転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第32話~大洗での長い1日です!~ その4★

私の前に現れたのは、「白馬の王子様」じゃありませんでした。

 

 

現れたのは「黄色い熊の着ぐるみのお兄さん」でした。

 

 

あの時のお兄さんが、どうして助けてに来てくれてたのかは分からない。

 

…ただ少し、お話しただけなのに。

 

 

車のドアを、中から男の人達が押さえていたのに、強引にこじ開けて入ってきた。

 

……正直ビックリした……。

 

運転席の人をやっつけちゃった時から、男の人達の様子がおかしい…。

あの人が、リーダーぽかったからかな?

 

横で、私の服を切り裂いた男の人が、大きな悲鳴を上げている。

お兄さんに、よっぽど強く頭を掴まれているのだろうか。

 

すぐもう一人の男の人が、中腰で立ち上がり、お兄さんを蹴りはじめた。

 

お兄さんは、蹴られた時に、横の男の人の頭を離してしまった。

それでも掴まれていた男の人は、余程痛かったのか、下を向いて呻いて動けないでいる。

 

「何だよ! テメェは!!」

 

『やぁ! ベコだよ! ボクと力の限りハグしようよ!!』

 

お兄…えっと…ベコのお兄さんは、頭を蹴られようが、体を蹴られようがビクともしない。

ゆっくりと…着実に私に近づいてくる。

 

助けてくれるつもりだろうけど……ごめんなさい。ちょっと怖いです。

 

「とっと、出てけや! 何なんだよ! いきなり」

 

『ボクは、ベコ! ベコベコのドラム缶の様にしてあげるよ!』

 

ベコのお兄さんが、左肩辺りを蹴られた時、男の人はその蹴った足を掴まれた。

 

そう…掴んだ。

 

そう思った瞬間、ベコのお兄さんの手が、素早く引かれた。

 

「おわ!」

 

その時、反射的に私を掴もうと思ったのか、制服の端を握られた。

しかし抵抗むなしく、制服の破れる音と共に男の人が声を上げながら、一気に引きずられていく…。

 

車の座席の間を掴むも意味は無く、ズルズルと何事もないように引きずられる。

 

すごい体勢だったので、そこら辺に体をぶつけ、最後ドアを咄嗟に掴んだ…けど、それも無意味だった…。

少し勢いが弱まっただけだった。

何か悲鳴のようなものを上げたが、すぐに視界から消えていった。

 

……不思議と落ち着いている。

 

…その光景を見て、あぁ…昔こういうのパニック映画で見たなぁ…とか思い出すほどだった。

 

なんだっけ?

 

巨大な生物とか怪物とかに、なすすべなく捕まり、連れて行かれ捕食されてしまう人達のシーン…とでも言うのかな?

そんな感じで悲鳴と共に、完全に外へ引きずり出されて行ってしまった男の人。

 

一瞬だった。

 

外の様子が、中から見えた。

ベコのお兄さんが、男の人に抱きついている。

 

え…なんで?

 

先程まで怒鳴り散らかしていた、外に引きずり出された男の人は…大人しかった。

怒鳴り声が聞こえない。

何か足をバタバタさせている。開かれたドアから暴れている様子が見える。

 

3分くらいだろうか…。そんなに時間は掛からなかった。

 

突然、抱きつかれている男性が、グッタリした。

腕と足がダラーンとしている。

 

ベコのお兄さんが腕を離したら、ドサッと男の人がその場に力なく崩れ落ちていた。

 

「……」

 

そのまま襟首を掴まれ、引きずられながら、どこかに連れていかれた。

 

 

『やぁ! ベコだよ! ボクと力の限りハグしようよ!!』

 

 

機械音声だけが、外から聞こえてきた。

 

 

 

 

頭を掴まれていた男の人も、同じくその光景を見ていた様で、完全に固まって見入っていた。

そのベコの人の姿が、見えなくなったと思ったら、即座にドアを閉めにかかった。

でも最初にドアを内側から蹴飛ばされて、どこか壊れたからなのか、その車のドアが閉まらない。

 

「なんで! なんで閉まんねぇんだ!!」

 

ドアを閉めようと、顔を真っ赤にして叫んでいる男の人。

 

……。

 

突如、その閉めようとしている腕が、外側から伸びてきた黄色い腕に掴まれた。

 

「ヒッ!」

 

『ボクは、ベコ! ベコベコのドラム缶の様にしてあげるよ!』

 

死角から突然に伸びてきた為、びっくりしたのか変な悲鳴を上げていた。

上げた瞬間、布が擦れる音ともに、外へ引きずり出されていった…。

特に捕まる所も無かった為、本当に一瞬だった。

 

外でまた、抱きしめられている男の人。

今度は頭が下に、逆さまになって抱きしめられている。

顔が完全に着ぐるみの体に埋もれてしまっている為に声が出せないのか、バタバタする足だけが見える。

 

あ……動かなくなった。

 

そのまま体を持ち替え、男の人を肩に担いで、またどこかに連れて行ってしまった。

そして聞こえる機械音声…。

 

『やぁ! ベコだよ! ボクと力の限りハグしようよ!!』

 

もう一人の男の人も、その光景を固まって見ていた。

いきなり現れた熊の着ぐるみに、一瞬にして今までの状況を変えられてしまった…というのも有るだろうけど…。

 

多分…普通に怖いんだろうなぁ…。ごめんなさい。私も怖い。

 

三人目がいなくなった時、前の助手席に逃げ込んでいった。隠れたつもりなのだろうか?

 

「何だよアレ!? 何なんだよ!!」

 

小声が聞こえてくる。

…やはり怖がっている。

 

戻ってきたベコの人。

 

それこそヌッっと入ってきた。

キョロキョロとゆっくり車内を確認している。

 

私と目が…目?

うん、多分目が合ったのだろう。ゆっくりと震える手で、前の座席を指差した。

それに合わせ、グリンと顔が前を向く。

 

 

『ボクは、ベコ! ベコベコのドラム缶の様にしてあげるよ!』

 

 

機械音声がただ流れる…。

 

 

『やぁ! ベコだよ! ボクと力の限りハグしようよ!!』

 

 

 

素早く、前の座席に腕を突き入れた。

隠れた男の人を「掴んだ」ようだ。軽く宙に浮かせるように、後部座席に引きずり出してきた。

 

ズルズルと…。

 

引きずり出された男の人は、仰向けで倒されている座席に、仰向けになって呻いている。

外側を向いている、その頭に手が伸びた。

 

そのまま顔面を片手でつかんだベコのお兄さんは、躊躇無くさらに外に引きずり出そうとした…。

余程強く掴んで、握っているのか、男の人の叫び声が聞こえる…。

 

男の人は、引きずられながらもドアの出入り口で、両手両足を使って踏ん張った。

 

…が、もう片方のベコの人の腕が伸び、男の人のベルト部分を掴む。

そのまま悲鳴と共に、強引に引きずり出されていった。

 

…それもすぐに収まった。

 

外の地面には力無く、動かなくなった男の人が倒れている。

それもすぐに首元を掴まれ、どこかに引きずられていかれて、いなくなった。

 

…。

 

一瞬。

 

一瞬の出来事だった。

 

……そして誰もいなくなった。聞こえてくるのは機械音声のみ。

 

 

 

『ボクは、ベコ! ベコベコのドラム缶の様にしてあげるよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体が暑い。

 

全力で力を出しすぎた。

 

その為だろうか、熱の為だろうか…頭がボーっとしだした。

着ぐるみを着たままってのは、やっぱりキツイな。

 

 

誘拐犯に対して、ぶん殴るのはやめておいた。

一番、辛い方法で無力化してやろうってのもあったが、何より沙織さんの目の前だ。

 

できるだけ流血させてしまって、血を見せてしまう事は、やめておこうと思ったからだ。

本気で人に対して、全力で力を出してたのは初めてだったけど、なんとかなったな。

 

そしてその何とかした誘拐犯共を、一箇所にまとめて捨てておいた。

また後で、何かで縛っておくか。

 

全て駆除した。もう大丈夫だろう。

一応、警戒しながら車内に戻る。

 

奥に座っている沙織さんと目が合った。

 

その目の前の沙織さんは、破れてしまった制服で、はだけてしまった体を隠している。

男に掴まれた時だろうか?

強引に引っ張られた為、さらに破けてしまい、もう完全にただの布だ。

 

あ…。

 

すっごい怯えた目で見られている。

 

連れ出そうと、手を前に出してみたら体がビクッとした。

 

「……」

 

…む?

 

まだすっごい怯えている。

…俺を見る目が怯えている。

 

ある程度、俺の怒りも収まったので、冷静になっていた。

 

うん。俺メチャクチャ怪しいな。

認識は、さっき少し話した着ぐるみ着たおっさんだものな。

 

「あ…すいません。せっかく助けてもらったのに…でも私こんな格好で……」

 

…逆に気を使われた。

 

喋れるだけ大丈夫なのだろう。

しかしまだ、肩は震えている。

 

…確かに、この状態で外に連れ出すのもなぁ。

 

「……」

 

着ぐるみに着けられていたマントを外す。

ボタンで着けられていたので、強引に力任せに引っ張ると簡単に外れた。

それを肩から巻くように体を隠してやる。

 

…本当に何が役立つか、分からないものだな。

 

連れ出してやろうと、掌を上に向け手を差し伸べてみた。

沙織さんは、恐る恐るだが、差し伸べられた手を取ってくれた。

 

赤いマントに包まれた女の子に、手を差し伸べている無駄にでかい、熊の着ぐるみ。

 

…なにこの絵。

 

しかし、そこまでで動かない。

どうしたのだろう。

 

「あ…あの、すいません。腰が…」

 

「……」

 

そうだよな。抜けるほど怖かったよな。

 

『やぁ! ベコだよ! ボクと力の限りハグしようよ!!』

 

 

機械音声がうるさい。

 

手を引っ張り、そのまま沙織さんの体を腕に収める。

最初の頃とは違い、なんかもう…慣れてしまったお姫様だっこという奴だな。

…やはり体は強ばっている。というか段々と小さくなっていく。

 

まぁいい。やっと捕まえた。

 

暗い車内を出て実感する。

 

救出成功。

 

……疲れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在位置の場所を知らせ、その後に来た西住のメール指示で、あえて周りの車にいる野次馬の人達から、警察を呼んでもらうよう頼んだ。

 

できるだけ大声で、こいつらは友達を誘拐した奴らだ。

 

助けてくれ。

 

誰か警察へ連絡をしてくれ。

 

要は、こちらが完全に被害者だとアピールする為か。

 

 

野次馬の人達も、こちらに協力的になってくれた。

大人の男性の方も、車から降りて来てくれた。

 

尾形書記にのされた連中の、格好を見て納得でもしたのだろうな。

見た目って大事だな…。尾形書記もたまに似たような格好してたのだがな……。

 

野次馬の人達の協力で、なんとか誘拐犯達4人を拘束した。

ガムテープで、両手両足、グルグル巻きになった4人。

 

……蹴っ飛ばしたい。

 

踏むくらいは構わないだろうか?

 

このクソ共を眺めていると、突然周りから小さな歓声と拍手が上がった。

何かと思ったら、赤いマントで体を隠した武部を連れ出した着ぐるみがいた。

 

…無事か。良かった。

 

しかし、この書記。その格好がもはや違和感が無い。

 

「おが…いや、ベコ!」

 

尾形書記には何故か、着ぐるみの正体を隠せと言われていた為、ベコと呼ぶ。

それは、武部救出成功と共にメールで全員に一斉送信をしておいた。

 

『やぁ! ベコだよ! ボクと力の限りハグしようよ!!』

 

「……なんだその返事は」

 

「エー…」

 

武部は、マントに顔を半分隠していた。完全に真っ赤になっている。

 

…少し様子を見たが、上半身がほぼ裸だという事だからだろう。

やはりあのクソ共、一度蹴っ飛ばしておくか?

 

「…あいつらの所に」

 

先程、協力してくれた戦車の彼女達の所に、一度向かおうと顔の動きで、軽く合図をされた。

 

後で、テントに来てくれと言っておいたが、まだその場に留まってくれていた。

 

…まぁこんな道路際にいるよりかは、数段良いだろう。

しかしこの誘拐犯達はどうするんだろうか。

 

こちら側には、公園への正規の入口がある為、フェンスをよじ登る事も無く入ることができた。

野次馬…いや、協力してくれた方々に深々と頭を下げお礼を言う。そして…尾形書記と並んで、戦車へ歩き出す。

 

終わった…。

 

随分と長い時間走りまわったな。

ただの納涼祭が、とんでも無い事になってしまたな。

 

ため息がでる。

まぁいい。それもやっと終わった。

 

しかし突然に周りから…というか後ろから、軽く悲鳴が聞こえてきた。

 

後ろを振り向くと刺青の男が、モゾモゾと逃げ出していた。

そんなイモムシみたいな格好だというのに、往生際が悪い…。

 

横から、カシャッと音がした。

尾形書記が、顔の口部分をスライドして開けてた音だった。

 

……ちょっと待て!

 

その口から出てる煙って、気温差でできる水蒸気か!?

今は、冬場では無いのだぞ!? 真夏の炎天下だ!!

…本当に大丈夫なのか!?

 

武部を優しく地面に下ろすと、逃げ出している刺青男に近づいていく。

 

 

『ボクは、ベコ! ベコベコのドラム缶の様にしてあげるよ!』

 

ゆっくりと…

 

『やぁ! ベコだよ! ボクと力の限りハグしようよ!!』

 

足を引きずる様に…

 

『ボクは、ベコ! ベコベコのドラム缶の様にしてあげるよ!』

 

近づいた……

 

『やぁ! ベコだよ! ボクと力の限りハグしようよ!!』

 

 

二種類しか無いと思われる、機械音声が繰り返し流れている。

お陰で、尾形書記が徐々に近づくのが分かるのか、刺青男の動きが段々と早くなっていく。

 

口から水蒸気を吐きながら、接近する熊の着ぐるみ…。

 

追いついた直後、男の顔がすごかった。恐怖と絶望というのは、ああいう顔になるのか…。

それこそ鶏を絞める様に、再度抱きしめ、無言で刺青男の意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…暑い」

 

「当たり前です。いい加減にソレを脱いだらどうですか?」

 

…しほさん達と合流できた。

あのタトゥーを入れた男を処理した時に、あんこうチームの面々と会長達と共にやって来た。

 

いやぁー…感動の再会とでも言うのか。

 

「沙織さん!!」

 

みほの声と共に、全員が直後に抱きしめ合って泣き出してしまった…。

まぁ…怖かっただろう。本人も。

 

……本人以外も…な。

 

初めは、気絶した犯人達を戦車で轢いてやる! と、殺気立っていたけど、犯人達の変わり果てた姿に別の意味で、引いていた。

 

まぁ、ある程度すでに犯人達の意識は、回復していたのだけど…だからだろうか?

 

一度意識を締め落としている為、全身の力が抜けて失禁までしてしまっている…ってのもあるのだろうかね?

 

犯人共が…なぜか俺の姿を見て怯えまくっていた為だった。

 

しほさんの私設部隊が、止まっていた車も含め、犯人達を色々と処理している。

 

あ…前回、俺と一緒に、しほさんのブチギレモードに恐怖してくれた隊長さんだ。

親指を上げてくれてた。…それに同じ様に答える。

俺は着ぐるみ着てるのにな。軽く笑ってくれた。

 

「そう言えば、しほさん」

 

「なんでしょう?」

 

素朴な疑問を一つ。

 

「……なんでいるんですか?」

 

「……」

 

あ。ちょっとムッとした。

 

「貴方の制服を持って来たのです。いけませんか?」

 

「い…いえ、ありがとうございます」

 

ちょっと不機嫌に、紙袋を上げて、見せてくる。

結局置いておく事もできなかったようで、ずっと持っていたようだった。

 

あ…なら丁度いいや。

 

「それ、ワイシャツ入ってます?」

 

「え? えぇ…」

 

「それ、沙織さんに着せてやってください」

 

「…それはいいのですけど、なんでまた」

 

……。

 

「彼女、制服を切られてしまったようで、着るものが無いのですよ。切られたまんまの服を着ているより、その方が精神的に安定する」

 

「安定…」

 

「…被害にあったものを着ているより、早く日常に有るモノを身につけた方がいい」

 

「……わかりました」

 

俺の提案を素直に聞いてくれた。

すぐにでもと、その服を渡そうと一緒に近づいた時…聞こえてきた。

それは、再会を喜ぶ内容ではなかった。

 

…沙織さんは、みほに対して聞いていた。

 

「…グス、みぽりん。教えてくれる?」

 

「何かな?」

 

沙織さんを助けられて、嬉しそな顔をしたみほの顔が、……その質問を受けて強ばった。

 

「あの…私を攫った人達が言っていたの…。私は、「西住 みほ」の代わりみたいなモノ…だって…どういう事?」

 

「……あ」

 

「ごめんね。…答え辛いかもしれないけど、私ちゃんと聞いておきたい」

 

「……」

 

みほの胸に、顔を落としている沙織さん。

…その質問に怯えてしまった、みほ。

沙織さんの肩に添えている手。その指先が震えだしていた。

 

みほは、近づいた俺に気がついたのか、俺の方を見てくる。

 

だが俺は無言だった。ただ頷いてやった。

 

それは、昔の事件を…大きなトラウマを負ったその事件を、ある意味一番の被害者。そのみほの口から話させる行為。

えぐる。それは心の傷を、大きくえぐる行為だった。

 

だがダメだ。俺からは話せない。

 

しほさんから、みほが放心してしまった時の事は聞いていた。

だからだ。だからこそだ。そこから立ち直ったんだ。

 

しかし今は違う……相手は友達なんだろ?

 

 

…ここで、逃げるな。沙織さんを信じてやれ。

 

会長を含め、みんながみほの言葉を待っていた。

おかしくなってしまった、みほの状態を見ているから、余計に心配なのだろう。

誰も喋らない。ただ心配そうに見つめていた。

 

 

 

「みぽりん、お願い……」

 

「………………わかりました」

 

意を決して、喋りだした。

目に涙を溜めて。

 

それは、俺との出会いの話。そして、事件の話。

先程出会ったであろう…あのクソ野郎の話……。

 

そう…熊本での事を。

 

皆、最後まで黙って聞いていた。

ポツリポツリと話し出していたのだけど、段々と声が早口になっていく。

結局最後には、泣いていた。

 

 

「…ごめんなさい。私のせいです。……私のせいで…沙織さんが……」

 

周りは何も喋らない。

喋れない……。

 

 

「……なにそれ」

 

 

ビクッっと沙織さんの言葉に、体が強ばった。

 

 

「なによそれ!! 私、そんな事で、こんなに怖い目にあったの!?」

 

 

叫びだした沙織さん。

そして、みほの体は震えだした。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい……わ、悪いのは、全部わた『そんなの、ただの逆恨みじゃん!! みぽりん、何も悪くないよ!!』」

 

「え……」

 

完全に俯いていた顔を上げた。

沙織さんの返事が意外すぎたのだろうか。

ただ、顔を真っ直ぐに見ている。

 

 

「そんなの謝る必要なんて無いよ! 悪いのはその人達!!」

 

「……」

 

 

「それになによ! 「見殺し」って!! え!? どこが!?」

 

「……グ」

 

今度は、みほの肩に沙織さんの手が添えられている。

 

 

「今日だってそうだよ! ちゃんと助けてくれたじゃん!? こんないっぱいの人達に頼んで!! むちゃして!!」

 

「そ…そうですよ! 西住殿は何も悪くないですよ!!」

 

「そうだ。西住さんに何も落ち度は何も無い。犯罪を犯す奴が悪いんだ」

 

「みほさん。大丈夫ですよ。そんな事で、貴女を責めたりする方なんて、ここにはいません!」

 

…そうだよな。

 

「ヒッ……グ……」

 

「みぽりん!?」

 

 

みほは、子供ように。

 

子供のように大声で泣きだした。

 

安心して泣き出した。

 

沙織さん達、友達を失うのを何より怖がっていたんだよな。

 

…いい友達できたな。

ほら、また皆で泣き出した。一緒に泣いてくれてるんだ。

 

 

だからもう…大丈夫だよな。

 

 

 

 

 

「なにを、ゆっくり後退して…どこ行く気ですか?」

 

「しほさん!?」

 

ビックリしたぁ!! 気配消すのやめて!

 

「え…いや、あんまり女の子泣いてる所見てるってのも、ちょっと…こういう時、男はいない方がいいんですよ」

 

「……」

 

正直、着ぐるみの中の温度がすっごいのだろう。頭が本格的にボーっとしてきた。

立っているのも正直辛い。

 

沙織さんがいない所で、さっさと脱ぎたい。

 

「…それに、着ぐるみ脱ぎたいですし、本部のテントに戻ろうとしただけですよ…みほは、もう大丈夫でしょうし」

 

「…どういった意味でしょうか?」

 

「昔のトラウマですよ。…まだシコリは有るかもしれませんけどね」

 

その件は、まぁ…うん。

もう大丈夫だろう。

 

克服したと言ってもいいと思う。

シコリ…。前回の決勝戦の時の事はまだ、若干の不安はあるけど。

 

「じゃぁ…しほさん。一回俺、テント戻ってますんで…警察の聴取も後で、受けるんで…」

 

「…わかりました。みほには、言っておきますが…大丈夫ですか?」

 

歩き出しながら、手を上げ返事をする。

正直…ちょっときついけど、この場に水を差したくない。

 

……まぁ根性だ、根性。

 

 

 

 

みほ達を背にし、できるだけ静かに…この場を離れた。

 

犯人の車の横を通り過ぎた時、一般の手伝ってくれた人達から、声を何度かかけてもらった。

たまにお子様に…キラキラした目で見上げられたりも…した。

 

…はい。高い、高いですね。

 

キャッキャッ喜んでもらっているので…まぁもう少し…が……がまんし…よう。

 

子供を…上げた時の…腕の隙間から、みほ達を…見てみる。

 

…生徒会も含め、と…取り囲まれながら…まぁいいや。もう…泣き止んで…いるっぽいし。

笑って、話せるようになれば…もう、大丈夫だ…ろ。

 

沙織さんが、BT-42に乗り込んでいた…あぁ…あそこで…着替えるつもりか…。

 

…………まずい。本格的に意識が…朦朧としてきた…。

 

子供達に手を振り、一人でテントに再度歩き出した。

 

炎天下のアスファルトを……奇異の視線を感じながらも歩く…。

知らない人から見れば、路上を着ぐる…みが闊歩しているわけだからなぁ。

 

「もうす…こし……」

 

マリンタワーのふもと。芝生公園が、見えてきた。

テントが見えてきた…さっさと…ロック外してもらおう…。

 

テントの脇から、あひるさんチームとうさぎさんチーム…ほぼ一年生達が、留守番をしている姿が見える。

町内会の人達もいるし…まぁ大人の人達に混じっていれば、的確に…うご…けるだろう。

 

「先輩?……何してんの?」

 

突然の声に、顔を……動かした。

 

はっはー…相変わらず…きつい目で、見てくるなぁ…河西さんは。

むしろ俺が…聞きたい……なんで、いつの間によ…こに……。

 

突然、体の上半身に衝撃が走る。

 

着ぐるみの口を開けていた為だろうか?

 

目の前から、土と草の匂いがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙織さんが、突然声を上げました。

 

「そうだ! あのお兄さんにも、ちゃんとお礼言わなきゃ!!」

 

みほさんのお母さんに頂いた、男物のワイシャツ。

継続高校の方達の戦車をお借りして、中で着替えた沙織さん。

 

出てきて早々にそんな事を言い出しました。

 

「お兄さん?」

 

「そう! ほら! 着ぐるみ着の人!!」

 

「あー…」

 

隆史さんですか…。

 

一斉メールで「着ぐるみの中身」は、内緒にするようにと、河島先輩から指示が来ていましたね。

なんでその様な指示でしたか、分かりかねますけど…。

お陰で、沙織さんはまだ隆史さんの事を知らないでいます。

 

「そう言えば、見当たりませんね」

 

「私ちょっと行って来る!!」

 

「え!? どこにですか!?」

 

「多分、テントにいると思うの。」

 

…もうバレてもいいのでは?

と、皆が思っているのでしょうね…。特に止める人はいませんでした。

 

「んじゃ、みんなで武部ちゃんと一緒に戻ろうかぁ!」

 

会長が、率先して言い出しました。

目は至って真面目…沙織さんに聞かれないように小声で「事件現場にいつまでもいたくないっしょ?」と仰っていました。

…まったく、その通りですね。

皆にもその意思が伝わったようで、皆でテントまで歩いて帰る事になりました。

 

そのテントまでの帰り道、会長が仰っていました。

 

「しっかし、まぁ…。西住ちゃんと隆史ちゃん…。なるほどねぇ……隆史ちゃんが、少々過保護になるのが分かった気がするよ」

 

「……」

 

先ほどの、みほさんのお話の事ですね…。

幼少時、事件がきっかけで出会っていたのですね。

 

「あー…隆史ちゃんが、酔っ払っても一切喋らなかったのが分かったよ…」

「え!? 隆史君、あの状態の時に喋らなかったんですか!?」

 

「生徒会の歓迎会の時に、ちょっと聞いて見たんだけど…かなり大切な話とかなんとか言ってね」

「……隆史君が。…大切……」

 

小声で話してる、みほさんと会長のお話が聞こえて来ました。

「酔っ払って」というフレーズが、かなり気になりますけど…。

 

「ねぇ、みぽりん?」

 

「え!? あ、はい!!」

 

会長との話に集中していたのか、突然にふられ慌てていますね。

 

「隆史君とのお話…今日、ちゃんと返事して上げてね?」

 

「…そんな。こんな事があったのに…」

 

「だからだよ!!」

 

「え…」

 

「私に気を使って、先延ばし先延ばし…なんて事、私は嫌だからね!!」

 

「……」

 

「まぁ! 恋愛ドラマとかなら面白いけどね!!」

 

軽くウィンクをしていますね…。

…そうですね。私も助け舟をだしましょう。

小声で…みほさんにしか分からない様に…。

 

「みほさん」

 

「え? あ、はい!」

 

「沙織さんを…早く、「事件前」に、戻してあげましょう? 本来なら今日、隆史さんにお返事するつもりでしたのでしょう?」

 

「…華さん」

 

「その様な話をしている時に、攫われてしまったのですからね…。日常の続きを続けたいのでしょうかね?」

 

「……」

 

笑いかけてみたのですけど…どうでしょう?

 

「…わ……わかりました」

 

少しは助けになったのでしょうか? まだちょっと目は赤いですし、迷っているみたいですけど。

みほさんは…静かに決意した顔になっていきました。

 

 

 

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テントの前に来た時に、沙織さんは言っていました。

私だけに聞こえるように。

 

「華、そんなに心配しなくても大丈夫だよ?」

 

「…はい?」

 

「みぽりんの事も本当に…」

 

あら…さっきの話、聞こえてしまっていましたか。

 

「そ…それに! 私も見つけちゃったかも!!」

 

「何を…ですか?」

 

「私の王子様!!! ふっふーん。これでもう、華に冷めた目で見られる事も無いよね!!」

 

できるだけ、明るく振舞っているつもりなのでしょうか?

 

…まだ小刻みに、指先が震えているのを私は、見逃しませんよ?

変に気を使わないでください…。

 

 

『なにこれ!? どうなってるの!?』

『もう、壊れてもいいから、切っちゃおうよ!!』

 

「……ん?」

 

テントが少し騒がしい…ですね。

何が…。

 

『先輩!? 大丈夫ですか!? 返事してください!!』

『どうしよう!? どうしよう!!』

『先に、着ぐるみから出してしまいましょう。手伝って下さい』

 

「え…なんだろう……華?」

 

…テント内は大変な事になっていました。

それは、力なく仰向けに寝かされている、着ぐるみ…隆史さん。

 

その着ぐるみの顔…それを取り外されようとしていました。

ロックはすでに解除されているようで、1年の皆で頭を掴んでいました。

一人の…みほさんのお母様と共に来られていた女性が、指示を出しています。

 

 

『と…取れたぁ……!!??』

 

湯気…水蒸気…。

 

取られた着ぐるみの頭と共に、立ち上がる白い煙……。

 

…虚ろな目をした、隆史さんの顔が見えました…。

 

「た…か……」

 

沙織さんの目が見開いています。

こ…これはいけません。

一応、隆史さんに正体をばらすなと言われている以上、隆史さんの目の前に沙織さんを連れて行くわけにはいけません。

かといって、すでに思いっきり、沙織さんに姿を、見せてしまいましたし…。

 

と…取り敢えず隠れましょう!! 

沙織さんの手を引いてテントの裏に連れて行きました。

テントの布の間から、様子を伺ってみます…。

 

体を軽く起こされ、着ぐるみについた、背中のチャックを急いで下げています。

汗でくっついてしまっているのか、中々出てきません…。

 

そこでも、町内会の方達も手伝っていただき、全身を着ぐるみから完全に出された隆史さん。…動きません。

体から、まだ少し薄い湯気を出している隆史さん……。

 

 

『島田さん、ちょっといいですか?』

 

『忍ちゃん?』

『これ、熱中症の初期段階だと思う…妙も手伝って』

 

河西さんが、両手にバケツを持ってきた。

それをすぐに、隆史さんに、上半身と下半身から、ゆっくりかけていきます。

水を隆史さんに掛け…なるほど、体を冷やしているのでしょうか?

 

『後は、どこか涼しい所に移動させないと』

 

『そうですね…では、あそこの建物に彼を移動させます。どなたか手伝ってください』

 

島田さんと呼ばれた女性の方が、マリンタワーを指しています。

 

『あー…地面きもちいい…。地球…愛してる……』

『何を馬鹿な事言っているんですか!! …って、先輩!!』

 

あぁー…と呻きながら、両手を開き、全身で地面にくっつき出しましたね。

 

『島田さん! 先輩、意識戻りました!!』

『…少し、落ち着きなさい? さて…』

 

うつむせに寝転んでいる隆史さんの頬っぺたを軽く、叩きながら意識の確認でもしてるのでしょうか?

 

『大丈夫ですか? 隆史君。』

『冷たい地面が大好きです。そんなガイアが、俺が好きだと囁いてくれてます…』

 

『…ダメそうです。運びましょう』

 

一瞥して、あっさりと諦めたのか、町内会らしき男性の方々に頼み、マリンタワーへ運ぶ様です。

一番近い、エアコンが効いている建物だからでしょうか?

 

もう体が動くのでしょうか? 上半身を起こしていますね。

手伝ってもらうように、近藤さんと河西さんが、肩に手を添えていますね。

 

『ありがとうね。あぁ、河西さんは、なんか悪かったね。目の前で倒れちゃったんだろ? 俺』

『い…いいよ別に』

 

二人にお礼をいい、ゆっくりと今度は立ちがりました。

 

『お…意外と動ける…千代さん、自分で行けそうです』

『ダメです。もう町内会の方に頼んでありますので、無理しないように』

『でも、あまり『 ダ メ で す よ ?』』

『……は…はい』メガワラッテネェ…

 

…あのご婦人の方も、隆史さんのお知り合いでしょうかね?

隆史さんが、珍しく素直に従ってますね。

 

 

『先輩、西住隊長達もこちらに戻ってきてるみたいです』

 

水分…ペットボトルの水を飲んでいる、隆史さんの横で近藤さんが携帯を見ながら報告。

そう言えば、一斉にまたメールが来てましたね。

 

『え!? い…いかん。すいません、ちょっと急いで移動したいですので手伝ってもらえますか?』

 

みほさん達が、戻ってくると聞いた途端に、町内会の方々にすぐ移動すると言い出しましたね…。

みほさん…というより、沙織さんでしょうか? 一斉送信されたメールにもありましたが、着ぐるみの正体をひた隠しにしていましたしね。

…そこまで徹底する事が必要なんでしょうか?

 

まぁすでに、ここにいますけど…。

 

『こっちに向かって来ているみたいだし…案内しとこうか?』

 

『ダメだ!!』

 

……怒鳴った。

 

『う…大声だしてごめん、河西さん』

『い…いや、別にいいけど……』

 

隆史さんの声に、皆が注目してしまいました。

怒鳴った拍子に、眩暈でもしたのでしょうか…少し項垂れてます。

 

『みほ達はともかく、沙織さんにだけは、着ぐるみの正体を絶対に言わないでおいてくれ』

『……メールで見ましたけど、別にもういいんじゃない?』

 

『ダメだ』

『…最後、先輩が助けたんでしょ? 別にもう…』

 

『……』

 

…完全に出て行く機会を逃しました…。

今更出づらいですね…。

 

隆史さんが、ため息一つ付き、説明をしはじめてくれました。

 

『……いいか? 沙織さんは、着ぐるみの事をどこかのオッサンだと思っているんだ』

『そうみたいだね…』

 

『…今回は無事だったけど…レ…いや、乱暴されそうになった。そんな…えっと、そんな状態、よく顔を合わせる異性が見てんだよ…まぁ俺だけど……』

『……』

 

多分、隆史さん大分、言葉を選んで発言してますね。

まぁ…後輩のしかも異性ですからねぇ。私はもう、なんとなく分かりました。

 

『こういう事な、結構トラウマになって…いろんな事を切っ掛けに後々、思い出す人もいるんだよ』

『………』

 

『えーと…なんというか。これからも、俺とまだ顔を合わせるんだ。……俺を見る度、今回の事を思い出すような事になったら…ってな』

『……はい』

 

『沙織さんも辛いと思うし、俺も辛いんだよ…だから、まぁ…言ってくれるな。な?』

『…わかった。分かりました』

 

隆史さんはそのまま、男の方二人に肩を貸してもらい、その場を離れて行きました。

そこまで聞いていた周りの人達は、急いで着ぐるみを片付け、隆史さんがいた痕跡を急いで隠していきました。

 

あー…完全に出ていけない状態になってしまいました…。

どうしましょう?

 

「華……」

 

「な…なんでしょううか?」

 

その場にしゃがみこんでしまっている沙織さん…。

そう言えば、先程から一言も喋っていませんでしたね…。

 

「ど…」

 

「はい?」

 

「どうしよう?」

 

え…何がですか?

 

こちらを勢いよく振り向いた、沙織さん。

 

その顔は…なんというか、真っ赤になっていたり、青くなったり…。

 

えっと…色んな感情が出ていると言いますか…えーと…あー…そういう事ですか? え?

 

 

「どーーしよう!!??」

 

…どうしましょう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗マリンタワーのエントランス。

 

その一角を病人だと理由で、休憩に使わせてもらっている。

 

 

随分と楽になった…まぁ昔から肉体的な我慢は得意って言えば得意だったな…。

 

痛みしろ何にしろ…。まぁ精神的な物が大きいからかなぁ…。

 

…この世に生まれる前から、そこだけは得意だったな。

 

いやぁ、熱中症とやらは初めてなったな。こんなに辛いとは思わなかったな。

痛みより、気持ち悪くなる事の方が辛いもんだな。

 

 

…あの男。

今回の件で、首謀者だと思われる「あの男」

 

ここに見に来てくれた、しほさんと千代さんの話だと男は、見つけられなかったようだ

それよりも、その話をしている時の二人の顔が…笑っていった。

 

楽しそうに談笑する様に会話をしていた。「後処理は、こちらに任せてください」とか言っていたけど…。

目は笑っていない…とか、そういう問題じゃあない。

 

……こ、恐かった。

 

恐怖以外の感情がわかなかったヨ。

今は何も言わないで、黙っていう事を聞いておこうと嫌でも思いました…何する気だろう…。

や…やめよう。考えるの…うん。家元コンビは。事後報告のみ聞く事にしよう…。

 

誘拐犯共は、警察へ連行されたようだった。

 

そいつらに対して俺の暴れた件は、普通に話す事は出来た為、警察の聴取は簡単にだけど受けていた。

正当防衛の範囲に入るだろうという事…らしいのだけど…。

あの二人…なんかやってくれたのだろうか?

また、しほさんと千代さんに迷惑掛けちゃったなぁ…。

 

沙織さんの聴取も終わっているらしいのだけど…こちらも問題は無いようだった。

また後日、聞かれる事もあるだろうけど、今日はもうお開きだそうだ。

 

 

沙織さんと顔を合わせないようにする為に、大洗学園が撤収するまでここにいるつもりだった。

私物も持ってきてもらったし、着替えたし…で、本調子では無いにしろ体調が回復した今、やる事が無い。

 

町内会の協力してくれた一般の方々、その方達にも御礼周りでもしよう…と思ったのだけど、それは会長がすでに動いていた。

まぁそこでも、沙織さんと鉢合わせになってしまったら、意味がないか…。

 

……

 

…………暇だ…。

 

展望台にでも行ってみるかなぁ。

まだちょっと重い腰を持ち上げてみる。

 

うん…歩けるか。

 

 

 

-----------

------

---

 

 

 

てな事で、エレベーターで登り今現在は、展望台。

到着するも…誰もいねぇ…。

 

閉館間近だからだろうか…。

 

夏場は、確か21時で閉館だった様な…なぜ誰もいない。

まだ、19時頃だよな…ちょっと怖いぞ。

 

人気の無い展望台。

 

そこから港に着艦している学園艦が見える。

…見慣れてしまったなぁ、でっかい船ってのも。

 

下を見たら、すでにテントは崩され、回収されていた。

ちっちゃく見える戦車が3輌。

ミカ達の戦車もまだいる。燃料を分けてもらったんだろうか。

動いているのは見える。

 

「……」

 

壁に背をかけて、ボケーと眺める。

 

暫く眺めていた。

 

何も考えないで。

 

そして思った。

 

そろそろ夜景になりそうな景色を見ながら、この世界に生まれて初めて思った。

 

酒飲みてぇ……。

 

ひどい酔い方をするのもあって、どうなるか分からない恐怖心から、飲みたいと思った事は今まで無かった。

しっかし、さすがに今日は色々と…本当に色々あって疲れた…。

 

酒飲みたい…できれば、ビール。

…記憶で知っている。疲れた時の酒の味。

 

まぁ…飲まないけど…。

 

はっはー。こういう時にでるなぁ…オッサン思考。

…そろそろ戻ろう。なんか悲しくなってきたし…。

 

 

「……」

 

「…………」

 

 

「あの…みほさん。いつからそこに、いらっしゃいました?」

 

 

みほがいた。

 

一人で、真横に。

同じように壁に背を預けて。

 

なんでこう…みんな気配消すんだよ…。

 

「さっきからずっといたよ? いつ気づくかなぁ…とは思っていたけど」

 

「…そ…そうですか?」

 

「大丈夫? まだ、頭ボーッとする?」

 

「いや…もう大丈夫だけど」

 

「そっか…よかった」

 

「…」

 

え…なに? どしたの、みぽりん。

顔、赤いけど?

 

「あ、あの!」

 

「え? はい。なんでしょう?」

 

「…隆史君、会長に私達の…事件の話。しなかったって聞いて…」

 

「あー…生徒会歓迎会の時に聞かれたなぁ…。まぁうん。言わなかったな」

 

また懐かしい事を言ってきたな。

沙織さんに今回の事が、昔の事件に絡んでる事を、説明してる時にでも聞いたのかな?

でもなんだ? ちょっと様子が変だ。

 

「あと…今日、沙織さんを助けてくれたのだってそうだし…」

 

「…うん」

 

「本当は今日、言うつもりだったんだけど、こ…こんな事があって、やめようと思ったんだけど…」

 

「うん?」

 

「隆史君が、エレベーターに乗るとこ見て、一人になってるの今しかないかなぁって思って」

 

「…はぁ」

 

何が言いたいんだろう…?

相変わらず、ダイナミックに両手を振ってアワアワするなぁ…。

 

「沙織さんに、逆に気を使われちゃって…私こんなんだから……」

「ちょうど、今ここ他のお客さん誰もいないし、今しかないって思ったのに隆史君、私に気づいてくれないし!」

 

「…すいません」

 

「つまり!!」

 

「はい、なんでしょう?」

 

今度は、手を前で合わせて…真っ赤になって小さくなった。

 

「き…昨日の返事ぃ……」

 

「……」

 

あー…なるほど。それでテンパってたのか。

 

「あのな…それあんな事の後に…あー…なる程。それで沙織さんに気を使われたと…」

 

「…そう」

 

一番気を使われちゃいけない人に、気を使われたと…まぁそりゃ、何も言えんわな。

 

「…ちょっとさすがに今日の事があって…頭の中ぐちゃぐちゃになって…」

 

「はい」

 

「…………自分で昔の…あの事件の事、言葉にして思い出しちゃって…」

 

「……」

 

「……昔からの事も一緒に、思い出して…うん!!」

 

「……」

 

「もう、隆史君みたいに考えるのやめた!!」

 

「えー…」

 

「隆史君みたいに、スタート地点を決めようと思ったの! 始めようと思ったの!!」

「オレンジペコさんとか、ダージリンさんとか………お姉ちゃんとか…この事に関しては、もう気を使わないって決めたの!!」

 

胸の辺りで、両手を握り締めて、俺の目を見てきた。

 

…あ、逸らした。

 

「うぅ…なんか、ずるい…なんでそんなに、普通にしていられるの? 私だけ馬鹿みたい……」

 

「え…いや、そう言われましても…」

 

はぁ…なんといっていいか…。

 

「んで、どうなんでしょう?」

 

「え?」

 

何を驚いた顔をしている。

みほも散々考えて、気持ちに従うってのはわかった。

ただ、考えるのをやめたっていい方は、ちょっと違うだろ?

 

「え…って、返事をお待ちしておりますが?」

 

「……え?」

 

……あー…。

会話のニュアンスで、何となく分かったけど…。

 

「えーと、え? わ…分から……無い?」

 

「わかりませぬ」

 

「わ…分かってるよね!? 絶対分かってるよね!?」

 

「はい。言葉にしましょう。こういう事は、変に誤魔化すと…関係脆いぞ?」

 

俺がSだからという訳じゃあ無い。はい。

 

「あぅ…あ……ぅぅ……」

 

真っ赤になってるなぁ…。

 

「……」

 

…………俺がSだからという訳じゃあ無いですよ?

 

 

あ。

 

 

「む…」

 

「あ、ちょっと待て、み『昔から!!』」

 

あー……

 

 

「病室の時から好きでした! だから!!…その!…えっと………ぅぅ!!」

 

 

顔真っ赤にして、また両手を胸の前で握り締めて、アワアワしている。

段々と勢いが…まぁ仕方ないか。

 

はっきりと言ってくれただけ、頑張ったなぁ。うん。

頭に手を置いて…あ…そう言えば、みほの頭に手をやるのって初めてか。

 

わしゃわしゃしてやる。

 

「わかった。うん。ありがとうな…俺も好きだと…それは、前にも言ったな」

 

「ふぁ!! うぅー…。隆史君のその余裕が…ちょっと嫌」

 

本当に無いんだけどなぁ…。

 

「んじゃ、これからよろしく」

 

「よ…よろしくお願いします……」

 

赤くなって、完全に俯いてしまった。

わしゃわしゃ撫でながら…一応、言っておいた方がいいかなぁ…。

 

さぁこれから大変だ…。

 

「あと、別に余裕なんか無いよ? 男ってのはこう言う時は、それなりに格好つけたいもんなんだ」

 

「うぅ…うそつき」

 

「いやぁ…特に、……後輩の前だとねぇ」

 

「…後輩?」

 

「ほれ、後ろ」

 

「え…え!?」

 

頭を撫でていた手を、そのまま後方に指差してやった。

超高速で振り向くみぽりん。

 

はい。急いで隠れる影六つ。

うさぎさんチーム…仲いいなぁ。

 

「!!!!!!」

 

「あー…すいません。尾形先輩、探しに来たんですけど…」

 

はい。澤さんが、恐る恐る顔をだして説明をしはじめてくれました。

あいや~、皆さん顔を出すと、すっげぇいい目の輝きをしていますね。

 

「」

 

「あー…ごめん。いつ頃からいたんだ?」

 

完全にフリーズしてしまった、みぽりんの代わりに聞いておく。

いやぁ…真っ赤だなぁ…熱中症かな?

 

「あの…怒りません?」

 

「怒る理由が無い。で、いつ?」

 

「あの…尾形先輩の…『みほさん、いつからそこにいらっしゃいました?』って所から……」

 

「はっはー。お約束をしてくれるねぇ…………最初からじゃねぇか」

 

「」

 

「こ…告白みちゃったぁ!!」

「さすが西住隊長!!」

「……」ポッ

「あははー。紗希が赤くなってる~」

「いいもの見ちゃったぁ」

 

「」

 

「あ…」

 

みほがその場で、顔を押さえて蹲った。

 

「……ぅ」

 

「あ…あれ? 西住隊長?」

 

「ぅぅぅぅ!!!」

 

唸ってますね。はい。

 

展望台を見下ろすと、すでに大洗学園は撤収準備が、終わっている。

彼女達は多分、学園艦に帰るので知らせに来てくれたのだろう。

 

「さて…」

 

納涼祭から始まり、沙織さん誘拐事件。

 

大洗を皆で駆け回って、大捜索。

 

……んで俺の…暴走…か?

 

最後に、まぁ…西住 みほ

 

幼馴染が、彼女になりました。

 

 

「なっがい、一日だったなぁ…」

 

 

みほは、まだフリーズしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追伸……少し未来のお話。

 

 

この事件のせいと言うか何というか……。

 

今回、町の人達が協力してくれたお陰もあり…野次馬達が撮っていた携帯の写真とか。

まぁなんだ、地元新聞に載ってしまった。

お陰で、色々な大洗の人達の証言で、俺の行動は問題にはならなかった。

沙織さんの名前も、顔も一切記載されなかったが、一般の方の写真と動画投稿の関係で、爆発的に広がってしまったモノがある。

 

 

……ベコ。

 

 

それは、今回の事件の詳細を知っていた町人の話が、さらに噂になる。

危険を顧みず、悪漢達から女の子を助けてた…「あの着ぐるみ」は、なに?ってな。

 

簡潔に言うと……メチャクチャ人気が出ちゃった。

 

その人気は、なんでか知らんが他県にまで浸透していった。

 

…後に俺は、ベコの人(本物)という良くわからない呼び方でたまに呼ばれる事になり、後日またあの着ぐるみを、何度も着るハメになる。

ハ○の人みたいで嫌だ…。ただ、本人という事で、時給はメチャクチャ良い…。

 

みほは、事情を知っているので、複雑そうな顔をしている。

…が、事情を知らない愛里寿に「お兄ちゃんは、ボコの敵なの?」と涙ながらに聞かれた日には、……死にたくナリマシタ。

 

……そして、エリリン。

なんで!? 貴女、そういうキャラじゃ無いでしょ!? なにドハマリしてるの!?

決勝戦終わったからって、何でわざわざ大洗まで見に来てんの!!??

 

ほら…ベコってハグしようぜ! とか言ってるでしょ?

なにかジンクスにでもなってるみたい…でしてね…。

 

良い人は幸せになれる…悪い人は、そのまま抱き殺される…だって。

……真実の口かよ…俺は。

総じてこういう事は、女性は好きだ。

着ぐるみ着てると、結構な割合で子供とかその…女性とかもハグして~って、くるんだよ…。

 

はい、みぽりんの殺気がすごいんです。

 

そして一番の問題。

 

ベコは、ボコの人気にも影響し、ただでさえ客足が遠のいていた「ボコ ミュージアム」の集客数に。トドメをさしてしまった様だった…。

 

要は、ボコ派VSベコ派の戦いに発展していく……。

 




はい。ありがとうございました。

なんというか、第一部 完
って感じですね。アニメで言えば…展望台でED流れないでスタッフロールだけ流れる感じ……、

ベコ…ベコです
【挿絵表示】
何年ぶりに絵書いた……ほぼラフですけど…。
みぽりん似てねぇ…。

長かった…連載開始時の文字数倍以上ですよ…。
本編ちょっと、急ぎすぎたかなとは思いますけど…まぁ…良し!!

はい。シリアス編終わりです。次回リハビリの為にネタ全開でいきます。
はい。あの話ですね。某チョコレート菓子の話です。
隆史君、覚醒させるかちょっと考え中。
……本編に絡むように…もう閑話では無くなります。

ありがとうございました。
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