転生者は平穏を望む   作:白山葵

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閑話となりますが…今回、本編でも重要な伏線が含まれます。
おまたせしました。




…やっと投稿で来た…。

追伸、pixivの方では、挿絵とは関係ないけどそれらしいのは更新させてます。
PINK編で描けないあっちの方面のとか…


【閑話】野郎達の挽歌 その3

 見える…人込みの間、妙にハッキリと確認が取れるその一同。

 

 その彼女達の水着は、至極一般的な水着を着て、何やら話しながら何処かへと向かっていたみたいだった。

 …傍目から見れば、普通に行楽に来ている様に感じる。…現に俺も一瞬、本気でただ遊びに来ているだけで、相変わらず仲良いなと思ったくらいだ。

 しかし、あからさまに一運動し終え、良い感じに額に汗を滲ませていた、そのバレー部一同。

 ビーチバレーでもして…まぁ…してたんだろうな。この行楽地に不釣り合いな程の、ガチな競技用ボール持っていたしなぁ…。

 何にせよ、ソレこそいつもの様に、いつもの通りに…仲良く談話しながら楽しそうに歩いていた。

 

 はっはー…。

 

 考える事なんてないな。俺ができる事は、さっさと行動に移す事だ。

 一度、こめかみを押さえ…そして、天を仰ぐ…。

 

 うむ。

 

 …よし、行くか。

 

「……尾形」

 

 中村の飽きれたような声を無視し、全力で脚に力を入れる。

 そうだな。それよりもまずは、もう一人の問題を解決する事だ。

 

「ちょっと待て、小僧。どこ行く気だ」

「おっさん、離せっ!!

 

 オッサン3人組みは、その場に座り込んで…というか、完全に鎮座しやがったな。

 …そんな状態で、遠目に林田を見送ると、経過を楽しむ気満々で眺め始めていた。即断して林田とは逆方向へと走り出そうとした俺…の行動が分かっていたかの様に、クソ親父1号が俺の足首を掴んだ。

 そのお陰で徐々にしか前に進めんっ! 更には、強引に進む俺を楽しそうに見上げているクソ親父!

 

「おっ! おもしれぇ事するなぁ! 小僧ぉ!」

「うるせぇ! 今! こっちは必死なんだよっ!」

「大の男を引きずる程に必死か…砂浜に線を作るなよ」

 

 文字通りなっ!!

 掴んだオッサン無視して、強引に退路を進む為に、クソ親父を起点に大きな線が砂浜に引かれていく…。

 

「いやいや隆史君。お友達は大切にしないとぉ。今、ガンバッテくれてるんだよぉ?」

「常夫さん! なんで、んな嬉しそうな顔してんすかっ!!」

「新しい彼女を連れて来てくれそうだよぉぉ」

「色々と端折ったセリフを吐かないで下さい!!」

 

 …常夫さん…アンタ、自分の置かれている立場を理解してんのかよ…。

 いや、それ以前にっ!

 

「というか秋山さんも! 貴方だけは一般常識があると思っていたのにっ!!」

「んぉぉ? なんだいお義父さんで良いと言わなかったかねぇ?」

「だからっ!! 色々と端折る…な…って。その右手の銀色の缶は何ですか…。それに足元にいくつか空き缶に変わってるのも見えるんですが? 俺の幻覚ですか…?」

「んん! 麦茶だね!!」

「…………」

 

 …完全にくつろいどる…。座り込んで、いつの間にか購入し、作り上げた空の空き缶が数個…。

 地面に横たわり、その銀色の肌を照りつける日差しに晒していた…。

 真っっ昼間…いや違う。午前中から飲み始めている、非常に青森では見慣れた酔っ払いが…そこにいた…。

 

「別に逃げるこたぁねぇだろ、小僧」

「逃げる事なんだよっ!!」

 

「そうだよ、隆史君。僕と契約して、同じ穴のムジナになろうよ」

「だから、段階色々すっ飛ばした発言しないでくださいよっ!! というか、そちら側に引きずり込もうって魂胆、少しは隠してくださいよ!」

 

 駄目だこいつら、なんとかしないと…。

 

「でもねぇ、尾形君。可愛い女の子とおしゃべりしたいって、男としては普通の事だと思うよ?」

「それ……奥さん聞いたら、怒られませんか…?」

「今はいないから言っているんだよぉ?」

「………」

「だいじょーぶだいじょーぶ! 別に浮気してるわけじゃないんだしね! ただ、お話をちょこーーと、するだけだろう?」

「…その考えが危ねぇ…フラグって言葉しってますか…? そ…それにっ! 林田が単体でする分なら、好きにしたら良いとは思いますが! 俺を巻き込もうとしてるのが見え見えでしょうがっ!」

 

 見える…満面の笑みか…もしくは死んだ目をして、こちらにゾロゾロ引きつれて戻ってくる林田の顔が…。

 

「何言ってるんだい、コレも縁だよ、縁!」

「会話してくださいよっ! 実際問題、優花里…さんに、彼氏がいたとして、その彼氏が、ナンパなんぞしてたらどうするんですかっ!」

「優花里に彼氏っ!? 君じゃないのかねっ!?」

「だから、俺じゃねぇ…ってっ!! 色々と支離滅裂に破綻してるっ!!」

 

 顔真っ赤にしながら、手をヒラヒラしている優花里パパ…。あかん…完全にできあがってる…。

 会話が少しづつズレ始めてる…。あぁ…もう、優花里が酒弱かったのって、遺伝だろうな…こりゃ。薄められた焼酎、たった湯飲み一杯ぐらいでベロンベロンになってたしな…。

 この人も、そんなに経ってないのに、ここまでか…。

 

「…尾形」

「なんだよ、中村っ!! …って、というか、いい加減に離せクソ親父っ!!」

「…小僧、お前俺に対してだけ呼び方きつくないか?」

 

 ズリズリと微々たるものだが、その場から離れようと動く俺の横で、比較的に真面目な顔で声をかけて来た中村。

 …その中村の後ろ側で、すげぇ笑顔でこちらを凝視しているカルパッチョさんが見える…。

 

「毎回思うんだがな? カルパッチョ選手は…まぁ、解からんでもないんだけどよぉ」

 

 腕を組み、ヤレヤレと言わんばかりのセリフゴマでも出そうなくらいの大きな息を吐いた。

 一呼吸を置き、そして飽きれたように口にした…。

 

「マジな話……お前、別に何股も掛けている訳じゃないんだろ?」

「当たり前だっ!! 確認するかの様に言い方するなよっ!」

 

 畜生! こうしている間にも林田…が…。

 あぁもうっ! いつの間にか、林田がバレー部の元に到着してやがるっ!!

 一瞬視界に入ったあの馬鹿の姿が、妙にくっきりと見える!! 後…遠目に見ても分かる位に…河西さんが林田を見る目が…ゴミを見る目だ…。

 林田…女の子が絡まなかったら、普通にいい奴なのに…どうして態々、自分の株を下げる様な真似をするんだよ…。

 

「だろう? んじゃよぉ、堂々としてればよくね?」

 

「……なに?」

 

 ふーー…と、大きなため息から1段階下がったかのようなため息を、さらにまた一つ吐いた。

 

「お前の慌て方ってさ、明かに浮気した男がな? 各、浮気相手にバレない様に疾駆八苦している様にしか見えねぇよ」

 

「………」

 

 な…なんか、心に刺さる言葉だな…。思わず動きを止めてしまった…。

 

「あの彼女達にも、理由を話せば大体察してくれるだろうし? なまじ知り合い同士な分、西住さんに言った所で、あまり影響は無いと俺は思うんだけど?」

 

「「「 っっ!!?? 」」」

 

 ビクッッ! …と、オッサン達が同時に、体を強張らせた。

 あぁ…そうか…俺が勝手に慌てているだけで、まだオッサン達、彼女達が思いっきり大洗の…しかも、戦車道関係者だと知らないのか…。

 おーおー…。特に常夫さんの顔色が、徐々に真っ青になっていくな…。

 今の中村の言葉で、明かに関係者…少なくとも知人だという事が分かったからな。

 

「…自分の男が知らん所で、まぁ…ナンパしてましたって聞いたら、普通なら怒ると思うぞ…。まほちゃんも…まぁ…すげぇ顔して睨みそうだし…」

 

「本気でやってたらそりゃそうだろうが、特殊すぎるお前の関係性なら、西住さんも本気で怒る事はない。……と、俺は思う」

 

 そんな様子を気にもしないで、中村が話をそのまま続けた。

 

「俺の経験上言うけどな? 下手に慌ててると、変に邪推されてドンドン飛んでもない方向へ話が流れてくぞ?」

 

「い…言わんとしている事は、まぁ…理解はできるが…」

 

 ど…どうしても一部…知り合いの気持ちを知ってしまっている以上…こういった事をしていたという、事実を知られるのはどうにも…。

 現に今もカルパッチョさんから、熱烈な視線を送られている最中なんですけど? チラッ…と、中村の後ろを見ると…あ…ペパロニが腕振ってくれてる…チヨミンは、接客中だな…。

 

「だから堂々としてろよ、堂々と。水着褒めたのだって、社交辞令をするとでも思ってろよ。大体なんとかなるって、なんとかさ」

 

「そ…そういもんか? 逆になんか軽すぎないかソレって…」

 

「お前が言っても、今更か? としか言えんぞ、俺は」

 

 慌てる俺に対して、ある程度気遣ってくれての言葉だろうが…。

 

「適当に流せ、適当に。ほんで西住さんにだけ、ちゃんとしてやれって」

 

「……」

 

「ある意味で、西住さんを信じてやれよ。それに区別って言い方は悪いが、ちゃんと他の娘との落差もつけてやれよ…じゃないとまた、俺に火の粉が降り注ぐだろうがぁ…」

 

 

 最後のセリフだけ、妙に力が入ってたな…。

 

 …。

 

 いつの間にか、身体の力が抜け、今の位置に佇んでしまっていた。

 中村の言葉でもそうだけど…ある意味で、みほをちゃんと信じてやれね…。

 まぁ…誰にも言っていなかった、俺の最悪に情けない部分を曝け出しても、みほは……しっかりと受け入れてくれた。

 今回のこの騒動になっている事も、ちゃんと話せば…大丈夫なのだろうか?

 

「き…君。中村君と言ったね? 話の最中に悪いけど…。あの…あそこの彼女達…その…大洗の生徒なのかな?」

「そうですよ? というか戦車道の…って…」

「 」

「あの…秋山さん家のお父さん? …貴方、何回も試合の応援に来ていませんでしたか…?」

「…………」

「…………」

 

 うー…ん。なら、中村が言う様に、堂々としていれば良いか? まぁ林田の事も、バレー部も知っているだろうし…ちゃんと理由を言えば、呆れられたとしても…まぁ…最悪には思われない…かなぁ…。

 …取り合えず、華パパさんと常夫さんが、すげぇ大人しくなったな。

 

 

 

「せんぱぁ~い♪」

 

 

 

 …。

 

 あ…あかん…時すでに遅し…。

 やたらと明るい声で、こちらに聞こえてくる…。

 やはり彼女達も林田の顔を覚えていたらしく…解りやすい表情で俺に視線を送って来てますね…。

 そして、近藤さんが一人、満面の笑みで、こちらに腕を振って小走りに走り寄ってくる。

 彼女達、皆が同じ水着だった。あからさまに赤と白のスポーティーなワンピースタイプの水着。

 ただ彼女の場合、ワンピースタイプだと言うのに、視線が分からない様に目を逸らしてしまう程に、一部分が上下に激しく自己主張を繰り返し…。

 

「隆史さん」

 

「っっ!?」

 

 真横から聞きなれた声がした…。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

 

「変な事に巻き込んで申し訳ないっ!!」

「あ、いえ、大丈夫ですよ! 頭上げてください!」

 

 取り合えず頭下げた…あからさまに彼女達は、巻き込まれただけだ…この変な連中に。

 

「取り合えず、隆史先輩がこういう事する人じゃないって分かってますから…ね?」

「近藤さんっ!!」

「また、巻き込まれただけですよね」

 

 またってのが、非常に気にはなるが、さすが近藤さんっ! 変に物分かりが良くて非常に助かるっ!

 例の喫茶店の時でもそうだけど、この娘ってしっかりと、周りを見ているんだよなぁ…いやぁ…本当に…助かる…。

 

 助かる…。うん、助かる…が…この状況…。

 

「ほら尾形、さっきも言っただろ? 堂々としてろ、堂々と。後輩達と一緒に同じテーブル席についてるだけじゃあーないか」

 

「うふふふふふふふふふ」

 

 …。

 

 そう…思うなら、この俺の席の左横に座ったカルパッチョさんを何とかしてくれ…。

 さっきからずぅぅ…と、笑顔なのがすげぇ怖いんですよ?

 

「先輩も海に来てたなんて、偶然ですね」

 

「そ…そうだね…」

 

「それにしても…強引な客引きって、違法…………じゃなかったでしょうか?」

 

「」

 

 

 出店…というか、屋台式の何時もの移動販売カーの前に、あの戦車道全国大会開会式と同じく、専用の円状の真っ白い、テーブルとイスが用意されていた。

 …そして俺の右横の席にに座っている、めちゃくちゃテンションの高い近藤さんも、なんとかしてくれ…。

 最後…明らかに俺に向けた感じで声を発してないですよ…ね? 視線が俺を通り越して、反対に座っている人物に……というか! 二人とも顔が近い近い近い!! 

 

「あら、人聞きの悪い。お知り合いの方に、来店して頂いただけ…という話ではないでしょうか?」

「なら、お仕事してください。そのお客さんと同じ席に着くって…お店側の対応としてはどうなんでしょうか?」

「これもお仕事の一環ですよぉ? ちゃぁーんと、売り上げに貢献していますから」

「……むぅ」

 

 そんなやり取りを見て、向かいのオッサンが一言…。

 

「まぁ…そういったお店もあるしね、一概には…」

「え?」

「はい?」

「…マジで黙ってろオッサン」

 

 常夫さん…アンタ、なんで自分から穴堀りに行くんだよ…。

 

「…それでも先輩の横の席に座るって…普通に同行している方に席を譲りませんかぁ? ほら、中村先輩が寂しそうですよぉ?」

「あ、いや、別に俺は…「  ネッ?  」」

 

「……あ、はい」

 

 ………はい、これらの会話は…現在、満面の笑みで繰り広げられてオリマス…。

 現状、二つのテーブルが用意されており…俺の席には…カルパッチョさん。近藤さんを左右に、向かい側に常夫さん。その横に中村…そして…河西さんが絶賛俺をゴミを見る目で眺めてます…の、計6名が席についております。

 はい、ではその横を見て見ましょう…はい。林田の左右に秋山さん、華パパさん…そして磯部さんと佐々木さん…が、こちらをとても楽しそうに眺めておりますね、はい。

 佐々木さんの向かい側になった林田は…とても幸せそうに顔をほころばせておりますね? …この野郎。

 しかし…近藤さん…例の祝勝会以降、なんか雰囲気変わったな…。どん底に出向いた時、佐々木さんに声真似依頼していた件を訪ねる為だけに家に来たり…最近行動力も増して来た気がする。

 彼女の笑顔が怖いと感じたのはその時が初めだったな…今も怖いけど…。いや、可愛らしくは感じるのだけど…妙に迫力があるというか、なんと言うか…。

 親父共は、もうすでに開き直ったのか…自分の娘の同級生、後輩と席を同じくしているというのに、もう何時もの様子に戻ってますね…ちくしょう…。

 

「モテるねっ! 隆史君!!」

「常夫さん…だから、なぜ嬉しそうなんですか」

 

 俺の向かい側に座るこのオッサンも、終始満面の笑み…。貴方にとってもこの状況は非常に危ういというに…。

 おっさんズは…あっさりと俺達と一緒にいる事の理由を白状した。

 常夫さんの事は置いておいて、優花里パパは既に顔が割れているし、華パパさんも、華さんとの誤解の件の時、俺の事を散々聞いて回っていたというので、こちらも顔が割れていた。

 よって唯一怪しい、このチャラいオッサンは、この二人の友人と言う事で話を推し進めた…よって…。

 

「………」

「河西さん…卑下した目を辞めて…」

 

 ナンパ目的で大人を巻き込んだ俺達…という構図とでも見ているのか…。

 何時もにも増して鋭い目つきで俺を睨んでますヨ。

 その怪しいオッサンも、河西さんから非常に不審者を見る目で見られていると言うのに…気が付かないとか…。

 

 しかし…何故か牽制しあう、近藤さんとカルパッチョさん…。

 その二人に河西さんの言葉に仕切り直すかのように、近藤さんがコホンと小さく咳をすると…というか、あの…余り近づくと色々と目に毒ですのでやめて欲しいのですけど…。

 …近藤さん…。この娘、本当に16歳か? 確かに顔には幼さは結構残っているのだけど、柚子先輩と宜しく傍から見ると女子大生にしか見えねぇよな…。

 そのまま、俺に体を押し付ける様に更に近づけると、顔を俺だけに見せる様に上げた。

 

「…」

 

 ぐっ…前はこんな事なかったのに…近藤さんだけじゃない。何故、こうも露骨に彼女達を女性として意識し始めてしまっているのだろう。

 …河西さんのサクッと、俺の心へメスを入れる視線に何も言えねぇ…。

 

「あ、そういえば…これで先輩にナンパされるの、2回目ですね」

 

「近藤さんっ!?」

 

 いや、君もなにサクッと、言ってんの!?

 場の空気を換えようともしてくれたのだろうが、若干赤身を帯びた顔で言われると別の意味に取られかねない…。

 …あ、一瞬目が横を向いた…その視線の先…。

 

「…隆史さん」

 

「ちっ…ちがっ!! カルパッチョさん、違いますからっ!!」

「……ふ~ん。そうですか、先程から見てましたが…やはり…」

「ぜっ! 前回も、今回も…アレのせいというか、なんというかっ!!」

 

 な…なにこの状況…。

 普段ふ~んなんて、言わないでしょ貴女!

 

「妙子ちゃん…」

「尾形君、サイテー」

「傍から見てる分には、楽しくって仕方ないけどな」

「兄ちゃん良い趣味してるな…まぁ実際にその通りだけどなぁ!」

「う~…ん、子供もいるから、お酒は控えておこうか…。店員さん!」

 

 隣の席っっっ!!!!

 

「いやぁ、両手に花で楽しそうだねぇ、隆史君」

 

 この野郎っ!!

 正面の常夫さんが、実に微笑ましく見守っている体が、非常に頭にくるっ!!!

 中村は中村で、呆れ果てた顔しやがってっ!! あぁもうっ! 胸の傷が滅茶苦茶疼くっ!!

 

「しかし…テーブルを囲むこの状況は、まるで…アレだね!? 隆史君!」

「…なんすか」

 

「アレだよ、アレッ! 合コン!!」

 

「…アンタ、マジで黙ってろ…」

 

 常夫さん…。

 何がそんなに楽しいのか…それとも感覚マヒして、自分の置かれている状況を把握してねぇのか…さっきから言動がヤベェぞ。

 

 

「ほれ見ろ、尾形。林田が言う様にな? 傍から見ると、お前の態度は大分…アレだぞ? アレ」

「くっ…」

「二人ともアノ林田見てんだ…解っていて、んな話してんだよ。まぁ…終始、自分にドギマギしてくれるお前を見るのが楽しいって、二人の気持ちもなんとなく分かっちゃいるけどな…それでもだ」

「楽しいって…」

「……」チッ

「……」チッ

 

 敢えて…敢えてだろう。

 近藤さんとカルパッチョさんとの前で、先ほどの話を持ち出した。

 …一瞬聞こえた舌打ちは、多分空耳だろうね…。

 

「そうですねぇ~最近は昔みたく、朴念仁に足が生えて歩いているだけではなくなりましたので…ちょっとその反応が嬉しくて…というのはありますね」

 

 カルパッチョさんっ!?

 

「……2回目ですよ…もう一度」

 

 …あ、はい。ひなさん…。

 だから、頭の中にまで突っ込むのはやめて…。

 

「そ…そうですね。白状してしまうと…ちょっと…はい。そこは私も嬉しくは…ある…かなぁ…」

「近藤さんまで!?」

「だから、ちょっと…いえ、かなり? 例の優勝賞品の…日、楽しみではありますっ!」

 

 な…なんかキラッキラした顔で此方を向き直したけど…。ただの買い出しだよ? え?

 

「はぁ…だから言ったろ? 変に変わったお前の態度が新鮮なんだろ。んだから、堂々としろって言ってるだろ?」

 

 説教にも似た中村の言葉は、カルパッチョさんと近藤さんに少し、軽い影を落とした。

 なんでだろう…ちょっとイタズラが見つかった子供の様な顔…と、表現した方が良いのか? そんな中村を、少し意外そうに見ている河西さん。

 常夫。おい、常夫。アンタ…なんでそんなに残念そうな顔してんだ。

 

「ほら…」

 

 中村は何かを言いたげに、眉を潜めた。その視線…いや、目の動きで何となく何を言いたいかは分かった…。

 俺を見て、左右の二人に目線を投げたからな…流石に今までの流れで何をするかは…。

 

「…あ、私の事は無理に水着を褒めて頂かなくても大丈夫ですよ? そういった事は、二人きりの時、名前を呼び合う様な時ににして頂けます?」

 

 ま…またあらぬ誤解を呼びそうな言い方を…。

 水着を褒める褒めないって事まで、事情を知っているように言ったな、今。

 

「それに無理に褒められたとしても、嬉しくありませんっ!」

 

 ぷいっと…顔を背けてしまった…。あ…でもこういう拗ねた感じのカルパッ…ひなさんは新鮮かもな…。

 フリルの付いたビキニタイプとでも言うのか…下がスカートタイプの…なんつー水着か分からんが、白と黄緑、2色の水着。

 そういう割には、なんか…変に強調していませんか? …なんつーか清純的な水着なんだけど…貴女が着ると、変にこう…。

 

「私も…あ、いえ…でもなぁ…次の機会がいつ来るか分からないし…でも出来るだけ攻めた方が…このままだと何時まで経っても…」

 

 あの…近藤さん? 君は君で、何を真顔で攻めるとか言っているんでしょうか?

 なんか…一人事でブツブツと言い出したけど…あの…近藤さん?

 

「攻めるって…何を?」

「あぅ!? あ、いえ何でもないですよ!?」

「……」

 

 ひなさん…何故にそんなに笑顔なんすか。

 

 中村は中村で、また深いため息を吐くし…林田は林田で、なんか知らんが現状を満喫しているようだし…なんだこの膠着状態。

 そんな様子を、にやにやとした視線の常夫さん。何がそんなに楽しいんだよ…少しは危機感持てよ。

 そして相変わらず…まっすぐ俺を睨む河西さん…。

 

「あ、うん…そういえば、忍ちゃん」

「………」

「忍ちゃん?」

「…んっ? あ、ごめん。何?」

 

 一度、その呼び声にすら気づかない程いに、あまりに真剣に睨んでくれていた彼女に対して、近藤さんが声を掛けた。

 どこぞの司令官みたく、テーブルに肘を着き、口元を隠す様に指を汲んで、まっすぐ目だけで俺を睨んでたからな…一言も喋らないで…。

 

「すっごい目に…その…? 力が入っているけど…大丈夫?」

「大丈夫」

 

 すこし言い淀んで、言葉を選んでくれたのだろう。しかしその声に即答して…すぐにまた、俺を睨み始めた…。

 彼女が俺を快く思っていないのは、なんとなくわかるんだけど…今回は態々俺と同じテーブルに座ったし…なんなのだろう。

 ただずっと…真剣に俺に視線をブッ刺してくるYO…。

 

「「「 ………… 」」」

 

 そういえば、今日は彼女の口からは、素敵なお便りを貰ってはないな…。

 特段、何を言われる訳でもなく、ただただ睨まれるだけ…って、どうしたんだろう。

 

「よぉ」

 

 そんなどうしていいか分からない空気に変わった瞬間…後ろからコレまた聞きなれた声がした。

 

「あら、ペパロニ? お店はいいの?」

 

 水着の上にエプロン…といった姿のペパロニが、俺の真後ろに立っていた。

 頭を少しボリボリと掻きながら、俺を見下ろしている。

 それと…横にいるドゥーチェさんが、肩を落として佇んでいますね…。

 

「カルパッチョ…お前がサボり始めたのと、タカシ達のせいで、客足が途絶えちまったんだよ」

「あら、ごめんなさい」

「もう少し、悪びれて言いやがれ」

 

 …あ、うん。気が付くと、俺らのテーブルに足していくつか視線を感じるね…。

 感じるけど…華パパさんと、俺…そして常夫さんを見ると、その視線が霧散するな。

 ま…まぁ…店前に設置されている簡易テーブルの前に、こんなオッサン達が鎮座すりゃぁ…客足も途絶えるか…。

 

「な…なんか、悪いなペパロニ…」

「いや、アタシは別に良いけどよぉ。ただ…ほら、ドゥーチェ落ち込んじゃったじゃないか」

 

 あ…本当だ…チヨミンの目に光が無い…。

 

「大丈夫…。今は隆史もお客さんだから、別に…いいんだ…」

「ご…ごめん、千代美…」

 

 飲み物しか買ってないしな…既製品飲料販売って、あまり儲けがないんだよな…。

 とは言ってもなぁ…。直接売上妨害になっているのが、分かってしまった今…此処に鎮座しているのは、迷惑以外の何物でもないしな。

 まぁこの変な空気を変え事も出来そうだし、ナンパという名目で引っ張て来てしまった彼女達を開放するにも、丁度良い機会かもな。

 

「よし! んなら解散だな、解散っ!!」

 

 俺の言葉に即座に後ろからめんどくせぇ声がした…。

 

「え~…何もしてないのにもう解散かぁ? 小僧、お前なにもしてないだろぉ?」

 

 …オッサンは俺に何を求めてるんだよ。彼女らに迷惑だろうが

 

「んん~…でも五十鈴さん、さすがに営業妨害になりそうですしねぇ」

「まぁ、そうだけどなぁ。でも、秋山さん。俺らは場所を移すだけでも良いんだけどよぉお? 小僧達のパラソルんとこに戻るだけですむ訳だし…」

「大所帯になってきまししねぇ」

「え…それ、私達も入っているんですか?」

「キャプテン、私は別に構いませんよ?」

「ん…んん~…どうしよっか…」

 

 それプラス、まだ俺らに着いてくる気が満々だと、普通に言いやがった。

 俺らって…アンタらも解散してくれよ。磯部さん達も相談始めないで下さいよ…。

 

「でもなぁ~…今回の功労者の兄ちゃんがねぇ…」

「あぁ…」

 

 あ? 林田の事か? 何言って…。

 

「尾形………林田、見て見ろ…」

「………」

 

 さ…さっきから大人しいと思っていたら…こいつ。河西さんと同じく…どこぞの司令官と同じ格好のまま…。

 

「兄ちゃん…そこまで必死だと、すげぇな…」

「おかまいなく」

「君、戦国武将の様な顔してるよ?」

「おかまいなく!」

 

「……アンタ、気にならないの? 先輩としてそろそろ止めておきたいんだけど…」

「なんの事ですか?」

 

 向かいに座っている、佐々木さんの胸を凝視してやがる…。

 失う物なんて何もない…ただ今のこの時を謳歌したい…ただその一心…といった面持ちだな…。

 

「あけびちゃん…視線に慣れちゃって、気づかなくなっちゃってるんだ…」

 

 …あ、うん。近藤さんの呟きに、何が言いたいか分かった…。

 皆まで言わない方が良いだろうよ…。

 アイツ…あの行動で嫌われるとか思わねぇのか…。欲望に素直なのは結構だけど、実直すぎて逆に突っ込めねぇ…。

 はぁ…。

 

「おい、林田。解散だ、解散」

「………嫌だ」

 

 お…俺の声に一発で、反応した。

 

「チヨミン達に迷惑だろ?」

「ぐっ…」

 

 よしよし反応が鈍った。さすがに人様に被害が出ている以上、林田も何も言えまい。

 ここで無視するような奴ではない事くらいは、さすがに解るしな。

 

「なら…バレー…だ」

 

「「「っ!!」」」

 

 ……往生際が悪いな。何てこと言い出してやがる。

 そのバレー部の人達が、反応しちゃったじゃないか。

 

 …あ…あれ? 河西さんだけ、変わらず俺を睨み続けてる…。ここは君も反応するとか思ってたんですけど…。

 ブツブツと俺を睨みつけるのが、そろそろ本気で怖くなってきたんですけど…。眉間に皺まで寄せている分、憎しみでも籠っているかの様に感じてしまうんですが…。

 しかし、常夫さんも大人しいなと思ったら、その隣の河西さんをジッ…と見てるな。聞き耳を立てる様に、たまに耳に手を置いてる。

 

「常夫さん…セクハラ…」

「えっ!? ちがっ…違うよっ!?」

 

 絵面的にヤベェ…。写真撮っておこうかな…しほさん様に…。

 

「兄ちゃん、突然何言ってんだ?」

「バレー?」

「そう…結構なメンツがそろってる…ならばやる事は一つでしょう? 海、砂浜…そしてボール…ならビーチバレーをするのが必然かと思う」

「…兄ちゃん…文字通り、本当に必死だな…」

「気持ちは分かるよ? 分かるが…」

 

 こっちはこっちで……まぁ…ある意味で、声かけて此処まで一緒にいてくれているのは、知り合いの好とはいえ彼女達だけだ…。

 だから必死なのだろう。オッサン達でさえ、ドン引きしている現状を見れば明らかだろうな。…しかし…中村は眉間を押さえている。

 もちろん俺もだ。こいつ…解っていて、言いやがったな…。

 

「キャプテン…一理ありますね」

「そうだね…私達意外の人とバレーなんて、久しくしてなかったものね…」

「戦車の練習で皆疲れちゃって、誰もしてくれませんでしたからね…」

 

「姉ちゃん達も面白いな…」

「今の若い子って凄いねぇ」

 

 ……やはり…食いついちゃった…。

 いつの間にか近藤さんも、その輪に加わってるし…。

 はぁ…流石に彼女達にも迷惑だよな。本気で止め…

 

「…なぁタカシ」

「ペパロニ?」

「タカシのせいって言っちまったけど、別に気にしなくて良いんだぞ?」

「そういう訳にいかんだろ」

 

 俺達が来るまで、どれだけお客さん来ていたからは知らないが、さすがになぁ。

 

「ん~…なんつーか、一概に悪い事だけって訳じゃねぇんだ」

「どういう事だ?」

 

 俺を擁護してるのか、ある意味ですげぇ恰好のペパロニが此処に居ても良いとは言ってくれる。

 チヨミンも軽く手を上げて、その言葉に賛同しているな。

 

「なんつーか…まぁ、客によぉ…やたらと声掛けられるもんだから、あんまり商売になんねぇんだよ」

「…あぁ…まぁ…」

「ナンパなら他所でヤレッてんだ。仕事してんのにって、見てわからねぇかな。しつこいのなんのって…いい加減手が出そうになった時にオメェ達、って訳だったんだ」

「………」

 

 も…もはや人の事は言えんので、何とも言えない顔しかできねぇ…。

 …おっさん達も反応していたし…言わんとしている事は分かる。

 分かるが…そう…なんつ-か…。

 

「いやまぁ…チヨミンはまだ…良いんだけど…特にお前の恰好が…。そうだな…ちょっと」

「あん?」

 

 ふぅ…しかしまぁ、一応言わないとダメだろうな…。

 席から立ちあがり、回り込み…ペパロニと対面する様に立つ。そう…せめてと、林田達にはペパロニの後ろ姿しか見えない様に少し誘導を掛ける。

 つられてチヨミンも、ペパロニの横へと並ぶ。

 一度林田を見た時から思ったんだが…ここにいると、周りからの奇異の目での視線が集中する。しかし、その中には少し違った視線を感じる事があった。

 

「い…いいか?…お前も悪いんだぞ? その格好じゃ、色々とまずいだろ…少し気を付けんと…な?」

「あん? アタシ達の恰好の、どこが悪いんだってんだ」

 

 ちょっと野暮かとも思ったので黙っていたのだが…まぁ…ペパロニも女の子だ。特に彼女はそういった視線には鈍いだろうからちゃんと言っておこう…。

 

「普通に水着着て…」

 

 ペパロニは水着をちゃんと着ていた。まぁ…海だし特段、変って訳でもない。

 変じゃないけど…なぁ…。

 

 

 

「飯作るから、エプロンしてるだけだろ?」

 

 

「それが問題なんだよ!」

 

「あ? エプロンしなきゃ危ねぇだろ。それに姐さんと一緒だろ? アタシが駄目で、何で姐さんはOKなんだよ」

「チヨミンは腰からのエプロンだろ!? お前のは首から下げるタイプだろうが!」

「んぉ?」

 

 …お前の水着…ビキニだろうが…。

 エプロンに隠れて見えんが、紐部分…本当にただの紐タイプで…なんつーか…。

 その姐さんもビキニタイプですけどね? まだ健康的に健全に見える訳ですよ。

 

 …黒い紐ビキニ…結構似合いますね、千代美さん…。

 

 あ、違う。そうじゃない。

 

 ペパロニ! お前の場合、真正面から見ると、裸エプロンにしか見えねぇんだよっ!!

 身体を大きく隠すタイプなら良いんだけどね? 微妙に…小さいから…もう…。

 

「下はハーフパンツタイプだから、大丈夫だけどな!? お前の姿、角度が揃うとすげぇ事になってんだよ…」

「お…おぅ? よく意味は分からんけど…」

 

「………あっ!」

「………ぁあ、そういう…」

 

 よし、チヨミンは気が付いたな…。顔を少し赤くして、ペパロニを凝視した。

 カルパッチョさんも気がついたのか…苦笑をしているな。

 その格好に、チラチラと林田の目玉が動いていたしな…一瞬見間違いかとも思ったのか、二度見する人が結構多かったんだよ。

 

「エプロン…ん?」

 

 しかし…マジで分からないって顔してやがるな…。

 直接的に言うと、完全にセクハラになるので言いませんがね? 君、スタイルかなり良い方なんですよ?

 これにチヨミンは兎も角、カルパッチョさんなら気が付きそうなモノなんですが…?

 

「いいか、ペパロニ…お前も女の子なんだから、そっちの組み合わせは気をつけろよ。な?」

「おっ…おぉ! そういう事か! つまり、アレだ」

 

 おっ…漸く気が付いてくれたか…。

 顎に手で摩りながら、笑ってくれた。

 

「タカシは私に脱げと」

 

「なんでそうなるっ!!!」

 

 …気がついてなかった…。

 

「隆史…お前…」

「千代美さん? 普通に引いた顔はやめてくれませんかね?」

 

 くっそっ!! ペパロニの後ろに見える席で、オッサン連中が爆笑し始めやがった。

 

「ん? エプロン脱げって話じゃねぇのか?」

「違うわっ!! せめてエプロンの下にティシャツかなんか着ろって話だ!!」

「順番的に、エプロン脱がんといけねぇじゃねぇか」

「会話のきゃっちぼーるしよう!? 後、せめて取るって言ってくれませんかね!?」

「一緒のこっだろ? それにオメェ達の話の流れ的に…アレだ、アレだろ?」

 

 …こ…こいつが、話の流れとか言い出した…。

 

 

「タカシは、私の水着姿が見たいと」

 

 

 ……。

 

 

「……そ…それは、ソレで別の話です。後……大分語弊がアリマスヨ…?」

 

「語弊? ゴヘイってなんだ…モチか? まぁいいや。つまりはそういう事だろ? 相変わらず、回りくどいなぁタカシ」

 

 あ…危なく「違うわっ!!!」と、突っ込みを入れそうになってしまった…。

 まずソレを言ってしまったら…彼女も女の子だ…怒るかもしれないし、傷つけるかもしれないと、変に頭が働いた。今までならなかったな…こんな考え…。

 それに間違いなく、また変な方向に話が行くと思って、一瞬冷静になれた自分を褒めてやりたい…が。また、別の方向へ話が流れソウデス…。

 

「いや…違うんですよ、ペパロニさん。ただ、ぼかぁね?」

「んだよぉ! 早く言やぁいいじゃねぇか!!」

「あの…聞いて?」

「別に見られて減るモンじゃねぇし!」

 

 

「「「 ……… 」」」

 

 

「そっか、そっかぁー!! タカシがねぇ~、アタシのをねぇ~へぇーー!!」

「いや…もう…なんつーかぁ…」

 

 言葉を選ぶのって大変だよな…

 しかし…えっらい嬉しそうに笑うな…。って…お前…。

 

「…あれ? 固く縛り過ぎたか…」

 

 早速とばかりに、後ろ手でエプロンの紐を解き始めたペパロニさん…。

 ……のぉ…後ろで…手叩きながら爆笑してれるクソ親父共をぶん殴りてぇ…。

 

「…ま、いっか。めんどくせぇ」

 

 紐を解くのが上手くいかなかったのか、早々に解くのを諦めた。

 よ…よし…。これでまた少し話ができる。こういうところも彼女の短所でもあり、長所でも…。

 

「よっ…と。引っかかるな…」

 

 …って、思ってる傍から、今度は服を捲り脱ぐ様にエプロンに手を掛けた。

 ツッコム余裕すら与えてくれないっ!! 捲られたエプロンが…胸の下側に引っかかった…。

 何とも言えない…つか、行動が早いよっ!! 視界にお腹が、飛び込んできた…あ、やっぱり結構、良い腹筋…。

 

「隆史…お前…」

「はっ!! いかんっ! つい腹筋に目を奪われた!」

「この筋肉馬鹿が…というか、なにやってる、ペパロニ!」

 

「よっ…とっ!!!」

 

 ドゥーチェが…声を掛けた瞬間…引っかかった部分が、スルッ…と上に…。

 

 

 

「 あ 」

 

 

 

 エプロン…が…水着ごと上に上がった……。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し開けた砂浜…俺…の横に座る、尾形、西住さんの父親、五十鈴親父さん、秋山さんのお父さん…。

 キャッキャウフフと、聞こえんばかりに…その前方でビーチボールで戯れる高校生達を眺めている…。

 

「尾形…」

「…なんだよ」

「あ、うん…なんか…ごめん」

 

 何となく、謝ってしまった…。ある意味では尾形には良かれと思って言った事なんだが…先ほどからどうにも尾形が少しやつれている様にしか見えねぇんだものさぁ…。

 さっきのか…? ペパロニ選手自身は、気が付かなかったのだろうが、アンチョビ選手、カルパッチョ選手が、あの瞬間…光速かと思う程の動きで、捲れたエプロンを強引に下げた。

 よって、()()には見えなかったようですね。まぁその本人は、尾形にに対して気にもした風には見えないので…まぁ良かった。

 

 …。

 

 まぁ…アレだ。

 

『 なにしてんだバカァ!! 』

『 …ペパロニ… 』

『 二回目だし別に気にしてねぇっすよ? 』

『 ……… 』

 

 

 …アレ…絶対に尾形には見えてたよな…真正面だったしな…。

 林田は気が付いていないのがある意味で幸いしたのかもしれない。五十鈴親父さんが陰になって見えないかっただろうな。

 

 あ、うん。コメントに困るよな…。

 尾形の目が点になってる顔ってのは、初めて見たなぁ…。

 

 その後…もう色々と諦めてしまったのか…その本人達はもうすでに店を閉め…今目の前で、うちの高校の後輩達とビーチバレーを楽しんでいる。

 相変わらず、人と仲良くなるの早いなぁ…アンツィオの人達は。尾形にもソノ秘訣をマジで教えてやってほしい…。

 

「…よくもまぁ、うまく続くもんだな…」

 

 ガチのバレーではなく、ビーチボールを手で、ポンポンと跳ねさせるだけのラリーを繰り返すだけの遊び。

 …そのビーチボールも、これまた光速の動きで、どこからか購入して来たんだよな…。

 

 

 林田が…。

 

 

 もはや林田に付き合い、ナンパに繰り出すよりも、こちらの方が遥かに健全なのに気が付き…俺も尾形も、こうして了承をした訳だ。

 最初は俺も混じっていたんだけど…いかんせんコレ…見た目よりも実際にすると、疲れる…。体力ありそうな尾形は、寝不足気味の上、この炎天下でもう無理…と珍しくギブアップした。

 俺もソレに付き合い、早々にリタイアして、こうしてお休みしています……同じく体力を理由に早々にリタイアしたオッサン共と一緒に…。

 

 あぁ…林田が泣きながら輝いている…。楽しいそうだな…ホントに楽しそうだ…。

 アイツもかなり疲れていると思うのに…よくあのバレー部の体力についていっていると思う。いやはや…もはや、執念しか感じねぇ…。

 

「先輩、大丈夫ですか?」

「え…あぁ、大丈夫」

 

 たまにこうして、近藤さんが休憩がてらやって来て、横に置いてある私物のバッグから取り出した水筒で水分補給をする。

 遊びとは言え、名前にバレーが付く以上真剣…らしく、海にも入っていないのに汗だくだった。

 そう言っては、ついでにと……尾形に何度か水筒を渡すのだけど…。

 

「先輩も一度、熱中症になっているんですから…気を付けてくださいね」

「あ…はい。承知しております…はい。ご迷惑おかけしました」

「ふふっ、なんですか、それ」

 

 変にかしこまった言い方に笑うと…またすぐに目の前の輪に戻って行ってしまうのを、もう何度か繰り返している。

 これ…あれ…やっぱりそうだよなぁ…。あからさまにこちらを見ては、申し訳なさそうな視線を送っては来る。だって尾形にだけ水筒渡しているので…まぁなんつーか…。

 流石に尾形以外は、気が付いているようで…その視線に対して、輝く笑顔で親指を立てて、彼女にエールを送ると変なシンパシーで現在の状況が成り立っているという訳だ。

 まぁ、俺としては…西住さんに悪いという気持ちも湧くが、かといって彼女達の気持ちをもないがしろにする訳にもいかないし…という訳で、見て見ぬフリを決め込んでいた。

 

「アレで。隆史君は気が付かないとか…みほとまほ…そりゃ昔から苦労するはずだ…」

 

 西住さんのお父さんの呟きに、思いっきりため息を吐いてしまった…。昔からか…まぁ…そうだろうな。

 あ、そうそう。眉を潜めていると…流石に体力的に参ったのか…死にそうな野郎が戻って来た…。

 

「ヒュー…ヒュー…」

 

「…林田、お前…運動なんて普段しない癖に、運動部ガチ勢についていこうとするから…」

「しかし、そのガチ勢に普通に着いて行っているアンツィオすげぇな…」

 

「ヒュー…ヒュー…」

 

「「……」」

 

 目の焦点が合っていない…。吐く息が笛の様に聞こえるぞ…。

 しかし…なんつー満足したかの様な顔してやがる…。そのまま、同じくして俺らの一列に加わった林田。

 お陰で…野郎共が一列に並び…ビーチバレーを楽しんでいるJKを眺めているという怪しい構図が出来上がりました。…と、さ…はぁぁぁ…事案だよな…完全に…。

 

「いやぁ~…しかし立派だねぇ。しかし、ウチの子も負けてはいない!」

 

 …娘さん達が聞いたら、二度と口聞いてくれなくなりますよ?

 

「ウチの娘も、結構立派になってくれてなぁ…良かったな小僧っ!!」

 

 …あ、珍しい…尾形が反論しない…シオシオのまんまだ。

 

「すごいなぁ~最近の若い子は。優花里が少し不憫に感じてしまうよ…あれは遺伝だからしかたないかぁ」

 

 そして………尾形を見る秋山さんちのおとーさん。

 

 しかしオッサン共…。高校生…というか、アンタらの娘さんのお仲間に向かって、そのセリフを吐くとかすげぇな。

 まだ自分達の関係性を言っていないから…完全に開き直っているのだろうか?

 

「突然何を言い出すんですか…人様に聞かれたら、通報される案件ですよ」

「何言ってんだ? 素直な感想だろ? 子供の成長を実感してんだよぉ?」

「…華さん聞いたら殺されますよ」

 

 尾形の口調に覇気が全く感じられないな…。

 

「ふぅー…しかしアレだね、昔ならこういった場所ですと、アレが行われてましたよねぇ~。時代の流れかなぁ~いつの間にか開催されなくなっていますよねぇ」

「ん? 秋山さん? なんの事ですか?」

「西住さんは、熊本出身でしたよね。昔はですねぇ…ここでステージが設置されましてね?」

「おぉ! あったあった!! いつの間にかやらなくなったなぁ~…」

 

 オッサン共が昔話をし始めましたね。

 流石に疲れたと見える。こういった昔話をし始めた時点で終わりが近づいてきたという証拠とも言えるだろう。

 

「昔…な…なんか…してたんすか…?」

「お、漸く言葉がでたな兄ちゃん。無理すんなよ?」

「ふむ、私が君達くらいの時にはね? さっきも言ったけど、簡易的なステージが作られて…飛込みOKのサバイバルが行われていたんだよ」

「サバイバル?」

「あぁ、成程…。熊本でもありましたよ! 眺めていたら、妻にゴミを見る目で見られましたが…1週間は口を聞いてくれませんでした…」

「あっはっは! 良くある話ですねぇ」

 

「「???」」

 

 オッサン共の話を、興味なさげに聞き流している尾形…それ、もう…ポンポンと宙に浮くボールを眺めている姿に哀愁が漂ってるぞ…?

 

「今じゃ簡単に携帯で写真を取れましねぇ~そういった事もあってか、開催できないのでしょうね」

「時代ですねぇ。昔はテレビも結構おおらかだったんですけど…」

「あの…なんの話ですか?」

「…あぁ、昔は良くあった…」

 

 

 

 

「水着コンテストって奴さ」

 

 

 …。

 

 

 ………なんだろう…その言葉で、心の中が一瞬で切り替わった気する。

 

 

 

 

『さぁ、始まりましたね中村さん。第一回大洗戦車道乙女水着コンテスト』

『はい、始まりましたねぇ。林田さんの復活が思いの外に早くて、私びっくりしております』

 

 

 …。

 

 

『私、水着コンテストなんて都市伝説と思っていたのですが…まさか地元で開催されていたとは思いもしませんでした』

『そうですねぇ~。まぁ今回は外から眺めているだけのコンテストですが、尾形さんの!! 感想を生で!!! …聞いてみたいと思い、私もこのノリに乗りましたよぉ』

『はい、そうですねぇ。しかし、私水着コンテストなんて見た事もないので、よくわかりません。アナウンサーが上手くできるかどうか…』

『大丈夫ですよ林田さん。今回は実際にご覧になった事がある方をお招きしております』

『はぁい、視聴者の方も、これで安心ですねぇ! ともに審査員もお願いしております』

 

『どうも。若い頃、妻に一度コンテストに参加してみないかと言ってみたら、顎骨を粉砕されそうになりました。西住 常夫です』

『おー…俺は、妻に貝殻ビキニで参加して貰ったら、義父殿に石を枕に海へ沈められたな。はっ!! まぁ自力で脱出したがな!! っと、五十鈴 征十郎だ』

『お二方…すごいですね…。はっはっ…………私には言う勇気はありませんでしたな…。秋山 淳五郎です』

 

『以上、3名のゲストをお招きしてお送りしたいと思いますっ!!』

『では、お三方お願い致します』

 

 …。

 

 俺と林田の変なノリスイッチが入ったの見て…例のゲーム経験者達がこちらを見て、ビーチバレーやめてしまった。

 それは俺らが尾形をイヂる合図でもあり…内容で強制的に尾形に水着姿の彼女達の感想を言わせようとしているのが即、伝わったようだ。眼球を光らせ…まぁカルパッチョ選手が代表みたいなモンだけどな…。

 磯部さんと佐々木さんは苦笑してはいるが…彼女達も此処まで付き合ってくれ多分、結構ノリが良いと思う。…あ、はい。河西さんは、めっちゃ目を見開かれて尾形を見ているが…。

 近藤さんとカルパッチョ選手は、やっぱり尾形の感想を聞きたいんだろう。さっきのは強がりの様なモノだろう。アンチョビ選手ですら、チラチラと尾形を見ているしな…。というか、彼女が一番わかりやすいなぁ。

 

 し…しかし…。

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

《 ……… 》

 

 

 

 

 お…尾形が無反応…。

 

「ど…どうした尾形…。俺らが言い始めたから言うのも何だが…」

「いつもの…つーか、さっきまでのお前なら、慌てふためくのが通例だろ!? なんだよ、その反応…」

 

「………」

 

 

「…た…たかしくーん?」

「いや、小僧よぉ…結構とっておきの話したんだが、無反応は悲しいぞ?」

「隆史君?」

 

「はっ……」

 

「おが…た?」

「どうしたお前…」

 

「いいさ…乗ってやる…乗ってやるがな…?」

 

「お…おぉ」

 

 

 

「さっき…此処に来る前にさぁ…俺…パーカー取りにパラソル元に戻ったろ?」

 

 

 …そう言って語りだそうとする尾形…。

 

 

 まずい…嫌な予感しかしねぇ…。

 

「…そうそう…」

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

「わかった…。でもちょっと待ってろ…パーカー取ってくる」

 

 そう言って、取り合えずその場を離れ、刺してあったパラソルの元へと、重い足取りで近づいていく。

 結局、みんなでビーチバレーという流れになった。いや、ぶっちゃけ林田に付き合ってナンパに付き合わせるよりも数億倍良い流れと言えよう。

 

 …が…身体に疲労が溜ってでもいるのだろうか? 徐々にネガティブな考えに繋がっていく。

 何してんだろうなぁ…俺は…。気持ちに整理をつけたはずなんだが、やはり他人の……。

 

「………」

 

 パラソルが作る日陰が顔を覆うと、無意識にため息と一緒に泣き言で出てしまう…。

 

「疲れた…マジで疲れた…」

 

 ナンパ…ねぇ。

 

 一瞬…幻聴だろうとは思うが…ザッ…と、ブラウン管テレビが流す雑音が耳を刺した…。

 

 

 …。

 

 

 はっ…何がナンパだ。ありゃただのキャッチだ。

 

 昔から設置されている古いネオンと、真新しい最新型のネオン。

 蛍光灯とLEDの光が入り混じる、嫌と言う程見ていた夜の風景が、目の裏に映った気がした。

 

 …。

 

 目の疲れが溜った時特有の…あの刺すような痛みまで感じる。

 似たような事をやらされていた時に比べれば、先程までの事なんて平和その物だ。解ってはいるのだがどうにも思い出と結びつき…思い出す。

 今、思い返してみれば、あの会社ってのは何をしていて、俺は一体何をアホみたいな種類の仕事をやらされていたのだろう思う。

 考える余裕がない時は、ほぼ洗脳状態…。ブラック企業とボヤキ…塞ぎ込み…自暴自棄になり…。

 

 …。

 

 

 ……はぁ…止めよう。終わった事だ。

 

 今の俺には関係ない。

 

 …。

 

 関係ないが…どうして今更…景色まで鮮明に思い出すようになったんだろう。

 

 全国大会までは、思い返す事はあっても…ここまでハッキリと思い出す事なんてなかったのに。

 そうだ…全国大会までは。…アレが終わった後、それこそ発作とも言える程に、その思い出が不意打ちで蘇る様になった。

 何が切っ掛けだったんだろう…トラウマって奴は不意に蘇るような物だというのは理解はしていたが、突然すぎる。絶対に原因があるはずなんだけど…な。

 

 はぁ…お陰で…とでもいうのか…みほには非常に情けない姿を見せてしまった。誰にも言わなかったし、イエナカッタコト。

 …ま…それは、良い方向へと転がってくれたけどな…。心底救われたと思ったのは…あのサンダースの試合の時以上…だった。

 

 っっと…今はやめるんだ。せっかく行楽に来てんだ。

 …今までにない体験とも言える。

 

 …結局…アイツらとバカ騒ぎするのが、俺は楽しいんだ。

 こんな気持ちで何時までも居たくない。胃痛は激しくなるだろうが…はっ。さっさと行くか…。

 パラソル元へ放り投げてあったパーカに手を伸ばす。

 

「ただ疲れたというのなら、簡単な事だ。…少しで良いから止まれば良い」

 

「………」

 

 …。

 

 はっ…なんつーか…。

 

「相変わらず神出鬼没だな…。んでもって、意味深に普通の事を言うなぁ…」

 

「そうかい? …隆史は少し、生き急いでいる気がしてならないからね。そんな人間は、総じて脚を止める…なんて、簡単な事に気が付かないんだ」

 

 パーカーを羽織りながら、後ろから声がした主に向かって振り向こうとすると…先に回り込み、俺の正面に座った。

 はっ。生き急いでいる…ねぇ。

 

「いつものカンテレはどうした?」

 

「あの子にとって、潮風は毒だからね」

 

「…そうか」

 

 なんつー…か…良いタイミング…。あぁ本当に良いタイミングで現れてくれたもんだ。

 気持ちが沈んだ時には人と話すのが良いってのは、本当だなぁ…。

 

 そういえば…。

 

 見知った二人がいない事に気が付いた。

 ミカ本人がいない時は多々あったが、このパターンは少しめずらしい。

 

「あれ…?」

「ミッコとアキは、私が置いてきた。ハッキリ言って、この戦いにはついていけないからね」

 

 周りを見渡していると、俺に察してくれたのか、んな事を言ったきた。

 ま…まぁ…気にした事は正解なんだけど…。なんつーーか…。

 

「…お前はどこの三つ目だ」

「そういった訳で、日の私はソロ活動だね」

「珍しいな。…お前のその言い回し…というか、戦いってなんだよ」

 

 えらく上機嫌だな。

 

 ただパーカーを取りに来ただけなので、すぐに準備は終わる。

 改めて、腰を下ろし脚を並べて投げ出し…なんつーか…完全にくつろぎ始めた、その珍客を見下ろし、ちゃんと視線を合わせた。

 うー…ん。少々今日は出で立ちが違うな。何時ものチューリップ帽子を被り、何時もの学校指定のジャージを来ているが…スカート履いてないな…。

 野外活動が主な癖に、まったく日焼けをしていない真っ白い脚をブラブラと遊ばせている。

 

 ミカ。お前…水着なんて持ってたんだな…。

 

「どうした。今日は俺、何も食糧持ってないぞ?」

「……私の目的が日々、それしかないと思われていると少々心外だよ?」

「おぉ、珍しい。違うのか」

「それは今、ミッコ達が…」

「……」

 

 それでいないのかよ…。

 

「ただそれだけの理由なら、水着なんて貴重品、態々用意なんてしないよ」

「…水着って貴重品なのかよ」

「海に狩…海に入るのに、水着なんて意味があるとは思えない」

 

「お前…普段、どんな生活してんだ…密猟は犯罪だぞ…」

 

「全ての生命…その母なる海………そしてこの世は弱肉強食…」

「…段々と言い回しがおかしくなってないか?」

 

 そんな事を聞きたい訳じゃねぇ。

 

「まぁ今回は、隆史に聞きたい事があったからね。だからのこの恰好だよ。さすがに往来の人前で、何時もの恰好をするような趣味ないよ」

 

 お前…相変わらず面に言動だけじゃなくて…意味深な表情も作るから、たまに困るんですが?

 

「あぁ、それは隆史の趣味だったね。ならご期待に沿おうか?」

「…皆して俺をなんだと思ってんだ。冗談でも人に聞かれたらヤベェ事を往来で発言すんよ…」

「隆史が望むなら私は構わないよ?」

「おまっ…。はぁ…俺は構うし、その発言は更にヤベェのですけど?」

 

 人が聞いたら、洒落にならん事を次々に発言すんな。

 そして、ジャージのファスナーに手を掛けるな!

 

「……はぁ…で?」

「…で? とは? 私はただ…「この前の事、聞きに来たんだろ?」

 

 頭を掻きながら、ミカの発言に被せて聞く。

 

「…何故、そう思うんだい?」

 

 この間…。

 …あの分家との時の事だろうよ。態々この場でってのは、良く分からんが…多分そうだろう。

 島田の事を気にしていたからなぁ…。そのままよく会話も出来ずにいるからだろうか?

 

「ミッコとアキを、態々置いて来たからだ。んで狙いすませたかの様に、俺が一人になった時に声かけて来ただろ?」

 

「………」

 

「…随分と前に、ミカ。俺に気が付いてだろ」

 

 あれだけ目立っていりゃぁなぁ…知り合いならすぐに俺に気が付いても不思議じゃない。だから…俺に気が付いた人…もっといそうで胃が痛くなる。

 ミカは、図星…なのだろうけど、何故上目使いで楽しそうに笑う。

 

「まっ…最初はそうだったんだけどね…。ただ、久しぶりに水着を着て、ここに来たら…もうどうでも良くなってしまってね」

「はっはー。…そうだろうな。ここじゃ野暮すぎるだろ」

「ふふ…そうだね。…毒気が抜かれてしまった」

 

 こんな行楽地、周りが笑い、はしゃいでいる中でする話じゃないしな。

 その場の雰囲気で、そんな気もすぐに失せるだろうよ。

 

「本当に君は変わらないね…」

「んぁ? 何が?」

「あの北海道旅行の時の様に、私に遠慮がない」

 

 旅行じゃなくて遭難だけどな。

 

「女性に対して、君はどうにも…その軽薄さに拍車がかかる様だからね」

「…女性限定はやめてれませんかね?」

 

「だというのに、私に対しては相も変わらずなのはどうしてだろうね?」

「お前さんが盗人から足を洗ってくれれば、考え直しますよ?」

 

 はっ…まぁ、そんな軽口を繰り返すミカのお陰で、沈んだ気持ちが完全に持ち直った。

 しかし…本当に今日は上機嫌だな、お前さん。

 

「本当に…私を見る目が変わらない…。私にまともに付き合ってくれているのは、ミッコとアキだけだったのにね」

「そうか? …というか、盗人発言に少しは食いついてくれませんかね?」

 

「そうだよ。どうやら世間様では、私は「変わり者」と見えるらしいからね」

「スルーかよ……はぁ…。まぁ、こんだけ放浪生活続けてりゃ、そら見られるわなぁ」

 

「私の顔を知らない後輩もいるらしいよ?」

「…お前…一応隊長だろ…。というか、学校の出席日数足りてるか?」

 

「出席に日数…それは人生に「追及されて都合が悪いなら余計な事は言うな」」

 

 

 一言一言、言葉を交わす度に、一呼吸置くように静寂が走る。

 

「…」

 

「…」

 

 どうにも…この雰囲気は気に入ってはいるのだけど…そろそろ戻らんといかんな。

 ただなぁ…どうやら、俺に会いに来たようだし、ここでミカだけ置いていくというのは、ちょっと酷いだろうなぁ…。

 …林田辺りが、またはしゃぎそうだけど…連れていくか?

 

「…隆史」

 

「ん?」

 

 少し帽子で目元を隠す様に、顔を傾けた。

 見える口元が、軽く結ばれていた。

 

「正直に白状しよう。…隆史は私に対して変わらない。それは嬉しくもあるが…」

「あん?」

 

「…少々、怖くもある」

「怖い?」

 

「……君は…嘘つきだからね」

「………」

 

「冗談ばかり言うしね…」

「………はぁ…」

 

 …あー…成程。

 本来の目的はソレか。あの時も言ったが、島田だからと言って、見る目なんざ変えてやる気何てさらさらないのですが…。

 それでも不安は取り除けなかったのだろう…な。

 ならば俺も…。

 

「まぁ…本音を言えば?」

 

「………」

 

「ミカが島田と言うのが、結構すんなりと納得がいった。それ位か」

「…納得?」

 

「まぁ、ミカの性格…だろうな」

「性格…? すまないが、納得の理由が良く分からないのだけど…」

 

「いやまぁ…似てるだろ」

「…ん?」

 

 似てるなぁ~…本当に似てる。

 愛里寿は、全然似てないと思っていたが、こっちだったかぁ~ってな。

 

「ミカ、千代さんに性格がそっくりだなぁ…って」

 

「………………」

 

「荒唐無稽、何考えてるか分からない所とか…それでいて、変な所は大胆とか…」

 

「………………」

 

「だからミカが、島田だったと聞いて、あぁ…そっかー…くらいか?」

 

「………………」

 

「千代さんの娘さんだと、とても自然に…って」

 

 なんか、口元が更にきつくなった気が…。

 

「フッ…フフッ…」

 

「ミカ?」

 

「…フフ…フフフフ……やはり…」

 

「や…やはり?」

 

 

 

 

「アハハハハハッ!!! ヤッパリ!!」

 

「 」

 

 あの…貴女、そんなに大きな声で笑う人でした…か?

 キャラ変わってます………よ?

 

「タカシッ!!」

 

「はい!?」

 

 あの…顔を手で掴む様に挟むの、止めて頂けませんか?

 普通に痛いんですが…って近い近い近い!!

 

 

「……君は…疲れているんだね? あぁ…ソォダァ……なら仕方ない…疲労困憊なんだね?」

 

「」

 

 

 瞬間…バッと離れて…ゆらゆらと体を揺らし始めた…。

 めちゃくちゃ俺をガン見しながら…。

 

 

 

「じゃなければぁ…そんなツマラナイ冗談なんて言わない…ダロォォ???」

 

 

 

 ぶち切れた…。

 

 

 どしたの急にっ!!

 あの…また顔だけ…って、その顔が近いんですが?

 見た事がない、表情なんですが!? 目がすげぇ見開いて、すっげぇ怖いんですけど!? 

 

「はぁー…はぁー…また…また…。アレもう振り回されるのは沢山だ…」

 

「あの…なにをブツブツ…」

 

「アレと似てる? 在り得ない、アリエナイ…アリエ…」

 

 

 そこから数分間…小さく唇を動かしながら、ずっ……と何かを呟き始めました。

 あの…あからさまにトラウマ再生中になってるよな…これ。

 …俺の目をすげぇ見ながら…そしてまた顔が近い…鼻が当たりそうなんですけど…。

 

 …千代さん…ミカをも振り回すのか…。

 昔何があったんだろう…初めてミカが出ていった理由を知りたくなった気がしました…。

 何時もの口調すら崩れ、目の焦点が合っていない…のですが?

 

「っっ!!」

 

「み…みかさん?」

 

 一瞬…こちらを見てもう一度目を見開くと…。

 

「ふぅ~~~………うん、おちついた」

 

 …と、息が整った…様な顔をしました。口調は戻りう、口元は笑っていますが…目をガン開きしている時点でどうかと思います。

 

「隆史、やはり君は憑かれているんだよ。だからそんな妄言と空想と虚言を混合したような発言をするんだよ?」

 

「………」ダレニデショウ

 

 ぜ…全然落ち着いてねぇ…もはや何を言っているか分からねぇ…。

 こ…ここまでミカが、取り乱すような発言だったんかい。

 眼球がちょこちょこ動くので…もう…本当に冗談でもなんでもなく、恐怖を感じます。

 

「だから、ここで休んでいく事を強せ……お勧めするよ?」

 

「……」

 

 な…なんか、その気迫に、俺の拒否権が発動されない気がします…。

 

 そのままストン…と、…脚をお姉さん座り…とでもいうのか、少し足を崩して身体が落ちる様に座り込んだ。

 しゅっ…と肌が擦れる音がすると…太股を合わせ…。

 

 

「そう…少し横になって休むと良いだろう」

 

 

 目を少し細め…なんだろう。挑発するような目つきになる。

 これは結構見る表情なんですけど…ね? なんか若干、執念染みている様にも見えるその…眼。

 

 

「…今なら、私は枕を提供しよう」

 

 …。

 

 

 ………は?

 

 ジー……と、羽織っていたジャージのファスナーをゆっくりと下ろすと…前だけ開くという少々マニアックな…。

 あ、コレ見た。乙女の戦車道カードで見たヤツだぁ…。

 

 

「…なに、これも2度目。何も遠慮することはないさ」

 

 

 …。

 

 いや…あの…。

 

「隆史も先日の写真選別会で、気に入ってくれたようだし…私としても歓迎しよう」

 

 …。

 

 ミカさんや。ここで膝枕をしろと…そういった事でしょうか?

 話の流れ的に物凄く強引に誘われている気がするのですが…?

 ポンポンと膝の上を手で軽く叩くミカ…。さっさとしろと催促までしてきた…。

 

「いや…あのね、ミカさんや…」

 

「なにかな?」

 

「あの会場での事は不可抗力と言いますか、ミカが勝手に…」

 

「 ん‶ ? 」

 

「」

 

 …。

 

 あかん……眼が笑ってねぇ…。

 

 

 そして圧がすげぇ…。

 

 

 …だから改めて思う…。

 

 

 千代さん、ミカをどういう風に育てたんだ…。

 

 

 どうする…どうする。先ほどまでの心の安定が取れ始めたのが、懐かしく思える事態になってる。

 これじゃ何時もと変わらん…。

 

 あ…そうだ、中村が言っていたな。

 

 堂々と…そう堂々と…だ。

 

「い…いや、非常に魅力的なお誘いではあるのですがね?」

 

「へぇ…魅力的…かい?」

 

「で…ですが非常に申し訳ないのですが…一応、僕にも…かの…じ」

 

 

 …そこまで言って後悔した…。

 あぁもう…ここ最近は無かったので、すっかり忘れていた…。

 そう…何でか知らんが…。

 

 

 戦車道乙女の隊長格は、なぜか…気配を消せる。

 

 

 

 

 

 

「 た か し  」

 

 

 

 

 

 …。

 

 あ、はい…とても聞きなれた声が…真後ろからシタネ。

 

 

 

「 」

 

 

「まずは………継続の隊長」

 

「なんだい?」

 

 

 ギリギリと…動かない首を強引に後ろへと持って行くと…。

 

 

「黒森峰の隊長さん」

 

 

 ま…まほちゃんが…腕を組んで…立っていた。

 

「先日、貴様に警告はしただろう」

 

「覚えがないね」

 

「…そこは私だけの場所だと言ったはずだ」

 

「それを私が聞く理由がない。…そもそもその宣言に意味なんてない」

 

「…………」

 

「 」

 

 あ…あれ…この二人って、面識あったよな。ここまで仲悪かったっけ!?

 完全に睨み合いだした。

 

「あぁでも、君にも感謝はしているんだよ? …君が視界に入った時、冷静さを取り戻させてくれたんだ。アリガトウ」

 

「…なんの話だ?」

 

 …。

 

 はい?

 

 …ま…まさか…目線が定まらなかった時って…俺の背後に、まほちゃんを視認していたって事か!?

 ワザとか!? ワザと黙ってたなっ!? …そ…そう言う事するから…。

 くっ…それよりも…。

 

「あの…まほ…ちゃん?」

 

「なんだ浮気者」

 

「」

 

 …こ…こちらを見もしねぇ…。

 

「なんで…ここに、いらっしゃるのでしょうか?」

 

「隆史がみほに、今日の行先を報告したからだな」

 

「…こ…答えになっていないんですが…」

 

「なぁに…お前を驚かそうと思ってなぁぁ…。彼方此方探した結果……逆に、こちらが驚かされてしまったという訳だな。隆史はサプライズが随分と上手なようだ」

 

「  」

 

 ……。

 

 い…いる…。

 

 まほちゃんだけじゃねぇ…ここに…全員…。

 

「もういいかな? 隆史、では遠慮なく私を使うと良い」

「言い方ぁ!!」

 

 華さん思い出しちゃったじゃないかっ!

 

「結構だ」

 

「君には聞いていないね」

 

「結構だと言っている」

 

「……」

 

「……」

 

「いやあの…俺の意思は………っっ!!??」

 

 っっっ!!??

 

 さ…殺気…。

 同時に振り向くのはやめてくれっ! ミカが…完全に変わった気がする。

 

「…まぁそうだね。ここは本人の意思を尊重しようか。すべては隆史に…だね」

 

「なに? ………成程。一理あるな」

 

「ま、そういう趣向だね」

 

「…面白い。乗ろう…受けて立つ」

 

 ………。

 

 まほちゃんが、スッ…と動き…ゆっくりと腰を落とし…ミカと向かい合って座った。

 し…白いビキニが眩しいね…。

 

 …。

 

 ……ダメだっ!!

 

 現実逃避も出来やしねぇ!!

 

 あ、うん。もはや周りの情景とかどうでもいいや。んなもん見てる余裕なんて蒸発したわ…。

 ミカとまほちゃん…この二人を見ていると、どうにも思い出す二人がいる。

 

 変に張り合う二人…。

 

 

 

「「さぁ…隆史」」

 

 

 

 

 主張する様に…太股を見せつけ…これまた綺麗にハモって喋る。

 

 似てる…本当に似てる…。

 

 

「「何方が良いか…選べ」」

 

 

 

 しほさんと…千代さんと二人が被って見える…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …なんて…事が…恐怖の序章に過ぎなかった事に…すぐに気が付く事になった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

 

「はい。んな事がありましたとさ」

 

「「「「  」」」」

 

「To be continued…」

「お…お前…尾形…何て目で海を眺めてやがる…」

 

「はっ…離せ隆史君っ!! 海パンを掴むのは卑怯じゃないかい!?」

「……」

「まっ…! まほがいるんだろう!?」

「常夫さん…。今更逃げようなんて思わない事ですね…俺は逃げれなかった……」

「え…」

 

「まぁ正直に言ってしまえば? 膝枕…その二人の出した選択肢に対して、堂々となんて…できるはずもなく…」

「そ…そりゃそうだな…俺でも無理だ…」

「物理的に逃げようとした訳さ…走ってな」

 

「「「「「………」」」」」

 

「……で、だ…。こっから本当の恐怖だ」

「尾形…西住選手に、ここまで着けられたのか!? そりゃ大丈夫なの…ヵ…って…」

「…いいか、中村。もはや常夫さんの現状を、まほちゃんとみほに隠す…とかそういった次元の話じゃねぇんだよ…」

「どうい…」

 

「最終兵器がやって来た」

 

「は?」

「いやぁ…これは俺も完全に予想外でな…。まぁ、あの人ならすべて裏で丸く収めてくれるだろうから、俺としては西住家はもう心配してねぇから良いんだけど…」

「どういう事…だ?」

「ずるいよなぁ~…ここに来て、安全なのは提案者の林田だけだ…つまり…」

 

 

 

 

「中村…林田…そしてオッサン共……もはや俺らに、逃げ場はないと理解してくれ」

 

 

 

 

「…ど…どいう事だ? 小僧、お前の言う娘さんって、西住さんの娘さんの事だろ?」

「そうだよ、尾形君。それは少なくとも僕と五十鈴さんには…」

 

「 …優花里さん 」

「 了解です! すでに電話は繋げてありますから!! …『 …あ、お母さん? 今……どこにいる?』

 

「「 っっっ!!!?? 」」

 

「……なぁ尾形…すげぇ聞き慣れた声が…真後ろからしたんだけど…二人揃ってすげぇ冷たい声出した!!」

「……」

 

「振り向くのがすげぇ怖いんだけどっ!!??」

「…林田。お前は今回は安全圏だ。むしろ…」

「…ぉ…ぉお!?」

 

「…Hye、色男…」

「っっっっ!!!???」

 

「今回は中村だな…」

「うっ……わぁ…」

 

「……さて最後に、常夫さん。覚悟してください」

「しほ…かっ!? しほが来てるのかっ!?」

 

「……はっ。しほさんの方が数倍マシですね…」

「…え……いやいや! ここ大洗だよ!? ありえな……」

「……」

 

「 」

 

 …。

 

 ……。

 

 

 

「オヒサシブリデス、旦那様」

 

「    」

 

 

 

「さて…笑えよ…何時も通りに笑って、あのふざけたコントを続けろよ…。今回は俺も乗ってやる…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこう…出発直前に限って、ご来客の方がいらっしゃるのでしょう。

 

 本来ならば、業者の方に来て頂くはずでしたのに、急遽…との事でしたので、郵便局へと赴こうとしていた。

 全ての荷物をまとめ、配送の手続きをしに出ようとした矢先、聞きなれたお屋敷の呼び鈴が響きました。

 

 あ、そういえば…この前来ていたお便り、一緒に送付しておきましょうか? 連絡入れるのは簡単ですか、こういった事は直接その場で知った方が…っと。

 まぁそれは後にして…えぇ…と、今のは裏口の呼び鈴でしたね。本来、その裏口の呼び鈴を鳴らされる事はあまりない。今現在留守中の家主か、そのご家族…もしくは、親しくされているご友人の方々にほぼ限られる。

 用意していた荷物に視線を流し…少し考えましたが、まぁ…大丈夫でしょう。通常のお客様などは、本家正門の呼び鈴を鳴らす。

 この裏口の存在を知っている方でしたらば、問題はないでしょう。それに、この荷物を送り届けるのも、本日中に手続きをすれば良いだけの話。

 私自身は特段急いでいた訳でもなく…何時ものように特に気にせずに、その来客主へ返事を返す為、廊下に設置されている電話の受話器へと向かう為に腰を上げた。

 

 襖を開け、家主のいない…その広い屋敷の廊下に出る。誰もいない、物音もしない、私だけがいる現在のお屋敷。

 もう流石に何年も奉公していれば慣れているとはいえ、どこか物寂しさを感じてしまう、これもまた見慣れた…いつもの廊下。

 

「……あら」

 

 …いえ、少々違いますね。

 

 廊下に出た時に、先ほどまで聞こえていた声が更に大きく聞こえてきました。そのお陰で来客が誰なのかが、なんとなく察しがついてしまいました。

 何時もは全くと言っていい程吠えない、来客方全員に尻尾を振り、愛想よく振舞う屋敷唯一の番犬…。

 空き巣や泥棒など来たとしても、尻尾を振り懐いてしまいそうで心配なのですが…まぁ、その我が家の番犬様が、全力で威嚇の咆哮を上げていました。

 

 …隆史君でしょうかね?

 

 唯一、彼にだけは昔から懐かない。外からでも解るのか、玄関外で扉が閉まっていようが唸り声を上げだす程…。

 彼が動物好きなだけに、噛まれようが何されようが、頭を撫でるので…何か涙ぐましいものを毎回感じてしまうのですよねぇ~。

 ですから、我が家の番犬が唸り威嚇し吠える。それがイコールとして、彼が来たのだと察しが付いてしまうと言うもの。

 ん~…でも彼は今、大洗にいると思うのですが…と、言いますか、あの荷物を送る理由が彼であり、いくら急いでいるとはいえ、取りに来るとは考えにくいのですが…。

 なんにせよ、何時までも来客のお客様を放っておくわけにも行きませんので? 最近になって、またよく顔をだしてくれる彼に…。

 

 

 …。

 

 

 到着した玄関。

 

 彼でしたら……と、何時もでしたらば、すぐに開けるその裏口玄関。

 その後すぐに鳴る、2度目の呼び鈴に視線が動く。

 玄関ドアのガラス越しに映るシルエットを見て…彼ではないと、すぐに解りその足を止めた。

 

 

 …。

 

 さて…どうしましょう。

 

 別の意味で、誰だか解ってしまいました。

 そのシルエットを見て、隆史君ではありませんが、あの言葉…そう、一つの気持ちしか浮かびません。

 

 ダルイ。

 

 …面倒くさい…のが来ましたねぇ~…としか思えませんねぇ。

 

 …。

 

 えぇ、そうなると行動は一つですね。

 普段でしたらば、どのような方がいらっしゃっても、対応するのが当たり前ですが…現在、家主様も居ませんしこれ位の怠けでしたらば許されるでしょう。

 えぇ、えぇ…無視しましょう。居留守を決め込みましょう。

 

 キャンキャンと吠える目の前の家族は、珍しくその名の通り、番犬としての役目を果たしくれました。

 なんの御用でこの場所にいらっしゃたか存じませんが、一回対応すると…それはもう、鬱陶しい事この上ないですからねぇ~。

 お誂え向きに、固定電話に着信が入ったようです。ジリリンと、ベルの音が鳴り響き始めました。まぁ…電子音でなんですけどね。

 

『 どうやら、お留守の様ですね 』

『 面倒なご機嫌取りに来てやったってのに、まったく 』

 

 これ以上玄関に近づくと、居留守を使っているのがバレてしまいそうですし、元気よく吠える番犬様を眺めてながら黙っていたら、玄関外での会話が聞こえてきました。

 …早く諦めて立ち去ってはくれませんでしょうか?

 あ…電話が切れてしまいました。

 

『 今更ですが…何故、裏口からなのでしょうか? 』

『 んん? あぁ…此方は居住区と直結してますから。…ですから、さっさと家元と会えると思いましてね。犬がやかましいからあまり来たくはなかったんですが 』

 

 はぁ…またご機嫌伺いですか…。

 昔から偶々近くまで来たと、見計らったかのように来ていらっしゃいましたが…今日は残念。外れましたね。

 あ、そういえばいましたね。この子が隆史君以外に吠える人がもう一人…。

 これは子供の頃からですが、なぜでしょうか。…とても共通点があるとは思えないのですが。

 …あ、また電話。

 

『 犬? あぁ、先ほどからギャンギャンと吠えてますねぇ~。西住さんは動物はお嫌いですか 』

『 えぇ嫌いですね。…まぁ僕自身、昔から動物の類に頗る嫌われるみたいですから面倒がなくて良いですが 』

『 おや、こんな話に乗ってくれるとは思いもしませんでしたよ。ふむ、動物に嫌われる…ですか 』

『 えぇ、古今東西、あらゆる動物に嫌われますね。お陰で近づく事もないので、ある意味では感謝しているんですよねぇ~この変な体質 』

『 体質? 』

『 ほら、動物園とかあるじゃないですか。子供の頃とか行った事あるのですが、園内の動物が一気に騒ぎ出すんですよねぇ 』

『 それは…すごい体質ですね…いるのですねぇそのような方 』

 

 …世間話し始めましたね…。

 誰かしら出てくるまで居座るつもりなのでしょうか? はぁ……面倒くせぇ…って奴ですね…。

 …はぁ…また電話が切れましたね。

 

『 はは。特に犬が嫌いでしてね…。この今も吠えてる、やかましい毛玉のお陰で、この裏口に来るのが非常に嫌だったんですけどねぇ… 』

 

 …あら、この子、本当に番犬としての役目を果たしてくれていたのですねぇ。

 帰りに良いご飯でも買ってきてあげましょうねぇ。頭でも撫でて上げたいのですが、これ以上近づけませんので、後で褒めてあげましょう。

 …しかし…先ほどから電話が何度も掛かっては切れてを繰り返してますね。…あの方達のお陰で、電話を取る事もできませんよ…まったく。

 

『 先程から中で電話の音がしますが…誰も出ない様ですし… 』

『 ………チッ。キャンキャンと…やかましい 』

『 …ふむ。誰も出られませんね…本当にお留守のようですね 』

『 はぁ…でしたら、さっさと次に行きましょう 』

『 おや、決断がお早い 』

 

 むっ。漸く帰ってくれそうですね。

 

『 正直やかましくて溜まりませんよ…今回は特に重要な用事でもありませんし、さっさとこの場から立ち去りたいだけです 』

『 そうですか…本当に犬、お嫌いなんですね 』

『 えぇ。……特に…ここの犬はね…… 』

『 はい? 』

『 いえ、なんでも。では大洗に行く前に、先に例の男に会っていきましょう 』

『 …本当にお会いになるんですか? 』

『 まぁ? どちらかと言えば、そちらの方が重要な用事なんですよねぇ~。ですから辻さんにも態々ご足労願ったんですよぉ? 』

『 …ふむ 』

 

 …。

 

 その会話を最後に、玄関ドアからシルエットが消えました。

 …最後…少し気になる事を言っていましたね。最後、名前を出していましたが…辻…ですか。

 

 …。

 

 っと、考え事すらさせてくれないのでしょうか?

 次は、家の電話ではなく、私の携帯電話が鳴り始めました。

 あぁ…やっぱり。でしたらば、先ほどの切れた電話の相手も…。

 

 着信の画面に映し出される名前に、察しが付きました。

 此方はお仕事ですからね…荷物の件の確認か何か…でしょうかね? 携帯の画面をスライドし、対応した瞬間…。

 

 

 

『 菊代さん! 』

 

 

 

 …何か焦ったかの様な奥様の声が聞こえて来た。

 この方…私にだけは、たま~~に、子供の様な事を言い出す。ある意味ではガス抜きの様なモノだと思いますので、素直にお相手するのですが…。

 私の名前を「さん付け」してきた辺り、今回もそうなのでしょう。携帯では珍しいですけどね。

 

「どうされました?」

 

 …この様子なら、やはり先程の電話も奥様で間違いありませんね。

 今の時間でしたら…仕事の休憩中…なのでしょう。今度はどの様な愚痴を聞かされる事やら…。

 はい、案の定ですね。普段の彼女から想像もできない程に、早口に何やら喋り始めました。

 

 奥様は奥様で、周りからのストレスと日々奮闘されていますしねぇ…えぇ…。

 

 ……。

 

 ………。

 

「えぇ…えぇ…」

 

 本音で話す事が出来るのが、私しかいないのは解ります。

 ですが、毎回毎回…業務や睡眠時間に支障が出る程に長くなるのはご勘弁願いたいですね…。

 このタイミングであの長さでのお話ですと…荷物を送るのに間に合わなくなってしまいます。

 

 

 …あ。

 

「奥様?」

『 なんですかっ!? 』

 

 一度、私が聞きだすと、本当に喋る機会もなりますからね…。ならばと、山のような愚痴が始まる前に、一つ確認を…と言いますか、釘を刺しておかなければ。

 

「今、頼まれていた物を送ろうと、お屋敷を出るところなのですが…」

『 えっ…あ…、はい。お願いしますね… 』

 

 …ふむ。ちょっと荷物の言葉に、冷静さを取り戻されたのか…口調が大人しくなりましたね。

 ですが…。

 

「少し古い物でしたので、探すのに苦労しました…。隆史君がそういった気になってくれたのが、奥様が嬉しいのは解りますが…あまり浮かれないで下さいね?」

『 う…浮かれてなどいません。確かに隆史君が… 』

 

「 水着撮影の件もあります 」

 

『 』

 

 まったく…あの後、話を聞いて愕然としましたよ…。

 戦車道連盟に私が所属しているの…奥様が知らないはずないでしょう…。理事長から奥様を宥める方法を聞かれた時に知ったのですが、開いた口が塞がらないとは、まさにアレ…。

 

「はぁ…隆史君も男の子です。みほお嬢様とお付き合いされているのですから、尚更に気を付けて下さらないと、今度はお嬢様ら勘当を言い渡されますよ?」

『 あの…菊代さんは、何を言っているのですか…? 水着撮影の件でしたら、まほとみほにも… 』

「…状況が最悪だったではないですか?」

『 …… 』

 

 …。

 

 この声は、何を言いたいか本当に解らないという感じですね…はぁ…。

 

「お嬢様達に隆史君と、ホテルの一室で二人きりで水着姿で撮影をしたと言えますか?」

『 そ…それは… 』

「疑われても仕方がないと、私は言い切れますが」

『 さ…流石にそれは…。隆史君はみほと同い年ですよ? 娘達も、それを変に勘繰るなど在り得ないと… 』

 

 幼少時期から、お嬢様方の一番の不安の種は、ソレだったのですが?

 隆史君が奥様と話している時なんて…光が無い目をしながら真顔で見られていた事に気が付いてなかったのでしょうねぇ…。

 

「 若 気 の 至 り 」

 

 …という言葉をご存じではないんでしょうか…? はぁ…。

 

「その様な言葉もある位です。彼もそろそろ本格的に、男の子から男性と言える年代になってくる頃ですよ?」

『 そ…そうですね…、昔から背は高い方でしたし、体つきもかなり…「今、そういう話をしているのではありませんっ!!」 』

『 』

 

 奥様も隆史君を昔から可愛がるあまり、感覚的にちょっとおかしいのではないでしょうか?

 甘い甘いとは思っていましたが、みほお嬢様の新居に、借家とはいえ一軒家を用意させられた時には、頭大丈夫でしょうか? この主人は…とか、正気を疑いました。

 むっ…ダメですね…。私もお説教を長々としてしまう流れになりそうです。

 はぁ…それに流石にもう時間もありませんし…最後に。

 

「そういえば…奥様?」

『 な…なんでしょう? 』

「これらを送るのは良いのですが…今現在は何処で隆史君に? 奥様もお仕事でお忙しいでしょう?」

「そうですね…大体終わるのは夜になってしまいますね。ですから…」

 

 …まぁ…彼の自宅でしょうか? みほお嬢様…あ、今はまほお嬢様もいらっしゃるから大丈夫でしょうね。

 むしろ、隆史君…ある意味で、とても贅沢な先生達に…

 

『 仕事が終わってからですから…私の宿泊ホテルの部屋ですね 』

 

 

 …。

 

 

「  は?  」

 

 

 今、何て言いました? この家元。

 

 

『 隆史君が娘達には内緒にして欲しいと言われていましたので…他にする場所がありませんしね 』

 

「  は?  」

 

『 まぁ…それはそれで、とてもいぢらしいじゃないですか…。今の状況下ですので、みほ達に、心配や手を煩わせまいと… 』

 

「  は?  」

 

 …………。

 

 冷静に…冷静に…。

 

「…あの…奥様…」

 

 此処でお説教を本格的に始めてしまうと…夜中にまでなってしまいそうですし…ね…。

 

『 はい? 』

 

 冷静に…えぇ…。

 

「……モォ…ラルってぇ…言葉をご存じですか?」

 

『 …菊代さん? 』

 

「ただでさえ、今…隆史君、月間戦車道の記者連中に目を付けられているのですよ…」

 

『 何を言って…彼は男の子ですよ? 何故あの連中が注目… 』

 

「はぁーー…。はぁぁぁぁぁ…」

 

『 菊代さん? 』

 

 ため息しかでません…はい……胃痛が酷くなってきました…。

 

「島田家の偽装婚約から始まり…現役の強豪校のスター選手との関係性…。更には西住流家元のご息女との交際相手…目を付けられていない方がぁぁ…不自然でしょう? この業界、ゴシップに飢えている連中が、どれ程いると思っておいでですか…」

 

『 …菊…よ「 いいですかっっ!! 」

 

「どれだけ奥様達の無茶に付き合わされてぇ…連盟本部での私の仕事が増えたと思っているんですか!! 特にマスコミ連中のしつこさなんて…あぁぁぁもうっ!! 」

『  』

 

「そもそも、私の連盟所属部署はご存じでしょう!? スカウト業務ではなく、何故奥様の水着審査やマスコミ対応等の仕事を回されなければならないんですかっ!? あの理事長、私に丸投げしてくるだけではないですかっ!!」

『 そ…それは流石に私は知らな… 』

 

「やっと全国大会も終わり!? 落ち着き始めた矢先に、奥様が娘の交際相手との不倫現場とかなんとか言われて、写真に撮られてごらんなさいっ!! 隠居連中に即!! 呼び出しされますよっ!!」

『 あの…き…菊代さん…落ち着いて… 』

 

「隆史君が戦車道の勉強を、本格的に始めたのが嬉しいのは理解します!! がっ!! しっかりと考えて行動してくれませんか!? 思春期の男の子を、夜部屋に引っ張り込んで何考えてるのですかっ!!」

『 如何わし言い方しないでください…。い…言いたい事は解りましたが、あの隆史君に限ってありえま… 』

 

 何も解ってないっ!!!

 

「 あの隆史君だから不安なんでしょうっ!? わかっていますか!? 理解しておいでかっ!? あの天然ジゴロを私も幼少から見ているのですよ!? 更には、小さい頃から奥様にベタ惚れだったではないですかっ!!」

『 ベタ惚れって… 』

 

「なに嬉しそうな声だしているんですかっ!! それですよ、それっ!! 見っともないっ!!」

『 …なっ!? 』

 

「今回の追加教材を送るのは、まぁ良しとしましょう…ですが…その状況を作り出す手助けをしていると思われるのは心外ですので!? これはみほお嬢様のお宅へ送らせて頂きますっ!!」

『 待ってくださいっ! それでは、たか「甘いっ!!」

 

「甘すぎるっ!! 奥様は隆史君に甘すぎますっ!! ですから、あらぬ疑いを掛けられても、此方からは何も言えないではないですかっ!!」

 

 …えぇ…えぇっ! 私も隆史君には甘かったっ!! お嬢様方の顔を見ていれば、大体の事を許してしまう。

 結局の所、住まいを用意する旨も、みほお嬢様の事を考えてしまったら…受託してしまった。

 隆史君にも一度…みっちりとお説き…いえ、お話をしなければナリマセンネ。

 

 …まったく…私が大きい声を出すなんて…奥様くらいなものなのに…。

 

『 しかし…ですね? 』

「しかし!? しかし、ではございませんっ! はっきりと言わせて頂ければ、今の奥様には旦那様の事は言う権利はございませんっ!!」

『 …なっ!? 』

「たかだか、女性が接待するお店に行かれた位で、浮気がなんだと言われたら、むしろ旦那様がお可哀そうです!!」

『 菊代さんは、あの浮気者の肩を持つのですかっ!? 』

「肩を持つとかそういう問題ではありませんっ! 男、仕事の付き合いも御座いましょう。たかだかキャバクラ位で何を言っているのですかっ!!」

『 たっ!! たかだかっ!? 』

 

 男性に免疫…という問題でもない…。

 女性が主な競技の中…それこそ蛆のように、下衆な男共は沸く。例の髭とか…ですね。よくその様な連中相手に、そんな調子で渡り合ってきたものだと…。

 張り詰め、上から下から押さえつけられて、それでも結果を出さねばならない家元という立場の中ならば仕方がないとも思えるのですが…。

 奥様は昔からそう…一度心を開いた男性には、とてつもなく弱く…そして酷く脆い。

 だからその相手…旦那様の行動が、裏切り行為とも取れてしまわれたのは、無理もないとは思います。

 

 そして…何故か隆史君は、奥様の芯を子供の頃から見抜いていた。ですから…そんな奥様の事を「可愛い」と言う。

 私も初めは、子供言う事ですから表現方法が少ない為の言葉と思っていましたが……後にあの子…本気言っている…と分かった時は、少々薄気味悪くも思ったくらいですよ。

 それらに拍車が掛かっていく…お嬢様型に厳しく接する事しかできなかった奥様ですが、子供を可愛がりたいという、母親らしい欲求も当然あったのでしょう。

 

 …それらが全て隆史君へと流れてしまっていた。

 

 うまくその甘さが、お嬢様方へにも流れ…丁度良いバランスが出来上がってしまったので…どうにもならなかった…。

 そして可愛いを連呼する、あの天然ジゴロ…。

 

 周りには張り詰め、威嚇している女性が、特定の男性には甘い。それは男性からすれば、可愛いと感じ取れるもの…いじらしく感じてしまうのでしょうか? 

 

 奥様を少しでも理解している様な隆史君…それがまた、奥様はどこかで…感じ……

 

 

『 結婚もしていない菊代さんには、理解できませんよっ!! 』

 

 

 …。

 

 

 …………。

 

 

 ……ミシッ!

 

 

『 菊代さんも一度、お相手を見つければわかりますよ!! 』

 

 

 ………。

 

 

 ……………。

 

 

「…………」

 

『 それがっ!! どれだ…け… 』

 

「…………」

 

『 つら…い…ものか…と……あの… 』

 

「…………」

 

『 あの…えぇ…と…菊代…さん? 』

 

「…………」

 

『 ……… 』

 

 

 ……。

 

 

 

「  奥  様  」

 

『 は…はい… 』

 

「私、2、3日お暇を頂きますね? ご了承頂けますか? そうですか、ありがとうございます。…あぁ、なら丁度宜しいですね。丁度時間ができましたので? この荷物…直接そちらへと私自らお届けに上がります、そうします」

 

『 っ!? 』

 

「久しぶりにみほお嬢様のお顔を見たいとも思っていましたので? あぁ、隆史君にも…特別、特大な!!! …要件も御座いますし、できましたし、ありますので? ……此方も丁度都合が良ろしいですネ。では、今すぐ大洗へと出立いたします」

 

『 菊代さん…あの…落ち着いて…それは流石に…大変で…しょう? ですから… 』

 

「だぁぁいじょうぶですよぉ? ………所詮、私独り身ですから」

 

『  』

 

「…ついでに旦那様にも私あってきますから…えぇえぇ、ですから奥様……」

 

『 は…はい…? 』

 

 

 

 

「首を洗って、待っていてクダサイネ?」

 

 




閲覧ありがとうございました。

河西さんの変化は次回。

次回閑話終了。
今後しばらくは本編を書いていきたいと思ってますエロいの書きたいけど。

ありがとうございました

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