「あ、皆さんごめんなさいねぇ。尾形 隆史の母親ですぅ。バカ息子がお世話になってますぅ」
何が「ますぅ」だ、クソ婆。
突然現れ、突然蹴っ飛ばし、突然とんでもない事を言い出した、我が母親。
しかも嫁候補だ?
なんのつもりだ。
近所に挨拶をするかの様に、皆にペコペコ挨拶をしている。
しかし皆、呆気に取られているのか、茫然として……違う。
ドン引きしてる…。
いい年こいてポニーで髪を止め、しほさんと同じのスーツ姿。
一通り挨拶が終わったのか、こちらを睨みつけに来た。
ツカツカと歩み寄り、そのまま俺の前で仁王立ちになる。
指を差し一言。
「隆史。あんたの噂聞いたよ? 何やってんの、みっともない」
…昨日と続いて、今日もかよ…。
こりゃ昔の知り合いに、会う度に言われることになるのか…。
「まさか自分の息子が、そんな女ったらしの、クソ野郎に見られているかと思うと、情けなくて仕方がいないよ!」
戦車倉庫内が、静寂に包まれる。
そりゃびっくりするだろうよ。
少なくとも、俺の体格を蹴り一発で、少しでも体が宙を浮くようなぶっ飛ばし方するような人見りゃな。
しかも片手で、俺の頭を鷲掴みにして、無理やり起こす。
なんで皆の前で、説教を喰らわないといかんのだ。…頭にくるな。
…両の手を掴み、抵抗するが…くそ。
全力で力を出してるのに、ビクともしねぇ!
一方的にまた罵られるか、親子喧嘩でも始まるとでも思ったのか、助け舟が入った。
「あ…あの!」
「ん? なんだい? お嬢さん」
沙織さん?
指の間から確認した。
母さんの後ろで、胸の前で手を握り締めている。
「あの…隆史君は、噂…ネットとか見ましたけど……あんな噂にあるような酷い人じゃ…あ…ありません!」
「……」
いきなりの助け舟に、少し面白そうな顔をするオカン。
片手で俺を掴んだまま、半身だけ沙織さんに向いている。
別に睨んだ訳でも無いのだろうが、オカンの目と合ったのだろう。
…おい。怯えさせるなよ。
「…ふむ」
少し笑みを浮かべ、何かに納得した…とうか、面白そうな顔をした。
何を楽しんで…ン?
楽しむ?
「確かに女性の知り合いは、正直引くほど多いですけど…、だらしなく無責任な付き合いをするような…そんな男の人じゃないです!」
…うん。引いていたのか…。
そんな沙織さんを見て、目を細めるオカン。
「……ふーん。お嬢さん、お名前は?」
「え!?……た…武部 沙織です」
完全にビビっちゃってるじゃないか。
流石に見かねてか、沙織さんの意見に賛同して、一部…みほとか、華さんとか…近藤さんとか……一部から賛同の声が上がった。
よかった、みほがちゃんと否定してくれて…。
「いいね! お嬢さん!!」
突然…空いた手の親指をグッと立てて、満面の笑みで沙織さんに向けた。
そのまま近づき、沙織さんの肩をバンバン叩いて偉そうな事を言い出した。
おい、引きずるな。
「よし! 合格!!」
「ふぇ!?」
「あんな噂、本当だとは思っちゃいないよ。見られているって事実が、情けないんだよ私は」
「え…」
「こーの馬鹿息子が、器用に何股もかけれる何て思っちゃいないわよ。ちょっと調べれば真実も分かるしね!」
「そ…そうですか…」
一々、大声で叫ぶように喋るモノだからうるさい。
そういえば、普通に「見られているかと思うと」って言っていたな。
「はっはー! どうせ馬鹿息子が、いつもの様に八方美人に愛想振りまきながら、女の子を勘違いさせる発言しまっくって、挙句追い詰められてるってだけでしょ?」
「そうです!」
そうですって…。すっごい即答したなぁ…。
勘違いさせるような発言なんて…した事あったっけ?
「準決勝戦の時の騒ぎも、コイツがはっきりとしないから、まとめて女の子に押し寄せてきた所に、更に変な噂に拍車が掛かった…って、とこでしょう?」
…説明の必要が無いくらい、状況が分かっていらっしゃいますね…お母様。
流石母親…と、いうつぶやきが、何箇所から聞こえた…。
「女の子の純情を弄ぶなと、親として一回この馬鹿息子をぶん殴てやろうと思って今回来たの!♪」
「…蹴りでしたけど…」
「あぁ、そうねぇ。…ふんっ!!」
ふぶっ!?
腕を振り切ったスイングで、げんこつをもらった。
反動で、また地面に叩きつけられた…。
やだもう、この親。
「……でもね、お嬢さん」
「ひゃい!?」
完全にドメスティックバイオレンスな母親にドン引きしながら、怯えている沙織さん。
にげて…。
「この状況を鑑みて、少なくともこの馬鹿息子なんぞを、ある程度良く思ってる娘さんもいるとも思ったのよ」
なんか凄い事言い出したぞ…。
「こいつ、昔から…なぜか、年下と年上にモテたからなぁ…」
そなの!? 知らない!! それは知らなかった!!
基本、熊扱いだったから意識した事も無かった!!
しかし、なんちゅう事をハッキリと…。
やめて…俺の学園生活を掻き乱さないで…。
「ほら! この馬鹿、付き合ってる娘がいるのって前提あるから、余計に悪い噂が立っていた訳でしょ!? それがどんな娘か、親なら気になるじゃない!? あっ!! もしかして、お嬢さん? お嬢さんなの!?」
キラキラした目で、沙織さんを見つめている…。
「…わ、私じゃ無いです」
「そうなの…でもお嬢さんなら、お母さん許しちゃう!!」
「ふぇ!?」
やめて…マジデヤメテ…。
恥ずかしい…本当に恥ずかしいから…帰ってくれ。
「あの…隆史君と付き合ってるのは…『待って!』」
「お嬢さんが知っているって事は、やっぱりこの学校よね…。戦車道をやっていれば、自ずと行動も限定されるし…この中にいるの?」
「えぇ…はい」
「やっぱり!? じゃあ、ちょっと叔母さん、当ててみていい!?」
「はえっ!?」
確認の為か、沙織さんが俺の目を見てきた。
それを分かってか、俺と沙織さんの間に体ごと入って邪魔をしてきた。
全力で首を振ったのに…。
「それじゃぁねぇ…、貴女と貴女と……」
楽しそうに、順に皆の中から選別をし始めだした。
…みほも選ばれたけど、完全に力のない笑い方をしている。
流石に付き合い長いだけある…母さんの性格を掴んでいる為、何も言わない。
何を言っても無駄なのは分かっているのか、完全に諦めモードに入ってしまった…。おい彼女。
「この中の誰かでしょ!? お嬢さ…武部さんも、答えを聞いていなかったらいれてたわよ!?」
「!?」
腕を組んで満足そうに、ムフーとか息を吐いている。
やめてくれ…沙織さんもすっごい…あれ? なんで満更でも無い顔してるんだろ。
髪の毛を指先で、くるくる触りだしてマゴマゴしだした。
「……母さん」
「ん!?」
「帰れ」
……。
背負投げされた…。
…コンクリの地面に投げるなよ!! 下手したら死ぬぞ!!
地面につく瞬間、体を引っ張り挙げられたから、そんなに痛くは無かったので、計算された行動が余計に腹立つ!!
「!?」
そのまま、両足で完全に、倒れた俺の関節を決めつつも、膝まで使い押さえ込むとうコンボを決めてきた…。
一瞬だけ真顔になったので、本気でやりやがったな…。
そのまま鼻歌混じりで、何人かの生徒を呼び出し始めた…。
選んでんじゃねぇ…。
…選ばれた人は。
まず真っ先に、柚子先輩。
次にみほ、始めあんこうチーム全員…なんで? 近藤さん、佐々木さん、桃先輩。
杏会長……野上さん…。
なにこの選別。
「貴女が、隆史の彼女さん?」
柚子先輩から、声をかけた…。
「ちっ! 違います!!」
慌ててパタパタ手を振っている。
というか、いきなり現れたというのに他の会話も無く、戦車倉庫内がまとめて、完全に母さんのペースに巻き込まれてしまっている。
あ、約2名。選ばれた瞬間、佐々木さんと野上さんは反射的に否定したようで、尋問から外れていった…。
「そうなの!? 本当に!?」
そして何故食い下がる。
柚先輩が引いているじゃないか。
信じられない…という顔をしているなぁ…。
「貴女、胸おっきいし…隆史の好みのタイプなのに…」
「ヒゥ!?」
やめて……。
先程から、俺のHPがガリガリ削られていく…。
あ、ちなみに俺は、母さんに投げられた後、足だけで関節を決められて組み伏せられている。
うん…動けない。
なんだろう。マゴマゴしだして、チラチラこちらを見てきた。
目が会った瞬間、真っ赤になって固まってしまった。
「……」
やめて…。
あ。会長が無表情だ。
「じゃあ貴女?」
微笑みながら頬に手を置き、いつもの様にゆっくりと喋る華さん。
「…残念ながら私では、ありませんね」
痛い!! すっごい胃が痛い!!!
小さく聞こえてくる笑い声が、すっごいやだ!
「そうなの? 貴女も隆史からすれば、どストライクなのにねぇ…」
残念そうに言うなや!! みほの目が痛い!!
あぁ、くっそ!! 動けねぇ!!
「あの…私も違います」
「わっ私もだ!! 何故、尾形書記など!! …書記など」
聞かれる前に、近藤さんと桃先輩が否定した。
ちょっと近藤さんが、暗い顔をしている。
まぁ…嫌だよねぇ…。
「うそ!?」
口を手で隠し、信じられない! って顔をしやがった。
なんで!? 判断基準何なんだよ!!
よろよろと、近藤さんと桃先輩の肩に手を置きに歩き出した為、俺から離れた!
よし! 外れた! 自由だ!!
「貴女達も隆史の、趣味趣向に当てはまるのになんで!!??」
「そっそうなんですか!?」
「!?」
やめて…。二人共顔真っ赤になってるじゃないか…。
息子の趣向を暴露するのやめて…。そしてまた合ってるので否定できない…が。
「特に、貴女」
桃先輩の両肩を掴んだ!?
「貴女、胸大きいし…本当に大きわね……。なんかすっごい真面目そうだし…違うの!?」
「ピッ!?」
…。
……うん、まぁ桃先輩、見た目はすっごい好みだけど…。
「あの、隆史君のお義母様?」
顔が半分引きつった会長が、オカンと桃先輩との間に割り込んだ。
…ン? 気のせいかな? 何か変な事を言った気がするけど…。
「えっと、生徒会長の娘だったわね? 何かしら!?」
「判断基準をお聞きして宜しいですかね?」
我慢しかねたのだろう。
あの親多分、可能性があると思った相手を、順に上から聞いているぽかった。
その為だろうか? 完全に口の端を引きつらせた笑みを浮かべている。
…あぁうん。会長の事は、流石に……察しがついてきました。
「そうねぇ。隆史の好み……簡単に言えば…」
「言えば?」
やめろ…何を言うつもりだ!
「隆史は、黒髪ロングの巨乳眼鏡が好みだからかしら!」
「」
…。
「くっそババア!! いい加減にしろよ!!」
泣くぞ!! 終いには本気で泣くぞ!!
みほと会長が、ゴミを見る目で俺を見てるじゃないか!!
「後は…勘ね。隆史を見る目が、明らかに違うからかしら? 私が蹴っ飛ばした時とかねぇ」
本気で楽しんでいるかの様に…いや、完全に楽しんでるな…。
「あの…隆史さん」
「…なんですか華さん」
心配するかの様に、御機嫌伺いするかの様に声をかけてきた。
なんだろう…このタイミングで…。
ちょっと俺、瀕死なんですけど……。
「私、眼鏡をかけたほうが宜しいですか?」
「」
本当になんでこのタイミング!?
今言うこと!?
できればフチ無しで!!
…ちゃうねん!!
「フチ無しですねぇ。考えておきますねぇ」
あああぁぁぁぁ!!!!
声!! 声にでてぇたぁぁ!!
言うだけ言って、嬉しそうにパタパタと、小走りで皆の所に帰っていってしまった…。
「あの…隆史殿」
「………………なんでしょうか? 優花里さん」
もう死にたい…。
優花里は、なんの用だろう…。
連続してあんこうチームのメンバーから…。
「…隆史殿のお母様って…、もしかして「島田 弥生」殿ですか?」
「………」
なんで? なんで、優花里が母さんの旧姓と含め、フルネームを知ってるの?
やんだもう! ナニコレ! なんなの今日は!!! 怖い!! もうやだっ!!
「…何で知ってるの?」
「やはりそうでしたか!! あの伝説のぉ!!」
えらく上機嫌の優花里もそうだけど…すっごい引っかかる言い方したな。
伝説…って。
「おや、胸がソコソコ大きいお嬢さん! 若いのに私の事知ってるの? うれしいねぇ!!」
ソコソコって…。
いやぁ! って照れていないで下さいな。
…そういや何か、あのオカンに二つ名あったな…。
たしか…。
「やはりですか。あの方が『車外の血暴者』ですかぁ…」
あ。いかん。マニアモードゆかりんだ。
ん?…ちょっと引いているな。
「いやぁ! 若い頃の話だから、ちょっと恥ずかしいねぇ!」
嬉しそうに何言ってんだ。
年考えろ。何が若い頃だ! 昔はヤンチャでしたって言う奴は、嫌いなんだよ!!
「なんかそんな名前で呼ばれていたってのは、知ってるけど…まさか優花里が知ってるとは…」
「え!? すごい戦車道界では、有名人ですよ!?」
というか、隆史殿ってその御子息だったんですねぇ! って…別の意味のキラキラした目で見始めた。…俺を。
「…色々と知ってしまったら、後悔しかしそうも無かった為に調べなかった……」
千代さんが言ったくらいだし…碌な二つ名じゃないだろうし…。
すぐに喜々として、説明を始める優花里さん。これは止めれない…。
「昔の戦車道はですね、結構過激でして…熱くなった選手どうしで…その、場外乱闘とかも多々あったのですよ」
「……待て。もういい、察しがついた」
もういい。
この話は、ここで終わりだ。聞きたくない。
無駄に母親が若い頃から、格闘技を多種多様にやっていた理由に納得がいった。
というか、戦車道なら戦車の練習しろよ!! 何、いろんな格闘技の多段保持者になってんだよ!!
「いやぁ…隆史殿……やはり戦車道に深く縁があったのですねぇ…」
「……」
目をそらす。なんだろう…優花里が俺を見る目が、少し変だった。
少し嬉しそうに喋る、優花里もちょっと変だ。
場外乱闘の件は、優花里もドン引きしたらしいが、オカンは戦車道自体も剛の者だったらしく、男勝りの気持ちのいい選手だったらしい。
……なぜ俺は、母親の説明をクラスメートから聞いているのだろう。
「ほら! でも、戦車道って女性ばっかりだし! 護身術の講義とかで呼ばれる様にもなったし! 役に立ってるからいいじゃない!!」
「それを俺に向けるなよ!」
「力だけでも、私に勝ったらやめたげるわよ! 昔、隆史から言ってきた事じゃない」
「ぐっ!!」
昔からそうだ。護身術とやらの為に何時いかなる時も、何かしら仕掛けるから捌いてみせなさい! ってよくわからん教育が我が家の教育だった。
故に思う。オカン、あんた戦車道の師範代だろう!?
……正直、沙織さん誘拐事件の時もそうだったけど…、誘拐犯の車に殴り込みかけるとか…結構キモは鍛えられていると実感するから、一概に役に立たないとは言えないけど…。
「力って…隆史殿? なに悲しそうな顔してるんですか?」
「…勝てないんだよ」
「え?」
「ただ単純な力比べで、あの母親にまだ勝てないんだよ! くっそ!!」
「」
「や~い、見せ筋野郎~~♪」
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!! 嬉しそうに言いやがってぇぇぇ!!!」
悔しそうな俺を見ると、一々楽しそうに燥ぐこの母親。
マジで、どういう体の造りしてるのか分からない。
傍から見れば、普通の主婦なのに…。
「で? お嬢さんが隆史の彼女? 嫁候補!?」
「キゥ!?」
完全に話の流れをぶった斬り…いや、ある意味元に戻された。
ほら…優花里も困ってるじゃないか…。
変な声上げて…。
「ちちち違います!! おこがましいです!! 私なんてぇ!!」
「あらそう? 貴女も結構、イイ線いってると思うのだけど?」
「ひぃぃ!?」
ひぃって…。
真っ赤になって、両方の横髪をモジャモジャしてる。
…ちょっとそれ、やってみたいなぁ…。
「それにお嬢さん、自分の事を「私何て」って卑下するモノじゃ無いわよ?」
待て。何を言うつもりだ…。
何、慈愛に満ちた目で見てやがる。
「そこの馬鹿息子が、土下座して頼む位の逸材よ? 貴女は。だから自信を持ちなさい」
「そんな! 隆史殿にはちゃんと西住殿がいますし!! ……今更」
「え? みほちゃん?」
…ん? 今更?
「そうです! 西住殿です!」
弾みでバラしてしまった。
いつの間にか、優花里の両手に肩を置き、慈愛に満ちた表情で見ていた顔が固まっていた。
そういえば、順番的にみほには、少し後ろの方だったな…。
あれ?
複雑そうな顔をして、黙り込んでしまった。
「……あの?」
堪りかねて、取り乱していた優花里が声を掛けるも、俺に確認してきた。
「……付き合ってるの? みほちゃんと?」
「…………あぁ」
「…拳の?」
……。
「なんでそうなるんだよ!! 何で一々そう、脳筋な考えなんだよ!!」
「あんたの親だからよ!!」
「……」
…何も言えなかった。
---------
------
---
「みほちゃんかぁ…。みほちゃんだったかぁ……」
腕を組み、何か考え込むように下を向いてしまった。
今までのハイテンションから、大分テンションが下がってしまったオカンの変わり様に、みほが大分不安気な表情を浮かばせていた。
本当にって事は、知っていて俺をさらし首にする様な事をしたって事か!?
そもそも、そんなあからさまに態度を変えたら、みほが可哀想だろうが…。
若干の怒りを覚えた。何か不満でもあるのか?
「あのっ!」
俺より先に、みほが動いた。
意を決した様な、ちょっとキツめの顔をしていた。
…昔ならそのまま不安気にオロオロしていただろうに。
みほは、何気に母さん苦手だからなぁ…。
「あ、ごめんね? みほちゃんに不満がある訳じゃないのよ?」
その様子に気がついたのか、母さんが謝罪をしてきた。
自分でもあからさまだったと、みほに詫びている。
「不安にさせてごめんね? でもね…みほちゃんが、相手ってなるとねぇ…」
「な…なんでしょうか!?」
「しほと親戚関係になるって、事でしょ?」
「「 」」
色々と段階をすっとばした発言をした。
「何て事を口走ってんだ!! ここ学校!! いい加減にしろよ!!」
「なに隆史!! あんた他の娘と、取っ替え引っ変え付き合うつもり!? ぶっ殺すわよ!!」
「んな事しねぇよ!! というか、会話しろよ!! 飛躍しすぎなんだよ!!」
もうやだ、この母親…。
完全に身内の話で、この場をかき乱している…。
関係ない他の生徒達が困るだけだろうが…。帰れよ…。
マジで帰ってくれよ…。
「……」
周りを見渡してみたら、何かすごい空気になっているのに気がついた…。
うん。
うさぎさんチームとかばさんチーム辺は、爆笑している人とドン引きしている二種に分かれるのだが…。
自動車部は、ナンカ図面ひいてるけど。
……修理だよ? 車の修理に図面必要?
うん。
杏会長…、近藤さん。なんでそんなに、和やかな顔をしているのでしょうか?
納得というか何というか…。
「「親も同じ認識か…よし」」
…。
なんか呟いていた。
「…みほ?」
「」
いかん。完全に赤くなってフリーズしている。
目は…うん。これ瞳孔開いてないか? 生きてる?
「……まっ。いっか!!」
散々引っ張っておいて、一言で片付けやがった…。
「みほちゃん」
「」
「みほちゃん?」
「はっ!?」
あかん。
みほも色々とバグってる…。
片手を肩に置き、今度はしみじみとした顔で、声をかけている…。
本当に感情が顔に出るというのか…コロコロ表情変えるな…この母親は。
「まぁ…なに? 初恋、実って良かったわね!」
「ブふぁ!!??」
……えっと。
「ちっちゃい頃から、言ってたもんねぇ…懐かしいわぁ…」
「叔母さん!?」
「幼少時お約束の、お嫁さんになる発言もそうだしぃ」
「」
…えーと。
「本当に懐かしい…何度か、みほちゃんから相談も受けてたもんねぇ…」
「やめて!! 叔母さん、やめて下さい!!」
あわあわ両手を降り出し、オカンを止めようとするが…まぁ無駄だな。
「そうそう! 確かまほちゃんと張り合って、寝てる隆史に一緒に…『本当にやめて下さいぃ!!』」
ん? そりゃ知らん。
「そうなると、あれがみほちゃん達のファー…『怒りますよ!!』」
……何やったみほ。
というか、何をされたんだ俺。
他の人間に矛先が向き、第三者目線になると急に冷静になるよなぁ…。
知り合いの年上に、記憶が曖昧な幼少時を、根掘り葉掘り暴露されそうになる現象。
よくある光景だけど、当人にすればたまったものじゃないな。
「…隆史殿。アレ止めなくて良いのですか?」
「う~ん…」
「西住殿、顔がすっごい真っ赤になってますよ?」
「…正直」
「……録でもなさそうですけど…なんですか?」
「恥辱にまみれて赤面する、みほを見るのは、すっごい好き」
「……言い方が、最低ですね」
「言ってる自分もそう思う」
普通に照れている、みほを見るのは好きデス。
うん。
「ああぁぁうぅぅぅぅ……」
「はぁぁーー……堪能したわ!!」
真っ赤になって崩れている、みほを尻目に満足そうな顔で、額を拭っている母親。
うん。
…家の母親が、ご迷惑をおかけしました。
ちょっと「親子ですね…」と、その母親見ながら呟いている優花里が気になるけどね!
◆
「ふー!! みほちゃんの事も分かったし!! 本日の予定の半分は消化できたわ!!」
嬉しそうに腰に手を置き、どこかに向かって叫んでいますね。
なんでしょう…。
すごい惨状になっていますね。
みほさんが、今までに無いくらい赤面して、崩れ落ちていますし…。
他の関係ない生徒は、もう苦笑しかしていませんね。
……
……あら? 今半分って言いました?
「書記…いや、尾形書記のお母さん、ちょっといいか?」
「あら、何かしら!? 眠そうなお嬢さん!!」
麻子さんが、片手を上げて隆史さんのお母様に声をかけました。
今までずっと黙っていましたのに…なんでしょうか?
「貴女の息子さんに、変なアダ名で呼ぶなと言ってください。一向にヤメテクレマセン」
…隆史さんを指差して、ニヤニヤしてますねぇ。
俺と母さんのやり取りを見て、力関係に気がついたのでしょうねぇ。
「ん? どういうこと?」
隆史さんに余計な言い訳をさせない為か、普段考えられないくらい早口に自己紹介を済ませ、それに由来するアダ名まで紹介しましたねぇ。
「……」
麻子さん向いてた顔を、隆史さんにゆっくり動かすと、反射的に顔を背けましたねぇ…。
隆史さんの顔、汗がものすごいですね。
…胃痛が無くなったら、この状況がまた楽しく…いえ、純粋に堪能できるようになりました♪
「…隆史。あんたまだ、気に入った子にあだ名付ける癖、抜けてないの?」
「!?」
…。
気に入った子。
そう言いましたねぇ。
そうですね。
グロリアーナのオレンジペコさん始め…あの方、色々と変なあだ名を付ける女性が多数いらっしゃいましたねぇ…。
それに気づいたのか、今度は麻子さんが固まりましたね。
「ごめんね、お嬢さん。ちゃんと言っておくから…」
「…い、いや……」
「でも、貴女よっぽど気に入られたのねぇ…隆史があだ名付けるなんて…」
「」
麻子さんの動きが、完全に固まりましたね。
……。
まぁいいです。
「そういやぁ…昔からそうだったわね。確か小学生の時もいたわよね?」
「…小学生? …あっ!?」
「昔は、何度か家に来てたわよね? 確か…」
「ちょっと待て! それは…」
…何か後ろめたい事でもあるのでしょうか?
みほさんを一瞬見て、お母様の発言を止めようとしましたけど…完全に今の顔は焦ってますね。
みほさんも気がついたようです。
まだ顔は赤いですね。
「ドイツへ行っちゃった娘だったかしら? エミミンとか呼んでたわねぇ?」
「」
止めようと突き出した腕が止まってしまいましたね。
えぇ…なんでしょうか?
「あれ? 青森の家で、あんた携帯で話してる時…そんな名前呼んでいた時あったわね」
「」
マタデスカ?
はい。
みほさんが、動きました。
「隆史君?」
「ハイ」
「…エミちゃん?」
「…………ヘイ」
「その呼び方、私知らない」
「……たまに呼んでました」
「あれ? 青森って事は、つい最近?」
「…た…たまにメールと電話キマス」
「……」
「……」
「そっかぁ…隆史君は、エミちゃんと連絡取り合ってたんだぁ」
「ちょっと、色々ありまして……」
「元気?」
「…はい。「電話口では」すこぶる元気そう…でした」
「そっかぁ…良かった」
「…やましい事はありませんよ?」
「…」
「……」
…そうですねぇ。また女性の名前がでましたねぇ…。
本当に。
またですか?
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「あ…いけない…。ちょっと遊びすぎた」
…すぐ横で、隆史さんのお母様の呟きが聞こえました。
腕の時計を見てますね。
「さて…ちょっと、隆史」
「……」
…隆史さ~ん。青くなっていないで。
呼ばれていますよ?
「おい、馬鹿息子!」
「お…おぉ!!」
ようやく気がついたのか、お母様に呼びかけに反応しました。
「さて、ここからが本題」
「…じゃあ今までのは、なんだったんだよ…」
「一つの目的よ!! ……で、次はもう一つの目的ね」
隆史さんの疑問を無視し…生徒会長?
その会長の元に隆史さんの腕を引っ張りながら、連れて行きました。
「…大洗学園、生徒会長殿」
いきなりでした。
先程までの、気さくな感じは無く、真面目…とも違います。
自衛隊員…、軍人。
その様なイメージ。空気を感じます。
敬礼でもしてしまう様な、ビシッっと直立しました。
「ぉ…、はい。なんでしょうか?」
急に雰囲気が変わった為に、会長も少し動じてますね。
「決勝戦前の大事の時に、大変申し訳ございませんが、息子を数日お借りしますが宜しいでしょうか?」
「え……」
「はっ!?」
「家庭の事情で内情は申し上げられませんが、試合当日には間に合わせる様に努力致します」
「「……」」
即、文句を言いそうな隆史さん。
しかし、疑問も何も言いませんでした。
「わ…分かりました」
有無を言わせない。
そんな脅迫じみた雰囲気まで体から発しています。
本当に…先程までの方と同一人物なのでしょうか…?
基本、物事に動じそうに無い会長が返事をするだけでした…。
「ありがとうございます」
静かに頭を下げると、踵を返し隆史さんと後ろを振り向きました。
「少し失礼します」
少し離れ…と言っても、こちらに向かって歩き、隆史さんの肩を組み、強制的に前屈みにさせ何か話しだしました。
……周りには、聞こえないように言ったのでしょが、私には…聞こえてしまいました。
「隆史。悪いが今日、島田家へ向かう」
「……なんかあったのか?」
心当たりがあったのでしょう。
ですから、先程も驚いてはいましたが、特に何も言わなかったのでしょうか?
「まぁ今回は、そんなに急いじゃいないから。もう少し後でも良いのだけどねぇ…ちょっと、まだ生徒会長さんに話があるし…」
「…杏会長に?」
この話の後。お母様は、会長とまた会話を始めました。。
何枚かの書類…でしょうか? それを渡しながら、先ほどのまた真面目な雰囲気で終始話していました。
「防犯対策はしておかないとねぇ。まぁ…いいや。要するに…」
「要するに?」
この後。
隆史さんは、お母様と一緒にまたどこかへ、出かけて行ってしまいました。
「「島田 忠雄」…あの男が見つかった」
「…あの蛙面が?」
お母様が乗ってきたであろう、ヘリコプターに乗り込んで。
「ただ…」
「ただ?」
いつもの様に、まぁ毎回ですけど…試合前に出かけていってしまうのは…。
…ただ、今回は違いました。
「…意識不明の状態で、発見されたのよ」
試合当日になっても。
隆史さんは、帰ってきませんでした。
はい、閲覧ありがとうございました。
ルートピンク編を開始しました。
が、メインはこちらですので、あちらはかなり不定期になります。
今回の話書くのもすっごい時間かかった……。
ありがとうございました