「茶柱が立ったわ」
何時もの様に、小さく聞こえる駆動音。
狭い戦車内の中。これも何時もの様に、ダージリン様が思いついたかの様に口を開きました。
いえ…まぁ…試合中だとか、そういった事は無粋ですし、癖の様なモノ。無意識にその言葉に耳を傾けてしまう…。
「イギリスの、こんな言い伝えを知ってる?」
顔をダージリン様へと向けると、これもまた…彼女は何時もの様に、微笑を浮かべながらも口にする。
「茶柱が立つと、素敵な訪問者が現れるって」
手荷物紅茶を口に進めながら、そんな事を仰言いました。
「お言葉ですが、もう現れてます」
えぇ…そんなお言葉。
私としても、これこそ何時もの様に、ダージリン様のお話のお相手になりたい所ですが…今回は本音が溢れてしまいました。
「素敵かどうかは、さておき…」
まずは現状。ゴルフ場のバンカーの中へと陣取り、防御で固めた陣形。
私達、チャーチルの周りを、マチルダⅡで取り囲み…。バンカーでの遮蔽のお陰で、戦車を傾け、避弾経始が意識できる。
ですから、多少の本弾は受け流せる…というのは、分かりますが、それでもこう…一方的にポンポン撃たれ続けるというのは、あまり心境的にも宜しくありません。
ギンッ! …と。
あぁ…また天井から砲弾が弾かれた金属音が耳を刺しました…。
「……」
この素敵な訪問者。
大洗学園と知波単学園に、完全に方位されている現状。
正面には、西住 みほさんが指揮するフラッグ車。開けた場所だから、はっきりと目視できますが…他の車両は周りの林の中に数輌。
バンカーへと入ってしまい、ゴルフ場の芝生の地面その物が、遮蔽物となってしまい…正確な数までは分かりませんね。
「いくら親善試合とはいえ、油断しすぎたのでは…?」
「この包囲網は、スコーンを割るように簡単には砕けません」
ダージリン様は、私とアッサム様の言葉を特に気にする事もなく、また何時もの様に紅茶を口にへと運ぶ…。
「落ち着きなさい。いかなる時も優雅…それが聖グロリアーナの戦車道よ」
…そうですか。
「違います」
「…違う?」
はっきりとした私の物言いに、アッサム様が驚いた様なお声を上げました。
ダージリン様は特に気にする様な顔をせず、ゆっくりと私に口を開きました。
「ペコ。何が…違うのかしら?」
どうやらダージリン様は、私の言葉の後に続いたアッサム様の言葉で、少々勘違いをされたようです。
「いえ、私の言い方が悪かったと思いますが…私の質問の意味を、ダージリン様は、履き違えてます」
「…履き違っている?」
「はい。現状に関して、特に私は疑問に思っていません。今は…大まかに言えば、私達が囮役…の様な物で、ここに陣取り…別働隊を集結させて、現状取り囲んでいる大波さんチームを、後方から撃破。…と、いう所でしょうか?」
まぁ…少々、厳しい状況ですが…。
「ふむ…70点と言った所かしら」
私の言葉を、少し楽しそうに聞いているダージリン様。
でも…私が気にしたのはソコではありません。
「…ですから、今の現状に疑問を持った訳ではないのです」
「なら、何かしら?」
更に面白そうに…いえ、すでに私の疑問に勘付いていらっしゃるのでしょう。
ですから、私も遠慮なく、その疑問を口にします。
「…何故、あの方の参入を、許可されたのですか?」
…単刀直入に聞いてみた。
「親善試合とはいえ、連携も取れるとは思えない方が参入。慣れない方を入れてとか…明らかに油断としか…」
ここまで言えば、私が誰の事を言っているかは、誰にでもわかると思います。
ダージリン様は「あの方」…と、言った瞬間理解をしてくれたみたいですが。
「あら、ペコは反対かしら? 黒森峰の戦い方…西住流を間近で。しかも、味方側として見られるのよ?」
「…い…いえ。勉強にはなると思いますが…ですが、ローズヒップさんの代わりにクルセイダー隊を任せるなんて…」
ダージリン様の手が、口につけていたティーカップと共に下がる。
微笑を浮かべたまま、諭すように私にへと視線を投げてくる。
「黒森峰の副隊長。…特に役不足…という事はないは思いますが…」
少々キツめなフォローになってしまいましたが、私は別に、あの方を過小評価も過大評価もしていません。
まだ良く知らない方ですし、なにより…この疑問を投げかけたのは、本当に。純粋に。…ただ、分からなかった。
「まほさんと私。同意見でした」
「…え?」
「ですから今回のお話を受ける事にしたの」
黒森峰の隊長…西住 まほさん…。
たしかに、逸見 エリカさんからすれば、無断で戦車を借用する訳には行きませんし、何よりもあの方が黙っているとは、確かに思えません。
思わず顔を向けたしまった、私の目を見て、ダージリン様が、小さく微笑んだ。、
「えぇ、そうよ? 良い? ペコ。…例えばこれから先。貴女達はお互いに、慣れない指揮者、慣れない仲間に、当たるかもしれない」
「……達」
「それこそ…今回の様に、他校との合同…しかも混合試合とかね? ありえない話では、ないでしょう?」
「まぁ…」
砲弾を弾く音が響く中、ダージリン様は続けて言葉を続ける。
「何事も経験。お互い先輩として、後輩に残せる物は、幾らでも残しておきたいのよ」
そして少し、寂しそうに口にした言葉…。
経験を積ませたい。ただソレだけだと、後継に残してやりたい貴重な経験だと…仰られました。
「それに…もう、私の時間は、あまり残されていませんからね」
「……」
いつの間にか、アッサム様も口を閉ざし、目の前の相手に顔を向けていました。
何時ものダージリン様なら、その方が楽しそうでしょう? とか、平気で言いますのに…今回ばかりは、本気の様に思えました。
時間がない…ですか。
それは黒森峰側も同じでしょう。
…そうですね。ダージリン様達、3年生の引退が…近い。
それとして…。
「でも…挨拶の時、すごい空気でしたよね」
「ふふっ。そうだったわね、みほさんと彼女。やはり何かしらあるようね……誰かさんのせ~いで」
そう…なんですよねぇ…。
開始挨拶の時の、あの張り詰めた空気と言ったら…。
お互い二言、三言と言葉を交わしただけだと言うのに、一瞬でその場の雰囲気が変わってしまいました。
ただ、少し意外でしたのが、西住 みほさん。…何か…ちょっとこう…上手く言えませんが、彼女の印象が変わっていました。
「……」
「ふふっ…時間が残されていない…。やはり私も、何時までもこのまま…という訳には、いかないわね」
「ダージリン様?」
「決めました。…この試合が終わった後にしましょう」
後?
いつの間にか、思い出し笑いでもした様に、薄く口元を綻ばせて、手に持つ紅茶へと視線を落としていました。
その目をスッ…と閉じ…。
「 男の幸せは「我、欲す」。…女の幸せは「彼、欲す」 」
何時もの趣味…何時もの格言。
それを私にではなく、自分自身に言い聞かせている様でした。
しかし、このタイミングで何故、その言葉を?
「ドイツの哲学者、ニーチェですね。でも、なぜ今その…」
「正解…。そうね…私自身、何かしら決心に至る覚悟が欲しかったの。将来の事を考えると、余計にね」
「決心? 将来? …あの、仰っている意味が…ひゃっ!?」
ガコンッ! …と、一際大きな音が、車内に響いた。
砲撃、着弾の音の感覚が、徐々に短くなってきていたのは、感じていましたが…。
「ですから、年功序列。…先鋒は、私です」
「先鋒? なんの事…です…か?」
横の車両のマチルダが、一輌撃破され…いよいよという所で、ジッ…と、ダージリン様が、私の目を見つめているのに気がつきました。
真剣な…本当に真剣な目で。
「…ペコ。私も人並みには「女の幸せ」を、掴みたいと思うのよ」
女の幸せ…。あっ。
「そ…それって…」
「ダージリン」
私の言葉を遮って、アッサム様が口を開いた。
何を指して、ダージリ様を呼んだのか…それはすぐにダージリン様が、答えを呟いた。
「あら…勝手にスコーンが、割れたわね」
やはり即興チームという事なのでしょうか?
…大洗学園と知波単学園。双方のチームが割れました。
知波単側が何を考えているか分かりませんが、単独で各々こちらに向かい始めてきました。
それに合わせ、私も私の仕事に取り掛かろうと、砲弾に手を掛けた時…。
「まぁ、その話は後にしましょう」
「あと、ダージリン。そのお話だと、私の「 後になさい 」」
アッサム様の言葉を今度は、ダージリン様が遮って…楽しそうに。
…本当に楽しそうな声で、ダージリン様の命令が飛んだ。
「 砲 撃 」
◆
先程行われた試合開始前の挨拶…。車長のみで行われたから、私は遠目で見るしかなかった。
…見るしかなかったから、この程度で済んだのかな…。
まだ足がちょっと、震えてる…。日本の戦車道が、荒れているのは、かなり昔の事だと聞いていたのに…。
「付き合わせて…悪かったわね、赤星」
「いえいえ~」
その挨拶が終わり、戦車前に帰ってきた逸見副隊長。
すでに殺気と言って、間違えのない様なドス黒い物は発してはいないけど…怖い。
さっきから赤星先輩と、逸見副隊長の会話の声しか響いていないし…怖い。
「…貴女」
「っっ!?」
睨まれた訳では、無いのだけど…その力が入った目を向けられて、一瞬体が硬直し…悲鳴すら上げそうになってしまった。
そんな私の様子を見て、逸見副隊長が…。
「ん? …何よ、緊張してるの?」
いえ、貴女が怖いだけです。
「でも…黒森峰としての初陣が、コレで…悪かったわね」
「い…いえ」
怖い怖い怖い。
でも…初陣。正確には、混合チームとしての参戦。
「で…通信手としての経験はあるのね?」
「あ…はい。向こうでも一通りの事は…」
「…ま。ある意味で貴女も災難ね」
「はぁ…」
本来、私はこの日本の夏休みが、終わった2学期から正式に黒森峰学園へと編入予定だった。
しかし、たまたま見学に来ていたこのエキシビジョンマッチ。
観戦会場で、西住隊長に見つかり、一度挨拶をしただけだといのに、しっかりと私の顔を覚えていた。
そして一言…。
『 何事も経験だ。君も行ってこい 』
……と。
初対面の先輩方のチームに、投げ…いや、叩き込まれた…。
「西住隊長の言うとおりね、これも経験。早いか遅いかの違いよ」
「そ…そうですが…」
「ある意味で、特等席ね。…西住流を間近で体感し…感じなさい」
ま…まともに目が見れない…。
「でも、試合中…何かあったら、即、周りに聞きなさい。出来るだけフォローはするわ」
…え。
「…といっても、貴女も素人じゃないんでしょ? 余計な心配かもしれないけどね。…自分が慣れない隊にいる事を忘れないで」
え…えっと…あれ? 見た目と違って、案外…優しい…。
「エリカさん。年下の後輩には、優しいですねぇ」
「…うるさい、赤星」
「他校の後輩に、したわれる事ありますねぇ…ね? エリリン先輩?」
「うっさいわねっ! あれは、勝手にあの子達が…あぁ!! もうっ!!」
…へぇ…黒森峰の隊長クラスともなると…やっぱり憧れる子が、他校にもいるのかぁ。
あ…ちょっと、かっこよく見えてきた…。
「…あら、キラキラした目にさせちゃっいましたねぇ」
「……ぐっ」
いや、かっけー!
翌々、考えて見るとこの雰囲気もクールだしっ!
大人びた雰囲気とか、それでいて少し尖った感じもっ!!
「……」
……仲間を捨てて…。
…チームを崩壊させたエースとは、大違いだ…。
これだけで、留学してきて良かったと思える…。
「はぁ…そろそろ、行くわよ。聖グロ連中にも、筋は通しておかないと…クルセイダー隊、任されちゃったしね」
お…おぉ…他校の部隊まで…。
「あ、そういえば貴女。いつ西住隊長と出会ったの? 隊長、今はちょっと…ある意味で特殊な所に…」
「え…えっと、赤星先輩?」
「そう、赤星。名前、覚えてくれたね」
や…やさしいっ!! この人、すっごい、優しいっ!!
笑顔がっ! お母…ちがった…。
「い…いえ、私…ここに見学に来たんですが…思いの他、人が多くて迷っちゃったんです」
「あぁ~そうだね。大きなイベントだしね…」
「…で、親切な大人の方がいまして…観客席まで案内されていたんです。その時に会いました」
「あら…外国の方ってだけで、日本人って結構遠慮しちゃうのに…。良かったですね」
歩きながらも、ここに至るまでの話をする。
逸見副隊長も、歩きながらチラチラとコチラを見てくれるので、気を使わせてしまったいるのだろうか?
……。
でも。
「はいっ!! その方…すごく丁寧に話してくれて…」
「うん」
「こんな子供の私も、ちゃんとレディー扱いしてくれてっ!」
「うん」
「はいっ! なんかこう~…大柄で、顔は怖かったんですけど…」
「う…ん?」
「ちょっと変わった格好でしたけど…仕事中だったのかな? …執事みたいな格好で…」
「…う…う~ん」
「でも、優しかったですっ!!」
「……」
「…あ…あれ?」
どうしたんだろう…二人共、足を止めてしまった。
「……あ…あのね? その時の西住隊長って、どんな雰囲気だった?」
え…隊長? …えっと…。
「なんでか分かりませんが、その男性を見て…」
「見て?」
『 またか 』
「…って、ため息をついてました。お知り合いの様でしたね」
「「 ………… 」」
あ…あれ?
「そうです……かぁ……」
あ……あれあれ? 赤星先輩の笑顔が……な…何か……まっくろく…
「…貴女も……私のお手伝いを…してくれそうですねぇぇ~…」
「 」
ち…違う。1秒前の先輩じゃない!?
「誰でも…えぇ、誰でも構わないのですよぉ…若いっていいですよねぇ!?」
笑顔がッ!? その笑顔が、今は…。
「 ツェスカ 」
「は…はいっ!?」
あ…なんだろう…。
逸見副隊長から、初めて名前で呼ばれたというのに、全然嬉しくない!!
半身を向けて、コチラを射抜くように…目だけで…目だけで…。
「…会ってたの。まぁ、これも早いか遅いかの違い…ね。あの野郎…ほんとに手が早い…」
「えっと…え? 逸見副隊長…ひょっとして知ってる人…ですか?」
「はっ…知ってるも何も…」
日本人って…男女共に、シャイだと聞いていた。
聞いていたのに…はっきりと、私に言い切った。
それは…威嚇にも近い…宣言。
「 私が、好きな人よ 」
閲覧ありがとうございました
ツェスカ。リトルアーミーからの新キャラとなります。
…好きなキャラ、そして次世代要員だったのに…登場回数が…。
本編の様に、サクサク書けなくなってきたので、ある程度は表現を省いたりなんだり。
小説…文章って難しい……。
PINKの44話で、アンケートしてますんで、よろしかったらドゾ。
あ、なんか私。文字通り親父になるみたいで、投稿時間が、更に開きそうです。
それを短縮する為に、文字数が減りそうですが…お付き合いください。
コロナとかの、この時期に…。
ありがとうございました。