『パンツァーフォー!』
無線を通し、みほの声が聞こえる。
客席向かいの大画面。試合のライブ映像が流れている。
男である俺は、選手として出場が出来ない為、大会本部、大画面の両脇に設置された集会用テントにいる。
よく学校とかでの運動会とかに使われる、白いテント。それが、各チームに用意されていた。
テントの中には、いくつかパイプ椅子と長机も用意されていたが、ポツーンと俺一人しかいない。
大洗学園の出場選手以外は、俺しかいないから仕方がないとは言え、ちょっと寂しい。
長机の上には無線機が設置されてる。
出場選手が怪我など緊急事態が発生した場合、無線で即座に連絡が取れ、大会運営本部に救護班等を手配できる様にする為だそうだ。
その為、聞く事はできるが、こちらからの発信は禁止されている。
相手のテントに、こっそり近づいて無線を盗み聞きし、無線を通して情報を流す・・・などの不正防止の為だそうだ。
まぁ、近づくだけで、スパイ行動と取られペナルティを課せられるけどね。
よって無線を聞いて応援する事くらいしか、今の俺にはやる事が無い。
向かい側にはサンダースのテントが設置されている。
おー。睨まれてる睨まれてる。
どうもぶん殴られたのを試合前の映像として、この大画面で流されていたようだ。
よくプロ野球とかで、観客席を映しているのと一緒のようなものかな。
遠距離からの撮影の為、本当に分かる人にしか分からないけどねと、スタッフに言われた。
・・・それで先程、事情聴取に来たのか。
「タカシ」が、やはりサンダースで有名人の様で、ケイさんだっけか。
あの隊長さんに俺がぶん殴られた事で、サンダースに「俺」が「タカシ」だという誤認情報が一気に広まったと考えたほうがよさそう。
相手からの視線を受けて思う。
やっぱりな。・・・ただの悪意は大丈夫だ。
手でも振ってやろうかな。
「おっす。」
「・・・よう。」
「座っていいか?」
来客だ。
中村がビニール袋を片手に持ってやってきた。
そうこいつだ。俺と同じ名前が「タカシ」だ。
「ガラガラだから好きな席にどうぞ。ただ、一回テントの中に入ると、試合終了まで出られないぞ?」
不正防止の為、関係者以外はそういう取り決めになっていた。
「いいよ。試合を見るには、特等席だしな。ほれ。」
ビニール袋から胃薬とペットボトルの水を渡された。
「お前さっき、腹ずっと抑えていただろ?売店で売ってたから買ってた。飲んどけ。まだ顔色悪いぞ?」
「おー・・ありがとさん。でもよく胃が痛いって分かったな。」
「俺もよく胃が痛くなるからな。そんな顔してたから何となく分かった。」
・・・こいつとの付き合いは、まだそんなに長くはない。が、悪い奴では無いのは分かる。。
戦車道が趣味で、人当たりもよく、結構なイケメン君。
そして基本裏表が無い。珍しいタイプの男だと思ってた。
顔が良いと、中身も良いのかね。
「中村 孝」
数少ない男友達。
本当にこいつが、サンダースの言っていた「タカシ」か?
クラスまで問われてから、ぶん殴られたからなぁ。俺以外の対象は、こいつだけだ。
早速もらった胃薬を飲ませてもらおうか。
「なぁ、中村。」
「んあ?」
「お前も転校してきたの?」
「そうだよ。というか、大洗の男子は5割は転校生だぞ?」
「知ってるよ。でも細かく聞かないだろ普通。」
「まぁそうだな。」
目は大画面に、耳には押さえた片耳ヘッドホン。
ワザと軽口を吐くように会話をする。
そう、軽口だ。世間話だ。
「なぁ中村。お前、サンダースのアリサさんって人知ってるか?」
「アリサ?あぁ、知ってるよ。幼馴染だよ。」
・・・やっぱり。
「たまーに、メールが来るくらいだけどな。」
メールねぇ・・・。
「・・・お前、彼女になんかしたか?」
「は?何でお前にそんな事、言われなきゃならんのよ。」
訝しげな目で見てくる。
「・・・。」
さてどうする。
単刀直入に聞いてもいいけど、中村が本当に酷い事をアリサさんとやらに、していたら真実を話てくれるか?
聞き方を考えていたら、中村は話し出した。
「まぁいいや。幼馴染だけど?寧ろ何でアリサを尾形が、知ってんの?あぁー・・試合前にでも会ったか?元気だった?」
おや?
「そうだな。元気デシタヨ?」
多分。俺は彼女の顔は知らない。
あっさり話してくれたのと、雰囲気かなぁ・・・。結論が出た。
・・・違う。
違うな。
多分こいつ何にもしてない。
ひどい目に合わせた女に対する反応じゃない。
余程、良心が痛まなかったら別だがね。そういった奴の目をしてない。
まだ確信は持てないけど・・・。
「なぁ。話を少し戻すけど、中村は何で大洗に転校してきたんだ?」
「さっきからなんだよ。・・・知っているとは思うけど俺、戦車道が趣味みたいなもんだろ?」
「そうだな。それが?」
「前の学校の事なんだけどな・・・。」
少し嫌そうに。
「女がな・・・。寄ってくるんだよ。」
・・・は?
「戦車道の練習とか、戦車を見に行くと寄ってくるんだよ。やれ誰に会いに来たの?だの、一緒にどう?だの・・・。」
・・・。
「俺は純粋に戦車道が好きなんだ。戦車が好きなんだよ!戦車を見たいんだよ!!女に声かけられるの嫌だったから、練習を見に行かなくなったんだ。そしたら・・・今度は教室に誘いに来るんだよ・・・。」
・・・・・。
「大洗学園には戦車道が無いからな、気が楽だった。それに学園艦だから、いろんな所行くだろ?」
・・・・・・・。
「いろんな戦車道チームも見れるかも知れないしな。戦車道が無い学園艦ならどこでも良かったんだよ。それが理由。」
・・・・・・・・・。
「で?何でそんな事聞いてくるんだよ。」
「お前に間違われてサンダースの隊長にグーで、ぶん殴られた。」
「は?」
もう知るかボケ。
「アリサさんとやらに、酷い事をしたと咎められてな。普通Ⅱ科2年C組の「タカシ」と確認を取られた上で、ぶん殴られた。」
「」
「一回目は平手。2回目がグー。」
「・・・。」
「え?何?俺、モテてる奴に相手にされなかった、女の逆恨みで殴られたの?はっ!!いろいろ気を使った結果がこれかよ!!」
やってらんねー。
「ちょっと待て!何の話だよ!」
話の順番ぶっ飛ばして、本題をぶっこんでやる。
いい年した大人の考えじゃない?知るかボケ。知ったことか!男の尊厳の問題だ!!
こいつは、アリサさんとやらに何もしていない。
確信が取れた。断言できる。
よって、思いを寄せて相手にされないから妄言でも吐いたのかね?そのアリサさんとやらは!!
「しかも何だよ、その転校の理由!いいねぇ美男子は!イケメン仮面は!!俺なんぞどこいっても熊扱いだぞ!?熊!!」
「・・・転校した理由言うと、お前みたいに、キレるから言いたくなかったんだよ!」
アタリマエダロウガ。
こいつ一体、そんな状態でアリサさんに、どういう接し方して来たんだよ。
「・・・さっきアリサさんから、メールが来るって言ってたよな?」
「お・・・おぉ。」
「俺に見せれる内容か?」
「多分・・・。」
「プライバシー侵害になるけど、敢えて言うぞ。見せてくれ。」
「・・・いいけど。」
いいのかよ!
内容によるが、中村の返信内容で分かる。
「人に見せれる内容でいい。見せたまへ。」
渡された携帯のメール欄を見ていく。
・・・。
・・・おい。
結構な頻度できてるぞ。
週一は来てるな。
あー・・・これは、あんまり送るとストーカー扱いされそうで怖いから、定期的に送るって手段だ。
「・・・俺の代わりに、殴られたのは悪かったけどさぁ。あ、そこの一覧は見ても大丈夫。」
横から指示をくれる。指に合わせて見ていくけど・・・。
・・・。
こいつの返信を見てみる。
・・・。
・・・はぁ。
アリサさんとやらも、自身の好意を他人から・・・しかもまったく知らない奴から、言われたくないだろ。
気がついたけど黙っていよう。
「なぁ・・・中村。」
「な・・なんだよ。」
男の俺から見ても、こいつにLOVE100%じゃないかよ。遠回しに半分告白してる様な文もあるぞ?
しかもこれを見てもいいって・・・中村よぉ。
さすがにアリサさんが気の毒になってきた。
携帯を返しながら言ってやる。
「お前・・・あんまり鈍感が過ぎると、いつか身を滅ぼすぞ。」
「・・・。」
大筋は、分かった。
後は誤解を解くだけだな。
・・・試合後にでも会いに行くか。
「なぁ、尾形。」
「なんだよ。」
「・・・今さ。天の声が聞こえたんだ。神様だよ、神様。」
「何言ってんだ。幻聴聞こえるようになったら・・・」
手を顔の前に出し、俺の発言が遮られた。
「いいか尾形。・・・お前が言うな。」
は?
何言ってんだこいつは。
無線を聞きながら、目で画面を追っていたら違和感があった。
会話をしながらだけども、それでも分かる、はっきりとした違和感。
まずは、サンダースの車輌のマークにバツがついた。
それはいい。それはいいんだけど・・・。
「あれ?」
「おぉー!大洗一輛、撃破したな!」
試合が動いたので、先程までの会話とは変わり、はしゃぎ出す中村。
「・・・。」
「どうした?」
「ちょっと黙っていてくれ。」
雑音がある為、無線のヘッドホンに集中する。
みほの声が聞こえる。
『全車、128高地に集合して下さい。ファイアフライがいる限り、こちらに勝ち目はありません。』
みほが、こういった弱音みたいなのを吐くのは珍しい・・・。
だけど違う。コレじゃないな。
『危険ではありますが、128高地に陣取って、上からファイアフライを一気に叩きます!』
これもまた珍しい。
みほ らしからぬ・・・あれ。
・・・は!?
・・・・・。
「どうした?驚いた顔して。」
無線を聞き、画面を凝視する俺を見て中村が聞いてくる。
驚きもする。
「マジかよ・・・。」
「なんだよ。どうしたんだよ!」
画面では、各車両の位置と動きが映し出されていた。
「・・・全車輌、命令無視だ。」
◆
撃った砲弾が、相手の間を虚しく通り過ぎていく。
だいぶ後方の地面に着弾し、土煙が上がる。
「なによー!その戦車!小さすぎて的にもならないじゃない!当たればイチコロなのに!!」
まずい。
まずい、まずい、まずい!
無線傍受がバレた。
隊長にバレた!
自分で報告しておいてなんだけど、素直に答えてしまった!
私達がこんな所で・・・一回戦で敗退するなんてありえない!
黒森峰とかならまだしも、あんな廃校寸前の各下の相手に!!
何であんなのに、追い回されなきゃなんないのよ!
「修正!右3度!!」
何をモタモタと!
「装填!急いで!!」
気持ちばかり焦ってしまう。
「まったく何なの、あの子達!?力も無いくせにこんな所出てきて!どうせすぐ廃校になるくせに!!さっさと潰れちゃえばいいのよぉ!!」
装填遅い!何やってんの!?
装填手と目が合う。
「・・・今あんた、私を見てため息ついたわね。」
「つ・・ついてません!」
くっ。
ハッチを開けて上半身のみを車外にだす。
何で?何で私がこんな目に!?
「さっさと、潰れちゃいなさいよ!もーーーー!!」
「副隊長。叫んでも聞こえないと思います!」
「うっさいわね!分かってるわよ!!」
叫んでも、車内に戻っても落ち着かない。
どうしたらいいの!?え?何!?負ける!?私達が!?
私のせいで!?
・・・。
もうダメだ。頭が真っ白になりそうだ。
・・・。
「タカシって、あの熊みたいな男の件は、大丈夫ですよ!!」
「え?何が!?」
「いや・・・何がって。今叫んでいたじゃないですか・・・。」
「・・・私。今なんて叫んだの?」
まずい覚えてない。
「え・・・。何でタカシは、あの子が好きなの?とか、どうして私の気持ちに気づかないとか・・何とか・・・。」
「」
頭が真っ白になりそうじゃなくて、なってた・・・。
「ちょっと待って。なに今の。大丈夫ってどういう事!?」
「隊長がやってくれました!私は見てましたけどスカァ・・・ッとしましたよ!」
・・・。
どういう事?分からない。隊長が何で出てくるの?なんで、この子までタカシの事を知ってるのよ!
「訳がわからないわよ!説明なさい!!」
「説明も何も・・・副隊長、タカシって男に酷い事されたんですよね?」
「・・・は?」
酷い事されたって何よ。
される以前に、暫く会ってすらいないわよ!
触れてすらいないわよ!
そもそも相手にされているかも怪しいわよ!!!
「な・・なんの事よ。」
「え・・前の練習試合に負けそうになった時、今みたいに叫んでたじゃないですか・・・。」
は?え?覚えてない。何それ!!
「何て言ったの私・・・。何て言ったのよ!!??」
「え・・タカシって人に身も心もボロボロされたーとか、大事なモノ捧げたのにーとか・・・。」
「」
・・・言ったかもしれない。
考えていた事が声に出ていたのか・・・。
・・・思い出した。
身も心もって・・・。
戦車道が好きな彼の為、少しは振り向いてくれるかもって、副隊長になるまで粉骨砕身、努力して・・・。
ちょっと無理してしまった為、文字どおり体が、結構限界が来ていただけ・・・。
実際、副隊長になっても、彼の態度が全然変わらなくて・・・そ・・そのタイミングで、孝が好きな子が判明して・・心が折れたって・・・。
そもそも大事なモノって心よ?頑張った時間とかよ?私の青春よ!?え?何だと思ったの?
「ちょっと待って。叫んだ内容をなんで隊長が知ってるの!?あんたまさか・・・。」
「ちょ!違いますよ!私言いふらしたりしてませんよ!」
「じゃあなんで隊長が知っているのよ!」
・・・鬼のような返答が来た。
「・・・あの叫んだ時。無線が入っていましたよ。・・・全車輌へ一斉に、あの叫び声が、響き渡りました・・・。」
「」
それで一時、隊長含め、みんなが気持ちの悪いくらい優しかったのか・・・。
「え・・違うんですか?」
「違うわよ!!つ・・付き合ってすらい無いわよ。そもそも熊みたいな男って何よ!・・・そういえば、すれ違った、大洗の男子に一人そんなのいたわね・・・。」
あんな少年漫画で真っ先にやられそうな、見た目パワー系脳筋野郎と一緒にされてはたまらない。
「私の孝は、もっとスマートでカッコイイわよ!!」
「「・・・え。」」
何よ。二人揃って青くなって・・・。
◆
「教えてください。無線って作戦内容とか、試合に関する事以外なら使って良いのですか?」
無線から聴こえてくるのは、諦める声だけだった。
最後には何も聞こえなくなった。
サンダースフラッグ車を追いかけていた大洗車輌。
その後方から増援が来てしまった。
何故か、4輌しか追いかけて来なかったサンダース。
何でだ?舐めた行為をするよな奴らには見えなかったけど・・・。
しかし、その中の一輛。
ファイアフライが、着実に・・そして確実に大洗学園を追い詰めていく。
フラッグ車を追いかけていた時と、完全に立場が入れ替わっていた。
見ている事しかできないのが、こんなにキツイとは思わなかった・・・。
・・・結局黙っていられなかった。
基本テントを出ることは禁止されていたが、本部に行くことはいいはずだ。
本部のテントに俺は詰め寄っていた。
喋る事ができる無線の内容。
先程、サンダースの件で質問をしてきた大学生らしき男性が答えてくれた。
「・・・内容は?」
「エール、応援・・・何でもいい。せめて声をかけてやりたいんです。」
「ダメです。それが暗号等に当たる可能性がある。それが違うと証明できるかい?」
・・・。
「・・・できません。わかりました。・・諦めます。」
ルールはルール。それは曲げられない。
ここで下手に愚図って時間をかけるくらいなら、みんなの声を聞いていた方がマシだ。
急いで、テントに向かおう。
「いいのかい?・・・随分とあっさり引き下がるね。」
「ルールはルールです。それを確認しに来ただけです。」
「・・・。」
「もういいですか?・・・何もできないのなら、せめて皆の声くらい聞いていてやりたい。」
「分かった。なら私も行こう。」
席を立ち上がり、俺の横に出てきた。
・・・なんのつもりだ?
「・・・何故ですか。別に不正なんてしませんよ。こちらからの発信がダメならしっかり守りますよ。」
「違うよ。そう睨まないでくれ。喋る内容が、明らかに暗号じゃないなら許容しよう。例えば・・・。」
「・・・例えば?」
「名前とかかな。横で私が聞いていれば良し。怪しいと思った時点で止めるからね。それでいいかい?」
・・・なにこのイケメン。
「ありがとうございます!では!」
「え?ちょ!!キャ!」
男性をお姫様抱っこしたのは初めてだった。
乱暴に抱き上げてすぐに、全速力で元いた場所へ走る。
背が低いのも有り、軽いなこの人・・・。
到着し次第すぐにスタッフを椅子に下ろし、無線を取る。
・・・無線で喋れるのは名前のみ。
運営スタッフが見下ろしてくる。
・・・。
無線から聴こえてくる。
『もう・・ダメなのぉ?』
『追いつかれるぞ!』
『ダメだぁ!やられたぁ!!』
・・・名前だけ。名前だけ。
「かめさんチーム!」
『は!?尾形書記!?』
『あーら、ら。隆史ちゃん。いいの喋って?』
『何?隆史君?』
「かばさんチーム!」
『尾形書記か?』
『一体なんぜよ。』
「あんこうチーム!」
『隆史殿!?』
『え?隆史さん?』
「あんこ・・ぅ・・・!・・・みほぉ!!!」
『・・・隆史君!?』
「みほ!!」
・・・どうせまた、下向いて考え込んでるんだろ。
どうせまた・・・。
ガツンとおもいっきり長机を殴る。・・・痛い。
「返事しろ!!みほちゃん!!」
『は・・はい!!』
返事がやっと聞こえてきた。
「良し!!通信終わり!!」
ブッ
良し!もういい!気がすんだ!!
「・・・何、呆けてるんだよ中村。」
「いやぁー・・・今の何?」
「知らん!名前しか呼べなかったから点呼取っただけだ!」
他に思いつかなかった。俺なりの激励があんなのだ。
後ろで、笑いをこらえてるスタッフ。
腕を組んで座り、真っ赤になる。
俺自身思うわ、なんだ今のって。
「大洗学園さん。もういいかい?」
「はい!ありがとうございました!」
席を立ち上がり、お辞儀をする。勿論90度の角度で。
手を振り、そのまま運営本部に戻っていく。
『・・・。』
「おい、尾形。何か、無線から笑い声が聞こえるぞ。」
「は?」
あ・・。本当だ。
耳から外して机の上に転がっているヘッドホンから笑い声が聞こえる。
どんだけ、でかい声で笑ってんだよ。
その内容が総じて・・・。
『あの顔で、「ちゃん」呼びって!』
「・・・。」
『西住隊長の事そう呼んでたの!?』
「・・・。」
そうか。しまった。
走行不能になった車輌にも聞こえてるはずだ。
昔の呼び方で呼んでしまった。
『尾形先輩、見かけによらずカワイイ~。』
「・・・。」
今の一年の・・名前なんて言ったかな。・・・とにかく一年にカワイイと言われた・・・。
好き勝手言われてる・・だが空気が、変わった。変わったんだけど・・・。
「くそ・・。無線使えないから、何も言い返せない・・・。」
『皆さん!』
みほの声が聞こえてきた。
『・・・皆さん。落ち着きましたか?今の隆史君の無線は、正直良くわからないと思いますけど・・・。』
ソウデスネ。
邪魔をしてしまっただけかも知れないな。
『私は何となくわかりました。多分、悔しかったんだと思います。・・うん。』
・・・。
『・・・いいですか!?落ち着いて・・・落ち着いて、そのまま攻撃を続けて下さい。』
『敵も走りながら撃ってきますから、当たる確率は低いです。フラッグ車を叩く事に集中して下さい。』
『今が、チャンスなんです!』
『当てさえすれば勝つんです!諦めたら・・負けなんです!!』
・・・そういえば。
無線越しでも、みほと一緒に戦車道の試合をするのって初めてだな。
昔、姉妹と一緒に戦車には乗った事は、あったけど試合をした事は無かった。
グロリアーナの練習試合の時もそうだ。
観客として彼女を見ていた、仲間として見るのが初めてだ。
なんだ。ちゃんとできているじゃないか。
各車輌の士気が目に見えて上がったじゃないか。
立派に隊長できたじゃないか。
そうか。これが戦車道の「西住 みほ」か・・・。
はい。閲覧ありがとうございました。
戦車描写、無理っす。
さて次回。修羅場