第 1 話 ~平穏?(笑)~☆
通学路。
みほとの立ち位置を、俺と交換。
あんこうチームと、学校を目指して歩いている。
今までの事…あの男の事を、迷惑をかけた会長にも報告しておかないとな。
壊れかけたみほを、間近で見てしまった、あの人達へ。
みほの為に、決勝まで放棄しようとしてくれた、あの人達へ。
…感謝しないとな。
さて、そのみほだけども…。
しほさんと二人きりにして、暫く話させようと画策してみた。
もう大丈夫だと、そう思ったから…。
後どうするかは、親子の問題だ。
後押しは手伝えるが、肝心な肝は当人同士で解決するしかない。
失敗してしまったら、また何とかしてやる。
いくらでも手助けしてやる。
「結局、隆史君ってどうやって帰ってきたの?」
ん。いかん。
あまり考え込んで、ボケーとしているのは、目の前の彼女達にも失礼だな。
「いやぁ…黒森峰の学園艦に一度行って…それから今朝、しほさんに送ってもらった」
「あら…では、昨夜は黒森峰にいらっしゃったんですか?」
「…はい」
なんだ…華さんが、目を輝かせ始めたぞ…。
「では、みほさんのお姉様と、ご一緒だったと?」
「……ハイ」
「そうですかぁ♪」
フフッと微笑んで、ひと呼吸置いてから…って!! 耳に息が当たる!!
俺の耳元へ、手を添えて、内緒話をするかの様に囁いてきた。
「…………しました? 浮気」
「してませんよ!! 節操無い様に言わないでください!!」
「あらぁ…それは、残念ですねぇ」
「何が!?」
いきなり飛ばしてきた…。
どうしたんだろ…どことなく、はしゃいでいる様に見える…。
「…なんか華。今日テンション高いよね」
「……」
「なによ麻子、青い顔して」
「……」
「冷泉殿?」
「おい、書記」
「なに? マコニャン」
「…ぐっ、ま…まぁいい」
あ、飲み込んだ。
チッ。
慌てるマコニャンって、普段人にあまり見せないから、ちょっと優越感あって良いのに…残念。
「…お前、本気なのか?」
「んぁ? 何が?」
「…西住さんとの事。ど…同居」
「あぁ…まぁ、しょうがないだろ。住む所無いし」
「…それは…少なくともお前なら、どうとでも、できそうな気がするんだが?」
「まぁね。でもまぁ、二人きりって訳じゃないし…ルームシェア見たいなモノだろ? 階を隔てれれば問題…無いと思う…」
「二人きりじゃない?」
「あれ? 誰か他にいました? あ、西住殿のお母様も一緒に住まわれるんですか?」
…そりゃ魅力的……いや違う。
只今、絶賛みほ宅へ居候中の方ですね。
つまりは…。
「私ですねぇ!!」
はぁいって、手を上げないで下さい!
元気いいなぁ、もう!!
「は、華!?」
「五十鈴殿!?」
「……」
あれ?
みほ宅へ居候中って、皆知らなかったっけ?
さっきの様子じゃ、マコニャンは知っていたみたいだけど。
それにしても…。
結構、話しながらの登校って、時間が経つの早いのな。
見慣れた通学路から、もう見慣れた校舎が見えてきた。
校門前に到着した。
大々的に、全国戦車道大会優勝! と、幟やら垂れ幕やら…派手に報告…というか、全校生徒に宣伝している。
余程嬉しいのは分かるけど…昨日の今日で、よくぞここまで…。
「たっ! 隆史君!!」
「な…なに?」
ボケーと眺めていたら、意を決したかの様な目で…その目は半分涙目だけど。
その涙目の沙織さんに、掴みかかられた。
「いいの!? それで!!」
「え…華さんの事?」
「他に何があるの!!」
「いや…流石に俺も、いきなり二人きりで同居ってのも、ハードル高いし…誰か他の同居人がいた方が、みほも安心するかなぁ…って思うけど…」
「そりゃそうだけど!! 違う!! そういう意味じゃないよぉ!!」
な…何が言いたいんだろう…。
頭振り乱してるなぁ…メガネ落ちるよ?
ズレ落ちたメガネを、軽く指で押してやったら、動きが止まった…あれ?
「…タラシ殿?」
「……ハイ。なんでしょう? 優花里さん」
一瞬、もういいですって感じで、顔を背けられた。
はい。
改めて、顔を向きなおしましたね。
「先程、冷泉殿がおっしゃっていましたが、タラシ殿なら簡単に手続きとか、他の住居を探せられるのですよね?」
「んぁ? まぁ…その気になれば…」
一人暮らし長かったし…安い所さがすの得意だけど…。
前世の話だけどね。
「なら、何故そうしない。会長に頼んだって良いだろう? それこそ…すぐに見つけてきそうだが?」
今日は、よく喋るなぁ…マコニャン。
その意見に、沙織さんと優花里が、首が取れそうな位の勢いで頷いている。
あ…華さんが、泣きそうな目で見てくる…。
ん~。
「でもなぁ…」
「でも…なんだ」「なに!?」「なんですか!?」
「しほさんが、用意してくれたからなぁ…」
「「「「 …… 」」」」
あ…あれ?
華さんまで一緒になって、ジト目で見てくる…。
「ちょっと…いえ、すごくみほさんの気持ちが分かりました…」
「な…なにが?」
「…西住殿のお母様の話になると、一々嬉しそうしますね? タラシ殿」
「…そ、そんな事、無いと思う…けど?」
そのまま、謎の視線に悩みながら…まだ見てるよ…。
まぁいいや…。
…悩みながら、校門に入る。
ブツブツと何か、後ろから聴こえてくるのは、多分幻聴だと思う…。
しっかし、生徒が多いな。
戦車道履修者以外は、夏休みだというのに…あ、そうか。
今日、登校日だったか。
試合に勝とうが、負けようが…それを発表する為に、登校日を合わせたんだっけ。
そりゃ生徒がいるわな。
騒がしい校門前を抜け、校舎前に来た瞬間…。
けたたましい大音量の、サイレンにも似た音が鳴り響く。
《 生徒会役員・書記 尾形 隆史 生徒会役員・書記 尾形 隆史 》
…柚子先輩の声が鳴り響いた。
俺!?
《 至急 生徒会室まで……来なさい 》
ブッ
「……」
校舎から…雑音が消えた…。
初めて聞いた…ここまで抑揚の無い、柚子先輩の声…。
それは、他の生徒も一緒なのだろう。
全校集会とかでも、彼女の温和な雰囲気などもあり…スタイルもあるけど…。
彼女はある意味で、男女共に生徒会長より有名だった。
…その彼女が。
「来なさいって……」
「あれ…小山先輩、ガチギレってやつじゃないのか?」
マコニャンやめて!! 恐怖感が、更に増すから!!!
周りの生徒からも、注目されているのが分かった…。
あいつ何やったんだ?
…って、目で見てくる。
知らねぇよ!!
決勝戦の時、顔も見せなかった事か!?
でもあれ、桃先輩に言伝頼んでおいたし、それじゃないよな?
じゃぁなんだろ!?
《 生徒会役員 書記 尾形 隆史 生徒会役員 書記 尾形 隆史 》
!?
《 ハ ヤ ク キ ナ サ イ 》
ブッ
「……」
再度、校内放送が入った。
…直で。
……。
―― 生まれて初めて、命懸けの全力疾走というものをした。
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い…息が……
喉元から、ヒューヒューと音がでる…。
最上階にあるから…生徒会室……。
「――隆史君」
生徒会室に入る。
ノックも無しに飛び込むように!
走った!! 本当に全速力で!! 廊下は走っちゃダメなんだけどねぇ!
「ハァー…ハァー………」
何時もの様に、会長席でふんぞり返って、干し芋かじってる杏会長と…。
何時もの様に、こちらを睨んでくるような、きつい目の桃先輩…。
何時ものよ……違う!! 柚子先輩!! 顔に表情が無い!
苦しそうに息を切らしている俺を無視し。
杏会長も会長で、不機嫌オーラ全開ですな!
「遅い」
「すいません!!!」
謝る。
取り敢えず、謝る!!
なにが理由か知らないけど!!!
「…ねぇ、隆史ちゃん」
「なんっっすか!?」
「小山が、ここまで怒るの珍しいんだけど…」
「……」
手は、いつもの様に前で組み、こちらを見てくる。
目が真っ直ぐ見れない…。
彼女って怒ると、ここまで雰囲気が変わるのか…。
「――で? 隆史君? 早速本題だけど…」
「なんでしょう…」
「今朝学校に、ベコの問い合わせが、殺到していたみたいなの」
「ベコの?」
「私達は、その場にはまだ来ていなかったから、他の生徒会員からの報告を受けて分かったのだけど…」
無表情で、そのままテレビのリモコンを操作する柚子先輩。
喋る言葉に刺がある…とかの問題じゃない! 感情が無いように思えるほど、淡々としている…。
何やった! 俺!
電源が入り…生徒会室、備え付けの大画面TVに映し出される映像。
ネットに繋がっているのか…動画サイトが映し出されている…。
「…なに? これ」
一つの動画。
カーソルが動かされ、その動画が再生された。
映し出される夕陽の色。
画質は悪いが、あの時のギャラリーが撮ったのだろう。
揺れる画面。
小さな悲鳴。
「大体の人が、前回の大洗…沙織さんの事件で知った方でした」
殴られている…ベコ。
「…そこから、更にこの動画を見た人達からの、問い合わせが大多数だったの」
目が割れ、耳が飛ぶ。
…叫び狂っている、あの男。
今更、動画を止めてくれって言った所で、どうせすでに見た後なのだろう。
だからの呼び出し…そのまま放置しておいた。
ま。下手に隠してもしょうがない。
今、ちゃんと言っておいた方がいいだろう。
この件での報告に、俺は学校に来た訳だし…。
生徒会室のドアが、ノックされた。
こちらの返事も待たず、開かれるドア。
…華さん達が、心配してでもくれたのだろうか?
顔を覗かせた。
沙織さんの顔が見えた瞬間。
そのテレビ画面が消えた…というか、柚子先輩が消した。
……
「…尾形書記。これは結局、最後まで録画されていた」
「隆史ちゃんが、あの男を絞め落とすまでね」
「…」
「ねぇ隆史君」
「なんですか? 柚子先輩」
「途中、男の人が隆史君にぶつかっていたけど…あれ、何されたの?」
「……」
空気が重く伸し掛る…。
はっきりと彼女達に、言葉で言わない方がいいだろう。
防刃チョッキを着ていたとはいえ、結構ショッキングな映像だしな。
…ナイフで刺されたとか。
でも…これは、分かっていて聞いてきてるよな…。
押し黙っていると、今度は露骨に睨むような目つきになった。
「黙ってるって事は、やっぱりあのベコは隆史君だったのね」
…あの男の関係で、もうこういった空気は感じたくなかった。
もう全て終わった事。
……終わらせた事。
「はぁ…分かりました。全部話します。というか、その事で今日来たんですから」
「……」
真っ直ぐに睨んでくるなぁ…。
みほを除いた、あんこうチームにも入室を進める。
まず最初に言っておこう。
「沙織さん」
「えっ!? な、なに?」
「ベコ。あの着ぐるみの中身…知っているんだよな」
一瞬、何か驚いた顔をして…俯いた。
「……うん」
別に責めている訳じゃない。
だから気にするなと言っておこう。
…さて。
「はぁーー……なら、まっ。安心させる意味でも……話しますか」
やっぱりバレてたのか。
大きくため息を吐く。
…今回の俺が、決勝戦の時、裏でどういう事をしていたか、ゆっくりと…話し始めた。
全てを。
……
逮捕されたあの男。
まぁ…千代さんが、ものすごい笑顔で引き取っていったから…多分、大丈夫だろう。
「ふ~ん…んじゃ隆史ちゃん。全部終わったの? あの…男は捕まったと」
「終わりました。完全に…綺麗さっぱり、繋がりを切りました」
千代さんの家からと、今までの俺の動向を綺麗さっぱりと話した。
ベコの着ぐるみ改造も含め…安全面からしても大丈夫だったと。
…やはり、心配させてしまって怒らせてしまったと、思ったからだ。
「だってさ。ど~する小山?」
先に謝り、彼女達の顔色を伺う。
複雑そうな会長の顔。
だけれども、すぐにいつもの態度に戻り、あっさりと言った。
「…なんか、私はもういいや。西住ちゃんだけじゃない。私達の事も思っての事っぽいしねぇ」
驚愕…完全に予想外の話…。
ボディガードの手配からして、沙織さん達も呆然としている。
「ダメ。許さない」
「…ゆ…柚子ちゃん」
「……」
話をしていく過程で、どんどん柚子先輩の顔が、不機嫌になっていった。
というか、完全に怒りが増している。
はっきり許さないって…言われた。
「会長と桃ちゃんは、チョロイからそんな事で許しちゃうかもしれないけど」
…チョロイって…言い方…。
「いい? 隆史君は、まだ高校生なんだよ?」
「……」
「あんなに、大人の人が周りにいて。なんで自分で解決しちゃおうとするの?」
「…えっと」
彼女は、淡々と俺の目を見て喋りだす。
「隆史君って、見た目も行動も、変に子供っぽくないから、皆勘違いしてるけどね? まだ17歳なんだよ? 子供なんだよ?」
…この人は。
「率先して、危ない目に遭うことないじゃない。言おう言おうとは思っていたけど、納涼祭の時もそう」
「……」
あ~…。
「どうして一人で、何でもどうにかしようとするの?」
あ~…………。
納涼祭の時も結局、最後には桃先輩振り切って、一人で行ったしなぁ。
その時から、溜まっていたのかなぁ?
感情的にもならないで、一切俺から視線を逸らさない。
「あ~ぁ、隆史ちゃん」
「…はい」
何、その顔。
嬉しそうに…。
「こうなると小山、しつこいよぉ?」
「…ぐっ」
取り敢えず、みんなが見守る中。
無意識に手が、直立不動の彼女の前に出……。
「」
音が出るくらいに、強く払われた…。
途方にくれ、払われた手で頭を掻く。
どうしたものか…。
…正直に言ったほうが…彼女の為になるのかなぁ…。
「あの…柚子先輩?」
「……」
う…動かない…。
相変わらず、この人は優しい。
ただの言葉では無く、本当に心からそう思う。
そうだ。
サンダースの時も「お姉ちゃん」とか、言ってくれたしな。
この人は年下の後輩って、俺をちゃんと見てくれているのか。
…この風体のせいで、まったく見られてなかったからなぁ…近しい年齢の人達には。
体裁もあるし、今まで皆の手前、黙っていてくれたんだろうな。
自然に笑みで出る。
…それが、変に嬉しかった。
「は? 何 笑 っ て る の ?」
「」
「私、怒ってるんだけど?」
それとは、別に…ここまで、人が変わるものなのか…。
ある意味で、マジギレみぽりんを超えてらっしゃる…。
先程から、表情の筋肉を使っていらっしゃらない!!!
「ゆ…柚子…そこら辺で…」
あ。珍しい。桃先輩が助け舟出してくれた。
俺を助けてくれるつもりか。それとも、柚子先輩のこの状態をなんとかしたいのだろうか?
「…桃ちゃん」
「……ハイ」
「桃ちゃんも、隆史君に頼りすぎ。だからこんな事になるんだよ?」
「わっ!! 私は、頼ってなんか!!」
「……」
「た…よって…」
「……」
「」
無言の圧力がすごい…。
「桃ちゃんの仕事。特に書類処理の関係なんて、8割方、隆史君に押し付けてるよね?」
「」スイマセン
ま…それは、皆が練習中、俺だけ暇だからってのもありますけど…黙っていよう。
下手にしゃべると…コレは多分、桃先輩にも更に飛び火しそうだから。
埒があかない…。
やっぱりここは、素直に謝るか。
…だけど。
「あの…すいません。…柚子先輩」
「…は?」
こ…こえぇ。
目の光の残像が残るかの様に、こちらを振り向きなされた!
「確かに無茶しました。でも似たような事があれば…俺は、動きます」
「……」
「でも…そういった時、俺自身が大怪我を負ったり…とか、どうにかなってしまうのは、なんの意味もない事は理解してます」
「……」
「今回の事だって、大勢に迷惑をかけて…助けてもらって……そういった事は、ちゃんと分かっていますから…」
「……」
「特に、柚子先輩には迷惑ばかりかけてしまって…その……心配かけて…すいませんでした」
いかん…だんだん…気持ちが先走り始めた。
ただの言い訳になってきた…。
この状況は初めてだ…やばい…どうしよう…。
訳が分からなくなってきた…。
会長を見る。
すっごい笑顔だ!
桃ちゃんを見る。
「桃ちゃんと言うな!!」
何故わかった…。
あんこうチームを見る。
いい機会だから、しっかり怒られたら?
タラシ殿には、いい薬だと思います!!
書記。死ね。
…そして黒い笑顔。
なんで考えてる事が、手に取るように分かったんだろう…。
はぁ…んじゃ。
思いきって…あの時のお礼も言っておこう。
「それは…柚子先輩の時でも、同じです」
「……?」
「もし、そんな事になったら…の、仮定の話ですけどね」
「……」
「特に、柚子先輩は」
「……」
「貴女は、少なくとも俺を一度救ってくれた」
「…ぇ?」
話が変わったと思ったのか、一瞬元に戻った。
「1回戦の時…俺が、貴女にどれだけ救われたか……」
染み染みと思う。
サンダース戦の時。
トラウマ発生で…ちょっと、俺の心が壊れそうだった。
あの時の…目の前が暗くなる感じは、本当に久しぶりだった。
助けてくれたのは、目の前の彼女。
つまらない言い訳はやめよう。
「…あんな事」
「あんな事で…です。だから…」
腕を掴む。
こういう事は、顔を見て…目を見てちゃんと、言っておこう。
逃がさない様に、腰に手を回し…体に引き寄せる。
…だっけ?
「た!? 隆史君!?」
戸惑うだろうし、セクハラ…だろうなぁ…。
いやぁ…正直、柔らかいのがすっごいから、こっちもちょっと戸惑うけど。
「だから」
ちと恥ずかいいから、耳元で話す。
あ、ちょっと変な声を出したな。
「貴女が言う事も、分かりますので…ちゃんと聞きますので」
「」
もし、何かっあったら。
「…そんな貴女の為でも、俺の体くらい張らせて下さい」
「」
……。
…………。
「だから…柚子先輩? あれ? せんぱーい」
目を見開いた後…ぐったりとしてしまった。
「隆史ちゃん」
「え? あ、はい」
「お酒。…飲んでる?」
…何を言ってるんだ、このツイテ。
「飲んでる訳、無いでしょうが…何言ってるんですか?」
「…ついに素で、そんな事を言うようになったの?」
「いや…柚子先輩って、様は俺が勝手に、一人で何でもしようとしたから、怒ってるんですよね?」
「…そうだね」
「上げく今回みたいに、俺も危ない目にあったのが、このマジギレの引き金…ですよね?」
「……だね」
なんだろう…今度は、会長がイライラし始めた?
「だから、ちゃんと言うこと聞くって…」
「言い方ぁ!! やり方ぁ!! なんで小山を抱き抱えて…というか、抱きしめてんの!?」
あ。
もう離した方が、いいか。
「いや…こうした方が、いいって…教えて貰いまして…」
「誰に!? また蝶野教官!?」
「いや…黒森峰で…赤星さんって人から…。言葉は態度と共に、はっきりと言った方がいいって…」
「……それは、腰を抱く必要あるの?」
「これも教えてもらって…あ、でも」
「あ?」
な…なんだろう…。
今度は、四方から殺気を感じる
「みほには、効果がないから、やめた方がいいって言われました…」
「……」
なんでかは、教えてもらえなかったなあ…そういえば。
会長がまた、大きくため息…。
「…結局、小山が一番チョロカッタナァ。」
気がついたら、柚子先輩の腕が、俺の背中に回っていた。
顔は…俺の胸に埋まっちゃって見えない。
耳だけが真っ赤になってるのが、分かるくらい。
「「「「「「 …… 」」」」」」
「あの…どうしたら……」
すごい状況にどうしたらいいか分からず、視線を送り周りに助けを求めてみる。
「隆史さん?」
「華さん!?」
「よくぞまぁ…私の前で、そんな事ができますね?」
「」
いや…あの…俺はもう、手は離しているんですけどね?
一方的に抱きつかれてるんですけどね?
「書記…もう……お前、いい加減にしろ」
「なにが!?」
沙織さんは、なんか…真っ赤になって固まってるな…。
なんか呟いてるな。…ズルイ? なにが? え?
「あ、ちなみに」
「なに!?」
「その赤星さんって人から、効果が期待できる人一覧表…ってのも、貰いまして…」
「…なにそれ」
「この方達なら、セクハラにならないって…」
携帯へ、一覧データを貰っていた。
ずらぁ…と、名前が並んでたなぁ…。
その中に柚子先輩の名前があったから…ちょっと恥ずかしかったけどやってみた。
って、言い訳したら…いやぁ…リストを会長に没収、削除された…。
◆
「…タラシ殿が…黒森峰から、バージョンアップして帰って来た…」
優花里さんが、呆然として呟きました。
あんな行動、直にするくらいですからねぇ。
「…マジギレの柚子ちゃんを…強制的に黙らせた……」
桃先輩が絶句してますねぇ…。
まぁ…なんにせよ。
ちょっとこれは…この状況は複雑ですねぇ…。
「もういいや! 話を進めるよ!?」
会長がパンパンと手を叩き、注目する様に促してますね。
この状態を変えたいのでしょうねぇ。
小山先輩は、我に返ったのか…隅っこで小さく体育座りしてますねぇ。
「か~しま! 小山もうダメっぽいから、隆史ちゃんに報告!」
「は、はい!」
「俺に? 報告?」
下手に隆史さんを動かさない方が良いと判断され、今は皆さんでソファーに座らせています。
動くな…と。
久しぶりに会った隆史さんの雰囲気が…ちょっと以前と違っていて、会長も含め、少し対応に困ってしまう為でしょうか?
なんでしょう。
ちょっと喋り方が、穏やかになりましたね。
タラシさんってのは、変わりませんが!
「まずは、尾形書記。また客人が来ている」
「…はぁ。誰でしょう?」
「日本戦車道連盟理事長の児玉 七郎氏だ」
「……」アノ、ハゲ…
「それで、だな…明日、終日お前を借りたいと申し出があった」
「…は?」
「隆史ちゃーん。なんかしたの?」
「…まだ何もしてませんよ。まったく…大丈夫ですよ…。ロクなことじゃないのは確定してますけど…」
大きくため息をつきながら、そこで立ち上がりましたね。
「で? どこですか? 応接室にでもいます?」
「そうだね。結構な時間を待たせちゃってるからねぇ…ま、全て隆史ちゃんのせいだけど」
「……」
しかし…隆史さん…すごい汗ですね。
そのまま、逃げるように退室して行きましたね!
隆史さんが退室し、生徒会長はそれを見送ると…今度は私を見てきましたね。
まぁ…検討はつきますけど。
「さて…五十鈴ちゃん」
「はい?」
「住むとこ見つかった?」
「はい、見つかりました」
「「「 」」」
あら? 他の皆さんが、一斉に顔を背けましたね…。
まぁ…隠しても仕方ありませんし。
「ど…どこかなぁ?」
「みほさん……と、隆史さんのお宅ですねぇ」
はっきり、言いましょ。
「そっか西住ちゃんの……ん? と? 隆史ちゃん? ん!? のお宅!?」
「はいぃ」
「え……えっ!? どういう…えぇ!?」
あら、会長が取り乱してますねぇ…。
ま、この方も結構分かりやすいですからね。
簡単にですが、沙織さんが会長に今朝の経緯を説明しています。
気がついたら、青くなっている顔が二つになっていますね。
…小山先輩。
「…いくら親公認とはいえ、同棲はちょっと…風紀的にも…」
当然の事をおっしゃってますね。
「…問題は、更に華がそこに住むって事もあるんだけどね…」
「あら? どうしてでしょう?」
「いや…その、完全にお邪魔じゃない」
「隆史さんとみほさんの…ですか?」
「そうだよ!!」
「…そうですねぇ。でも良いんですか? 沙織さん」
「……な…なにが」
狼狽える沙織さんを尻目に、生徒会長を見ます。
呆然としていますが…まぁ反対されるのは、目に見えて分かっていましたし…。
ですから、最初から切り札を出します。
「では、会長」
吃る沙織さんを無視し、会長に切り出します。
「は…華が足を組むなんて…」
珍しいですか? まぁいいです。
「…会長?」
「はっ!? な…なに!?」
「…どうします? 私が住む場所…反対されます?」
「流石にねぇ…生徒を預かる立場としては…」
もっともらしい事をおっしゃいますね。
で・も
「隆史さんとみほさん。あの二人を一つ屋根の下、二人きりにする方が、風紀的にもどうでしょう?」
「……」
「親…特に、女性側の親元からの了解を得てる以上、無碍にもできませんし…」
「ぐ…」
「みほさんのお母様。完全に隆史さんを…逃がさないおつもりですよ?」
「…」
ウフフフ。ちょっと楽しいです。
全国大会が優勝に終わり、変に舞い上がっているのか…。
気持ちの折り合いが出来てしまったのか…。
「…私がそこの間に入れば…少なくとも進展は、しづらくなると思いますよ? お二人の…」
「…なっ!?」
皆さんが、絶句してますねぇ。
私だってこういった事にも、縁ができたのですからね。
…多少はね。
「それに気がつきませんでしたか? みほさんが決勝前、明らかに変わったのを」
「…え?」
「例の…いつもの様に、隆史さんが無線を垂れ流しにした日。過去、これ以上ない位に、怒って帰って行かれたみほさん」
「…いつもの様にって…」
「でも次の日、すこぶる機嫌の良かった、みほさん」
「……」
何か思い当たるのでしょう。
私も思います。
なにかアッタノデショウ。
「……で、どうでしょう? 手遅れになりますよ?」
…ま、もう手遅れかもしれませんが。
「…五十鈴ちゃんが、言いたい事はわかるよ?」
「はい?」
冷静になれたのでしょうか?
いつもの会長になりました。
「でも、五十鈴ちゃんの意図が分からない」
「……なにがですか?」
「そこまでして、二人の間に入ろうとしている意味が。私達の為って訳でもないよね?」
「そうですね。コレは、自分の為でもあります」
…みほさんを裏切るつもりは、毛頭ありません。
「…自分の為?」
……ありませんでしたが……。
私も気持ちの折り合い…全国大会が終わったのが切っ掛けで、ある意味心の整理ができてしましました。
「そうです。簡単な事ですよ?」
「…なにかなぁ?」
机の前で、手を組み合わせてこちらを見てきますね。
完全に敵対するような目線ですねぇ…。
流石に気がつきましたかね?
よく分かっていない、沙織さんに一度顔を向けます。
「沙織さん…」
「え? 私!?」
「……ごめんなさいね?」
「…え」
「…私、隆史さん本人には、伝えてあります」
沙織さんに謝罪をし、皆さんにはっきりと宣言しておきましょうか。
「私、隆史さんが好きです」
◆
大洗ホテル。
今回、特設会場が設けられていた。
私と河嶋先輩。
大洗学園・戦車道の隊長、副隊長として招かれていた。
決勝戦が終わって二日目というのに…流石に早急すぎないかな?…とは、思うけど。
ホテルロビーを抜け、そのまま案内された会場へ。
こういったホテルって、余り来た事がないから、ちょっと緊張する。
案内された部屋の前。
「乙女の戦車道チョコ・企画会場」
頭を抱える…やっぱりきた…恒例の企画。
去年は去年で、すっごい恥ずかしかったけど…今年は……私隊長だし。
…何させられるんだろ。
というか、何着させられるんだろ!!??
「西住」
「え? あ、はい」
この企画をよく分かっていないであろう河嶋先輩から、非常に真面目な顔で声を掛けられた。
「最初に言っておくべきだったのだが…まぁいい」
「…え?」
「節度を持った生活をしろよ?」
「はい? なんの事でしょう?」
「……まったく。男と同棲とはな」
「」
そのまま一言言い捨て、先に会場内に入っていた河嶋先輩。
改めて言われると、一気に顔が熱くなる。
うぅ…。
昨日、隆史君から電話が入り、会長に華さんが言ったと報告があった。
かなり憔悴した声だったけど…。
その日、隆史君は帰ってこなかった。
また! 帰ってこなかった!!
…うぅ。
なにか会議? 戦車道連盟の人から呼び出しを食らったとかで、帰って来たばかりだと言うのに、また陸に戻っていった。
まぁ…お母さんも帰ったしで、昨晩はあんこうチームが、私達の家にお泊りだった。
皆なんか…すっごく明るかったのが気になった。
特に、華さんのテンションが、変に高かったけど…。
学校でなにかあったのかな?
……。
…………。
私達の家。
……。
エヘヘ…
「西住!! 何してる!」
「はっ!? あ、はい!」
あんまり考え込んでいても仕方がない。
小走りで、会場内に入る…と。
私達と過去に対戦した、各学校の代表者達がいた。
皆、指定された席に座っている。
入室した私に気がついたのか、一斉に私達を注目した。
聖グロリアーナ。
ダージリンさん、オレンジペコさん、アッサムさん。
軽く会釈して挨拶…って、ここ紅茶の持ち込みって、大丈夫なのかな?
サンダース付属。
ケイさん、ナオミさん、アリサさん。
ケイさんが、ダイナミックに腕を振ってくれている。
アンツィオ高校。
アンチョビさん、ペパロニさん、怖い人…じゃない、カルパッチョさん。
ムチは振っちゃダメですよ?
プラウダ高校。
カチューシャさん、ノンナさん。…と、誰だろ?
もう一人、金髪の女性がいる。
隆史君が、家にいない事は連絡していたのだろう。
朝、来なかったしなぁ…。
引越しした事は、隆史君の事だから、絶対に言ってるだろうし…。
…うん、絶対言ってる。
じゃなきゃ、あんな笑顔で、挨拶してこない。
むしろ、その笑顔が怖いなぁ…。
……
黒森峰。
お姉ちゃんと…エリ…逸見さん。
チラッっと見ただけで、特に何も無い…うぅ…隣が指定席だ。
継続高校。
えっと、ミカさん、アキさん、ミッコさん。
……。
……えっと。
あの…なんでミカさんは、虚ろな目で、カスタネットをひたすら叩いているんだろ…。
あ、アキさんに怒られた。
よく、ここに来たなぁ…。
隆史君曰く、こういった催しには絶対顔を見せないって、言ってた気がするのに…。
……ん?
なんで、この顔合わせなだろ…。
他の学校は?
ひどく限定された様な気がするんだけど。
疑問がある中、ペットボトルのお茶が置かれている、用意されていた指定席に座る。
…というか、なんで先頭なんだろ…。
宴会場みたいな大広間。
よくある長机に名札が置かれていた。
あ。
「やぁやぁ、皆さん。遠い中、御足労ありがとう」
壇上の横、頭が光る人物がマイクで挨拶をしてきた。
やっぱり、私達で最後なんだ。
席に着いたら、すぐに挨拶が始まった。
「日本戦車道連盟理事長、児玉 七郎だ」
みんな、つまらないモノを見る目で見てるなぁ。
う~ん。
毎年、優勝校の出身地で、この変な企画会議は行われる。
よって今年は、ここ大洗となる。
他の高校からすれば、確かに遠いだろうなぁ。
正直、このお菓子の企画の為に写真を撮られる当人達。
つまり私達、選手達には、すこぶる評判が悪い。
しかも大洗と黒森峰は、試合が終わったばかりだしね。
よくある挨拶を聞き流し、皆…わぁ…興味なさそう…。
「さて、余計な挨拶は省こう。今年から、大きく変わった事がある」
…うぅ。また変な事じゃないかなぁ。
「一つ、水着撮影が…無くなった…」
血の涙を流すくらいな悲痛な顔で、そんな事を発表した。
この人…。
「その代わりと言ってはなんだが、コスプレ…ようは、衣装を着込んだ撮影となる」
コス…
そこまで発表した後、すぐさま用意されていた、おっきなテレビに電源が入った…。
映し出されていたのは…どこかの控え室の様な部屋…。
「それともう一つ…今回から、男性の意見も取り入れる様にした」
その中央の机に、前かがみで突っ伏している男性…。
その机の周りに散乱している、書類らしき用紙類…。
『あぁ? 尾形…なに寝てんだよ』
部屋のドアから入室してきた、また見たことのある顔…。
二人いる…。
『……戦車道連盟のハゲに、今回の企画押し付けられた書類…徹夜作業で…やっと終わった…』
『後は、決めるだけだろ? ほらガンバレ』
『あのくっそハゲ。絶対時給換算して、請求してやる…』
『あ、俺のも頼むわ』
『…はっ。任せろ林田。…もうブラック企業怖くない…。時給1200円くらいで請求してやる』
『…中途半端に高いのが、みみっちいぞ、尾形…』
会場が静まり返っている…。
周りを見渡すと、何人かが目を見開いてるなぁ…。
と…いうか…。
「これ…ひょっとして、盗撮…ではなくって?」
「そうだよ?」
悪びれる事も無く、あっさりとバラした…。
「男性のこういった意見は貴重だ。彼…『尾形 隆史』君の友人にも協力してもらい…今回の企画を進めようと思っとるのだよ」
「…気に食わんな。ただの犯罪だと思うのですが?」
あ、お姉ちゃんが立ち上がった…。
本気で怒った顔をしている…。
「犯罪? 違うよ、西住 まほ君。テレビ番組のどっきり企画と同じだよぉ…」
「…私は、そういった事には疎いので、知りませんね」
「まぁまぁ…」
……。
…………まずい…。
『ま、結局。尾形が集計したアンケート結果と…』
『俺らの意見が参考で決定…だっけか? 今回の衣装』
『…そうだけど、お前らがあっさり引き受けたのが、驚きだ』
『ま、戦車道関係してる男子ってのは、少ないからぁ』
『今回って皆、尾形の知り合いだよな?』
『……そうだな。あえてこの学校連中の選別させるのに、悪意しか感じなかったけどな』
『ふーん…。ま、いいけど…つまりはこの衣装選別って…お前の趣味全開になるのか?』
『…俺が、変態みたいな言い方するな』
「この企画は、一種のお祭りみたいなモノなのだよ…」
先日の無線音声漏洩を思い出した…。
この三人の時の、隆史君は危ない!!
「私はね? お祭りってのが…大好きなんだよぉ」
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