転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第52話~開戦です!~

「パンツァーフォー!!」

 

私の号令と共に一斉に進み始める、みんなの戦車。

ハッチから体を出し、地平線を見つめる。

 

「……」

 

戦車の前での、みんなでの円陣。

ん~…円陣…とは、少し違うのかな…。

 

でも嬉しかった。

 

うん。とても嬉しかった。

 

そして、初めてだった。

黒森峰では、あんな事やった事なんて無かった。

 

西住家…お姉ちゃん。

 

……お母さん。

 

周りの期待や、重圧。

負けない様に精一杯、頑張ってきたつもりだった。

周りの目を気にして、お姉ちゃんの足を引っ張らないようにする。

 

…楽しいと感じた事なんて…嬉しいと感じた事なんて、一度も無かった。

 

大きな駆動音を立て、進む戦車の振動が、体の芯にまで響き渡る。

 

今、この戦車にみんなと乗って…。

 

……一緒に進む事が、とても嬉しい。

 

大変な状況なのは分かっている。

これで負けてしまったら、廃校…みんなとお別れになってしまう。

でも。

 

なんでだろ?

 

それでも今、私はとても楽しい。

 

「西住殿」

 

優香里さん?

車外に顔を出して、声を掛けてきてくれた。

 

「良かったですね」

 

「ん?」

 

「仲間を助けた西住殿の行動は、間違ってなかったんですよ!」

 

……。

 

「今でも、本当に正しかったどうか分からないけど…」

 

嬉しそうに。

 

うん、嬉しそうにそんな言葉を掛けてくれた。

 

「でも…あの時私は、助けたかったの。…チームメイトを」

 

それは、私のトラウマから来るモノじゃ無い。

あれは、私の意思だったんだ。

まだ少し「あの時の事」を思い出すと、腕も足も震える…。

だけど、あれは違う。私がそうしたかったの。

 

「だから…それで、いいんだよねっ!」

 

私の事なのに、嬉しそうに笑ってくれている優香里に、私も笑顔で答えよう。

 

『こちらは、あんこうチーム』

 

ん? 沙織さん?

 

『207地点まで、後2キロ! 今の所、黒森峰の姿は見えません。ですが皆さん、油断をせず気を引き締めて行きましょう!』

 

『交信終わります!』

 

「あれ? なんか話し方、変わりましたぁ?」

 

「本当、余裕を感じます!」

 

うん、流暢に皆に言葉を送った。

沙織さんも頑張って、資格まで取ってくれたんだ。

…私も頑張らないと。

 

「えぇ! 本当!? プロっぽい!?」

 

「全然プロっぽくない」

 

「ひどぉい! なんでそんな事言うのぉ!?」

 

アハハ…麻子さんが、ちょっとキツイ。

 

「沙織。ならプロっぽく、ちょっとDJ風にやってみてくれ」

 

「え…DJ風って……えっと……」

 

「冷泉殿…」

 

「麻子さん…」

 

…なんか凄い事言い出した。

 

「えーと…えっと……って、やる訳無いでしょぉ!?」

 

「じゃあ、プロっぽくニュースキャスター風。お天気お姉さん風。そこら辺で」

 

「やらないってぇ!! っていうか、出来る訳無いでしょ!? 一体なんのプロなのよぉ!!」

 

よ…余裕が有るのはいい事……かな?

 

「…書記は、そういうの好きそうだけどな」

 

「……」

 

ん? ちょっと声が、小さくて聞こえ辛かった。

あれ? なんだろ。沙織さんが黙っちゃった。

 

「「……」」

 

あれあれ? 優香里さんと華さんまで黙っちゃった。

なんて言ったんだろ。

 

「……よし。ちょっと頑張ってみよう」

 

「…沙織」

 

ど…どうしたんだろ。

 

「けっ、結局! 隆史殿、間に合いませんでしたねぇ!!」

 

「そっ…そうですねぇ!!」

 

隆史君?

隆史君の話だったの?

 

「チッ、まぁいい。…書記はこんな大事な時にまで、フラフラしてるな」

 

「西住殿。携帯でも連絡取れなかったんですか?」

 

「え? …うん。電源切ってるみたい。何してるんだろ…」

 

「テントの方にもいないみたいですね。隆史さんのご友人が代わりを務めていると、会長は仰っていましたねぇ」

 

…多分。

裏で何かしている。

 

お姉ちゃんとお母さんは知っているのだろうか?

 

「……」

 

…多分知っている。

何してるんだろ。

ちょっと嫌な予感がする…。

 

あっ。

 

 

 

 

「!!」

 

 

風きり音が聞こえたと思った瞬間。

大きな音と共に、Ⅳ号の左方横に爆発。

土煙が上がり、車体全体に衝撃が走った。

 

『なに!?』

『もう来た!?』

『うそぉぉ!?』

 

無線で皆の声が聞こえた。

 

…状況確認。

 

双眼鏡で覗いた先。

森の中に、見慣れた複数の戦車が見える。

ゆっくりと前進しながら、砲身の先から煙が上がる。

ここまで砲撃音が聞こえてくる。

 

…始まった。

 

『いきなりなにこれぇ!』

『なによ、前が見えないじゃない!』

『森の中をショートカットしてきたのか!』

 

各戦車の動きから、混乱が見える。

いけない。

 

「いきなり猛烈ですねっ」

 

「すごすぎる!」

 

 

「これが西住流…っ」

 

 

体制を立て直さないとっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全車両! 一斉攻撃!!」

 

私の号令と共に、各車両から砲弾が発射される。

 

「前方、2時方向に敵フラッグ車を確認」

 

見つけた。

 

あの、ふざけたパーソナルマーク。

さっさと、こんな試合終わらせてやる、

 

「よし。照準を合わせろ」

 

隊列が乱れている。

なによ。止まっているみたいな車両もいるじゃない。

マゴマゴと旋回でもしようとしているのか? あの三式。

 

「照準良し。フラッグに合わせました」

 

「…よし」

 

チッ。

 

無意識に舌打ちがでる。

 

あれが。

あんなのが、元副隊長。

少なくとも、西住流を学んできたんじゃ無いの?

隊列も何もあったものじゃない。

家訓はどうしたの。黒森峰での経験も何も…。

 

あんなポンコツ引き連れて…早々に終わるだけじゃない。

 

もういい。

 

「装填完了」

 

…目障りだ。

 

「撃て」

 

はい、これで終わり。

 

……。

 

…………。

 

運がいい。

 

三式が何を考えたのか、敵フラッグ車の後方にバックで遮った。

標準は完全に敵フラッグ車を捉えていた…のだろう。

 

着弾位置を照らし合わせて見れば、何となく分かる。

あの三式がいなかったら、早々に決着がついていたのに。

 

…あんな、いてもいなくても一緒の様な車両。

仕留めたとしても、何のプラスにもならない。

 

チッ。

 

「次弾装填、急げ」

 

隊長は言った。

 

初めて対するチームだが、消して油断するな…と。

初めて対するチーム?

あんな、元副隊長におんぶに抱っこの素人集団、油断するなという方が無理だろう。

そもそもチームと言えるのだろうか?

 

だが油断しない。

 

隊長の命令ならば、言われる通り油断はしない。

だから初手から、潰す気で行った。

それにあの女は、昔から奇抜な……。

 

「……」

 

少し考えがおかしい。

なんだ? 結局の所、元副隊長を認めているような思考をしてしまった。

 

…。

 

苛つく。

 

今回はたまたま運が良かっただけ。

 

それだけ。

 

それだけ。

 

それだ…

 

くそっ!

 

「副隊長!」

 

「……っ」

 

なに?

 

大洗車両が一斉に煙を吐き出した。

故障? 違う。

 

煙幕のつもりだろう。

 

風に煽られ、大きく煙は広がっていく。

あっという間に大洗学園の戦車達を飲み込んでいく。

 

すでに目の前に、山ほどの大きさに膨れ上がった煙の塊が見える。

 

「煙? …小賢しい真似を。忍者の……」

 

忍者?

ニンジャ戦術。

 

島田流の戦術。

 

……。

 

取り入れた?

 

西住が? 島田流を!?

 

「……」

 

確か…あの男は、島田流の…。

 

「……」

 

いらつく。

 

イラツク、イラツク、イラツクイラツクイラツク!!

 

「…西住流がぁ……島田流のぉぉッ!」

 

ふざけるのも大概に…っ!

 

『全車両、撃ち方止めっ』

 

隊長からの無線が入った。

 

…頭に血が上り始めていた。

隊長の声を聴いて、上り始めていた血が下がる。

 

しかし、煙幕で遮られているとはいえ、距離はそんなに離れていない。

今この期を逃すのはっ!

 

「一気に叩き潰さなくていいんですか!?」

 

『下手に向こうの作戦に乗るな。…無駄弾を打たせるつもりだろう。弾には限りがある。次の手を見極めてからでも遅くはない』

 

「…了解」

 

命令には従う。

隊長の言うとおりに。

…だが、気持ちだけが先走る。

 

くそっ!

 

 

『……逃がすもんですかっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大画面に映る、高所を登るポルシェティーガー。

その前方、大洗の戦車3輌にワイヤーで繋がれて。

なるほど。

確かにポルシェティーガーの機動力では、あの高所はきついわね。

それを牽引してカバーするなんてね。

 

「いやぁ~、でもこの大人数…しかも9割他校の生徒。…どこの本部テントか分からないわね」

 

「ケイさん。貴女が大声だすと、その残り1割の大洗学園の生徒の方が、怯えましてよ?」

 

「…いや、私何もしてないけど」

 

テント前に設置された、お茶会のセット一式。

青森で使用していたものと同じもの。

敢えて、これをセッティングしたというのに…まったく。

当の本人はまだ来ませんわね。

 

テントの中。

無線機前で、隆史さんといつも一緒に観戦していた男子生徒の方。

ケイさんの声を聞くと一々、体がビクつきまして…。

 

しかしそれにしても…。

 

周りを見渡すと、いかにもな黒服を着てサングラスをかけた方が、多数いらっしゃいますわね…。

こちらだけでは無く、反対側の黒森峰側にですけど…。

どうやら、見える範囲だけではなくて、数人隠れている様にも思えますわね。

 

…。

 

「…まぁいいでしょう。それにしても…」

 

結局の所、私達聖グロリアーナ。サンダース。プラウダ。

みほさん達と試合をした高校が、勢揃いしていますわね。

 

しかし、隆史さん…何故態々、アンチョビさん経由とはいえ、私達に集まるよう声を掛けたのでしょうか?

大洗準決勝戦の時の様に、明らかに自分の首を絞める様なものですのに…。

 

準決勝戦…。

 

テント…。

 

「どうしたのよ、ダージリン」

 

「カチューシャさん?」

 

ノンナさんに肩車された状態…ではなく、流石に同じ席で座ってお茶を楽しんで頂いてます。

いえね…流石に肩車をして飲まれたら、私も怒りますしね。

 

「いえ何故、隆史さんが態々、私達を一箇所に集めたのか…と、考えてみましたら……準決勝戦のテント前の事を思い出しまして…」

 

「あぁ、貴女が言いだした癖に、あの状態のタカーシャにボコボコにやられちゃったていう、間抜けな話の事?」

 

「……」

 

ふ…ふふふふ。

まぁ「酔った隆史さん」なんて不謹慎な事を言わないだけ、良しとしましょう。

 

「…殿方に髪を根元から弄ばれるなんて真似…初めてでしたわ……」

 

…思い出すと少し顔が熱くなりますわね。

 

「あれ、隆史様じゃなければ、殺意をもちますよね……」

 

私の横で話を聞いていた、同じ事をされたペコ。

私と同じくして思い出したのか、赤面し始めましたね。

…まぁ、そうね。

女性の髪というのは、得てしてそういうモノですしね…。

 

 

「やっと、着いたぁぁ…危なく寝過ごす所だった…」

「間抜けっすね、ドゥーチェ!」

「…私達も寝ちゃっていたから、人の事言えないでしょ?」

 

 

あ。もう一人の被害者が来ましたわね。

……彼女はある意味でも、隆史さんに髪の毛で遊ばれていましたわねぇ…。

少々、イラッ☆ミってしましたけど…。

 

「そんなこんなで、ドゥーチェ登場!!」

 

「なんかすっごい人数っすね」

 

「はいはい。ムチを振り回さないで下さいな」

 

一番乗りを目指して、近場で野宿。

そして寝過ごしそうになったという、ある意味で一番美味しい立ち位置の方ですわね。

 

「いやまぁ…隆史が来てくれて助かった…」

 

「まさか、空から落ちてくるとは思わなかったっすね!」

 

「ヘリから直接、会場入りしようとするなんて…多分隆史さんだけですね…」

 

他のアンツィオの生徒の方々は、一般応援席の方で応援するようですけど、隆史さんに言われてアンチョビさん達もテント前に誘導されていたみたいです。

 

「で、アンチョビさん」

 

「おーぅ、久しぶりに普通に呼ばれた気がする…なんだ? プラウダの副隊長!」

 

「唯一、隆史さんの顔を見ているアンチョビさん」

 

「…む…無表情で迫るのは、やめてくれないか? そしてなんで2回言ったの!?」コワイ…

 

「…隆史さんは、どこでしょう?」

 

あら…ノンナさんが、アンチョビさんの両肩を掴み、逃がさない様にロックしてますわね。

…あ。ペコも無表情に…。

 

「え? し、知らない…」

 

「……」

 

「近い近い近い!! 顔が近いっ! 本当に知らないんだよ!」

 

「……」

 

「ノンナ姐さん。私達、タカシの居場所、本当に知らねぇんだよ」

 

「そうなんですよ。隠す意味無いでしょう?」

 

副隊長さん達の返事に、渋々両手を離したノンナさん。

何か納得いかないという顔をしていますわね。

…まぁ、私達を集めておいて放置ってのは、疑問しか浮かびませんからね。

 

「相変わらず怖いなぁ…プラウダの副隊長は…。あ、そうか。それで隆史が…」

 

「なんですか?」

 

「いやな、お前に言えば分かってくれるって言われていてな」

 

「私に?」

 

「そうだ。えっと…なんだっけか…」

 

「なんですか? さっさと言ってください?」

 

「」

 

笑った…ノンナさんが……笑った…。

カチューシャさんだけ向ける様な微笑みで、催促をしている…。

 

「ねぇアンチョビ。ノンナにこれ以上、タカーシャの事で勿体つけると…私でも止められないわよ?」

 

「勿体つけてないだろ!?」

 

「準決勝のテント前で、タカーシャにノンナだけ被害受けてないの。それで…最近、ちょっと怖いのよ……早く言って頂戴」

 

「分かったよ、もう! …えっとな」

 

「…はい?」

 

「『昔の俺達の事件の事で、迷惑掛けたくないから安全な所にいてくれ』…だってさ」

 

「……昔の?」

 

「ん、なんか西住姉妹との事だってさ。わかるか?」

 

「………昔……………あっ」

 

なんの事でしょう?

西住姉妹って事は、みほさん達の事ですし…昔の事件?

ノンナさんは、何か思い出したのか、少し上を見上げています。

 

「ペコ、何か分かる?」

 

「いえ…みほさん達も絡んでいると…去年の決勝戦の事くらいしか思い付きませんけど」

 

「そうよねぇ…それでもノンナさんに言えば分かるって事は、ノンナさんはご存知なのでしょう?」

 

「……」

 

そのノンナさんは、口元に指を当てて、考え込んでいますわね。

ただ…なんでしょうか。

表情が…どこか嬉しそう。

 

「…昔の事件……迷惑……安全……なるほど。それで…ガードの方が……」

 

ブツブツと断片的に聞こえます。

私だけでは無く、伝言を持ってきたアンツィオの方もノンナさんを注目していますわね。

 

「そもそもさぁ」

 

ケイさんが、頭の後ろで手を組み、肝心な部分に触れました。

 

「昔の事件ってなんなの? 私知らないけど」

 

「「「「 …… 」」」」

 

「あの西住姉妹と隆史さんの出会った時の話ですが……皆さん知らないのですか?」

 

「し…知りませんわ。聞いた事ございますけど…隆史様、その件は絶対に教えて頂けませんでした」

 

「私も知らない…隆史、その事になると頑なに口を閉ざすんだよな」

 

「そっすねぇ。大体、あの二人とは幼馴染って事しか言わないっすからね。ダ姐さんなら知ってると思ったんすけど」

 

「…ダ姐さんは、おやめなさい」

 

「カチューシャも知らない。ノンナ? 貴女は知ってるの?」

 

……ん?

 

そういえば伝言は、ノンナさんご指名でしたわね。

…ということは……。

 

「ノ…ノンナが、見たこともない笑顔になってる……」

 

「そうですか。皆さんご存知有りませんか…ソウデスカ……」

 

 

「「「「 …… 」」」」

 

 

「どうやら隆史さんは、私に「だけ」教えて下さったようですね」

 

イラッ

 

「では、私の口からはお答え致しかねます。私に「だけ」教えて下さったのですからね?」

 

2回も仰いましたね…。

普段、基本的に無表情なだけあって、こういう時の笑顔は非常に目立ちますわね…。

 

勝ち誇ってる!

 

 

 

 

 

 

「過去。それは本当に重要な事なのかな?」

 

 

 

 

弦楽器の音が…真後ろから聞こえましたけど…。

何故、私達のお茶を…さも当然の様に飲んでいるのでしょうか?

 

「…あんた。継続の…」

 

「はい、カチューシャ。泥棒ですね」

 

「確かに過去というのは、時には必要だ。必要だけど重要じゃあない。「隆史と私の間」には、関係の無いものだよ」

 

…まさか。

この方も…ですか?

あの…隆史さん……。

いい加減にして欲しいものですわ。

 

「また大きい方じゃないですか、また大きい方じゃないですか、また大きい方じゃないですか、また大きい方じゃないですか」

 

…ペコの目がドス黒い…。

 

「んなこたぁ、聞いちゃいないわよ! というか、あんた! 盗んだうちの戦車返しなさいよ!」

 

「盗んだ? 違うよ? あれは快く貸してくれたんだ」

 

「隊長の私が、んな記憶無いわよ! いいから返しなさいよ!!」

 

震えながら指を指し、大声で怒鳴っているカチューシャさんを、弦楽器の…カンテレでしたか?

そのカンテレの弦を弾きながら、涼しい顔で一言。

 

「そのうちね」

 

「この…!!」

 

あー…そうでした。

プラウダ高校と継続高校は、仲があまりよろしくありませんでしたわね。

 

「ミカー! これ美味しい!!」

 

「パスタ食うの久しぶりだな!」

 

「いいねぇ! いい食いっぷりだな!」

 

何してるんですかねぇ…他の継続の方々は。

いつの間にか、アンツィオの屋台で赤いパスタを頬張っていました。

そうでした。

隊長共々、基本的に唯我独尊。

空気を読まないのが継続高校でした。

 

「…ペパロニ。移動式の屋台って、今回持ってこなかったよな…」

 

「やだなぁ姐さん。こんなお祭り会場みたいな所、持ってこないはず無いじゃないっすか! 稼ぎ時っすよ!?」

 

「…いや…今回、私達は大洗学園の応援にだな…というか、こいつら継続の奴らって金持ってるのか? 私達より貧乏だぞ?」

 

「なっ! おいおい、オチビちゃん達。食い逃げは重罪だぞ?」

 

「んぁ? 金? 無ぇよ?」

 

「ミッコ…大丈夫だからって、これ私に渡したよね?」

 

「おいおい…マジか…警察に突き出しますか? 姐さん!」

 

「いやいや、ちょっと待てって。今、あたしら「隆史に買われている」ようなもんだしさ。その隆史に付けといて!」

 

 

「「「「「  」」」」」

 

 

「タカシに? んなら、まぁいいか」

 

「そうそう! ご主人様にはちゃんと、食事の面倒見てもらわないとさ!」

 

 

「「「「「  」」」」」

 

 

「ミッコ!!!」

 

 

何やってますの、隆史さん。

 

手をブンブン振って、アキさんと名乗る方が、大洗納涼祭の時のお礼にって、違反金を支払ってくれた事だとフォローを入れてますわね。

…まぁ。一瞬、いくつか殺気が飛びましたからね。

すごい早口でしたわね。

 

「違反金やっと支払い終えて、あたしらマジで無一文だし…まぁ、それも結局隆史が、出してくれたんだけどさ!」

 

「それは、初めから無一文って事だよ…それにアレ、貸してくれているだけだよ…」

 

「そっか? 借金してんだから「隆史に買われている」ようなもんだろ?」

 

「なんというか……ミッコ、言い方が最低だよ…」

 

「え~…雇い主みたいなモノじゃないの?」

 

「隆史さんの評判がまた落ちちゃうよ? というか…一瞬、私達の命が落ちるかと思ったよぉ…」

 

あら、やだ。

そんな怯えた目で見ないで頂けます?

 

「…ダージリン様」

 

「あら、何かしらペコ」

 

「なんかあの方々に、全部持って行かれましたね…場の雰囲気」

 

「そうね。こんな言葉を知って『知っています』」

 

……。

 

「ペコ。…貴女、隆史さんに似てきましたわね…」

 

「そうですかぁ?♪」

 

褒めていませんわよ?

何を嬉しそうに…。

 

「…ねぇー! 私、そろそろ昔の事件ってのを知りたいんだけどぉー?」

 

ケイさんの声が聞こえましたね…。

何気にあの方、一番マイペースですわよね…。

 

うぅ…。

最近、格言がまったく言えない…。

 

グスッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…聞いてますか? キリマンジァロ様」

 

「……」

 

「あの…」

 

「あぁ…ごめんなさい。聞いてますわ」

 

「…あの…大洗学園が、あの黒森峰の一輌を撃破しましたが…」

 

「……」

 

「やっぱり、聞いてませんね…」

 

戦車道の全国大会決勝戦。

勿論、履修している者なら誰しもが注目、見学、観戦するでしょうけど…。

 

「ダージリン様にお会いできなくとも…あんな素敵な出会いがあるなんて…」

 

「……」

 

いやいやいや!!

確かにっ! 助けてもらいましたけど!

素敵とは、かけ離れてますよね!!

 

大洗学園の試合には、必ず観戦に来ていると言われているダージリン様にお会いできるかも知れない。

そんな理由で決勝会場に来ているの…貴女だけだと思いますよ?

 

「で…モカ?」

 

「…なんですか?」

 

「あの方の詳細を調べて頂戴」

「無理です」

 

即答した。

はい、無理っす。

 

「…大丈夫……資金は、如何様にも使って頂いてよろしいですから」

 

「いやぁ…無理ですよ。だって…ただの熊の着ぐるみですよ?」

 

「なんで!? バイトの方かも知れないじゃない! 問い合わせれば、すぐじゃないの!?」

 

「…口調、崩れてますよ?」

 

「! っといけない…」

 

はい。

 

会場入りして、いきなり暴漢に襲われた…。

キリマンジァロ様、富豪のお家なんですから…そういうのに結構出くわすとか、昔言ってませんでしたか?

なのに…なんでまた。

 

黄色の熊の着ぐるみ。

 

なに? あのど派手な赤いマント。

 

黄色と赤の二色ってだけで、目が痛いのに…。

 

「…暴漢から女性を助け…名を告げずに去っていく……そんな…おとぎ話の様な……王子様っ!」

 

あかん。

トリップしとるわ、このお嬢。

王子様って。

相手、熊ですやん?

 

「でも相手、ただの熊の着ぐるみですよ? ただ話せなかっただけじゃ…」

 

正直に言いましょうか?

いやでもなぁ…。

 

あのナイフで襲ってきた暴漢…。

多分…あれ、普段からコスプレしてるような格好の貴女を、間違えただけだと思いますよ?

ダージリン様好きすぎて、私にまでアッサム様のコスプレさせる様な貴女を。

 

本物のダージリン様と。

 

誘拐でもしようとしたのか、脅迫地味たセリフを吐いていたなぁ…あの暴漢。

明らかに「ダージリン」って名前が聞こえたような…。

 

キリマンジァロ様の腕を掴んだ瞬間、ヌッっと背後から現れたあの黄色いのに、抱きつかれてのされてしまった。

ベアハッグというのだろうか…。

 

キリマンジァロ様を見て、一瞬ヤベーって雰囲気をしたのは、なんでだろう?

 

そのまま、そそくさと気絶させたその暴漢を引きずって、何も言わないで去って行った。

 

数分の事だというのに…まったく。

助けて貰ってなんだけど、あの熊…ただの通り魔にしか見えなかった。

 

襲われる。抱きつく。絞め落とす。そして拉致。

 

その流れだったからなぁ…。

 

警察に通報とか良いのかと聞くと、良くある事だし、めんどくさいからいい。そんな答え。

……金持ちって…。

 

というか…チョロすぎだろう、この隊長。

 

「ハァァァァ!」キラキラキラキラ

 

めんどくさいなぁ…。

 

あ。

 

「そういえば、今回「尾形 隆史」っての、大洗学園側にも見えませんね」

 

ピクッっと体が強張りましたね。

 

「……殺す」

 

おーう、予想通りの反応。

 

「あの、ダージリン様を誑かす、女ったらしのクソ野郎なんて…視界に入れたくもないっ!」

 

よし、なんか良く分からない乙女モード解除。

 

「何が濃密な関係ですかっ!! ダージリン様、殿方との接点があまりありそうにありませんしっ! 騙されているんですわ!」

 

……あ、今度は別の意味でめんどくさそう…。

というか、貴女もそんなに無いでしょう?

レディースコミック見て、右往左往してるの知っているんですよ?

 

…。

 

ドゴンと音と共に、大画面へ映し出される土煙。

高所…山の頂上付近を陣取った、大洗学園の車両へ、黒森峰が一斉砲撃。

 

命中したのかどうか…まだ分からないが、噴火したかの様な土煙が上がっている。

 

「ハァァァァ!」キラキラキラキラ

 

またトリップしだしたし…。

 

西呉王子グローナ学園の隊長様が、壊れ始めた瞬間だった。

 

・・・・・。

 

だから一応、副官として…言わないで、思っておこう。

 

試合見ろよっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある少女達は道に遅れていた。

到着する頃には決勝戦は開始されていた。

 

二人の少女。

 

小学生の時の友人が、戦車道全国大会に出場。

 

しばらく交流が無かったものの、気にならないはずも無く、遅ればせながら応援に駆けつけた。

 

「結局、エミちゃん来なかったね」

 

「まぁ、ドイツからじゃそうそうねぇ…というか…隆史君も来なかったんだけど…」

 

「あはは~、呼び出しておいて酷いよねぇ」

 

「……」

 

「……」

 

「ねぇ、さっきからなにその口調」

 

「えっとね! ナレーション風!」

 

「はぁ…ねぇ、ひーちゃん」

 

「…うん」

 

「気持ちは分かるんだけど…目の前の現実を直視しよう」

 

「……」

 

うん…目の前の現実…。

 

整列している、着ぐるみの集団。

 

……何かの宗教? お仕事?

 

無理やり黄色く塗ったのかと思うような、黄色一色。

顔は熊。

体は…なんか、色んな着ぐるみの衣装。

即席なのだろうか? なんで体だけ猫なの?尻尾でわかるよ?

色は黄色だけど…。

 

野球やサッカー。

 

色んな業種のマスコットを、無理やり黄色く塗ったと思われるほどの完成度。

 

そのよくわからない集団がいる。

 

その戦闘に立つ…ボスキャラっぽい…というか、唯一赤いマントをした熊の着ぐるみと…女の子。

 

呆然とみちゃいけない所に迷い込んじゃった感が強いため、ちょっと離れて見ていた。

 

『…概要は以上。相手は「黄色い熊」としか認識が無いと思われる為、その格好で各自行動して下さい』

 

小さな…中学生くらいかな?

その女の子が、…20人くらいはいるかな?…その集団に命令らしき事を言っていた。

 

パキッ

 

小さな音がした。

 

「あ…」

 

私が、木の枝を踏み折ってしまった音だった。

 

その音に気が付いたのか、こちらを振り向いた少女と目が合ってしまった。

 

「「「 ひぃっ! 」」

 

変な声がでる。

 

少女の顔と一緒に、大量にいた熊の着ぐるみ集団が一斉にこちらを向いた。

 

音がした気がした。

 

ヴィン! かな?

 

ヴォン! かな!?

 

どうでもいいよね!? 普通に怖いよ、ホラーだよ!!

 

ちーちゃんが、私の前に立ってくれた。

 

あ…気がついたら腰が抜けていた…。

 

「」

 

熊の集団の間をすり抜けて、赤いマントの熊が歩いてきた。

私達の前に立つと、ちーちゃんが私を庇うように、私との間に入ってくれた。

 

ん?

 

あれ?

 

赤いマントの熊の着ぐるみが、焦ったように手を降り出した。

 

あれ?

 

口の部分が開く様になっているみたい。

 

ガスッっと音を立てて、スライドをした。

その顔部分の中が見え、懐かしい声がした。

むぅ。

ちーちゃんと声が被った。

 

 

「「 あっ!! 」」

 

 

 




はい、閲覧ありがとうございました。
ネタバレになりそうでしたので、前書きには書きませんでした。

はい、リトルアーミーです。
知らない方の為に、あまり本編進行に絡ま無いようにしたつもりです。
こういった事もあるんだと。

はい。ベコ量産型・プロトタイプ導入。


ありがとうございました!

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