…憧れだった。
それが、『 ● ● 』か、どうかなんて…わからない。
……そう、ワカラナイ。
ただ、鮮明に覚えている。
夏の田園。
蝉の鳴き声と、青い空と…草の匂いと……そこからの始まりと……。
ずっと昔。
田園の道で良く遊んだ、戦車に乗って現れる3人組。
その3人の内、二人の姉妹。
姉妹の妹の方には、よく酷い目にあわされた。
アレには悪意が無かった…だからよりタチが悪い。
…泥水をかけられたり、水道水をホースから直に浴びせられたり。
まだ幼い私を戦車の車外に乗せて、猛スピードで走り回ったり…。
カエルを顔面に乗せられたり…。
なんど怒ったか。
そんな幼少の頃、世間様からは、お嬢様など持て囃されていたのも有り、性格は…良い方だとは言えなかった。
…今はどうかは知らないけど。
よって、子供の頃から友人は少ない。
……いや、いなかった。
だからだろうか…酷い目にあっても、あの姉妹はいるだろうか? と、あの田園に足を向けていたのは。
妹の方は酷かったけど、姉の方は、嫌味ばかり言う私にも優しかった…。それが嬉しい。
楽しかった。
口数は少なかったけども、一緒にいる空間が、それはとても楽しかった。
よく思ったものだ。
…こんな姉が欲しかったと。
もしこの人が、本当に姉ならば、私の性格も少しは、まともだったのだろうか?
……本当の姉は、私と性格が似ていたから余計にそう思ってしまったのだろうか…。
そんな田園で…その姉妹とたまに会うという関係は、小学生になっても続いた。
しかしある日、イレギュラーが発生した。
小学生になり、暫く経った後だろうか。
…男の子だ。
そんな至福の空間に、男の子が混じって来た。
小学生だというのに背の高い…妙にヘラヘラした男の子。
年上だろうか…。
年上だとしても…男の子は嫌い。
だから敵意を持って接した。
彼女達姉妹に初めて会った時の様に。
その内に諦めて、私を相手にしないようにでもするだろうと思っていた。
しかし彼は違った。
私の態度を特に気にする事も無く……やさしかった。
当時余り運動は得意ではなかった為、戦車にもうまく乗れなかった私を手伝ってくれたり。
妹に悪戯されれば、庇ってくれたり。
妹の無茶に付き合い、取り残されそうな私を助けてくれたり…。
妹の行動に驚かされ、泣いてしまった私を慰めてくれたり……。
イモウトォォォォ…。
ま…まぁいい。
私の当時の背丈には、大きめな帽子が飛ばされ、ただ泣いていた私の為にどこからか探して来てくれたり。
私の帽子を持ってきてくれた彼は、泥だらけになっていたっけ…。
……今でこそ思う。
とても根気よく相手をしてもらっていたと。
私も単純だな。
男の子に対する感情が、すぐに変わった。
「アンタ」から「お兄ちゃん」と呼び方が変わっていった。
……。
妹の方はとても活発で、良く一人で暴走をしていた。
それを遠くから、男の子と姉が、一緒に眺めて苦笑している姿をよく見ていた。
その後ろから、その二人を眺めている私。
…………眺めていた私。
優しい二人。
憧れだった…。
成長したらあの様になりたいと…。
あの優しい二人の様になりたいと…。
このままこの関係が続くと思っていた。
この四人で、ずっと一緒だと思っていた。
だけど終わった。
終わった。
終わった。
終わってしまった。
一時的だと言われ、親の都合で熊本を離れる事になった私。
一時的?
駄々を捏ねる子供を納得させる嘘だと、気がついたのは大分後だった。
転校をして、熊本に戻ってきたのは中学の……しかも3年の頃……15歳の頃だった。
何が一時的だ。
あの3人はもういない。
いたとしても、私の事など忘れてしまっているだろう。
あまり私の性格に変化はなかったようだ。
相変わらず友人は少ない。
当然探した。
それは探すだろう。
当時の私の唯一の友人。
見つけた。
「一人」だけいた。
妹がいた。妹だけいた。
しかし……案の定だ。
私の事など忘れてしまっていた。
今更…昔の事を引っ張り出し、どうこう言う気は無かったけど…。
……この女。
性格も大分変わって、随分と……随分とまぁ……苛立つ性格になったものだ。
姉はもう卒業してしまって、当然いない。
少し寂しかった…。
男の子は…。
……
…………。
寂しかった。
あの頃の事もあり…姉妹の姉の事もあり。
私は戦車道に進んでいた。
だけど…。
いや。
今は細かい事は省く。
一年経ち…。
二年経ち…………。
「隊長」が酷く憔悴していると気がつかなかった時。
あの港。
熊本港に、あの男が現れた。
初めは分からなかった。
気がつかなかった。
その男を隊長は、幼馴染だと言っていた。
それでも気がつかなかった。
ただの、気の触れた人攫いだとしか思えなかった。
一月経ち、二月経ち……。
大洗学園とサンダース付属の試合で、気がつき始めた。
明らかに隊長の態度が、おかしくなっていったからだ。
……あの馴れ馴れしい男。
幼馴染。
隊長と元副隊長の幼馴染。
……。
確信に変わったのが、昨日。
あの軽薄な男が隊長宅に宿泊した日。
……私の下着をのぞき見た日。
二人になど、させてやるものか。
家元がいようが、付き合いだしたというのならば余計に…だ。
ダメ元で、私も宿泊して良いかと尋ねてみれば、思いの外、簡単に了承してもらえた。
…家元に。
何か不安がっていたが、私がいれば多少は自制が効くだろうとの事だった。
……客間ではあったが、隊長と同じ屋根の下だ。
正直嬉しかった。
夏の夜。
長い夜。
……
…………
アルバムを見せてもらった。
隊長は気がついていたのだろうか?
わかっていて、見せてくれたのだろうか?
『唯一の「私達」の写真』
……
…………
その男の子が、試合会場の大画面。
プラウダ高校の副隊長に「密着されて」いる。
隊長と付き合いだしたのではないのか?
……恋人関係となったのではなかったのか?
何をされている。
何をしている。
あの頃の……「憧れていた二人」ではないのか?
「……」
ふざけるな。
だから違う。
この感情は違う。
色々と裏切られたと思うのも、多分違う。
違うのだろう。
……なんだこの感情は。
この苛立ちは。
私が認めるのは「あの時の二人」
だから違う。
違う。
違う。
違う。
断じて違う。
裏切られたと感じたのは、勘違いだ。
だから違う。
あの感情も間違いだ。マチガイダ。
…アレは。「オニイチャン」じゃない。
違う。
……私の『 初恋 』なのではない。
違う。
……
…………
大画面を見つめ、腹の底から声が出る。
意識は、していない。
なぜだろうか。
目が熱い。熱い。アツイ。
「お…………がぁたぁぁぁぁァァアアア!!!」
閲覧ありがとうございました
スイマセン仕事出張の関係で今回、本当は次話の冒頭部分のみになります。