転生者は平穏を望む   作:白山葵

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お久し振りです。

PINK…一年以上放置してるよ…会社コロナで傾いたり、そのコロナ掛かったり…pixivえエロばっかり描いてたら文章全く描かなくなってたり…PINK編描く予定だったのに文章エロいの書きつらくなってたり…まぁアレですわ。


復活です。


第30話 努力は報われるのか?

 

 目の前の大画面から、無限軌道を唸らせながら走りまわる何輌もの戦車。それに合わせる様に、少し離れた一般ギャラリー会場から、何度も大きな歓声が何度も聞こえてくる。

 本格的に戦車同しの鬼ごっこが始まっていた。

 

 フラッグ車…みほのⅣ号を追いかけるカチューシャ達とは別に、他のチーム達へと送られる歓声も聞こえる。

 追いかけている…というと、優位的な言葉に聞こえるが、実際には完全に大波さんチームのペースだった。

 そんでもって思った…。各チームは、ただもう…みほの指示を待つだけじゃないんだと。

 模範となるのが、近くにみほしかいなかった…というのもあるが、どこかしら…みほの行動に似てきていると思うのは、気のせいだろうかね…?

 彼女達も何度も試合や練習を繰り返し、場数をこなしているのもやはり良い経験になっているんだろう。流石に慣れた…といえば、それまでだけども、各々がちゃんと考え、その場の状況を読み取り行動している。

 見ている方は、面白いと感じるかもしれない。

 

 …が。

 

 コレって対戦相手からするとどうなんだろう…。大洗以外の娘達って、少なくとも昔から戦車道を嗜んでいる者達ばかりなんだろう? 

 否が応でもそのセオリー…基本ともいうモノが精神的にも染み込んでいるだろうし、大洗側からの突発的に起こる、そのセオリー無視の行動は予想しかねるだろうし何よりも一種の恐怖すら感じるんじゃなかろうか?

 アレだ…。全国大会出場時の「ド素人」の大洗ではなく、現時点は「全国大会優勝校」として大洗だろう? 優勝はまぐれだと言う連中はまだ沢山いる。が、まぐれだろうが、なんだろうが…事実彼女達は強豪校達をなぎ倒し、優勝を勝ち取っている。

 つまり実績を伴っている現状で、訳わからん行動してくる大洗。

 

 …。

 

 ベテラン…強豪チームと呼ばれ、その隊長格の人物とならば、今まで考えようとも思わなかったであろう行動で返してくる大洗に対して、新鮮で…面白い。…と感じるのかもしれない。

 事実、ダージリンを始め、あのカチューシャですら偉くみほが気に入っている様に感じるしな。

 でもな…それはあくまで、隊長格。なまじ経験浅くない一般の選手にとっては、黒森峰すら撃破した連中が、セオリー外の行動で何をしてくるかわからんってのは…恐怖でしかないんじゃなかろうか…。

 だからこその…この鬼ごっこ状態だろうな…。

 はぁ…最近勉強し始め、ある程度知識が入ると、変に分析をしてしまう辺りが軽く自己嫌悪を招く。何を偉そうに、齧ったばかりの素人の俺が…ってね。

 

『 ずるいぞ! ここは発砲禁止区域だっ!! 』

 

 よほど焦っているのか、怒っているのか…聖グロリアーナの車輛からアヒルさんチームへと叫んだその声を無線が拾った。

 大丈夫だよー…中継の音声もしっかり拾っているから…。

 ショッピングモール内へと逃げ込む、大波さんチームの2輌を追いかけて、叫んだ…えっと、ルクリリさんだっけか? その彼女の車輛もまた、建物内へと消えていった。

 発砲禁止区域の為に、上空からの映像しか映らない為…建物内へと入られてしまうと動きが分からない。

 

 少し経つと…建物内…いや、正確にはその屋根から顔を出した、アヒルさんチームとルクリリさんが、中庭の…なんだろアレ…噴水か?

 その周りをぐるぐると廻っているだけ。コレは追いかけている立場のルクリリさんからすれば、仕掛けるに仕掛けられない状況なんだろう。

 逃げられ、見失わない様にするのが精一杯って所か…。

 

 …ほいほい。

 

 別に今回は撮影禁止という訳ではないのだろうから、適当にスマホで検索。

 まぁ多分いるだろうしな。…ってあったあった。即座にUPする辺り、小慣れているなこの人…中村みたいな人達というは結構いるんだろうか。

 

「…隆史」

 

 …ん。試合中、急にスマホをいじりだした為、少々嗜めるように俺を呼んだまほちゃん。

 まぁ…せっかくだし…俺のスマホ画面を一緒に見る様にと、分かりやすく少し彼女に肩を寄せると、一瞬躊躇するもすぐに視線を落としてくれた。

 

 今も一生懸命、バターにでもなりそうな位に噴水周りをグルグルと周っている彼女達のつい先ほどまでの……あ~……。

 。実況配信している人だろうな。丁度グルグル回っている横に設置されるエスカレーターを利用し、知波単の車輛が2階から降りてきた…。

 戦車事利用したって訳だけど…あぁ…もう。当然戦車なんぞ乗り訳もなく…手すりの上に起用に乗りながら下ってきた。結局その重量に耐え切れず手すりごとバキバキと音を立ててぶっ壊れた…。

 

「これは…あの現場か? 隆史、この映像はどうやって…」

 

「あぁうん、前に教えたネットでの生配信って奴なんだけど…あ~…思ったよりひっどいなコリャ」

 

「ひどい? …あぁまぁ、隆史からすればそうだろうな」

 

「はは…」

 

 壊れたエスカレーター見て、そう言ってくれたのだろうが…ソレはソレで当て嵌まるのだろうが、ソレだけじゃないんだがね。

 休日のショッピングモール。…子連れも多くいるだのろうに…本来、通るべきではない場所に、通ってはいけないモノが走れば、どれだけ危ないか…。

 

 …。

 

 とか思っても、その現場にいる方々も…今現在進行形で戦車に乗っている誰に言っても、その部分だけは理解されないのだろうが…な。

 たまに思う。価値観で片付けられてしまえない程の事も、フィルターを通しているのではないかと思える程に大きな境が稀にある。

 それは、ここ最近大きく感じる。しほさんに戦車道を教えてもらい始めてから、それをより強く感じるのは何故だろうか…?

 

「………」

 

 苦笑する俺を横目に見て、少し頬を膨らませる…と言うと語弊があるか? ちょっとご不満そうな顔のまほちゃんが俺の顔を下からのぞき込んできた。

 

「今日はあまり私に解説を求めないな」

 

 えっと…え?

 

「発砲禁止区域に侵入するのは良いのか? とか…聞かれると思って楽しみにしていたのになぁ…」

 

 …割とマジで残念そうな顔をされましたね…。

 

「えっと…確か、発砲禁止区域は字の如く発砲禁止で…戦闘区域外に出る訳じゃなかったら、別にOKじゃなかったっけ?」

 

「……そうだな」

 

「まぁ…故意に時間稼ぎとか、避難とかで? だったら~…ペナルティはあった様な…なんだっけか」

 

「………」

 

 っっっ!!!

 

 いかんっ! 悪寒がっ!!! なんだっけ!?

 

「…隆史?」

 

 あっ! た…たしかっ!!

 

「戦車撃破・走行不能以外、戦車の搭乗員がすべて降車してしまった場合同様! 敵前逃亡…つまり試合放棄とみなされ失格となるとされる…だっけっ!?」

 

「……………」

 

「あれ? 違った!?」

 

 まほちゃんの目が鋭くなったけど!?

 

「…正解だ」

 

「おっしっ! っっぶねぇっ!!」

 

 無意識にガッツポーズを取ってしまった…。

 いかんいかん…いつもの癖で、間違え=説教が身に染みて…

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 いやぁ~…下手にここら辺…つまり失格案件間違えると、しほさんマジで怖いからなぁ…。特に敵前逃亡とか西住流にあるまじきとか…まぁ…長くなるし…。

 ここ最近じゃないかしら…人生で一番正座していた時間って…。しっかし、何度も思ったなぁ…しほさん、まほちゃんと、みほに…一体どういった風に戦車道を…

 

 っっっ!?

 

「ふふっ…隆史? 戦車道を学んでいたんだな?」

 

「えっ…あ…うん、少し勉強を……ぉぉ!?」

 

 おぉっ!? なんだ今の悪寒はっ!? そしてすっげぇ優しい笑顔になってるまほちゃん!?

 貴女、そんな笑顔滅多に見せませんよねっ!? そして、絶対表情と内面反比例してますよね!? 目だけ笑ってねぇんだものっ!

 コレ…あの分家の野郎の話をしていた時の比じゃねぇっ!!

 

 …………ガチ切れされておられる。

 

「あの…まほちゃ「 誰に教わっている? 」

 

「………え?」

 

 な…なにを…。

 

「私…いや、百歩譲って、みほ。共に暮らしている私達を除外して、誰に戦車道を教えを乞っているんだ? 隆史? ん?」

 

 か…可愛らしく笑顔で小首を傾けたが…擬音が絶対「こくんっ」とかじゃかくて、乾いた音で「カクッ」だなっ!! 絶対っ!!

 

「 」ガクガクガクガク

「 」カタカタカカタ

 

 …ローズヒップと、ハゲがいつの間にかテントの隅に避難して小刻みに振るえていた…。

 

「それは独学で…「…というのは、通用せんぞ。貴様の部屋にはその手の書籍類も無い。それに貴様は効率的な方法を求める傾向にある。だから良くも悪くも人に頼むという事に抵抗は見せない。畑の違う分野に関してはエキスパート…その手の分野に精通している者に教えを受けるのが最も適しているのを理解している」

 

「」

 

 超早口で俺の分析結果を口にされましたね…。

 

「よって隆史は戦車道を独学ではなく…私達姉妹ではなく、寄りにも寄って、どこぞの馬の骨に教えを乞っているという結果になる訳だが誰だ?」

 

 …呼吸苦しくないですか? と聞きたくなる程に一息でおっしゃいましたね…。

 

 

「 誰 だ 」

 

 

「」

 

 いや、どこぞの馬の骨ではなく、貴女のお母様なのですが…とも言えず…。結局、俺が彼女のプライドをひどく傷つけてしまったのだろう。まぁ勉強しているのバレたので、言っても大丈夫か? とも思うのだけど…何故だろう…脳内ハザードランプが煌々と大活躍しておる…。

 理由からしても、君達姉妹に負担…もあるが、結局知らない所で勉強して、ちょっと格好つけたかった…ってだけなのに、逆にこのタイミングで理由を話してしまうのは、結果的に格好悪すぎだろ俺。

 まぁ…しほさんに教えてもらっていると言えば、彼女も納得してくれるとも思うんだけど…菊代さんに絶対に言うなとごっつい杭をぶち込まれているので…やっぱり喋れないし…それにやはり脳内ハザードランプが大活躍しているのでどうしたもんか。

 

「えっと…き…」

 

「…き?」

 

 あぁもうっ! 下手なウソつくと泥沼していくのは解っちゃいるけどっ!! もう他に手が思い浮かばないっ!

 

 

 

「菊代…さん」

 

「………なに?」

 

 まぁそうだなっ!! ある意味完全なウソじゃないっ! あの海の後、しほさんと一緒に、どんだけ悲惨な説教を食らったかっ!

 ついでに教わった事の復習とばかりに今度は、しほさんと一緒にどれだけ過酷な問題をっ!!

 

 一瞬、まほちゃんの目に力が入ったかと思ったけど、菊代さんの名前を出したら俺から少し体を離してくれたから効果はあったんだろう!

 よしっ!

 

「ふむ……」

 

 まだ疑った目をしているが、ある程度腑に落ちるのかっ! 何か考え込んでるっ!

 

「あの動画は本物だったのか…」

 

「いや、ちょっと待て」

 

 まほちゃん…今…なんつった…?

 余りに場違いな単語に、思わず真顔になっちまった。

 

「音声は入ってなかったのだがな? なぜか菊代さんを背に乗せて半裸で腕立てをしている隆史の動画が、菊代さん本人から証拠だと送られてきていてな…? 隆史に確認しなくてはと、思ってはいたのだが…」

 

「……………あ、うん。ソレダネ、ソレ。出題問題間違えたら、その数掛ける10回…菊代さん乗せて腕立てさせられた…」

 

 

 説教の後でなっ!!! 復習問題の難易度高すぎなんだよっ!! というか、動画…あぁ…そういや、しほさんずっとスマホ持ってたけど…ソレか…。

 あの時なんで二人揃って、恍惚な笑みを浮かべていたんだろ…。

 

「なるほど。なるほど…ならば良し」

 

 え…あっさり納得したね…。変身するかのように、パッと態度と表情を変えたのですけど…。

 それ以前にそんな怪しい動画届いていたら、イの一番に俺に確認取らんか? というか、消して欲しいのですけど?

 

「実はな…菊代さんからすでに聞いていた」

 

「………は?」

 

「状況的に詰め寄った時の隆史の態度が、そのまま浮気をした男の態度だから、観察してよく覚えておくと良いと教えてもらってな」

 

「菊代さんっ!?」

 

「戦車道関連で私を蔑ろにし、別の女に教えを乞うてた隆史…が、その蔑ろにした女に詰め寄られる……なるほど。状況的にはそのままだなと。いや、良いシュミレーションになった」

 

「違うよ!?」

 

「違わないな。私にとってはそのままだ浮気者」

 

「………」

 

 …わ…割と声が本気のトーン。プライドを傷つけたと言ったが、本当にそうだったんだろうな…。

 

「ふぅ…私としても、乗り気ではなかったのだが…。まぁせっかくだったので、このタイミングだと思ってな……熱が思った以上に入ってしまったが」

 

 …絶対ウソだ…。

 

「目が良く泳いでいたなぁ…まぁ、比較的早めに白状したのもあって、あまりサンプルは入らなかったが、良い経験にはなった。今後参考にする」

 

「…………」

 

 サンプルって…。

 

 今後って…。

 

「隆史は…負い目がある状況で追いつめられると…なるほど…そうだな、昔からそうだった。あと…」

 

 ぶつぶつ小声でなんか言ってるけど…ホクホクとした顔に変わったので、ある意味じゃ危機を脱したと考えて良いのだろう…か?

 

「……」

 

 …ん? ちょっと待て?

 

 菊代さんから聞いていたって事は…この状況を予想していたって事か!? 

 追いつめられた俺が、苦し紛れに導き出した答え…菊代さんの名前を最後に出す事まであの人把握していたって事ですか!?

 確かにごっつい杭をパイルバンカーされていはいたけど…本当の事を俺が言うかもしれないとか…別の人名前を出す事だって………いや待て。それすら…。

 じゃなきゃ、まほちゃんはあんなにあっさり納得して…聞いていた事まで白状して……。

 

「……………」

 

 こ…こえぇぇぇ…。

 

 何あの人!? 俺の思考パターン把握されてんじゃんよっ!!!

 

「まぁ正直に隆史が白状したから、今回は良しとしよう」

 

「……」

 

「他の女の名前を出したら、どうしてくれようかと思っていたが…ふむ」

 

 ……女って…。

 

 わかった…。まほちゃん、全部答えを知っていた上であの追及だったか。マジ切れしていたと思っていたが、やはり間違いではなかったな。

 まほちゃん、他の人は意外に思うかもしれないが、結構な激情型なんだよな…ため込んで、ため込んで…ここだと思った時に全身全霊をもって畳みかけるタイプだよな…うん。

 逃げ道ふさいでおいて、確実を取りに尋問開始したのだろうなぁ…アレ…。

 なんか最近そんな事ばかりされてるから、よくわかるんですよ、はい。流し目で見ないでください。本気ですっきりしたような顔しないでください。

 

 ローズヒップが…おい、なんでスマホのカメラ向けてんだよ。

 

「いやぁ……尾形君。君の日常は毎日楽しそうだね…」

 

 このっ…。無事だと判断したのか、ノソノソと児玉理事長が這い出てきた。

 何楽しそうだ、この野郎。胃が3回転半するくらい捻じれた痛みが走り続けたわ。

 まほちゃんもまた観戦モードに完全に切り替えたし…なんか俺、背中の汗がすげぇんですけど…。

 

「…まだ、いたんですね。児玉理事長」

 

「…あぁ~いやぁ……って、まほ君…私に少々きつくないかね?」

 

「気のせいでは? お立場的にこの場にいる事態、よろしくないと思いご忠告申し上げただけですが?」

 

「…あ、はい」

 

 …睨んでるなぁ…まぁほぼ俺と会う為だけに来ただろうから、それは理解する。理解すから、用が済んだらさっさと帰れと暗に目力たっぷりに言ってるなぁ…まほちゃん。

 

「ほら、隆史も」

 

「えっ?」

 

 俺の目を見え、軽く顎で俺の目線に誘導をかけてきた。というか、中継画面を見ろとでも言っているんだろう。

 いやぁ…すっかりスイッチ切り替わっているまほちゃんに少し…あ、いいです。文句とかアリマセンから真っすぐ見ないでください。

 

「おぉ!?」

 

 目線を画面に切り替えると…プラウダ高校の車輌が道路、交差点の中央近くで煙を吐いて止まっていた。

 すのすぐ上…道路高架の上で、カメさんチーム上のカモさんチームが…って文字道り、カメの親子みたいく戦車が戦車の上に鎮座していた。

 高架の上から、コレもまた文字通り砲弾を降らせたんだろう。戦車のハッチ横付近が少し炎上していた。

 

 …。

 

 

「一輌撃破されとる…」

 

「隆史、アレは…んっ?」

 

 思わず声に出してしまった、俺のつぶやきに先ほどの事などなかったか様に、いつもみたく説明を始めようとしてくれたまほちゃん。

 それを遮る様な電子音が響いた。マナーにするの忘れたか…?

 出る出ないは別にして…また中村が俺を煽る為にでもかけてきた…違うな…くっそ。反対側のテント内で両手鳴らしながら爆笑してやがるからなっ!!

 

「…誰だ?」

 

 取り合えず上着の内ポケットから取り出そうと手を突っ込む。執事服って動き辛いんだよなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 自身の携帯の着信画面を見た後、一応こちらに笑顔で目配せをしてきた。

 試合中…このテント内での事なので、正直あまり褒められた事ではないのだが、私はその目配せに応えた。

 

 相変わらず、隆史はわかりやすい。その画面を見た瞬間の目つきが明らかに変わったのを私が見逃す筈がないだろう?

 私の許可が出たと思ったのか、隆史はすぐにその着信に応えた。

 

 笑顔のまま。

 

 

「 は い 」

 

 名乗る訳でもなく、ごく自然に口に出した返事…なのだろうが、私には酷く冷たく感じた。

 こういった時の隆史には…正直あまり話しかけたくない。その口調で私と会話をしてほしくないからだ。みほも同じだろうな。

 一度大洗に転校してきた時…友人の冷泉麻子さんだったな。彼女に対してのそのような対応をしたとみほから聞いていた。

 その後謝罪はしたみたいだが、同じ勢いでみほを泣かせたと聞いた時には、思わず夜中だろうが、叩き起こして弁解を聞かせてもらったから…まぁ…良いだろう。

 

 

「 ………該当する方が複数いまして、特定できません。後、当店は泥酔された方はお断りしておりまして… 」

 

 

 機械地味た、とても丁寧な喋り方。

 傍から聞いていれば、ただの業務連絡か何かに思える。今のもいつもの軽口なのだろう。…その口元は笑ってはいる。目も何もかもいつも通りだ。

 普通の表情、普通の顔。

 

 その「普通」が、私から見ると…ひどくキモチワルイ。

 人には上手く説明できない。もうそう感じるとしか。

 

 

「 はい…? 」

 

 

 児玉理事長は涼しい顔して扇を仰いでいるだけだ。まぁ、横目で見てはいるのだが、隆史の会話を邪魔しないように黙っている。

 

「 」

 

 ほぉ…。

 

 聖グロリアーナの赤髪の一年がそんな隆史の顔を見て、固まってしまっている。口がヘの字になっているぞ?

 なるほど、…この隆史の変わり方を察する事ができるのか。この一年も少し注意しておこう。

 

「 …それは構いませんが…どういう心変わりが? 」

 

 その一言の後、しばらく無言が続いた。

 小さく携帯から声が漏れてきているので、相手が一方的に喋っているのだろう。

 一瞬、分家の長男からかと、まさかとは思ったが…どうやら女性の様だった。いつもの様に揶揄する事もあるまい。

 

「 …手土産? なんの情報…え? 」

 

 

 …この隆史の対応は、本当に嫌悪している相手にだけ…だからだ。

 

「……」

 

 あぁ…嫌だな。

 

 …本当に嫌だ。

 

「 …面白い話ですね。録音は…まぁある訳ないですよね 」

 

 笑った。その笑い顔も…何というか醜悪に見えてしまう。

 

「 先方の予定も御座いますし、日取りは此方で決めさせて頂きますが宜しいですか? 」

 

 テントからも出れない状況では、私から逃げる事もできない。

 

 この隆史は見たくない。

 

「 えぇ… 」

 

 

 短い通話だったのだろうが、ひどく長く感じる時間がもう少し続いた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

『 ばっかじゃないの!? ミホーシャ、無茶しちゃって!! 』

 

 …どんな動きで来られても、対応できるから強豪校…その隊長達とも言えるのだろう。同じく、カチューシャが叫んだ声も、無線を通して聞こえて来た。

 ハッチの上に出てるよな…アレ。それでも聞こえてくるって、どれだけデカい声で叫んだんだろう…。

 …兎も角…別画面に映っている彼女達。

 神社の石階段を下りだしたみほ達の後ろを、カチューシャ達がまたガタガタと戦車を揺らしながら追随している。

 

 …はっ。

 

 あんな石階段の傾斜を下る鉄の車。石段をガリガリと削る音が、此方まで聞こえてきそうな程にその大きな車体を上下させている。

 

 ……。

 

「はぁ…」

 

 先ほどまでの通話の内容が頭の中をグルグルと駆け回っている。業務用態度で話しては見たが、横にいたまほちゃん達に、動揺が隠しきれたか不安だ。

 さて…あの問題発言をどうしようかね…。

 此処まで皆が皆…試合を頑張っているというのに…特に、カチューシャ達や、ダージリン達の事を考えると…余計にな。

 

「んんっ~…随分と立て込んだ内容だったみたいだねぇ」

 

 児玉理事長がいつもの様に笑いながら声をかけてきた。

 まほちゃんとローズヒップが少し様子がおかしかったから、すこし助かる。

 

「…えぇまぁ」

 

「いやぁ~! 君達の試合は、本当に目が回りそうになるくらい、いろんな事が起こるねぇ。…本当にいろんな意味で」

 

 この人もこの人で、まぁー…タイミング悪く来てしまったな。

 試合が継続している状態なので、テントから出るに出られない。よって…結構な立場の人間なのだろうが、テントの隅っこに座り、扇子を仰いでいる。

 

『 馬鹿め! 二度も騙されるかっ!! 』

 

 …。

 

 ………。

 

 無線機から最後の断末魔の様なセリフが、聞こえて来た。

 そう、多分「断末魔」と言って語弊はあるまいて。…何時もの俺なら……フラグって知ってるか? とか彼女に聞いてみたいと思うかもしれないけどな…。

 はぁ…先程までなら、こんな状態も慌てながらも楽しんでいられた。…しかし、あの話を聞いてしまった以上、そんな気分でなんていられる訳がなかった。

 

 そして今、まさにフラグ構築して、いきなり回収した彼女もそうだ。

 

 …知波単も残り一輌。誰が乗っているかなんて、知らないけど…その子もそう。

 

 カチューシャ達も…ダージリン達も…みほも…そうだ。

 

 何故か参戦したエリカも…だ。

 

 …。

 

 ………。

 

 …そんなモノは無いと、解っているのに、どこかで他に打開策を考えてしまう。

 考えれば考える程、試合は現に今も進んでゆく。

 

『 ダージリン? 頼れる同志の元に誘き出して!! 』

 

 カチューシャの声が響く。

 それに応えるダージリンの声も。

 必死になって、思考を巡らせ…彼女達は…。

 

「……ふぅー…」

 

 思わずため息を吐きそうになる。強引に…そしてワザとらしく息を長く吐き捨てる。

 少し落ち着いた。…そうだ。あくまで俺は、サポートだけ。いやサポートというのもオコガマシイ。ここにいたって、試合中はただ観客と俺は変わらない。

 …男だからというのは言い訳だ。何もできない。彼女達の…あの戦場には踏み込めない。

 

 いや…。

 

「彼女達には彼女達の世界が在り、俺になんて邪魔なんてされたくねぇ~だろうな」

 

 …踏み込んじゃいけない。

 

 

「隆史? 何を言っている?」

 

 今までの両チームの選手達。

 彼女達の事を…気持ちを思えばこそ…だな。

 

「余程先ほどの通話が重い内容だったのかな?」

 

「…児玉理事長」

 

 どうにも俺の通話相手が気になるのか、児玉理事長は俺との会話を続けたいようだ。

 それに対して、静かな声で…まほちゃんが俺を庇うように威圧した。

 しかし会長はそれを気にする様な素振りを見せない。…どうしたオッサン。

 

「…私は耳は良い方でね」

 

「盗み聞き…とは言えないか。まぁある意味丁度良かったかもしれないっすね」

 

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

 …と、申し訳なさそうに俺に対して…笑った。

 まほちゃんの威圧の為か、遠回しに聞いてくるのをやめ、ストレートに答えを言った。

 まぁ…あの姉さん声でけぇしなぁ~。

 

「ソレは君の案件だよね~。でもねぇ…立場的にも見過ごすのできないんだよぉ~。だから私としては…何をするにもまず、君の判断を先に聞かせてほしいんだよね」

 

「聞くねぇ…俺の判断で良いんですか?」

 

「良いか悪いか…じゃないよ。そこまでの問題、途中からこんな大人に取り上げられ、その後は蚊帳の外じゃ悔しすぎるだろう?」

 

「へぇ~…」

 

「まぁ…それにおかしな君の事だ。すでに決まっているだろうし、もう気付いているだろう? 色々と足りないよね」

 

「そうですね」

 

 おかしな…は一言余計だ。

 

「こんな界隈じゃ、昔っから何処にでも沸いてくる話でもある。どうする? 私に全て投げるってのも手だよ?」

 

「すると思います?」

 

「しないだろうねぇ~♪」

 

 おや? ちょっとこのオッサン見直しそうだぞ?

 

 決まってる…ねぇ。そうだな、方法は決まっている。ただ後は腹を決めるだけだ。

 あの糞野郎に対しての嫌がらせだけだったら、こんなに迷わない。

 これが最善だと思いたいが…多分…間違いだ。間違いだけど…黙っている事なんてできやしない。

 

 訝し気な顔で、少し心配そうに見てくれるまほちゃんに、目線を合わせた。

 別に無視をしていた訳ではないのだけど、彼女に目が合うと少し、安堵した表情に変わった。

 いきなりオッサン同しの会話が始まってしまって困惑していたんだろうなぁ…下手に口を出さずにいてくれたのも助かる。

 

 …おし。

 

「どうした隆史。先程の電話から、様子が目に見えて変わったぞ?」

 

「あ~…そうだな。ちょっと考え事してた。んで、今決めた」

 

「…決めた?」

 

 先程のまほちゃんの様子もある。

 あの男の話は今は特にしない方が良いだろう…が、省いて話した場合、彼女の事だからすぐに納得しないだろう。

 …特に、昔の みほの事もあるしな。

 

 でも…。

 

 

「この試合を中止させる」

 

 

「……なに?」

 

 俺の提案に眉をすこし動した。

 組んでいた腕を解き、立ち上がって…こちらに体を向けた。

 

 真正面から見る、彼女の真剣な顔…。

 

 無表情の中にある、特徴のある彼女の一面。

 

 

「…何故だ」

 

 

 戦車に搭乗している時の…目の色に変わった。

 

 明かに場の空気が変化した。肌を刺すようなピリピリとした空気…。

 俺の提案に端的一言。頭から否定せずに理由だけを求めて来た。…まぁ当然と言えば当然だろうな。

 

「危険だからだ」

 

「…危険?」

 

 俺の答えが以外だったのか、眉が傾く。

 戦車道で危険という言葉は、ある意味で日常茶飯事、普通の事。

 そりゃそうだ。戦車内が特殊カーボンでコーティングされているとはいえ、あんな乗り物で走り回って、砲撃し合っている競技だ。

 それが今更何を言う…てな、感じだろうな。

 

「…隆史。カチューシャ、ダージリン。特にこの2名…いや、4名程か。ある意味で今回は本当に特別な試合だと解っていての発言か?」

 

「そうだ」

 

「本当にか? …言いたくはないが、お前が原因でもあるんだぞ? 朴念仁」

 

「あぁ」

 

 …流石にもう解ってるさ。

 でも、それとコレとは別問題だ。

 

 今回の件は、みほとまほちゃんに関わらせたくなかった。だから…多少無理しても、なんとか裏で動いていたというのに…あの野郎のせいで、まったく関係のない連中にまで被害が及びそうになっている。

 七三の動向探るだけでも大変だっていうのに…更にこんな真似しやがって…。

 

「俺がこちら側…青森チームで参加するって決めた時のアイツらが喜んでくれたのは、今でもしっかり覚えてる」

 

「………」

 

 …青森にいる時からずっと言われていた事だったしな。

 否が応でも…な。

 

「でも止める」

 

 だから朴念仁…その言葉にも、いつもの様に動じる事もなく…素直に返事ができた。

 その俺を見て、ここでまほちゃんが大きくため息を吐いた。

 長い事にらみ合う形になりそうだと思ったのだけど、存外早くまほちゃんが折れた。

 

「はぁ……いいか、隆史。一度試合が始まってしまえば、基本…試合中断なぞ出来ないぞ?」

 

「あぁ、分かってる」

 

「分かっている? 本当に分かっているか? 試合の中断は………選手の生命を脅かす事故…及び、自然災害が発生し時に限られる」

 

 …。

 

 事故。

 

 あの決勝戦…みほが黒森峰から出ていく切っ掛けの事故は、その生命を脅かす事故ではなかったのか。…と、彼女がしほさんに、噛みつきたくて仕方なかった事だったんだろう。

 …みほの行動を思い出してしまったのか、言い辛いのか…少し言い淀んだ。

 

「…現状、その様な事故は起こっていない」

 

「もう一つあるだろ」

 

「……」

 

 俺の言葉に、まほちゃんが目を細めた。

 彼女がその理由を知らないはずがない。しかし、まほちゃんも、カチューシャやダーリジン達の事を知っている。

 更には自身の妹の学校からも、その様な事をするはずがないと、信じていくれている為だろう。想像すらつかないだろうよ。

 

 …だから…。

 

「隆史…いくら何でも…それは…ないだろう?」

 

 本当に…心底落胆したかのような、それでいて…久しぶりに見せる…俺に対しての怒り。

 それでも…本当に泣きそうな程に、顔を悲しそうに歪ませた。

 

「…今回の3年生は夏の大会が終わった以上、実質コレが引退試合になるだろう。そんな彼女達が寄りにも寄って…」

 

 …。

 

 ……。

 

 …それはそれで…あぁ。とても嬉しいけどな。

 

「確かにルール上、それはそれで可能だがな」

 

「……」

 

 もう一つの理由。

 

 それは…試合に対して…妨害工作や、アリサさんがしたような、グレーゾーンの盗聴ではなく…。

 

「不正行為を働いた場合。隆史、それをお前はハッキリと言えるのか? 彼女達に宣言できるのか?」

 

 掛け試合、金銭のやり取り…勝敗の決められた八百長試合…等だな。だから、まほちゃんは怒っている。あぁ、怒ってくれている。

 知らないとはいえ、そんな疑いを掛ける事に対しての俺に対して…な。だから、変にもったいつけるみたいにならない様に…ある意味で安心させてやりたい。

 

「まほちゃん、違うよ。彼女達の不正なんて、疑ってもない…というか、想像すらしないよ」

 

「…ならば…なんだ」

 

 そう。

 

「まほちゃん。みほやダージリン達は被害者だよ。さっきの電話は、そのタレ込み」

 

「…なに?」

 

 例の電話の事を頭に言い…結論から言っておく。秘書子ちゃんからの電話は、その事だった。

 …俺の話に乗ると言った後…直後にまず最初にと、教えてくれた。

 

 西住の男が、彼女達の戦車に細工した…と。

 

 まぁ…直後に慌ただしく、後でまた詳しく教えるからと、ほぼ一方的に通話を切られてしまったけどな。

 しほさんとの面会の日付が後日連絡…となった時点で、速かったなぁ~…あの自暴自棄っぽい話し方が、少し気になったけど…。疲れたリーマン女性の感じがまた…すごかった。

 

 

 

「第三者が、自己利益の為に…みほ達の戦車に細工した」

 




閲覧ありがとうございました。

シリアス回は疲れる…。
おペコのお茶会でしほちゃん書こうかと思いましたが…いい加減本編進めんと…って事で。

ありがとうございました

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