転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第13話~私も覚悟決めました!~

みほ達女の子5人が今、俺の部屋にいる。

 

宣言通り、夕飯を作ってやる為だった。

最初、地理的に一番近い、みほの部屋が候補にあがったが俺が断った。

想像してみよう。

ワンルームの女の子の部屋で、女の子5人ひしめく中に俺がいる。

 

無理です。ハードルが高すぎます。

 

次に同じアパートの下の階である、俺の部屋。

沙織さんの「男の子の部屋を見てみたい。」好奇心からの延長線上の発言で決定した。

 

「じゃあ、けってーい。」

 

「いやいやいや、ちょっと待って。」

 

「では、参りましょうか。」

 

「あの・・ちょっ、すみません。待ってください。」

 

「書記。諦めろ。沙織のアレは、もはやどうにもならん。」

 

冷泉さんは、ちょっと渋ったが、結局何も食べないで待っていたようで、空腹には勝てなかったようだ。

ちょっと想像してみよう。

 

ワンルームの自分の部屋で、女の子5人ひしめく中に俺がいる。

更にハードルが上がりました。

しかし俺の拒否権は、既に無かった。

そして現在に至る。

 

「お邪魔します。」

 

「これが男の子部屋か~・・・なんかイメージと違う。」

 

「引っ越してきたばっかりで、まだダンボールに入っているものが多いからね。」

 

「何もないな。」

 

俺の部屋は現在、小さい本棚と机とテーブルとPCとベット。これしか置いてない。

さすがにカーテンと絨毯くらいは用意したが、その他は殆どクローゼットの中だ。

いろいろ忙しくて必要最低限の物しか出せていない。

まだダンボールも転がっている。

 

キョロキョロする女子達を放っておいて、調理の支度に取り掛かる。

食器類は、途中100円均一で人数分買ってきた。

多分問題ないだろう。

 

さて飯を炊くか。

 

「隆史君、何か手伝う?」

 

みほが気を使ってくれる。

・・・紅茶味の正体が、ダージリンと白状したら本当に何も詮索してこなくなった。

 

「そう。」

 

その一言で何も言われないでその話は終了した。

逆に不気味だ。それに正確には、ダージリン「達」なのだけど・・・黙っていよう。

 

「あ・・ありがとう。でも今日は、みほ達お客さんだから座ってな。」

 

クーラーボックスから、魚を3本取り出す。

港町は、探せばいい魚が安く手に入る。1本のまま買えば更に安くなる。

・・・大鯛が一本、アジが二本ある。どうしようか。

鯛は頭を落としてもらって何とか箱に入った。その隙間にアジを入れた。

 

「あぁ、そうだ。みほ。」

 

「なに?」

 

「本棚の上にある物。持っていっていいぞ。」

 

「?」

 

「どうしました?」

 

会話を聞いていた、一番最後に入室した優花里と一緒に本棚へ向かっていく。

あ、包丁出さないと。

 

「わぁーー!ボコだぁ!!」

 

そこには、ボコのプラモデルが飾ってあった。塗装まで全て終わらせてある完成品。

みほのご機嫌と・・・手土産に、昔気まぐれに作ったのをあげる為に持って来てあった。

時間がなく、うまく渡せなかったので、部屋が殺風景なのも有り、取り敢えず飾っておいた。

フルアーマーボコ。なんだこれ?と思って買ったけど、更にケガが重症になったボコなだけだった。

 

「すごいです!このキャラクターは良く知りませんけど完成度の高さはわかります!箱の写真見ると全然違いますよ!」

 

あ、箱出しっぱなしだった。

あら、みぽりん。目がすっごい輝いている。

 

「パテで全体のディテールも調整してある。転校前に作ったのだけどね。トップコート吹き済の完成品です。」

 

「何を言っているのか良くわからないけど・・・本当にいいの?」

 

「持ってけ。みほにやる為に一緒に転校してきたボコです。」

 

喋りながらも準備を進める。

会話をしながら手を動かす。こちらに来て自炊はしていたから調理器具はダンボールから出してあった。

 

「ありがと。ありがとうーーー!!とっても嬉しい!!」

 

「あら、みほさん。なんだかご機嫌になりましたね。」

 

「隆史殿!戦車・・・戦車は作っていませんか!?」

 

「戦車は無いなぁ。作ろうと思ったことは有るけど。」

 

「そうですか。では今度作りましょうよ!」

 

「そうだなぁ。時間があったら作ってみるか。」

 

そうこう話ながら準備が終わった。

さて、やるか。米が炊き上がる前にさばき終わるだろ。

 

「・・・隆史君。」

 

「どうした?」

 

沙織さんがいつの間にか横にいた。

なにか真剣な目をしていますけど?

 

「隆史君!!」

 

「は・・はい?」

 

「私にお魚の綺麗な、さばき方教えて!」

 

びっくりした。何を切羽つまった顔をしているのかと思ったら。

 

「今日は邪魔しないように見てるだけにするけど、手順を教えて!」

 

「いいけど・・・俺も別に完璧じゃないよ?」

 

「私だと上手くできなかったの。ちゃんとした人の見てみたい!」

 

「あぁー。最初はねぇ。身をボロボロにしちゃうよね。」

 

「じゃあ、ちょっと待ってて。」

 

なんだろう。自分のカバンを漁っている。

プラスチックのケースを取り出してゴソゴソしている。なんだ?

 

「これでよし!」

 

振り向いた沙織さんは、メガネをかけていた。

ふむ。下フレームですか。そして赤フレームですな。そうですか。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

「どうしたの?」

 

「・・・沙織さん。目が悪かったのですね。」

 

「え?まぁ、普段コンタクトなんだけどね。・・・変?」

 

「いいえ。素敵ですよ。大変素晴らしいです。ハラショーです。」

 

「そ・・そう?なんで敬語⁉︎」

 

「・・・さばき方ね。じゃ、アジの方が初心者向きだな。」

 

「うん。ん?」

 

いつの間にか、みほがいた。

あれ?ボコと戯れていたんじゃ?

 

「・・・隆史君。沙織さんには手伝ってもらうんだね。」

 

軽く頬を膨らませてる。

 

「さばき方教えるだけですけど・・・。」

 

なにを拗ねていらっしゃるのかわかりませんが。

 

「そ・・そうだよ、みぽりん!見学するだけ!」

 

「じゃあ、私も見ていて良い?」

 

「「どうぞどうぞ。」」

 

結局、みほもサバさばき方講座に参加した。

みほも沙織さんも、普段料理しているのが分かるくらい包丁の扱いに慣れていた。

よってそんなに苦労しないで二人共、覚えてしまった。

 

 

 

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「ご馳走様。大変素晴らしかったです。」

 

「お・・お粗末様でした。」

 

結局、丼物と刺身にしたのだけれど、すげぇ華さん全部食っちゃったよ・・・。

軽く3人前くらい食べたんじゃなかろうか?

 

「うまかった。鯛なんて久しぶりに食べた。・・・なんか悔しい。」

 

「はー。野営してると生のお魚ってそんなに食べれませんからねぇ。」

 

「・・・なんだろう。女子力の差を見せつけられた感じ。」

 

「隆史君。私もなにかショックだよ・・・。」

 

沙織さんとみほが項垂れている。

女子力って・・・。

 

本日のメニューは大鯛を使って鯛丼。

 

「一本買うと大鯛って安いんだ。大味でおいしく無いってね。焼いちゃうとあんまり味自体変わりないんだけどねぇ。勿体無いよな。」

 

刺身で乗せると、少々固くて食べ辛いので貰った食品用バーナーで軽く炙って風味を出し、タレかけて完成。

最後、少し残してもらって出汁で御茶漬にして締めにしてもらった。

完全に賄い料理になってしまいました。

 

「隆史さん。」

 

「はい?」

 

「なんだか、気を使ってもらいすみませんでした。ありがとうございました。」

 

「いえいえ。」

 

「・・・今日の事、私の様子がおかしかった事、詳しく聞かれないのですね?」

 

「まぁ、何かあったと思ってるけど・・華さんの中でちゃんと消化できていそうだし、敢えて聞かない。」

 

「そうですか。・・・ありがとうございます。」

 

やはり結構な事があったのだろう。沙織さん達も何か言いたそうだった。

だが、華さん本人が言わないのならば周りは何も言えまい。

こういう事は、本人より同行した周りの人間を見たほうが、わかりやすいし察しがつく。。

興味本位で詮索することでは無いだろう。結構重い事があったぽいし。

 

それと関係があるのか分からないが、みほの様子が食事を終えたあたりから少しおかしい。

 

「・・・。」

 

どうしたのだろうか。

食後に出したお茶を見つめている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチャカチャと音を立てる食器。

六人分あるから洗うのが少し大変。

 

隆史君は、さすがに夜の九時を回ったので彼女達を送っていった。

彼の車は二人乗りの為、徒歩で一緒に帰り道をついて行った。

 

食器を洗う為に私は、部屋で待っていると送り出した。

彼は後でやるからいいよと言ってくれたのだけど・・・ここに残る為の口実だった。

少し一人で、考えをまとめておきたかった。

 

例の「紅茶味」の正体と今日の彼。

正直、打ちのめされた。

 

私は、ただ昔みたいに彼に甘えていただけだった。

私は何も成長していない。

逃げ出した時のまま。

 

それに引き換え隆史君は、明らかに変わっていた。

成長していた。

 

「私だけ何も変わってない・・・。」

 

転校しちゃった時、ひどく落ち込んだ。・・・私もお姉ちゃんも。

お姉ちゃんは、表情にはあまり出ていなかったけど私にはわかる。

 

でも彼は、その後も電話やメールで連絡を取り合ったり、長期休みにも来てくれたりした。

おかげで何とか私達は持ち直した。

 

・・・私たちの関係は続いているのだと、がんばれた。

 

始め隆史君は、お姉ちゃんの事が好きなのかと思っていた。

それでも負けたくないと、お姉ちゃんには内緒に連絡も取っていたりしていた。

でもまぁ、それはお姉ちゃんも一緒だろう。

多分私に内緒で彼に連絡を入れていたと思う。

 

寂しかったけど、戦車道もがんばれた。黒峰森に入っても副隊長にまでなる事ができた。

・・・彼は驚いてくれるだろうか?そんな事思っていたのに。

 

私は全てから逃げ出した。母、お姉ちゃん、戦車道からも。

 

・・・彼からも逃げてしまった。

 

全て投げ出して逃げ出したてしまった。

 

そこからは、灰色だった。

景色の色もわからないくらい。

見えるもの全てがモノクロに見えた。

 

そんな時・・彼は追いかけてきてくれた。

 

私の為に転校して来てくれたと言っていた。

嬉しかった。・・泣いちゃうほど嬉しかった。

どれほど救われたか。

友達ができた。彼が来た。あんなに嫌だった戦車に、もう一度乗れた。

 

戻った。

景色に色が戻った。

これから、沙織さん達と隆史君と頑張っていこうと決心が出来ていた。

 

 

が。

 

 

でも今日、分かった。気づいてしまった。

彼の人生を私が変えてしまったと。

 

料理作る所を見て思った。

 

みんなとの会話を聞いて思った。

 

ダージリンさん達を見て・・思い知った。

 

転校先、青森で二年。

人付き合いもあっただろうし、ここまで料理が作れるようになっているのなら将来は料理人になりたかったのかもしれない。

考えたくないけど、好きな人だっていたのかもしれない。

家族は?友達は?

 

生活を変えてさせてしまった。私の為にそれらを全部捨てさせてしまったのでは?

 

特にダージリンさん達を見て思い知ったのがそこだ。

あの人とは、そういった関係では無いのかもしれないけど、明らかにダージリンさんは彼に好意を持っている。

何があったか分からないけど、あのオペ子と呼ばれていた子もそうだろうな・・・。

 

 

・・・彼にここまでやってもらって。

今までの生活すら捨てさせて助けてもらったのに。

 

私は何もできていない。まだお礼すら言えていない。

 

生徒会の歓迎会から帰ってきた酷く酔っていたけど、彼が言ってくれた。

 

「がんばったな」と。

 

何が?

 

何を?

 

あの時は嬉しかった。でも違う。私は何もしていない。

 

だけど、今日の華さんを見て決心がついた。

 

自分の母親にあそこまで言われても自分を曲げなかった華さん。

彼女も何も思わない訳が無い。

「これは新しい門出。私も頑張るわ。」と言っていた。

 

・・・私もがんばる。

もう甘えない。

 

「変わらなきゃ。」

 

お姉ちゃん達の抱っこされた写真を見て、変に焼きモチを焼いて怒ったりしたけど、そんな権利なんて私には無かった。

もう怒るのはやめよう。・・・できるだけね。・・・ウン。デキルダケ。

 

もう後悔はやめる。

彼がここにいる。

今日帰ってきたらお礼を言おう。

 

助けてくれた彼に答えよう。

戦車にも沙織さん達と一緒に、また乗れるよう導いてくれた。

私がまた戦車道を続けられている。

 

そしてまた、戦車道の大会にもう一度参加する。

 

これしか無い。

改めて、もう一度私を見てもらおう。

「がんばったな。」も一度ちゃんと言ってもらえるくらいに!

ここまでしてくれた彼に対する責任を取ろう。

 

・・・それに。

会長は良くわからないけど、ダージリンさんは、まず間違いないだろう。

 

・・・お姉ちゃん。

 

私が馬鹿だった。

ライバルはお姉ちゃんだけかと思ってた。

 

「負けない。・・・絶対に負けたくない。」

 

 

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彼が部屋を出て一時間半くらい経った。

何かあったのかな?ちょっと心配になってきた。

 

彼の部屋は掃除は行き届いていて、お掃除をしてあげようかな?という気も無くすぐらい完璧に。

正直もらったボコと遊んでいる事くらいしかなかった。

心配は心配だけど、早く帰ってきてくれないと決心が鈍る。

 

ちゃんとお礼を言おう。

そこから初めようと決心した。

 

そういえば、沙織さんが帰り際にボソっと言っていたっけ?なんだっけ。

 

「みぽりん!ベットの下とか調べちゃダメだからね。見て見ぬ振りをするのもいい女になる条件だよ!」

 

・・・なんでだろ。

なんでベットの下限定なんだろ?

やる事も無いので取り敢えず、四つん這いになって頭を下げて覗いて見た。

 

暗い。

 

・・・ん?

 

目を細めて見てみると奥に本が2,3冊ある。

 

なんでこんな所に・・・。

 

・・・。

 

・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・アァ。

 

 

くっ手が届かない。

パイプベットだから頭がギリギリ入るくらいの隙間だった。

もう少し肩を入れて見よう。

 

肩がベットに当たり、ゴツンとベットが壁にぶつかる。

くそう。届かない。

 

・・・彼の傾向が知りたい。

怒る気は無いよ?怒る気は。ナイナイまったくナイヨ?

 

ただ、こういうのには女性への趣味趣向が出ると聞いたことがある。

・・・主に沙織さんだけど。

 

よし!少し指が触れた。

後、もう少し!

 

キー・・・バタン

 

「・・・ただいま。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ドウシヨウ。

 

帰ってきた自分の部屋。

ドアを開けてみたら。

 

「・・・何してんの?」

 

幼馴染の女の子が、自分の部屋でお尻をこっちに向けて俗に言う女豹のポーズを取っていた。

ベットに肩から腕を入れているものだから、腰だけ上げている状態だった。

すっごい光景だった。

 

取り敢えず、後ろを振り向いておこう。うん。

 

「た・・隆史君!?」

 

見なくともわかる。多分あわあわしてるだろう。

ゴツンとか痛っ!っとか聞こえますね。

 

そっかー。うん。マコニャンに続いて今日2回目だなぁ。なんかいい事したっけ?俺。

 

「・・・もういいよ。」

 

お許しが出たので、振り向いた。

真っ赤になって正座してますね。あらスカート握り締めちゃって。

 

「・・・見たよね?」

 

上目遣いで睨んでくる。ゴメン。それただ可愛いだけ。コワクナイ。

 

「どう答えてほしいのでしょうか?」

 

「・・・正直に。」

 

ここで馬鹿正直に答えても、まぁ怒られるだろうなぁ。でも今回俺悪くない。

 

「みほちゃん。」

 

「ここで昔の呼び方はびっくりしたよ・・・。」

 

「大人になったね!」

 

枕が飛んできた。

 

 

 

 

 

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「隆史君。」

 

「はい。」

 

「・・・ちょっとお話があります。」

 

結局、あまりお咎めが無かった。

何をしていたかは教えてもらえなかったが、ベットの下を漁っていたので何となく察しはつく。

後ろめたいのかあまり怒られなかった。

 

だけど、急に真剣な顔になって切り出された。

もう真っ赤になっていなかった。

 

先程まで食事をしていたテーブルで、向かいになって座る。

 

「私。隆史君にしっかりお礼を言えてなかった。」

 

「お礼?」

 

「隆史君が私を心配して。・・・青森から転校してく来てくれたこと。助けてくれた事。」

 

「・・・。」

 

「ありがとう。本当に嬉しかった。・・・あの日。ちょっと夜に泣いちゃたんだ。」

 

「・・・。」

 

「ずっと。ずっと言おうと思ってたの。なかなか言えなくて。今日言おうと決めてたの。」

 

「うん。」

 

「・・・。」

 

黙ってしまった。

 

沈黙が続く。

目覚まし時計の針の音しか聞こえない。

 

何を言おうか決めかねているのか。言えないでいるのか。

スゥっと息を吸い込む音が聞こえた。

 

「隆史君。」

 

「なに?」

 

「後。謝ろうとも思ったの。ごめんなさい。」

 

「なんで?」

 

「私。隆史君の生活をメチャクチャにしちゃったよね?壊しちゃったよね?」

 

「・・・なにが?」

 

「私なんかの為に。今までの事全て・・・。」

 

段々と顔が下に向く。これか。今日様子がおかしかったのは。

ダージリン達とのやり取りを見て、みほの知らない俺がはっきり形になって見えてしまったからか。

・・・まぁ。俺が好きにやった事。気にするなと言うのは簡単だけど。

月並み過ぎる。心が無い。

 

「ふむ。・・・みほちゃん。」

 

「・・・なに?」

 

「色々考えて、お礼も謝罪もしてくれたと思うんだ。」

 

「・・・うん。」

 

「だから僕も、ちゃんと答えようと思う。」

 

昔の一人称と呼び方に戻っている。

 

 

 

 

 

「僕はね、みほちゃんが好きなんだ。」

 

 

 

 

 

「ふぇ!!??」

 

 

 

 

 

 

あら。意外な答えだったのか、顔が先程とは濃さが違う赤に染まる。

 

「だから助ける。それだけ。」

 

ちゃんと言っておこう。理由は言えない。恩人だと。

俺を救ってくれた恩返しだと。だから別の感情を素直に言おう。

 

ウソ・・ダッテワタシアレカラナニモ・・・オネエチャンハ?アレ?ソレデモワタシ?

 

あれ?こっち見てください。

 

「まほちゃんだってそうだ。好きだから助けたんだ。」

 

「・・・・・・・・・・え?」

 

「え?」

 

「・・・。」

 

「・・・ハ?」

 

「あれ?」

 

あ。そういえば、まほちゃんの事言ってなかった。

 

「あー。今回みほが転校したに事で、一番まいっていたのが、まほちゃんなんだよ。」

 

「え?・・・うそ。あのお姉ちゃんが?」

 

「しほさんに喧嘩を売りに行った時ね。結構危ない状況だと思ったんだよ。だからすぐ動いたんだ。」

 

「・・・。」

 

「・・・なぁみほちゃん。まほちゃん結構なシスコンだぞ?」

 

「隆史君・・・ちょと言い方考えてよ。」

 

少しは笑ってくれた。

 

「まだ蟠りは有るだろうけど、彼女も彼女でみほの事は心配してたんだ。」

 

「うん・・。それは素直に嬉しい。嬉しいけど多分、隆史君は勘違いしてるよね?」

 

「何を?」

 

「・・・まったく。隆史君にとって、私やお姉ちゃんに対する「好き」は一緒なんだね・・・。」

 

・・・ご不満顔。

 

「隆史君。」

 

「な・・何でしょう?」

 

「ダージリ・・やっぱいいや。」

 

「?」

 

「隆史君。教えて。転校先・・・青森での事。メールや電話とかで聞いていたことも。隆史君の口から。」

 

「いや。それはいいんだけど、そろそろ10時回るよ?明日でもい『ダメ。』」

 

 

「うん。徹夜してもいい。今教えて。多分それを聞かないと始められないから・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチャッカチャッカチャッ

 

朝日が目に入る。眩しくて目が覚める。

 

カーテン閉め忘れていたっけ?

 

今何時だろ?

いつもの様に机に置いた目覚ましを確認する。

 

・・・あれ?無い。イルカ型の時計。

 

「ん。」

 

体を起こして、周りを見渡す。

 

・・・。

 

あれ? 私。制服のままだ。

 

あれ? 布団の色が違う。

 

・・・。

 

あれ?

 

あれあれ?

 

・・・・・・・・・・・ここ隆史君の部屋だ。

 

慌ててベットから飛び起きる。

何?え?どうなってるの?

 

カチャカチャカチャ

 

あ・・・そうだ。昨日隆史君の昔の話を聞いていて途中で寝ちゃったんだ。

・・・隆史君にベットに運ばれたって事?寝顔見られた!?

 

わー。顔が熱くなる。

 

いけない。冷静になろう。まず昨日の事。

 

どこまで聞いたっけ?

昨日の話が、歯抜けで思い出される。

そうだ。一番びっくりした事があったなぁ。あのブラウダ高校とも付き合いがあったなんて。

黒森峰として戦った、戦車道大会決勝戦との相手。

 

記憶が鮮明になっていく。

 

「・・・。」

 

多分隆史君。おバカだから気づいていないと思う。

 

「あぁ・・・もう。ライバル多いなぁ・・・。」

 

頭を抱える。人数が想定の倍になった。

 

そういえば、隆史君がいない。

今何時だろ。

・・・朝の6時。

こんな時間に部屋にいないはちょっと変だよ。

 

玄関先を見たら靴が無い。

まさか、外で寝てるわけじゃないよね?

 

カチャッカチャッ

 

さっきから外よりカチャカチャ音が聞こえる。

なんだろ。やっぱり外かな?

寝癖と制服がシワになっていないか確認して、玄関ドアを開ける。

 

・・・。

 

ガッチャンガッチャン音を出して、ダンベルだっけ?

筋トレしている隆史君がいた。

キラキラしてる。うわぁ・・すっごい笑顔だ。

 

「隆史君?」

 

「おぉ。みほ。おはよう!」

 

「おはよう。何してるの?」

 

ふぅー、と息を吐きながらガチャンと、手に持っていたダンベルを下ろす。

 

「いやぁ、ここの所忙しかっただろ?まともに日課だった筋トレもできなかかったからね!」

 

「・・・なんで、そんなに笑顔なの?」

 

「やっぱりちょっとなまっていたみたいでねぇ、筋肉を酷使している感じが懐かしくて嬉しくなってきた!!」

 

ハッハッハと笑っている。ゴメン。チョットワカラナイ。

 

「今日はここまでにするか。」

 

玄関先に使っていたダンベルを置いて片付けを始める。

手伝おうと思って片方持ったら・・・上がらない。

真っ赤になりながらウンウン唸っていると。

 

「慣れてないと危ないぞ?片方で15キロはあるから。」

 

「15キロ!?」

 

Ⅳ号の砲弾より重いんだけど・・・片手じゃ上がらないはずだよ・・。

 

昨日、話の途中で寝てしまった私をそのまま自分のベットに運んだみたいだった。

さすがに私の荷物からカギを取り出し、部屋まで運ぶなんて、できなかったと言われた。

そうだよね。そんな事されたら、私もさすがに怒るだろうし納得するしかなかった。

良かった、ちゃんと常識があって。

彼は、結局自分の部屋で寝ることも悪いと思ったのか自身の軽トラックの中で一晩を明かしたそうだ。

 

「ご・・ごめんなさい。」

 

「あーいいよ。結構慣れてるし。」

 

・・・慣れてるって。この人本当に青森でどういう生活を送っていたんだろう。

まだ全部聞いていない。次の機会もに詳しくちゃんと聞こう。

 

片付けが終わり、部屋に戻る。食器棚からジョッキを取り出した。

台所に置くと冷蔵庫を開けた。

 

「ジョッキなんて何に使うの?」

 

「筋トレしたあとの仕上げ。」

 

冷蔵庫から卵を取り出してジョッキに三個割っていれる。そのまま牛乳を入れて・・・まさか。

 

そのまま飲み干した。

 

 

うわぁ・・・・・・。

 

えー・・・。

 

 

「はー。プロテイン切らしてて代用だけどねぇ。」

 

 

えー・・・普通に飲み干したよね今。

 

うわぁ・・・って感想しかないや。

 

 

 

どうしよう。コレが私の好きな人かぁ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・西住殿。」

 

「みぽりん。」

 

「どうしましょうねぇ。」

 

「わ・・私に聞かれても・・・。私も怖いし・・。」

 

「・・・眠い。」

 

朝の集合時間。

これから俺たちは戦車道全国大会 開会式兼トーナメント抽選会場に向かう。

新幹線で向かうという話だったけど、生徒会達含めると結構な人数の為、旅費が勿体無い。

唯一運転免許を持っていて、公道を運転できる俺がレンタカーを借りて送っていくという話になっていた。

 

下船し、待ち合わせ場所に早めに車を用意し待っていたのだけど、みほ達が一定の距離を開けて近づいてこない。

何してるんだろ。会長達待ってるのかな?

でもここで待ってりゃいいと思うのだけど・・・。声かけたほうがいいかな。

あ。会長達も来た。

 

「おはよー。ありゃ西住ちゃん達何してんの?」

 

「あ、会長。あの・・・待ち合わせ場所に怖い人がいるんですけど・・・。」

 

「どう見ても堅気の方じゃ無いように見えるのですけど。」

 

「どうしましょう。隆史殿もまだ来ていないようですしぃ。」

 

「・・・ちょっと。」

 

何か会話をしている様だけど聞こえない。

もういいや。行ってみよう。

 

「ちょっとちょっと!みぽりん!近づいて来るよ!?」

 

あれ。何を慌てているんだろ。

あわあわしてる。なぜ会長笑ってる。

彼女達の目の前についた。なぜ怯えている。

 

「おはよう。」

 

「あ、あのー私達に何かご用ですか?」

 

みほさん、他人行儀すぎやしませんか?挨拶の返しがソレでは、普通に傷つくぞ。

普通に怯えられていた。

 

「何言ってんだみほ?みんなもおはよう。会長達もおはようございます。」

 

「え?・・・え?」

 

「桃センパイ。いつまで固まってるんですか。柚子先輩おはようございます。」

 

「おはよー隆史ちゃん。」「おはよう隆史君。」

 

「「「「 隆史君!? 」」」」

 

何を驚いて・・・あぁ。そうか忘れてた。

 

「いやぁー。隆史ちゃーん変われば変わるものだねぇ。」

 

「そうですか?わりとすぐ、わかりましたよ?」

 

そうだった。出発前日、会場で知り合いが結構来るだろうと思って正直あまり鉢合わせをしたくない俺は、会長に変装道具を用意してもらった。

スーツとサングラスとつけ髭。

この会長の事だから、絶対何かしら持ってると思って聞いてみたら、やはり持っていた。すぐに用意してくれた。

なんで俺が着れるサイズのスーツを用意できたのだろうか。ちょっと引いた。

髪は珍しく整髪剤使って整えた。短めのオールバック。

 

カチューシャとノンナさんとの接触は特に気をつけなければ・・・。

連絡は取っていた。でも転校先は、まだ知らせていない。

会うのは全然いいのだけれど、せっかくだ。

多分今回の大会でバレるだろう。もし対戦相手になったとして、試合会場で会ったらビックリするかなぁ・・程度の悪巧みで。

だから開会式会場で会うのを避けようと思った。

 

みほ達と鉢合わせになるのが怖いわけでは無い。決して無い。

みほさんが最近プラウダ高校ではなくて、カチューシャとノンナさんの事を執拗に聞いてくるからとか、嫌な予感がするとかでは無いですよ?

 

「ごめんね隆史君。普通にわからなかった・・・。」

 

「随分とまぁ・・・。」

 

「隆史ちゃんにはねぇ・・引率のガラの悪い先生役をしてもらおうと思ってねぇ。・・・面白いし。」

 

「ガラの悪いって・・・。」

 

「こうすれば、ヘンな虫もよって来ないっしょ?」

 

あぁ・・なるほど。と妙に納得しているみほ。

 

「みぽりん?」

 

「うん。やっぱり戦車道の大会だから女の子ばっかり集まるの。だから周辺施設とか利用する時に色々注意するようにって、前の学校で言われた事があったの。」

 

「そっかーモテ過ぎるのも危ないのかなぁ。」

 

虫よけね。それで結構簡単に貸してくれたのか。・・・楽しんでる部分が大半にしか見えな方けど。

 

「お・・おい。尾形書記。」

 

「なんでしょう?桃センパイ。」

 

まだ若干ビビってるなぁ。

 

「本当にお前の運転で大丈夫なんだろうな?」「桃ちゃん!!」

 

疑っているのか、まぁ同級生の運転じゃ怖いと思っても仕方がないよね。

・・・まぁ昔は営業車乗り回してたけど。

 

「大丈夫ですよ。長距離慣れてますし。免許取った時も、青森港から北海道に行きましてね。

 そこから練習がてら北海道横断とかしてみたりしたんですよ。金使いたくなかったから殆どキャンプで回りましたけどね。

 色々あって2週間、運転しっぱなしでした。」

 

「隆史君・・・本当に何やってたの?」

 

「みほ。高一の夏休みに俺と連絡つかなかった時あったろ?」

 

「うん。ちょっと心配しちゃった。」

 

「あの時だよ。ぶっちゃけ遭難した。」

 

「「「「 遭難!?」」」」

 

「お陰で野営にも慣れた・・。慣れざるを得なかった。」

 

「隆史殿!隆史殿!」

 

あら、意外。優花里が食いついた。

 

「隆史殿!野営の経験があるのですか!?できるのですね!?」

 

「あー・・うん。野営というか野宿というか・・・多分引くから言わないけど、サバイバル知識は多少あります。生き延びました。」

 

「じゃあじゃあ!今度教えてください!一緒に野営しましょうよ!」

 

「いいよ。そのうち落ち着いたらやろうか。・・・・・野兎のさばき方とか教えてやろう。」

 

「うさぎ!?」

 

「そういう訳で大丈夫ですよ。桃センパイ。」

 

「う・・うむ。」

 

「ハイハイー。そろそろ出かけないと間に合わないよー!」

 

会長の催促でいよいよ出発となった。

 

距離的に考えて、2時間程かな。

 

俺にはサポートしかできない。

 

ならば出来うる限りはしよう。

 

会場はさいたまスーパーアリーナ

 

 

そこで、いよいよ俺達の戦車道全国大会が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思ったのに。

 

出鼻をくじかれた。

 

・・・俺だけ会場に入れなかった。

 

組み合わせの抽選は終わったのだろうか?

対戦相手が気になる。

 

何故入れなかったか。

入場前に、俺だけいきなり拉致られたからだ。

 

今俺は会場の外にいる。

 

会場の外の屋台。

 

屋台前の席で、鉄板ナポリタン食いながらカンテレ女に絡まれている。

 

「うん。これまでの経緯は納得しよう。ペパロニに頼まれちゃ仕方ない。」

 

「タカシありがとねぇ。助かったよー。」

 

「で?あんたは、なんで俺のナポリタンを食ってるんだよ。」

 

変装はまだ解いていない。なのに、この二人にはすぐにバレた。

 

「風が教えてくれたのさ。懐かしい顔に会えるってね。」

 

「・・・それは俺の飯を食っている理由にはならないと思うのですが?」

 

ちょっと顔を離したら、いつの間にか用意した席の俺の鉄板ナポリタンが半分無くなっていた。

 

「タカシ。その人って継続高校の隊長さんだよね?知り合いだったの?」

 

「・・・昔ね。」

 

カンテレを弾く音が聞こえる。

食べながらは、やめろと昔言ったのになぁ・・・。

 

 

 

「おや、つれないじゃないか。・・・北海道で半月も寝食を共にしたっていうのに。」

 

 




はい。閲覧ありがとうございました。
みぽりんには、決起してもらいました。
オリ主が段々主夫化していく気がして仕方ありません。

やっとこさ戦車道大会が開催になります。
次回サンダース付近までは書けたらいいなと思います。

※ド〇ーム・〇ンク・マッチが面白くて更新が遅くなりました、すみません。

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