転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第36話~試合が始まりません! いや、ある意味、最終局面開始です!~

 …誰もが思ったそうだ。

 

 何してんの?…と。

 

 俺が聞きたいデス。

 

 え? なんで? どうしてコウナッタ? 何してんの!?

 

 杏会長はこの時、完全に動かなくなった俺を不審に思い、見下ろしたようだ。

 それは当然カチューシャも同じようで、二人揃ってこの場にいる人達中で、最後になったようだ。

 …時が止まった人間というものに。

 

 まぁ…うん。

 

 えーと…え?

 

 頭が真っ白になるというのも、久しぶりの体験です…。

 

 誰も動かないのだろう。

 服の布が擦れる音ってやつかな? 身体を動かす音すら聞こえない。

 

 先程まで、ざわついていた現場。

 しかし今は、聞こえるのは風の音だけ。

 

「」

 

 体は、完全に硬直してしまっている。

 思考が、現在起きた事についていけない。

 

 音以外に入ってくる情報は、視界のみ。

 

 その視界には、目を半開きにしたノンナさんの顔がしか見えない…。

 と、思ったら、閉じ…タぁぁう!!??

 

「んぅムグ!!??」

 

 奪い返すって言ってたけど…そういう意味ですか!?

 なんか入っ『何を、やってるんですかぁ!!』

 

 この声は、近藤さんか!?

 俺とノンナさんの身体の間に、無理やり入ってきた様だった。

 強引に離れさせようとしているのだろう。

 後ろに押される…。

 

 ― が。

 

 ノンナさんはカチューシャの足を、肩と首で押さえ、自由になった両手で、俺の頭を両手で掴んで固定してきた…。

 つーか、痛い!!

 

 すげぇ力で、頭を押さえつけてる!!

 それと、ちょこちょこ色っぽい声だすのやめて!!

 

 しかも背中と両腕で、全力で押しているであろう、近藤さんを無視してる!?

 

「ンンーー!!!???」

 

 まずい! これは非常にまずい!! 今更感しかないけど、いくら俺でも分かる!!!

 いやもう、口の中凄いことになってるけど!!

 

 ノンナさんと同じく、杏会長の両足を肩と首で押さえ、両手をノンナさんの肩に置き、離そうと押す。

 ぐぐっと。結構力を込めて。

 

「」

 

 突き飛ばさない程度に、しようと思ったのだけど…。

 

「」

 

 …嘘だろ?

 

 ……動かねぇ。

 

 結構強めに押してるんですけど!?

 

 ザクッ

 

 横から、雪を踏みしめて近づく音がする…。

 

 うん…多分みほだぁ…。

 

「たぁかーし、ちゃーーん。一体、なにを!!!」

 

 上から声がした…と、同時に杏会長の太ももが、更に俺の顔を強く挟む。

 

「やってぇる…のっ!!!!」

 

 俺の頭。残ったスペースをつかみ、全体重をかけて後ろに引っ張った。

 あれだね。釣りとかで大物を釣り上げる感じ。上半身を反らしてね…。

 

 ノンナさんに掴まれた部分と、杏会長が掴んだ部分。

 それでそんな事されたもんだから、死ぬ程痛い…。

 

「あ…」

 

 …ノンナさんから、少し残念…みたいな声がした。

 つまりは、そこまでして…ようやっと離れた…というか外れた。

 

 あ…でも、多分大丈夫。

 

 俺多分、この後にでも、すぐ死ぬだろうから。

 

 少なくとも胃はもう、瀕死の状態です。

 

 力がかかった状態で、離れたものだから、当然身体が軽く飛ぶ…。

 なんとか踏み込んで、倒れるのを回避…。

 

 肩の上には、杏会長…。

 そして、背中をこちらに預けて押していたものだから、開いた両手には、近藤さんの肩…。

 何この装備一覧…。

 

「や…やっと…離れた……。というか、会長も降りてください!! 何やってるんですか!!!」

 

 …近藤さん。今度は杏会長を引き剥がそうとしています。

 しかし、意外にも杏会長は、その声に素直に従い、スルスルと俺から降りてしまった。

 

「…………」

 

 む…無言で。

 

 雪の上に降りた杏会長は、近藤さんに軽く手を上げて、俺を見上げて言ってきた。

 いやぁ…杏会長のハイライトさんも、ついに仕事放棄しちゃったなぁ…。

 

「隆史ちゃんの身体が、すっごい強ばったっなぁって思って見てみたら……そこにすっごい光景があったんだけど?」

 

「」

 

「どういう事?」

 

 お…俺が聞きたい…。

 

「ンッ!」

 

 杏会長が、親指で後ろを指した。

 …いや…まぁ、はい。分かっちゃいましたけど…。

 

 ものすごい視線を感じますね…。

 

 いきなりあんな事が目の前で起きりゃなぁ…。

 口を手で押さえながら、顔を恐る恐る、向けられる視線の方向へ動か……す…。

 

「」

 

 はい。

 

 皆さん年頃の女の子。

 

 先ほどの光景を目の前にして、真っ赤な顔が綺麗に並んでますね。

 

 カメさんチームは…というか桃先輩は、なんか白目向いて赤くなってるし…。柚子先輩は、頬を抑えて真っ赤になってる…。

 

 うさぎさんチームは、真っ赤になって硬直している。キャーキャー騒ぐと思ったのに…。

 

 かばさんチームは……まぁ…ちょっと変わっているといっても、やはり年頃の女の子。

 口を手で隠しながら、真っ赤になっている。普段のギャップもあって、あらやだ。ちょっとかわいい。

 

 カモさんチームは…あー…一番騒ぐと思ったのに。なんだろう…。オーバーヒートしてる…。湯気出てますよ? 湯気。

 

 アヒルさんチー……ぃぃ!? 何!? 近藤さん!? どうしたの!? 口半開きで、眼がすっごいよ!!??

 ハイライトさんは逃げ出しているのか、おかしな色になってるし!! 向こうにいる、チームメイト怯えてるよ!?

 

 …見なかった事にしよう。うん。

 多分それが一番平和だ。

 

 

 …そして、あんこうチーム。

 というか、みほは…。

 

「……」

 

 完全に容量オーバーをしている優花里と、予想どおりに固まっている沙織さんはともかく。

 少々の事じゃ動じそうに無い華さん、そしてマコニャンまで、赤くなっているというのに、ボクノ彼女さんは…。

 

 ……恐ろしい程に普通だった。

 

 驚いてはいるのだろう。軽く赤面はしている…が。

 

 普通。

 

 すっごい普通の表情。

 

 昨日の夜もそうだったけど…みほさんどうしたんですか!?

 先ほどの足音はやはり、みほの様でした。

 …すぐ横にまで来た、みほと目が合いま……ぁぁあ!?

 

 微笑んだ!?

 

 なんで!? 浮気だとか怒られると思ったのに!! 微笑んだ!!!

 コワッ!! 普通に怒られるよりこっわ!!!

 

「大丈夫だよ? 隆史君。怒ってないから」

 

「」

 

「…隆史君と、その…付き合いだすって事は、こういう事が多分起きると思ってたから。ちゃんと覚悟してたから…」

 

「…みほ?」

 

 目は俺を見ているんだけど、発言している内容が、自分に言い聞かせているようにしか、聞こえませんけど…。

 

「だから、大丈夫。浮気とは違うと思ってるから。うん。怒ってないよ?…………「隆史君」には」

 

「」

 

 そう言って、目線をカチューシャとノンナさんに移す。

 

「な…なん…あなn、なぁ!?」

 

 それに釣られて、同じく彼女達の方を向くと…カチューシャがバグってた。

 

「ノンナ!! なにをしてるの!? というか、なんて事してんの!!!」

 

 ごもっとも…。

 

 肩車から降りたカチューシャが、小さい足を地面へ叩きつける様に、地団駄を踏んでいる。

 

「キスですね」

 

「」

 

 …はっきり言っちゃったよ、この人。

 

「キスですよ?」

 

 ノンナさんが、みほの方向へ視線を移して、もう一度言った。

 

「……」

 

 例のお茶会でも、それだけは言葉にしないように、色々と遠まわしにしていたのに…。

 すっげぇ普通に言いよった…。

 みほとノンナさんが、見つめ合っている。

 いいですか? 

 

 睨み合っていないのです。見つめ合っているのが、すごいんです!!

 

 

「な…なんでそうなるの!? あれ? え!? なんで!!??」

 

 いつの間にか、近くにいたみほとノンナさんをキョロキョロと見比べながら、ノンナさんに糾弾している。

 しかし、さすがカチューシャ隊長。ある程度は、空気を読んだようだ。

 最初の勢いはもう無い…つーか、みほさんとノンナさんの間に挟まれているような形のカチューシャがちょっと不憫だった。

 

 …俺もなんで、あんな事したか聞きたいけど…まぁあんな事されたら理由は、いくら俺でも分かる…。

 

「Не выдержал」

 

「日本語! 日本語で喋りなさいよ!! 」

 

 ……。

 

 おい。

 

 なんでそうなるんですか…。

 

「Потому что я люблю тебя, я не мог этого вынести」

 

「こら! 誤魔化さない!! 私にも分かるように日本語で喋りなさいよ!!」

 

 コチラを横目を見たノンナさんと、目が合う。

 …俺に言ったのか…。

 

「」

 

 うわぁ…しほさんが言っていた、俺に好意を持ってくれている6人って…ノンナさん入っていたのかぁ…。

 

 ……いや。普通に嬉しいし…あそこまでハッキリ言われると、恥ずかしいものがあるなぁ…。

 

「ん?」

 

 先程、された事よりも、その…そうハッキリと言われる方が、その…。

 

「先輩、どうしたんですか? 顔、さらに真っ赤になってますけど…」

 

 手元にいた近藤さんが俺の顔色が変わったと、お知らせをくれました。

 …顔にでたか。

 

「え……」

 

 少し離れたノンナさんが、目を見開いた。

 

「タカーシャ?」

 

「隆史君?」

 

「隆史ちゃん?」

 

 多分俺は、今までにないくらい動揺したのだろうか? そこまで顔にでたのか?

 蟀谷を押さえながら、右手を上げた。

 それに気がついたのだろう…ノンナさんの鉄のポーカーフェイスが瓦解した。

 

「あ…あの……え……隆史さん…私が言ったこと、わかったのですか?」

 

 若干震えながら、尋ねられた。

 さすがに聞こえないフリは、できませんでした。

 

「あー…ノンナさんの…その……ロシア語で、カチューシャ誂うのを真似してみようかと思いまして……その」

 

「」

 

 何か察したのだろう…、あの真っ白な彼女の顔が、真紅に染まっていく。

 

「実は青森にいた時から、ちょっと勉強しましてね」

 

 彼女の手が、自身の口を隠す。

 

「まだうまく発音して喋れませんけど…、その…リスニングは、ある程度できまして…まぁ、ロシア語分かりますよ、俺」

 

「  」

 

「ノンナ!?」

 

 両手で顔を抑えて、蹲ってしまったノンナさん。

 いや…でも貴女、先ほどの行動の方が赤面する事だと思うんですけど…。

 

「隆史君」

 

「…はい、なんでしょう。みほ」

 

「彼女なんて言ったの?」

 

「……」

 

 言えねぇ…。

 

「プライベートな事ですので、ちょっと…」

 

「………………ふーん」

 

 最初の一言は、「我慢できませんでした」

 

 二言目は、簡単に言えば…「私は貴方を、愛しているので我慢できませんでした」

 

 俺の目を見て言ってきたしなぁ。

 好きすっ飛ばして、愛してるかぁ…ロシアの人て情熱的で、言葉にも表すとは聞いていたけど…。

 ノンナさんに限って、無いだろうなぁとは思ってた事はあった。…日本人だしね…。

 

 まぁ…そんな事をみほに、言えるはずも無い。

 

「「まぁ大体見当はつくけどね」ますけどね」

 

「……」

 

 え…何で、つぶやきがハモってるの? 杏会長と近藤さん。

 何で、そろってみほまで、そんなノンナさん眺めてるの?

 

「あの…ノンナさん……」

 

「」

 

 恐る恐るだけども声をかける。

 ちょっと告白を見られてた時の、みほと姿がダブるなぁ。

 ダメだ…こんなノンナさん見たことねぇ…。

 

「えー…あの、何でみほと俺が、付き合いだしたの知っていたんですか?」

 

 あまり触れられたく無いだろうと、取り敢えず疑問を口にしておこう。

 

「隆史さんが、再編成された諜報部は優秀ですよ?」

 

 ……ある意味、自業自得だった。

 

 質問に返答が来た…蹲った顔を即座に上げて、答えてくれたノンナさんは、いつものノンナさんだった。

 

 

「……じゃぁ、それを知っていてなんで、あんな事…「「「 当てつけだろうねぇ」ですね 」」した…ん……」

 

 怖い!!! 女怖い!!! どっちも怖い!!!

 なんで分かんだよ!!

 

「ん…貴女。西住流の……」

 

 ここで初めて、みほに気がついたのだろうカチューシャが、みほに声をかけていた。

 …ノンナさんと睨み…見つめあってた時、見ていただろ…。

 

 まぁカチューシャの性格上、嫌味の一つも言うのだろうか…。

 …ノンナさんは、少しプルプル震えながら、カチューシャの横に再び立つ。

 顔はまだ赤い。

 

 

 

「そう…貴方が…タカーシャの「現地妻」ね!」

 

 

 

 時が止まった。……俺の。

 

「げん…え? なんですか? そ「カチューーーーシャァ!!!!」」

 

「わぁっ!? なによタカーシャ!! 急に大声ださない「誰がそんな言葉、お前に教えたぁ!!!!!」」

 

 なんちゅーとんでも無い言葉を言っているんだ!!

 さっきまでの雰囲気が、ぶっ壊れたよ!!

 

「ちょっと肩揺らさないでよ!!」

 

 ガックンガックン、小さな肩を前後に振る。

 誰だ!!! んな事、カチューシャに教えた馬鹿は!!

 

「ノンナさん!!!」

 

「あぁ…ダージリンさんが、お茶会の時に言っていましたね…意味は良く分かりませんでした」

 

 あのダッーーーーーー!!!!!

 

「言った本人も良く分かっていない様子でしたけど…また、テレビか何かで言っていたのでしょうか?」

 

 ……よく理解していない言葉を発するなよ…。

 

「私もわからないけど…」

 

「先輩は知ってるんですか?」

 

「ワタシ、モシラナイカナアァ」

 

「知らんでいい!! 杏は絶対知ってるな!! 余計な事、言わんで下さいよ!!」

 

 特にみほに!!!

 

「カチューシャも!! ノンナさんも!!! 二度とそんな言葉使うなよ!!」

 

「な…なんでよ!」

 

「待ってくださいカチューシャ。今調べます」

 

 ノンナさんが、携帯を取り出した。

 

「ノンナぁ!!」

 

「!?」

 

「余計な事をするな! カチューシャと共に今の言葉は忘れろ!!」

 

「……の…のんな……」

 

「カチューシャも…」

 

「な…なによっ!」

 

「二度とそんな言葉つかうなよ…」

 

「なん……分かったわ!! だから睨まないでよ…」

 

 まぁなんだ。本気で怒っているのを察したのだろう。

 素直に頷いた。まったく!!

 よしっ! っと言って、ガシガシ頭を撫でてやると、なんか変な声を上げていた。

 

「……みほも……絶対調べるなよ……近藤さんも!!!」

 

 「「は、はいっ!!」」

 

 女性がなんて言葉言ってんだ。

 まったく…ん。

 

「ノンナ…ノンナ…ノンナ…」

 

 あれ…? ノンナさん?

 

「…ま、まぁいいわ!! 「西住 みほ」!!」

 

「…なんでしょう」

 

 なんでか知らんが、放心しているノンナさんの肩に無理やり上り、ふんぞり返るカチューシャ。

 

「…………「西住 みほ」」

 

 噛み締める様にもう一度呼ぶ。

 

「ノン…ウ……フフフ……」

 

 ……ノンナさん? カチューシャ困ってますよ?

 どうしたんっすか?

 

「この試合」

 

「……」

 

 ほら! カチューシャが、珍しくシリアスしてますよ!!

 

「私達が勝ったら、そこのタカー…「尾形 隆史」を、返してもらうわよ」

 

「!」

 

 ……は?

 

「ハッキリ言ったねぇ…」

 

 杏会長が、呟く。

 その顔は、納得している顔だった。

 

「貴女達が付き合っていようと関係無いわ! 返してもらうわ」

 

 あ…そうか。負けた時点で、廃校だから俺結局、転校するハメになるのか。

 そこまで調べての発言か?

 

「嫌です」

 

「なっ!!」

 

 意外な言葉だったのか、カチューシャが驚いている。

 

「貴女、知りませんでしたか? 隆史君、そういった賭け事みたいな事、すっごい嫌いなの」

 

「…………知ってるわよ」

 

「勝とうが、負けようが…そんな事で、隆史君をどうこうしようという気はありません」

 

「……」

 

 

「これは戦車道の全国大会です。賭け事試合じゃありません。」

「返してもらう? いえ、その発言からおかしいです。私の彼です! 隆史君は、貴女達なんかにあげません!」

 

 わー…わー……。

 

「おーおー。言うねぇ~西住ちゃん♪」

 

「……西住隊長」

 

 わー……俺だけ蚊帳の外~…。

 何か発言しようとすると、睨まれる。……誰に? 周囲全芳全域に…。

 

「ハッ。……西住 みほ。貴女、何も知らないの?」

 

「……何がですか」

 

 あー…あの顔は、廃校の件を知ってるなぁ…やっぱり。

 

「まぁいいわ。それならそれで。……ただ」

 

「……」

 

「勝敗関係無く…貴女が、つまらな『 隆史さん!!! 』」

 

 

 空気よんでノンナさん!!!!

 貴女が、カチューシャをガン無視ですか!!

 

「もう一度、呼んでください!! 先程の様に呼び捨てで! ……つまらないボケはいりませんよ?」

 

 …カチューシャを肩車した状態で、何を言ってるんだ……。

 

 先程、咄嗟に言ってしまったな…。会長といい、なんで…。

 えーと……

 

「の…ノンナ?」

 

 

 

 

 

 ---------

 ------

 ---

 

 

 

 

 

 雪道をよろよろと歩いている。

 テントへ…本部へ……

 はい。大会本部よりレンタルしていた、雪上車を返却し、とぼとぼと歩いています。

 

 怖かった…。

 ノンナさんを呼び捨てた瞬間のみほの顔が、メチャクチャ怖かった…。

 

 ……やはりデリカシーとやらが、足りないのだろうか…。

 

 もう少しで、大会本部。大洗学園のテントに到着するあたりで、見知った顔を見かけた。

 

 なんでこんな所にいるのだろう。

 寒くないのかなぁ…あんな格好で。

 防寒着を着ていないかのような、随分な薄着に見える。

 

 

「愛里寿? 何してるの…こんな所で」

 

「お兄ちゃん?…お兄ちゃん!!」

 

 

 道の真ん中で、大画面を見つめている、見知った顔がいた。

 俺が声をかけたら、嬉しそうに走って近づいてきた。

 いつもの三人組大学生は見えない。

 またスタッフでもやっているのかな?

 

 一人きりだった。

 

 まぁ随分と寒そうな格好。

 ゴスロリというのだろうか。フリフリの服を着ていた。

 靴も…それじゃ、足も冷えるだろうよ。

 

「まぁ…ちょっと待ってろ」

 

 さすがに心配になる服装。

 上着を着せるだけなら、簡単だけど格好的に、足元が特に寒そう。

 なんでそんな格好してんだよ。

 

 俺は、着ていたコートの左腕だけ、服から抜き半身のみはだける。

 荷物を全て、右腕で持つようする。

 

「ほれ」

 

「え…」

 

 取り敢えず、話をしようにも寒そうだったため、脱いだ左腕で愛里寿を抱き上げる。

 

「後は、コートの端もって身体に巻いてくれ。昔やってやったろ?」

 

 はい。

 

 これでまずは、当面の防寒はできた。

 さて本題だ。

 

 …………あれ?

 

「愛里寿。どうした? 試合を見に来……本当にどうした?」

 

「…なにか、すごく子供扱いされてみるみたいで嫌だけど…この状況はとても良い…」

 

 …なにが? 昔たまにやってやったろ。

 愛里寿は……なんだ? 赤くなってニヤけていた。

 

「私は、別に試合を見に来た訳じゃないの…と…いうかどうでもいい」

 

「え? 戦車道の大会なのに? んじゃ…何見に来たの」

 

「……」

 

「愛里寿?」

 

「…………敵状視察」

 

「……」

 

 今、なんて言った?

 

 え?

 

「ま…まぁいいや。このまま大洗の本部テントまで来るか? 愛里寿は大会出場者と関係ないから、多分大丈夫だろ」

 

「…多分、大丈夫だと思うけど…いいの?」

 

「いいだろ。問題な…」

 

 呼び出し音が鳴った。

 俺の携帯からだ。

 それは中村からのコールだった。

 

 またあいつ、本部テントにいるのかなぁ…。

 まぁいいや。また翻訳機にでもなってもらおう。

 

 右手の荷物を降ろし、電話に出る。

 その向こうから聞こえてきたのは、…………中村の怯え切った声だった。というか悲鳴だ。

 

『尾形ーーーー!! 早く本部に来てくれーー!!』

 

「は? どうした? なんかトラブルか? っというか、お前しかいないだろ? 何を……」

 

『ふざけんな!! お前のさっきの映像で、すっごい人数来てんだよ!! 俺関係ないのにぃ!!』

 

「どういう事?」

 

『頼むから早く来てくれよ!! つーか責任取れよ!!』

 

 ……なんの事…。

 

 ……。

 

 ………………さっきの映像といったな……え?

 

 あれか!!! ノンナさんの…え!? はぁ!?

 

『いいか!! よく聞けよ! 聖グロとサンダースとアンツィオと…っ黒森峰の隊長達来てんだよ!! 殺気しか放ってねぇよ!!』

 

 

 

「」

 

 

「向かいのテントのプラウダの生徒! 完全に怯えきってるぞ!!」

 

 

「」

 

 

「早く来てく…あぁもう!! 助けてくれぇ!!」

 

 

 すまん。無理。その魂の叫びの気持ちは分かる。

 

 

「ごめん…急用ができ…『 隆史君? 』」

 

 

 ………そうか奪われたか携帯を…。

 

 ……………………しほさんの声ダ…。

 

「来なさい。早く。5分以内に」

 

 ブッ

 

「……」

 

「どうしたの? お兄ちゃん?」

 

「」

 

 あらゆる選択肢が潰された…。

 もはや逃げ道は無い。

 

「愛里寿……」

 

「なに?」

 

 …俺に出来る事は、迅速に向かい。多分土下座ぐらいしか残されていないのだろう。

 

 

 

「俺が死んだら泣いてくれるか?」

 

「……え?」

 

 




はい。閲覧ありがとうございました。

はい。多くは語りません。


次回 「覚醒者再び」
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