転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第42話~土下座行脚…が開始できません!~

皿。

 

用意されたその食器から、軽い音がする。

並べられて運ばれる。

 

いつもの様に朝食を用意して、並ばせ食べる。

それはいつもと同じ事。

 

今日も今日とて、朝からみほが部屋に来ている。

付き合っている男の部屋に来ているって、言葉にすると…みほには、似合わない言葉に思える。

まぁ付き合いだしてから、あまり日は経っていないのだけれど、みほも少し気が、楽になったのだろうか?

アパートの一室。俺の部屋に来るのに段々と、躊躇が無くなってきた。

 

最初は、まぁ手間は一緒だから、飯くらい作ってやるから食いに来いって感じで誘った。

今では、毎朝の光景。

時々…から頻繁になり、最終的には毎日となった。

初めは緊張しまくってたなぁ…今じゃ普通に、専用のコップやら何やら…置いてある。

 

「……」

 

うん。はい、現実逃避です。

 

いや違いますねぇ…少し前の普通を思い出して、心の安定を保っているだけですよ?

 

「タカーシャ、ケチャップ頂戴」

 

「……はい、どうぞ」

 

「……」

 

「カチューシャ。次、私にも下さい」

 

「分かったわ。ちょっと待ってなさい」

 

「………………」

 

はい。今日の献立は、珍しくパン食にしてみました。

私、朝はゴリッゴリの和食ばかり作って来ましたけど、本日はパンとベーコンエッグと、ピーマンのスープです。はい。

彼女達に合わせました…。まぁそんなに時間掛からないものですしね。

 

目玉焼き系に何をかけるかとか、なんか色々一悶着ありそうな気はしていたのだけど…まぁ団体行動が多い戦車道。

慣れているのか、何も無かった。……俺は醤油派。みほは、塩派。

 

…ぶっちゃけ、そんな可愛らしい言い争いなら望む所ですよ…はい。

 

狭い部屋。食卓…というか、ちゃぶ台だけど…。

それに座る、俺を含めた4名様。

はい、本日はお客様が、3名もいらっしゃいましたね!

まだ、朝の6時だよ!!

 

ジト目で、パンを噛じりながら横目で、俺の目を見てくるみぽりん…。

命じて頂ければ、バターくらい塗らせて頂きますよ? プレーンのままで宜しいのですか!?

 

……タスケテ。

 

 

「…隆史さんが作るものは、どうしてこう…私と違うのでしょうか? なぜでしょう…普通に悔しいですね」

 

悔しがる…割に、なぜか嬉しそうに呟いている、ノンナさん。

ただ、夢中にほうばっているカチューシャ。

この二人が、俺の部屋に来店して頂いたのは……いや、来訪してのは、さっき…。

朝の5時前…。

大洗の学園艦にいた……。

 

昨日の試合の後処理を終え、すぐに大洗学園艦に来たそうだ。

そりゃ、ホテルくらいあるだろうけど…俺の家が、よく分かっ…諜報部がいましたね…。

 

この二人は、俺が朝の4時半頃には起床し、筋トレをするという習慣を知っている。

家の前で、例の如くガッチャンガッチャン、ダンベルを上げている時に………違う。

 

今日は違う。まだ筋トレしてない。

 

希望的観測です。普通に出迎える分ならまだ良かった。

 

「来たわ!」

 

「い…いらっしゃい」

 

普通にインターフォンが鳴り、普通にドアを開け、昔と同じやり取りをする。

少し笑ってしまったけど、この時間に良く起きていられるな…カチューシャ。

まぁ…そんなこんなで、少し早い朝食を振舞っていたのだけど…。

 

……なにを食べても、味なんかしなかった。

 

 

「で? みほさんは、何故こんな時間に、隆史さんの部屋に?」

 

「え…えっと」

 

朝食を食べ終わり、一息着く頃、ノンナさんが打って出た…。

あぁ…もう。今日は現実逃避する理由が多すぎる…。

 

 

 

朝、4時半頃。

カチューシャ&ノンナさんが来宅する少し前。

 

自宅のベットで、目を覚ました時の事。

最初に目に入ったのは……みほの顔だった。

 

真っ赤になって、目を見開いていらっしゃいました。はい。

昨日の制服姿のままでしたね。

 

完全に容量オーバーって顔でした。はい。

 

だって俺、全裸だったもの。

 

みほさんは、全裸の俺の腕を枕にし、完全に全裸の俺の抱き枕状態になっておられました。

はい。昨日の事ですね。覚えております。

忘れてしまったほうが楽なのに、私完全に覚えております。死んだほうがよろしいでしょうか?

 

昨日、華さんと話をし、テントへ戻った時にはすでに誰もいなかった。

会長の話だと、全員今の俺と顔を合わせたく無いそうだ。

よって、テント前から離れた時に、全員大号令と共に戦略的撤退をしていった…そうだ。

今でこそ思う。その時に若干怯えた目をしていた会長も、本当は逃げ出したかったのだろうか…。

うん…皆酷いなぁ…とか思わないから大丈夫ですよ…。

 

結局、そのまま帰宅したのだけど、みほがそのまま俺に付いてきた。

本人曰く、あの状態の俺を放っておけないって事だった。

…けど、多分…俺の心配では無くて、見知らぬ他人の心配をしていたのだろう…。

 

んで…。帰宅した俺がまず最初にした事…というか、させられた事。

風呂入って来い…って事だった。

 

「女の人の匂いのする隆史君…すごい嫌」

 

そのボソっと呟いた一言も、すっごい覚えてます。

はい。酔った状態でも覚えてます。

すっごい寒気が襲ってきたのも、覚えてます。

 

……そ、それはそれとして。

 

まぁあれだ。自分の家だもの。

浴室に着替え忘れる事とか、結構ありますでしょ?

バスタオルくらいは、浴室に常備してあるから大丈夫だったんですけどね?

しかも酒入ってる状態で、風呂…というか、シャワー浴びてたモノだからね?

 

うん。それに寝る前って記憶が曖昧でしょう?

流石に俺も寝てしまう前だったから、どうしてしまったのか記憶が飛んでましてね?

 

多分、着替えを取りに戻った所、待っていたみほに、何か言われて……あ、大丈夫、大丈夫。叫ばれたのは覚えてますよ? ご心配なく。

 

んでもって…あー…そうか。そうだった。

私だけ毎回、口説かれないとか口説いてくれないとか…何とか言ってたな。

私に対してのタラシ君が、いないだのどうの、よくわからない事おっしゃっていましたね。

 

それで…なんだっけ? 結局抱きしめた様な状態になって、寝てしまったと。

完全にみほを、抱き枕にした状態で寝てしまったと。

そんな状態になってしまったので、みぽりん結局、寝れ無かったそうです。

だから、まだ一線は超えておりませぬ。

 

「はい。そんな感じですか?」

 

「」

 

「……はい。私、取り敢えず首でも括った方がよろしいでしょうか?」

 

「…………括らなく良いから、服着て」

 

はい。そうですね。

どうせコレから、しほさん筆頭に殺されに行かないといけない壮大なイベントが、残っておりますしね。

命が、いくつくらい必要かな? コンビニに売ってないかな? 120円くらいで。

 

「…一睡もできなかったよぉ…。色々と言いたい事があったのに全部飛んじゃったよぉぉ」

 

おや、それはラッキー。

口にしない様に、意識して思う。はい、ちょっと学習してみました。

 

「早く…ピッ!!??」

 

 

……。

 

 

朝、筋トレしている時に、ダンベルがガチャガチャ鳴る音と言うものが、ご近所の方に迷惑じゃないか聞いた事がある。

まぁ朝4時頃じゃ、ただの嫌がらせだし。

 

「」

 

しかし、ここのアパート、というか学園艦の賃貸系の建物全て。

海上の上を走るといのもあるのだろうか?

防音設備がしっかりとしているそうだ。ガチャガチャ音は、特に迷惑にならないという有難いお返事を頂いた。

まぁ逆に言えば、部屋内での音も、外に漏れづらい様で…つまり、多少の大きな声なら迷惑にならない。

 

つまりだ。

 

うん。

 

…男の生理現象ですので、勘弁してくだい。

 

 

 

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---

 

 

 

「そんなこんなで、この時間でもみほは、俺の部屋におりまする」

 

「「……」」

 

あぁ!! コワイ!! ノンナさんがメチャクチャ怖い!!

 

「……私が聞いたと言うのもありますけど…隆史さんが、何故それをバカ正直に言ってしまうのか…」

 

「…うぅ、隆史君のバカ」

 

思い出してしまったのか、真っ赤になるみぽりん。

あれ? 言っちゃまずかったか? 清廉潔白を証明したはず…。

 

「みほさんからすれば、デリカシーが著しく欠けた発言ですし、私達からすれば、ただイチャついている内容を聞かされているだけ…デスヨ?」

 

はい。ノンナさん目が怖い!

 

「相変わず、馬鹿ねぇタカーシャは!」

 

酷く複雑そうな顔のみぽりんと、なぜか嬉しそうな…胡座をかいて座っている俺の膝に、座っているカチューシャ。

 

「……すっげぇ自然に座ってるな、カチューシャ。普通に気がつかなかった」

 

「なによ! 文句あるの!?」

 

「みほにお聞きください」

 

こういう事は、彼女のお許しが多分必要ですよ。……多分。

 

「なぜだろう…。カチューシャさんだと、何か許せてしまう…」

 

「むっ」

 

あ、ノンナさんが反応した。

 

「隆史君との組み合わせだと、余計にかわいいかも…」

 

「みほさん。貴女、わかってますね」

 

…頷くノンナさん。

嬉しそうにしているのは、いいのだけど、二人共、親と子見たいな感じで見てないか?

まぁ…別にいいけど…。

 

「では、デリカシーが著しく欠けていた為、みほさんに振られてしまった隆史さん。私達と青森に帰りませんか?」

 

「」

 

「振ってませんよ!! さらっとなにを言ってるんですか!」

 

「……」

 

今更だけど、朝食まで取って、この関係性でこの場にいられる皆、すげぇな。

すでに俺、胃がかなりヤバイのですけど…。

 

「では、朝食もとりましたし、外にヘリも待たせてありますので、そろそろお暇します」

 

「そうね! そろそろ帰るわ! …部隊編成、見直さないといけないし」

 

あれ?

 

「え…なに? もう帰るの? もっと色々言われると思ったのに…」

 

「お望みですか?」

 

すっごい良い…それは良い真っ黒い笑顔で返されたので、全力で首を振る。

 

「…いやぁ…なに? 何か飯食いに来ただけって感じで…」

 

「え? そうよ? 何言ってるの?」

 

「はい。ご馳走になりに来ただけです」

 

……え。

 

「…元々、早朝での隆史さんとの付き合いは、そういった関係でしたよね?」

 

あぁ…青森じゃそうだったな。朝来る度に賄い食わせてたっけ。

もうなんか、懐かしい。

 

店のカウンターに並んでる二人が懐かしい。

たまにプラウダの他の生徒も連れてきていたっけ。

 

名前、なんていったかな?

……まぁ始終、睨まれてたけど…。

何となく会った頃のノンナさんと似ていたな。

 

「……隆史君」

 

「なに?」

 

「なんだろう…私、何かすっごい悔しい」 

 

「な…なにが?」

 

帰り支度を始める二人の背中を見て、みほが呟く。

悔しいって…なんで?

その思いが何を示しているのか、俺には正直分からない。

しかし、ノンナさんには、分かったようで微笑みながら、みほを見ている。

 

「んじゃタカーシャ! また来るわ!!」

 

「習慣というものは、中々変えられないものですしね」

 

……。

 

「タカーシャの居場所も分かったしね! もう…遠慮しないわ」

 

「Я тоже серьезно」

 

…今まで俺が、居場所を隠していた事に、気を使われていたダケデシタ。

このカチューシャの言い方は、マジだ。本気だ…。

 

……ノンナさん。

『私も本気になります』って…何に? 何でしょう!?

こっわ!! もう最近恐怖心に慣れちゃったよ!! 人の目の色で、感情が大体判別できるようになっちゃったよ!!

 

「ミホーシャも! …決勝。楽しみにしとくわ。タカーシャが傍にいて…負けたら許さないから」

 

「は…はい!」

 

激励…も込めては、いるのだろうけど…それは、睨みながら言うものじゃナイヨ?

 

「ピロシキ~」「До свидания」

 

そう言って、ドアを閉める。

追ってくるな? そんな感じだった。

流石にアパート前にヘリは駐めて…。

 

うん。爆音がするから、駐めてあったな…。

どうやって来る時、気がつかなかったのか…。

うん。だから向こうからドア閉めたのか。

 

遠ざかる音で、離れていくのが分かる。

……また来るって言っていたな。

ご近所様に説明しとかないと! 今回、早朝からすっごい迷惑かかってる!!

 

 

 

 

 

「…そっか。今回これが目的か…」

 

「あの、みほ? さっきからちょっとおかしいぞ?」

 

戦車に乗っている時の顔になってるよ?

どうしたの?

 

「…強制的に、意識を「青森の隆史」君に戻された」

 

…あの、呟いている事がよく分かりませんけど。

なんか…昨日から俺、人外っぽく扱われてませんか?

 

「隆史君?」

 

「は…はい?」

 

「隆史君。彼女達が来て、表情…というか、顔付きが少し変わった」

 

「…そうか? そういう事、分かるものなの?」

 

何も無いですけど…え?

 

「…彼女達、また来るって言っていたけど…本当に来ると思う?」

 

「……来るな。確実に来る。学園艦や学校の垣根、ぶっ壊してでも来る。まぁ…流石に決勝戦後だろうけど」

 

「……」

 

なんか、寂しそうな顔してるな。

どしたの?

 

「…隆史君。少し嬉しそう」

 

「……あぁ。そういう事か」

 

昔の知り合いが、訪ねて来たんだ。まぁ持て成すのは当然だろう。

みほは…あれか? あれですね?

怒ったりしてないから、気が付き難いのだろうけど、正直こっちの方が、俺には分かりやすい。

 

えっと、こういう時はどうしたらいいだろう。

今までなら、何かしら言い訳なりなんなり、口で説明してたけど…。

付き合っちゃいるからなぁ…、変わった事した方がいいのかなぁ?

 

プリプリ怒っている訳では無いので、マジなアレだよなぁ…う~ん。

酒入ってると多分、躊躇なくするのだろうけど…。

 

「…みほと接触するのって、正直避けていたんだよねぇ」

 

「えっ!?」

 

子供ってのも有るけど…まぁなんだ。なに気に一番身近な、異性だったからな。

急に話題を変えて、誤魔化してきたとでも思ったのだろうか?

しかし、内容が内容だったからかなぁ…。泣きそうな顔になった。

 

「……な…なんで?」

 

拒絶された? とでも思ったのか。

……まぁなんだ。そんな顔するな。多分意味が違う。

 

頭をガシガシ撫でてやる。

そう。これも実は、付き合うまで遠慮していた。

 

「うぅ…隆史君、それ子供あやすみたいで……嫌」

 

「…でもまぁ、もういいかなぁって思った。妬いてくれる位だし」

 

「……」

 

おや、否定しない。

みほが拗ねた顔は……すいません。正直すっげぇ好き。

ま、じゃぁ…そろそろ遠慮しない様にしようかな。

 

「タガが外れるのが怖かった。ってのが一番の理由だなぁ」

 

何となく察してくれたのだろうか。逆に照れた顔…の様なものになった。

まぁ複雑だろう。

 

……寝起きですでに、凄い事してたけど。

 

だからまぁ…うん。

 

こちらから初めて、みほを抱きしめてみた。

 

「…なんか……誤魔化されてる感が……すごいぃ……」

 

「……」

 

「…………なんか……もう………エヘヘヘヘ」

 

「……」

 

ボソボソ聞こえるのだけど、声がなんか嬉しそうだからまぁ…大丈夫かなぁ…。

抱きしめてみた感想は……事細かく言うと、ただの変態だからやめておこう。

うん…。

 

……あ、自覚はあるよ?

 

「……な…なんか、隆史君…喋って……黙っていられると……もう……」

 

「……」

 

なんだろうか。

 

もう、肩から抱きしめた訳ではなく、両腕を挟むように背中に手を回す格好で抱きしめたモノだから手が、背中の下方にある。

 

よって。

 

「……みほの匂いも相まって……」

 

「……!?」

 

若干、体が強ばった。

あ。制服姿って事は、昨日結局、風呂入ってないのか。

…まぁいいや。

 

……正直、尻触りたい

 

「………………………………最低」

 

はい。

声に出てましたね! 学習してませんでしたね!!

 

「……」

 

まぁた、やっちまっただぁ。

おら、またやっちまっただぁ!!

 

…怒られるかなぁ。まぁ今回初回は、こんなものだろう。

段々と慣れていけばいい。

ただのハグでも、みほにはハードルが高かっただろう。

 

まだ人生長い。そう…段々と慣れていけば良い。

 

俺も、みほも。

 

 

 

「…………さ」

 

「!?」

 

「…さわ…って…」

 

本気で!?

 

「……………触って……み」

 

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

 

突然のインターフォンのベルの音。

流石にびっくりして、離れてしまった。

っぶねぇー!! というか、惜しい!!

 

少し離れて、顔を見合わす…。

あ。真っ赤になって崩れ落ちた。

 

……だから…タガが外れそうになるって…言ったのに。

 

「ぅぅぃ!!」

 

はい。日本語でok?

 

「……まぁ。しょうがない。うん」

 

「ぃぃぃぃ!!!」

 

……でも、誰だろうか。

 

ピンポーンと二回目のベルの音。

 

今日は、土下座行脚に出なくてはと思っていたのに……。

あ、土下座相手が来てくれたのかな?

 

冷静そうに見えるのかな? ちょっとみほが、恨めしそうに見ていた。

 

……しかし、惜しかった。

 

「はい、どちら様?」

 

ドアスコープから、外を覗く。

いきなり開けないのは、危ないと昔みほに言われたからである。

決して怖いからじゃない。

せめて心の準備が欲しいとか、そういう訳ではない。

 

いやぁ…惜しかった。

 

スコープの向こう。

外には見慣れた人物が、立っていた。

黒い、綺麗で長い髪の毛。

大洗学園、絶対TOP5に入るであろう戦闘力の持ち主。

 

「あれ? 華さん?」

 

「ふぇっ!?」

 

 

 

 

----------

-----

---

 

 

 

 

「朝早くにすみません…」

 

今日は、朝から色んな人が来るなぁ…。

昨日の事だろうか?

確か…

 

「華さん、どうしたんですか?」

 

「いえ、どうにも…隆史さんにお願いがありまして…」

 

「昨日の事ですか? ……ご迷惑オカケシマシタ」

 

さて、地面に頭をスライスしようか?

片膝をつこうとすると、華さんに止められた…謝らせてすら、させてくれないのか…。

 

「昨日、客席前でお母様達とお会いしましたでしょ?」

 

「あぁ…。お付の人と、いきなりぶっ倒れてビックリしましたけど」

 

「あ、人力車の人かな? 新三郎さん…でしたっけ?」

 

「そうです、みほさん」

 

話している最中、いきなりぶっ倒れた華さんの家族の方。

白目むいて、泡吹いてるものだから正直、怖かった。

 

すぐにお付の人は、意識を取り戻したものだから大丈夫だろうとは思うけど…。

すっごい睨まれたなぁ…。彼氏と勘違いでもされたのかなぁ?

華さん良い所のお嬢様っぽいし。

 

すぐに新三郎さんとやらに、華さんのお母さんは人力車に乗せられて、帰宅すると言っていた。

心配した華さんもついて行くと言っていたが、今は心労が酷いので後で連絡すると、言うだけ言って走り去ってしまった。

 

その人力車は、どこから召喚したのだろうか? という疑問はありますけどね!

 

今は、お嬢の顔を見るのが正直辛いです! とか言っていたけど…何かあるのだろうか?

簡単に、口にし確認を取ると、その事が原因らしい。

 

やっぱり彼氏にでも間違われたか。

優花里の時と同じだなぁ…。

 

「えぇ…その時の事ですけど…」

 

「やっぱり」

 

「…で、ですね。隆史さんには、今から私と一緒に…その……私の実家に来て欲しいのです」

 

…え?

 

「……会話の内容を聞いていたらしいのですけど…そんな変な事言っていませんよねぇ?」

 

「そうですね。俺が説教されてるだけでしたしね」

 

誤解を生む内容か?

ただ、俺の事を言われていただけだし…。

二人そろって会話の内容を思い出すけど…変な事言ってないよね?

 

「何でですか? やっぱり優花里の時と一緒で、彼氏とか何かと勘違いされました?」

 

「…初めはそうでした。勿論いいましたよ? …違うと。彼氏とかでは無いと」

 

まぁそりゃそうだ。

本人からの口頭で説明して、誤解が解ければそれがいい。

すぐにでも否定するだろうね。

 

だから、みぽりん。ジト目はやめてください。

 

「私、こういった事に嘘をつきませんから…彼氏では無いと、すぐに信じてもらえました…」

 

「あれ? なら一体なんで?」

 

「…そしたら、更に……それこそ烈火の如く怒り出しまして……その…」

 

「なんですか? 俺に来いって言い出したんですか?」

 

「……そうなんです。今日にでもって」

 

「……」

 

なんだろう。本当に。

俺と華さんの関係については誤解は解けているのだろう?

……本格的に分からないなぁ。

 

うーん。

 

……まぁいいや。

 

「んじゃ、行きましょうか? 今からでも」

 

「え!?」

 

「すぐにでも来いって事でしょ? だから携帯では無くて、直接ここに来たんでしょ?」

 

「……すみません。ありがとうございます」

 

みほに、また俺を借りると頭を下げている。

どこに華さんの実家があるか知らないけど、まぁ行くかね。

 

どうせ今日は、休みだ。

 

「所でみほさん、なんで制服を着ていらっしゃるのですか?」

 

「!?」

 

あ。

まぁ普通突っ込むわな。

 

「…ま、間違えちゃったの」

 

ウフフと笑い、ウフフと返されてる……。

うん、言えるはずもあるまいて。

この二人のやり取りは、結構好きだからボケーっと見ていたい。

妙に癒されるんだよねぇ…。

 

ニゲタイ

 

……本能がそう言っている。

 

なぜだ? 突然そんな事を思う。

 

 

「あ、隆史さん」

 

「なんですか?」

 

出かける用意をしている背中で、華さんが声を再度かけてきた。

なぜだろう…指が震える…。支度をするなと本能が言っている…。

 

「良く意味が分かりませんけど…どうも、お父様も実家に向かっているそうで…隆史さんに伝言があります」

 

「父親!?」

 

「確か……風呂を用意しておく…」

 

…なんだ? 本格的におかしい。

親父さんいなかったよな?

伝言!?

 

「蟹かコンクリぐらいは、選ばしてやるって仰っていました」

 

「」

 

 

「なんの事でしょう?」

 

 

 

 




はい、閲覧ありがとうございました

みぽりんちょっと前進。

次回 五十鈴さんのお宅ご訪問。

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