誘い込まれた。
市街へ向かう途中、廃墟になった団地街。
発見したⅢ号戦車。
正面見据える横から、軋む鉄の音と共にⅢ号との視界を遮った。
…史上最大の超重戦車。
「すごい…動いてる所、初めて見ました…」
優花里さんが、呆気に取られている。
でも少し嬉しそうに呟いた。
ゆっくりと旋回している…。
…いけない。
Ⅲ号を全車両で追いかけていたから…団地の建物間に全車輌で密集しちゃってる。
「退却してください!!」
これでは良い的になってしまう。
大きな爆発音と一緒に、カメさんチームが砲撃された。
弾は、左方下側に着弾した為、被弾は無い。
無いけど、その衝撃だけで、車体の前方が宙に浮く。
『や~ら~れ~たぁ~!』
『やられてません!』
『近くに着弾しただけです!』
『どちらにしろ、すごいパワーだねぇ』
私が黒森峰にいた時…マウスなんて無かった…。
…そう、装甲もそうだけど、パワーが桁外れ。
カモさんチームのルノーB1が、次弾の一撃で撃破された。
当たる所は関係ないんだ。
どこに当たっても、その威力で強引にやられちゃう。
こちらの火力が足りない。
一切の攻撃が通じない…。
しかし、相手の攻撃は、一発一発が重い。
近くに着弾する毎に、車体が軋む…。
後方に撤退しながら砲撃を繰り返すも…まったく効果が無い。
「2輌やられた…。残り5輌…」
カバさんチームも撃破された…。
「市街戦で決着つけるには、やっぱりマウスと戦うしかない。グズグズしてると、主力が追いついちゃう…」
「名前は、可愛らしいのですけど…」
「黒いネズミ会社に訴えられればいい…」
な…なんの話かな?
「マ、マウスすごいですねぇ! 前も後ろもどこも抜けません!」
なんだろう…優花里さんに気を使われた気がする…。
「いくら何でも大きすぎぃ…こんなんじゃ、戦車が乗っかりそうな戦車だよぉ!」
黙々と「戦車でーたノート」を見ていた沙織さんが叫んだ。
秘蔵のボコのキャラクターノートを使用した、沙織さんお手製の…ん?
戦車が…乗りそう…。
「ありがとう! 沙織さん!!」
「え?」
『カメさん、アヒルさん。少々無茶な作戦ですが、今から指示通りに動いてください』
◆
「わー…、えっらい無茶な事やってるなぁ…」
「なにがですか?」
沙織さんの妹。
「武部 詩織」ちゃんと、大画面を眺めていた。
黒い髪のショートカット。
顔は沙織さんに似ている為、どうにも黒い髪の幼い沙織さんって感じが強い。
「あ…おっきいのに、体当たりしたの…大丈夫なんですか?」
「……」
カメさんチームが、あのでっかいの前方下に滑り込む様にぶつかった。
ウサギさんチームが、発砲し挑発。
砲身を向けさせて…わー…。
「なんか…あのアヒルのマークの戦車…」
呆然と指をさしているね。
うん、俺も呆然とするよね。
アヒルさんチームが、カメさんチームのヘッツァー…だったか?
おっきいのの下に潜り込んだ状態を利用し、カタパルトの様におっきいのの上に乗り上げた。
車体の上で、方向転換し砲身を一方向に固定した。
淡々と考えては見たけど…なに? 何する気?
「あれ…下の戦車…潰れちゃいません?」
「…だ。大丈夫……多分」
大丈夫…だよな?
後は…横から走り込んできた、あんこうチームが…砲撃。
あの大きいのを撃破した。
なんでだろう…散々打ち込んでもビクともしなかったのに、今回一発で決めたな。
あ、あれマウスってのか。
表示されていたの気がつかなかった。
なんつーか、弱小校とか言われていた相手に使う戦車か? あれ…。
……。
いや、まほちゃんの性格なら、普通に使うか。
そのマウスを撃破した直後、大きな歓声が観客席から聞こえた。
ま、見ていて気持ちのいい展開だしな。
判官贔屓とでもいうのかね。
「今の大きいのを倒しちゃったのって、君のお姉ちゃんの戦車だよ」
「えっ!? 本当ですか!!?? お姉ちゃん!!」
あらまぁ、目をキラキラさせて。
……。
背の低い彼女を見て、改めて思う。
でもなんでこの子、俺に連絡先なんて渡してきたんだろ…。
もらった紙を眺めていると、気がついたのだろう。
ニマニマした目で、見上げていた。
似てるなぁ…。
「あの、お名前って「尾形 隆史」さんですよね」
「…なんで知ってるの?」
まだ自己紹介してない…。
ベコとしてしか認識してない…よな。
「お姉ちゃんから、色々聞いてますよ?」
「…えっと…え?」
「鈍感で、八方美人で、女の子の知り合いが無駄に多い…」
「…ぐ」
か…返す言葉が無い…。
「それで、お姉ちゃんをナンパした人」
「」
「あ~…大丈夫ですよぉ? ちゃんと経緯も聞いてますから」
「…………」
何を!? どこまで話してるの!?
「いやぁ…お父さんにバレて、お父さん激怒してますけど…そんな男の近くに~って!」
「」
絶句しかしてねぇ…。
「私も正直、初めはどうかと思ったんですけど…特にあのお姉ちゃんだし…簡単に騙されそうで…あ、騙しました?」
「」
…悪意の無い顔で、コロコロ笑ってる。
「…でも、お姉ちゃん助けてくれた辺りから、認識が変わりました」
「な…なにがでしょう…」
「えっと…こう言った方が早いかな?」
「なに!? 本当になに!? なんか怖い!!」
熊の着ぐるみ姿でアワアワしている俺が、余程おかしいのか…まだ笑っている。
「お姉ちゃん、知ってますよ?」
「何が!?」
何が!? 怖いよ!! 沙織さん、妹さんに何話したの!?
最近、変な悪評がメチャクチャな数立ちまくって、余計に怖い!
特に女性からたまに、蔑む様な目が向けられるのが特に!
「ベコの中身」
「……は?」
「それを内緒にした事も何もかも」
「……」
「お姉ちゃん、ああ見えて結構初心ですからね。放っておくと、自然に諦めそうだったし!」
「え…っと……え?」
あれ? バレてた?
何も言われなかったから…え?
結局、気を使われていたのって、俺の方?
「…あ、お母さんだ。では、私もう行きますね!」
彼女が見つめた先、彼女の両親らしき方が、こちらを見てますね。
えぇ、お父さんは赤いオーラを纏ってます。
はい、お父さんにもバレてます。
呆然とするしかなかった…。
……あ。
それで俺と話す時の沙織さん…ちょっと変だったのか…。
「でも…、尾形さんって、すごいですね!」
「え?」
「姉をナンパして……妹からは、逆ナンされて…」
「は!? これ、逆ナン!?」
もう一度、渡された紙を見る…。
「あ、お姉ちゃんとは、別でもいいので、連絡下さいね!」
「」
「待ってますから!」
◆
「マウスが…」
双眼鏡の遥か前方…黒い煙が見える。
「市街地へ急げぇ!!」
一瞬、報告が信じられなかった。
あの型落ち車輌共で、何をどうしたらマウスを撃破できるのよ!
ハッチの横を力の限り殴る。
…くそ。
こちらは、まだ14輌ある…。
まだ…。
市街地に入り、大洗を見つける…。
熱くなりすぎていた。
戦力の分散も気がつかないなんて…。
『こちら、エレファント! M3にやられました!』
「なにやってんよ!!!」
たった4輌に…。
あんな子のチームに…。
聞きたくないのよ! 撃破された報告なんて!!
手に汗が溜まる。
追い詰める。
追い詰めてる。
そうだ。追い詰めているんだ。
私達が負けるなんてありえない。
……。
市街地で戦力を分散された所で…。
たかが数輌、撃破されても相手にも被害はある…。
後…3輌!!
まだまだ、圧倒的にこちらが有利だ。
有利なはずだ。
でもなんだ? この焦りは。
この苛立ちは。
あの子と隊長。
気が付けば、対時させてしまっている。
……。
「何やってるの!! 失敗兵器相手に!!」
うまく考えがまとまらない。
他に当たっても仕方がないのは分かる。
隊長はこの先にいる。
あの子と二人で。
「隊長! 我々が行くまで待っていて下さい!!」
無線を飛ばす。
…返答は無い。
…………。
追い詰められてる?
私達が?
一瞬、そんな考えが過ぎった。
あの子に?
は?
逃げ出したあの子に?
お姉…隊長は覚えていた。
お兄……あの男も覚え……いてくれた。
貴女だけ忘れていた。
無理もないとも思う。
思うが…っ!
再会したと思えば、私の上を行き…嫌でも認めざるを得なかったと思っていたのにぃ!
やった事の責任も取らないで!
挙句……挙句!!
あの男と一緒に…。
お兄ちゃん…。
変に冷静な自分に気が付く。
そうだ。
私情だ。
コレは私情。
だが止められない。
感情的になる。
「今行きます! 待ってていて下さい、隊長ぉ!!!」
閲覧ありがとうございました
マウス、出オチ
構成上、今回短かかった……。
次回、多分決着!……できたらいいな
ありがとうございました