転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第27話~それぞれの告白…です~

「……」

 

 見えるのは、天井のみ。

 

 左手…というか左腕をあずけている為、仰向けに寝るしかなかった。

 手が痺れてきた……。

 

 散々騒ぐというか、怖がっていたのに俺の手を取ったら、10分もしないうちに寝入ってしまった。

 

 暗い部屋からは、寝息しか聞こえない。

 

 いつもと違う状況に、若干俺もおかしくなっているのだろうか?

 

 女の子の…というか、みほの匂いが部屋に充満して落ち着かない為だろうか?

 

 つまり。

 

「寝れん!!」

 

 上半身を起こし、腕の状態を確認する。完全に抱き枕になっていた……。

 初めは手だけだったのだけど、段々とベットの端にまで来てしまい、俺の肘上部分がすでに持っていかれてしまっていた。

 要は、腕を垂直に上げるしかない状態だった。

 

 そりゃ腕も痺れるわ。

 

 

『ね…寝顔とか見ないでね!』

 

 

 んな事言われてたな。

 はい。嘘です。嘘になりました。

 

 体を起こしたら、見えてしまった。

 

 ……

 

 まぁ、それなりにドキドキはする。

 すげぇスタンダードな水色のパジャマである。

 俺は、ワンピース型のパジャマが好きですって言ったら、ぶん殴られるかなぁ……。

 

 

 …………

 

「ん、まぁなんだ……」

 

 自然と一人言になる。

 しほさんと悪魔大将ぐ…亜美姉ちゃんに言われた事、……対象を絞れ、彼女を作れ。

 

 別に急いだり、焦ったりして作るもんでもないだろう。

 

 でもなぁ…2周目を言い訳に、距離を置いているのもまた事実。…恐いんだよな。

 

 あれからずっと考えてはいた。

 誰とそういう関係になりたいのか。

 

 基本、俺なんかを拾ってくれる人が、一番好きだと思っていたくらいだしな。

 

 ……思っていた?

 

 そのまま、みほを眺めていた。

 

 なんとまぁ…ムカつくニヤケ顔で寝やがって。

 俺は、お前のせいで寝れないんですけど?

 

 ……。

 

 失踪とはちょっと違うけど、連絡が取れなくなって、ずっと心配はしていた。

 それが、恋愛感情とやらになるかは、分からない。

 保護欲って奴とも違うと思う。

 

 人間、経験のない事は、いくつになっても戸惑うものだな。

 

 

 

 

 

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「お前、すげぇな尾形」

 

 目の前の、座っている席の前にある、長机に額を打ち付ける。

 いやぁ~いい音した。

 

 眠気も酷くて、そのまま突っ伏したまま寝てしまいそうだったけど…。

 みほの寝言が気になって仕方なかった為でもある。

 結局、一睡もできなかった。

 なんだよ、「隆史君の変態ぃ」って。

 自覚してるよ。

 

 

「…お前、なんで知ってるんだよ」

 

「何言ってんだ。お前ある意味、戦車道界隈で有名人だぞ?」

 

 

 

 大会本部。

 

 集会用テントの中で、試合開始を待っていた。

 前回と同じ用に、長机とパイプ椅子。

 その長机の上に設置された無線機。

 

 主に聞く専用。発信は大会が開始されたら、こちらから使用不可になる。

 まだ発言はできる時間はあるのだけど、特に言う事もなく試合開始を待っていた。

 

 そして、また現れた戦車道マニアのイケメンマスクで、クラスメートの中村。

 

「なぁ…試合開始されたら、テントから出れなくなるぞ」

 

「あー、いいや。やっぱここ特等席だし、ここで見るわ」

 

「まぁいいけど」

 

 テント内では、俺一人ポツーンと座っているだけだし、正直こいつがいると、自動説明翻訳機になってくれるから助かる。

 

「…プリン食う?」

 

「プリン!?」

 

「…俺の手作り。魚の目プリンの漢味」

 

「……」

 

 返事を聞く前に、足元のクーラーボックスから4つ取り出す。

 そして、向かいのアンツィオ側のテントに向かって、こっち来いと手招きをする。

 アンツィオで、俺に睨まれた、喰われそうって言った子2名が、向かいのテントの中にいた。

 もう俺の顔を知っている事と変な噂の為、警戒せずにパタパタ小走りでこちらに向かってきた。

 

「なんですか~?」

 

「これやるよ。まだ試合開始まで時間あるから、良かったら食って」

 

「え! マジっすか!?」

 

 目の前のプリンを凝視している。

 あらあら。目を輝かせちゃってまぁ。

 

「……でも、お前の手作りなんだろ? 漢プリンなんだろ?」

 

「え…」

 

 横で中村が余計な事を言うものだから、折角伸ばしてもらった手が止まった。

 

「このプリンはな、俺が昔バイト先で個人的に売っていたプリンだ。商品となった品です」

 

「転校前…青森だったっけ?」

 

「へぇー青森にいたですか。あぁ、それで…」

 

「ちなみに、これ一個、1000円で売ってた」

 

 「「は!?」」

 

「い…いやお前、それはボッタクリだろ…」

 

「ちょっと特殊な卵とシロップ用のハチミツ使っててな、一日30個くらいしか作れなかったんだ。でも大体1時間程で、毎回売り切れたぞ?」

 

 人脈って大事だなぁ…普通手に入らない物も、少数なら手に入るようになる。…通常価格だったけど

 

「俺みたいな奴が作っているってのもあったし、珍しいって事で2回ほど取材が来たぞ。お陰で、売上更に上がったわ」

 

 「「……」」

 

「うちの戦車道連中にも、まだ1人しか食べてもらってないんだけど…いらない?」

 

 たまに材料は輸送してもらっていた。

 特殊な材料の為、完璧に青森の時の味を再現する事は、滅多にできない。

 …普通の奴はみんなに配った事はあるけど、コレを食べた事あるのは、近藤さんだけ。

 

 

「ほっ欲しいです!! そんなの食べてみたいに決まってるじゃないですか! 頂けるんですよね!?」

 

「いいよ。もう一人の子にも持って行ってやって」

 

 

 

 元気よく返事をして、また小走りで自分達のテントへ戻っていった。

 今では、向かいのテントでこちらに手をブンブン振っている。

 アンツィオの生徒は元気いいなぁ……

 

 そして俺達は、男だけの空間で、男だけでプリンを食している。

 

 なんだろう。男だけの空間は素晴らしい。

 

「……すっげー旨いのが、気持ち悪い」

 

「褒め言葉として受け取ってやる……で?」

 

「ん?」

 

「それで? なんで知ってるの? 俺とプラウダ高校との関係」

 

「さっきも言ったけでどな。お前今、戦車道界隈ですっげぇ有名人になってんだよ。……女の敵って」

 

「……は?」

 

「前大会MVPの『地吹雪のカチューシャ』選手と『ブリザードのノンナ』選手を侍らせてるって」

 

「はべ…」

 

「すげーなお前。よりにもよってあの二人だろ? 本人達も認めるような発言してたぞ?」

 

「はぁ!? いつ!?」

 

「プラウダ高校がこの前、二回戦突破した時のインタビューで答えてた」

 

「え…」

 

「俺、試合見に行ってたから、その会場にいたんだけどな。初めは、記者ガン無視だったんだけど、お前の名前が出たら即座に反応してたけど?」

 

 ……まて。じゃあ、俺が大洗学園にいるのってバレてないか!?

 

「グロリアーナのダージリン選手に『あまり人様に言える事ではないのですけど、とても濃密な仲ですわ』とまで言わせた「尾形 隆史」と言う人物をご存知ですか?って聞かれていたんだけどな?」

 

「」

 

 開会式の時のかーーー!!

 

「要は、ダージリンのスキャンダル狙いのインタビューを、付き合いのあったカチューシャ達に聞いた訳か…」

 

 じゃあ俺の転校先は、まだバレていないのか?

 …いや、もうそれ以上に変な事になってないか?

 

「そうだな。やっぱり女性の競技だしな。そういった浮いた話題も出てくるな」

 

「…で? なんて答えていたんだ?」

 

「『はい。存じております。しかし隆史さんとは、私との関係の方が遥かに濃密です。そんなデマを信じないで下さい』ってノンナ選手が、すごい淡々と早口で言ってた」

 

 

「」

 

 

「『ちょっとノンナ!? 「私」って何よ! 私よ私!! このカチューシャとの方が、よっぽど濃密な関係よ!!』ってカチューシャ選手が張り合ってた」

 

 

 ……カチューシャ、濃密な関係の意味わからないで言ってるだろ。

 何故張り合う。というか中村。お前記憶力良すぎ。

 

「カチューシャ選手が、アダ名で呼んでいたからな。こりゃ本物だって事で、信憑性が高まったんだろ」

 

 頭を抱えた…。

 何? 俺、三股かけてるクソ野郎になってんの?

 

「後な?」

 

「まだ、なんかあんの!?」

 

「西住 まほ選手」

 

「」

 

 ま…ほ……ちゃん……何言った!!??

 最近来るメールの内容が、すっごいおかしかったのって、これが原因か!?

 

「お前、その時も大会会場にいたのか? 学校最近来なかったのって、試合観戦巡りしていたって事か!?」

 

「そだよ?」

 

「いいご身分だな……でっ!? 西住 まほ選手は、何て言ってたんだ!?」

 

「鼻で笑って終わり」

 

「…え? それだけ?」

 

「そうだな。だけどな記者が、他の選手に聞いていたらな」

 

「…なに」

 

「熊本港で、西住 まほ選手をお前が抱き上げて攫って行って、西住流本家に殴り込みをかけてたっていう、目撃情報が多数ありましたとさ」

 

「」

 

 いた…あの場に他の生徒いた。確かに多数いた……。

 

「なにお前、そんな事やったの?」

 

「……やった」

 

 やめろ。そのキラキラした目はやめろ…。

 

「まぁ後半は噂の域は出ないらしいけどな。それに関しては、西住 まほ選手はノーコメントだったけどな」

 

 まほちゃんなら、そこら辺はしっかりしているだろうし、余計な事は言わないだろう…けど……

 

「ただ、真っ赤になって逃げるように去っていったからなぁ…あの西住 まほ選手がなぁ…」

 

「」

 

 

「すげーな。鉄の女、二人共落としてんの? お前」

 

「そ…そういう、落とすとか、ゲスな言い方、好きじゃない。…と言うか、…彼女すらいない」

 

「ゲスな言い方って…お前、界隈でなんて言われてると思ってんだ……」

 

 やめてくれ…俺のHPはもう無い。

 

「『光源氏の再来』だってよ」

 

「は? 光源氏?」

 

 光源氏ってアレだろ? 実際は義母からその姪っ子とか、手を出しまくってたってクズだろ? 俺ぇ!? 俺ってその再来とか言われてんの!?

 

「でもよ、いくらなんでもそんな情報、普通信じないだろ? ありえないって…」

 

「あー、まぁ普通そうだな」

 

「だろ?」

 

「でもなぁ情報提供元がなぁ…記者がうっかり漏らしてんだよ」

 

「……なんだよ」

 

「情報元が、文部科学省の…たしか学園艦教育局長が、インタビュー中うっかり漏らしたんだと。学園艦管理してるお役人さんの事だろ?」

 

 

 ……

 

 

「あの七三ーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 嫌がらせだ!

 

 絶対、意味のない嫌がらせだ!!!

 

 うっかり漏らす情報じゃねぇよ!!!

 

 ザッ

 

 無線から雑音が鳴った。

 

『隆史君』

 

 ……

 

 ………………

 

 まさか

 

『無線機チェックして?』

 

「」

 

『うん、分かった?』

 

「」

 

『音声入りっ放しだったよ?』

 

「」

 

『全車輌に全部キコエテタヨ?』

 

「」

 

『…試合が開始されました。以降そちらからの通信は禁止となります。……グス』

 

「」

 

『はい、では皆さん。パンツァァァァーッフオォォーーー!!』

 

 

 

 

 

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 ---

 

 

 

 

 

『それでは皆さん。健闘と幸運を祈ります!』

 

 無線機から、みほの指示が聞こえた。

 試合中のみほは、ちゃんと冷静に指示を出していた。

 まぁそうだよな。焦ってるのは多分俺だけだ…。

 

「アンツィオ、面白い作戦使うな~」

 

「遠目だと、結構バレ無いものだなぁ」

 

 戦車の偽物。立て看板。

 

 デコイで足止めかぁ…。少し足止めを食らっていた。

 まぁ戦車数の合計でバレてしまった様だけど。

 

「そういや、今回は他校の見学あまりいなかったな」

 

「…いい。来なくて。余計ややっこしい事になりそう」

 

「来ていたのって聖グロだけだったな」

 

「そうか」

 

 ……ん?

 

「ちょっと待て、確かあいつら試合明日だろ!? 何でいるんだよ!」

 

「いや、俺に言われても…まぁヘリなり何なり、移動手段があるんじゃない? お嬢様学校だし、金はあるだろ?」

 

「……」

 

 前回のサンダース戦でもそうだったけど、実際に俺がやる事は無い。

 まぁ俺の仕事は、怪我人とか出てしまった場合とかだから、仕事が無い方がいいに決まっているのだけど。

 

 

 今回の試合。

 

 みほ達、他のチームには悪いのだけど。

 

 カバさんチームとセモヴェンテの一騎打ちに見入ってしまっていた。

 ライブ映像の画像と合わせて見ていたけど、やっぱりガチのタイマンは、見ていて面白いな。

 

 結局、相討ちで終わったのだけど、同時に試合終了してしまった。

 そこで気がついた。

 他のチームを全然見ていなかった……。

 

 だから現在、試合終了後に流れる、今回の試合ダイジェストを一生懸命見ている。

 横の奴がうるさいけどな。

 

 

 

「いやー! 今回も面白かったな!!」

 

「…ソウダナ」

 

 おぉ、うさぎさんチーム急成長って感じか? 前回と動きが違うわ。しっかり敵機撃破できたしな!

 

「Ⅲ号とセモヴェンテのぶつかり合いが一番だったわ! 燃えたな!」

 

「…ソウデスネ」

 

 アヒルさんチーム、5輌撃破かよ。大金星じゃなかろうか? プリンやろうプリン。

 

「セモヴェンテの発砲の衝撃回転とか鳥肌たったわ!」

 

「……」

 

 …みほさんが、なんか恐いです。最後砲撃来た時なんか、P40の砲身角度から当たらないの分かってますって顔してたな。普通な顔が恐いとかさ…。

 普通分かっていても、砲弾が数メートル横を通り過ぎたら怖いだろうに。瞬き一つしない…。

 んで、華さんの射撃で試合終了。それ含めて、みほさんが何か恐かった。

 

「砲身同士の鍔迫り合いが、たまらんかったよな!」

 

「……ヘイ」

 

 後は…亀さんチームは、今後何とかしないと…特に桃センパイを。

 

「砲身同士の鍔迫り合いって、なんかエロいな!!」

 

「それはわからん」

 

 

 はい。そんな訳でお片付けのお時間です。

 

 機材回収作業を、自動翻訳機さんのお言葉を適当に聞き流しながら進める。

 多分バレたら怒られるなぁ…試合全体、ダイジェストでしか見ていませんでしたってバレたら…。

 

 

「なぁ、尾形……」

 

「なに?」

 

「アンツィオが、何かしはじめたけど…」

 

「なんだ? 飯でも作り始めたか?」

 

「……なんで見もしないで分かった」

 

「まぁいつもの事だしな。あれはあれで、あいつらのいい所でもあるんだよ。ちょっと手伝ってくれ」

 

 中村に手伝ってもらって、機材の撤収準備も済んだ。

 本当に、大洗学園のテントブースって何にも無いな。俺の私物と無線機だけだよ。

 

 さてと…どうするかなぁ。あそこに合流今は、したくねぇ。

 何か絶対言われる。

 画面では、パスタを初めとして各イタリアンな食事が振舞われていた。

 あー…ピザとか暫く食ってなかったなぁ…。

 

「どうする? 中村、学園艦戻るのか?」

 

「そうだな。さっさと戻って、明日の試合に備える」

 

「…なんだよ。各高校の全試合見に行くつもりかよ」

 

「できればな! それにグロリアーナ戦は面白いんだよ! クルセイダーの動きが、特に面白いんだよ! 予想がぜんっぜんつかなくて!」

 

 …ローズヒップか。

 

「というか、あそこにお前は行かなくていいのか?」

 

 

 指を指された巨大画面では、宴会を楽しんでいる連中の中で、みほの顔が画面に映し出されていた。

 まぁ楽しそうだし。今更、俺が行って水を差すのも何だしな。…でも行かないとダメだよなぁ。

 

「イキマスヨ」

 

 …正直行きたくない。

 

「まぁそうか、無線で言っちゃったのもあったしな。行き辛いよな? なんか悪かった、すまん」

 

「それもある。だけどまぁ他校と俺の繋がりは、皆知ってるし…まぁいいよ。気にすんな」

 

 コイツの悪いと思った事を素直に謝る潔さは、結構好きだ。

 

「でもなぁ…浮気とかされたと思われたんじゃね?」

 

「…なんだそれ。何度も言わせるなよ、彼女いねぇよ。そもそも誰にだよ」

 

「西住さん」

 

「……」

 

 は?

 

「ちょっと待て。どういう事だ?」

 

 今、すっげぇ即答したぞ…。

 

「え? だってお前ら付き合ってんだろ?」

 

「だからね? いないの。ね? 彼女いないの。言っていて悲しくなるからやめてもらえますか?」

 

「隠すなよ。もう周りにバレてるから。オープンにしても良いんだぞ?」

 

 

 …はい。どうも、隠れて付き合っているって話になっています。

 

 毎朝一緒に登校しているし…まぁそれは、自宅のアパートが一緒ってだけだし…。

 

 たまに作る弁当が、いつも一緒ってのが、特にまずかったようだ。

 一緒に昼飯食ってる所に、弁当中身が一緒とか……まぁ疑われるわな。

 

 みほが、わざわざ二人分毎日作ってるって、話になっているようだ。

 

 作ってるの俺だヨ

 

「……」

 

「まぁ、西住さんって最近、男連中にじわじわ人気がでてきてるしな。何かあれば、すぐに噂も立つだろ」

 

「…みほが?」

 

「そうそう! その下の名前、呼び捨てもそう!」

 

「幼馴染なだけなんですけど?」

 

「周りの連中は、知らねぇよ。戦車道の一回戦突破で、生徒会が大々的に学校新聞にも載せただろ? その為だろうなぁ」

 

「……あれか…。なんか新聞部から、みほの奴、取材っぽいの受けてたな……」

 

「男子生徒数が女子生徒数に比べてかなり少ないだろ? 目立つ女子生徒はまぁ…話題になるわな」

 

 何となく分かる。

 生徒会長達も有名人っちゃ有名人だしな。目立つ人にはそれなりに話題がいくものか。

 

「というかなんでお前が、知ってんだよ」

 

「……相談されるから。その野郎連中に。俺もそんなに経験ないのに」

 

「あぁ。オマエサン、モテマスカラネ」

 

 経験あるだけマシだと思うのですが?

 まぁ…うっとおしいだろうな、そういった相談は。

 

「みほって本当に人気なの?」

 

「そうだな。実際、可愛いと思うし、あの性格だろ? 癒し系だと思われてるみたい」

 

 俺の癒し系は、オペ子とマコニャンだけど…みほがねぇ…へぇ。

 

「しかも結構、難易度が低いと思われてるみたいだな」

 

「…は?」

 

「すっげぇ押しに弱そうだからな。隙も多いし」

 

「……それはなんとなく分かる」

 

「だから頼めば困ってもOKしてくれそうとか、土下座して頼めばヤいだだだだ!!!」

 

 気が付けば、アイアンクローしてました。はい。

 

「ダレ? そいつのクラスと名前言って? ねぇ? …教えてくれませんか?」

 

「待て! 噂!! 相談してきた奴が言ってたの!!!」

 

「うん、中村。俺はお前とは、結構良好な友人関係だと思っているのですよ。な? だから吐け。……吐いてくれませんかねぇ? ダ レ ダ 」

 

「だから! お前の名前が、そこで出てくるんだよ!!」

 

 …

 

 ……なるほど。

 

 すまん。ちょっと我を忘れた。

 

 中村が悪いわけでも無い。

 まぁ思春期の男子学生同士がする、下卑た会話。

 らしいといえば、らしいけど……いい気分はしない。

 

「まぁ怒るのも分かるから正直に言うけど。そこで大体、お前の名前が出て来るんだよ。彼氏もういるって。だから諦めろって言ってるんだよ」

 

 あぁ、そういう…まて。

 

「…じゃあ、俺が彼氏だっていう噂を拡大してるの、お前じゃないか」

 

「あ」

 

 

 コイツ…。

 

 

「……まぁいい。良かれと思ってやってるんだろ? クソふざけた噂よりいい」

「スマン」

 

 しかし、まぁ…みほがねぇ。

 ふーん。

 

「なぁ?」

 

「……」

 

「本当に付き合ってないの?」

 

「…無いな」

 

「なんでイライラしてるんだよ」

 

「……なんでだろうな?」

 

 カタカタと、無意識に貧乏ゆすりをしていたようだ。

 

「……」

 

 正直、そういった関係に踏み出せる自信が無い。

 しほさんに言われてた事もあるけど、なんだろうな?

 まだ、ノンナさんとかダージリンとか…オペ子とかの方が、納得というか想像がつく。

 まぁ…無いだろうけど。

 

 …みほからの好意は感じてはいるのだけど。

 まぁ嫌われていたら、いくら幼馴染だとしても、男の部屋に泊まりたいとか言わんだろうしなぁ。

 異性として見られていない…事は無いだろうし。

 

 こりゃ結構マジかなぁ…。

 ひょっとしたら昨晩、部屋に来たのも……作戦ってやつか?

 

 

 

 

 

 あ、追伸。

 

 後日この試合のダイジェスト映像が、生徒集会で上映された。

 試合時のみほ。そう…自然な極々普通の表情で、砲弾飛び交う中、戦車から生身を出し、容赦なく敵機を撃破するして行く姿。

 若干の恐怖を与えた様で、ふざけた噂は途絶えた……が。

 

 試合を重ねる事に、生徒集会で上映されるものだから、段々と別のファンが増えていく事になるのは、まだ知らない。

 みほの戦車に乗っている時は、ある意味別人にしか見えないものね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大洗学園とアンツィオ高校の…何かしらコレ。

 

「おー! グロリアーナも食べていけ!」

 

「あれ? ダージリンさん達、また試合見に来てくれたんですか?」

 

 大勢の生徒に囲まれている隊長さん達。

 まぁ、みほさんと、アンチョビさんですけどね。

 折角、見学に来たのですから、一言挨拶を…と思って来たのですけれど…巻き込まれてしまいましたわね。

 彼女達の宴会に参加する事になりました。

 

 今回は、試合後の労い会と仰っていますけど…今回? 

 あぁそうでした。この方達は、何かにつけて宴会を催すのでしたわね。

 

「では、火を貸して頂けますか? お茶でも淹れますね」

 

「お安い御用だ! ペパロニー!」

 

 オレンジペコの要求に即座に対応し、小さなコンロを用意して頂きました。

 随分と用意がいいこと。

 

「あ、ダー姐さん」

 

「……」

 

 コンロ持ってきてくれたペパロニさんに、不本意な呼ばれ方をされた。

 青森の時、プラウダとグロリアーナとアンツィオ、それと隆史さんも交えて、合同合宿みたいな事をしました。

 その時、色々な格言をお教えして差し上げたら、もうやめてださいと敬語で嘆願され、その不本意な名前で呼ばれるようになりました。

 …その時の幹事が、このペパロニさんとローズヒップという組み合わせで、度肝を抜かれたのをまだ覚えています。

 

 ……ひどい目に遭いましたわ。

 

 

「その呼び方は、やめてと言いませんでしたか?」

 

「そっしたか? まぁいいや! ダ姐さん!」

 

「……」

 

 更に縮められた……。

 

「うちのアンチョビ姐さん、ツインテール外れて武器になるんすよ! ドリルっすよドリル!!」

 

 「「……」」

 

「なんですか? それは…」

 

「隆史がペパロニに吹き込んだんだ…。まさか本当に信じるとは……」

 

「あの方は…まったく……」

 

 遊んでいますわね。

 

「ダ姐さんも、ツインテール見たいなものですよね? 何になるんすか?」

 

「……違います。これはギブソンタックと言って、一本の長い三つ編みを……いえ」

 

「なんすか?」

 

「これを解いて、三つ編み一本にすると、変幻自在のムチになりますわ」

 

「ダージリン!?」

 

「マジっすか!?」

 

「えぇ、そんな嘘を言って、誰か得をしますの?」

 

 私と恐らく隆史さんも得をしますけど。

 

「しないっすね!! へぇー無知っすかぁ!!」

 

 …漢字になって聞こえましたわ。

 

「そういえば、大洗の生徒会長さんもツインテールでしたわね?」

 

 横で食事を終えた、会長さんに声をかけてみた。結構な長さのツインテールですしね。

 

「ほぇ? 私?」

 

「そういえば、そうっすね! そちらの姐さんは、何になるんっすか!?」

 

 さて…どうでるのかしら?

 

「私の? 私のはねぇー…」

 

 あ、乗ってくれましたわ。

 

「ツインテールの先からビームが出るよ!」

 

 「「 ブッ!! 」」

 

 い…いけませんわ……ツボに……

 

「すっげー!!! ビームっすか!? ビーム!!!」

 

「……ペパロニ。お前…」

 

 あら、アンチョビさんが引いてますわね。もはや信じる信じないの問題では無いで…びーむぅ

 

「でも、アンチョビ姉さんなら、もっとすごいのやってくれるっすよ! 他にも何か、ギミックが隠されているんっすよね!?」

 

 

「無い」

 

 

 ペパロニさんの期待に満ちた笑顔を、一言でぶち壊しましたわ。

 

「え…」

 

 泣きそうな顔してますわよ? ドゥーチェさん?

 

「私のは自毛だ! 自毛!! 着脱もできんし、ドリルにもならん!!」

 

「うっそだぁー! 隠さなくたっていいんすよ? 姐さん! あれですよね!? 天元突破するんすよね!!」

 

「自毛だと言っとろーがぁ!! なんでお前は私の言うことは信じないんだーー!!」

 

 ホント。仲睦まじい事。

 

 

 他校の生徒同士の交流。

 特にこういった、砕けた場での交流は良いですわね。

 私達は、ちょっと場違いでしたけど歓迎してもらっているみたいですし、まぁ良しとしましょう。

 

 この度の試合もそうですけど、大洗学園の動きは、一々面白い。

 戦車道の素人達が、結局二回戦まで突破してしまいました。

 でも次はプラウダ高校ね。どうなるかしら?

 

 しかし…

 

 アンツィオ高校の生徒も撤収準備が完了。

 夕日も傾きかけ、この宴会も終了という時になっても、結局来ませんでしたわね。

 

 皆さん散り散りに帰艦していく中、結局私達は最後までこの場に居てしまいました。

 アンチョビさん元気に手を降って、帰って行きましたわねぇ…。

 

 そろそろ暗くなって来ました。

 最後にお伺いしておきましょうか?

 

「みほさん」

 

「はい?」

 

「正直、隆史さんにもお会いしたかったのですけど…もう帰られました?」

 

「あ、いえ。多分…この場所に来づらかったのだと思いますよ?」

 

「あら、どうしてかしら」

 

「実はですね…」

 

 無線を通して、ご友人との会話を全車両に暴露するという事が起こっていたのですねぇ。

 私の発言がきっかけとはいえ、少々申し訳ない事をしてしまいましたわね。

 

「まぁ…無線を通して…」

 

「正直皆、慣れてしまいました」

 

「…女生徒だらけの中でソレは、結構居辛いのではなくって?」

 

「まぁ本人はそうでしょうけど、みんな隆史君の事ある程度分ってますから…からかうくらいでしょうか?」

 

 みほさんは、友達が少ないと初め嘆いていいたらしいのですけれど、結構人懐っこい方と思いますのに不思議ですわね。

 それに、初対面の時の様な、ちょっと自信が無さ気な雰囲気も、もうありませんね。

 

 宴会中は、周りの方々の目もありますし、できるだけ隆史さんの話題は避けていました。

 けど、やはり皆さん気になるのでしょうか?

 

 そうですね…青森での事を良く聞かれました。

 逆に転校後の隆史さんの事が気になり、変な情報交換の場になってしまいましたわね。

 隆史さんが、執拗にみほさんを気にしていた事、心配していた事は…黙っていました。

 隆史さんも気恥ずかしいでしょうし、何より…妬けますしね。

 

 あぁ…プラウダでのお茶会の事も黙っていました。

 言えるはずありませんし……最後の切り札として取って置きたかった、というのも有りますしね。

 

 しかし、アダ名が「タラシ」さんですか…。

 随分とまぁ…ユニークな、アダ名を付けられましたわね。

 今度呼んでみようかしら。

 

「隆史ちゃん…なんか昔の方が、落ち着いていた性格に感じるのだけど?」

 

「仕事していると、違うものなのでしょうかね?…まぁバイトですけど」

 

「た…隆史君が、違う人みたい……」

 

 あら、みほさんが若干引いてますわね。

 

 大洗学園生活を聞くからに、私達の事も含め、一気に女性関係のしわ寄せが来ている感じもしますけど。

 見てみたいものですね、学校に通っている隆史さんも。

 普通に羨ましいですわ。

 

 私達は、港でしか殆ど会いませんでしたから。

 

「……みぽりん。ちょっと顔が怖いよ? 今朝からちょっと様子おかしいよ?」

 

「あぁいえ。…隆史君の交友関係が、結構すごい事になってるなぁって、改めて思ったの。……主に女性関係」

 

「そうですわね。でも…それだけでは、無いのですけどね」

 

 プラウダ高校の応援で、港の方々動かして応援とか…言わない方がいいかしら?

 港の男性達には、結構な人望はありましたのに。

 

「何でしょう。隆史さんって真面目に軽いってイメージが、更に強くなりましたね。変な所ふらんく? ですし…」

 

「相変わらず、書記はよくわからん性格だな。たまに無茶をする。その無茶がまたひどい……」

 

「あー、麻子が一番びっくりしてるよね、隆史君の無茶ぶりは」

 

「まーな。まさか、自衛隊に頼んでヘリを借りるとは思っても見なかった…」

 

 一回戦の後の事でしたわね。

 電話して頂ければ、こちらでも…あぁ……「あの後」でしたわね。それは電話しづらいですわねぇ。

 

 

 

「ん? 西住殿? どうかしました?」

 

 何かに気がついたって顔で、少々ビクビクしていますね。

 いきなりどうしたのかしら?

 

「ダージリンさん。…少し、聞きたい事があるんですけど……」

 

「あら、なにかしら?」

 

 ちょっと困った顔をしていますわね。

 

「あの…オレンジペコさんの事ですけど…」

 

 …本当になにかしら。

 

「あの…その……」

 

「?」

 

「私、何かしちゃいましたか?」

 

「なぜかしら?」

 

「先程から…ちょっと睨まれているような……」

 

 そういば、先程から一切喋っていませんわね。

 隆史さんの話題なら、結構楽しそうにしているのですけ…ど……

 

 本当に…睨んでますわね。

 ちょっとあの顔は、私でも見たこと無い……

 

「ペコ?」

 

 おずおずと、少し離れて立っていたペコに近づいて行くみほさん。

 

 あれは…敵意?

 

「あの…オレンジペコさん。私、何か気に障る事でも…してしまいましたか?」

 

「……」

 

 無視するわけでは、ないのでしょう。真っ直ぐに、みほさんを見上げているわね。

 

 夕日が影を落とし始めた関係で、良く顔色が分からなくなっています。

 

「あの…」

 

 無言で返したペコに、もう一度聞こうと声をかけたみほさん。

 そこで、やっとペコが口を開いた。

 

「西住 みほさん」

 

「は、はい」

 

「今までは、正直我慢してました。でももう無理です」

 

 口だけは微笑んでいる…けど、雰囲気が違う。

 どうしたのかしら? 

 

「勘違いしないで下さいね? 私は、貴女の事は好きですよ?」

 

「え?」

 

「サンダースの時もそうですし、この二回戦後のアンツィオ高校とも仲良くなってしまう…私達の時もそうでしたね!」

 

「あの?」

 

「貴女のその性格は、とても好ましく思いますよ?」

 

「はい…ありがとうござい…ます」

 

 胸の前で、手をポンッっと合わせ…楽しそうに喋ってはいるのですけど…。

 

 社交辞令では無く、あの子は本当に彼女の事を好ましく思っていました。

 一回戦の時も、握手するみほさんに目を輝かせていましたし…。

 

 しかし、今の言葉をみほさんは、素直に受け取っていいか迷ってますわね。

 ……私でもそうするでしょう。

 

 ペコがおかしい。

 

 

「でも」

 

 

「女としては、大っ嫌いです」

 

 

「え……」

 

 笑顔はもう無い。

 

 歯を食いしばっている。

 目の周りにシワまで作ってしまって…

 

「多分隆史さんは、何もおっしゃらないでしょう。今までは、私の口から言うのも、憚られる事だと思いました」

 

「他の方はいいです。何を言っても…。ある意味で、あの人の自業自得でしょうし…女性のご友人を作られるのも、得意みたいですしね」

 

「でも貴女はダメでしょう? 何様でしょうか? 貴女が私達からすれば、どれだけ恵まれた環境にいらっしゃるかご自覚ありますか? ありませんよね!?」

 

「……」

 

 あのペコが怒っている。

 早口で淡々とみほさんを責めている。

 

「あの人が、プラウダとグロリアーナ。共に青森で関係を築き上げた関係は、あの人が貴女を心配していたからでしょう? 私と初めて出会った日も、心配して愚痴をこぼされてました」

 

「連絡をよこさないと。だから貴女の事を、私達に良く聞いてきましたよ。その時は、私達の学園艦は動きませんでしたからよかったです。プラウダの方々は、外より戻ってくる度に聞かれてました」

 

「…さすがに少し可哀想だと思いましたよ。…そこまで、そこまで心配されて思われて…それでいて、あの言いよう。…なんですか? お姫様気取りですか?」

 

 みほさんはもう、完全に固まってしまっています。

 

「……」

 

「……ペコ」

 

「それで、転校までして側にいてくれて……その方に対して、違う人に見える? 女性関係? 貴女に彼を…あの人を怒る権利が、有るのでしょうか!?」

 

「ペコ!」

 

 さすがに止めに入りました。ペコがこんな剣幕で怒るなんて……

 

「ダージリン様は、少し黙っていてください!!」

 

「!!」

 

 止めれませんでした……私に対してもここまで……

 

「……まぁ、心配されていた事を自覚するなんて、とてもじゃないけど無理ですよね……わかっています。えぇ! 感情で話しています! 嫉妬ですよ! 何ですか!? いけませんか!?」

 

「あの人を蔑ろにするような事、許せません。許しません」

 

「……」

 

「私は、あの人の……あの方の……選ぶ人は分かっています。だから余計に許せないんです」

 

「……言いたい事は言えました。私はこれで失礼します」

 

 夕日が沈み、顔も暗くてもう良くわかりません。

 お辞儀を終えて、早々に体の向きを変え、歩き出していきました。

 

 もう、最後の方は涙声でしたわね。

 

「……ペコが失礼をしました。私も失礼します。……みほさん」

 

「……」

 

 返事は無いですね

 

「あの娘は、決して貴女の事を嫌いではないのですよ。ただ……」

 

「はい。わかってます……私が悪いだけです」

 

「みほさん……」

 

 何も言わない、言えないのでしょうね。

 もう私からも掛ける言葉がありませんでした。

 

 ……みほさん

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「みほさん」

 

「……」

 

 華が心配して肩を抱いている。

 目を見開いて、完全に固まっちゃってる……。

 

「西住殿…「あれは……その」

 

 秋山さんも何も言えない。

 誰が悪いなんて一概に言えないもの。

 

 折角試合に勝って、アンツィオと仲良くなれて、皆喜んでいたのに……

 

 この場に当事者でもある、隆史君がいたら違ったのかな?

 あのオレンジペコさんも、あそこまで怒らなかったのかな?

 

 

「もぉー! 隆史君! どこいったのぉ!!」

 

「本当にあの無線が怖くて、来れない訳じゃないと思いますけど……」

 

「……」

 

「うん、正直メチャクチャ迷ったけどな。考え事が長引いちゃってな。悪かった」

 

「でもでも! もうちょっと早く来てくれれば、こんな事にならなかった!って思うな!」

 

「んぁ? 何かあったの?」

 

「そうだよぉー! オレンジペコさんって娘がすっごく、怒っちゃ……て……」

 

「オペ子が?」

 

 

 「「「「 …… 」」」」

 

 

「なに? オペ子達いたの? ダージリンも?」

 

「……隆史君。なんでいるの?」

 

「……なんでって」

 

 張本人が真後ろにいた……

 

「なっなにやってたのーー!!!」

 

「え? いやちょっと考え事……」

 

「ばかーー!!!!」

 

「エーー……」

 

 本当になにやってたの!? この筋肉ダルマ!!

 

「んぁー…」ちょっとな。決心とやらを固めていてな。どうも人から見ると、俺って相当フラフラしてるみたいでな……連盟の人に連れて行かれた時も、散々怒られてなぁ」

 

「してるな」

 

「してますね」

 

「隆史殿は、いい加減にしてください」

 

「……」

 

 みほは、隆史君を一瞥しただけで、まだ完全に俯いている。

 話を聞いていただけだと一概に責められないのが辛いなぁ……

 

「うん。まぁ甘んじて受けよう。でだな、色々あるのだけど、後で殺される覚悟で謝るとしてだ……みほ」

 

「……隆史君?」

 

 隆史君の呼びかけに漸く顔を上げた。

 

 ……完全に生気が無いよぉ。

 

「まぁなんだ。ダージリンもそうだけど、関係各所に何かしらするとしてもだ」

 

「……」

 

 何を言っているんだろうこの男は。

 

「まず最初に、スタート地点を決めようと思ってな」

 

「………………何が?」

 

「明日、大洗に着港するだろう? 俺ちょっと用事というか、バイトというか……会長に頼まれ事あるんで、時間取れなくてな。今日言っておいた方がいいかなぁって思ってだなぁ……」

 

 この男は何をグダグダと…ここに来て会長!?

 ひっぱたいてやろうか!?

 

「隆史さん、今はそんな悠長な事を……」

 

 

「みほ」

 

 

「……なに?」

 

 

 華のもっともな意見を遮って、みほに喋りかけている。

 みほが普通じゃないのが、見て分からないの!?

 

 

「俺と付き合ってみるか?」

 

 

 

 「「「「 …… 」」」」

 

 

 せ…静寂が……何!? 今なんて言ったの!?

 隆史君普通の顔過ぎて、わっかんない!!

 

「…………ど……どこに?」

 

「……そんな古典的なボケはいらん」

 

 相変わらず、ヘラヘラした顔でいつもの通りの隆史君。

 相対して、完全に死顔のみほの顔に、紅色の血色が戻っていく。というか、限界突破した。

 

「あ……あの……え? あ、え!?」

 

「おー……日本語で話してくれ」

 

「  ふぉ!?  」

 

「ふぉって……」

 

 完全に周りが固まっている。

 

 私もそうだ。この朴念仁がこんな事言い出すなんて……

 

 まぁ分かってはいたのだけど……なんだろう……

 

「なんだ? 嫌か?」

 

 あぁ、知らなかった事とはいえ……

 

「……」

 

「……」

 

 この男、タイミングが最悪だ……

 

 

「……………………いや」

 

 




はい。ありがとうございます

今回、少しタラシ殿の女性関係の整理でした。
タイミング最悪のこの男…次回、大洗へ着港します

はい。そうです。武部殿です。

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