転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第35話~カチューシャさんとノンナさんです!~

 準決勝試合会場

 

 雪が降る港。

 大洗学園とプラウダ高校の学園艦が、並んで停泊をしている。

 

 学園艦から、大洗学園の戦車が順番に降りてくる。

 艦からも見えたのだけど、すでに観客席は埋まっており、その周りには屋台が立ち並んでいた。

 主にプラウダ高校側の屋台だった。

 

 一度、客席横の一時集合場所にみんなを集合させ、そこから試合会場まで、ゾロゾロと行進をしていく。

 戦車が走れば、客席が沸く。手を振る人達までいる。

 軽いパレードの様な形になってしまっているけど、問題なく初めの集合場所に到着した。

 

 全車輛が止まり、みんなが戦車から降りてくる。

 ここら辺は、すでに除雪が済んでいるのか、地面にはあまり雪がない。

 ギャラリーもいるので、ライトがつき、大画面のモニターには観客席などが撮されている。

 

 明るい。

 

 しかし、試合場所では、視界が白と黒の2色になるだろう。

 ……雪原での夜戦。

 

 久しぶりだなぁ…雪上での試合は。

 

 そう言えば、隆史君の軽トラがない。

 

 いつもより早くに出て行ったはずなんだけど…。

 ……あぁ。雪上で軽トラは無理かぁ。

 でも、まったく姿を見ないので、まだ学園艦にいるのだろうか?

 

 …そう言えば昨日、アパートで隆史君は、私を見て何を驚いていたのだろう?

 できるだけもう怒らない様にしていたんだけどなぁ…。

 一度も怒らなかったんだけどなぁ……。

 もう、つまらないヤキモチは、やかないようにしたんだけどなぁ…。

 

 

 

「ねぇ、みぽりん」

 

「はい?」

 

「プラウダ高校って、たしかロシア風の学校だったよね?」

 

「……そうですね」

 

 ……沙織さんに声をかけられた。もう大丈夫そう…。

 

 応援席を呆然と見ていた。

 

 うん。何が聞きたいかは、すごく良くわかる。

 

「でも、あれ大漁旗だよね…。なんかすっごい数なんだけど!?」

 

 プラウダ高校の観客席に、大漁旗が掲げられている。

 一つや二つじゃない…。

 何十って数の旗が、掲げられている。鯛の絵とか…宝船の絵とか……骨太の墨字で「大漁」って書いてあるよ…。

 観客席の一番後ろの柵にすら、旗の角を紐で縛り、ズラーっと並んでいる…。

 

「…あの、西住殿」

 

「…はい」

 

 次は優花里さん。

 …これも何を聞きたいかは、良くわかる。

 

「これ戦車道の試合でしたよね…アイドルとかのコンサートじゃないですよね!?」

 

「……そうですね」

 

「でも、あれどう見ても、アイドルとか応援する格好ですよね!?」

 

 プラウダ高校の観客席の半数くらいが、えっと……うん…。

 サイリウム…だっけ? 

 光る棒とか持ってる人とか、半被とか暴走族の人とかが、着ていそうな服を着ている人が…いっぱいいる。

 中には女の人とかもいるけど…なんか、ハート型のウチワとか持ってるし…。

 

 総じて、プラウダ高校の隊長と副隊長の、顔と名前が入っている物が多い…。

 

 これからあの前を通って、試合会場に向かうのだけど…。 

 プラウダ高校ってあんな学校だっけ?

 

「あの…みほさん」

 

「…はい」

 

「何故、隆史さんは、プラウダ高校の応援席にいるのでしょうか?」

 

「え!?」

 

 

 その問いかけは、皆にも当然聞こえていた。

 

 華さんが指を指す先…みんな視線が動く。

 客席の一番下、人集の中に隆史君がいた。

 

「…な…なんか違和感が全くない…」

 

 えっと。なんだろう、皆さんとても…その、ワイルドというか何というか…。

 

「ガラ悪いな」

 

 麻子さん!?

 

「それに溶け込んでいる、隆史君もすごい…」

 

「先輩の知り合いの人達なのかな?」

 

 あ、そっか。

 

 近藤さんの一言で、思い出した。

 

 青森にいた時、みんなを連れて応援まで出向いていたって聞いていたし…。

 この試合会場で、再会したのだろう…。

 昔の知り合いの人達なんだろうね。

 

 その中の一人。

 

 特段体格の良い男の人が、笑いながら隆史君の肩をバンバン叩いている。

 その男の人が、叩きながらもこちらの視線に気がついたのか、叩いていた手を肩に置き、こちらを指差してきた。

 

 そのお陰で、隆史君はようやく私達が注目している事に気が付く。

 まぁ…戦車で移動して来たから、さすがに私達には気がついてたのだろう。

 

「ごめんな。昔の知り合いと会ってな。ちょっと話が長引いちゃったよ」

 

 そんな事を言いに来た。

 

「わっ! わっ!! なんか怖い人達が大勢でこっち来る!!!」

 

 …その…多人数を連れて。

 

 お陰で、うさぎさんチームが怯えている…。

 

「大丈夫、大丈夫だよ~。この怖い顔の人達、漁師だから。怖い職業の人達じゃないよ~」

 

 隆史君がフォローを入れる。

 そのフォローに強面の人達が、ツッコミを入れたり、笑いながらコツいたりしていた。

 それに笑顔で対応する隆史君。

 

 …楽しそう。

 

 こんな隆史君、見た事無かったな。

 

 大洗学園は元女子高の為、女性生徒が圧倒的に多い。

 隆史君が、男の人達だけでいる時は、滅多に見なかったしね。

 男性同士の付き合いとかって、こういうモノなのだろうか?

 

 ……なんだろう。ちょっと寂しい

 

 漁師の応援団の人達は、人当たりのいい人達だった。

 結局、みんなともすぐに打ち解け、同じ様なノリでみんなと話している。

 …でも、学校のみんなも適応力、結構すごいなぁ…。

 

「プラウダ高校の弱点教えてください!」

 

「大洗学園の弱点教えてくれたらねぇ」

 

 とか、冗談まで交わしている。

 現在何故か、プラウダ高校の応援団との親睦の場となってしまった。

 

 

 …この光景を見て、対戦相手に隆史君が再会するのが…………怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…」

 

 突然隆史さんが、沙織さんと背中合わせでぶつかってきました。

 

 いえ、ぶつかるというよりか当たったというべきか。

 人に押し出される形で、出てきました。

 

 あの事件の日以降ですね。

 隆史さんは昨日まで、どちらかに出向いていたみたいで、学校でも顔を合わせませんでした。

 久しぶりの会話となりそうですね。

 

「ピッ!?」

 

 ……。

 

 隆史さんが、振り向き沙織さんの正面に立つ。

 それは特に不思議でも何でもなく、普段と同じ。

 

 …なのに、沙織さんが気をつけの姿勢で、硬直していますね…。

 

 隆史さんには、「沙織さんに正体がバレている事」を内緒にするって事になりました。

 正直、沙織さんは大丈夫そうですので、話しても大丈夫だと思いますけど…念の為。

 

 えぇ…念の為に、皆さんに提案しておきました。

 

「あぁ沙織さん、ごめん」

 

 当たってしまった事への謝罪。ただそれだけ…。

 

「」

 

「…あ、あれ?」

 

「…エゥ」

 

 口が真一文字になってますねぇ…。

 あの…大丈夫でしょうか?

 顔が段々と真っ赤になって行きますけど…。

 

 隆史さんは、頭の上に「?」を浮かべて、声をかけていますね。

 …事件の話題を一切出さないで。

 

 結局彼は、事件の事を一切知らぬ存ぜぬで通すつもりです。

 皆さんに、その事を会長より打診して頂きました

 皆さんには、快く了承して頂きました。

 

 …あと、生徒会長は多分…沙織さんの事、気がついてますねぇ…。

 

 

「タカシクン、オハヨウゴザイマス」

 

「え…あ、はい。おはようございます」

 

 分かりやすく動揺してますねぇ…。

 隆史さん、とても困っていますよ?

 

「あの…えーと。どうしたの? 今日はメガネかけて…いつもコンタクトじゃなかったけ?」

 

 …なんのつもりか、昨日よりコンタクトをやめてメガネで登校していましたね。

 明らかに挙動不審な沙織さんに困ったのか、出した話題がソレでした。

 

 まぁ…無難といえば、無難でしょうか…。

 というか何故、私がソワソワしながら見ているのでしょう?

 

 

「エ…エート、え~と! ……き…気分転換かな!!」

 

 昨日、麻子さんにした同じ返事…。

 事件もありましたし、そこは本当に気分転換なのでしょうかね。

 隆史さんもそう思ったのか、納得した顔をしましたね。

 

「そっか」

 

「えーと…えっと。『メガネの娘って野暮ったくて、あまり好きじゃない』…かな?」

 

 

 ……ん?

 

 

「なに? メガネ?」

 

「そ、そう…」

 

 …何故沙織さんは、遠まわしな聞き方を…。

 何かを思い出しながら、しゃべっている様に聞こえましたけど…。

 普通に、似合ってかどうかを聞けば良いのでは?。

 

「大好きです」

 

「!!!」

 

 

 あー…もう、なんといいますか…。

 

「……」

 

 隆史さんは、目を輝かせておっしゃる事ですか。

 沙織さんは、頭から湯気でも出そうなくらい、真っ赤になって硬直してますし…。

 多分ボフッって音しましたよね。

 

 そんな沙織さんを見て、オロオロする隆史さん。

 

 …少し言葉を選んでください。

 

 なんというか…胃が痛いです…。

 

 

「華さん? どうしました?」

 

 みほさん!?

 

「い、いえ!! なんでもありませんヨ!!」

 

「?」

 

 び…びっくりしました…。

 みほさんに全然気がつきませんでした。

 どうやら、皆さんに声をかけて回っていたようです。

 

「皆さんそろそろ、移動しますので準備してください」

 

「……」

 

 ハーイ、と周りから声が上がりました。

 それと、同時にプラウダ応援団の方達も、客席に戻り始めました。

 

 いよいよ試合ですね。

 なんでしょうか…開始前から凄く疲れました。

 

「オウ。んじゃタカ坊。俺らは戻るな」

 

「あーはい、おやっさん。試合中は、あんまりはしゃがない様にして下さいよ」

 

「うるせぇ!」

 

 笑いながらも、応援団のリーダーらしき男性にワシャワシャ頭を乱暴に撫でられていますね。

 彼は、隆史さんが、バイトしていたお店の店長さんとの事。

 …隆史さんより、背の高い男性は、珍しいです。

 まだ少し、男同士ジャレあってますね…。

 

 …最後に改めて、隆史さんと私達を見て、凄いことを仰ってきました。

 

「まったく。また女の子に囲まれた生活してんのか? 羨ましい限りだねぇ」

 

「またって言わないで下さいよ!! 誤解を招くでしょ!?」

 

 本気で焦ってますね…。

 

「…あぁそっか。隆史君って青森で、プラウダ高校と聖グロリアーナ両校の女の子に囲まれてたんだね」

 

「え…」

 

「私と違ってモテモテだね!!」

 

「沙織さん!?」

 

 認めた…。

 

 あの沙織さんが…現実を認めました……。

 

 沙織さん、大丈夫ですか!? 本当に大丈夫ですか!?

 

 

「ん? おぉ! この子が、タカ坊が言ってた幼馴染の子か!?」

 

 沙織さんを見ながら、わかりやすい勘違いをしてきました。

 

「…違います。彼女は武部さん…。幼馴染は…」

 

 隆史さんが、みほさんに向かって手招きをしています

 パタパタと、それに答えて小走りで近づくみほさん。

 アワアワしながら、大きくお辞儀をし、自己紹介をしていますね。

 

 

 

「……華」

 

「なんでしょうか?」

 

「……どうしよう……隆史君の顔が、まともに見れないよぉ…」

 

「………………」

 

 痛いです。

 すっごく痛いです。

 

 …胃が。

 

 沙織さんは、私の背中に両手で捕まり、項垂れてます。

 

 胃がぁ…。

 

 どうしましょう。本当にどうしましょう。

 

 

「そっか! よかったなタカ坊。随分と心配してたもんなぁ!」

 

「…やめて下さいオヤッサン」

 

 前方の会話が聞こえてきます…。

 あぁ…みほさんの事ですかね?

 

「随分と熱心に、携帯と睨めっこしていた時もあったしな! 返事が来ねぇってな!!」

 

「オイやめろ、クソオヤジ」

 

 またハシャギ出しましたね…。

 女性より男性の方が、こういう再会を懐かしむというのは、時間がかかるものなのでしょうか?

 みほさんは、まぁ…はい。目がキラキラしてますね。

 

 

「いやぁ~…で? 付き合ってんのか? 彼女か!? タカ坊にもついにできたのか!?」

 

 …こういう話も、実は男性の方が好きなのでしょうか?

 

「あー…はい。まぁそうですね」

 

「……え」

 

 …あら?

 

「え…、え!? マジで!? 本当に!!??」

 

 冗談のつもりで言ったのでしょう…。

 残っていた、他の男性方も会話を聞いていたのか、騒めきだしました。

 驚くのも分からなくはないですけど…なんでしょうか? 驚き過ぎではないでしょうか?

 

「お…お嬢ちゃん、ほんとにタカ坊の…彼女さん?」

 

 みほさんに向かって、信じられないという顔で、訪ねています…ちょっと失礼では?

 悪気は無いのでしょうけど…。

 

「は…はい!」

 

 あら。みほさんが、はっきりと返事をしました。

 …ちょっと顔つきが凛々しいです。てっきり慌てるか、照れるかすると思いましたのに。

 良い傾向でしょうか?

 

 ……後ろの沙織さんの事を思うと、胃が痛みますが…。

 

「いや…カチューシャちゃんと、ノンナちゃんファンクラブの会長って、タカ坊って事になってるけど…大丈夫か?」

 

「は!? いやいや! ちょっとまって!」

 

「いや……二人に公認させたのって、タカ坊だろ?」

 

「そうだけど!! 確かにそうだけど!! 俺一切、関与してないですよ!? 許可とっただけで、一度も活動した事……あぁ…応援団作ったのが…そのままファンクラブか……」

 

 隆史さん、頭抱えてますね。

 それに対して、みほさんは特に気にした様子も無いようです。

 

「タカ坊。コレやるよ…」

 

 そう言って、着ていた法被を項垂れた隆史さんの肩にかけました。

 

『スノーフェアリー・カチューシャたん』と、書かれたピンクの法被を…。

 

「なんちゅーもん、よこすんだよクソ親父!! こんなもん作ってるから、女将さんに小遣い減らされるんだろ!!」

 

「うっせー!!」

 

「しかもスノーフェアリーって競走馬だぞ!! 何考えてんだ!!!」

 

「うるせぇー!! 語呂が可愛いだろうが!! 可愛いは正義だ!!!」

 

「その面で可愛いとか言ってんな!!」

 

 ギャーギャーと口喧嘩を始めました…隆史さん、言う人には結構な事、言いますね…。

 叫びすぎて、疲れたのハァハァ言ってますね。

 

 

 オヤッサンさんが…言いえて妙ですが……まぁいいでしょう。

 オヤッサンさんが、頭をかきながら、みほさんに声をかけます。

 

「あーーーーー……………………、まぁなんだ、お嬢ちゃん」

 

「あ、はい! な、なんでしょうか!?」

 

「……俺はコレに関しては、どちらかの味方って訳じゃねぇから、一概には言えねぇけどよぉ………まぁその…頑張りな」

 

「え? あ、はいっ!!」

 

 ひどく言い辛そうに、ガリガリ頭をかいていますね。

 

「ま! それはそれとして、タカ坊の事頼むな!!」

 

 

 オヤッサンさんは、隆史さんの背中をバンバン叩き、残った数人と共に客席へ帰って行きました。

 

 …どちらか。

 

 私には、意味が良くわかりませんでしたが、みほさんには伝わったようです。

 最後の返事もはっきりと答えてましたね。

 何か決意のようなものを、朝から感じますね。

 

 …まぁ私としましては、後ろでブツブツ呟いている沙織さんの方が問題なのですけどね。

 前は、あれだけ三角関係やら、痴情の縺れやら仰っていたのに、いざ自分がなるとコレですか…。

 ……本当にどうしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進む。

 

 雪の中を歩く。

 

 予定より少し離れた所で車を降りて、後は徒歩で近づいていた。

 

「カチューシャ。やはりもう少し、近づいた方が良かったのでは?」

 

「うっさいわね! ちょっと試したい事があるの!」

 

「…試合前の挨拶で、何を試す事が有るのですか」

 

「ふん。大洗学園なんて、正直どうでもいいわ。いくら西住流と言っても、私達に勝てるはず無いもの!」

 

 ……試したいのはタカーシャに。

 

 いる。

 

 多分いる。

 

 いるわよね?

 

 …というか、私達と対戦だと言うのにいなかったら許さない。

 

 ……許さない。

 

「…隆史さんが、いるかどうか不安でしたら、さっさと車で行けばよろしいのに」

 

「っっさいわね! 何も言ってないじゃない!!」

 

「顔に出てますから」

 

「ぐっ!!」

 

 …自分だって同じの癖に。

 

 タカーシャとお別れをした日。

 貴女が、泣いたの忘れてないわよ。

 

「見えましたよ」

 

「ん!」

 

 少し遠く。

 

 六輛の戦車のシルエットが見える。

 あと数人の生徒達。

 

 ……どれが、「西住 みほ」かしら。

 まだ遠くて、シルエットしか見えない。

 

 あの子達…何人か遊んでるわね…何? 雪合戦?

 

 舐められたものね。

 

「で、どうするのですか?」

 

「ノンナ。貴女目立つから、ちょっとここで待って『嫌です』なさ…」

 

 ……エー

 

「一人男性らしき方が見えます。というか、隆史さんですね」

 

 よかった…いた。

 

 ……い、いえ!! 当然ね! いて当然!!!

 

「ですから、嫌です」

 

「…………」

 

 タカーシャに関する事になると、ちょっとノンナが怖い。

 今も即答したわよね?

 

 …えっと。

 

「な…何も、来るなとは言ってないわよ! ちょっと、試したいことがあるって言ったでしょ!?」

 

「なんですか?」

 

 ぐ…すっごい真っ直ぐ目を見てくるわ。

 ちゃんと言わないと、納得しないわね…。

 タカーシャを、目で確認してから、ソワソワしてるのが分かる。

 というか、目が段々と濁ってきてる気がする…………わね。

 

「…仕方ないわね」

 

 ………………

 …………

 ……

 

 これが計画。

 試したい事。

 

 戦車の影から近づいた。

 

 試合前の相談だろうか。

 数人と一緒に話し合っている。

 タカーシャも戦車道の試合に関わっていた。

 

 ……対戦相手の学校。

 タカーシャが敵として現れた。

 

 久しぶりに会うというのに、敵としての再会。

 というか、女に囲まれているのと言うのが、一番気に食わないけど…。

 

 見れた。

 

 久しぶりに顔を見れた。

 ……相っっ変わらず、ヘラヘラしてるわね。

 

「フンッ!」

 

 小さく鼻を鳴らす。

 

 …彼の性格は把握している。

 

 私達の事を、忘れるはずが無いのも分かる。

 

 だけど…不安なモノは不安だ。

 

 青森で…あの場所でしていた事。

 

 いつもの合図。

 

 私のおねだ…命令。

 

 何人かと話していて集中しているのか、すぐ横に来た私にも気がつかない。

 

 まぁ周りには、すでにバレてはいるわね。

 

 誰?とか声は聞こえた。

 

 有象無象は、どうでもいい。

 

 さて…覚えてくれているかしら?

 

 彼は、腕を上げているから服の裾を引っ張る。

 

 前にやっていた様に。

 

 いつもの通りに。

 

 決まって、三回。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、寒くないのか?」

 

 見ているこっちが寒くなる。

 雪国舐めてないか?

 

 パンツァージャケットを着ているのはいい。

 だけどなぁ…。

 

「スカートじゃ寒くないの? 見ているこっちが寒くなるんだけど…」

 

「寒いに決まってるよ!!」

 

 力強い返答ありがとう、みほ。

 

「…せめて、ジャージかなんか履けば?」

 

 よくいるだろ、そういう女子高生。

 

「酷い! 隆史君は女子力を捨てろっていうの!?」

 

「……女子力より身体を大事にしようよ、沙織さん」

 

「そっ!…それで…隆史君は…イィノ?」

 

 声が小さくなっていくな…。

 さっきから沙織さん、目を合わせてくれないっていうか、俺の顔を見てくれねぇ…。

 

「あの…沙織さん……」

 

「ヒャイ!!」

 

 …ダメだこりゃ。

 

 

 

「優花里、ちょっと来てくれ」

 

「はい! なんですか?」

 

 呼ばれてすぐ、パタパタと来てくれた。

 …ごめん。ちょっと犬みてぇとか思っちゃった。

 

「取り敢えず、人数分の倍の懐炉と各車輌数のコレ持って来たから…コレ積むの手伝ってくれ」

 

「…懐炉はともかく、なんでコレを? 結構な荷物ですよね」

 

 まぁ、もっともな質問だな。

 でもなぁ…カチューシャの性格上なぁ…。

 

「ダンボールで分けてあるから、各車輌ごとに分けて乗せれば大丈夫だろ。プラウダ高校隊長の性格上、必要になるかもしれないからね」

 

「性格上?」

 

「……舐めプ」

 

 特に、ホームグランドみたいな雪上戦じゃあなぁ…。

 

「まぁ実際にそんな事態になれば、優花里の腕が役に立つからな。頼むわ」

 

「はぁ…まぁ隆史殿がそう仰るなら…分かりました!!」

 

 さてと、後は。

 

「えっと、そど子さん」

 

「!!」

 

 あれ? 睨まれた。

 

「私の名前は、園 みどり子!! そど子って呼ばないでよ!!」

 

 …あだ名だったんだ。

 本名かと思ってた…。

 そうだよなぁ…変わった名前だと思った。

 

「あぁ…ごめん。えっと、園さん」

 

「え……。え…えぇ!! そ、それでいいのよ!」

 

 なんで、今一瞬びっくりしたんだ?

 

「うん。それで、園さん」

 

「なによ!」

 

 おー…何を怒ってるんだ。

 まぁいい。先程のマコニャンとのやり取りを見て、どうもこの子は、一定の人に対しての対応はまずいと。

 注意しておこうと思った。

 マコニャンは相手にしていなかったが、アレは無駄な摩擦を生むな、

 

「さっきのマコニャンとのやり取り見てたんだけどね」

 

「!?」

 

「一応、教えてもらう立場なら、あの言い方はないと思うんだ。チームメイトでも、最低限の礼儀は…ってどした?」

 

「マ…マコニャ……マコ……」

 

 おーう。笑っとるな。うん。

 

 

「書ぉぉ記ぃぃーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

 

「おう、なんだねマコニャン」

 

 横から凄い勢いで来たなぁ…マコニャン。

 はっはー。顔真っ赤だなぁ。

 

「貴様、それで呼ぶなと言っただろうが!!! よりによって、そど子にぃ!!!!!!!」

 

「あぁ、本人が、そど子って呼ぶなって言ってたぞ?」

 

「まず貴様が、私をマコニャンと呼ぶな!!!」

 

「やだ。  で、園さん。最低限の礼儀は守るべきだと思うんだよ」

 

「書記!!」

 

 マコニャンが絡んでくるなぁ…。

 あーーーー……癒される。

 

「わ…わかったわ……ヒューヒュー……悪かったわね……」

 

 笑いすぎて、呼吸が可笑しくなってないか?

 笑うことか?

 

「じゃぁ…よろしくご教授下さいね……マコニャン」

 

「そど子ぉぉーーーーー!!!!」

 

 戯れあっとるなぁ…。彼女達やっぱり、基本的に仲いいんだよね。

 …まぁこんな事で、もっと距離縮められたらいいんだけど。

 

「あぁ、でもね、園さん」

 

「ヒューヒュー…何かしら?」

 

 

 

「マコニャンと呼んでいいのは、俺 だ け だ」

 

 

 

「」ビクッ!!

 

「本人、嫌がってるからやめてやってね?」

 

「」カタカタカタ

 

 ……あれ? なんか顔が引き攣ってるな。

 普通に言っただけなんだけど。

 

「わ…わかったわ。貴方は、素直に…私の名前ちゃんと呼んでくれたから…従うわ……」

 

「アリガトウ。ま、たまにならイイヨ」

 

「!!」

 

 グッっと親指立てると、グッと満面の笑みと親指で答えてくれた。うん。

 

「書記ぃぃーーーー!!!!」

 

 あぁ…みほが睨んでる……。

 

 

 

 さて、最後だな。

 

「会長ー!」

 

「…………………………は?」

 

 ……ァ。

 

「……杏」

 

「何かなぁ?♪」

 

 えー…。「会長」抜かした呼び方したほうが機嫌良さげなんすけど。

 

「あの…一応、これで俺は本部に戻りますけど…他になんかありますか?」

 

「そうだねぇ…特にあと……は……」

 

 

 あぁ、はいはい。わかった、わかった。

 

 ちょっと待ってろ

 

 いつもの様に、合図に従い少し、しゃがむ。

 服が伸びるから、強く引くなって言ったのになぁ。

 

「……隆史ちゃん」

 

「なんですか?」

 

「その肩の何?」

 

「……は?」

 

 何って…。

 

「カチューシャですけど……」

 

 

「……」

 

「……」

 

 

「カチューシャ!!??」

 

「久しぶりね!! タカーシャ!!!」

 

 俺の肩の上でふんぞり返っていた。

 ……カチューシャ…。

 いつもの合図、癖で何も条件反射的に担いじまった…。

 

「ちゃんと命令の合図を覚えていたわね! 褒めたげるわ!!」

 

 すっげぇ嬉しそうにおっしゃいました…。

 …大洗学園生徒全員の視線が痛い……。

 

「ノンナ!!」

 

「はい」

 

 ……Ⅳ号戦車の影から、ノンナさん登場……。

 うぁぁぁ!! なっつかし!! 真っ直ぐ目だけ睨んで近づいてくる!!

 

 

「さて、お久しぶりですね。人のくち『 わぁぁあああl!!!! 』」

 

 

「ハイ!!!! オヒサシブリデスね!! お元気そうで!!!!!!」

 

「お陰様で」

 

「」

 

 なんだろう…すっげぇ……懐かしいこのやり取り…。

 

 みぽりん…ハイライトさんいませんよ?

 

 だから!! 

 チカイチカイチカイチカイ!!!

 一瞬目を離した隙に近づいてくるし!!!

 

 

「さて、貴女達!! 「私達」のタカーシャがお世話になってるそうね!」

 

 「「「「「……私達の?」」」」」

 

 ……。

 

 あ…雰囲気が変わった……。

 

 何名か…怒気を感じる……コレは喜んでいいのだろうか?

 しかし、この状態はまずい…。

 

「と…取り敢えず、おろすぞカチューシャ」

 

「なんでよ!!」

 

「……」

 

 どうしよう。なんて言おう。

 

「……これだと、カチューシャの顔が見れない…ジャナイカァ」

 

「!!」

 

 あぁ!! 何名か怒気が殺気に変わった!?

 

「…し、しょうがないわねぇ!!」

 

 そう言いながら、素直に肩から降りてくれました。隊長!

 ふー…と、一息ついたら大洗側からの視線が痛い!!!

 

 ……なんだろうか。みぽりんもそうですけど、…えっとなんで近藤さんが、カチューシャを睨んで……違う。ノンナさん睨んでる!?

 

 あらためて、カチューシャとノンナさんが、みんなの前に対峙する。

 

 怖い…なんだ……なんだこの……何!!??

 

「まぁ…例の如く、タラシちゃんは放っておいて……やぁやぁ」

 

 …ついに会長にまで言われた…。

 

「生徒会長の角谷だぁ。ヨロシクゥゥ…」

 

 若干、喧嘩腰の挨拶してるなぁ…なんで?

 そして、握手の為に差し出された手を睨みつける、カチューシャ。

 

「ノンナ!」

 

 あー…またか…。

 今度は、俺ではなくいつもの様に見慣れた姿。

 ノンナさんの肩にまたがる。

 

「え? …おぉ……」

 

 変な声出てますよ。会長…。

 

「貴女達はね! 全てがカチューシャより下なの!! 戦車の技術も身長もね!!!」

 

 ……いや、身長は無理があるだろ。

 

「肩車してるじゃないか……」

 

「むっ! 聞こえたわよ!! 良くもカチューシャを馬鹿にしたわね!! 粛清し『 隆史ちゃーーーん!! 』」

 

 ……。

 

 呼ばれた。

 

 すっげぇー嫌な予感しかしねぇ。

 

「な…なんでしょう?」

 

 

 

「しゃがんで♪」

 

 

 

「」

 

「早く♪」

 

 もう考えるのやめよう…。

 

 言われた通りに少ししゃがむと、予想どおりに……その…会長が肩にまたがってきた。

 しょうがないので、そのまま立ち上がる…。

 

「おぉう!! 立ち上がるとすっごいねぇ! 景色!!」

 

 おー…あのカチューシャが、肩車した会長を見て、唖然としている…。

 

「ん? カチューシャァぁぁ? 何が上だってぇ?」

 

「ぐ…卑怯よ!!!」

 

 

 …挑発。

 

 めちゃくちゃ挑発してる…。

 

 

 ごめん。

 

 大変なことだとは分かってる。

 焦ることだとも。

 

 でもな?

 

「会長!! スカートで、それはまずいです!!!」

 

 桃先輩の声でもお分かりいただけたでしょうか?

 

 首!!! 首の後ろになんか、布の暖かい感触と、左右にスベスベの感触がぁぁぁ!!!!

 

「」

 

「おや、隆史ちゃん。赤くなって。何? 前に回ろうか?」

 

「」

 

 みほの顔が確認できねぇ!!! 殺気だけ伝わってくるぅ!!

 

「」

 

 眼前のノンナさんだけは…見えます、はい。

 黒い炎を纏ってますね…。

 

 段々と近づいてくる…。

 

 目と鼻の先まで、来たところで、カチューシャが「背伸び!! 背伸びしなさい!!!」とか言ってるね……。

 ノンナさんが近づき過ぎた為か…密着する。

 その……胸部に被弾!!

 

 ま…まだ成長してる…だと!?

 

 なんだよこの、天国というか地獄というか!!!

 

「……ところで」

 

「な…なんでしょう!?」

 

 もう、なんだろう!! 対面でくっついてしまっている状態で、さらに動くので胸部の被害が甚大です!! もう!! もうっ!!!

 俺とノンナさんの肩の上では、二人のロリっ子が、つかみ合っているからさらに振動でぇ!!

 よって、会話をしても俺とノンナさんしか聞こえない距離…。

 

「……人の唇を奪って逃げた隆史さん」

 

「」

 

「あの「西住 みほ」さんと、お付き合いされてるそうで…」

 

「!!??」

 

 なんで知ってるの!? 付き合いだしたの三日前だよ!?

 

「…その現状は、私にはドウデモいいのですよ…」

 

 ボソっと呟いた。

 

「ノンナ!! 背伸びしなさいよ!!」

 

 背伸び…つま先立ちだろう。

 

「奪い返すだけです」

 

 

 …この選手同士のやりとりは、ライブカメラで撮影をされている。

 それは、不正防止の為でもある。

 

 よってこれは、客席にも当然流れるのだろう。

 

 それはこの会場に見に来ると言ってた…あの西住流そのもの二名や、その他校の方も見ていたわけで…。

 肩車をしている訳で…ちょっと身動きができない…その…。

 

 

 

 唇に、冷たく柔らかい感触がした。

 

 

 

 




はい。閲覧ありがとうございました。


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