転生者は平穏を望む   作:白山葵

68 / 141
タラシ殿は、変わらない


第55話 ~ トラウマ ~

 声が聞こえていた。

 

 耳の奥で…。

 

 頭の中で……。

 

 肩が震える

 

 足が震える。

 

 手が震える…。

 

『隊長達は、早く行ってください!』

『後から追いかけます!』

 

 無線から叫ぶ様な声が聞こえてくる。

 

「危ない」

「このままだと横転しちゃう!」

 

 体が縮こまり…歯が鳴る。

 

「モタモタしていると、黒森峰が来るぞ」

 

 黒森峰の車輌から逃げる際、一番効率のいい方法を取ったと思う。

 危険は無い…上流から下流と、重い戦車で軽い戦車を庇いながら進めば大丈夫…だと思ったのに。

 

 エンジンに水が入ったのか…ただのエンストなのか…。

 うさぎさんチームの足が止まった。

 傾き出す戦車。

 置いていけと彼女達は言ってくれている。

 

 また声が聞こえた。

 

 …どうすればいい?

 

 川を渡るのを選択したのは、私だ。

 命令したのは…私だ。

 

「でも…うさぎさんチームが流されたりしたら…」

 

 手を握り、膝を見つめる。

 

 …水。

 

 暗い水の中。

 

 思い出す。

 

 嫌な…何度も何度も思い出した、当時の視界。

 忘れたくとも忘れられない。

 

 どうしたらいい?

 

 負けたら廃校。

 もし、また私が飛び出して救助に向かい、その間にお姉ちゃん達に追いつかれたら?

 あの時と同じく、決勝戦。

 あの時と同じく、フラッグ車に乗っている私。

 あの時と同じ…

 

 同じ……。

 

 連鎖…。

 

 思い出が連鎖する。

 思い出したくない事まで…どんどん思い出してしまう。

 試合の後…投げかけられて、ぶつけられた言葉も思い出してしまう。

『貴女のせいで…私の失跡で……副隊長が…………西住流が……』

 当時の助けることができた生徒も…皆すぐにやめていき…残っていたのは…赤星さんだけ。

 

 負けたら廃校。

 

 皆とお別れ。

 

 勝たないと…。

 

 どうしたらいい?

 

 あの時の私の行動が、黒森峰の敗北を招いた。

 同じ事をまた繰り返すのか。

 

 負けられない…。

 

 こうしている間にも、うさぎさんチームは流されてしまう。

 お姉ちゃん達が追いついてくる。

 …何もできない。

 一番最悪な形で終わってしまう。

 

 でも…私は…。

 

 どうしたらいいの?

 

 全ては勝利する為。

 

 それが、西住流。

 

 …お姉ちゃん…。

 

 ………お母さん。

 

 

 

 

 

『 何だお前。また『見殺し』にするのか? 』

 

 

 

 

 聞こえた…。

 

 先程から繰り返し繰り返し。

 

 また聞こえた、あの時の声。

 

 あの犯人の言った言葉を。

 

 あの声を…。

 

 もう大丈夫だと思ったのに。

 

 もう平気だと思ったのに…。

 

 …呼吸がおかしい。

 

 何度も肺の空気を追い出す。

 

 握った指が動かない。

 

 震える…。

 

 無意識に力を込める。

 

 握った手に、爪が食い込む。

 

 痛みは無い。

 

 ただ…言い様の無い…不安感が襲う。

 

 不安感…? 違う…。

 

 これは恐怖だ。

 

 怖い。

 

 怖い。

 

 ただ怖い。

 

 

 

 動けない。

 

 

 怖い…。

 

 

 

 ……隆史君。

 

 

 

 

 

「行ってあげなよ」

 

 沙織さんがこちらを見ていた。

 微笑んでいてくれた。

 

「ぁ…」

 

 握った私の手に、体を伸ばして添えてくれていた。

 気がつかなかった…。

 

「こっちは私達が見るから」

 

 また…微笑んでくれた。

 

「…沙織さん」

 

 思い出した。

 

 違う事を思い出した―。

 

 

 なんだったんだろう。

 

 

 何を考え込んでいたんだろう。

 

 沙織さんのおかげで、全てが吹き飛んだ。

 少し、背中を押してもらっただけなのに…。

 行っていいって言ってくれただけなのに…。

 

 あっさりと…。

 

 

 長々と考え、思い出し、震えていた時間が…いともあっさりと。

 

 目の前の暗い情景が、明るくなって…消えた。

 

 そうだ。

 

 今…今は違うんだ。

 

 全然、あの時と一緒なんかじゃない。

 

 …私が今、戦車に乗っている理由。

 

 思い出す。

 

 優花里さんに言った、私の気持ち。

 

 本音。

 

 

『 でも…あの時私は、助けたかったの。…チームメイトを 』

 

 

 トラウマのせいじゃない。

 

 あの時の事じゃない。

 

「ふぅー……」

 

 これが私の気持ち。

 

 私の意志。

 

「はぁー!」

 

 もう一度、肺に空気を取り込む。

 思いっきり吐き出す。

 

「優花里さん! ワイヤーにロープを!!」

 

「は…はい!!」

 

 

 

 …もう、あの男の声は…聞こえない。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「西住ちゃん、飛んでるねぇ~♪」

 

 いやぁ~…良かったよ…。

 

「みんなで勝つのが、西住さんの西住流なんですねぇ~…」

 

 初めは、本当にただ…脅迫してしまっただけなのに。

 

「あぁ! もう! 急げぇー…!!」

 

「か~しま。少しは、落ち着きなよ」

 

「そうだよ、桃ちゃん。桃ちゃんが焦っても仕方がないよぉ?」

 

「桃ちゃんと呼ぶなぁ!!」

 

 …。

 

 いつの間にか、みんなを引っ張ってくれていた西住ちゃん。

 今思えば、強制的に戦車道をやらせた所で、うまくいくはずが無い。

 西住ちゃんの性格なのか…本当に迷惑をかけてしまっている…。

 

 …。

 

 今回の…決勝戦。

 

 大洗での納涼祭での事。

 武部ちゃんが攫われた事件。

 心に傷を負った、酷いトラウマを負っている人というのを…初めて見た。

 

 西住ちゃんの取り乱し方…。

 

 正直、すごく怖かった。

 

 いつもの西住ちゃんと全然違う…別の誰かかと思える程…。

 

 その場は、なんとか持ち直したけど…あの時、西住ちゃんのお母さんが来なかったら…。

 

 私に何ができただろうか…。

 

「会長?」

 

 全てが終わり、武部ちゃんを助け出した後…そこで聞いた、過去の事件。

 

 隆史ちゃんとの出会った経緯。

 

 …その事件の犯人。

 

 …その事件の張本人が来るかも知れない場所に…。

 

 西住ちゃんと武部ちゃん。

 

 武部ちゃんだって、見た目はともかく、本当に回復したのだろうか?

 あの西住ちゃんみたくなってしまったら…。

 私に何ができるだろうか…。

 

 そんな状態の彼女達を、私達の事情で……辛いだろうに出場させてしまうのが、非常に心苦しかった。

 

 だから…学校を…学園を一度諦めた。

 

 今回棄権しようか、二人に打診してみた…。

 

 二人のトラウマを引き起こしてしまう様な真似…できる訳が無い。

 

 

 …ま。笑顔で拒否されちゃったけどね。

 

 ……。

 

 正直、安心した自分が嫌になる…。

 

 

「会長!!」

 

「んん!? ん…ごめん、何?」

 

「西住さん。よかったですね」

 

「……そだね」

 

 あの事件の後、過去の西住ちゃん達の事件の詳細を調べてみた。

 おっどろいたねぇ…。

 

 それでか…。

 

『見捨てる』

 

 それがトリガー。

 

 あの犯人も、最後それを言っていたって聞いていたし、すぐに連想できた。

 

 西住ちゃんの黒森峰で起こした、前回の大会の事。

 負けてしまった原因。

 

 簡単に経緯は分かる。

 トラウマも酷く関係しちゃってるよね。

 あの取り乱した西住ちゃん見てるとねぇ…。

 

 …納得いった。

 

 まぁ、それで思い出しちゃったね。

 初めて隆史ちゃんと出会った時の事を…。

 

 いやぁ…普通、怒るよね。

 知っていれば、私でも怒るよ。

 

 腕組んだ隆史ちゃん。

 …怖かった……。

 あそこまで人の怒気、殺されるかも知れないって感じるのは…初めてだったねぇ…。

 

 

「私、少し思いました…。これ…黒森峰での西住さん…前回大会の決勝戦に似てるって…」

 

「…そだね」

 

「私、納涼祭の時みたいに…なっちゃうんじゃないかって…怖かったです」

 

「……」

 

「…私達、ひどい事してるなぁ…って、実感させられちゃいました…」

 

「そだね。…ま、西住ちゃんに恨まれるなら…仕方ないかな。試合が終わったら…いくらでも謝ろっか」

 

「そうですね…」

 

「ん? 会長、何を言ってるんですか?」

 

 …か~しま…話、聞いてたろ?

 

「…西住は、会長に感謝してると…言っていませんでしたか?」

 

「え…」

 

「そもそも準決勝の時に、西住本人が言っていませんでしたっけ…?」

 

 あ…。

 

「それは尾形書記も一緒だそうです。会長に感謝してると」

 

「…桃ちゃん。それ、いつ隆史君から聞いたの?」

 

「試合前だ」

 

「「 …… 」」

 

「尾形書記は、西住をいい方向に導いてくれた。人間関係しかり…感謝してると。初めのやり方はどうあれ、会長に頭が上がらないって…」

 

「…」

 

「こんな状況で、尚且つ相手が、西住古巣の黒森峰だからってな。もし会長が気にする様なら言ってくれって言われまして……って…な、なに!?」

 

「いつ!? 試合前って今日!?」

 

「え…そうですけど…。尾形書記の母親が来ている時に…なんか帽子とサングラスとマスク姿って、あからさまな不審者の格好してましたけど」

 

「……」

 

 いたんだ…会場に…。

 なにしてんだろ…というか…。

 

「あ…そういえば、桃ちゃん。少しの間いなかった…」

 

「戦車車庫の裏側で、手招きされてな。それが尾形書記だった」

 

「い…いつの間に…」

 

「あれ? 言っていませんでしたか? しばらくヘリで会場を、上空から監視してるって、言ってました…よ?」

 

「……」

 

「……」

 

「……あ…あれ? 会長? 柚子?」

 

「…桃ちゃん、後で、あんこう踊り」

 

「柚子ちゃん!?」

 

「全裸で」

 

「柚子ちゃん!!??」

 

 

 そっか。

 

 隆史ちゃん、いたんだ。

 

 ちゃんと来てたんだ。

 

 そっか。

 

 理由はまだ分からないけど…本当に許してもらっているかも、分からないけど…。

 

 

『六時の方角より、敵集団接近中!!』

 

 

 ん。

 

 無線が入った。

 

 

『距離! 2500! もうすぐ砲撃が始まります!』

 

『みんな! みぽりん達を援護して!!』

 

 

 西住ちゃんにも…隆史ちゃんにも…。

 

 …うん。

 

 本当は感謝するのは…こっちの方なんだけどねぇ。

 

「会長!」

 

 よし、なんか燃えてきた!

 

 

「…んじゃ、がんばりますかぁ!」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「…相変わず甘いわね」

 

 変わっていない。

 何も変わっていない。

 そう言いたげだ。

 

「その甘さが命取りなのよ」

 

 誰に言うわけでも無し、独り言が先程から多い。

 …手を上げ命令を下す。

 

「全車、前進用意! 丘を越えたら、川に沈めてやるわ!」

 

 エリカは、何を焦っている。

 今の所、特に問題は無いが…履帯を一度やられた辺りからか。

 …一度戒めておくか?

 

「後方7時、敵。11号車。やれ」

 

 先程からウロチョロしている、ヘッツァー。

 砲撃命令で、戦車前に着弾。

 地面をえぐった。

 

 撃破をする事は叶わなかったが、もうこれで1輌のみでチョッカイは掛けて来まい。

 

 大洗車輌が、全車輌にワイヤーを繋げ、川を渡った。

 …渡る事ができず、川にまだいたとしても、私は構わず撃破しただろう。

 

 みほらしい戦いといえばいいのか…。

 戦車に乗っている以上、みほのトラウマもすでに関係ない。

 

 …西住流として戦うまでだ。

 

 大洗学園が川を渡り、丘を登りだした。

 周りの車輌からの、砲撃の音と風圧。

 

 また撃破は、できなかったか。

 

「どこへ向かう気?」

 

 地図を眺め、大洗の行き先を確認。

 

 平原…遮蔽物の少ない場所では、大洗に勝ち目はあるまい。

 ただの物量のみで決着がつく。

 

 …行き先…。

 

「おそらく、市街地」

 

 …ふむ。

 

 

 森を進み、我々もそれを追う。

 報告によると大洗は古い石橋を渡り、前進…その方角は…。

 

 やはり、市街地か。

 

 …また、エリカの怒号が聞こえる。

 

『橋がぁ!!?? ぅぅぅうう!!!』

 

 またか…。

 

『分かった! 橋は迂回して追う! お前は先回りしろ!!』

 

 

「エリカ」

 

『え!? あ、はい!!』

 

「―どうした?」

 

『え!?』

 

「何を焦っている」

 

『……』

 

「…不安、焦り…指示を出す者が、そういった感情を表に出すな。…他の連中に、それは伝染する」

 

『…す…すみません』

 

 …みほの事だろう。

 これは…私のミスでもあるな。

 あの時にする事では無かったかな…。

 せめて、試合が終わってからにした方がよかったか。

 

 咽頭マイクを指で抑える。

 市街地付近に先行している車輌に指示を出す。

 

「Ⅲ号、市街地で隠れられたら面倒だ。私達が到着するまで、足止めをしろ」

 

『くそ!…あんな弱小校相手に使うなんて!』

 

 まだ…すぐには変わらんか。

 エリカは思いの他、熱くなりやすいな…。

 私の考えが分かるのだろう。

 

 

「…マウスを前に出せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

「まぁた、一人捕まった?」

 

「あぁ…変なガキにチョッカイかけて、また熊の着ぐるみにやられた」

 

「馬鹿だねぇ。大人しくしてればいいのに」

 

 出店で購入した、よくある冷凍のフランクフルト。

 その串を適当に放り投げる。

 

 最近じゃぁ何食ったって味もしなくなってきた。

 

「…会場についてから、少し見て回ってみたんだけどよ…、警備体制が異常だ」

 

 今度は、さっきまで愛里寿チャンと話していた…プリペイド携帯を放り投げる。

 もういらね。

 

「どこいっても、警備員と私服警官みたいな奴らだらけ…」

 

 おーぉ。

 

 みほちゃん、つまらないなぁ。

 

 あっさりと…まぁ。

 

 戦車の上で、オトモダチと楽しそうにまぁ…。

 

 大画面を遠目に見ても、大体の映像は分かる。

 

 結局、愛里寿チャンなにもしなかったな。

 

 所詮はガキか。

 

「極めつけが…熊の着ぐるみ…なんだよ、あの人数は!!」

 

 うるせぇな。

 

「なぁ、あんた。本当にここから、逃げる算段ってあるんだよな?」

 

 ハッ!

 

 ある訳ねぇだろ。

 

 逃げる? どこに?

 

 逃げた所で、今更変わらんよ。

 

 俺は最初から逃げる気なんて、さらっさら無ぇよ?

 

 まぁいいや。

 本当の目的、言っちまったらこいつ逃げ出すかもしれねぇし。

 最後、あの子の居場所が、すぐに分からないと困るしぃ…。

 

 もう少し、おままごとに付き合ってやるか。

 

「あるある。ありますよぉ?」

 

「どんな手だよ!!」

 

 ほんっとにうるせぇな。

 

 馬鹿みたいに、ハイハイ言うこと聞いていればいいのにねぇ。

 

「あのさぁ。お前達以外に、俺がお仲間がいないと思ってるんですかねぇ?」

 

「…は?」

 

「警備員を雇っている連中も知ってる。まぁ…人間、金を掴ませれば、簡単に裏切る奴もいるんですよぉ?」

 

「……」

 

 金に目がくらんで、俺に協力してんだ。

 わかりやすいでしょ?

 納得しやすいでしょう?

 

 まぁ! んな奴、いねぇけどねぇぇぇ!!

 

 あの七三のメガネは、情報しかくれねぇから、役に立たないしねぇ。

 

「はいはい、納得いったらお仕事しましょうねぇ?」

 

「……」

 

 さてと…荷物を確認しとこうかねぇ。

 

 

 …あ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

「」

 

「」

 

「はい、これに懲りたら、もう女の子があんな事を言わないように!!」

 

「」

 

「」

 

「…返事」

 

「わ、分かった!」

 

「分かった…」

 

 まったく。

 

 なんでこんな所にまで来て、説教せなならんのだよ。

 

「はぁ…。もういいから…テント戻っていてくれ」

 

「なぁ…隆史殿」

 

「何?」

 

「我…いえ! 私も行った方がいいのか?」

 

「テント前?」

 

「そうだ」

 

 あ~…どうすっかな。

 あいつら、しずかとの関係までは、知らなそうだけど…。

 こいつ、知り合いとか友達とかと来ている訳じゃ無いしなぁ…。

 

「ん、行っていてくれ。ちょっと今……色々と面倒でな。俺の知り合い連中は、できるだけ集まっていて欲しいんだ」

 

「りょ…了承した」

 

「だからミカ」

 

「なんだい?」

 

 …チッ。

 もう復活した。

 

 本当に反省してんのかこいつは。

 

「しずかの面倒みてくれ。というか、一緒にいてくれ」

 

「…え?」

 

「知り合いのいない集まりの中に、一人だけってのはさ。非常に心苦しいものだろ?」

 

「いや…まぁいいけど」

 

「ま、説教仲間という事で」

 

「「……」」

 

 なに見つめ合ってのさ。

 変な友情が芽生えたのか…? 頷き合ってるし…。

 

「まぁ、今度また飯作ってやるから」

 

「!?」

 

「…なら、言うことを聞こう」ポロ~ン

 

「はい、じゃあコレ」

 

「……なんだいコレは?」

 

「あれ…今の子って…コレ知らないのか…」

 

 赤と青。二つの円状の木板を、ゴム紐で合わせたモノ。

 

「カスタネット」

 

「…いや、知ってはいるけど…コレをなぜ私に渡すのかな?」

 

 そう言いながら、俺の出したモノを受け取るミカ。

 んな事、決まってるだろ。

 

「はい。没収」

 

「!!」

 

 カンテレを没収した。

 はい。たかいたか~い。

 

「」

 

 はい、背の差があります。

 ピョンピョン跳ねても、届きませ~ん。

 

 ……。

 

 結構レアなミカを見てないか? 俺。

 

「なっなんのつもっ! つもり!!??」

 

 焦ったミカは、何度見てもいいなぁ…とか、Sっ気が頭を出すけど、押さえ込む。

 …だってさ。

 

「お前、戻ったら、さっさとどこか行くつもりだったろ?」

 

「そっ、そんな事はな…いよぉ?」

 

「……」

 

「……な…ない」

 

「……」

 

「いっ! 行かないから!! それを返してくれないかな!?」

 

「ヤダ」

 

「」

 

「代わりを貸してやったろ。俺の用事が終わったら返してやるから」

 

「代わり!? 弦楽器ですら無いだろう!!??」

 

 …裏でアキに先に返しておくか。

 アキは俺の味方だしねぇ…。

 

「ま、頼むわ。どうにも…俺の知り合いというか…大切な連中にチョッカイ掛ける奴がいてさ」

 

「「!?」」

 

「人数が固まっていれば、そのチョッカイも出しづらいと思うんだ」

 

 な…なんだ。

 急に固まったな…二人揃って…。

 

「た…大切? 今、君は…大切と…言ったかい?」

 

「それは…我も…か?」

 

 は? 何言ってんの?

 

「…当たり前だろう? じゃなきゃ、必死になってこんな事しないだろ」

 

「「 」」

 

 どうした。

 なぜ黙る。

 

「まぁ…いいや…。んじゃそういう事だから、俺はもう行く。大洗のテントに戻ってくれ」

 

「わ…わか……た」

 

「委細承知!……し…た」

 

 あ…あれ?

 

 そう言って、フラフラした足取りで戻っていたけど…。

 

 …。

 

 なんで?

 

 熱中症かな?

 

 

 

 

 

 -----------

 ------

 ---

 

 

 

 

 さてと。

 ベコ着ちゃったから、もうヘリには乗らない方がいいかな。

 初め、上空から監視とか…結構無茶だろうと思ったけど、千代美達を見つけられたし意味は有ったのだろう。

 

 あのクソ野郎を見つけて隔離させれたら、すぐに終わる話なんだけどなぁ…。

 どうしたもんか…。

 

 というか…。

 

 パチャ

 

 パチャ

 

 チロリ~ン

 

 

 ……。

 

 なぜ歩いているだけで、こんなにも写メを撮られるんだ…。

 

 他にもいるだろ…熊の着ぐるみ…。

 

 あ…オカン見つけた…。

 

 青いモヒカンのベコ。

 

 パチもんのベコ。

 

 …なぜ俺は、ベコに変な愛着を持ち始めているんだろう…。

 

 というか…オカン。

 

 なに撮影会みたいにしてんの?

 

 なにポーズ取ってんの?

 

 馬鹿なの? え? 

 

「!?」

 

 いきなりマントを引っ張られた。

 体勢を崩すほどじゃないにせよ…。

 

「あ…あれ? さっきの…」

 

「……」

 

 先程、絡まれっていた子供だった。

 俺を化物と…怯えた目で見てきた子…。

 中学生か?

 なんとまぁ…なんだろう…。

 

「あっあの!」

 

「…はい?」

 

 くぐもった声での返答になってしまう…。

 

「さっきは…その、ありがとうございました」

 

「い…いえ…」

 

 なに? なんなの? この子。

 

「おじ…お兄さん! それって「ベコ」ですよね!!」

 

「…そうだけど」

 

「お兄さん! 大洗のお祭りの時も着てました!?」

 

 な…なに? 本当になに!?

 なんでこんなに鬼気迫る表情!?

 

「…着てたけど…なんでベコ知ってんの?」

 

 すげぇご当地キャラの気がするんですけど…。

 着てたけどって返事の時、どうにも目が一瞬輝いた気がした。

 なにこの子…。

 

「動画サイトで見ました!!」

 

 あ…そう…。

 

 そういや…なんかあの時の動画が、結構出回ってるみたいね…。

 赤い髪とマントのベコは、俺だけが着てるから…それで特定したと嬉しそうに言っている…。

 この子…誰かに似てる…。

 

「で! ここにいるって事は、お兄さんって大洗学園の関係者ですか!?」

 

「生徒ですけど…」

 

「ほんとに!!??」

 

 なんだ? キラキラした輝きの目で、見上げてきた…。

 先程、化物と呼んできたのに…。

 

「では! あの…動画のベコも貴方ですか!?」

 

「…どんな動画かは知らないけど…多分そうだろうなぁ…コレ着てるのって俺だけだったし…」

 

「!!」

 

 なんだ!? 手を取られた!? え!?

 

「ありがとうございました!!」

 

「…なにが? え? さっきの事? んじゃあ、気にしなくてもいいよ」

 

「違います!!」

 

「あら、元気なお返事。え…んじゃ、なんでしょう?」

 

「姉を助けて頂いて、ありがとうございました!!」

 

 …姉?

 

 …………う~ん。

 

「姉!?」

 

「そうです!!」

 

 …え……なに? じゃ…この子……。

 

「あ、コレ。私のメアドです! 後で、ちゃ~んとお礼したいので、メール下さい!!」

 

 紙切れを渡された…しかも半強引に手に掴まされた…。

 ラインとかじゃなく…メアドと…電話番号…なんで!? いきなり!!??

 

 分かった…。

 

 この強引さ……。

 

 この目の輝き……。

 

「…お嬢さん、お名前は?」

 

 姉…。

 

 ってことは、その妹。

 

 何言ってんの俺…そんな当たり前の事…っていうか!

 

 世間狭いなぁ!! もう!!

 

 

 

「武部 詩織です!!」

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。