転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第04話~再び動き出す転生者です!~

 黒森峰女学園艦 某日早朝

 

 

 その日、私は携帯で懐かしい声と会話を楽しんでいた。

 私達の朝は早い。

 更に少しばかり早起きをし、彼に電話をたまにかけていた。それは、みほには内緒だった。

 みほも私には内緒で、彼にコンタクトをとっていたはずだから。

 

「今、大丈夫か? 早朝だが」

 

『あぁ、今バイトの休憩時間。あまり時間ないけどね』

 

 後ろの騒音が、少々うるさい。

 

『すまん。風の音がすごくて上手く聞こえねぇ』

 

 彼の転校先は、青森県だった。

 転校しても相変わらず、肉体を鍛錬をすることを心がけていたようだ。

 

 金策と兼任してコミュ力とやらを磨くためと、何故か青森港でバイトをしているそうだ。

 早朝の方が時給が良いと言っていた。

 

 彼と話すのは楽しい。私が口下手というのも気にせず、気兼ねなく話してくれる。

 

 

 

 ……どうして。こうも変わってしまったのだろう。

 中学生の頃は楽しかった。戦車も今とは全く違う感覚で、乗っていたのだろう。……しかし、もう忘れてしまった。

 

 第62回 戦車道全国高校生大会。我々は負けた。「西住みほ一人の失策」という敗因で。

 

 何が「西住みほ一人の失策」だ。隊長は私だ。本来ならば私の責任だ。

 周りの圧力…お母様の叱責から、妹一人守る事もできなかった。みほ一人に責任を押し付ける形になってしまった。

 みほを、転校という形で追い出す…大洗へ転校するのは知っていた。

 

 黙って、見逃すことしかできなかった……。できなかったんだ。

 

 大洗学園。

 

 それは、戦車道がない学校。

 生徒数の減少の関係で、共学へ変わっていたが、あそこならば大丈夫だろう。

 

 無意識にゆっくり猫背になっていく。お腹の辺りが締め付けられる。

 

 彼がよく言っていた。『失敗しても、後悔だけは残さない様に生きていきたい』と……。

 

 今ならよくわかる。後悔の念。これは呪いだ。呪詛だ。

 自分自身でどうにかするしかない。しつこく、こびりついて剥がれない呪い。

 

 

 鼻先と膝が近づく。

 

 

「中学生の時は…楽しかったな……」

 

 声が段々と小さくなっていく。

 

『あぁくっそ! 風うるさい! ごめん、なんだってー?』

 

 上手く聞こえていないようだが、構わないツゴウガヨイ。

 

「みほがいて、私がいて。…君がいて。母も君にだけは、周囲が引くほど甘かったな……」

 

 ……乾いた笑いが出てくる。

 

「君が来てから、戦車道が楽しくて仕方が無かった。病室で約束してくれた。しっかりと君は、私を見ていてくれた」

 

「当時お母様も、ここまで酷く厳しくなかった」

 

「君が…私達親子を緩和してくれた……。タノシカッタ」

 

『オーイ。キコエルカー。』

 

 ダメだ。

 過去の思い出ばかり出てくる。

 楽しかった日々。

 

 弱音を吐くな。弱さを見せるな。全て瓦解してしまう。西住流家元としての責務。

 黒森峰をここまで引っ張ってきた隊長としての責任。周りからの期待。お母様からの……。

 

 みほは、追い出す形になってしまったが、何とか逃がすことはできた。

 

 ……しかし、私はどうスレバ? ニゲラレナイ。

 

 額と膝が当たる。

 

 

「……ケテ」

 

「………………カシ。……タスケテクレ」

 

 

 ハッと、顔を上げる。

 

 絞り出す様な小さな声だが、弱音を吐いてしまった。一番聞かれたくない相手に。

 電話先では、港より聞こえる騒音。ゴーゴーと大きな風の音。

 

 安心した。これなら聞こえるはずはない。いつもの厳しい顔に戻る。

 これ以上はまずい。甘えてしまう。

 今日はここまでだ。別れを言い、電話を切ろう。

 

 だが……聞こえてきたのは別れの挨拶じゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってろ まほ。 すぐに行く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の連休に合わせ、久しぶりに様子を見に行こうと思っていたが、状況はかなり危ないと判断した。

 

 すぐに行こう。今行こう。

 

 平日というのもあり、当日航空券はすぐ取れた。こういう時の為に貯金をしていた。

 夏休みなど長期連休時には、顔を見せに行っていた為、移動手段の選択肢は、幾つかすぐ思いついた。

 

 昔の俺なら、こんな行動力考えらなかった。だけど変えられた。変えてくれた。

 この世界の恩人達。その恩人の一人。

 

 

 西住まほ。あのまほが、泣きながら弱音を吐いた。吐き出した。

 手段なんぞ選んでられるか……

 

 最短ルートで行く!

 

 

 

 そして現在、午前7時

 

 すぐに動こう。バイトを早退。変わりに青森の友人を電話でたたき起こし、投入。

 文句を垂れていたが、本気トーンで話すと「後でちゃんと話せよ」と了承を得た。

 

 身支度を整え出発する。まず俺がしなきゃならない事は、全身全霊を込めた、全力の!!

 

 

 

 

土下座である

 

 

 

 

 カチューシャ・ノンナ『…………………………』

 

「朝からなんなの……タカーシャ」

 

「後生です! お願いします! プラウダ高校のヘリに乗せてください!!!」

 

「俺の大切な家族が、壊れるかもしれないんだ! 空港まで……頼む!!!」

 

 地面に頭をぶつける。踏まれたって構うものか。

 青森空港から目的の便が出ていなかった。

 調べた結果、函館空港からの便に乗る事が、俺に出せる最速の手段だった。

 

「ノンナ!」

 

「はい」

 

 いつもの様に、定位置……ノンナさん肩へ、わざわざ移動している。

 

「フフン! そこまで必死になるなら、考えてあげない事はないわ! その見返りになにしてくれるの!?」

 

 

 彼女達、プラウダ高校は現在、青森港に着港していた。

 

 そもそも青森港をバイト先に選んだのは、最初これが狙いだった。ここに入り浸っていれば彼女ら……プラウダ高校の生徒と接触できるかもしれないと思った為。

 そうすれば、西住姉妹の話を聞けるかと思っての事である。

 

 

 彼女達との出会いは……冷凍マグロにマジビビリしてるカチューシャを見かけて話しかけた事。

 それから、懇意にして頂いておるわけです。ハイ。

 

「ビビルカチューシャ、マジかわいかった!!」

 

「何!?いきなり!」

 

「気持ちは、とても良くわかります」

 

 回想の謎のシンパシー

 賛同ありがとうノンナさん。すまん時間があまり無い。話を進める。

 

 

「希望は!? なにして欲しい!?」

 

 急かすように聞くと、カチューシャは若干ビビリながら…違うな。俺に引きながら答える。

 

「カ…カチューシャは、シベリア雪原の様に心が広いの! これから望む時、いつ如何なる時も膝まづいて、私を乗せれ『了解した!で、ヘリはいつ出る!?』」

 

 

 

 

 

 

 俺の誠心誠意、真心を込めたお願いにカチューシャは無償提供を約束してくれた。あざっすカチューシャ。

 

 少し時間ができたので、まほに再度連絡を取っておく。

 

 

 プルルルルルル……

 

『私だ。』

 

「……まほちゃん。その出方は、無い」

 

『ム…そうか』

 

「今からそちらへ向かう。そちらの出来うる限り、わかる情報と近状を教えてくれ。口は挟まないからつづけて喋って」

 

『……隆史。本当にこちらへ来るつもりか? 距離を良く考えろ「うるさい!」』

 

「はっきり言うとな。この状況になるまで、俺に黙っていた事に怒ってるんだ。激怒ってやつだ! どうりでみほの奴、メールにも電話にも応答ないわけだ!」

 

 まくし立てる様に急かす。

 

「いいから言うことを聞いてくれ。今更やめるつもりも無い! 言うこと聞かないと今後、まほちゃんを…「西住さん」と呼ぶ」

 

『ぐ……』

 

 過去、まほちゃんが中学生時代同級生と屯ってる時、気を使って「西住さん」と呼んだら……キレた。本気ギレされた。

 

 その後、一週間拗ねていた。

 呼びかけても、プイッって横を向き無視された。ハイ……それは、至福の時でした。

 

 ……脱線した。

 

「近状! まほちゃん、みほ、しほさんの今の状況を全て教えてくれ!」

 

『……「ちゃん」に戻ってる……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大洗学園に逃げ出して、数日たった朝。

 

 目覚まし時計のベルで、目が覚める。

 

 すぐに、そのベルを止める。

 

 俯いた顔を上げ、視界に入ってきたのは目覚まし時計では無い。

 

 ……ボコ。

 

 私が好きなキャラクター。そのぬいぐるみ。熊。……あの人。

 

 初めて見たのが、アニメの再放送。夢中になった。お姉ちゃんが言うには、怖いぐらい真顔で真剣な目で見ていたそうだ。

 

 思い出す。思い出した。

 

 わかってる。ボコとあの人は違う。だから何? とは思う。

 それはそれ。ただ私が、ボコを好きになった理由の1つだから。

 

 

 これだけ。

 

 今の私には、これが全部。

 

 全部置いてきた。……逃げてきた。

 

 携帯電話には、あの人からの着信履歴とメールが消さずに残してある。

 

 メールには、目を必ず通す。電話は……怖い。

 

 あの人に…彼に。みんなの様に責められたら……と思うと出られない。

 

 そんな人じゃないのは、わかっている。でも理屈じゃない。

 

 怖い。

 

 ただ怖いんだ。

 

「もう家じゃないんだ……」

 

 目が完全に覚める。今日は日曜日だった。また、何もない日が始まる。

 

 ……メールが来てる。また、あの人からだった。

 

 今日は、画像が添付されていた。

 

 題名が無い。この人は、いつも内容しか書かない。

 

 画像付きは、めずらしいな……。

 

 返信できないだけで、メール自体は素直にうれしい。

 

 

 

 添付ファイルを開く。

 

 

 

 …………………………ナニコレ。

 

 文章は「気になる様なら電話しろ。みほ、いい加減怒るぞ」だって。

 

 

 

 

 

 

 画像は数枚あった。

 

 お母さんとお姉ちゃん。それと…あの人がピースした画像。顔が近い。……顔が近い。顔が近い。顔が近い。

 

 イラッ

 

 ま…まぁ、画面に入りきらなかったかも知れないしね♪

 

 彼は、さらに逞しくなっていた。

 

 筋肉が恋人と言われた時は、本気でどうしようかと思ったけど、大丈夫そう♪ イライラ

 

 

 次の画像を開く。イライライライラ

 

 他の画像【 交互にお姫様抱っこされた 姉と母(※3~4枚) 】

 

 パカッ

 

 カチカチカチカチカチ……

 

 プルルルル……                         

 

 

 

 




閲覧ありがとうございます
今回過去編から現代へ。
原作TV本編の冒頭にあたります。

シリアスは嫌いでは無いですが、明るい作品を目指していきたいと思います。

次回 エリカ登場します

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