転生者は平穏を望む   作:白山葵

14 / 141
青森編 オリジナル展開になります。



過去・青森編
第3.1話~青森に来た雪~


「はぁー……やっぱりでかいなぁ。学園艦」

 

入港停泊している、学園艦を見上げる。

早朝のバイトが終わり、賄いの朝飯を頬張りながらボケーっと、眺めている。

早朝短時間バイトは身入りが良い。その分きついけどね。

基本は、市場の近くの飯屋でバイトしている。

基本市場で働いている人御用達の飯屋だ。

 

開店時間は大体4時頃~7時頃まで。

市場の競りも終わり、賄いを外で食ってるって訳だ。

 

撤収作業をしている業者が賑わっている。皆買った魚介類をそれぞれ車に乗せ、運んで行く。

俺みたいに若いのが、出入りしているのは珍しい。

ただ…俺が老け顔なのか、あまり年相応に見られない。

よって特に奇異の目で見られる事も無い。

まぁ楽って言えば楽だ。……強がってないよ? 楽だよ?

 

「…ん? んん!?」

 

何か明るい金髪の子供が、うろうろと右往左往しとる。迷子か?

売約済のシールが貼られた、マグロに近づいては慄いているな。…なんか面白い。

マグロの目を見ては怖がり離れ、それでも何度も見に行く。面白い。

ただなぁ~、結構フォークリフトもブンブン走り回ってるし、結構危ないな。

 

それとは別に…かわいいなぁと、失礼にも写真撮っちゃった。

 

ふむ。

 

しょうがない…。

 

 

「嬢ちゃんどうした? 迷子か? ここ結構危ないぞ?」

 

声をかけてみた。

…小学生…いや、中学生低学年位だろうか?

 

「何やってるんだこんな時間に」

 

比較的和やかに、愛想よくを心がけ声をかけてみた。

おー…。睨まれた。

 

「なによ! 失礼なやつね! このカチューシャが、迷子なわけ無いでしょ!? 逆よ逆! 迷子のノンナを探してるの!」

 

OK、わかった。

 

この子は「カチューシャ」って名前で、保護者は「ノンナ」さんっていうのか。外国の方かね。

 

「もういいでしょ? ほっといて!」

 

「わかった。でもまぁ、人拐いには気を付けろよ。海外に売り飛ばされても知らんからな」

 

ピッ「……」

 

試しに軽く突き放してみた。

 

何か考えているのか、動かなくなり、ずーとマグロと見つめ合う幼女。

 

何だよ、この絵?

 

俺は様子を見てみようと、近くに座り賄いを再度食べだす。

しばらくマグロと見つめ合っていたが、幼女はなにかを探すように、今度はキョロキョロしだした。

 

目が合った。そのまま特に気にせず、モゴモゴ食ってるとトコトコこちらに寄ってきた。

幼女…えっと、カチューシャだったっけ? そのカチューシャが、俺の目の前で仁王立ちする。

 

マグロの変わりに俺を見つめてどうする。

 

「どうした? 怖くなったか? 俺が人拐いならどうするつもりだよ」

 

「こっ、怖くないわよ! 私は人を見る目はあるの! あんたの顔は怖いけどね!」

 

失礼な奴だな。自覚してるよ。

 

「一人で知らない所で、怖くないと?」

 

「そうよ!」

 

「そうかい。俺なら結構怖いと思うがね」

 

「え?」

 

「まぁ、過去に経験があるからかね。知らない土地や場所。そんな所に一人放り出されたら、俺は怖くて仕方ないがね。ましてや、周りの人間がどういう奴か分からない。…警戒ばかりしてたな」

 

「それはあんたが臆病だからよ! カチューシャは違うわ! 勇ましく勇敢に戦うわよ!」

 

「はっはー。そうかい…そりゃ頼もしいな。でもな? 少しぐらい臆病な方が、丁度いいもんなんだよ」

 

どっかの赤い、キャノンタイプのMSに乗ってる人が言ってたな。

 

「何よそれ! 勇敢な方がいいに決まっているでしょ!?」

 

若いなーとか思うのは、中身がおっさんだからかね。

微笑ましく見守る、目の前の幼女からクゥーと音が聞こえた。

 

「なんだ? 腹減ってんのか?」

 

「違うわよ!」

 

真っ赤になって、顔背けたらバレバレだろうが。

 

「ほれ、好きなの取りな。こっちの水筒には、味噌汁入ってるからさ。横座って飲みな」

 

すでに横に広げていた弁当箱。

それに入っていた、賄いのおにぎりの並びを目の前に出してやる。

あぁ、ちゃんと目線は合わせてな。

 

「いっ、いらないわよ!」

 

「いいから食え。一応作ったのは、バイト先のちゃんとしたプロ飯屋のおっさんだ。まだここ寒いし、腹入れとかないと体が冷えるだけだぞ」

 

「あ…あんたに施しを受け『心配してんだよ。いいから食っとけ。不味くはないからさ』」

 

差し出された弁当箱を見つめ、ムゥ…と、むくれて横に座った。

すぐ水筒のコップに味噌汁を入れてやる。

 

すぐにモコモコと、無言で食べ始めてた。

 

マジマジと見ていると、またむくれそうだし、仕方が無いから視線を投げる。

その視線の先、目の前をフォークリフトやら車が、音を出して通り過ぎて行くいつもの光景。

 

「…」

 

ボケーと暫く、いつもの光景を眺めていると、横からケプッと声がした。

食い終わったな。

 

「どうだ? 腹いっぱいになったか?」

 

「うん…。こ…この借りは、ちゃんといつか返して上げるわ! ありがたく待っていることね!」

 

「いらん」

 

「えっ?」

 

即答で、拒否させて頂きました。

意外だったのか、俺の顔を見上げている。

 

「いらんって、言ったんだ。そんなつもりでやったわけじゃない。一言「ありがとう」が、聞ければ満足だし、十分だ」

 

「…」

 

目線を自分の手に落とし、何かを考え出した。

なに躊躇してんだろう。

別にプライドがどうのって話じゃ無いだろう? まぁこのくらいの年頃はこんなものか?

 

「…………ぁ」

 

おや。

 

「ぁ…ありがと」

 

小さな声でお礼を言われた。

恥ずかしいのか、赤くなって横を向いてしまった。

 

なに? この可愛いの。

…笑って頭を撫でながら、答えてやる。

 

「どういたしまして。どうだ? これならお互い気持ちよく終われるだろ?」

 

「ふんっ。…まぁ悪い気はしないわね。……そう言えばあんた、名前は?」

 

「あら、名乗ってなかったな。尾形 隆史だ。これでも一応、高校一年」

 

「タカシ…ね」

 

 

 

 

 

---------

------

---

 

 

 

 

 

しかしまぁ驚いた。プラウダ高校の生徒だったよ、この子。

あのでっかい学園鑑から来たのか。

しかも17歳って…年上かよ。……見えねぇ。まぁ嘘だろ。背伸びしたい年頃ですかね?

 

「あんた、怪しいおっさんにしか見えなかったわよ!」

 

…老け顔なのは自覚している。しているけど、はっきり言われると少々ヘコむゾ?

 

「カチューシャは、一体ここで何していたんだ? もう競りも終わったし…ここら辺はもう商品を運んでる業者しかいないぞ?」

 

「学園艦の着港時間は結構長いのよ。たまには朝早くから下々の生活を視察するのも悪くないわ! 普段ならこんな朝早く起きないけどね!」

 

「なるほど。着港して港を見るのが楽しみで仕方が無く、早く起きすぎちゃったと。そんでもって、一緒にいたノンナさんとやらと、はぐれてしまったと…こんな所かね?」

 

「うっさいわね! 違うわよ! なに勝手に妄想してるのよ!!」

 

あら、怒られちゃった。

 

なにか可愛くて、頭をガシガシ撫でてしまった。

あ、手で弾かれた…。

 

「それよりも、あんたは何やってんのよ。こんな朝早く」

 

「バイトしてんだよ。ここで朝の4時から。そんで終わって、今は休憩中…だったんだけどね」

 

少し詳しく説明すると、まず仕事開始時間を聞いて絶句している。まぁ、早起きも慣れてしまえば、特段なんて事はないがね。

 

「ふ~ん…。大変ね! 下々の者も!」

 

「コラッ」

 

軽くチョップする。

 

「な…何すんのよっ! カチューシャにこんな事して!! 粛清するわよ! 粛清ぇ!!」

 

俺は知っている。

 

現場の大変さを。前世から今にかけて染み染み思うね。金を稼ぐ……そう、生きていくのは大変だ。

まだ社会に出ていないこの子には、分からないかもしれんがね。

 

「カチューシャ? お前、高校2年だっけか? だったらある程度、社会の事も分かるだろ?」

 

もちろん!と無い胸を偉そうに張った。

…嬉しくない。

 

「カチューシャは、プライドが高そうだから分かるよな? ここの人達も皆、自分の仕事にプライドを持って仕事をしている。それがどんな仕事でもだ。それを下々の者って、一括りに馬鹿にするな。失礼だ」

 

「…ふんっ!」

 

わかってるわよ、説教すんな! って感じで横を向かれた。

 

「さっき食った賄いだってそうだ。うまかったか?」

 

「……うん」

 

「戦車だってそうだろ? 一人一人役割がある。皆それぞれ、プライドを持って各役割をこなしているだろ? だから、プラウダ強いんだろ? そう…戦車道。カチューシャもやっているよな?」

 

「…」

 

何でわかった? みたいな顔をされた。

はっはー! 驚いた顔って、結構俺好きだな~。

 

「臭いだよ。お前の動き方もそうだけど、知り合いにガキの頃から、ずっとやってる奴がいてな。なんとなく分かるんだよ」

 

カチューシャが戦車道をしているという事は、先程何となく気がついた。

んじゃ…さっき言っていた事も本当かね? …マジで年上かよ、この幼女。

 

「ふ…ふ~ん。でも残念。プライドを持って役割をこなす? 私のチームには、そんな奴なんて殆どいないわ! ノンナくらいね!」

 

「それはお前が、周りを良く見ていないからだ。よく見てみな。活躍しない、出来ない奴でも何かしら、突出した物を持っている奴もいるさ。それを見つけて活かすのがリーダーって奴の役割だ。って、俺は思うがね?」

 

「……リーダー」

 

「しっかりと見てみな。良く観察する事だ。…そいつの代わりが他にいない奴ってのは、案外多いもんだぞ?」

 

ガシガシ頭を撫でる。

 

偉そうな事を言ってしまったが、別段変な事は言っていない。

それにこの子は、結構素直だと思う。

さっきの賄い食って、ちゃんと教えたら素直にお礼を言える。そんないい子だと、その時思った。

 

頭を撫でられながら。

 

ウゥ~…と、赤くなり唸りながらも、ハッキリと言った。

 

ほら、素直だ。

 

「わ…わかったわよ!! ちゃんと検討してあげるわ! タ…タカーシャ!!」

 

ん? タカーシャ?

 

 

 

 

 

----------

------

---

 

 

 

 

 

 

「なぁ。ノンナさんって、あの人じゃ無いのか?」

 

その後、落ち着いてから、カチューシャと市場内を肩車しながら捜索した。

 

会話をしながらの捜索。

 

やっぱりカチューシャは魚市場を見たかったって事で頑張って早起きしたそうだ。

はしゃいで、はしゃぎまくって、気がついたらノンナさんが迷子になっていた…という事らしい。

 

うん…まぁ埓が開かないので、そういう事にしておいてやろう。

 

目線が、俺よりも高いはずのカチューシャより先に、俺が何となく聞いていた容姿の美人を見つけた。

まぁプラウダの制服着ているし…すぐに分かったね。

 

長い黒髪の美人。

 

そして、どこか冷たさを感じる…そんな雰囲気。その美人さんが、慌てた様子でキョロキョロしていた。

焦ってる、焦ってる。

 

あの人じゃないかと、指差して聞いてみた。

 

「どうだ? 違うか?」

 

「ノンナーーー!!!」

 

俺の問いかけに答えるより先に、大声で呼んだ。

ふむ、どうやら正解のようだ。バタバタしだしたので、カチューシャを肩から降ろしてやった。

 

俺の仕事もここまでだな。

 

「じゃあ。ここまでだな。カチューシャ」

 

「……」

 

肩から降ろしたカチューシャは、今度は俺の指を握った。…なんだ?

 

「カチューシャ!」

 

ノンナさんとやらが、カチューシャの名を叫びながら、駆け寄ってくる。

向こうからも俺達を視認できたのだろう。

 

余程心配だったのだろうな。

 

それに合わせ、カチューシャもノンナさんに駆け寄った。

 

感動の再会かなぁ…とか、見ていたら…。

 

 

ノンナさんは、カチューシャを通り過ぎ、一緒にいた俺に…。

…飛び蹴りをかましてきた。

はい…見事な捻りを加えた、ドロップキックでした。

 

 

……

 

 

「すいません。てっきりロリコンの人拐いかと」

 

「いえ。まぁ。いいですけど…」

 

全っ然、悪びれてないなこの女…。すっげぇ棒読みだぞ。

 

「…では、カチューシャ。学園艦へ戻りましょう。ここは、非常に危険ですから」

 

「……」

 

すっげー、ガン飛ばし来やがりますよ、この女。

顔はカチューシャの顔を見ているのだけど、横目でこちらを始終睨んでいる。

警戒されているのは分かるのだが、それ以上にこの人。

 

…やだ怖い。

 

「はぁ…。まっ、いいや。んじゃあな、カチューシャ。俺はここまでだ」

 

ガリガリと、頭を掻きながらお別れの挨拶。

そのカチューシャは、顔を伏せて寂しそうにしてくれる。

まぁ指摘したらムキになって、否定してきそうだから言わないけどねぇ。

 

ま、嬉しいじゃないですか。……横の人、すっごい怖いけど。

 

「ふん! 礼を言うわ!…で? タカーシャは、これからどうするの?」

 

「!?」

 

ノンナさんが、そのセリフに目を見開く。

 

そして、そのまま俺を殺さんと睨みつけてくる。まったく…何なんだよ。

ちょっと流石に、イラついてくる。

 

あ。……すいません。

 

客観的に見たら俺って、怪しすぎるか。…睨むのも、まぁ当然だろう。

 

ん~…今何時だ?

 

携帯を開けて時間を確認した。

すでに、もう昼近くなっていた。特に用はなかったが、バイト先に顔出して帰るか。

 

「そうさなぁ。カチューシャの探し人も見つかった事だし。どっかで飯食って帰るさ」

 

「そっ」

 

なんかプイッと、横をむかれてしまった。

 

「何だ? 寂しいか?」

 

ニヤニヤして、言ってやる。

 

「さっ! 寂しくないわよ! 逆よ逆!! タカーシャが、私と別れるのが寂しいんじゃないかと思ったのよ! だって臆病なんでしょ!?」

 

まただよ…。

何が気に食わないのか、ノンナさんとやらが、殺気を含んだ視線を俺に向けてくる。

まぁいいや。これで最後だ。

 

「はっはー。良く分かったな? まぁ……俺あそこで、バイトしてるからさ。また来た時とか、見かけたら声でも掛けてやってくれ。知らない人が多いと、臆病な俺は怖くて仕方ないからなぁ。カチューシャが来てくれれば嬉しいさ。…可愛いしな!」

 

ふふんっと、鼻を鳴らして、ご機嫌になってくれたようです。このお姫様。

 

「仕方ないわねぇ! 分かったわ!」

 

…そんなこんなで、笑顔でお別れできた。

 

まぁ…もう二度と会うこともないだろ。

 

しかしノンナさんは、始終睨んできたなぁ…。

俺とまともに会話してねぇよ。

 

まっいいさ。

これで終わりだ。

 

……なんて思っていた。

 

しかし次の週。

 

カチューシャは、再び現れた。

 

…俺のバイト先に。

 

「来たわ! タカーシャ!!」

 

 




はい。閲覧ありがとうございました。
カチューシャとの出会いです。

一話にまとめようかと思ったんですが、長くなりそうなのと
本編そっちのけになりそうなので何話かにわけます。


ありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。