転生者は平穏を望む   作:白山葵

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青森編 最終話。完全オリジナル展開となります。
本編4~5話までの穴埋め。オリ主が他の学園との出会いの話でした。
今回時間軸が結構飛びますので、本編読んでないとわからないと思います。
では。



第3.4話~残雪~

「……ン。…ージリン」

 

 意識が、軽く飛んでいましたのね。

 

 私から言った事とは言え、意外も意外……予想外過ぎましたわ。

 まったく…お酒というものは、怖いものですのね。

こうも人を変えて…いえ? 性格はあまり変わってませんでしたわ。

 人によるのでしょうか? 彼は行動的になりすぎでした。

 

「ダージリン」

 

 ハッ!

 

「…あら、隆史さん。ご機嫌よう」

 

「なにを…呆けてんだよ」

 

「少々…。いえ、違いますね…。かなりショッキングな事が、起こりましたでしょう?」

 

 他人事のような会話が少しおかしいですわね。

 

「言い出した張本人が…何言ってんだ」

 

 まったく、おっしゃる通りですわね。

 

「で…だ」

 

「はい?」

 

 

 

「 次はダージリンだな? 」

 

 

 

 えっ?

 

 周りを見渡しますと…。

 

 崩れ落ちているノンナさん。

 

 真っ赤に座り込んでいるペコ。

 

 

 …。

 

 ……。

 

 

 何も! まったく!! 終わっていませんでしたわ!!!

 

 

「なにを、アワアワしてんだよ」

 

 …抱き抱えられていますわね。

 ローズヒップじゃありませんけど…これは、ヤバイですわ。

 

 え? アレと同じ目に遭うのでしょうか!?

 …どうしましょう。非常に…恐ろしいのですけど。

 

「あの…なぜ、わざわざ私を起こしたのでしょう…か?」

 

 さも当然のように…

 

「は? 愛情表現と言っ……たんだから…意識してもらわないと、意味が…ない……だろ?」

 

「」

 

自業自得でしたわ!!

 

 

……

 

…………

 

 

 

 …あら?

 

 何もしてきませんわね。

 

 彼から、熱い視線を…ただジーと、見られ続けています。

 これはこれで…いえ。少々気恥ずかしいですね。

 

「…今更 だけど。殺されて も、おかしくない事してない でしょうか?俺」

 

 …このタイミングで、自我が正常に戻り始めましたわ。

 

 あら。だんだん青い顔になってきました。

 

「ゴメンな。今下ろす」

 

 …私を下ろそうとする隆史さん。

 

…その太い首に、無意識に腕を回してしまいました。

暖かい体温…無意識ですからしかたありません。その体温で我に返りましたわ。

ただ…。

 

「あの・・ダージリンさん?」

 

「ワ…! ワタクシはっ! …べべべ……別に……宜しくて…よ……?」

 

 何を言っているのでしょうか? ……私は。

私自身の体温が…顔が……熱を帯びていくのを感じます。

 

「カチューシャは、嫌がりましたけど・・」

 

「…だって。悔しいじゃありませんか…。ノンナさんとペコ。あの二人には? 愛情があるから、あの様な事をしたのでしょう? わ…私には無いのでしょう…………か?」

 

……。

 

………な…なにを私は…。

 

「モチロン…あるな。ダージリンのおかげで、毎日楽しくなった」

 

……。

 

あぁ…何故でしょうか?

 

とても…。

 

とて……も………。

 

「…で…でしたら…お酒のせいにでも。して……おいて下さ…………」

 

 …顔が熱い。

 

 かなり、真っ赤になっているのでしょうね。

 あらあら。隆史さんも赤くなってきましたわね。汗がすっごいですわね。

 葛藤でもしているのでしょうか? 

 動かなくなってしまいました。

 

 それでも、ここは引かない。

 

えぇ…引いては、いけない気がします。

 

羞恥に躊躇し…ここで、何もしなければ、あの二人…………と。かなりの差が開いてしまう。

 

それは……直感にも似た…確信。

 

「ん~。イイノ カナァ?」

 

 この状況でもない限り、この殿方は、絶対に……。

 

えぇ、絶対に何もしてきません。少々恥ずかしいですけれど、何とかしないと。

 

「私も…正直。とても恥ずかしいのです。そんな私に…、女にあまり恥を…」

 

 

 

「…貴方達。何してるのですか?」

 

 

 

突然の声。

 

この声は何度も聞いております。

 

 …アッサムが帰ってきました。

 

ノック…を、したのでしょうが、気がつきませんでしたわ。

 

この状態の私達を見て…呆然と立っています。

 今までどこに行っていたのやら。

 

「…………」

 

ふぅ…。

 

 仕方ありませんね。ここでお開き…ですか。

 次があるかどうかわかりませんが、さすがにこの状況では…。

 

「ダージリン…。貴女、大胆というか・・ものすごく恥ずかしい状態ですけど」

 

 傍から見てもやはりそうなのでしょうね。やられてる本人が一番恥ずかしいのですけれど?

 

「隆史さん。仕方ありませんね。お邪魔が入りましたのでおろsンムッ!ん!?」

 

「尾形さん!?え?ぇ!?」

 

口に……唇に…熱い。

 

自分以外の……体温…。

 

 まさか、この状態で仕掛けてくるとは、おも【 第二段階 】 「ンン!? ン ン !!??」 

 

「ダージリン!? え? 何!?」

 

 

 

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「はぁ…はぁ…な…なる程。あのお二人が、おかしくなる訳ですわね」

 

「なんですか!? この惨状は!? 尾形さん!! 未成年が、飲酒するなんて!!」

 

「面目次第もゴザイマセン。煮るなり焼くなりお好きにしてください」

 

 絶賛土下座中ですわね。

 完全に白面にもどりましたわね。

 

「ダージリンも! 貴女何を考えているの!? …どうしたの。座り込んで」

 

「…腰が……砕けましたわ」

 

「…はぁ。もー…。これ、どうしましょう…」

 

 この惨状を見て嘆いても、今更どうしようもありませんわね。

 

「一つ気になってたのですけど。…あなた、ローズヒップに昨日何か教えまして?」

 

「…どうして?」

 

「ローズヒップが、ティーロワイヤルなんてものをお茶会に出してきましたわ。あ・の! …………ローズヒップが」

 

 心当たりがあるのでしょう? その証拠に…目が泳ぎだしましたわ。

 

「そもそも、「コレ」の原因は、ブランデーと紅茶の対比を、この子が逆転させてしまったからなんですけど」

 

「逆転って…。それでは、ただのお酒でしょうに…なるほど、それで…。そ…それならば、これは事故の様なものなのね!」

 

「…アッサム。では、ローズヒップ」

 

「は、はいですの!!…ダージリン様がエロくて軽く放心してましたわ…」

 

「貴女に今日の紅茶を教えたのは誰かしら?」

 

「はい!アッサム様です!!」

 

 …アッサム。

 

「ハァ・・まさかこんな事になるとは…。ごめんなさいダージリン」

 

 真犯人が見つかりました。

 

「…はぁ。もういいですわ。(チョット、コレハコレデケッカオーライデスシ)」

 

 相変わらず隆史さんは大反省モード入っていますし。今更ですね。

 

「いやー!しかし最後のダージリン様!凄かったですね!あんなセリフ、人前じゃ普通言えませんよ!!」

 

「…おやめなさい///」

 

 …うれしくない。恥ずかしいだけじゃございませんの。

 私よくあんな事…。

 

「そ、それよりも、アッサム。今まで何処に行ってらしたの?」

 

 私の質問に真面目に答える。

 

「ああ。ちょっと連絡を受けて学園艦に確認しに行っていたの。ダージリン」

 

「…何かしら?」

 

 あまりいい予感がしない。

 

 

「学園艦の修理が完全に完了したわ。二日後に出港します」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 関係各所に土下座行脚が無事に終わった。

 正直信じられない程、簡単に許してくれた。

 

 殺される覚悟で行ったのだが拍子抜けだった。

 ノンナさんだけ目を合わせてくれなかったヨ…。

 睨まれもしなかった。最悪、砲撃演習の的にされると思ってたんですけどね。

 

 さて。ダージリンにも約束どおりラーメン作ってやったし、片付けも終わり…。

 多分もうやり残したことは、もう無いだろう。

 

 そう。いつものお茶会の場所にはもう何もない。

 ただの資材置き場に戻っている。

 

 約一月くらいか。もうちょっとあったかな?ここも寂しくなるな。

 …いや。すでに寂しいな。

 

 見送りに行きたかったけど平日の正午。こちらも学校がある。

 出港時間に見送りは無理だった。

 

 昨日の午後。最後のお茶会講習の時にお別れは済ませた。

 

 

 

 

「隆史様!グロリアーナへ来ませんか!?もうすぐ共学になりますし!」

 

 …編入勧誘。

 

「ペコ」

 

 相変わらず優雅な動きでティーカップを置くダージリン。

 

「あー。申し出は嬉しいけど、別にこれが今生の別れになる訳でもないだろう?」

 

「でも!」

 

 お茶会からオペ子の様子がちょっとおかしい。まぁショックは大きかっただろうけど。スイマセンデシタ。

 あれから俺といる時は、大体傍にいる。

 出港が決まったからか?と、思っていたけどまぁ正直うれしくはあった。

 

 …あの事は黙っている。黙っておこう。

 

 聖グロリアーナ学園艦を見上げながら思う。

 

 多分、今度この学園艦が青森港に着港する時に、俺はもういない。

 なんか更にグズリそうだしな。後で電話で報告しよう。

 

「ローズヒップ」

 

「な・・なんですの?昨日の事は謝りましたわ」

 

 あの後、こっぴどく絞られたのだろう。若干また怒られるのかと怯えられた。こんな時まで怒るか。

 

「アレは俺が悪かったんだ。今更なんも言わないよ」

 

「そうでございますか!?いやぁー隆史さん!お互い大変でしたわね!!」

 

「…ローズヒップ。しばらくあなたのお茶は出涸らしでしてよ」

 

 ダージリンから若干怒気を含んだ声で静かに怒られる。

 あぁ。怯えてる、怯えてる。何されたんだ。

 

「まぁ…なんだ。お前は少し落ち着け。考えて行動しろ。その性格は武器でもあるけど…まぁいいや」

 

 小言はやめよう。

 

「今度会う時もその調子で来い。また頭掴んでやるから」

 

「次は、その前にぶっ飛ばしますわ!!」

 

 

 

「ペコ。そろそろ時間です。それにこれは学園艦です。そのうち会えますわ。…勿論またここに来ます」

 

 …ちょっと罪悪感が芽生える。

 

 まぁ多少なりとも俺の事を好いてはくれているのだろう。

 うれしいね。うれしいさ。でもそれ以上に申し訳ない。

 

「…隆史さん」

 

「はい?」

 

「貴方は「西住 みほ」さんを…いえ。また今度でいいですわ。今聞く話じゃございませんし」

 

 …。

 

「では、ペコ。もう行きますわよ」

 

「うぅ~。隆史様!」

 

「はいよ」

 

「私も「西住 みほ」さんみたいになったら心配してくれますか!?来てくれますか!?」

 

 頭をちょっと乱暴に撫でて、言ってやる。

 

「当たり前だろ。ヘリだろうが、船だろうが使っても行っていやる。オペ子には散々癒してもらったからな。今度は俺の番だな」

 

 よしよし。やっと笑ったな。…なにダージリンむくれてんだよ。

 

『 では、隆史さん

     隆史 様  』

 

『 ご機嫌よう。お元気で。 』

 

「またな」

 

 随分と、あっさりしたお別れだった。

 次の期待をしてくれているのだろうか?

 

 放課後、バイト先の店先。いつもの場所を通る。

 

 もう学園艦が出港した後。もうダージリン達は、いない。

 プラウダ高校の学園艦のみが見える。

 

 聖グロリアーナ艦がいなくなった為か、ひどく空と海が広く感じた。

 

 

 

 

 

 

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 少し前の話。

 

 プラウダ高校学園艦でのお茶会、その日の夜。

 

 俺は、家で社会的に死ぬ事を覚悟していた。

 物理的に死ぬかもしれないけど、仕方ないよね。あれじゃーなー。

 

 携帯から着信音が響く。購入から一切着信音を変えていないディフォルトの着信音。

 知らない番号からだった。

 

 さて、プラウダか聖グロリアーナか…どちらからの死刑宣告だろう。ガタガタ

 

 ピッ

 

「…ハイ」

 

「おぉ、すまない。尾形 隆史君の携帯でよかったかな?」

 

「そうですが・・どちら様でしょう?」

 

 野太い男の声だった。誰だ?

 

「いやぁ久しぶりだねぇ。西住だよ。西住常夫だ」

 

「あぁ!お父さん!?久しぶりですね!」

 

 西住性の男性。「西住 常夫」まほちゃんとみほの父親だった。

 

「はっはっは。よかった、わかってくれたか。      …次「お義父さん」と言ったら殺す」

 

 …字が違う。基本気さくな人なんだけど、相変わらずの超親バカだった。

 

「…で、どうしたんですか?俺の番号は、まほちゃんにでも聞いたのですかね?」

 

「まぁそんな所だ。電話したのは頼みがあってね」

 

 なんだ?あまり俺と接点を持たなかった人だったのに。

 この人は基本単身赴任。各学園艦を移動している整備士だったけ。

 

「実は…みほの事だ」

 

 

 

 

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「…ひどい状況ですね」

 

「今回の件で、しほも様子がおかしくてな。電話越しだが憔悴しているのがわかる。

 みほは家を出た後、まほも一切連絡がつかない。正直まいってるんだ」

 

 前回の戦車道大会からしばらくたっていた。

 みほは周りから責められ逃げるように家を出て転校。

 

 やはりしほさんからの糾弾が凄かったようだ。

 月刊戦車道のインタビュー記事を見たが、外面用のコメントですら散々な内容だった。

 

 まほちゃんからの連絡がここの所一切無かったのは、みほの事を話したく無かったからか…。

 

 ボソッ「普段どうでもいい事は、連絡よこすくせに肝心な事にはコレか…」

 

 みほも勿論心配だったが今は、まほちゃんの方が危なくないか?

 

 みほは今逃げ出した状況だ。周りに味方はいないが敵もいない。

 まほちゃんのシスコンぶりからすれば、周りの反応は辛いだけだろう。

 

 ある意味、四面楚歌の状況だな。逃げ場が無い。

 庇いたくても、学校も「西住」も邪魔なだけだ。

 後で、連絡くれるようメールしておくか。

 

「で、お父・・常夫さんは俺に何を頼みたいのですか?」

 

「娘達が君に頻繁に連絡を取っていたことは知っているよ。…私には寄越さないのに。ヨコサナイノニィィィ」

 

 いい歳をした男が拗ねるな。

 

「…まぁいい。今回、君からもみほに連絡はつかないのだろう?」

 

「はい。一切連絡がつきません。メールしても返信も来ませんね」

 

「やはりなぁ。頼みというのは・・いや余計な事は省こう。みほの様子を近くで見ていてもらいたいんだ。今みほは、大洗学園にいる」

 

 大洗…知らん。どこだそれ。

 

「どこですかそれ。聞いたことないって事は熊本と青森以外って事ですか?」

 

「学園艦の一つだよ。…私の今の職場の学園艦だ。私は仕事があるから日中見ていてやれないし何よりも避けられている。………・みほォォォォ」

 

 嘆くなウザイ。確かに仕事があれば娘の事とはいえ簡単に抜け出せない。

 

 この人、学園艦の中枢の・・それこそエンジン関係まで見れる整備士だ。

 なに気に結構すごい人なんだよ。見えないけど。

 

「仕事と家族とどっちが大切なの!?」とかホザク奴はいるけど、そんなの比べるベクトルが違う。

 仕事は大事だ。それこそ職場の仲間に迷惑がかかる。それにより他人の家族に…大袈裟に言えば、それこそ人生レベルで弊害が及ぶかもしれない。

 

 そこは責めまい。仕方が無い。

 

「正直…人様の家族を巻き込む形になるし、君にも申し訳ない。無理なら断ってくれて構わない。無茶は重々承知の上だ」

「…単刀直入に言ってください」

 

 前置きはいい。早く言ってくれ。

 

「大洗に転校して来てくれないか?」

 

 学歴は人生に干渉する。

 

 他人にそこを変えてでも娘の為に転校してくれと言ってきている。

 多分この人、電話の向こうでそれこそ俺みたいに土下座でもして頼んできているかも知れない。

 男の…しかも大の大人なら、学歴の重要性は知っているだろう。

 

 それでも俺に頼んできている。

 

「いいですよ。明日にでも行ってやりますよ」

 

「え?本当にいいの?ちゃんと考えた?」

 

「二言は無いです」

 

「…」

 

 あっさりとした返事に驚いているのか、しばらく無言が続いた。

 

「正直な話。君なら承諾すると思っていたんだ。なんだか昔から君は変だからね」

 

「変って…」

 

「いやいや。ありがとう。感謝するよ。実はご両親には話を通してあるんだ。君の了承が取れればいいってね」

 

 …それはそれで。俺に愛着は無いのかあの親共は?と、思うが。

 

「こちらで費用も持つし準備もする。できるだけ早くと前から準備していたんだよ。あぁ、しほには内緒な?怒られる」

 

「わかりました。今からでも用意します。準備が終わりましたらまた連絡します」

 

「ありがとう!助かるよ。ただ…」

 

 

 

「娘に手を出したら魚の餌だ」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 青森港。

 

 そこに帰っても、あそこにはもうタカーシャはいない。

 それこそ今、どこにいるのか。

 

 一週間前、朝7時頃だったかしら?いきなり呼び出されてタカーシャに土下座された。

 プラウダ学園のヘリを貸して欲しいと嘆願された。

 戦車道の専用ヘリは有るのだけれど、いきなりタクシー替わりにされても困る。

 

「俺の大切な家族が壊れるかもしれないんだ。空港まで…頼む!!!」

 

 大切な家族。

 

 これは、多分タカーシャの家族の事じゃないでしょうね。

 

 空港までって事は他県に行くのだろうから青森の家族ではない。

 そして、ここまで必死に土下座までして頼んで来るってことは見つかったのだろう。

 

 西住 みほ

 

 ダージリン達にも心配しすぎと言われるくらい気にしていた娘。

 

 嫌だった。

 

 見た事しか無い話した事も無い、その娘の為になにもしてやりたくなかった。

 ここまでタカーシャに心配かけて何様のつもりだろう。

 

「カ・・カチューシャは、シベリア雪原の様に心が広いの!これから、望む時跪いて、私を乗せれ『了解した!で、ヘリはいつ出る!?』」

 

 でも、条件付きで用意して上げる事にした。

 最後、被せて言ってきたからちゃんと聞いていたのかしら?

 

 ここで断っても、タカーシャは絶対に諦めないだろうし行ってしまうと思った。

 

 何より嫌われたくない。

 

 家族と言っていたので、多分「西住 みほ」だけの話じゃ無いだろう。それで何とか自分を納得させた。

 行かせるのは嫌な予感しかしなかった。このまま帰ってこないんじゃ無いだろうか?

 

 数日後、私達の学園艦が出港している内に帰っては来た。

 

 帰っては来たが、次の着港する前には転校…いなくなってしまうと電話で告げられた。

 …やっぱり、結局いなくなってしまう。

 

『ごめんな、電話でお別れになっちゃうけど。ノンナさんにも直接連絡するよ。』

 

「…やだ」

 

『え?』

 

「今からそっちに行くわ!  ノンナ!」

 

『おいおい。今何時だと・・それ以前にどうやってこっちに来るんだよ!』

 

「うっさい!ヘリで向かうから、いつもの店の前で待ってなさい!1時間もかからないわ!いなかったら粛清よ!粛清!」

 

 すぐに電話を切って出かける準備をする。

 冗談じゃないわ。こんな事、電話だけで終わらせられますか。

 

 ノンナにも事情を説明したら、それこそすごい勢いでヘリから外出手続きやらを済ませた。

 学園艦を出るまでに15分も掛かってないんじゃないかしら。

 

 終始無言だったが、目に怒りが見えた。

 それこそヘリを全速力で飛ばして、本当に1時間もかからないで青森港に到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たわ!」

 

「い・・いらっしゃい」

 

 初めてタカーシャの店に行った時と同じ会話になってしまった。

 本当に来やがったって顔まで一緒だった。

 

 ちょっとおもしろい。

 

「隆史さん。話は聞きました。転校してしまうのですね?」

 

「あ、はい。電話で申し訳無かったんですけど、カチューシャの後にノンナさんにも連絡しようと『どこにでしょう?』」

 

「どこに転校するのですか?県外ですよね?学園艦ですか?陸地ですか?何という高校ですか!?」

 

 …色々言ってやろうと思ったんだけどノンナがちょっと怖かった。

 殆ど言われてしまった。

 

「あーいやー…知ってどうするのでしょう?」

 

「ドウモシマセンヨ?タダシリタイダケデス」

 

 …絶対違う。ノンナ何する気?

 ちょっとまって。

 

 すっごくノンナが怖いのだけど。

 目がボールペンでグリグリ黒く塗り潰したような色をしている。

 

「ノ・・ノンナさん?」

 

「はい何でしょう?人の唇奪っておいて逃げようとしている隆史さん?」

 

「」

 

 あ・・タカーシャが完全に怯えている。また土下座しそう…。

 

「タ…タカーシャ。転校するならプラウダに来なさいよ!手続きなんて何とでもするわ!」

 

「いやいや。女子高でしょうが」

 

「だからなに?カチューシャに不可能は無いの!」

 

「そういう問題じゃ無くて…」

 

 行かせない。行かせたくない。

 

「タカーシャには借りがあるの!…それを私達に、返させもしないでどっか行くなんてゆるさない!ゆるさないんだから!」

 

 終わる。今日、本当に関係が終わってしまう。

 

「…泣かなくてもいいだろ。俺は借りとは思っちゃいないよ」

 

「泣いてない!」

 

 …どうしようも無いのはわかる。どうにもならない。

 でも嫌なものは嫌だ。

 

 やめて。あやすように頭を撫でるな。

 

 下を見ているといきなり私の背が伸びた。視界が広がった。

 それこそタカーシャより高い。

 

「…何でカチューシャを肩車させたの?」

 

「何を今更・・。よく登って来たじゃないか。…カチューシャ。ノンナさんも」

 

「なによ」

 

「何でしょう?人の唇奪っておいて逃げようとしている隆史さん?」

 

「」

 

 …。

 

「…カンベンシテクダサイ」ガタガタ

 

「貴方がした事は女性にとって、そう簡単に勘弁出来る事じゃ無いと思うのですけど?」

 

 …。

 

「ノンナ!話が進まないから今だけちょっと黙ってなさい!」 「ハイ」

 

 

「…別に転校したって、電話もあるしネットもある。それこそ移動手段もいっぱいある。

 まったく会えなくなるわけでもない。今の俺の行動力舐めるなよ?免許もとったしな!」

 

「では、またちゃんと連絡をくれるということですか?」

 

「当たり前でしょう?…ノンナさん近いです」

 

 顔を近づけて目を覗き込むノンナ。目の色は戻ってる。…怖かった。

 

「…わかった。ちゃんとしなさいよね」

 

「了解。粛清されちゃうもんな」

 

 納得できないけど納得するしかないだろう。ノンナだってわかってはいたと思う。

 

 

 

「なんだ?騒がしい。…タカ坊。悪い、邪魔した」

 

 店先で騒いでいた為か、ガラっと店からいつもの店主が出てきた。

 

「あぁ。いいですよおやっさん」

 

 あまり良くは無いけど、このままでずっといる訳にもいかない。

 落とし所としては、いいタイミングで現れた。

 

「店主。ちょっとよろしいでしょうか?」

 

「ノンナさん?」

 

「ちょっとこれで、写真を撮ってもらえませんでしょうか?」

 

 ノンナが携帯を店主に渡す。

 そう言えば、カチューシャ達は写真を取ったことがない。

 タカーシャは写真撮られるのは嫌いって事もあるし、…こんな事になるとは思ってもなかったから。

 

 カシャ

 

 肩車されているカチューシャとしているタカーシャ。その横に並ぶノンナ。

 3人の初めての写真。

 

「では、カチューシャにも送ります。あと人のくちび『わー!!!!!』」

 

 ボソボソ「頼みますから!人前ではやめて下さい!死にます。社会的に俺が死にます!!」

 

 ボソボソ「エー」

 

 ボソボソ「ほんっとにそれは勘弁してください!」

 

 ボソボソ「では、「人前」で無ければよろしいのですね?わかりました」

 

「」

 

「なんだろーな。タカ坊おもしれーなこの写真」

 

「ハァハァ。な・・何がですか?普通の写真じゃないですか」

 

 そうね。特に変な写真でも…カチューシャがベソかいた見たいな写真になってる。

 

「そうですね?どこが面白いのですか?」

 

「いやな。カチューシャちゃんには申し訳ないけど、お前ら背も高いから子供あやしてる夫婦みたいな写真に見えるな!」

 

 …。

 

 …・・。

 

「おやっさん。…今の時代それもセクハラになりますよ」

 

「ぅえ!?そうなの!?」

 

 …。

 

「ノンナ」

 

「はい」

 

「あの親父。粛清しなさい」

 

「嫌です」

 

 

 

 

 

 

 

 これで終い。

 青森港に来る意味の大半が無くなってしまった。

 

「カチューシャ」

 

「なによ。黙って歩きなさいよ」

 

 タカーシャと別れ、学園艦に戻るためにヘリ向かっている。

 もういつもなら寝ている時間ね。

 

「…もう、泣かないのですね?」

 

「さっきから泣いてないわよ!」

 

 正直、今なにも考えたくない。

 こういうのを喪失感っていうのだろうか?

 

「泣かなくて良いのですね?」

 

「…ちょっと黙ってなさい。今何も話したくない」

 

「…」

 

「カチューシャ」

 

「…なに?」

 

「私は…ちょっとダメかもしれません」

 

「何が?……たまには、いいんじゃない?」

 

 後ろで立ち止まったノンナが、下を向いて震えていた。

 

 

 

 

 

 

 -----------

 ------

 ---

 

 

 

 

 

 

 

 さて。

 

 今年の戦車道大会も順調に勝ち進んでいる。

 

 当然ね!今のプラウダは負ける気がしないわ!

 カチューシャとノンナと…タカーシャが再編成した部隊が負けるはず無いもの!

 今年も優勝は頂くわよ!

 

「カチューシャ」

 

「なによ」

 

「聖グロリアーナよりダージリンさんが、訪問の許可を求めて来ています」

 

「またお茶会?」

 

「おそらく」

 

「いいわ。気分もいいし、いつでも来ていいわよ」

 

「わかりました。では明日の予定で返事をしてきます。それと」

 

「何?」

 

「次の相手が決まりました」

 

「ふーん。サンダース?」

 

「いえ。今年から参加した大洗学園です」

 

「…聞いた事ないわね。そんな弱小校どうでもいいわ」

 

「…」

 

「なによ」

 

「その大洗学園戦車道チームの隊長が家元の娘です」

 

「…どこの?」

 

「西住流。その「妹」らしいです」

 

「…そう。転校してまた始めたの」

 

「カチューシャ。どうしますか?」

 

「決まってるわね」

 

「フフッ…そうですね」

 

「完膚なきまでに叩き潰すわ!」

 

「カチューシャ。嫉妬ですか?」

 

「…そうよ!悪い!?」

 

「いいえ。私も同じ気持ちです」

 

「結局試合でぶつかるのだから顔もしっかり見てやらないと」

 

「そうですね。楽しみになりましたね」

 

「そうね。つまらない奴だったらゆるさないから。待ってなさい。西住 みほ!」

 

 




はい。閲覧ありがとうございました。
前回過去編3話で意識飛んだダージリンの末路から始まり、
カチューシャで終わりました。

前回の過去編3話が、えらい好評で正直この話を書く上で初めて
プレッシャーを感じましたヨ。

※しおり機能を有効にするため、次回本編を投稿する時に青森編の章を上に持っていきます※

ありがとうございました

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