。

 

 見方によっては、隆史さん、ミカに怒って無視してる感じにも取れる。

 やっぱりミカは、そうとったのか…顔が段々と青くなっていった。

 

 

「…はぁ……大分癒された…ありがとなぁ、ミッコ」

 

「……セクハラされた気分だ…別に良いけど」

 

 黙ってしまったミカに、隆史さんは漸く体を向けてくれた。

 顔は…特に怒っているみたいには、見えないけど…。

 

「さて…ミカ」

 

「っ!」

 

「俺が、島田の血筋って知ったのって、何時だ?」

 

 名前を呼ばれたミカが、怒られる子供みたいな顔をした…。

 

 怯えている。

 

 うん…あれは、本気で怯えている。

 

「お前ら、確か…準決勝戦の時は、いなかったろ? その後の話で、有名になっちまったけどさ。どうにも腑に落ちない」

 

「…さ」

 

「んぁ?」

 

「最初…初対面の時……さ」

 

「初対面!? お前ら…否。お前が、俺の荷物、奪っていった時か!?」

 

「…そう、荷物の中に、携帯があっただろう?」

 

「あぁ…それが欲しくて、あんな事になったんだけど…」

 

「その携帯を返す時…丁度、着信があったね?」

 

「んっ…? あ~…? あぁ! あったあった…あったけど…あぁぁ…それでか」

 

「携帯の画面に…「島田 愛里寿」の名前を見てね…」

 

「あぁ…その時の会話を聞いて…」

 

「なるほど…なぁ。あの時からかぁ…」

 

「興味が沸いた。ただ、それだけだった…はずなのにね…」

 

「…いや、興味本位かよ…あ~…うん。なるほど、それでか」

 

「そう…愛里…いや。じゃなければ、見ず知らずの男と、半月も一緒に寝食を共にするはずがないだろう?」

 

「……それで、夜寝る時とか…戦車の中に入れてくれたのか…ン? それでも、どうかと思うぞ?」

 

「熊もいたしね…流石に命に関わりそうだったしね…」

 

「あ~~いたなぁ…」

 

 少し懐かしい話が、出てきた。

 それでもやっぱり、ミカの顔は晴れない。

 ミッコは、よくわからない顔をして、二人を見上げている。

 

「あ~うん。 謎が解けた。はぁ…んじゃ、もういいや」

 

「……え」

 

「アキ」

 

「えっ!? あ、はい!」

 

 び…びっくりした…。

 急に振られたよ…。

 

「今日の事、詳しく話を聞かせてくれ」

 

「え…でも…」

 

「飯でも作ってやるから、家に来いよ。ミカもミッコも」

 

「え…」

 

 いや…あの…ミカの話…本当にそれで終わりなの?

 完全に別人になっちゃってるけど…ミカ。

 

「あぁ…そうだ、一度、食材買わないと…何人分になるんだ…あっ! 庭あるし、なんか…全員で一緒に食える物…」

 

「タカシ?」

 

「なんか、食いたい物あるか?」

 

「いや…なんでも良いけど…」

 

 すでに話は終わりだと、隆史さんはミッコに何か聞いている。

 ミッコも、私と同じで少し訝しげに、隆史さんを見上げている。

 …でも、行くのを前提に返事している辺り、どうなの?

 

「…肉でも焼くか」

 

「  に く  !!」

 

 あぁ…目の色が変わった…。

 

「待てっ! 待って欲しい、隆史」

 

 本当に話が終わってしまたと思ったのか、ミカが変に慌てだした。

 やはり、何か話したい事とか…まぁ、あるよね?

 でも、隆史さんは一言…。

 

 

「 やだ 」

 

 

 断った…。

 

「なっ…」

 

「ミカの島田の話なら、もう聞かない」

 

「……」

 

 

 隆史さんは、そこで本当の意味でも、ミカと向き合い…少し、腰を落とした。

 

「なんでミカが、俺に知られたく無かったとか、どうでもいい」

 

「ど…どうでも…」

 

「詮索もしない」

 

「……」

 

「俺が北海道で会ったのは…ただの「ミカ」だしな」

 

「…なにを…?」

 

「…内緒なら、最後まで内緒にしていろよ。…俺に取ってミカは、ミカだ。島田の姓が本名だとしても、変わらないし、知った事ではないな」

 

「……」

 

「島田の俺に、知られたくない理由ってのは、色々あると思うけど…まぁ、特にアレだろう?」

 

「アレ…とは?」

 

「んな事で、お前を見る目を、変える筈がないだろうよ。変わらず、説教するのも変えない。変えてやらない」

 

 

「……そ…そこは変えてもらって構わない」

 

 

「はっはー。そうそう、んなふうにさ、なんか何時もみたいに、それらしい事でも言ってみろよ」

 

 

「………………」

 

 

「お題………掌返した発言でもしてやろう。そうだな……ミカの昔の事を教えてくれ」

 

 

「……はっ…はは…」

 

 

 なんでだろう。

 

 一体、何がアソコまで…人が変わって見えていたミカが、段々と戻っていた。

 なんで隆史さんに、姓を隠していてたかは知らない。

 …隆史さんは、少し分かった様な事を言っていたけど…まだ私には、やっぱり分からなかった。

 

「君は…デリカシーがないね…」

 

 見る目を変える筈が無いだろう…と、言った時だろうか?

 明らかにミカの目に、光が戻った気がしたのは…。

 

 その目を伏せ、いつもの様に…ゆっくりとしたり顔で言い切った。

 

 

「女の過去を詮索するなんて…無粋というものだよ」

 

 

 その言葉に隆史さんは、満足したのか…曲げた腰を伸ばして…腕を上げた。

 

「はっはー! そうそう! そういうのだ! まだ、ちょーっとキレが、なかったけどな!!」

 

「言わせておいて、それは無いだろう…」

 

「あ…あぁ、コレがないからか? いつものなら、いつもの格好じゃなきゃな」

 

「…なにかな?」

 

「ほれ、帽子」

 

 上げた腕を自分の頭に…かぶってたミカの帽子を、そのまま頭へと被せた。

 少し…乱暴に…ミカの頭が、その為に少し下がってしまった。

 

「どうにも、お嬢様って連中は、色々問題抱えてるなぁ…」

 

 ボソッと呟いた隆史さんは、その被せた帽子を、何度か髪の毛ごと、揉む様に指を動かし…ゆっくりと手を離した。

 

「そうだな、このセットだな。何だかんだで、そういつものミカの方が、俺は一番好きだ」

 

「……」

 

「あの野郎の事なんて、忘れちまえ。平常心だぞ? 平常心」

 

 先程までの、怖かった隆史さんも、もういない。

 いつもの見知った彼は、首を何度か、音を鳴らすように動かすと…。

 

「…どうしたミカ?」

 

「……」

 

 今度は、別の意味で固まってしまった

 両手で帽子の端を掴むと、顔を隠すみたいに、深く頭に被るみたく押さえ込んでいる。

 

 あぁ…もう。このミカも見た事ない…。

 また知らないミカになっちゃった。

 

「あの…ミカ?」

 

 はぁ…。

 

「んぁ…帽子の修理した部分が、少し解れてるな。後でまた直して…」

 

 手を前に出すと、逃げる様に後ろに飛び退いたね…。

 

「…隆史さん」

 

「…なんだい? お母さん」

 

「………隆史さんのお家…後で行くから、場所だけ教えて」

 

「いや…あの、貴女の娘さんがね?」

 

「……怒るよ?」

 

 状況を良く分からないのか…相変わらずだけど…。

 ミカが別の意味で、壊れ始めてちゃったよ!!

 

「いいからッ! それまでに何とかミカを戻しておくから!」

 

「あぁ…うん。まぁそれはそれで、助かるんだけど…」

 

「だけど、なに!?」

 

「……あのな?」

 

 どうして、こう…変に手が掛かりそうな顔をする時にばっかり、私を呼ぶんだろう?

 …まぁそれはソレで、良いのだけど…もう…。

 

 

 

「どうしよう…血が…止まらん…」

 

 

 

 隆史さんは、口を拭って……少し困った顔をして言った。

 

 

「……」

 

 

 あぁぁっ! もうっ!!

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「昔の西住隊長って、そんなんだったんだぁ~」

 

 ……。

 

 大洗学園の一年生…その5人組に捕まった…。

 

「エリリンさん! エリリンさん!!」

 

 両手を掴まれ、根掘り葉掘り…昔の事を散々聞いてくる…。

 自分達の隊長が、転校してくる前とか気になるのは分かるんだけどね…。

 あまりにしつこいから、ボソボソと答えてしまったのが、運の尽きね…その後は、質問攻めだ…。

 

 帰り道だけ教えてもらおうかと思ったのに…「迷子なんですか?」の、一言に変に見栄を張ってしまい…。

『違うわよ!』の一言から、何故かこの5人の、同行を許してしまった…。

 まぁ…その内に飽きて、どこかに行くでしょう…。

 

 私なんかを相手にしてるんだし…余計に……ね。

 

 

 …とか、思ってたら!!

 

 

「エ…エリリンは、やめなさい」

 

 

 なんか、すっごい懐かれてるし!! 

 腕を組まれて、逃げられない様にされているとも、思えるけど!!

 

「え~でも、尾形先輩は、そう呼んでますよね?」

「そうだねぇ。タラシ先輩は、そう呼んでるよねぇ~」

「……」

「私、その名前しか、知らない!!」

「…みんな」

 

 あの…男……っっ!!

 

 

「…そっか…タラシ先輩、エリリン先輩にも手を出していたんだ…」

 

「エリリン先輩もよして!!」

 

「えぇ~でも、西住先輩の同級生なら、先輩ですよね?」

 

「そこじゃない!!」

 

「……手を出されていた事には、突っ込まないんですね」

 

「出されてもない!!」

 

 な…何なのよ…ほんとに…。

 

 まぁいいわ。

 聞かれっぱなしってのも癪だったしで…みほの事を聞いてみた。

 

 ……。

 

 ある意味で、あの子は変わていなかった。

 良くも…悪くも…。

 楽しそうに喋るこの子達…やっぱり違うわよね。

 黒森峰とは…。

 隊長が、大洗に見習うべき点は、後輩…つまりは、1年を見れば分かると言っていた事があった。

 2年生もそうだけど、それに合わせて、西住隊長は、何か画策をしている。

 

 …1年を見れば…ね。

 育てゆく後輩……。

 

 …でもね。

 

 腕をガックン、ガックンと引っ張るのは止して…。

 こういったタイプの後輩は、黒森峰にはいないからね…新鮮と言えば新鮮…なんだけど!!

 

 特にこの…あいあい言ってる子は、なんで私の腕にぶら下がろうとするのかしらね!!

 なんか、おっとりしてる子は、思いの他普通何だけど…逆に怖いわ…。

 …あと、メガネの子は何かしら、ニヤニヤと見てくる時あるけど…主に隆史の事で…。

 無口な子は…うん。なんだろう…えっと…。

 それで、まとめ役みたいな子…たまに……。

 

「でも、エリリン先輩、見かけに寄らず、優しいですよね!」

 

「見かけに寄らずって…」

 

「ちゃんと私達の質問に答えてくれますし! 教えてくれますし!」

 

「アンタ達が、モノを知らなすぎるのよ! それで本当に、私達に勝ったの!?」

 

 作戦にしろ戦車にしろ…この子達は、知識がなさすぎる。

 まぁ、元々素人だったというのもあるけど…自分達の戦車の事すら完璧に覚えていないってどういう事よ。

 あまりの無さに、なんで他校の生徒に、しかもその他校が所有している戦車の説明をしなきゃならないのよ。

 

「自分達の乗っている、戦車の事位は完璧に知っておきなさいよ。…相棒、みたいなモノなんだから…」

 

「「「「「 は~い 」」」」」

 

「…はぁ、スペックもそうだけど、歴史もそう。そこから別の戦車にまで、役に立つ事もある。知識は武器よ?」

 

「「「「「 は~い 」」」」」

 

「…返事は良いわね」

 

 ため息がでるわ…。

 

 でもね…黒森峰には、やっぱりいないタイプよね。

 規律を主にしている黒森峰とは、やはりまったく色が違う…。

 違う学校を手本にした所で…いえ、でも。

 

 違う……か。

 

 ……。

 

「と…ところで」

 

「はい?」

 

「た…隆史って、貴女達から見て……どうなの?」

 

「尾形先輩?」

 

「私も知らない奴では、ないし!? …唯一の男でしょ?」

 

「たまに無線を垂れ流します!」

 

 …即答で、なんか言われた……。

 

「…いや、そういう事ではなく。って、なにやってんの…アイツ」

 

「あい! たまに、ご飯くれます!」

 

「…ご飯!?」

 

「あいあい!! お菓子も作ってくれます!!」

 

「……なに、餌付けしてんのよ、アイツ」

 

「面倒見は良いよねぇ~筋肉とかのフレーズ出すと、話長いけどねぇ」

 

「……それもどうなの?」

 

「頼りになりますよ?」

 

「…頼り?」

 

 まとめ役の子…車長だっけか。

 その子が、結構真面目な口調で、喋りだした。

 

「ウチの生徒会って、所々で暴走するんですけど…特に会長が…」

 

「会長? あぁ、あのツインテールの?」

 

「そうです。…うまい具合に、誘導してくれるというか……結局、ちゃんと私達の為になる事にしてくれるんです」

 

「…じゃあ、その会長さんっての…貴女達の為になる事をしてくれないのかしら…」

 

「いえ…なんていうか…余計な事が、付くというか…それを上手くまとめてくれます」

 

「……」

 

「納涼祭の時とかも、そうですし…ちゃんと…その…なんていうか…」

「……安心できる」

 

「紗季ちゃんが、喋ったっ!?」

 

 

 

「そう! それ! ちゃんと見守ってくれているというか…」

「……うん」

 

 

「「「 …… 」」」

 

「あとっ! あとっ!! 知らない所で、ちゃんとフォローしてくれるとかっ!!」

「……うん」

 

 …なんか、二人でマゴマゴし始めたわね…。

 そこまでの事は、聞いてないんだけど…

 

「エリリン先輩」

 

 メガネの子が、私の袖を引いた。

 内緒話するかの様に…耳を貸せと行動で示してきた…わね。

 取り敢えず、エリリン先輩はやめて…。

 

「だから…あぁもう…なに?」

 

「ちょっと、びっくりしました!!!」

 

「何がよ」

 

「こんな身近にっ!! …………被害者がいました」

 

「……」

 

「二人も…」

 

 同時に、その先へと視線を移すと、まごまごしながら、なんか言ってる…。

 無口な子も、喋る度に何度も頷いてるし…。

 

 

 ……。

 

 

 なんかもう…。

 

 ここで、始めて思った…というか、同情した…。

 散々言ってしまった、あの娘に…。

 私もアレだけど、あの男は、見境がないのか何なのか…。

 

「…白状していい?」

 

「なんですか?」

 

「……私、迷子なのよ」

 

「あ、はい! 分かってました」

 

「うん…だとは思う。だからね…?」

 

 はぁ…もう、今日は疲れたの…。

 結構、みほにも言ってしまったし…それはソレで、私もね…色々と思う所があるし…。

 隊長にも聞かないと、いけないこともできたし…で。

 

 

「もう…帰りたいから…道…教えて…」

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 一応…みほ達には、連絡をしておいた。

 

 ミカ達の事を。

 

 飯を食いにくるよぉ~ってね。

 ショッピングモール…なんて言ったか…また、名称を忘れてしまったが、そこまで脚を運んできた。

 

 まほちゃんもいるし、今の冷蔵庫の中身では、流石に足りないだろう。

 …学園艦に戻る前に、どこかで食材を買っていった方がいいだろう。

 丁度、陸にいるし、学園艦では購入できないモノでも、買っていくかね。

 

 …口の中が、まだ痛い。

 

 あの野郎が、なんでアソコまで大っぴらに、俺に対して言ってきたか、まだ理解に苦しむ。

 すでに、碌な性格ではないのは分かったけど…だからといって、対策を取ってくれと言っている様なモノだろう…アレは。

 

 分家の事だし、余り立ち入るのもどうかと思って、みほ達には、確認を取っていなかった。

 もう、そうは言ってられない…また、周りの関係ない人間にまで、被害が及ぶ可能性がある。

 

 …あの手の人間は、基本的に手段は選ばない。

 

 立場がある為に、学ラン赤Tとは違い、強行手段には、そうそう及ばないだろうが…ね。

 意味がわからない行動をしているアイツが、なにをするかが、想像つかない…。

 

 防犯対策を取っておいた方が、良さそうだ。

 その後で…しほさんに…だな。

 彼女達から見て、どういった人間か位は、知っておきたい。

 

 ミカ達が丁度いるし…というか、来るし…あの野郎の事を聞いてみよう。

 もはや被害も出てるしな。

 

 さて…後は、帰った後だ。

 

 

「…ん?」

 

 

 ……あれ?

 

 日が少し傾いて来たとはいえ、炎天下。

 街路樹の下に設置されたベンチに、見慣れた顔を見つけた。

 

 先程、連絡を取ったばかりの相手だった。

 

 丁度、日陰になっている為だろうかね? そのベンチに座っている。

 

 …一人だった。

 

「みほ?」

 

「……」

 

 近づいて、声を掛けてみたが、反応がない…。

 

 ボーっと、地面の蟻の行列を、眺めている。

 

 …ここが、小さな公園なら…うん。それの経験は俺にもある。

 なんでか、ボケーと見ちゃうんだよね…蟻の行進…心がやばい時に特に。

 落ち着くというか、何というか…。

 

 ……。

 

 …凝視しているその目は、ちょっと不安になる程に虚ろだ。

 

 こりゃ、久しぶりに見たな…完全に参ってる表情だ。

 …今日は、エリカとのデートだったし…なんか、あったか?

 無傷で済まないとは、思ったが、一度二人きりで話してみるのが、最良だと思ったのだけどな。

 俺が間に入ると、また変な事になりそうだし…。

 

 最悪、喧嘩になったとしても、それはそれで、よかった。

 女同士は、良く分からんが、俺なりに考えた結果がソレだった。

 

 …。

 

 結構近づいたのに、まだ気がついてくれない。

 

「おーい、みほ」

 

「っぅ!?」

 

 ほっぺたをペチペチと、軽く何度か触れてみた。

 まぁ彼女様だから、これくらいのスキンシップは良いだろうよ。

 

「た…隆史君?」

 

「どうした、こんな所で。一人か?」

 

「あ…うん」

 

 周りを見渡してみると、確かに誰もいない。

 …大丈夫か? このモールは…。

 まぁ熱さが凄まじいから、店内に逃げいているだけかも知れんが…人が疎らすぎるな。

 

「…リストラされた、サラリーマンみたいだったぞ?」

 

「……」

 

 おや、無反応。

 …取り敢えず、横に座ってみたけど、相変わらず、蟻の行列を眺めている。

 

「…ん? そういえば…久しぶりじゃないか?」

 

「……?」

 

 やはり、話は聞いてくれてはいるようだ。

 久しぶりの言葉に、少し反応してくれた。

 

「いや…二人きりだというのがね?」

 

「…は…はは。そうだね…大体、いつも…女の人いるしね」

 

「……」

 

 あ、うん。御免なさい。

 先ほどのミカの件もあるのだろうが、ちょっと嫌味っぽい事を言うみほさんは、珍しいですね。

 

「…エリカさんに、言われちゃった」

 

 自分が返した言葉が、嫌味っぽいのが分かったのか…すぐに言葉を繋いできた。

 

「エリカ?」

 

「……うん」

 

 

 ポツリ、ポツリと…途切れ途切れにだけど、喋りだした。

 大分、掻い摘んでだろうけどな。

 

 まぁ女同士の会話を、全て聞いてしまって良いものかとも思ったけど、みほが大分追い詰められてる気がしたので、結局は聞いてしまった。

 付き合い始めて、まだそんなに経っていないというのにな。

 

 …まぁ、俺のせいだけどな……。

 

「…話せるのは、コレだけ」

 

 許したと、言ってくれた事。

 認めないと、言われた事。

 

 

 言葉は足りないが、許していると言えたのか…エリカは。

 そこから、別の許せない事が出来たしまった事も。

 認めないって……まぁ…うん。その事だろう。

 

 

 後は…。

 

 

「私は、隆史君に甘えているって…分かっては、いたんだけどなぁ…」

 

 声が、少し変わった。

 

「他の人に言われて…改て…思い知らされちゃった…」

 

 顔も段々と、下がって行く。

 

「…私は、私に…自信が……ありません」

 

 膝の上で、手を握り締めた。

 

「隆史君は、私が…す……好きだと言ってくれた…言ってくれたけど…」

 

 すでに、涙声になってしまっている。

 

「変な妬き持ち、妬かないとか…色々と、考えたり…決意したけど……ドンドン、別の……嫌な感情が湧いてきちゃって…」

 

 スッ…と一度、息を吸って。

 

「…もう…何が何だか、分からない」

 

 …人が少なく、静かこの場所が、更に静かに感じた。

 

「そんな私に、資格なんてあるのかな…?」

 

 肩を震わせているみほが、普段より一回り小さく見える。

 

 そのみほが…ハッキリと言った。

 

 

「 私は、隆史君と付き合っていて良いのかな? 」

 

 

 …。

 

 だから。

 

 一度、忘れよう。

 

 今日、今までの事を全て。

 

 問題を置いて、みほの為にだけ、感情を集中しよう。

 

 …嫌だねぇ…。

 

 何をしても、どこかで、変に計算していた自分。

 

 今日も今日で、色々ありすぎて…結局、みほの事だけを考えてやるって事が出来なくなっていた。

 

 …だから、ちゃんと気持ちを込めて言ってやろう。

 

 

「 バ カ か ? 」

 

 

 意外な言葉だったか?

 ショックを受けたと言うよりか、キョトーンとした顔で此方を振り向いた。

 あ~あ…やっぱり泣いてるし…。

 

「バカですか? お馬鹿ですか? 本当に、昔から変わらんな、みほは。頭だけで考えるなよ」

 

「…ぇ…え?」

 

「甘えている? 大いに結構。むしろ行動で、たまには、甘えて欲しい物ですけどね? というか、甘えてくれませんか?」

 

「あの…え?」

 

「奥手なのは、分かるんだけどね? もっとこう…あるだろう!?」

 

 普段喋らないトーン。

 ちゃんと素で、喋ってやる。

 気持ちを伝えるというのは、やはり恥ずかしい。

 

「資格っ!? アホか?」

 

 恥ずかしいが、今回はちゃんとしよう。羞恥心なんて殺してやる。

 

「…寧ろ、俺が聞きたい。なんでみほが、俺の事なんて好きなのか…ってな」

 

 エリカに言われたって言っていたな。

 保護者目線? 

 はっ…。

 

「…まったく。保護者目線なら、あんな事するか」

 

「ぅぅっ!?」

 

 はい、赤くなったね。

 

「俺が本当に、みほの事が好きかって?」

 

 では、もっと赤くなってもらいましょうか?

 糞みたいな羞恥心は、既に殺している。

 

「俺はな? みほ」

 

「…な…なに?」

 

「みほの、性格が好きだ。付き合いたいって思った決定打だな」

 

「っ!?」

 

「みほの、その細い髪も好きだな。触っていて心地良い」

 

「なっ!? えっ!?」

 

 おぉー…分かりやすい程に狼狽し始めたな…。

 

「みほの、変に子供っぽくなる所とかも好きだな。…素直に可愛いと思うぞ?」

 

「ひゃっ!?」

 

「みほの。声も好きだな。…あぁ、これは前にバレてるか」

 

「っ!?」

 

「みほの、人ちゃんと想ってやれる所が一番好きだ。……俺には無かったモノだ」

 

「…たか…」

 

「みほの、お尻が好きだね。あぁっ!! 大好きだ!!」

 

「っっっ!!??」

 

 …まずい。

 

 楽しくなってきた。

 

「みほの…「まって!!」」

 

 待て? なぜ? やっと、エンジン掛かってきたのに…。

 

「…恥ず…恥ずっ…」

 

「恥ずかしいか? 言ってる俺は、恥ずかしくないけど」

 

「っっ!?」

 

「はっ…ちゃんと言葉にして言うのは、初めてだしな…この際しっかり言っておこうか?」

 

 はわはわ言い出しな…みぽりん。

 

「みほの、恥ずかしがる所とか仕草も好きだな。もっと、いぢめたくなる」

 

「いきなり如何わしくなったよ!?」

 

「みほの、狼狽する所とかも好きだな。もっと、はわはわ言わせたくなる」

 

「にゃっ!?」

 

「む…いかん。最初の性格が好きとやらは、抽象的か? 具体的に言うとだな…」

 

「いいッ! もういいよ!! といか、心臓が持たないよぉ!!」

 

「…言うなって事?」

 

「そうだよ!! 恥ずかしくて死んじゃうよ!? どうしたのいきなり!? もういいよ!!」

 

「だが断る」

 

「はわっっ!!??」

 

 既に涙目が別の涙に変わっていた。

 いやぁ…真っ赤だね。

 

「まだ一杯あるけど?」

 

「ひゃぁあ!!」

 

 手を顔をの横…横髪の上から添えると…って、悲鳴はないだろう…悲鳴は。

 みほの体温が、物凄く伝わってくる。

 髪の毛を通してでもハッキリと分かるくらいに熱い。

 

「俺が、みほと付き合いたいから、付き合っているのに決まっているだろう? 一体…どんだけ悩んだと思ってんだ」

 

「…っ!」

 

「そういえば、資格だったか? …まだ若いのに、何を言ってるんだか」

 

「いや…でも」

 

「高校生なんてガキなんだ。若気の至の感情で…それで、付き合って何が悪い。好きなら自然な事だろう」

 

 もう片方の手を、反対の横髪の上から、頬に添える。

 …頬を両手で包み込む。

 

「ぇ……えっ!?……えっ!?」

 

「逆にそうだな…俺は俺で、少しは自重する事を覚えないとな…みほに振られないように」

 

「あ…あのっ!? 隆史君っ!? 外っ…! ここ外っ!!??」

 

「そうだな。野外だな」

 

「言い方っ!!」

 

 顎を持ち、顔を少し上げる…。

 手の中の温度が、更に上がっていく。

 

「えっ…ぇう!? ほん…と…に?」

 

「まったく…ここまで言えば、少しは納得するか?」

 

「ぇ……あ…」

 

 目が段々と、閉じていくみほ。

 

「たまには…ちゃんと、態度と言葉で示さないとダメだな」

 

 そう、たまにでいい。

 

 でないと、不安になったり、疑ったりしてしまう。

 

 …前の人生で、そんな言葉を耳にした気がする。

 

 ……縁なんて無いと思っていたから、鼻で笑っちまったけどな。

 

 さて…。

 

「……ぅ……ぅう……」

 

 完全に目を閉じてしまった。

 

 だから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 びろ~んって…。

 

 

 

 

 

 みほの左右の横髪を、開いて開けた。

 

 

「……?」

 

 なぜだろう。

 こうしないといけないという、使命感に襲われたのは…。

 しかし…反応がない。

 

 待ち顔というのだろうか?

 目を閉じて、じぃぃっとしている。

 非常に申し訳無いと思う反面…いやぁ…良いなぁ。

 

 いつまでも何もないのに疑問を持ったのか…ゆっくりと薄目で目を開いていっている。

 

 …そして、目があった。

 

「…っっ!?」

 

 あ…気づいた。

 

「ふぇ? ……ぇ……ぅぅううう!?」

 

「…この横髪も好きだなぁ」

 

 いやぁ…すっげぇ顔が赤くなっていくなぁ…。

 

「あ…その顔が一番好きかも…」

 

「っっっっ!!!!!!!!」

 

 ぉー…。

 

 おーーっ!!

 

 

「まっ…足りないモノが有るならば、補っていけばいい…一緒にな」

 

「っっ!!?? っっ!!!???」

 

 あっ。

 

 聞いちゃいねぇ。

 

 …まとめられなかた。

 完全に目玉が、右往左往してる。

 いやぁ…うん。

 

「流石に、お外ですよ?」

 

「っっ!!!! っっ!!!!!」

 

 いやぁ…うん。

 しばらくモフモフと、させて頂こう。

 

 ……。

 

 …………。

 

 柔らかく、少しボリュームのある横髪を揉む感触が、非常に心地よい。

 

 ……。

 

 モコモコと揉んでいる最中は、みほは動かないで大人しかった。

 うん…完全にフリーズしているね。

 

 ……。

 

 い…いかん。何かに目覚めそうだ。

 

「……癒される。…これは非常に癒される…」

 

 

「隆史君!!??」

 

 

 あ…正気を取り戻した。

 

 

「た…隆史君、こう…付き合い始めてから…たまに、えっちな事言うようになったよね…お尻とか…」

 

「ん? あぁ、付き合う前は、出来るだけな? みほだけじゃなくて、異性として皆を見ないようにしていたからな」

 

「異性として見ないようにって…」

 

「付き合い始めたのがキッカケで…そして段々と…色々な物が、外れていっているのですよ」

 

「……」

 

 しかし、ここまで好きにさせてくれるななぁ…。

 

 ずぅぅと、なんか揉んでいた…い…。

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 ……………………ぬ。

 

 

 

「いかん」

 

「なっ…なに?」

 

「…変な気分になってきた」

 

「隆史君!!!」

 

 …ので、ここで手を離した。

 まぁ、少しは安心…というか、分かってくれただろうか?

 

「みほが、俺を好きな理由は、今度聞かせてくれ」

 

「なっ…えっ!?」

 

「あれ…? 無いか?」

 

「……」

 

「…そうか…無いか…」

 

 ここで少し、残念な顔をしてみる…と。

 

「あっ…あるっ!! いっぱいある!!」

 

 …今度は頭に手を置き、軽く撫でてやる。

 

「んじゃ、楽しみにしとく」

 

「う…うん」

 

「ここで聞くのは、恥ずかしすぎるし」

 

「っ!?」

 

「いやぁ…ね? 人前でしょう?」

 

「したよねっ!? 今、その恥ずかしい事を今、したよねッ!?」

 

「う~ん…大洗タワーと一緒な状況な訳だし」

 

 

「………………ぇ」

 

 

「さて…食材買いに行かないとな…行くか? 一緒に」

 

「ちょっと、待って? えっ!? どういうこと!?」

 

 もう、どんだけ来ても一緒だな。

 バーベキューでもするかなぁ…鉄板とかもあったか?

 まぁそんなに高いものでも無いし…ついでにそのセットでも買っていくか。

 

「おーい、一年。お前らも良かったら飯食いにくるか?」

 

「っっ!!??」

 

 あ、うん。結構前からいましたよ?

 結構、露骨に気配だしてましたよ?

 柱の影から、チョコチョコ見えてたし。

 

 …あぁ、みぽりん真後ろだから、気が付かなかったんですね?

 

 モールの柱の影から、別の影が疎らに動き始めた。

 

 

「ご…ごめんなさい…先輩」

「おしいっ!!」

「タラシ先輩、ヘタレですかぁ…?」

「……」

「……」

 

 はぁい、仲良いねっ!!! 相変わらず…顔、物凄い真っ赤だけど。

 ……役2名は、なんで真顔なんだろう。

 

「ひっ…」

 

「みほ?」

 

 

 

「ひゃっ…!! ひゃぁぁぁああああ!!!!!」

 

 

 

 …だからみぽりん。

 

 

 悲鳴はやめてください。

 




閲覧ありがとうございました

…PINKも並行して書いているので、結構頑張った!!

時間軸的の続きは、次回 ド ン ゾ コ



閑話になるかもしれませんがね!!
愛してるゲームの家元編。もしくは…ランキング更新。


ありがとうございました。

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