転生者は平穏を望む   作:白山葵

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閑話後編です。
今回、開き直って全てネタに走ってます


閑話【 日常編 】 ~乙女の戦車道チョコ~ 後編

 ピンポーン

 

 呼び鈴がもう一度押された。

 

『どうしたの? 誰かいるの? 私、出直した方がいい?』

 

「い、いや! 大丈夫!! ちょっと待って!!」

 

『……何してるの?』

 

 ちょっと隠蔽工作を。

 

「ちょっと散らかったから、片付けているだけダヨ?」

 

『誰か、お客さんなら出直すよ?』

 

「大丈夫! 確かにお客さんいるけど、すぐ済むから!!」

 

 ここで帰して、後で優花里だとバレてみろ。

 絶対、ややっこしい事になる。

 

『……』

 

 

 ピッン……

 

 

 

 

 

 ポーーン

 

 

 

 なぜ溜めた!?

 

『もしかして……』

 

「はい?」

 

『……女の子?』

 

 

「」

 

 

 過去、ここまでの恐怖を、みほから感じた事は無かった。

 別にやましい事をして……していた訳じゃない! お菓子を開封していただけだよ!?

 

 なのに何だ!? このドア越しから伝わってくるプレッシャーは!?

 下手に嘘をつくと、後に大変な事になる気がする。

 

「そ……」

 

『そ?』

 

「そうだけど……」

 

 

『……』

 

 

 ガチャッ!!

 

 

 !?

 

 

『……』

 

 

 ガチャガチャッ!!!

 

 躊躇無くドアノブを回してきた!

 

「」

 

 

『おかしいなぁ……。隆史君いつも鍵、開けたままだよね? …どうして今日に限って鍵を掛けてるの?』

 

「こ…この前、……みほに危ないと注意されたからだけど?」

 

『片付けているだけなら、鍵くらい開けてくれてもいいと思うけど …見られたら何かまずいの?』

 

「そ! そんな事無いよ! ちょっと待って! すぐ開けるから!!」

 

 

『……』

 

 

 ガチャッ!

 

 

 ビクッ!

 

 

 

 ガチャガチャッ!!!

 

 

 

 

『……』

 

 

 

『   マ   ダ  ?  』

 

 

 

「」

 

 

 怖い…怖い怖い怖い!!

 

 ホラーだよ!! 何で3回、律儀にドアノブ回すの!?

 

 急いで後ろの優花里に、声を掛ける。

 

 

「優花里!! 急いでくれ!! 頼む! 怖い! マジで怖い!!」

 

「でも、どうしましょう!? 隠す場所が無いですよ!?」

 

「布団の中にでも入れて!!」

 

「了解です! ……ヒグッ!!」

 

 鈍い音がした。

 

「優花里さん……」

 

 立ち上がろうと、片足を上げたその足の小指を、おもいっきり、ベットの下のダンベルにぶつけた。

 すこし、はみ出していた為だろう。完全に意識しないで、ぶつけたから声に鳴らない悲鳴を上げている。

 余程、痛かったのだろう。

 ごめんよぉ……。

 

 

「!! !! !」

 

「大丈夫……?」

 

「だ…大丈夫です……!!」

 

 優花里は、痛がりながらも乱暴に掛け布団を開け、その中に菓子一式を放り込む。

 

 段々と痛みも和らいできたのか、多少喋れるようになったようだ。

 

「い……痛かったですぅ……」

 

「大丈夫か?」

 

「はい……多分」

 

 余程痛かったのだろうなぁ……まだ涙目で顔が赤い。

 素足だった為、一応足の指を見てやる。

 痣にもなっていないし、指も動く。

 

「多分、軽い打撲程度だと思うよ。指動くから折れてはいないし…」

 

「本当に痛かったです……」

 

 コンッ!

 

 ビクッ!

 

 ……後ろより音がした。

 優花里の様子を見ていたので、完全に不意打ちでビックリした。

 ノックの音だよねぇ……。

 

 

 

 コンッ

 

 

 ……ドアから軽い音がした。

 

 

 コン…コン……

 

 

『……まだかなぁ』

 

 

 コン……

 

 

『……まだかなぁ……まだかなぁ』

 

 

 コン……コン……

 

 

『……まだかなぁ……まだかなぁ……まだかなぁ』

 

 

 コン……

 

 

 ノックと一緒に抑揚の無い声で、独り言なのか、こちらに問いかけているのか、分からない声が微かに聞こえてきた。

 

 急いで玄関に駆け寄る!

 

「今開ける!! 今開けるから! 呟きながら、そのノックやめて!!」

 

 ……本気で恐怖しました。

 

 急いで鍵を開けて、こちらからドアを開いてやった。

 

 ようやく玄関に立った、みほさん。

 

 制服姿と違い、私服のみほさん。

 

「もう…やっと開けてくれたね」

 

 ……ちょとご立腹。

 しかし普通だった。普通すぎる。

 

 目のハイライトさんも、ちゃんと仕事してますし、顔色も普通だった……。

 

 逆に恐怖だ。さっきのドア越しの雰囲気と全然違う。

 

 ただ…目だけが若干、色が違うように見えた。

 

「あれ? 優花里さん?」

 

「こ…こんにちは!…であります。西住殿!」

 

「……」

 

 まだ痛いのか、涙目で顔の赤い、優花里さん。

 俺の心臓が、バクバクいっている。

 やましい事は何もしていない。何もしていないが……。

 

「……!」

 

 部屋の中を見た、みほが一瞬息を吸い込み、固まってしまった。

 ……何だ?

 目を見開いて、眼球だけ、何か場所を一つ一つ、確認するように動いている。

 

「……」

 

 黙って動かないヨ?

 

「と…取り敢えず、お上がりください」

 

 立たせておく訳にもいかないので、入室を勧める。

 

 

「……嫌」

 

 

 拒否された。

 

「え?」

 

「……今、私。絶対この部屋に入りたく無い」

 

「……西住殿?」

 

「絶対に嫌」

 

 目だけ。

 

 目だけ、俺の目を見ていた。

 

 はい。さようならハイライトさん。

 

 ……すこし涙目になってる…のか?

 

 何を見ていたのだろうか? 部屋を見渡していたな。

 

 別に至って問題ない…よね?

 

「隆史君」

 

「はい!?」

 

「いつも隆史君、ベットでも布団って、しっかり畳んでるよね?」

 

 何言ってるんだ?母さんの教えで、生活が少々軍隊じみてはいるけど……

 フトンは、起きたらすぐキッチリ畳むとか、食器の置き方とか、角度とか……

 

 あ……

 

 改めて、部屋を見てみた。

 そして気がついた。俺の状況と照らし合わせてみた。

 

 休日に女の子を部屋に連れ込んでいた俺。

 

 いつも開けっ放しだった鍵が、今日に限って閉めていた。

 

 片付けると言って、時間稼ぎをしていた俺。

 

 ようやく開いた部屋。

 

 いつもと違い、ベットの布団が乱れてる。

 

 その下で、痛さでの為だけど、涙目で顔が赤くなっている優花里。

 

 

 ……時間稼ぎ。

 

 …………。

 

 

 

 ま さ か

 

 

 

「」

 

 

 これは不味い! 不味すぎる!! 最悪だ!!

 

 

「違う!! それは違うぞ!! みほ!!」

 

「……は?」

 

「何を盛大に勘違いしてる!? いや状況証拠、揃っちゃってるけど!!!」

 

「……何が?」

 

 淡々と感情の無い目で、問いかけてくるみほさんが凄かった。

 

 怖いのでは無い。凄かった。

 

 

 ……。

 

 

 ……うん。吐こう。これは無理だ。

 

 

 この勘違いは、洒落にならん。みほの交友関係にも影響する。

 

「西住殿? 隆史殿?」

 

 優花里だけ、わかっていませんでした。

 頭の上に「?」が浮かんでいる。

 

「優花里。吐こう。これは最悪だ」

 

「え?いいんですか? 隆史殿?」

 

「まぁ…今の勘違いを野放しにするより、数百倍マシだ」

 

「ハッ……勘違い?ナニガ?ネェ?ナニガ?」

 

 ……コエェェェ

 

「まず、優花里が顔真っ赤にして涙目なのは、ダンベルに小指ぶつけて、のたうち回ってたからです!」

 

「隆史殿!?」

 

「……」

 

「時間稼ぎ…は、ある物を隠す為……証拠は…その、布団の中だ」

 

「……布団の中?」

 

 諦めた溜息と共に話し出すと、察してくれたのか、ハイライトさんが戻って来てくれた。

 

 それでも半信半疑なのか、部屋に入ろうとしない。

 仕方がない。

 

「……何?」

 

「えーっと…優花里、頼む」

 

 布団を捲るように指示を出した。

 

 

 

 

 

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 -------

 ---

 

 

 

 

 

 

「みほさん?」

 

「西住殿?」

 

「……」

 

 布団から出てきた「乙女の戦車道チョコ」を見て、全てを察したのだろう。

 

 その場で、ペタンと崩れ落ちた。

 

「…………ヨカッタァ」

 

 何か呟いてはいたが、取り敢えず部屋に入室はしてもらえた。

 そのまま、三人でテーブルの前に座って、向かい合っている。

 

 みほは、そのテーブルの上で、耳まで真っ赤になって突っ伏して唸っている。

 うん……先程の勘違いの為ですね。

 俯いていたが、一応経緯を説明しておいた。

 

 

 

「ウー」

 

「あの西住殿、隆史殿にバラしてしまったのは、申し訳ありませんでした……」

 

「え?あぁ…それはもういいの……ごめんね。変な事を頼んじゃって……」

 

「いえ…お気持ちは分かりますから! それより西住殿」

 

「?」

 

 優花里の問いかけに顔を上げた。

 

「隆史殿は分かっているみたいですが、西住殿は何を勘違いしたんです?」

 

「ヒゥ!?」

 

 収まりかけていた顔色が、また真っ赤に染まっていった。

 

 結局終始、何を勘違いしていたのか分からなかった優花里さん。

 ドストレートで、質問をブチ込む。

 えっと、その…を繰り返し、結局何も答えられない、みほ。

 

 そうだな。うん。流れを変えておくか。

 

 

「やーい。みぽりんのスケベ~」

 

「!!!」

 

 

「わ!! ごめん!! 御免なさい!! 目覚まし時計はやめて!!」

 

 プルプル震えながら、涙目の真っ赤な顔で、近くに置いてあった目覚まし時計を掴み、振り上げている。

 

「置け! な!? それは、投擲するものじゃあ無いよ!?」

 

「一体…何なのでしょう?」

 

 勘違いの内容なんて、言えるはず無かった。

 

 

 

 

「……それで?」

 

 フーフー言いながらも、落ち着いたのか目覚まし時計を置いてくれた。

 

「それで? っと申されましても」

 

「……隆史君。普通、箱で買う? この量を買えば…出てきたよね? …水着のカード」

 

 指先で、軽く箱を弾いていますねぇ……。

 

「……」

 

「やはり、西住殿はご存知でしたか」

 

「うん…だから隆史君には、内緒にしてほしかったの……」

 

「スリーサイズも表記されてるしなぁ」

 

「そうなの…だから嫌だったんだけど…って、やっぱり出たんだ……」

 

「はい。このカード企画した奴、本当にバカじゃねぇか?と、思いました」

 

「……でしょ?」

 

「同時に、お礼を言っている俺もいた」

 

「……男の子って」

 

 怒っているのか、呆れられているのか……。

 

「誰が出たの? 見せてくれる?」

 

「嫌です」

 

 即答しました。はい、嫌です。

 

「隆史殿……」

 

「……何で?」

 

「みほさんに、没収されそうだからです」

 

「……しないよぉ。しないしない」

 

「……」

 

「じゃぁ誰が出たの? …優花里さん?」

 

「あ! ズルッ!!」

 

 開封作業を手伝っていた優花里が、知っているは道理である。

 俺が答えないから、質問先を変えてしまった。

 

「わかった! わかったから、ちょっと待ってくれ」

 

 下手に優花里に任せると、またあらぬ方向に行きそうな気もするので、出たものを高レア順にずらぁーと、テーブルに並べる。

 ……いやぁ壮観だねぇ。

 

 カードの写真とはいえ、何人かの知り合いが水着で並んでいる。

 

 それを、共に女性の幼馴染とクラスメイトと見ている。

 なにこの状況。

 

 ちなみに、みほのカードは並べていない。それに気がついたのか、優花里さんが目を逸らす。

 余計な事言ってくれるなよ……。

 

 ……逃げたくなってきた。

 

 

「隆史君」

 

「はい。なんでしょう」

 

「何で? 何でこんなにSRカードが有るの!? 普通じゃないよ!? いくら使ったの!!」

 

「二箱、購入いたしました」

 

「あ、西住殿! 隆史殿は、ゴールドBOXを引き当てたみたいなんです!」

 

「嘘!? よりによって!?」

 

「みほ、ソレを知っているのかよ」

 

「近所で、自分のカードが出回るかも知れないんだよ!? 調べるよ普通!! 私も何度か買ってみたよ!!」

 

 まぁ…あのSRカードじゃなぁ……。

 自主回収もしたいだろうて。

 

「私、そんなに枚数刷られていないはずだから……というか、隆史君!」

 

「ハイ」

 

「ダージリンさん出しすぎ」

 

「あ、はい。ちょっと逆に出すぎて、引きました」

 

「この方、人気ありますからね、数も有りますよ!」

 

「お姉ちゃん、しっかりコンプリートしてるし…普通にこれ、枚数的に難しいはずなんだけどなぁ……」

 

「まぁ…昔からの付き合いですし?」

 

「それ、何か関係有るの?」

 

 笑ってごまかす。…あるんじゃないかなぁ。

 みほさん。貴方もコンプリートしてます。まぁ、両方2枚しか無いけど……。

 

「知らない人もいるの?」

 

「俺をなんだと…この人達とか知らない」

 

 一応、その中にミカも入れておいた。

 はい。一応。

 それでも、疑いの目を向けてくるみほさん。

 

 そして2枚のカードを手に取る。

 

「後…そっか。この人が……」

 

「」

 

 ノンナさんのカードを手に取って凝視しているみほさん。

 カチューシャ&ノンナさんのカードと見比べている。

 

 ……目を細めた。

 

「ふーーーーーん」

 

「」

 

「一応、私黒森峰の時、見たことあったけど……スタイルすごいね、この人。ね? 隆史君?」」

 

 2枚のカードの隙間から、俺と目が合う……。

 

「……ネ?」

 

「ソ…ソウデスカ?」

 

 なんて答えろと? カチューシャはスルーかヨ。

 

「大丈夫ですよ! 西住殿!!」

 

「ヘ?」

 

 あっ! 優花里さん! 何言う気だ!?

 

「西住殿も負けていませんよ! バランスいいですよ!! 去年から殆ど、全然変わって無いじゃないですか!!」

 

 ノンナさんに、劣等感を感じたと思ったのか、勢いよくフォローに入る優花里。

 

「去年? ……去年!?」

 

 バレた……。

 

「出たの!? 私のカード!!」

 

「あ、はい出ましたよ? でも大丈夫です!」

 

「優花里さん?」

 

「私が、手伝っていたお菓子から出たので、隆史殿は表の写真しか見ていませんよ!」

 

「そっか…それならよかった……。それどっちのカード?」

 

「私の方は、Rですね! 隆史殿から頂きました!!」

 

 大丈夫です!っとばかりに、満面の笑みで答える優花里さん。はい。それ言っちゃダメですって。

 

「……」

 

「隆史君」

 

「……ハイ」

 

「今、優花里さん『私の方は』って言ったけど?」

 

「あっ!!」

 

 しまったって声が聞こえたけどもう遅い。

 

「出してっ♪」

 

「」

 

 はい、思いっきりバレました。

 下手に抵抗しても、多分無駄だろうなぁ……あきらめよう。うん。

 

「……」

 

 他のカードを片付けられ、テーブルの上に置かれる一枚のカード。

 

 「「「 …… 」」」

 

 それを眺める3人。……シュールだ。

 

「みほ」

 

「なに?」

 

「一応、幼馴染として聞いておきたいのですが」

 

「……なんでしょう」

 

「なぜこうなった?」

 

 隠していた事を責められるより、先手を打っておく。

 カードの手前を、指でコンコン軽く叩く。

 

「……」

 

「あのね? さすがに心配になる訳ですよ。この姿は」

 

「……」

 

 わざと透けたワイシャツを着ている、水着姿のみほ。またそのワイシャツが制服ってのが……。

 

「学校で撮ったの! それに、撮影班の人達って、皆さん女性の方だったから、如何わしくないよ!?」

 

「はい。確かに露出自体は、全体的に他の方々も少ないです。なにかしら羽織ったりね」

 

「でしょ!? お姉ちゃんもそうでしょ!?」

 

「でもね?」

 

「なに!?」

 

「全体的にマニアックすぎる」

 

「」

 

 結構チラリズム全開になってる写真が多かった。

 あれはなぁ……

 

「でも…なんでそれを、隆史君は私にそれを隠してたの!?」

 

 チィ、攻守が交代した!

 正直に言ってやろう。

 

「没収されそうだったからです。というか、今も牽制してるよね?」

 

 言った直後、手が出てきたので、間一髪で防衛・確保する。

 はっはー。

 すでにカードは俺の手の中だ。

 

「うぅ~…」

 

 真っ赤になって空ぶった腕を放り出して、また机の上に突っ伏してしまった。

 我慢していたのか、また赤面し始めましたね。

 

「返してよ~。お嫁に行け無くなるよ~……」

 

「ダメです。これは俺が、お金を出して購入したモノです」

 

「じゃあ、その分払うから~買い取るからぁ~…」

 

「ダメでーす。このみほは、もう俺のモノです」

 

 

 

  「「……」」

 

 

 

 ……なんだ?

 

「な…なんて!? い…今!??」

 

 ん?

 

「」

 

 みほも、優花里も体をまっすぐ起こし、俺を凝視した。

 

 あの……みほさん。顔の色が凄い事になってますけど……。

 

「……隆史殿。今サラっと、凄い事言いましたね」

 

「何が?」

 

「自覚が無いのが、また……」

 

 何言った?

 

 ……。

 

 あぁ!!

 なるほど……。

 

 

「みほは、もう俺のモノです」

 

 

「ハゥッ !!!!!」

 

 

 やはり、コレか。

 綺麗に言い直したら、また硬直してしまった。

 はい。改めて言うと、すっげー恥ずかしいですね。

 

「あの…みほさんや。このカードの事で……」

 

「タタッッタttttァアタァ!!」

 

 いかん。みほがバグッた。

 両手で顔を押さえて、ブツブツ言い出しました。

 そんなみほを見た後、ジト目の優花里に叱られました。

 

「タラシ殿? いい加減、自重してくれませんか?」

 

「な…何がでしょ?」

 

 優花里さんに睨まれた。

 

「ハァ……」

 

 溜息!?

 

「ほら!西住殿おかしくなっちゃったじゃないですか! カードもご本人ですし、差し上げたら如何です?」

 

「ヤダ」

 

 惜しい。正直このカードを上げるのは、メチャクチャ惜しい。

 

「みほ! そろそろ戻ってこい!」

 

「!」

 

 指の間から、俺の顔を見たら、また赤くなって俯いてしまった。

 どうしよう……。

 

 

 

 

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「はぁ…もう。びっくりしたよぉ……」

 

 ようやく落ち着いたのか、出されていたお茶をチビチビ飲んでいる。

 恥ずかしい事言っちゃったけど、そこまで取り乱さなくとも……。

 

「はい! タラシ殿は、いい加減にして下さい。反省して下さい!」

 

 ……なんで俺怒られてるの? なんで説教されてるの?

 

 あ。

 

 開けられた箱の横に、未開封のお菓子が3つ残っていた。

 あーそうだ。バラでも買っておいたんだ。

 忘れてた。

 

「タラシ殿!! 聞いてますか!?」

 

「あの優花里」

 

「なんですか?」

 

「まだお菓子が残ってた」

 

「え?あぁ、バラで買ったのですね」

 

 ……うーん。まぁ最後だし。

 そのまま、みほと優花里に1個ずつ配る。

 

「それは、差し上げますのでもう勘弁してください。…後、もうタラシ殿はヤメテ」

 

「やっすいですねぇ」

 

「……」

 

「もうこれで誤魔化されてください……」

 

「はぁ…分かりましたよ。次は本当に怒りますよ!」

 

「……隆史君多分、何を怒られてるか分ってないよね? 変な所は、鋭いくせに……」

 

 二人共、ブツブツ言いながらも中身が気になるのか、封を開けていく。

 まぁ俺も気になるけど……。

 

「……」

 

「優花里?」

 

 コノ、クソジジィ……

 

「あ。ごめん中身わかった。うん。お菓子は握りつぶすなよ?」

 

 さて、俺のは。

 

「あ、SRだ」

 

「……凄いですね隆史殿。その運を、私にも分けてくださいよぉ」

 

「誰?」

 

【SR 黒森峰女学園 隊長 西住 まほ Ver.水着】

 

 

「……まほちゃん」

 

「お姉ちゃん……」ココデモジャマヲスルカ

 

 はい。水着です。

 2枚目キマシタ。

 

 ……うん。強い。

 

 今気がついたのだけど、表情に若干赤みがさしている。

 まほちゃんも恥ずかしいと思っていたのか……。

 

「……みほは?」

 

「ちょっと待ってね」

 

 カードを抜く指が止まった。

 

「レ…レジェンドレアだ……」

 

 「「!?」」

 

【LR 現:西住流 師範 西住 しほ Ver.高校2年生】

 

「」

 

「お母さん……」

 

「隆史殿?隆史殿!?どうしました!?」

 

 もう…色々と……

 最初の3個で済んだとか…よりにもよって上げたお菓子に入っていたとか……

 疲れた…怒りとか、もうわかない。ただ疲れた。

 

「お母さん若いなぁ…私と同じくらいの時か…胸おっきいなぁ……あぁ!!」

 

 ビクッ!

 

「そっか!! 隆史君、これ狙いだったのね!? なに!? またお母さん!?」

 

「隆史殿……LRの一点狙いなんて、また無謀な……」

 

「チ…チガウヨォ…チガウチガウ……」

 

 体に変な震えが起こる。

 

 

「じゃあ、これいらない?」

 

「」

 

 くっそ!!余裕な顔しやがって!!

 

「お母さんメチャクチャ若いよ?」

 

「グ…ギィ……」

 

 カードの裏面をこちらに向け、カードで口元を隠しながら聞いてくる。

 くっそ!!絶対笑ってる!!クスクス聞こえる!

 

 見たい。メチャクチャ見たい!!

 

 

「……上げてもいいよ?」

 

「!?」

 

「私のカードと交換ならね」

 

 ……そうきたか。

 上目遣いで、見てきやがってぇ!!

 

「どうする?」

 

 ……

 

「どうしたの? これがお目当てだったんでしょ?」

 

 勝ち誇った笑みと共に、焦らすように聞いてくる。

 ……いかん。ちょっと昔見た顔になってる。

 

「この頃のお母さん、ボブカットだったんだぁ」

 

 くっそぉ!!見てぇぇ!!

 

俺より有利に立った時。

 たまに見せる、この顔のみほは、比較的に意地悪な性格になる。

 幼少帰り…というとは違うのか。なんというか……。

 

「髪の毛伸ばし始めた時かなぁ?」

 

 ヤンチャみほが、降臨されとる。

 こうなると結構、めんどくさい。

 

 目の前で、カードをヒラヒラさせている。

 

「ちなみに、拒否した場合はこのカードの写真は見せませーん」

 

「グヌヌ……」

 

 いかん。考えろ!現時点での優先順位を!

 しほさんのカードは、欲しい!!

 それが、これを購入した目的だからだ!

 しかし!!

 

「……正直、みほのカードを手放したくない。

 こんなエロい格好のみほは、多分この先、見られないだろう。

 見知った娘のこういった格好は、背徳感がすごくて、凄まじい破壊力を生んでる。

 惜しい…この格好に、メガネかけてくれれば最高だったんだけど……。

 あ、でもしっかり見てみると、これ野外で撮影されてる。それで羞恥の表情がいつもよりすごいのか……。

 これはいい! このみほはレアだ!! これを手放すのは……。

 しかし、しほさんの若い頃も見たい。

 というか、そのカードほしい。(少々お待ちください)」

 

 

 「「 …… 」」

 

 

 

「た…隆史君が、思った以上に変態さんだった……」

 

「いい加減、考えている事を口に出す癖。何とかしたほうが、いいと思いますよ?」

 

「……しほさんに頼んで昔の写真を…しかしそれは、邪道。あまりに邪道だ……」

 

「あ、西住殿。隆史殿、まったく聞いてません」

 

「……どんだけ悩むの?」

 

「どうする!? いや…しかし、みほは、すでに俺のもの……」

 

 「「 …… 」」

 

 

「西住殿」

 

「な…なに? 優花里さん」

 

「……顔がにやけてますよ」

 

「き…気のせいだよぉ。ウフフ」

 

「……」イラッ

 

 

 

「よし! 決めた!!」

 

「決まった? じゃあ交換し…『 交換しない 』」

 

「え!?」

 

「うん。このままでいいや」

 

「え…本当に!? お母さんの高校生の時のだよ!? お姉ちゃんよりおっきいよ!?」

 

「……」(西住殿は、何と戦っているのだろう……)

 

 みほが驚愕した顔で、何度も聞いてくる。

 惜しい。

 俺も惜しいが、仕方がない。

 一度決めたしまったら、後は余計な事を考えないほうが良い。

 

「うん。いいや。みほがほしい。みほがいい」

 

「ヒ ゥッ!!??」

 

 今度は、額をテーブルにぶつけてるし……。

 

「隆史殿…そろそろ自分が、何言ってるのか理解して下さい……」

 

 何言ってるんだろう。カードの話じゃないのか?

 

「何って…みほか、しほさんかって話だろ? みほがいいって言ってるじゃないか」

 

 

「」

 

 

 

「た…隆史君、もう…いいから……黙ってて……」

 

「隆史殿は、もう一切喋らないで下さい」

 

 みほは、ハーハー言って突っ伏しちゃってるし、優花里はなんか怒ってるし……何なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校の寮の一部屋。

 私の部屋。

 

 まもなく就寝時間になる。

 そろそろ寝る準備をしようと、いつもの様に携帯に充電器をセットする。

 ん?

 

 気がつかなかった。

 一通のメールが届いていた。

 

 知らない通知だ。また迷惑メールか何かだろうか?

 

 題名が無い。本文のみだ。

 前半の頭部分のみ、本文の内容表示されている。

 

『― エリリンへ。乙女の戦車道チョコを……』

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 プルルルルルル……

 

 

『―はい』

 

「あんたなんで、私のメアド知ってるよ!!!」

 

『え? あぁエリリンかぁ。知らない番号だったから、誰かと思ったよ』

 

「エリリンと呼ぶな! 何度も言ってるでしょ!!」

 

『電話してくれたって事は、メール見てくれたって事だね』

 

「聞きなさいよ!!」

 

『あぁ、メアド? まほちゃんに聞いた』

 

「」

 

『なんかすっごい怪しまれたけど』

 

「当たり前でしょ!? 馬鹿なの!? あんた馬鹿なの!?」

 

『あらヒドイ。 みほと仲直りさせたいって言ったら、あっさり教えてくれた』

 

「……元副隊長と? ハッ! なんか戦車道チョコが、どうの書いてあったけど、本当の目的はそっち? 余計なお世話よ!」

 

『まぁどっちもかなぁ……』

 

「そんな事、あんたに関係無いで『俺は、まほちゃんのSRカードを持っている』」

 

「……」

 

『……』

 

「……どういう事?」

 

『ほしい?』

 

「な…なななにが、目的かしら!?」

 

『……ほしい?』

 

「……」

 

『いやね、まほちゃんとの会話の中でね。どうもエリリンが、アレをお持ちだと聞いたものでしてね。』

 

「……何を?」

 

『LRの家元のカードを』

 

「え?あぁ、確かに持ってるけど、なんでそれを隊長が……あ」

 

 乙女の戦車道チョコ。隊長のカードが欲しくて、今でも買っている。

 出ない。本当に出ない!!一体、いくらつぎ込んだか……。

 

 一度、買っている所を隊長に見られてしまった。

 隊長も撮影をしているので、知っているはずなのに、開封する所を見せてくれと言われたので、目の前で開封した時があった。

 その時、たまたま家元のカードが出たのだけれど……。

 

『―てな感じでしょうか?』

 

「心を読むな!!!」

 

『トレードしませんか?』

 

 は?

 

「……なに?家元のカードなんか欲しいの?」

 

『……』

 

 

 

 

「隊長より、その母親ぁ? 貴方ちょっと気持ち悪いわよ?」

 

『……』

 

 

 

 

『はっはー。家元のカード『なんか』発言は録音しておきました。『気持ち悪い』発言も録音済みです』

 

「!?」

 

『よし。しほさんに報告だぁ』

 

「え!?ちょっ!!」

 

 

 ブッ!

 

 

 切られた。

 

 ……報告。

 

 

「……」

 

 

 

 

 ガタガタガタ

 

 

 

 

 

 プルルルルルル……

 

 

 

 

 

 

 

『はい』

 

「なんで切るのよ!!!」

 

『え?だってしほさんに報告……』

 

「大丈夫! 貴方おかしくないわ!! 家元のファンって大勢いるから!! 気持ち悪くないわ!!」

 

『なに焦ってるの?』

 

「焦ってない!!」

 

 ハァハァ

 

『まぁいいや。で? どうする?』

 

「……隊長のカード?」

 

『そうだね。周りに(みほしか)持ってる人いなくって……』

 

「そもそも、それ本当なの? 隊長のSRカードってね、家元の指示で、極端に枚数が少ないのよ? それを貴方が持ってる? 信じられないわ」

 

『そ? じゃあいいや。ほか当たる』

 

 ブッ

 

「……」

 

 

 

 プルルルルルル……

 

 

「だから、なんで切るのよ!!!」

 

『え?だっていらないって……』

 

「いらないって言って無いでしょ!? 信じられないって言ったの!! 私が、どんだけ買っても出なかったのよ!? 信じられるかぁ!!!」

 

『そ? ならいいや。ほか「切るなぁ!!!」』

 

 ハァーハァー…

 

「……いいわ。信じる。嘘つく意味無いしね……」

 

『ちなみに』

 

「……なによ」

 

『水着ばーじょん』

 

「」

 

『どうした?』

 

「どうやって交換するの? 私そっち行った方がいい? 明日にでも大洗学園に行きましょうか!? まどろっこしいわね!! 今から行くわ!!!」

 

『……来ないで下さい。郵送じゃダメなの?』

 

「郵送!? そんな危ない橋、渡れないわ!!」

 

『……え?』

 

「黒森峰に一体、どのくらい隊長マニアがいると思ってるの!? 見つかったら、どんな事が起こるか……」

 

『……マニアッテ』

 

「あ、でもそうすると…明日行くのも不自然すぎる……気がつかれたら終わる……」

 

『あの……ちょっと黒森峰が怖くなってきました』

 

「一応、あの…疑う訳じゃないけど…カードの写真を送ってくれる? ネットにアップする訳じゃないから大丈夫よ」

 

『わかったけど……取り敢えず、受け渡し方法は後日でいい? また決まったら連絡してくれればいいからさ』

 

「……そうね。ちゃんと作戦を練った方が良さそうね」

 

『……ソウッスネ』

 

「あ、いけないもう就寝時間」

 

『寮住まいだっけか。では、そろそろ切ります。お疲れ様でした』

 

「……お疲れ様ってあんた」

 

『では、密会のお約束、お待ちしております。じゃーねぇエリリーン』

 

「ちょっ!密会!? あんたどうして、私に対してだけそんな態度になるのよ!! 隊長の時と全然違うじゃない!!」

 

 ブッ!!

 

 切られたぁぁぁ!!!!

 

 

 密会……確かに密会だけど……

 

 

「こんな事、隊長にバレたら、非常にまずい事になるんじゃぁ……」

 

 

 




はい。閲覧ありがとうございました。

ちょっとみぽりん生々くなりましたが……

やっとOVA再度見れましたので、次回から本編復帰です

ありがとうございました

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