転生者は平穏を望む   作:白山葵

34 / 141
第26話~私!攻めます!~☆

「ひなちゃんを、助けてくれてありがとうございました」

 

「え?」

 

カバさんチーム。

 

中庭に置かれていたその台座。

その作業が終わった所で縁側に正座した、鈴木さんからいきなりお礼を言われてしまた。

両膝に手をやり、頭を深々と下げている。

 

「カエサル!?」

 

「いきなりどうしたぜよ!」

 

脈絡もなく言われてしまったので結構、面食らってしまった。

 

俺は、台座の改造。みほは、P40の情報収集の為に彼女達の御自宅へお邪魔していた。

潜入動画を見た後、どうにも気分が優れなくなってしまったと、次の日…つまり今日だな。

 

そんな訳で本日。改めて、みほと一緒に訪問した。

戦車道の練習前にって事で、少し早めに訪問していた。

 

みほ達が話している間、俺は黙々と中庭で作業。

 

装填台の砲弾の落ちる先に、スベリ台をつけて、自動的に砲弾が手元に戻ってくるようにした。

あと台座自体の強度強化。

元々、ただ置かれていただけだったようで、ずれたら危ないので地面に打ち付け固定。

そしてできるだけ、戦車内と同じようにと、サイズの調整もした。

 

その俺の改造作業も終了。

みほ達の会話も終わり、そろそろ帰ろうか? と思った矢先にこれだった。

 

「アンツィオ高校のひなちゃん…いや、カルパッチョは私の昔からの友達なんだ」

 

カルパッチョの名前を出した時、みほが若干固まった…。

 

「あぁ…それで」

 

「尾形書記の話を聞いた時は、まさか…あの野郎、ひなちゃんにまで手を出していたのか! と、怒りに震えたが…」

 

 

「」

 

 

いや…もう慣れたけど……

 

「いろいろ話を聞いたんだ。誤解だった…そして納得した。まさか体張ってまで……本当にありがとうございました!」

 

「いえいえ、どういたしまして。顔に傷が、つかなくってよかったよ」

 

お辞儀に合わせて、こちらもお辞儀を返した。

そのやり取りが、珍しいのか周囲の目が、丸くなっていたけど。

 

「隆史君どうしたの? 今日は随分と素直だけど…」

 

「…カエサルのキャラが違う」

 

「友達の為に、本気でお礼を言ってくれているんだ。変に照れてごまかすより、ちゃんと受け取ってやるのも礼儀だよ」

 

まぁ、そういうもんだ。

俺の口から出た言葉とは思えないと、意外な目をしているみほさんには…。

 

……絶対ピーマン食わせてやる。

 

 

「尾形書記、よければ傷を見せてはくれないだろうか?」

 

「……え」

 

なんで? また脱ぐの!?

 

「どんな傷になったか、見ておきたい」

 

「まぁ、いいけど…」

 

はい。本日2回目の御開帳。

まだワイシャツのままだったので、またボタンを外していく。

 

……

 

傷を見た後、全員が先程の生徒会室にいた連中と違った。

やはり、結構エグく見えるらしく、皆ちょっと引いていた。

 

 

「……」

 

あの…鈴木さん? 指が近づいて来てるのですけど?

 

指が近づくと、今度はみほが身構えてしまった。

周りをキョロキョロ見渡して、はぅはぅ言ってる。

 

はい。怯えていますね。

 

「これが…」

 

普通に、指先でなぞられた。いや……なんだこの状況。

なんで、女の子の家で、女の子に胸元の古傷撫でられてんの?

状況が結構特殊すぎる…。

 

一通り端から端まで、指が何度か往復した所で、気が済んだのか、無言で手を引いた。

 

「本当に、どうもありがとうございました」

 

そして改めてお礼を言われてしまった。

 

「尾形書記には悪いが、こんな大きな傷が、ひなちゃんの顔についてしまったかもしれないと思うと…」

 

済んだ事ではあるけど、結構なショックを受けてしまっている。

少し顔が青い。

 

「鈴木さんは、友達思いだな。…俺は友達そんなに多くないから、ちょっとカルパッチョさん羨ましいわ」

 

「カ…カエサルだ!」

 

少し照れていた。

 

そして何も起こらなかった。

うん。やっぱり先程のは、偶然だよ偶然。

シャツのボタンを締めようとしたら、今度はみほが真正面に来た。

 

「なに? どしたの?」

 

「隆史君! もう一回チャレンジしてみていい!?」

 

「……」

 

なんかムキになっているみぽりん。

なんだよ、チャレンジって。

 

もう…好きにしたらええ……。

 

「…どうぞ」

 

 

 

 

---------

------

---

 

 

 

 

「逃げたな」

 

 

夕飯時、みほは夕飯を食べに来なかった。

 

折角食べやすい様にと、定番の肉詰めとか作ってやったのに。

まったく。

 

来ないなら来ないで、一言くらい連絡よこせ。

 

ピーマン出るの分かっているから、夕飯から逃げるって小学生か!

三日もたなかったよ! まったく!

 

余った分…正確にはみほの分だが、明日の朝飯にでもするか……

 

…次は、ナチュラルな切っただけのサラダでも出してやる。

 

次回の為の嫌がら…計画を練りながら、洗い物も終え、風呂も沸かして、さて一息ついたなって所で、部屋の呼び鈴が鳴った。

 

そろそろ22時を回る。こんな時間に誰だ?

 

「はい、どちらさん?」

 

鍵を開け、ガチャっとドアを開けてたら、随分な格好の訪問者が玄関先に立っていた。

 

……

 

…………

 

「こんな夜分に何の用でしょうか? 逃亡者」

 

「…アゥ」

 

逃げた事を自覚しているのだろうな。

バツが悪そうな顔をしている。食い物を粗末にする様な事が嫌いな俺を知っている為、余計に気まずいのだろう。

 

「ご…ごめんなさい。今日は、沙織さん達と…その、明日の為にって、みんなで作って食べてきたの」

 

「言え」

 

「ハイ」

 

「それならそうと連絡くらいよこせ。一食、作りすぎただろうが」

 

「ゴメンナサイ」

 

俺がまだ、普通の喋り方をしている分、そんなに怒っていないと思ったのか、すこし安堵している。

友達同士の付き合いなら、そんなに俺も言わん。ただ連絡よこせ。

 

「で? なんだ? こんな時間に、そんな格好で。明日試合だろう?」

 

部屋着…というのか、結構なラフな格好で、すこし手荷物を持っていた。

まぁそんな事よりも…

 

「なんで、ボコの人形抱いてんだ?」

 

ボコと俺の目が合う。……うん、何が可愛いかわからん。

 

「あの…」

 

「どうした?」

 

赤くなってモジモジしてる。なんだよ。

 

 

 

 

「今夜、と…泊めて♪」

 

 

「……」

 

 

 

 

無言でドアを閉めた。

 

 

 

えっと……

 

今なんて言った?

 

目の前のドアを叩く音と、呼び鈴の連打音が聞こえる。

 

…うん。音がうるさいから幻覚じゃなさそうだ。

 

もう一度ドアを開ける。

 

開けられた玄関先に捨てられた、小犬みたいな上目使いで見つめてくる、みほがいた。

幻じゃなかったのか…。

 

「ごめん。もう一回言って? 何だって?」

 

ボコのぬいぐるみの頭に顔下半分隠して、今度もはっきりと言った。

 

「あの…今晩、宿泊したいのですが…」

 

「……」

 

「…ダメ?」

 

「ダメ」

 

拒絶の返事で、絶望した顔になった。

本当に何考えてるんだ?

 

「はぁ…話くらいは聞いてあげるけど…どうした? 部屋が、どうにかなったのか?」

 

今度は、ボコに顔を完全に隠してしまった。

 

「こ…恐いの……」

 

「は?」

 

「沙織さん達と一緒の時は、大丈夫だったんだけど! …部屋戻って一人になったら、全ての音とか…何もかも気になっちゃって……」

 

……。

 

「こわいのぉ!!」

 

恐いって…あぁ……。

 

「今朝の事か?」

 

「いや! 言わないで! 思い出しちゃうよぉ!!」

 

 

 

……カバさんチーム宅で、みほが再チャレンジと言って、俺の古傷を触ろうとした時の事か。

 

 

鈴木さんが触っても、特に何も起こらなかった為、生徒会室での事は偶然だと思い込み、もう一度とみほが、指を伸ばしたら事件は起こった。

指が触る手前に、部屋に置いてあった黒電話がいきなり鳴った。……というか、なんであるんだよ黒電話。今の奴知らねぇだろ。

 

まぁそのタイミングで、たまたま鳴ったって事もあるだろうしな。

エルヴィンさん?だったか…まぁその、松本さんが対応しようと、電話に近づいたらすぐにベルは、鳴り止んでしまった。

…で、鳴り止んだ為、元いた場所に座ろうとしたらまた鳴り出す。

今度は、確かさえ…。

 

もういいや。杉山さんが対応しようとしたら、また止まる。また元いた場所に戻ると鳴り出す。

次に対応した野上さんでも、同じ事を繰り返した。

 

この時点で、完全に怯えていたみぽりん。

結局、全員で対応する事になったが、鈴木さんもそうだったし、試しに俺が対応してもそうだった。

 

ただ……最後。

 

みほが対応する時だけ違ったんだよな。

 

鳴り止まないんだよ…。

 

初めから、みほだけに掛けてきたように、ただ…ただ鳴り続ける。

 

もう電話の前で、ハゥハゥ言いながら、周りを見回している状態が暫く続いた。

 

鳴り続ける。

 

周りの連中が、近づくと止まる。みほ一人に戻ると、鳴り始める。

電話線を抜いたらどうだ? と意見を出してみたけど、それでも鳴っていたら洒落にならんと却下された。

 

しかし、このままではずっと終わらないと、意を決してみほが受話器を持ち上げた。

 

カチャ

 

「…は『三度目は、アリマセンカラネ?』い」

 

ブッ

 

「」

 

その一言で、電話が切れてしまったそうだ。

 

 

 

「とてもクリアな声で、優しい声色だったそうだぁ…」

 

「なんで!? なんで、すっごい詳しく言うの!?」

 

回想に突っ込まないで下さい。あ、声にまた出てたか?

 

「隆史君は、恐くないの!?」

 

「うん。別に」

 

「」

 

普通に答えた。

 

「え…。え!? あんな事が起きたんだよ!? 普通に怪奇現象だよ!?」

 

「そうだな」

 

「恐くないの!?」

 

「うん、慣れてる」

 

「」ナ…レ……

 

「俺、北海道で遭難した時、本物見た事あるし。生きてる人間の方が、余程怖いと思うけどな?」

 

「」

 

「中学の時、母さんに放り込まれた樹海でも見たし。……な? そこに放り込んだ、母さんの方が怖いだろ?」

 

「」

 

「慣れている俺が、言うんだから大丈夫だろ? 寝ろ。さっさと寝てしまえ。その内に忘れる。な? んじゃ、お休み~」

 

ゆっくりドアを締めようとしたら、凄い勢いで足をドアにかけられた。

 

「無理だよ!! よけいに寝れないよ!! 責任取ってよ!! 取り敢えず、部屋に入れてよぉ!!」

 

…夜の玄関前で、責任とか叫ばないでください。別の意味に取られますよ。

みほさんの方が余程こわいですよ?

 

「わかった、わかった。取り敢えず宿泊かどうかは保留として、落ち着くまでいていいから…」

 

まぁ冗談では無くて、本気で参っている様だったので、一時的に保護しよう。

 

テーブルの前でカタカタ震えているので、さすがに可哀想になり、暖かい飲み物出してやった。

 

「……なぁ、もしあれなら、沙織さんの所に泊めてもらえば? 送ってくから」

 

「無理」

 

…即答された。

 

「もう、夜道をどんな手段でも、移動する事が恐い」

 

「んじゃ来てもらえば? みぽりん家にお泊りでもしてもらえば? 優花里辺りなら喜んで、すっ飛んでくるだろ?」

 

「さすがに、この時間は迷惑だよぉ」

 

……。

 

「…ハ?」

 

「ゴ…ゴメンナサイ…」

 

 

 

「…わかったよ。んじゃ俺、また外の車で寝るか『それじゃ意味ないよ!』」

 

あぁダメだ。これは諦めたほうが多分早いな。完全に怯えきっている。

でもなぁ、みほってこんなに怖がりだったっけか?

 

「はぁ…わかった、俺そこの床で寝るから。みほは、ベッド使って」

 

「泊まっていいの!?」

 

キラキラした顔をなさってる。

 

「正直、言い争う時間が惜しい。さっさと寝て、明日の試合に備えなさい」

 

ベットの下に寝転がって、まぁ掛け布団でもすればいいや。

段差が有るので、寝ているみほの姿は見えないと、ご本人様も納得されました。

 

宿泊許可を出した時に気がつたけど、パタパタと外で音がしていた。

 

雨だ。

 

学園艦は、基本海の上。雨雲の下を移動する事もあるので、急な雨は別に珍しくもない。

 

―が。

 

段々と雨音が強くなり、ゴロゴロと空が鳴き始めていた。

 

…いらん。

 

……こんな定番の流れはいらん。

 

願い虚しく案の定、学園艦の避雷針に雷が直撃。稲光と落雷の音に、怯えきっていた みほが壊れた。

そして今、みぽりんは、外の様子を見ようと立ち上がった、俺のその足にしがみついてる。

 

「アゥ…アゥ……」

 

まぁもう、好きにしたらええ。抱き枕にでもなんでもなってやるよ。

 

「……あ」

 

「どうした?」

 

「お風呂まだ入ってない」

 

「…すごい普通に言ってるけど、それ今思い出す事か?」

 

「今日、模擬戦練習で土煙が、凄かったから…この体勢だとちょっと恥ずかしい」

 

「…もはや普通に抱きついてるからな」

 

足から、段々上にシフトチェンジしていって、今ではもう首に手を回している。

 

「みほ。ちょっと俺、恥ずかしいんだけど」

 

「私の方が、恥ずかしいよ!!」

 

「では、離れて下さい」

 

「……嫌」

 

どうしたらいいか分からないのですけど……。

 

「いつも練習終わったら、みんなと大浴場に入ってなかったか?」

 

「うん。ただ今日は、入らなかったの……」

 

「はぁ…わかった。入ろうと思って風呂沸かしたばかりだから、入ってこい」

 

「……」

 

なんで黙るんだよ。

 

…まさか、漫画みたいな事を考えてないだろうな

 

「こ…」

 

「ダメだ! さすがにダメだ!!」

 

 

「こわい…ついて来てぇ」

 

「」

 

 

 

 

-------

-----

---

 

 

 

 

 

何故…だ。

 

今日は後、風呂入って寝るだけだったのに……

そもそも、みほってここまで露骨に甘えて来る奴だったっけ?

 

いくら恐いからと言って、小学生か!?って感じなんですけど…

 

自分の部屋、その中の狭い脱衣所。

そこに座り込んで、正面に鎮座している洗濯機と睨みあっている。

 

服を脱ぎ、浴室に入ってから呼ばれて、俺は脱衣所に入室させられた。

目隠しして、みほが衣服を脱ぐ空間に一緒にいてほしい、と言われた時は、さすがに怒って却下した。

 

年頃の娘さんは、わからん。

 

『隆史君、いるよね?』

 

「はいはい。いますよ~」

 

浴室から声がする。

まぁ…目をつぶって髪の毛洗ってる時が、一番恐いというのは、何となく分かるけど…

5秒置き位に聞いてくるのは、やめて下さい。

 

随分と急いで脱いだのか…女の子らしからぬ、脱ぎ散らかされた衣服が、洗濯機の上に置かれている。

……隠せよ。いくら恐いからって。

上の下着の紐が、洗濯機の上から、垂れ下がっている為に少し見えてますけど。……しかし敢えて言わない。言えるか。

 

『隆史君、いますよね?』

 

「はい、おりますよ」

 

浴室の扉は、スリガラス調のプラスチックの扉の為、ぶっちゃけシルエットが丸見えなんすけどね。

下手すると、色々この後イベントが起こりそうなので、頭からバスタオルを被り、自分の視界を奪う。

イベントフラグをブレイカー!……はぁ。

 

まぁ、下着なりシルエットなりは、見て気がついた為、ちゃんと視認しています。

みほちゃんは、もうすっかりおとなになりましたとさ。

 

……一度見ちゃったものは仕方がないので、覚えておく。うん。

 

 

 

『隆史君、いるよね!? いない振りとかもしないでね!!』

 

「いるよ」

 

『本当に?』

 

「返事してるでしょ。ややっこしい事になるのは、ゴメンだ」

 

『うん。……もう出るよ?』

 

「はいよ。んじゃ部屋、戻ってる」

 

部屋に戻り、みほが出るのを待っている。

まったく…なんだこの状況。

 

しかし、お約束と言われている展開をちゃんと回避できた。

まぁ脱衣所に居合わせた時点で、回避しきれていないのかもしれないけど、まぁ大丈夫!!

 

些細な音でビックリして、全裸で出てくるとか、いない振りして慌てた全裸が出てくるとか…。

 

これで平和に、今日という日が終われる。

 

はっはー…もう胃の負担になる事は、ごめんです。

 

「で…でたよ?」

 

「……」

 

半身で、寝巻きらしき物を着たみほが、脱衣所から覗いていた。

 

「髪の毛濡れたままですけど……それ拭いただけだろ?」

 

「…ドライヤー持ってくるの忘れちゃった」

 

…これはいかん。

 

ここにトラップがあった。

 

メガネと続いて、濡れた髪は、俺のアレに結構なストライクだ。

前に見た、沙織さんのメガネ姿を見た時、心が一人で万歳三唱だった。

 

…なに言ってんだろ俺。

 

「今出してやるから、ちょっと待っていてくれ」

 

「あ、うん。ありがと」

 

「……というか、寝巻きまで…。泊まり用に一式持ってきたのかよ」

 

「ま…まぁ一応。これでもすっごい、恥ずかしいんだよ」

 

そうりゃそうだろうな。

今までのみほでは、とてもじゃ無いけど考えられない行動だな。

 

 

 

 

無事同じ要領で、俺も風呂から出れて就寝の時までこれた。

つまり、俺は床…まぁ絨毯引いてあるけど。

みほは、ベッド。

 

後は、電気を消して寝るだけだ。よし!

 

天井に向けてガッツポーズを取る。

 

終わる! この奇抜な一日が終わる!!

 

…ただ部屋が、すっごい女の子の匂いがするので、落ち着かない。

 

だけど…なんだろうな。

全然緊張しない…。

 

 

「ね…寝顔とか見ないでね!」

 

「はい」

 

「…ホントに見ないでね?」

 

「ヘい」

 

「……」

 

「……」

 

無言がつづく。

 

昔は…子供の頃はたまに西住家に泊まった事は、あったのだけど、やはりその時とは全然違う。

年頃ですしね。

 

「……なんか、隆史君。慣れてる?」

 

「は?」

 

「隆史君、髪の毛短いのにドライヤー持っていたり…、なんか全然、意識されていないって言うか…それはそれで……」

 

「何言っているんだ?」

 

「まさか! 女の子他に泊めたりした事『アリマセン』」

 

今日みほさん本格的に変ですよ?

 

 

「そろそろ落ち着いたか? 寝れそうか?」

 

「え!? あ、うん。大丈夫」

 

「はぁ…あのな。…それなりに意識はしてるぞ?」

 

濡れた髪の毛姿、エロかったです。……絶対言いませんけどね!

 

「え!?」

 

「じゃなきゃ、泊めるのに反対しないだろうが。まったく…嫁入り前の娘が、何やってんだ」

 

「……」

 

やはり、ぜんっぜん緊張しない……なんでだ?

 

ボコを抱っこして寝ていたのか、上半身をボコと共に起き上がらせていた。

 

「あの…どういった意味で、意識してたの?」

 

「……寝ろ」

 

「むぅ」

 

みほは…結構、みんなの前で見せない表情というものが有ると、最近気がついた。

俺が普段、知っている顔ってのを、結構学校じゃ見せないものだ。

まぁ…こんなむくれているのは、まず見ないなぁ…

 

「あの…隆史君」

 

「何?」

 

「顔が見えないと、何か結構…恐い……」

 

「……目を閉じれば一緒だ。寝ろ」

 

「さすがに一緒にはちょっと…アレだけど…こう……手! 手貸して!!」

 

「……ハァ」

 

ため息と共に、無言で片腕を上げる。

それが見えたのか手が、握られた。

 

ぬ。片腕上げ続けるっての、結構辛いな。

 

「エヘヘ…」

 

「……」

 

「…もうちょっと話していい?」

 

「ダメ。寝ろ」

 

いいかげズルズル行って、徹夜何て事はゴメンだ。

貴女、チームの要なんですから、しっかりして下さい。

 

「でも、隆しく『俺が初めて本物を見た、と確信した時なんだけどな? 夜の富士の樹海だったんだけど、結構、深い…『 寝ます!!』」

 

……まったく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第63回 戦車道全国高校生大会 第二回戦」

 

試合開始のアナウンスが流れる。

 

すでに、各戦車が試合開始位置で待機をしている状態。

私物とかモロモのロ回収要員で、隆史君もその場にいた。

すでに隆史君の愛車が、戦車道の備品扱いになってしまっている感がすごっい。

 

「みほー。俺そろそろ、会場テントに戻るけど、何か持っていくものあるか?」

 

「!!」

 

「…まだ気にしてんのか」

 

声をかけられた時点で、顔が真っ赤になっていくのが分かる。

 

だって、しょうがないもん

いくら恐かったって言っても、まさか一泊する事ができるなんて思わなかったもの!

結構、切羽詰まっていたのもあって勢いだけで、行ってしまった。

絶対途中で帰らされると思っていたのに。

 

お陰でよく眠れなかった……って事もなく、普通に寝てしまった為、何か勿体無い気がしたのは内緒。

 

うん、寝たよ? ちゃんと寝ましたよ?

思い出すと、まだ顔が熱くなる…ヨォ……。

 

……寝たんだよ?

 

「たぁーのーもー!」

 

……

 

来た。

 

遠くから車に乗ってやって来た。

土煙を上げてやって来た。

 

ツインテールの隊長さん…アンチョビさんと………………カルパッチョさん。

 

あんこうチームの皆も気がついた様で、麻子さんは完全に硬直してしま…なんで、隆史君の後ろに隠れたんだろう。

 

「よぉ! チョビ子ぉ~」

 

「チョビ子と呼ぶな! アンチョビ!!」

 

「で? 何しに来た? 安西」

 

「アンチョビ!!」

 

会長達が真っ先に声をかけたけど…やっぱり知り合いなのかな?

 

「試合前の挨拶に決まっているだろ!」

 

「私はアンツィオの、ドゥーチェ・アンチョビ! そっちの隊長は!?」

 

バッっと指を指してきたのだけど……横からアンチョビさんの手の甲を上から軽く押さえ込み、手を下げさせた。

 

……隆史君が。

 

「千代美。人に向けて指を指すな」

 

「隆史!?」

 

「「 …… 」」

 

「みほー。呼んでるぞ?」

 

「うん」

 

「ほぉー! あんたが、あの「西住流の西住 みほ」か」

 

「はい、西住 みほです。あれ? ご存知なんですか?」

 

「隆史から聞いている! 昔っからな…」

 

昔から?

 

「まぁいい! 相手が西住流だろうが、島田流だろうが! 私達は負けない! じゃなかった、勝つ!!」

 

わぁーテンション高い人だなぁ。

あ、ツインテールのリボンかわいい。

 

「今日は正々堂々勝負だ!」

 

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」

 

差し出された手を取り、握手をした。

ちょっと高圧的な人かな?って思ったけど、何か気持ちのいい人みたい。

 

「さてと、取り敢えず…おい隆史」

 

一通り挨拶がすんだら、隆史君を睨んでいる。

あれ? 動画だと、こんな敵意を出す人に見えなかったんだけど。

 

「なに? チヨミン」

 

「呼び方変わった!? いいかげんアンチョビと、ちゃんと呼べよ!」

 

「ヤダ」

 

「お前は…」

 

「はぁ…わかったよ。「アンチョビさん」これでよろしいですか?」

 

「そうだ! それでいいんだ!」

 

満足そうに頷いているアンチョビさん。

しかし向かいの隆史君は、特有の悪い顔をしていた。

この顔出すのって、数人だけなんだよねぇ。麻子さんと、エリカさんと…この人かぁ……。

あ、グロリアーナのオレンジペコさんもそれっぽいんだけど、なんか違う…あの娘だけ特別枠っぽいんだよなぁ…。

今度、聞いてみよう。

 

「はい。では、私から一つ。カルパッチョさん何処ですか? 先程まで、いたはずですけど?」

 

「なんだ? 急に」

 

「いえ、私達の数人が、とてもカルパッチョさんと、お話をしたいらしくてですね? アンチョビさんから、呼んで頂けないでしょうか?」

 

「……別にいいけど」

 

「よかった。では、アンチョビさん。もしカルパッチョさんが、いらして帰る時になったら、声をかけてくださいね」

 

「……」

 

あー…いぢめてるなぁ…。

 

「な…なぁ、隆史?」

 

「何でしょう? アンチョビさん」

 

「……その、今度はちょっと、他人行儀…すぎると思うんだョ…」

 

「え? でもこれが、アンチョビさんのご希望では?」

 

「…そこまでは…言ってナィ……」

 

「あそう? んじゃチヨミン、カルパッチョさん来たら教えてくれよな!!」

 

「!!??」

 

隆史君楽しそうだなぁ~…。

 

「本当に。隆史さん、昔からドゥーチェには、あんな感じなんですよ?」

 

「ひやぁ!!」

 

微笑みながら私の真横にいた、金髪の優しそうな女性。

 

いた……

 

チラッっと横を見たら、完全に皆固まっちゃってる。

カルパッチョさんが、あんこうチームにとって恐怖の対象になっちゃってるぅ!

 

「すみません。悪ふざけが過ぎましたねぇ」

 

…コワイ

 

「い…いえ……」

 

「貴女が「西住 みほ」さんですね?」

 

「は、はい」

 

「単刀直入に言いますね?」

 

「え?」

 

「私、隆史さんの事もう諦めてます」

 

「……え? え!?」

 

何!? 何が!?

 

「もうご存知かと思いますけど、プラウダの方とか凄かったですし、何より……」

 

ちょ…ちょっと待って! 

 

「あの人、昔から結局、一人しか見ていないみたいなんです」

 

「……」

 

「気の多い方に見えますけどねぇ…まぁですから、私は2号さんでもいいかなぁって」

 

別の意味で、この人が怖くなってきた……終始、笑顔で話しています。

 

2号さんって…。

一方的に話されて、ちょっと追いつかないよ

すごいホワホワした方ってイメージが強いんだけど…言ってる事が、すごい…

 

 

「ケレド」

 

「」

 

雰囲気が一気に変わった。

 

目が…目がぁ……。

 

「私と彼の思い出に、興味本位の土足で入ってくる様なマネ、モウ…シナイデクダサイネェ」

 

 

「」

 

 

「三度目は、ありませんからね?」

 

 




ハイ、ありがとうございました。

ホラー回の定番をみぽりんが、お送りしました。
元々、アンツィオは書くつもりでは無かったので全体のストーリー構成をし直しました。

次回アンツィオ戦。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。