転生者は平穏を望む   作:白山葵

65 / 141
第53話 私の恋敵の話をしよう―

 

「おもしろ~い! 次から次へと、よくこんな作戦考えるわね!!」

 

カチューシャさんが、ノンナさんの肩の上…よくいる定位置ではしゃいでいますね。

ペチペチと両手を合わせて、興奮しています。

 

「これで17対7ですね」

 

高所からの…撤退するつもりでしょうか?

包囲をされ、逃げ道を塞がれ…更には数で押され始められていた大洗学園。

 

随分と思い切った真似をしたものです。

 

…あの黒森峰が手玉に取られている…。

 

38(t)ヘッツァー。

 

カメのマークがついた戦車。

 

足の速さを活かし、黒森峰の戦車の間を縫うように移動。

走り回る。

それを補助するかの様に、また他の車輌が隙を突く…。

無傷で黒森峰の車輌を撃破。

 

「…あんなに混乱した黒森峰を見たのは…初めてです…」

 

「黒森峰は、隊列を組んで正確に攻撃をする訓練は積んでるけどぉ」

 

横でサンダースの方々も、大洗学園の作戦を分析。

 

「その分、突発的な出来事に対処できない」

 

「マニュアルが崩れてパニックになってる訳ですね?」

 

一斉に動き出す、大洗学園全車両。

一列に並び、黒森峰の包囲から脱出する。

 

そのまま全速力で…。

 

「どこへ向かうつもりなの?」

 

「面白くなってきたわねぇ~!」

 

ケイさんがポップコーンを頬張りながら、楽しそうに呟く。

 

「……」

 

「ペコ? どうしたのかしら?」

 

…。

 

「いえ…なんだかんだ…皆さんしっかりと試合を見ているんだなぁって思いまして」

 

「…私達の夏の大会は終わりましたが…私達の戦車道が終わったわけでは無いでしょう?」

 

「いえ…先程まで、隆史様の事で右往左往していた人達には見えないなぁ…っと、思いまして」

 

「……」

 

皆さん楽しんでいるように見えて…目は真剣でした。

 

「なに?」

 

そんな私の視線を感じてか、ケイさんが…。

 

「貴女達も食べる?」

 

「…いえ、別に欲しくて見ていた訳じゃありません」

 

「あら、そ?」

 

「頂きますわ!」

 

「ダージリン様!?」

 

目を輝かせて…何を急に…。

 

「いいけど…ダージリン。貴女…こんなジャンクフードみたいなのって食べるの? 紅茶には多分、合わないわよ?」

 

「普段頂けない食べ物ですからね…嫌いでありませんわ」

 

「ふ~ん。なら、他のも食べる? まぁホットドックとハンバーガー…あとピザくらいしかないけど」

 

「本当ですか!?」

 

…胃がもたれそうですね。

ダージリン様はそこに食いつかないで下さい。

 

「おっと! アンツィオの前で、飯! 特にピザを出されちゃ黙ってられないな!」

 

「そうだ! ダージリン! ピザならアンツィオのを食っとけ!!」

 

…試合を見ましょうよ。

 

感心した矢先にこれですか?

 

「ん? でもアンツィオのピザって殆ど具材が乗ってないじゃない?」

 

「はっ! これだから素人は!!」

 

「…なんですって?」

 

なぜピザの話で睨み合ってるのでしょうか?

ペパロニさんとアリサさんが立ち上がりました。

 

「そうですねぇ…。サンダース…アメリカ式は具材を楽しむモノ…。アンツィオ…イタリア式は生地を楽しむものの違いでしょうか?」

 

「…カルパッチョ。冷静に分析しないでくれ」

 

「喧嘩するよりマシだと思いますよ?」

 

そうですけど…そんな事より試合…。

 

「だが今回! アンツィオは、タカシとの合同開発ピザだぞ!!」

 

「いただきます!」

 

「ペコ!?」

 

 

…なんですか? ダージリン様。

 

いらないとは言ってません。

 

あ…。

 

 

「臭い」

 

 

少し前…正確には先週見かけた女の子。

 

「…ここに正直いたくない……臭い」

 

 

 

島田 愛里寿…さん。

 

気がついた時には、後ろに立っていた…。

それこそ数人のSPらしき方を引き連れて。

 

…でも、各隊長達の集いの中心に立った時、ゆっくりと離れていきました…。

 

「あ…貴女……」

 

「お兄ちゃんに言われて来た。…皆と纏まってていろって……臭いけど」

 

「」

 

あ…ペパロニさんを見ながら言ってますね…。

そのまま、アリサさんを睨むように見ています。

 

何故、アリサさんは震えているのでしょう?

 

「…」

 

…それはそれとして、継続の方々は、いつの間にか少し離れ、なにか頬張って…あっ!!

お茶請けのお菓子が無い!!

 

 

ケイさんが警戒をするような目になりました。

なぜでしょう?

ケイさんの顔が…先程と違い…少し警戒色を出していますね。

本当になぜでしょう?

 

 

「…貴女達はここにいて。お兄ちゃんの邪魔をしたくないなら」

 

「……」

 

「大人しくしていれば、それで終わる」

 

「……なにか…貴女…感じが変わったわね」

 

「そう?」

 

「…初めて会った時と…全然違う…」

 

「……」

 

「今の貴女…キュートじゃないわ。……可愛くない」

 

「……」

 

ケイさんの言葉を特に気にする訳でも無く、無表情でなにも喋らない。

 

 

睨み合うように、しばらく見つめ合う二人。

 

変な緊張感が、場を包む。

 

 

…。

 

無音が続く中、大画面からは砲撃音が響き続けている。

 

 

 

 

 

 

「頼もう」

 

 

 

その最中。

 

一人の声がその場を崩した。

 

……その…色んな意味で。

 

 

「こちらに島田 愛里寿殿はおいでか?」

 

奇抜な…前髪を半円を描き纏めた髪型。

妙に古めかしい口調の女性。

 

赤い。

 

大きなリボン。

 

 

「其処許へ推参してお目にかける物が合って参った。御目通り願う」

 

「…私だけど」

 

一気に注目を集める彼女。

特に気にする事もなく、目的である愛里寿さんの前に立つ。

 

「…島田 愛里寿殿か」

 

「そう…なに?」

 

「これを」

 

そう言って、差し出す右手。

その右手には…携帯電話?

 

「少々、邪な気配のするモノからなのだが…まぁ良い」

 

「…?」

 

ある男から預かったそうだ。

 

気持ち悪い雰囲気の男。

 

普段なら斬って捨てた…と、結構物騒な事を言っていますけど…。

 

今回厳重な警備体制だっ為、試合会場内は没収されたと…ちょっと嘆いていますが…ナニヲ?

 

「尾形 隆史殿に関する者…からだそうだ」

 

「……」

 

「…まぁ…隆史殿の名を出されては、知らぬ仲では無いゆえ…引受申したが…」

 

《!!》

 

「確かに渡した」

 

そう…一言、言い放ちその場を立ち去ろうとする女性。

 

「…貴女。おにいちゃ……尾形 隆史を知っているの?」

 

「?」

 

不思議そうな顔をする女性……あっ。

 

またですか?

 

またですか!?

 

「ふむ……まぁ…良いか……」

 

なにか考え込み、すぐに判断した様でした。

一瞬、鋭い目つきで周りを見渡しました

何かに気がつき、挑発するよな目つき。

 

「今も…世話になっているのだが……まぁ……一言で言えば……」

 

《……》

 

「私は、隆史殿に買われた女だ」

 

《  》

 

かわ…

 

「未だに…通ってもらってるな」

 

かよ……

 

「3万円で」

 

……金額が生々しい!

 

「くくっ…。ここまで心地の良い殺気を貰うとは思わなんだ。…つくづく思う。あの御仁は面白い…」

 

……。

 

「隆史さん…恋仲の女性がいるのはご存知?」

 

「ほぅ?」

 

ダージリン様!?

 

「だから?」

 

「……」

 

「恋とは戦場。勝ち取ってこそ意味がある…各々方も、それはお分かりなりや?」

 

…。

 

まだ私達は知らない。

 

この方を知らなかった。

 

 

『…まぁ、たまには人に溢るる場に来てみるものよな?』

 

 

こんな場面で。

 

こんな場所で。

 

 

将来、私ともう一度顔を合わせ戦い…。

 

「…ぉお。名乗りもせず、無礼を致した」

 

西住 みほさんの脅威となり…

 

「私は…」

 

私達が、強襲戦車競技…タンカスロンに参加する原因。

 

最悪な恋敵。

 

そして…。

 

 

 

 

「…鶴姫 しずか」

 

 

 

 

隆史様を本気で…………怒らせた人。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。