転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第34話~大洗学園、そろそろ北へ向かいます!~✩

「いで!!」

 

まほちゃんの顔が接近してきた。

なんのつもりかわからなかったけど…ちょっと、あの…さすがにまずい。

おでこの辺りを手で押さえ、止めようと思った矢先、両手でつかんだ頭を明後日の方向へ力任せに向けられた。

コキッって音したよ!?

 

向けられた先、視界にエリリンが見えた。

あーやっぱり、入室してきたの、黒森峰の現副隊長殿だったかぁ…。

襖を開けた状態で固まっている銀髪の娘さん。

 

「な…な……!!!」

 

あー…えっと、あー……。

顔を赤くして…うん、怒っとる。

 

「ぅわ!?」

 

あの…まほさん?

 

なんで俺、貴女に押し倒されているんでしょうか?

 

頭を両手で固定された状態で、そのまま全体重をかけられ押し倒された。

まほちゃんの頭が、俺の首元にあるねぇ…だからね?

 

如何わしくは、ないと思うの。むしろ俺、押し倒されている側ですからね? ね?

ですから、憤怒の表情で迫って来て欲しくないんですよ!! エリリン!!

 

「貴様!! 尾形ァ!!!」

 

あ、なんでしょうか? 初めて名前で呼んでくれた気がするな。

いつも「あんた」とか「貴様」だったしねぇ…。

 

「ちょっと待て!! 俺今、倒されてる状態だから!!」

 

「だからなんだ!! 隊長に何をしている!!!」

 

ズカズカとこちらに向かってくる。

しほさんは、視界に入っていないのだろうかね。

まほちゃんはなんか…なんか、首元が擽ったい…というか、ちょっと痛い…なにやってんの!?

 

「…貴様……なぜここにいる……なんのつもりだ……」

 

「!!!」

 

俺の横まで来た。しかし俺は仰向け、まほちゃんが上に乗っかっている状態だ。

俺の前で、腕を組んで仁王立ち。

 

要は逃げれない…しかし……まさか……!!

 

「…あ…赤っ……だと!?」

 

「はぁ? 何を言って…………ェ!?」

 

赤…

 

女子高だからだろうか…こういった場合、隙が生じるというか、慣れてないのは分かるのだけど…。

でもなぁ…貴女今、スカートでしょ?

 

赤かぁ…

 

一歩下がって、座り込んでしまった。

おぉう。涙目で睨んでいますね。殺気を感じる…。

 

「待て!! 俺悪くないよ!? エリリンが勝手に見せ痛ぁ!!!」

 

噛まれた…まほちゃんに…。

 

「ふぁみほ、みふぇいる たかふぃ」

 

「何言ってるかわからん!」

 

俺、悪くないよね?

 

「ぅぅぅ!!」

 

あぁ!? エリリンがマジ泣きしそう!! 

その場に座り込んで、スカートを両手で押さえている。

…ここまで怖い上目使いは久しぶりだ!!

 

え? 貴女そういうキャラだったっけ!?

てっきり蹴飛ばされるか、踏まれるかされると思ったのに!!

 

 

 

 

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-----

---

 

 

 

 

「……まほちゃん」

 

「なんだ?」

 

「いい加減に、離れない?」

 

「何故だ?」

 

左側で腕を組んでいる…というか、固定されているというか…あの……どうしよう?

 

「…エリカさん」

 

「…は?」

 

「いい加減に、睨むのやめてもらえませんか?」

 

「死ね」

 

……右側で、顔を覗き込むように、下からガンつけしてきているエリリン。

左右に、現黒森峰の隊長副隊長に包囲された状態で硬直している。

どしたらいいのでしょうか?

 

「…で?」

 

「はい?」

 

「なんで、アンタがここにいるのよ?」

 

「……し…しほさんに…」

 

「家元?」

 

「水着撮影の依頼に来ました」

 

「……」

 

すっげぇドン引きしている。

あからさまに引いている…うわぁ…って。

 

「乙女の戦車道チョコの次回LR枠が、決定しまして。その撮影依頼です。何故か俺が日本戦車道連盟から依頼を受けましてね、オファーに来た次第です。はい」

 

細かい経緯を、メチャクチャ早口で説明した。

 

「……なに早口で、言い訳してんのよ」

 

何故か、言い訳と取られました。はい。

あれ。まほちゃんが固まった。なんで?

 

「でも、それがなんで、隊長にあんな事させて………あ」

 

「まほ…貴女……」

 

エリリンとしほさん。何かに気がついた…て、感じで何故か、まほちゃんを見ていた。

 

当人のまほちゃんは、口元で人差し指でシーって感じでジェスチャーをしている…なんだ?

俺が聞いても教えてくれない。俺だけ分からないのは、何か気持ちが悪いなぁ。

エリリンまで目を逸らす。

 

あ…丁度いいから説明しとくかな。

 

「エリリン」

 

「……その呼び方はやめろと…」

 

「次回の戦車道チョコ。確実にエリリンも撮影枠に入りますので、よろしくお願いしますね?」

 

「…………まぁ。私は副隊長だからね。そこは覚悟してるわよ。ってなによ! その顔」

 

「いえ……もっと真っ赤になって、取り乱してくれるのを期待したのですけど……」

 

「なによそれは!!」

 

チッ。選手水着撮影が廃止と説明してしまった為だろうか。

ちょっと余裕な顔が、悔しい。

 

「……隆史」

 

ギリッと腕が少し締め付けられました。はい。

痛いのと、やわらかいので、もうなんて言っていいのか…。

 

「随分と…エリカとは仲が良さそうだな」

 

「え…なんで?」

 

「一度確認をしておいた方が良いと思ってな…何故、エリカに頻繁に連絡をとっていた?……みほの事とは、関係ない会話らしいな」

 

え…え!? 何? バレてたの!?

横目で、エリリンを確認してみた。

はい。目が死んでますね。

 

「!!」

 

あ…俺の顔見て、顔を逸らした……。エリリンてやっぱり、ポーカーフェイスは向いていないなぁ…。

そんな、あからさまな態度とっちゃダメだよ…。

 

「…しかも一方的に、隆史がエリカに電話をかけているそうではないか……」

 

ゴゴゴと音が聞こえてきそうな感じですね?

あーこの様子なら、カードトレードの事はバレていは、いないなぁ…。

うん、腕痛ぇ…

 

「なんだ隆史。付き合いだして早々に浮気か? 浮気なのか!? お父様と一緒かお前は!?」

 

……ォイ

 

「隊長!!??」

 

エリリンの顔が蒼白になった。

なったねぇ…というか、しほさん…常夫の事、娘に話したのかよ…。

 

「どういう事ですか隊長!? 付きあ…つきっ……尾形ァァァァァァァ!!!!」

 

……収拾ツカナイヨ

 

 

 

ドンッ!!っと、机が鳴った。

音を合図に、動きが止まる。うん。時間も止まった感じがするね。

机割れてないよね?

 

 

 

……あの。しほさん?

 

「……隆史君?」

 

「ひゃい!!」

 

少し前の事を思い出しました。

はい。ナンパ野郎に放っていた殺気です。

 

まさか自分が受けるとは思いませんでした。

 

 

「………………浮気ですか?」

 

 

「」

 

 

こ…声がでねぇ…。

 

あ。

 

そうか。今の会話の流れだと、エリリンに手を出しているという感じか!!

それに双方から俺の浮気がバレて、問い詰められているって……見えるな。第三者からだと……。

 

「……………………まほは、ともかく…ウワキデスカ?」

 

「」

 

まほちゃんは、いいのかよ!!

 

 

死ぬ!! 

 

選択肢を間違えると、確実に死ぬ!!!

 

「ちがいますよ!! エリリ…エリカさんとは、別にそういった関係じゃないですよ!!」

 

「……」

 

ギロッとエリリンに視点を向ける。

あ…完全に怯えてる…。まほちゃんは、まだ俺の腕を組んでいる…すげぇな隊長。

 

「……事実ですか?」

 

「」

 

返事が無い。声が出ないようだ。

まぁ…うん。無理だろうなぁ…。顔だげガックンガックン頷いている

えーと…えーと!!! 

 

強引に行くか!!

 

 

「あの。エリカさんは、まほちゃんとの事(カードだけどね!)も相談してきたんですよ。ですから、まほちゃんには正直に(水着のカードだしね!!)言えなかったと思います」

 

カードの事だけどな!!

 

エリリンは頷く事しかできないのか、ガックンガックン壊れたおもちゃみたいになってるなぁ。

 

「……」

 

か…噛まずに言えた…ちょっとでも、どもったら勘繰られる!!…………俺は一体何と戦っているのだろうか…。

 

「そうですか。ならいいです。…ごめんなさいね。少し感情的になりました」

 

少し!? あれで!?

 

常夫の事は気になるけど、もう今日はやめておこう。

 

また、「少し」感情的になられたらたまらない…。

多分最後の俺に限っては、釘を刺してきたんだろうなぁ…。

 

エリリン。ありゃ腰抜けてるな……。

 

……帰ろう……もう。胃に穴が空きそうだし…。

そしてそろそろ腕を離して…。

 

「時間もまだありますし、これからの事を話し合いましょうか?」

 

これからって…。

 

「え…そろそろ、僕お暇しようかと…」

 

「泊まって行きなさい」

 

「」

 

ニゲラレナイ!!

 

「それにどうせ、私達も試合を見に行こうかと思っていました…一緒に現地に行けば良いでしょう」

 

「」

 

「では、お母様。私も寮からこちらに戻ります」

 

「隊長!?」

 

「…問題無い。何、ほんの二日だ」

 

…エリリンが睨むよ。

というか、俺の意思は!?

 

「いやいやいや!! いくらなんでも公私混同すぎますよ!! 俺ら次勝ったら、黒森峰と当たるんですよ!?」

 

「公私混同……それが?」

 

「」

 

開き直りやがった…。

 

「それにいくら内情を見られた所で。問題ありません。西住流を舐めないでもらいたいですね…」

 

「ふっ…相変わらず、お母様は隆史に甘い…」

 

微笑ましく笑わないで!! そういう場面じゃないよ!?

西住流関係ないよ!?

 

「あ…そう言えば、隆史君に明日、お使いを頼みたいのですが」

 

決定事項にされている…。

うん…諦めよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うの! ジャムは中に入れるんじゃないの。 舐めながら…紅茶を飲むのよ」

 

「……」

 

「なによ、ノンナ。何残念そうな顔してるのよ」

 

ジャムは…ついていませんね。

隆史さんと別れてから、随分と…もう随分と時が経った気がします。

 

カチューシャも少しずつ変わっていき、こういう時に口にジャムをつけながら…という、可愛らしいカチューシャを最近見なくなりました。

ちょっとここら辺は、隆史さんの影響だと分かりますので、あの人を憎らしく思います。

 

「いえ…なんでもありません」

 

お茶会。

 

聖グロリアーナのダージリンさん。

こんな時期に訪問されてきました。

 

次の準決勝戦の激励に来たそうですけど…多分違いますね。

先程から何かを言い出そうとしていらっしゃいます。

 

「次は準決勝ですのに、余裕ですわねぇ。練習しなくていいんですの?」

 

「……してたわよ練習。今は貴女の訪問に合わせて、休憩ってだけよ」

 

「あら。では、お邪魔だったかしら?」

 

「ハッ、大丈夫よ! それに……何か言いたくてわざわざ、来たんでしょう?」

 

「そうねぇ。次の対戦校の大洗学園。どこまでご存知かしら?」

 

グロリアーナは、一度練習試合を行ったみたいでしたね。

それに何度か、大洗学園での試合も訪問されたようで…。

 

「そんなに遠まわしに言わなくてもいいわよ。……「西住 みほ」よね」

 

「……そうですわね。随分と…面白い方でしたわ」

 

「ふーん」

 

紅茶のカップを顔の前に。

二人揃って薄目で牽制しあってますね。

カチューシャも気になるのでしたら、はっきりと聞いてみたらよろしいのに。

 

…まぁ、私は黙っていましょう。

 

「……で?」

 

「で? とは?」

 

「……いたんでしょ? タカーシャ」

 

「……フフ」

 

「何を笑っているのよ!」

 

「いえ。さすがに気がついていましたわね」

 

「…当たり前よ。まったく。相変わらずというか…なんか派手にやってるし…カチューシャじゃなくたって、気がつくわよ」

 

そうですね。特にサンダース戦とか酷かったみたいですし。

何より、酷い字名までつけられていましたね。

 

「あ!! そうよ! ダージリン!! 貴女、何勝手な事言ってるの!?」

 

あぁ…この方は、ふざけた事をのたまわっていましたね。

 

「なんの事でしょう?」

 

「何すっとぼけてんのよ!! インタビューで聞かれたわよ!! 何が濃密な関係よ!!」

 

「…言ってましたね。そんな「デマ」を」

 

「ノ…ノンナ?」

 

あぁいけない。つい口を…。

黙っていましょう。

カチューシャの会話の邪魔をしてはいけませんね。

 

「あら、言ったもの勝ちでしてよ。でも、貴女方の返しも随分とユニークでしたわよ?」

 

「本当の事を言ったまでです」

 

「……」

 

どうしたのでしょう? カチューシャが私を見ていますね?

あぁまた、口が出てしまいましたか。

 

「……それに、私はもう隆史さんともお会いできましたしね」

 

…………。

 

「ノ…ノンナ!?」

 

「隆史さんが青森からいなくなって、もう3ヶ月程でしょう? あれから隆史さんから連『3ヶ月と11日目ですね』」

 

「……」

 

「……」

 

どうしたのでしょうか? カチューシャがキョロキョロしはじめましたね。

ダージリンさんとお話しているだけですよ?

 

「隆史さん…貴女達と連絡を取り合っているのは存じてますけど…未だに転校先をおっしゃらないのではなくて?」

 

「…………ソウデスネ」

 

カチューシャ。袖口を引っ張らないで下さい。

今はちょっと、このポンコツと会話をしていますので。

 

「嫌われてしまわれたのでは?」

 

 

 

「…………………………ア?」

 

 

 

何を楽しそうにワラッテルノデショウカネ?

 

「冗談はさておき」

 

「言っていい冗談と悪い冗談ってアルノデハナイデショウカ?」

 

 

 

「まぁお聞きになって。隆史さん曰く…サプライズですって」

 

「サプライズ?」

 

「…大洗学園が勝ち進めば、その内に会えるだろうって事ですね。…まぁ今更言い出せないってのもあるでしょうけど」

 

「……」

 

「はぁ…正直、非常に言いたくないのですけど…サンダースではありませんが、フェアではありませんしねぇ」

 

「……」

 

「ちょっと敵に塩を送る…みたいで嫌ですけど…」

 

「……なんでしょう?」

 

「まぁ随分と心配してらっしゃいまいたよ? 貴女方の事。様子とか色々聞かれましたわ。それこそ、青森で「西住 みほ」さんを心配している時の様でしたわ」

 

……あの頃の……

 

「……相変わらず隆史さんは、心配性ですわね」

 

…………。

 

「転校先を言わないで欲しいとも言われましたけど…………あぁもう、聞いて言いませんね」

 

 

「カチューシャ、顔がニヤけてますよ?」

 

「う、うっさいわね!! ノンナだって、似たようなモノじゃない!!」

 

 

そうですか。

あのこちらが引くくらいの心配のされ方をされていましたか…。

そうですか。そうですか。

 

「……」

 

ダーさんが、怪訝そうな顔をしていますが、もうどうでもいいですね。

 

 

「隆史さん…コレは逆サプライズになりそうですわよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……西住ちゃん」

 

「はい」

 

「隆史ちゃん帰ってこないね」

 

「…そうですね」

 

「隆史君、試合前になると毎回どこかに行っちゃうよね…」

 

「フラフラしてんねぇ~。たしか昨日までは、西住ちゃんの実家にいたんだよね?」

 

「そうみたいですね」

 

今朝の練習前、会長に大事な話があると呼び出された。

何故かコタツが設置されていて、あんこう鍋を振舞われている…。

 

会長達の思い出話を聞いている内に、隆史君の話題になった。

……だって帰ってこないんだもん。

 

昨日の夜に、携帯に連絡が入った。

まさか、実家に行っていたとは思わなかった。

例のお菓子の関係だとは言っていたけど…まさか「また」お母さん絡みだろうか?

 

……つ…付き合い始めたというのに、まともに顔も見ていない気がする…。むぅ。

 

 

「で、最後に連絡が来た時が、長野だっけか?」

 

「そうですね…あ、小山先輩。隆史君から頼まれていたものできました?」

 

「えぇ。結構ザックリだけど、戦車の部品の見積だよね。確かに送っておいたよ? でも九七式軽装甲車って…うちの学校にはあまり関係が、無いものなんだけど……」

 

今日の日中、隆史君から再度連絡が入った。

なんか、お母さんのお使いでわざわざ長野県まで、お使いに出たそうだ…お酒買いに…。

老舗の酒造店。かなり古いお店らしいのだけど、どうも通販とか一切していないそうだ。

直接、その蔵元でしか販売していないお酒を買いに、遠出までして出向いたみたいだった。

 

家のヘリコプターをお酒を買う為だけに使うの、お母さんだけだよ…。

 

丁度、練習が始まる前に連絡が来たので、皆聞いていた。

その時会長が、沙織さん誘拐事件の時、随分とお世話になったから御礼という事で、プレゼントして上げてって事で大洗学園経費で購入。

 

「あ、隆史ちゃんに領収書忘れないでねぇ~って言っといて」

 

……その言葉からおかしくなった。

 

あ、でもこれ…賄賂とかに思われないのかな…。お母さん高校戦車道連盟の理事長さんなんだけど…。

 

「あ、大丈夫大丈夫! 一度、日本戦車道連盟の許可取って、根回ししとくから。…まぁ事件の事言っておけば納得するっしょ!」

 

…らしい。本当は直接お礼を言いに行きたいらしいのだけど、時期が時期だからやめておくそうだ。

そこは、隆史君に任せるようだ。

 

 

その領収書名義は、「大洗学園 生徒会」

その名義をどうも、その酒造店の一人娘の目に止まったそうだった。

 

私達の学校は、破竹の勢いで勝ち進んでいると、有名になってきた。

だからかなぁ…。

 

隆史君も戦車に詳しいのかと、その一人娘に捕まったそうだ。

 

その酒造店には、一輛の戦車があったそうだ。

その娘は、その戦車をどうにか動かす段階まで修理をしたいそうだった。

 

……後は何となく想像がつく。

 

どうせ、いつもの様に悪い癖が出てしまったのだろう。

何故か、戦車の洗車をして、交換部品のリストアップ。

更には、学校にまで連絡して見積もりを出そうとした。

 

…なにやってるんだろ。

 

…一応、頼まれたからには送らないと。

生徒会室のノートパソコンから、隆史君のスマホにデータ送信してもらっていた。

 

ん…。

 

いつの間にか、鍋もなくなり会話も途切れ出す。

そろそろお開きかな?

 

そこで、突然私の携帯が鳴った。

……ちょっとびっくりしちゃった。

 

「あ…隆史君だ」

 

「おや、彼氏からだね西住ちゃーん」

 

…会長がはやし立ててきた。…ので。

 

「そうですね♪ 彼氏からですね♪」

 

笑顔で返してあげました。

 

「ぐ………なんか、強くなったね西住ちゃん…」

 

「そうですか?」

 

ちょっと悔しそうな顔を見れて嬉しい♪

 

……正直、会長はまだ油断ならない…。

なんだろう? まだ……目が死んでない……。

 

あ…取り敢えず電話…。

 

「はい? 隆史君?」

 

あれ…返事が無い。

 

「もしもし? もしもーし」

 

「どうしたの?」

 

「返事が無いんです。あ。さっき送った見積もりを見た時かな…」

 

どこかに、当たってしまったのだろうか?

…電話口から会話が聞こえてくる。

 

『…お客人。申し訳無い。助かり申した』

 

…申したって…なんかすごい喋り方している人の声がする。

 

『あぁ、いいですよ。どうですか? 俺もかじっただけだから、ちゃんとした人が見たら、もっと予算かかると思いますけどね』

 

それに普通に答える隆史君…。

え? 何!? まだお店にいたの!?

 

「……」

 

携帯をスピーカーにして、ドンッとこたつの上に置いた。

……ちょっとお父さんを思い出したよ。

 

「え? 何? どうしたの西住さん?」

 

「なんだこれは。尾形書記か?」

 

「……隆史ちゃん随分と楽しそうダネ」

 

携帯から流れる音声…。

すぐに事態を悟ったのか、置かれた携帯電話に4人の視線が集中する。

 

『まさか、洗車まで…。この様な時間まで申し訳ない…』

『気にしないで下さい。まぁ、趣味みたいなモノですからね。後…正直、今の西住家に戻りたくないしな…』

『む? …如何なされた?』

『い、いや!! なんでもないです!!』

 

 

 

 

『お客人。いや…隆史殿のお話は、実に興味深い…』

 

 

……すでに名前呼び…。

携帯が繋がっているのを気がついていないのか、少し談笑が続く…。

うん! いい気分はしないね!!

 

『しかし、隆史殿。…正直、これでは軍資金が足りぬ…何とかならぬものか…』

『まぁ…うん。金が無いならば、働いて稼げばどうでしょう?』

『働く…?』

『バイトでも、してみたらどうですかね? 素直に堅実に…結局それが何げに一番の近道ですよ』

『……うむ』

 

 

『ならば、春でも売って…少しでも足しにできぬものか……』

 

 

「「「 …… 」」」

 

 

……なんかすごい事、言いだした…

 

『……は?』

『うむ。良くわ分からぬが、少しでも知らぬ者より、知った者。隆史殿、買ってみるか?』

『……あの、そういった冗談は、あまり好きではないんですけど…』

『私は、こういった冗談は言わぬ』

『……』

 

 

「なんか凄いこと言い出したよ!?」

 

「……ふむ?」

 

「河島先輩…多分意味分かってないですよね?」

 

「な!? バッ馬鹿にするな!! その…あれだろ!? あれ!! 春だろ!! えーと…」

 

「桃ちゃん……」

 

何故か小山先輩に頭を撫でられる、河島先輩。

しかし…うーん。

 

「西住ちゃーん…大丈夫? 隆史ちゃんなんか、売春持ちかけられてるけど…」

 

「はっきり言わないで下さい!!」

 

「…まぁ隆史ちゃんに限って、無いとは思うけど…」

 

「そうですね…」

 

何故だろう。お父さんの件は、お姉ちゃんから聞いていたけど…。

まぁ…状況が同じなのが、ちょっと引っかかるなぁ…。

 

 

『わかった。…分かりました、買いましょう』

 

 

「「「 !!! 」」」

 

目の前が真っ暗になった気がした…。

まさか…。うそ…。

 

「た…隆史君…」

 

「……」

 

「会長!? 柚子ちゃん!? 西住!?」

 

一人状況が分かっていない、河島先輩だけがあたふたしている。

…まぁ、どうでもいいけど……

 

……ヒ…グッ

 

 

『春を買う。つまり貴女の時間も買うみたいなものですね?』

『…そ…そういうものなのか?』

 

 

ぅぅ?

 

 

『では、早速30分程、買いましょうカ?』

『…ヌ!? 隆史殿!?』

『はい、じゃあ戦車の上にでも座って下さいね。ちゃんと掃除したので汚れませんよ~』

『ま…待て!! 子供を持つように持ち上げるな!!』

 

 

あ…

 

「……西住ちゃん。コレ…」

 

「よかった…のかな? 会長も分かりました?」

 

「うーん……」

 

 

『お嬢さん、よろしいですか?』

『な…なんだ』

 

 

 

『 で は 説 教 だ 』

 

 

……うん。隆史君がマジ説教を始めた。

 

「アハハハ! 隆史ちゃん、うっざいねぇ!」

 

会長も安心したのかな…いつもの雰囲気に戻っていた。

初対面の人にする事ではないのだろうけど…。

 

 

『ま…待て!! 隆『はい。目を逸らさなーーい』』

 

 

あー…多分。頭掴んで、強制的に前向かせてるなぁ…。

 

「隆史君。…説教内容が、結構エグイ…女の子に言っちゃダメな事、言ってない?」

 

小山先輩が引いている…。

私がピーマン食べないと、この状態に結構なるんだよね…。

うーん。現実的な事実しか言わなくなるからなぁ…。

今回ちょっと、言葉にできない事まで言ってるしなぁ…本気で怒ってるなぁ…。

 

 

『しかし、戦車『はい、今戦車関係ありません。貴女自身の事を言ってますよー』

 

『いや、軍資『はい、そろそろ親御さん呼んで来ましょうか~? 貴女自分の家でとんでもない事言ったんですよ~?』』

 

 

その内に言い訳が、悲鳴に変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

か…帰って来れた……。

 

なんとか試合前には自分の家に帰って来れた…。

というか、逃げたんですけどね!!

たった一日しか開けていないけど、ひどく懐かしく感じるなぁ。

 

造り酒屋を出たのが、結構な時間だった為に熊本に戻らないで、そのままヘリで大洗学園艦まで送ってもらった。

ヘリを操縦していたのが、例のしほさん私兵部隊の人だったから比較的話が通じた。

軽く同情の目で見られている事に、最近気がついたよ…。購入したお酒は持って行ってもらいました。

 

……一応。みほには連絡しておいた。

なんとか逃げ帰れそうだと。

 

うん。

 

一応、アパート前に隠した、部屋の鍵の場所とか教えていたし……分かるんだけど。

 

部屋にいてもおかしくないんだけど…。

 

 

「・・・・・・・」

 

「……ただいま」

 

「おかえり♪」

 

 

心臓に悪いから、気配消すのやめてほしいなぁ…。

あと、部屋で待つのはいいんだけど、電気つけて待っていてほしいなぁ…。

 

酒屋でのやり取りを一応聞かれていたみたいでした。

はい。俺だって、いくらなんでも携帯の履歴見れば分かりますよ。

 

…うーん。

 

「あの…みほさん」

 

「なぁに?」

 

「先ほどの電話での件ですが…」

 

「ン? 大丈夫だよ? 怒ってないよ? ちゃんと話の流れ分かってるから」

 

「あ…はい。アリガトウゴザイマス…」

 

「なんで敬語?」

 

…おかしい…。

みぽりんが怒ってない。いつもだったら殺意の波動とか何かに、目覚めそうな勢いなのに…。

ただ、先程からなんだろう…ずっと首元見てるな…。

 

「あ…後、貴女のお母様とお姉様の件なのですけど……」

 

「大丈夫! ちゃんと…お姉ちゃんから聞いたから…むしろ優越感?♪」

 

「……はい」

 

なんだ!? どうした!!?? 普通過ぎる!! むしろ機嫌がいい!!

 

みぽりんがおかしい!!! こわい!!

 

「一応、明日のプラウダ戦に向けて、不在だった隆史君に色々説明しなくちゃいけない事もあってね」

 

「……はい、あ、でも……」

 

「ん? 何?」

 

「さっき杏会長から、電話あってある程度聞いてたよ?」

 

「電話…………そっか。 …ん? 『杏』会長?」

 

「あ…いえ、この前そう呼べとお願いされまして…何か、生徒会役員で一人だけ役職呼びは寂しいとかで…」

「ふーん…」

 

 

 

「・・・・フッ」

 

 

 

笑った!? なんでこのタイミングで笑ったの!? え? 何? 

 

帰宅早々、どうなってるの!?

 

「じゃあ後は、明日に備えるだけだね♪」

 

「そ…そうですね…」

 

何? 何!? 機嫌がいいのは結構ですけど、何かこわい!

 

「じゃーねぇ…」

 

みほさんが、近づく…というか、密着してきた!?

 

何? ほんとどうしたの貴女!?

 

正面から密着し、手で俺のワイシャツの首元を引っ張ってきた。

 

「…隆史君」

 

「ハイ」

 

「これ」

 

「え?」

 

首元をみほが、指先で押さえてきた。

どこか一点を。

 

自身の目で見る事が出来ない為、携帯のカメラで撮影し見てみた。

 

うん首元をね?

 

「」

 

「お姉ちゃん……」

 

…………昨日のまほちゃんか…。

押し倒されて何か動かないなぁ……とは思っていたけど…ぁぁぁ。

 

キスマークか……これ……。

 

今朝、鏡見た時も、ぜんっぜん気がつかなかった!

 

「やっぱり、隆史君、それに気がつかなかったみたいだね?」

 

「というか、みほさんこれが、……キスマークだと分かるんですね」

 

「うん♪ おねえちゃんから、めーるもらったの♪」

 

「」

 

え…なに? え…何か後ろで色々動いてるの?

というか…みほさんの変わり様がすごく怖いです。

どうしちゃったの?

 

「ねぇ隆史君」

 

「な…なに?」

 

「お姉ちゃんって、なんか可愛いよね!♪」

 

「……」

 

……えっと……えーと。

 

「明日は、プラウダ戦だね!♪」

 

……このタイミングで、なぜプラウダ高校…。

 

「……」

 

「……」

 

確信した。

 

明日、大洗学園は多分勝つ。

 

そして俺の胃は多分死ぬ。

 

 

「タノシミダネ♪」

 

 




はい、閲覧ありがとうございました。

みぽりんが、覚醒しつつアリマスネ。
はい。デレ住さんに移行しつつ有ります。

新キャラ少しでましたね。
知らぬ方もいると思いますので、今回名前も出てきませんでし、本編大筋には絡みません。あの人書くの難しい……。

次回 プラウダ戦開始 やっとここまで来た…

ありがとうございました。

あぁそうそう。エリリン視点の隆史とまほの関係の誤解。これ解いてませんね。はい


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