はい、リク対応。
まとめ絵をpixivにまとめる様にしました。
「お~~が~~たぁ~~くぅぅーーーん」
午前中だというのに、うだる程に熱い夏の日。
エキシビジョン試合の前の、尾形にとって最後の休日だと言う事で、林田の提案により野郎だけで遊びに行くと言う事になった。
というのも、俺は基本的に戦車道の夏の全国大会を、全て観戦してきた為に、ある意味で尾形頻繁に顔を合わせていた。
しかし、林田は金銭面や例の家庭内事情により、夏休みだというのに、ずっとボッチで過ごして来たから、高校2年生の夏を最後くらい人と過ごしたいという。
…この意見に対し…尾形は、非常に共感していた。
よって、船の下にまで遊びに行こうという運びだ。
車を…というか、2人乗りの軽トラだが、出してくれるというので、こうして尾形の家にまずは集合という事に…。
初めて来た時、尾形の家は…なんちゅーか…酷く古風で、懐かしい感じがする家だなぁ…というのが、第一印象だったな。
これで何度目かにはなるが、西住さんが一緒に住んでいるというのもある…正直、来辛い…。
しかし…玄関前も全開で開けてある辺り、完全に田舎の家だよな…。というか、若い女の子がいるというのに、コレは危なくはないかと…ちょっと思う。
まぁ、お陰でこうして、呼び鈴ではなく、林田は尾形本人を呼び出す為に、小学生辺りの…ガッコ行こ~~~! 的なノリで、少し間延びした大きな声で…。
「ナンパ行こぉぉ~~~!!」
すっげぇ軽く、とんでもない呼び方を、友人とその彼女が住まう家に対して叫んだ…。
「……林田…おまえ…「 林田ぁ!!!! 」」
真顔で言った辺り、確信犯だろうな…とか、思っていたら、家に入りすぐ横の襖から家主が俺の言葉を被せる程の即ご登場。
いやぁ~…すげぇ勢いで、襖開けて来たな…。
転がり出る様に出て来た家主に対して、親指立てて、今度はすげぇ良い顔で言った。
「尾形! ナンパ行こうぜっ!」
「行かねぇって言ってるだろ!! 野球しようぜ! みたく、軽く言うな!!」
相変わらず、変な所でノリが良いな…尾形。
まぁ…実際、コイツは気が付いてないだろうな…。ボッチ救済にマジになってる辺り、友達付き合いが良いというか…律義というか…。
林田提案の元、行先は海…。大洗サンビーチ海水浴場…。
野郎同士で海に行くと決定した時点で、林田の狙いは完全にナンパ目的だろうから、ある意味で嘘はついていないだろう…。
「お前…みほ達いたら、また面倒な事になってただろうがぁ…」
頭を押さえて、肩で息をする尾形に対して…
「あぁ、さっき西住さん達とすれ違ったら大丈夫だ」
…しれっと、林田は言い放った。
林田の言葉に対して…確信犯か…とか、尾形が呟いたが、ここは黙っていようかね。
尾形曰く、俺らと出かける事を西住さんに報告したようだ。それに対して男友達と遊びに出かける…という行為に対して、酷く喜んでいたらしく…逆に、その彼女の保護者目線の喜び方に対して、若干悲しかったらしい。
ならば…と、彼女は彼女達、いつもの5人…プラス、西住さんのお姉さんとで、同じく女同士で遊びに行く…という事になったとの事。
「んぁ? 行先? 一応言っておいたけど…みほとまほちゃんが、少し驚いてたな」
「…あぁ…まぁそうだろうな。特にあの姉妹は知ってるだろうし…」
…海に行く。
最初、その行先に尾形は渋った。
つるむ事は良しとしても、何故そこで渋るのか。…まぁ、尾形の体ならば、本人からすれば行きづらくなるのも解る。
乙女の戦車道カード衣装選考会の時に少し見たが…あの体つきで、あの体の傷。
まーー…目立つだろうなぁ…。
しかし、少しずつそれも薄くなってきて、よく見なければ分からない程になってきたから大丈夫! …と、西住姉妹の後押しと共に渋々承諾してくれた。
彼女は彼女なりに、尾形に男友達が出来ている…という、事が非常に喜ばしいらしく、野郎同士で遊びに行くという行為を特に押していた。完全に母親目線だな…。
…。
「そういや、西住さん達は何処いったんだ?」
「知らん。そこは余り詮索するもんでもないだろ。というか、聞きづらい」
「………」
「中村?」
「なぁ尾形。お前は一応、行先報告したんだろ?」
「あぁ、別に黙っておく事でもないしな」
「……………」
「んじゃ、戸締り確認してくるから、先に車乗ってろ。あぁ…クリス用にエアコン付けとかんと…連れいけないのが口惜しい…」
「…犬馬鹿」
「うるせぇ林田」
「…」
はぁ…まぁ…面倒くさい事になりそうだと思いながらも、こんなやり取りに付き合う辺り、オレも人の事は言えない。
結局、オレも同じ穴のムジナ…戦車好きなお陰で友人はやはり少なく…野郎同士でつるむのが、やはりどこかで嬉しく…そして楽しかった。林田のある意味で向こう見ずな行動は、尾形やオレの様な、自分から「他人と一緒に遊ぶ」という事をしない人種にとっては何処かありがたい。
それを尾形も解っているのだろうな、結局の所、林田に付き合ってしまう。
誰に対しても尾形は何処か、他人行儀な喋り方をする。
しかしこの少し乱暴な言い方をするのが、俺らにだけってのが、何気に結構…あぁ。気を許しているというのが分かり…少し嬉しく感じる。
▼
…。
………。
尾形の軽トラに揺られ…いや、正確に言うと、我が高校自動車部によって完全に魔改造された装甲車に揺られて到着した、海水浴場。
駐車場は、ほぼ満車…。一番外れだが、運良く止める事が出来たのが、信じられない位だ。
男の水着なんぞ、殆どズボンと一緒だ。初めから着替えて来たのは正解だったな。流石に上は羽織ったが、ここまで特に問題はなかった。
着替えやら何やらが入った荷物を肩に担ぎ、だらだらと歩いて到着したビーチは…。
「なんだ、この人込み…」
お盆も過ぎ、人なんてそんなにいないだろう…と、踏んだのだけど…なんだ、この込み様は。
海の家しかり、所々に設置されている屋台群…満員御礼だというのが、遠目に見ても分かる。
人込みが嫌いな尾形は、すでに若干疲れた表情を浮かべている。その横の林田は、特に気するわけでもなく、その光景を見渡して…どこか嬉しそうだ…。
「なぁ、中村」
「なんだ尾形」
開いていたスペースに、適当に荷物を置くと尾形が話しかけて来た。
家族連れやらカップルやらが目の前を通り過ぎていく。少し遠くに海が見えるが…色とりどりのパラソルが並んで、良くある賑わいを見せている海水浴場。
尾形は地味なサマーパーカーを羽織ったまま、その場にしゃがみ込んでしまった。
まぁ言わんとしている事は、何となく分かる…。さっそくとばかりに、いつの間にかレンタルしてきたパラソルを、砂浜に刺している林田。
そのままシートを敷いたり…明らかに野郎三人で来たとは思えない程の陣地を形成してく…。
そんな林田を見て…。
「…林田…あいつ…さっき、マジでナンパするとか…言ってたのか?」
「この込み様見て、何も言わない辺り…そうかもしれん。すべて解っていて此処にお前…いや、俺達を誘ったのかもな…」
「……………勘弁してくれ…」
尾形が本気で、項垂れた…。それはそうだろう…特に尾形の場合、これが発覚したら命に係わる。
「ふっ。今回、俺はマジだぜ!」
林田は…それはもう…輝く笑顔だった。
ここに陣を置き、通りすがる女性に片っ端から声かけようぜっ!! …と、作戦とも言えない作戦を口にした。
「んじゃぁ! さっそくレッツ! ナンパッ!!」
「「 嫌だ 」」
俺と尾形の声がハモったな。
「え? なんで?」
「「素で返すな、素で」」
俺と尾形の声が、またハモった。
「あのな…林田。前にも言ったが、そういうのは嫌いなんだ。後、一応…彼女持ちの俺が、ナンパなんぞすると思うか?」
至極もっともな事を言ったな。
「それに今! …この大洗には…エキシビジョンマッチの関係で、俺の知っている高校の方々が多数いらっしゃってんだぞ?」
「そうだな。だから? え? なに、自慢?」
…林田。
「み…見られてもしてみろ! 高確率で俺の命がなくなるだろうが!!」
…あぁそうだな。
そうなったらオレも、もう擁護なんぞできん。巻き添えにならない様に逃げるだけだ。
「もういいから…諦めて、中村と砂浜で追いかけっこでもしてこい」
…なんだ、その地獄絵図。
「俺は巨乳の彼女が欲しい!!」
「「 突然、何言ってんだ 」」
相変わらず、人の話を聞かない奴だな。
「高校二年は…本当なら青春の黄金期なんだ…俺だけ…俺だけ…」
いや、オレも今は、彼女いないぞ?
「船底に付き合ってやっただろ?」
「…ぐっ!!」
あ。
例の園さんの時の事を出したな。
「本来なら、こんな事を言いたくはないがな? …でもさ…俺の用にも、付き合ってくれても良いじゃねぇか…」
「…ぎっ!!」
あー…。
まずいな。これは尾形には有効だ。
尾形に対して、こういった軽い脅迫地味た事を言う辺り…林田…今回本気か…。
「だ…だめだ! 他の事にしろっ!」
あ、踏みとどまった。
「んじゃ、いるだけ」
「は?」
…林田。
「着いて来てくれるだけでいい」
「……」
「喋んなくても、話しかけないでも…何もしなくていい」
「……」
「それならいいだろ?」
「ぬっ…んん~…」
あぁ~…。
「そうそう大丈夫! お前と中村は、俺の後ろにいるだけ! …で、いいんだよぉ」
「………」
「こういった所だと、相手もグループの場合が多そうだろ? 頭数揃えた方が、成功率が良いんだよっ!! …って、ネットに書いてあった」
妥協案を提出した。
林田…なりふり構ってねぇ…というか、ネットの情報鵜呑みにすんなよ…。
尾形も無駄に義理堅いから、マジで悩んでるな…頭激しく掻きだした…あぁ…もう、こりゃだめか?
「それに最終的に、俺が言えば、お前らその場で解放…ならいいだろ!?」
「……」
腕を組み、しばらく悩んだ末…出した尾形は…。
…
………
「良いのか? 尾形」
「中村…しょうがないだろ…はぁ~~…まぁそれに? 俺がいたら逆に上手く行くものも、いかないとも思うしな」
「…言ってて悲しくならんか?」
「…なる」
まったく…こりゃオレも付き合う流れになってるじゃねぇか…。
悩んだ末に出した結論は、本当に後ろでマネキンになっていると言う事だけ。俺もそうだが、渋々その条件で承諾をした。
その…了承とも取れる発言に、林田がはしゃいでいる…。それ…ナンパするのと一緒だぞ? と、敢えては口にしなかった。余計にこんがらがるだけだしな。
海に来て、海に入らず何やってんだろうな…と、嘆いているが…こういった所を西住さんではなく、こちらを取るのが尾形らしいというか何というか…。
「後、そうそう、林田。一番の重要案件だ」
「なんだっ!? なんでも言え!!」
「もしも…
「………」
「そこで黙るなよっ!!」
「んじゃさっそく行ってくるわっ!! そこのおねぇ~~さ~~ん」
「返事っ!! 返事寄越せ!!」
…。
…まぁ…コレも野郎同士で可能な事…なんだろう。
尾形の了承を取った後…即座に駆け出した林田を、追いかけていく尾形。
お前らが気色悪い追いかけっこしてるじゃねぇか。
はぁ…。まぁ…コレも夏の思い出とやらになるのかね…?
◆
「お姉さん達こんにちは~!」
俺の一番の重要案件を無視し、さっそくとばかりに、さっさと道行く人に声を掛けた始めた林田。
ある意味で、良くそんなに知らない女性達に軽々しく声を掛けれるもんだと、関心する。
まだ午前中だというのに、すでに砂浜は熱く、素足で移動も難しいというのに、この俊敏さ…。
通りがかった女性に行き成り突撃を掛けていた。
まぁ…万が一でも成功する可能性は少ないと、徐々に実感し始めるのだけどな…。
林田に声を掛けられる女性達は、一様に一瞬顔をしかめる。…まぁほぼ無視だけどな。当然だろう…こんなところにまで来て、あからさまにナンパだと解る声かけに応じるとかありえん。
友人たちと遊びに来ていそうな方々は、邪魔をされて気分を害したと…そんな感じ。
ただ無視をしなかった、女性達の反応は、ほぼ一律してこうだ。
顔をしかめる。林田よりも後ろの中村を見て、一瞬目を見開き…迷うような感じを見せ…俺を見て、「ひっ」…と怯えた声を漏らす…。
まぁ…終始、眉間に力を入れていたからな…。それで大体、愛想笑いをして、逃げる様に立ち去っていく。
…。
それはいい…。
それはいいんだけど…皆一様に、ハイエースされるとか、訳の分からない言葉を呟いているのが、非常に心に刺さる…。
そして今更気が付いたんだけど…これって、傍目から見ると、俺もナンパしている様に見えないか…?
しかし…めげねぇな、林田…。
何度も羽虫を追い払われるが如く拒否されているというのに、また道行く女性達へと突貫している…というか、いい加減疲れて来た…。
海に来て、海も入らず、なにしてんだ…俺達は。
…。
はぁ…いい加減、やめよう…一日こんな事をしていたら、無駄に日焼けして終わりだ…。
パタパタと走り回っている林田に、声を掛けようとしたら…もうすでに次の女性にへと声を…あ。
「…はい?」
林田に声を掛けられた3人の女性は、律義に脚を止めて、あの馬鹿へと顔を向けていた。
…少し戸惑っている様にも見えるが…ま…まぁ、それはソレで…良いのだけど…さっさと終わるし…ただ今回は違った…。
突然現れた俺に対して、一瞬たじろいだとも思ったが…すぐにその顔が変わったが…。
…。
マジデスカ。
「は…林田、やめろ」
「なんだよ、まだ挨拶しかしてねぞ?」
「…知り合いだ」
「…は?」
黒いワンピースタイプの水着の女性と、水玉の控え目な水着の女性。
こちらの二人は、名前こそ知らないが、ある意味では知り合い…。
そして、もう一人…。
ウェーブが少し掛かった、癖毛。赤の布地に、白い水玉の水着を着た…女性。
「あら、害…いえ、尾形さん」
あ…赤星さん…。
「こ…こんにちは」
「はい、こんにちは」
明るい笑顔で返してくれるのが…逆に…。
「えっ!? なに!? 尾形の知り合い!?」
「(何嬉しそうに言ってやがる! 流石に言い逃れできんし、下手したらみほにバレる! 終いだ、終い!!)」
「えっと、僕ぅ! 尾形の友人でぇ~!」
「(止めんかっ!!)」
林田は、俺の静止を聞かず、少し話した事がある程度…の、知り合い2人と、がっつり話した事のあるもう一人に対し、気持ちの悪い程、愛想よく話しかけ始めた。
こいつ…慣れやがった…。
いいかげん、そこまで躊躇せず話しかけられるなら、一人でやれよ!!
女性二人は、林田の陰から、頭だけ少し伸ばし、俺を視界に入れて来た。
そして一言。
「あ、西住キラーの人」
「隊長と副隊長に、二股掛けてる人」
………。
あ…頭痛てぇ…。
一泊した黒森峰で、散々質問攻めをしてきた二人だった…。
だから名前は知らなくても、顔だけはしっかりと覚えている。…とは言え、彼女達も事情を既に知ってはいるので、あくまでからかい半分で、俺を不本意な名前で呼ぶんだけどもね…。
そんな彼女達は、黒森峰らしく…やはり体をかなり鍛えてはいるのだろう。
引き締まった体は、出るところを強く強調した体つきで…林田のテンションが爆上がりだった…。
「尾形さん」
「は…はい?」
余計な事を言わないか、ハラハラし始めた所…即座に息の根と一緒に止めるか、本気で悩み始めた所…赤星さんが俺のパーカーの裾を軽く引いて声をかけて来た。
「尾形さん遊びに来てたんですね。あの…みほさんは…」
「あ…はい。今回、俺の友人だけで…ですけど。みほは、みほの友人と何処か出掛けていきました」
「あら、そうですかぁ…」
ん? ちょっと、表情が曇ったな。
まぁ…昔からの友人らしいし、会いたかったのだろう。
「も…って事は、赤星さんも遊びに来たんですね」
「え? はい。せっかく停泊してますし…稀な休日ですからね。たまには浜を素足で歩きたくて」
「な…なるほど…」
完全な社交辞令というか…世間話だ…。よし…よし…これでいい。
後は不自然ではない程度に、林田が余計な事を言う前に…さっさと離れよう!
林田は林田で、一生懸命、女性と二人に話しかけてはいるが…脈はなさそうだ。あからさまに引きつった笑いをしてる。
…ん?
あれ? …そういえば、中村がいない。
一緒についてきてはくれなかったのか? 先ほど居た場所を見てみると…中村が手を…いや、腕を振っていた。
声に出さないで、口を大きく開き…なんだ?
に…?
げ…?
…なんだ? 何を口をパクパクさせている。
「何やってんのよ、隆史」
「 」
…。
………。
口から心臓が出そう。
そんな驚いた時の例えが、恐ろしくしっくりくる様な…心臓の跳ね方したぞ、今…。
はい…突然、後ろから聞こえて来た声は、非常に聞き覚えがある声でした。
ギリギリと音が出る程に…ゆっくりと振り向くと…。
「あ…いや、たまたま?」
見慣れた顔の方がいらっしゃいました…。
黙っていると、また何か言われそうだったので…強引にそんな言葉を喉から絞り出した。
「…は? ま…まぁ良いけど。き…奇遇ね」
こんな場所特有のカラーをしている、少し大きめの紙コップ…。
それを持った、エリカが立っていました…。
「こ…こんにちは、エリリン」
「その呼び方、止めるんじゃなかったの? …なんか、怪しいわね」
外側と紐のみが赤で、布地が黒一色のビキニタイプ…。
腰にパレオを巻いている。…いやぁ…初めて見たな…彼女の水着というのは…フリフリは付いてないが…。
「な…何を見てんのよ」
じっ…と、見ていると、持っていた紙コップから伸びているストローに口を付け、横目になりながらもそれを啜りだした…。
「…な…なに?」
余り凝視するのも失礼かとも思いましたので、少し顔を逸らしマシタ。
い…いかん…。
ここの所…昔みたく、同年代を高校生…子供だという様な認識が、露骨に薄れて来たので意識をしてしまう。
それは、誰に対してもそうで…多分、青森にいた時とは違い…例えば、カチューシャやダージリン達に対しても、今なら女性として完全に見てしまいそうだった。
偶然出会ったりしてしまえば、それを嫌でも感じてしまいそうで…俺の体とは別に、それを認識したくなくて、海に来たくなかったのに…。
何時もだったら…例えば、目の前のエリカに対して、エリリン、フリフリじゃない。…とか、ふざけながらもリクエストできそうなのに…いやもう…無理。
普通に見てしまいます…。
「エリカさん」
「ん? あぁ、待たせて悪かったわね赤星。はぁ~…ダメね。ここまで込んでると、飲み物一つ買うのに時間が掛かっちゃうわ」
「あはは。そうですね…エキシビジョンが近いですから…集客も凄いでしょうし」
「はっ! 優勝校様のお膝元での試合でしょうしね」
「またぁ…そんな嫌味を」
「事実でしょ? ね? 優勝校様?」
エリカさん…睨まないで下さい。俺の困った表情に満足したのか…エリカはまた、ストローに口を付けた。
しかしまぁ…エキシビジョンでの集客…ね。泊り客もいる為か、だからこんなに人がいるのか…。
まぁ…学園艦も何船か止まってるし、そこからの人もいるのかね。
「…なんか言いなさいよ」
黙り込んでしまった俺に対し、顔を少し顎を上げ…横目で何かを待っているかの様に見てくる。
何処かしら頬を赤らめてながらする、その仕草が、少し拗ねた子供みたくもあり…変に可愛らしく思えるのもあり…。
あ。完全に顔を逸らしてしまった。
「(尾形さん、尾形さん)」
「(え、あ、はい?)」
目線を逸らした先に林田が……って、一方的にしゃべってるけど…それじゃ、多分…ダメだと思うぞ?
…っと、んな事はどうでもいい。赤星さんが内緒話をするかの様に耳元で小声で話しかけて来た。
「(こういう時は、ちゃんと感想を言わないとっ! 褒めてっ! 褒めてください!)」
「(はい? 何が…って、感想?)」
「(水着っ! 水着姿をですっ! この基本的に、全方向攻撃型のエリカさんが、稀に見せているデレって奴ですよ!?)」
「(……たまにキツイよね…赤星さん)」
確かに今やエリリンは、こちらを完全に見なくなり、目を伏せてツーンって感じで斜め上に顎をお向けになっておられる…。
水着の感想…褒める…。
あ…いや、そう言うモノなんだろうか…。いや…しかし、まずいな…これは未体験だ…。
「(ほらっ! エリカさん、完全に尾形さんの言葉を待ってますよ!?)」
褒める…褒める…う~~ん…。
ここは赤星さんに従った方が吉だろうけど…。
「えっと…エリカ?」
「な…なによ」
…。
話しかけられるのを待っていたごとく、薄く目を開け…顎を下げ…。
…。
そしてなぜか、上目使い…。
…。
「……」
……あかん…一瞬、ドキッとしてしまった…。
「だから…なによ」
なにを言うのが正解なんだっ!?
すでに林田を既にガン無視で、何故か微笑ましく見ている二人! と…同じ笑顔なんだけど…何故か邪悪という二文字が思い浮かぶ笑顔の赤星さん…。
軽く腕を組んで、更に見上げて…といいますか、完全に俺の言葉待ちの表情のエリリン…。
「えーー…と、エリカ」
「…なに?」
えっとっ!! 褒めるっ!! 褒めるっ!?
…よ…よしっ!
頭ン中ごっちゃになって、何をどう言や良いか、やっぱり分からんがっ!
「エリちゃん」
…この場は素直に感想を述べた方が良いだろう…。
「…な…に、よ…急に昔の呼び方で…」
昔の呼び方をした事に、少し戸惑った表情で返してきたけど…って…なんか、すげぇ期待したような顔…。、
肩に手を置き…俺は、俺にできる出来る限りの、輝く笑顔で…。
「大人になったねっ!」
正直に述べた。
「赤星。そこら辺に…釘バット落ちてない?」
「…はぁ…」
あ…あれっ!?
赤星さんが思いっきりため息吐いた!?あ
「い…言うに事欠いてぇぇ……何処を見て言ってんのよ!!」
「ぜっ…全体的にっ! 全体的だよ!?」
あ、いかん。…こりゃ選択を誤った!!
完全に怒っちゃった!? 貴女結構、すげぇプロポーションしてるの気づいてますか!? だから素直に…
「あーはいはい! どうせ、西住隊長に比べれば、私は貧相よっ!! 悪かったわね!!」
「まっ…まほちゃん!? …は…今、関係ない…よね?」
…そういや、まほちゃんの水着姿って…カード以外でなら、小学生の時以来見てないな…。
「……」
「エ…エリリンさん?」
「今、一瞬、頭ン中で比べたわよね?」
「滅相もございませんっ!!」
た…助けっ!! 助けて赤星さん!? 胸倉っ! 胸倉掴まれちゃってます!!
「そもそも!! …隆史。アンタ、こんな所で何やってんのよ。偶然にしちゃ…」
「いや!? その!! 林田…アレ! アレと…ほらっ! 野郎同士で遊びに…」
「……ハヤシダ?」
俺の言葉で、視線を俺から林田に向けた……って、お前、なに敬礼してんだよ…。
あ、お前既にこの場の力関係理解して、逃げる準備してやがるなっ!?
「……ねぇ、そこの変態」
「ハッ!! お呼びでしょうか!?」
……林田。
「私の質問に答えなさい」
「麗しい! 彼女達とお茶をしたく! 声を掛けさせて頂きました!!」
「 」
ばっっっ!!! おまっっ!!!!
「…お茶? こんな場所で? どういう事? 端的に、分かりやすく、一言で………吐け」
「 ナ ン パ し て ま し た ! ! 」
「 」
死が……確定した。
林田っ!! 躊躇もしないで、あっさりと吐きやがった!!
ナンパなんてしてな…あ! いや…近くにいるって約束したから、今回まったくの無関係だと、言い訳できねぇ!!
しかし、言い訳っ! せめて言い訳を!!
「………」
近い…
近い近い近い近い!!!
胸倉を手前に一気に引き寄せて、鼻が当たる程の距離でガン見っ!!
顔が近くて恥ずかしいとか、そんな感情すら湧かないっ!! エリリン、目のハイライトさんがいないですよ!?
「……………」
「」
「……………」
「なんか喋ってっ!!」
過去これ以上見た事ない程に、目を見開いて、すっげぇ近づいて来たっ!!
痛くないのでしょうかっ!!
「林田! てめぇワザと言ってるだろっっ!!!」
「俺は西住さんにバレたら時は、庇うって話はしたが、その他の方は例外だよねっ!」
「今ッ!!! その誤解を生むような発言をするなっ!!! その言葉も完全にワザとだろっ!! 俺はお前に…「 オイ、タカシ 」」
は…はい。
「今、私と話してるわよね?」
「…なんで笑顔なんですか…」
「……みほは、この際どうでも良いけど…ナンパ? ハ? ドウイウコトカシラ? …ナンパ?」
「あ…いえ、そこのバカがどうしても彼女が欲しいからって…一応借りもありましたので…仕方なくですね!? たまたま偶然、あの糞が声かけたのが赤星さん達だったって話です!! 俺は全然、そんなつもりなんてありませんから!!」
「 長い。一文字にまとめなさい 」
「一文字っ!? って、痛っっ」
突然…エリカが持っていた飲み物を…というか、そこに突き刺さったままのストローを口に強引に突きさして来た。
「お茶? お茶だったわよねぇぇ…。ほぉぉぉらぁ…お望み通り、お茶をくれてやるわぁぁ…」
「喉っ!! 喉にあふぁるっ!!」
歯でストローを噛んで防御…する事もできずに、コップの底に手を当てて、押し付けて来てるしっ!!
いつの間にか周りにギャラリーもできて、痴話げんかだの何だの聞こえて来てるってマジで痛いっっ!!!
「ほらほらぁ~ウレシイデショウォォォ? 紙コップさら綺麗に平らげればぁぁぁ……ぁぁ…」
ここから…久しぶりにエリカの笑顔が見れましたが…全然嬉しくねぇ…。
「まっぶっ!? 痛い痛い痛いっ!! 笑顔で言わないでく…っったぁああ!」
「ほぉぉぉぉらぁぁ!!!」
◆
「…っったくっ!!! 本気で死ねば良いのに!!」
「あはは…それでも、しっかり許して上げましたね…」
「あぁっ!? ……まぁ、どうせ他の変態に乗せられてした事でしょうよ!!」
「なんだ、ちゃんと信じてるじゃないですか。その調子デスヨォ?」
「信じてる!? そんなんじゃないわよ!! …ったく…それに赤星…貴女たまに目が怖いわよ…」
「気のせいです」
「…まぁいいけど…」
「………」
「………」ジー……
「………」
「………」ズッ…
「ストロ…あ、飲んだ。……副隊長」
「な…なによ」ズズッ…
「……副隊長。あ、また飲んだ」
「だからなによ。交互で呼ばな……」
「「 結局、ソレで飲むんですね 」」
「……っっ!!?? べ…別にこんなの、気にする歳でもないでしょ!?」
「「 ……… 」」
「ニ……ニヤニヤするなぁっ!!」
「「 ……… 」」
「なに微笑ましい顔してるのよっっ!!!」
◆
「……人の頭って、掴んで引きずれるんだな…」
まぁ…分からんでもない…。
せっかく「 に げ ろ 」…と、口パクで教えてやったんだが…まぁ、わからなかったようだ。
散々逸見選手になじられた後…漸く解放された尾形が、林田の頭を鷲掴みにして引きずりながら帰ってきた…。
尾形達…いや、尾形が解放されたのは…結構速かったな。
逸見選手が、尾形の口にストローぶっさした後、すぐに踵を返して無言で去って行ってしまった。
ま…まぁ、終始ゴミを見る目で見てたけど…。逸見選手…ありゃ完全に…アッチの感情で怒っていたよな…。他の選手達が随分と微笑ましい顔でいたのが…何となく理解できなくもない。
…さて。
「ひ…久しぶりに、本気で殺意が湧いた…」
「…まぁ尾形の気持ちは分かるが…」
そんな林田は、頭を掴まれているというのに…腕を組んで海の方向を向いている…たくましいというか、なんというか…。
「…っと、尾形。まだ顔青いが…逸見選手…そんなに怖かったのか…」
「怖かったという部分は否定はしないが…まぁ、ここん所、寝不足気味でな…この日差しは、少しきつい」
恐ろしほど、自分の影が濃くなるような日差しだしな。普通に辛いよな。
あぁ…まぁカード衣装選考会の時もそうだったけど…こいつ、オーバーワークを無意識にしすぎだよな…まぁ、それだけの理由だけじゃないだろうが。
アレから碌に寝ていないのか…? なんだかんだ、この時間を取るのも、結構苦労したとか言ってたしな。
林田は林田で、俺らの前を通り過ぎていく人…まぁ、主に女性を凝視してるが…なにを…?
…。
あぁ…胸を見てるのか…。
「おっ! …ぉ…ぉぉ…はぁ…」
「お前…通行人見て、ため息吐くなよ……失礼極まりないぞ? どうした?」
「いやぁ…すっげぇ美人いたと思ったんだけどなぁ…」
「あ? …あぁ…あの黒髪の女性か?」
「胸が惜しい」
「……お前」
「あとなぁ、さすがに子連れに声かけるのはなぁ~…まぁ尾形なら喜んで行ってくれそうだけど」
「……林田…本気でこのまま頭部、握り潰していいか?」
頭を掴まれたまま…めちゃくちゃ普通に話すコイツが、逆にスゲェ奴なんじゃないかと感じて来たな…。
その落胆した視線の先…黒く艶光する、長い髪をまとめたスレンダーな女性が、子供と遊んでいた。
大人しめの、少し柄が入ったワンピースタイプの水着だな…あ~…ありゃ尾形が好きそうな…タイプだなぁ。
すっごい優しい笑顔で、ビーチボールを投げ合っている。
「すげぇ微笑ましい光景だよな…。お前、その女性の胸しか見てねぇとか…自分に正直すぎるだろ」
そういう所だぞ? と、一応釘をさしておくか…分かってくれるか分からんが。
「うるせぇな! ヤレヤレ系主人公みたいな面しやがって…俺はお前と違って必死なんだよ!」
「特徴無い、量産型エロゲ主人公みたいな面してるお前に、面の事を言われたくない」
「……………」
「……マジで傷ついた顔をするな…」
「うぅ…っ…ううぅ…エロゲの主人公になれるモノならなりたい…」
…そっちかよ。
はぁー…。
「……」
「…尾形?」
そんな不毛なやり取りの最中、尾形が妙に大人しい…。てっきりナンパにもう付き合わないって言いだすだろうと思っていたのだが…。
ん? …黒髪の女性をジッ…と、真顔で見つめている。
そして十突に口を開いた。
「…なぁ、アレって…鬼怒沼さんじゃないか?」
「…は?」
「鬼怒沼さん? …あ~…船底の髪の毛真っ赤だった娘か?」
「そうそう…多分、あの子供って、言っていた弟さんじゃないか?」
なるほど。確かに言われて見ると、そんな気がしてきた。
ただ顔つきや、目つきが…全然違う…。超清純派、おしとやか系の優しいお姉さんにしか見えねぇ…。
う…うまく化けたなぁ…。これだから…女は怖い…。
「…あの子…あんなに胸がなかったのか…」
「林田…」
「パ……パッドだったのか…う…裏切られた…」
「そこで本気で落胆する当たり…お前らしいわ」
「ん?」
話声が聞こえたのか…彼女が俺達に気が付いた。
すげぇ可愛らしく、そして上品に微笑みながら…あからさまに尾形に手を振った……。
ただ、こちらに来ることはなく、ただ弟さんと戯れている。
手を小さく振替してる尾形が、少し引きつった笑みを浮かべていた。何となく気持ちは分かるけど。
「でもアレだけベコ様、ベコ様言ってたのになぁ~…こっち来ないな。またすげぇ勢いで来るかと思ってた。あの偽乳」
「…お前…」
「ま…まぁ…アレだろ? あの弟さんに、ベコに中の人がいるって現実を知られたくないんじゃね?」
「俺の事か?」
「年齢的にまぁ…そうじゃねぇか? いやしかし…良く気が付いたな尾形」
「ん? そうか? 顔見たら、すぐに分かったけど」
「…俺は言われた後でも、まだ良く判別つかねぇ。本当に……ぁ」
ビーチボールが、男の子の頭の上を、通り過ぎ…奥へ小さく跳ねながら飛んで行ってしまった。
それを追いかける男の子…。
…直後。
尾形に向かって軽く会釈をすると…林田に向かって……。
「………」
鬼の様な形相で睨んだ…。
「 」
そして一言…声に出さずに…それでもハッキリと聴覚を通して聞こえて来た…気がした。うん。
「 」ブッ…コ…ロ…ス…
おー…やっぱりあの子だ。本職だ。
半分、前髪で隠れた顔…それこそ睨み殺さんと、林田オンリーを睨みつけている。
なんとなく、髪の毛も真っ赤に染まっている様に見えるのは幻覚かな? 炎髪灼眼になってると確信デキルゾ?
…。
そして…パっ! とまた表情を元の優しいお姉さんに戻し…そのまま男の子を追いかけて行ってしまった…。
「 」
「…しっかり聞こえてたみたいだな」
「 」
「お前…二度と船底に行くなよ? 間違いなく殺されるゾ?」
「こ…怖かった…」
「上手く弟さんから、見えない角度で睨んできたな…」
「胸の話しかしないから…お前、あからさまに言いすぎだ。んだから…」
「お前なぁー…胸のサイズを気にしすぎだ…」
「うるせぇな尾形!! お前だって、おっきいの好きだろっ!?」
「俺はアレくらい、背が高くて、スレンダーな女性の方がタイプだ」
「中村には聞いてねぇよ!!」
「…もう普通に、道行く水着のお姉さん眺めてるだけ我慢しろ。というか諦めろ」
「そうだぞ、林田。中村とそうしてこい。俺はここで寝ながら荷物番してるから…」
「…日曜日のお父さんか」
……。
そして、一瞬流れる静寂…。
「だ…だいたいな!」
「…無理して、話を続けようとするな林田…」
「そうだな…むなしくなるだけだぞ?」
「うるせぇっ!」
周りでは、カップルやら家族連れが、このレジャーを楽しんでいるのに…何やってんだろうか、俺たちは…。
そんな悲しくなる現状と、我に返るには十分な静寂だった…。
「ちっ…今回もまた…尾形の知り合いだったが…ぁぁあっ! もういいっ! 次だ、次っ!」
「次は…もう、永遠に訪れないんだよ、林田」
「きしょいから、優しい顔すんな! 結局、お前なんにもしてくれねぇし」
「何もしねぇって約束だっただろうが」
「…よし、もうこうなったら、次に通る人にしよう…誰でもいい! なりふり構っていられねぇ!」
「フラグ構築か? どうせお約束で、また尾形の知り合いが通りかかるだろ」
「中村。怖い事言うなよ…」
はぁ……。
半分意固地になってるな…涙目だし…それに次って言ったってなぁ…。
本当に何してんだろうな…。強い日差しの下…俺達の味方はこのパラソルだけ。
作られたちいさな日陰の狭い中で、野郎三人が縮こまっている…という、非常に汗臭い状況。
こんな中で聞こえる音は…波の音と、すこし騒がしい喧騒と…
「男だけの空間は素晴らしい…」
…尾形のまた、あの気色悪いセリフぐらいだった。
◆
あー…本当に、どうするかなぁ…。
ここん所、久しぶりに、まともに寝れる時間なかったという事もあり、クッソ暑い中だというのに、本気の睡魔が襲って来た。
筋トレ…最近ガッツリ、出来ないのも寂しい…。
林田が…よりにもよって、いきなり知り合い…しかも、エリカを引き当てるなんて事してくれたお陰で、目が完全に覚めたと思ったのにな…。
…。
いかん…変にあのエリカの仕草とか、水着姿にどうにも動揺してしまった。
いかんせん女性としての魅力とやらを前面に押し出してくる姿ということもあり、無意識に見ちゃうんだよなぁ…部分的にやっぱり…。
妙に視線が行ってしまうのを、強引に逸らしていた。久しぶりのこんな感覚に、どう対処していいものか、分からん。
みほに非常に申し訳ないが…これは男の本能と言うべきモノだろうからなぁ…。
…ナマジ、昔の…少し枯れ始めた大人の体と言うものを知っている分、17歳という若さになっている今の体から出てくるリビドーというモノがハッキリと体感し比較してしまう。
知識も変に偏って在る為、後…まぁ俺がアレなだけだろうが……思春期の体…スゲェ…という訳だ。
まぁ逆に言えば、昔を知っているお陰で、自制心が強く持てるから、さっきみたく妙に焦ってはしまうが、どうとでも対処できると言え…ん?
「なぁ尾形」
林田に肩を軽く叩かれて、気が付いた。
少し自分の世界に入り込んでしまっていたようだ。
「また知り合い見つけたぞ…俺らの」
「……だ…誰だっ! 何処だ!?」
「…尾形…」
誰だ…今度は、誰だ!? というか! こいつはただ、俺に嫌がらせしたいだけなんじゃないのかと、本気で疑った方が良いだろうか?
しかし、はしゃぐ事もしないで、妙に林田は真剣な顔で報告をしてきた。
「あれ…小山先輩じゃね?」
…。
……よいしょと。
「パーカーを頭から被るな」
「お前のガタイじゃ、隠れるなんて無理だろ…」
…。
「…尾形が震え怯えてる…」
「お…怒られる…またあの漆黒の闇と言わんばかりの…深淵すら除くことが叶わぬ目をされる…」
「お前が何を言ってるかが分からない。なにを急に、厨二病発症してんだ」
「お前、登校日に呼び出されてなにされたんだ…。普通に気になるぞ」
どうせ林田が、余計な事言って! どうせまた俺が怒られる展開が予想できるだろうが!!
だから…遠回しに忠告…。
「お前ら…柚子先輩だけは…怒らすなよ…絶対に怒らせるなよ…」
「…尾形…本当に何された…」
仏の小山先輩だろ? 怒ったところで、ソレはソレで可愛い…動くたびに胸揺れる…だの、言い合っている二人は頬っておこう。
理解はしてくれなかった。
正直に言ってしまえば、俺が怒らせた方の面々で、しほさんよりも怖かった…現状、№1だ。
普段の時とのギャップが凄いから余計にだろうけど…。
「はぁ~…やっぱり見た目すげぇから、歩いてりゃナンパもされるわな」
…。
「なに?」
「お、復活した」
体を起こして周囲を見渡してみると…あ、いた。
確かにいた…柚子先輩だ。人込みの間…真っ白いビキニ姿で、真っ黒いビキニ姿の桃先輩と砂浜に立っている。
会長の姿が見えないが…一緒じゃないのか?
「あ…考えてみれば、別に小山先輩に突貫掛けても…寧ろ知り合いと言うのがアドバンテージでっかくないか?」
「……先客いるがな」
確かにその二人の前に、二人組の男が彼女達に話しかけている。少々迷惑そうにしているが、波風立てない様に苦笑しながら断っている…というのがすぐに分かった。
男の一人は金髪の日焼けして…それなりのガタイをした体つき。もう一人はその真逆で少し白い色した…サラリーマン風の男。
此方からは背中しか見えないが…何、あのアンバランスな二人組…。
まぁ…いいや。
…その姿を見て、すぐに立ち上がる。
「ナンパしてる俺らが、人のナンパ邪魔しちゃダメじゃね? …気持ちは分かるけど…その権利ないと思うが」
林田が俺が立ち上がったのを見て、なんとなく察した発言をした。
「ナンパしてるのは、お前だけだ林田。…というか、尾形。あの二人、ちょっとシツコイな。というか、一人か」
「………」
「…おーい」
ただのナンパだといのならば、柚子先輩なら普通に断る事もできそうだし…俺も頬っておくのだけどな。
金髪の男を、もう一人の男がなだめているというか、止めている様な風にも見えるが…まぁ、それも演技かもしれない。
…桃先輩…固まってるしなぁ…明らかに柚子先輩は困って周囲に目線を投げているので、誰かに助けを求めている様にも見える。
あの二人ならば、会長とも来ているだろうから、会長を探しているのだろうか。…あの人ならナントデモできそうだしな。
…とか思っていたら、柚子先輩と目が合った。まぁ…すでに体は動き出していて、すぐソバにまで来ていたしな。
これだけ近づけば、嫌でも気が付くだろうよ。特に俺のガタイならな。
その目が合った瞬間、一瞬笑顔になってくれたので、完全に俺に気が付いてくれたんだろう。
さて…。
男達真後ろに立つと会話が聞こえる…。
一人の男は、20代前半位だろうか…。
演技でも何でもなく、本気で困った様子で金髪の男をなだめる様に止めていた。
「西住さんっ! もうやめましょうよ…彼女達困ってますよ!」
…。
……ん?
「馬鹿野郎っ! 若いうちから消極的になってどうすんだっ!」
……。
「攻めろっ! 後退なんて文字はないんだ!」
「いや…普通に迷惑ですから…」
…おい。
どっかで聞いた声したぞ。
その男達の真後ろに立った俺に向かって…。
「お…尾形書記っ!」
「隆史君っ!」
二人揃って俺を呼んでくれた。
柚子先輩と同じく、桃先輩までも助かったと言わんばかりの、安堵の表情が少々嬉しくも感じるが…それよりも…もう。
「……」
その俺を呼ぶ声を聴いて、金髪の男の動きが止まった…。
それはもう…一瞬にして石化したかの様に…。
ある意味で同姓同名かもしれない。しかし、まったくの同じ名前を聞けば、普通ならば考えるだろう。
そしてその行動が、石化だろうな…。その石化した男は…ギリギリと軋む音をさせながらこちらをゆっくりと振り向いた…。
…ガタイは良くても、絵に描いたように誠実で、真面目な風貌をしていた彼はいなかった…。
髪を染め…なんか…もう…金のネックレスとかして…もう…あぁ…もう。良い歳したおっさんが、はっちゃけた結果、こうなったと言わんばかりの…チャラさ。
だから、声を絞り出すのが精いっぱい…。知らない人が見たら、別人に見間違う程の…変わりよう…。
はい。
「………なにしてんすか、常夫さん」
「 」
一ヶ月…。たった一ヶ月程度で、こうも変わるか…。
俺に向かい…スパナを持って追い回して来た彼の姿は、もう…見る影もない…。
はい…西住父…。
「えっ?」
「はい?」
そんな俺の言葉に先輩ズが、きょとんとした顔をされましたね。
「や…やぁ、隆史君…久しぶり…」
口調が一気に戻りましたね。
めちゃくちゃバツの悪い顔をしながら、愛想笑いを浮かべている。
その口調にもう一人の男性も、少し驚いている様だった。
「柚子先輩」
「な…なに?」
とても良い笑顔で、単刀直入に質問をしてみます。
状況から一転。全然違う空気に変わったのが、彼女も分かったんだろうね。先程の様に困った感じではなくて、困惑した感じになってます。
プラス…常夫さんの肩が跳ね上がった。
そう…彼女の名前の後ろに、先輩と付けた時点で、常夫さんの顔が絶望に染まった。
「…ナンパされてました?」
「え…あ、うん」
うむ、可愛らしく頷いてくれましたね。
「桃先輩」
「…な…なんだ」
「困ってました?」
「別にっ! …い…いや、多少…怖…いやっ! 少しっ! 少しだぞ!?」
…。
よし。
「柚子先輩。会長は?」
「え? え~と…今から合流予定だけど…」
学校じゃ変に見慣れてしまっていた彼女の水着姿だけど、ちゃんとした…あぁ…ちゃんと必要な場所での、正式な姿だと思うと別の段良く見える…。
学校で水着とか、変な背徳感が生まれそうだけど…王道は必要だと思う訳ですよ。
だからだろうか…気が付いたら林田が、近く…ちゃんと少し離れた所で、真顔で見入っている…。
まぁ…白一色の水着だけど…明暗が凄いからな…真正面から直視できない程の垂直線。…何処のとは言わないが。
「彼…えぇ…あのオッサン、すごい不本意ですが…顔見知りでして…」
「そうなの!?」
「言って…えぇ…えぇ…言って聞かせますから…いや? 聞かせて貰いますの方が正確か…」
「ん?」
みほの親父さんだと言うのは、伏せてやるのは武士の情けでも何でもなく…みほに対しての配慮だ。
溜らんだろうからな…。
「桃先輩」
「な…なんだ」
何時もの声より、力がないなぁ…。
「水着、似合ってますね。奇抜な水着より、普通のそういった方が、似合いますよ」
「なっっっ!!??」
よしよし、少し声に力が戻ったな。
「
何時も誰かさんの趣味か分からんが、きわどい水着着てたしな。
ビキニタイプだけど、そういった普通のシンプルな方が、真面目そうな桃先輩の見た目に対して、絶妙なアンバランス感が出てとても良い。
」
「 」
「………」
…あれ。なんか今度は声が消えたな。…柚子先輩がすっげぇ桃先輩を見てるけど…。
そして林田は相変わらず真顔……。
「はい、そんな訳で桃先輩、会長と合流してください」
「 」
「…桃先輩?」
「 」
「ももちゃーん」
「 」
…ダメだこりゃ。なんか固まった
「んじゃ、柚子先輩」
「………なに?」
…。
「か…会長と合流してください。この人の後始末は…しますので」
「……分かりました」
な…なんで、急に不機嫌に…。
閲覧ありがとうございました。
水着回を書きたかった…。