転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第41話~動き出す化物~

 人が、かなり少ない海岸を選んだはず…。

 現にこの場に来るまで、人を見ていない。

 

 誰もいない…港ですらない。ただの海岸に船を止めてあった…。

 

 俺の置かれている立場を考えれば、何となく想像がつく。

 

 すでに船内を物色し、調べ終わった後なのだろう。

 

 それなりに大きなタイプのモーターボート。

 用は済んだとばかりに、海上の上、逆さまになって浮かんでいる。

 そんな簡単に転覆なんて、できるはずも無いモノ…。

 

 徹底して俺を逃がさないつもりなのだろうな…。

 

 …つまり…バレている。

 

 

「見つけた」

 

 

 一言。

 

 目が合った瞬間、その様な事を呟いていた。

 

 なんだあの少女は。

 

 なんだ…あの……。

 

 小学生の高学年…いや。

 中学生くらいか?

 

 俺の前、数メートル先に立ち塞がっている子供。

 

 普段ならそう思う。

 普段なら無視をする。

 普段なら気にも止めない。

 

 そんな普通の子供。

 

 だが、この存在感…。

 

「一般客に混じっての逃亡」

 

 …。

 

「戦車道大会のスタッフの服を、強奪しての変装」

 

 淡々とした口調。

 人形か何かと思わせる程の、感情の無い喋り方…。

 

 薄気味が悪い。

 

 不審に思っている俺を見て、答える。

 

「知っていた? 各スタッフの服には、GPSが組み込まれているの。戦車道のフィールドはかなり広いから、取り残されない様に…防犯の為に…」

 

 ……。

 

「使用禁止の簡易トイレの中から、服を強奪されたであろう、半裸の被害者スタッフを発見」

 

 ……あいつらは、バカか? そんな所に隠したのか?

 

「誰の制服か判別ができたから、GPSの探知で、すぐに犯人の場所を特定できた」

 

 あいつらと連絡が取れないと思っていたが…。

 

「頭の薄い男の人と、太った女の人の実行犯。…そのスタッフに化けていた二人は、すでに確保済」

 

「……」

 

「本部テント前に、幸か不幸か…各強豪高校の隊長達が集合していた。目立つ上に、さらに西住流家元、島田流家元まで現れ、その場にいてしまうという状況」

 

「さらには…「尾形 隆史」の規格外の体格を見誤ったのだろう。成人男性でも苦労しそうだし…たとえ女性だとしても、大人が二人いれば高校生くらい、どうにかできると思ったの?」

 

 …………あのバカ共素直に、喋ったのか?

 

「本来の暴力的な計画を中止。事故に見せかけての短絡的犯行に変更」

 

 …。

 

「サンダース副隊長の、アリサ選手を発見し利用。…あの人は少し可哀想…。サンダースと「尾形 隆史」とのやり取りで、有名になってしまった為だろうか…」

 

 確かに今回は、「タカシ」の立てた計画で、俺の発案じゃない。

 お粗末な計画だとは思ったが、前回の様に何かしら思惑があってかの事だと思い、今回も従った。

 

「…大体、私が思ったより酷い。杜撰すぎる計画。……お母様に、大洗での誘拐事件の犯人像を聞いておいて良かった。前情報が無かったら、別の思惑があるのかと、もっと考え込んでしまったと思う」

「今回の目的は、「尾形 隆史」に、物理的にだろうが、なんだろうが被害を負ってもらう事」

「あの「西住姉妹」なら、お兄ちゃんが酷い怪我を負ったり、「何かしら」起こってしまったりしたら、……戦車の試合に、影響が確実にでるだろうし…」

 

 

 尾形 隆史をお兄ちゃん…ねぇ。

 この娘の正体が分かった…。

 

「この上空にどのくらいのドローンや、ヘリが飛んでいると思ってるの? 貴方もすぐに特定、発見できた」

 

 段々と、感情が高ぶって来たのか、早口になっている。

 いや、説明というよりか、自分に言い聞かせるように。

 

 ブツブツと…。

 

 この娘が一人でいるとは、まず考えられない。

 今は隠れてでもいるのだろうが、ボディーガードか何か、必ずいるだろう。

 

 しかし、今なら逃げ出せれないか? 

 いくら「天才少女」と言えども、たかが子供。

 

 視界に入らないというのならば、どこかに隠れているのだろう。

 駆けつけるより早く、どうにか…。

 

「オジさん。今のその状態から、動かないようにね」

 

「な…なに?」

 

 急に話題を俺に変えられた。

 考えでも見透かされたかと思い、身構えてしまう。

 動くな?

 

「…私が一人でいるとは、思っていないようだけど……」

 

 少女がスッっと片手を上げた。

 それと同時に、俺の両腕と両脚に、丸い小さな赤い光が集中した。

 一つや二つじゃ無い。

 各10個程ある様に見える…。

 

「……」

 

 後は、恐怖しか沸かなかった。

 これは、忠告。

 一歩でも動くなと。

 

 

 ……詰んだな。

 

 

 俺の身元から何から、全て調べられているだろう。

 隠れているであろう人数から見ても、逃げられない。

 

「西住流家元も…お母様……島田流家元も本気になった。分かる? 貴方達は、この二つを完全に敵に回した」

 

 高々、武芸の家元を敵に回したからなんだ。

 何をまだ説明する事がある。

 

 圧倒的な人数差。

 逃げ切れない事を、物騒な方法で提示したんだ。

 さっさと捕えて、警察にでも引き渡せばいい。

 

「…だから、素直に警察に「保護」されるとは思わない事」

 

 …は? 逮捕だろ? 保護?

 

「では、ここからが本題」

 

 なにを言っている?

 じゃあ今までのは、なんだ?

 

 さっさと……っ!?

 

 ただ、淡々と喋っていた少女。

 感情が無い人形の様に、顔色すら変えずに喋っていた少女。

 

 

「今回の件、下手をしたらお兄ちゃんは、大怪我をしていたかもしれない。当たり所が悪ければ、死んでしまったかもしれない」

 

「理解シロ。液体が入った、あの大きさの樽。普通に凶器―」

 

 

 

 ―変わった。

 

 

 

 なぜだ…? 視界に入っているはずだ。

 整った幼い顔立ち…見えているはずだ。

 

 分からない。

 

 急に顔が分からなくなった。

 認識できない。

 

 

「お兄ちゃんを……コロソウトした」

 

 

「ま…待て! 今回は、俺が指示をしたわけじゃない!」

 

「ダカラ?」

 

 子供に恐怖する。

 

 つまらないだろう言い訳が、咄嗟に出てしまった。

 

 見た目は普通の…いや、明らかにか弱い子供。華奢な少女に恐怖する。

 

 体が動かない。

 

 怖い。コワイ。

 

 彼女は動かない。

 動か無い上で、俺を牽制してくる。

 

 牽制? 違う…。

 

「一つ教えて…」

 

「ッ……」

 

 情けない声が漏れそうになる。

 こんな声、今まで出した事なんて無かった。

 間抜けな声が、喉からもれている……。

 

 

「―本物のバケモノって知っている?」

 

 

 




はい、閲覧ありがとうございました

はい、すいません。
嘘です、嘘つきました。

まだ現在執筆中ですけど、プラウダ、華さんに集中する為に短いですけど上げました。

はい。愛里寿参戦。


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