転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第51話~過去と今と未来です!~

平原。

 

晴天の下、遮蔽物の無い平原に向かい合って整列している。

 

 

「「「「 …… 」」」」

 

 

…本日の審判長がいる。

 

そして、ひどく窶れている…。

信じられないくらい顔が青い。

その、大丈夫なのだろうか?

 

今、あの隊長が2度見したけど…。

 

「…あの、亜美さん…その、大丈夫ですか? 顔色すごい悪いですよ?」

 

「……」

 

遠い目をしているわね…。

 

「エェ…ダイジョウブ。ダイジョウブヨォ? ミホチャン!」

 

「「「「 …… 」」」」

 

手を前に出し、笑顔でパタパタ仰ぐようにして「仕事は、ちゃんとやるわ!」って、元気いっぱいに言っているけど…。

いつもの蝶野さんなのだけど、目に見えて体調不良に見えるんだけど…。

 

「あ、みほちゃん」

 

「え? あ、はい」

 

「隆史君に伝えといてくれる?」

 

「え……」

 

「 オ ボ エ テ オ ケ ヨ ♪ 」

 

「……………………」

 

…笑顔だ。

とびっきりの輝く笑顔だ。

 

「反省はしてる! 反省はしてるのっ!! でもあの方法はエグイと思うの!」

 

「…隆史君、何かしたんですか?」

 

「……」

 

「……」

 

「あの…亜美さん?」

 

「……言いたくない…思い出しちゃうから……」

 

「……」

 

元副隊長が、聞いた瞬間、目のハイライトが薄くなった…。

どこか虚空を眺めてる…。

 

あの男が、また何かしでかしたのか?

今、スゴイ暗いのか明るいのか…よくわからない笑顔だったけど…。

 

「…じゃぁ、挨拶を始めるわ!!」

 

まだ試合前という事で、知り合いに話すように砕けた感じではあったのだけど、ここまでとばかりに、顔を引き締めた。

というか…本当に思い出したくないのだろう。

毎回あの男のせいで、真面目な雰囲気というか…そういった空気が粉砕されている気がするわね…。

 

……忘れよう。

 

試合に集中しないと…。

 

 

 

 

 

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---

 

 

 

 

 

 

 

「では…両校、挨拶!!」

 

向かい合った私達の間。

同じく並んで立っている審判の方達の前に、両校の隊長・副隊長が代表として前に出た。

ここの所あの男のせいで、不本意だけど、この娘の顔を頻繁に見る羽目になった。

直接会っていた訳ではないが…ただこうして、ちゃんと向かい合うのは、久しぶり。

 

先程から隊長は、一言も喋らない。

挨拶の号令にも、ただあの娘をまっすぐ見ているだけ。

隊長だって、この娘に何も思わないはずが無いだろうに。

 

 

「よろしくお願いします!」

 

 ()()()()()()()()() ()

 

 

全体挨拶が終わり、蝶野一尉から、試合開始場所へ移動を伝えられる。

それを皮切りに、両校の選手達が各々動き出す。

各校、戦車まで戻り……やっと決勝戦の試合が始まる。

 

「いくぞ」

 

「はい」

 

…私達も移動の為に大洗学園に背を向ける。

 

―が。

 

一言言ってやらないと気がすまない。

…蝶野さんの事で、一瞬怒りを忘れてしまったけど…向かい合わせで、顔を見てしまったら思い出してしまった。

 

私の後ろ。

 

隊長と私の背中を見送る様に、眺めている元副隊長に。

 

「たまたま、ここまで来れたからって、いい気にならないでよ?」

 

 

…逃げたくせに。

 

戦車道開会式。

その試合組み合わせ抽選時、壇上に上がっているあの娘を見た時。

どれほどの怒りが沸いたか。

 

期待されていたのに。

私には無いものも、持っていたくせに。

隊長の期待まで裏切って。

 

 

黒森峰での自身の責任を、全て放り出して、逃げたくせに。

リセットでもしたつもりか。

逃げた先で、戦車道をまた新たに始めた?

 

ふざけるな。

 

…挙句、対戦相手として…この娘は私達の前に立った。

 

「……」

 

奥歯が鳴る音がした。

 

「見てなさい。邪道は叩き潰してあげるわ」

 

 

……。

 

…………はっ。

 

乾いた笑いがでる。

 

「…なによ。その顔は?」

 

半分だけ振り向き、見たその顔。

 

元副隊長のその…目。

 

腹立たしい。

 

「…気にいらないわね」

 

決意に満ちた顔。

…昔からの、自信が無く、おどおどしたような感じが消えている。

手を握り締めて、こちらを真っ直ぐに見てくる。

 

「…本気で私達とやり合うつもり? 勝てると思ってるの?」

 

自然と目を見開き、気が付けばこの女を睨んでいた。

 

…また奥歯の鳴る音がする。

 

目の前の女も分かるはずだ。

知っているはずだ。

 

だから簡単に分かるはずだ。

腐っても、黒森峰の「元」副隊長でしょ?

 

戦力が違う。

戦車の数も性能も。

 

選手達の練度だって、私達に勝てるはずがない。

ど素人達と比較するだけ、失礼な話だ。

 

それに何より…西住隊長がいる。

 

勝てる訳が無いだろう。

なのに、本気で私達に勝つつもりでいるの?

 

「……」

 

…この子の学校の状況は、知っている。

負けられない理由があるのも分かる。

でも…現実を見な……。

 

 

 

…。

 

…………。

 

違う。

 

もうそんな話ではない。

 

「…変わるものね」

 

「え?」

 

私の口から出た言葉に、不思議そうな顔をしている。

一々、腹立たしい。

話すつもりなんて無かった。

初めは、相手にする気も起きなかったから。

 

以前の彼女は、こんな目をしていなかった。

周りに流されているだけなのか…、戦車道に対してもどこか引け目を感じているみたいだった。

事実、例の喫茶店で見かけた時も、何も変わっていないと思った。

だけど…今、目の前の彼女は違った。

 

…………苛つく。

 

「……」

 

一瞬たじろぐ仕草が見えた…が、すぐに目に力が入った。

…苛つく。

この目が、ひどく私を苛立たせる。

 

「…男ができると、こうも変わるものかしら?」

 

…これは、ただの嫌味だ。

その嫌味にも表情を崩さないで、こちらを真っ直ぐに見てくる。

 

・・・。

 

何、顔を赤らめてるのよ。

 

「た…隆史君は関係なっ…無くもないかなぁ……」エヘヘ

 

 

イラッ!

 

 

いきなりこの空気の中、惚気けだした!?

何を笑ってんのよ!!

別の意味でも、苛つく子ね!!

 

……ダメだ。

 

私から出した話題とはいえ…あの男が絡むと、どうも…空気が緩む…。

毒気を抜かれるというか…。

そもそもこんな風に、言う子だったかしら…。

 

 

「何をしている」

 

「隊長!?」

 

すでに先に行ったと思っていた隊長がいた。

真後ろから突然声をかけられ、…驚いて変に声が上ずんでしまった。

私にまで、気配を殺して近づくのはやめて下さい…。

 

「お姉ちゃん…」

 

「エリカ。試合前に男の話なんて…余裕だな」

 

「いえっ! 男の話なんて!!」

 

そもそも、男の話って言い方はちょっと語弊があるのですけど…。

 

「みほも、そんな事でどうする」

 

「……ご…ごめんなさい」

 

睨みつけるような眼光。

元副隊長を窘めている。それは昔、この女が黒森峰にいた時の様に…。

 

「…みほ。今回の試合。当然、お母様もご覧になっているのは分かるな?」

 

「うん…」

 

「…ここの所、母親として、随分とお母様も穏やかになってきた…が。西住流として、前回の決勝戦でのお前の失態は、まだお許しになっていない」

 

「……」

 

えぇ…西住流としてではなく。

ただの親子としての溝が少し埋まったと、隊長が珍しく微笑みながら言っていた。

……あの男のおかげだと、それは嬉しそうに言っていた。

その話を聞いた時は、何故か苛立ちは無く、自然に受け入れていた。

 

「当然、私達も負けるわけにはいかないが…」

 

「…うん」

 

「いつだったか…電話越しだが、お母様に言われたのだろう? 『あなたの戦車道を見せてみなさい』と」

 

「……うんっ!」

 

「今がその時だ。この決勝で、みほ自身の戦車道を見せてやれ」

 

「はい!」

 

今の隊長は、どの立場の隊長なのだろうか?

西住流後継者として? 戦車道の先輩として?

 

…姉として…だろうか。

 

これから戦う相手に檄を飛ばす。

厳しくも優しく。

隊長らしいのだけど…私としては複雑だ…。

 

なぜこの子に今更…。

 

それに昔みたく答える、この女もだ。

もう貴女は、黒森峰とは関係ないでしょう?

対戦相手に檄を飛ばされて、なんて顔してるのよ。

…嬉しそうな顔して…。

 

いつの間にか、手を握り締めていた。

 

「エリカ、お前もだ」

 

「……ぇ」

 

気がついたら、隊長は私を見ている。

この女を見る同じ目で。

 

「…気持ちは分からないでもないが、いつまで去年の大会の事を引きずっている」

 

「ちっ、違ッ…!」

 

違う。

 

私がこの女が許せないのは、前回の敗因の原因を作った事じゃない。

あんな何も知らない、周りの連中と一緒にしないでください。

 

「なにが違う。引きずっているからこそ、今でもみほを許せないのではないのか?」

 

「……」

 

なぜですか?

 

なぜ今、その話をこの女の前でするんですか?

 

「……」

 

隊長は目を閉じて、私の言葉を待っている。

 

…つまり言わせたいのだろうか?

この女の前で、本音を。

 

隊長にでは無く、この女に。

 

私が怒っている理由を…。

 

「ッ!!」

 

「え…」

 

睨んだ。

建前も何も無く、感情を表に出して本気で睨んだ。

 

「…みほっ!」

 

「!」

 

こんな所で言うつもりは無かった。

いえ、一生言うつもりなんて無かった。

この女の名前を呼ぶなんて事…二度と無いと思っていたのに!

 

「……西住流に「逃げ」なんて言葉…無いのよ」

 

「…」

 

「決勝の敗因? 10連覇消失の原因!? そんな事どうでもいいのよ!!」

 

「……」

 

一度、喋り出してしまったら、感情が止まらなくなった。

怒りが溢れ出す。

無意識に叫ぶように…大声でこの女に声をぶつける。

 

「私が許せないのは、…貴女が逃げた事…逃げ出した事!!」

 

「……」

 

「力もある。技術もある。…黒森峰副隊長が……西住流の家元が……そんな貴女が! 周りに負けて、見返そうともしないで逃げたぁ!? 許せるわけないでしょ!?」

 

「……エリカさん」

 

「私を昔みたいに呼ぶな!!」

 

息が切れる。喉が熱い。

なぜ隊長が、この場で私をけし掛けたのか分からない。

試合前だというのに…。

 

もういい、知ったことか。

隊長が望んだなら、そうしてやる。

 

「そんな貴女が…黒森峰から…戦車道から、リセットでもできたと思ったの!? ……逃げ出した先…なんかでっ!!」

 

「……」

 

腹から搾り出すように、本音をぶつける。

 

…私はどんな顔をしているのだろう。

 

……「西住 みほ」は、どうせまた、狼狽えた顔をしているだけだろう。

視界にすら入れてやらない。

見たくもない。

 

…ただ、目の前の西住隊長は、何故か嬉しそうな顔をしている。

特に微笑んでいる訳でもない、いつもの様に厳しい目をしている。

 

だけど何故か嬉しそう。そう感じた。

 

…しかし何故、そう感じたのか分からない。

 

「ハァ…ハァ……」

 

くそ! 

 

私の怒りの理由なんて…絶対にこの女には、言いたくなかったのに!

 

感情的になりすぎてしまった。

正直、居た堪れなくなり足が自然と自分の戦車へと動き出す。

が、すぐにその足が止まる。

 

「……」

 

あの女に背を向けたまま、もう一度言う。

 

 

「貴女なんて西住流と認めない…」

 

言っておきたかった。

言ってやりたかった。

 

 

 

「 叩き潰してやる 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……。

 

「お姉ちゃん、なんか嬉しそうだね…」

 

笑いを咬み殺す。

そんな感じだった。

 

「いや…な。隆史が言った通りだと思ってな」

 

隆史君?

 

「一度、本気のエリカをみほにぶつけてみろ…とな。大洗のテント前で言われたんだ」

 

「…隆史君が」

 

「あぁ。…鎖骨を指で、なぞられながら言われた」

 

「…………」

 

「あ、耳も噛まれたな」

 

「………………」

 

エリカさんに言われた事…転校前に言われた事まで含めて、色々と思う所がいっぱいあった。

……あったんだけど…。

 

「そういえば、そのエリカも似たような事をされていたな」

 

「…………………………」

 

隆史君……いなくても空気読まないなぁ…。

 

「まぁ今回はきっかけだ。今度しっかりと話し合ってみなさい」

 

「……」

 

話す事が倍になっちゃった…。

 

「しかし…ふむ」

 

「お姉ちゃん?」

 

お姉ちゃんの何かを思い出す時や、考え込む時の癖が今出ていた。

下唇を人差し指と親指で軽く挟んでいた。

 

「少し思うのだが、隆史はどうにも、エリカに甘い…というか、優しすぎるというか…」

 

「……」

 

「…みほや、私に対する態度に似ているというか…どうにも特別枠に感じる」

 

エリリンとか、からかっている所しか見た事無いけど…。

 

「私に内緒で、携帯で連絡を取り合っていたりな……」

 

「……」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ…初めは、エリカとみほの仲をどうにかしたいと、言っていたのだけどな…」

 

「…隆史君」

 

「へぇ~」

 

「最近はどうも、違う用件で連絡を取り合ってる…と、感じる…」

 

「なるほど……イツミサンモ、ツカエソウ…」

 

「……」

 

「遠回しに聞いても、はぐらかされてな…」

 

「怪しいですねぇ」

 

「怪しいのか?」

 

「…あの」

 

しれっと会話に入ってきたけど…その。

 

「…ところで、どうした赤星」

 

「え? いえ、みほさんに、ちゃんお礼を言っておきたかったんです」

 

 

 

 

 

 

前回決勝戦で、私が助けだした……赤星 小梅さん。

 

気がついてたら、お姉ちゃんの横に立っていた。

 

一瞬、あの事を思い出しちゃった…けど……。

 

随分と、普通にお姉ちゃんと話しだした。

あれ? えっと…その。

この二人って、仲良かったっけ?

赤星さん、随分と自然体で話しているけど…。

お姉ちゃんは、特に後輩の子に恐れ多いって言われてしまい、前に出るとみんな緊張してしまうのに。

 

もっと気安く話しかけてくれないだろうか? と、いうのが昔のお姉ちゃんの悩みだった。

私に気を使ってくれたのか、お姉ちゃんもエリカさん達の所に戻るという。

 

「…ふっ。私もみほとエリカに、何も言えんな」

 

最後は自分も隆史君…つまりは結局、男の話かと、お姉ちゃんも自身を嘲笑しながら帰っていった…けど!

 

「あの…あの時は、ありがとうございました」

 

「う…うん」

 

お姉ちゃんが戻って行った後、赤星さんと二人きりになった。

この人も私のせいで、周りから少なからず色々言われていたのが心残りだった。

けど…元気そうでよかった。

 

「あの後、みほさんがいなくなって…ずっと気になっていたんです…」

 

「…はい」

 

「私達が迷惑かけちゃったから…」

 

「い、いえ…」

 

「でも、みほさんが戦車道をやめないでよかった」

 

「」

 

両手で私の手を取り、胸の前でその両手で包み込まれた。

私が戦車道を続けていたと知った時、すごく嬉しかった事など、涙目になりながらも色々な言葉と共にお礼を言われた。

 

一度戦車道をやめてしまったのを知っていた為か、すごく心配もされてしまった様だ。

彼女も色々とあったみたい。

 

「わ…私はやめないよ?」

 

なんとか返事を返すんだけど…その。

 

近い。

 

近い近い近い! 

 

近いよ!?

 

いえ、いいんだけどね!?

なんで私の手を摩りだしたの!?

わぁ!! 顔もだんだんと近づいてくる!?

 

「わ……私だけじゃなくて…友達や…色々な人達のお陰で、やめなくてすんだの…また、始められたんだ…」

 

「あ~そういえば、彼氏ができたそうですね?」

 

「…え?」

 

「その方のおかげですか?」

 

「…隆史君の事…知ってるの?」

 

「みほさんのファンサイトで見ました♪」

 

一瞬、赤星さんと隆史君が知り合いかと思ったけど、さすがにこの子とは、面識が無かったかぁ。

隆史君無駄に顔広いからなぁ…戦車道の人間関係については。

……女の子ばっかりだけど。

 

「ハハ…恥ずかしいから、あんまり見ないでね?」

 

私自身、一応確認をしてみようと覗いた事があったけど…なんか、ちょっと怖かった。

すごく…神格化されてるっていうか…ちょっと宗教ぽくって怖かった…。

内容はともかく、……容姿の事を言われるのは、私賛美されるほど可愛くも美人でもないし、ちょっと恥ずかしかった。

 

でもそこのサイトに…あったかな? 隆史君の事…。

 

「ひゃあ!」

 

気がついたら、両腕を両腕で挟まれるほど、接近されていた。

びっくりして、変な声出ちゃったよぉ…。

 

「……」

 

…なんで赤星さん、ハァハァ言っているんだろう?

優香里さんも、たまにこの状態になるけど…ちょっと怖い…。

 

「みぽりーん!」

 

後ろで、皆が手を振りながら呼んでいるのが聞こえた。

振り向く時、赤星さんが手…というか、腕を離してくれた…。

 

「そろそろ行きましょー?」

 

「う、うん!!」

 

みんなの呼びかけに応え、最後に一言だけ赤星さんへ声をかけて、私も戻ろう。

と、思ったのだけど先に声をかけられちゃった。

彼女は2、3歩下がり、小さく手を振って言ってくれた。

 

「みほさん! 話せてよかったです」

 

「はい、私もです。ありがとうございました」

 

私も小さく手を振り返し、その場を離れた。

 

うーん…さっき感じた、悪寒はなんだったんだろ…?

少し急いでみんなの所に行こう。

ちょっと話しすぎちゃったし…。

 

少し振りむいてみたら、赤星さんはまだこちらを向いてくれていた。

笑顔で、手を振ってくれている彼女。

その口元が動いたけど、なにを言っていたのかは、分からなかった。

 

 

 

 

 

「…隊長だけじゃダメそうですね。逸見さんにも参加してもらいましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隆史様、いらっしゃいませんね」

 

いつものテント前。

といっても、大洗学園の…ですけど。

いつもいる、もう一人の男子学生の方が、こちらを見て震えてますね。

何故でしょうか?

何故か一生懸命、携帯で電話をかけたり、何かを打ち込んだりしてますね。

ま、どうでもい良いですけど。

 

試合も始まってしまうというのに、そのテント主の隆史様がいらっしゃいません。

どうしたのでしょうか?

対戦校同士の挨拶の時にも、お見えになりませんでしたし…。

 

「ここはいつから、他校同士の交流会場になったのかしら?」

 

「ダージリン? 貴女にそんな言葉、吐いて欲しくないわねぇ?」

 

「同感です、カチューシャ」

 

はい。

また集合ですね。

サンダース、プラウダ、そして私達、聖グロリアーナ。

 

「…タカーシャ、人を呼び出しておいて、その本人がいないってどういう事なのよ! まったく! 相変わらずね」

 

はい、全員に順番に連絡がはいりました。

アンツィオのアンチョビさんからの電話によって、ある意味私達は集められたようなものですね。

 

『大洗学園のテント前で、観戦してくれ』

 

隆史様からの伝言だとお聞きましたけど…多分、一緒にいるんじゃないでしょうか?

 

勘ですけどね。

 

言われなくとも、隆史様に会いにここに来る予定でしたから問題ありません。

まぁ、それは皆様も同じでしょうけどね。

 

「まぁまぁ、今皆様のお茶もお出ししますので…仲良く応援しましょう?」

 

恋敵と敵対だけしても、意味がない。

ヘタをするとその相手にも嫌われてしまう。

前回のテント前は、皆様牽制し合ってしまい、その場の空気が最悪でした。

まぁ、あれの原因の発端は、ノンナさんですけど。

 

それでも、いつまでも気にしても仕方が無い。

多分、隆史様がいても困らせてしまうだけだ。

 

あの青森の…あの店前のお茶会の様な…。

…その雰囲気を取り戻したいです。

 

その為には、なんとしても大洗学園に勝ってもらわないと!

 

「…オレンジペコさん。頼まれた事…聞いてきました」

 

「あ、ノンナさん。……どうでした?」

 

頼んでおいた事の報告。

それと同時に、お茶の準備を手伝ってくれ始めました。

 

……これもまた懐かしい。

 

「オレンジペコさんの想像通りでした。…最悪です。…………本当に最悪です」

 

「……でしょう?」

 

「ペコ? ノンナさん?」

 

私達の会話が気になったのか、ダージリン様が訝しげな目で見てきますね。

珍しいといえば珍しいですからね、私がノンナさんに頼み事をするのは。

 

「いえ、ノンナさんに私から、隆史様のお母様に聞いて欲しい事があったんです」

 

「…はい。最悪でした」

 

「あら、それは興味あるわね!! よかったら私にも聞かせてくれる!?」

 

サンダースのケイさんが食いついてきた。

まぁ……別段、内緒にする事でもありませんし、良いですけど。

私から聞くより、私より面識があるノンナさんから聞くのが一番ですし、答えやすいと思ったからでした。

前置きをして、単純な質問内容を教えました。

 

「隆史さんの…転校先?」

 

「えぇ、あの尾形さん。息子のタカシさんをボッコボッコ殴り飛ばしてはいますが、あの方…ものすごい親バカでして…」

 

「…それが?」

 

「簡単に言いますと、隆史様が…もし大洗学園が負けて、廃校になった場合。どうするか? って事ですね」

 

「ふむ…それで、その答えが、先程ノンナさんが呟いていた…最悪ってことかしら?」

 

「そうです。お義……いえ、尾形さんは、もし大洗学園が廃校になった場合、隆史さんを青森に戻すつもりだそうです」

 

「そうなの!? じゃあ、また青森港にいっつも、いる事になるじゃない!! それのなにが最悪なのよ、ノンナ!!」

 

ノンナさんが聞いた答えは、隆史様を高校卒業をするまでは、実家に置いておくつもりらしい。

その答えの何が悪いか…どうやらその重大さに、ダージリン様も良く分かっていない顔をしています。

…本当にこの方、この手の話はまったくダメですね…はぁ。

 

「その場合、高確率で「西住 みほ」さんもついて来ます」

 

「あぁ~、あのみほのお母さんの、タカシへの入れ込み具合見てたら…そうするかもねぇ……………………あっ」

 

あ、ケイさんは勘付いたようですね。

 

「ま…まぁいいじゃない! むしろ、ミホーシャをプラウダにスカウトすれば…「ダメですね」」

 

ノンナさんが、横から口を出した。

カチューシャさん相手に珍しい…。

 

「もし今回、大洗が負けて廃校になった場合、みほさんは戦車道を本当にやめてしまうかもしれない。それどころか、また戦車道が無い学校に転校してしまう可能性もあります」

 

「な…なんですの?」

 

「え…ダージリン様。ここまで言って分からないんですか?」

 

まったく…。

あの西住流家元の隆史様への入れ込み具合を間近で見ていませんでしたか?

…隆史様の「最後まで付き合うつもり」発言での、あの喜びようを。

 

「隆史様は、陸の学校に通ってました。…あの家元なら確実に、みほさんを同じ学校に通わせますよ」

 

「……」

 

「対して、私達は学園鑑です。手が出せません。みほさんが、戦車道をやめない場合でも…あの家元ですよ?」

 

「……」

 

二人の隊長の顔が、段々と青くなっていくのが分かりますねぇ…。

あの家元…加えて、隆史様のお母様。

 

「ででででででも、それなら別に今の状況と、余り変わらないのではなくって? みほさんと隆史さんは同じ学校ですし」

 

「はぁ…いいですか? ダージリン様!」

 

「ハイ」

 

「隆史さんが青森に戻った場合、またあの「魚の目」でバイトをするでしょう?」

 

「そ…そうね。絶対にするでしょうね」

 

「戦車道をやめてしまった場合のみほさんが、まったく関わらないはずないでしょう? 最悪同じ店で働き出すかも知れないですよ?」

 

「」

 

分かりましたか?

私達は手が出せない。

加えて、いつでも一緒にいれる状態の「西住 みほ」さん。

 

「カチューシャもダージリンさんも…あの店の前……あの広場は「大事な場所」ですよね?」

 

「も…もちろんよ! ノンナも知って…あぁ!!!」

 

カチューシャさんは理解しました。

はい、ダージリン様も気づきましたね? 起きてくださーい。

 

 

「あの大事な場所が……西住みほさんにとって、「愛の巣」になります」

 

「「 」」

 

はい。まだ話はありますよ~起きてくださ~い。

 

「でも、飛躍しすぎというか…別にそうなったって「分かっていませんね、ケイさん」」

 

はい。青森での事を知らない方は黙っていてください。

あの店の店主を知らないから、そんな事を言えるのです!

 

「 更に 」

 

「まだ何か!?」

 

「…あの「魚の目」店主には、お子様がいません」

 

「……まさか」

 

「私も一度お聞きした事があったのですが、隆史さんをどうも、自分の子供みたいに感じている所が、あるようでして…」

 

「…それが?」

 

はい、ここからは私情報です。

 

「いいですか? 私と隆史様が、初めての「デート」。いいですか「でぇと」!!……をした時にお聞きしたのですけどねぇ…」

 

「「「「 …… 」」」」

 

はい、大事な事でしたので、二回言いました。

はい。皆さん。睨んだってダメです。

はい。あれは「デート」です。

 

「高校卒業したら、あのお店で本気で働かないかと、誘われた事があったそうです」

 

「「「「 …… 」」」」

 

「子供がいらっしゃらないので、継いでもらっても良いとまで言われたそうですよぉ? 2年程しか働いていない高校生に…」

 

あのお店…本当は支店を出しても良いくらい稼ぎがあるそうでしてね。

もし隆史様が、店で本気で働きだしたら。

もし隆史様が、あのお店を継いでしまったら。

 

店を継がせるつもりなら、高校卒業後即、その様に修行をさせると。

すでに収入が安定しているお店。

何年かかるか分かりませんが…店を継いだ瞬間、安定した生活が手に入る、隆史様。

 

一個一個、言葉にして不安の種を出して見る。

 

安定の言葉に、ダージリン様の肩が一瞬動きました。

 

はい。お分かりになりましたね。

 

「…あの向上心の、欠片も無い隆史様です。その割に責任感だけは人一倍」

 

「……」

 

「…そして側にいるのは、普通の生活を求めて転校したと仰っていた、みほさん」

 

あの目的が、変に似ている二人。

 

「はい。分かりましたね? 大洗学園の廃校が決定した場合…………終わります」

 

「「 」」

 

はい、二人揃って立ち上がりましたね。

はい、大画面に向けて叫んでも、本人達には聞こえませんよぉ?

 

「がんっっばってください!! みほさん!!!」

 

「ミホーシャァァァ!! 黒森峰何て、消し炭!! 消し炭にしたげなさぁぁい!!!」

 

 

 

 

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「…あら、ケイさんは冷静ですね?」

 

「ん? あぁ…少し寂しいけど、青森でのタカシの事、私は知らないからね」

 

大画面に向けて叫んでいる二人を尻目に、出された紅茶を啜るケイさん。

…紅茶を啜らないで下さい。

 

「流石に今の話は…大袈裟よねぇ」

 

「ふふっ、そうですね。ちょっと大袈裟に言ってみました。」

 

「…ふ~ん。貴女も…面白いわね!!」

 

そうですか?

 

確かに昔の…ダージリン様のお側にいただけの私とは違うのでしょうけど。

私も少しは、変わってきたのでしょうか?

成長できているのでしょうか?

 

「まぁ、今の話…話半分にしても…私、少し気になる子がいるの」

 

「気になる子…ですか?」

 

「……例え、青森にタカシが行っちゃったとしても…」

 

「はい?」

 

「あの子が、黙ってるいるはずが無いと思うの…絶対に何かする…」

 

「あの子?」

 

「まったく。タカシのマミーといい…最近怖い人ばっかり見てる気がするわぁ」

 

怖い人…?

 

ケイさんが、両腕を頭の上で合わせ背筋を伸ばす。

ん~っと聞こえてくるのですが…なんでしょう? 顔が真剣ですね。

 

「…誰の事を仰っているんですか? 西住 まほ…さんですか?」

 

「まほ? 違うわよ! あの子のは怖いとは別。戦車道じゃ、ちょっと怖いけど…あれは真面目なだけね。タカシも気が付いていたけど…あの子、優しすぎる部分もあるの」

 

「そ…そうなんですか?」

 

…わかりませんけど? ただ、怖い人にしか見えませんけど?

 

「そうよ? タカシに今度聞いてみなさい? …惚気にしか思えない言葉が聞けるから」

 

「なら絶対に嫌です♪」

 

「だよねぇ!!」

 

HAHAHA!! っと豪快に笑いだした。

ちょっとこの方と話すのは、楽しいです。

 

「…………本当に怖かったのは、貴女も話した事ある娘よ?」

 

「私も?」

 

…誰でしょう?

 

怖いと感じた事…。

娘?

 

「初めは直感だったんだけどね」

 

ケイさんの顔を見てみると、少し目に怯えが見える。

その娘の事を思い出しているかの様に。

 

 

 

「あの目を見たらねぇ…。自分がなにをするか分からない。それを本気で言える人間…自分をちゃんと理解してる人間……」

 

「えっと…誰なんですか?」

 

勿体付ける態度。

この人が珍しい…というか、いい憚るというのか…。

 

「あれは、あのまほも気がついていないわね…」

 

大騒ぎで叫んでいる、二人の強豪校の隊長を見つめながらボソリと呟いた。

 

…ちょっと、私には分からない。

そんなに付き合いがある人じゃない。

というか、一度しか話した事が無い。

 

 

 

「…島田 愛里寿」

 




はい、閲覧ありがとうございました。

主人公不在でお送りしております。

……いやいや。
更新遅れたのは、某西部劇のゲームのせいじゃありません。
ありませんよ?

エリリン恫喝部分が、かなり書き直しました。
最初、エリリンただの嫌な奴になったりしてちょっと大変でした。
PINKも書けなかったよ…。


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