転生者は平穏を望む   作:白山葵

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ルートPINK2話が、思いの他手間取り、時間がかかりました。

やっぱり家元ズは、書いていて楽しい!
……ヒロインのみほさんより、何気にしほさんの方が……。




第47話~聖地へ向かいます!~

皆を乗せて、電車は走る。

 

私達の戦車を一緒に連れて。

 

決勝戦の地へと向って行く。

 

……隆史君が叔母さんと、学園艦から出かけて二日たった。

結局、朝になっても隆史君は帰ってこなかった。

 

事前に連絡を入れておいたのか、カチューシャさん達も朝は来なかった。

 

…昨晩、私の部屋で皆でご飯会。

 

優花里さんは、前夜祭だって言っていたけど。

 

験担ぎ…。

私達以外の皆の夕御飯のメニューを聞いて笑っちゃった。

トンカツ、カツ丼……カツカレー。

 

考えることは皆一緒だった。

皆、藁をも掴む思いなんだと思う。

 

「……」

 

私に気を使ってなのか、隆史君の話題はあまりでなかった。

…沙織さんが、アマチュア無線2級を影で努力して、取得していた事には、すっごくびっくりしたけど…その話の流れからだけ。

 

沙織さんから、今度は彼氏の取り方…まぁ、作り方を教えてと…割と真剣に聞かれた時は、ほんとに困ったけど…。

これも気を使ってくれたのかな?

 

 

揺れる電車の中。

 

これから決勝戦。

お姉ちゃんと直接対決。

 

だから…こんな事で…。

こんな、私の事なんかで邪魔はされたくない。

 

しかも…過去の事。

ずっとずっと前の事。

もう沙織さんにも…他の誰にも迷惑はかけられない。

 

「よし、いいか! 各チームに行き渡ったな!!」

 

河嶋先輩が配った一枚の紙。

 

会長も…華さんも、初めは躊躇した。

これを私と……特に、沙織さんに見せていいものか。

遠回しで聞かれたけど、即答で了承した。

 

私も…沙織さんも。

 

大丈夫。

…もう大丈夫。

 

「…いいか? この男は必ず決勝戦、その試合会場に現れるはずだ」

 

《 …… 》

 

試合さえ開始してしまえば、皆戦車の中。

危険は無い。

逆に言ってしまえば、それ以外の時が一番危ないという事だ。

 

隆史君のお母さん……叔母さんが、会長に渡した書類。

 

細かな情報と一緒に載っている、ある男の顔写真。

 

そして久しぶりに見る、会長の真面目な顔。

 

「いいかい? 西住ちゃんのお母さんと、島田さんから私達用に…1チームに最低3人は、ガードの人がついて守ってくれるそうだよ」

 

「そうなの。だから皆、この男の人を見かけたら、すぐに知らせてあげて」

 

「決して、各々で対処するなよ!!」

 

…すごい人数が動く。

私達だけじゃなくて、多分黒森峰側にも、それぞれつくと思う。

 

私達は、この決勝を辞退する事はできない。

勝とうが、負けようが…必ず試合に出る為と、お母さんが協力してくれた。

 

「特に西住ちゃんと武部ちゃん……絶対に一人で行動しないようにね」

 

「「はい!」」

 

特に、生徒会長達。

三人揃って、頭を下げられてしまった。

こんな状況でも、試合に出なくてはいけない。

 

初め、三人から決勝を棄権すると言われた。

…私の為に。

 

当然、すぐに断った。

 

学園鑑と私を秤にかけて、私を選んでくれた…。

その気持ちが、とても嬉しい…。

 

でも大洗学園は、もう私にとっても大切な場所。

 

……守りたい。

 

正直、怖い気持ちはある。

逃げたい気持ちもある。

それは、沙織さんも一緒。

 

けど。

 

だけど…。

 

もう逃げない。

 

皆がいるから、大丈夫。

 

 

私は…私達は、戦う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隆史、今更だけど何? その大荷物。学園艦出る時に、それ貰ってたわね」

 

「…俺の相棒」

 

学園鑑から出発する時、会長からこの大きな箱を貰った。

決勝戦の時、俺に必要なモノだから、必ず持って来てねと、釘を刺された。

ショルダーがついた、結構頑丈な箱。

 

殆ど手荷物を置いてきたので、身一つとこの箱だけだ。

それをランドセルの様に背負っている。

…まぁ、中身は何となく察しがついている。

 

さて。

 

島田流家元・本家

 

夜20時頃、ようやく到着した。

 

乗ってきたヘリを見送った後、千代さんがいるであろう、応接間に向かう。

相変わらず、西住流本家とは真逆…。

 

洋風の大きな屋敷。

大正桜に浪曼の嵐…みたいな感じだ。

 

「さてと、到着~」

 

赤絨毯の廊下を歩き、千代さんがいるであろう部屋の前についた。

鼻歌混じりで、母さんが大きな扉をノックしている。

 

…取り敢えず、呼び出された理由もそうでど…まず、土下座だな! うん! ドゲーザ!

 

準決勝戦のテント本部前で…千代さんにエライ事をしちゃったしね!

…あ。あんなセクハラ紛いの事…千代さんより、このオカンにバレたら殺されるんじゃなかろうか…。

 

「はい、どーん!!」

 

ノックはした。

返事をしないお前が悪い。

と、ばかりにそのオカンが、返事を待たずに両手を突き出すように、扉を開けてしまった。

 

「!?」

 

「おー…なんか、面白い事になってるわね」

 

扉を開けた瞬間。

懐かしい重圧を感じた。

 

応接間の中は…怒気で充満している…。

 

「……」

 

あの…応接間にソファーってあるよね?

なんで、皆使ってないの?

 

そう皆。

 

その応接間の中には、家主である千代さん他…数名がいた。

それは見知った顔だった。

 

そうだなぁ…まず。

 

なんで、亜美姉ちゃん…正座してるの?

 

そして、なんでまたいるんでしょうか? …しほさん?

 

「」

 

腕を組んだ、千代さんとしほさんに、ものすごい眼光で睨まれていた。

扉を開けて、初めて気がついた…かの様に、こちらにをの眼光を移してきた。

 

「…ん? あぁ…隆史君、到着しましたか」

 

「え? あら本当。こんばんわ、隆史君♪」

 

先程までの怒気が、俺に目線を移した途端に霧散した…。

なぜだろう…それが、すっごい怖い。

 

怒気を含んだ視線から外れたというのに、亜美姉ちゃんの肩が、カタカタ震えてる…。

俺達にすら気がついていない…。

 

そしてその横。

すっごい意外な人物がいた。

 

「」

 

白目を剥いている。

まぁ…耐性が無い人にはキツイだろうなぁ。

 

「…ちょっと、なんでここにいるんですか? …アリサさん」

 

ショートツインのアリサさん。

サンダースって全然関係ないよね? というか、貴女完全に部外者だよね?

どしたの…。

 

「」

 

「アリサさん!?」

 

放心状態らしく、呼んだ所で反応がない。

頬をペチペチして、踊躍俺に気がついてくれた。

顔はもう…涙と鼻水ですごい事になってた…。

 

「はっ!? お…尾形 隆史ぃ!?」

 

「…へい。たかちゃんです」

 

「おっ…遅いのよぉ!!」

 

は? 遅い?

 

俺の場を和ませようと、適当に言った言葉が無視されちゃった…。

一瞬背筋に悪寒が走ったけど…まぁ気のせいだろ…うん。

 

「貴方が来るのが遅いから、ひどい目にあったわよぉ!!」

 

「…えっと…? 俺が?」

 

「そうよ! 蝶野さんと一緒に、家元達に延々と説教をくらって……」

 

ゾワッ!!

 

アリサさんと、話し始めたからでは無いのだろうけど……後ろからものすごい殺気を感じる…。

 

え…部屋中の小物がカタカタ震えだしたんだけど…。

あれ? 地震かな? 家元かな?

 

「……貴女。なにを隆史君に文句を言っているのカシラ?」

 

「……お説教で済まされる位では、タリマセンカ?」

 

千代さん!? しほさん!?

 

「「貴方の…………立場と言うものをオシエマショウカ?」」

 

「」ブクブク

 

え!? 何いきなりガチギレしてるんですか!?

素人にそれはまずい! アリサさん泡吹いちゃったじゃないか!

 

 

「ちょ!? え!? 状況が分かんない!! しほさんも千代さんも、ちょっと待って!!」

 

 

 

 

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---

 

 

 

 

はい。落ち着いた所で整理しましょ。

まず、オカンは楽しそうに笑っているので放置ね。

 

アリサさんは、準決勝戦での俺が酒を被った時の要因として、拉致…もとい、連れてこられて、俺が来るまでということでお説教をもらっていたと。

どうも…その犯人らしき人物は、愛里寿がすでに捕まえたみたいで、色々と確認の為だとも言っている。

騙された様だったけど…大まかな事は、今初めて知った…まぁ…うん。

詐欺とかに引っかからないようにね?

 

で。捕まえた犯人に吐かせた情報によると、どうにも例の酒樽は、俺を怪我なり何なりさせようとしたと言うことだった。

ただ、落とされた酒樽が質量やら重さやらで、ほぼ殺人未遂という事で、愛里寿や両家元達の怒りが収まらないらしい。

心配されていると実感して、嬉しい事は嬉しい。……が、何故か足が震えている…。

 

「愛されてるねぇ~♪」

 

「……」

 

楽しそうに茶化す母親だけど…目が笑っていない。

しほさんによると、母さんにその知らせが入ったのは、昨日だそうだ。

なぜ昨日と、少し遅れて母さんに連絡したかは、後で教えてくれると、今現在は教えてくれなかった。

 

捕まった犯人は、「あの時」の…俺達が、幼い頃に暴行を働いた中学生達。

ずさんな計画で、現場にいた主犯以外の人物を一網打尽に出来たそうだ。

全部で4人中、3人捕獲。

 

沙織さんを誘拐しようとした連中は、今回捕まえた奴が雇った、まったく関係がない奴ららしいけど…。

どうなったか聞いたところ、陽の光はもう見れないから気にしないで♪って…千代さんに笑顔で言われた…。

 

 

大洗納涼祭の時、華さん達の前に現れた人物が主犯。

俺の腕を、叩き折ってくれた張本人との事。

あの学ラン赤Tか。

 

沙織さん誘拐事件と、準決勝の時の件は繋がっている。

まぁハッキリと分かるよな。

…要は、俺達に復讐を企てていた。

 

その主犯。

 

 

「橋爪 高史」

 

 

俺と同じ名前。

…お陰で、みほやまほちゃんが、一生忘れられないと言っていた。

これはもうどうしようも無い。

 

「…そうね。ではまず…」

 

千代さんが、目で母さんに合図を送った…のだろう。

アリサさんを母さんが連れ出していった。

これ以上は、彼女に話を聞かれるのはまずいと判断したようだ。

でも…今までの話もまずいんじゃ…?

 

「彼女には、今回の件がどれほど大きい事になっているか、認識してもらう意味でいてもらいました」

 

あ、はい。

 

騙されたとはいえ、関係者扱いするんすね…。

千代さんの声が一瞬厳しくなったし。

彼女、今日中にサンダースに戻れるかなぁ…。

 

「まず…非常に残念ながら…あぁいえ。取り敢えず、あのゲスは生きています」

 

「気持ちは分かりますが、本音は隠してくださいよ…」

 

ゲス…島田 忠雄。あのガマ蛙か。

 

今まで行方不明なのは聞いていたが、今回こいつが漸く見つかった。

その為に俺は今回呼ばれたとヘリの中で、母さんから聞いていはいたのだけど、なぜこの話の流れでいきなり…。

 

 

「あの、しま…あぁもう、名前も呼びたく無いので、ゲスでいいですね」

 

「……ハイ」

 

「兎も角、あのゲス。前回の誘拐事件から、今回の隆史君殺人未遂の主犯「橋爪 高史」と繋がっていました」

 

「…」

 

「…あのゲスは、「橋爪 高史」の協力者…パトロンになっていたと考えられます」

 

資金の供給。

沙織さんを誘拐した連中に渡す、報酬や移動手段の資金ってとこか。

驚きはしたし、聞きたい事もあるが……黙っていよう。

 

……。

 

千代さんから説明は、気持ち悪いくらいに詳細に語られた。

 

主犯とガマ蛙の繋がり。

どうやって出会って、どう繋がったとか…非常に細かく。

 

俺に復讐する目的が、共に合ったのだろうという事。

そして共に利用する為、学ラン赤Tは資金。ガマ蛙は使い捨てにできる…それも今まで自分と、まったく関係が無かった実行犯。

……利害が一致し。協力する関係になったという事。

 

「―ふぅ、以上ですね。隆史君はこういった話の腰を折らないから、とても楽ですね」

 

「……」

 

しほさんは、腕を組み黙っていた。

 

「何か、質問は?」

 

「…色々ありますけど、まず一つ」

 

「はい、どうぞ」

 

「なんでそこまで詳細に分かったんですか? 主犯とガマ蛙の出会いとか……調べれば分かる事じゃないですよね?」

 

そうそこだ。

 

学ラン赤Tやガマ蛙本人から、直接聞かない限りそんな事分からない。

知る術なんて無いはずだ。

 

「…それは、私からお話します」

 

千代さんの横。

スーツを着た、若い女性が発言した。

 

というか…。

 

「あれ…こんなちっちゃい子、いましたっけ?」

 

「ちっちゃっ!?」

 

どこかで見た気がする小さい子。

ショートカットの中学生…くらい?

顔を真っ赤にして怒り出したなぁ…。

 

「成人女性に対して、失礼な子ですね!! 私は今年で25になります!!」

 

み…見えねぇ…。

ちょっと背伸びして、スーツ着て見たけど? やっぱり似合わないからショックを受けて落胆した女子中学生にしか見えねぇ…。

 

「ちゅうがっ!? 本当に失礼ですね!! なんですか、その具体的な設定はぁ!!」

 

おっといけない。また口に出た。

 

「まったく…これだから、若い男は」

 

…中身オッサンですけどね。

プリプリ怒っている姿は、完全に中学生ですよ?

 

「はぁ…。私は、文部科学省 学園艦教育局長である、辻の代理で来ました…秘書の綾瀬と申します」

 

学園艦教育局長 辻……だ?

あの七三だな。

 

…説明する? なにを。

それにこの人、秘書って言ったな…あっ。

 

あー…。

 

「思い出した。貴女、ホテルで一度会ってますね」

 

「……思い出すのが遅いですね、今更ですか?」

 

そうだそうだ。

食事会の夜だ。

七三が降りる階で、エレベータの中から一度見ている。

 

秘書だったのか…。

娘かと思ってた。いくら何でも、娘の前で言う事じゃ無かったなと、後で反省したんだけど…。

 

「「隆史君?」」

 

「ん? なんで…す……か!?」

 

家元達二人に、ハモって呼ばれて振り向いた。

う~ん。

何か黒い、モヤモヤしたモノが邪魔をして、二人の顔が良く見えないなぁ…。

 

 

「「  ホテル?  」」

 

「」

 

そして、この部屋だけに、また地震が起こった。

じゃなきゃガタガタと音を出して、窓ガラスが振動したりしないと思うの!

 

というか、なんで怒ってるんですか!!

 

 

 

 

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---

 

 

 

簡単に言ってしまえば…

 

あの男とは手を切ったというのに、つまらない事で疑われてはたまりません。

最後に接待した日に、あの男が若い男に絡んで返り討ちにあったんです。

私達はその日に関係を切り、その後一切接触していません。

 

そうそうその時ですかねぇ。

慰謝料をせしめると言っていましたので、若い男の住所だけは調べましたけど、それ以外は知りませんよ?

どうせ更に男の素性を調べたら、尾形君と因縁があった事が分かったのでしょうね。

 

証拠と言ってはなんですか、助力は惜しみませんので、出来うる限りの情報を差し上げます。

 

「―との事です。…聞いていますか?」

 

胃に穴が空いたかと思った…。

不意打ちで、殺気を直にくらった…。

 

「…隆史君も、初めからそう言ってくれれば良かったのですにぃ」

「何が、にぃ ですか。いい年して」

 

…。

 

そりゃ千代さんが用意してくれたホテルだから、誤解はすぐに解けたのだけど…今気がついた。

何故だろう、この二人。

 

俺を見る目が少し変だ。

 

うふふと笑ったり、二人で言い合ったりするのは変わらないのだけど…何故だろう。

背筋に走る悪寒が半端じゃない…。

 

「……あの」

 

「はい! すいません! 聞いています!!」

 

この秘書の話を鵜呑みにすれば、非常に協力的だが、まぁ無いだろう。

家元二人を敵に回したく無い一心なんだろうな。

 

じゃなきゃ、このタイミングで協力なんぞ、してこないだろう。

あの七三、まだ俺の事を監視なり調べてるな。

まったく胸糞悪い。

 

「で、辻局長からの情報で、主犯の自宅が判明した訳です」

 

心無しか、胸を張って言っているな。

感謝しろとでも、言っているかのようだな。

 

……無いけどな。胸。

 

「それで、即主犯の自宅を捜索したのですけど「橋爪 高史」は、いませんでした。まぁ当然逃げますよね」

 

千代さんがまたシリアスモードに移行してくれた…。よかった…真剣な目に戻った。

あの熱を帯びた目は、なんか…非常に……怖い。

 

「…そこで別の人物を発見しました」

 

「……」

 

ま。話の流れ的に見て…。

 

「もう分かりますよね? そこにいました。全身縛られて、意識不明になるまで放置されたゲスが」

 

…そこはフルネームで呼んでやりましょうよ。

 

ある程度、先程のこいつらの繋がりは推理の粋をでない。

が、現状の部屋と、そこにある物を…愛里寿が全て見て推理したそうだ。

今聞いている以上の事まで、分かったそうだけどそれは別の話だそうだ。

 

まぁ…内輪揉めでもしたのだろうと。

主犯からしてみれば、ガマ蛙は金さえ出していれば良かった。

しかし痺れを切らして、実際主犯の元にでも訪ねたのだけど、そこで縛られ放置された様だった。

現金主義だったガマ蛙の財布が空になっていたそうだ。

 

カード類は足がつく為だろうな。放置されていた。

 

しっかし、なんで愛里寿が…。

 

部屋に入り、それこそ30分もしない内に、物的証拠等を多数発見したそうだ。

それこそ、警察の鑑識の仕事が楽になるくらい。

 

…うん、怖い。

 

何がって、愛里寿が…。

 

正直天才ってすごいね? とか思うのだけど、愛里寿に隠し事とかできなそう…。

すっごい小さな事でも、そこから全てバレそうで怖い。

将来の旦那さんは、大変だねぇ…。

浮気しようモノなら、反論すらさせない証拠を突きつけそうだネ!

 

……。

 

今もそうだけど、先程から背中に寒気がよく走るな。

風邪ひいたかなぁ…。

 

「後は、あのガマ蛙が意識を取り戻して…情報の照らし合わせ待ちってトコですかね?」

 

「…そうですね、まぁ…そのまま逝ってくれても構いませんが」

 

……隠そ? ね? 隠しましょうよ、せめて本音は!!

 

「さてと。尾形 隆史…君」

 

「なんですか? 秘書子ちゃん」

 

あ、睨まれた。

 

「……セクハラで訴えますよ?」

 

あ。ちゃん付けは、人によってはセクハラになるんだっけか。

あぁそうだそうだ。この人、成人女性だっけ。忘れてたわぁ。

 

「…何か、また不遜な事を思ってませんか?」

 

「……」

 

ヤベーって顔をしていたのだろうか。

また……睨まれてしまった。

 

まったくと、ため息混じりで、ポケットから銀色のスティックタイプの機会を取り出した。

 

「辻局長から、貴方にプレゼントだそうです」

 

「…………」

 

それは、ボイスレコーダーだった。

あらかじめ録音しておいたのだろう。

こちらに見せつける様に、その再生ボタンを押した。

 

『 文部科学省 学園艦教育局長 辻 廉太は、口約束もしっかりと守りますっ!! 』

 

ふざけた様な、こちらを茶化す音声がブツッっと切れた。

 

……。

 

「なぁ、秘書子さん」

 

「…いい加減にっ!?」

 

俺は今どんな顔をしていのだろう。

 

文句を言おうとして、俺の顔を見て固まってしまった。

目の前の、見た目は子供、頭脳は大人の女性が怯えている。

 

うん、結構ふざけた事を考えられるから、大丈夫だとは思う。

だから言う。

 

 

 

「…なんのつもりだ」

 

 

 

「い…いや、あの……」

 

目が泳いで、言い淀んでいる。

 

早く言え。

 

「あっ!! 貴方が!!」

 

「……」

 

「前回の事もあります! 今後会う度に同じ事を、言ってきそうですからっ!」

 

「……」

 

「証拠として録音……したデータを…渡します……」

 

「……」

 

ナルホド。

 

もう、一々言われないために、ボイスレコーダーで証拠を残しておくと。

そそくさと、そのボイスレコーダーから、SDカードを取り出し、俺に突きつけてきた。

 

「……」

 

別にこの人は、仕事をしているだけ。

25の若さで、腐っても文部科学省の一官僚の秘書なんて、エリートなのだろう。

頭も良いので、多分わかるだろう。

 

 

「フザケテルノカ?」

 

 

こっちは必死で、皆頑張っている。

みほも…会長も……それでこの言い方。

この対応。

 

こちらの怒りと、七三の対応の温度差が理解してくれたのか分からないが、黙ってしまった。

 

「わっ渡しましたからね!! もういいでしょ?!?」

 

怒りを顕にした俺に焦ったのか、家元二人にもう帰っていいかの確認らしきを取る…が。

 

「綾瀬さん。なに貴女、隆史君に喧嘩売ってるのでしょうか?」

 

「」

 

しほさん? あ…あれ?

思いの他、二人共俺に代わってかヒートアップしてる?

 

「あの録音での言い方…え? ワザとふざけて…………イッテマスヨネ?」

 

あかん…。しほさんがキてる。

 

最近俺、華さんの時といい、怒れない…。すっごいモヤモヤする!!

 

周りが俺を冷静にさせますよ?

 

「」カタカタカタカタ

 

あ。

 

完全に気当たりされて怯えている…。

 

「」ガタガタガタガタ

 

目を完全に泳いでいるな…俺と目を合わせようともしねぇ。

SDカードを無理やり俺に、手渡しで渡して来た。

 

「」 た、確かに渡しましたよ!!

 

うん、何言ったか何となくわかるけど、声に出てませんよ?

まぁ喧嘩売ってきたのはあの七三で、今回この人被害者っちゃ被害者…か?

 

俺の手に両手を包むように渡し、さっさと逃げようとしてるのだけど…。

 

「え? なんですか? ナニ隆史君の両手を握ってるんですか? 先程発言されたセクハラじゃないんですか?」

 

「」

 

ダメだ。千代さんがもキてる…。

 

「」

 

あーぁ。…涙目になってる…。

流石に可哀想になってきたので、無言でドアに指差す。

目が合うと、無言でウンウンと頷いてやった。

 

カタカタ震えながら、俺の顔と家元達の顔を、交互に顔を振りながら見ている。

 

「…どうぞお帰りください。というか、今逃げないと、俺にも止めれそうにないっすよ?」

 

あ。

 

言い終わるやいなや、瞬間移動でもしたかの様に一目散に退散していった。

 

…。

 

後ろから舌打ちが聞こえた…。

 

 

 

 

 

 

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「……9時か」

 

何気なく時計を見たら、時計の針が夜の9時を指していた。

話終わった? とばかりに、秘書子さんが帰ってすぐ、入れ違いにオカンとアリサさんが帰ってきた。

…相変わらず、アリサさんは顔が青い…。多少は回復したのが分かるけどね。

 

しかし、なんだろうね…。

 

俺が島田家に到着してから、まだ1時間も経っていねぇ…。

もう半日くらい経った気がする…。

 

「尾形 隆史…」

 

「はい?」

 

なぜフルネーム。

流石にもう、帰ると言う。

その帰り際に、アリサさんに声をかけられた。

 

「…今回の件。冗談抜きで…その、ごめんなさい」

 

…あら、驚いた。素直に謝られた。

頭を下げているね。

 

これは周りから言われたとか、家元達が怖いからとかでは無く、本心だとなんとなく分かる。

 

「…言い訳しないわ。騙された私が悪かったもの」

 

正直、気にしていない。というか、知らなかったし。

本人が反省しているなら、それでいいとも思う。

 

甘いなぁ…俺。

 

「…命の危険まであったなんて、知らなかったの。お詫びになるか分からないけど…だから私が出来る事なら何でもするから」

 

…ん?

 

「流石に今日はもう帰るけど…まぁ…何もしないと隊長にも顔向けできないし…」

 

……何でも?

 

「連絡先渡すから…まぁ……うん。その…悪かったわ」

 

紙切れに、メアドと電話番号が書かれていた。

まぁ…その、一言言っておくか。

 

「俺は気にしていないから、君も気にしないでいい。でもまぁ……君の気が済むというのなら、なんか頼むかもしれない」

 

「…えぇ。そうして」

 

「まぁ、エロい事は、頼まないから安心してくれ」

 

「…えぇ。……え? えぇ!?」

 

あ。赤くなった。

 

「は? え!? ちょっ私、なに言った!? なんて……え…あっぁぁぁあああ!!」

 

自身が言ったことを思い出したのか、急に頭を抱えだした。

家元ももちろん、母親の前じゃ下手な事言えないから最初に言っておこう。

 

うん、死ぬからね!! 物理的に!!

 

 

 

 

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「そういえば、何で亜美姉ちゃんがいるんすか?」

 

すっかり忘れていたけど、部屋の隅っこで膝を抱えて座っている…。

あんな亜美姉ちゃん見たことねぇ…。

 

そもそも説教とか言っていたけど…なんにだろう?

思い当たる節が多すぎて、分からないなぁ。

 

まだ聞きたい事も多かったけど、母さんがいる前じゃ喋れないと耳元で言われて、納得するしかなかった。

……でもなんだろう。

なぜ嬉しそうに、耳元で囁いたのだろう。

 

「隆史君に対しての事で、呼び出しました」

 

「俺の事?」

 

「蝶野流・撃破率120%の必勝法……ですって」

 

「」

 

要は、昔俺に亜美姉ちゃんが教えた事に対しての説教らしい。

 

…いい大人がマジ説教を食らったみたいだ。

 

あの亜美姉ちゃんが、完全に心を粉砕されている状態から見るに…うん。

想像すらしたくないなぁ…。

この二人に挟まれて延々説教されるのって…。

 

 

正直、迷惑だった。

身体に染み付いちゃっていたからね…。

まぁ…あの様子を見るに、相当絞られたようだし…うん。

 

「まぁ…もういいでしょ? 許してやってください」

 

「「「隆史君!?」」」

 

何か意外だったのか、三人がハモった。

 

ハイ。まとめましょうか?

 

最初にまず、今日のこれからの予定。

 

時間が時間だから、このまま俺は島田家にご宿泊。

宿泊すると知ったのか、愛里寿がこちらに向かっていると聞いた。

 

そしてオカンは、親父の元に帰るって言っていたから、このまま帰宅。

そういった訳で…なんで母さんに情報が遅れたのかは、明日教えてもらえる。

 

……はい。しほさんもご宿泊。

即答だったなぁ…。

 

なんでも心配らしい。

なにが?

 

え? 何で千代さんと笑顔で睨み合ってるの?

 

…。

 

だ、だからこの後は、家元二人は用事は無いようだ。うん。よし!

 

俺が言えるのは、別に亜美姉ちゃんに恨みは無い。

腹が立つくらいだ。

 

うん。無い無い。恨みなんてございませんことよ。

 

 

このまま説教が、再開される様な空気になっておりましたし、妥協案を出しておきましょうか?

これで大丈夫だと思われます。

 

あぁ、別にキレてませんよ? 通常どうり、丁寧に敬語でお話させて頂いてオルダケス。

 

「どうせ、しほさんと千代さん、この後飲みに行きますよね?」

 

「「……え!?」」

 

「…イ キ マ ス ヨ ネ ?」

 

有無を言わせないように、笑顔で対応します。

えぇ。接客業は、笑顔が大事!

 

暗に飲みに行けや、と言っている訳ではございません。

えぇ、今ここがチャンス……とか思っているわけではございません。

 

「話の続きは、その時でイイんじゃ無いでしょうか?」

 

「え?」

 

「アメとムチなら…アメを与えてやってください」

 

「……た…隆史君?」

 

亜美姉ちゃんが青くなっておりますが…これは妥協案です。妥協案でございますわよ?

ですから、救いを求めてこちらを見ないで頂きたい。

今、救済案を出している最中ですよね?

 

「3人で行ってこい。いや、行ってきてください。愛里寿は俺がお待ちしておりますから」

 

とびっきりの笑顔で提案します。はい。これは業務命令です。

違った…提案です。

 

「ま…まぁ…隆史君が、それでいいなら……」

 

「えぇ…まぁ」

 

家元二人は、俺から顔を逸らしました。

満面の笑みですよ? 変な顔してません。

 

「……で。亜美姉ちゃん」

 

「な…なに? ……え、まさか!?」

 

何かに勘付いたのか、すごい顔をしていますねぇ…。

先程から家元と、私をキョロキョロ見ておいでになります。

 

ですから、安心させて差し上げる意味で、最後の業む…いえ、提案を致します。

 

「亜美姉ちゃんは、飲んじゃダメですよ? よろしいですか? 飲んじゃダメですよ? 家元達のお世話ヲシナクッチャ…ですかね?」

 

「」

 

接待ですよ? 接待。

 

絶望に染まった顔はおやめなさい。失礼ですよ?

 

はい。そういった訳で…。

 

 

 

「一人シラフで、家元二人に挟まれてオイデなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▼

 

 

いた。

 

あぁ…いたいた。

 

見つけた見つけた。

 

この女が、都合がいい。

 

 

あの三人のうち、誰に手を出してもツマラナい。

 

本命はアイツだけど……まぁ……間接的に行くのが一番効果がある。

 

あぁいった連中は、よほど傷が深くなければ、結局最後には、お互い励まし合って傷が癒えてしまう。

 

姉が死んだら、妹が。

 

妹が消えたら、姉が。

 

男が……ありゃ無理だ。でかくなりすぎだ。

 

結局、どちらがダメになれば、ドッチカトくっついてハッピーエンドだ。

 

…気持ち悪い。

 

お涙頂戴はキモチワルぃぃぃよねぇ?

 

だから、ある程度関係して。

 

ある程度、大事で。

 

ある程度、ツナガリがフカ~イ奴がいい…。

 

自分をォ…一生かけてェ…責め続ける様なァ……そんな奴。

 

イルネェ。

 

お誂えムキな奴が。

 

モウスグ、会場にツク。

 

モウスグ、オワル。

 

マァ、試合ぐらいは最後までヤラせてやるよ。

 

こんな最高の舞台に立ち会えるんだからさぁぁぁぁぁ!!

 

どっちが勝っても、どっちが負けても…。

 

いい具合に仕上がるよねぇ。

 

 

 

一番いいのが、最高潮の時に、最高のお友達が、最高に関係無い奴に。

 

お前らのセイでどうにかなっちまうって…現実だ。

 

 

 

…。

 

 

 

 

 

 

さぁ。 目標は決まった。

 

 

そうだ。

 

この女が、一番具合がいい…。

 

 

敢えて、あいつら姉妹達には手を出さない。

 

 

この女がいい。

 

 

あの男にも手を出さない。

 

 

この女がいい。

 

 

そうそう。

 

お前ら3人のセイで、可哀想に…。

 

 

 

丸める。

 

写真を丸める。

 

 

そして口に放り込む。

 

愛しの彼女を味わう。

 

味わってから飲み干す。

 

 

あぁ気持ちがイイ。

 

 

 

「…逸見 エリカちゃ~ん」

 

 

 




はい。ありがとうございました。

思いのほか文字数が伸びた…。

いやぁ…この話もお泊りだし…酒が入るし…家元ズは、ルート変更への強制力がすごいなあ…。

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