第3.1話~青森に来た雪~
「はぁー……やっぱりでかいなぁ。学園艦」
入港停泊している、学園艦を見上げる。
早朝のバイトが終わり、賄いの朝飯を頬張りながらボケーっと、眺めている。
早朝短時間バイトは身入りが良い。その分きついけどね。
基本は、市場の近くの飯屋でバイトしている。
基本市場で働いている人御用達の飯屋だ。
開店時間は大体4時頃~7時頃まで。
市場の競りも終わり、賄いを外で食ってるって訳だ。
撤収作業をしている業者が賑わっている。皆買った魚介類をそれぞれ車に乗せ、運んで行く。
俺みたいに若いのが、出入りしているのは珍しい。
ただ…俺が老け顔なのか、あまり年相応に見られない。
よって特に奇異の目で見られる事も無い。
まぁ楽って言えば楽だ。……強がってないよ? 楽だよ?
「…ん? んん!?」
何か明るい金髪の子供が、うろうろと右往左往しとる。迷子か?
売約済のシールが貼られた、マグロに近づいては慄いているな。…なんか面白い。
マグロの目を見ては怖がり離れ、それでも何度も見に行く。面白い。
ただなぁ~、結構フォークリフトもブンブン走り回ってるし、結構危ないな。
それとは別に…かわいいなぁと、失礼にも写真撮っちゃった。
ふむ。
しょうがない…。
「嬢ちゃんどうした? 迷子か? ここ結構危ないぞ?」
声をかけてみた。
…小学生…いや、中学生低学年位だろうか?
「何やってるんだこんな時間に」
比較的和やかに、愛想よくを心がけ声をかけてみた。
おー…。睨まれた。
「なによ! 失礼なやつね! このカチューシャが、迷子なわけ無いでしょ!? 逆よ逆! 迷子のノンナを探してるの!」
OK、わかった。
この子は「カチューシャ」って名前で、保護者は「ノンナ」さんっていうのか。外国の方かね。
「もういいでしょ? ほっといて!」
「わかった。でもまぁ、人拐いには気を付けろよ。海外に売り飛ばされても知らんからな」
ピッ「……」
試しに軽く突き放してみた。
何か考えているのか、動かなくなり、ずーとマグロと見つめ合う幼女。
何だよ、この絵?
俺は様子を見てみようと、近くに座り賄いを再度食べだす。
しばらくマグロと見つめ合っていたが、幼女はなにかを探すように、今度はキョロキョロしだした。
目が合った。そのまま特に気にせず、モゴモゴ食ってるとトコトコこちらに寄ってきた。
幼女…えっと、カチューシャだったっけ? そのカチューシャが、俺の目の前で仁王立ちする。
マグロの変わりに俺を見つめてどうする。
「どうした? 怖くなったか? 俺が人拐いならどうするつもりだよ」
「こっ、怖くないわよ! 私は人を見る目はあるの! あんたの顔は怖いけどね!」
失礼な奴だな。自覚してるよ。
「一人で知らない所で、怖くないと?」
「そうよ!」
「そうかい。俺なら結構怖いと思うがね」
「え?」
「まぁ、過去に経験があるからかね。知らない土地や場所。そんな所に一人放り出されたら、俺は怖くて仕方ないがね。ましてや、周りの人間がどういう奴か分からない。…警戒ばかりしてたな」
「それはあんたが臆病だからよ! カチューシャは違うわ! 勇ましく勇敢に戦うわよ!」
「はっはー。そうかい…そりゃ頼もしいな。でもな? 少しぐらい臆病な方が、丁度いいもんなんだよ」
どっかの赤い、キャノンタイプのMSに乗ってる人が言ってたな。
「何よそれ! 勇敢な方がいいに決まっているでしょ!?」
若いなーとか思うのは、中身がおっさんだからかね。
微笑ましく見守る、目の前の幼女からクゥーと音が聞こえた。
「なんだ? 腹減ってんのか?」
「違うわよ!」
真っ赤になって、顔背けたらバレバレだろうが。
「ほれ、好きなの取りな。こっちの水筒には、味噌汁入ってるからさ。横座って飲みな」
すでに横に広げていた弁当箱。
それに入っていた、賄いのおにぎりの並びを目の前に出してやる。
あぁ、ちゃんと目線は合わせてな。
「いっ、いらないわよ!」
「いいから食え。一応作ったのは、バイト先のちゃんとしたプロ飯屋のおっさんだ。まだここ寒いし、腹入れとかないと体が冷えるだけだぞ」
「あ…あんたに施しを受け『心配してんだよ。いいから食っとけ。不味くはないからさ』」
差し出された弁当箱を見つめ、ムゥ…と、むくれて横に座った。
すぐ水筒のコップに味噌汁を入れてやる。
すぐにモコモコと、無言で食べ始めてた。
マジマジと見ていると、またむくれそうだし、仕方が無いから視線を投げる。
その視線の先、目の前をフォークリフトやら車が、音を出して通り過ぎて行くいつもの光景。
「…」
ボケーと暫く、いつもの光景を眺めていると、横からケプッと声がした。
食い終わったな。
「どうだ? 腹いっぱいになったか?」
「うん…。こ…この借りは、ちゃんといつか返して上げるわ! ありがたく待っていることね!」
「いらん」
「えっ?」
即答で、拒否させて頂きました。
意外だったのか、俺の顔を見上げている。
「いらんって、言ったんだ。そんなつもりでやったわけじゃない。一言「ありがとう」が、聞ければ満足だし、十分だ」
「…」
目線を自分の手に落とし、何かを考え出した。
なに躊躇してんだろう。
別にプライドがどうのって話じゃ無いだろう? まぁこのくらいの年頃はこんなものか?
「…………ぁ」
おや。
「ぁ…ありがと」
小さな声でお礼を言われた。
恥ずかしいのか、赤くなって横を向いてしまった。
なに? この可愛いの。
…笑って頭を撫でながら、答えてやる。
「どういたしまして。どうだ? これならお互い気持ちよく終われるだろ?」
「ふんっ。…まぁ悪い気はしないわね。……そう言えばあんた、名前は?」
「あら、名乗ってなかったな。尾形 隆史だ。これでも一応、高校一年」
「タカシ…ね」
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しかしまぁ驚いた。プラウダ高校の生徒だったよ、この子。
あのでっかい学園鑑から来たのか。
しかも17歳って…年上かよ。……見えねぇ。まぁ嘘だろ。背伸びしたい年頃ですかね?
「あんた、怪しいおっさんにしか見えなかったわよ!」
…老け顔なのは自覚している。しているけど、はっきり言われると少々ヘコむゾ?
「カチューシャは、一体ここで何していたんだ? もう競りも終わったし…ここら辺はもう商品を運んでる業者しかいないぞ?」
「学園艦の着港時間は結構長いのよ。たまには朝早くから下々の生活を視察するのも悪くないわ! 普段ならこんな朝早く起きないけどね!」
「なるほど。着港して港を見るのが楽しみで仕方が無く、早く起きすぎちゃったと。そんでもって、一緒にいたノンナさんとやらと、はぐれてしまったと…こんな所かね?」
「うっさいわね! 違うわよ! なに勝手に妄想してるのよ!!」
あら、怒られちゃった。
なにか可愛くて、頭をガシガシ撫でてしまった。
あ、手で弾かれた…。
「それよりも、あんたは何やってんのよ。こんな朝早く」
「バイトしてんだよ。ここで朝の4時から。そんで終わって、今は休憩中…だったんだけどね」
少し詳しく説明すると、まず仕事開始時間を聞いて絶句している。まぁ、早起きも慣れてしまえば、特段なんて事はないがね。
「ふ~ん…。大変ね! 下々の者も!」
「コラッ」
軽くチョップする。
「な…何すんのよっ! カチューシャにこんな事して!! 粛清するわよ! 粛清ぇ!!」
俺は知っている。
現場の大変さを。前世から今にかけて染み染み思うね。金を稼ぐ……そう、生きていくのは大変だ。
まだ社会に出ていないこの子には、分からないかもしれんがね。
「カチューシャ? お前、高校2年だっけか? だったらある程度、社会の事も分かるだろ?」
もちろん!と無い胸を偉そうに張った。
…嬉しくない。
「カチューシャは、プライドが高そうだから分かるよな? ここの人達も皆、自分の仕事にプライドを持って仕事をしている。それがどんな仕事でもだ。それを下々の者って、一括りに馬鹿にするな。失礼だ」
「…ふんっ!」
わかってるわよ、説教すんな! って感じで横を向かれた。
「さっき食った賄いだってそうだ。うまかったか?」
「……うん」
「戦車だってそうだろ? 一人一人役割がある。皆それぞれ、プライドを持って各役割をこなしているだろ? だから、プラウダ強いんだろ? そう…戦車道。カチューシャもやっているよな?」
「…」
何でわかった? みたいな顔をされた。
はっはー! 驚いた顔って、結構俺好きだな~。
「臭いだよ。お前の動き方もそうだけど、知り合いにガキの頃から、ずっとやってる奴がいてな。なんとなく分かるんだよ」
カチューシャが戦車道をしているという事は、先程何となく気がついた。
んじゃ…さっき言っていた事も本当かね? …マジで年上かよ、この幼女。
「ふ…ふ~ん。でも残念。プライドを持って役割をこなす? 私のチームには、そんな奴なんて殆どいないわ! ノンナくらいね!」
「それはお前が、周りを良く見ていないからだ。よく見てみな。活躍しない、出来ない奴でも何かしら、突出した物を持っている奴もいるさ。それを見つけて活かすのがリーダーって奴の役割だ。って、俺は思うがね?」
「……リーダー」
「しっかりと見てみな。良く観察する事だ。…そいつの代わりが他にいない奴ってのは、案外多いもんだぞ?」
ガシガシ頭を撫でる。
偉そうな事を言ってしまったが、別段変な事は言っていない。
それにこの子は、結構素直だと思う。
さっきの賄い食って、ちゃんと教えたら素直にお礼を言える。そんないい子だと、その時思った。
頭を撫でられながら。
ウゥ~…と、赤くなり唸りながらも、ハッキリと言った。
ほら、素直だ。
「わ…わかったわよ!! ちゃんと検討してあげるわ! タ…タカーシャ!!」
ん? タカーシャ?
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「なぁ。ノンナさんって、あの人じゃ無いのか?」
その後、落ち着いてから、カチューシャと市場内を肩車しながら捜索した。
会話をしながらの捜索。
やっぱりカチューシャは魚市場を見たかったって事で頑張って早起きしたそうだ。
はしゃいで、はしゃぎまくって、気がついたらノンナさんが迷子になっていた…という事らしい。
うん…まぁ埓が開かないので、そういう事にしておいてやろう。
目線が、俺よりも高いはずのカチューシャより先に、俺が何となく聞いていた容姿の美人を見つけた。
まぁプラウダの制服着ているし…すぐに分かったね。
長い黒髪の美人。
そして、どこか冷たさを感じる…そんな雰囲気。その美人さんが、慌てた様子でキョロキョロしていた。
焦ってる、焦ってる。
あの人じゃないかと、指差して聞いてみた。
「どうだ? 違うか?」
「ノンナーーー!!!」
俺の問いかけに答えるより先に、大声で呼んだ。
ふむ、どうやら正解のようだ。バタバタしだしたので、カチューシャを肩から降ろしてやった。
俺の仕事もここまでだな。
「じゃあ。ここまでだな。カチューシャ」
「……」
肩から降ろしたカチューシャは、今度は俺の指を握った。…なんだ?
「カチューシャ!」
ノンナさんとやらが、カチューシャの名を叫びながら、駆け寄ってくる。
向こうからも俺達を視認できたのだろう。
余程心配だったのだろうな。
それに合わせ、カチューシャもノンナさんに駆け寄った。
感動の再会かなぁ…とか、見ていたら…。
ノンナさんは、カチューシャを通り過ぎ、一緒にいた俺に…。
…飛び蹴りをかましてきた。
はい…見事な捻りを加えた、ドロップキックでした。
……
「すいません。てっきりロリコンの人拐いかと」
「いえ。まぁ。いいですけど…」
全っ然、悪びれてないなこの女…。すっげぇ棒読みだぞ。
「…では、カチューシャ。学園艦へ戻りましょう。ここは、非常に危険ですから」
「……」
すっげー、ガン飛ばし来やがりますよ、この女。
顔はカチューシャの顔を見ているのだけど、横目でこちらを始終睨んでいる。
警戒されているのは分かるのだが、それ以上にこの人。
…やだ怖い。
「はぁ…。まっ、いいや。んじゃあな、カチューシャ。俺はここまでだ」
ガリガリと、頭を掻きながらお別れの挨拶。
そのカチューシャは、顔を伏せて寂しそうにしてくれる。
まぁ指摘したらムキになって、否定してきそうだから言わないけどねぇ。
ま、嬉しいじゃないですか。……横の人、すっごい怖いけど。
「ふん! 礼を言うわ!…で? タカーシャは、これからどうするの?」
「!?」
ノンナさんが、そのセリフに目を見開く。
そして、そのまま俺を殺さんと睨みつけてくる。まったく…何なんだよ。
ちょっと流石に、イラついてくる。
あ。……すいません。
客観的に見たら俺って、怪しすぎるか。…睨むのも、まぁ当然だろう。
ん~…今何時だ?
携帯を開けて時間を確認した。
すでに、もう昼近くなっていた。特に用はなかったが、バイト先に顔出して帰るか。
「そうさなぁ。カチューシャの探し人も見つかった事だし。どっかで飯食って帰るさ」
「そっ」
なんかプイッと、横をむかれてしまった。
「何だ? 寂しいか?」
ニヤニヤして、言ってやる。
「さっ! 寂しくないわよ! 逆よ逆!! タカーシャが、私と別れるのが寂しいんじゃないかと思ったのよ! だって臆病なんでしょ!?」
まただよ…。
何が気に食わないのか、ノンナさんとやらが、殺気を含んだ視線を俺に向けてくる。
まぁいいや。これで最後だ。
「はっはー。良く分かったな? まぁ……俺あそこで、バイトしてるからさ。また来た時とか、見かけたら声でも掛けてやってくれ。知らない人が多いと、臆病な俺は怖くて仕方ないからなぁ。カチューシャが来てくれれば嬉しいさ。…可愛いしな!」
ふふんっと、鼻を鳴らして、ご機嫌になってくれたようです。このお姫様。
「仕方ないわねぇ! 分かったわ!」
…そんなこんなで、笑顔でお別れできた。
まぁ…もう二度と会うこともないだろ。
しかしノンナさんは、始終睨んできたなぁ…。
俺とまともに会話してねぇよ。
まっいいさ。
これで終わりだ。
……なんて思っていた。
しかし次の週。
カチューシャは、再び現れた。
…俺のバイト先に。
「来たわ! タカーシャ!!」
はい。閲覧ありがとうございました。
カチューシャとの出会いです。
一話にまとめようかと思ったんですが、長くなりそうなのと
本編そっちのけになりそうなので何話かにわけます。
ありがとうございました。