転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第26話 変わっていくモノ

 ここの所、知波単は少々おかしな事になっていました。

 

 全国戦車道大会、決勝戦。

 

 あの日から…狂い始めた…。

 

 それは、ぶ~む。流行りと言われるモノで、それこそ流行り病の様に、知波単へ浸透していった…。

 

 あの…黄色い悪魔。

 

 腑抜けてしまわれた様に…先ほども売店での西隊長を拝見しました。

 

 変わられてしまった…と。

 

 そう、確信を得るには十分な…あのお姿…。

 

 …目を輝かせ、まるで乙女の様に…あの様なモノを…と、思っていたのですが…ですがっ!!

 

「 突 貫 ! 」

 

 西隊長!

 

 防衛線を張るも、数輌に取り囲まれているこの状況で、西隊長が先陣を切りました。

 建物より単騎、勇ましく突撃。これぞ知波単魂!

 

 ベコなるモノに夢中になるも、流石は西隊長!

 

 相手は数はあるも、臆せず、勇敢に! 一矢報いるためにっ!!

 

「あいたぁーー!!!」

 

 …が。

 

 その戦果は無く。突撃空しく…目の前で、撃破され…戦車横転…。

 

 私もその仇を取るべく、西隊長に突撃を続こうとするも…敢え無く前を遮られてしまいました。

 

「止めないでくださいっ! このままでは面目が立ちませぇんっ!!」

 

 遮られた大洗勢の…アヒルのマークの戦車の方がおっしゃいました。

 

「今ここでやられちゃったら、それこそ面目立たないよ?」

 

「後でしっかり、仕返しすればいいじゃない」

 

 私を説得させる為に、笑顔で仰られましたが…しかし、私だけ単騎生き残って…これ以上生き恥を晒すのも…。

 

 

「 ソウダヨ。後デモ、ドウトデモナルヨ? 」

 

 

「……妙子…?」

 

「なにも無理しなくても…チャンスは、その内にやってくるの。待つ事…我慢する事も大事なの。そう、先輩が言って…イタカラ」

 

「」

 

 この時思いました。

 

 …あ、この方の雰囲気が、一気に変わったと…。

 隣の体の細い方も、青い顔をされましたし…何より、周りの砲撃音も止んだような…静けさを何故か感じました…。

 

 そして、思いました…。

 

「後は根性なの。ソウ、コンジョウ。そうすれば、良い結果にも繋がるって………ソウ…先輩ガ、イッテイタヨ? ダカラ、ワタシモソウスルノ」

 

「  」

 

「ね? 忍ちゃん!」

 

「…あ、はい」

 

 

 あ…この方に逆らわない方がいいな…と。

 

 

 

 …と、経緯はこの様な感じでしたが…後にこれが、この出会いが宝物になりました。

 

 発砲禁止区域に入り込む様な真似は、考えもしませんでした。

 

 あんな売店通りを、戦車で走行するなど…・

 

 …突撃。それは勇ましく、伝統でもあり…知波単の魂。

 

 しかし、それだけでは勝てない。

 

 アヒル殿の指示に従い、一瞬騙し討ちの様な真似もそうです。感じてしまいましたが…この私が、聖グロリアーナの一輌を撃破する快挙に繋がりました。

 

 この私が…。

 

 価値観…とでもいうのでしょうか?

 それが変わっていくのが…分かりました。

 

 ですから、変えてくれたアヒル殿は、大好きです。

 

 ですから、変えてしまった黄色熊は、大嫌いです。

 

 

 あの熊のせいで…西隊長が…おかしくなっていく…。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「…なんですの…この空気」

 

 いや…すまんな、ローズヒップ。

 俺とまほちゃんが、机に手を…肘を着き、顔を覆って落胆している。

 …明らかに暗くなってしまっているこの状況に、さすがのローズヒップも困っている様だった。

 

 そうだな…何時までも気にしていちゃダメだ…。

 考え様によっては、数段階すっとばして、ある意味で最大の問題がなくなったと考える事ができるしな。

 逆にどう次に動くか、考える事にもなりそうだけど…。

 

 はぁぁぁ…。

 

 俺も人の事を言えんな…ため息しかでねぇ…。

 

「そういや、ローズヒップ」

 

「なんですの?」

 

「お茶…入れるの上手くなったな…」

 

 目の前にあるティーカップが目に入ると、それを先程から普通に頂いている事に気がついた。

 普通に彼女が出してくれたお茶を飲んでいた。

 これ…なんのお茶…。

 

「頑張りましたわっ! この「アッサム・ティー」の入れ方だけ! …そのアッサム様にすごく…とてもとても…丁寧に…教えて頂きまして」

 

「アッサムさんが?」

 

 とても丁寧に…と、言っている割に顔色が優れんな。

 

「アッサム様…私が、テントでの係に決まった直後に…これをと…これをお出しなさいと…」

 

 ふ~ん…。そういや、アッサムティーって初めて飲むな。結構独特な…って、まほちゃん?

 

「……」

 

 いつの間にか項垂れる事を止め、せっかく入れてくれたと、その紅茶に口を着けていた。

 でも…ん~…。ローズヒップの話が気になるのか、顔をローズヒップへと向け…視線を送った。

 

「……顔が…マジでしたわ…一切の油断も許されない…彼処まで集中してお勉強したのは、入学試験以来ですわ…」

 、

 一点を見つめながら、早口でブツブツと呟きながら、青い顔でカタカタ震えだした…のだけど?

 お茶の入れ方…ってだけだよな? あ~でも、お嬢様学校って、そういったにも厳しいのか?

 ま…いいや…。下手な事聞かない方がいいか? この見た事のない…ローズヒップのテンションを、見続けなければならないだろうし。

 

「が…頑張ったな。ちゃんと美味しいぞ?」

 

「ありがとうございます…」

 

 い、いかん、青森チーム・テント内のテンションが、どん底になりつつある…。

 そうだな…流石に試合にそろそろ集中しないとな…。画面の向こうで頑張ってるみんなに失礼だ。

 

「……」

 

 …まほちゃん? あれ? 

 ティーカップを片手に上げ、その中の琥珀色をただ、じー…と、見つめている。

 

「まぁ…お茶には罪はないな」

 

 そう呟くと、ゆっくりとまた口を着けた。

 美味しいと、しっかりとローズヒップの目を見て感想を述べると…珍しく優しい目をした。

 どうにも薔薇尻さんは、俺の感想よりもまほちゃんの感想の方が嬉しいらしく、小躍りする程喜び出したから…まぁ、もう大丈夫か。

 

「さて…どう思う、隆史」

 

 カチャッ…と、小さく音をさせてカップを置くと、今度は真剣な声になり、俺に視線を向けた。

 どう思う…ねぇ。

 

「いや…正直言ってしまうと…みほもエリカも、先程の影響がまったくなくてびっくりしてる」

 

「先程の事?」

 

「まぁ…喧嘩」

 

「…当然だ。彼女達も素人では無い。しっかりと切り替えは出来るだろう」

 

 そうだな…若干、怖いくらいに切り替わってると、現在感じている最中です。

 これは、今だけ言える事じゃなくて、前から…そうだったんだろうか? 全国大会の時とかもか?

 

 画面を見上げると、アスファルトを並んで進む戦車達が見える。

 いつの間にか、大洗の街に入っていた様だ。

 音は聞こえないが、あの映像だけでガリガリと音が鳴り響いているのが容易に想像がつく。

 

 ……。

 

 エリカのチームが、遅れて画面にへと映った。

 

 エリカの戦車は…ティーガー? だったか。その戦車の前を少しサイズが小さな戦車が先行して走っていた。

 街外れの空き地付近に差し掛かると、ティーガーのハッチが開き、エリカが体を覗かせたのが見えた。

 指示を飛ばしたのか…エリカが手を突き出すと、すぐに前を先行して走っていた、3輌の小さな戦車のスピードが一気に上がり、走り出した。

 

 …。

 

 スピードが上がった3輌の戦車が、うねうねと…路上アスファルトを車線関係なく走る。

 

 …。

 

 ……。

 

「あら、どうしましたの?」

 

「いや。なんでもない」

 

 黙って集中して見入ってしまったな…。

 

 …あ、うん。

 

 なんか…エリカが手を突き出して出した、合図と共に動き出すサイズの小さな戦車を見て…。

 

 ファ〇ネルみてぇ…とか、失礼ながら思ってしまいました。

 

「…なんだ、隆史。やはり、市街戦は嫌いか?」

 

 

 …少し勘違いだけど、黙り込んでしまった俺を気にしてか、まほちゃんが少々懐かしい事を聞いてきた。

 

 そういや…昔、言った事あったな。

 

 確か…市街戦事態、莫大な金銭が必要になる可能性がある為に、有人の都市での試合は、あまり行われない。

 施設や家がぶっ壊れれば、新築できるとか…だっけか? そのくらいの保険金がそっこら辺で発生するかもしれないしな。

 どこぞの都市のお祭りの様に、その保険金が発生する為、住人は市街戦が行われる事に反対は少ないらしい。

 まぁ…それを含めて、金食い虫の競技だと、昔から言われていたな…戦車道は。

 

「まぁ、そうだな」

 

 俺が少しずれているだけなんだろうか? いや…この世界の価値観…なんだろう。と…俺は無理やり納得した事。

 

 …何度か昔…みほや、まほちゃんの試合を見学した時にも思った。

 砲弾や、戦車が突っ込んで、ぶっ壊れた家を見て、保険金が下りると…新築できると歓喜し、叫んでいる住人を見ると…正直良い気分がしなかった。

 

 その事を昔…この二人に言った事がある。

 二人共、その俺の言った事に対して、不思議そうな顔で返してきただけ…。

 しほさんには…なんか、怖くて聞けなかったけど…。

 

 熊本…西住家がある付近で、市街戦が行われたら? とか、聞いてみても、過去にあったとか、何を気にする? とか、まほちゃんに言われてしまった。

 まぁ、二人とも現場の人間だし…そんな事を気にしていたら試合にならないかもしれない。

 

 でも…なぁ。

 

 もう、あの家は俺にとっても大事な場所になってるし…砲弾の跡やら何やらで、あの場所…付近が荒れてしまうのは…嫌だった。

 思い出だってあるだろうよ。大切な物もあるだろう? 金なんかに換えられない…そんなモノが。

 家だって…建てる前の事や…建ててくれた人。作る側からすると…何か…切なく感じてしまう。

 

 …ま。その事を正直に言った所で、俺のその意見に、何故か嬉しそうな顔で返してきたけどな…。

 

 あぁ…もう、これは根本的な価値観が違う。…と、これはしょうがない事だと。…それ以降、その事を口にするのをやめてしまった。

 

 現に今も、アスファルトを踏み鳴らし…ヒビを作り、砲弾で穴を開ける。

 空き地の土を巻き上げ…ガードレールを突き破り、信号や看板を薙ぎ倒す。

 

 あれ一つ作るのが、どれだけ大変か知っているか? とか…言ってやりたくもなる。

 

 …。

 

 ある意味で、修理の為に経済が回るかもしれない…でも…見ていてやはり…少々辛い。

 これがもし、俺が作った物なら? 俺の今の家で起こった事なら? とか、連想してしまうと、更にな。

 まぁ、俺が住人なら家の周りで行われる事に許可なんぞ絶対に出さないんだろうな。

 

「相変わらず…変な所がロマンチストだな」

 

 また少し優しく笑い、そんな事を言われてしまった。

 …ロマンチスト…と言うよりか、感傷的なだけだろうよ。

 

 まぁ、ソレも随分と前に結論を出してしまった事だ。

 本人達が…両人納得済なら、俺から口を出す事でもないだろうよ。…そう納得した。

 だから、今回のエキシビジョンマッチも、どこでやろうと、俺は何も言わなかった。

 

 …はぁ…まほちゃんの言葉で、思い出してしまったじゃないか。

 

 …ん?

 

 そのアスファルトを踏み進む戦車が…2方向かに分かれた。

 どうしたんだ? 大波さんチームが、バラバラに進み始めたそ。

 

「なぁ、まほちゃん。アレって…」

 

「ふむ…。あれは、みほが戦力の分散を狙っての行動だろうな。それに相手が引っ掛からなかったという…」

 

 中村よりもレベルが遥かに高い方に解説を頼むと…。

 

『 黒森峰なら兎も角、その手には乗りませんわ 』

 

 無線機から突然ダージリン声が…。

 微笑んで、俺に説明をしてくれていたまほちゃんの頬が、その声にピクリと動いた…

 

「……」

 

「…あの……」

 

 解説が途中で終わってしまったのですけど…? その解説者が腕を組み…眉を少し釣り上げて…。

 

「ダージリンめ…。ワザとオープンチャンネルで言ったな」

 

 …。

 

 ……。

 

 あ、うん。黙ってよう。

 

『 気のせいですわよ? 』

 

「……」

 

 あ…はい。なぜか無線機から喋ってもいないのに、返答が来ましたね……黙ってよ。

 

『 黒森峰なら兎も角!! 挑発に乗っちゃダメ! フラッグ車だけを追いなさい!! 』

 

「………」

 

 混合し始めた交差点に差し掛かり、あんこうチームの車輛が、ダージリンの車輛へとすれ違い様に砲撃。

 すると…無線機から今度はカチューシャの声が響いた。

 

「………」

 

 あ、うん…涼しい顔してるけど…結構気にしてるよね? って顔ですね。

 

 よしっ! 画面見よう、画面っ!!

 

 …あ。

 

 いつの間にかウサギさんチームが…あぁ、ありゃノンナさんの車輛か…?

 正面から組み合う様に接近していた。一年達は、砲身の短さ利用して何時もの様に…てな感じか? でもなぁ…それは多分…ノンナさんには通用しないだろ。

 押し合っている様に見えるけど、ノンナさん体を戦車から出したままだし。

 

 あ…ほら。

 

 すぐにウサギさんチームの戦車が弾かれた。負けじと再度接近するも…砲身で止められてしまったな。

 

 あぁ…。その様子を静かに見降ろされてる…。

 …というか…ノンナさん…。空からの映像だから、表情は分からないけど…絶対に無表情だろうなぁ…。

 

 はい、摘んだ。

 

 と…思った瞬間。零距離で砲弾を撃ち込まれ、文字通り吹っ飛ぶウサギさんチーム。

 煙を吐いている見慣れた戦車が横たわる姿が出来上がっていた。

 

「…なんというか…大洗は何時もこうなのか?」

 

「げ…元気いいだろ?」

 

 いやぁ~…敵側として見てみたいと思ったが…結構、これは辛いな。

 

「まぁ…それよりも…だ」

 

「?」

 

 まほちゃんの視線に釣られ…画面を見上げると、その映像はカメラを意識してだろう…空を飛ぶ撮影用飛行に向かって顔を上げているノンナさん。

 あれ…まっすぐ上を見ないと撮れない絵だろ…。

 それに反応してか…カメラの映像が、そのノンナさんをアップで写した。

 

「っっ!?」

 

 …瞬間…。

 

 口元に手を…って…はい?

 手を投げ出すように、カメラに向かって…。

 

 

「…ノンナさんが、投げキスを…した!? …はぁっ!?」

 

 

 無表情で投げキスって…。する事やって、満足したか…すぐに戦車の中へと入っていった…。

 その撃破後パフォーマンスで…観客席から、ここまで聞こえる地響きの様な歓声が…。

 

「………エー…」

 

 ノンナさん…あんな事、死んでもやらなかったのに…。

 

「…隆史。誰に…だろうなぁ?」

 

「は…い…?」

 

「…誰に向かってだろうなぁぁ…?」

 

「え…いや、たまに…あぁ! ケイさんとか、たまにしているパフォーマン…ス…じゃ…」

 

「……」

 

「 」

 

「…最初の話に戻ろう」

 

「あ…あの…まほちゃん…?」

 

「あったな」

 

「………」

 

 あの…なんで睨むんでしょうか…?

 

『 遅れてるわよっ!? ノンナッ! どうしたの!? 』

『 いえ。思ったよりも、恥ずかしかったです 』

『 はぁ!? 』

 

 …。

 

 みほと、エリカの事もそうだ。

 

 あのノンナさんもそう…。

 

 …なんか色々と、関係が変わっていく気がする…。

 

 

「みほ達の…喧嘩の影響が、しっかりとあったな!」

 

 




はい、閲覧ありがとうございました。


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