学園艦から、港までの船旅…というには、少し短いかもしれない時間。
華さんと二人きりという状況は結構緊張するな。
その船での移動時間。
二人して思い出してみてはいたが、結局分からない。
特段、俺と華さんとの間柄を示すような内容では、無かった為に余計に困ってしまった。
分からないならって事で、途中から華さんが出品するという、花の展示会の事に話が変わった。
戦車道を続けながらも、花道もそのまま継続して続けているそうだ。
流れる水平線をボケーっと見つめながら、船内のベンチに座っている。
「華さんは、なんだろう…結構、努力の人ですね」
「そうでしょうか…?」
「そうですよ」
華道は、幼い頃より続けて来たのだろう。
お家柄ってのもあるのだろうけど、才能も勿論持ち合わせていたのだろうな。
その才能に胡座をかかないで、努力するような人は好きだ。
何よりも、華さんの性格も。
おっとりしているようで、芯が通った性格。
何気に、あんこうチームの戦車道以外での生活の中なら、華さんって柱になってないか?
学校生活然り…普段のプライベートでも。
そういや、華さんって…髪も性格もそうだけど…すっげぇ俺のタイプの女性といえば、女性だよな。
…でかいし。
黒い笑顔で見られている時は、別だけど…。あれ本当に怖い。
……おっきいし。
「……」
…なんだろう。
若干…いや、華さんのジト目ってかなりレアじゃ…。
というか、何故その様な目で、俺を見ていらっしゃるのでしょう?
「…隆史さん。普段そうやって、女性を口説いていらっしゃるのでしょうか?」
「え?」
「……またですか? いい加減、ワザとじゃないかと思い始めましたよ…」
「な…なんの事でしょうか?」
努力の人って言っただけだよな? 口説く事になるの?
…基準がわからん。
はぁ…と一つ、大きなため息と共に、目線を海上に移してしまった。
「みほさんも大変ですね…」とか「…私、そんなに長身では、無いと思うのですけど…」とかブツブツ呟いていた。
…どうしたんだろ。
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「…はぁ」
華さんが港へ到着後、すぐにまた大きな溜息をついた。
船の降着場を見ながら、今度は頭を押さえていた。
「すみません隆史さん。あれ…私の家の者です…」
……うん。そんな気はしてました。
「華さん」
「なんでしょうか?」
「華さんの家って、華道の家元だって聞いていましたけど…」
「…そうですよ。もっとも、私は今は勘当されてしまってますけどね」
「……先程、お聞きしましたね。聖グロとの練習試合の後ですよね」
「えぇ。隆史さんにお会いした時、勘ぐられてしまったのは、少しビックリしましたね」
「…まぁ…それはそうと、もう一度お聞きしますけど…」
「…はい」
「華道ですよね?」
「はい、華道です」
「……最後に組とか、つきませんか?」
「…つきません」
はい、到着した港。
黒塗りの車が2台。降着場の降り口の前に鎮座してますねぇ…。
何あれ…すげぇ高級車…。
車とかに疎い俺にでも、高い車ってのは分かる。
…あれ完全にあっちの方が、ご愛用する奴だぁ…。
何故皆さん、黒服のスーツを着ていらっしゃるのでしょうか?
一般客がすれ違う度に、ご迷惑おかけします!って叫んでいる為、一般客の皆さんは苦笑いだ。
実際怪しすぎて、苦笑いするしかないのだろうけど…。
「お嬢!」
その中の一人が、華さんに気がついた。
新三郎さん…だっけか?
あの時とは違い、この人もスーツ姿だ。
お嬢って華さんの事だよね?…すげぇ違和感が無い、呼ばれ方をされていますね。
いやぁー…。
一緒にいる俺をすっげぇ睨んでますねぇ…。
船からの階段を降りた先、すぐに駆け寄って来た。
「お嬢! お迎えに上がりました!」
「…なんですか。この大層な出迎えは。いつもの人力車は、どうしたのですか?」
「いえ! そこの男を逃がすなと…旦那様から仰せつかりまして…奉公人男衆一同で、お迎えに上がりました!」
「……お父様から?」
わぁ…、皆さんにすっごい熱烈な歓迎をお受けしてますねぇ…。
すっげぇ睨まれてる。
それに釣られてか、こちらを振り向いた華さんと目が合う。
「…隆史さん。逃げるんですか?」
「……逃げる理由が、ありませんよ」
そうですわよねぇ…って、ボソっと呟いている。
またその会話と華さんの呟きに、華さんの家の人達から、再度殺気が放たれたる…。
……本当に…なんでしょうかね。
「それに、私はすでに勘当された身。この様な出迎えを受ける、謂れがありません。実家には私達だけで参ります」
「しかし、お嬢!」
…派手な歓迎で、完全に一般客の方々が萎縮してしまっている。
華さんは、頑なに出迎えの車に乗る事を拒否し、奉公人の人達と言い合ってしまいだした。
…華さんは、変なスイッチが入ってしまったのか、頑なに拒否をしている。
ここまで頑固な人だったのかぁ…。
う~ん。
「華さん」
「隆史さん?…なんでしょうか?」
俺が華さんに声をかけた時点で、また周りのから…もういいや、めんどくさい。
適当に流そう。
呼ばれた理由が分からなければ、俺も対処のしようがない。
正直、この手の連中の扱いには慣れている。
まぁ…主に被害者側からの立場だけど…。
どうしたら大事にならないかとか…回避するのは得意だった。というか慣れた。
まぁいくら睨まれた所で、多分この人達は本職じゃ無い。
本職の方達のクレーム処理は、昔の仕事の一つだったからなぁ…。
いやでも見分けがつくようになったよ…。
華さんは、会話の内容から、どうにも俺を心配してくれている様だった。
様子が、いつもとやはり違うのだろう。
…しかし時間が惜しい。
「もういいから、お言葉に甘えましょう?」
「しかし…」
「大丈夫ですよ? 別に…袋頭に被せられて、親指を拘束バンドで止められた状態で、手錠もされてませんし…。ほら! 両足も自由です」
「……新三郎?」
「し…しませんよ! しませんってば、そんな事!!」
華さんに睨まれた新三郎さんが、ブンブンと頭を振っている。
映画か何かで見た…とでも思ってください。
「ここだと目立ちますし、何より他の方達に迷惑が掛かりますからね」
「…………隆史さん。たまに凄い遠い目をなさいますよね…」
笑って誤魔化す。
そんな目してるかなぁ?
人に迷惑が掛かるというのが、効いたようだ。
渋々承諾をしてくれた華さん。
しかし、車に乗り込もうとすると、「お前はこっちだ」と、俺だけ後続車に乗せられそうになった。
あ、やっぱりか。
これ、本当は俺が彼氏か何かかと、誤解が解けていないんじゃないのだろうか?
すると華さんは、突っ立ていた俺の手を引いて、自分が乗るはずの車に俺を引き入れて乗車する。
勝手に後部座席へ。……華さん、メチャクチャ動きが早かったよ?
二人乗車すると同時に、バタンとドアを閉めてしまった。
「ご要望通りに車へ乗りました。早く出してください」
「お嬢、しかしそいつと一緒ってのは…」
新三郎さんが、外から何かわめいている。
そんな彼を放っておいて、運転手へさっさと出せと、めいれ……い……。
「お嬢!?」
「華さん!?」
あ! 見た! この華さんこの前ちょっと見た!
いやぁ…更に強力だァ…。
「…理由も何も言わないで、呼び出しておいて…。挙句、お客様である、隆史さんに対してこの扱い……」
「「 」」
……あの…車の窓ガラスにヒビが、入ったんすけど?
「…いい加減にしなさい」
「「 」」
しほさん、千代さんはもちろん。
みほ、まほちゃん。
愛里寿もそうなのだろうか?
家元ってのは、何か特殊な職業か何かなの!?
……本気で怒らせちゃダメな人が、俺の中でもう一人増えた。
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応接間…なのだろうか?
一体何畳あるんだろうって、数えたくなる程の広い部屋。
すっごいド派手で豪華な襖を見て、西住家とは趣が全く違うなぁって…どうでもいい感想が浮かぶ。
五十鈴家に到着早々に、そんな大広間に通された。
華さんと仲良く、横並びで用意された座布団に座っている。
反対方向。
上座には、同じく二組の座布団が並んでいる。
…二人来るのか…。
お父さんとお母さんかな?
ちょっと異常事態だと、流石に気がついている…。なんで?
俺なんかやったっけ?
こんな広い部屋。
華さんと二人っきりの状態。
横で、目を伏せている華さん。
この無言の…空気が……。
「……なぜでしょうか?」
「え?」
目を伏せた状態で、こちらを見る訳もなく…自分に話すように突然口を開いた。
「…確かにあの様に、お客様に対して無礼な仕打ち…。怒って当然…ですのに……」
「……?」
「………あそこまで怒りを感じるモノなのでしょうか?」
「あの?」
「え? あ、はい? なんでしょう?」
「……いえ、何でもないです」
「?」
…逆だ。
違う、多分一緒だ。
なぜだろうか…。なんとなくわかった。
華さんも思った事、無意識に喋るタイプだ…。
ワーイお仲間だぁ…。
不思議そうな顔をする華さんは、もう特に怒ってはいないようだった。
無言で過ごす、移動中の車の中は、そりゃもう…すごい空気だった。
…華さん、目を見開いて運転手をガン見だもの…。
「……お母様」
若干の恐怖と共に、送迎の車の中での回想をしている内に、いつの間にか襖が開いていた。
華さんの呟きで気づき、顔をそちらに向けると、着物を着た女性が、青白い顔をして立っていた。
…いや、俺と目が合った瞬間、顔が真っ赤になった。
うん。すっげぇ睨んでくる…。
そのまま、ゆっくりと用意されていた上座の座布団に座る。
終始無言。
目を伏せている。
麩の外では、新三郎さん…といったか。その奉公人が俺を睨みながら、座っている。
俺、ここまで話した事も無い人に、恨まれる事したっけか…。
「……お母様」
華さんから声をかけた。
もう少しこの状態が、続くかなと思ったけど、華さんから口を開く。
しかし、これに無言で答える母親。
「……」
「一体、どういった理由で、私達をお呼びになったのですか?」
「……」
「新三郎達の出迎えも…少々目に余る物がありましたし…一体、何なのですか? どのようなおつもりですか?」
「…時期にお父様もいらっしゃいます。本題は、それからです」
「そこです。全国フラフラなさってるお父様が、なぜ態々彼にお会いに帰ってこられるのか?」
「…何故?」
彼。
俺の事だろうな。
視線が集中する。
どうにも部屋の外にもいくつか気配がする。
奉公人が集まっているみたいだ。多分…出迎えの人達って…正装していたつもりだろう。
俺、本当になにしたの!?
「…共学の学校になんて…入れるんじゃなかった…」
「お母様!?」
泣き出した……。
泣き崩れた…!?
座った状態で、完全に前のめりになり、嗚咽を漏らしている。
この歳の女性が、本気で泣いている…。
えー…。これ……俺のせい?
「あの時、強制的にでも家に縛っておけば……こんな男の毒牙にかけられる事も無かったはず…」
「」
え…毒牙って…。
華さんすら呆気に取られているのだけど…終始事情が全く分からない為、リアクションに困る!!
「あ…あの、隆史さん。私を毒牙にかけたのですか?」
「」
訝しげる訳でもなく、極普通に聞かれた…。
俺に聞かないで!!
俺も、全く状況が分からないですから!!
「勢いで勘当してしまったとはいえ、大事な一人娘……」
姿勢を直し、俺を改めて睨み直す。
「それを…こんな、不埒な男に!!」
…不埒ってのは、初めて言われたなぁ…。
「そちらの下衆の素性は、全て調べました」
「下衆って…」
「」
これも初めて言われたなぁ…。
「そんな女性に対してだらしが無い男との間に…み…身籠るなど……ましてや、その歳で…」
……ん?
子?
子を身籠る?
えー……。
「あの…お母様…仰る意味が分かりません…」
華さんは、まだよく分かっていない様だけど、「子を身籠る」ってフレーズが、すっごい引っかかった。
何回も、華さんとあの時の状況、会話内容を振り返っていたので、すぐに思い出せる。
彼女の母親が、倒れた時の最後の言葉……。
もう一度、あの最後の言葉…。
『「できてしまった事」は、仕方ありません。……ちゃんと「責任」…取ってください』
思い出した瞬間…カッチリと違和感が、全てが当てはまった。
……。
…できてしまった…………責任。
子。
子供。
赤ちゃん……。
赤子…。
歯車だろうが、パズルのピースだろうが、例えなんて、何でもいい…。
綺麗に当てはまった。
分かった…納得がいった。奉公人から、この母親の態度まで全て。
そりゃ当然だ…。
「隆史さん? どうしました? 顔色が優れませんが…」
最悪な誤解。
「奥様」
麩の外から声がした。
新三郎さんとやらの声だろうか?
「旦那様が、ご到着しました」
「…分かりました」
もう一言も喋らず、俺を一瞥し部屋を出て行ってしまった。
いやぁ…ゴミを見る目で見られるのは、もう慣れてしまったのでいいんだけど…。
こうして部屋に華さんとまた、二人きりになってしまった。
…今のうちに事情を説明しておかないとまずいよな…。
「……いくらお母様でも、殆ど初対面の隆史さんに不埒やら、下衆やら…」
ブツブツまた言ってますけど、ちょっといいですかね!?
「……華さん」
「あ、はい! なんですか?」
「…華さんのお母さんとの会話で、俺が呼ばれた理由が分かりました」
「え? 本当ですか?」
「えー…はい。お家の人達…。大会会場で華さんの言った言葉に……その。すごい誤解をしているみたいです…」
「その様ですけど…。でもお分かりになったのですよね? なんですか?」
…なんというか、すっごい無邪気に聞いてくる。
答えが分かった。教えて! 教えて!って感じで…。
まぁ答えは最悪だけど…。
でもこれ、ストレートに言っていいのだろうか?
ぬ…。
「あのですね…」
「はい! なんですか!?」
やめて! そのキラキラした目やめて!!
なんか今日は、華さんの学校では見ない顔をよく見る気がする…。
正直に言おう。
経験上…隠したら、それこそ後々絶対めんどくさい事になる…。
「…どうもお母さん達の認識では、華さんは…」
「私?」
「…妊娠しているそうです。」
「え?」
「それで、その父親が俺……って事になってるみたいです」
「はぁ…」
「……つまりですね」
はい。敢えてストレートに説明しました。
はい。推理というか、俺が死刑執行になるであろう経緯を、説明させて頂きました。
あの時の言葉。
華さんのお母さんが、倒れたタイミング。
そういった関係だと勘繰られるのは、華さんもいい気分はしないだろうけど…。
思いっきり性のお話デスカラネ。
そういった誤解をされてもしょうがないセリフだし、申し訳ないですけどハッキリと言っておいた方がいいと思った。
「隆史さん」
「…はい」
「それは無いでしょう」
「え!?」
「いえ、流石に…それは無いですよ。面白い事を仰言いますね。でも私も一応女です。そういった冗談はちょっと…」
…嘘だろ? え?
少し顔を赤らめて、少し笑いながら…そして少し怒りながら、んな事言ってますけどね!?
「いやいやいや! 完全にそうですって! 華さんのお母さんも言ってましたよね!? 子供とか身籠るとか!!」
「隆史さん……飛躍しすぎですよ? いくらなんでも…」
「いくら俺でも、そんな冗談言いませんよ!! ただセクハラしただけじゃないですか!!」
「違うんですか?」
「違いますよ!! 華さんの中で、俺は一体どういう扱いになってるの!?」
必死の状況説明を再度しました。
絶対この理由だと。
「んじゃ無きゃ親父さんまで、俺に会いに出張ってこないでしょ!?」
「……」
うーんと、それでも、考え出してしまった。
なんで!? 繋がってしまえば後は、すっごい簡単な答えでしょ!?
「そうでしょうか?」
「そうですよ!!」
「でも、私と隆史さんは別に、恋人関係とかでも無いと、説明しましたよ?」
「だから余計に怒ってるんですよ!!」
はい。3回目の説明です。
俺、クズ。華さん被害者。俺、ゲス。
そこで理解してくれた…。やっと…。
なによ俺。華さんにセクハラしてるようにしか見えないじゃない!!
…再三説明したのに……渋々納得って…。
「あっ! でも、それでしたら話は、簡単では無いのでしょうか?」
「……何でですか」
「私、隆史さんの部屋に一人で行ったこともありませんし…、私の自宅に招いた事もありませんわよね?」
「……」
「戦車道の練習や試合もありますし…特にお母様は、私が日々欠かさない、日課の事も知っていますし」
「……」
「そんな…その…。男女の逢瀬を遂げる時間など無いと、説明すればよろしいのでわ?」
「……」
すっげぇ穴だらけの解決案を提示されました…。
嬉しそうにしないで…絶対それ通りませんから…。
「華さん」
「はい?」
「まず人目をはばかるのですから、お互いの部屋に行っていないと証明できません」
「えー…でも、『後ですね』」
「男はその気になったら、何時でもそこがホームグラウンドです」
「……」
「ですから、証明できません!」
「……隆史さんの仰る意味はわかりませんが、ロクでも無い事を仰っているのはわかります」
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「……」
「お父様」
はい、親父様ご到着。
華さんのお母さんが退室したのは、親父様をお迎えに行ってた為だった。
無言で麩を開け、そのまま二人揃って、正面迎えの座布団に座った。
なんだろう。
普通に入ってきたな。
そして普通に座ったな。
襖を開けて入室した直後、走ってきてぶん殴られるかなぁとは、思っていたのに。
というか…。
「華さん…お父様って…その、格闘家か何か?」
「…はぁ……一応、アレでもお父様も、五十鈴流華道の師範です」
はい。体付きがやべぇ。
華さんのお父さんは、なんというか…紺色の普通の着物を着ていた。
なんつーか、浪人みたい…。
こんな金持ちのお宅のご主人だから、もっと豪華な着物を着てもいいと思うけども…。
それよりも気になったのは、その体格。
着物越しでも、俺には分かる…。
骨格から、首筋、胸元。
華道の師範だよね?
なんでそんなに、筋骨隆々なんすか?
座布団の座り方も、正座とかではなくて、即胡座だった…。
膝に肘をつき、手の上に顎を載せて、前屈みに俺を睨んできた…。
ここまで、一言も無し!!
「久し振りに会った娘に、一言も無しですか? お父様」
「……」
あ…あれ? 華さんに言い方に少し、棘がある。
こういう喋り方って滅多に…というか、俺にしかしなかったような気がするのだけど…。
「久しぶりだな、華」
「……えぇ、お久しぶりですね、お父様。今度はどこをフラフラなさっていたんですか?」
「」
えー!?
ちょっ!?
いきなり喧嘩腰!? 華さんどうしちゃったの!?
父娘中、悪いの!?
「…華」
「……」
お母さんから、静かに名前を呼ばれ、口を閉ざした。
よくよく親子関係に巻き込まれるな…俺。
あ…今回その中心が俺だ…。
「…さてと」
特に姿勢を正すわけでもなく、姿勢を崩した状態で本題を口にした。
「まず。そこの小僧。尾形 隆史って言ったな」
小僧って…。
「…はい」
「自己紹介も何もいらん、俺が良いと言うまで口を開くな。お前の事は全て調べて来た。ここへ到着するのが遅れたのもその為だ」
淡々と説明し、始終睨みつける親父様。
…本当にこの家、ヤクザ絡みじゃないよね?
「…「全て」調べてきた。全く…光源氏の再来ねぇ…」
ぐ…。不本意な二つ名を呼ばれた…。
ここ最近、俺の個人情報ダダ漏れだなぁ…。
「では、華」
「…なんですか」
睨みつける華さん…。
なに? こんな敵意剥き出しの華さんも初めて見る。
「まず、お前の勘当を解く」
「……え?」
「それから……先程学校に、直接退学届けを出しておいた」
「なっ!?」
小僧の事を調べるついでに寄ってきた…と言っている。
この人、大洗の学園艦にいたのかよ。
「今週中に、家に戻って来い。これからの事は、それから考える。以上だ」
「か…勝手な事を言わないで下さい!」
少し乱暴な物言いだったけど、淡々と話す親父様。
退学届を出しておいた…って。
その場に、思わず立ち上がる華さん。
手を握り締めて、それこそ父親を睨みながら叫ぶ。
…華さんが叫んだ。
「今、学校がどんな状況かご存知ですよね!? もうすぐ決勝戦だと言うのに…ふざけないで下さい!」
「…戦車か」
「そうです! 皆さんとここまで頑張って来たのです。ただの誤解なんかで……た…退学……出してきたって……」
退学届けをすでに出した。
結果報告のみ。
青くなって、その場にまた座り込んでしまった。
目を見開いて、下を向いてしまった。
…うん。
「お前達が、無責任な行動をして招いた結果だ。……華の友人達には悪いが、親としては華の身体を優先する」
「…何を誤解しているか存じませんが……人に指を指されるような事なんて!!」
…ま。
親なら同然といえば当然だろうか。
こんなでかい家の一人娘。
身籠っているってなら、高校なんてさっさと退学させ、産ませるなら家に入れる。
戦車なんて、持っての他…って奴だろう。
勘当を解いて家に入れるってなら、産ませる方向で話が進んでるんだなぁ…。
あ~…それで、俺余計に睨まれてるのかぁ…。
それに…。
退学届を出してきた……ねぇ。
直接…ねぇ。
ふーん…。
この親父…。
「それでだ。次はそっちの小僧」
「お父様、話を聞いてください!」
華さんの言葉すら、聞く耳を持たない様な態度で、体ごとこちらを向く。
「……」
無言で睨まれているのに、もうなんか…怖いとかそういった恐怖感が沸かなかった。
この人の「嘘」で、なんとなく分かった。
「選んだか?」
「…何をですか」
「蟹かコンクリ」
若干嬉しそうに言ってきた。
なんというか…。
「……で? どうする小僧」
「……」
睨み合い…というか、自然とそうなった。
この人の思惑が分からないけど、なんだろう…。
いくら親でも…いくら誤解だとしても……。
「……お前、五十鈴家に入れ。高校ぐらいは卒業させてやる。卒業したら……華と籍を入れろ」
「「 !? 」」
あ…華さんとお母さんが、こっち見た。
「あ…あなた!? こ、こんな無頼の下衆を五十鈴家に入れろと!? やめてください!」
「華を、未婚の…しかも父親も分からない母親にさせるつもりか? 華とこいつを会わせる会わせないは、別の話だけどな」
「ぐ……し、しかし……こんな…」
…このお母さんは、何も聞かされていないのだろう。
ただ、悔しそうに俺を睨む。
「華さん…」
「……なんでしょう?」
力なく、こちらを振り向く。
なんだろうか…。
誤解とは言え、こちらの話を聞く前に、全ての事柄を済ましてしまった様な言い方。
この華さんの姿を見ると……。
……。
悪趣味だな。
……腹が立つ。
「誤解だと、言わないんですか?」
「……あ」
退学の言葉のインパクトが強すぎて、忘れてしまっているのだろうか?
まぁ俺が意見するのも、火に油を注ぐ様な気もするが。
多分、下衆等散々な言われ方だし、客観的に見れば俺が一番の悪者だろうな。
うん。
……まぁいいや。
たまには、感情的になってもいいかな?
「華さんのお父さん」
「あ?」
「なんのつもりか知りませんけど、もう茶番はいいでしょ?」
「人の一人娘に仕込んで置いて、茶番だと?」
……盗人猛々しい…。
まさにそんな風だよねぇ? 俺。
でも……。
「……あんた。全部分かっていて、こんな悪趣味な嘘つきやがったな?」
「……嘘だと?」
俺の事、調べてあんなら分かるだろうが。
俺の学校での立場を。
それでいて、動揺させる為にだろうな。
なんにせよ…。
「ついて良い嘘と、悪い嘘ってのがあんだよ。くそ親父」
はい、閲覧ありがとうございました。