転生者は平穏を望む   作:白山葵

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文字数を目標に各話を投稿いたんですが、投稿時間の間がかなり開いてしまう場合が増えて来たので…前中後で終わらそうと思っていた話なのですが、出来るだけ細かく投稿する事にしました。




【閑話】野郎達の挽歌 その2

 …。

 

 さ…寒い…。

 

 アレ? 此処って真夏の海…じゃなかったか?

 汗ばむ額を、ジリジリと炙る様に照らす日差し。

 真っ青だと思える程、濃く青い色をした空…。

 

 …なのになんだ、この寒気は…。

 

「………………」

 

 ピシッ! と…家鳴りでもしたかのような…そ…そんな小さな音が、耳の奥で聞こえた…気がした。

 な…なに!? 柚子先輩! 真顔っ! めっちゃ、真顔っっ!!!

 先程までの男に声を掛けられて、困惑していた様な雰囲気とは、180度違うっ!!

 通り過ぎる通行人が、修羅場? 修羅場? って、好奇の視線を向けてくるのがうっざいっ!

 

「(あの…な? 隆史君…)」

 

 状況が一気に変わり、真夏の咽る様なクソ熱い空気ですら…凍てつく波動で凍りつかせている彼女。

 先程までナンパしてた相手の変わった様子が、俺にあると思ったのか…常夫さんが、肩に手を置いて小声をかけて来た。

 思わず振り向いてしまいそうな衝動を抑え、少し顎を上げて、その呼び声に答える。うむっ! 答える!!

 

「(常夫さんうるさいっ!! 後で処分内容を発表しますから、少し黙っててっ!)」

 

 …今はアンタよりも、目の前の柚子先輩だっ!

 

 目だ…目を逸らしたら…殺られるっっ!!

 

「(君は相変わらず、思ってる事を口にする癖…抜けてないんだね…)」

 

 …。

 

「(えっ!?)」

 

 …負けた。常夫さんのその言葉に、完全に振り向き…彼の顔を見てしまった。

 その顔は昔のまま…いや、真っ黒に日焼けってるけど…つか、アンタどうしたんだよ本当に…一応、まほちゃん、みほに対しては優しいお父さんだった気がしたけど…。

 っっとに、痛い中年チャラ親父になってるし…。

 

「(が…学校の…先輩…で、知り合い…なんだろ…?)」

 

 …。

 

 絞り出すかの様な声を出すな。

 

「(君からすれば無意識だろうが、思いっきり口にして、そのメガネの娘さんを褒めてたろ?)」

 

「  」

 

 こ…声に…出てたぁぁ…ソレで、桃先輩、バグってんのか…。

 白目剥いてるし…。

 

「(ん? ひょっとしてポニテの彼女…隆史君に気があるんじゃないのか? …成程…連れだけべた褒めで…ほうほう)」

「(なに言ってるんだ、オッサン)」

「(いやぁ~でもねぇ…じゃなきゃ、他の女性を…しかも真横にいる女性を褒めて、自分は何も言われなかった。…そんな状況に、何もないならアソコまで不機嫌にならないよ?)」

「(だから適当言わないで下さいよ。…それにアンバランスで気持ち悪いから、その見てくれのまま、昔の喋り方しないで下さい)」

 

 目を見開いて、すっげぇまっすぐ見てくる、柚子先輩!! こんなめちゃくちゃ高いポテンシャル秘めた人が? ありえん!!

 

「(…なら、試しに褒めて上げみればいい! 喜ぶかもよっ!? さっさとみほと切れろっ!)」

「(……本音がでましたよ。というか…流石に知ってたか…)」

「(アァ、月間戦車道の記事で知ったんだヨォォォォォ!! 読んだ時は、殺意しかわかなかったねっ!!)」

 

 …今も絶賛、殺意向けて来てますけど? 思い出したかの様に軽々しく向けないで下さい。

 

「(しほさん経由で、聞いた訳じゃないんですね…)」

「(電話出てくれないんだよぉぉ!! 隆史君からも、なんとか…あ、いい。今はワスレヨウ)」

「(…………)」

 

 このオッサン…。

 

「(そうだぞ尾形! お前が言っていた意味が解った! 無理っ! この小山先輩は無理っ!! さっさと褒めて、褒めて、褒めて千切れ!!)」

 

 …。

 

 中村…何時の間に…。

 林田は…真顔で凝視している体勢を崩さないし…というか、なんでお前、正座してんだよ。

 なんで俺…野郎に挟まれて、耳打ちされながら柚子先輩と対峙してんだ?

 

「(明かに君の言葉待ってるだろう? …というか、あの子…言われるまで此処を動く気ないだろうよ)」

 

 …た…確かに「わかりました」とは、言ってくれましたけど、ジッ…と、俺の顔を見上げている…。

 

「(尾形ッ! はよ小山先輩を正気に戻せっ!)」

「(褒めるったって、エリカの時、失敗しただろ!? 桃先輩の時は、完全に無意識に思った事を言っただけだしっ!! 良く分からん!!)」

「(はぁ…それをそのまま、彼女にも言えば良いだろうよ…思った事というのを…)」

「(お前…馬鹿だろ)」

 

 …。

 

 なにタッグ組んでんの?

 

「(言えっ! 言うんだっ! 西住流に後退の二文字は無いぞっ!?)」

 

 …よし。後でどう、しほさんに報告するか…本人のリクエストを…聞くだけ聞いて、拒否してやろう。

 

「(…とりあえず、エロい体とかそっち系はやめておけよ? 林田の二の舞だ! 火の粉を此方に飛ばすなよっ!?)」

 

 それは助言じゃないぞ。保身からくる言葉だろう。

 

 思った事って…いや…まぁ…。

 

「隆史君」

 

「はいっっ!!」

 

 か…感情の籠らない声と目で…呼ばれた…。

 あの時の生徒会室と同じだ…。

 

「………はぁ…それじゃ、桃ちゃん連れて行くね?」

 

 …ん?

 

 とか思ってたら、急にその態度を崩した…大きくため息を吐いて、いつもの彼女に戻った…気がする。

 両肩を落として、少し諦めたかのような薄い笑い顔…。

 

「まぁ…隆史君に他意はないだろうし…今に始まった事でもないし…一種の病気だと思ってあきらめよう…」

 

 …病気って…。

 

「…今の所、私に怒る権利も何もないし…はぁ…私が怒るなんて…自分勝手で、筋違いだよね…はぁぁぁ…」

 

 …えーと。

 

「た…ため息吐くと、幸せが逃げます…よ?」

「誰のせいかなぁ?」

 

 何時もの様子に戻った彼女は…何処か残念そうで…寂しそうだった。

 肩を落として、少し困った顔をして…笑った。

 あ~…うん。変に躊躇するより、本人に直接聞いた方が良いか? …いや、水着姿の感想言った方が良いですか? って聞くんか? 馬鹿だろ…。

 

 

 …はぁ…んじゃ。

 

 …正直…あの少し寂し笑顔を向けられてしまっては…流石にな…。俺が感想言えば良いだけならば…うん。

 

「あぁ~…柚子先輩」

「ん? なに?」

 

 頭を掻きながら、歩き出そうとした彼女を呼び止める。

 思った事言えば良いのか? 良いんだよな? 少し眉を潜めながら、笑顔を向けてくれた。

 すでに先ほどまでの事を、忘れている様な感じで…。

 

「え~~…」

 

 …えっと…こりゃ言った方が良さそうだなぁ…。ある意味で何も…考えない方がいいのか…な?

 そうだな…あのアホみたいなゲームの時に、ケイさんに言った時の様に…すればいいのだろうか?

 いや、もう…いいやっ! 正直にだよなっ!

 

 

 

「目の毒です」

 

「…え?」

 

「柚子先輩の水着姿は、非常に目の毒です。似合いすぎて何て言っていいか良く分かりません。というか、卑怯です」

 

「なっ!? えっ!?」

 

 さて。

 俺の突然の言葉に、少し体を硬直している。

 まぁ…突然すぎるだろうけど…ん…。正直に感想を口にする…この感じ…何処かで…。

 続けてみよう。そう、確認するかの様に一気に感想を述べる。

 

「普段だってどれだけ俺が、目線逸らすのにどれだけ自分を御してるか分かりますか? というか、白というのが、清純さと可愛らしさを強調し、柚子先輩らしくて凄く良い。とても良い!」

「なっ…なにっ!? 急に何っ!?」

 

「「……」」キメェ…

 

 なんか後ろの二人が呟いたけど、この際無視だ無視っ!

 

「今回…何時もの様に会長に流されて着たのじゃないですよね?」

「…あ、うん…自分で選んだ…の…あんまり派手なのはちょっと…」

「そうですよっ! 柚子先輩はそういった少し控え目なデザインを着てもらうとより可愛いっ!!」

「そ…そうか…なぁ?」

 

「「……」」キメェ…

 

 だからうるせぇ後ろっ!! お前らが思った事言えっつったんだろ!?

 

「…というか、毎回思いますが、柚子先輩って結構…大胆なタイプの水着を普通に着ますね」

「い…いつもは会長に流されちゃって…でも、あまり肌を露出するタイプとかって、本当は苦手で…」

「ま。可愛いですけど」

「ひゃっっ!!??」

 

「「……」」

 

「…あの…なんでそこで驚くんでしょう…。柚子先輩可愛いでしょ? その先輩の水着姿とか、男からすれば凶器の域ですよ? 視界の暴力です」

「えっあの…隆史君っ!? 何で真顔なの!?」

「ただ、余り公共の場とか…男性の視線に触れると所では、着ない方が良いですよ?」

「…え?」

「基本的に男は馬鹿なんです。肌露出が多いと…あぁいった輩にナンパとか声かけられやすいんですからね?」

「……ぅ」

 

 あ、ちょっと動揺した…というか、常夫さんを見たな。あ、そのオッサンが、全力で顔を逸らした。

 柚子先輩、スタイルが物凄いから…んな恰好で出歩きゃ、絶対に声かけられるだろ…。というか、実証済みだよな…。

 まぁ、スタイルの下りはセクハラになりそうだから言わんが。

 

「柚子先輩、そういった格好はプライベートか…特別な相手にだけ見せる様にしてください」

「…と…特別な相手…」

「ですから、一般人の男には非常に目の毒です。見ちゃいます。当り前じゃないですか」

「特別…」

 

 ……。

 

 ……あれ?

 

「た…隆史君は…その…私のこういった水着を着るのは…その…その…」

「はい?」

「私がっ! こういった水着を! 見せる様なこういった場所で着るのは嫌っ!?」

 

 …なんだ? すっごい真っ赤になって、普通の事を聞いてきた。

 あの…真っ赤になってる所悪いのですが…その姿で前屈みは、非常に…その…バツが悪く…すげぇ…一直線のアレがアレでして…。

 

「嫌か…って、嫌に決まってるでしょ? 基本的に有象無象になんて、見せたくないに決まってるでしょ?」

「んぅぅっっ!!!」

 

「「……」」モダエタ…

 

 …はい?

 いや…うん、なら良いのだけど…。

 ほら…さっきからガン見の林田の様な輩もいるしね…。

 

「な…なら…ほらっ! 隆史君がいても…その…学校とか? そういった場所なら…良い?」

 

 …。

 

「個人的で…プライベートなら…良いんでしょ?」

 

 な…何故上目使いで、小首を傾げたんでしょう…。

 

「いや…柚子先輩がいいなら…俺は願ったり叶ったりですが…」

「うんっ!! ならそうするわねっ!!」

 

 あ、元気になってくれた…。

 

「(………すごいな、彼女…女の武器を最大限活かしている…)」

「(…忘れてた…小山先輩って…案外、あざといんだっけな…)」

 

 め…めちゃくちゃ良い笑顔…。あの寂しそうな笑顔は何処へやら…。

 不機嫌な風は、どこ吹く風か…なんか…幼子の様な純粋な笑顔でした…。

 …。

 なんか…とんでもない事言ったのではないだろうか…。

 ま…まぁっ! 機嫌が完全に良くなってくれたみたいだしっ! こ…これで良かったのだ…ろうな…。

 なんか…背筋に悪寒が凄まじく走るけど…。

 

「うふふ~」

 

 …。

 

 …ま…まぁ…いいや。

 

 

 

 ▼

 

 

「なんか…うまく行った…」

 

 取り合えず、思った事を言っていたら…柚子先輩が上機嫌になって…桃先輩を引きずって行ってしまった…。

 掴んでスキップは、危ないっすよ…。

 

 ま…まぁっ!! 今回! 林田が大人しかったお陰で余計な誤解を与えないですんだっ!!

 そこだけは、良しとしよう…。

 

「う~~ん、僕としては、もう少し行けた気もするよ? まだ会話に硬さが見えると思うよ? 所々押しが足りないねぇ」

「いや、アイツ別に小山先輩、口説いていた訳じゃ……いや、口説いてたか…?」

「いやいや。最後の方なんて、有象無象になんて~…じゃなくて、俺だけに! …とか言っていれば、行けたんじゃないかなぁ」

「ドコニデスカ。…いっや…しかし…小山先輩までも…アイツ…高難易度の人ばっかり…」

「おっ!! まだいるのかな!?」

「…アイツ…学校でタラシ殿とか、言われてるんですよ…」

「あっはっは。相変わらず、無意識にかな? …変わらんなぁ」

「あ、昔からですか…。それでも、やっとこさアレ、彼女作ったんですよ?」

「 シ ッ テ ル サ ァ 」

 

 …いつの間にか仲良くなってるし…あと、本人の目の前でそう言った事を話すな。

 

「尾形」

「…なんだよ、中村」

「お前…何故、さっき逸見選手の時も、それをしなかった…。それしてたら、アソコまで殺意の波動を向けられなかっただろ」

「…いや…良く分からなかったし…」

「その割には、スラスラ言ってなかったか? …キメェ事を」

 

 一言余分だ。

 

「ちょっと、感覚的に似たような事を思い出したんで…思い出しながらその通りにしたら、上手くいった」

「上手く…は、どうか分からんが…似たような感覚?」

 

 そうそう、彼女に対しては結構グイグイ行ける。

 

「しほさんに話す時と同じ感覚」

 

「……」

「……」

 

「だから、もう一度エリカと会ったら、ちゃんとできそうな気がする。今回成功したし…こんな感じで喋れば良いのか…よし」

「まて、尾形っ! そっち方面は、まずい気がするぞ!?」

「大丈夫っ! もし次に会ったら、もっと上手くできそうな気がする」

「やめとけっ! …だ…大丈夫じゃない気がする…から…。まずい…尾形が、変な学習をした気がする…」

 

 …何を青くなってんだ。

 

 さてと…脅威は去ったので、本題だ。

 

「…相変わらず君は、人の妻が好きだね」

「如何わしい言い方しないで下さい、常夫さん」

 

 そうだ、このチャラ男ッサン。

 連れのもう一人の男…いや、青くも見える、生白い肌の男性は、事情を察するに…俺と中村と同じ立場なんだろう…。

 完全に肩を落として困り果てている。明かに常夫さんに振り回されている被害者だろうな。

 

「尾形、この人誰だ? 普通に話しちゃってたけど…結構イカツイ…」

「ん? あぁ、みほの親父さん」

「………は?」

 

 アッサリと言う俺に、中村はポカーンと口を開けた。

 

「え…マジで?」

「…まぁ、気持ちは分かるが、昔はこんな風貌じゃなかったんだ」

 

 ま…まぁ、この今の見た目じゃ、あの姉妹の父親だと言うのが、結びつかないのだろう。

 

「あ、うん。友達と話し中みたいだから、僕はもう行くね? みほに宜し…」

「逃げても良いですけど、即しほさんにチクりますから」

「 」

 

 片手を上げて、さっさとこの場を去ろうとするオッサンに釘を刺しておく。

 古典的な方法で去ろうとしてんなや。

 

「今、しほさん、大洗に…というか、そこのホテルに宿泊してますからね? 電話すれば、即来るんじゃないですかぁ?」

 

 軽く指でさす、大洗ホテル。その指の先を見つめて物凄い顔色シタネ。

 

「今日、漸く休みが取れるとか言ってましたし」

「な…何故君は、夫の僕より、妻の行動を把握してるんだね?」

「貴方の娘さん絡みで、色々あるんですよぉ。その娘の先輩ナンパしてたとかバレたら…普通に殺されるんじゃないですか?」

「  」

 

 …まぁ、俺の寝不足の原因に、しほさんに付き合わせてしまっているので、申し訳ないとは思うが…それはソレか。

 全部片付いたら、ちゃんとお礼をしないとなぁ…。

 

「…みほ達には、黙ってますから…というか、言えるか。中村も黙っててくれよ? 人様の家族が崩壊するから」

「わ…わかった」

 

 しかし…こんな場所じゃ、目だって仕方ないな…。一度、テント…じゃない。荷物の場所に戻るか。

 そこなら、少しは落ち着いて話せるだろうよ。

 現に今も、先ほどのまでのやり取りは注目を集めてしまっていた…。

 

「林田も…」

 

 口止めと移動すると言う事を、林田に言おうと顔を向けた瞬間…。

 

「いよぉぉぉぉ!! 小僧っっ!!」

 

 …。

 

 肩に物凄く重い何かが……というか…この声の主から…また、物凄く面倒くさい事になりそうな予感しかしない…。

 日焼けし、真っ黒い肌…。無駄に膨れ上がった腕に首を絡められた。

 

「…アンタは、なんで一々、俺にじゃれついて来るんですか…」

「気持ちの悪い事言うんじゃねぇよ! 男なんてこんなモンだろ!? スキンシップだっ! スキンシップッ!」

 

 …仕事があるとか…他県行くとか言ってなかったか?

 そんな珍客が、真後ろに…いた。また来やがった…華パパさん…。

 

 俺より身長が高いので、こういった風に肩を組まれるのは正直珍しい。

 海らしく上半身は裸…なのだが…目立つ…目立つだろうがぁぁ…。

 

「というかっ! なんでアンタ、海でフンドシ姿なんだよっ!」

「日本男児たるもの、海でフンドシは基本だ! 基本っ!!」

 

 豪快に笑いながら、腕の力を強めてくるこのオッサン…。

 白いフンドシ一丁で、思いっきり絡んでくるのが、暑っ苦しいのなんの…強引に腕を振り解く。

 

「…ん? 小僧、お前なんで海で上着なんて着てんだ? 男のくせに見せるのが恥ずかしいのかぁぁ?」

「………目立ちたくないからですよ」

 

 顎を摩り、ニヤニヤしながら一言。

 

 

「あぁ、自信が無いのか」

 

 

 即パーカーを脱ぎ捨て、思いっきり地面に叩きつけた。

 

 

「お、なんだ? 無理スンナヨォ」

 

 

 遠回しに言ったつもりだろうが、俺にはすぐに解った。

 

 …乗ってやる。

 

「……今のやり取りは、女の子だったら嬉しいのに…。暑っ苦しい男が二人出来上がったてる」

「お、林田。復活したか」

 

「腕だけでも、筋肉の付き合た見りゃ一発で分かるぞっ! オッサン、無駄な筋肉付けすぎなんだよっ!」

「バッカ野郎っ! 仕事柄の筋肉だっ!! それに無駄な筋肉なんぞねぇんだよっ!!」

「華道で、どこの筋肉がつくってんだボケッ!!」

 

「…なんで尾形、急にキレて脱いだんだ?」

「知らねぇ…というか、なんで二人揃って、ポージングしてんだ?」

「尾形の沸点、たまに意味不明だな」

「だな。とりあえず…おーい、尾形」

 

「自信が無いっ!? 少なくとも、オッサンよりはあるわっ!!」

「おぉ!? 見せ筋の自信かぁ!?」

「見せっっ! このっっ!! 確かめてみるか!!??」

「おっ!? なんだ、やるかぁぁ!?」

 

「尾形!!」

「あぁっ!!??」

 

 うるせぇな! 今、このオッサンに…

 

「俺にキレるな。俺に…というかよ…暑苦しくて気色悪い事この上ないから止めろよ…」

「…後、砂浜で腕相撲をしようとするな。熱くないのか?」

 

 …。

 

 おっさんと一緒に、砂浜にうつ伏せになった瞬間、中村と林田からストップが掛かった。

 ちょっと待ってろ。今、このクソ親父に…。

 

「…ぉぉ? 西住さんじゃないの」

 

 …。

 

 は?

 

 そのクソ親父が、俺達のやり取りを、生暖かい目で見ていた常夫さんを見上げ呼んだ。

 え? 知り合い?

 

「お~…元気良いねぇ…尾形君」

 

 っっ!?

 

 聞いた事のある声で、呼ばれた方向に顔を向ける。

 俺も…熱くなって気が付かなかった…。このオッサンは、一人で此処にへと来た訳ではなかったようだ。

 

「えぁ?」

 

 思わず変な声が出てしまった…。

 見上げた先に…地味な水着姿の…中年男性らしい恰好で、パンチパーマの男性が立っていた。

 

 うん…見慣れた顔…そう、優花里のお父さんが立っていた…。

 

 …ど…どうなってんだ?

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

「…ここは…地獄だ…」

 

 

 荷物を置いてあった、パラソル基地。

 林田のつぶやきも、まぁ…分かる。だってここにいるのは…。

 

 中村と林田…と、俺。

 そして、オッサン、オッサン、オッサン。

 

「 」

 

 野郎しかいねぇし、林田が息してねぇ…。

 しかも、通る人が遠目に見て避けていく…。そうだよな…考えてみれば、ガタイの良い男と、パンチパーマのオッサンが屯ってるパラソルだ。

 …なんの組織だよ。

 

「……」

 

 よ…よし。整理しよう。

 

 …常夫さん。

 

 どうしてこうなったか。

 

 まぁ…まぁ…うん。

 

 要は、キャバに行っていた事を弁明しようと、しほさんに何度も電話を掛けるが出てくれない。

 俺に掛けても、俺は出ない。…当たり前だ。高校生に夫婦仲を取り持ってもらおうとするなよ…とも思うが、まぁ…しほさんに直接連絡できる人って限られるからな。

 しほさんは、その時って…まぁ捕まったあの男のお陰で、忙しかったというのもあるので、仕方がないとも思う。

 その、いざこざも終わり…漸く常夫さんにへと、しほさんから電話が来たらしいのだが…今度は逆に、時間が経っている為に怖くて出れなかったそうだ。

 

 …何してん…。

 

 みほと同じの指名キャバ嬢は、本当に偶々だったらしい。そうそう、あのしほさんの携帯にへと、残っている音声だ。

 自分の娘と同じ名前の嬢を指名する時点で、問題しか無いと思うが、思わず指名してしまったようだ。

 それを説明したくとも、どうにもならない状況が、現在にまで続いていると…でもその格好には、関係ない。

 

 その後、まぁ…仕事の付き合いで、またキャバクラへと行っていたそうなんですがね? 酒も入り、愚痴も入りで…どうにも一人のキャバ嬢にお熱を上げてしまったようだ。

 あの手の仕事は、客の愚痴を聞くのも仕事。まぁ…そこで優しくされて、コロッといっちゃったんだね…。

 

「人聞きが悪いよ!?」

 

 今まで、真面目一本で生きて来た常夫さん。若い頃、遊ばなかったという事らしく…そういった場所が、妙に新鮮だったらしい。

 数を重ね、後はまぁ…はい。そしてハマってしまったと…遊びを覚えたと…。典型ですね…本当に典型的な展開…。

 女系家族の親父様だからね…。女性にアソコまで優しくされたのは、初めてだと…言い訳は見っともないですよ?

 

「しっ…仕方ないじゃないかっ! 小さい頃から、まほもみほも隆史君の事ばかりでっ!!」

 

 …。

 

 で、まぁ…その一人。お熱を上げているキャバ嬢さんの意見通りに…好みの恰好へと、現時点の様に変身を遂げたと…。

 ワイルドな人が好きぃ~とか…言われたら、そこまで自分をよくぞまぁ…改造できるもんだ…。

 

「なんか、誤魔化してないかい!?」

 

 で、このもう一人の男性は、職場の若い人らしく…彼女がいないというので、キャバ嬢と言う名の若い女性との付き合いでどうにも変な自信を付けたオッサンが、調子に乗ってナンパをしに来たと…。

 あ? 複数で来た? だから? ナンパしていたという事実は変わらないですよね?

 …ちなみに、まほちゃんも今大洗にいますよ? バレたら死にますよ?

 

「  」

 

 それにナンパの相手が…よりにもよって高校生…未成年…。

 

「いっ…いや! 彼女達、どう見ても女子大生にしか見えなくてっ!」

 

 挙句…みほの先輩…。

 

「 」

 

 はぁぁぁ…。

 ため息しかでねぇ…。

 

「まぁ常夫さん…とりあえず…しほさんにどう言い訳するんですか…」

「いやまぁ…結構しほって根に持つタイプだからねぇ…下手に言い訳しないで、正直に言おうかと…」

「…とりあえず、恰好を元に戻してからにした方が賢明ですよ?」

「えっ!? 恰好良くないかい!?」

 

「…歳考えて下さい…正直…イタイだけです」

 

 あかん。拗らせとる。

 

「それに他の女性の趣味趣向に合わせた夫の姿を見せられても、しほさん憤怒するだけですよ? 死にますよ?」

「…なんか、君に言われても釈然としないな…」

 

 …。

 

「あっ! ゴメンっ! 携帯取り出さないでくれないか!?」

 

 取り合えず、このオッサン何とかしないと…。みほの件で、俺の携帯に連絡してきた時とは違いすぎて別人にか感じない…。

 喋り方は一緒なんだけど、妙に軽く感じる…。

 

 で…次。

 

「ん? 小僧、なんだ?」

 

 こっちのオッサンだ…。

 

「なんで、こんな場違いな所にいるんですか?」

「俺か? あぁ、まぁこんど戦車の試合あるだろ?」

「…えぇ、大洗主催のエキシビションマッチが行われます」

「その保護者会みたいな集まりだ。それの前にってな…秋山さんも、その付き合いでなぁ~…そん時に小僧見かけたからちょっと遊んでやろうと…」

「そうそう、学園艦住まいと陸住まいの保護者親睦会…みたいなモノだよ?」

「んっ? じゃあ、優花…秋山さんのお母さんも来てるんですか?」

「もちろん。娘には言ってないが…親睦会だからね。意外に皆さん、海に水着で来るのをね? 若い頃に戻ったみたいだって、楽しんで…どうしたんだい?」

 

「………」

 

 …。

 

「尾形君?」

「いや、なんでもないです」

 

「…尾形…お前…」

「相変わらず…」

 

 中村と林田が、疲れた顔でこちらを見てきたが知らんっ!!

 

 …ん?

 

「って事は、常夫さんも本来は、その親睦会で来たんですか?」

「そっ…そうだよっ!!」

 

「 し ほ さ ん は ?」

 

「いや、来てないよっ!? …仮に案内が行った所で、しほは来ないだろうよ。…そもそも君の方が、しほの予定知っていた分、詳しいだろう!?」

 

 …チッ。 そういやそうだ。その事は、しほさん言ってなかったし…まぁ…行くわけないか。

 

「あの若いのは、どうにも妹さんがいるみたいでね。親御さんが遠くで暮らしているみたいで、代わりにって事で…あ、何時の間にかいない…」

 

「逃がしましたよ。あの方に迷惑しか掛けませんから。可哀想ですから。同情しかありませんから」

 

「……」

 

 ん? って事は、さっきの若い、気弱そうな男性って、誰かのお兄さんって事か…。 

 苗字を聞いておいた方がいいか?

 

「俺らの事は、いいじゃねぇか! んで小僧! お前らは何しに来てたんだ?」

「いや、普通に遊びに…」

「……男三人で、海にか…?」

 

 …可愛そうな人を見る目をするんじゃねぇ。

 

「違いますよっ!!!」

「ぉ? 立ち上がって、どうした兄ちゃん」

 

 俺には小僧なのに、林田には兄ちゃんって…。

 じゃないっ! 林田っ!? なにやけくそ気味になってんだ!?

 余計な事言うなっ!! 同級生の保護…

 

「ナンパしに来たんっすっ!!」

 

「「「 ……… 」」」

 

 …。

 

「頭押さえてどうした、尾形。頭痛か? …奇遇だな、俺も頭痛だ…」

「この…馬鹿…」

 

 中村は分かってるらしい…保護者…しかも同級生…身近な…ヒトノ…親に…。

 3匹の親父が、完全に黙っちゃったじゃねぇか…というか、ハッキリとデカい声でいうなや。

 

「隆史君…」「小僧…」「尾形君…」

 

 …なんで俺を見る? しかも呼ぶんだよ…。宣言した馬鹿は、こっちじゃねぇ…。

 

 

「「「よしっ! 手伝おうっ!!」」」

 

 …。

 

 何言ってんの?

 

 何膝叩いて立ち上がってんの!?

 

「隆史君も人の事を言えないじゃないかとか、この際置いておこう!」

「いや、置かないでくださいよ! 持ち上げましょうよっ!!」

「大丈夫っ!! みほとサッサと別れてくれさえすれば良いからっ!! 死ねっ!!」

「どこも大丈夫じゃねぇっ!! 本音を少しは隠してくださいよっ!!」

 

 何、輝く笑顔で言っんだよっ!!!

 

「大丈夫っ! 男の子ならしょうがないよ!!」

「しょうがなくは、ないですよっ!! …っ!!」

「優花里とはまだ付き合ってないんだろぉぉ? ならまだセーフだよっ!!」

「…この匂い…貴方飲んでるでしょっ!? 海で飲んじゃダメでしょっ!?」

「私も若い頃は、ブイブイ言わせていてねぇ~。女性の扱いは任せてくれ! 大いに役に立つよ!!」

「 」

 

 何、決め顔してんですか!?

 今日日、ブイブイって、言わないですよっ! …中村と林田が、ポカーンとしてる…絶対意味分かってねぇな…。

 

「まぁコレも人生勉強だ、小僧!!」

「テンション高っ!!」

「これも芸の肥し!!」

「俺関係ねぇ!!」

「まぁ…華にはバレんようにしろよ? アイツ、結構母親に似てるから…」

「分かってるなら、止めろよっ!!」

「華なぁ~…昔から母親の名前の通り、百合の様だと…白百合だ何だと、よく花に例えられてきたんだよぉ」

「な…なんで今…」

 

 …最近、黒百合がとてもしっくりとくるけど…じゃないっ!

 

「母親の…あの奥底に潜む攻撃型な性格は…まるで刺々しくも大きく開く彼岸花…」

「…」

 

 …い…いかん…想像してしまった…

 

「父親の俺から言わせれば、母親に似ている華は、まるで…黒い彼岸花…」

「こえぇぇよっ!!!」

 

 真っ黒な彼岸花が咲き誇る平原に…その中央に立つ、華さんを…。

 

 い…違和感がねぇ…。

 

「だからまぁっ!! 華にだけはバレるなよ!?」

「ふざけんなっ!!!」

 

 言い出しっぺの林田が、完全に置いてけぼりのハイテンションの親父組。

 

「頭数合わせは基本ですよね…。奇を狙い…お二方、どうだろうっ!? あの売店の娘達はっ!!」

 

 さっそくとばかりに、周りを見渡し始めた! やめろっ! いい加減、下手すると通報されるだろ!!

 売店っ!? しかもただの営業妨害に…し…かぁぁぁl!!!!

 

「…あ、アンツィオだ」

「勤労意欲だけはスゲェな」

 

 勘弁してくれっ!!

 

 ……ま…まさか…今までの全部見てたのか…?

 カルパッチョさんが…すげぇ…笑顔で手を振ってる!!??

 チヨミンとペパロニは…あ、はい。真面目に働いてますね…何故気が付かなかった俺っっ!!

 

「しかしですなぁ…。仕事の邪魔をするもの悪いのではないでしょうかねぇ」

「ふむ…秋山さんの言う通りだな。邪魔はいかん。邪魔は。小僧の趣味も…あ、そこの兄ちゃんの好みってどんなんだ?」

「巨乳の可愛い子っ!!」

「あはっはっは! 欲望に素直だな!!」

「この頃は、そうでしょうなっ!!」

「若いっていいなぁ…」

 

【 … 】

 

 …あのっ…いえ…そうではなくてっ!!

 

「…尾形が突っ込みもしないで、カルパッチョ選手に手振りで言い訳してる…」

 

【 …♪ 】

 

 ちがっ!! 違いますっ!! 違いますからっ!!

 

「手…疲れないか?」

 

 必死なんだよっ!! あの真っ黒い笑顔は、完全にブチ切れてる顔だっ!!

 む…胸の傷が変にうずく…。

 

「よしっ! 決まったっ!! あの子達なら良いだろっ!!」

「ふむ、歳も…まぁ一緒位でしょうから? 丁度良いかもしれませんねっ! どうでしょう西住さん」

「…よいのではないでしょうかっ! …後は上手くいかせれば、ちゃっちゃと終わる…」

 

 …はっ!?

 

「まずは単体で突撃…こちらを振り向かせて…こういった挨拶で…」

「了解っすっ!!」

 

 何勝手に話進めて…っっ!!!??

 

「よし、兄ちゃん! 突撃!!」

「こちらも了解! …って、お…おぉ…」

 

 待て…待て待て!! アンタら分かって俺に嫌がらせしてんのかっ!!??

 ま…まぁ…いい。林田も分かってるだろう…。

 

「…ま、アドバンテージがあると思って…よしっ! んじゃ行ってきますっ!!」

「おぉ、頑張れよ~」

 

「尾形…骨は拾ってやるからな?」

 

 声が出ない悲鳴って…久しぶりに出した…。

 元気よく…本当に元気よく飛び出していた林田の…その先…見慣れた…複数の人達が…ぁぁぁ!!

 

 見慣れた顔…見慣れた…4人組ィ…。

 楽しそうに…歩く、いつもの四人組…完全に行楽に来ている…同級生と…後輩…。

 

 

 バレェェェ…部ゥゥゥ…。

 




閲覧ありがとうございました。
次回、最近影薄い…組み。見られてる中での決行になりんす。


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