転生者は平穏を望む   作:白山葵

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はい、今回はリハビリ回です。
全く文章が書けなくなっていた為、思い出す為に日常回。
というか、時間系列的にすでに辻褄合わせが厳しすぎるので、エキシビジョンまでの最後の日常回になります。

いやぁ…やっぱり書く時間が少ない…。



【閑話】それは、絶望すら生温い

 朝。

 

 特にする事もなかったから、一人居間で暇を持て余していた。

 今日ぽっかりと空いてしまっている予定をどうしようか…と、その居間の縁側から外を眺めながら考えてしまう。

 本当にする事がない。久しぶりだよね、こんな時間。ルームシェアとも言える今の生活は、騒がしくも楽しくて…こんな風に一人きりになるって事がそんなにある訳じゃなくなっていた。

 

 不思議だよね…ほんの一年前とは、正反対…。

 

 西住流…家元の娘。お姉ちゃん…西住まほの妹…。小学生や中学生の時とは違い、それがとても強く浮き彫りになっていた。

 派閥なんてモノが私を中心にできるなんて、夢にも思ってもいなかった。…それは先輩達も巻き込んで、学校全体に及んでしまっていたなんて…多分、沙織さん達に言ったら、驚かれちゃうだろうなぁ…。

 おかげで本当の意味で私はずっと…一人だった。

 

 …だから思うの。

 

 あの頃の私に友達って呼べる人…いたのかな? って。赤星さんは優しかったけど…どうなんだろう。

 

 エリカさんは…

 

 …。

 

 今でも思い出すとゾッとしてしまう。

 何よりもあの…決勝戦の後。

 

 派閥…なんて言うものだから、上辺だけでも私の味方はいた。味方…なんて呼び方が正しいのかは分からないけど、とにかくいた。…いたんだと思う。

 決勝戦の敗因としての私に対して、すでに何かしらを諦めてしまったんだろう。

 それでも「私の味方」を謳った人達は、その私に対して落胆をするとか、そういう事ではなく、ただ、ただ…。

 

 他にも色々な嫌な言葉がしっくりとくる様な事が…もう、たくさんあったなぁ…。

 何もかもが嫌になって…ワカラナクなって…。

 

 

 

 逃げだして…。

 

 

「………」

 

 ふふっ…

 

 

 うん!

 

 逃げちゃったっ!

 

 

 …。

 

 強調してもう一度強く思う。

 

 あの時だなぁ…。

 

「逃げ」という言葉を肯定してもらってから、私の中の奥の…本当に奥の部分がすっごい軽くなっ…………。

 

 

 なっ…って…。

 

 

「………」

 

 

 

 ぅぅ…。

 

 前は繰り返して思い出しちゃっていたけど…あの日の夜から、どうにもこうにも…思い出しちゃって…。

 

 嬉しいやら、恥ずかしいやら…で…ぅぅぅ…。

 

 う…うん。

 

 そっ! …そんな私が転校して…。

 

 友達ができて……。

 

 た…隆史君が転校してきて…それから生活が、何度も何度も一変して…。

 

「………ふふっ」

 

 自然に笑みが零れてしまう。

 日が当たり、白く光る庭先の芝を眺めながら、縁側から少し投げ出している脚を、ぶらぶらといつの間にか揺らして…遊ぶ。

 妙に熱くなった顔や、なんとも言えないこの感情をごまかす様に…。

 脚の指先で、芝を摘まんで…引き抜いちゃう様にもて遊びなから…いっぱい、いっぱいどんどんと思い出す。

 少しでも思い出してしまうとそれにつられて、どんどんと。

 いくつも…大変だった事がいくつも思い出してしまう。けど…それと一緒に起こった…楽しい事や嬉しい事…それも一緒に思い出して…。

 

 

 

「…あれ、みほ?」

 

 

「っっ!?」

 

 …びっ…くりしたぁ…。

 

 に…庭の…というか、隅っこの家の影から、突然隆史君が顔を出した。

 思わず脚の指先で…ちょっと子供っぽい遊びをしてしまっていた状態を隠すように脚を閉じる。

 

「隆史君…なんでそんな所にいるの…」

 

 ちょ…ちょっとはしたなかったよね…うぅ…。

 

「あぁ~…家の裏に小さな社あってな? 引っ越して来た時から、たまにこうして掃除していたんだよ」

「それから朝食の後から見えなかったんだ…どこか出かけちゃったかと思ったよ」

 

 そう言うと、あぁ…成程…とすぐに思える程に…なんていうか…。

 

「後…なんか隆史君、用務員のおじさんみたい」

「まぁ…うん。こういった格好、掃除の時楽なんだよ…というか、笑わないで欲しいんだけど…」

 

 頭にタオル。その上から麦わら帽子被って姿で、手に持った掃除用具一式を此方に見せるように上げた隆史君の姿。

 そして少し遅れてクリスちゃんが、足元から私に尻尾を振りながら顔を出した。私の第一印象を口にすると、少し困った顔で笑ってくれた。

 つられて…私も笑ってしまう。

 

「だって妙に似合うんだもん」

 

 …。

 

 あぁ…なんか、すごく良い…。

 

 久しぶりに、なんて言うか…こういった時間。すごく…。

 ちょっと先に片付けてくると行って、玄関前へと庭から出て行った。

 その後ろをテコテコ、小さな足で歩いて後ろをついていくクリスちゃん。

 わ~…本当に隆史君に動物が懐いてる…。もう何度も見た光景だけど、私とお姉ちゃんは、見るたびに驚いちゃう。

 少しすると、手を洗ったのか、ハンカチで手を拭きながら戻ってきた。

 

「んで、みほは今一人か?」

 

 戻ってきて私の後ろ、誰もいない居間を見ながら聞いてきた。

 

「え? あ、うん。みんな出かけてるみたいだよ? お姉ちゃんは、登校日で…あ、そういえば戦車道の練習…今どうしているんだろう…。ずっと家にいるけど…」

「夏休みだからじゃないのか? その為の登校日だろ?」

「まぁ…うん」

 

 …隆史君は黒森峰での生活は知らないものね…。

 お姉ちゃんの現在が、どれほど異常なのか解らなくても仕方ないか…。お姉ちゃん、もう引退だから大目に見てくれてでもいるのかなぁ…。

 

 …。

 

 それはありえないか…。

 

「んで?」

「え? あ…うん、それで麻子さんは、お婆さんの様子を見に行ってくるって」

「あぁ、あの婆さん、一人暮らしの状態だしな」

「うん。そ…それで、華さんは…」

「華さんは?」

「他界したはずの…」

 

「もういい………了解。…解った…」

 

 あ~…うん。そ…そんな感じかな。

 華さんが出かけた理由を話し始めてた辺りから、頭を押さえた隆史君…。なんだかんだ、華さんのお父さんと仲良い様に見えるんだけどなぁ…。

 両手に持っていた掃除道具…バケツとかを地面に下すと、ふ~…と少しだけ深く息を吐きながら下を向いた。

 そのまま自分の足元を見ながら、現状を確認するかのように…。

 

「んじゃ、今この家にゃ、オレとみほだけか…」

「うん、そうなるね」

「みんなの用事を考えると、しばらく帰ってきそうもないな」

「…え? そ…そう…だね」

 

「…そうか」

 

「う……うん」

 

 

 …。

 

 

 ………。

 

 

「…………」

 

 へ…変な静寂…。

 

 だ…黙ちゃった…。

 

 な…なんでだろう…変にドキドキするんだけど…。

 

 おもわず周りを見渡してしまう…。いつもだったら、ここら辺でお姉ちゃんが帰ってくるんだけど…。

 

「……そうか、二人きりか」

 

「……ぅ」

 

 あ…二人きりの状況って…その…久しぶりかも…。

 

 

「あ~…みほちゃん?」

 

 

「はいっ!?」

 

 

「なんでそんなに顔、赤いんだ?」

 

「………っ!」

 

 だっ! 誰のせいだとっ!

 

 い…いや、それは私が勝手に思い出していただけで、わかるはずないだろうけどっ!?

 その原因を作った人が、本当に訝し気な顔で聞いてくると…もう…こうっ!

 さらに熱くなってしまった顔を彼に向けると…どうにも聞いてはダメな事を聞いてしまった。そんな感じで誤魔化すように…。

 

「まぁいいや…」

 

 …と、いつもの様に呟いた…。

 

「良くないですっ!」

「…えっと…んじゃ、詳しく聞いて良いのか?」

「そ…それも、ダメっ!」

「んじゃ…どうすりゃ良いんだよ」

「知りませんっ!」

 

 もう…。

 何がそんなに面白いのか…隆史君は、思わず顔を背けてしまった私の反応を見て、小さく笑い出した。というか、笑うのを堪えている。

 我慢してるのわかるもん。口端が上がるの、強引に抑えてるしっ!

 あ…まずい、ここで変に意固地になると、今度はそれはソレでってことで、隆史君が悪乗りしてしまいそう。

 

「あぁ~まぁ、なんだ。みほさんや、話は変わるが…」

「なっ…なにっ!?」

 

 あ…アブナイ。まだその気ににはなっていなかったみたいだった…。

 頬っておくと、本当に今状況を吐かされてしまいそうで、彼の2回目の誤魔化しに即座に乗った…。

 

 ……。

 

 あぁ…うん。

 

 妙に冷静な私もいる。

 

 こういったやり取りも…楽しいかも…。

 

 うん…たのしい。

 

「あの…みぽさん?」

 

 っっと…危ない、危ない。

 今度は私が、笑ってしまうのを我慢しなきゃ。口端が上がってしまいそうなのを、我慢する。

 よほど変な顔をしてしまっていたのかな…妙に微笑ましい顔で見てくる隆史君が、ちょっと小憎たらしいかも…。

 

「な…なに?」

 

 もう一度同じセリフを口にする。

 

 …。

 

「みんな出かけちゃって、誰もいないならさ」

 

 

 ………。

 

 少し言い辛そうにした隆史君を見て、足元にずっといたクリスちゃんが一度隆史君を見上げた。…すぐに私に近づいて…縁側を身軽に飛び上がり…ポンと膝の上に飛び乗ってきたね。

 

「…………」

 

「…………」

 

 …うん。言い辛そう。

 

「みぽりん。いや、あのですね? 何故、そんなジト目を出されたのでしょう?」

「…出してませんけど」

 

「みほさんや…体を隠すようにクリスを抱っこしてるのは何ででしょう?」

「普通に抱っこしてるだけ…だもんねぇ~?」

「ワンッ!」

 

「…………」

 

 私の声に、気持ちよく返してくれるクリスちゃん。

 若干、隆史君を睨んでいるように見えるから、ちょっとおもしろい…そして妙に心強い。

 

「まだ何も言ってないんすけど…」

 

「……だって隆史君、結構な変態さんだし」

 

「ふむ…ソコは否定できんな」

 

「そこをしようよっ!」

 

「ワフッ!!」

 

 また気持ちよく同意してくれたみたい。

 クリスちゃんが完全に私の味方になってくれたようで、隆史君が大きく肩を落とした。

 

 …。

 

 ふふっ…隆史君の困った顔が、ちょっと嬉しい。

 

 

「みほ、なんで悪い顔して………んっ? あ、ちょっとごめん」

 

 

 突然の携帯電話の呼び出し音。

 

 初期設定なままの着信音な為に、すぐに隆史君のモノだと分かる。

 すぐに私に断りを入れて、隆史君がズボンのポケットに手を入れると、携帯を取り出し画面に映ったであろう先方の名前を見て、すぐに対応していた。

 

「…と。どしたんだ? こんな朝はや…」

 

 あ…珍しい。

 

 基本的に最初の電話口では、私や沙織さん達にですら敬語で始める彼が、とてもフランクだった。

 何よりも顔つき…。なんか…すっごく優しそうな……。

 

 …あれ?

 

「………」

 

 最初の一言を途中で止めて…そのまま黙っちゃった。

 その優しそうな顔だった彼の顔の眉間に、徐々に皺が寄っていく…。

 

 う…。

 

「…わかった。今、どこにいる?」

 

 何か私がいると話辛そうだし、電話の内容を聞いちゃっているみたいで気が引けて、席を外そうとクリスちゃんを抱っこしたまま立ち上がると、それに気が付いた隆史君は無言で大丈夫だと、表情と手を前に出して私を制してくれた。

 それでもとても悪い気がして、ゆっくりと縁側から居間の中へと移動しようとすると…。

 

「あぁ…あそこの…。わかった。すぐに行くから待っていてな?」

 

 そんな返事をする彼を横目で見てしまった。

 いつかどこかで見た、とても真剣な目をしている横顔。少し眉間に皺を寄せながら、携帯を切った。

 

 …。

 

 彼の中の何かが切り替わったみたいに顔つきが変わった。

 彼が大洗に転校してくる前…お姉ちゃんの所へ青森から飛んで行っちゃった時も…麻子さんの時も、納涼祭の時も…決勝戦の時も、あんな顔をしていたのかな。

 最後の言葉で、すぐにわかっちゃった。

 

 また何処かへ行く気なんだって。

 

 …。

 

 うん…彼の転校初日、生徒会室での事をすぐに、鮮明に…思い出しちゃった。

 あの時もあんな顔…。

 

「みほ」

 

 じっ…と見てしまっていた私の視線に気が付いたかのように、此方に顔を向けた。ただ、その表情はいつもの様に柔らかく笑っていた。

 ただ…眼は真剣なまま。

 

「すまんな。ちょっと出かけてくる」

「あ、うん。わかった」

「……」

 

 あれ…彼の報告に普通に答えただけなんだけど…ちょっと訝し気に驚くような顔をした…。

 

「どうしたの?」

「あ~…いや、なにか聞かれるかと思ったんだけど…」

 

 あぁ…そういう。

 

「隆史君の悪癖については、諦めました」

「悪癖って…諦めたって…」

 

 ちょっと思う所があるのか、苦笑した。

 

「あ、ごめんね。悪癖とかは…言葉はちょっと酷かったかな。まぁ…今回はどっか行っちゃう報告も聞けましたので良しとします」

「は…はは…」

 

 毎回毎回、黙って遠くまで行っちゃっているのを自覚しているのか、苦笑を続けている。

 うん、私が別に責めている訳ではないのが、解っていてもらってちょっと嬉しい。

 

「まぁ…大洗の町に行くだけだから、外泊等はしませんので…」タブン

「わかりました…いってらっしゃい」

 

「…あ…はい」

 

 …。

 

 あれ? 彼はまだ少し驚いた顔を継続していた。

 なんでまだ、驚いてんいるんだろう…。

 

「なに?」

「いや…正直また「女の子?」とか、聞かれると思って…」

「だって女の子でしょ?」

「確定事項の様に………いやまぁ…そうだけど…」

 

 …うん。多分、誰かしらから彼へのヘルプ要請が入ったんだろう。

 彼の口調からしても、ちょっと誰からかは分からないけど…あの顔をした隆史君だ。何を言っても行っちゃいそうだし、行ってくれる彼の方が…私は嬉しい。

 

「助けて…とか、言われちゃったんでしょ?」

 

「…あぁ」

 

 少し、神妙な顔に戻った。

 私の目の前での事だったから、私に気を使ってくれているんだろう。

 

 …。

 

 でも、もう大丈夫。

 

「…私の中で、隆史君への事は確信は得ているの」

「確信…? 何が?」

「それは内緒です」

 

 …少し笑いながら答える。

 

「誰かに助け求められて、それに応えない隆史君とか…見たくないから」

「…そうか」

 

 ま…まぁ…あ…あの夜の時に言っちゃったから、ある程度はわかってくれていると思うけど…ね。

 改めて言うのは恥ずかしすぎます!

 

「ただしっ! メリハリはつけてくださいね?」

 

 ちょっと気恥しくなって、誤魔化し、顔を隠すようにクリスちゃんを向かい合わせに抱き上げる。

 

「女の子を助けるのが、漢であり隆史君だもんねぇ~~?」

 

「…………」

 

 私の言葉に賛同するかのように、クリスちゃんが鼻を舐めてくれた。

 

「何故…君達姉妹は、僕の黒歴史をチョコチョコ採掘するのでしょうか?」

 

 肩を下げ、耳を少し赤くしながら項垂れたね。

 うん、この隆史君見るの好きだなぁ…何時も隆史君ペースからね! たまには…ね!

 

 …。

 

 それに私達にとって、それは黒歴史…なんかじゃないよ。

 

「…くっそ。はぁ…まぁもう…いいや…んじゃ、ちょっと…」

 

 少しゲッソリとした表情を映した顔を、また少し引き締めた。

 毎回思うけど…ちょっとこのギャップは卑怯だと思うの…。

 

 

「…行ってくる」

 

 …。

 

 

 

 

 その一言で、彼は小走りに急ぎながら…中庭を出て行った。

 

 それを小さく手を振って送っていた私。

 

 …。

 

 それをどこか嬉しくも…恥ずかしくも感じてしまい、手を急いで下した。

 ある意味で嵐の様に去っていった彼がいなくなった庭先が、妙に静かに感じる。

 

 …さてと…。

 

「どうしよう…ねぇ?」

 

 またクリスちゃんを抱き上げると、小さく短い尻尾をブンブンと振っていた。

 クリスちゃんのお散歩にでも行こうかな? 

 

 …あ、そういえば…隆史君二人きりって後…何を言おうとしたんだろう…。

 

 

 帰ってきたら聞いてみようかな。

 

 

 …。

 

 

 

 

 …

 

 ………。

 

 

「あ…あれ?」

 

 着信音。

 

 今度は私の携帯から着信音が流れてきた。

 聞きなれたボコの歌が後ろへ置いていた携帯から聞こえる。

 

 体を捻り、少し離れた場所へ置いていた携帯へと手と体を伸ばす。

 特に携帯画面を見る事もなく、急いでその呼び出しに応えると…聞きなれた声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 …この電話で…私達姉妹の運命が変わってしまったと…この時は思わなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「はい」

『 ……みほ 』

 

「アレ? お姉ちゃん? どうしたの? わすれもの?」

『 今、そこに…周りに隆史はいるか? 』

「隆史君? いないけど…今でかけてる」

『 …そうか…なら良かった 』

 

「ん?」

『 まぁ…正直、隆史には聞かせられ…いや…しかし…話した方が…良いのだろうか… 』

「どうしたのお姉ちゃん」

『 すまん。私もまだ動揺しているんだ… 』

「…なにかあったの?」

 

『 ………… 』

 

「…お姉ちゃん?」

『 ………… 』

「……黒森峰で何かあったの?」

『 …あぁ…最悪な事が起こった 』

「最悪?」

『 ……… 』

「えっと…」

『 正直、電話をかけておいてなんだが…みほに話して良いか今もまだ迷ってる 』

 

「………」

『 …… 』

 

「話して」

 

『 みほ…? 』

「大丈夫…私なら大丈夫…。うん、隆史君にも話した方が良いかもしれない内容なんだよね?」

 

『 …… 』

 

「ね? それに聞いてみないと、結局何も言えないよ。迷っているから帰ってからじゃなくて、今電話でこうしてお話しているんだよね?」

『 …… 』

「お姉ちゃん」

『 ……あぁ…そうだな…やはり、みほには話しておかなければならない…な 』

「うん、そうだよ。隆史君に相談はとりあえず二人で考えよ?」

『 …あぁ、わかった 』

 

『 …ならば、結論から言おう 』

「…結論」

『 事、私だけではなく、みほ。お前にも言える事かも知れないから…な 』

「う…うん」

 

『 私は…いや、多分みほもだろう… 』

「えっ…」

 

 

 

『 私達はもう……西住流を名乗れないかもしれない 』

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 …。

 

 ……。

 

 近くのコインパーキングに停め、無駄に重い扉を閉める。…この運転席のドアはもう、扉と言っても差し支えないだろ…。あまり一人で出かける時は目立つってしまうので、あの重装甲の軽トラは使わないのだが、今はそんなことは言っていられない。

 そしてこの待ち合わせした店は、もう何度か訪れており、特に迷うこともなく此処まで来ることができた。

 

 他県に俺を呼ぶよりも、自ら来た方が早いと思ったからだろうか…? 今回は本拠地…ではなく、態々この大洗にまで来ているって事は、相当切羽詰まっているのかもしれない。

 そもそも…今まで無かったからな…。彼女は頭が良い分、俺の役割…とでも言うのだろうか? 出来る事、出来ない事なんて把握している。

 だから自らの事…個人的な件で、俺に助けてくれなんて…言ってくる事なんか…。

 

「…っと」

 

 考え込んでいないで、さっさと会えば良いだろう。なんの要件か聞いてみなけりゃ分からん。

 俺に助けを求めた時点で、彼女には俺ならなんとかできる事だと判断したからだろう。…もしくは本当にどうにもならなくて、どうにかしたくて…藁をも掴む想いなのかもしれない。

 どちらにしろ…急ごう。彼女は目の前で待っているのだから。

 

 何度も訪れた、その喫茶店の扉を開けると、カランカランと小気味良いベルの音が響く。

 トビラに付けたらベルの音に、店員が此方へと気が付く。

 

「いら…しゃいませ」

 

 …。

 

 俺の顔を覚えているんだろう…な。営業スマイルが、一気に無表情にと変わる女性の店員。

 まぁ…毎回何かしら騒ぎを起こしてしまっているから、仕方がないな…軽く営業妨害に当たっていたかもしれないしな。

 一言、謝罪でもしておいた方が良いのかもしれないが、それはまた今度だ。今は…。

 

「ツレが待っているはずですので…」

 

「…どうぞ」

 

 …と一言言うと、小さくため息のようなものを吐いた気がする。

 好きに探せと言わんばかりに、店内へ促された。

 

 相変わらずモダンな雰囲気の店内は、それなりに混雑していたが、少し店内を進めば…うん。すぐに見つかった。

 家族連れは珍しく、相変わらずカップルか、本当にお茶を楽しむために来ている様な客ばかり店だ。

 そんな客層の中では少し異彩を放っていると言っても良い彼女は、すぐに分かった。

 

 …というか…彼女達…か。

 

 まぁ…正直、いるだろうとは思っていたがな。

 

 此方に気が付いたのか、俺を見上げる3人。

 その一番奥…。俺を呼んだ張本人は、口を付けていないであろう、湯気もなくなったティーカップの中を俯いたまま眺めている。

 俺に気が付いてもいないな、こりゃ…。小さくブツブツと…何か口にしている。

 

 さてどうしたもんか…このその他3人は、明らかに俺から彼女をガードする為に着いてきたであろうが…今回は彼女からの救援要請だ。

 何かしら妨害してきたら…ちょと…本気で相手をして…。

 

「…待ったてわ」

「遅いのよ」

「…んじゃ、こっち座って」

 

 …あれ…。

 

 思いの外、歓迎されている…のか?

 一人は彼女の向かいに座っていたのに、此方に座れと場所を誘導された。

 

 …。

 

 これは…本格的にまずい事にでもなっているのか…?

 彼女達3人からも、まるで何とかしてくれ…助けてくれと言わんばかりの…懇願するような目で見られているに、今さらながらに気が付いた。

 そのまま促される様に、6人が向かい合わせで座れる大きな席に腰を掛けた。

 

 一番奥…壁際の…俺を呼んだ張本人の正面へと…。

 

 まだだ。

 

 彼女はまだ俺に気が付いていない。

 

 ふぅ……さて…。

 

 

 

「…お待たせ愛里寿」

 

 

 …。

 

 俺の呼びかけに、一瞬体を硬直させ、一気にその俯いたままの頭を上げた。

 漸く見えた彼女の顔は…とてもじゃないが、生気というものを感じられなかった…。

 

 そんな虚ろのままだった彼女の目は、俺と目が合うと…漸くその光を取り戻していった。

 

「お兄ちゃん…」

 

「はい、お兄ちゃんですよ~」

 

 …。

 

 変に神妙にならず、いつもの様に軽口で返すと、段々とその顔に赤身も取り戻していってくれた。

 はぁ…と、その様子を見ていた、愛里寿の横に座っていたメグミさんが、少し悔しそうにため息を吐き、その横に座っていたルミさんが同じように俺から目線を外した。

 

 しかし…まぁ…愛里寿…。

 

 あ~…こりゃ相当参っているな…。

 

 最近では、そう呼ばれる事が多かった為に忘れがちだったが、こういった世間一般様の場所では「お兄ちゃん」と、俺を彼女は呼ばない。

 …公私をちゃんと彼女は分けられる。

 

 それが、コレだ…。

 

 俺が席に着いたのを見計らったかの様に、店員さんが俺達の席にへと注文を取りに来た。

 

「珈琲で良い?」

 

「はい」

 

 余計な時間を取られたくないのか、それに俺の真横の席に座ったアズミさんがすぐに対応してくれた。

 一瞬店員さんは顔をしかめた…気がする。女性だらけのこの席にはあからさまに野暮で、むさっ苦しい男が座ればそうりゃそうだろうが、明らかに重い空気に気が付いたのか…営業スマイルへとすぐに変わり、かしこまりましたと離れていった。

 

 …。

 

 さてと…どう切り出したものか…。

 

 …そこから訪れる無言の時間。

 

 愛里寿もどう切り出していいか、迷ってでもいるのか…?

 

 …家にいる時に掛かってきた、愛里寿からの電話を思い出す。電話口でもそうだったな…初めは少し無言で…少しして、彼女は明らかに泣きそうな声…絞り出した声で、「お兄ちゃん、助けて…」と…一言だけ吐き出したんだ。

 後は、今いる場所を言うだけで精一杯…。この愛里寿は…うん。初めて会った時…以来だ。あぁ…そんな感じ…だったな。

 

 その頃の様に…年相応の子供のまなざしで、今もまた俺を見ている。

 

「お…お兄ちゃん…」

 

「おうさ」

 

 …っと…。

 

 切り出し兼ねている俺に、愛里寿から口を開いた。

 

「……私…」

 

 正直、彼女が切り出すまで待っていても良かったのだが…悲しいかな…彼女の頭の回転は、早すぎる。

 黙っているのが正解も場合もあるだろうけど、この場合早く言ってしまうのが得策だと判断したのかもしれない。

 黙っているのは時間の無駄…俺を困らせるだけだと思ったのかも…な。

 …たまにこういった邪推をしてしまう俺自身が嫌になる。

 

「その…」

 

 口を開いたは良いが、何をどう言い出したら良いか迷っている。

 そんな感じにとれる愛里寿を見て、余程言い辛い事なのかと思っていると…ゆっくりとソレを声にした。

 

 

 

「島田流…やめる……」

 

 

 

 …。

 

 ……。

 

 

 一瞬、愛里寿が何を言っているか、解らなかった。

 まほちゃん…いや、「西住 まほ」も、そうだ。彼女の「家柄」は、ソレこそ生まれた時からのついてまわってきた事。

 それを彼女達は受け入れ、むしろ誇りとして戦車道に打ち込んできたんだ。ある意味で今の彼女達があり、彼女達自身の根底ともいえる事だ。

 

 ソレを止めると言う。

 

 

「…そうか」

 

 そんな彼女の発言に、俺はそう一言返した。

 そして、すぐに黙った。

 

 …。

 

 店内の静かなBGMと、隣の席の人の声。

 そして店内を歩く人の足音…。

 

 それだけが少しの間流れるだけだった。

 

「…止めないの?」

 

 俺の否定とも肯定とも取れない返事から黙ってしまった事に対して、彼女からしたら当然の言葉を発した。

 まぁ…普通の人間は止めるだろう。顔を少し伏せている、もう3人にも話している事なんだろう…そして止められた。

 それで、この状況だろう。

 彼女達3人からしても、俺に愛里寿をどうにか説得してほしいといった感じだろう?

 

「そうだな。…まずは話を聞いてからだ」

 

「……」

 

「どうしてそんな結論になったんだ?」

 

 彼女自身、まだ悩んでいるんだろう…。

 そりゃそうだろうな…。今までの人生から大きく変わりそうな事だ。

 思春期真っ盛りの彼女からすれば、一時の気の迷いかもしれない。しかし、若いから…の一言で片づける程、事は簡単じゃあないだろう。

 

 だからまずセオリー。

 

 その原因を聞こう。

 

「……」

 

 口にはしないが、聞いてほしくて…どうにかしてほしくて「助けて」なんて言葉を、彼女が吐いたんだ。

 

「いやまぁ…正直に白状すれば、俺には判断が難しいだろう」

 

「…うん」

 

 そう…難しい。それを隠す事もなく、彼女に白状した。愛里寿もそこら辺を理解しているのか、特に表情を曇らせる事もなく返事を返した。

 何とかしてやる…なんて、前に見たいに断言してやりたい。してやりたいが、情けない事に愛里寿が、島田をやめるというのは相当に大きな問題になっていそうな事だ。

 全貌を把握してもいないし、軽はずみな事なんて言えない。

 

 言えない……がっ!!

 

「愛里寿に頼られたんだ。…全力に力になるし、俺は愛里寿の味方でいる」

 

 …それが今回の俺の役目だ。

 あの七三の件や、分家の件もあるが、それはソレ。オーバーワークになろうが知った事か。

 慣れてんだよ、んな事。

 

「どのくらい時間が掛かったって構わないから…うん、話してみてくれ」

 

 下手したら千代さん敵に回すかもしれないが…ソレもソレだな。

 

「頼られて、お兄ちゃんは嬉しいんだよ」

 

「お兄ちゃん…」

 

 小恥ずかしい事を口にすると、少し笑ってくれた。

 そうそう、愛里寿はそれで良いんだよ。そんな目に涙溜めて、今にも死んでしまいそうな顔なんかするな。

 愛里寿は…普段無表情に見えても結構、よく可愛く笑っている。そんな顔でずっといさせてやりたいんだ。

 

「話してくれ」

 

「…………うん」

 

 俺の言葉に覚悟を決めたのか…少し真剣な顔になったな。

 テーブルの上に手付かずに置かれていたティーカップに漸く口につけた。小さく「温い…」と不満げに呟いた姿に、少し和んでしまったのは黙っていよう…。

 忌々し気に除いてた視線を、ティーカップから此方に向け…。

 

「アズミ…アレ…見せて」

 

「はい」

 

 俺の横にいたアズミさんに、指示を出した。

 

 ん? アズミさん?

 いや、それだけじゃなくメグミさんとルミさんも、今まで心配そうに愛里寿を見ていた状態から、ゆっくりと姿勢を正した。

 

「尾形君」

 

「…はい?」

 

 いつもとは違い、真剣な眼でアズミさんが俺を見てきた。

 

「私は貴方に()()を見せるのを、正直まだ躊躇しているの」

 

「……」

 

 …そうか、今から見せられるのが全ての原因だろう。…なんだ? 愛里寿にアソコまで言わせた原因というのは。

 

「なぜなら、コレを見て貴方がアチラ側になる可能性があったから…」

「…アチラ側?」

 

「でも…隊長の味方でいる…。そう言った貴方のその言葉を信じるわ…」

 

 先程までずっと黙ってみていたのは、俺を見極める為…だろうか? 

 

 コトンと音を出して……愛里寿の携帯だろう。ボコのスマホカバーが着けられたスマホを俺の目の前に置いた。それはすでにロックが外された状態で画面に光が点っている。

 すでに準備してあったんだな。

 

 愛里寿はそのスマホを見て、少し目を伏せた。

 ……何を見せられるんだろうか? ここまで言ってくるという事は…何かしらの秘文章か…書類か…さて…。

 そう言いながら横から自身のスマホを操作した。スッスッと、彼女の細い指がスライドされていく。

 愛里寿は、不安げな視線を俺に向けているから、大丈夫だと軽く静止するように手を上げて笑いかけておく。

 

「 見 て 」

 

「はい」

 

 アズミさんの声にもう一度スマホに視線を落とすと…そこには一枚の写真が映し出されていた。

 

 

 

 

 

「 ……………… 」

 

 

 

 

 

 とり…あえず…あぁ…。

 

 頭ん中を整理しよう…。

 

 ………あぁぁ…もう。

 頭を押さえるしか、とりあえず今はできる事はなかった…。

 惨状…そう、惨状と言って間違いないであろう。

 

「解った? 理解してくれた? 隊長の言わんとしている事が」

「…えぇ…と…一つ良いですか?」

「…なに?」

 

 その写真…には、よく知る人物が写っていた。

 いやもう…なんつーか…。

 

 

 

 

 

「…千代さん、なんで…大洗の制服着ているんですか?」

 

 

 

 

 

 もうね? めっちゃ良い顔の千代さんが……セーラー服を着て…なんかもう…ポーズを取っていた……。

 すっごい、いつものキメ顔というか、ドヤ顔なんすけど、あからさまにはしゃいでいるのが目に見えてわかる程に…。

 

 挙句…眼が黒い棒線で隠されていた…。

 

 …。

 

 ……いやもう…そっち系のにしか…。

 

「私が知る訳ないでしょ」

 

 いやもう、なんて言っていいかワカンネェヨッ!!!

 覚悟して見たのが…いやもう、確かに覚悟が必要だったけどっ!!

 

「じゃあ、なんでこんな写真持ってんすか!? いやもう…え? どういう状況?」

 

「これは隊長が…家元の秘書室から入手したみたい」

 

 愛里寿っ!?

 

「…母に所要為に会いに行った時…いつもの秘書室に母はいなかったか。代わりに机の上のパソコンの画面の中に………母だったモノがいた」

 

 俺が愛里寿を見ると、すぐに経緯を話し始めてくれたネッ!! 察しが良いな相変わらず!!

 というか、千代さん過去形にされてるよな!?

 

「一つのファイルから選ばれていたこの………コレが画面に出されていたって事は、すぐに母…だったモノが秘書室に帰ってくると思った私は…」

 

 ……淡々と状況を説明する度に…愛里寿の目のハイライトさんが薄く…。

 

「 即座に自身の携帯に、コレのデータを移した 」

 

 …………フェードアウトしていく…。

 

 

 えっと…。

 

 

 

「………証拠」

 

 

 

 まぁ…千代さん…いや、母親のコノ…えっと、姿を辛いと思うなら何故? と、聞こうとしたら色々な意味が取れ、一瞬で納得できる回答が返ってきた…。

 ソレは多方向で使えそうな証拠になるな…。

 

「…ねぇ、尾形君」

 

「なんすか、メグミさん」

 

「初め、コレを撮ったのは貴方だと私達は思っていたのよ」

 

「………」

 

 メグミさんの目で解った…。余計な事は言うなよ…と。い…家元…千代さんを俺が、個人的に写真に収める機会あった稀有な例を彼女達は知っている。

 俺としては即座に否定したかったが、水着撮影の件を敢えて口にしないって事は…愛里寿に気を使っての事だと思って歯を食いしばって口を閉じた…。

 

「まぁ…写真の撮影データの日付見たら、明らかに違っていたから…まぁ、仕方なく容疑から外してあげたわ」

 

「………」

 

 …愛里寿にウケる、ボコのセリフを教してやらなかった事…根にもってやがるな…。

 ハァ…と、小さくため息を漏らしながら一瞬、悪い顔しやがった…。

 

 

「この家元見てどう思う? 正直な意見を聞きたいわ」

「…正直に?」

 

「えぇ、正直に」

 

 …。

 

 同じく、とてもわかりやすくため息を吐きながら、アズミさんが少し俺の顔に近づいて聞いてきた。

 まぁ…良いけど…正直に…ねぇ…。

 

 

 

 

「ぶっちゃけ、引きました」

 

 

 

 はい、ドン引きです。

 

 

「……そう、良かった」

 

 俺の真顔で答えたその答えに、安堵のため息を…全員から吐かれた気がする…そう、愛里寿にまで…。

 

 あぁもう……頭痛ぇ…。

 

「はぁ~……解った。…愛里寿が言わんとしている事は理解した」

 

「っ!」

 

 とりあえず口にした言葉に愛里寿が輝く顔で頭を上げて俺を見た…。

 娘からすれば…まぁ…言わんとしてる事は理解する…けどなぁ…。

 

 どうしよう…。

 

 完全に俺の中で、シリアス脳が解けて消えた…。いや、ある意味で思春期が始まる子供のメンタルケアをしないといけないという、重大な案件に切り替わった訳なんだけどね?

 ここはまぁ…千代さんのフォローもしてやらないと…本気で別の意味で…深刻な西住流の時とは別の種類の…親子問題が勃発する。

 

 目の前に最初に出されたグラスの水を一気に飲み干す。

 さてどう切り出したものか…。

 

「いやぁ~…本当によかったわ、尾形君がこちら側で」

「…何言ってんすかアズミさん…。あ、そういや、最初にアッチ側につくとかどうの言っていたな」

 

「そうよ? だって貴方…」

「なんすか?」

 

 千代さんのこの写真見て、どう言葉にするかで判断する気だったな…何が信じるだ、クソ。

 俺がドン引きしたのを本気だと思ったのか、先程までの張りつめた空気はもうなくなっている…千代さんの写真…踏み絵にされてますよ…。

 

 

 

「 こういったキワ物好きでしょ? 」

 

 

「言い方っ!!」

 

 

 すげぇ事言い出しやがったな、この人っ!!

 

「そうそう、君。こういった如何わしいの好きそうだし」

「年増好きとか、マニアックな趣味持ってるし」

 

 ルミさんとメグミさんも参戦してきやがったっ!!

 愛里寿が言葉の意味を解りかねて頭ひねってるぞ、オイッ!!!

 

 

 

 ………ゾクッ!!!!

 

 

「……えっ…な…なに、今の…」

「…すっごい悪寒感じたんだけど…」

「わ…私も…」

「?」

 

 …俺もだけど…なんだ今、一瞬物凄い…殺気地味た…気配というかなんと言うか…。

 愛里寿以外、俺を含めて顔が一気に青冷めた。

 

 …まっ…まぁいいっ!! 今は目の前の事だっ!

 

 

「如何わし…いや確かに如何わしいけどっ!! というか、この写真の目線の隠しってアンタ達が加工したんだろっ!?」

 

「そうね」

 

 …わ…悪びれもせず…。

 

「往来でこんな如何わしい写真出している訳だもの。横から誰かに見られて特定されたら大変でしょう?」

 

 もっともらしい事、言いやがって…。

 

「そう。私がルミ達に頼んだ」

 

 愛里寿っ!?

 

「見る人が見れば分かると思うけど…目を隠したことの、何が如何わしいの? お兄ちゃん」

 

 

「         」

 

 

 ……この加工のせいで…如何わしさが倍増しているのを、愛里寿に言えない…教育上大変ヨロシクないぃ。

 

「お兄ちゃん?」

 

 や…やめろ…やめてくれ…そんな純粋な眼差しで見ないでくれ…。

 

 完全に固まってしまった俺を、ニヤニヤして見始めている、3人っ!! 分かった…今回のコレ完全にワザトだっ!!

 そこに…。

 

「はい、おまたせしまし……」

 

「っっ!!??」

 

 

 …て…店員さんが、俺の珈琲を寄りにも寄って、今持ってきた…。

 机に置く瞬間…俺の前に置かれた携帯の画面が、目に入ったのだろう…途中で言葉が止まった…。動きもついでに止まった。

 4人の女性…まぁ一人は女の子だけど…。一緒に座っている席で唯一の男が、女子高生の恰好をし、目を黒棒で伏せられた写真を携帯に映しているというこの構図。

 

 

 ………。

 

 

「……ゴユックリ」

 

 

 一言…言って…文字通り…ゴミを見る目で去っていった…。

 

 お…俺もう……この店…来れない……。

 

「ねぇ? 言ったとおりでしょ?」

 

「…あんたら、今度絶対泣かしてやる…」

 

 笑い堪えながら、真顔で言うな…。

 

「アラ、女性に対して泣かしてやるとか…いやらしい子ね」

「ねぇ、隊長? 本当にコンナノが良いんですかぁ?」

 

 ……こ…の……。

 

「………んっ? お兄ちゃん?」

 

 落ち着け…落ち着け俺…。

 先程までの俺を取り戻せ…。

 

 ふぅ…。

 

 

 …。

 

 出された目の前の珈琲を、熱いのすら我慢して飲み込むと…胃の中に直行する熱で少し切り替える事が出来た…。

 よし…何とか…。

 

「愛里寿…」

 

「なに?」

 

「と…取り合えづだな…千代さんの事だ」

 

「元・母?」

 

「………」

 

 …華さんみたいな事…言い出した…。

 

「ち…千代さんも、女性だ」

 

「うん、経産婦」

 

 

 

「……………」

 

 

 

 お…落ち着け俺…。

 

「む…昔を懐かしがってな? こういうのを着てみたいって思う人も多いぞ? 個人の趣味みたいなモノなのだから…き…着た事なかったとかっ!?」

 

「経産婦なのに?」

 

 

 

「………………」

 

 

 …きっつ…愛里寿さん、キッツいです…。

 

 

「確かに元・母。…学生時代、学校の制服はブレザーだったみたいだけど…」

 

「そ………そ…うか…。あとな? たっ! …例えば他にも一人、知って……」

 

 

 あの、しほさんですら、隠れて鏡の前でポーズを…

 

 …。

 

 

 ………あ。

 

 

 全身の血が下がるのを感じる…。

 

「お兄ちゃん?」

 

 お…思い出した。

 

 まず最初に、千代さんがなぜ「大洗学園のセーラー服」を着ているか…ソコに気が付くべきだった。

 そして、なぜセーラーチヨさんが誕生したか?

 

 あのセーラーシホさんは、水着写真撮影の際、反射的に俺がカメラに納めてしまった…が、あのハゲに渡す用のモノとは別にしてある。

 ネットに繋がっていない方のノーパソに保存してあるのだから、だから流出はまず考えられない。ありえん。

 だからそうだ。あそこでセーラーシ…じゃない。しほさんが大洗学園のセーラー服を着ていたというのが全てだ。

 

 あの時、写真を撮ったのは、俺だけじゃなかったんだ。

 

 もう一人…そう、本人がいたっ!

 

 あの二人をよく知る人物ならば、この時点で気が付くだろう。

 

 ……。

 

 ほぼ憶測だが、完璧に確信を得る答えにたどり着いた…。

 

 しほさん…。

 

 あのセーラーシホ姿を自身の携帯で撮影をしていたという事だ。鏡あったし…自撮りセーラーシホさん。

 まだ自分でそのセーラー服姿をイケると、楽しそうに呟いていたからなぁ…。水着姿の為、一度体を絞るとジムに通っていたと聞いていたし…。

 

 …嬉しかったんですよね? えぇ、まぁ気持ちは解らなくもないですが…でもね?

 

 

 それを……よりにもよって…千代さんに見せたな…。

 

 

 はぁもう、その後の展開は見なくとも分かる…分かってしまう…。

 

 …。

 

 ………。

 

 俺もガッツリ、この件に絡んでいた…。

 直接ではないとはいえ、さすがに全く関係ないとは言い逃れは出来んだろうなぁ…。

 何かフォローできないかと、考え…もう、頭痛い…。蟀谷を押さえながら、また携帯の画面に視線を落とす…と…ん?

 

「あれ? アズミさん」

「なに?」

 

「コレ、俺が撮ったって疑ってましたよね?」

「まだ疑ってるけどね」

 

「…………」

 

 くっそ…シレッと言いやがって…。

 目を伏せて、何を今更と言わんばかりに彼女達も冷めたであろうお茶に口をつけた。

 

「まぁいいわ、で?」

「俺じゃなかったら、コレ誰が撮ったんです? 完全に自撮りじゃないですよね?」

 

「知らないわよ。貴方が撮ったと隊長含めて、そう信じて疑わなかったし」

「………愛里寿」

 

「………」

 

 愛里寿さん。フイッと顔を逸らさないでください。

 

 まぁ…自撮り用の台とかあるし…ソレだろうな。

 

「ハッキリ言って…」

 

 ルミさん?

 

「事は、隊長にだけって訳じゃないのよ」

「そう。これは私達…選抜チーム全員にも関係あるの。だから強く隊長を止める事なんて出来なかった…」

 

「いや…愛里寿の気持ちは、痛いほど解りますが…アンタら関係無いだろ」

 

 そうそう。うちのオカンがこんな格好したら、俺でも縁を切る選択肢が思い浮かぶだろうな。

 

「いきなり言葉使いがぞんざいになったわね…」

 

 うるせぇな。ぞんざいにもなるわ。

 

「そうね…いい? 隆史君」

 

 ………。

 

 あの…アズミさん? なんで片寄せてきたんですか? 肩を俺にくっつけて…アンタの制服姿ってモロ谷間見えるから、非常に面倒くさいんですが。

 あからさまに…見せつけるように寄せたな。…ワザとだろうな、こりゃ……。

 

 後、名前呼びに変わった…。まぁ良いですけど。

 

「…なんすか」

 

「………」

 

 そんな彼女の行為を鬱陶そうに表情に出して、返事を返すと…特に話の続きをする訳でもなく、黙り込んでしまった。

 なに人の顔をじっと見てんすか。こっちも普通に彼女の目を見ていると…。

 

 

 

 

「っっ!! 私がここまでしてるのに、顔色一つ変えないっ!!」

 

 

 

 

「…何言ってんだ、アンタ」

 

 なんかいきなり悔しそうに俺から体を離した…。ルミさんと、メグミさんが口元押さえながら顔逸らして…肩を震わせている。

 爆笑してるな、アレ。

 

「くっ…クク・・いやね? 尾形君がアズミの事、苦手とか…」

「そうそう、女として見れないとか言ったでしょ? それでアズミ、ちょっと意地になっちゃってっ…ククッ…」

「…そこまで言ってないっすけど」

「んでね? 隊長に許可取って、君にかる~く女として意識させてやるって…」

 

「俺の話を聞け」

 

 手をパタパタしながらルミさんとメグミさんが、謎のアズミさんの行動の説明してくれる。……非常に楽しそうに。

 あの祝勝会の時の事を言っているんだな。まぁ…確かに苦手とは言ったが、女として見れないとか、流石に失礼すぎて言ってねぇ。

 

「……アンタら愛里寿がこんな時に、なに遊んでんだよ」

 

 内容は…まぁ複雑だが、愛里寿が真面目に俺に助けを求めた相談をしている最中だというのに…

 

「大丈夫、お兄ちゃん」

 

 愛里寿?

 

「これも予定通り」

 

「………」

 

 愛里寿がとても満足そう教えてくれた。というか、若干嬉しそうに口元を緩ませている。

 この茶番も今日、この時にやる気だったんかい。

 

 …はぁ…もういいや。

 

「で? なんすかアズミさん。もういいから、話進めてください」

 

「………」

 

 あ…ダメそうだ。頭抱えてブツブツ言いだした…。

 

「はいはい。要はね? 尾形君…」

 

 はい、メグミさんが後を継いでくれましたね。

 彼女達から見ても、アズミさんが再起不能になったと感じ取ったからだろうかねぇ…。どんどんシリアス脳が解けていく…。

 

「何故私達もか…それは私達も島田流だからよ」

「あぁ~…そうらしいですね。って…それが?」

「これじゃ、分からないか…えっと…この写真の家元、奇麗すぎるのよ」

 

「そうですね、千代さんは奇麗です」

 

 

「「「「  …………  」」」」

 

 

 あ…あれ? 普通に答えただけだけど…なんで愛里寿さん、睨むんでしょう?

 

「即答…なんて純粋な目で言ってんのよ…」

「はぁ…そうじゃなくて。家元がこんな格好したの、この子にも一端があるんじゃいないの?」

「お兄ちゃん、この写真…写りが奇麗すぎるの」

 

「だから千代さんは奇れ「「「「 そういう事じゃない 」」」」」

 

 …だ…だからなんなんでしょう? ハモらなくとも良いと思うんですが…。

 

「構図とか…一応デジタル写真だけど、そうね…まるで宣材写真の様でしょ?」

 

 メグミさんが、コツコツと携帯の前を指で叩く。

 ふむ…言われてみれば、あからさまにはしゃいではいるのだけど…ポーズ等を考えても言わんとしている事は理解する。

 多分、しほさんが関与しているのを知らない彼女達からすれば、まぁ…そう取られても仕方がないだろうな。

 

「……これ…次弾の『乙女の戦車道チョコ』に出ないわよね…」

 

 …。

 

 ………。

 

 お…恐ろしい事を言い始めた。

 

「い…いやぁ…」

 

 愛想笑いで、LR枠は水着で確定していると言おうとしたが…一瞬あのハゲがチラついた…。

 採用する…あのハゲはコノ写真がアレば、確実に採用する…それこそ、新しいレアリティ枠すら作っても…。

 

 …お…思わず写真にまた視線を落としてしまった…。

 

「ねぇ? 家元って、今…何歳か知ってる?」

 

「38歳ですね」

 

「…そうね。っていうか、それも即答って…」

「貴方、本気でその趣味どうにかした方が良いわよ…」

「……」

 

 どうしろと? しほさんと同級生だし、過去に聞いてたら分かるだろうが。

 

「うん…お兄ちゃん」

「なんだ?」

 

 …なんかアズミさんもいつの間にか復活して…どこぞの変態司令官の様にテーブルに上に両肘を着き両手の指を、口元の前で隠すように組んだ。

 

 そして…愛里寿が一言。

 

 

 

「 38歳のセーラー服デビュー 」

 

 

「 」

 

 

 とんでもなく強烈なパワーワードをブッ込んできた…。

 

 

「とてもじゃないけど、こんなモノが世間様に出まわったら…隊長じゃなくても、恥ずかしくて島田流を名乗れないわ」

 

「 ………… 」

 

 ぐ…ぐうの音も出ねぇ…。

 

「だからね、隆史君。家元を貴方に止めてほしいの」

「…いや、出るの前提で話してますよね、ソレ」

「企画だとしても商品として出回るのよ? 永遠に今後言われ続けるわ…」

「………」

 

「例えば、これがね? 隊長とか…私達ならまだまだ、イケると思うのよ」

「そうそう、なんなら差し替えるかでも可能よ?」

「愛里寿なら可愛いと思うが…いや、アンタらの場合、如何わしさよりか…」

「なによ」

「…いえ、タイヘンオニアイデス、オネエサマガタ」

 

「 でしょうっ!!?? 」

 

 アズミさんが…めちゃくちゃ何か、ヒントを得た…みたいな顔しやがったな…。

 まったく……ノリで思わず言いそうになってしまったが、流石に愛里寿の前だ…踏みとどまった…。

 

 アンタらの場合、如何わしさよりも…別の意味でのリアル感が増すんですわ…。

 女子大生のセーラー服とか…まったく。

 

 しかし…これで何となく、解決案が浮かんだ。

 

「要は、この写真が俺がいつの間にか責任者となった、例のチョコ菓子。それにこの写真を採用するのを何とかしてほしい…と?」

「そうそう…」

 

「さらには千代さんに、癖になる前にこのコスプレ趣味を諦めるように言ってほしい…」

「そ…そこまでは言ってないけど…」

 

「私はソレでいい…本当に勘弁して…」

 

「…隊長が勘弁してとか言い出した…」

 

 

 う~…ん。

 

 

「例のチョコ菓子に関しては、ハゲに言っておくとして…。まぁ俺としても…コレが世間一般に流れるのは倫理観にどうかと思うしな」

「あ…ありがたいけど、倫理観って…。隆史君は家元に甘いの? 厳しいの?」

 

「趣味の方は…愛里寿」

「なに?」

 

 お姉さまの戯言は無視して…とりあえず…。

 

「まずは俺よりもさ、お父さんに頼んでみたら?」

「……父?」

 

 …おや? 嫌な予感がするぞ? お父様…じゃないの?

 

「アレはダメ…。話にならない」

 

「………え?」

 

 あれれぇ? また愛里寿の目からハイライトさんがいなくなったぞぉ?

 いや…マジで嫌な予感しかしない…。

 

「あ~…えっとね? 尾形君?」

「は…はい?」

「ちょっと、その写真…次にスワイプしてみて?」

「………」

 

 

 …その言葉で、即座に()があると言っているようなモノだった。

 

 …。

 

 ………。

 

 もう黙って言われるとおりに動かし…た…ヵ。

 

 スワイプする度に新しい千代さんが…もう…滅茶苦茶良い笑顔で映し出されて…。

 

 

 …シンプルなフリル…ゴスロリ風の…肩出して…ミニスカの…

 

 

 

「メ…イド…」

 

 

 か…彼女の私服…だろうか? 千代さんもフリルが好きなんだろうな…愛里寿が来ている私服もそっち系が多いしな…。

 うん…いやね? 千代さんの私服ってこんな可愛らしいモノが多いの?

 

「次」

 

 愛里寿が感情の無い声でつぶやく…。ジッ…とマジマジと見ると、本能が危険を察知して脳内にアラームが鳴り響かせているので、素直に従う…。

 次…って…。

 

「水着…」

 

 白く透けたストールを腰に巻いた…俺の時に撮ったのとは別の…

 

「次」

 

 あ…はい…。

 次という度に、愛里寿の目がドス黒くなっていくと思うのは多分、気のせいじゃない…。

 

「ぶっっふっ!?」

 

 赤いビキニの水着姿…ただ…あからさまにただの水着姿とは一線を画していた…。うん…赤い肩まで掛かるフードを被って…それ以外は水着…。

 これ…時季外れだけど…サンタ水着だ…。

 

 …。

 

 でけぇ…。

 

「お兄ちゃん」

 

「はいっ!!!」

 

「次」

 

「は…はい」

 

 な…なんだ今の一瞬感じた気配…。

 千代さんに通じるモノを感じたんだけど…。

 

 えっと…。

 

「  」

 

 パ…パジャマ姿って…。

 白いフリッフリが付いた…胸元バーンの…。

 

「ダメです千代さん…プライベート姿切り売りしちゃ…」

 

 後はもう…娘に見せちゃダメな姿が続いた…。

 

 いや、ドレスは良いよ? カクテルドレスですね? 素晴らしいと思います。

 しかし、なんでその後にキャンペーンガールみたいな恰好してんすか…スタイル良いのがまたすげぇんですけど…。

 

 後はなんか…黒い女子プロレスラーみたいな恰好してたり…。

 

 

 あっ…

 

「こっ…これは?」

 

「…どれ?」

 

 一応これなら大丈夫だろうと、ボコにフードの…着ぐるみみたいな良くわからないモノを着て…めっちゃくちゃご機嫌な千代さん…。

 ボコならっ! ボコなら、愛里寿もっ!!

 

「…ある意味でそれが一番癇に障った」

 

 …。

 

 ……眼に光がねぇ…。

 癇に障ったとか…愛里寿に言われちゃダメでしょ…千代さん…。

 

「元・母がボコ? 無理。…出会う相手全て虐殺しそう」

 

「……………」

 

 ま…まぁ…あの人とまともに立ち会えるの…オカンかしほさん位だけど…。

 ガチのボコファンの琴線に触れたようですね、千代さん…。

 

 なんつーか…全ての写真に目を黒い棒で隠されておりますので…なんつーか…まじでヤベー絵…とやらになってるな…。

 

「あっ!! これはっ!?」

 

「どれ?」

 

 …こ…これなら比較的にまともだろう。

 大丈夫っ! 大丈夫!!

 

「…私達と同じ制服…」

 

 そうっ!! 選抜チームとやらの制服ってやつだろ? パンツァージャケットか? どっちでもいいけど、これならっ!!

 

「こ…これならそんなに違和感ないだろ!?」

 

「………」

 

 良しっ! ちょっと如何わしいが、軍人ぽくて何となくまだセーフなのか、愛里寿が少し複雑そうな顔したっ!!

 何に対してセーフなのか、もはや何を選抜してるかわかんなくなってるけどっ!!

 

「こ…このくらいなら、良いだろ!? あんま違和感ないよ!? それこそ、今のチームに黙って内緒で潜り込んでいても…」

 

 …そこまで言った瞬間。

 

「「「 恐ろしい事、言わないでっ!!! 」」」」

 

 …。

 

 ……ガチで青くなったお姉さま方に怒られた。

 

 いや…でもすげぇな…千代さん、30代前半って言われてもまったく疑わないぞ、コレ…。

 ふむ…バニーはまだないか…。

 

「お兄ちゃん」

 

「は…はいっ!!」

 

 

「父と同じ顔してる。……やめて」

 

「……え」

 

 ど…どういうこと?

 

 

「あのね…?」

 

「アズミさん?」

 

「隆史君に家元止めてもらう前に、当然隊長から旦那様に止めてもらうよう嘆願しに行ったのよ」

 

「え…まぁ…そりゃ…自然の流れだろうけど…」

 

「…そしたら…写真を見た旦那様…とても嬉しそうにしてたわ」

 

「………」

 

「男って全く…」

 

 き…聞きたくないな、その話は…。

 吐き捨てるように呟くのは良いのですが、なぜ俺をまっすぐ見るんでしょうか?

 

「家元に意見できる人なんて、限られるわ…。もう、貴方くらいしか残ってないのよ…」

 

 …ま…まぁ…。

 それでこの3人も今回の件で、俺が関わるのを了承しているって訳か…。

 

 

「……はぁ…もういい…で…次…」

 

「は…はい…」

 

「最後………極めつけ」

 

 な…なんか、懐かしい殺気に包まれている気がするのですけど…。

 いやもう、やっぱり親子だねぇ…愛里寿…。

 

 ま…まぁ…最後…っていうなら…。

 

 …。

 ………。

 

 

 わー…

 

 

 うっっわーー……。

 

 

 

 

 

 

「う…うえでぃんぐどれす…」

 

 

 

 

 

 えっと…え~…と…。

 とても純白なドレス…ブーケを手に取って…はにかむような笑顔ヲ…シタ…。

 

 

 

 

「…本当…勘弁して……」

 

 

 

 

 愛里寿の目から…完全にハイライトさんが職場放棄しました。

 

「…お兄ちゃん」

 

「な…なんでしょう?」

 

 虚空を見つめながら…俺をまた呼んだ…。

 もはや、コレ…俺にどうにかできる問題じゃないんじゃないでしょうか?

 

「私…島田は、そうそう簡単に縁切りなんてできない」

 

 きゅ…急に現実的な話をし始めた愛里寿。スッ…と変わった顔色に…アレだ。天才少女モードが発動したんだろうよ。

 そう…したんだろうが…眼にハイライトさんがいねぇ…。

 

「…隠居した…どもが……ってないし…」

 

「…」

 

「………がっ……ゃまする……未成年に……」

 

 

 …そして思う。正直に言おう。

 

 怖い…この愛里寿はめっちゃくちゃ怖いっ!! だって…。

 

 

「でも一つ、解決策を発見したのっ!」

 

 天才少女モード発動中にも関わらずっ!! 

 

 

 ……すげぇ優しい笑顔で笑い出しんだ。

 

 滅茶苦茶嫌な予感がする…というか、ソレしかさっきからしねぇ…。

 こんな愛里寿、見たことがない。

 

「多分…元・母がトチ狂ったのは、お兄ちゃんが問題だと思うの」

 

「そ…そうなの…か?」

 

 トチ狂ったって…。

 

 

 

 

「  そ  う  」

 

 

 

 だ…断言された。

 

「いや…いつもの通り、しほさんと千代さんが張り合ってるだけだよ…な?」

 

 …ただ、言った瞬間…全員からまた大きなため息を吐かれてた。

 

「その張り合う原因そのモノが何を…」

「女の意地って言葉知らないのかしら」

「…焚きつけてる本人が言う言葉じゃないわね」

 

 え~……。

 

「だから、お兄ちゃん」

 

「…な…なにかな?」

 

 あ…あれ…ハイライトさんが、いつの間にか戻っている。というか、一転して先程とは真逆…逆に曇りなき眼と言わんばかりに澄んだ瞳をされてます。

 とても良い事を思いついた…これは逆転の一手、発想の転換…とか、連なって言葉にし…最後に…。

 

 

「責任取って」

 

 

 ……。

 

 なんだろう…華さんとの誤解の一件を思い出した…。

 徐々に彼女と似ていく気がしてならないのですけど、愛里寿さん。

 

 ……。

 

 いや、考え過ぎた。

 14歳の女の子だぞ?

 

 流石に…。

 

「前例もある。ある意味で…違う。一番のコレが解決策」

 

「前例? …な…にが?」

 

 さっきから冷や汗が止まら……。

 

 

 

「お兄ちゃんの所に、私がお嫁に行けば解決」

 

 

 

「  」

 

 ガタッ!!!

 

「「「 なっ!!?? 」」」

 

 …と、周りの3名様が多分…物凄い顔をして、勢いよく立ち上がった音だろうよ…。

 多分というのは、想像に容易く…というか、そちらを振り向く余裕すら、今の俺からはない…。

 彼女達も気が付いたのだろう…何か愛里寿に言おうとするのだけど…彼女の顔を見て、グッ…とその言葉をかみ殺した。

 

 …だって…愛里寿…。

 

 とても輝く微笑を浮かべ…少し…なんつーか…うっとりした様な顔というか、なんというか…。

 

「た…隊長が女の顔をしている…」

 

 完全に固まってしまった俺の横から…アズミさんが言い切った…。

 

 …。

 

 ちっっっかいっ!! ここに来て、お姉さま方めっちゃメンチ切って来て、顔近いっ!!!!

 女性三人が急に立ち上がって、コレだ! 周りの他のお客さんの注目を嫌でも集めてしまっている。

 

 

「絶縁されているとはいえ、結婚相手が島田の血族。これなら島田を説き伏せられる」

 

「  」

 

「私も元・母と縁が切れてwin-win」

 

 ウィンウィン…って…どこで覚えた、そんな言葉…。めっちゃ良い笑顔されてますが…

 

「win-winって…用法違って…」

 

「……お兄ちゃんは、私がお嫁に行くのはwinじゃないんだ…」

 

 

 

「win-winだねっ!!」

 

 

 

 しっかり理解していたよっ!!

 まわりうるせぇ!! しょうがないだろっ!? マジ泣きしそうだったんだからっ!!!

 あからさまに変な集まりのこのテーブル席だっ! ある程度周りにも会話が聞こえていたんだろうけどよっ!!

 

 ヒソヒソと、ロリコン、ロリコン、小声で言うなっ!!! 

 

 くっ…くそっ!

 ど…どうする…。もはや完全に話が最初とは別方向に向いて爆走し始めている。

 ま…まずは…。

 

「いや…あのな? と…とりあえず、責任をもって…千代さん止めるから…その案は…一端保留にしてくれ」

 

 一応完全に否定するのも憚られ…一応言葉を選んで発言すると…。

 

 

「 や だ 」

 

「 」

 

 …。

 

 即答で返された…。

 

 ……くっ!

 

「い…いや、愛里寿はまだ14歳だろう? まだ法律的には…」

 

「婚約という形ならば可能。現にソレは、偽装とはいえ成功した。これも前例がある」

 

「  」

 

 スッ…と…天才少女モードに切り替え…とても冷静な反論をされた…。

 なんだろう…この愛里寿には、口ですら勝てる気がしねぇ…。最初の相談内容へ戻そうとするもアッサリと弾かれてしまった…。

 一端保留にしてくれという、俺の言葉にお姉さま方も取り合えず賛同の言葉を発しようとするも、すでにこの愛里寿に呑まれてしまっているのか…完全に顔を蒼白と言っても良いくらいに真っ青…。

 

「……お兄ちゃん」

 

「は…い?」

 

 完全に手詰まりだった。何をどう発言しようも…今の愛里寿からの返答で、即座に逃げ場を奪われてしまう事になりそうなのが、簡単に予測がついてしまう。

 それは愛里寿も同じだろう…。先程から小刻みに眼球が動いている。…深く思考を繰り返している時の彼女の癖なんだ。俺の言葉を予測し…その返答の答えを今まさに計算している…といった感じだ。

 全国戦車道大会の決勝戦…あの犯人の対応を俺に教えてくれている時に、何度も見たから流石に覚えた。

 

 ……。

 

 …やべぇ…どうしよう。

 

 完全に膠着状態に陥っている……俺だけがっ!!

 

 

「…お兄ちゃん」

 

「え…あ、はい」

 

「私は子供。それは自覚しているし理解している。…でも」

 

 とても鋭い目で睨まれている気がする…。

 

「開口一番、「西住 みほ」さんの名前を出さない時点で、私をどう見ているか理解した」

 

 あ…いや、それは…。

 

「よって…16歳。…取り合えずは先程の提案に乗ってあげる。その年齢に達するまでは我慢する」

 

 …ん?

 

「ただ、あの言い方だと、16歳になればお兄ちゃんは、ちゃんと・しっかりと・真面目に・真剣に…」

 

 …あの…瞳がまあ怪しく光っているのですが…その割には口元がとても楽しそうに…。

 

 

 

 

 

 

「  ()()()くれるんだよね?  」

 

 

 

 

 

 

 

「………はい」

 

 

 こ…恍惚の笑みを愛里寿がしている…。

 否応無しに答えさせらました…というか…他にこの場を収める方法が思い浮かばない…。

 

 み…みほの…彼女の名前を出さなかった事は、確かにまだ愛里寿を子供という目線でしか見れないって事だ。

 本来ならば、ハッキリと言えば良いのだけど…無意識だったとはいえ、愛里寿に対してそれは、とても失礼な事だったな…。

 愛里寿のこの言葉も、好意も…昔のあの姉妹と同様に、憧れにも似た感情だろうとしか思えないってのがあったんだけど…。

 

 

「お兄ちゃん?」

 

「はいっ!?」

 

「ちゃんと()()()くれるんだよね?」

 

「…はい」

 

 な…なんで二回も。

 

「お兄ちゃん?」

 

「な…なんでしょう?」

 

()()()くれるんだよね? しっかりと返答は言葉にして返して」

 

 ……そ…そういう事か…。

 

「ハイ…しっかりとその時に()()ます」

 

「うん…なら良い。今回はこれで納めて上げる」

 

 

 …。

 

 

 ………なんだろう…すげぇ愛里寿の手の中の気がするのは…。

 

「…貴女達も聞いていてくれたよね?」

 

「「「………」」」

 

 スッ…と周りを見渡す愛里寿。

 お姉さま方3人は…なぜ小さく震えているのでしょうか? もう黙ってコクコクと頷くしかない3人。

 それを見てとても楽しそうに…。

 

 

 

「うっ…ウフフ…()()()くれる…言質は取った」

 

 

 

 

 最後……愛里寿が怖い事を呟いた…。

 

 

 

 

「…計算通り」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 いやぁ~…本気であの店には二度と行けないかもしれないな…はぁ…あの時間は何だったんだろう。

 漸くあの場がお開きになり…今は学園艦…我が家にへと延びる帰路をトボトボ歩いている…。

 愛里寿達は、あの後…人に会う様があるという事で、また4人仲良く帰っていった。

 流石に千代さんではないと思うが、一応誰か聞いて良いか? と尋ねてみると…少し迷った挙句…しほさんではないが、西住流の…俺がよく知っている人物だとしか答えてくれなかった。

 

 …。

 

 おかんか…。

 

 それ以上は蛇足になると思って黙ったけどな…。

 

 はぁ…。

 

 

「………そういった訳で…千代さん」

 

『 なっ…なにかしら? 』

 

「今夜…良いっすか?」

 

 電話口で話す千代さんは…愛里寿の件を簡単に伝えると…もう、あからさまに動揺していた…。

 多分…他の写真も存在するだろう…。

 頭っから否定するのも失礼だしな…取り合えず、厳選してセーフかアウトかの判断をしないと話にならん。

 

 …決して俺が見たい訳じゃない。

 

 違うよ? チガウチガウ。

 

『 ………ハイ 』

 

 消え去りそうな声で、お答えを頂きました。

 

 いつもの彼女なら、俺の今の発言に何かしら絡んでくるだろうが…すでにそんな余裕すらないのだろう。

 そりゃ、愛里寿に元・母呼ばわりされたんだ。マジで焦っているんだろうね…。

 なぜ俺も炎天下で、千代さんとこんな電話しなきゃならんのだ。

 

 今夜…。

 

 はい、しほさんとの戦車道勉強会…あの地獄の指導を、今回ばかりは予定変更させて頂きます。

 はい、ゲストに千代さんをお招きして、写真の選別会をさせて頂きます。

 

 …千代さんがアレだけの種類の写真撮影をしていたんだ…。

 

 張り合って、しほさんも絶対にしているだろう。

 

 

 …。

 

 うん、俺が見たい訳じゃない。

 

 

「んじゃあ、しほさんには俺から話を通しておきますから…お願いしますよ?」

 

『 …でっ! でもねっ!? 隆史君っ!!  』

 

「あ~…言い訳は現地で聞きますんで…全部写真持ってきてくださいよ?」

 

『 ……いや、あのね? 私もさすがに恥ずかし… 』

 

「……良いから…全部持ってきてください。……愛里寿にバレる前に」

 

『  』

 

 全部消してしまえというのは、さすがに酷だろう。

 彼女も彼女で楽しんでいた……っぽいしな。絶対にノリノリだっただろうね…。

 見た写真はすべて言ったが、千代さんがそれ以外に恥ずかしがる写真だと? 愛里寿に見られたら、確実に絶縁されるだろう。

 せめて選別して、取っておいても良い写真、悪い写真。カードにして流通させても良い写真の選別をしなければならないだろう?

 

 …だからしつこい様だが、決して俺が見たい訳じゃない。

 

「わかりましたね?」

 

『 わ…わかりました… 』

 

 そこまで言うと、一方的に電話を切った。

 

 …そりゃそうだろ、これから似たような話をしほさんにも、しなきゃならんのだ。

 自宅で出来るはずもなく…漸くついた、この車でどれだけ時間が掛かるか分からん会話を…。

 

 

 …アレ?

 

 

 車内に入り、いざ電話をしようとスマホを見ると…何件か着信が入っていた。

 

「まほちゃん?」

 

 先にこっちに掛けた方が良さそうだな。…本当にどれだけ時間が掛かるか分からんしな…。

 すぐに操作し、此方から折り返しの電話を掛ける。

 

 …しばらくのコール音がすると…彼女が出てくれた。

 

「まほちゃん? どうした?」

 

 家で話せば良いかもしれないが、逆に電話をしてくる位なのだから、急ぎの様かも知れない。

 

 

『 隆史… 』

 

「…まほちゃん?」

 

 俺の名前を呼ぶ声に力がない…。

 

 …こんな呼び方は、久しぶりだ。

 

 青森で…俺に助けてくれと…呟くように嘆た時…以来だ。

 

『 …隆史 』

 

「…あぁ」

 

 もう一度、呼ばれる。やはりその声に力がない。

 なにか言い辛い事なのだろうか? 言い淀んでいる様に感じた。

 話始めるの大人しくしばらく待っていると…。

 

『 みほと相談して決めたんだ 』

 

「みほと?」

 

 どういう事だ? 相談?

 

『 隆史…私達を助けてくれ… 』

 

「わかった。今、家にいるのか?」

 

 本日二度目の救援要請。

 こんな力ない、まほちゃんは本当に久しぶりだ。二つ返事で応えると、すぐに車のエンジンを掛ける。

 

「ちょっと運転するから電話切るけど…良いか?」

 

『 …あぁ…構わない 』

 

 …こりゃ…まずいか?

 彼女がここまでになるくらいの事…一体…。

 

「…最後に一応聞いておきたいんだけど、何があったんだ?」

 

『 …… 』

 

「いや、いい。言い辛い事なら帰ってから…」

 

『 …大丈夫だ。隆史にも心構えはあった方がいい。正直、隆史に話すかどうかも悩んでいた事だしな 』

 

「そうか…あぁ、そこに今みほもいるのか?」

 

『 あぁ…しかし…余程ショックだったんだろう…。先程から放心して畳の目を数えている 』

 

「………はい?」

 

 いや、本当にどういう事だ? 何があった? しほさんに何か…。

 

『 いいか、隆史…心して聞け 』

 

「あ…あぁ…」

 

 呼吸を一度止め…彼女の言葉を待っていると…。

 

 

 

『  元・母が乱心した  』

 

 

 …。

 

 

 ………。

 

 

 ………OK、理解した…。

 

 

 

 




はい、閲覧ありがとうございました。
西住姉妹の絶望編も書いた方が良いのだろうか…。

戦車道大作戦も6周年すねぇ…ガチャ回してるだけですけど…しほさん欲しい。

次回は、PINK編が完全に止まっているので、そっちを書きたいと思います。
ただ、ソッチもリハビリ回になりそう…。pixivでエロいのばっかり書いてるから、こっちよりも書きやすそうだなぁとか思ってます。だからコッチでアンケ取るのもおかしいかもしれませんが…希望に沿おうかなぁと思ってます。

1.PINKで以前取ったアンケ通りの上映会
2.人妻編IFの、この日の夜の話
3.人妻編IF【宴編】の、この日の夜の話
4.PINKで以前取ったアンケで僅差だった、限界突破・華さん
5.この小説【宴編】版の淫〇度MAXみぽりんのpixivで描いてるコ〇チャレシリーズ話

11/21まで

ありがとうございました
追伸・PINKのルート壊 【宴編】※来客万来です!~修正 加筆版の挿絵を描き直しました。

次回PINK

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