「ケイさん。そろそろダーリンと呼ぶのを、やめてくれないでしょうか?」
『エーどうして?』
昼休みの終盤に、彼女より着信があった。
あの試合から、2回目だ。
まぁ1回目は、試しに掛けてみたらしいけど。
「えらい誤解を生みそうですから、勘弁してくださいよ」
『私としては、別にいいけど?』
……。
正直、今の俺には、心にあまり余裕は無い。
……この際だ。ちゃんと言っておこう。
「あのケイさん」
『呼び捨ててくれていいわよ?ダーリン♪』
「いや、ケイさんその呼び方で、えらい睨まれましてね」
『なに?あそこに、いた子?』
「まぁそうです。ダージリンとかにも・・ですけどね」
『あら、何?誰かと付き合ってたの?あちゃー……それは、悪い事しちゃったわね。』
素直に謝られた。なんだ。やっぱり悪ノリしていただけか?
「いや……彼女いませんけど」
『え?でも睨まれたんでしょ?』
「えぇ……えらい怖かったですよ」
『……へぇ。誰が?』
「ウチの隊長とか、ダージリンとか……あと……」
会長も結構、怖かったな。
『……。』
「あの……ですからね。やめて頂くと助かるのですけど」
『あー・・うん。なる程。あれだね。貴方、トーヘンボクって奴だね。』
「唐変木って……」
『それに……うん。確かに一方的で、ちょっとフェアじゃないわね。……わかったわ。』
「え?」
『やっぱり、アリサと被っちゃうけど、タカシって呼ぶわね。』
お、これまたアッサリと。
……でも何が、フェアじゃ無いんだ?
『でもね。ハッキリと言うけど、タカシの事を良く知りたいと思うから、付き合ってみたいって思うの。それが本音よ?』
「あー……はい」
『好意はあるのよ?でもねタカシ。その遠回しな言い方はダメ。物事は、ハッキリ言わないと。私と付き合う?付き合わない?』
「……」
え?何?告白されたの今?
男女の機微ってのは、全然わからん。
恋愛の感覚が、かなり昔の事すぎて、曖昧になっている。
マジかよ。
『YES・NOは、ハッキリ言わないと!』
「……」
『……』
『はぁ・・。タカシの事、少しわかったわ。成程ねぇ。それで、他校のダージリンまでねぇ。』
「いや・・こういうのは、正直初めてでしてね。ん?ダージリン?」
『……その様子じゃ、あんなにアプローチしてた、ダージリン達が可愛そうね。』
アプ……。ダージリンが?
『度が過ぎる鈍感は、相手が可愛そうよ?』
……鈍感。
『OK。今なら私は、大丈夫よ!ただ、はっきりして。』
……どういう事だろうか。
……。
『こういう事は、時間を置くと一層燃え上がるからね。』
……。
ちゃんと言っておいたほうが、いいのだろう。
「すいません……。本当に、気持ちは嬉しいのですけど、お断りします」
携帯を耳に当てたまま、頭を下げる。
目の前にいないのは、分かるが自然に動く。
『あら、振られちゃった。』
ぐ……。
声は明るいのだけれど、非常に申し訳ない。
手が震える。
……胃が痛くなってきた。
『いいわ!そんなに気にしないで!』
「……」
『そっかー。でも気が変わったら言ってね。私は、いつでもWelcomeよ!』
「すいません」
『でも、貴方が睨まれて、怖く感じた相手の事、ちょっと考えてあげて。』
「……それが鈍感って事ですか?」
『そうね!まぁ・・私もまだ完全に諦めたわけじゃないから、そこまで言えないけどね!!』
HAHAHA!って笑ってるけど……。
『さて、この話はここ迄!切り替えていきましょう!』
「……はい」
『……今回は、タカシに聞きたい事があって電話したの。今の件と、殴っちゃった件とは別よ?』
『貴方。何か問題でも起こしたの?』
「はい?」
前にもそんな事、言われたな。
『今朝、大学の・・大学のよ?戦車道連盟の人から、問い合わせが来たわ。』
……なんで?
千代さんの家元襲名は、確定したはずだ。俺を妨害する必要なんてもう無いだろ。
今更なんの用だ?
『貴方との関係を、聞かれたの。あの、やり取りを見ていたみたいね。』
「……」
『貴方は男。戦車道のチームに参加してはいるけど、大学戦車道連盟からの問い合わせは不自然よね。』
「まぁちょっと、母親が戦車道の師範をしているもので……。その関係じゃないですか?」
『そうなの?』
ごまかした。
他人を巻き込むモノじゃないな。
多分、心配してくれたのだろう。
『でも、これ2回目なの。戦車道開会式でも聞かれたのよ。その時は、まだ貴方の事知らなかったからね。何も答えなかったわ。』
「そうですか……俺からも連絡してみますよ。ご迷惑掛けてすいません」
『一応教えておいた方がいいと思って。連盟の方には、友人ですって答えておいたけど・・それで良かった?』
「はい。助かりました。ありがとうございました」
『それじゃ、私からの話はこれでおしまい。……みほも、そうだけどタカシとだって、いい友人関係でいたいの。それは、いいかしら?』
……はは。
「こちらこそ。お願いします」
『あと、その他人行儀な喋りはやめてね。ちょっと傷つくから。』
「わかりま……わかった。ありがとな。またいつでも電話してくれ」
『OK!お詫びの件は、また今度ね!じゃあね!Bye!』
彼女は、最後まで明るい声だった。
……。
まだ手が震えていた。
彼女を、振ってしまった時からだ。
俺は一体、何様のつもりだろう。
……あんな人を袖にして。
ダージリンの事を言っていた。
可愛そうだと。
……え?まさかな。
……。
…………。
まったく。思春期のガキか。……思春期のガキだった。
あの試合から、どうもおかしい。
今のもちょっと、トラウマを感じた時と同じ感覚だ。
いろいろあって、
何考えているかわからない、あのクソジジィもそうだし。
千代さんの連絡も来ない。留守録にメッセージは、入っているはずなのに。
最後に、先程の言葉を思い出した。
「……はっきりしろか」
朝練の為の早起きにも、少し慣れてきた。
今日も、普通の登校時間より大分早めに部屋を出る。
ちょっと今日は、いつもより余裕があるかな。
アパートの階段を降りて行く。
あ、カギ……。
階段を降りて、下の階に近づいて行くと聞こえてきていた、カチャカチャとした金属音が、今日は聞こえない。
彼の部屋の前に来たら、いつもの筋トレは、もう終わっていたようだ。
休憩か、終了か。どちらかわからないけど、彼は、アパートの部屋の前に置かれていた、ベンチに座っていた。
彼が作ったベンチ。自動車部から、いろいろ借りて来て、廃材とかで作ったお手製ベンチ。
この人、何でもつくるなぁ。
「……おはよう。みほ」
「お・・おはよう、隆史君」
大会から帰ってきてから、随分と元気が無いように見える。
見た目は変わらないのだけど、覇気が無いというか、何というか・・。
どうしたんだろ?
「……」
下を見て、軽く息を上げている。
……やっぱり何か様子がおかしい。
「あの、隆史君」
「……なに?」
「何かあった?悩み事とかなら、聞いてあげる事くらいできるよ?」
「……そうだな。アー……」
なんだろ?
「あー・・」
「うん?」
「言って、大丈夫なのかな……?」
なんだろう。本格的におかしい。
「それは、聞いて見ないと、わからないけど……」
「いやまぁ……そうだよな」
なんだろう?煮え切らないなぁ。
この前の事かな?
まぁ・・隆史君が全面的に悪い訳じゃないのは、わかっているし……本当に変な所、弱気になるなぁ、隆史君は。
「みほ」
「なに?」
「今日、朝練無いけど今から学校行くのか?」
「……あ」
そうだった。今日は休みだった。
まだ通常の登校時間には早すぎるのに、制服を着てカバンを持った私を見て、聞いてきた。
焦る私を見て、彼が苦笑している。
強引に話題を変えられたのかと思ったけど、ちょっと違った。
息を飲んで、ため息をした。……思い切った様に口を開いた。
「……ケイさんからまぁ、昨日の昼休みに電話があってな」
「あぁ・・サンダースの。で?それが?」
ちょっと口調が冷たくなっちゃった。
でも彼は、特に焦るわけでも無く、淡々と話を続けてきた。
ただ顔が、ずっと私の足元付近を見ている。
「んぁー……まぁなんだ。簡単に言うと「付き合わないか?」と言われた」
「…………」
まぁ、ダーリンとか呼んでたしね。
でも、まだ会ったの一回だけだよね?
うん。ちょっとビックリして、思考が追いつかないな。
「……そう。告白されたんだ」
「あれは、そういう事だよなぁ……」
……。
……。
「それで?隆史君は、どうするの?」
「いやぁ……断っちゃった」
……。
「……そっか」
「初めて人から、好意を告げられたんだけどなぁ」
……多分違うなぁ。
気づいて無いだけだろうなぁ。
はっきり言わないと、わからないんだろうな。
あの、お姉ちゃんでさえアレだ。……腕を組みに行くのだから。
「どうして、断っちゃったの?」
「ん?まぁ、この前のアレの後だろ?まだ良く知らない人だし」
「うん」
「それに……あ、いや。うん。正直な話、何で断ったのか俺にもわからん」
「うん」
「それでまぁ、モヤモヤして……今朝から全力で筋トレしてた」
「それは、わからないなぁ……」
「だからまぁ、俺自身の事だから大丈夫。うん。……うん」
「……」
「結局、何が言いたいのか、わからんな。よくわからない話して、悪かった」
「……」
「あれ。みほ?」
「……」
断ったと聞いて、安心する自分がいた。
断ったと聞いて、不安になる自分がいた。
断った理由が、まだよく知らない人だから、と言っていた。
……これがもし、よく知っている人だったら、どうだろう?
どうなんだろ?
例えば……。
◆
第一回戦勝利の祝勝ムードも、学校全体に広がっている。
生徒会が大々的に、戦車型のアドバルーンや垂れ幕で、発表しているのが大きいけど……。
隆史くんに、全部やらせて悪かったかなぁ。
「今の戦力で、2回戦勝てるかなぁ」
「絶対、勝たねばならんのだ!」
私のボヤキに桃ちゃんが、反論してきた。
わかっては、いるんだけどね。不安になるよ。
「2回戦は、アンツィオ高校だよ?」
会長が、カラカラと車輪付きの椅子に反対に座って滑ってくる。
干し芋食べてないで仕事してください!
「ノリと勢いだけは……あるからねぇ」
「調子に乗られると、手強い相手です」
「逆に言えば、調子に乗る前に、叩けばいいだけですよ。只今戻りました」
「おかえりぃ~」
戦車道の練習の準備をお願いしていた、隆史君が戻ってきた。
「ご苦労」
「ありがとうね。隆史君。あ、それ頂戴ね」
隆史君が持っていた書類を受け取る時、桃ちゃんが気づいた。
「なんだ?尾形書記。顔色が優れないが……体調管理も仕事の内だぞ!」
桃ちゃんが、それ言う?
「あれ?桃ちゃんセンパイ。心配してくれるんですか?」
「桃ちゃんと呼ぶな!!近い!離れろ!くるなぁ!」
前より、近づかれても大丈夫になったけど……まだまだだなぁ。
「あ、そうだ。隆史ちゃん。アンツィオ高校に知り合いが、いたよね?」
「え?はい。いますね。料理仲間ですね」
「料理仲間?」
「ま、ちょっと昔、一緒に飯屋やった事あったんで。それが?」
「いやぁ~実際、どんな人達なのかなぁってね」
「食欲と、ノリと勢いと、食欲だけです」
即答された。
食欲って……2回も言ったよ。
「後、まぁ気のいい奴らですよ。……散々飯、食わされるけど」
それじゃ良くわからないなぁ。
「じゃあ、食べ物を餌に、罠でも掛ければ引っかかるかなぁ?」
「餌をパスタ料理にすれば、高確率で引っかかると思いますよ」
……どんな人達なんだろう。
--------
-----
---
「おーい、1年。その持ち方じゃ危ないぞ」
早朝練習の中、珍しく隆史君が、戦車倉庫にいた。
大体練習が始まって、みんなが戦車に乗り込むと、一人っきりになる為、何をしているかわからない。
スコアつけたり、私達の改善点とかを、西住さんと話し合っているらしい・・とは聞いていた。
実際、プリントとかで、各チーム事のデータ表とか、目標点とか作成されて配られた。
聞いてはいたけど、大体練習が終わるまで、どこかにいるみたい。
何やっているんだろ?今度聞いていみよう。
ただ今日は、みんなといる。
更に、1年生に声まで掛けていた。
「あ、タラシ先輩!」
「あれ?スケコマシ先輩だっけ?」
「タラシ先輩の方が、言いやすいよね?」
「じゃあタラシ先輩で!何ですか?タラシ先輩!」
「……」
あ、隆史くんが、渋い顔をしている。
ダメージ受けてるなぁ……。
でもまぁ・・自業自得だよねぇ……。
「……砲弾を戦車に上げる時、その持ち方では危ないぞ、と言っているんだ」
あ、甘んじて受けた。
「腕だけの力で、重いものを上げちゃダメだ。腰を使え」
「腰って……なんかヤラシー♪」
あぁ、からかわれてるなぁ……。
「……真面目に言っている」
「……あ、はい」
あー……あの顔で睨まれたら怖いよねぇ。
素直に従っちゃった。
「怪我をしてからじゃ遅い。力尽きて手を滑らしてみろ。砲弾を足に落としたら、折れるだけじゃすまんぞ」
隆史君が1年を脅している。
「何してんの?」
「あ、会長」
「んぁ?隆史ちゃん?」
「えぇ。彼、練習中何してるのかなぁって見ていたんですよ。そしたら一年に何か教えてるようで……」
「ふーん珍しい。んじゃ、私も見てみよう」
あれ。気がついたら他のチームの人達も見てるね。
珍しいものね。
「いいか?腰をまず落として……そう。腹筋と背筋を意識して」
「腕じゃないんですか?」
「違う。腕だけだと疲れるだけだ。腰も痛める。肩に担ぐ感じで、腕を使いな。……そう、後は体全体で立ち上がる感じで上げてみな」
「あ!すっごい楽!」
「そうだろ?単純な筋力鍛えるのも大事だけど、それだけだと長続きしない。大事なのは、体全体で押上げる感じだよ」
「先輩、腕だけで上げれるんですか?」
返事をする前に、他の砲弾を掴む。
そのまま、砲弾を片手で軽々と車上の子に渡す。
「うわぁ!」
「受け取る方も、抱え込む様に……そう」
「まぁ鍛えれば出来るようになると思うけど、さっきも言ったけど、長続きしない。装填手は、今の要領でやれば装填スピードも上がるだろ」
「でも、戦車内ってあんまり広くないですよ?」
「応用だよ。重い物を持つ感覚……まぁ体の筋肉の使い方だな。それがあれば、無意識にできるようなるよ」
「へぇ~」
「装填スピードが1秒違うだけで、勝敗が変わる事もある。だな?みほ」
西住さんが、話題を急にふられて慌てて答えてる。
見られている事に、気がついていたかなぁ。
「う・・うん。乱戦や一騎打ちとかになると、特にそうだね」
「おー。お墨付きがでた!」
「タラシ先輩、ありがとうございます!」
「タラ……まぁ俺は、こんな事くらいしか教えてやれんけど、わからん事あったら聞いて……」
言いかけた時、話しかけていた子から、小さくお腹が鳴る音がした。
「えーと、宇津木さん?飯食ってないのか?」
「ちょ・・ちょっとダイエット中でしてぇ」
少し赤くなりながら、朝食をとっていない事を説明している。
体ちっちゃいのに、それで持つのかなぁ。
「……朝食抜くと、逆に太るぞ」
「え!?」
「まぁ、人にもよるけど代謝が落ちて、太る人もいる。というか、装填手なんだからちゃんと食わないと」
「」
「ちょっと、待ってな」
そう言っていつも持参しているクーラーボックスから、一つの包を取り出した。
「ちょっと休憩して、これでも食べな。ラップで包んで作ったから、直接俺の手で触れてない」
包みの中は、おにぎりだった。何でそんなもの持ってるの。
「あの・・でも」
「いいから、食っとけ。昔バイトで出してたの同じだから、店の商品と変わらない。気持ち悪いならやめとくけど……」
「いえあの・・何でこんなもの持ってるんですか?」
「……みほが、たまに同じ事するから。朝練ある時は、予備で作っておくんだ。余ったら自分で食う」
隆史君!って、遠くで少し赤くなりながら抗議している西住さん。
「卵焼きもあるぞー。甘いのとしょっぱいのどっちがいい?クーラーボックスって保温性もあるから、こういう時役に立つ」
「え……じゃぁ甘いの……」
「んじゃこれね。椅子で、ちゃんと座って食べな」
「はい。あ・・ありがとうございます」
「あ、ちなみにな。装填手は、痩せるぞ」
「「「え!?」」」
あ、他の人達も食いついた。
「さっき言った方法で、やっているとな。腹筋を意識して鍛えるのと一緒だから、ウエスト辺り引き締まるぞ」
「ほ、本当ですか!?」
「体重は、筋肉がつくからあまり変化ないけどな。見た目が、全然変わってくるぞ。ただ、飯食わないとキツイだけだからな。これからは、ちゃんと食べなさい」
「は・・はい!ありがとうございます!」
頭を下げて、座れる所を探しに行ってしまった。
ゴソゴソ片付けをしている隆史君に、桃ちゃんが……。
「尾形書記!勝手に休憩にしてもらっては、困るぞ!!」
「桃センパイ。すいませんね。空腹で集中力切らして、怪我でもしたら元も子も無いでしょう」
「ヌ!」
「あぁ後、桃センパイ。生徒会の仕事……柚子先輩に頼まれたの、やってなかったでしょ。机に積んでありましたけど……」
「あ!」
「ちょ!桃ちゃん!あれ締切、昨日だよ!?」
それはちょっと困る。締切過ぎてるよ。
戦車道だけじゃなくて、学校関係の発注書類とかあったのに!
「あー。俺やっときました。勝手にやってすいません。コピー取ってあるんで、後で柚先輩、確認して下さい」
「本当!?隆史君!!ありがとー!!」
助かったよ!本当に助かったよぉ!
……発注書類関係を、桃ちゃんに任せた、私が悪いのかな……。
「桃センパイ」
「な・・なんだ!!」
青くなっていた桃ちゃんに、追い打ちでもかけるのかな?
「……戦車倉庫内にあった布製品。汚れたからって、丸めておかないで下さい。油が付いていても洗えば、まだ使えます」
「な!」
「掃除用とかのもそうです。自動車部のツナギと一緒に洗濯しときましたんで、後でちゃんと片付けてくださいね」
……あれ。いつの間にか自動車部とも仲良くなってるの?
「あ、そうだ。鈴木さーん。この前、頼まれてたのできたよ。放課後、車で運んでやるよ」
「カ・・カエサルだ!……すまん。助かる」
……え。なに隆史君。すごい働いてるけど。
いつの間にか、うさぎさんチームの丸山さんが、隆史くんの制服をつまんでいた。つまんでクイクイ引っ張っていた。
「な・・なに?丸山さん」
「……お父さん?お母さん?」
「……まだ独身です」
隆史君の主夫化が進んでいた。
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苦笑しながら答える隆史君の目線が、戦車倉庫の入口に向いていた。
急に、真顔になるから、何かと思い目線の先を見てみた。
皆の戦車正面の向かい側、初めから開かれた扉の真ん中に、二人の女性が立っていた。
知らない人だ。
そもそも服装が、大洗の制服では無かった。
どこかの制服かな?同じ格好をしている。
大人の女性に見えるけど……。
「練習中すいません。大学戦車道連盟の使いの者です。少々よろしいですか?」
メガネをかけた女性が名乗った。
大学の連盟?
「どうも。こんにちはぁ。生徒会長の角谷です。どの様なご要件ですか?ちょっとまだ授業中なんですけど」
生徒会長が、真っ先に挨拶をした。
「大学の戦車道連盟の人が、なんの用だろ?」
「なんだろ?」
もう一人のロングヘアーのお姉さんは、申し訳なさそうな顔をしていますね。
西住さんに、用があるんだろうか?家元の娘ですしね。
「ごめんなさいねぇ。尾形 隆史さんは、いらっしゃいますか?」
「え!?隆史君!?」
意外な名前が上がった。
「隆史君は……確かにいますが、……大学の連盟の人が、なんの要件でしょうか?」
「少し……彼に御足労をお願いしたく迎えに上がりました」
私との会話をしながら、唯一の男性である隆史君を……睨んでる?
「私達は、あくまで使いの者です。関係の無い方にはお話できません」
「それは無いんじゃないのかなぁ?理由も無しに、連れて行くなんて」
「会長。俺は、いいですよ」
会長の発言を遮って、隆史君が彼女達の前に出てきました。
「多分、練習試合の時に、俺が抜けていた理由に関係してますから。家の問題ですよ」
「隆史ちゃん?」
会長と彼女達との間に割り込む。
あんまり良い雰囲気とはいえない。
「一つ教えてください」
「何かしら?」
「貴女達は「誰」の使いですか?」
「誰とは?」
「……わかるでしょ?」
……。
暫く黙り込んで、睨み合っている。
西住さんが心配して、隆史君の後ろにまで来ていた。
「……はぁ。島田流家元よ。私達は、彼女の教え子です。家元に頼まれて迎えに来ました」
諦めたように、隆史君の問いに答えました。
うわぁ……すっごい嫌そうに言うなぁ。
「確認しても?」
「確認ですって?……信用ならないって顔してるわね。どうぞ?何するか知らないけど。それで納得いくならね」
「……わかりました。ありがとうございます」
そう言って携帯を取り出して、電話を操作している。
明らかに不機嫌になった女性達。
「なに?連盟にでも問合わせているの?……あまり、お姉さん達を、舐めてもらっても困るのだけど?」
半分小馬鹿にしたような顔をしている。
段々口調が、素に戻っていっているのか、もう社交辞令の敬語も使わなくなっていた。
……が、隆史君の電話相手が出たのだろう。名前を呼んだらその顔が引きつった。
「あ、千代さん?やっと出てくれましたね」
「「!!?」」
「……そうですか。そんな多忙な時にすいませんでした。いえ。少々確認したい事がありまして……」
隆史君が会話中、彼女達の様子が急に焦りだしたように見えます。
「……はい。そうですか。こんな時ですからね。……わかりました」
電話をしながら彼女達に近づいていく。そのまま携帯を、目の前に差し出した。
「な・・なにかしら?」
「あの・・ルミさんって人に変わってほしいって……」
「え!私!?」
メガネを掛けてた女性が、恐る恐る携帯を受け取り、耳に当てた。
「……はい」
「い、いえ!!そんな事は!!だ・・大丈夫です!はい!丁重に!!」
「……」
完全に先程までの威圧感が、無くなっている。
会話に参加できなく、まったく状況がわからない、もう一人の女性は完全にオロオロしちゃっている。
「……はい。ありがと」
会話が終わったのか、隆史君に携帯を返している。
通話がすでに切れているのか、携帯をズボンに入れる。
「はぁ……やっと繋がった……。やっと話ができた」
隆史君は、ボヤく時に音量を考えたほうがいいね。
周りに丸聞こえのボヤキは、ボヤキじゃないよ?
それで、毎度痛い目にあっているんじゃないのかなぁ?
「そういう訳で、確認が取れましたね。直接、俺に直接説明したいって事でした。貴女達の事も納得できましたし・・同行します」
「そ・・そう!良かったわ!」
「そうね!行きましょう!!」
急に焦りだしたなぁ。
電話が終わってから、ソワソワしだした。
先ほどと態度が違いすぎる。
後ろを向いてコソコソ相談し始めた。
「家元に釘を刺されちゃった……」
「こ……婚約者の親だもの。番号くらい知っていて当然よね?」
「下の名前で呼んでいるのにも、びっくりしたけど……」
「家元に何言われたの!?」
「あ……危なかった。拒否したら無理矢理にでも、連れて行こうと思ったけど……」
「何言ってんですか?」
「な!何でもないわ!!」
「気にしないで!!」
あからさまに怪しいのですけど……。
「会長。そんな訳で、申し訳ないですけど早退します」
「えー。まぁ隆史ちゃんが、いいならいいけど」
「すいません。……それじゃ、荷物取ってきていいですか?」
「え!?えぇ!もちろんよ!」
隆史君はそれだけ言って、教室に戻ってい……かないな。
入口の外で立ち止まって、顔を横に向けている。
「……貴女も、連盟の使いの人ですか?」
「そ、そうね!」
壁に隠れて、中にいる私達には見えないけど、誰かと会話をしているようだ。
女性かな?
「……何ですか?その荷物」
「気にしないでね?細かい事気にする子、お姉さん嫌いだなぁー!」
明らかに声だけでも焦っているのが、わかるんだけど……。
首をかしげて、そのまま今度こそ教室に向かっていった。
「練習中、失礼しました」
「では、私達もこれで」
お姉さん達も、最後はビシッっと決めて帰っていった。
あの状態からだから、決まってなかったけど。
あれ?
「西住さん?どうかした?」
「あ、いえ……」
隆史君の位置に一番近くにいた、西住さん。
何か考え込んでいる。
「……帰って来たら聞いていみよう。今は、試合の為に集中しないと……」
◆
じ・・地獄だった。
移動中のヘリの中が、地獄だった。
何?あの延々と黙って、睨まれる拷問。
一人は操縦の為いなかったが、二人に延々と睨まれる。
ずっと見られているだけでも苦痛なのに。
初対面だよね?
何もしていないよね?
戦車倉庫の外にいた女性は、大きな半開きのバッグを持っていた。
あそこでは、黙って見過ごしてたけど……中身がエグかった。
何で、スタンガン入ってるの?
拘束用のためだろうか?ロープやらなにやら……。
ヘリの中で聞いてみたけど、万が一の為としか答えてくれないし……。
そして、やっとその地獄が終わったのが、夕方になってからだ。
ようは、到着したんだ。
日本戦車道連盟会館の迎賓館。
初めに呼び出された所。
ヘリが到着し、迎賓館まで先程の3人が、俺を連行している。
うん……連行してるね。逃げやしないってのに。
やっと千代さんと話せるんだから。
コツコツ廊下を、3人に囲まれながら歩いている。
「あの……別に逃げやしませんよ?」
「……」
「あの……」
「逃げない証拠は?」
「は?」
「婚約を破棄されると分かっていて、君が黙って家元に会いに行くと思ってるの?」
「……えーと」
「あんな可愛い隊長と婚約破棄よ?それを黙って受け入れるなんて、到底信じられないわね」
……えらい、真顔で公私混同をしている。
あれ?あんたら大学連盟の使いじゃないの?
それに隊長?……あ。愛里寿の事か。
「貴女達、大学選抜チームの人か」
「……そうよ」
「あの隊長の為に、この役にも志願したってのに……素直に貴方がついてきて、若干信じられないのよ。なにか企んでいるんじゃないかってね」
「あー・・。あのスタンガンやら、拘束具は俺が断った時に、無理にでも連れて行く為か……」
スゲェーこと考えてるな。愛されてるなぁ……愛里寿。
ってことは、この人達は、どういった経緯なのかは、知らないのか。
まぁねぇ。傍から見れば政略結婚か何かと考えるのかなぁ。
この人達から見れば、俺はあのガマ蛙と同じなのね。
「でも、なんで大学選抜の選手が、俺を迎えになんて来たんですか?あまり関係無いですよね?」
「志願したのよ」
声だけで返された。
「家元から聞いて、私達で行くってね」
……逃がさない為にですね?とは聞けないけど、概ねそんな所だろ。
人に任せておけないと。
「着いたわ」
迎賓館の応接間、以前と同じ部屋だ。
全体的に洋風な造りの為、夕日が当たる廊下は、独特な雰囲気を出していた。
なんかえらい色っぽい大学生が、ノックをしている。
「アズミです。れんこ……お連れしました」
連行って言いそうなっただろ。やっぱり連行じゃねぇか。
「これで、終わりね」
「やりましたよ隊長」
あー・・愛が痛い。
『どうぞ。』
「失礼します」
ガチャっと扉を開けた瞬間、すごいプレッシャーが押し寄せた。
まさにブワッって感じに。
「「「 ヒッ!」」」
大学生達が怯んだ。
まぁー……無防備で、いきなりこれじゃあなぁ……。
さて。
「なんで居るんですか。しほさん」
部屋の中に3名居た。
右側の席に、千代さん。
左側の席に、しほさん。
その後ろに……あく・・亜美姉ちゃんまでいるよ……。
何この部屋。
あの練習試合後の、喫茶店をはるかに凌駕するんだけど……。
「ねぇ・・なんで西住流の次期家元までいるの?」
「蝶野さんまでいるけど!?」
「なにこの雰囲気!」
「ちょっと……この部屋入りたく無いんだけど……正直帰りたい!」
「た・・隊長の為よ!」
「そ・・そうね!」
目の前に立っているから、邪魔だなんだけど。
あー……もういいや。先に入ろう。
彼女達の間を縫って入室する。
「失礼します。お久しぶりですね。しほさん、千代さん。……亜美姉ちゃん」
「久しぶりですね。隆史君。……フフッ」
「クッ・・わざわざ、ごめんなさいね。隆史君」
「先週ぶりねぇ。隆史君」
なんだろう?若干嬉しそうな、しほさん。
悔しそうな、千代さん。
亜美姉ちゃんは、どうでもいいや。あ……笑顔で怒ってる。
「なに、あの子!?」
「平然としてる……」
……もう慣れました。
「何度も連絡をくれたのに、ごめんなさいね。少々仕事が立て込んでいたの」
「えぇ、先程少し伺いましたが……。でも何で、しほさんがいるんです?」
「本日、隆史君が来ると言ったら来ました。お邪魔ですよねぇ?」
「……貴女との口約束の決着を見るためです」
なんでそんなに喧嘩腰なんですか、貴女達は。
「では、まずお掛けください。……貴女達は、もう下がってよろしいですよ」
目線で、後ろの大学生達に合図を送る。
「あ、千代さんが良かったら、このまま居てもらってもいいですか?」
「え?彼女達に?」
「えぇ・・俺の状況の誤解を解きたいので……。彼女達がよければですが」
また、拉致目的で来られてもたまらん。
大学生の選抜選手なら、事情が分かれば今後、協力してくれるかも知れない。
まぁ全て終わっていればそれで良いし。
「どうする?貴女達」
「「「 はい!お願いします!」」」
……態度が強ばっているけど大丈夫か?
「そうですか。では、まず最初に……」
「はい」
「この部屋に入ってきた時、何故、最初にしほさんの名前を呼んだのでしょう?」
……。
「……は?」
「フフ……、見苦しいですね。千代さん?」
……。
「……お聞きしたいのですけど?」
え?
「あの……。普通に、しほさんがいるのが、意外だったからですけど……」
「本当に?」
「あの……え?なんで?」
うっわー。家元二人共、笑顔なんだけど、多分意味が違うんだろうなぁ……。
「フー。もういいでしょ?千代さん早く本題に入ってください」
いつの間にか、後ろに来ていた、亜美姉ちゃんが説明してくれた。
「あの二人、隆史君が来る前に、どちらの名前を、先に呼ぶか勝負してたの」
「え?そんなの何か意味あんの!?」
「無いわね」
即答しやがった。
「……それで、ピリピリして、あのプレッシャーを発していたのよ」
……。
「千代さん……あの、大学生の方もいますので、ね?……本題に……」
ある意味、この人達ブレないから安心する自分がいる。
……多分、俺の中のどこかが、ぶっ壊れたな。うん、慣れちゃった。
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「では、今回の件ですが……」
「はい」
やっと本題か。うん、真面目な話、大好き。
「あ、まず先に言っておくべきでしたね。家元襲名おめでとうございます」
「フフ・・ありがとうございます」
「でも随分と早かったですね。亜美姉ちゃんから聞いたときは、驚きました」
「えぇちょっと頑張りました。多少無理もしましたけどね」
そこで、飲み物が運ばれてきた。
また、えらい高そうなカップだなぁ……。
……紅茶か。
……ダージリン達か。
あ、今はこっちの話だ。
「正直、練習試合を見た限りでは、勝ち続けるのは無謀に思えました。しかも、初戦の相手がサンダース大学付属高校ではね」
あー・・まぁ。
「いくら、「西住 みほ」さんが、いらしても不安しかありませんでしたので……事を急ぎました」
「そ・・そうですね」
「ごめんなさいね。……正直負けると思っていました。試合前には、何とかしなければと……その為、予定より大分早く、家元襲名と相成りました」
いやまぁ……そこはしょうがないと思うけど。
しかし、先程と違いすごい上機嫌だなぁ。
「でも、そうなると俺って、必要なかったんじゃないかと思うわけですが……」
「いえいえ。隆史君が、愛里寿……娘の為に時間稼ぎになってくれたおかげで、妨害も無く集中できました。お陰で思ったより、大分早く事が片付きました」
「いえ。それで忙しかったと?」
「それもありますが・・まぁ先に結果から言いましょう。まず私の家元襲名。次に大学戦車道連盟理事長の「島田 忠雄」を失脚に追い込めそうです」
「は!?」
それで、えらく上機嫌なのか……。
「や、いや。それはいいのですけど・・え?失脚!?いくら何でも早すぎませんか?」
「えぇ。事がうまく噛み合い、全てうまく行きましたよ」
え?どういう事だ?失脚!?
「まず、あのヒヒ爺が大好きな実績とやらですが、大洗学園がサンダースに勝利した時点で、貴方に大きな実績が付きました。正確には、貴方達・・ですけどね」
「一回戦だけで?それだけで?」
紅茶を口に含み、ゆっくりと喋りだす。
「使い古しの型落ちの戦車、それもたった5輌。その戦力で、倍の数である相手に勝利した。それも初出場の素人集団が」
「……」
「圧倒的に不利な戦力で、優勝候補校に勝ちました。強豪高校同士の対戦では無いのですから、これは十分な戦果ですよ?実績ってやつですね」
弱小校を強豪校に。それも圧倒的不利な状況でも、勝利に導いたという実績……か。
「でも、俺特に何もしてませんよ?それは隊長である、みほの戦果ですよ」
「関係ありません。そんな事は、後からどうとでもできます。もちろん表沙汰には、しませんけどね」
後付けで、どうとでもなるって事だろうか?嫌だなぁ……そういうの。
……そんな事言ってられないのかなぁ。
「その「西住 みほ」さんを、戦車道に引き入れ、サポート役として活躍……などでもいいですど。まぁいろいろできます」
あれ?ちょっとニヤけてますが……。
「それに知っていますよ?最後の無線での激励。十分ですよ」
「」
なぜ知っている!?顔が熱くなるのがわかるじゃないか!
クスクス全員が笑っている。
全員知ってんのかよ!!
……違う。何故か、大学生の人達がソワソワしだした。
「ふぅ……。私が家元を襲名して、大学戦車道連盟理事長に任命が確定になりましても、時期というものがあります。
ですから本年度までは、大学戦車道連盟理事長の肩書きを持つ、ヒヒ爺が不安材料でしかありません」
「あ……そうか」
「実際になるのは、来年度でしょうね」
そうか、正確には次期理事長ってことか。
「まず、隆史君。貴方は、蝶野一尉に「島田」の名前を使いましたね?」
あ。
「えぇ。ヘリを貸してもらう為に。すいませんでした」
「いえ。もっと使ってもらっても良かったのですよ?まぁ貴方の事だから、使うか使わないか分かりませんでしたけど……これが、決め手になりました」
「……どういう事ですか?」
俺個人の為に、人様の名前を使ったという、非常に情けない話なのに。
「まず最初に、「文部科学省 学園艦教育局長 辻 廉太」。……試合の翌日に、私に連絡を取ってきました。直接面会にまで来ましてね」
「あぁ・・あの七三分け。何でまた」
「「島田 忠雄」を裏切りました」
……感情のない声で、言い捨てた。ちょっと怖い。
「あの局長も、一回戦で大洗学園が勝利した時点で「島田 忠雄」が、追い込まれたと、確信していました。
もう一度言いますが、それ程の戦果ですよ?誰も貴方達の勝利は、予想すらしていなかった。
あの局長。やはり貴方への妨害の指示を、再三と受けていたようですよ。まぁ巻き添えを回避したかったのでしょうね。
……手土産に、ヒヒ爺の汚職の証拠と、妨害内容の一覧まで持参してきましたよ」
「何でまた急に……。まだ大会は続きますよね?」
「先程も言いましたが、隆史君が「島田」の名前を、「蝶野一尉」に使ったからでしょうね」
「……は?」
「実はですね……」
大洗学園と聖グロリアーナの練習試合当日。
あの喫茶店、千代さんの目的は、しほさんに会いに来る事だったようだ。
俺と別れた後、しほさんに協力を頼んだそうだ。
協力できる人材の確保。
そこで、しほさんと母さんの推薦も有り、亜美姉ちゃんに白羽の矢が立った。
俺の知り合いで、ある程度の地位も有り、戦車道大会にも顔が利く。完全に、こちら側の人間。
その後、千代さんは、すぐにある噂を流していた。
俺とガマ蛙とのやり取りを少し、情報操作した噂を。
島田流次期家元の娘・・あの天才少女に婚約者がいる。親も認めている許嫁だ。
そこに、あの悪い噂しか聞こえない「島田 忠雄」が、年甲斐も無く横恋慕している。
まぁ、元々悪評しかないあの男。島田流家元に連なる、名前が欲しいのだろ。
だからって相手は13歳の少女だろ?
女好きなのは有名だけど、まさかロリコンの気まであるとはね。
しかし、実際の許嫁は誰だ?あの容姿端麗な、次期家元が認める相手だろ?
どこかの御曹司か何かかね?相手は高校生らしいけど。
その許嫁に、「島田 忠雄」が条件を出してきたらしいぞ?実績を出せば諦めると。
金で買った地位の男が、偉そうに。
肩書きが大好きな、あの男が言いそうな事だ。
そもそも、ただの学生が上げる実績とはなんだ?
……意地が悪い。
「大まかに言えば、こんな感じかしらね」
「……」
さりげなく御自身が、容姿端麗だと噂も流してますね。はい、わかります。
「この計画は、予備の計画でした。不確定すぎますからね。
あらかじめ、蝶野一尉の管轄内で、隆史君が「島田」の名前を使ったら、派手に噂を流して欲しいと頼んでおきました。
戦車道の試合会場内で使用するのならば、頼れる人物は、彼女くらいでしょうしね。
「島田」の名前を隆史君が、使わない可能性もある以上、本当に気休め程度の計画でした」
「それなら、あらかじめ俺に、要請でもしてもらえば良かったんじゃ?」
「それでは、あまり意味がありません。それに、これ以上巻き込むのも気が引けましたので」
……今更だなぁ。
「それに、あの局長は「島田 忠雄」の指示でしょうね。妨害工作の為に、局長の関係者が現場にいました」
「何もされませんでしたけど……」
「どうも金絡みの妨害だったらしく、現場には来たらしいのですが、何もしないで見ていたそうです。
何もしなくても大洗学園は負ける……。下手に金銭を使った妨害するよりも、見ていた方が得策だと思ったようですね。
すでに何かあれば、アレと手を切るつもりだった様ですね。 ……そこで、貴方と蝶野一尉のやり取りを見ていたそうです」
「……」
「私が、あそこまで怒鳴ったのは、周りへのアピールね♪」
「亜美姉ちゃん、「島田」の名前を使う事を止めていたよな?俺自身が、公式に島田の婚約者だと、認めることになるとか」
「演技よ、演技。大体、島田流家元の名前をフルネームで、あんなに大声で言う訳無いでしょ?しかも、貴方のお母さんと西住流家元の名前まで。
私が言ったくらいで、貴方があの場で引かない事くらいわかるわよ。だからできるだけ派手にいったわ。
公式に認めるもなにも、その辺は島田流家元が、どうとでもできるわよ。
それに、いくら身内や知り合いだからって、自衛官が一般人引っぱたいて……私も結構、やばかったわ」
「結構マジで殴ってたよな……」
「言った事は、結構本気よ。私が婚約当日の日に、ここにいたら止めていたわよ。ふざけんなって」
千代さんが、話の腰を折るなと、亜美姉ちゃんを目で止める。
「自身から、島田流家元のご息女の許嫁と公表し、蝶野一尉から自衛隊の最新機を借用の許可を取った。
しかも、貴方のお母様とそこの西住流家元との間柄も公表。
最新機借用と蝶野一尉の口伝で、上層部まで知ることになった……。
貴方一部で、すごい有名になりましたよ?私の所にも連日、確認の為の問い合わせが、すごかったわ。
そこで敢えて、包み隠さずに「真実」を話しました。……貴方はヒーロー扱い、あの男は……。
それと同じで、あの局長は、すぐに各所に確認を取ったのでしょう。そこで、裏切る決意をした……って所でしょうね。
貴方の名乗りが、あの局長の裏切りの後押しをしたって所でしょうね」
嬉しくない。そんな事で有名になっても……。真実を話した事で、婚約から後に引けなくなるはずだった、俺の逃げ道でもつくったのかね。
しかしあの学園艦教育局長……。引き際が良すぎる。
「あの男にはもはや敵しかいないような状態。同情や正義感からでしょうかね?逆に、私達側には味方が、大勢増えました」
……千代さんは、たまに本気で怖く感じる時がある。クスクス笑ってはいるが、この人を敵に回したくないって考えしか浮かばない。
「元々、汚職の疑惑だらけでしたし、近々監査を入れます。あの局長の持ってきた証拠で、もうあの男も終わりでしょね。
また、貴方への妨害内容も酷かったですね。ほぼ金の力に、物をいわせたものばかりでした。まったく・・無能が……」
呆れてものが言えないって顔だ。実際内容は酷かった。
日本戦車道連盟からの助成金の停止、審判の買収等……。
なるほど。あの局長とやらも馬鹿らしくて指示は聞いたが、協力しなかったのだろう。
あのガマ蛙が失脚すれば、あの局長にもメリットでもあるのかね?
まぁ何より、あんなのと心中はゴメンだろうな。偶然とは言え、ほぼ自爆みたいな物だしな。
「時期を待たないで「島田 忠雄」が、大学戦車道連盟理事長を下ろされるのが、もはや確定しています。
その為、裏での理事長としての仕事内容の引継ぎ作業で、連日忙しかったのです。それも終わり、漸く貴方を呼べました」
はぁ……と軽くため息をついた。
この人が珍しい……よほど忙しかったのか。
全て片付いたって顔しているけど……本当に?
「あの……ちなみに、本命の計画ってどういう内容だったんですか?」
「知らない方がいいわ♪」
「……」
目がマジだったから、聞かないでおこう。うん。
「あ・・でも、サンダースの隊長に俺に関して、大学戦車道連盟から問い合わせがあったみたいですよ?」
「……どういうことでしょうか」
「つい最近のようですね」
「……わかりました。少々調べてみすね。……イロイロと」
千代さんは、立ち上がり、仕事机だろうか?その上の電話の受話器上げた。
内線でもかけているのだろう。
「えぇ。もう話は、ほぼ終わったわ。そろそろ、こちらに来て頂戴」
そのまま受話器を下ろし、また椅子へ座ると、直ぐにドアからノックが聞こえた。
『……母上。入ります。』
「……どうぞ」
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向かいの部屋に、愛里寿がいたようだ。内線電話で呼ばれここにいる。
俺の横に並んで座っている……のだけれど、大学生達が随分と慌てているようだ……。
「何で貴女達がいるの?」って言われた時から、随分とまぁ・・アワアワしちゃって。
「さて、大体の問題は片付きました。約束通り、貴方達の婚約も破棄となりますが、よろしいですか?」
大学生達が、パァァっと明るい顔になった。
今まで黙っていた、しほさんも頷いている。
当人同士という事で、愛里寿もここに呼ばれた。
「はい。そういう約束でしたものね」
「……はい」
これで俺の役目は、終わりかな。
結局、偶然で片付き、相手が自爆したような物だけど。
なんにもしていない……。
あ、囮役に、なっていたって事か。
「隆史君。今回の件、ありがとうございました。私としては、このまま婚約状態でも構わないのだけど……しかし口約束とはいえ、約束は約束」
「そ・・そうですね」
しほさんから一瞬、殺気が出たぞ・・。
「愛里寿。今ここで、説明通り。貴女と隆史君との婚約は、破棄となりました。でもそんな顔しないの」
横目で見ると……暗い顔をしていた。
頭に手を乗せて、軽く撫でてやった。
「愛里寿、まぁその・・なんだ。うーん……」
何か言ってやろうと思ったが、言葉が出なかった。
ただ、頭を撫でているだけ。
それでも、満足そうな顔をしているので、まぁいいか。
「あの男……。隊長が髪を触らせるなんて……」
「私達の隊長にぃぃ……」
「あぁ、でも満足そうな隊長が、カワイイ・・」
大学生達から、殺気やら何やらイロイロ飛んでくるんだけど……。
もう誤解は解けていますよね?
「では、そうですね。後は食事でもしながらで宜しいでしょうか?一席設けてあります。隆史君は、大丈夫?」
「え・・えぇ大丈夫ですよ」
あの、愛里寿さん。そろそろ手を離してください。
撫でていた手を、掴まれていた。
なんだろう。この仕草を見て、ちょっとオペ子を思い出した。
その瞬間、スッっと手を離された。あれ?
「……隆史さん。今私の頭を撫でながら、別の女性の事を考えていませんでしたか?」
「」イイエ。
「……ならいいです」
……プイッっと横を向いていしまった。
え、何?え?
「た……隊長が、一瞬女の顔になった……」
「……まだスタンガン持ってる?」
「……鞄にあるわ」
物騒な事言い出したぞ・・おい。
あれ?
……今気がついたけど、愛里寿以外、大人の女性に囲まれている。
亜美姉ちゃんは論外だけど、大学生含めて囲まれている。
これは、チャンスでは、ないだろうか?
ケイさんから電話をもらい、ここ数日ずっと考えていた事。
相談相手がいないから、考え込むしかなかった。
みほは、多分ダメだし、優花里も多分ダメだろう。
華さんは怖いし、マコニャンは……頭いいけど多分ダメだろうなぁ……経験なさそう。
沙織さんは……多分一番聞いてはいけないと、本能が判断した。
そうだな。
大人の女性に聞いた方が、解決するかもしれない。
丁度、食事会をしてくれると言うのだ。
「しほさんは、どうしますか?」
「そうですね。婚約破棄も見届けましたし……予定も有りますし」
ありゃ、しほさんダメそうか。
「しほさん帰っちゃいますか?そっかぁ……」
「どうしました?」
「いや、折角だから、ちょっと私用ですけど・・相談したい事あったんですけど、まぁ仕方ないですね」
「隆史君が、私に相談とは・・初めてですね。どのような?」
ちょっと、みんなに注目されている。
千代さん含め、大学生にまで見られている。
「あー・・なんというか。俺って傍から見て、鈍感ですかね?」
「そうですね」
「何をいまさら」
「あら、何か楽しいお話かしら」
「……デリカシーも足りないですよね」
愛里寿さん!
「……で、それを少しは解消したいと思いまして。どうも俺は、自身に対する他者の好意というものが、わかりづらくて」
「つまり?」
「あー。まぁ俗に言う・・恋愛相談とやらですかね」
ガタッ!
「ちょっと最近、イロイロありまして……」
あ、亜美姉ちゃんが飛び退いた。
家元コンビと愛里寿は、目を見開いている。
「隊長と婚約破棄した直後に、恋愛相談とか……」
「最低ね」
「死ねばいいのに」
……大学生チームが酷い。
「別に俺が、女の子と付き合いたいとか、意中の人がいる・・とかでは無くてですね。相手の気持ちくらいは、ある程度自覚しないといけないと失礼かなぁって……。
こういう事、同級生には聞きづらくて……特にみほとかに」
「……そうですね。そこは正解です」
「大人の女性に聞いたほうが、いいかなぁって思ったんすけど……。あ、でも千代さん詳しそう……」
「……………………」
「愛里寿も・・なんかゴメンな。タイミングが、確かに悪かった」
「大丈夫。敵対勢力情報が、確かに足りなかった。この機会に手に入れる」
愛里寿さん?
「あら。隊長がやる気になってる……」
何に!?
「……では、しほさん。当然行きますね?お食事会」
「当然ね。今、予定を全てキャンセルしておきました。明日まで付き合いますよ。隆史君」
え……。
「そうだ。貴女達3人も来なさい。蝶野一尉もいらっしゃいますね?」
「当然ですね!こんな面白そうな事!!」
あ、いかん。亜美姉ちゃんのキラキラした目は危険だ。
「では、全員参加という事で。では、移動しましょうか。隆史君には、イロイロと暴露して頂きましょう」
「えっ!ちょ!!」
亜美姉ちゃんに左腕を、ガッチリホールドされた。
「あ、愛里寿ちゃん。彼の右手でも握っていて。そうすれば多分逃げれないから」
「はい」
そっと、右手を握られた。力尽くで振りほどけない……。
千代さんが、先程とは違いなんだろう……すっげー楽しそうに言った。
「楽しいお食事会になりそうですね」
ハイ、閲覧ありがとうございました。
鈍感を自覚し始めたオリ主さん。
ケイさんは、オリ主の相談役として作ろうと思っていました。
なに気にフランクでも、オリ主にちゃんとした事を言ってやれる人物って少ないですし、比較的常識人のケイさんは、適任でした。
家元説明ちょっと、くどかったですかね。
この部分に直しいれまくって時間がやたらかかりました。
考えすぎるとワケ分からなくなりますね・・・。
もちょっと単純化できればいいのですけど。
次回は「しぽりんとちよキチの家元恋愛相談室」
・・・タイトルがキツイ。