転生者は平穏を望む   作:白山葵

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本編
第12話~隆史君は自業自得だと思います!~


『首尾はどうだ。』

 

・・・。

 

朝から嫌な声を聞かされた。

日本戦車道連盟会館・迎賓館でのやり取りから二日後。

直接、私の携帯に電話が入る。

 

迎賓館を出て最初にあそこにいた男子学生の身辺を調べる事を命じられた。

あの学生が言っていた事に嘘はなく、確かに幼少期より西住流と交流はあった。

 

『聞いているのか?局長!?』

 

「はい。聞いておりますよ。島田さん。」

 

こいつの声は聞いているだけで気分が悪くなる。

上からの辞令とはいえ、この肉ダルマが来年度から私より上のポストにつく。

正直気に入らないが、私の今後の出世にも関わる。仕方が無い。

 

「正直に申し上げます。無駄でした。すでに先手を取られています。」

 

『・・・なんだと?』

 

この肉ダルマから戦車道大会に出場する高校に暗に通達を出せ。

選抜を済ませた後にすればいいものを、全出場高校に初出場の「大洗学園」に敗退するような事がある様ならば

大学推薦、入学に支障をきたす旨を匂わせろ・・・と。

そうすれば、ガキ共はどんな手を使っても勝ちに行くだろうと。

 

愚かすぎる。やはり金で地位を買うような奴は無能だ。

 

しかしこちらも命令なので、仕方なく言われた通りにしてやった。

全高校に対し、一校を目の敵にするような雑なやり方は悪手としか言い様がない。

 

「仕方ありません。こちらが動くより先に対策を取られていました。現在の高校戦車道連盟の理事長の名前で注意警戒をするようにと、正式な文書で各高校に出回っておりました。」

 

『・・・チッ。』

 

電話の向こうで舌打ちが聞こえる。こちらがしたいくらいだ。

 

「すでに正式な文書で出回っている以上、下手に大学戦車道連盟の名前を出すと逆に勘ぐられます。

 あの学生は確かに西住流次期家元にも顔が効くということでしょうね。いくら何でも早すぎます。」

 

『あの小僧・・・。』

 

「私としても大洗学園には早々に敗退してもらいたいですからね。早く廃校の手続きを済ませたいものです。」

 

『そうだそうだ。辻君。たしか各高校に日本戦車道連盟から助成金が支払われていたな?』

 

「はい・・確かに。各高校の戦車保有台数で金額が決まっていますが。」

 

基本中の基本だろう。何が言いたいのだこいつは?

 

『それを止めてしまえ。』

 

・・・。

 

『大洗学園の戦車数は現在5輌だったな、しかも使い古しの。助成金が無ければ何もできまい。整備も増強も出来ずに終わるだろう?』

 

・・・。

 

この男は馬鹿じゃないのか?

止めてしまう事は確かに出来る。

いくらでも理由などあるからな。

 

だが、「金銭」を動かしての妨害はリスキーすぎる。

バレた時点で終わる。

それにもし、大洗学園側にスポンサーがいたりしたら意味がないだろうが。

 

『それで行こう。すぐに終わる。』

 

何も分かっていない。こいつはただ今まで運が良かっただけだな。

金で何でも解決できるわけでは無い。

明るみに出なかっただけで、一体コイツはどれだけ汚職を繰り返していたのだろうか?

 

『これで儂をコケにしたツケを払ってもらおうか。小僧の分も一緒にあの母娘に・・・。』

 

すでに勝利宣言をしはじめた。

 

下卑た妄想でもしているのだろう。下品な笑い声が聞こえる。

 

こいつは長くないな。

しばらく付合うしかないが、早めに手を切る準備をしておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャプテーン・・大丈夫なんですか?ここのお店結構高そうですけど・・・。」

 

「・・・うわぁ。珈琲一杯が600円って。どうりで大人しかいないはずですよぉ。」

 

妙子と合流してから私達は喫茶店に入った。

キャプテンが珍しく奢ってくれると言っていたけど・・。

 

反省会の名目でお店を探していたが軽いお祭り騒ぎになっていた戦車道の試合の為か、どこのお店も座れないほど一杯だった。

普段はこんなお店には縁がないけど、空いているのがここしかなかったのと興味本位ってのもあったそうだ。

 

個人経営のモダンな雰囲気のオシャレな喫茶店。

お店も広く全席禁煙って事でここに決まった。

 

そのまま 私達は窓際の隅っこに座った。

席毎に仕切りが有り、横の席の人は体を出さないと見え辛い様な所が良かった。

制服で喫茶店は結構目立つから丁度良かった。

 

 

「大丈夫・・・。大丈夫・・・・。」

 

キャプテンさっきから水しか飲んでないけど・・・。

 

「忍ちゃん。」

 

妙子から先程、変なことを聞かれた。

 

「つり橋効果って本当かなぁ?」だって。

 

・・・あのナンパ野郎の事だろうか。

大まかに聞いたが、確かに妙子はアレに助けられたみたいだった。

よほど怖かったのか、私達が来ても少しまだ震えていた。

 

「忍ちゃん!」

 

「!・・・ゴメン。ちょっと考え事してた。」

 

その妙子より声をかけられていた。

 

「ねぇあれ先輩じゃないかな?」

 

「は?」

 

出入り口のドアについたベルが鳴り、あのナンパ野郎が入店してきた。

なんだ?随分と青い顔をしているけど・・・。

 

「「!?」」

 

妙子・・・。本当にあんなのがいいのだろうか?

 

「あれ誰だろう。」

 

年上らしき女性と入店してきた。

なんかすごく綺麗な人だけど。

 

「「!!」」

 

こっちに来る!?あの野郎から正面に位置する私達はバレ無いように体を倒した。

 

なんで隠れたのだろう?

しかも、よりにもよって私達のすぐ隣の席に座った。

 

「何やってんの?あんた達・・・。」

 

「キャプテン!後ろ!後ろ!」

 

「なによ。後ろって・・・あ。」

 

怪訝な顔でに後ろを振り向いた。仕切りの間から見えたのだろう。

 

「尾形君?」

 

「連れの女性の人、誰だろ?」

 

「・・・すごい美人だったけど。まぁたナンパでもしたんじゃない?・・・妙子。何で睨むの?」

 

「あんた達。盗み聞きなんて趣味悪いよ。」

 

「キャプテン。ちょっと静かにしていてください。」

 

結局仕切りに隠れ、様子を覗う形になってしまった。

私達の話し声も段々に小声になっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隆史君。娘の事ありがとうございました。」

 

「いえ。こちらとしても安心ですし・・・みほの奴、大分元気が出てきましたよ。友達もできましたし。」

 

「・・・そうですか。良かった。」

 

席に座り早々にお礼を言われた。

・・・良かった。

ほんっっっとーーーーーーーーーに良かった!!

先程までの殺気は大分消えてる!

怖かった!ここまで本当に怖かった!!

 

「そういえば、珍しいですね。しほさんがスカート履いてるの。いつもこう・・ビシッっとしたスーツなのに。」

 

「・・・私も女ですよ?スカートくらい履きます。」

 

しほさんは、珍しく私服を着ていた。

なに気にすっごいレアな姿を拝めた。

…なんで少しうれしそうなんだろ?

 

「まず今日の試合の事ですけど…やはり、やめておきましょう。厳しいことを言ってしまいそうです。」

 

「まぁ…素人が初めての試合ってのもありましたし、仕方がないと思っておいてください。」

 

「今日は聞きたいことが3つ程あります。まず最初に先日の電話での件ですけど…。」

 

 

「先輩の言う「みほ」って、西住隊長の事だよね?」

「女の人「娘」って言ってたよね?ってことは、西住隊長のお母さん!?若!!」

 

 

 

「はい。「名前」を使わせてもらい、すいませんでした。ありがとうございます。助かりました。」

 

「いえ、娘の事もありますし、あの爺は私も気に食わないですしね。」

 

迎賓館の出来事の後すぐに、しほさんへ連絡を入れた。

必ずあの老害は何かしら仕掛けてくる。

 

こちらは高校生だ。各高校に…特に大会へ出場する3年生をターゲットに脅しか交換条件かを仕掛けてくるかも知れないと思った。

「大洗学園」を潰せ的な・・・。

ほぼこちらは無名校なのに、他校からすれば眼中にすら無いだろう。

何かあるって言っているよなものだ。

 

正直、そんなに確実ではないし「振込詐欺注意!」の注意チラシを配る…ぐらいの感覚で予防線を貼っておいた。

高校戦車道連盟の理事長である、「西住 しほ」の名前で注意を出せば各高校も何かしらあるのだろうと思うだろ。

 

「貴方の思った通りでした。私の名前で通達を出した後、何校かに不審な大学戦車道連盟からの問い合わせがあったそうよ。」

 

「…予防線のつもりでしたけど、あいつらバカじゃないのか?分かりやす過ぎますよ。」

 

「島田 忠雄ですか。頭の悪いただのセクハラ糞爺ですね。」

 

「同感ですね。迎賓館で会った時も千代さんを、まぁ随分とエロい目で見てましたよ。」

 

「…あの女の事はどうでもいいですが、確かに私も面会した時も腰に手を回してきたりしましたね。…まぁ振り払うフリして指掴んでへし折ってやりましたが。」

 

……。

 

俺、よくこの人に喧嘩売ったなぁ…。

 

「俺はまだ高校生ですので、なにも力なんぞ持っていません。二度目になりますが、勝手に名前を使わせてもらって申し訳無かったです。

 あいつらの前で牽制用にさせてもらいました。相手は腐っても組織のトップの人間です。こちらもそれなりの「武器」が必要でした。」

 

頭を下げる。情けない事に俺は、虎の威を借る狐でしかなかった。

 

「こういう事には使えるものは何でも使いなさい。本来なら正式な手続きの書類を個人の思惑で簡単に発行できないのですけどね。

 多少無理も通しましょう。貴方には迷惑をかけています。今回の件で今後「西住」の名前を使っても構いませんよ。」

 

「ありがとうございます。では、しほさんに迷惑がかからない程度で。」

 

 

「な…何か難しい話してるけど。」

「戦車道連盟って…先輩って実は結構すごい人?」

「…私は余計に胡散臭く感じるけど?」

 

 

「…次に。島田の娘の件ですが。」

 

「アー…。まぁ千代さんが早く家元就任すれば、すぐに終わる話ですけどね。」

 

ピリッと周辺の空気が少し変わった。

 

「あの女が素直に解消をしますかね?」

 

「あ!しほさん!注文しないと!店員さん見てますよ!?」

 

「そうですね。では…。」

 

ここはお茶を濁さないと多分、泥沼化する。

さっさと終わらせないと!

まだ、店に入って注文すらしていなかった。店員を呼び注文をする。

 

「じゃあ、俺はアールグレイで。」

 

「では、私もそれで。」

 

店員は、注文を受け早々に行ってしまう。

あぁ誰か間に入ってくれ。

 

「意外ですね、紅茶なんて。てっきり珈琲とかを頼むと思っていたました。」

 

「そうですか?昔、散々飲まされたので珈琲よりも紅茶派になりました。」

 

「…聖グロリアーナですか?面識があるのは知ってはいましたが。そうですか。あの娘がお茶を振舞うとは…随分と仲がよろしかったのですね。」

 

「…何で知っているんですか?」

 

「さぁ?どうしてでしょう?」

 

・・・西住流の情報網が尋常じゃないの忘れてた。

この人高校戦車道連盟の理事長でもあるし、強豪校・聖グロリアーナのダージリンの事知らない訳なかった。

まずい、これは口を開けば全て墓穴を掘るパターンだ。

 

「まぁ聖グロリアーナは、もういいです。島田の娘の事でしたね。」

 

「ハイ。ソウデシタネ。」

 

回避失敗。

 

「貴方には二心は無いのですね?」

 

二心?なんの事だ?

しほさんには全部包み隠さず報告しておいたけど。

 

「この件が解決したら実際に島田家に…」

 

「無いです。俺自身は島田家と関係無いと思っています。島田家は母さんだけの問題です。

 今回は知り合いが困っていたから協力しているだけです。今回は特例なだけで、「島田家」なんて知ったことか。」

 

冗談じゃない。

間違って愛里寿と一緒になって島田家に入る事になったらそれはそれだ。しょうがない。

だけど、この件は違う。

 

「そうですか。なら良いです。」

 

しほさんが、何故か機嫌を良くした所で注文品が来た。

 

 

 

「…何か、すっごい真面目な話しをしてるけど。」

「先輩、一体何してたんだろ。」

「…チッ。」

「あんた達・・・。私達、反省会をしにこの店入ったんだけど?」

「わかってますから、静かに!」

 

 

 

注文品に口して、しほさんが真面目な顔をして切り出した。

 

「さて最後に、今回一番の重要案件です。」

 

「なんでしょ?」

 

アレ?もう今回の件で大体の事話したけど何かまだあったか?

 

「…これは何でしょう?」

 

携帯画面を俺に突き出してきた。

 

……。

 

「チヨサント、アリスチャンデス。」

 

交互にお姫様だっこされた、母娘の姿だった。

…重要案件って言わなかったけ?

 

「………ナゼデショウ?」

 

「…ご、ご希望になられましたので。」

 

「………ナゼデショウ?」

 

「…しほさんとの写真を見られたからでしょうか?」

 

「………ナゼデショウ?」

 

「」

 

このやり取り、前やった!もうやりましたから!!

やっぱり母娘だ!

壊れたスピーカー化しちゃった!?

 

 

 

「あら。年増の嫉妬は見苦しいですよ?」

 

「…ト?」ピキ

 

あなた同級生でしょうよ!!

 

「千代さん!やめて下さい!大丈夫です!しほさんまだまだ十分いけますから!少なくとも俺は全然!!」

 

「あら?隆史さんは年増が好みなのかしら?」

 

「…コノアマ。」

 

「だからやめて下さいって千代さん!…って、千代さん!!??」

 

いつの間にか千代さんが隣に座っていた。

え!?なんで!?今一番いちゃいけない人でしょ!?貴女!

 

 

「なんでいるんですか!?帰ったんじゃ!?」

 

「いえいえ。私帰るなんて一言も言ってませんよ?あ、コレ頂きました。」

 

なんで俺の注文品、普通に飲んでるんですか!?

 

「フフ。間接キスですねぇ。」

 

「」

 

逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたいぃぃぃぃぃぃぃ。

 

「…千代。まずどうして彼の隣にいるのですか?」

 

「あら。貴女と立ち位置が逆なら私の隣に座ります?」

 

「どうして、ここにいるのかと聞いている!!」

 

ドンッ!っと机を叩くしほさん。

いかん!店中にしほさんの殺気が充満しだした!

 

「あら。隆史君に会いに来ただけじゃいけない?」

 

「…ア?」

 

「ちょっ!店!ここ他所様のお店ですから!しほさん口調!口調!!つか、千代さんどうしてここがわかったんですか!?」

 

「・・・隆史君。今の携帯電話にはGPSというものが組み込まれているのですよ?」

 

は?

 

「・・・俺の携帯奪った時に何かしたんすか。」

 

「いえいえ。ちょーと隆史君の携帯のGPSの解析をさせただけですよ。」

 

「あの短時間に!?つか解析!!??」

 

やだ怖い。家元達、超怖い。

席の出口側に千代さんが座っているので、一時避難もできない。

 

誰かタスケテ。

 

 

 

「ひ…一人増えた…。」

「なにこの雰囲気。」

「不倫現場の修羅場にしか見えない…。あれ?妙子ちゃんは?」

 

 

 

「千代。貴女随分と今回彼に迷惑をかけているようね。」

 

「そうね、とても助かるわ。」

 

「」

 

「…島田家娘との件。約束は守って下さいよ。」

 

「どうでしょう?そもそも、しほさんに関係があって?」

 

「」

 

今現在、喫茶店内は魔境だ。

二人の濃密なプレッシャーが店内の雰囲気を支配している。

お互いに目を睨み合っている。

 

その間に完全に挟まれている俺が一番キツイのを誰か理解してくれ。

そしてタスケテクダサイ。

 

「あの…。先輩ですよね?」

 

横から声をかけられた。

 

「あれ?近藤さん?」

 

「「?」」

 

 

 

「妙子ちゃーん!!何やってんのーー!?」

「あの娘、よくあの場に入っていけるわね。」

 

 

 

先程別れた後輩が立っていた。

何でいるの!?良くこの雰囲気で声をかけれたね!?

 

「隆史君?お知り合いですか?」

 

「え?あ、はい。戦車道の後輩です。」

 

「いえ、先輩がいたものですから挨拶くらいしておかないと、と思いまして。どうかしました?」

 

ちょ…なんでこの娘、普通に話せるの?

 

「あ…ありがとう。ちょっと知り合いと話をしていて。こちらみほのお母さん。」

 

一応紹介しておいた。

しほさんも第三者が現れたので、落ち着きを取り戻し挨拶をする。

 

娘の後輩にもあたる訳だから、普通の態度に戻っていった。

しほさんはともかく、千代さんも普通に俺の頼んだ紅茶を飲んでいる。

いや…もうつっこまない。飲んじゃってください。

 

「アレ?近藤さん一人だけ?他の人達は?」

 

「そこにいますよ?気づきませんでした?」

 

指を指された。…すぐ隣の席にいた。

何してんの。

 

「妙子ちゃん!?」

 

「ど…どーも。」

 

「こんにちは。尾形君。」

 

バツが悪そうに席の仕切りから顔をだしたバレー部の面々達。

良し!流れが変わった!

俺の知り合いが出てきせいだろうか。二人共、外面用の顔になった。

 

「…もういいでしょう。千代。あなた本当は私に話があったのでしょう?」

 

「そうですね。ですが…まぁいいでしょう。しほさん、帰りは送ります。その道中でお話しましょう?」

 

「…いいでしょう。人前で話す話では無さそうですね。」

 

良し。二人共口調が元に戻った。

平和が戻りそうだ。

 

「そういう訳で隆史君。私達は帰ります。支払いはしておきますので、ゆっくりしていって下さい。」

 

「あ…なにかすいません。私が声をかけたせいでしょうか?」

 

よしよし。お開きになりそうだ。

終わる。この地獄が終わる!

 

「大丈夫ですよ。貴女のせいでは有りません。大体の話はできましたから。

 隆史君、いい息抜きができました。ありがとうございます。」

 

「いえ。そう言ってもらうと俺も…『写真の件は後日、しっかり聞かせてもらいます。』」

 

「」

 

次回予告で地獄が確定した。

 

「貴女達も、みほと良くしてやって下さい。では。」

 

・・・ビックリした。

しほさん普段こんな事言う人じゃなかったのに。

よかった。いい方向に変わって行っている。

 

…次回までに何か言い訳考えておかないと!

 

「隆史君、今度こそ帰りますので安心してくださいね。それでは。」

 

「いえいえいえ!安心なんてそんな!」

 

相変わらず人をからかうのが好きな人だ。

そのまま立ち上がり、店の出入り口のベルを鳴らしてしほさん達は店を出て行った。

先程までの空気が嘘のような、あっさりと帰っていった。

あの人達よく喧嘩すると聞いてはいたが、あれがデフォルトなのかよ…。

 

「はぁーーーーー。」

 

二人が退店した後、一気に疲れが押し寄せ来た。

そのまま目の前の机に突っ伏した。

疲れた。マジで疲れた。

人生で一番疲れたんじゃないかってくらいの疲労感がする。

 

「なんかお疲れ様でした先輩。」

 

「ありがとう近藤さん。いや近藤 妙子様。マジで助かった!ありがとうございました!」

 

「「様」って…。いいですよ。先程、助けてもらいましたし。」

 

「違います!いくらなんでもレートが違いすぎます!」

 

「はぁ…。放っておけばよかったのに。」

 

しかし相変わらず、5番の娘…河西 忍さんが睨んでくる。

 

 

「そういや、磯部さん先程から下向いてるけど、どうした?」

 

「キャプテン?」

 

磯部さんが、なんだ?注文伝票を見ながらプルプルしてる。

 

「…まずい。お金が足りない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おばぁの家から学園艦までようやく帰ってきた。

最近小言が増えるばかりだけど、思ったより元気そうだった。

というか元気過ぎるだろ。

 

どうもまだ西住さん達は帰ってきていないようだったので、乗り場前で待つことにしよう。

だがその乗り場前に奴がいた。

なんか大きいクーラーボックスに座っていた。

 

「やぁ冷泉さん。みほ達と一緒じゃ無かったのか?」

 

生徒会書記。

今一性格が掴めない変な奴。

正直、こいつは少し怖い。

この前は二重人格じゃ無いのか?と思う変わり方をした。

なんだかひどく、疲れた顔をしている。

 

「いや。自由時間で別れた。書記。お前こそ何故ここにいる?」

 

「書記…ね。まぁ確かにそうだけど。…みほ達を待っているんだ。」

 

「…そうか。」

 

ここで待とうと思ったけど、こいつと二人きりは嫌だ。別の場所で待つことにしよう。

踵を返し、さっさと立ち去ろうとしたが呼び止められた。

 

「ちょっと待ってくれ。少し話がある。」

 

「…なんだ?また説教か?」

 

苦笑している。やりづらい。

あの時とやはり口調が違う為か、多少強気でいける。

 

「あー。その時の話ではあるが説教とかいう気は無いよ。ただまぁ…謝らせてくれないかと。」

 

…そう言えばあの時、去り際にも何か言っていたな。

こいつの変わりように驚きすぎて殆ど覚えていないがな。

すぐに頭を下げて謝罪をしてきた。

 

「正直アレは、八つ当たりだった!すいませんでした!」

 

「…いや、もういい。目立つからやめてくれ。」

 

あの時の事は、面食らっただけで私自身何も思っていない。

ちょっとこいつが怖いくらいだ。

 

「謝罪はもういい。…ただ、教えてくれ。なんであそこまで私を嫌う。そんなに面識は無いはずだぞ。」

 

気になるのはそこだ。何故あそこまで目の敵にされたのか。

西住さんとも縁近いそうだし、これから顔を合わせることも多いだろう。

 

「…あの時まで、正直君を嫌いだと思ってた。」

 

…やっぱりか。

 

「ちょっと待て、お前に嫌われる謂れがないぞ。」

 

「んぁー。まぁ、俺のコンプレックスというか、先入観というか…。まぁ一言で言えば「偏見」だな。すまなかった。」

 

「もう謝罪はいい。やめろ。」

 

また頭を下げてきたので、上げさせる。だから目立つだろうが。

 

「…俺は、「やればできるのにやらない奴」が嫌いだったんだ。簡単に言えばな。本人からすれば大きなお世話なんだけどね。」

 

「やればできるのにやらない奴…。私が?」

 

「君はなんだかんだで目立つからね。遅刻連続記録とか、生活態度とか。そのくせ成績はトップときたもんだ。」

 

「…。」

 

「それまでは、気に食わない程度だったけどあの時の態度でね。」

 

「態度だと?」

 

「みほ達…特に沙織さんは幼馴染なんだろ?その娘達が本気で困っているのに自分の自堕落を優先して見捨てるって見えたもんだからね。」

 

あーあれか。朝6時起きは無理って話でやめようとしたな。

 

「それでキレちゃったんだよ。」

 

「…ム。」

 

沙織を引き合いに出してきた。まぁ何となく気持ちがわかるが…。

西住さんや沙織の為だったか。

…待て。そうすると悪者は私みたいだろ。

 

「でも今は正直見直した。素直に謝ろうと思ったんだ。俺の好感度、鰻上りだ。…効果音つけようか?」

 

「…やめろ。なんだ効果音って。」

 

書記は私の正面に向き直した。

 

「結局、戦車道を選択してくれた。みほ達を助けてくれて、ありがとう。」

 

「…やめろ。調子が狂う。頭を下げるな。真っ直ぐ見るな!」

 

「今回の練習試合。ちゃんと来てくれてたしな。実際凄かった。よくもまぁ、あそこまで動かせるもんだ。」

 

…ギリギリまで寝てたのは黙っていよう。

 

「もういい!許したから、あまり絡むな。」

 

落差が激しい。散々敬語で攻撃してきたのに今度は褒めてくるって。

 

「やだ。こうなったら口説くつもりでガンガン絡んでく。戦車道もあるし、長い付き合いになりそうだしな。」

 

「口説くってお前。…西住さんに言うぞ。」

 

「…ヤメテクダサイ。シンデシマイマス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局。冷泉さんと一緒にみほ達を待つことにした。というか逃がさん。

やっと打ち解けそうな雰囲気になって来たのに。

 

港だけあってまぁ野良猫のまぁ多いこと。

何故か彼女の周りには2.3匹の野良猫がニャーニャーと陣取っていた。

そのおかげで動けないのか、逃げるに逃げれない冷泉さん。

さてどうやって打ち解けるか。

 

「おい、お前。そこのむさ苦しい気品の欠片も無い男。」

 

知らない男に、いきなり喧嘩腰で声をかけられた。

邪魔するなよ。

何だ?この宝塚にいそうな服着たモヤシ男。いや、後ろにも二人ほどいた。

みんな同じ服着てるな。キメェ。男のペアルックかよ。

 

「おい。呼ばれてるぞ書記。」

 

「ひどい!まこタン!俺そんなにムサクないよ!?」

 

「まこタ…やめろ。私に変な愛称をつけるな!」

 

ニャーニャーと猫にまとわりつかれているな。

 

「…マコニャン。よし。これでいこう。」

 

「…わかった。今わかった!お前のそれが素だな!!どうりであの時1年チームが怯えていたのかわかったぞ!落差ありすぎぞお前!」

 

「だから謝ったじゃないないか、マコニャン。良いよマコニャン。かわいいよマコニャン。」

 

「こ…殺す!本当に殺す!!」

 

「あまり女の子が殺す殺す言うもんじゃあ無いよ?マコニャン?」

 

「ガァァァァ!」

 

あー楽しい。オペ子は違う異色タイプの癒し系だな冷泉さん。

しっかし、この子は朝と違って夜に近づくと元気になるな。

夜型なのか。どうりで朝に弱いはずだ。

 

「む…無視をするな!!」

 

「うるさいモブ男A。なんだよ。お前なんか知らん。ナンパならよそでやってくれ。」

 

「ふざけるな!私達は聖グロリアーナ、ダージリン様より貴様ら大洗に言伝を伝えに来たのだぞ!」

 

…ダージリンの名前を出されてた。なら仕方がない。

 

「はいはい。なんでしょうか?」

 

仕方がないから相手をしてやることにした。何か手にもっているな。

あーそう言えばこいつら、みほ達に挨拶にしに来た時にダージリン達の後ろにいた男共か。

って事は、共学になった後、戦車道に関わっている奴らってことね。

 

「なんだ?ダージリン様より何も聞いていないのか?わざわざアポイントを取ってまで来てやったというのに。」

 

カリカリしてるなぁこいつ。早々にハゲるぞ。

誰かわからない、初対面の奴に偉そうに言われる筋合いはない。

初っ端から無礼な態度なのだから、こちらもそれ相応に対応してやる。

 

「知らん。俺は何も聞いていない。そもそもお前ら誰だよ。」

 

「あー隆史ちゃん。その人達が用があるのは私達だよー。」

 

「会長?」

 

後から声をかけられた。いつの間にか生徒会役員が勢揃いしていた。

いつの間に…。

 

「!!」

 

なんだ?声をかけてきたモブ男Aが固まった。

 

「ごめんねー。この子ら大洗の戦車道チームだけど、今回はなんも知らないの。約束してたのは私達だよー。」

 

「人違いでしたか、大変失礼をしました。私、聖グロリアーナ戦車道チームの…。」

 

いきなり胸に手をやりお辞儀した。

 

「おい。随分と俺と挨拶から対応が違うけど、まず人違いだった俺に何か言うことがないのか?」

 

対応の違いに若干苛つく。

 

「ふん。貴様に名乗る名前は…。いや、貴様には名乗っておこう。ダージリン様に対する貴様の無礼は目に余るものがあった。

 あの方に限っては有り得んが、貴様の様な無頼から守るのが我らの使命!ゆくぞ!!」

 

…なんかトリップしだした。

 

 

「「「 我ら!ダージリン親衛隊!! 」」」

 

 

……。

 

なんだこの人数の足りないギ○ュー特戦隊見たいな奴ら。

 

「ごめんなさい。結構です。ご用件を済ませて早々にお引取り下さい。」

 

「なんだと!?」

 

関わりたくない。帰れ。

 

「まーまー隆史ちゃん。で?用件は?」

 

「失礼をしました。こちらをどうぞ。」

 

「なにこれ。」

 

少し大きめの箱を渡された。

それを渡すために来たのか?

 

「ダージリン様より大洗学園戦車道チームへとの事です。是非とも「西住 みほ」さんにお渡し下さい。」

 

…こいつの会長を見る目がおかしい。キラキラしている。

 

「しかし、大洗にこのような可憐な・・貴女の様な方がおられたとは思いませんでした。

 先程もお目にかかりましたが…いやはや見れば見るほどお美しい…。」

 

会長との距離を一気に縮め、会長の手を取った。

 

「…。」

 

後ろの桃センパイが暴れ出しそうだったけど、柚子先輩が止めている。

ここはいいだろ暴れさせても。

 

「そ…そうかい?ありがと。」

 

「いえいえ。時間さえあれば、もうしばらく『おい。モブ男A。』」

 

若干、いきなりのアプローチに引く会長。

会長が引くってよっぽどだぞ。桃ちゃんキレそうじゃないか。

長ったらしい讚辞を送ろうとしているのが見て取れたので止めておいた。

 

「モブ男Aと呼ぶな!何の用だ!?今貴様と話している時間は無い!!」

 

「一つ聞きたいのだけどさ。お前らダージリンの親衛隊とか言ってたな。」

 

「今更何を…。そうだ!我らこそ選ばれた…」

 

「ダージリン、オレンジペコ、アッサムの中で誰が好み?異性として。」

 

「…なんだと?神聖化されたダージリン様をそのよ『いいから。言ってみ?』」

 

ヌ…と呟き考え出した。変な所、律儀だなこいつ。

 

「…オレンジペコ殿だろうか。」

 

ボソッっと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。

 

「で、この娘はどう思う?」

 

横にいた、話題から外れ安心しきって野良猫と戯れているマコニャンを親指で指さした。

 

「…何で私が出てくる。」

 

「!?」

 

…やはり目の色が変わった。

素早く彼女の前に跪く。

 

「失礼をしました。貴女の様な方をこの私がぁぁぁぁぁ!!!!」

 

取り敢えず頭を掴んで力を込めておく。

 

「…会長。冷泉さん。気をつけて。こいつはダメだ。」

 

敢えて言わないが、こいつはダメだ。いろんな法令に引っかかりそうだ。

会長の前でマコニャン呼びはやめておこう。多分後々面倒そうだ。

 

手の力を緩めてやったら逃げるように距離を取られた。

 

「ハァハァ…クソ!貴様!」

 

はぁ…。もういいから帰ってくれ。しほさんとのやり取りで疲れきってんだ。

マコニャンで、からか…癒されてんだから邪魔するな。

 

「くっ…口惜しいが時間がないな…貴様!名を名乗れ!」

 

「えー。散々ダージリン達が呼んでいたじゃん。」

 

「ふん!覚えておらん!」

 

…頭沸いてんのかこいつ。

 

「あんた達も大変だねぇ…。」

 

一応、後ろで「いつもの事」って感じで静観していた他の奴らに声をかけておく。

 

「いえいえ、もうなれましたので。」

 

苦笑している。この人達とは仲良くなれそうだ。

苦労人は労ってやらないとね。

 

「はぁ…。名前ねぇ…。聞いてどうするんだ?」

 

「今回は時間が無いのでこれで私達は失礼するが…次回貴様に会った時こちらにも考えがある!!さぁ名乗れ!」

 

めんどくさいなぁこいつ。

これで終わるなら仕方がない。

 

「伊集院 田吾作だ。よろしくぅ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お前、さらりとすごい嘘ついたな…。」

 

「自分から名乗らない相手に名乗る名は無い。」

 

やっぱりあいつら変な所律儀で、名乗るだけ名乗ったら素直に帰って行った。

さて。またマコニャンと二人きりの状況に戻った。

会長は要件が済んだら、「私ら学園艦で待ってるね~。」と、さっさと学園艦に戻った為、港に二人取り残されていた。

 

そろそろ学園艦の出港時間。さすがに心配になったのか、もう俺から逃げようとしない。

マコニャンは、しびれを切らしたのかウロウロしだし、最後には係船柱に足をかけてポーズをとって待っている。

 

「なぁマコニャン。」

 

「…。」

 

「無視しないでよマコニャン。」

 

「…ギ。」

 

プルプルしだした。

 

「まぁいいや、港町で働いていたから分かるんだけどさぁ。こういう所って突風が吹くこと多いんだよ。遮蔽物が少ないから。」

 

「…だからなんだ。」

 

顔を海に向けぶっきらぼうに答えられた。

 

「いやぁ、そんな片足上げて固定したポーズとってると…。」

 

ブワッっと言っているそばから強風が吹いた。

片足を上げているせいか、スカートに風が滑り込む。

 

 

にゃーん

 

 

バッ!

 

すぐさま手で押さえ込むが、時既に遅し。

 

「スカート捲れるよって…やっぱりマコニャンじゃん。」

 

ふむ。パステルブルーの猫柄か。

 

「…今すぐ貴様の海馬をこねくり回してやる。」

 

はっはー。殺気がマジになってるよ。

しかし、先ほどの家元二人のプレッシャーに挟まれていたお陰で、今俺は感覚がマヒしてる。

もう…何も怖くないよ!

 

「チッ。…おそい。」

 

パタパタ走ってやっと、みほ達が帰ってきた。

 

「隆史君と冷泉さん!?」

 

急いで走ってきたみたいだ。

実際出港ギリギリで悠長に話している時間も無かった。

俺らも続けて走って乗船する。

乗船して歩きながらだけどもようやく話ができた。

 

「なに?二人共待っていてくれたの?」

 

「…私はこいつと待っていたつもりは無い。」

 

「まぁーそういうなよマコニャン。」

 

「「「「マコニャン!?」」」」

 

「麻子。いつの間に隆史君と仲良くなったの?すっごい呼び方されてるけど。」

 

「仲良くない!こいつが勝手に言っているだけだ!やめろと言っただろ!」

 

「まぁ、この前の事で仲が悪くなるよりいいけど…隆史君。わかった。またいつものだね。ハァ…。」

 

「ハッハー。」

 

「西住殿?いつものとは?」

 

「昔からなんだけどね。隆史君、たまに気に入った人いると強引に相手との距離を縮めようとするの。」

 

「それって人を選びますよね…。嫌がる人は嫌がりますよ?」

 

「だよね。でもね、不思議とうまくいくの。なんでだろ?」

 

「つか、隆史君って麻子の事気に入ったんだ…。」

 

「…その呼び方は、本当にやめてくれ。しまいには泣くぞ。」

 

 

 

船外廊下を歩いている。

一番後を歩いていたが、ちょっと様子がおかしかった。

なんだろ?

特に意識はしていないのだろうが、ちょっと空気がおかしい。

そう特に変だったのが…。

 

「華さん?」

 

「…何でしょう?私にも何かアダ名をつけてくれるのですか?」

 

こちらを振り向いた華さんの顔は、いつもと同じ微笑を浮かべているのだけど少し様子が変だ。

つられて全員が振り向いた。

冷泉さん以外の面々の表情もなんか様子が変。

 

「…なんかあったか?」

 

「…。」

 

「いえ?特には。何も食べておりませんので、少々お腹が空いただけですよ?」

 

「…そうか。まぁなんかあったら言ってくれ。できるだけ力になりたいから。」

 

妙な緊張感が包んだ。

みほ達は心配そうにこちらを見ている。

…やっぱりなんかあったな。

聞き出すのも変だし言ってくるまで頬っておくか。

 

「ありがとうございます。では何かご馳走してもらえます?お腹が空いただけですので。」

 

彼女なりの気を使った冗談なのだろう。

しかし冗談でもご希望であるなら。

 

「いいよ。今からなんか作ってやる。」

 

え!?っと全員が驚いた。

 

「あれ…隆史君、料理なんかできたっけ?」

 

一番驚いてたのはみほだった。

まぁ言ってなかったしねぇ。

 

「まぁ、港の早朝の飯屋でバイトしてたからな。レパートリー少ないけど。」

 

「あらぁ…冗談のつもりでしたのに。」

 

「丁度いいや、全員分作ってやる。魚2,3本買ってあるし。」

 

そう。クーラーボックスの中は魚だ。せっかくの港町なんだから購入してあった。

ポンポンとクーラーボックスを叩いて見せた。

 

話しながら階段を上り、視界にいつもの学園艦の街並みが広がる。

そこに、一年生チームが並んでいた。

 

「西住隊長。」

 

「え?」

 

「戦車を放り出して逃げたりして、すいませんでした!」

 

「「「「「 すいませんでした! 」」」」」

 

一年チームも、みほを待っていたのだろう。

練習試合の時、逃げたことを謝ってきた。

いろいろと、みほの試合を見て思うところがあったのだろう。

「次はがんばります。」と次回をしっかりと見ている。

よかった、一人くらいやめたいとか言い出すかと思っていた。

 

「これからは、作戦は西住ちゃんに任せるよ。」

 

横から会長達が出てきた。

一年と一緒に待っていたのだろう。

柚子先輩が、先ほどのモブ男Aから預かった箱を持っている。

桃センパイはなんか驚いてるけど。

 

「んでコレ。」

 

「なんですか?」

 

箱の中には、えらい豪華な紅茶が入っていた。

コレ、箱自体も結構な値段するんじゃないのか…?

 

「あれ?みぽりん、メッセージカードも入ってるね。」

 

「あ、すみません。両手塞がっているので読んでもらえますか?」

 

「いいよ。えっとねぇ。」

 

 今日はありがとう。

 貴女のお姉様との試合より面白かったわ

 また公式戦で戦いましょう

 

「だって。」

 

沙織さんが読み上げる。

 

「すごいです!聖グロリアーナは、好敵手と認めた相手にしか紅茶を贈らないとか!」

 

「そうなんだ。」

 

「昨日の敵は今日の友!ですね!!」

 

「公式戦は勝たないとねぇ。」

 

「はい!次は勝ちたいです!」

 

よかった。みほは、もう大丈夫だろう。

今回の練習試合はいい踏ん切りになったのかな。

 

「公式戦?」

 

「戦車道のぉ、全国大会です!!」

 

優花里が本当にうれしそうに言った。

そうか彼女、戦車道のマニアだったっけ?

実際に参加出来る事が嬉しくて仕方ないのか。

オッドボールの紹介も遅れていたし、ちゃんとしてやらないとなぁ。

 

「あ、先輩!」

 

「近藤さん?どしたの。」

 

彼女一人なのか。珍しい。

 

「いや、あの時忍ちゃんに急かされて、ちゃんお礼言ってなかったなぁって。」

 

「それでわざわざ待ってたの!?律儀だね。」

 

「…隆史君?どうかしたの?」

 

あ。いかん。みほが訝しげな目で見てきた。

 

「いやね、俺が助けてもらったお礼に偶然居合わせた喫茶店で、バレー部の飲食の代金を俺が出したって話だよ。」

 

「そうですよ、西住隊長。変な事じゃないですよ?奢るって言ってたキャプテンの持ち合わせが足りなくて、本当に助かったんですから。」

 

…助かる。彼女は前々からピンポイントでフォローしてくれるから本当に助かる。

 

「…ふーん。」

 

「…しほさんと千代さんが遠まわしに喧嘩しだしてな。店の中の雰囲気がすっごいことに…。そのど真ん中にいた俺を彼女が声かけてくれた

 おかげでなんとかなったんだよ。…みほ、お前なら喧嘩中のあの二人に声かけられるか?」

 

想像しただけで青くなっていく、みほたん。

そりゃそうだろ。知っている人間ならまず近づかない。

 

「…母が大変ご迷惑をオカケシマシタ。」

 

「いえいえ。それに西住隊長のお母さん見ましたけど、すっごい美人ですね。服装も大人っぽくって。」

 

「…ちょっと待って。お母さんどんな格好してたの?基本スーツ系しか着ないのに。」

 

「え?…普通にロングスカートで上は『スカート!!??』」

 

あれ。みほが震えだした。

ボソボソ呟いてる。

 

「…スカート履くなんて。あのお母さんが…。お父さんに言っておいたほうがいいかな…。」

 

…なんか恐ろしい事呟いてる。

 

 

「み…みぽりーん。」

 

「え?あ、ごめんなさい。」

 

「メッセージカードもう一枚あったんだけど…。」

 

「…なんだろ。」

 

嫌な予感でもするのか、優花里に箱を渡して自分でカードを受け取った。

 

「…。」

 

みほさん固まってますよ?

どうしました?

 

「…。」

 

あの…

 

「隆史君。」

 

「はい。何でしょう?」

 

バッとカードの内側をこちらに見せてつけて。

 

「これはどういう事!?」

 

隆史さんはそちらにおりますが、あの様子では今の所こちらが一歩勝っていると思います。

練習試合で言いましたが、イギリス人は、恋愛と戦争では手段は選びませんの。

私達、聖グロリアーナも共学になりました。

 

いつでもこちらに転校なさっても構わないと隆史さんにお伝え下さい。

ねぇ。卑怯者さん?

では次の試合も楽しみですわ。

 

 

…うっわーキッツー。バラす気は無いのだろうけど…コレ明らかに俺に当てたメッセージだぁ。

 

「一歩勝っているって所が気になったの。」

 

「ハイ。」

 

「この前の話。まぁお酒が絡んでるし、詳しくは言いたくなさそうだからもう聞かないけど、これだけ答えて?」

 

「・・・ハイ。ナンデゴザイマショウ。」

 

…何でだろう。しほさんを思い出した。

やっぱり母娘だよねぇ…。胃が痛い。

なんだろう。今までに無い震えがががががががが。

 

 

 

「彼女が「紅茶味」ね?」

 

 

 




はい閲覧ありがとうございました。
今回投稿に時間がかかっちゃいました。
物語が進まねぇ・・・

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