転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第46話~母、来艦です!~

「あ、皆さんごめんなさいねぇ。尾形 隆史の母親ですぅ。バカ息子がお世話になってますぅ」

 

何が「ますぅ」だ、クソ婆。

 

突然現れ、突然蹴っ飛ばし、突然とんでもない事を言い出した、我が母親。

しかも嫁候補だ?

なんのつもりだ。

 

近所に挨拶をするかの様に、皆にペコペコ挨拶をしている。

しかし皆、呆気に取られているのか、茫然として……違う。

ドン引きしてる…。

 

いい年こいてポニーで髪を止め、しほさんと同じのスーツ姿。

 

 

一通り挨拶が終わったのか、こちらを睨みつけに来た。

ツカツカと歩み寄り、そのまま俺の前で仁王立ちになる。

指を差し一言。

 

「隆史。あんたの噂聞いたよ? 何やってんの、みっともない」

 

…昨日と続いて、今日もかよ…。

こりゃ昔の知り合いに、会う度に言われることになるのか…。

 

「まさか自分の息子が、そんな女ったらしの、クソ野郎に見られているかと思うと、情けなくて仕方がいないよ!」

 

戦車倉庫内が、静寂に包まれる。

そりゃびっくりするだろうよ。

少なくとも、俺の体格を蹴り一発で、少しでも体が宙を浮くようなぶっ飛ばし方するような人見りゃな。

 

しかも片手で、俺の頭を鷲掴みにして、無理やり起こす。

なんで皆の前で、説教を喰らわないといかんのだ。…頭にくるな。

 

…両の手を掴み、抵抗するが…くそ。

全力で力を出してるのに、ビクともしねぇ!

 

一方的にまた罵られるか、親子喧嘩でも始まるとでも思ったのか、助け舟が入った。

 

「あ…あの!」

 

「ん? なんだい? お嬢さん」

 

沙織さん?

指の間から確認した。

母さんの後ろで、胸の前で手を握り締めている。

 

「あの…隆史君は、噂…ネットとか見ましたけど……あんな噂にあるような酷い人じゃ…あ…ありません!」

 

「……」

 

いきなりの助け舟に、少し面白そうな顔をするオカン。

片手で俺を掴んだまま、半身だけ沙織さんに向いている。

別に睨んだ訳でも無いのだろうが、オカンの目と合ったのだろう。

 

…おい。怯えさせるなよ。

 

「…ふむ」

 

少し笑みを浮かべ、何かに納得した…とうか、面白そうな顔をした。

 

何を楽しんで…ン?

 

楽しむ?

 

「確かに女性の知り合いは、正直引くほど多いですけど…、だらしなく無責任な付き合いをするような…そんな男の人じゃないです!」

 

…うん。引いていたのか…。

そんな沙織さんを見て、目を細めるオカン。

 

「……ふーん。お嬢さん、お名前は?」

 

「え!?……た…武部 沙織です」

 

完全にビビっちゃってるじゃないか。

流石に見かねてか、沙織さんの意見に賛同して、一部…みほとか、華さんとか…近藤さんとか……一部から賛同の声が上がった。

よかった、みほがちゃんと否定してくれて…。

 

「いいね! お嬢さん!!」

 

突然…空いた手の親指をグッと立てて、満面の笑みで沙織さんに向けた。

そのまま近づき、沙織さんの肩をバンバン叩いて偉そうな事を言い出した。

おい、引きずるな。

 

「よし! 合格!!」

 

「ふぇ!?」

 

「あんな噂、本当だとは思っちゃいないよ。見られているって事実が、情けないんだよ私は」

 

「え…」

 

「こーの馬鹿息子が、器用に何股もかけれる何て思っちゃいないわよ。ちょっと調べれば真実も分かるしね!」

 

「そ…そうですか…」

 

一々、大声で叫ぶように喋るモノだからうるさい。

そういえば、普通に「見られているかと思うと」って言っていたな。

 

「はっはー! どうせ馬鹿息子が、いつもの様に八方美人に愛想振りまきながら、女の子を勘違いさせる発言しまっくって、挙句追い詰められてるってだけでしょ?」

「そうです!」

 

そうですって…。すっごい即答したなぁ…。

勘違いさせるような発言なんて…した事あったっけ?

 

「準決勝戦の時の騒ぎも、コイツがはっきりとしないから、まとめて女の子に押し寄せてきた所に、更に変な噂に拍車が掛かった…って、とこでしょう?」

 

…説明の必要が無いくらい、状況が分かっていらっしゃいますね…お母様。

流石母親…と、いうつぶやきが、何箇所から聞こえた…。

 

「女の子の純情を弄ぶなと、親として一回この馬鹿息子をぶん殴てやろうと思って今回来たの!♪」

 

「…蹴りでしたけど…」

 

「あぁ、そうねぇ。…ふんっ!!」

 

ふぶっ!?

 

腕を振り切ったスイングで、げんこつをもらった。

反動で、また地面に叩きつけられた…。

 

やだもう、この親。

 

「……でもね、お嬢さん」

 

「ひゃい!?」

 

完全にドメスティックバイオレンスな母親にドン引きしながら、怯えている沙織さん。

にげて…。

 

「この状況を鑑みて、少なくともこの馬鹿息子なんぞを、ある程度良く思ってる娘さんもいるとも思ったのよ」

 

なんか凄い事言い出したぞ…。

 

「こいつ、昔から…なぜか、年下と年上にモテたからなぁ…」

 

そなの!? 知らない!! それは知らなかった!!

基本、熊扱いだったから意識した事も無かった!!

 

しかし、なんちゅう事をハッキリと…。

やめて…俺の学園生活を掻き乱さないで…。

 

「ほら! この馬鹿、付き合ってる娘がいるのって前提あるから、余計に悪い噂が立っていた訳でしょ!? それがどんな娘か、親なら気になるじゃない!? あっ!! もしかして、お嬢さん? お嬢さんなの!?」

 

キラキラした目で、沙織さんを見つめている…。

 

「…わ、私じゃ無いです」

 

「そうなの…でもお嬢さんなら、お母さん許しちゃう!!」

 

「ふぇ!?」

 

やめて…マジデヤメテ…。

恥ずかしい…本当に恥ずかしいから…帰ってくれ。

 

「あの…隆史君と付き合ってるのは…『待って!』」

 

「お嬢さんが知っているって事は、やっぱりこの学校よね…。戦車道をやっていれば、自ずと行動も限定されるし…この中にいるの?」

 

「えぇ…はい」

 

「やっぱり!? じゃあ、ちょっと叔母さん、当ててみていい!?」

 

「はえっ!?」

 

確認の為か、沙織さんが俺の目を見てきた。

それを分かってか、俺と沙織さんの間に体ごと入って邪魔をしてきた。

全力で首を振ったのに…。

 

「それじゃぁねぇ…、貴女と貴女と……」

 

楽しそうに、順に皆の中から選別をし始めだした。

…みほも選ばれたけど、完全に力のない笑い方をしている。

流石に付き合い長いだけある…母さんの性格を掴んでいる為、何も言わない。

何を言っても無駄なのは分かっているのか、完全に諦めモードに入ってしまった…。おい彼女。

 

「この中の誰かでしょ!? お嬢さ…武部さんも、答えを聞いていなかったらいれてたわよ!?」

 

「!?」

 

腕を組んで満足そうに、ムフーとか息を吐いている。

やめてくれ…沙織さんもすっごい…あれ? なんで満更でも無い顔してるんだろ。

髪の毛を指先で、くるくる触りだしてマゴマゴしだした。

 

「……母さん」

 

「ん!?」

 

「帰れ」

 

 

……。

 

 

背負投げされた…。

 

…コンクリの地面に投げるなよ!! 下手したら死ぬぞ!!

地面につく瞬間、体を引っ張り挙げられたから、そんなに痛くは無かったので、計算された行動が余計に腹立つ!!

 

「!?」

 

そのまま、両足で完全に、倒れた俺の関節を決めつつも、膝まで使い押さえ込むとうコンボを決めてきた…。

一瞬だけ真顔になったので、本気でやりやがったな…。

そのまま鼻歌混じりで、何人かの生徒を呼び出し始めた…。

選んでんじゃねぇ…。

 

…選ばれた人は。

まず真っ先に、柚子先輩。

 

次にみほ、始めあんこうチーム全員…なんで? 近藤さん、佐々木さん、桃先輩。

杏会長……野上さん…。

 

なにこの選別。

 

 

 

「貴女が、隆史の彼女さん?」

 

柚子先輩から、声をかけた…。

 

「ちっ! 違います!!」

 

慌ててパタパタ手を振っている。

というか、いきなり現れたというのに他の会話も無く、戦車倉庫内がまとめて、完全に母さんのペースに巻き込まれてしまっている。

あ、約2名。選ばれた瞬間、佐々木さんと野上さんは反射的に否定したようで、尋問から外れていった…。

 

「そうなの!? 本当に!?」

 

そして何故食い下がる。

柚先輩が引いているじゃないか。

信じられない…という顔をしているなぁ…。

 

「貴女、胸おっきいし…隆史の好みのタイプなのに…」

 

「ヒゥ!?」

 

やめて……。

先程から、俺のHPがガリガリ削られていく…。

あ、ちなみに俺は、母さんに投げられた後、足だけで関節を決められて組み伏せられている。

うん…動けない。

なんだろう。マゴマゴしだして、チラチラこちらを見てきた。

目が会った瞬間、真っ赤になって固まってしまった。

 

「……」

 

やめて…。

 

あ。会長が無表情だ。

 

「じゃあ貴女?」

 

微笑みながら頬に手を置き、いつもの様にゆっくりと喋る華さん。

 

「…残念ながら私では、ありませんね」

 

痛い!! すっごい胃が痛い!!!

小さく聞こえてくる笑い声が、すっごいやだ!

 

「そうなの? 貴女も隆史からすれば、どストライクなのにねぇ…」

 

残念そうに言うなや!! みほの目が痛い!!

あぁ、くっそ!! 動けねぇ!!

 

「あの…私も違います」

 

「わっ私もだ!! 何故、尾形書記など!! …書記など」

 

聞かれる前に、近藤さんと桃先輩が否定した。

ちょっと近藤さんが、暗い顔をしている。

 

まぁ…嫌だよねぇ…。

 

「うそ!?」

 

口を手で隠し、信じられない! って顔をしやがった。

なんで!? 判断基準何なんだよ!!

よろよろと、近藤さんと桃先輩の肩に手を置きに歩き出した為、俺から離れた!

よし! 外れた! 自由だ!!

 

「貴女達も隆史の、趣味趣向に当てはまるのになんで!!??」

 

「そっそうなんですか!?」

 

「!?」

 

やめて…。二人共顔真っ赤になってるじゃないか…。

息子の趣向を暴露するのやめて…。そしてまた合ってるので否定できない…が。

 

「特に、貴女」

 

桃先輩の両肩を掴んだ!?

 

「貴女、胸大きいし…本当に大きわね……。なんかすっごい真面目そうだし…違うの!?」

 

「ピッ!?」

 

…。

 

……うん、まぁ桃先輩、見た目はすっごい好みだけど…。

 

「あの、隆史君のお義母様?」

 

顔が半分引きつった会長が、オカンと桃先輩との間に割り込んだ。

…ン? 気のせいかな? 何か変な事を言った気がするけど…。

 

「えっと、生徒会長の娘だったわね? 何かしら!?」

 

「判断基準をお聞きして宜しいですかね?」

 

我慢しかねたのだろう。

あの親多分、可能性があると思った相手を、順に上から聞いているぽかった。

その為だろうか? 完全に口の端を引きつらせた笑みを浮かべている。

…あぁうん。会長の事は、流石に……察しがついてきました。

 

「そうねぇ。隆史の好み……簡単に言えば…」

 

「言えば?」

 

やめろ…何を言うつもりだ!

 

 

 

 

「隆史は、黒髪ロングの巨乳眼鏡が好みだからかしら!」

 

「」

 

 

 

…。

 

 

「くっそババア!! いい加減にしろよ!!」

 

泣くぞ!! 終いには本気で泣くぞ!!

 

みほと会長が、ゴミを見る目で俺を見てるじゃないか!!

 

「後は…勘ね。隆史を見る目が、明らかに違うからかしら? 私が蹴っ飛ばした時とかねぇ」

 

本気で楽しんでいるかの様に…いや、完全に楽しんでるな…。

 

 

「あの…隆史さん」

 

「…なんですか華さん」

 

心配するかの様に、御機嫌伺いするかの様に声をかけてきた。

なんだろう…このタイミングで…。

ちょっと俺、瀕死なんですけど……。

 

「私、眼鏡をかけたほうが宜しいですか?」

 

「」

 

本当になんでこのタイミング!?

今言うこと!?

できればフチ無しで!!

 

…ちゃうねん!!

 

「フチ無しですねぇ。考えておきますねぇ」

 

あああぁぁぁぁ!!!! 

声!! 声にでてぇたぁぁ!!

 

言うだけ言って、嬉しそうにパタパタと、小走りで皆の所に帰っていってしまった…。

 

「あの…隆史殿」

 

「………………なんでしょうか? 優花里さん」

 

もう死にたい…。

優花里は、なんの用だろう…。

連続してあんこうチームのメンバーから…。

 

「…隆史殿のお母様って…、もしかして「島田 弥生」殿ですか?」

 

「………」

 

なんで? なんで、優花里が母さんの旧姓と含め、フルネームを知ってるの?

やんだもう! ナニコレ! なんなの今日は!!! 怖い!! もうやだっ!!

 

「…何で知ってるの?」

 

「やはりそうでしたか!! あの伝説のぉ!!」

 

えらく上機嫌の優花里もそうだけど…すっごい引っかかる言い方したな。

伝説…って。

 

「おや、胸がソコソコ大きいお嬢さん! 若いのに私の事知ってるの? うれしいねぇ!!」

 

ソコソコって…。

いやぁ! って照れていないで下さいな。

…そういや何か、あのオカンに二つ名あったな…。

たしか…。

 

「やはりですか。あの方が『車外の血暴者』ですかぁ…」

 

あ。いかん。マニアモードゆかりんだ。

ん?…ちょっと引いているな。

 

「いやぁ! 若い頃の話だから、ちょっと恥ずかしいねぇ!」

 

嬉しそうに何言ってんだ。

年考えろ。何が若い頃だ! 昔はヤンチャでしたって言う奴は、嫌いなんだよ!!

 

「なんかそんな名前で呼ばれていたってのは、知ってるけど…まさか優花里が知ってるとは…」

 

「え!? すごい戦車道界では、有名人ですよ!?」

 

というか、隆史殿ってその御子息だったんですねぇ! って…別の意味のキラキラした目で見始めた。…俺を。

 

「…色々と知ってしまったら、後悔しかしそうも無かった為に調べなかった……」

 

千代さんが言ったくらいだし…碌な二つ名じゃないだろうし…。

すぐに喜々として、説明を始める優花里さん。これは止めれない…。

 

「昔の戦車道はですね、結構過激でして…熱くなった選手どうしで…その、場外乱闘とかも多々あったのですよ」

 

「……待て。もういい、察しがついた」

 

もういい。

この話は、ここで終わりだ。聞きたくない。

 

無駄に母親が若い頃から、格闘技を多種多様にやっていた理由に納得がいった。

というか、戦車道なら戦車の練習しろよ!! 何、いろんな格闘技の多段保持者になってんだよ!!

 

「いやぁ…隆史殿……やはり戦車道に深く縁があったのですねぇ…」

 

「……」

 

目をそらす。なんだろう…優花里が俺を見る目が、少し変だった。

少し嬉しそうに喋る、優花里もちょっと変だ。

場外乱闘の件は、優花里もドン引きしたらしいが、オカンは戦車道自体も剛の者だったらしく、男勝りの気持ちのいい選手だったらしい。

 

……なぜ俺は、母親の説明をクラスメートから聞いているのだろう。

 

「ほら! でも、戦車道って女性ばっかりだし! 護身術の講義とかで呼ばれる様にもなったし! 役に立ってるからいいじゃない!!」

 

「それを俺に向けるなよ!」

 

「力だけでも、私に勝ったらやめたげるわよ! 昔、隆史から言ってきた事じゃない」

 

「ぐっ!!」

 

昔からそうだ。護身術とやらの為に何時いかなる時も、何かしら仕掛けるから捌いてみせなさい! ってよくわからん教育が我が家の教育だった。

故に思う。オカン、あんた戦車道の師範代だろう!? 

……正直、沙織さん誘拐事件の時もそうだったけど…、誘拐犯の車に殴り込みかけるとか…結構キモは鍛えられていると実感するから、一概に役に立たないとは言えないけど…。

 

「力って…隆史殿? なに悲しそうな顔してるんですか?」

 

「…勝てないんだよ」

 

「え?」

 

「ただ単純な力比べで、あの母親にまだ勝てないんだよ! くっそ!!」

 

「」

 

「や~い、見せ筋野郎~~♪」

 

「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!! 嬉しそうに言いやがってぇぇぇ!!!」

 

悔しそうな俺を見ると、一々楽しそうに燥ぐこの母親。

マジで、どういう体の造りしてるのか分からない。

傍から見れば、普通の主婦なのに…。

 

 

 

「で? お嬢さんが隆史の彼女? 嫁候補!?」

 

「キゥ!?」

 

完全に話の流れをぶった斬り…いや、ある意味元に戻された。

ほら…優花里も困ってるじゃないか…。

 

変な声上げて…。

 

「ちちち違います!! おこがましいです!! 私なんてぇ!!」

 

「あらそう? 貴女も結構、イイ線いってると思うのだけど?」

 

「ひぃぃ!?」

 

ひぃって…。

真っ赤になって、両方の横髪をモジャモジャしてる。

…ちょっとそれ、やってみたいなぁ…。

 

「それにお嬢さん、自分の事を「私何て」って卑下するモノじゃ無いわよ?」

 

待て。何を言うつもりだ…。

何、慈愛に満ちた目で見てやがる。

 

「そこの馬鹿息子が、土下座して頼む位の逸材よ? 貴女は。だから自信を持ちなさい」

 

「そんな! 隆史殿にはちゃんと西住殿がいますし!! ……今更」

 

「え? みほちゃん?」

 

…ん? 今更?

 

「そうです! 西住殿です!」

 

弾みでバラしてしまった。

 

いつの間にか、優花里の両手に肩を置き、慈愛に満ちた表情で見ていた顔が固まっていた。

そういえば、順番的にみほには、少し後ろの方だったな…。

 

あれ?

 

複雑そうな顔をして、黙り込んでしまった。

 

「……あの?」

 

堪りかねて、取り乱していた優花里が声を掛けるも、俺に確認してきた。

 

「……付き合ってるの? みほちゃんと?」

 

「…………あぁ」

 

「…拳の?」

 

……。

 

「なんでそうなるんだよ!! 何で一々そう、脳筋な考えなんだよ!!」

 

「あんたの親だからよ!!」

 

「……」

 

…何も言えなかった。

 

 

 

 

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「みほちゃんかぁ…。みほちゃんだったかぁ……」

 

腕を組み、何か考え込むように下を向いてしまった。

今までのハイテンションから、大分テンションが下がってしまったオカンの変わり様に、みほが大分不安気な表情を浮かばせていた。

本当にって事は、知っていて俺をさらし首にする様な事をしたって事か!?

 

そもそも、そんなあからさまに態度を変えたら、みほが可哀想だろうが…。

若干の怒りを覚えた。何か不満でもあるのか?

 

「あのっ!」

 

俺より先に、みほが動いた。

意を決した様な、ちょっとキツめの顔をしていた。

 

…昔ならそのまま不安気にオロオロしていただろうに。

みほは、何気に母さん苦手だからなぁ…。

 

「あ、ごめんね? みほちゃんに不満がある訳じゃないのよ?」

 

その様子に気がついたのか、母さんが謝罪をしてきた。

自分でもあからさまだったと、みほに詫びている。

 

「不安にさせてごめんね? でもね…みほちゃんが、相手ってなるとねぇ…」

 

「な…なんでしょうか!?」

 

「しほと親戚関係になるって、事でしょ?」

 

 

「「 」」

 

 

色々と段階をすっとばした発言をした。

 

「何て事を口走ってんだ!! ここ学校!! いい加減にしろよ!!」

 

「なに隆史!! あんた他の娘と、取っ替え引っ変え付き合うつもり!? ぶっ殺すわよ!!」

 

「んな事しねぇよ!! というか、会話しろよ!! 飛躍しすぎなんだよ!!」

 

もうやだ、この母親…。

完全に身内の話で、この場をかき乱している…。

関係ない他の生徒達が困るだけだろうが…。帰れよ…。

 

マジで帰ってくれよ…。

 

「……」

 

周りを見渡してみたら、何かすごい空気になっているのに気がついた…。

うん。

うさぎさんチームとかばさんチーム辺は、爆笑している人とドン引きしている二種に分かれるのだが…。

自動車部は、ナンカ図面ひいてるけど。

 

……修理だよ? 車の修理に図面必要?

 

うん。

 

杏会長…、近藤さん。なんでそんなに、和やかな顔をしているのでしょうか?

納得というか何というか…。

 

「「親も同じ認識か…よし」」

 

…。

 

なんか呟いていた。

 

「…みほ?」

 

「」

 

いかん。完全に赤くなってフリーズしている。

目は…うん。これ瞳孔開いてないか? 生きてる?

 

「……まっ。いっか!!」

 

散々引っ張っておいて、一言で片付けやがった…。

 

「みほちゃん」

 

「」

 

「みほちゃん?」

 

「はっ!?」

 

あかん。

みほも色々とバグってる…。

 

片手を肩に置き、今度はしみじみとした顔で、声をかけている…。

本当に感情が顔に出るというのか…コロコロ表情変えるな…この母親は。

 

「まぁ…なに? 初恋、実って良かったわね!」

 

「ブふぁ!!??」

 

……えっと。

 

「ちっちゃい頃から、言ってたもんねぇ…懐かしいわぁ…」

 

「叔母さん!?」

 

「幼少時お約束の、お嫁さんになる発言もそうだしぃ」

 

「」

 

…えーと。

 

「本当に懐かしい…何度か、みほちゃんから相談も受けてたもんねぇ…」

 

「やめて!! 叔母さん、やめて下さい!!」

 

あわあわ両手を降り出し、オカンを止めようとするが…まぁ無駄だな。

 

「そうそう! 確かまほちゃんと張り合って、寝てる隆史に一緒に…『本当にやめて下さいぃ!!』」

 

ん? そりゃ知らん。

 

「そうなると、あれがみほちゃん達のファー…『怒りますよ!!』」

 

……何やったみほ。

というか、何をされたんだ俺。

 

他の人間に矛先が向き、第三者目線になると急に冷静になるよなぁ…。

知り合いの年上に、記憶が曖昧な幼少時を、根掘り葉掘り暴露されそうになる現象。

 

よくある光景だけど、当人にすればたまったものじゃないな。

 

「…隆史殿。アレ止めなくて良いのですか?」

 

「う~ん…」

 

「西住殿、顔がすっごい真っ赤になってますよ?」

 

「…正直」

 

「……録でもなさそうですけど…なんですか?」

 

「恥辱にまみれて赤面する、みほを見るのは、すっごい好き」

 

「……言い方が、最低ですね」

 

「言ってる自分もそう思う」

 

普通に照れている、みほを見るのは好きデス。

 

うん。

 

「ああぁぁうぅぅぅぅ……」

 

「はぁぁーー……堪能したわ!!」

 

真っ赤になって崩れている、みほを尻目に満足そうな顔で、額を拭っている母親。

うん。

…家の母親が、ご迷惑をおかけしました。

ちょっと「親子ですね…」と、その母親見ながら呟いている優花里が気になるけどね!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー!! みほちゃんの事も分かったし!! 本日の予定の半分は消化できたわ!!」

 

嬉しそうに腰に手を置き、どこかに向かって叫んでいますね。

なんでしょう…。

すごい惨状になっていますね。

 

みほさんが、今までに無いくらい赤面して、崩れ落ちていますし…。

他の関係ない生徒は、もう苦笑しかしていませんね。

 

……

 

……あら? 今半分って言いました?

 

「書記…いや、尾形書記のお母さん、ちょっといいか?」

 

「あら、何かしら!? 眠そうなお嬢さん!!」

 

麻子さんが、片手を上げて隆史さんのお母様に声をかけました。

今までずっと黙っていましたのに…なんでしょうか?

 

「貴女の息子さんに、変なアダ名で呼ぶなと言ってください。一向にヤメテクレマセン」

 

…隆史さんを指差して、ニヤニヤしてますねぇ。

俺と母さんのやり取りを見て、力関係に気がついたのでしょうねぇ。

 

「ん? どういうこと?」

 

隆史さんに余計な言い訳をさせない為か、普段考えられないくらい早口に自己紹介を済ませ、それに由来するアダ名まで紹介しましたねぇ。

 

「……」

 

麻子さん向いてた顔を、隆史さんにゆっくり動かすと、反射的に顔を背けましたねぇ…。

隆史さんの顔、汗がものすごいですね。

 

…胃痛が無くなったら、この状況がまた楽しく…いえ、純粋に堪能できるようになりました♪

 

「…隆史。あんたまだ、気に入った子にあだ名付ける癖、抜けてないの?」

 

「!?」

 

…。

 

気に入った子。

そう言いましたねぇ。

 

そうですね。

グロリアーナのオレンジペコさん始め…あの方、色々と変なあだ名を付ける女性が多数いらっしゃいましたねぇ…。

それに気づいたのか、今度は麻子さんが固まりましたね。

 

 

「ごめんね、お嬢さん。ちゃんと言っておくから…」

 

「…い、いや……」

 

「でも、貴女よっぽど気に入られたのねぇ…隆史があだ名付けるなんて…」

 

「」

 

麻子さんの動きが、完全に固まりましたね。

 

……。

 

まぁいいです。

 

 

「そういやぁ…昔からそうだったわね。確か小学生の時もいたわよね?」

 

「…小学生? …あっ!?」

 

「昔は、何度か家に来てたわよね? 確か…」

 

「ちょっと待て! それは…」

 

…何か後ろめたい事でもあるのでしょうか?

みほさんを一瞬見て、お母様の発言を止めようとしましたけど…完全に今の顔は焦ってますね。

みほさんも気がついたようです。

まだ顔は赤いですね。

 

「ドイツへ行っちゃった娘だったかしら? エミミンとか呼んでたわねぇ?」

 

「」

 

止めようと突き出した腕が止まってしまいましたね。

えぇ…なんでしょうか?

 

「あれ? 青森の家で、あんた携帯で話してる時…そんな名前呼んでいた時あったわね」

 

「」

 

 

マタデスカ?

 

はい。

 

みほさんが、動きました。

 

「隆史君?」

 

「ハイ」

 

「…エミちゃん?」

 

「…………ヘイ」

 

「その呼び方、私知らない」

 

「……たまに呼んでました」

 

「あれ? 青森って事は、つい最近?」

 

「…た…たまにメールと電話キマス」

 

「……」

 

「……」

 

「そっかぁ…隆史君は、エミちゃんと連絡取り合ってたんだぁ」

 

「ちょっと、色々ありまして……」

 

「元気?」

 

「…はい。「電話口では」すこぶる元気そう…でした」

 

「そっかぁ…良かった」

 

「…やましい事はありませんよ?」

 

「…」

 

「……」

 

…そうですねぇ。また女性の名前がでましたねぇ…。

本当に。

 

またですか?

 

 

 

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「あ…いけない…。ちょっと遊びすぎた」

 

…すぐ横で、隆史さんのお母様の呟きが聞こえました。

腕の時計を見てますね。

 

「さて…ちょっと、隆史」

 

「……」

 

…隆史さ~ん。青くなっていないで。

呼ばれていますよ?

 

「おい、馬鹿息子!」

 

「お…おぉ!!」

 

ようやく気がついたのか、お母様に呼びかけに反応しました。

 

「さて、ここからが本題」

 

「…じゃあ今までのは、なんだったんだよ…」

 

「一つの目的よ!! ……で、次はもう一つの目的ね」

 

隆史さんの疑問を無視し…生徒会長?

その会長の元に隆史さんの腕を引っ張りながら、連れて行きました。

 

「…大洗学園、生徒会長殿」

 

いきなりでした。

先程までの、気さくな感じは無く、真面目…とも違います。

自衛隊員…、軍人。

その様なイメージ。空気を感じます。

敬礼でもしてしまう様な、ビシッっと直立しました。

 

「ぉ…、はい。なんでしょうか?」

 

急に雰囲気が変わった為に、会長も少し動じてますね。

 

「決勝戦前の大事の時に、大変申し訳ございませんが、息子を数日お借りしますが宜しいでしょうか?」

 

「え……」

 

「はっ!?」

 

「家庭の事情で内情は申し上げられませんが、試合当日には間に合わせる様に努力致します」

 

「「……」」

 

即、文句を言いそうな隆史さん。

しかし、疑問も何も言いませんでした。

 

「わ…分かりました」

 

有無を言わせない。

そんな脅迫じみた雰囲気まで体から発しています。

本当に…先程までの方と同一人物なのでしょうか…?

 

基本、物事に動じそうに無い会長が返事をするだけでした…。

 

「ありがとうございます」

 

静かに頭を下げると、踵を返し隆史さんと後ろを振り向きました。

 

「少し失礼します」

 

少し離れ…と言っても、こちらに向かって歩き、隆史さんの肩を組み、強制的に前屈みにさせ何か話しだしました。

 

……周りには、聞こえないように言ったのでしょが、私には…聞こえてしまいました。

 

「隆史。悪いが今日、島田家へ向かう」

「……なんかあったのか?」

 

心当たりがあったのでしょう。

ですから、先程も驚いてはいましたが、特に何も言わなかったのでしょうか?

 

 

 

 

 

「まぁ今回は、そんなに急いじゃいないから。もう少し後でも良いのだけどねぇ…ちょっと、まだ生徒会長さんに話があるし…」

「…杏会長に?」

 

この話の後。お母様は、会長とまた会話を始めました。。

何枚かの書類…でしょうか? それを渡しながら、先ほどのまた真面目な雰囲気で終始話していました。

 

 

「防犯対策はしておかないとねぇ。まぁ…いいや。要するに…」

「要するに?」

 

 

この後。

隆史さんは、お母様と一緒にまたどこかへ、出かけて行ってしまいました。

 

 

「「島田 忠雄」…あの男が見つかった」

「…あの蛙面が?」

 

 

お母様が乗ってきたであろう、ヘリコプターに乗り込んで。

 

 

「ただ…」

「ただ?」

 

 

いつもの様に、まぁ毎回ですけど…試合前に出かけていってしまうのは…。

…ただ、今回は違いました。

 

 

 

「…意識不明の状態で、発見されたのよ」

 

 

 

試合当日になっても。

 

隆史さんは、帰ってきませんでした。

 




はい、閲覧ありがとうございました。

ルートピンク編を開始しました。
が、メインはこちらですので、あちらはかなり不定期になります。

今回の話書くのもすっごい時間かかった……。

ありがとうございました

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