転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第06話~大洗学園生活スタートです!~

 県立大洗学園

 

 その学園艦に到着した。

 

 西住 常夫。

 

 みほの転校先がこの高校だと知ったのは彼、彼女の父親からの電話だった。

 現在の彼女の置かれている状況、彼は分かっていた。

 

 熊本から逃げ出し、家族からの連絡の一切を無視をしていた彼女だったが、俺からならば連絡が取れると踏んで連絡をくれたのが始まりだった。

 

 しかし、その俺からの連絡すらも拒否するみほだった。

 

 大洗学園へ転校手続きを両親に頼んでいて、上手く事が運ぶようと動いていた。

 両親にも連絡を取り、俺が転校をする旨も頼んでいた彼。

 

 母は、西住家の状況を理解していた。

 俺が行くことで多少でも修繕できるのならばと考えての事だった。

 

 ただ、母姉から見送りの際「ストーカーみたいでキモい」「頼むから警察沙汰にはしないでよ?」

 と、心温まる有難いお言葉を頂きました。

 

 引越しの準備も午前中に終わった為、全ての準備が整った。

 

 ワンルームのアパート。これは、しほさんが用意してくれていた。

 常夫さんは、しほさんに内緒に動いていたようだけども、全て後からバレていた。

 

 さて、次にやる事は決まっている。

 

 

 

 

「ヘイ彼女、一緒にお昼どう?」

 

 

 

 

 ナンパだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前なぁ…早めに引っ越すなら言ってけよ! この前の借り返してもらえねぇじゃねーかよ!!』

 

 一息ついた頃、青森の友人から携帯で悪態を突かれる。

 熊本へ移動する際、バイトを抜け出す時変わってもらった友人だ。

 

「悪かったって。でも本当に助かったんだ。感謝してるよ。ありがとよ」

 

 こういった礼は、ちゃんと言っておいたほうが良い。

 バイト先のおっちゃん達にも、送迎会まで開いてもらった。

 まぁ…大体、最後には酔っ払ったおっちゃんとパートのおばちゃんに西住家との事を散々からかわれたがね。

 

「…いいこと思いついた」と会話の最中言い出した。こいつは悪い奴じゃないが、悪い事は思いつく。

 

『今から、「断る!」お前街行ってナンパしてこいよ。成功失敗は問わない。最低3人。』

 

 絶対ニヤニヤしながら喋ってやがる。

 

「…聞けよ。つかやだよ。俺がそういうの嫌いなのし『ノンナさんに転校先言うぞ?』」

 

「」

 

 青森から引っ越す事を、カチューシャとノンナへ電話で伝えておいた。

 すでに学園艦は出立していた為だ。

 青森港へは、2週間~3週間ほど1回着港していたので、懇意にはしてもらっていた。

 本当は直接言ってやりたかったんだけど、ごめんなと話していると「いいわ! 今すぐ行くから!」

 と、マジでヘリで来やがった。夜の9時だぞ。

 まぁ…何で!? とか引っ越すならプラウダへ来なさい! 等言われたが、西住の名前は出さなかったが、事情を説明したら渋々納得してくれた。

 

 ……してくれたよな?

 

 ノンナさんからは、場所を執拗に聞かれた。が、はぐらかした。カチューシャが行くと言えば、即ヘリを手配。

 すぐに転校先まで来そうだったからだ。なにカチューシャ泣かしてんだテメェ…みたいな睨みが怖い。

 最後に、俺が涙目カチューシャを肩車して、ノンナさんと写真を撮ってお別れだった。

「写真消したら粛清だからね!」とヘリで帰っていったのだけどその後、場所を執拗にメールで聞いてくるノンナさんが、若干執念じみて怖かった。

 

「ワカリマシタ。ヤラセテイタダキマス…。だが1人だけだ! 失敗してもそれで終わり!」

 

「2人だ。それで手を打とう。ただし携帯は通話中のままにして、俺にも聞かせろよ?」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 いきなり私の生活が一変した。

 

 彼が大洗へ転校してくると言う。あ、しまった。いつ来るか聞くのを忘れてしまった。

 ついビックリして通話切っちゃったんだった。

 

 いつもと違い、不安だらけだった登校が楽しかった。まだどうこう変化があったわけでは無い。

 

 ただ、楽しみなだけだった。彼が来る。来てくれる。

 戦車道大会での事は、やはり私の杞憂でしかなかった。そう、彼が責める訳がない。

 ただ、ただ心配された。

 ……写真の事は、また彼と会ったら話そう。……レイセイニネ。

 

 その日、教室で声をかけてくれたクラスメートが、お昼に誘ってくれた。

 アワアワしている私を見て楽しいと…。楽しい?

 

 ……とても嬉しいことが、立て続いて起きてくれたのだ。

 

 ― 教室 ―

 

「実は、相談があってさ~」

 

 武部 沙織さん。私に声をかけてくれた明るくて、親しみやすいクラスメート。

 

「私罪な女でさぁ~」

 

「またその話ですか?」

 

 五十鈴 華さん。おだやかな清楚で、古風な雰囲気のクラスメート。

 

「最近、いろんな男の人に声かけられまくりでさぁ~」「それは、普通の挨拶では?」「ソンナコトナイモーン」

 

 …楽しい。とても楽しい。

 

「そうだっ! それに昨日、街でナンパもされたんだよ!」

 

 まぁ武部さん、かわいいしオシャレそうだし、ナンパとか普通にされそう。

 

「いいですか? それは幻覚です。沙織さん…ついに現実との判断が、つかなくなってしまわれたんですか?」

 

 辛辣だ…。

 

「ちがうもーん。何か、こう…体が大きくて、ガッチリしていて…ちょっと怖かったけど…」

 

 それは、いきなり声かけられたら私もちょっと怖いかも…。

 

「はいはい」

 

 …五十鈴さんが、やっぱり辛辣だ。

 

 でも、こんな友達らしい会話も懐かしい。本当にうれしい。

 2人にお礼を言おう。「友達になってくれてありがとう」心からの言葉だった。

 

 …

 

 

「やぁ! 西住ちゃーん」

 

 

 

 今日から楽しい日が、続くと思っていたのに。

 

 彼が来てくれさえすれば、幸せな高校生活が始まると思っていたのに。

 

 ……過去が追いかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………恥ずかしくて死ぬかと思った。

 何故こんな目に…。

 俺の風貌はそんなに怪しいのかな…。筋肉は、素晴らしいと思うのだけど…。

 

 1人目は、超警戒され交番に駆け込まれそうだった。チラチラ見てたし…。

 すいません!っとこれに出てくださいっと、電話を渡し、通話中のバカに説明してもらい、すっごい哀れみの目でみられ、更に「頑張ってくださいね」と逆に同情された。…惨めだ。

 

 くっそ電話から爆笑が聞こえる。

 

 2人目は、なんか今風の女の子だった。とっとと、断ってください。と声をかけたのだが。

「えー。やだもー♪」とかマゴマゴしだしてこちらが困った。

 最後は結局断られたんだが、1人でずっと喋ってたなぁーあの子。悪い子じゃないんだろうけど…。

 

 

 学校へ到着後、すぐ職員室へ出向く。

 担任へ挨拶をするとそのまま教室へ案内された。

 普通Ⅱ科C組。ガラッっと教室のドアを開ける。朝のHRの前。ちゃんと全員席にいた。

 そうか、みほとは違う教室か。

 さすがに、そこまで把握してなかったし、希望のクラスなんぞ言ったら変に勘ぐられそうだったので特に何もしないで運に任せた。

 結果はずれた訳だがね。

 男女比率2:8ってとこか? やはり女性陣が多いね、さすが元女子高。

 

 1人の女の子と目があった。すぐ慌てて目を逸らされてしまった。

 HRも終わり、ちょこちょこ質問攻めを受けたけど、社交辞令で対応していた。

 後ろの席の男が「月刊 戦車道」を読んでいた為、ちょっと話かけてみた。

 

「なんだよ転校生。お前も男の戦車好きは、おかしいってのか?」

 

 と、敵意むき出しで返される。

 

「いや? 珍しいとは思うが、俺も嫌いじゃないよ。母親が戦車道の師範だしな。何度か、試合も見に行ってるしね」

 

 正確には、西住流の師範の1人らしいが詳しくは調べなかった。多分…嫌な事しかでてこないし…。

 本家とつき合いがあったことも黙っておこう。マニア系だったの場合、根掘り葉掘り聞かれる。間違いなく。

 

 ガタッ「!!??」

 

 窓側の席の子がこちらを見て…なんてキラキラした目をなさってんすか?

 

 俺の目線に気がついたのか、ハッとして座ってしまう。

 

 そうそう、この男子生徒に戦車好き仲間と思われたのか、懐かれてしまった。名前を「中村 孝」名前同じかよ!

 こういう事で、すぐ友達になれた。簡単なことで友人は作れる。正直男友達はありがたい。

 電話番号等交換して、一応聞いてみようかね。

 

「なぁ、この学校に「西住」ってのがいると聞いたんだけど、知ってるか?」

 

「あぁ、だけど西住流とは関係ないと思うぞ? なんかトロそうだった」

 

 やはりいた。いたけども、いきなり転校初日。

 女の子の名前を調べて、見に行くってのもあきらかにおかしい奴だからやめとく。

 昼休みまで待つか。どうせ食堂にいるだろ。

 

 

 

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 さてと。どうやって見つけるかな。

 

 メールと電話は無しだ。日曜日の一件はまだ片付いていないからだ。

 決して怖い訳では無い。

 

 …めちゃくちゃ怖いからだよ!!

 

 

 ~回想 日曜日~

 

 

「…はい。たカシデ…ス」

 

『隆史くん! 久しぶり♪ 今まで電話に出なクテゴメンネ♪』

 

「イエ…オキニナサラズニ…」

 

『私が、聞きたいことワッカルカナァ?♪』

 

「…ナンデゴザイマショウカ。『声が小さい♪』」ア、ハイ

 

『……ナニアレ』

 

「あなたのお姉様とお母様です」

 

『……ナニアレ』

 

「…お姫様抱っこですね」

 

『……ドウシテ?』

 

「どうして…と申されましても、貴方のご家族がご希望になられたからとしか…」

 

『……ドウシテ?』

 

「」

 

 もはや、壊れたスピーカーと話している気にしかならなっか。

 

 誰かタスケテ!

 

「あの…みほさんは、何をそこまでご立腹ナノデショウカ?」

 

『 何で!!??』

 

 ヤベッ!

 

『暫く連絡を取りたくても取れなかった幼馴染が、いきなりメールで自分の母と姉と如何わしい写真送って来れば、そりゃ怒るでしょ!? 何!? おかしい!?』

 

「オッシャルトオリデゴザイマス」

 

「ご立腹の所、申し訳ございませんが、私の様なカスから一つ、よろしいでしょうか…?」

 

『……何?』

 

「俺。大洗学園へ。転校シマス」

 

 ブツッ

 

 あ。通話切れた…。

 

 正座して、会話していた俺をニヤニヤして見つめる菊代さん。

 

「どうしました? あぁ、あった。私の携帯電…わ・・」

 

 しほさんが、忘れていた携帯を探してやって来た。

 すぐ置いてあった携帯を取り、画面を見て硬直している。

 …どうした?

 しほさんが、無言で画面を指差している。

 本当にどうしたんだろ?

 

 着歴 

   着信 みほ 38件 留守録 30件

 

 …時間にして10分で、この着信数。テロリィン

 

「…しほさん。なんで今、携帯の電源切ったんですか?」

 

「…コワイ」

 

 家元!!

 

 まほちゃんは、普通に着信に出て会話している。

 通話が終わってこちらを見てニヤッとした。珍しい…。

 

「な…なに言ったの?」

 

「フ…。なに、みほもそちらへ隆史が行ったら、やってもらえと言っただけだ」

 

「」

 

 

 ~回想 終了~

 

 

 《 普通Ⅰ科 2年A組 西住みほ 普通Ⅰ科 2年A組 西住みほ 》

 《 至急生徒会室に来ること 以上 》

 

 ガタガタ震えていると、そんな校内放送が入る。大音量だった為、現実に戻ることができた。

 …何やったみほ。生徒会に呼ばれるって、よっぽどの事だと思うけど。

 生徒会室かー。

 一度学校見学時案内されたっけかな。急いで行けば間に合うかもしれない。

 

 という事で、生徒会室前で待っていたら、廊下の奥から3人の女の子が歩いてきた。

 おーいた。いたいた。

 みほたん発見。よかった、友達できていたんだな。

 昔から友達少なかったのに……まぁ俺も人の事は言えないけどな。

 

 あ…1人の子に見覚えがある。

 

 まずい。マズイマズイマズイ!!!

 

「何ですか? 貴方は? 生徒会の方ですか?」

 

 黒髪の綺麗な子が聞いてくる。

 ちょっと警戒心というか…睨まれているというか……。

 

「大丈夫? みほ」

 

 茶髪のゆるふわ系女子が声をかけていた。

 俺の方を、チラチラ横目で見てきたが…良かった。気がついていない。みほを心配してくれている。

 

「うん…」

 

 彼女の問いかけに答え、顔を上げるみほ。

 

 そして目が合う。

 

「ひさしぶり。みほ」「隆史くん!」

 

 声が被った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程まで俯き暗い顔をしていたみほさんの顔が明るくなった。むしろ少し赤いぐらいでしょうか?

 今、「隆史くん」と仰いました。

 先程、教室でお聞かせ頂いていた幼馴染の方でしょうか?

 

 そういえば、転校してくるともお聞きしましたし、間違いないでしょうか。

 随分と…まぁ。がっしりとした人ですねぇ。

 

「さっき放送聞いて、ここに来れば会えると思ってな。みほ、お前どうかしたのか?」

 

 彼の質問に、沙織さんが答える。

 

「えっと、隆史くんだっけ?」

 

「…隆史でいいよ。君達は?」

 

 ちょっと、バツが悪そうな顔をしていますが…何でしょうか?

 軽く自己紹介を済ますと、今までの経緯を沙織さんが説明する。

 

 

「そうか、それで心配で一緒に来てくれたんだ。ありがとな」

 

 彼は、そう言ってお辞儀をしました。礼儀正しい方ですね。

 後、彼は、みほさんのいい人なのでしょうか?

 

「よかったな、みほ。いい友達できて」

 

「うん!」

 

 あらあら~。はっきり言葉にされると、ちょっと恥ずかしいですわね。この方、悪い方じゃなさそうですね。

 

「生徒会長ね……。俺も一緒に行っていいか?」

 

「うん!きてきてー!」「…ウン」「お願いします」

 

 何故でしょう。みほさんの顔が、また暗くなってしまいました。

 

 

 

 

 ―生徒会室―

 

 

 

 

「これはどういうことだ?」

 

「なんで選択しないかなぁ」

 

 開口一番、言われました。いくら戦車道を選ばなかったとはいえ、わざわざ生徒会室に呼び出してまで糾弾する事でしょうか!?

 生徒会の事情なんて知りません。みほさんずっと俯いてしまっているではないですか!

 

「あれ? 君、見ない顔だねぇ」

 

 生徒会長が隆史さんに声をかけていますね。

 

「本日転校してきた、尾形 隆史です。生徒会長ならご存知でしょ?イロイロ…と」

 

「ふっふ~ん。まぁね~。生徒会長の角谷 杏だよ。よろしくぅ~」

 

 私と沙織さんの抗議くらいじゃ何とも思わないのか、生徒会長は涼しい顔をしています。

 そもそもなんで、隆史さんは先程から喋らないのでしょうか?

 そもそも幼馴染がここまで言われて、何故黙っているのでしょうか!?

 

 

「んなこと言ってると、あんた達。この学校にいられなくしちゃうよぉ?」

 

 

 …さすがに我慢の限界です。信じられない事を言い出しました。

 

「会長は、いつだって本気だ!」

「今のうちに謝ったほうが良いと思うわよ? ね? ね?」

 

「ひどい!!」

「横暴すぎます!」

 

 いくらなんでも、ひどすぎます!

 

 ……? 生徒会長の様子が少し変です。なんでしょう。

 

 チラチラ目が泳いでいる様に見えますけど……。

 

 横で沙織さんが、顔を真っ赤にして抗議しています。当然です。権力を行使するなんてひどすぎます。

 沙織さんと2人で必死に抗議しました。これだけ強く言い合っているのに、隆史さんは一言もおっしゃらず黙って聞いているだけでした。

 

「あの! 私!!」

 

「戦車道やります!!!」

 

 …気を使わせてしまったでしょうか。

 みほさん。……この方はやさしい方。

 沙織さんと私に迷惑をかけまいと、承諾してしまったのでしょう…。

 その後、沙織さんも納得いかない顔を崩しませんでした。

 

「では、みほさん行きましょう…」

 

「うん…」

 

 生徒会室を出ようとしましたが、もう一つあります。

 一言、隆史さんにも文句を言ってやろうと思いました。 沙織さんも同じ思いだったようで、目が合います。

 何を幼馴染が窮地の時に、黙り込んでいるのかと。何をしに付いて来たのだと。

 

 

 

 ゾクッ

 

 

 

 …理解しました。

 

 黙っていた訳を。沙織さんもわかったようですね。目が開きっぱなしです。

 隆史さんは言葉を放ちませんでした。放っていたのは……殺気でした。

 

 余程我慢しているのでしょう。眼が座っています。組んでいる腕が震えています。

 なるほど。

 途中会長の様子がおかしかったのは、これを一身に受けていたのでしょうね。

 

 

 校内の廊下は、下校時間を過ぎていた為でしょう。生徒もまばらでした。

 

「…華。彼、最後怖かったね」

 

「はい…」

 

「え? え?」

 

 みほさんだけ、気づかなかったようですね。

 私達に挟まれて、まともに顔を見ていないのでしょう。

 

 あれ? 

 

 最後に部屋を出たはずですが、彼だけいません。

 

「…これ、まずくない?」

 

「正直、あまりよろしくないですね」

 

 あれだけ怒っていた彼が、ついてこなかった。それは、まだあの部屋にいる可能性があるという事です。

 ここは確認をしておいた方が良いでしょうね。最悪…

 

「みほさん。彼は気が短いほうですか? 誰かに暴力をふるったり…」

 

「隆史くんが、誰かに暴力を振るったって事は今まで聞いたことないけど…」

 

「華、みほ。一度戻ったほうがよくない?」

 

「え? え!?」

 

「そうですわね」

 

 

 生徒会室前まで急ぎ、走って戻りました。案の定まだ部屋いたようですね。会話が聞こえてきます。

 

「すごい険悪な雰囲気だけど……。大丈夫かなぁ」

 

「少しドアを開けて様子みて見てみようよ!」

 

 ドアを少し開き、中の様子を伺って見ました。

 生徒会3人の前に、彼が仁王立ちになっていました。

 会話が聞こえてきます。今まで睨み合ってでもいたのでしょうか?話はまだ最初の方と思われました。

 

 

「…あんた達。どういうつもりだ? 特に生徒会長。あんたの事だ、全て知っていての事だろ? あんな脅迫のまね事なんかしなくても事情を話せば、みほは協力したんじゃないのか?」

 

「ん~、どうだろう?」

 

「俺の事もすでに調べがついているんだろ? じゃなきゃ、この時期に転校なんぞ、許すわけがない」

 

「…知ってるの? この学園の状況」

 

「むしろ俺が知らないと思っているのか、と聞きたいがね?」

 

「……」

 

 にらみ合ってますね…。

 

 

「何か、腹の内を探り合うような会話ですねぇ」

「ちょっと華! 押さないでよ!」

 

 

「この場に、君が居合わせたのは意外だったよ。君の立場なら、もっと強く反対してくる思ったんだけどねぇ。ねぇ、尾形 隆史くん?」

 

「…俺は正直な話、みほには戦車道に復帰して欲しいと思っている側だからな」

 

 「「「!?」」」

 

 驚きました。

 

 それでよく、居合わせていいか聞いて来ましたね。…みほさんが泣きそうな顔になってますよ。

 沙織さんは…怒ってますね。まぁ当然ですね。はい。

 

「沙織さん。ダメですよ」

「でもぉ!」

 

 飛び込もうとする沙織さんを止めると、みほさんは先程とは違い、真剣な顔で聞いてますね。

 

「この学園の状況は、把握しているよ。全部調べた。……みほを戦車道に引き入れる。まぁ勝ち進むにはこれしか無いよな? それで? みほの事は、どこまで把握している?」

 

「そだねぇ。前回の戦車道大会の事を調べたよ。そして敗因も。そこから西住ちゃんが、転入してきた経緯を鑑みると…まぁ予想はつくね」

 

「…俺の事は?」

 

「幼馴染。今までの経緯、転校先等考えると…西住ちゃんが心配で、転校してきた…ってとこかな? って事。あと親が西住流の師範をやってるね」

 

 生徒会長は、淡々と喋っている。

 

 

「え…なに彼、みほの事心配で転校してきたの? キャー」

「///」

 

 ……もはや、楽しんでいますわね。この2人。

 

「…なぁ、みほは戦車が好きなんだ。例の事件とは別に、もう一つ心に傷が有る。それにお家の事もある。それを引き金に、正直くだらないお家騒動で、乗れなくなるなんて嫌だったんだ」

 

「ふ・・ふん、ご苦労な事だ。それでわざわざ転校とは『茶化すな。三下』ピィッ」

 

 左側にいた、生徒会の方。余計な事を言わなければいいですのに…睨まれて、完全に固まってしまっていますね。

 

「まぁ、西住ちゃんが戦車に乗るという事で「結果オーライ」には、ならないのかなぁ?」

 

「…」

 

 彼は、無言のまま片膝をつきました。そのまま両腕を地面に叩きつけました。

 ちょっと…すごい音がしましたね。

 

「な…なんの真似!?」っと右側の生徒会役員がオロオロしています。

 

 彼はそのまま頭を地面に叩きつけました。ゴドン! と、すごい音がしました。

 

「頼む!! これ以上、彼女を…みほを、追い込まないでやってくれ!!!」

 

 周囲が、あ然としました。いきなり男の子…とはいえ男性が、土下座です。

 

「みほは…彼女は! この数ヶ月間、誰とも連絡を取らず、頼らず、がんばってきたんだ!」

「でもここに来て、彼女を庇って、守ろうと来てくれる、友人もできたんだ!!」

「やっとだ! やっとなんだ! あんたなら調べて知っているだろう!? あんた達の事情も俺は、十分わかってる!! 分かった上で頼む!!」

「彼女の普通を、取り上げないでやってくれ……」

 

「でも…西住ちゃんに参加してもらわないと、この『わかってるっ!!!』」

 

「戦車に乗るのは、あいつにとって良いことだと思う。言っただろ? 俺は賛成だと」

「手段はどうあれ、結果あいつが判断して答えをだしたんだ。そこは俺は何も言うことは無い。全力で支えるだけだ!!」

 

「すごいねぇ……西住ちゃん。男の子に…異性に、ここまでさせちゃうなーんて」

 

 部屋の空気がおかしい。

 会長以外の方、完全に怯えちゃってますよ。相手は土下座してますのに。

 あぁダメです。みほさん完全に目が、キラッキラして彼の事見てます。ご自身の事ですよ?

 

 

「彼なんかすごいね」

「殿方にあそこまでさせる、みほさんも結構、すごいと思いますよ?」

 

 

「わかった。君には正直に言おうか。怒られそうだしね~。強硬に出るのはここまでにしよう。正直脅迫は、心苦しかったしさぁ」

 

「つまり?」

 

「いいよ。約束しよう。もうあんな卑怯な方法はとらない」

 

「頼む!」

 

「しっかし西住ちゃん。結構、幸せ者なんじゃないのかなぁ? ここまでやってくれる彼氏がいてさぁ」

 

 あぁ…みほさんのキラッキラが、止まりませんわ。

 

「え? 違いますけど?」

 

 あ…止まりました。

 

「「「 え!? ちがうの!? 」」」

 

「ぇあ? そんなハモらなくとも…。恩人ではありますが、違いますよ。そもそも、俺がそんな対象に見られるかどうか」

 

「なに君、ただの知り合いに、そこまでやるの?」

 

「そうですね…。例えば、彼女の友達2人いましたよね? あの子達でも、俺の頭下げるぐらいで済むなら、いくらでも体張りますが…」

 

「……」

 

あら? 生徒会長が固まっていますね。目を見開いています。

 

ハッ!っと吹き出す声が聞こえました。

 

「はっ! アハハハハハハハ! ハー…面白いね君。……そうだ。君、生徒会に入らない?」

 

「な・・なにをいってるんですか!? 会長!?」

 

「桃ちゃん落ち着いて!」

 

「だって、そうすれば戦車道に関われるし、西住ちゃんの近くにいられるよん?」

 

会長の申し出に彼は、会長を睨みつけていました。

まぁ普通、何かあると考えますよね。

そのまま、しばらく考えた末、彼が出した答えは。

 

「…わかりました。それでいいなら」

 

「よし! 決まりだぁ~」

 

 生徒会役員で、なんかすごい話になってきましたねぇ。

 …あれ沙織さんがなんか大人しいですね。

 

あぁ……みほさん目が死んでいます。

 

「だから、3人共入っておいで。もういいから。バレバレだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、彼を書記として生徒会に入れることにした。表向きは、生徒会長を…私を監視する名目で。

 

「ねぇ~西住ちゃん」

 

 馴れ馴れしく肩を組んで話しかける。

 

「な…なんでしょう…」

 

「隆史ちゃん。西住ちゃんの彼氏?」

 

「違いますけど…」

 

聞いていたから、分かっていた答えを敢えて、彼女から聞いてみた。

 

「ふーん…。すごいね彼。西住ちゃんの為に土下座までして。正直、彼があそこまで怒ったの、全て君の為だけってのが特に」

 

「え…エヘヘヘ 」

 

「でも「恋人」じゃない」

 

「」

 

 ふーん…本当に面白いな彼。

 

「ねぇ…。西住ちゃん」

 

「だからなんですか?」

 

 

 

 

「彼。私にくれない?」

 

 

 




はい。閲覧ありがとうございました。

やっと、本編1話終了付近まできました。
楽しんで頂ければ幸いです。

誤字報告ありがとうございました

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