転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第21話 集結です! ★

 大洗タワー。

 

 その前に広がる、芝生公園に集まる各学校。

 確かに各陣営…駐屯場所へと、移動する前に、一度と集まる取り決めでした。

 えぇ、そのお話通り、各陣営が各々集まり、向かい合うという形になっています。

 

 一年生達の、仲良く揃った叫びが聞こえましたので、取り敢えずと…少し離れた所に私達の戦車がを止めました。

 Ⅳ号から急ぎ、降車し…その集まりの中へと足を赴けました。

 えぇ、余計な事は言いません。急いでましたから…ネッ!!

 

「先輩!!」

 

 私達の姿を、その集合場所に見せると、先程叫んでいた一年生たちが一斉に駆け寄りました。

 皆さん、少し楽しそうにも見えるのですが、どうにも澤さんだけは、何処か焦っている様に見えますね。

 

「えっと…おはよう」

 

「あ、おはようございます…じゃないっ! アレッ! アレ、見てください!!」

 

 焦っている様子でも、しっかりと挨拶を返す辺り、可愛く感じますね。

 すぐに取り乱したかの様に、手を彼へと向けて、ブンブン振っています。

 

 …アレ…ですかぁ。

 

 二チームの間に、審判の様に立っている、みほさんのお姉さん…と、逸見 エリカさん。

 サンダースとアンツィオの方々は、見当たりませんね。

 

 東には、大洗、知波単。

 西には、聖グロリアーナ、プラウダ高校…そして……隆史さん。

 

「隆史先輩が! 対戦者側にっ!!」

 

「さ…澤さん、落ち着いて下さい」

 

 みほさんが、詰め寄られてますが、気になる事が、もう一つ。

 えぇ、何故、隆史さんが、あの準決勝の時と同じ格好をしているのだとか…何故、対戦者側に居るだとか…。

 それも勿論、とても気になりますが…まず…。

 

「…書記、ついに一年にも手を出し始めたか」

 

「冷泉殿…言い方が…」

 

 澤さん…名前の呼び方に変えたのですねぇ。

 尾形先輩……ではなく、()()先輩ですかぁ、そうですかぁ。

 あ…近藤さんが、すごい顔してますね。

 真顔で、口を真一文字に結び、澤さんをじっ…と見てますね…。

 バレー部の皆さんが、何故か頭を抱えてます。

 あれは…なんでしょう? あの顔…。

 何故、この場面で、隆史さんと近藤さん。特に接点…ぁ…あ。

 

 無線機垂れ流し事件の時…隆史さんの会話を思い出しました。

 ぴんっ! っとキタって奴ですねっ!! 嬉しくないですけど!!

 

 …

 

 ……そうですか。

 

「…ほら、否定できんだろう」

 

「ま…まぁ、特に隆史殿が…え、あ、でも…え~…」

 

 ……。

 

 優花里さんが、頭を抱えてしまいましたね。

 一年生達は、完全にのーまーく…というのでしたからね…。

 いや…まさか…朝から色々と…。

 この短時間で、次々と起こりますねぇ…。

 

「西住ちゃん、おはよう」

 

「…会長」

 

 駆け寄る澤さんに釣られ、生徒会の面々もこちらに起こしになりました。

 残された、他のチームの方々は、呆然と隆史さんの出で立ちを含め、眺めています。

 

「いやぁ~! …やられたよ。正直な~んか、企んでるなぁとは、思ってたんだけど…」

 

「…青森」

 

 …つまりは、チーム名。

 

 青森チーム。

 

 向こう側が指定してきたチーム名は、隆史さんを呼び込む為。

 先程、戦車の中で沙織さんに説明をしてもらいましたが…それでも…。

 

「そんなチーム名ぐらいじゃ、突っぱねる気だったんだけど…隆史ちゃんの事を忘れてた…」

 

「隆史君?」

 

「…そう。まったく、お人好しというか、何というか…」

 

「お人好し?」

 

「そ~そ。それで、小山がヘソ曲げちゃって、大変だったんだよ…」

 

 ダージリンさん達の、朝一からの提案は、青森チーム…彼を含めて、初めてそう呼べると…ですから、隆史さんをこちら側のチームとして拝借する…と。

 

「な…なんですか、その理由」

 

「そうです、ゆかりんの言う通りです!」

 

「りっ!? 五十鈴殿っ!?」

 

「言っている事が滅茶苦茶です!」

 

 転校前の事を仰っているのは、分かりますが…強引過ぎます。

 あ、後、優花里さん? 一度、沙織さんみたいに呼んでみたかっただけですよ?

 

「あ~うん、そりゃそうだ。でもねぇ…その当人が…」

 

『 彼女達は三年生だし…こんなエキシビジョンの様な混合試合なんて、彼女達が卒業前にまた行えるか分からない。俺が彼女達のチームにいたって、特段試合に、変わりないだろうし…まぁ良いのでは?

 別に俺が、転校する訳ではないし…もう一つ、別の興味が沸きまして。…それに、親善試合見たいなモノだし? …その…みほも…まぁ、許容してくれると思いますしね。

 俺がいない所で、勝敗に影響ないとも思いますしねぇ…。何より、青森にいた時、バイト忙しくて、彼女達の試合って、あんまり生で見た事ないんすよ 』

 

「……だって」

 

 会長の説明を聞きながら、彼に視線が集中しました。

 あら珍しい…。整髪剤で髪を全て、後ろに流してで固めていますね。

 開会式の時以来ですかねぇ…彼も、結構髪の毛伸びましたね。

 その頭を、バリバリと音がしそうな程に掻いている隆史さん。

 

 ……。

 

()()は、隆史ちゃんとは同じ学校だしね、卒業までは一緒に戦車できるけど…って、考えたら、譲るしかなかったんだよね…」

 

「…会長、言っている意味、分かってますよね?」

 

「まぁね。塩を送る立場じゃないけど…それでもね? ダージリン、カチューシャ達。…高校卒業後、海外に留学する予定らしくて…ね」

 

「留学…そうなんですか」

 

「それ聞いたら、納得した。まぁ…アレだよ。思い出作りって奴じゃない?」

 

「思い出作り…」

 

「そうそう。簡単に言えばこれは、彼女から私達への…………強引な懇願だよ」

 

 会長は両腕を頭の後ろへと回し、苦笑しながら…しょうがない。…と、そんな風に仰言いました。

 

「ま、あっちの勝負は、まだ諦めていないみたいだけど…それはソレ。戦車道に関わる隆史ちゃんってのは、彼女達からすれば、信じられないみたいなんだぁ」

 

「……」

 

「私達が羨ましくて…それでもそれが、嬉しくて仕方がないみたい」

 

 みほさんは、先程から会長の話を黙って聞いていました。

 しかし、特に怒った様子でもなく、普段と同じような顔。

 苦笑しながらも、まだ少し考えている見たいな…。

 

「みほさん」

「え…はい?」

 

 

「では、ご本人からの釈明も、聞いてみましょう」

 

 

「え…華さん?」

「五十鈴ちゃん?」

 

 スッ…と手を上げて…。

 

「は~い!! では隆史さぁん!?」

 

「「 !? 」」

 

 手を上げて、大きく手を振って彼を呼んでみます。

 あ、気がついてくれましたね。皆さんがそれに注目してますが、それはそれ。

 ちょっと、バツが悪い顔してますが…まぁ、コレもコレですね。

 では…できるだけ大きな声で。

 

「みほさんにぃ~!」

「…私?」

 

「隆史さんが~! 私の~! 実家に呼び出された理由、喋ても良いですかぁぁ~~!?」

「!!???」

 

《 !!?? 》

 

「はっ!? え!? 実家!?」

「あ、そういえば、理由聞いてなかったかも…。親子喧嘩したってだけじゃないんですか?」

 

 思いの外に、会長の方が驚いていますね。

 うふふ…。

 物凄く、腕を振り上げながら、走ってきますねぇ。

 すっごい形相してますねぇ♪

 

「華さん、何か特別な理由でもあったんですか?」

 

「はぁい。まぁ、実は隆史さんが、私を妊し……むぐっ!?」

 

「勘弁してくださいっ!! 何、叫んでるんですかっ!!」

 

 あら、お早いご到着で。

 上げていた腕の手首と、口元を抑えられてしまいました。

 隆史さん、結構脚が早いのですねぇ。

 

 …チッ。

 

「順を追って説明しないと、また変な誤解されるでしょうっ!?」

 

「そぉふふぁ? ふぉふぇふぁらふぉふぇふぇ、ふぁふぁふぁふぁふぇふぁふぃふぉれふぅふぁ?」

(そうですか? それならそれで、構わないのですが?)

 

「構いますよっ!!」

 

「ふぇ~…。ふぁっふぁふぉ? ふぉふぁふぁふぃふぃふぁふぁふぁい、ふぁふぁふぃふぁんふぉ、ふぁふふぃんふぁぁ…」

(え~…。でもぉ? 早くお話にならない隆史さんも、悪いんじゃぁ…)

 

「そりゃそうですけどね!? 決勝前で色々と…」

 

「あれで会話が成立してる…」

「そこかい、西住ちゃん…。でもまぁ…隆史ちゃん。その格好じゃぁ、まるで誘拐犯…」

 

 誘拐っ! 犯人が隆史さんなら、いいですね!!

 

「……」

「…華さん?」

 

「ふぁふぃ、ふぁれふぁふんふぇふぉ…?」

(なに、されちゃうんでしょう…?)

 

「何もしませんよっ!! というか、誘拐なんぞしま…杏会長!! 誘拐犯とか言うのやめてください!」

 

 あら…みほさん、少し笑ってますね。

 

「みほ! 後で、ちゃんと順を追って説明するから!! じ・ゅ・ん・を追ってっ!! 華さんに任せると、またそこら辺に爆撃跡地を作りそうで怖い…」

「ふぃふふぇいふぇふ!」

(失礼です!)

 

 そんなやりとりも、みほさんは、特に怒ることも焦る事もなく…。

 

「ふふ…うん、分かった。後で教えてね?」

 

「「 ………… 」」

 

 笑って流した…。

 

 あまりの呆気なさに、隆史さんですら動きが止まりました。

 え…って、小さく呟く程に意外でしたか…。

 

 そして、一言。

 

「一昨日から、みほがおかしい…」

 

「そっ…それは、ひどいよ!?」

 

 

 

 むっ…。

 

 そんなお二人のやり取りを見て…少々、悔しいと…思ってしまったのは何故でしょう?

 隆史さんの表情と、焦り具合…とでも言うのでしょうか? 何かソレから読み取ったように…。

 何時もの彼と言えば、彼らしい振る舞いに、何処かで察したのでしょうか?

 特にみほさんが、怒ったりしないので、会長も特に何もしないで、苦笑してるだけ…。

 

「でしたら、その方から手を離されたらどうでしょう? というか……近いですわ」

 

「…あ、はい。そっすね…」

 

 あら…開放されてしまいました。

 後ろからの声で、隆史さんが両手を離して少し、離れてしまいましたぁ…。

 

「五十鈴さん…と、仰りましたか? 私達! の、チームメイトを拉致しないで頂けます?」

 

 あ、元・お父様が染めている髪と同じ色の毛の方。

 拉致とは、失礼な…お呼しただけですぅ。

 それに貴女は、お呼びしておりませんよぉ?

 

 …む。

 

 ゾロゾロと、聖グロリアーナの方々が、隆史さんの前に何故か庇うように立ち塞がりましたね…。

 

 はぁ…他の方々も、釣ってしまった様ですね。

 プラウダ高校の方々も、こちらに来てしまって…あぁ…もう!

 結局、全員が集まり、この場に集合してしまいましたぁ…。

 

「ごきげんよう…みほさん」

 

「あ、はい。おはようございます…」

 

 プラウダ高校の方々は、今朝……また、朝食を取りに来ましたからね。

 特に話す事もなく、ダージリンさんの動向を見守っていますね。

 

「まずは、少々強引でしたが…隆史さんを今回お借りしますわ」

 

「…はい」

 

「ごめんなさいね」

 

 あ…! 返事をしてしまっては、ダメです、みほさん…。

 

「みほ。それでいいのか?」

 

「…お姉ちゃん。うん…まぁ、気持ちは分かるから…」

 

「そうか…そうだな。あの隆史が、戦車道だ」

 

 みほさんのお姉様も、みほさんの言葉に何処か納得したのか、先程から放っていた心地よい気配を消してしまいました…。

 みほさんが、了承してしまったら、もはや何も言えません…。

 

「では、次は黒森峰だ「 ダ メ 」な」

 

「みほっ!?」

 

 …みほさん?

 お姉様が物凄い、顔してますよ?

 

「え…いや、しか「 ダ メ 」」

 

「それなら「 ダ メ 」」

 

「…………」

 

「ダメだよぉ?」

 

 いえ…そのお姉様の抗議をさらりと笑顔で交わしました…。

 ダメ…の一言で。

 何か言おうとすると「ダメ」の一言で潰す応酬を、繰り返し始めました。

 …終始笑顔のみほさんが、少々怖いです…。

 

「おい、書記」

 

「…はい」

 

 それを横目に、麻子さんが隆史さんに当然の疑問を投げかけましたね。

 

「…何だ? その格好は」

 

「……」

 

 そうですね。島田 千代さんのお宅の執事服でしたね。

 そうそう、何故ソレを着ているのでしょう?

 

「えっと…いや、なんか…ダージリンが、コレ着ろって…」

 

「違いますわ!!」

 

 あら、間髪入れずに否定されましたよ?

 

「えぇ…確かにそれを着て欲しいというのは、私のしゅ……いえ、お願いですが、違うと言ったのは、其方じゃございません」

 

「…ならなんだよ」

 

「言葉使いが、落第点ですわ」

 

「……」

 

 何か言い出しました…。

 

「マニュアル御座いましたでしょう? お渡しした筈ですわよね? ならば、執事なら執事らしくして頂けますこと?」

 

「……」

 

 他の方々の大きい溜息が聞こえましたね。

 あ…隆史さんが、頭を抱えました…。

 あぁ…そういえば、例の準決勝の時にそれらしい事を…。

 

「…みほさん」

 

「はい? えっと…オレンジペコさん」

 

「申し訳ありません。アレ…ダージリン様の、ただの趣味です」

 

「…………」

 

「例の準決勝戦の…その…テント前での後、どうにも隆史様に、アレを着せる事に躍起になっていまして…」

 

「…………」

 

「そして今、念願かなって…あのはしゃぎ様……ご迷惑おかけします」

 

「あ……はい…」

 

 本当に申し訳なさそうに頭を下げている、オレンジペコさん…。

 

 ……。

 

 しかし…あの頃はまだ、私自分の気持ちに気がついていませんでした。

 なる程…ならば、今あの時のを受けてしまったら…どう感じるのでしょう。

 …というか、ダージリンさんが隆史さんに耳打ちを始めましたね。

 ノンナさんの目が、若干細くなったのが、素晴らしく感じます。

 

「はぁ…はいはい、分かった。んんっ!!」

 

 一言呟いて、咳払いを一つ…。

 あ…隆史さんが、背筋を伸ばしました…。

 

これで、宜しいでしょうか? ダージリン…お…お嬢様

 

《 !!?? 》

 

「…け…結構」

 

 …あ…優花里が、何故か頬を膨らませましたね。

 むっ…とした顔ですけど、どうしたんでしょう? というか…声。

 

「…も、もう一度、呼んで頂けますこと? な…名前を…」

 

ダージリンお嬢様

 

「っっ!!」

 

《 …… 》

 

 キュッ…と、自分の体を抱きしめる様にした、ダージリンさん。

 何処か恍惚の顔なのが、とてつもなく…苛立ちを覚えますねぇ…。

 

もうそろそろ、試合の準備に取り掛からないとなりません。ご移動を…

 

「そ…そうですわね…。では、そろそろ参りましょうか?」

 

 …一瞬で、周りの視線を独り占めにした隆史さんが、もっともらしい事を仰って、逃げようとしてますね。

 背筋を伸ばし、ドラマでたまに出る、執事さんの動き…というのでしょうか?

 腕を折り、お腹の前で曲げ…すっ…と、お辞儀をしました。

 声を変えた直後に、即退散とか…。

 

 ですが、さすが付き合いの長い方。

 その様子に、即座に反応…声を掛けました。

 

「…おい、隆史。まだ私には話が残ってる。先程、その娘が言った…」

 

 ん? あら、私?

 

なんでしょう? まほお嬢様

 

「っっ!!」

 

《 …… 》

 

「い…いや、なんでもない…すまん…」

 

 即座に反応…即座に敗退…。

 お嬢様と呼ばれた直後に、目が泳ぎ始めました…。

 

「…隊長…少し、顔がにやけてますよ?」

「き…気のせいだ、エリカ」

 

 何時もの悪乗り…というのが、でたのでしょうか?

 隆史さんが、他の方達にも同じような声で…。

 

「はぁ…というか、隆史。アンタ、ちょっとキモ…」

ちょっと…? ちょっと、なんでしょう? エリカお嬢様

 

 

 

「………………」

 

 

 

「エリカ…お前」

「にやけてませんっ!!」

「何も言ってないが…」

 

「お姉ちゃん…エリカさん…ずるい…」

 

 みほさん…こういう所は、今まで通りなんですね…。

 すぐに、悪乗りする辺り、隆史さんは、今まで通りを貫きすぎてますがねぇ。

 

「エリリン先輩、ずる~い!!」

 

「っ!?」

 

「ずる~い」

「……ずるい」

「結局、最後に持っていくねぇ~」

 

「なんの事よ! 後、その呼び方…」

 

「エリリン先輩…ずるい…」

「貴女まで、それを言うのっ!? 貴女だけは、比較的にまともだと思ってたのに!」

 

 あらぁ…。

 一年生達が、随分と親し気に、逸見さんへと抗議し始めました。

 どちらかといえば、からかっている様にも見えますねぇ。

 いつの間に、仲良くなったのでしょう?

 

エリカお嬢様は、随分と年下にはお優しい…

 

「なっ!? やさしくないっ! 兎に角、その声やめなさいよっ!」

 

いえいえ、ご謙遜を…

 

「ちがっ…! 今のやり取りで、どう見たら優しいとか思えるのよ!! 後、微笑ましい目で見るなぁ!!」

 

「そうだな、隆史の言う通りだ。エリカは、後輩の面倒見は、良い方だと思うぞ?」

 

「隊長!?」

 

 呆然…と、そのやり取りを眺める皆さん。

 

 …そして、気がつきました。

 

 現在大洗へ滞在しているとは言え、随分と他校の皆さんと親しい会話が出きる様になっています。

 …良い、傾向なのでしょうか?

 皆さん生活圏が、学園艦の中ですが…隆史さんという接点で、比較的に顔を合わせる機会が、ここの所増えています。

 その代表例…とでも言うのでしょうか? この一年生達と、黒森峰の副隊長さんまで、ここまで砕けた話し方が出来る程になっているなんて…。

 そして、戦車道…いえ、みほさんという、色々な意味での好敵手という接点…というのもあるのでしょうか?

 ですから、この…エキシビジョンという試合が行われる…。

 

「……」

 

 あら…。

 何故でしょう? 先程から優花里さんが、妙に悔しそうな顔しておりますけど。

 

「ゆかりん…さっきから、どうしたの?」

 

「え? な…何がです?」

 

 沙織さんも、気がついていたみたいですね。

 何とも言えないようなお顔をしてましたし…。

 突然、声を掛けられて、驚いたように沙織さんを見ましたね。

 

「あ…ひょっとして…アレ? あの声? 隆史君が、ゆかりん専用声使って…「 違います 」」

 

「「「……」」」

 

 間髪入れずに、即答しましたね。

 わぁ…すっごく、良い表情になりましたぁぁ!

 

「え…いや、で…「 違います 」」

 

「……」

 

「声のトーンが、若干違います」

 

「「「 ………… 」」」

 

 …あ、そっちですか。

 

「…わ…私には、判別つかないぞ」

「私もですけど…」

「ゆかりん…結局、あの声気に入ってたんだ…」

 

「ああっ! ち…違いますっ!! 気に入ってませんっ!!」

 

 今更、何を口走ったか気がついても遅いですよ?

 はぁ…。私も沙織さんも…麻子さんまで気がついてますし…バレバレですよ。

 しかし…考えてみると、隆史さん…結構、すごい環境にいますよねぇ…。

 

 目の前で、一年生に対しても、お嬢様と…しかも下の名前で呼んで遊んでいる彼を見て思いますよ…まったく。

 なに普通に要望に応えているんですか。

 澤さんなんて、固まっちゃったじゃないですか……あぁ…近藤さんも参戦しそうですし…。

 

 しかし…私、そういえば「お嬢」と呼ばれた事はあっても、「お嬢様」とは呼ばれた事ありませんね。

 しかも…傅く隆史さんに、名前でお嬢様…ですか。

 ……。

 

 ダージリンさんの気持ちが、少し理解できてしまいました…。

 あの格好は、趣味ではありませんが…しかし…。

 

「……」

 

「…華?」

 

 …むぅ…ちょっと、私も呼んでみて欲しくなりました。

 

 ずりぃです。

 

「隆史ちゃん」

 

 …と、いけない。

 変に考え込んでしまいました。

 いつの間にか、会長が隆史さんの真横に立っていました。

 

はい? 何でしょう…杏会長

 

「……」

 

 

「わ…私には、普通に話してちょうだい…調子が崩れるよ…」

 

「はい、杏お嬢様」

 

「っっ!! そ…それもやめて…ね…」

 

「……」

 

 …会長。

 

 顔真っ赤ですけど…何時もの口調も崩れてますよ?

 

 

「す…少し、引っかかったんだけどさ。さっき「もう一つ、別の興味も沸いた」って、言ってたよね?」

 

「ん…? あぁ、杏に言った…杏会長に初め言った時の事ですか?」

 

「あ、そうそう。後、会長も取ってくれていいよ?」

 

「…いや、これはさっきの執事モードの…」

 

「 会 長 命 令 。 取 れ ♪ 」

 

「……」

 

 執事もーど。

 

 言いえてまた、変ですが…その時の癖というか、流れで会長を呼び捨て…。

 話を脱線させてまで、それを逃がさないとか…会長もまた、みほさんの前で、攻めますね。

 

「柚子先輩が怖いので、ちょっと…。後、桃先輩もすっごい顔で睨んでるので…」

 

「…チッ。んじゃ、二人の時だけね」

 

「変な流れにする様な事、言わないでくださいっ!!」

 

 それは、ある意味で何時もの流れ…隆史さん特有の、タラシさん。

 でも…みほさんは、またそれを普通の様子で見ています…。

 …沙織さんが、その横で少し青くなっているのが非常に対照的で…。

 

 

 う~…ん。

 

 私やはり、あの様な格好は、趣味ではありませんね…。

 周りの方々が浮き足立つ気持ちが、よく分かりません。

 

 はい、ワカリマセン。

 

 はぁい、わからないですよぉ?

 

 …何時もの様に、彼は皆さんの間に立ってはいるのですが、あの隆史さんは…どうにも違和感が…。

 なんでしょうか…この感覚は…。

 

「んんっ! 話が逸れた…。隆史ちゃん。で?」

 

 取り繕っても、逸らしたのは貴女です。

 

「え…あぁ、興味ね。まぁ…あれっすよ…折角の機会ですし、見てみたくなったんです」

 

「見てみたくなった?」

 

「えぇ…まぁ、俺は裏方だから余り、感じられないかもしれませんが…」

 

「…が?」

 

 

 

「相手側…つまり、敵としての大洗学園を」

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

「…では、みほさん」

 

「え? あ、はい」

 

 最後に…と、でしょうか?

 軽く指で合図をすると、周りの皆様が一斉に動き出しました。

 黒森峰の方々は、まだ…隆史さんと遊んでいますが…。

 

「……」

 

「ダージリンさん?」

 

 先程から、あのやり取りを見ても一切の動じを見せないでいるみほさん。

 前までの彼女からは、少々不自然な程に落ち着いている…それが少し彼女は気になったのでしょうか?

 …訝しげな目をされてます。

 

「…随分と落ち着いていらしていると」

 

「はい?」

 

「…い…いえ…例えば…隆史さんの…」

 

 違いますねぇ…アレは、やはり気になって仕方がないといった、顔ですね。

 

「ん~…まぁ、隆史君の事だから、ダージリンさん達に気を使っただけだと思いますけど…」

 

「…………」

 

「私は別に構いませんよ?」

 

 

 あの、みほさんの変わり様が…。

 

 

 しかし…敵として…ですか。

 面白そう…とも言っていましたし、なんとなく気持ちはわかるのですが、それを言われた此方側は少々面白くありません。

 会長が、一瞬、むっ…と、しましたが、どこかで納得したようです。

 …まぁ、あからさまに機嫌が悪くなりましたが…。

 

「後…実際に見て…どうでしょう? 隆史さんの格好は…?」

 

「え?」

 

 あら、話題を変えられましたね。

 今ここで話しても、答えが得られないと判断したのでしょうか?

 …この方の考えそうな事が、なんとなく分かってしまうのは…何故でしょう?

 

「見知った方が見た場合…すぐに分かるかもしれませんが…よく知らぬ方が見た場合、すぐに誰かお分かりになると思いますか?」

 

「なんでそんな事を?」

 

「…いえ、せっかくですからね…」

 

「?」

 

「で? …どうでしょう?」

 

「そう…ですね。戦車道全国大会の開会式の時でも、そうでしたけど…サングラスとか…そういったのをつければ、わからないかも…」

 

「そうですか!? そうですわよねっ!! わかりませんわよね!!」

 

「だ…ダージリンさん?」

 

 何を…言っているのでしょう?

 よく聞いていませんでしたが…何故か、オレンジペコさんから、鼻で笑った様な声が、聞こえた気がしましたね。

 

 えっと…それよりも…もう一人。アッサムさんが、先程からまったく口を開いていませんね。

 少し真剣な目で…先程から周辺を見渡していています。

 

「ふぅ…では、ですね? 変装とは相手を騙す為のモノで、騙される方は仕方がない…と、判明した所で……一応、念の為で「ダージリン様、悔しかったのですね?」すが…」

 

 …あらぁ…オレンジペコさん…。

 貴女もまた、結構良い顔されますねぇ。

 対照的に、少し悔しそうな顔のダージリンさん。

 

「…そんな事はありません」

 

 …なんのことでしょう?

 横のカチューシャさんと、ノンナさんも若干目を逸らしてますけど…。

 

「まぁ? ()()()()()()を、すぐに分かったの…私とローズヒッ「 私もすぐに分かったぞ 」」

 

 今度は、みほさんのお姉様が、少し離れた所で手を挙げられましたが。

 

「ふむ…当然だろう。一目見て、即座に分かった」

 

「そうですよねっ! まっ!! 普通に一目見れば、分かりますよねッ!!」

 

「そうだな。わからない方が……まぁ? そういう事なんだろう?」

 

「ですよねぇ~♪」

 

「「「…………」」」

 

「ふっ……しかしな? オレンジペコ…だったな。余り言ってやるな…」

 

「はい?」

 

 あ…物凄く嬉しそうに…勝ち誇った顔されました。

 

 そして一言…。

 

 

「 可 哀 想 だ ろ う ?」

 

「はぁい♪」

 

 

 

「「「 グッ……ギッ……!! 」」」

 

 

 ですから、何の事なのでしょうか?

 ダージリンさんとカチューシャさん、ノンナさんが同じ呻き声を上げてますが…。

 何故か、オレンジペコさんと、みほさんのお姉様が随分と仲良くなってますね。

 

「あの…」

 

「はっ!!」

 

「えっと…念の為って?」

 

 あ、そうでしたね。

 すっかり忘れてました。

 

「し…失礼…」

 

「あはは…」

 

 念の為…何に、念を入れるのでしょう?

 口元に手を添え、コホンッと……え?

 

 急に顔付きが、変わりました。

 とても真剣な顔に…。

 ダージリンさんのその雰囲気に合わせ、カチューシャさん達までも…。

 あまりの変わり様に、みほさんのお姉様も息を呑みました。

 

「偽名…」

 

「え?」

 

「これより、隆史さんを…「伊集院 田吾作」さんと、コチラではお呼します」

 

「いじゅっ!?」

 

 …なんでしょう、その突拍子もないお名前は…。

 真剣な顔で、なにをいきなり…。

 

「あの時の偽名か…」

 

 あ。麻子さんが、大きなため息を吐きましたね。

 

「…すごい名前ですね」

 

「私は、姓が「伊集院」なら、名は「隼人」とかの方が、良いと思うのですが…。隆史さんに将来禿げそうと、良くわからない理由で、強く反対されまして…」

 

「はぁ……え? 禿げ?」

 

「あ・うんの呼吸の如く、即座に浮かびましたのに…」

 

「ざ…残念そうですね…」

 

 …真剣な顔で何を言っているのでしょう?

 

「ですから…みほさん」

 

「え…あ、はい!」

 

 少し、目を細め…更に真剣な顔つきになりました。

 それは、ダージリンさんだけではなく、プラウダ高校の方々もまた同じく…。

 横目でも端目でもそうですが…一斉に、みほさんに視線が集中しました。

 

 そんな視線を感じ、少し戸惑うみほさんを一度見てから、静かに振り向き…背中を見せながら…そして。

 

 念を押すように言いました。

 

 

「ちゃんと………合わせてくださいね?」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 青森チーム。

 

 大洗とは違って…まぁ、俺の事とを知っている連中もそれなりにいたとしても…この両校のど真ん中では、男というだけで目立つ。

 しかも、こんなふざけた格好をしていると、逆に…余計に目立ってしまうのではないだろうか? …とも思ったのだけどな…。

 初めは俺だというだけで、すでに何度も殺気を食らっていたのだが、変装…というか、この格好をさせられた後のダージリンからの紹介。

 

 俺は、ダージリン様専属のお付き。

 

 …らしい。

 

 それで全てが、丸く収まっているって…。

 

 そのおかげて、別人扱いらしく…寧ろ、恐れ多い…みたいな感じで、遠くから眺められている。

 あと…何故か、何名かに懐かれた…。

 なんか、設定が色々あるみたいなのだけど、教えてくれない。…本人が知らないって、大丈夫なのか?

 

 やはり男手があった方が、色々と楽らしい。それは、大洗学園で散々知っていた事なので、率先して他の生徒達の手伝いを…特に雑用だと思われる事をしてあげた。

 今は一応、青森チームの人間だし、ダー様専用らしいし?

 

 まぁ、砲弾やら何やらを運ぶ事や、不要機材搬送やら掃除やら…細かい事だけど、積み重なると、結構億劫な事らしいしな。

 特に聖グロリアーナ…なんでか、知らんが紅茶常備。

 知識がないので、彼女達の指示を仰いで。

 なんか、更に恐れ多いとか何とか言われ…青くなっている子が、多数いた気がするけど大丈夫だろう。

 

 しっかし…あの親衛隊とやらは、雑用を一切合切やる気はないらしい。

 それだからだろうか? 同じく男の俺が、小間使いみたいな事を、率先してやっているのが、信じられないといった目で見られたのは。

 

 …ただなぁ…少し、離れた所に…何だろう? あの戦車。

 マチル…なんだっけ? 名前、忘れた。

 

 まぁいいや、その戦車。

 装飾がすっごい…。

 

 …俗いう痛車。

 

 いや、痛戦車か? 

 

 ダー様の顔とか名前とかのシール? ペイント? それで車体が綺麗に埋め尽くされていた。

 ダージリン専用機…みたいな感じで。

 アレだと、ダー様が自己顕示丸出しっぽくって、なんか嫌だなぁ…。

 

 …後、無駄に派手な装飾されてるし…金とか銀とかで…戦車にLEDを付けるな。

 

 まぁ、あいつらだろうよ。ダー様親衛隊とか何とか、言ってたし。

 

 俺に顔を見せないって事は、なんか…してるのだろうかね?

 真っ先に突っかかて来ると思っていたんだけどなぁ…。

 

 はぁ…まぁいいや。

 

 先にテントの準備しちまうか。

 

 ん…。

 

 向かいのテント。

 

 いつもならば、俺はそこにいる。

 

 しかし…俺の変わり…だろうか? 今回は、中村が俺の、何時ものポジション…そのパイプ椅子に座っていた。

 

 うん、中村。

 

 すまんな…うん。軽く挨拶程度に、小さく手を上げたな…。

 

 …引きつった顔で。

 

 しっかし…集合場所近くに用意された場所なだけあって、ここからでもまだ全高校が目にはいる。

 おー…カチューシャが、張り切ってんなぁ…。

 腕をブンブン回して、周りに大声で指示を出して…あ、目があったら回している腕の元気がなくなった…。

 えっと…あれ?

 

 そういや…「Доброе утро」

 

 

 俺が思い浮かびかけた疑問に、ロシア語で後ろから答えられた気がした…。

 

「…あ……はい、おはようございます」

 

 貴女のチーム…向こうで準備してますが…こんな所に来てよろしいのでしょうか?

 

「…クラーラ先生」

 

 [ 先生は、やめてください。…と、言いますか…日本語で返すと言うことは、まだ… ]

 

 そうです。クラーラさん。

 今回から、参加すると今日の朝食の時に、貴女の大将からお聞きしてましたよ。

 見当たらないから、おっかしーなー…とは、思っていたんだけどね。

 

 後…気配を殺して背後を取るのはやめてほしい…。

 なんで、皆さん俺の背後取るの好きなのでしょうか?

 

「あ~…すいません。上手く発音出来なくて…」

 

 [ よろしい。また、今度……えぇ、また今度… ]

 

 ……。

 

 あ…挨拶だけか…な?

 一言二言話すと、そのままカチューシャの元へと、歩いて行ってしまった…。

 ちょっと、拍子抜け…。

 

 ロシア語教えて貰っていた時とかに比べると、俺と話す時の笑顔が最近、少ないと思う。

 怒らせる様な事、なんかしちゃったかな?

 ほら…尻目で、すっごい俺の方見ながら、歩いてるし。

 前見て、歩いてくださいよ…あっ…ほら…躓いた…。

 ……あの…ノンナさんは、その先からじー…と、俺を見てるし…。

 

 あ~…後、うん。

 

 中村。

 

 距離を開いてのその視線は、やめてくれ。

 言いたい事は、なんとなく分かるから。

 

 ……。

 

 取り敢えず、テントに隣接されれている、その屋台はなんぞ?

 関係者以外、立ち入り禁止区域の外…。ほぼ、大波さんチーム側テントの裏。

 売り物だろうか…? 様々な、真っ黄色の物体が、いくつも並べられている。

 

 …はっ。

 

 乾いた笑いしかでねぇよ。

 

 くっそっ!

 

 ベコかよっ!! また、あの毛むくじゃらかよ!!

 会長、一体何種類にグッズ作ってんだよ!!

 

 というか、中村…お前。売り子までさせられてんのか…。

 すでにお客さんも来ているのか…何人かが、その屋台の前で、物色して……い……。

 

 ……。

 

 待て。

 

 ちょっと待て。

 

 そのお客様達、どこかで見覚えがある方、ばかりなのですけど?

 

 取り敢えず、西さんっ!! 確かに、まだ集合時間前ですけどね!?

 アンタ、こんな所で何してんのっ!? みほ達、試合開始場所にもう行っちゃったよ!?

 隣にいる…何その、すっげぇでかいメガネの小っちゃい子…。マコニャンよか、幼く見えるけど?

 

 後…決勝戦会場で見かけた子…というか、絡まれてた子がいる。

 ぱっと見、やはりダージリンだな…そっくりだ。

 まぁあの時は、ダージリンに間違えただけなんだけど…まぁそれよりも…だ。

 

『 よしっ! 尾形ぁぁ!!! お前の客だぁ!! 見てんだろっ!! こっち来い!!! 』

 

 すまんな中村。

 

 俺は伊集院 田吾作だ。そりゃ、人違いだ。

 

 いやぁ…また、飯食わせてやるから、頑張れ。

 

 それより…もう一人。

 

 意外や意外、予想すら出来なかった娘。

 その隣で、友達…だろうか?

 金髪の細い娘さんが、気圧される様に、小さくなって眺めている。

 

 というかさ? 何でいるんだよ…。

 

 その見覚えのある、お客様達。

 

 …一斉に此方…というか、俺に振り向き…視線を向けた。

 

 会話の途中だったのだろう。

 何を話していたかは、わからないけども…俺を含めて、その場にいた全員に対して…。

 

 少し離れていても分かる。俺の目をじっ…と見ている。

 

 そして、宣言するように…言い放った。

 

 

「…ならば──

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「…西隊長」

 

 えきしびじょんまっちの集合場所前、私達の連絡本部となるテント前にて…まさかこの様な罠があるとは…。

 

「分かっている! 分かっているから、もう少し待ってくれ!」

 

 しかし、見ろ福田。

 この眩しいばかりに、並べられたベコ殿をっ!

 出店は数多あるが、この様な専門店など見た事がない!

 昨日購入した、すとらっぷを初め、筆記用具から何まで…ぬいぐるみ迄あるではないか!

 ぐ…しかし、この歳でぬいぐるみは流石に…。

 

 皆に購入…あ、いや。

 軍資金が心許無い…しかし、この様な出店…次にいつ現れるか…。

 ぐっ…。

 

「店主!」

 

「ぇ…? あ~はい?」

 

 …どうにも同年代に見える、この店主。

 随分とやる気のない…日雇いか何かだろうか?

 それに、どこかで…見た様な…………まぁ、いいっ!! 

 

 今は、そんな事よりベコ殿だ!

 

「店主…この専門店は、次にどこに現れるだろうか!?」

 

「現れる? …あぁ、屋台ですしね」

 

「でっ!? いつだろう!?」

 

「さぁ?」

 

「…さ……あ?」

 

「今回だけじゃないっすか?」

 

 こ…この、店主…いや、店員。

 やる気が微塵も感じられない…。

 売る側という立場でありながら、他人事の様な…。

 

 いや、それよりも! この店員の様子では、二度とこの素晴らしい専門店が…。

 

「 失礼。宜しくて? 」

「…はぁ…」

 

「あ、はい。いらっしゃい。……マジかよ、また客だ…って!?」

 

 むっ! 他にもお客人が!

 余りここに陣取っていては、他の方々のご迷惑に…しかし…。

 ここは皆の為に、安価なモノを多数…いや、それだと鉛筆しか…。

 

「…ふむ」

「あの…キリマ…」

「ちょっと、静かにしてちょうだい」

 

「えっ…あれ? ダージリンさん!? あ…え? ちょっと違う…別人か…?」

 

 ん…ん?

 ダージリン殿?

 

 いや、しかし…先程、敵側陣地にて、聖グロリアーナ学園の…んんっ!?

 テントの後ろに、ダージリン殿が見えますし…んんっ!?

 

 ベコ殿!? 随分とハイカラな格好をされてますが…。

 

 ……。

 

 良くわからなくなってまいりました…。

 

 

「 店 主 」

 

「あ~はいはい。なんでしょう?」

 

「ここから、ここまで…」

 

 ダージリン殿(仮)が、人差し指でベコ殿ぐっずの上を、右から左へ動かし…

 

 

 

「 全 て 包 ん で 頂 戴 」

 

 

「なぁぁ!?」

「はぁぁ!?」

 

 買い占め…買い占め!?

 そ…それは、あまりに…悪虐非道…残酷至極…。

 

「…支払いは、コレで…」

 

 かーどっ!?

 

 それは巷で噂のくれじっとかーどという物でしょうか!?

 アレが…くれじっと…魔法の…。

 アレだけで、この世の全てを購入できるという、魔法のかーど…。

 

「あ、ダメっす」

 

「何がかしら?」

 

「うち、クレカ対応してないんで。現金でお願いします」

 

「…………ぇ」

 

「……あの?」

 

 む? どうした事でしょうか?

 魔法のかーどは、通用しなかったという事でしょうか?

 しかし…随分、真っ青になりましたね。

 

「モ…モカ?」

 

「ないです」

 

「 」

 

「私は今、着の身着の侭です。…私の準備が終わる前に、急かして引っ張り出したの、キリマンジャロ様じゃないですか」

 

「……」

 

 あ…崩れ落ちましたね。

 

「あの…お客さん。なんか通販もやってるみたいなんで、そっちなら多分…」

 

「ダメです…こういった物は、現地で購入するから意味が…あるのです…」

 

「変な所、拘りますね」

 

「何とか、なり「 なりませんね 」」

 

「手間ですし、俺の一存じゃ何ともなりません。諦めてくださいメンドクセェ」

 

 むっ!! やはり、魔法のかーどは、使用できなかった模様。

 

 ならば、今ここが好機! もはや迷っている時間もない。

 後は、私が捨て身の突貫…軍資金も後でどうとでも…。

 

 っっ!!!

 

 ……。

 

「西隊長? 体を触って…どうしたのでありますか?」

 

 …………。

 

 に…西 絹代…一生の不覚…。

 

「さ…財布、忘れ………た…」

 

「あ、こっちも、真っ青になった…」

 

 ベコ殿が…ベコ殿が、一つも購入……できず…。

 気が付けば、ダージリン殿(仮)の横に、同じように崩れ…ん?

 店員殿が、呆れた様な顔で私を見下ろしている…。

 

「はぁ…。西選手? そんなに欲しけりゃ、尾形にでも頼めばどうですか?」

 

「え…?」

 

「あ…こりゃ、俺の事忘れてるな…」

 

 私の事を知って……いる?

 

「お…がた…?」

 

 む…一瞬、ダージリン殿(仮)の肩が、動いた様な…。

 

「いや、ベコグッズが欲しければ、ベコ本人に頼めばどうっすか? 販売元がウチの会長だから、口利きしてくれるでしょ」

 

「ほ…え? 本当…で…」

 

「あの…俺の事、忘れてます? 大洗に会議室で一度見てるでしょ? 一応、尾形の友人の…」

 

「あ…あっ!! あの妙に恥ずかしい遊戯の司会をしていた! ベコ殿のご学友!!」

 

「あ~…はい、ソレですソレ…」

 

 なる程なる程っ!! 見覚えがあるはずですねっ!!

 私とした事が、ベコ殿のご学友を忘れてしまうとはっ!!

 

「失礼しましたっ!!」

 

「あの…いいですから。頭を…って、なんですかっ!?」

 

 ダージリン殿(仮)が、勢いよく立ち上がりました! 元気ですね!

 そのまま、店員殿の胸ぐらを掴むと、強引に引き寄せ…。

 

「大洗…の、尾形…?」

 

「は……え?」

 

 むっ!! やはり、元気がよろしいですね! 青筋立てて、店員殿を睨みつけています。

 よし! 止めたほうが良さそうですね!

 

「お…尾形……隆史!?」

 

 …そういえば、福田は…。

 思えば福田は、皆が夢中になっているというのい、ベコ殿に余り興味がない様子だったな。

 と言うのに、ここまで連れ出して…少し、申し訳ない事をしたかな?

 

「あ…の…くそ、女ったらし…。ダージリン様を誑かした……怨敵…」

 

「よし、分かった!! 尾形ぁぁ!!! お前の客だぁ!! 見てんだろっ!! こっち来い!!!」

 

 ふむ…どこに行ったか…。

 流石に呆れて、先に行ってしまったのだろうか? それならソレで、少し寂しく…おぉ! よかったいた!

 

「西選手!? 切り替え、早くないですか!? こっち! こっち!!」

 

「どこ…どこにいる…。私自ら、裁い……捌いて、差し上げますから…う…ふふふ…」

 

「尾形ぁぁ!! てめぇふざけんなよぉ!! さっさと…あ…あぁ!?」

 

 おや? どうした、福田。風邪だろうか?

 青くなって震えているな。

 なんだ? 腕など出して…後ろ?

 

 差し出された指の先、出店の前…。

 もう一人のお客人が、立っていた。

 ぬ…なにか、禍々しい…? とでも言うような…いや? 違う?

 

 

 

「 尾形 隆史…と、申したな? 」

 

 

 

「なん…ですの?」

「また…増えたぁ…」 

 

「ちょっ…ま! え!? 修羅場っぽいよ!? 後にした方が…」

「なに…。少し戯れるだけ…」

 

 その二人のお客人。

 

 一方の方が、屋台に置かれたベコ殿を、順に遊ぶように、持ち上げては置き…持ち上げては置き…。

 あ…私が欲しかった…ぬいぐるみ…。

 あぁ、戯れるとは、そういう意味ですかっ!!

 

「ククッ。女の敵…」

 

 突然笑い出し、とんでもない事を仰りました!

 余りに突然の事でしたから、お連れの方が、驚いてますね!

 

 …。

 

 しかし…よく聞く言葉ですが、女の敵とは、具体的にはどういう事なのでしょう?

 

「光源氏の再来…は、流石に腹が捩れるかと思ったわ…」

 

 ん? どういう意味なのでしょう?

 

「噂は、噂。しかし、真も確かめず…ただ怨嗟を吐くだけ者なぞ、ただの草…ただの雑兵」

 

 ダージリン殿(仮)を見ましたね。

 

「本能…何より、それは特に…女人は侮り難し」

 

 ?

 

 何故、私を見たのでしょう?

 

「…しかし、本当に面白い御仁…。噂と真実が、実に真逆」

 

 両手で、ベコ殿のぬいぐるみを弄んでますね。

 ま! ベコ殿のフアンに、悪い方はいないと思いますので、あの真っ黒いのはきのせいでしょう!

 

「ただの下見…。そのつもりだったのだが、気が変わった」

 

 すっ……と、ぬいぐるみを元の場所へと戻し…あ!

 購入するのですね? なる程! 私は、今あなたが取り出した、財布を忘れてしまったので不可能です!

 口惜しいですが…しかたありませんね…。

 

「まさに、ここは戦場の中心。すべての御仁が揃っている…まさに合戦地」

 

 腕を組み、実に面白そうに仰りましたが、戦場? 私には意味がよく分かりません!

 それより、そのベコのぬいぐるみ、良いですよね!!

 ん?

 何処を見ているのでしょう? ベコ殿御本人…側?

 いつの間にか、この場が注目されてますね…。いくつもの視線を感じます。

 

 ?

 

 

「恋とは戦場…疎い私の口から、その様な言葉……よくぞ吐けたものよ」

 

「恋ぃ!? えっ!? はっ!?」

 

 

 何故、プラウダ高校、聖グロリアーナの皆様は、こちらを見ているのでしょう?

 …あれ? 何故皆様、戦車から降りて…あの…。

 あぁ!! べこ殿専門店を今、見つけたのですね!!

 

 

「…ならば── 我もその戦…」

 

 

「ひ…姫!?」

 

 

 

 

「 参 戦 也 」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




閲覧ありがとうございました。

空気は読まない西隊長。
…彼女は書いていて難しい…。

挿絵…。
そういや、ヒロインの、みぽりんをまともに描いてないや…。
PINKは、描いたけど…本編ェ。

今年もがんばっていきたいです。

はい、鶴姫様。いらっさい。

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