転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第 9 話~宴会戦争~ 前編

 沙織さんは詩織ちゃんを引っ張って行ってしまい、そのまま帰ってこなかった。

 アヒルさんチームや、残されたあんこうチーム。

 生徒会長から部屋を用意されていたらしく、祝勝会が始まる前に一度部屋を見ておきたかった様で、ちょっと早めの到着だと言っていた。

 あまりこんな廊下でずっと立ち話もなんだというので、取り敢えずはそこで一時解散となった。

 本来の目的である用意された部屋へ向かうべく、ロビー前を通過中…光る頭と出会ってしまった。

 

 ただな。

 

 やたらとテンションの高いハゲ…基、児玉理事長に捕まった。

 どうやらずっと待っていたようで、俺を見つけたとたんにキラキラした光を撒き散らかしながら駆け寄ってきた。

 こんなおっさんに待たれても嬉しくねぇ…。

 つか、目立つからやめてくれ。

 

「ところで、今から部屋に戻るつもりかい!?」

 

 一々叫ばないでくれ…。

 

「まぁ…はい、一度戻って…風呂入って、少し寝る予定ですけど…」

 

「その事だけどね! 勝手で申し訳ないが、部屋を変更しておいたよ!!」

 

「…は?」

 

 そこまで言って、部屋の鍵を指でつまみながら見せてきた。

 荷物もすでに移動させておいたよ! っと、それを俺の手に渡す…。

 ……。

 なんだ? なぜ指が震えている…。

 

「なんのつもりですか?」

 

「…いや、特段迷惑をかけてしまったからね! 部屋をグレードアップしておいたのだよ!!」

 

「…は? 迷惑?」

 

「たっ! 確かに渡したよ!? では、一度私は、連盟本部へ戻らないといけないから!!」

 

 何を必死になっていたのだろうか?

 早口で言うだけ言うと、そのまま逃げるように走って去っていってしまった。

 

 ……。

 

 なんでだろう…少し、親近感が湧いたのは…。

 渡されたルームキーを改めて見てみた。

 …なんだ? 部屋の番号が、極めて若い。

 

 この時はあまり気にしていなかった。

 気にする余裕が無かった…。

 だって…。

 

「隆史」

 

 まほちゃん、登場。

 いつもの様に、その斜め後ろにエリリンがいた。

 相変わらず、めっちゃ不機嫌そうだけど…。

 

 …。

 

 目が合うと、すごい勢いで逸らされた…。

 あら冷たい。

 

「…まほちゃん、お疲れさん。会議だかなんだかって終わったの?」

 

「あぁ。お…終わった。一度、隆史の顔を見ておこうと思ってな」

 

「……」

 

 あれ? 今度はまほちゃんが目を逸らした。

 なんだろうか?

 

「私達で最後の様だな。他の学校の連中はすでに帰ったようだ」

 

「あ、そうなんだ」

 

 一応、知り合いだし、挨拶でもと思っていたんだけど…。

 あぁ、先程の詩織ちゃんとのやり取りの間に帰ってしまったのか?

 

「まぁ…皆、どうも急いでいた様だったのでな…」

 

 ふ~ん…

 

「はっ…まぁ? あんな事の後じゃ、顔合わせ辛いだろうしね…。そりゃ急いで帰るんじゃない?」

 

「あんな事?」

 

「……」

 

「?」

 

「…な、なんでもないわよ!」

 

 エリリンの呟きに反応して聞き返してみたら、今度は顔を背けられた。

 その背けた顔の先、まほちゃんがエリリンの顔を至近距離から真顔で見てたけど…。

 

「エリカ…」

「スッ、スイマセン! ツイ!!」

 

 な…なにが、あったんだろう…。

 

「…隆史」

 

「ん?」

 

「お前はこのまま、このホテルに泊まるのだな?」

 

「あぁ…、学校の催し物を夜ここでやるからね。そのままご宿泊となります」

 

「…なるほど。祝勝会とやらか?」

 

「わざと濁したのに…」

 

「なに…気を遣う事はない。普通の事だろう?」

 

 負かした相手に言う事ではないと気を使ったのに、あっさり言われてしまった。

 ほら! エリリンが不満顔!

 

「…ところで隆史」

 

「なに?」

 

「…明日は、お母様達の撮影日だったな」

 

「」

 

 そうだった!!

 まほちゃん達には、家元水着撮影の件は、言ってあるんだった!!

 みほには、内緒です。言ってありません!

 チカイ、チカイ、チカイ!!

 顔に息か掛かるよ!!

 

「…水着の」

 

「」

 

 ガン開きのまほちゃんの目線から逃げる!

 怖い!!

 逃げた先には、エリリンが…。

 あ……俺をゴミを見る目で見てる!

 

「…どうにもお母様は、お前が来た日から…ジムに通っていたみたいでな…」

 

「そ…そうなんだ……」

 

「…さて、何の為だろうなぁ?」

 

「」

 

 まだ近づいてくる、まほちゃんの顔!

 

「隆史。お前は、撮影に同行するのか?」

 

「……シ…シマセンヨ」

 

「本当か?」

 

「ボク…ウソ、キライナンデ…」

 

 あぁん!? って見上げてくる!!

 鼻が当たる!!!

 

「隊長。近いです」

 

 エリリンが、まほちゃんの両腕を軽く掴んだ。

 少し引っ張っているみたいだ…まほちゃんの接近が止まった。

 

「…往来です。少し自重してください」

 

 ……。

 

 エリリンが!! まほちゃんを本気で止めた!?

 すっげぇ冷静に止めた!?

 サンダースの時は、慌てていただけだったのに!!

 よりによって、まほちゃんに自重しろって言った!?

 

「…そうだったな」

 

 …す…素直に従った…

 

「では、またの機会に問い詰めよう」

 

 何を!?

 

「……」

 

 な…なんだろう…。

 エリリンにすっごい見られてる。

 すっげぇ目を細められて、見られてる!!

 

「な…なに? エリちゃん」

 

「!?」

 

「……」

 

 あ、しまった。

 また昔の呼び方で、呼んじゃった。

 特に怒り出す事もなく、まっすぐ見てくるんだけど…。

 何故だろう…まほちゃんの眉が一瞬動いた気がする…。

 

「…な、なんでもないわよ」

 

 あれ…?

 エリリン呼びみたいに、怒らない…。

 

 それはそれとして、なんで俺は、今。

 黒森峰高校の隊長、副隊長にまとめて睨まれているんだろう…。

 うん…眠気がどこかに行ってしまった。

 

「…では、私達はもう行こう。エリカ」

 

「はい」

 

 一言二言、最後言葉を交わし、いつもの様にまほちゃん達はホテルを出て行こうと踵を返す。

 相変わらず、去り際がさっぱりしているなぁ…彼女。

 だから余計に、次本当に色々問い詰められそう…。

 

「あ、そうだったわ」

 

「ん?」

 

 エリリンが、顔だけ振り向いた。

 …決勝戦での事を気にした様子がなかったので安心していた。

 相変わらずきつい目で見てくる。

 いやぁ…少しは俺への態度を、もう少し柔らかくしてくれると…。

 

「…ちゃんと約束……守りなさいよ?」

 

「…約束?」

 

「!!」

 

 特にとぼけた訳ではないのだけど、なんの事を言っているのだろうか?

 一瞬訝しげな顔をした為か、エリリンが踵を返してズンズンとこちらに近づいてきた。

 あ…なんだろ、おこってる? 怒ってる!?

 

「!?」

 

 ネクタイを掴まれ、強引に顔元に寄せられた。

 あらやだ、近い。

 先程のまほちゃんと同じく、鼻が頬に当たりそうな距離なんですけど…。

 

( カード! トレードの件よ! 忘れたの!? )

 

 あぁ、それでか。

 さすがに本人に聞こえたらバツが悪いのか、俺にしか聞こえない距離に近づいて来たわけか。

 内緒話ね! うん、いい匂いがする!

 

( あぁ、密会の件ね )

 

 いつもの様に少しからかってみようと思い、今となってはちょっと懐かしい事…。

 初めて携帯で会話した時の、最後のセリフを言ってみた。

 

 あ…あれ?

 なんで、怒らないの?

 えっ?

 

「そ…そうよ」

 

 …顔を少し上気させて、なんか赤くなった。

 そのまま目線を俺からそらして、斜め下を向いてしまった。

 

「お…覚えてるなら…その……いいわ…」

 

 ……真っ赤なんすけど。

 

 はい?

 

 え…えっと? 

 

 えりりーん? どうしちゃったの!?

 手は、俺の首元…ネクタイを握ったまま…。

 

 あの…固まっちゃったけど…エリカさん?

 

 

 ……

 

 …………

 

 

 すっ

 

 

 

 パーン!っと。

 エリリンの肩に、上空から叩きつける様、手が降りてきた。

 

「 エリカ 往来の真ん中で、何をシテイル 」

 

「 」

 

 今、一瞬しほさんが、頭を過ぎった…。

 母娘だね! 

 さっき、それ俺もされたよ? エリリン!

 

「あっ!? いえ、これは!!」

 

「…では、隆史。すまんが用事ができた。すぐに帰らしてもらう…」

 

「え…あ、はい…またね…」

 

「あぁ。またな」

 

「あっ! ちょっと助けなさいよ! 尾形!!」

 

「え~…ヤダ、怖いぃぃ」

 

「ふっ! ふざけるなぁぁ!」

 

 肩を掴まれ、引きずられるようにホテルを出て行く彼女。

 俺はそれを、軽く手を振って見送るしかなかった…。

 

 

 

 

 -----------

 -------

 ---

 

 

 

「…なんだ、この部屋」

 

 まほちゃん達と別れた後、特に誰も通る事もなかった為、素直に部屋に戻る事ができた。

 …できたんだけど…。

 フロントで部屋のある階を聞き、今まさに到着した。

 

 あ…あの。

 

 なにこの部屋!

 シングルじゃねぇ!

 ツインのベットが並んでいる…。

 すげぇオーシャンビューだし…。

 

 部屋に半露天風呂付いてるんですけど…。

 檜の風呂!? マジか!?

 この部屋の…。

 

「……」

 

 プレミアムルーム!?

 はぁ!? 

 上から数えて二つ目のグレードじゃねぇか!!??

 寝れねぇよ!

 今までビジネスホテルしか泊まった事ねぇよ!!

 

 一気に目が覚めたわ!!!

 あのハゲ! 一体俺に何した!!!

 

 ……。

 

 今日みんな、この大洗ホテルに宿泊予定だよな…。

 俺だけ…。

 

 ……。

 

 皆、多分和室とかの大部屋だろうなぁ…。

 

 罪悪感がすげぇ…。

 

 あのハゲ…今度、問い詰めてやる…。

 

 しかし…それはそれとして…。

 

 ……。

 

 風呂…入っとこ…。

 うん…せっかく付いてるしな…うん。

 

 

 ここの部屋の事って、みんなに言わない方がよさそうだな…。

 バレたら、すげぇ目で見られそう…。

 

 はぁ…。

 

 ……

 …………

 

 やー…。

 

 こういった部屋でも、一応ホテル専用の浴衣ってあんのね。

 丈が少し足りない…まぁ、いいか。

 うん、疲れた状態で風呂に入ると、やっぱりそれなりに眠気が襲ってくるのな。

 風呂から出て、何となくベットに横になった。

 

 …うん。

 

 そりゃね。寝るよ。

 こんな疲れた状態だもの…。

 眠気が飛んだと思ったのに、気がついた時には、時間が暫く経過した後だった。

 

 携帯の着信音で目が覚めました。

 まぁ取る前に、切れてしまったのだけど…。

 折り返しますか…。

 

 …2時間程、寝れたみたいだな。

 杏会長から言われていた待ち合わせ時間を少し過ぎている。

 …これでか。

 

「」

 

 ちゃ…着信数がすげぇ…。

 いや、こりゃ合計か…。

 

 みほ…3件

 

 会長…5件

 

 詩織ちゃん…4件…

 

 沙織さん…………38件

 

 こわっ!

 一人怖っ!

 

 前に比べると、みほは控えめだね! うれしい!

 

「……」

 

 …………沙織さん。何があった…。

 まぁ…詩織ちゃんの事だろう…。

 

 うん、移動しながらでも折り返しておくか…。

 

 あ~…腹減ってきた…。

 

 胃は痛いのに…。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

『あ、沙織さん?』

『隆史君! 今どこ!?』

『…宿泊部屋にいます…寝ちゃいまして』

『あぁ…うん。お疲れだもんね』

『いえ…』

『後、ごめんね! 詩織の事…全部聞いたよ…あの子は…まったく…』

『大丈夫ですよ。彼女どうしました?』

『多分、ホテルの部屋にいると思う…。さすがに祝賀会には出せないよ』

『まぁ…』

『詩織、あぁ見えて空気読める子だから、今日は大人しくしていると思うの』

『……』(あぁ見えてって…)

『明日、私と学園艦へ一緒に行く予定だよ?』

『なるほどね。分かりました』

 

『……』

 

『沙織さん?』

『詩織、なんか変な事言ってた?』

『変な事?』

『……』

『いやぁ…電話で何回か話しましたけど、変に質問攻めで…特に変な事は…』

『わ…私の事は…?』

『いえ別に…あぁでも』

『でもっ!? なに!?』

『メールだとなんか書いてあるかも知れないですね』

『!?』

『顔文字、スタンプばかりで、送ってきますので…正直なんて書いてあるか分からないのが大半です』

『!!』

『そこに何か書いてあるかも…』

『今度、そのメール見せて!!』

『え…人のメールを見せるのは…ちょっと』

『大丈夫! 詩織に許可は取るから!!』

『まぁ…送信者がいいなら…』

『よしっ! じゃあ早く宴会場に来て! みぽりん達、みんな待ってるよ!』

 

『あぁ、はい。今、向かってる所ですよ』

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 大洗ホテルの和室の宴会場。

 すでに全員が集合していた。

 会場に入ると、一斉に視線を頂きました、はい。

 

 大広間の畳の上。

 一つの机に向かい合って、各チーム毎に席が決められているのか、一列に皆座っている。

 その上には、鍋とか刺身とか…綺麗に並べられた会席料理。

 つか…部屋の隅には…なんで花輪が並べられてるんだろう。

 あ…大洗の商店の名前が入ってるな。

 …なるほど。

 

 

 しかし、なんだろう…久々に見た気がする。

 …みんなの顔を。

 一様に、このホテルの浴衣を着ているね。

 …浴衣最高!!

 

 でも、俺もこの祝勝会…というか、祝賀会か。

 それに参加していいものだろうか?

 うん、決勝戦不在だったんだけどなぁ…俺。

 

 一度それを言ったら、またマジギレ柚子先輩になりそうだったから、参加を了承したのだけどね。

 また今それを聞いたらそれはそれで怒られそうだから、素直に参加しよう。

 その正面。

 赤い垂れ幕がかかった壇上に、生徒会3人組が立っていた。

 

「お~! ようやっと来たねぇ、隆史ちゃん」

 

「遅い!!」

 

「まぁまぁ桃ちゃん」

 

 …。

 

 うん! 柚先輩が元に戻ってる!! よかった!!

 苦笑しながら、いつもの様に桃先輩をなだめている。

 

「……」

 

 うん! よかった!!!

 

「…あ、準備の手伝いができなくて…すいません」

 

「それについては大丈夫だよ? かーしまが、隆史ちゃん休ませた方が良いって言っていてね」

 

「え…」

 

「そうそう、なんか桃ちゃん、優しかったよねぇ」

 

「桃ちゃんと呼ぶな!」

 

「桃先輩が? それは…ありがとうございました」

 

「い…いいから、早く来い!」

 

 なんか照れてる、桃先輩。

 いつもだったら、逆なのになぁ。

 

 一応俺も生徒会役員という事で、その三人の横、柚子先輩の横に並んでみた。

 この立ち位置であってるはず。

 

 あれ? 

 

 なんで、顔を近づけるんですか!?

 

 あ、みぽりん。これは勘弁してください。

 

(…会長、大丈夫です。お酒の匂いしません)

(よし、休ませたかいもあったね!)

 

 …ん? なんだろ。耳打ちしてる。

 みほに、会長が親指立ててるな…。

 なんなのだろう…?

 

 それにしても、柚子先輩の雰囲気が少しおかしいな。

 …なんで目が、潤んでるんだろう…。

 

 壇上の上から、みんなの顔を見下ろす。

 なんだろうな…みほが目に入ったが、帰ってきてからまともに話してないなぁ…。

 なんかまた、困ったような顔で笑っているな…。

 

 やはり俺の立ち位置は正解の様で、早速と桃先輩の長い前置きが始まった。

 それにまたいつもの様に、耳元でそれを、長いよ、と制している柚子先輩。

 

「それでは、祝賀会を始めたいと思う。…会長、お願いします」

 

「ほいさっ。いやいや、良かったねぇ~。廃校にならないで済んでぇ」

 

 桃先輩から渡されたマイクで、挨拶を始めた杏会長。

 その横で、腕を組んで頷き続けている桃先輩…。

 というか…

 

「そんじゃ、かんぱ~い」

 

「それだけですか!?」

 

 オレンジジュースだと思われる、飲み物が入ったコップを掲げた。

 

 短い…。

 

「かんぱぁーい!」

 

 杏会長が学校の校長になったら、朝礼に挨拶の時にありがたがられそうなほど程…短い。

 ま、楽でいいか。

 

 各チーム毎に分けられた席からは、各々事に変わった乾杯の声が聞こえてくる。

 …れっつらごーって…。

 いぐにっしょん? しーくえんす…え? なんだって?

 歴女チームはもはや何言ってるか分からん…。

 

「いえ~い!」

 

 横からも…。

 恥ずかしそうにコップを掲げる桃ちゃんが、ちょっと可愛い…。

 あ、睨まれた。

 

「え~、大洗の商工会、町内会からは、花を沢山頂いている」

 

「はい、拍手~!」

 

 ……突っ込みどころも多いけど。

 

「…はい、やめぇ~!」

 

 ま、楽しそうだしいいか。

 先程までの衣装を選ぶ作業より…だいぶ楽しい。

 祝い事だしな!!

 

 あぁ、次だ。

 さすがにもう仕事しないと。

 

 取り敢えずテレビ持ち込めばいいんだっけ?

 

 

 --------

 -----

 ---

 

 

 壇上に上げた大画面のテレビの横。柚先輩が出てきた

 画面にはマルの中に祝の文字…。

 なんでこんなの…持ち込んだんだ?

 

「それでは! 祝電を披露する!」

 

 その更に前に、台車の上に乗った沢山の祝電をゴロゴロと音をたてて桃先輩が押して来た。

 運ばれてきた祝電を持ち上げ、読み上げる柚子先輩。

 

『 コングラッチュレーション! ネクストはウィーがウインするからね! 』

 

 デンッと、柚子先輩が読み上げた瞬間テレビ画面から音がし、画面にケイさんの顔写真が表示された。

 

「サンダース付属高校、ケイ様からでしたぁ」

 

 あぁ、このテレビはこんな用途なのね。

 

「サンダースぽーい」

「でも日本語か、英語に統一して欲しいよね」

「かえって分かりにくい」

 

 うさぎさんチームから蟹の足食いながらそんな事を言われましたね、ケイさん…。

 違うぞ一年! 蟹の足の食い方は、それだとうまく身が取れない!

 

「隆史君、これについて一言」

 

「…え?」

 

「 ひ と こ と 」

 

「ゆ…柚子先輩?」

 

「ハヤクゥ」

 

「……」

 

 な…なんで?

 ま…まぁ。

 

「ケイさんらしいと思いますよ? ちょっと外国人タレントみたいになってますけど…」

 

「ウフフフ」

 

「!?」

 

「はい、では次」

 

 な…なに!? 本当になに!?

 なんで笑ったの今!!??

 

「隆史ちゃん、これ運んでぇ」

 

 なんか得体の知れない恐怖に駆られながらも、杏会長の指示に従い、なぜか壇上にマサージチェアを運ぶ。

 

 しかしなんだ? なんなの!?

 あっ!?

 みほと柚子先輩が、なんかアイコンタクト取ってる!!

 

『おめでとうございます。私からは、この言葉を贈ります』

 

 次の祝電を、柚子先輩が手にした。

 なに? …え?

 

『夫婦とは、お互いに見つめ合うモノでなく、ひとつの星を見つめ合うモノである』

 

 デン!

 

「聖グロリアーナ学院、ダージリン代理 オレンジペコ」

 

 テレビ画面に、指を組んで振り向いている様なオペ子の写真が表示された。

 あ、この写真可愛い。ちょっと欲しい。

 

「…結婚式じゃない」

「どなたの結婚式だと思ってらっしゃるんでしょう?」

「でも、私の名言集に入れておきます!! いつか使えるかもしれないし!」

「私の結婚式に、使って! 使って!!」

 

 みほが苦笑してる…。

 

「はい、では隆史君、これについて一言ぉ」

 

「は!?」

 

 な…なんだこの流れ…。

 なんで!? 普段興味なさげな、カバさんチームも興味深々な顔しとる!!

 

「格言とか、聖グロらしく…それでいて、お…オペ子らしく…ちょっと抜けてる所がよろしいかと…」

 

「ウフフフフ」

 

「!?」

 

「あ、柚子。もう一枚あるぞ」

 

「え?」

 

 重なっていた為か、気付かなかったようだ。

 ガサッと、もう一枚を読んでいる柚子先輩。

 

 …あ、あれ? 目元がくらい。

 なんて書いてあるんだ?

 

『 ―ね? 隆史様 』

 

 

 グシャ

 

 

 《 !!?? 》

 

「はい、次ぃ~♪」

 

「……」

 

 み…見なかったことにしよう…。

 

『モスクワは、涙を信じない。泣いても負けたっていう現実は、変わらないから。もっと強くなるように頑張るわ』

 

 デン!

 

「プラウダ高校、カチューシャさんからでしたぁ」

 

 真正面からこちらを真っ直ぐ見てくるカチューシャの写真が、テレビ画面に表示された。

 なんだろう…代理で、ノンナさんからの祝電とかじゃなくて良かった!! って…気がする。

 

「後藤 又兵衛も、次勝てば良しと言っていたな」

「世に生を得るは事を為すにあり」

「部下に必勝の信念をもたせることは容易だ。それは、勝利の機会をたくさん体験させればよい『それだぁっ!!』」

 

 どれだ?

 長すぎて良く聞いてなかった…。

 

「はい、では隆史君、これについて一言ぉ」

 

「…カチューシャらしくて…よろしいかと…祝電と言えるかどうかは別で…」

 

「ウフフフフフフ」

 

「!?」

 

 な…なに? 柚子先輩がおかしい…。

 ま…まだ、あるのか祝電! こんなの続けられたらたまらんぞ!?

 

「その他、知波単学院の西様。継続高校のミカ様。他からも祝電を頂いておりますが、時間の都合上省略させて頂きまーす」

 

「いぇ~い!」

 

 おい! 会長、今あくびしてただろ!?

 というか、えっ!? ミカ? あのミカが祝電!?

 

「なお、アンツィオ高校からは、全員分アンチョビ缶が届いている」

 

「これセール品だよ?」

「あの学校、お金無いからね」

「お金は正直だねぇ~」

 

 半額シールが貼られた、どこかで聞いた事のある赤い缶詰が皆に配られてるな…。

 ま…まぁ。アンチョビ達からすれば、これでも結構な出費だろうな…。

 勘弁してやってくださいね? 皆さん。

 

 それよりも!

 

「あの、柚子先輩」

 

「なぁに? 隆史君」

 

「…個人的に、ミカの祝電って気になるんですけど…」

 

 あのミカが祝電だ。

 なんて文章か正直不安でしょうがないが、逆に見てみたい。

 

「ん~…ミカさんね。納涼祭の時に、すっごくお世話になったから…」

 

「え? はい…なんですか、その前フリ…」

 

「できれば、握りつぶしたくないの♪」

 

「・・・」

 

「…私は読んだけどね。中身は教えな~い」ホトンド、プロポーズダッタシ

 

「……」

 

「二度目は、多分無理ぃ~…」

 

 そう言いながら、ガラガラと台車を押して行ってしまった…。

 なんだ? すげぇ気になる!!

 というか、柚子先輩が本格的におかしいぃ!!

 

「はいはい、隆史ちゃん。ちょっと横ずれて~」

 

「あ、はい。すいません…」

 

 そういえば、今日の杏会長も少し様子が変だ。

 変にテンションが高いと言うか…なんというか。

 別段、お祝い事だから、自然と言えば自然なんですけどね…。

 

「じゃー、場も温まった事だし! そろそろ始めるかねぇ~」

 

「拍手ぅ~」

 

 ま…まぁ一応俺も合わせておこう…。

 パチパチと手を鳴らす…。

 

「やめぇ!」

 

 あぁ…そうか。

 あれが始まるのか…。

 

 

 

 

「それではこれより、各チームによるかくし芸の披露を行う!!」

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました
段々と、伏線が回収できてきました。
水着撮影やら…エリリンとか…沙織さんとか…。

やっぱり、ルートPINKと併用すると、文面が崩れる時あるなぁ…

ありがとうございました

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