人が、かなり少ない海岸を選んだはず…。
現にこの場に来るまで、人を見ていない。
誰もいない…港ですらない。ただの海岸に船を止めてあった…。
俺の置かれている立場を考えれば、何となく想像がつく。
すでに船内を物色し、調べ終わった後なのだろう。
それなりに大きなタイプのモーターボート。
用は済んだとばかりに、海上の上、逆さまになって浮かんでいる。
そんな簡単に転覆なんて、できるはずも無いモノ…。
徹底して俺を逃がさないつもりなのだろうな…。
…つまり…バレている。
「見つけた」
一言。
目が合った瞬間、その様な事を呟いていた。
なんだあの少女は。
なんだ…あの……。
小学生の高学年…いや。
中学生くらいか?
俺の前、数メートル先に立ち塞がっている子供。
普段ならそう思う。
普段なら無視をする。
普段なら気にも止めない。
そんな普通の子供。
だが、この存在感…。
「一般客に混じっての逃亡」
…。
「戦車道大会のスタッフの服を、強奪しての変装」
淡々とした口調。
人形か何かと思わせる程の、感情の無い喋り方…。
薄気味が悪い。
不審に思っている俺を見て、答える。
「知っていた? 各スタッフの服には、GPSが組み込まれているの。戦車道のフィールドはかなり広いから、取り残されない様に…防犯の為に…」
……。
「使用禁止の簡易トイレの中から、服を強奪されたであろう、半裸の被害者スタッフを発見」
……あいつらは、バカか? そんな所に隠したのか?
「誰の制服か判別ができたから、GPSの探知で、すぐに犯人の場所を特定できた」
あいつらと連絡が取れないと思っていたが…。
「頭の薄い男の人と、太った女の人の実行犯。…そのスタッフに化けていた二人は、すでに確保済」
「……」
「本部テント前に、幸か不幸か…各強豪高校の隊長達が集合していた。目立つ上に、さらに西住流家元、島田流家元まで現れ、その場にいてしまうという状況」
「さらには…「尾形 隆史」の規格外の体格を見誤ったのだろう。成人男性でも苦労しそうだし…たとえ女性だとしても、大人が二人いれば高校生くらい、どうにかできると思ったの?」
…………あのバカ共素直に、喋ったのか?
「本来の暴力的な計画を中止。事故に見せかけての短絡的犯行に変更」
…。
「サンダース副隊長の、アリサ選手を発見し利用。…あの人は少し可哀想…。サンダースと「尾形 隆史」とのやり取りで、有名になってしまった為だろうか…」
確かに今回は、「タカシ」の立てた計画で、俺の発案じゃない。
お粗末な計画だとは思ったが、前回の様に何かしら思惑があってかの事だと思い、今回も従った。
「…大体、私が思ったより酷い。杜撰すぎる計画。……お母様に、大洗での誘拐事件の犯人像を聞いておいて良かった。前情報が無かったら、別の思惑があるのかと、もっと考え込んでしまったと思う」
「今回の目的は、「尾形 隆史」に、物理的にだろうが、なんだろうが被害を負ってもらう事」
「あの「西住姉妹」なら、お兄ちゃんが酷い怪我を負ったり、「何かしら」起こってしまったりしたら、……戦車の試合に、影響が確実にでるだろうし…」
尾形 隆史をお兄ちゃん…ねぇ。
この娘の正体が分かった…。
「この上空にどのくらいのドローンや、ヘリが飛んでいると思ってるの? 貴方もすぐに特定、発見できた」
段々と、感情が高ぶって来たのか、早口になっている。
いや、説明というよりか、自分に言い聞かせるように。
ブツブツと…。
この娘が一人でいるとは、まず考えられない。
今は隠れてでもいるのだろうが、ボディーガードか何か、必ずいるだろう。
しかし、今なら逃げ出せれないか?
いくら「天才少女」と言えども、たかが子供。
視界に入らないというのならば、どこかに隠れているのだろう。
駆けつけるより早く、どうにか…。
「オジさん。今のその状態から、動かないようにね」
「な…なに?」
急に話題を俺に変えられた。
考えでも見透かされたかと思い、身構えてしまう。
動くな?
「…私が一人でいるとは、思っていないようだけど……」
少女がスッっと片手を上げた。
それと同時に、俺の両腕と両脚に、丸い小さな赤い光が集中した。
一つや二つじゃ無い。
各10個程ある様に見える…。
「……」
後は、恐怖しか沸かなかった。
これは、忠告。
一歩でも動くなと。
……詰んだな。
俺の身元から何から、全て調べられているだろう。
隠れているであろう人数から見ても、逃げられない。
「西住流家元も…お母様……島田流家元も本気になった。分かる? 貴方達は、この二つを完全に敵に回した」
高々、武芸の家元を敵に回したからなんだ。
何をまだ説明する事がある。
圧倒的な人数差。
逃げ切れない事を、物騒な方法で提示したんだ。
さっさと捕えて、警察にでも引き渡せばいい。
「…だから、素直に警察に「保護」されるとは思わない事」
…は? 逮捕だろ? 保護?
「では、ここからが本題」
なにを言っている?
じゃあ今までのは、なんだ?
さっさと……っ!?
ただ、淡々と喋っていた少女。
感情が無い人形の様に、顔色すら変えずに喋っていた少女。
「今回の件、下手をしたらお兄ちゃんは、大怪我をしていたかもしれない。当たり所が悪ければ、死んでしまったかもしれない」
「理解シロ。液体が入った、あの大きさの樽。普通に凶器―」
―変わった。
なぜだ…? 視界に入っているはずだ。
整った幼い顔立ち…見えているはずだ。
分からない。
急に顔が分からなくなった。
認識できない。
「お兄ちゃんを……コロソウトした」
「ま…待て! 今回は、俺が指示をしたわけじゃない!」
「ダカラ?」
子供に恐怖する。
つまらないだろう言い訳が、咄嗟に出てしまった。
見た目は普通の…いや、明らかにか弱い子供。華奢な少女に恐怖する。
体が動かない。
怖い。コワイ。
彼女は動かない。
動か無い上で、俺を牽制してくる。
牽制? 違う…。
「一つ教えて…」
「ッ……」
情けない声が漏れそうになる。
こんな声、今まで出した事なんて無かった。
間抜けな声が、喉からもれている……。
「―本物のバケモノって知っている?」
はい、閲覧ありがとうございました
はい、すいません。
嘘です、嘘つきました。
まだ現在執筆中ですけど、プラウダ、華さんに集中する為に短いですけど上げました。
はい。愛里寿参戦。