転生者は平穏を望む   作:白山葵

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みぽりん。仕事してください

第37話~全ての行動には責任を問われます!~


第37話~  ~ 私もそこに行きたかった…

「……」

 

本部テント前。

 

いや、正確には少し手前。

 

ここからでも分かる。

なんだろう、この空気。

 

大洗学園の本部テント前に、人集りができていた。

見慣れた人集り。というか、顔達…。

 

愛里寿を抱き上げた状態で、あそこに突入すれば命は無い。それぐらは俺にもわかる。

 

うん…死ぬ。

 

だから今は、手を繋いでいる。まぁ逸れない為ってのも有る。

その愛里寿には、俺のコートを着させた。

 

ダボダボだなぁ…。

 

まぁ学校支給とはいえ、男物だし、身長差から言えば当然だろう。

引きずらないように、少し折って、安全ピンで軽く止めている為、見た目は結構酷い…が。

ダボダボのコートを着た愛里寿は、ぶっちゃけ可愛かった。写真撮っちゃった。

 

正直軽く現実逃避をしていましたよ。こんな事でもしなきゃ、精神もたねぇよ!!

 

だって、テントの周りだけ、雪が全て溶けてるんだよ? 時空が歪んでいるんじゃないかと、錯覚するくらいだよ!

殺気でだよ! 殺気のせいで錯覚してるんだよ! 分かってよ!!

 

「…………」

 

13階段登る、死刑囚ってこんな気持ちなのだろうか…。

 

「お兄ちゃん? 大丈夫? 顔色悪いけど…」

 

「あぁ…大丈夫」

 

心配してくれる愛里寿が可愛かった。

頭を撫でれば、なんかムニムニ言ってるし。

 

…可愛かった。可愛かったんだよ!!

 

「」

 

逃げたい…。試合が終わるまで、ずっとこうしていたい…。

 

「Hey!! タカシ!!!」

 

…どっかで、聞いた事がある声がした…ぁああ!?

首元に、ドーーンッ! っと衝撃が走る。

勢いをつけて飛びついてきたのか、ちょっとよろける。

彼女が俺の首に手をまわしながら抱きついてきました。

 

 

「久しぶりネ!! 電話越しの声だけじゃなくて、ちゃんと会いたかったわ!!」

 

はい。ケイ姐さん、オヒサシブリデスネ。当たる…。

二巨塔が当たりますがな。

 

モスグリーンのジャンパーを着ている。

さすがに冷えるのだろう。前を閉じている。

着ているのに分かるってよっぽどだよね!

 

 

 

「…」イラッ

 

愛里寿!?

 

 

 

「ちょっ!? なんで、抱きついてくるんですか!?」

 

「私がそうしたいからよ!! 挨拶みたいなモノじゃない!」

 

「じゃあなんで、頬に顔を近づけるんですか!!」

 

「挨拶よ! アメリカ式の挨拶よ!!」

 

「やめてください!! 貴女が、フランクなのは知ってるけど! フランクすぎるだろ!!」

 

この状況に拍車をかけないで!! なんで、頬にキスしようとするの!?

 

「あら? 何? この娘?」

 

首に完全に腕を回して、俺にぶら下がっている状態で聞いてきた。

あの…降りてください…。

 

「親戚の娘ですよ…」

 

「…どこかで、見たことある娘ね…」

 

そういや月間戦車道とかに写真載っていた事あったな。

それで見たことあんのかね?

 

「それはそうと、キュートな娘ね!!」

 

すっげぇ、いい笑顔っすね。

愛里寿さんは、そんなケイさんに会釈した…が、ちょっと頬を膨らませてる。

…どしたの。

 

そんな姿を見たケイさん。

さらにキラキラした笑顔になりましたね。

 

 

「すっごいキュートね!!」

 

「でしょ!!」

 

……普通に賛同しちゃった。

あら、目を斜めに下に反らして赤くなってる。

 

「「……」」

 

やっべ。ちょっと意識飛んだ。

 

「貴女もやる!?」

 

「「え!?」」

 

俺と愛里寿がハモった。

親指を立てたケイさんが、愛里寿になんか言った。

 

何を? 何をす……る……

 

 

「」

 

 

文字通り、両手に花なのだろうか。

右にケイさん。左に愛里寿。

……二人の腕が首に巻きついていますね。

荷物のクーラーボックスが背中に回ってきてます…。

 

「フ…フフフフフフフフ……」

 

「楽しいわね!! タカシ!!」

 

「」

 

ハイ。

 

そんな状態でテント前につきました。

 

…分かってる。俺が甘いのは…、でもしょうがねぇだろうが。

突き飛ばす訳にもいかないし、二人共なんかすっごい笑顔だし…。

 

結局、予防線を張って愛里寿を腕から降ろしたはずが、結果的にさらにひどい状況になった。

…まぁいいや。結果はどうせ同じだろうし…。

 

 

 

到着したテント前。

 

て…ント……ま……

 

じ…状況確認!!

 

テント横に、懐かしいお茶会セットが設置されている!

 

…あぁ青森の時で使っていた、お茶会フルセットだぁ…。懐かしいなぁ…。

まぁなんだ。振舞っていたのだろうな。

 

…お茶を……このクソ寒い中…。

 

テントの中には。ストーブが設置はされてはいるが、なんかまぁ……うん。ゴメン中村。

この状況はさぞやキツかっただろう…。

物理的には我慢できるだろうけど、精神的には無理だろう…このプレッシャーの中心にいるのは…。

 

完全に小さくなって隅っこで震えている。

ある意味、オールスター集合の最中にいるんだ。

戦車道が好きなお前には幸せだろう? な? 

 

だから笑えよ。

 

プラウダのテント…あ。ごめんね。本当にゴメン。

隅っこで小さくなってるね…。生きていたら後で謝るよ…。

 

 

…この殺伐としたお茶会の主催者であろう聖グロからは、ダー様筆頭に…あれ。オペ子がいない…。

 

あ、ゴメン。俺の服の裾をもって横にいた。…すっげぇ顔が無表情だけど…。すっげぇ目を見つめてくるけど…。

なんで愛里寿と見つめ合ってるの?

 

はい。続いては、サンダース付属は……あれ? ケイさんしかいないな。

他の副隊長は…あ。いた。なんか隠れて中村を見てる…。

ケイさんは、あの…そろそろ離れて下さい…。

 

ヘイ、続いてはアンツィオよりドゥーチェ事、千代美さん含めた、いつもの三人組。

…千代美以外、なんだろう…普通だな。中村は、殺気を放ってるって言っていたのに…。

目線を合わせると、逸らす千代美さん。……うん。なぜ赤くなる。

 

ほい。続いて…黒…も……

 

 

 

 

 

 

 

逃げていい?

 

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

 

 

目が光って見えるのは錯覚ではないだろう…。多分、ヴゥン!!って効果音がした。うん多分。

ヴォン!!かもしれないけどね!! どうでもいいね!!

 

……お分かり頂けるだろうか?

 

大洗学園と銘打ったテントの前に、各戦車道の強豪校の隊長達が、勢ぞろいしているという現状。

その隊長達の視線を集中して浴びている俺…。

何が怖いって、誰も一言も発しないのが怖い。…どうしよう。

 

こんな騒ぎになっている為、当然ギャラリーも沸く。

戦車道の大会なので、女性のギャラリーがやはり多め。

 

だから聞こえる…

「何あいつ…何股かけてんの…」

「ダージリン様、お可哀想……」

「……死ねばいいのに…」

 

……はい。

 

「」

 

「あぁそうそう、ケイさん。ご苦労様。もうよろしいですわよ」

 

え…。

 

横目で見たケイさんの顔は、先程とは変わらず笑顔だった。

…でも色が違う。

 

うん、黒い。

 

「これでタカシは、逃げれないし土下座もできないわよね!!」

 

「」

 

この為か!! 逃亡させない為か!!

 

「隆史さん。貴方の土下座は一種の脅迫でしてよ。初めから手を打たせてもらいましたわ」

 

逃げる気は元々無いと思いますけど…って釘まで刺されてしまった。本体にも刺されそうだけど……。

打つ手が無い!!!

 

「……ではまず…ごきげんよう。隆史さん」

 

「ハイ…ごきげんよう。ダージリンさん……」

 

手に持っていたティーカップを置いて、挨拶ですね。

そう初めに発言したのは、ダージリン。

 

はい、挨拶は大切ですね! 挨拶できないような人間は「先程のは、なんでしょう?」さ…

 

いきなり本題ぶっ込んできた。

 

 

「……いや…その……」

 

何か…!! 何か手は無いのか!!

この状況を打開できる何かが!!

 

目だけで、周りを見渡してみる。

…隊長達の目線しか見えねぇ…。目が合うと逸らすを繰り返す。

 

 

そんな一文字が頭をよぎった。

 

「……」

 

あ!! 

 

でも、俺と付き合ってるのみほだし! みほに、怒られるのなら分かるけど他の人に怒られる筋合いは無いよね!!

……うん。結構最低な考えがよぎった。

別に浮気とも違うんだけどなぁ…。

 

それに、映像といってもああいうのって、ドローンやヘリからの上空からの撮影だから、詳細なんて分からないよな。

多分、抱きつかれるとかそんな感じに映ったはずだ!!

 

よし!! ごまか『あれ。キスされてますわよね?』

 

「」

 

なんでわかるの?…躊躇なく言ってきましたよ?

 

「女の勘ですわ」

 

俺、何も言ってないよ?

 

「隆史様?」

 

「…はい。なんでしょう? オペ子ちゃん」

 

裾を持っているので、上から見下ろす形になっているけど、表情がなんとなくわかるのですけど…。

 

「…あれプラウダ高校でのお茶会と、一緒の『 事 』サレマシタヨネ?」

 

「」

 

ちゃん付けにも突っ込まず、オペ子までぶっ込んで来た。

…なんでそこまで、あんな遠くからの撮影でわか『女の勘です♪』るも…

 

「」

 

「…隆史さん…アレは女ならすぐに分かりますよ……」

 

アッサムさん…それは、遠巻きに全員にバレているから覚悟しろと…そういう事でしょうか?

 

軽く震えていると、ケイさんがボソボソ耳打ちしてきた。

 

 

「どう? タカシ」

「……何がでしょう?」

「私の言った通りでしょ?」

「え?」

「時間を置くと燃え上がるものなのよ! 恋って!!」

「……」

 

言ってましたね…。まぁ……さすがにダージリンが、ここにて先程の事で怒っていらっしゃるって事で…まぁ……はい。

さすがに俺にも分かった。

 

「ある意味、丁度いい機会かもしれないわよ?」

「……」

「物事をハッキリとさせるにはね! みんな諦めるつもり無いみたいだし!」

「その言い方…知ってるんですか…その、俺とみほの事」

「貴方達の隊長よね!…知ってるわよ。サンダースにも諜報部はあるのよ!」

「」

「……事件。大変だったわね」

「!!」

「貴方、カッコ良かったわよ!」

 

ケイ姐さん!!! 初めて労われたぁ!!

 

「……私も復帰しようかなぁって思うくらいに」

 

え……。

 

 

 

 

 

「といいますか…そろそろ、隆史さんから離れて頂けないかしら? ケイさん?」

 

どうも、俺とケイさんがボソボソと内緒話をしている状況が気に食わないのか、すこしイラついた喋り方になっているね…ダー様。

 

「嫌ね!」

 

即答!?

 

「…貴女の役目は、終わりましてよ?」

 

「そっ? じゃあ今は、私の意志ね!!」

 

「」

 

ダージリンとケイさんが、何故か睨み合ってるよぉ…。

牽制しあってるというか…。

 

「…それに私、一度タカシに振られてるから、イロイロと気になくていいしね。好きに攻めるわ!!」

 

「「「「  !!??  」」」」

 

あれ…周りが静まった…。

あー…そういや、その事言ったの、みほだけだなぁ…。

一時の静寂の後、ギャラリーがザワザワと騒ぎ出した。

 

「振った!? あのサンダースの!?」とか「何様のつもり!?」などなど。

 

心温まるお便りをありがとうございます。

 

「……意外ですわ…。何から何まで……」

 

「隆史……」

 

あ、まほちゃん今日初めての発言ですね。

何故だろう。ちょっと嬉しそう…。

 

「あの、ノンナさんの行動といい…何故こうも急に、事が動き出したのかしら…」

 

「貴女が、何も知らないだけじゃない?」

 

「……なんですって?」

 

あー…火花散ってるなぁ……。

他人事の様に眺めているとお思いでしょうけど、所々現実逃避をしないと心が持たないのですわよ?

 

「お兄ちゃん」

 

「…なんでしょう?」

 

睨み合っている、ケイさんとダーさんを脇目に愛里寿さんが声をかけてきた。

 

「お兄ちゃん。この女達に、いじめられてるの? 顔色悪いけど…」

 

……女って…。

 

「……いや~…多分、俺が悪いんだろう。イロイロと誤魔化してきたツケが今、取立てにやってきた…そんな感じかなぁ…」

 

まぁ、愛里寿にはまだ早いかもしれないし、分からないだろう。

13歳って色々と多感な時期でもあるし、早熟している子は分かるかもしれんけどねぇ…。

 

「……」

 

返事も無く、無言で周りを見渡しだした。

 

「なぁ…隆史」

 

「…何? チヨミン」

 

「……お前、この状況で、それは…………余裕あるな」

 

ありませんよ ありませんよ! ありませんよ!!!

 

「その娘…島田流の天才少女だろ? なんでお前の腕の中にいるの? え? 私への当てつけか?」

 

「……いえ」

 

「それとも、私への当てつけでしょうか?」

 

カルパッチョさん!? 

 

「……もう一度」

 

あ……はい。ひなさん。やめて、頭の中での呼び方にまで突っ込んで来ないで。

 

「タカシ、おめぇ相変わらずバッカだなぁー! この状況で、どうなるか分かんねぇーのかよ!」

 

……ぺ…ペパロニに言われた…。

 

そう言えば、完全にスルーしてたなぁ…みんな。

チヨミンの言葉で、そういえばと、ケイさん含め納得していた。

うん、遅いよ。

 

「…そうだな。なぜここにいる。島田流」

 

「西住流には、関係ない」

 

…今度は、まほちゃん参戦!! やめて! 話が別方向!!

 

「そういえばそうですわね…。その娘は、隆史さんとはどういったご関係でして?」

 

「……親戚です」

 

 

「「「「「 !!?? 」」」」」

 

 

あ…あれ? そんなに驚く事?

ザワザワと、ギャラリー含め大層なざわめきが広がる。

 

「え…えっ………!? 隆史さん、島田流の血縁者でしたの!?」

 

「…遠縁ですけどね」

 

あー…そういう事をバラすのと一緒だったかぁ…。まぁ別に隠していた訳でもないけど…。

迂闊だった…。ダージリンが驚くって事は、余程の事だったのだろう。

 

「そうなの? 愛里寿…ちゃん?」

 

すぐ横にいたケイさんが、問いかけるとコクンと頷いた。

それにより、ざわめきが、どよめきに変わる……え…なに? そんな大層な事!?

 

愛里寿の顔つきが変わった。

 

俺の腕から地面に降りて、地面に立つ。

何かを決心したかのような顔になり…

 

「…私は、島田 愛里寿。島田流の次期後継者」

 

島田…あれが天才少女……本物初めて見た…とか聞こえだした…。

 

あ…そうか。飛び級しているから、戦車道の高校生大会をすっ飛ばしているのか。

写真でしか見たことが無いのが大半か。なるほど。

 

 

 

 

「……お兄ちゃ……「尾形 隆史」の許嫁」

 

 

 

 

 

……。

 

 

 

フッっと一瞬、意識が飛んだ。

 

 

「愛里寿ーーーー!!!!」

 

勘弁してくれ!!!

 

このタイミングで、この状況下で、それカミングアウトすんの!!!????

まだ、みほにも言ってねぇよ!!!!!

 

「……元ね」

 

ボソッっと言っても、誰も聞いてないよ!!!

 

「「「「  」」」」

 

あぁ!! ダージリンが白目剥いてる!!!

ケイさん、爆笑してるし!!

チヨミン! チヨミンしっかりしろ!!!

 

ま…………………ほ……ち……

 

コキッって音がした。

 

「タ カ シ」

 

「」

 

迫り来るまほちゃん。

 

「タ  カ  シ」

 

あぁ…さすが西住流の後継者…。

 

「アレは、先程の映像。ある意味お前は、被害者だと思っていた。『された側』ダカラナ」

 

「」

 

「だが、これは浮気とかそう言った類のモノではないな。明らかなウラギリダ…ウラ……ウラ…………グスッ」

 

あぁ!!

 

「ちがっ! まほちゃん!? 違うから!!」

 

「グスッ……な…何がだ…島田の娘との関係か? 許嫁というのは嘘か?」

 

「」

 

どうしよう!! 下手に答えると、愛里寿まで泣かせそう!!

どうする!? どうすんの俺!!??

 

な…泣かせた……あの黒森峰の隊長を…とか言ってるし!!

ギャラリーうるせぇ!! ロリコンとか言うな!!

 

 

 

 

 

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------

---

 

 

 

 

 

 

「……アンタ」

 

エリリン!?

 

本気で怒っている顔をしてる。

あー…ある種の憎しみが篭った顔だなぁ…まぁ仕方ないか。

 

暫く感情を殺すように、押し黙り俺を睨んでいたのは分かっちゃいたけど…。

 

「…………ふざけるな」

 

オロオロしている俺の胸ぐらを、両手で掴み強引に中腰だった俺を立たせる。

持ち上げるような形で。

 

両手で掴んだ手を、片腕に変えた。

完全に胸ぐら掴まれて、ぶん殴られる寸前だな。

あー…これは……しょうがないな。

受け入れよう。

 

 

「なにしてるのアンタ……。隊長と付き合ってんでしょ?」

 

ん?

 

「プラウダ副隊長の事といいこの娘といい……西住隊長を裏切るような真似して……」

 

んん!?

 

「許嫁……婚約者がいるのに……隊長は遊びのつもりか?」

 

えーと…

 

「…なんて男……。やっぱり違う……こんな……こんな酷いことするなんて…」

 

あの…

 

「アンタなんか……やっぱり「オニイチャン」なんかじゃぁぁ!!!」

 

 

…………気が付いていたか。

 

 

叫びながら、片手を振り上げた。

グーで。

 

 

 

「やめときなさいよ」

 

「!?」

 

 

近くにいた、ケイさんが、それを制した。

振り上げた腕の、手首を掴んでいる。

 

真顔で、自分に言っているかのように。

 

「……よく確かめもしないで、感情のみで人を傷つけて……」

 

「サンダース!」

 

睨んでいた視線が、ケイさんに移る。

…涙目で。

 

「結局、後悔するのは…自分よ?」

 

「……」

 

サンダース戦の終わり。

あの時、エリカ本人もその場にいた。

その為、何が言いたいかは理解したのだろう。

強引に腕を振りほどく。

 

もう殴る気は無くなったのだろう。

……まだ胸ぐらは掴んでいるけど。

 

「……なに? 貴女がそれをいうの?」

 

「私だから言うのよ」

 

睨み合ってるなぁ…。

傍目から見ると俺、ただのクズだなぁ…。

 

「…ヘェ? じゃぁ前回、勘違いしたけど…。今回は本物の色男が、あそこにいるけど? アレは、殴んなくていいの?」

 

親指で、中村を指す。

 

ビクッっとしたな。うん。

 

その中村の目が完全に死んでいる…。

ごめん…今回お前、完全にただの被害者だ。なんかあったら、死なない程度には庇ってやるからな。

 

「……別にいいわ。アリサに聞いた限りじゃ、彼も悪い訳じゃなさそうだし」

 

「見てくれもいいし?」

 

「…顔だけの男に興味は無いの」

 

 

……。

 

 

 

乱暴に胸ぐらの手を離し、まほちゃんの元に戻っていくエリカ。

 

 

「隊長…大丈夫ですか?」

 

「エリカ……」

 

あー…俺、完全に悪者だぁ…。

一般ギャラリーさんの視線ににまで、殺気が注入されはじめました。

 

「……エリカ。何か勘違いをしていないか?」

 

「え?」

 

「私と隆史は、別に付き合ってなどいないぞ?」

 

「……え?」

 

「まだな」

 

「」

 

はい。エリリンの顔が青くなっていきましたね。

はい。勘違いでしたね。

はい。「まだな」って、軽く言いましたね。まほちゃん。

 

 

 

 

「そうですね。隆史君と付き合っているのは、みほです」

 

「元副隊長と!?」

 

エリリンが驚いているけど、恐怖が上塗りされた。

……乱入。

 

ザッっと足音。

 

ずーーーーーーーーーーーーーーっと、あのやり取りの最中も黙っていたのが、正直一番恐ろしかった。

 

 

 

ラスボス登場。

 

 

 

黒って煮詰めると紫色になるのかなぁ…。

いやぁ……あのしほさんが、笑ってる…。

腕を組んで笑っている。

 

その雰囲気に、いい加減にしろと文句を言いに来たスタッフまで動けない。

お仕事お疲れ様です。

 

 

 

「隆史君」

 

「ひゃい!!」

 

「怒りというのは、溜め込むと笑いに変わるのですかね?」

 

知りませんっ!! 知ったこっちゃありませんっ!!

 

「……まず、島田の娘」

 

「何?」

 

いかん! 愛里寿に矛先が向いた!!

 

「その件は、内密のはずでしたが…どういったつもりでしょうか?」

 

「……」

 

しほさんは、現場にいたので勿論知っている。

まほちゃんにも、話していなかったのか、その娘さんが驚いていますよ?

 

「まほ…隆史君と島田の娘の件は、終わった事です。気にする事ありません」

 

「……お母様?」

 

「一言で言うならば…。隆史君のいつもの悪い癖が出た……とでも言うのでしょうか?」

 

 

「「「「「……あぁー……」」」」」」

 

 

その一言で、その場にいた全員が納得の声を漏らした…。

なんで?

 

ダージリンも息を吹き返した。

 

「西住流家元……。簡単に言えば、母上が明日にでも公表すると言っていたから」

 

「……は?」

 

「姿を眩ませた、あの男を完全に追い詰める為、だと言っていた。」

 

「……」

 

あの男。ガマ蛙の事か?

 

「あと…噂が漏れ始めていたから。中途半端にすると、私の選抜チームにも影響するし、何より……」

 

「お兄ちゃんが…『隆史君は、ほっとくと、その噂だけで、刺されそうでしたからね♪』」

 

 

愛里寿の発言を遮って現れました。もう一人の家元。

……千代さん。

 

はい。状況が混沌としてまいりました!!

まだ、ノンナさんとの件すら本題に入っていません!! 

ジワジワと真綿で首を絞められているようです!!

 

なにこれ!! もう試合始まっちゃってるよ!!

 

パンツァーフォーとか聞こえたよ!! 今日の試合、結構大事なのに!!

 

「それに、お兄ちゃんが虐められていると思ったから」

 

健気!! この娘健気!!!

って感じで、周りがウッって涙した。

 

周りからすれば……ほんとうに、ぼくってただのカスにしかみえませんね

 

「私も「恋愛」というのを、書物でちょっと勉強してみた」

 

ん?

 

「だから、お兄ちゃんは、私が守る」

 

んん!?

 

「全員調べて来た」

 

んんん!!??

 

 

 

 

--------

-----

---

 

 

 

 

「まだ、私の話は終わっていません。隆史君」

 

「あ。私も見ていましたよ? 隆史君」

 

家元チームがタッグを組んだ! 俺の死は確定した!!

 

「「 モテマスネ 」」

 

「」

 

ここで謝った所で、それはそれで嫌味にしか聞こえないだろう。……周りには。

逃げ道は無い。無いんだァ…。

 

「あぁそうそう、西住流の妹の方と付き合い始めた様でしたね。相談にのった甲斐がアッタトイウモノデス」

 

「」

 

あ。しほさんが勝ち誇った顔をしている!!

 

「後、そこら辺にいると思われる、各マスコミ関係者さん?」

 

見えない所から少し音がした。

え。隠れてたの!?

 

「今回の件、記事にしたり何かしら表に出るような事がありましたら……」

 

「「総力を上げて潰しますからね? いいですか? 『潰し』ますからね?」」

 

ハモった…。両家元がハモった…。

ガサガサ音が遠のいていく……。

 

はい。今その二人に睨まれていますね。

 

「母上」

 

愛里寿が、俺の前に庇うように立つ。

 

「なんですか? 愛里寿、ちょっと今大事な話を…」

 

「今回の件で、お兄ちゃんが責められるのは、変。おかしい」

 

健気にも庇ってくれている。

でもいいんだ愛里寿……多分、俺が悪いんだ…。

 

「私にも分かる。多分怒っていいのは、お兄ちゃんのお付き合いしている人だけ…」

 

「……愛里寿。貴女はそれでいいの?」

 

「いい。最後に私がもらうから」

 

ん?

 

なんか今、凄いこと言わなかったか?

 

「……では、その親の私には言う権利はありま『西住流家元』」

 

「……」

 

淡々と喋る愛里寿に、しほさんは答えない。

 

「あと、母上も」

 

「何かしら?」

 

娘に戦車道以外の事には、激甘な千代さんの笑顔が黒い!!

 

 

 

 

「仕事して」

 

 

 

 

「「 」」

 

 

……愛里寿さん。

 

「お仕事放り出して、高校生に混じって何をしてるの? 大人のする事じゃ無いと思う」

 

「「 」」

 

 

「連盟の人に、母上を何とかして欲しいと頼まれるのはもう嫌」

 

 

「多分、西住流も一緒」

 

 

あ。まほちゃんが目をそらした。

 

 

「だから。 ちゃんと。 仕事を。 しなさい」

 

 

そうだよ…今日平日だよ…。

この人達の仕事量って半端じゃないよ…。

しかも、13歳の娘に諭されるって。

 

超正論に、二人共足元から崩れ落ちた。

ということは、二人共サボってここに来たのか…。

 

 

 

家元コンビが、まとめて沈んだ!

ラスボスから撃破って…。

 

「次」

 

次!?

 

「まず、聖グロリアーナ」

 

「…な、なにかしら?」

 

「……特に貴女。お兄ちゃんに酷い」

 

ダージリンを睨んでいる…もういいや、黙って見てよう。

 

「…ふ……ふふっ。天才少女と言ってもまだ13歳。まだ男女の機微というのは、お分かりになりませんわね」

 

「……」

 

「みほさんにも言いましたが、イギリス人は恋愛と戦争には、手段は選びませんの…例え、隆史さんが…「まず、そこからおかしい」」

 

ダージリンの紅茶の持つ手が止まった。

 

「何がおかしいのかしら?」

 

「手段は選ばないって…貴女完全に後手に回っている。手段を選ばない? 具体的には?」

 

「…なっ」

 

「お兄ちゃんを拉致して、監禁でもするの?」

 

「なっ!? そんな事しませんわよ! どうしてそういった……隆史さん!! 怯えた目で見ないでください!!」

 

いやぁ…拉致は、経験あるなぁって思って。

というか、愛里寿の口からそんな言葉が出るって! 何を勉強した!!

 

「昔の事件に、そう言った事があったといっぱい書いてあった」

 

「それ! 犯罪者の!! 一部のこじらせちゃった人達の!!」

 

 

「……まぁ実際そんな事する程、愚かとは思えないけど…。」

 

そりゃあ…いくらダージリンでもそこまでは……やらないよな?

 

「……総じて言えば、恋愛関係において」

 

「…な、なんですか?」

 

 

「貴女。口だけ」

 

 

言い方ぁ…。

残ったのは、崩れ落ちた家元コンビとダージリンだけ。

 

「貴女は特に、脅威ではない」

 

容赦ない愛里寿。

 

 

「だ…大丈夫! 大丈夫だ! ダージリン!! 奥手なのは可愛いと思うぞ!!」

 

「……タカシサン」

 

「訂正。お兄ちゃんの優しさ込みなら、多少脅威」

 

何が!?

 

「次」

 

まだ!?

 

「なっ! なんだ!? 私か!?」

 

「貴女は…」

 

チヨミン? でも、チヨミンには特に絡まれてない…。

 

「臭い(チーズ)」

 

「」

 

愛里寿は、チーズとかオリーブオイルとか…ある意味、アンツィオの料理関係全部だめだった。

ほぼ常に料理を作っているアンツィオの生徒は、全員匂いがついてしまっているのだろう。

 

「大丈夫だチヨミン!! ちゃんといい匂いするから!! 愛里寿は、チーズとかそういったのダメなんだよ!!」

 

「タカシィ…」

 

慰めている横で…カルパッチョさん!?

 

「……でも貴女は、基本お兄ちゃんに優しい。脅威」

 

基準がわかんない!!

 

「…私はどうかしら?」

 

「諦めてる人に興味な…………違う。貴女」

 

「…あら? わかります?」

 

「…………脅威」

 

怖い!! 愛里寿が、淡々と分析してるのが怖い!!

 

「おおっと! このペパロニ姐さんを忘れても『 臭い。近寄らないで 』」

 

「」

 

膝崩れ落ち組に、チヨミンとペパロニが加わった!

 

「ペパロニ、大丈夫だ! お前特に料理作るからだよ!! 臭くないよ!! いい匂いだよ!!」

 

「タカシィィィ」

 

 

「次」

 

もういいよ! 怖いよ!!

 

 

 

「え? 私?」

 

ケイさんに、愛里寿が小走りで近づいてきた。

 

「…ありがとう」

 

「え?」

 

愛里寿がケイさんにお礼を言っていた。

人見知りする愛里寿が…珍しい…。

 

「さっきは、止めてくれてありがとう…」

 

「あー! タカシが、殴られそうになっていた時? OK、OK! 気にしないで!」ワタシハ、ゼンカヤッチャッタカラ…

 

「……うん。それでもありがとう。だって…」

 

「どうしたの?」

 

「あの人が、お兄ちゃん叩いていたら…………私、あの人に」

 

「うん?」

 

 

 

 

「何するかワカラナイから」

 

 

 

 

「……」

 

「だから、止めてくれてありがとう」

 

「……はい。ドウイタシマシテ」

 

……愛里寿?

 

ちょと影で見えなかった。

あれ? ケイさんの顔が青い…。

 

「……でも貴女も脅威。…上位クラス」

 

「え?」

 

 

 

「次」

 

 

 

「……なんでしょう?」

 

オペ子ぉ…。

 

「お兄ちゃんが、女の人と付き合う要因を作った人」

 

「……」

 

え…それは知らない!? なんか言ったの!?

みほに怒った時か?

 

「……とても脅威。下手したら、お兄ちゃんは貴女を選んでいたかもしれない」

 

「…そう思いますか?」

 

「思う。私は、ただ分析してるだけ。今は感情を殺して言っている。嘘はつかない」

 

……天才少女モードというのかなぁ…。

なるほど…全部俺の人間関係調べてきたのかぁ…それで先程、調べたって…。

 

俺のプライバシーは何処いった!!

 

 

「……まぁ私も諦めるつもりは…ありませんけど…」

 

「…だと思った」

 

「……」

 

まぁ……はい。オペ子は……うん。さすがにわかっていた。

さすがにね…。

 

「では、隆史様?」

 

「はいっ!!」

 

びっくりしたぁ…急にふられたよ…。

 

「一つ聞きたいことがあるのですけど、よろしいですか?」

 

「な…なんでしょう?」

 

このタイミング、この状態で聞きたい事って…なんだ!?

正直怖い!!

 

 

 

「…そんなに大きいのが、お好きですか?」

 

 

 

「…は?」

 

 

え…なんの事?

 

 

「例のノンナさんを筆頭に、ここにいらしている方、全員に言えることですけどね? そんなに…大きい方がいいですか?」

 

 

「」

 

 

……見た事がない、オペ子さんの笑顔っすね…。

 

 

「島田 愛里寿」

 

「……なんですか? 西住 まほ…さん」

 

 

「あの方も大きいですね!!」

「待て! オペ子!! ちょっと話がちがっ!!」

 

 

「……あれらは、もういいとして。君の分析は面白い」

 

「…気になりますか?」

 

「気になるな…私も脅威か?」

 

「…………特大の」

 

まほちゃん!! なに嬉しそうに話してるの!?

 

 

 

「隆史様!! 聞いていますか!? ダージリン様もおっきいですよね!!」

「ブペ子さん!?」

「ブペ子!? 今度はどこのおっきい人の事ですか!?」

「ち…ちがっ!」

 

 

 

「フフ…そうか。私は脅威か…。では、この中で一番の脅威は誰だろう? 教えてもらえるか?」

 

「……正直に言うと…。今現在、お付き合いの相手…「西住 みほ」さんより、私には脅威に感じるのが一人」

 

「ほう……誰だろうか?」

 

 

 

「そもそも、大洗学園の生徒会の人達! なんであんなに大きいんですかぁ!!」

「今それ関係ある!?」

「ただの脂肪の塊でしょうが!!」

 

 

 

「ん? 誰だ?」

 

「……」

 

なに!? なんか、愛里寿が指さしてる!?

急にまほちゃんと談笑し始めたと思えば、なに!?

 

まほちゃんが、珍しく驚愕の顔というものをしていた。

 

「……なによ。人に向かって指を指さないでよ」

 

不機嫌そうに腕を組んで、コチラを睨んでいる。

 

 

 

 

「…逸見 エリカ。……一番…怖い 」

 

 




はい閲覧ありがとうございました

愛里寿無双の回デシタ



スイマセン、予告した覚醒まで届きませんでした。
次回になりそうです。

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