転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第56話 ~ 転生者は絶句する ~

誘い込まれた。

 

市街へ向かう途中、廃墟になった団地街。

 

発見したⅢ号戦車。

正面見据える横から、軋む鉄の音と共にⅢ号との視界を遮った。

 

…史上最大の超重戦車。

 

「すごい…動いてる所、初めて見ました…」

 

優花里さんが、呆気に取られている。

でも少し嬉しそうに呟いた。

 

ゆっくりと旋回している…。

…いけない。

Ⅲ号を全車両で追いかけていたから…団地の建物間に全車輌で密集しちゃってる。

 

「退却してください!!」

 

これでは良い的になってしまう。

 

大きな爆発音と一緒に、カメさんチームが砲撃された。

弾は、左方下側に着弾した為、被弾は無い。

無いけど、その衝撃だけで、車体の前方が宙に浮く。

 

『や~ら~れ~たぁ~!』

『やられてません!』

『近くに着弾しただけです!』

『どちらにしろ、すごいパワーだねぇ』

 

私が黒森峰にいた時…マウスなんて無かった…。

 

…そう、装甲もそうだけど、パワーが桁外れ。

カモさんチームのルノーB1が、次弾の一撃で撃破された。

当たる所は関係ないんだ。

どこに当たっても、その威力で強引にやられちゃう。

 

こちらの火力が足りない。

一切の攻撃が通じない…。

 

しかし、相手の攻撃は、一発一発が重い。

近くに着弾する毎に、車体が軋む…。

 

後方に撤退しながら砲撃を繰り返すも…まったく効果が無い。

 

「2輌やられた…。残り5輌…」

 

カバさんチームも撃破された…。

 

「市街戦で決着つけるには、やっぱりマウスと戦うしかない。グズグズしてると、主力が追いついちゃう…」

 

「名前は、可愛らしいのですけど…」

 

「黒いネズミ会社に訴えられればいい…」

 

な…なんの話かな?

 

「マ、マウスすごいですねぇ! 前も後ろもどこも抜けません!」

 

なんだろう…優花里さんに気を使われた気がする…。

 

「いくら何でも大きすぎぃ…こんなんじゃ、戦車が乗っかりそうな戦車だよぉ!」

 

黙々と「戦車でーたノート」を見ていた沙織さんが叫んだ。

秘蔵のボコのキャラクターノートを使用した、沙織さんお手製の…ん?

戦車が…乗りそう…。

 

「ありがとう! 沙織さん!!」

 

「え?」

 

 

『カメさん、アヒルさん。少々無茶な作戦ですが、今から指示通りに動いてください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わー…、えっらい無茶な事やってるなぁ…」

 

「なにがですか?」

 

沙織さんの妹。

「武部 詩織」ちゃんと、大画面を眺めていた。

 

黒い髪のショートカット。

顔は沙織さんに似ている為、どうにも黒い髪の幼い沙織さんって感じが強い。

 

「あ…おっきいのに、体当たりしたの…大丈夫なんですか?」

 

「……」

 

カメさんチームが、あのでっかいの前方下に滑り込む様にぶつかった。

ウサギさんチームが、発砲し挑発。

砲身を向けさせて…わー…。

 

「なんか…あのアヒルのマークの戦車…」

 

呆然と指をさしているね。

うん、俺も呆然とするよね。

 

アヒルさんチームが、カメさんチームのヘッツァー…だったか?

おっきいのの下に潜り込んだ状態を利用し、カタパルトの様におっきいのの上に乗り上げた。

車体の上で、方向転換し砲身を一方向に固定した。

 

淡々と考えては見たけど…なに? 何する気?

 

「あれ…下の戦車…潰れちゃいません?」

 

「…だ。大丈夫……多分」

 

大丈夫…だよな?

 

後は…横から走り込んできた、あんこうチームが…砲撃。

 

あの大きいのを撃破した。

 

なんでだろう…散々打ち込んでもビクともしなかったのに、今回一発で決めたな。

 

あ、あれマウスってのか。

表示されていたの気がつかなかった。

なんつーか、弱小校とか言われていた相手に使う戦車か? あれ…。

 

……。

 

いや、まほちゃんの性格なら、普通に使うか。

 

そのマウスを撃破した直後、大きな歓声が観客席から聞こえた。

ま、見ていて気持ちのいい展開だしな。

判官贔屓とでもいうのかね。

 

「今の大きいのを倒しちゃったのって、君のお姉ちゃんの戦車だよ」

 

「えっ!? 本当ですか!!?? お姉ちゃん!!」

 

あらまぁ、目をキラキラさせて。

 

……。

 

背の低い彼女を見て、改めて思う。

でもなんでこの子、俺に連絡先なんて渡してきたんだろ…。

 

もらった紙を眺めていると、気がついたのだろう。

ニマニマした目で、見上げていた。

似てるなぁ…。

 

「あの、お名前って「尾形 隆史」さんですよね」

 

「…なんで知ってるの?」

 

まだ自己紹介してない…。

ベコとしてしか認識してない…よな。

 

「お姉ちゃんから、色々聞いてますよ?」

 

「…えっと…え?」

 

「鈍感で、八方美人で、女の子の知り合いが無駄に多い…」

 

「…ぐ」

 

か…返す言葉が無い…。

 

「それで、お姉ちゃんをナンパした人」

 

「」

 

「あ~…大丈夫ですよぉ? ちゃんと経緯も聞いてますから」

 

「…………」

 

何を!? どこまで話してるの!?

 

「いやぁ…お父さんにバレて、お父さん激怒してますけど…そんな男の近くに~って!」

 

「」

 

絶句しかしてねぇ…。

 

「私も正直、初めはどうかと思ったんですけど…特にあのお姉ちゃんだし…簡単に騙されそうで…あ、騙しました?」

 

「」

 

…悪意の無い顔で、コロコロ笑ってる。

 

「…でも、お姉ちゃん助けてくれた辺りから、認識が変わりました」

 

「な…なにがでしょう…」

 

「えっと…こう言った方が早いかな?」

 

「なに!? 本当になに!? なんか怖い!!」

 

熊の着ぐるみ姿でアワアワしている俺が、余程おかしいのか…まだ笑っている。

 

「お姉ちゃん、知ってますよ?」

 

「何が!?」

 

何が!? 怖いよ!! 沙織さん、妹さんに何話したの!?

最近、変な悪評がメチャクチャな数立ちまくって、余計に怖い!

 

特に女性からたまに、蔑む様な目が向けられるのが特に!

 

「ベコの中身」

 

「……は?」

 

「それを内緒にした事も何もかも」

 

「……」

 

「お姉ちゃん、ああ見えて結構初心ですからね。放っておくと、自然に諦めそうだったし!」

 

「え…っと……え?」

 

あれ? バレてた? 

何も言われなかったから…え?

結局、気を使われていたのって、俺の方?

 

「…あ、お母さんだ。では、私もう行きますね!」

 

彼女が見つめた先、彼女の両親らしき方が、こちらを見てますね。

えぇ、お父さんは赤いオーラを纏ってます。

はい、お父さんにもバレてます。

 

呆然とするしかなかった…。

 

 

……あ。

 

 

それで俺と話す時の沙織さん…ちょっと変だったのか…。

 

 

「でも…、尾形さんって、すごいですね!」

 

「え?」

 

「姉をナンパして……妹からは、逆ナンされて…」

 

「は!? これ、逆ナン!?」

 

もう一度、渡された紙を見る…。

 

 

「あ、お姉ちゃんとは、別でもいいので、連絡下さいね!」

 

「」

 

 

 

「待ってますから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マウスが…」

 

双眼鏡の遥か前方…黒い煙が見える。

 

「市街地へ急げぇ!!」

 

一瞬、報告が信じられなかった。

あの型落ち車輌共で、何をどうしたらマウスを撃破できるのよ!

 

ハッチの横を力の限り殴る。

 

…くそ。

 

こちらは、まだ14輌ある…。

 

まだ…。

 

 

市街地に入り、大洗を見つける…。

熱くなりすぎていた。

 

戦力の分散も気がつかないなんて…。

 

『こちら、エレファント! M3にやられました!』

 

「なにやってんよ!!!」

 

たった4輌に…。

 

あんな子のチームに…。

 

聞きたくないのよ! 撃破された報告なんて!!

 

手に汗が溜まる。

 

追い詰める。

 

追い詰めてる。

 

そうだ。追い詰めているんだ。

 

私達が負けるなんてありえない。

 

……。

 

市街地で戦力を分散された所で…。

 

たかが数輌、撃破されても相手にも被害はある…。

 

後…3輌!!

 

 

 

まだまだ、圧倒的にこちらが有利だ。

 

有利なはずだ。

 

 

 

でもなんだ? この焦りは。

 

この苛立ちは。

 

 

あの子と隊長。

 

気が付けば、対時させてしまっている。

 

 

……。

 

 

「何やってるの!! 失敗兵器相手に!!」

 

 

うまく考えがまとまらない。

他に当たっても仕方がないのは分かる。

 

 

隊長はこの先にいる。

 

 

あの子と二人で。

 

 

 

「隊長! 我々が行くまで待っていて下さい!!」

 

 

 

無線を飛ばす。

 

…返答は無い。

 

…………。

 

 

追い詰められてる?

 

私達が?

 

一瞬、そんな考えが過ぎった。

 

あの子に?

 

 

は?

 

 

逃げ出したあの子に?

 

お姉…隊長は覚えていた。

 

お兄……あの男も覚え……いてくれた。

 

貴女だけ忘れていた。

 

無理もないとも思う。

 

思うが…っ!

 

再会したと思えば、私の上を行き…嫌でも認めざるを得なかったと思っていたのにぃ!

やった事の責任も取らないで!

 

挙句……挙句!!

 

あの男と一緒に…。

 

 

お兄ちゃん…。

 

 

変に冷静な自分に気が付く。

 

そうだ。

 

私情だ。

コレは私情。

 

だが止められない。

 

感情的になる。

 

 

 

「今行きます! 待ってていて下さい、隊長ぉ!!!」

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました

マウス、出オチ

構成上、今回短かかった……。

次回、多分決着!……できたらいいな

ありがとうございました

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