炎天下の納涼祭。
強い日差しの中、ただでさえ暑いのに、着ぐるみを着て風船を配るという、拷問にも近い状況下に俺はいる。
死ぬ…死んでしまう……
せめて日陰に逃げようとフラフラ歩き出したのだが、それも阻止されてしまっている。
6人の女の子に囲まれている為だった。
……というか、うさぎさんチームの皆さんですね。
「おじさーん、私にも風船くださーい!」
おじ…
まぁ…中身はおっさんだから、間違っちゃいないけど…
「ちょっと、ダメだよ! せっかく私達の宣伝もしてくれているんだから、邪魔しちゃ!」
えっと…澤さんだったな。
阪口さんと大野さん…比較的に幼い印象を持つ二人を窘めている。
というか、俺をおじさん呼ばわりって事は、着ぐるみの中身が俺だって知らないのか?
「えっと~、私達、大洗学園の生徒なんですけどぉ。おじさんのお手伝いに来ましたぁ~」
宇津木さん曰く、そのチラシ配りを一緒に手伝ってくれるそうだ。
まぁ多分、指示を出したのは生徒会連中だろうけど…なんで着ぐるみの中身は俺だと言わなかった…まぁ多分面白いからって理由だろうな…。
戦車道の看板と、…ベコだったか。このよくわからん着ぐるみの宣伝の為に、少しテントから離れた場所で活動をしていた。
何人かは、風船を持って行ったり、戦車道に興味を持ってくれた。
意外にも年配連れの人達の方が、食い付きが良く、チラシも一緒に持って行ってくれる。
特に大洗学園、戦車道復活から、いきなりの準決勝出場! という流れは、興味を引いたようだ。
…ただ、このよくわからん着ぐるみのキャラクターは、大体スルーされる…。まぁいいけど。
着ぐるみの口部分をスライドして開ける。
別に喋ってもいいよな?
「ちょっと休憩していいか? いい加減、暑くて死にそうだ」
「尾形先輩!?」
「あ、先輩だったんだ!」
急に声を出したのと、着ぐるみの中身が俺というのと、さらにはこの着ぐるみの無駄に凝った作りにびっくりしたようだ。
なるほど…ちょっと面白い。
澤さんが言うには、会長の指示で俺の手伝いに来てくれたそうだった。
どうも着ぐるみの中身は、スポンサーサイドのおっさんが中に入っているって聞いていたようだった。
まぁバレるの前提で、ちょっとしたドッキリを仕掛けた気分なんだろう。…早々にバラしてしまったけど。
ここからは、テントは少し遠いので、どういう状況か分からなかった。
木陰に移動しベンチに腰掛け、現状を澤さんに聞いてみた。だって、Ⅳ号戦車とM3戦車がテント脇に駐車してんだからなぁ…。
11時を回る頃、結局の所、大洗学園戦車道チームは、全員この場に集合していた。
どうも、沙織さんが各面々に、お手伝い要請って事で、連絡を飛ばしたようだった。
納涼祭とはいえ、一般のお祭りだ。スタッフ側からの参加というのに惹かれた様で、全員がすぐに手伝いに了承し、参加の為に集まった。
さすがに全員制服着用との事だったけど、もう一輛戦車の展示が欲しいとの事で、うさぎさんチームは、パンツァージャケット着用で、戦車と共に来たそうだ。
なるほどね。パンツァージャケットの方が、専用着用で更に宣伝には効果的かな?
あんこうチーム含め、他のチームは皆、制服着用のようだ。
「しかし、結構な大人数だけど…一体何してんだ?」
「えっとですね、殆どテント前で、出店で対決してます」
「……は?」
「ほらほら、会長って料理得意じゃないですかぁ。それで武部先輩も料理得意らしくて」
「…うん」
「それで、なんか勝負してますよ?」
「…………ゴメン、ちょっと意味が分からない。どういう事?」
「それで、他の先輩達も乗り気になっちゃって、後は交代制で店番してます」
「あの…ゴメン、俺の話聞いて?」
大洗学園で用意した出店は、焼きそばとお好み焼きなのだそうだ。
普段ならいくら趣味とはいえ、作る側に参加しない会長が、今日に限っては参加すると焼きそばを作り始めたようだ。
そこで、手伝いという事で、お好み焼き側で参加した沙織さんと調理方法でぶつかったらしく、軽い言い争いが起こったと。
んで、どっちの売り上げが上か勝負という事で、対決が始まった…と。
「なんか今日の会長、様子が変でした」
「そうだね。まぁずっと笑ってたけど」
「ふーん。会長がねぇ…」
山郷さん曰く、後は交代で店番したり、各々お祭り見て回ったりしているとの事。
珍しい…というか、今朝は普通だったのにな。後輩に当たるって感じでもないのだろうけど……ふむ。
「あの! 先輩! ちょっとお願いがあるんですけど!」
「なに? 阪口さん」
「ちょっと立ってもらっていいですか!?」
なんだ?
まぁいいけど。
その場に立ち上がり、正面に回ってきた阪口さんの様子を見ていると、両手を上げた。
「抱っこしてください!」
「……は?」
「抱っこしてください!!」
「桂利奈!?」
「おっきなぬいぐるみに、抱っこされてみたい!!」
…着ぐるみだけど。
「遊園地とかで良くやってるじゃないですか! 小さい頃行った時は、いっつも人が沢山いて、やって貰った事なかったんです! ちょっと憧れてました!」
「あぁ~…なるほどね」
ヒーローショウとかでもそうだな。あれ結構人並ぶんだよなぁ…。気が短い親なら諦めろって言って良しだよな。
まぁ気持ちはわからんでもない。
目をキラキラして見上げてくれますけど…まぁそんな事でいいなら。
「桂利奈…そんな小さい子みたいな…」
澤さんが言い終わる前に、両脇に手を入れて、思いっきり持ち上げてやった。
「わっ! わっ!! たかーい!!」
キャッキャッ喜んでくれました。はい。
「尾形先輩!?」
「澤さんが、言わんとしてる事も分かるけど…高校生にもなったら寧ろそんな事、知り合いにしか頼めないだろう?」
軽く上下してやる。
「あははははは!! ぐらんぐらんするぅ!!」
ここなら、人影も少ないしまぁ大丈夫だろう。
完全に親が、子供に高い高ーいしている状況だった。
「あ!! じゃあ次、私! 私もお願いします!!」
「あや!?」
ツインテールの子が、立候補。まぁいいけど…。
あ…。
「紗希!!??」
…丸山さんが、無言で手を挙げていた。
「じゃー私も!!」
「私もぉ~」
「あゆみ!? 優季!?」
……ご所望でしたので、順番に上げていきました。
ちょっと山郷さんは、発育が大変よろしいから少々困ったけど……。
背だよ? 背の事だよ!?
……ヤベェ。これ結構…いや、かなり疲れる…。
全国のお父さんすげぇな。
「さ…澤さんは、どうする?」
ハァハァ言いながらだけど、丁度いい疲労感でテンションが上がっていた為、一応聞いてみた。
「え…えー……と」
目が泳いでいる。…まぁ普通そうだろう。良しもう終わりだ。ちょっと手が重い……。
「じ…じゃぁ、私も…その一応……」
「」
真っ赤になって軽く手を上げていた…
「あ、でも…疲れていそ…きゃぁ!!」
最後の力を振り絞って、思いっきり高く上げてやった。
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「ハァー…ハァー…………」
し…死ぬ……死んでしまう……
あれは、もう筋トレの域だ…人一人持ち上げて上下運動だぞ……。
澤さんの後、もう一周6人持ち上げさせられた…。素直に応じる俺も俺だけど…疲れた……。
ハァハァ息を吸うのだけど、口から入るのは暑い空気だけだ…水……。
開いた口部分から、ストローでペットボトルの水を飲み込む。2リットルの物だというのに、これもう4本目だ…。
うさぎさんチームは、手伝いの時間が終わったようで、納涼祭を見て周ると言って、立ち去っていった。
後に残ったのは、風船と看板とこんな格好で、死にそうになってる着ぐるみだけだ……。
うさぎさんチームの手伝いもあって、チラシはもう無くなったのだけど…疲れた。
また木陰のベンチに腰掛けて、休憩を取っているのだけど、こんな所で頭部を外す訳にもいかず…というか誰かに外してもらうしか無いのだけど……。
キャラクター物は、基本裏方でしか正体を明かしてはならないのだ! っとか言ってたな…会長が……。
「あのー…お疲れ様です。大丈夫ですか?」
ベンチの背もたれに両手を掛けて、完全に頭を上にして疲れきった俺に、誰かが心配して声をかけてくれた。
…傍から見れば完全に死んでる姿だからな。
誰だ?
「あ、私、大洗学園の生徒です。これ良かったらどうぞ~」
沙織さんが、焼きそば超大盛りと、お好み焼き4、5枚持ってきてくれた。
…なんだこの量。
一応お礼を言おうと、声を掛けようとしたけど…声が出ない…ヒューって音がする……。
というか、これどうやって食えば…。
「あ! いいですよ? 無理しないで。うちの一年生と遊んでくれてたの見てましたから! つ…疲れましたよね? あれは……」
あはは~って、苦笑している。
「もう2時頃になっちゃいましたけど、お昼まだですよね? これ私達の出店で出していたものですので、食べてください」
体を起こして、コクコク頭を頷かせる。
「…でも本当にこんなに食べるんですか? ウチの生徒会長が、このくらい普通に食べる人って言ってましたけど…。お知り合いなんですよね?」
…食えねぇ。
しかも、全力で運動した後の様な状況ってのも有り、正直無理です…だから。
グッっと親指立ててやった。
「本当ですか!? 良かったです!」
…甘い。俺も甘いなぁ。
「大丈夫ですよ!! 私沢山食べる男の人、良いと思いますよ!!」
答えるのに少し時間がかかった為、気にしていると思われたのか、フォローのつもりなのだろう。
…そんな事言われた。なにが大丈夫なんだろう…。
「あ、でもおじさん、ひょっとして結構若いですか? 1年生あんだけ持ち上げていたんだし…結構体力有ります?」
「に…二十代後半です……」
「えぇ! じゃあ、まだおじさんって年じゃないですよぉ!」
バレるつもりで、冗談で言ったのだけど、絞り出した声だった為に俺だとわからなかったようだ。
……なんだろう。すっごい輝いた笑顔だ。
なんかもう普通にバレないし…どうしたもんかね。
なんか俺だけ座ってるのも悪いので、立ち上がった。
……が。
「あ! ひょっとして、コレが切っ掛けで、いろいろ発展しちゃうかもぉ!」
…なんか言い出した。
「あるある! 結構ある! 些細な事が切っ掛けになるのって!!」
あ、なんか懐かしい……。
初めて声かけた時…まぁ罰ゲームのナンパだったけど…こんな感じでずっと一人で喋っていたな…。
マゴマゴ体を降り出して、トリップしだした…。
「え!? ひょっとして、発展!? 関係発展!? お付き合いとかぁ!?」
…ゼ○シィ武部降臨。
あの…俺今、顔すら分からない着ぐるみ着てんすけど? いいのかよ…。
俺の目線に気がついたのか、赤くなって小さくなった。
「あ! すいません…やだ恥ずかしい! 私たまにこうなるみたいでぇ…」
うん。知っとる。
「ここ最近、みぽり…えっと、友達が恋愛関係に悩んでいるみたいでして」
あー…はい。すいません。俺のせいですね。
「今朝やっと普通に戻っていたから、安心しちゃって…」
…そっか。
「私もそろそろかなぁーって!」
…なんでそうなる。
「お…お嬢ちゃん可愛いから、その気になれば彼氏ぐらいすぐできるよ…あまり焦るとロクでもない奴に引っかかるかもしれないから、落ち着いてね」
「えーー!! 可愛い!? ホントですかぁ!?」
はい。そこは普通に思うのですけど、貴女は少々がっつき過ぎで、たまに心配になりましてよ?
「年下の女性って、恋愛対象になりますか!?」
「え…あ、はい(近しい年齢の人、ある意味みんな年下ですから)」
「男の人って、女の子の髪型ってどんなの好きなんでしょう!?」
「…その子に似合うのなら、どんなのでも良いと思いますけど……」
「好きな食べ物なんですか!?」
「…砂肝」
「男の人って、メガネの娘って野暮ったくて、あまり好きじゃないですよね?」
「いいですか? メガネというのは、もはや顔の一部です。野暮ったいと仰りますけど、それこそ至高の輝きです。野暮というのは、伊達メガネとかファッションメガネの事ですね。あれこそ邪道。野暮の極み
メガネのレンズの度数で、通して見えるメガネをかけた方の輪郭の屈折。あれが無ければいけません」
少しの間、婚活戦士に変身した沙織さんとおしゃべりタイムでしたが…いやもう、一方的に質問攻めだったなぁ……。
始終目が輝いていましたけど…。
「あ! いけない! ちょっと長居しちゃった! 私がいたら食べ辛いですよね!」
「いや…」
まぁどちらにしろこの格好じゃ食えないし……。
「私テントに戻りますけど、また良かったら来てくださいねぇ~」
「あ、はい。ありがとうございました」
そこまで言って、沙織さんは笑いながら、小走りでテントへ帰っていた。
すごいな。あそこまでアグレッシブな性格だとは思わなかった…主に恋愛面だけど。
今のもほっとんど質問攻めで、グイグイ来ていたしな。
まぁ俺が現在着ぐるみ装備中で、顔が分からないってものあるんだろうなぁ…。
…………変な男に捕まらないといいけど。
さて。
んじゃ貰った飯でも頑張って食べますか。
…まず誰かに顔パーツのロック外してもらわないと…。
ベンチに置いてあった、大量の麺と粉物を手に取って……あれ。
無い。
皿さえ無い。
いくらなんでも、ベンチの後ろに落としちゃったら分かりそうなものだけど…な……。
「……何してる。窃盗団」
「あ!」
「バレた!!」
ベンチの後ろに回り込んだ所、更にその後ろの茂みで見知った顔達を発見した。
よりによって、何ですぐ後ろで食ってんだよ。
取り敢えず、襟首もって持ち上げる。
その際しっかり、皿と箸は手放さない。というか、持ち上げられてもまだ食ってるし。
「どうしようミッコ…この人怒ってるけど……」
「おっかしぃーなー。この人から貰ったってミカ、言ってたよなぁ」
…あのカンテレ女…………。
喋りながらも食べる事をやめない、貴女達も十分アレだと思いますよ?
「あ…でも、ミカ自分の取り分もってどっか行っちゃったよね…」
「あたしらを囮に使った!?」
…ミカの奴、着ぐるみの中身が俺だと知っていての犯行にしか思えんな。
なんで分かった…いつバレた……あぁ一年生とのやり取りでも見てたか……。
「はー…でも、久しぶりにお腹いっぱいになったね」
「人間らしい食べ物久しぶりに食くったよな!」
……普段こいつら何食ってるんだ。
吊し上げられても、しっかり完食してしまいましたね。
「でも、どうしよう。この状況」
「あーでもあたしら一応女の子だし、大声出せば逃げれるんじゃね?」
「…一応って。でも私達が、どうも悪いっぽいし…」
「あー…そうだよなぁ。どうしたもんかね」
はぁ…もういいや……。
「…あのさ。この口の中を良く見て見ろ……」
着ぐるみの口はすでに開いていた為、更にミッコを持ち上げ、彼女のお顔を着ぐるみの口に近づけた。
「やばっ! 喰われる!?」
「ミッコ!!」
お前ら……アキも本気の心配するんじゃありません。
一応声に出して言えば分かるかね?
「……よぉミッコ。久しぶり」
「」
「ミッコ?」
「タカシ? タカシじゃねぇか!! なんだよ! なんでそんな格好してんるんだよ!!」
吊るし上げられた状態だったのだが、着ぐるみの中身が俺だと分かったら、一転してミッコから抱きついてきた。
まぁ着ぐるみの顔部分だけど…。
「だから言ったろ? 彼は快く私達に食料を分けてくれたって」
カンテレの音が響いた…盗人の頭目が現れた!
「…ミカ……窃盗は犯罪だとあれほど……」
「窃盗? 違うよ? ただ了承が後回しになっただけだよ」
「本人の了承前に物を奪っていくのを、窃盗もしくは盗難というんだよ!」
「見解の違いだよ」
「違わねぇよ!!」
喋るたびに、その弦楽器を鳴らすなよ!
なぜだろう。ミカ…この窃盗団の頭目兼、継続高校の戦車道隊長さんには、どうも男友達に喋りかけるようになってしまう。
アキを下ろしながら、ミッコを頭から引っぺがす。
「ごめんね? ミカからもう貰った物だと聞いていたの」
「…あぁ。もういいよ。気にするな」
素直に謝ってくるアキの頭を撫でながら、謝罪を受け取る。
「ほら、ね? 今了承を得ただろ? だからアキもミッコも気にする必要はないんだ」
「……ミカ、しまいには本気で怒るぞ…」
「おや隆史。ではどうすればいいんだい? 私達に金銭が無いのは知っているだろう? あぁ、体で支払えばいいのかい?」
「お前意味知らないで言ってるだろ!! 後、俺の高校の連中の前で、そういう事絶対言うなよ!! 本気に取られるだろ!!」
「風は何者にも縛られないんだよ。もちろん何者の言う事も聞かない。だから風は自由なんだよ」
「会話してくれ! 頼むから!」
会話しながら、終始カンテレを引き続ける。それ取り上げてやろうか……。
「相変わらず、ミカって隆史さんと話している時って楽しそう」
「……俺は疲れる。そういや、お前ら戦車どうしたんだ? ついに売っちゃったか?」
「売るわけねぇだろ! あそこに停めてあるよ」
ミッコに指さされた先を見ると、芝生公園入口付近に停めてあった。
気がつかなかった…。
「……なぁミッコ」
「なんだ?」
「履帯どうした?」
停めてあるBT-42には、履帯が無かった。
たしかクリスティー式? だったか、履帯が無くとも走行可能だとは聞いていたけど…。
「あぁ、黒森峰との試合で切れちゃってな。金が無いから修理できないんだ。まぁ移動はできるし、取り敢えずアレでいいかなぁってな!」
「ふーん、相変わず貧乏だなぁ…その割には、パトカーなんて買ったのか?」
「は? 買うわけねぇだろ」
BT-42の真後ろにミニパトが回転灯を回しながら、停まっていた。
婦警さん達が、いっしょうけんめいお仕事してますね。
「なぁミッコ。良い事教えてやろうか?」
「」
「違反金って滞納してると、最終的にお巡りさんが取立てにやってくるぞ?」
しかも利息がつく。
「あ…あぁーー!!」
こうしてミッコは駐車禁止の切符を切られた。
■▼▲▼■
帰宅する車が渋滞を起こしている道路を眺めていた。
真夏だという事で日がまだ高い。
車はチラホラ動いているけど、随分と遅い。
まだ事を起こしたという知らせは、受けていない。
……こりゃダメかね?
今回、「尾形 隆史」は、いなかった。
資料を見る限り、性格はあまり変化がないようだった。
つまり、「西住 みほ」を狙えば、必ず妨害してくる。
いないのならば、楽に事が進められると思ったのにねぇ…よりにもよって、家元のババァがいやがった。
よりタチが悪い。
ヘタをするとここで全て終わってしまう。
お陰で、事を中々起きない事態にも気長に待つことができた。
「さて、どうしたものかねぇ…」
一応の変装。あのババァに遠目で見つからないように顔を隠した。
というか、近くで売っていた麦わら帽子を、タオルの頭にかけた状態で被っただけなのだけどねぇ…。
目元も隠れて遠目には絶対に分からないだろうし、まぁ農家のおっちゃんに見えるだろ。
芝生公園の隅。ベンチに腰掛けて、ボケーとみほちゃんを見ている。
中々テントから出てこないものだから、結局ここいらでずぅっと、不審に見えない様に工夫させられながら、待機させられるハメになった。
やっとこさ、テントから出てきた時には、例の「武部 沙織」と一緒に、5人連れで出てきた。
お友達仲良さそうに、おしゃべりしながら歩いているねぇ。
……あの表情をぶっ潰したかったけどなぁぁぁ。
ベンチの後ろに両手を掛け、天を仰いだ。
「やっぱ中止にすっかなぁ…」
ムカつく、くらいの良い天気。
……馬鹿共に取り敢えず、待機命令をだそうかと携帯を取り出そうと、ポケットに手をやる。
体を起こし、正面を見据えたら見覚えのある黒い車体が目に入った。
「あ?」
みほちゃん達が、芝生の広場中の車道前に来た時、芝生の広場を沿って、車道前後から歩いて近づいてくる二人の男に気がついた。
その片方の男の後ろには、車体下部にLEDが付けられた車……あの馬鹿共の車か?
写真は見たが、まさか一発で車の持ち主が馬鹿だと分かる車を使って来るとは思わなかった。
LEDライトが消えていた為、気がつかなかった…確かに馬鹿共を雇えといったが……。
何だあれ? イカ漁船か?
みほちゃん達は、車道側面に面した歩道にいる為、車道とは距離はゼロ。
「……」
タイミング的には、大変よろしい。
みほちゃん達、友達同士で駄弁っている最中、戦車のチーム達だろう。
二人の男達が、交差する時、車のドアが急に開いた。
あれ? 雇ったの3人とか言ってなかった?
一人の男が、「武部 沙織」の顔を押さえ、もう一人の男が両足を刈るように持ち上げる。
そのまま、空いたドアの中に滑り込む。
車内に乗り込み、何事も無いように車のドアは締まり走り去った。
……。
急発進をしないで走り去ったのも、周りに異常だと気がつかせない為か?
車のナンバーも隠れている。
なんだあいつら…かなり手馴れてるな。
…中止命令を出す前に、事を起こされてしまった。
……
…………
周りを見渡すと、家元のババァはいない。視界に見えない。
……しかたない。
やってしまった事は、もうどうしようもない。
すでに事が動き出してしまった。
家元のババァっが、視界に映ったら、まずこの場を離れようと思ったのだが、大丈夫そうだな。
……ハッ。
ハッハハハハハハハ!
焦っている。
取り乱して、パニックになっている。
まぁねぇ…お友達が一瞬で目の前で、攫われちゃったらねぇ…ハハハ!
…黒髪のお友達が、110番でもするつもりなのか、携帯を取り出していた。
あれは、確か…「五十鈴 華」だったか?
…あいつだけ、取り乱してねぇ。冷静に対処してやがる。
薄気味悪いガキだな。
まぁいいや。
んじゃ、俺も計画に移るか…。
読んだ。資料を読み尽くした。
みほちゃんが転校をした理由…そこから起因する、俺の人生を壊された事件……。
いい感じで出来上がってるようだしねぇ。
この誘拐が成功するにしろ、失敗するにしろ。家元のババァなら時間もそんなにかからず、首謀者が「俺」だと、分かるだろうな。
あいつらに、言ってはいなかったが、コレからが本番。……本当の目的はココカラ。
……そうだな。ここにあのババァがいるなら、それはそれで逆に丁度イイカモシレナイ。
酷く親子仲悪いみたいだしねぇ…どっちに転ぶかは、お楽しみダケドネ。
責めるかなぁ? 悲しむかなぁ?
「ヒッ! んじゃイキマスカ…」
「沙織!!」
麻子さんは、沙織さんの名前を叫ぶと、急いで走り出して追いかけていってしまいました。
「……」
目の前で…一瞬で……。
気がついた時には、沙織さんを攫った車は走り出してしまった後でした。
…沙織さんは、男達に一瞬で誘拐されてしまった…。
ただお話をしていただけですのに。
こんな人目の多い通りで、白昼堂々と…。
一瞬で…。
日常が変わってしまう…。
沙織さんが、いなくなってしまった。
「華さん! わ…私達も!!」
「行きましょう! 追いついたとしても、今度は冷泉殿が危険です!!」
みほさんと優花里さんも麻子さんの後に続こうとしました。
当然です。私もすぐにでも走り出したい…でも。
「では、走りながらでも警察へ連絡しましょう。状況を説明して……」
「やぁ。お嬢ちゃん達。どうしたんだ? 随分と焦っている様だけど?」
携帯を取り出し、警察へ連絡を入れようとした時、一人の男性から声をかけられました。
…な…なんでしょうか? この人は?
気持ち悪い…。
初対面の方にそのように思うのは、失礼かと思いますけど…。
ただ本当に…気持ち悪い。
生理的に受け付けません。
タオルの上から麦わら帽子を被っていますけど、至って普通の服装…。
しかし、言葉にならない。気持ち悪い。
そうです。目です。爬虫類を思わせるような……私達を舐める様に見てくる…目。
「あっ、あの!! 助けて下さい! 友達が、男の人達に! 変な車に乗せられ…て…」
優花里さんが、現れた男性…大人の方でしたので、即座に助けを求めようと声を出したのですけど、異様な雰囲気を感じ取ったようで、声が小さくなってしまいました。
「うん、うん。見ていたよぉ? 俺、そこのベンチでしっかり見ていたよぉ?」
見ていた!?
「な…なんですか!? 貴方は! 見ていて私達に茶化すように話しかけてきたのですか!?」
「ごめんねぇ。今は華ちゃんより、そこのみほちゃんと話がしたいんだよねぇ?」
……
悪寒が走りました。
知っている。
私の…私達の名前を知っている…。
みほさん!?
「やぁ、こんにちは? 西住 みほちゃぁん。どうだい? 気分は?」
ゆっくりと、みほさんい歩みを始めた。
すぐに、私と優花里さんが間に入りました。
「近づかないで下さい!!」
「西住殿から離れて下さい!!」
「うん、うん。いいねぇ…いいねぇ! その嫌悪感! ダメだよ。ほらただ興奮しちゃっただけだよぉ。…だから今はヤメテネェ?」
「ヒッ!」
優花里さんが、完全に怯えて…違いますね。
「…ただの変質者ですか」
「あらひどいねぇ。原因はそっちに有るんですけどぉ?」
……気持ち悪い。怖気が走る。
「……」
「西住殿!? どうしました!?」
「みほさん?」
みほさんは、先程から一切声を出していない。いえ…声を殺していたというのでしょうか?
……カタカタ震えていました。
ただ震えていました。
…余程、この様な男を見てしまったのがショックなのでしょうか?
それにしては、この様子は異常すぎます。
「みほさん!?」
ガチガチと今度は、歯を鳴らしています。
顔面が青く…いえ真っ白になって…
ザリッっと靴と地面が擦れる音がしました。
「…ァ…………ア……」
「大丈夫! 大丈夫だよぉ!! 俺は何もする気は無いからぁ!!」
上半身を前に倒し、戯るように両手を広げる。
……コイツ。
「信じられません! いい加減にしないと大声を上げますよ!!」
私の声を無視して、更にみほさん喋りかけています。
「いやぁ…みほちゃん。久し振りだねぇ…その様子じゃ俺の事すぐに分かったみたいだねぇ? お母さんに写真でも見せてもらっていたのかなぁ?」
「!!!」
「でもね、本当に俺は何もする気は無いんだよぉ? ただ一言、言っておきたくてさぁ……」
一歩近づた。
後、一歩でも近づいたら……
私はこの男を、睨みつけていたので気がつきませんでしたが、私達の様子がおかしいのに気がついたのか、テントから皆さんこちら集まって来ていたようです。
しかし、人が集まって来ようと、この男は一切気にせず、独り言の様に会話を続けていました。
「…………ねぇ? みほちゃん。お友達が攫われちゃった「西住 みほ」ちゃーん」
「「!!」」
仲間!? 先程の男達の仲間!?
「いやぁ~。目の前で。目の前で、連れて行かれちゃったのにぃ、すぐに追いかけなかった「西住 みほ」ちゃん」
「何だお前。また『見殺し』にするのか?」
◆
……気まずい。
みほと暫く会っていない為、非常に気まずい。
紙袋に入った、隆史君のクリーニングされた制服。
彼に届けるのと一緒に、意を決してみほに会いに来たのはいいのですが…。
隆史君に間に入ってもらおうかと思ったのですけど、見当たりませんし…どうしましょう。
大洗学園のテントまで何とか来たのはいいのですけど、ここにも二人共見当たりませんし…というか誰もいませんね。
少々無用心ですね。
隆史君に発破をかけてしまった手前、私もただ傍観している訳にも行きません。
……みほが、準決勝にまで出場する。
あんな寄せ集めの戦力で…。
まだ正直な所、あの子の戦車道は西住流としては、容認できるものでは無いのですが。
隆史君は、親と子として話せと言っていましたね。
まほとも少し、穏やかに話せる様になって来ましたし…みほとも……。
しかし、あの様に追い出す形にしてしまった手前、なんと話せば!?
「また、余計な事をゴチャゴチャ考えているのでは、ありません?」
「……うるさいですね」
「喧嘩別れした娘と、どのように再会していいか分からないなんて…いつもの西住流家訓はどうしたのでしょうかねぇ?」
「……」
「ええっと…撃てば必中 守りは固く…守りばかり固くともねぇ? その後の様に、親子関係も少しは進んだらどうです?」
「……うるさい」
なんでついてきたのだろうか、この女は。
正式に家元を継いで、そんなに暇では無いだろうに。
「あら? それは貴女も同じでは? 次期家元さん?」
「…何も言ってないでしょう」
「何となくわかりますわよ。付き合い長いですし」
チッ
「たまには私も息抜きは、欲しいですので。隆史君会いに来ただけ…ですよ?」
「……年考えろ」
「貴女とは、同い年でしょ?」
チッ!
……しかし、本当にどうしようか?
みほにも会えない。隆史君にも会えない。
…少なくともこの制服は、渡さないといけませんし。
ここに置いておく訳にもいきませんししね。
取り敢えずここは諦め、テントを出た所で、大洗の生徒達が集まっている姿を見つけた。
あぁ意外に近くにいましたね。
…仕方ありません。あそこで聞いてみましょう。
……ん?
「しほさん」
「…なんでしょう」
「少し、雰囲気がおかしいですね。誰か怪我人でも出たのでしょうか?」
「そうですね…少し慌ただしい……」
「……みほ?」
近づいて分かった。
大声が聞こえる。
他の生徒が、大声でみほの名前を呼んでいる。
立っている生徒達の足の間から、座り込んでいるみほが見えた。
「西住ちゃん! どうしたの!? 西住ちゃん!!」
更に近づき、分かった。
小柄な女子生徒が、みほの肩を揺さぶって呼びかけている。
みほは、口の前で両手を閉じ、ひたすらブツブツ何か呟いている。
「…すいません。少しいいですか?」
私の声で、一斉に生徒達が振り向いた。
一瞬すごい警戒された目をされたのだけど、何かを納得したのかソレをすぐに解いた。
この小柄な娘が、生徒達の代表なのか、即座に私の身元を確認してきた。
「…どちら様でしょうか? 今とても立て込んでいるのですけど…………あっ!」
「…なにか異常な事態の様ですので、挨拶は割愛します。……私は、みほの…「西住 みほ」の母です」
「え!? 隊長の!?」
周りから、驚いた声は聞こえたのだけど、目の前の娘は、少し目を見開いただけで、すぐに真顔になった。
……なるほど。
「これは、どういう事でしょうか?」
「あの…私が説明いたします」
この子は…確か、みほの戦車の砲手でしたか?
「実は、5分程前の事ですけど……」
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「……なるほど。分かりました」
みほの同級生が拉致されて、約15分程経過している。
「…で。その男は、それだけ言うとすぐに立ち去ったと?」
「はい。ふらふらと酔っ払ったような足取りで、立去りました。一瞬追おうかとも思いましたけど…みほさんと沙織さんが……」
「それで良いです。……下手に危険に近づかない方が賢明です。…さて」
生徒会長に場所を譲ってもらい、みほの正面に座り目線を合わせた。
…まさか、例の男に出くわすなんてね。
会話の内容を聞く限り、それしか思いつかない。
監視はどうした…。
いや、今はいい。
……後で考えよう。
「みほ。…みほ!!」
いくら何でも、何年も前の事。
男と対峙しただけで、ここまで自分を見失う程なのか?
目の前の私にすら気がつかない。
いつか、あの男と出会ってしまってもすぐに対処できるようにと、あの男の成長過程の写真は見せて来た。
その時は別段普通だったのに…実物を見るのとは、ここまで違うものなのだろうか?
ガチガチと歯を鳴らしている。
「…キャ………ス…タ」
「ん?」
「…ナイ……スケナ…クン……ドウシ」
「……」
「ミステナイ…タスケナキャ……ミステナイ……タカシクン……シタ」
「…………」
最後に言い捨てて言ったという、男の言葉。
『見殺し』
……幼少時の時のアレか。
病室での事。
多分、ここまで酷いとは思わなかった…。
歯を鳴らし、顔色は蒼白。体は強張り小刻みに震えている。
目に光はすでに無く、ただ呪文の様に同じ言葉を繰り返している。
……トラウマ
精神的疾患。
…分かった。
ここまで…ここまでだったのか…。
……いや。ここまで追い詰めてしまったのは…私だ。
前回の決勝戦での事を酷く責めてしまった。
なにも理解せず、ただ西住家として…責務として……私は母親なのに……。
それが更に、拍車を掛けてしまったのだろう。
心の逃げ場を、完全に奪ってしまっていた。
西住家に乗り込んできた隆史君が、烈火の如く怒ったのは、コレを知っていたのだろう…。
私は母親なのに…。
母親なのに!
……!!
パンッ!
両手で、みほの顔を平手で掴む。
「みほ!!」
「!?」
目を見る。真っ直ぐ見る。
「お…おかぁさん……?」
「みほ…」
やっと私を見た。見てくれた。
「おかぁさ…ん。友達が…だいじな……私なにも…また……あの時みたいに……」
目の焦点が合っていない…まずい。
これは…危険だ。
気を使って、私にはこんな言い方をする子じゃなかったのに…。
私は、精神科医じゃない……しかし、素人目に見てもこれは危険なのが分かる。
完全に記憶がフラッシュバックでもしているのだろう。
「……」
両手を離す。
そしても一度、今度は強めにみほの顔を叩き挟む。
大きな乾いた音が響いた。
「しっかりなさい。貴女はまだ、あの病室の時のままですか!?」
「!」
「…また、隆史君に甘えるのですか? 助けを待っているだけですか? ここで悩んでいても事態は、悪化するだけですよ!!」
「…でも、私…どうしたら……」
もう一度、両手を離して、軽く叩く様に掴む。
そしても一度乾いた音がした。
「…貴女には友達がいるのでしょう? 戦車道の仲間がいるのでしょう!? なら頼りなさい!! 甘えるのではなく、頼りなさい!!」
「…お母さん」
「幸い、私もいます。…そこに島田流の家元もいます。好きに使いなさい」
「……」
「私たちは、ヘリできました。ボディーガードも付近で待機しています。誰か! 攫った車と犯人の特徴を教えて下さい!」
「はい!!」
装填手の…秋山さんでしたね。記憶力がいい。車の特徴をちゃんと掴んでいる。
「……みほ」
「なに…」
「私は、今日ここに…いえ、後でいいでしょう。」
後で、しっかり言おう。
「いいですか? 貴女が助けなさい。他でもない貴女が! ここの地理は、私は詳しくありませんが、私も協力は惜しみません。周りの生徒も貴女の指示で動いてくれるでしょう」
私の声に呼応して、周りの生徒も声を上げた。
「西住先輩!!」
「指示出してください!!」
「当然です!!」
「……みんな」
「しほさん。ヘリに情報は全て報告しておきました」
「わかりました…。いいですか? 戦車も車も、一般道では似たようなモノです。まず逃げる車を見つけなさい。発見できれば、後は私達の私設部隊でも投入してやりなさい。派手にやりなさい!」
「……お母さんが…そんな事言うなんて……」
まったく。
少し前なら考えられませんでしたね。
「いいですか? 私は貴女の初恋の相手の、初恋の人ですよ? 」
「え…」
「私達…まほもその人のおかげで変われました。変わる事ができました。…前のままでしたら、みほに会いに来ようなんて考えもしませんでしたね」
「……お母さん」
「貴女もいつまでも、あの時の…病室の時のままですと、まほに隆史君を取られますよ? シャキっとなさい」
「お母さん!?」
「……なんですか? 私も木の股から生まれてきた訳ではありません。……私がこう言った話をするのは意外ですか?」
「う…うぅん。…若干気味が悪い」
「………………みほ」
…目に光が戻った。
若干笑ってはいるのだけど、釈然としない……。
すでに、みほの口元には、曲げた人差し指が添えられていた。
「会長」
「なんだい? 西住ちゃん」
「町内会の方にも協力を要請できますか?」
「はいよ! お願いしてくるよ!」
あまりの事に、すでにギャラリーは出来ている。
そこに町内会の方らしき方も大勢いたので、協力要請はできるだろう。
「では、お母さん。ヘリの方には上空からそれらしき車を探してくれるように頼んでください。…それからうさぎさんチーム」
「はい!」
「戦車で犯人の車を探してください。もし発見した場合は、危険ですので、必ず報告して戦車内からでないように。できれば、進路を妨害、時間稼ぎをお願いします」
「はい!!」
「かばさんチームとアヒルさんチームは、近くの駐車場を探してください」
「駐車場ですか?」
「車道じゃなくて?」
「今は、道路がこの渋滞状況です。しびれを切らして、車の多い駐車場に隠れているかもしれません。ただし…」
「了ー解。発見した場合、連絡してから距離を取って増援が来るまで見張ってるよ」
「はい。ありがとうございます。次に…優花里さん。麻子さんの携帯に連絡を取って、現状況を伝えてください」
「わかりましたぁ!」
「あと…隆史君って、今どこに?」
「あー…隆史君まだ、着ぐるみ着て仕事してくれてるかも…携帯置きっぱなしだし」
「わかった!! 書記の所には、私が行ってくる!」
「え…あ、はい。では河島先輩お願いします。…現在の状況も伝えてください。絶対協力してくれると思いますので」
「了解だ!!」
「次に……」
みほが、指示を出し始めた。
もう回復してくれたか……。
「しほさん」
「はい。分かっています」
隆史君が、食事会前に言っていた。
島田流の家元襲名が確定した後でも、隆史君の事を調べていた者がいた。
…そして、みほの前に姿を現したあの男。
報告を聞いていた限りでは、こんな行動を起こすとは考えられなかった。
……誰か協力者がいる。
隆史君を調べていた者が、電話口で名乗ったの「大学戦車道連盟」
最後に隆史君の所に来た電話が、みほとの関係。
…極めつけは、みほのトラウマをしっかりと知っていたあの男…。
そんな事、戦車道に関連しているものしか調べようがないし、意味を成さない。
否定的に言ってしまえば、電話口では嘘を名乗った可能性もあるけども、怪しい奴が一人……。
「…今回は、あの男…恐らくみほの心を潰しに来たのでしょうね」
「えぇ。誘拐は、フェイク。本当の目的は、「西住 みほ」さんのそれに起因し、トラウマを呼び起こす為…でしょうかね?」
「ですから、こんな白昼堂々と彼女の目の前で、誘拐するようにしたのでしょう…攫った奴らは、多分捨て駒」
「なぜ自分の正体が、バレるような真似をしたのでしょうかね?」
「……多分…幼少時の事件の当事者としての『見殺し』発言をする為…確かに、みほにダメージを与えるには良いのですけど…。ズサンな計画ですね…なにかイレギュラーな事でもあったのだろうか…」
「…協力者……ですかね? 最近、気味の悪いほど大人しい男かしら…隆史君恨んでいそうですしねぇ。双方の利害は完全に一致してますしね」
「…千代さん」
「えぇいいですよ?」
「まだ、なにも言っていませんが?」
「分かりますよ、付き合い長いですから」
フフ…懐かしいですね。
腹の底から湧き上がる「怒り」と言うのは。
「……」
「……」
「どうでしょう? 久しぶりに…」
「そうですね…久しぶりに…」
「「本気を出しましょうか」」
はい、閲覧ありがとうございました