転生者は平穏を望む   作:白山葵

50 / 141
「西住殿~! どこ行っちゃったんですかぁ!?」

みぽりん、ボイコット。

はい。すいません。更新が、かなり遅れました。
前回といい、この時期は熱にやられます。
自分の考えがオカシクなりますよね!!
熱中症本気でかかっちゃいましたよ!!

部屋に扇風機しかないんですもの!! 温度調べたら40.コエテタYO

…はいそんな中お送りします。


第40話~タラシ殿です!~

「…で? 土下座?」

 

「いえ、降伏はしないそうです」

 

「やっぱりね…。タカーシャの前だからって…」

 

「…それは関係ありますか?」

 

「あるわよ。いくら弱小校だからって、この戦力差がわからないはずないじゃない」

 

「そうですね」

 

 大洗学園の返事を報告。

 いつもでしたら、そろそろお昼寝でもしそうな時間ですのに。

 カチューシャは、横たわる丸太に腰をかけ、焚き火の炎を見つめています。

 座るカチューシャの足が地面に届かない為か、足ブラブラ動かしながら。

 

 

「待った甲斐がないわね」

 

「何故、わざわざ三時間も猶予を与えたのです?」

 

「……カチューシャの心が広いからよ」

 

 ただ一点を見つめて、呟く。

 横に座る私と、その周りには少しずつ積もってゆく雪。

 

「本当は?」

 

「……」

 

 無視されてました。

 

「……うぅ…目がチカチカするぅ」

 

 目元を擦り、俯いてしまった。

 炎の一点だけを見つめていたからですよ?

 

 目を擦り終え、何か考えているのか、また焚き火を眺め始めた。

 

 そのうち無言で、座っていた丸太から腰を上げた。

 

 立ち上がり、戦車に身体を向ける。

 その小さな背中を私に向け、一言だけ呟いた。

 

「………自分から、負けを認めさせたかったからよ」

 

 カチューシャは元々、相手のプライドを搾取し勝利をする事が好きでした。

 ここの所、暫くはそのような真似はしていなかったですのに。

 

「…隆史さんに散々怒られませんでしたか? 相手に失礼だと」

 

「う…」

 

「また怒られますよ?……それこそ3時間程」

 

 そう。

 

 初めて隆史さんが、プラウダ高校の試合を観戦した際、同じような事をして……すっごい怒られましたよね?

 隆史さんが見ていると言う事で、張り切ってしまったのはわかりますけど…ね?

 まぁ…その後、しっかりカチューシャをフォローしつつ、泣きそうなカチューシャをおさめてしまったのは流石ですけど…。

 

「う…うっさいわね! いいのよ、今回は…」

 

「そうですか?」

 

「そうよ!」

 

「…そうですね」

 

 いつもでしたら、私もカチューシャを止めるのですが…。

 何となく…そうした理由はわかります。

 

 …先程、別れた彼の顔を思い出します。

 

「……」

 

 我ながら、凄い事をしてしまいましたね…。

 さらに暴露してしまいました。

 

 ……正直に我慢できなかったと、言ってしまいましたけど。

 

 彼の顔と、「西住 みほ」さんの顔が視界に入ったら、押さえきれなかった。

 事前情報で、彼らの関係は知っていた…。

 

 ……。

 

 …………。

 

 知ったことか。

 

 初めて知った時は、ショックだった。

 悲しい……とも違う。

 

 ただ怒りが沸いた。

 

 純粋な怒り。

 

 あの日、あの時と同じ。

 

 嫉妬。

 

 ……シット。

 

 …ふざけるな。

 

 隆史さんの転校理由。それは聞いていなかったが、大方の予想はついた。

「西住 まほ」の為に、私達からヘリまで借用し、出向いて行ってしまった時すら、いい気分はしなかったというのに。

 

 ……彼に転校までさせて。

 

 隆史さんを私達から、完全に奪っていくのか…。

 

 取り上げるのか。

 

 現在の恋人?

 

 ……シッタコトカ。

 

「現在」……ならば、「過去」にしてしまえばいい。

 

 奪われたのならば、奪い返すだけだ。

 

 

「…なに? どうしたの?」

 

「いえ…」

 

「まったく…。まぁいいわ! 猶予は与えた。だから…もう遠慮はしない。さっさと片付けて、お家に帰るわよ!」

 

 

 …そのまま戦車へ歩き出すカチューシャ。

 

 私も立ち上がり、その背中を追ういながら決意する。

 

 彼と彼女の関係が、どこまで進展があったかは知らない。

 流石にそこまでは、調査できない。

 

 グロリアーナ、サンダース、アンツィオ………黒森峰……。

 

 正直、「西住 まほ」以外はどうでもいい。

 

 彼が、「西住 みほ」と付き合い始めて数日しか経過していない…。

 どこまで進展があったかまでは分からない。

 

 …肉体関係まで進展していたとしても構わない。

 

 シッタコトカ。

 

 もう一度、決意する。

 

 ウバワレタノナラバ ウバイカエスダケダ

 

 焚き火がの音がする。

 パチパチと。

 

 揺れる炎の光を目で追い、別の決意をする。

 

 ……。

 

 試合に、これ以上の、私情は持ち込むまい。

 

 気持ちを切り替えよう…、後はカチューシャに従うだけだ。

 

 負けない。

 

 戦力差もある。

 

 それに…。

 

 人材を再編成。

 隆史さんのアドバイスで再度、人選をし練度も上げた。

 …彼が、転校した後も変わらず……いえ、変えないで、彼がいた頃のままのプラウダ高校。

 

 負けるはずがない。

 

 

 …でも。

 

 ……だけど。

 

 …………しかし。

 

 

「こっち!? 馬鹿じゃないの!? 敢えて分厚い所来るなんて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いやぁ。なんだかんだで、結局」

 

 大洗側のテントの中。

 今はもう、俺と中村しかいない。

 

「うちの学校の試合が、一番面白いわ」

 

 うまく思考が回らない…試合を見なければならないと言うのに、所々記憶が飛ぶ…というのか、意識が飛ぶ。

 なんだっけ…。

 なんでこうなったんだっけ?

 

 体…特に顔の周りが暑い…。

 画面では、カメさんチームがプラウダ車輌を連続して撃破していく…。

 あ…2輌撃破した。

 

 なんだろう、いつもと動きが違うなぁ…。

 

 桃先輩、すげぇな。

 砲弾装填スピードも上がって、次弾発射の時間がいつもより短く感じる。

 ちょっと動きが、怖く感じたのはなんでだろう?

 

「……」

 

 ……動き回る、戦車の映像を見ていたら、段々と気持ち悪くなってきた…。

 

「いやぁ~…でもなぁ…今回、感想言う前に…すげぇなこの状況」

 

「…」

 

 ケイさんにシャワー車借りて、着替えまで用意して貰った。

 サンダースに何故か、男物の服まであって、格好がほぼケイさんとお揃いだった。

 

 何故か、タンクトップだけど。

 まぁ、サンダース付属高校のジャンパーも貸してもらったから、暖かいといえば。暖かい。

 しかし、サイズが小さめだった為に、前は完全に開いているけども。

 ついでに何故か、テントのパイプ椅子に拘束ロープで縛り付けられている。

 後ろ手で、手首を縛られている状態ですね、はい。

 シャワー車から出たらすぐに、何故か知らんが、エリリンとまほちゃんに取り押さえられた。

 

「なんか、異様に似合うなお前、そういう格好」

 

「そうか?」

 

「…敵軍に捕獲された、軍人って感じがすげぇ」

 

「…まぁズボンは迷彩柄だしな」

 

「あとお前の体格も相まって…サンダースって感じ」

 

「……ケイさんの趣味かね?」

 

 まぁいいや。見るのに支障ないし。

 

 視線をテント外に向けると一人の女の子が、しほさんと千代さん含めた、家元ズ。

 それと各隊長クラスに包囲されて、顔が真っ青になりながら震えている。

 

 あー…いつも俺がいる場所だァ…。

 初めて見たなぁ…外からあの立ち位置。

 

 

 

「……で? アリサ。何か言い訳ある?」

 

「アばぁまいヵ!」

 

「しっかりと喋りなさい。何を言っているか分かりません。隆史君がああなって、私の胸を掴んだ原因は貴女に有るとお聞きましたけど?」

 

「」ガタガタガタガタガタガタ

 

 完全に白目を剥き始めた。

 しほさん、さっきまで大丈夫そうだったのに…なんで急に怒り出したんだろう?

 まぁ素人は、あの視線はきっついよねぇ。

 俺くらいになると若干快感になってくるヨ?

 

「簡単に言えば、貴女は貴女の好きな方に、構って欲しくてあんな事をしたと?」

 

「」

 

 あ、一瞬こっち見て青くなった。

 何を言っているのか分からないけどね。

 

「あ…あんな事になるなんて思わなかったんです!」

 

 中村ストーキングの休憩の為か、事件当時、俺達が立っていたトラックの反対側に彼女はいた。

 そこで女性の戦車道スタッフに頼まれたそうだ。

 荷物の運搬の関係で、トラックの積荷を下ろすのを手伝って欲しいと。

 積まれているのは、酒。

 しかし、お偉いさん方に振舞う為に、少し降ろさなければならない。

 その為に酒を固定されたロープを、外していおいてくれないかと。

 

 スタッフとはいえ、見知らぬ人。

 当然彼女は、渋い顔をした。

 

 しかしスタッフは何故か、彼女の人間関係を知っていた。

 そこで中村を褒めちぎる。

 当然気を良くした彼女は、続いての中村との関係についても口を出してきたそうだ。

 

 簡単に言えば、応援する。こうしたらいい。貴女の気持ちに、気がつかない中村が愚かだ。

 そうだ、いい提案が有る。

 先程の作業の手伝いをしてくれたら、蝶野流・撃破率120%の必勝方を教えてあ・げ・る。

 

 そう、提案されたそうだ。

 

「そう言われたので…ロープを緩めて置いたのですけど…」

 

 あの場面で死角にいたのは彼女だけ。

 だから声をかけられたのだろうか? というかそのスタッフは、自分で緩めれば良かった話じゃ?

 

「緩めている最中、気がついたら、そのスタッフ…トラックによじ登って、樽の一番上を押し落としたんです…」

 

「…そのスタッフはどうしたのですか?」

 

「落とした直後、走って逃げて行きました…それで、私もどうしたらいいかと……」

 

 アッサリ騙されたと、そこで気がついたようで、オロオロしていた所を、いつの間にかテントから消えた愛里寿に、声をかけられ出頭したそうだ。

 まぁ…そのまま愛里寿は帰ってしまったのか、ここにはいない。

 

「よくもまぁ…。蝶野流・撃破率120%の必勝方なんて……あるわけないでしょ?」

 

「でも! 隊長も見てるでしょ!? あの「尾形 隆史」の無節操振り!! 信じたくもナリマスヨ!!」

 

「「「「「……」」」」」

 

 あ…なんか呼ばれた? あれ? すごい視線を感じる。

 なんで全員に見られているんだろう?

 流石に少し距離がある為に、会話の内容までは聞こえない。

 

 ……まぁいいや。

 

 試合見ないと。

 

 

「…取り敢えず、アリサ」

 

「ひゃい!?」

 

「……懲罰房ね」

 

「」

 

 なんか声にならない悲鳴のようなものが聞こえた気がする。

 中継用の大画面では、なんかみほが、格好いい立ち方してる。

 

 

 

「所で、サンダースの隊長さん?」

 

「な…なんですか? 島田…さん」

 

「隆史君のあの格好は何ですか?」

 

「いえ…着替えが無かったので、あり合わせで…」

 

「ふむ、ではこれはどうでしょう?」

 

「……なんで着替え一式を持っているのかしら…」

 

「ウフフフ」

 

 

 

 あれ? 結局廃村に戻ってきた。

 

 …ん。なんだろう、目がチカチカしてきた。

 画面が頻繁に切り替わり、各車輌を映している。

 

 相変わらずノンナさんの射撃は、えげつない。

 カメさんチーム、あれだけがんばっていたのなぁ……。

 単独になった途端、撃たれたなぁ…。

 

 この戦況で、みほも必死だよなぁ…。

 今回、アヒルさんチームなんて、フラッグ車だし…カチューシャ達の、しかもあの数に追われるとか…。

 しかも自身がやられたら、その時点で負けだしなぁ…結構、あの状況って怖いよなぁ。

 しっかし、いい動きするなあ…。

 

 カモさんチームも、初参加にしては……あ、やられた。

 あぁ…ノンナさんなら、冷静に撃破数、数えてそう…。

 

 あぁぁぁ。

 

「なぁ、中村」

 

「なんだよ。なんかお前、目がやばいぞ?」

 

「皆、一生懸命やってるのに、俺なにやってるんだろう…」

 

「今更か?」

 

「……視界がグルグルしてきた」

 

「酒が悪い方に入ってきたな…。俺の兄貴みたいだな…。大丈夫か?」

 

「あぁ…なんか、歴女達が穴掘ってるぅ…。俺は縛られてるのに…」

 

「……ダメか」

 

 無線から、励まし合う声が聞こえてくる…。

 俺にできる事ってなんだろうな…。

 

 ……。

 

「なぁ、中村」

 

「なんだよ…顔色悪い……ちょ!? お前!?」

 

「は…吐きそう……」

 

 

 

 

 

 ---------

 -----

 ---

 

 

 

 

 トイレで、胃の中のモノを全て吐き出した。

 中村が間一髪、腕の紐をほどいてくれたおかげだな。

 

 吐き出したモノは、殆どが酒だろう。

 思いっきり飲んじゃったからなあ…。

 

 出すもの出したら、だんだんと気分が、スッキリしてきた。

 なんだろうか。今までに無い感覚だ。

 宙に浮いている感覚というのか…、とても気分が良い。

 

 ……取り敢えずペットボトルの水で口の中を洗い落とす。

 

 テント裏の仮設トイレの中で、物思いにふけるのもどうかと思うけど、なんだろう…。

 もう一度考えてみよう…。

 皆に俺ができる事ってなんだろう…。

 

 ……。

 

 少なくとも、褒める…とも違うな、上から目線だ。

 そうだな…。

 

 「全力」で「労って」やろう。

 

 それくらいしかできない。

 

 そうだなぁ……確か昔、亜美姉ちゃんが言ってたなぁ………………。

 

 ふむ。

 

 取り敢えずテント内に戻ろう。

 こんな事やっている間に、試合終了したらそれこそ困る。

 ペットボトルの残った水を、全て使いきり、口を拭う。

 

 ドアを開け、トイレを出た瞬間…周りから歓声が響いた…。

 

 やば。

 

 軽くふらつく足取りで、席に戻る…と言っても、すぐ横だけど。

 まぁいい、席に戻ると中村が立ち上がって両腕を上げていた。

 

 アナウンスが響き渡る。

 

 

『試合終了。大洗学園の勝利!』

 

 

「……」

 

 

 

 ダイジェスト!! ダイジェストはまだか!!

 

「おぉ! 勝ったな!! 勝ったな尾形!!」

 

「見れなかった! また見れなかった!! あ、リプレイ映像!! ちょっと黙ってろ中村!!」

 

「あ。吐いたら元に戻ったか?」

 

 さてと、ふむ…なるほど…。

 まだうまく、頭が回らないが大丈夫だ。

 うん。

 取り敢えず、カバさんチームがフラッグ車を仕留めたのか…うん!

 

 雪の中で、雪を隠れ蓑に…というか、発射のタイミング…よく分かったなぁ…。

 なんか指示でもあったのだろうか?

 

 なんだろうか!! いつもより、頭が働かないのだろうけど…直感でなんとなくわかる!!

 アンツィオのノリと勢いが、俺にもついたのかな!!

 

「隆史君!!!」

 

「!?」

 

 試合が終了したからだろうか。

 直後に千代さんが襲来した。

 なんだろうか? なにか手に持ってるな。

 

「着替え。これ着てください。サイズが合わないと寒いでしょう?」

 

「ハイ」

 

 まぁ着ろというのならば着ます。

 あ、どうしようか。今着てる服。

 

「あ、いいわよタカシ。寒そうだし…着替えて。何故か…島田さん、隆史のサイズの服持ってたし…」

 

「ハイ」

 

 ケイさんが、若干興奮気味に言ってきた。

 なんだろうか?

 マァ、イイヤ。

 

「…やっぱりちょっとおかしいわね。素直すぎる…」

 

 ぼそぼそ呟いているケイさん。

 

 というか、試合終了後、愛里寿…は、どうも帰宅してしまったようでいないのだけど、先程までいた全員がテント前に集合している。

 あ。ケイさんが来たら、中村が隅っこに逃げた。

 

「勝ったのは相手が油断したからだわ」

 

「いえ、実力が有ります」

 

「実力?」

 

 目の前に来て、そんな事を言い出した西住母娘。

 なんで態々ここまで来て?

 

 エリリンは、まほちゃんの横で赤くなっているなぁ…ブツブツ呟いていたりする。

 

 …というか、先程からまほちゃんとエリリンは、俺と目が合うとどうにも赤くなる…なんでだろう?

 あ、エリリンと目が合った。

 

「ひぃ!!」

 

 ひい?

 

「尾形ぁ!! 服着ろ!!」

 

「んぁ?」

 

「なんでまた裸になっている!?」

 

「や、千代さんがサイズが合った服を貸してくれたから…着替えてるヨ?」

 

 渡されたから、その場ですぐに着替え出してみたけど…うん、ちょっと寒い。

 

「取り敢えず、エリリン。また昔みたいに「お兄ちゃん」でもいいよ?」

 

「」

 

 なんだろうか? 先程から始終、俺と顔を合わせると赤くなったり青くなったりするね?

 思春期かな?

 

「…あぁ、しほさーん」

 

「なんですか? たか…なんで、拘束が解けているんですか? というか、何で裸なんですか!?」

 

「プラウダ…特に、カチューシャは、相手を舐めてかかる傾向が強いから、油断していたってのも分かりますよ」

 

「…隆史?」

 

「……あの…隆史君。取り敢えずその話はいいです。まず何故、堂々とこの場で、着替えているんですか!?」

 

「それでも油断していたのならば、そこに付け入る事も戦略といえば、戦略です」

 

「隆史君…話を聞きな……あぁそうでした。まだ泥酔状態でしたね…」

 

「あれが西住流と違うと言うのならば、違うのかも知れませんけど、臨機応変に即対応できるのは、みほの力だと思いますよ? まぁ、もうちょっと見ててやってくださいヨ」

 

 

 「「「……」」」

 

 

 着替えながら、一応みほのフォローを入れておく。

 親子仲はともかく、戦車道に関するとまたこ拗れそうだったからね。

 そんな言葉に呆然とする西住流2人。と、エリリン。

 

「なんすか?」

 

「…いえ、思えば初めてかと思いまして…。隆史君が、そういった戦車道の事で、私達に口を出すのを…というか、会話をしてください…」フクヲキロ

 

 ん?

 

「あつかましいと思っていましたからねぇ…でもまぁ、何となく分かりますよ。なんだかんだ、ずっと見てきましたから。まほとみほ。二人共ね」

 

「!?」

 

 まほちゃんが、更に赤くなった? あれ? 変な事言ったっけ?

 

 まぁいいや。

 

 借りた服に袖を通しながらも、会話を続けた。

 思いの外、普通に喋れる。

 酒抜けたかな? そうだよなぁ…結構スッキリしてきた!!

 

 よし、着替えが終わった。

 なんだろう…皆俺を見ている…というか何で顔真っ赤にしてるの?

 ダージリンの目の輝きがすっごいけど?

 

「……まぁいいです。それとは別に、公衆の面前で良く着替えれましたね…」

 

「そっすか? 男は特に体育会系の部活とかやってると、結構気にしませんよ? …まぁなんだろう…この服? とは思いますけど」

 

 燕尾服…というか、手袋まであるし…。

 なにも考えないで着てしまったけど…。

 

「執事服?」

 

「そうです。島田家の執事の服…よう…いえ、丁度持ち合わせていまして」

 

 千代さんが乱入…。

 相変わず俺の身体のサイズピッタリっすね。

 

 本当になんだ? 離れていたハズの、各隊長達が集まって来た。

 

【 ……… 】

 

「…なんでしょうか?」

 

「執事というか、体格的にボディガードにしか見えませわね…」

 

 ダージリン? 何か顔がにやけているけど?

 

「……本当に無駄に似合いますね。私の目に狂いはありませんでした」

 

 千代さん?

 フーと息を吐き、右手を頬に当てて何か…熱っぽい目で見てきた…。

 なんだろう…風邪ひいたかな? 寒気が…。

 

「…隆史君、そのまま家に就職しません!? お給金は弾みますよ!!」

 

「……おい、千代」

 

 何かトリップしだした千代さんの顔を、真横から睨みつけているしほさん。

 

 うん。微笑ましい。

 

 ……。

 

「隆史…お前、もう大丈夫なのか?…明日まであの状態だと思っていたのだが」

 

 一定の距離を取りつつ、警戒した顔を崩さないまほちゃん。

 というか、各学校の隊長達もここまで集まったくせに、一定の距離を取って警戒している。

 …酔った状態の俺って、そんなに酷いのか?。

 

 信用ないなぁ…。

 

 視線を感じた方向に振り向いてみると、ダージリン達も一定の距離を開けている。

 なら、何で集まってきたんだよ…。

 軽く傷つくぞ?

 

「まほさん、試して見たらいかがです?」

 

「ダージリン!?」

 

 あ。見た見た。この顔というか、ダー様のその目は過去に見たねぇ。

 オペ子に変装(笑)していた時の目だ。

 

 まぁ普通にもう対応できると思うけど…。

 というか試合が終わったので、試合終了の挨拶に行かないといけないのだけど…。

 

 あ。ダメだ。

 

 また、運営本部で雪上車をレンタルしても、飲酒運転になってしまう。

 …よし、その状況判断が、分かる位だから大丈夫だ。

 うん。泥酔状態は回復してるだろう。

 

 さて、後は片付けして、みほ達を待つだけだな。

 

 後は…なんだろう。

 

「…ねぇ、隆史さん」

 

 悪い顔した、ダージリンに呼ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合終了。大洗学園の勝利!』

 

 

 負けた?

 

 私達が?

 

 乾いた音と共に、我が校のフラッグ車から立ち上がる旗。

 

 頭が真っ白になった。

 ただ呆然と見つめる眼前の光景。

 なにも見えない。

 真っ暗な夜の雪原。

 

 大洗学園の勝利宣言のアナウンスのみが聞こえた。

 

「……」

 

 歪んで見えるその光景。

 

 負けた…。

 

 よりにもよって「西住 みほ」に…。

 

「……ウゥ」

 

 認めよう。

 悔しいが、認めよう。

 

 戦車も…戦力も、こちらが圧倒的に上だった。

 作戦…相手の戦略に負けた…。

 でも本当にそれだけ?

 

「……」

 

「ノンナ?」

 

 目を擦る。

 

 泣かない。

 

 少なくとも同士達の前では、悔し涙なんて見せない。

 見せちゃいけない。

 腕で乱暴に目を拭くと、その先のノンナの姿が、ハッキリと見えた。

 

 戦車のハッチから、上半身を出したて前屈みになり、両腕を戦車に叩きつけ……た、後なのだろうか。

 …下を向いている。

 ノンナが、こんなにも感情的になるなんて。

 

「あそこで当てていれば…………!」

 

 そんな呟きが聞こえる。

 

 最後、大洗学園のフラッグ車への砲撃は…相手を仕留めきれなかった。

 …まぁ、あそこが勝敗の分かれ道…だったわね。

 

 前髪が目の前にかかり、目は見えない。

 ただ、歯を見せて食縛る口元は見えた…。

 

 …。

 

「ノンナ!!!」

 

「!?」

 

 叫ぶ。

 

 私の呼びかけで、ようやく我に帰ったのか…こちらを見る。

 …まったく。

 ホント。

 タカーシャに関わると、よく泣くわね。

 

「…すいませんカチューシャ。……最後、少し感情的になりました」

 

「最後の砲撃?」

 

「…」

 

 答えない。

 

「まっ! いいわ!! 思ったより「西住 みほ」は、面白い相手だったし…最後の挨拶に出向くわよ!」

 

「…」

 

「……答えなさいよ」

 

「…はい」

 

 まったく!

 

「タカーシャに、そんな情けない、しょぼっくれた顔を見せるつもり!? シャキッとなさい!!」

 

 ゆっくりと、戦車から身体を出し、雪の上に降りる。

 軽く雪が擦れる音がした。

 

 …タカーシャ。責任取りなさいよね。

 ノンナがこんなに変わったの、タカーシャのせいなんだから。

 …この変化が良いのか悪いのか…分からないけど。

 

「……わかりました。行きましょう」

 

 ノンナの目が、少し生き返った。

 まぁいるでしょう。

 いつも試合後の挨拶の時には、顔を出していたって聞いていたし。

 だからだろうか? ノンナの顔に、いつもの雰囲気が少し戻った。

 

 

 

 --------

 -----

 ---

 

 

 

 

「せっかく包囲の一部を薄くして、そこに引きつけてぶっ叩くつもりだったのに」

 

 ノンナもすでにいつもの雰囲気に戻った。

 先程までのノンナは、もういない。

 正直…あんなノンナは初めて見た。

 

「まさか包囲網の正面を、突破できるなんて思わなかったわ」

 

 そのノンナに肩車されて、「西住 みほ」の前に立つ。

 

 今度は、小細工無しで真正面から。

 

 足の下のノンナ表情が見れない。

 まぁもう大丈夫でしょう。

 喋りながらだけど、突然現れた私達に視線が集中する。

 

「私もです」

 

「え?」

 

「あそこで、一気に攻撃されていたら…負けてたかも」

 

 …何、この子。

 

「…それはどうかしら」

 

「え?」

 

「もしかしたら…」

 

 今回の状況下でも、引っくり返したんだから…。

 また別の手で、何とかしてしまう気がしてならない。

 なるほど。

 この子もタカーシャと同じ。自分を過小評価しすぎるタイプね。

 

「……」

 

 西住流…。

 

 多分、この子は少し違うわね。

 

 少なくとも姉の…「西住 まほ」は、こんな戦略は取らないだろう。

 もっと実直に…。

 

 ハッ!

 

 不思議そうな彼女の目と、私の目が合う。

 

「………と、とにかく貴女達なかなかなもんよ」

 

 …まっすぐ不思議そな目で見ないでよ。

 

「いっ! 言っとくけど悔しくなんて無いから! ノンナ!」

 

 肩車から降ろしてもらい、彼女の真正面に立つ。

 そのまま右手を差し出した。

 

「あ…」

 

 タカーシャの事は、それはそれ。

 戦車道とは関係がないもの。

 

 …評価に値する人間は、素直に評価する。

 

 ………まぁ受け売りだけど。

 

「西住 みほ」は、軽く握手を交わすと、嬉しそうに微笑む。

 

 …変な子ね。

 

「決勝戦、見に行くわ。カチューシャをがっかりさせないでよ!」

 

「はい!」

 

 ふん。

 

 思うところは多々有るけど…、もういいわ。

 

 …………さてと。

 

「カチューシャ。隆史さんがいませんね」

 

「え!?」

 

 見回して見ても、タカーシャはいない。

 あの熊みたいな体格を、そうそう見逃す訳ないのに?

 

「…「西住 みほ」さん。隆史さんをどこに隠しました?」

 

「か…隠してません! 隠してませんよ!!」

 

「確かに、試合には貴女達が勝ちました。だからと言って、彼を隠して私達に会わせ無いというのは…ドウカトオモイマスケド?」

 

 ノンナ!?

 

「ぶ…ぶりざーどぉぉ」

 

 眼光…というものを、初めて見たかも…。

 天パの娘が、呟いたように…確かに……ちょっと……。

 

「本当に知らないんです! いつもだったら、来ていてくれてもいい時間なのに…本部で何かあったのかな?」

 

「……」

 

「疑いの目で見ないで下さい! 隆史君の性格なら、貴女達に会いに来ないはず無いでしょ?……口惜しいですけど」

 

「…ノンナ?」

 

「……ま、そうですね。では、帰りましょうか? カチューシャ」

 

「う…うん」

 

 この状態のノンナが、すごくアッサリと引いた。

 なんだろう…。目がギラギラしてる…。

 脇に手を入れられ、またノンナの肩に戻っていく。

 

「で…では、私達もこれで」

 

 遠慮気味な挨拶をして、大洗学園とも別れる。

 本当だったら、言うだけ言って帰ろうと思ったのに、ちょっと格好つかないじゃない!

 

 後で、タカーシャには電話でもしよう。

 もう遠慮しなくてもいいわよね。

 

 

 ……うん。

 

 

「……」

 

 雪を踏む音がする。

 

「……」

 

 雪を踏む音がする。

 

「……」

 

 雪を…

 

「…あ、あの!!」

 

「なんでしょう?」

 

「なんで、ついて来るんですか!?」

 

「私達の行く先も、そちらですから」

 

「……」

 

「……」

 

 あ…あれ?

 

「…運営本部ですか?」

 

「はい。そうですね。プラウダのテントも設置されていますし」

 

「…」

 

「…」

 

 雪原で別れ、そのまま車で大洗学園について行く形になった。

 …車を運転していたのは、ノンナだし…。

 終始無言のノンナが怖かった…。

 

 ほぼ同時に到着し、後は「西住 みほ」達と、ほぼ同列に歩いていた。

 

 …。

 

「…目的は、隆史君ですよね?」

 

「隆史さんですね」

 

「…」

 

「…」

 

 早歩きになりながらも、喋りながら歩く。

 いや、違う。途中から一切言葉を発しなくなった。

 

 というか、怖い!!

 

「ノンナ!! 肩車しながら、小走りしないで!!」

 

 物理的に怖い!!

 

 

「ハァハァ…」

 

「フー、フー…」

 

 もう少しで到着でもするのだろうか?

 何かテント入口前に、荷物をいっぱい積んだトラックが、横着けしている。

 その後ろに…なにあれ? サンダースの車?

 

 完全に通路からは、テント前が隠されている状態で塞がれていた。

 すでに試合が終わっているので、通行人はそんなにいない……というか、避けて通っている感じがする。

 隙間から何となく、中の様子が伺えるけど…。

 

 …というか…なに?

 

「…なに? なんの騒ぎなの!?」

 

「みぽりん…さっき無線で、聞いていたから知ってると思うけど……やっぱりかなりの人数いない?」

 

「……そうですね。あ、やっぱりお姉ちゃんもい…る………お母さん!?」

 

「どうなっているのでしょう?」

 

 西住流の家元!? え…島田流家元もいる!? 何がどうなってるの!?

 

「カチューシャ」

 

「…なに? ノンナ」

 

「聖グロリアーナ、アンツィオ、サンダース、黒森峰…なんでしょうか? この状況」

 

 その場でいるであろう人物を、淡々を教えてくれた。

 …すっごい嫌な予感がする。

 

「…いた」

 

「……隆史殿…なんですか? あの格好」

 

 …なんだっていうのよ。

 

 ……ダージリン達…いるわね。

 なんで皆、しゃがみこんでるの?

 

 その中心に、執事服を着たタカーシャが、立っていた。

 

 背をこちらに向けて立っている。

 

 顔は…見えない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本気で「労う」。

 俺ができるのは、そんな程度だろう。

 

 ちゃんと覚えている。

 皆の活躍は。

 後は、いつも通りにやるだけかな?

 

 ダージリンからは、どうせその様な格好をしているのだから、執事っぽくしてみてくれと言われた。

 執事っぽくって何だ?

 ホテルのボーイとかと一緒かな?

 

 携帯を取り出して、一応調べて見る。

 …ふむ。

 

 調べている最中、ダージリンがすっごい目を輝かせていたのが気になる。

 なんだ?

 

「まほさん、こうなったら毒を食らわば皿まで…、トコトンやってみませんこと?」

 

「……お前、それで一度酷い目にあったのでは無いのか?」

 

 そんな会話の中、最初に現れたのが、アヒルさんチームだった。

 どうも近藤さんが先導して来てくれたようだ。

 最後の挨拶の時に顔を出さなかった為に、心配してくれたそうだ。

 

「……先輩、なんですか? その格好は…」

 

「あぁ…服が酷く、汚れてしまいましてね? 千代さ…島田さんから、お借りしました」

 

「なんで敬語なんです?」

 

 近藤さんが、相変わらず人懐っこい笑顔で話しかけてきてくれた。

 

「…執事といえば、敬語…って書いてあったものですから」

 

「なんですか、それは」

 

 冗談だと思ったようで、笑いながら近づいてくる。

 うん。相変わらずの戦闘力ですね。

 

「い…いかん!! みほの学校の生徒だ! ダージリン、無関係な者が巻き込まれるぞ!」

 

「あ! いつの間に!!」

 

 …俺は一体何者なんだよ。

 

「ダメだよ、妙子! また不用意に近づくと何されるかわからないよ!!」

 

「忍ちゃん!?」

 

 俺と近藤さんの間に、割って入ってきた河西さん。

 この前の誘拐事件から、俺を見る目が柔らかくなった気がする。

 けど、言い方が相変わず、きっついなぁ…でもまぁ。

 

 

 ネギラオウ

 

 

「河西さん」

 

「なんでしょうか? センパ…イ!!??」

 

 近藤さんの前に立ったので、俺から一番近かった為にすぐに鹵獲できた。

 あぁ違う。捕獲? んー…まぁいいや。

 

 その、細い腰に左腕をまわして、抱き寄せる。

 ぐっと引き寄せ、体と密着させた。

 

 「「「「  」」」」」

 

「な…なんのつもりっぃ!?」

 

「河西さん。今回の試合。ある意味MVPは河西さんかと思っています」

 

「な、ぁえ!?」

 

 俺の口から出た言葉が以外だったのか、少し驚いていた。

 この娘は、実はアヒルさんチームの中で、特に男に耐性がなさそうだったからなぁ。

 まぁ少し我慢してもらおう。

 

「どうにも、俺は人を褒める…のは苦手なようでして、上手く言えませんが…」

 

「いぃぃぃいいから離して!! まず離して!!」

 

 顔を赤くして、ジタバタ暴れだしたので、空いた右て彼女の左手首を掴み、上に上げた。

 その為、顔の横辺りにスペース…というか空間ができたので、顔を差し込む。

 

 うーん。褒められるのを恥ずかしいと思う人もいるし…何より褒める言葉を人に聞かれるのも、俺が少し恥ずかしい。

 そうだな、せめて周りに聞こえないように耳元で、話してやろう。うん。

 

「― ― ― --」

 

「み!? ミミ元で!!??」

 

 「「「「  」」」」」

 

「― ― ---」

 

「え…そ…それは……まぁ……」

 

「― ― ---」

 

「ぅぅ!?  ぅぅぅううウウウャ!!!!」

 

 言うだけ言って、顔をどけたら、そのまま腕も離して上げた。

 離した瞬間、そのまま地面にペタンと座り込んでしまった。

 あれ? 顔を隠してる?

 まぁいいや。

 

「!!!」

 

 地面では、汚れてしまうので、今度はそのままいつもの様に抱き上げ、テント内の椅子に座らせて上げた。

 座らせたら、座らせたでまた、顔を覆って俯いてしまた。あれ? 小刻みに震えてる?

 

 …まぁいいか。

 

「よし、一人目! 次!」

 

「待て! 隆史!! お前何をしている!!」

 

 まほちゃんに肩を掴まれた。

 何って…。

 

「労ってるんだけど? 彼女、フラッグ車の操縦士だからね。今回最後、かなり怖かっただろうと思って」

 

「ただ労うだけなら、何故ああなる!?」

 

「いや…亜美姉ちゃんが…」

 

「亜美さん!?」

 

「人を褒めたりしてやる時って、俺の場合、口説くレベルで言わないと分からないって言われてね」

 

「」

 

「あぁ大丈夫、触れて無いから耳とか。うん、セクハラにならない程度でやってみた」

 

「……腰を抱いた時点で、セクハラだ」

 

「あれ?」

 

 えー…あぁそうか。そうなのか。

 

「んならどうしようかなぁ? あの格好が、基本だって教えられたんだけど…」

 

「……ダメだ! ダージリン! 拘束しよう!!」

 

 俺の話を無視して、まほちゃんがまた酷いことを言い出した。

 

 それと後、執事っぽくって言われてもなぁ…敬語くらいしか思いつかない。

 調べても、ネットには良い事書いてなかったしなぁ

 

 後、なんだろう? 呼び方くらいかな?

 

 ふむ。

 

 何かまほちゃん達は、揉めているけど…まぁいいや。

 

 次。

 

「近藤さん」

 

「ひゃい!?」

 

 若干距離を取られた…。

 

「ど…どうしたんですか? いつもの尾形先輩じゃないみたい…」

 

「ふむ。中々に酷い事を言いますね」

 

「あ…いえ、ごめんなさい」

 

 あ。本気で謝られた。

 

「河西さんみたいにされるのは、やっぱりダメですかねぇ…」

 

 セクハラかなぁ?

 

「あ…いえ。先輩なら…別に嫌じゃ……」

 

 赤くなりながらモジモジしてるなぁ。

 目がすっごい泳いでるけど…まぁ。

 

「そうですか? なら、今度は近藤さんですね?」

 

 ナンダ。セクハラにならない様だね。

 

 

 

 順番に 全員 「本気」で「労おう」か ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隆史君!! 何やってるの!!」

 

「はい? あぁ、みほか。お疲れさん」

 

「お疲れ…じゃないよぉ! 何この…何!!??」

 

「何って…なにが?」

 

「この状況だよ! お母さんまで…なにしたの!?」

 

「何って…、俺ができる事って労う事しかできなかったから?」

 

「何をどう労ったら、こんな惨状になるの!!」

 

「え? いや、結構本気で「労う」って事をしてみただけだよ? 他校もついでに」

 

 …書記と西住さんの会話が若干噛み合っていない。

 

 今、大洗学園テント前は、夜戦病院になっている。

 どういう事だ?

 

 熱でもあるのか? ほぼ全員が、椅子なり地面なりに座り込んでしまっている。

 まぁ腰が抜けている…様な感じになっている。

 

 ダージリンさん…とオレンジペコさん……だったか。

 なんで髪を解かれているんだ?

 

 サンダースは…すごい顔真っ赤だな。

 顔の前で、手を合わせてなんか嘆いている…。

 

 アンツィオは…隊長がなんだ? これまた髪を解かれてるな。

 いつものツインテールはどうした? そして何故体育座りだ。

 

 ………………怖い人は満面の笑みでニコニコしてるけど…。カタカタカタ…

 

 あれ? 西住さんのお母さんも同じ状態だ。

 島田さん…もいるな。

 赤くなって俯いて、笑いながらブツブツ言ってるな。

 

 うん、怖い。

 

 

「西住ちゃー…ん。何この状況」

 

「尾形書記? なんだその格好は」

 

「………………」

 

 生徒会も遅れて到着した。

 現状の惨状を見て、混乱しているのだろう。

 ただ、小山先輩だけ、少し青くなって書記の目をまっすぐ見ている。

 

「み…みほ」

 

「お姉ちゃん!? どうしたの!?」

 

 ヨロヨロと、こちらに近づいてくる…西住さんのお姉さんだったか。

 戦車道喫茶で見たな。

 酷く顔色が悪…くはないな。ただ赤い。

 

「…隆史に、「まほお嬢様」と呼ばれてしまった…」

 

「……え、なにそれズルイ」

 

 西住さん!?

 

「その状態で…抱き上げられて……耳元で、あの言葉は卑怯だ……」

 

「なに!? 一体何言われたの!?」

 

 そこか?

 

「お母様は、その状態で「奥様」と言われてあの様子だ」

 

「……」

 

 西住さんのお母さんは…。

 

「イケマセン…コレハ、ホンキデイケマセン……マズイマズイマズイ」

 

 つぶやきは聞こえた。見ないようにしよう。

 

 あの西住さんに、嫌味しか言わなかった…逸見とか言った女もいるな。

 

 なんだ……? 四つん這いになってるな。

 

「……」

 

 なんかもう……うん。許してやろう。ごめんな? なんか辛いことがあったんだよな?

 顔を赤くしての絶望した顔ってのは、初めて見たよ。

 

「…なんで……こんな……ハッ! まさか!!」

 

「そうだ、隆史は……酔ってる」

 

「」

 

 ……は?

 

 なんだ? どういう事だ? 酔ってる?

 

「そこに樽が転がってるだろ? あの「日本酒」を全て飲んでる」

 

「」

 

「「夏祭り」の時の…あの第二段階を超えた、次の段階だアレは…。もう、なんか隆史が怖かった…みほ…逃げろ」

 

「」

 

 西住さんは、お姉さんの肩を抱き、ボソッと信じられないと言うような声で呟いた。

 

 

「ぜ…全滅……プラウダ側のテントの娘まで……」

 

 

 書記に近づこうと動き出していた、生徒会とプラウダ高校の隊長達の動きが止まった。

 というか、固まった。

 

 いや、ちょっと待て。

 

「私達が試合している最中、こいつは酒を飲んでたって事か!?」

 

 非難する声で、書記に指を指した瞬間。

 

 私の声を遮る様に、西住さんが叫んだ。

 

「残存する、あんこうチーム! カメさんチーム! 一箇所に集まってください!! カチューシャさんも、ノンナさんもこちらに集まって下さい!!」

 

「…え?」

 

「ノンナ!!」

 

「はい!」

 

「小山!! 怯えてる、かーしま引張るよ!!」

 

「はぁい!!」

 

「」カタカタカタ

 

 なんだ!? え?

 そこからの動きが、生徒会とプラウダ高校は、とにかく素早かった。

 

「いいですか!! 私達は、これからすぐに撤退します! 隆史君と目が合ってしまった場合、なにも喋らず、目を逸らさないで、そのまま後退してください! 捕まったら終わります!!」

 

 熊か?

 

「どんな経緯で、隆史君が飲酒をしてしまったか。そんな事は後でも分かることです! 今は取り敢えずここを、離れる事を最優先にします!!」

 

 ……なんでそんなに慌てているのだろう…。

 酒癖悪いとかか?

 

「……」

 

 五十鈴さんが、先程から…なんだ? 笑っている?

 いや…微笑んでいるとでもいうのか…。

 ちょっと…かなり…怖い。

 

「みほさん」

 

「なんですか!? 華さん!?」

 

「隆史さんが、酔っているから…なんだと言うのでしょう?」

 

「見境が無くなります!! 蝶野さんの教えを何も疑問も無く!!」

 

「……よくわかりませんね。私は隆史さんに言い寄られても、特になにも感じないと思いますけど?」

 

「ひ…人によるんです!!」

 

「要は…どういう事でしょう?」

 

 早口で、「酔った状態の書記」を説明している西住さん。

 まぁなんだ。ある程度、書記に気があるとああなるってだけだろ?

 

 ……あぁそうか。

 

 ここには、書記からすれば、餌食になる奴らしかいないのか。

 

 とにかく早く! を繰り返すしている。

 …まぁ命令だからと、私は従ったのだけど。

 

 あの男が、口説く…とうかなんだろう…想像がつかない。

 タラシ、タラシと言われてはいるけど…アイツ基本的にそっち方面は、ヘタレだろう?

 

「あぁ!! 近づいちゃダメです!! 沙織さん!!」

 

 トコトコと近づく沙織。

 正直…私でも、今の書記に近づきたくないのだけど…よく普通に行けるな。

 

「大丈夫だよ、みぽりん! いつもの隆史君と変わらないよ?」

 

 ポンポンと、書記の肩を叩く。

 

「それにちょっと口説く隆史君ってのも、見てみたいかも! 私…そういった経験無いし…ね!!」

 

 沙織。

 

 ……うん沙織……どんまい。

 

「…承りました」

 

「ほら! 普通に喋って……あれ?」

 

 こちらを向いた沙織は…すでに書記に抱き上げられていた。

 …。

 その…両腕で…。

 は?

 

「沙織さん」

 

「ふぇ!? へ!?」

 

 そのまま片腕で、抱き合が得る様に沙織を持ち変えると、そのまま余った手で、沙織の…メガネを外した。

 ……よく人一人、片腕で抱き上げてるな…。

 一連の動作に迷いがない…なんだ。

 

 ……イラッ

 

「沙織さんは、何故かメガネ姿を気にしていたようですが…」

 

「ひゃい!?」

 

 ……おい、書記。

 

 なぜ顔を近づける。

 

 そしてなぜ、こうもイラつく。

 

「どちらも、沙織さんは素敵ですよ? 時々でも結構です…その方が……」

 

「」

 

 ギリギリギリギリ

 

 耳元で、囁く様に何かを…

 

「ったたた!? 楽しめ…って!? え!?? せ………えぇ!?」

 

 ……。

 

 あれ? 沙織ってそうなのか? え?

 

 いやいやいや…まて……え? 

 

 嘘だろ?

 

 明らかに動揺したように、パタパタ足を動かしだした。

 しかしガッチリホールドされている為、身動きが取れない様だ。

 

 あれか? 敢えて周りに聞かせないようにして、見せつける様にしてるのか?

 沙織に一体、何をしてくれてる…。

 

 そもそも、生徒会役員達は何をしているのだ?

 こういったバカを止める…の…。

 

 なんだ? 3人集まって…震えている!?

 

「あぁ後、最後に…」

 

「ぺぉデ!? キ…こぉ!? ンン!!!」

 

 ……。

 あ。ぐったりした。

 完全に脱力したようになってしまった。

 

 ……違う。沙織。

 しっかり書記の腕に手を回しているな。

 

 ギリギリギリギリギリギリギリギリ

 

「……しまった。やりすぎた」

 

 

 …よし。殺そう。

 

 

 ギリギリ…ブチッ!

 

 

 …さっきから、一体なんの音…だ……。

 

「………………隆史さん?」

 

 そこに立っていたのは、五十鈴さんだった。

 先程から、雰囲気がいつもと違うとは思ったのだけど…。

 ドス黒いオーラというか…何というか…。

 

「隆史さん、ちょっとお話が有ります」

 

「え…あ、はい」

 

「できれば、二人きりでお話したのですけど…よろしいですか? みほさん」

 

「ふたっ!? こんな状態の隆史君と『大丈夫ですよ? 彼に異性として興味ありませんので』」

 

 ……。

 

 結構酷いこと言ってる気がする。

 というか…五十鈴さん……マジギレしてないか?

 

 目が笑っていない。

 

「…少し、彼を借りますね? いい加減、沙織さんを降ろしてください」

 

「はい」

 

 言われた通りに、沙織をその場に降ろすと、すぐにこちらに走って来た。

 

「マコー! 麻子ー!! まぁぁこぉぉ!!」

 

 私に抱きついて来た。

 抱きつくのはいいのだけど、飛び込んでくるな。

 

「よしよし、怖かったな」

 

「………なんか嬉しかった」

 

「……」

 

「では、少し隆史さんをお借りします。みほさんは、この…惨状をどうにか収められますか?」

 

「え? う…うん。知り合いも多いし…なんとかするけど……。本当に大丈夫?」

 

 五十鈴さんの気迫は…それはもうすごかった。

 あれだけ警戒していた、西住さんを納得させる程の気迫が合った。

 

「な…なんか、華さん、私のお母さんみたいな…雰囲気…」

 

「大丈夫ですよ? それに、何かされそうになったら、ちょん切っちゃいますから♪」

 

「何を!?」

 

 不吉な言葉を吐き終えて、五十鈴さんは、書記の襟首掴んで客席の方へ進んで行く。

 まぁすでに試合も終えて、すでに人気は無い。

 

 なにを話す事があるのだろうか…。

 

 素直に従い、五十鈴さんの後ろを歩いて行く書記が気持ち悪かった…。

 なんだろう…執事姿の書記と、五十鈴さんの歩く姿に…違和感を感じなかった…。

 似合いすぎだろ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体どういうおつもりですか」

 

「エー…」

 

 人もいなくなった客席前。

 

 本当は、学園艦に帰った後でもよろしかったのですけど…。

 もう…我慢の限界です。

 

「隆史さんのせいで、私の胃痛が限界を超えましたの」

 

「胃痛かぁ…。お気持ち分かりますよぉ。辛いですよねぇ、俺もそろそろ胃に穴空くだろうなぁって、実感ありますよ?」

 

「胃痛の自慢なんかしたくありませんし、してません」

 

「ならなんですか? お話って」

 

 きょとーんとした顔が…非常に憎らしく感じますねぇぇ。

 あぁぁ腹立たしい!!

 

 普段こんな事、私思った事ありませんのに!

 誰のせいで…。

 

「ま…まず何ですか? あの女性の数。…みほさんとお付き合いされてるのでしょう?」

 

「え。皆どう思ってるか知りませんけど、少なくとも数少ない友人だと思っていますよ?」

 

「……そういう事を、言ってるのではありません」

 

 友人の枠なんてとっくに超えていますよ。…あまり聡くない私でも、流石にわかりますよ。

 

 やはりアルコールが入っているのでしょう。

 若干会話にズレがありますね。

 

 しかし私、雪がの降る中…こんな人気の無いところで一体何をしているのでしょうか。

 

「…本題です。誰…とは言いませんけど。……どうするおつもりですか?」

 

「どうするって…何が? 誰?」

 

「今のこの状況です。3角関係所か、何角関係になってるんですか? すごい関係が出来上がってるじゃないですか!?」

 

「?」

 

「…中途半端に思わせぶりな態度を取っていると、相手が余計に傷ついてしまいますよ?」

 

「あぁー…」

 

「みほさんとお付き合いを始められたのでしたら、他の方々と縁を切れとは申しませんけど……こう、もう少し……」

 

「……でもそれって、俺が悪いんですか?」

 

「え?」

 

 …あれ? 隆史さんが言い返してきました。

 

「別に俺、普通に接してきただけですし、それを後から言われても、困りますよ」

 

「…う」

 

「俺今回、結構ハッキリ宣言…というか、無線のスイッチ入っていたから、聞いていましたよね? みほとの事もちゃんと言ってますよね?」

 

「そ…それは……」

 

「今まではどうだったかは、流石にわかりませんけど、今回結構ちゃんとしたつもりですよ? それで怒られましても…どうしたらいいか分からないですよ」

 

「……確かにハッキリと言ってましたけど…。で…では、先程のテント前の…『それとこれとは、話が別でしょ?』」

 

 ……。

 

 痛い。胃が痛い…。

 

 マズイ。何ででしょう。

 淡々と返してくる隆史さん。

 

 この隆史さんに何故か、まったく勝てる気がしなくなってきました…。

 なんでしょうか? 隆史さんの言い方が、いつもと違い、遠慮がまったくありません…。

 あと目が……ドス黒いんですもの…。

 

「そりゃ、華さんも同じですよ? 目の色」

 

「……」

 

 隆史さんが、うつってきました!?

 私も思った事、声に出てましたか!?

 

 

『あ…、あれお嬢じゃ? 奥様!!』

『…新三郎、あまり大きな声を出さないで』

 

 

「と…とにかくですね。何角関係という状態がですね…」

「出来上がってるの前提ですか…?」

 

 

『お…奥様! お嬢が男と二人で!?』

『は…華!? ま…まぁお待ちなさい、新三郎。この場にいるくらいです。戦車での関係か何かで…』

 

 

 何か後ろで聴き慣れた声がしますが、ここで押し切られては……!!

 沙織さんにも申し訳がありませんし、みほさんにも。

 あと胃。私の胃。もう持ちませんわ。

 

 ふぅ…は…華を生ける様に集中して…。

 平常心。

 

 

『なにか…深刻な話をされているようですけど…お嬢!!』

『いくら戦車の事とはいえ、軽々しく殿方と二人きりになんて…』

 

 

 一呼吸し、精神を落ち着ける。

 そうです。

 隆史さんには、この状況をなんとかしてもらわなければいけません。

 

 よし。

 

「いいですか? 隆史さん」

 

「はい」

 

 

 

 

「「できてしまった事」は、仕方ありません。……ちゃんと「責任」…取ってください」

 

 

 

 

 …後ろでなにか、ドサッっと二つ音がした。

 

 




はい。閲覧ありがとうございました。

今回文字数、過去最多。
はい。本当はもっと口説く描写が細かいはずでしたけど…。

はい。……はい! 最後、華さんが全部持ってきました!

次回でプラウダ編終わりです。…多分

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。