転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第20話~お呼び出しです!~

「ケイさん。そろそろダーリンと呼ぶのを、やめてくれないでしょうか?」

 

『エーどうして?』

 

 昼休みの終盤に、彼女より着信があった。

 あの試合から、2回目だ。

 まぁ1回目は、試しに掛けてみたらしいけど。

 

「えらい誤解を生みそうですから、勘弁してくださいよ」

 

『私としては、別にいいけど?』

 

 ……。

 

 正直、今の俺には、心にあまり余裕は無い。

 ……この際だ。ちゃんと言っておこう。

 

「あのケイさん」

 

『呼び捨ててくれていいわよ?ダーリン♪』

 

「いや、ケイさんその呼び方で、えらい睨まれましてね」

 

『なに?あそこに、いた子?』

 

「まぁそうです。ダージリンとかにも・・ですけどね」

 

『あら、何?誰かと付き合ってたの?あちゃー……それは、悪い事しちゃったわね。』

 

 素直に謝られた。なんだ。やっぱり悪ノリしていただけか?

 

「いや……彼女いませんけど」

 

『え?でも睨まれたんでしょ?』

 

「えぇ……えらい怖かったですよ」

 

『……へぇ。誰が?』

 

「ウチの隊長とか、ダージリンとか……あと……」

 

 会長も結構、怖かったな。

 

『……。』

 

「あの……ですからね。やめて頂くと助かるのですけど」

 

『あー・・うん。なる程。あれだね。貴方、トーヘンボクって奴だね。』

 

「唐変木って……」

 

『それに……うん。確かに一方的で、ちょっとフェアじゃないわね。……わかったわ。』

 

「え?」

 

『やっぱり、アリサと被っちゃうけど、タカシって呼ぶわね。』

 

 お、これまたアッサリと。

 ……でも何が、フェアじゃ無いんだ?

 

『でもね。ハッキリと言うけど、タカシの事を良く知りたいと思うから、付き合ってみたいって思うの。それが本音よ?』

 

「あー……はい」

 

『好意はあるのよ?でもねタカシ。その遠回しな言い方はダメ。物事は、ハッキリ言わないと。私と付き合う?付き合わない?』

 

「……」

 

 え?何?告白されたの今?

 

 男女の機微ってのは、全然わからん。

 恋愛の感覚が、かなり昔の事すぎて、曖昧になっている。

 

 マジかよ。

 

『YES・NOは、ハッキリ言わないと!』

 

「……」

 

『……』

 

『はぁ・・。タカシの事、少しわかったわ。成程ねぇ。それで、他校のダージリンまでねぇ。』

 

「いや・・こういうのは、正直初めてでしてね。ん?ダージリン?」

 

『……その様子じゃ、あんなにアプローチしてた、ダージリン達が可愛そうね。』

 

 アプ……。ダージリンが?

 

『度が過ぎる鈍感は、相手が可愛そうよ?』

 

 ……鈍感。

 

『OK。今なら私は、大丈夫よ!ただ、はっきりして。』

 

 

 ……どういう事だろうか。

 

 ……。

 

『こういう事は、時間を置くと一層燃え上がるからね。』

 

 ……。

 

 ちゃんと言っておいたほうが、いいのだろう。

 

「すいません……。本当に、気持ちは嬉しいのですけど、お断りします」

 

 携帯を耳に当てたまま、頭を下げる。

 目の前にいないのは、分かるが自然に動く。

 

『あら、振られちゃった。』

 

 ぐ……。

 声は明るいのだけれど、非常に申し訳ない。

 手が震える。

 

 ……胃が痛くなってきた。

 

『いいわ!そんなに気にしないで!』

 

「……」

 

『そっかー。でも気が変わったら言ってね。私は、いつでもWelcomeよ!』

 

「すいません」

 

『でも、貴方が睨まれて、怖く感じた相手の事、ちょっと考えてあげて。』

 

「……それが鈍感って事ですか?」

 

『そうね!まぁ・・私もまだ完全に諦めたわけじゃないから、そこまで言えないけどね!!』

 

 HAHAHA!って笑ってるけど……。

 

『さて、この話はここ迄!切り替えていきましょう!』

 

「……はい」

 

『……今回は、タカシに聞きたい事があって電話したの。今の件と、殴っちゃった件とは別よ?』

 

 

『貴方。何か問題でも起こしたの?』

 

 

「はい?」

 

 前にもそんな事、言われたな。

 

『今朝、大学の・・大学のよ?戦車道連盟の人から、問い合わせが来たわ。』

 

 ……なんで?

 

 千代さんの家元襲名は、確定したはずだ。俺を妨害する必要なんてもう無いだろ。

 今更なんの用だ?

 

『貴方との関係を、聞かれたの。あの、やり取りを見ていたみたいね。』

 

「……」

 

『貴方は男。戦車道のチームに参加してはいるけど、大学戦車道連盟からの問い合わせは不自然よね。』

 

「まぁちょっと、母親が戦車道の師範をしているもので……。その関係じゃないですか?」

 

『そうなの?』

 

 ごまかした。

 他人を巻き込むモノじゃないな。

 多分、心配してくれたのだろう。

 

『でも、これ2回目なの。戦車道開会式でも聞かれたのよ。その時は、まだ貴方の事知らなかったからね。何も答えなかったわ。』

 

「そうですか……俺からも連絡してみますよ。ご迷惑掛けてすいません」

 

『一応教えておいた方がいいと思って。連盟の方には、友人ですって答えておいたけど・・それで良かった?』

 

「はい。助かりました。ありがとうございました」

 

『それじゃ、私からの話はこれでおしまい。……みほも、そうだけどタカシとだって、いい友人関係でいたいの。それは、いいかしら?』

 

 ……はは。

 

「こちらこそ。お願いします」

 

『あと、その他人行儀な喋りはやめてね。ちょっと傷つくから。』

 

「わかりま……わかった。ありがとな。またいつでも電話してくれ」

 

『OK!お詫びの件は、また今度ね!じゃあね!Bye!』

 

 彼女は、最後まで明るい声だった。

 

 

 

 ……。

 

 まだ手が震えていた。

 彼女を、振ってしまった時からだ。

 俺は一体、何様のつもりだろう。

 ……あんな人を袖にして。

 

 ダージリンの事を言っていた。

 可愛そうだと。

 ……え?まさかな。

 

 ……。

 …………。

 

 まったく。思春期のガキか。……思春期のガキだった。

 

 あの試合から、どうもおかしい。

 今のもちょっと、トラウマを感じた時と同じ感覚だ。

 

 いろいろあって、

 何考えているかわからない、あのクソジジィもそうだし。

 千代さんの連絡も来ない。留守録にメッセージは、入っているはずなのに。

 

 

 

 最後に、先程の言葉を思い出した。

 

「……はっきりしろか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝練の為の早起きにも、少し慣れてきた。

 

 今日も、普通の登校時間より大分早めに部屋を出る。

 ちょっと今日は、いつもより余裕があるかな。

 

 アパートの階段を降りて行く。

 あ、カギ……。

 

 階段を降りて、下の階に近づいて行くと聞こえてきていた、カチャカチャとした金属音が、今日は聞こえない。

 彼の部屋の前に来たら、いつもの筋トレは、もう終わっていたようだ。

 

 休憩か、終了か。どちらかわからないけど、彼は、アパートの部屋の前に置かれていた、ベンチに座っていた。

 

 彼が作ったベンチ。自動車部から、いろいろ借りて来て、廃材とかで作ったお手製ベンチ。

 この人、何でもつくるなぁ。

 

「……おはよう。みほ」

 

「お・・おはよう、隆史君」

 

 大会から帰ってきてから、随分と元気が無いように見える。

 見た目は変わらないのだけど、覇気が無いというか、何というか・・。

 

 どうしたんだろ?

 

「……」

 

 下を見て、軽く息を上げている。

 ……やっぱり何か様子がおかしい。

 

「あの、隆史君」

 

「……なに?」

 

「何かあった?悩み事とかなら、聞いてあげる事くらいできるよ?」

 

「……そうだな。アー……」

 

 なんだろ?

 

「あー・・」

 

「うん?」

 

「言って、大丈夫なのかな……?」

 

 なんだろう。本格的におかしい。

 

「それは、聞いて見ないと、わからないけど……」

 

「いやまぁ……そうだよな」

 

 なんだろう?煮え切らないなぁ。

 この前の事かな?

 まぁ・・隆史君が全面的に悪い訳じゃないのは、わかっているし……本当に変な所、弱気になるなぁ、隆史君は。

 

「みほ」

 

「なに?」

 

「今日、朝練無いけど今から学校行くのか?」

 

「……あ」

 

 そうだった。今日は休みだった。

 まだ通常の登校時間には早すぎるのに、制服を着てカバンを持った私を見て、聞いてきた。

 焦る私を見て、彼が苦笑している。

 

 強引に話題を変えられたのかと思ったけど、ちょっと違った。

 息を飲んで、ため息をした。……思い切った様に口を開いた。

 

「……ケイさんからまぁ、昨日の昼休みに電話があってな」

 

「あぁ・・サンダースの。で?それが?」

 

 ちょっと口調が冷たくなっちゃった。

 でも彼は、特に焦るわけでも無く、淡々と話を続けてきた。

 ただ顔が、ずっと私の足元付近を見ている。

 

「んぁー……まぁなんだ。簡単に言うと「付き合わないか?」と言われた」

 

「…………」

 

 まぁ、ダーリンとか呼んでたしね。

 でも、まだ会ったの一回だけだよね?

 

 うん。ちょっとビックリして、思考が追いつかないな。

 

「……そう。告白されたんだ」

 

「あれは、そういう事だよなぁ……」

 

 ……。

 

 ……。

 

「それで?隆史君は、どうするの?」

 

「いやぁ……断っちゃった」

 

 ……。

 

「……そっか」

 

「初めて人から、好意を告げられたんだけどなぁ」

 

 ……多分違うなぁ。

 気づいて無いだけだろうなぁ。

 

 はっきり言わないと、わからないんだろうな。

 あの、お姉ちゃんでさえアレだ。……腕を組みに行くのだから。

 

「どうして、断っちゃったの?」

 

「ん?まぁ、この前のアレの後だろ?まだ良く知らない人だし」

 

「うん」

 

「それに……あ、いや。うん。正直な話、何で断ったのか俺にもわからん」

 

「うん」

 

「それでまぁ、モヤモヤして……今朝から全力で筋トレしてた」

 

「それは、わからないなぁ……」

 

「だからまぁ、俺自身の事だから大丈夫。うん。……うん」

 

「……」

 

「結局、何が言いたいのか、わからんな。よくわからない話して、悪かった」

 

「……」

 

「あれ。みほ?」

 

「……」

 

 断ったと聞いて、安心する自分がいた。

 

 断ったと聞いて、不安になる自分がいた。

 

 断った理由が、まだよく知らない人だから、と言っていた。

 

 ……これがもし、よく知っている人だったら、どうだろう?

 

 どうなんだろ?

 

 例えば……。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 第一回戦勝利の祝勝ムードも、学校全体に広がっている。

 生徒会が大々的に、戦車型のアドバルーンや垂れ幕で、発表しているのが大きいけど……。

 隆史くんに、全部やらせて悪かったかなぁ。

 

「今の戦力で、2回戦勝てるかなぁ」

 

「絶対、勝たねばならんのだ!」

 

 私のボヤキに桃ちゃんが、反論してきた。

 わかっては、いるんだけどね。不安になるよ。

 

「2回戦は、アンツィオ高校だよ?」

 

 会長が、カラカラと車輪付きの椅子に反対に座って滑ってくる。

 干し芋食べてないで仕事してください!

 

「ノリと勢いだけは……あるからねぇ」

 

「調子に乗られると、手強い相手です」

 

 

 

「逆に言えば、調子に乗る前に、叩けばいいだけですよ。只今戻りました」

 

「おかえりぃ~」

 

 戦車道の練習の準備をお願いしていた、隆史君が戻ってきた。

 

「ご苦労」

 

「ありがとうね。隆史君。あ、それ頂戴ね」

 

 隆史君が持っていた書類を受け取る時、桃ちゃんが気づいた。

 

「なんだ?尾形書記。顔色が優れないが……体調管理も仕事の内だぞ!」

 

 桃ちゃんが、それ言う?

 

「あれ?桃ちゃんセンパイ。心配してくれるんですか?」

 

「桃ちゃんと呼ぶな!!近い!離れろ!くるなぁ!」

 

 前より、近づかれても大丈夫になったけど……まだまだだなぁ。

 

「あ、そうだ。隆史ちゃん。アンツィオ高校に知り合いが、いたよね?」

 

「え?はい。いますね。料理仲間ですね」

 

「料理仲間?」

 

「ま、ちょっと昔、一緒に飯屋やった事あったんで。それが?」

 

「いやぁ~実際、どんな人達なのかなぁってね」

 

「食欲と、ノリと勢いと、食欲だけです」

 

 即答された。

 食欲って……2回も言ったよ。

 

「後、まぁ気のいい奴らですよ。……散々飯、食わされるけど」

 

 それじゃ良くわからないなぁ。

 

「じゃあ、食べ物を餌に、罠でも掛ければ引っかかるかなぁ?」

 

「餌をパスタ料理にすれば、高確率で引っかかると思いますよ」

 

 ……どんな人達なんだろう。

 

 

 

 

 

 --------

 -----

 ---

 

 

 

 

 

「おーい、1年。その持ち方じゃ危ないぞ」

 

 早朝練習の中、珍しく隆史君が、戦車倉庫にいた。

 

 大体練習が始まって、みんなが戦車に乗り込むと、一人っきりになる為、何をしているかわからない。

 スコアつけたり、私達の改善点とかを、西住さんと話し合っているらしい・・とは聞いていた。

 実際、プリントとかで、各チーム事のデータ表とか、目標点とか作成されて配られた。

 

 聞いてはいたけど、大体練習が終わるまで、どこかにいるみたい。

 何やっているんだろ?今度聞いていみよう。

 

 ただ今日は、みんなといる。

 更に、1年生に声まで掛けていた。

 

「あ、タラシ先輩!」

 

「あれ?スケコマシ先輩だっけ?」

 

「タラシ先輩の方が、言いやすいよね?」

 

「じゃあタラシ先輩で!何ですか?タラシ先輩!」

 

「……」

 

 あ、隆史くんが、渋い顔をしている。

 ダメージ受けてるなぁ……。

 でもまぁ・・自業自得だよねぇ……。

 

「……砲弾を戦車に上げる時、その持ち方では危ないぞ、と言っているんだ」

 

 あ、甘んじて受けた。

 

「腕だけの力で、重いものを上げちゃダメだ。腰を使え」

 

「腰って……なんかヤラシー♪」

 

 あぁ、からかわれてるなぁ……。

 

「……真面目に言っている」

 

「……あ、はい」

 

 あー……あの顔で睨まれたら怖いよねぇ。

 素直に従っちゃった。

 

「怪我をしてからじゃ遅い。力尽きて手を滑らしてみろ。砲弾を足に落としたら、折れるだけじゃすまんぞ」

 

 隆史君が1年を脅している。

 

「何してんの?」

 

「あ、会長」

 

「んぁ?隆史ちゃん?」

 

「えぇ。彼、練習中何してるのかなぁって見ていたんですよ。そしたら一年に何か教えてるようで……」

 

「ふーん珍しい。んじゃ、私も見てみよう」

 

 あれ。気がついたら他のチームの人達も見てるね。

 珍しいものね。

 

「いいか?腰をまず落として……そう。腹筋と背筋を意識して」

 

「腕じゃないんですか?」

 

「違う。腕だけだと疲れるだけだ。腰も痛める。肩に担ぐ感じで、腕を使いな。……そう、後は体全体で立ち上がる感じで上げてみな」

 

「あ!すっごい楽!」

 

「そうだろ?単純な筋力鍛えるのも大事だけど、それだけだと長続きしない。大事なのは、体全体で押上げる感じだよ」

 

「先輩、腕だけで上げれるんですか?」

 

 返事をする前に、他の砲弾を掴む。

 そのまま、砲弾を片手で軽々と車上の子に渡す。

 

「うわぁ!」

 

「受け取る方も、抱え込む様に……そう」

 

「まぁ鍛えれば出来るようになると思うけど、さっきも言ったけど、長続きしない。装填手は、今の要領でやれば装填スピードも上がるだろ」

 

「でも、戦車内ってあんまり広くないですよ?」

 

「応用だよ。重い物を持つ感覚……まぁ体の筋肉の使い方だな。それがあれば、無意識にできるようなるよ」

 

「へぇ~」

 

「装填スピードが1秒違うだけで、勝敗が変わる事もある。だな?みほ」

 

 西住さんが、話題を急にふられて慌てて答えてる。

 見られている事に、気がついていたかなぁ。

 

「う・・うん。乱戦や一騎打ちとかになると、特にそうだね」

 

「おー。お墨付きがでた!」

 

「タラシ先輩、ありがとうございます!」

 

「タラ……まぁ俺は、こんな事くらいしか教えてやれんけど、わからん事あったら聞いて……」

 

 言いかけた時、話しかけていた子から、小さくお腹が鳴る音がした。

 

「えーと、宇津木さん?飯食ってないのか?」

 

「ちょ・・ちょっとダイエット中でしてぇ」

 

 少し赤くなりながら、朝食をとっていない事を説明している。

 体ちっちゃいのに、それで持つのかなぁ。

 

「……朝食抜くと、逆に太るぞ」

 

「え!?」

 

「まぁ、人にもよるけど代謝が落ちて、太る人もいる。というか、装填手なんだからちゃんと食わないと」

 

「」

 

「ちょっと、待ってな」

 

 そう言っていつも持参しているクーラーボックスから、一つの包を取り出した。

 

「ちょっと休憩して、これでも食べな。ラップで包んで作ったから、直接俺の手で触れてない」

 

 包みの中は、おにぎりだった。何でそんなもの持ってるの。

 

「あの・・でも」

 

「いいから、食っとけ。昔バイトで出してたの同じだから、店の商品と変わらない。気持ち悪いならやめとくけど……」

 

「いえあの・・何でこんなもの持ってるんですか?」

 

「……みほが、たまに同じ事するから。朝練ある時は、予備で作っておくんだ。余ったら自分で食う」

 

 隆史君!って、遠くで少し赤くなりながら抗議している西住さん。

 

「卵焼きもあるぞー。甘いのとしょっぱいのどっちがいい?クーラーボックスって保温性もあるから、こういう時役に立つ」

 

「え……じゃぁ甘いの……」

 

「んじゃこれね。椅子で、ちゃんと座って食べな」

 

「はい。あ・・ありがとうございます」

 

「あ、ちなみにな。装填手は、痩せるぞ」

 

 「「「え!?」」」

 

 あ、他の人達も食いついた。

 

「さっき言った方法で、やっているとな。腹筋を意識して鍛えるのと一緒だから、ウエスト辺り引き締まるぞ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「体重は、筋肉がつくからあまり変化ないけどな。見た目が、全然変わってくるぞ。ただ、飯食わないとキツイだけだからな。これからは、ちゃんと食べなさい」

 

「は・・はい!ありがとうございます!」

 

 頭を下げて、座れる所を探しに行ってしまった。

 ゴソゴソ片付けをしている隆史君に、桃ちゃんが……。

 

「尾形書記!勝手に休憩にしてもらっては、困るぞ!!」

 

「桃センパイ。すいませんね。空腹で集中力切らして、怪我でもしたら元も子も無いでしょう」

 

「ヌ!」

 

「あぁ後、桃センパイ。生徒会の仕事……柚子先輩に頼まれたの、やってなかったでしょ。机に積んでありましたけど……」

 

「あ!」

 

「ちょ!桃ちゃん!あれ締切、昨日だよ!?」

 

 それはちょっと困る。締切過ぎてるよ。

 戦車道だけじゃなくて、学校関係の発注書類とかあったのに!

 

「あー。俺やっときました。勝手にやってすいません。コピー取ってあるんで、後で柚先輩、確認して下さい」

 

「本当!?隆史君!!ありがとー!!」

 

 助かったよ!本当に助かったよぉ!

 ……発注書類関係を、桃ちゃんに任せた、私が悪いのかな……。

 

「桃センパイ」

 

「な・・なんだ!!」

 

 青くなっていた桃ちゃんに、追い打ちでもかけるのかな?

 

「……戦車倉庫内にあった布製品。汚れたからって、丸めておかないで下さい。油が付いていても洗えば、まだ使えます」

 

「な!」

 

「掃除用とかのもそうです。自動車部のツナギと一緒に洗濯しときましたんで、後でちゃんと片付けてくださいね」

 

 ……あれ。いつの間にか自動車部とも仲良くなってるの?

 

「あ、そうだ。鈴木さーん。この前、頼まれてたのできたよ。放課後、車で運んでやるよ」

 

「カ・・カエサルだ!……すまん。助かる」

 

 ……え。なに隆史君。すごい働いてるけど。

 

 いつの間にか、うさぎさんチームの丸山さんが、隆史くんの制服をつまんでいた。つまんでクイクイ引っ張っていた。

 

「な・・なに?丸山さん」

 

「……お父さん?お母さん?」

 

「……まだ独身です」

 

 隆史君の主夫化が進んでいた。

 

 

 

 -------

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 ---

 

 

 

 

 苦笑しながら答える隆史君の目線が、戦車倉庫の入口に向いていた。

 急に、真顔になるから、何かと思い目線の先を見てみた。

 

 皆の戦車正面の向かい側、初めから開かれた扉の真ん中に、二人の女性が立っていた。

 

 知らない人だ。

 そもそも服装が、大洗の制服では無かった。

 

 どこかの制服かな?同じ格好をしている。

 大人の女性に見えるけど……。

 

 

「練習中すいません。大学戦車道連盟の使いの者です。少々よろしいですか?」

 

 メガネをかけた女性が名乗った。

 大学の連盟?

 

「どうも。こんにちはぁ。生徒会長の角谷です。どの様なご要件ですか?ちょっとまだ授業中なんですけど」

 生徒会長が、真っ先に挨拶をした。

 

「大学の戦車道連盟の人が、なんの用だろ?」

 

「なんだろ?」

 

 もう一人のロングヘアーのお姉さんは、申し訳なさそうな顔をしていますね。

 西住さんに、用があるんだろうか?家元の娘ですしね。

 

「ごめんなさいねぇ。尾形 隆史さんは、いらっしゃいますか?」

 

「え!?隆史君!?」

 

 意外な名前が上がった。

 

「隆史君は……確かにいますが、……大学の連盟の人が、なんの要件でしょうか?」

 

「少し……彼に御足労をお願いしたく迎えに上がりました」

 

 私との会話をしながら、唯一の男性である隆史君を……睨んでる?

 

「私達は、あくまで使いの者です。関係の無い方にはお話できません」

 

「それは無いんじゃないのかなぁ?理由も無しに、連れて行くなんて」

 

「会長。俺は、いいですよ」

 

 会長の発言を遮って、隆史君が彼女達の前に出てきました。

 

「多分、練習試合の時に、俺が抜けていた理由に関係してますから。家の問題ですよ」

 

「隆史ちゃん?」

 

 会長と彼女達との間に割り込む。

 あんまり良い雰囲気とはいえない。

 

「一つ教えてください」

 

「何かしら?」

 

「貴女達は「誰」の使いですか?」

 

「誰とは?」

 

「……わかるでしょ?」

 

 ……。

 

 暫く黙り込んで、睨み合っている。

 西住さんが心配して、隆史君の後ろにまで来ていた。

 

「……はぁ。島田流家元よ。私達は、彼女の教え子です。家元に頼まれて迎えに来ました」

 

 諦めたように、隆史君の問いに答えました。

 うわぁ……すっごい嫌そうに言うなぁ。

 

「確認しても?」

 

「確認ですって?……信用ならないって顔してるわね。どうぞ?何するか知らないけど。それで納得いくならね」

 

「……わかりました。ありがとうございます」

 

 そう言って携帯を取り出して、電話を操作している。

 明らかに不機嫌になった女性達。

 

「なに?連盟にでも問合わせているの?……あまり、お姉さん達を、舐めてもらっても困るのだけど?」

 

 半分小馬鹿にしたような顔をしている。

 段々口調が、素に戻っていっているのか、もう社交辞令の敬語も使わなくなっていた。

 

 ……が、隆史君の電話相手が出たのだろう。名前を呼んだらその顔が引きつった。

 

「あ、千代さん?やっと出てくれましたね」

 

 「「!!?」」

 

「……そうですか。そんな多忙な時にすいませんでした。いえ。少々確認したい事がありまして……」

 

 隆史君が会話中、彼女達の様子が急に焦りだしたように見えます。

 

「……はい。そうですか。こんな時ですからね。……わかりました」

 

 電話をしながら彼女達に近づいていく。そのまま携帯を、目の前に差し出した。

 

「な・・なにかしら?」

 

「あの・・ルミさんって人に変わってほしいって……」

 

「え!私!?」

 

 メガネを掛けてた女性が、恐る恐る携帯を受け取り、耳に当てた。

 

「……はい」

 

「い、いえ!!そんな事は!!だ・・大丈夫です!はい!丁重に!!」

 

「……」

 

 完全に先程までの威圧感が、無くなっている。

 会話に参加できなく、まったく状況がわからない、もう一人の女性は完全にオロオロしちゃっている。

 

「……はい。ありがと」

 

 会話が終わったのか、隆史君に携帯を返している。

 通話がすでに切れているのか、携帯をズボンに入れる。

 

「はぁ……やっと繋がった……。やっと話ができた」

 

 隆史君は、ボヤく時に音量を考えたほうがいいね。

 周りに丸聞こえのボヤキは、ボヤキじゃないよ?

 それで、毎度痛い目にあっているんじゃないのかなぁ?

 

「そういう訳で、確認が取れましたね。直接、俺に直接説明したいって事でした。貴女達の事も納得できましたし・・同行します」

 

「そ・・そう!良かったわ!」

 

「そうね!行きましょう!!」

 

 急に焦りだしたなぁ。

 電話が終わってから、ソワソワしだした。

 先ほどと態度が違いすぎる。

 後ろを向いてコソコソ相談し始めた。

 

「家元に釘を刺されちゃった……」

「こ……婚約者の親だもの。番号くらい知っていて当然よね?」

「下の名前で呼んでいるのにも、びっくりしたけど……」

「家元に何言われたの!?」

「あ……危なかった。拒否したら無理矢理にでも、連れて行こうと思ったけど……」

 

「何言ってんですか?」

 

「な!何でもないわ!!」

 

「気にしないで!!」

 

 あからさまに怪しいのですけど……。

 

「会長。そんな訳で、申し訳ないですけど早退します」

 

「えー。まぁ隆史ちゃんが、いいならいいけど」

 

「すいません。……それじゃ、荷物取ってきていいですか?」

 

「え!?えぇ!もちろんよ!」

 

 隆史君はそれだけ言って、教室に戻ってい……かないな。

 入口の外で立ち止まって、顔を横に向けている。

 

「……貴女も、連盟の使いの人ですか?」

 

「そ、そうね!」

 

 壁に隠れて、中にいる私達には見えないけど、誰かと会話をしているようだ。

 女性かな?

 

「……何ですか?その荷物」

 

「気にしないでね?細かい事気にする子、お姉さん嫌いだなぁー!」

 

 明らかに声だけでも焦っているのが、わかるんだけど……。

 首をかしげて、そのまま今度こそ教室に向かっていった。

 

「練習中、失礼しました」

 

「では、私達もこれで」

 

 お姉さん達も、最後はビシッっと決めて帰っていった。

 あの状態からだから、決まってなかったけど。

 

 あれ?

 

「西住さん?どうかした?」

 

「あ、いえ……」

 

 隆史君の位置に一番近くにいた、西住さん。

 何か考え込んでいる。

 

「……帰って来たら聞いていみよう。今は、試合の為に集中しないと……」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 じ・・地獄だった。

 移動中のヘリの中が、地獄だった。

 何?あの延々と黙って、睨まれる拷問。

 一人は操縦の為いなかったが、二人に延々と睨まれる。

 ずっと見られているだけでも苦痛なのに。

 

 初対面だよね?

 何もしていないよね?

 

 戦車倉庫の外にいた女性は、大きな半開きのバッグを持っていた。

 あそこでは、黙って見過ごしてたけど……中身がエグかった。

 

 何で、スタンガン入ってるの?

 拘束用のためだろうか?ロープやらなにやら……。

 

 ヘリの中で聞いてみたけど、万が一の為としか答えてくれないし……。

 

 そして、やっとその地獄が終わったのが、夕方になってからだ。

 ようは、到着したんだ。

 

 日本戦車道連盟会館の迎賓館。

 

 初めに呼び出された所。

 

 ヘリが到着し、迎賓館まで先程の3人が、俺を連行している。

 うん……連行してるね。逃げやしないってのに。

 やっと千代さんと話せるんだから。

 コツコツ廊下を、3人に囲まれながら歩いている。

 

「あの……別に逃げやしませんよ?」

 

「……」

 

「あの……」

 

「逃げない証拠は?」

 

「は?」

 

「婚約を破棄されると分かっていて、君が黙って家元に会いに行くと思ってるの?」

 

「……えーと」

 

「あんな可愛い隊長と婚約破棄よ?それを黙って受け入れるなんて、到底信じられないわね」

 

 ……えらい、真顔で公私混同をしている。

 あれ?あんたら大学連盟の使いじゃないの?

 それに隊長?……あ。愛里寿の事か。

 

「貴女達、大学選抜チームの人か」

 

「……そうよ」

 

「あの隊長の為に、この役にも志願したってのに……素直に貴方がついてきて、若干信じられないのよ。なにか企んでいるんじゃないかってね」

 

「あー・・。あのスタンガンやら、拘束具は俺が断った時に、無理にでも連れて行く為か……」

 

 スゲェーこと考えてるな。愛されてるなぁ……愛里寿。

 ってことは、この人達は、どういった経緯なのかは、知らないのか。

 

 まぁねぇ。傍から見れば政略結婚か何かと考えるのかなぁ。

 この人達から見れば、俺はあのガマ蛙と同じなのね。

 

「でも、なんで大学選抜の選手が、俺を迎えになんて来たんですか?あまり関係無いですよね?」

 

「志願したのよ」

 

 声だけで返された。

 

「家元から聞いて、私達で行くってね」

 

 ……逃がさない為にですね?とは聞けないけど、概ねそんな所だろ。

 人に任せておけないと。

 

「着いたわ」

 

 迎賓館の応接間、以前と同じ部屋だ。

 全体的に洋風な造りの為、夕日が当たる廊下は、独特な雰囲気を出していた。

 

 なんかえらい色っぽい大学生が、ノックをしている。

 

「アズミです。れんこ……お連れしました」

 

 連行って言いそうなっただろ。やっぱり連行じゃねぇか。

 

「これで、終わりね」

 

「やりましたよ隊長」

 

 あー・・愛が痛い。

 

『どうぞ。』

 

「失礼します」

 

 ガチャっと扉を開けた瞬間、すごいプレッシャーが押し寄せた。

 まさにブワッって感じに。

 

 「「「 ヒッ!」」」

 

 大学生達が怯んだ。

 まぁー……無防備で、いきなりこれじゃあなぁ……。

 

 さて。

 

「なんで居るんですか。しほさん」

 

 部屋の中に3名居た。

 

 右側の席に、千代さん。

 

 左側の席に、しほさん。

 

 その後ろに……あく・・亜美姉ちゃんまでいるよ……。

 

 何この部屋。

 

 あの練習試合後の、喫茶店をはるかに凌駕するんだけど……。

 

 

「ねぇ・・なんで西住流の次期家元までいるの?」

「蝶野さんまでいるけど!?」

「なにこの雰囲気!」

「ちょっと……この部屋入りたく無いんだけど……正直帰りたい!」

「た・・隊長の為よ!」

「そ・・そうね!」

 

 目の前に立っているから、邪魔だなんだけど。

 あー……もういいや。先に入ろう。

 彼女達の間を縫って入室する。

 

「失礼します。お久しぶりですね。しほさん、千代さん。……亜美姉ちゃん」

 

「久しぶりですね。隆史君。……フフッ」

 

「クッ・・わざわざ、ごめんなさいね。隆史君」

 

「先週ぶりねぇ。隆史君」

 

 なんだろう?若干嬉しそうな、しほさん。

 悔しそうな、千代さん。

 亜美姉ちゃんは、どうでもいいや。あ……笑顔で怒ってる。

 

 

「なに、あの子!?」

「平然としてる……」

 

 

 ……もう慣れました。

 

「何度も連絡をくれたのに、ごめんなさいね。少々仕事が立て込んでいたの」

 

「えぇ、先程少し伺いましたが……。でも何で、しほさんがいるんです?」

 

「本日、隆史君が来ると言ったら来ました。お邪魔ですよねぇ?」

 

「……貴女との口約束の決着を見るためです」

 

 なんでそんなに喧嘩腰なんですか、貴女達は。

 

「では、まずお掛けください。……貴女達は、もう下がってよろしいですよ」

 

 目線で、後ろの大学生達に合図を送る。

 

「あ、千代さんが良かったら、このまま居てもらってもいいですか?」

 

「え?彼女達に?」

 

「えぇ・・俺の状況の誤解を解きたいので……。彼女達がよければですが」

 

 また、拉致目的で来られてもたまらん。

 大学生の選抜選手なら、事情が分かれば今後、協力してくれるかも知れない。

 まぁ全て終わっていればそれで良いし。

 

「どうする?貴女達」

 

 「「「 はい!お願いします!」」」

 

 ……態度が強ばっているけど大丈夫か?

 

「そうですか。では、まず最初に……」

 

「はい」

 

「この部屋に入ってきた時、何故、最初にしほさんの名前を呼んだのでしょう?」

 

 

 

 ……。

 

 

 

「……は?」

 

「フフ……、見苦しいですね。千代さん?」

 

 ……。

 

「……お聞きしたいのですけど?」

 

 え?

 

「あの……。普通に、しほさんがいるのが、意外だったからですけど……」

 

「本当に?」

 

「あの……え?なんで?」

 

 うっわー。家元二人共、笑顔なんだけど、多分意味が違うんだろうなぁ……。

 

「フー。もういいでしょ?千代さん早く本題に入ってください」

 

 いつの間にか、後ろに来ていた、亜美姉ちゃんが説明してくれた。

 

「あの二人、隆史君が来る前に、どちらの名前を、先に呼ぶか勝負してたの」

 

「え?そんなの何か意味あんの!?」

 

「無いわね」

 

 即答しやがった。

 

「……それで、ピリピリして、あのプレッシャーを発していたのよ」

 

 ……。

 

 

「千代さん……あの、大学生の方もいますので、ね?……本題に……」

 

 ある意味、この人達ブレないから安心する自分がいる。

 

 ……多分、俺の中のどこかが、ぶっ壊れたな。うん、慣れちゃった。

 

 

 

 

 

 ----------

 ------

 ---

 

 

 

 

 

 

「では、今回の件ですが……」

 

「はい」

 

 やっと本題か。うん、真面目な話、大好き。

 

「あ、まず先に言っておくべきでしたね。家元襲名おめでとうございます」

 

「フフ・・ありがとうございます」

 

「でも随分と早かったですね。亜美姉ちゃんから聞いたときは、驚きました」

 

「えぇちょっと頑張りました。多少無理もしましたけどね」

 

 そこで、飲み物が運ばれてきた。

 また、えらい高そうなカップだなぁ……。

 ……紅茶か。

 

 ……ダージリン達か。

 

 あ、今はこっちの話だ。

 

「正直、練習試合を見た限りでは、勝ち続けるのは無謀に思えました。しかも、初戦の相手がサンダース大学付属高校ではね」

 

 あー・・まぁ。

 

「いくら、「西住 みほ」さんが、いらしても不安しかありませんでしたので……事を急ぎました」

 

「そ・・そうですね」

 

「ごめんなさいね。……正直負けると思っていました。試合前には、何とかしなければと……その為、予定より大分早く、家元襲名と相成りました」

 

 いやまぁ……そこはしょうがないと思うけど。

 しかし、先程と違いすごい上機嫌だなぁ。

 

「でも、そうなると俺って、必要なかったんじゃないかと思うわけですが……」

 

「いえいえ。隆史君が、愛里寿……娘の為に時間稼ぎになってくれたおかげで、妨害も無く集中できました。お陰で思ったより、大分早く事が片付きました」

 

「いえ。それで忙しかったと?」

 

「それもありますが・・まぁ先に結果から言いましょう。まず私の家元襲名。次に大学戦車道連盟理事長の「島田 忠雄」を失脚に追い込めそうです」

 

「は!?」

 

 それで、えらく上機嫌なのか……。

 

「や、いや。それはいいのですけど・・え?失脚!?いくら何でも早すぎませんか?」

 

「えぇ。事がうまく噛み合い、全てうまく行きましたよ」

 

 え?どういう事だ?失脚!?

 

「まず、あのヒヒ爺が大好きな実績とやらですが、大洗学園がサンダースに勝利した時点で、貴方に大きな実績が付きました。正確には、貴方達・・ですけどね」

 

「一回戦だけで?それだけで?」

 

 紅茶を口に含み、ゆっくりと喋りだす。

 

「使い古しの型落ちの戦車、それもたった5輌。その戦力で、倍の数である相手に勝利した。それも初出場の素人集団が」

 

「……」

 

「圧倒的に不利な戦力で、優勝候補校に勝ちました。強豪高校同士の対戦では無いのですから、これは十分な戦果ですよ?実績ってやつですね」

 

 弱小校を強豪校に。それも圧倒的不利な状況でも、勝利に導いたという実績……か。

 

「でも、俺特に何もしてませんよ?それは隊長である、みほの戦果ですよ」

 

「関係ありません。そんな事は、後からどうとでもできます。もちろん表沙汰には、しませんけどね」

 

 後付けで、どうとでもなるって事だろうか?嫌だなぁ……そういうの。

 ……そんな事言ってられないのかなぁ。

 

「その「西住 みほ」さんを、戦車道に引き入れ、サポート役として活躍……などでもいいですど。まぁいろいろできます」

 

 あれ?ちょっとニヤけてますが……。

 

「それに知っていますよ?最後の無線での激励。十分ですよ」

 

「」

 

 なぜ知っている!?顔が熱くなるのがわかるじゃないか!

 クスクス全員が笑っている。

 全員知ってんのかよ!!

 

 ……違う。何故か、大学生の人達がソワソワしだした。

 

「ふぅ……。私が家元を襲名して、大学戦車道連盟理事長に任命が確定になりましても、時期というものがあります。

 ですから本年度までは、大学戦車道連盟理事長の肩書きを持つ、ヒヒ爺が不安材料でしかありません」

 

「あ……そうか」

 

「実際になるのは、来年度でしょうね」

 

 そうか、正確には次期理事長ってことか。

 

「まず、隆史君。貴方は、蝶野一尉に「島田」の名前を使いましたね?」

 

 あ。

 

「えぇ。ヘリを貸してもらう為に。すいませんでした」

 

「いえ。もっと使ってもらっても良かったのですよ?まぁ貴方の事だから、使うか使わないか分かりませんでしたけど……これが、決め手になりました」

 

「……どういう事ですか?」

 

 俺個人の為に、人様の名前を使ったという、非常に情けない話なのに。

 

「まず最初に、「文部科学省 学園艦教育局長 辻 廉太」。……試合の翌日に、私に連絡を取ってきました。直接面会にまで来ましてね」

 

「あぁ・・あの七三分け。何でまた」

 

「「島田 忠雄」を裏切りました」

 

 ……感情のない声で、言い捨てた。ちょっと怖い。

 

「あの局長も、一回戦で大洗学園が勝利した時点で「島田 忠雄」が、追い込まれたと、確信していました。

 もう一度言いますが、それ程の戦果ですよ?誰も貴方達の勝利は、予想すらしていなかった。

 あの局長。やはり貴方への妨害の指示を、再三と受けていたようですよ。まぁ巻き添えを回避したかったのでしょうね。

 ……手土産に、ヒヒ爺の汚職の証拠と、妨害内容の一覧まで持参してきましたよ」

 

「何でまた急に……。まだ大会は続きますよね?」

 

「先程も言いましたが、隆史君が「島田」の名前を、「蝶野一尉」に使ったからでしょうね」

 

「……は?」

 

「実はですね……」

 

 大洗学園と聖グロリアーナの練習試合当日。

 あの喫茶店、千代さんの目的は、しほさんに会いに来る事だったようだ。

 俺と別れた後、しほさんに協力を頼んだそうだ。

 協力できる人材の確保。

 

 そこで、しほさんと母さんの推薦も有り、亜美姉ちゃんに白羽の矢が立った。

 俺の知り合いで、ある程度の地位も有り、戦車道大会にも顔が利く。完全に、こちら側の人間。

 

 その後、千代さんは、すぐにある噂を流していた。

 俺とガマ蛙とのやり取りを少し、情報操作した噂を。

 

 

 

 島田流次期家元の娘・・あの天才少女に婚約者がいる。親も認めている許嫁だ。

 そこに、あの悪い噂しか聞こえない「島田 忠雄」が、年甲斐も無く横恋慕している。

 

 まぁ、元々悪評しかないあの男。島田流家元に連なる、名前が欲しいのだろ。

 だからって相手は13歳の少女だろ?

 女好きなのは有名だけど、まさかロリコンの気まであるとはね。

 

 しかし、実際の許嫁は誰だ?あの容姿端麗な、次期家元が認める相手だろ?

 どこかの御曹司か何かかね?相手は高校生らしいけど。

 その許嫁に、「島田 忠雄」が条件を出してきたらしいぞ?実績を出せば諦めると。

 

 金で買った地位の男が、偉そうに。

 肩書きが大好きな、あの男が言いそうな事だ。

 そもそも、ただの学生が上げる実績とはなんだ?

 ……意地が悪い。

 

 

 

「大まかに言えば、こんな感じかしらね」

 

「……」

 

 さりげなく御自身が、容姿端麗だと噂も流してますね。はい、わかります。

 

「この計画は、予備の計画でした。不確定すぎますからね。

 あらかじめ、蝶野一尉の管轄内で、隆史君が「島田」の名前を使ったら、派手に噂を流して欲しいと頼んでおきました。

 戦車道の試合会場内で使用するのならば、頼れる人物は、彼女くらいでしょうしね。

 「島田」の名前を隆史君が、使わない可能性もある以上、本当に気休め程度の計画でした」

 

「それなら、あらかじめ俺に、要請でもしてもらえば良かったんじゃ?」

 

「それでは、あまり意味がありません。それに、これ以上巻き込むのも気が引けましたので」

 

 ……今更だなぁ。

 

「それに、あの局長は「島田 忠雄」の指示でしょうね。妨害工作の為に、局長の関係者が現場にいました」

 

「何もされませんでしたけど……」

 

「どうも金絡みの妨害だったらしく、現場には来たらしいのですが、何もしないで見ていたそうです。

 何もしなくても大洗学園は負ける……。下手に金銭を使った妨害するよりも、見ていた方が得策だと思ったようですね。

 すでに何かあれば、アレと手を切るつもりだった様ですね。 ……そこで、貴方と蝶野一尉のやり取りを見ていたそうです」

 

「……」

 

「私が、あそこまで怒鳴ったのは、周りへのアピールね♪」

 

「亜美姉ちゃん、「島田」の名前を使う事を止めていたよな?俺自身が、公式に島田の婚約者だと、認めることになるとか」

 

「演技よ、演技。大体、島田流家元の名前をフルネームで、あんなに大声で言う訳無いでしょ?しかも、貴方のお母さんと西住流家元の名前まで。

 私が言ったくらいで、貴方があの場で引かない事くらいわかるわよ。だからできるだけ派手にいったわ。

 公式に認めるもなにも、その辺は島田流家元が、どうとでもできるわよ。

 それに、いくら身内や知り合いだからって、自衛官が一般人引っぱたいて……私も結構、やばかったわ」

 

「結構マジで殴ってたよな……」

 

「言った事は、結構本気よ。私が婚約当日の日に、ここにいたら止めていたわよ。ふざけんなって」

 

 千代さんが、話の腰を折るなと、亜美姉ちゃんを目で止める。

 

「自身から、島田流家元のご息女の許嫁と公表し、蝶野一尉から自衛隊の最新機を借用の許可を取った。

 しかも、貴方のお母様とそこの西住流家元との間柄も公表。

 最新機借用と蝶野一尉の口伝で、上層部まで知ることになった……。

 貴方一部で、すごい有名になりましたよ?私の所にも連日、確認の為の問い合わせが、すごかったわ。

 そこで敢えて、包み隠さずに「真実」を話しました。……貴方はヒーロー扱い、あの男は……。

 それと同じで、あの局長は、すぐに各所に確認を取ったのでしょう。そこで、裏切る決意をした……って所でしょうね。

 貴方の名乗りが、あの局長の裏切りの後押しをしたって所でしょうね」

 

 嬉しくない。そんな事で有名になっても……。真実を話した事で、婚約から後に引けなくなるはずだった、俺の逃げ道でもつくったのかね。

 しかしあの学園艦教育局長……。引き際が良すぎる。

 

「あの男にはもはや敵しかいないような状態。同情や正義感からでしょうかね?逆に、私達側には味方が、大勢増えました」

 

 ……千代さんは、たまに本気で怖く感じる時がある。クスクス笑ってはいるが、この人を敵に回したくないって考えしか浮かばない。

 

「元々、汚職の疑惑だらけでしたし、近々監査を入れます。あの局長の持ってきた証拠で、もうあの男も終わりでしょね。

 また、貴方への妨害内容も酷かったですね。ほぼ金の力に、物をいわせたものばかりでした。まったく・・無能が……」

 

 呆れてものが言えないって顔だ。実際内容は酷かった。

 日本戦車道連盟からの助成金の停止、審判の買収等……。

 なるほど。あの局長とやらも馬鹿らしくて指示は聞いたが、協力しなかったのだろう。

 

 あのガマ蛙が失脚すれば、あの局長にもメリットでもあるのかね?

 まぁ何より、あんなのと心中はゴメンだろうな。偶然とは言え、ほぼ自爆みたいな物だしな。

 

「時期を待たないで「島田 忠雄」が、大学戦車道連盟理事長を下ろされるのが、もはや確定しています。

 その為、裏での理事長としての仕事内容の引継ぎ作業で、連日忙しかったのです。それも終わり、漸く貴方を呼べました」

 

 はぁ……と軽くため息をついた。

 この人が珍しい……よほど忙しかったのか。

 全て片付いたって顔しているけど……本当に?

 

「あの……ちなみに、本命の計画ってどういう内容だったんですか?」

 

「知らない方がいいわ♪」

 

「……」

 

 目がマジだったから、聞かないでおこう。うん。

 

「あ・・でも、サンダースの隊長に俺に関して、大学戦車道連盟から問い合わせがあったみたいですよ?」

 

「……どういうことでしょうか」

 

「つい最近のようですね」

 

「……わかりました。少々調べてみすね。……イロイロと」

 

 千代さんは、立ち上がり、仕事机だろうか?その上の電話の受話器上げた。

 内線でもかけているのだろう。

 

「えぇ。もう話は、ほぼ終わったわ。そろそろ、こちらに来て頂戴」

 

 そのまま受話器を下ろし、また椅子へ座ると、直ぐにドアからノックが聞こえた。

 

『……母上。入ります。』

 

「……どうぞ」

 

 

 

 

 

 ----------

 ------

 ---

 

 

 

 

 

 

 向かいの部屋に、愛里寿がいたようだ。内線電話で呼ばれここにいる。

 俺の横に並んで座っている……のだけれど、大学生達が随分と慌てているようだ……。

「何で貴女達がいるの?」って言われた時から、随分とまぁ・・アワアワしちゃって。

 

「さて、大体の問題は片付きました。約束通り、貴方達の婚約も破棄となりますが、よろしいですか?」

 

 大学生達が、パァァっと明るい顔になった。

 今まで黙っていた、しほさんも頷いている。

 当人同士という事で、愛里寿もここに呼ばれた。

 

「はい。そういう約束でしたものね」

 

「……はい」

 

 これで俺の役目は、終わりかな。

 結局、偶然で片付き、相手が自爆したような物だけど。

 なんにもしていない……。

 

 あ、囮役に、なっていたって事か。

 

「隆史君。今回の件、ありがとうございました。私としては、このまま婚約状態でも構わないのだけど……しかし口約束とはいえ、約束は約束」

 

「そ・・そうですね」

 

 しほさんから一瞬、殺気が出たぞ・・。

 

「愛里寿。今ここで、説明通り。貴女と隆史君との婚約は、破棄となりました。でもそんな顔しないの」

 

 横目で見ると……暗い顔をしていた。

 頭に手を乗せて、軽く撫でてやった。

 

「愛里寿、まぁその・・なんだ。うーん……」

 

 何か言ってやろうと思ったが、言葉が出なかった。

 ただ、頭を撫でているだけ。

 

 それでも、満足そうな顔をしているので、まぁいいか。

 

 

「あの男……。隊長が髪を触らせるなんて……」

「私達の隊長にぃぃ……」

「あぁ、でも満足そうな隊長が、カワイイ・・」

 

 

 大学生達から、殺気やら何やらイロイロ飛んでくるんだけど……。

 もう誤解は解けていますよね?

 

 

「では、そうですね。後は食事でもしながらで宜しいでしょうか?一席設けてあります。隆史君は、大丈夫?」

 

「え・・えぇ大丈夫ですよ」

 

 あの、愛里寿さん。そろそろ手を離してください。

 撫でていた手を、掴まれていた。

 なんだろう。この仕草を見て、ちょっとオペ子を思い出した。

 

 その瞬間、スッっと手を離された。あれ?

 

「……隆史さん。今私の頭を撫でながら、別の女性の事を考えていませんでしたか?」

 

「」イイエ。

 

「……ならいいです」

 

 ……プイッっと横を向いていしまった。

 

 え、何?え?

 

 

「た……隊長が、一瞬女の顔になった……」

「……まだスタンガン持ってる?」

「……鞄にあるわ」

 

 

 物騒な事言い出したぞ・・おい。

 

 あれ?

 

 ……今気がついたけど、愛里寿以外、大人の女性に囲まれている。

 亜美姉ちゃんは論外だけど、大学生含めて囲まれている。

 これは、チャンスでは、ないだろうか?

 

 ケイさんから電話をもらい、ここ数日ずっと考えていた事。

 相談相手がいないから、考え込むしかなかった。

 

 みほは、多分ダメだし、優花里も多分ダメだろう。

 華さんは怖いし、マコニャンは……頭いいけど多分ダメだろうなぁ……経験なさそう。

 沙織さんは……多分一番聞いてはいけないと、本能が判断した。

 

 そうだな。

 大人の女性に聞いた方が、解決するかもしれない。

 丁度、食事会をしてくれると言うのだ。

 

「しほさんは、どうしますか?」

 

「そうですね。婚約破棄も見届けましたし……予定も有りますし」

 

 ありゃ、しほさんダメそうか。

 

「しほさん帰っちゃいますか?そっかぁ……」

 

「どうしました?」

 

「いや、折角だから、ちょっと私用ですけど・・相談したい事あったんですけど、まぁ仕方ないですね」

 

「隆史君が、私に相談とは・・初めてですね。どのような?」

 

 ちょっと、みんなに注目されている。

 千代さん含め、大学生にまで見られている。

 

「あー・・なんというか。俺って傍から見て、鈍感ですかね?」

 

「そうですね」

 

「何をいまさら」

 

「あら、何か楽しいお話かしら」

 

「……デリカシーも足りないですよね」

 

 愛里寿さん!

 

「……で、それを少しは解消したいと思いまして。どうも俺は、自身に対する他者の好意というものが、わかりづらくて」

 

「つまり?」

 

「あー。まぁ俗に言う・・恋愛相談とやらですかね」

 

 ガタッ!

 

「ちょっと最近、イロイロありまして……」

 

 あ、亜美姉ちゃんが飛び退いた。

 家元コンビと愛里寿は、目を見開いている。

 

「隊長と婚約破棄した直後に、恋愛相談とか……」

 

「最低ね」

 

「死ねばいいのに」

 

 ……大学生チームが酷い。

 

「別に俺が、女の子と付き合いたいとか、意中の人がいる・・とかでは無くてですね。相手の気持ちくらいは、ある程度自覚しないといけないと失礼かなぁって……。

 こういう事、同級生には聞きづらくて……特にみほとかに」

 

「……そうですね。そこは正解です」

 

「大人の女性に聞いたほうが、いいかなぁって思ったんすけど……。あ、でも千代さん詳しそう……」

 

「……………………」

 

「愛里寿も・・なんかゴメンな。タイミングが、確かに悪かった」

 

「大丈夫。敵対勢力情報が、確かに足りなかった。この機会に手に入れる」

 

 愛里寿さん?

 

「あら。隊長がやる気になってる……」

 

 何に!?

 

「……では、しほさん。当然行きますね?お食事会」

 

「当然ね。今、予定を全てキャンセルしておきました。明日まで付き合いますよ。隆史君」

 

 え……。

 

「そうだ。貴女達3人も来なさい。蝶野一尉もいらっしゃいますね?」

 

「当然ですね!こんな面白そうな事!!」

 

 あ、いかん。亜美姉ちゃんのキラキラした目は危険だ。

 

「では、全員参加という事で。では、移動しましょうか。隆史君には、イロイロと暴露して頂きましょう」

 

「えっ!ちょ!!」

 

 亜美姉ちゃんに左腕を、ガッチリホールドされた。

 

「あ、愛里寿ちゃん。彼の右手でも握っていて。そうすれば多分逃げれないから」

 

「はい」

 

 そっと、右手を握られた。力尽くで振りほどけない……。

 千代さんが、先程とは違いなんだろう……すっげー楽しそうに言った。

 

 

「楽しいお食事会になりそうですね」

 

 




ハイ、閲覧ありがとうございました。

鈍感を自覚し始めたオリ主さん。
ケイさんは、オリ主の相談役として作ろうと思っていました。
なに気にフランクでも、オリ主にちゃんとした事を言ってやれる人物って少ないですし、比較的常識人のケイさんは、適任でした。

家元説明ちょっと、くどかったですかね。
この部分に直しいれまくって時間がやたらかかりました。
考えすぎるとワケ分からなくなりますね・・・。
もちょっと単純化できればいいのですけど。

次回は「しぽりんとちよキチの家元恋愛相談室」
・・・タイトルがキツイ。
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